れいめい塾
Gazing At " Promised Land "
2003年度 11月第4週
11月16日
久しぶりに日本酒をしたたか飲んだ。電話で古西に起こされた時は完全な二日酔い。「俺たちは塾に戻ったほうがいいんかな。それとも直接行ったほうがいいんかな」「どこへ?」「えっ、津競艇やん」「あ、そうか。祐臣か」「何言うてんの」「・・・じゃあ、津競艇場で会おうや」 森下と古西とすき焼きをアテに飲んでいた。それから甚ちゃんが来て、競艇初遭遇となる森下と古西に講釈を垂れていた。勝負はスタート、祐臣がアウトコースからインに入れるだけのスピードでスタートラインを通過できるかどうか。「津は伊勢湾の海水が入ってますからね。淡水の競艇場とは水質が違う」と甚ちゃん言ってたっけ。時刻は午前10時20分、俺は一人エスティマに乗り込み競艇場へと走る。
100円玉を入れて入場したところで甚ちゃんに会う。「仕事はいいんか」「昼からですから」 森下と古西は出走表を眺めながらジベタリアン。挨拶もそこそこで出走表とにらめっこ。俺はいつものように祐臣から連複で流す。
祐臣のデビュー戦、最後の試合が始まる。徐々にスピードを上げる祐臣、やっと動き始めるスタートライン近くのボート。そして一斉にスタートラインを駆け抜ける。しかし・・・祐臣のボートはいつものように一瞬の遅れ。その遅れが第一コーナーではインのボートがたてる波の狭間へと突っ込んでいく。「やられた!」と俺。コーナーの混戦を抜け出した1号艇と5号艇、それにやや遅れてのダンゴ状態のなかで祐臣のボートが右往左往している。なんとか体勢を立て直し直線に。「5位や!」と甚ちゃんが叫ぶ。
競艇場のゲートで出て車のほうに歩きながら携帯で塾へ連絡。勉強している中3は3人。ご褒美にケンタッキーで8ピースを買って戻る。デビュー戦を飾れなかった森下と古西もいるやもしれぬ。塾に戻ると古西のマジェスティがない。聞けば昨夜から森下とマンガ喫茶で『モンキーターン』(競艇のマンガ)を読んで今日に備えて予習していたそうな。眠たくて家に帰ったんだろう。森下もまた午後2時から英作文の授業が入っている。これまたネグラに帰ったんだろう。ウチの娘たちと那理とケンタッキーを山分けして昼食。「悠志が来るまえに食べよや」と言う俺に娘たちが笑う。期末試験まで10日あまり・・・。
皇學館高校に通う高2の女の子が塾にやって来た。現代文の才能はある。しかし大学に行く目的が見つからない。俺は昔の自分を想った。こんな田舎絶対に出てってやる! いつだってそう思っていた。大学なんてどこでも良かった。とにかくこの街から出ていきたかった。環境をリセットしたかった。都会に飲み込まれてみたかった。「大学へ行く目的なんてどうだっていいよ。伊勢の街を出ていけばいい。そして外から伊勢を眺めてみれば、また違った光景が見えてくるはず。何もしないままに眠りながら死んでいくくらいなら、大学のまっさらな4年間に自分を委ねてみればいい」
鳥羽からウチの塾に通う響平に引き続き、伊勢からの密航者が誕生した。
寺沢の近畿大学推薦試験が昨日と今日の両日の実施。いつしか大学受験が始まりやがった。クソ!
