Gazing
At " Promised Land "
2003年度 10月第2週
10月5日
れいが塾の階段から落ちて頭を打った。父親に助けを求めればいいものを、突発性夢遊病者は普段は仲が悪いはずの母親を求め自宅へと戻る。「今日は何日?」というれいの