森下は土曜日の夜に京都から電車で戻る。そして月曜日は午前10時40分からの授業に間に合わせるため、久居を7時に出る。そんな朝が早い森下と飲む。「寺沢の推薦試験の英語、採点してみたけど合格点はあるよ。80%くらいかな・・・」「あとは国語か」「本人も国語が不安やって言ってたわ」 そこへ甚ちゃんも加わり、週末最後の飲み会が始まる。森下の就職の季節は終わった。今は大学院進学に傾きつつある。この1年間、森下の受けた超優良企業にとり、年齢の壁は大きく立ちはだかった。これからの2年間を森下はどのように過ごしていくのか。酔いがまわり始めた午前2時、森下が席を立った。
深夜3時、家に帰り体重計に乗る。体重を測るなんて、今までの俺にすりゃ1年に1度乗るか乗らないかの盆か正月のような行事。それが減量を始めてからは食事の回数だけ乗っている。壊れるんちゃうか。月曜日から深夜のマラソン、日中の散歩などで徐々に落としていく。そして現段階では待望の68kgを切って週末に突入。ところが飲めや歌えやの土日が過ぎるや、週明けには再び70kgの大台を突破・・・これが過去2週間のパターン。しかし何故か、今夜はマラソンなしで68.6kg。ある一線を超えた気がする。
11月17日
今夜も一風変わったお客さん。これまた高2、悩める17才。世間のレールに乗るのが嫌で、今は高校(某6年制)に行ってないという。中退して大学検定を受け、大学入試に突入することを目論んでいる様子。この時期に中退しての来年夏の大学検定はそれほど難しくはない。しかしそれから半年で大学受験となると話は別。それが志望大学が早稲田教育学部ともなると、大学検定をほっぽらかしてでも今から一日10時間体勢で早稲田対策を講じないと到底無理。こんなお客さんだが、明後日からウチの塾に密航してくるという。
高3と高2の古典の授業に姿を見せた大森(皇學館大学4年)にたずねる。「弟の調子はどや」「いやあ・・・暗いですね」「ああ、覇気といおうか、無鉄砲さでもいいから華が欲しいんや」「どうしてもこの大学に行きたい!という気持ちが伝わってこないですね」「どないしょうや」
11月18日
ウチの娘のれいとめいの三者懇談、それがよりによって俺の出陣となる次第。
「釈迦に説法とは思いますが・・・」と、れいの担任は切り出した。「わが校では実力テストで高校入試の実力を判定しているんですが、今の点数では津高に50点ほど足りない・・・」 仰せごもっとも!確かに50点ほど足りない。しかし親馬鹿かもしれぬが、実力試験1回から47位→43位→33位となっている。あとは希望的楽観、祐臣ではないがウチの娘にこそ土壇場のマクリを期待するよ。
前田(早稲田大学院)が親父さんの見舞いがてら帰省。土産は「東京ばな奈」、最近女の子たちの間で流行っているとか・・・。その前田の滞在、今週末まで。
征希の3回目の漢文の授業。綾奈(高田6年制)の風邪はまだ治らない、マスクをしての参戦である。
伊勢のお嬢ちゃんから連絡が入る。今週土曜日の午前9時くらいにやって来るとか。とりあえずは苦手な生物、古市に連絡を取ってワンポイントで来てもらうとするか。
怜美(伊勢女子3年)の小論文の試験が迫っている。毎日のように書いては持ってくるが、上達したのは作文から小論文もどきにはなった文章スタイルかな。内容はまだまだその他大勢のレベル、選ばれる小論文の域までは達していない。今日は長期療養患者の社会との関わり方がテーマだったが、これからの医療は治療目的だけでなく、患者が世間とともに生きるための体制づくりを急ぐべきであるとの主張。立派な主張だが、じゃあどんな体制つくりゃええねんとなる次第。主張ではなく理想論にすぎない。頭を振り絞って形跡が見られない。ここはつたないながらも高3なりの具体例を示してほしいところ。何度も書き直し、そこそこのレベルになったところで授業が終わった征希がチラリ。俺とすりゃここいらで矛先を収める風情だったが、征希テンション異常に高く、微にいり細にいりコメントを披露。怜美は再び机を這いつくばることに・・・、そして征希は夜食を食らって寝るわ!と早々と退散。試験まであと12日。
恒例行事の体重計測・・・68.4kg。
11月19日
午前10時、悩める17歳の登場。何をしようかと考え、俺が忙殺されている真っ最中のプログレスの問題集! さっそく昨夜作ったばかりの関係詞の問題をさせてみることに・・・。彼女も高校でプログレス4巻をやっている。俺が作った問題は3巻のもの。そこそこできてはいるが、ひとつひとつ理由を聞いていくと理論的な根拠がない。身体に染み付いた感覚で答えを選んでいる。彼女だけではないが、このあたりにプログレスを履修している生徒の弱点が垣間見える。
彼女の志望、早稲田大学教育学部って前田の学部やん! さっそく前田に連絡を取る。親父さんの見舞いに病院にいるらしい。「俺が話すより、オマエさんのほうが早稲田教育の実情知ってるぶんだけ参考になるやろ。なんとか頼むわ」「金曜日に古西の英語の授業を見物に行くつもりやったから、その時にでも」「ありがたい」
悩める17歳、粘りに粘って午後6時に帰宅。8時間労働を地で行ったわけや。今日のモチベーションが続けば勝負にはなる。
11月20日
プログレスの問題作りに勤しみ、明け方スラム街のベッドで眠る。
目覚めると悩める17歳、昨日の机で勉強している。俺を起こすのに躊躇したやもしれぬ。昨日の復習から始め、関係代名詞の所有格でこけていることを発見。関係代名詞の英文を2文に分解する基本作業に戻る。今日から日本史に入る。エリアは本人に決めさせてみた。奈良末期から平安期へ・・・。
合間を縫うようにして家に戻る。少な目の昼食後、体重計詣。服を着たままで68.4kg・・・67.5kgあたりか。ここ数日、夜中は雨が降っている。今夜走ったら66kgまでいくかな。
全県模試が返却される。前回三重県順位2位だった陵だけが下がったが、あとの面々は偏差値を上げた。塾平均偏差値59.6・・・目標にあと一歩まで近づく。
大森(津西3年)が全国統一模試第三回マークの成績表を持ってやって来る。この試験の英語でブーちゃんが初の100の大台突破、113点を叩き出した。しかるに大森、剣道をしながらもなんとかへばりついていた成績が9月の小論文対策以後、操縦士を失った飛行機のように急降下。100点すら遠く、ブーちゃんに一敗地にまみれた。他の教科もまた押して知るべし、国語も地べたを這いずりまわり、頼みの綱の日本史まで偏差値50を切った。「なんや、これ」 大森は無言でつっ立っている。「こんな最低な成績表、燃やしてしまおや」 俺はポケットからライターを出して成績表に火をつけた。3階の期末試験まで1週間を切り、自主勉強の生徒で溢れた教室に紙の焦げる匂いが漂った。
11月21日
塾内に各中学の試験範囲が貼り出されていく。なかでも目を引いたのが久居中の社会(歴史)の範囲・・・なんと、たった14ページ。幕末から地租改正まで、果たしてどんなマニアックな問題を出してくるのやら。
今日の古西の英語の授業はイベントあり! ターゲット501〜800までの単語(名詞)をアトランダムに並べた形式での試験。高1も半分を過ぎ、このあたりから高校の教科書以外で英単語を覚えていく必要がある。高校によっては週1回や試験の時に範囲に組み込むなどして英単語の試験を実施しているが、試験が終わったらそれっきり! これで効果が出るはずがない。その点、古西はウチの塾のやり方にドップリ漬かっている。まず501〜800の順番通りに試験をやり、ミス5以下は合格。6以上は追試、ミスが多い生徒は英単語と意味の書き写し。かつて自分がしごかれてきた方法をそのまま繰り出す自然体・・・なまじ芸がないぶん、俺とすれがありがたい。追試は毎週授業の後で行われ、全員がクリアしたところで順番をバラバラにした試験をぶっ放つ。それが今日の試験・・・。イベント賞品として俺からはミス0に芸濃のバイキングに連れて行く約束をした。そして主催者の古西からは『麦』のラーメンを奢るとか。試合開始は午後10時30分から。結果は・・・!?
前田が姿を見せ、悩める17歳と早稲田談義をやっている。彼女は、自分のなかにある感情をなんとか言葉で表現したいとの切望を抱えている。ゆえに文章表現を学ぶために早稲田の教育の国文へ進学したいという。そんな17歳に前田は懇切丁寧に大学のことや学部のことを教えている。
ターゲット501〜800の試験はブーちゃんも参加。ミス5で終了・・・まあいいか。そしてダイエット中の竜神(津高)がミス0! バイキングは避け、ラーメンで満足するわとの発言。そして愛(津高)がミス1、痛恨の delight、こんな単語間違えるか! 続いて千尋(松阪理数)がミス3! あとは失格、再び調練の日々が続くことに・・・。
征希が姿を見せたことから前田、古西と俺で面子が完成、深夜0時からマージャンが始まる。前田は翌日、午後2時からフーコーの研究会での発表が控えている。場所は当然東京。ゆえに遅くとも午前7時には終了することで開局。
誰もが早仕掛けで親の連荘は数えるほど、徹夜で打つと必ずといっていいほどある場の停滞もなく、淡々と勝負は進む。俺と征希は前田の怖さを熟知している。前田をマークしながら勝負をかけるものの、ジャストインタイムで伏兵・古西にしてやられる展開。古西もかつての一本調子は影をひそめ、柔軟に場の流れに対応できるようになった。とにもかくにも前田の稲妻ヅモをかいくぐりながら半荘6回終了。
午前7時30分、前田を嬉野の実家まで送る。「じゃあな」「先生、今度は暮れにもうひと勝負を」「いつでもええで」
塾に戻ると古西のバイクはそのまま、征希の車がない。たぶん『ガスト』にでも行ったんだろう。奥さんに電話して娘たちが塾に来るときに食事を持ってきてくれるよう頼み、しばし仮眠。
半時間ほどのまどろみ、誰かの声・・・親父に起こされる。伊勢のお嬢ちゃんが立っている。「よく来たね」 新しい一日が始まった。
11月22日
お嬢ちゃん、期末試験が近いことからとりあえず試験勉強をすることにする。数学は三角関数と複素数平面。高校数学はここ10年以上も医学部の生徒に任せっきりで、俺が教えることはとんとなかった。しかしお嬢ちゃんがウチの塾に来るのは土日の週末、となると錆びた俺の頭を再び磨く必要性に迫られる。ことに複素数平面は新過程の産物、興味深々で教科書を読んでいく。
悩める17歳も鎮座して、関係詞を中心にする英文法に取り組んでいる。英語ばかりでは飽きるだろうと、桓武天皇から平城・嵯峨・淳和・仁明あたりの皇族家系図に藤原式家と北家の係累を書き込む作業を指示する。まあ、これもますぐ飽きてしまいそうな勉強だが・・・。
征希の漢文の授業、俺は中学生の期末試験の質問受けに加え、今週は友人の結婚式で欠席する森下の代打ち・・・高2の英語。語彙のない高2に英文読解の授業をするつもりもなく、標準クラスの英単語を黒板に書き始める。1階の教室では高1がターゲット1900の501〜800をミス0にする輩が出てきているのに、高2の動きは緩慢である。このままじゃ今の志望大学、大阪大学・神戸大学・名古屋大学・立命館など、勝負になるはずがない。
克典(東京学芸大4年)登場。聞けば連休で帰省したとか。深夜0時を過ぎ生徒の姿がまばらになり、授業を終えた征希に古西が加わり闘牌開始。昨日に続く連荘に古西ご機嫌。「森下先輩もついてないよな、こんな楽しい夜にいないなんて」 東1局は俺がリーチでハネ満をツモる。しかし2局は古西がひとつ暗刻を鳴いての三暗刻対々をツモ。さらに3局では克典が俺のリーチに追っかけリーチ。三色をツモってハネ満・・・きっつい場になりそやと一人ごちる。そんな緊迫した空気を打ち砕いたのは突然の闖入者。ドアを開けて入ってきたのはこっちも久しぶり、越知の姉ちゃん! 「あんたら!マージャンやめて飲も! 前の店で旦那と飲んでるねん、すぐおいで!」と一喝。今夜も長くて、めちゃくちゃ濃い夜が始まった。
なにしろあの暑苦しい越知を育てた姉ちゃんである。熱帯性低気圧の迫力で克典や大森が血祭りにあげられていく。「今年の年末にコンパやるで!分かったか、関取と府警!」 関取とは、ゆうに100kgを越えた克典、府警は今年大阪府警に就職が決まった大森のことらしい。「先生と私も出るんやで」「なんで?旦那さんおるやん」「あんな旦那はペキッといてもうたる!」 その旦那さん、古西に酒を注いでパチンコの話で盛り上がっている。旦那さんの職場の上司が古西のお父さんという恐ろしい偶然! あっちでもビール瓶が転がり、こっちもビール瓶が転がり、あげく店の主人まで巻き込んで姉ちゃん、暴風雨警報鳴りっぱなし。ところが深夜3時となり時計を見るや、「明日は仕事や。じゃあ帰るわ」と言い捨て、旦那さんもついでに捨てて、一人車を運転して帰っていった。縦横無尽に振る舞った観劇も突如幕引き。俺たちは塾の階段を駆け上がりざま叫ぶ。「よっしゃ、マージャン再開や!」 長い長い夜の延長戦が始まった。
次の日記に続く
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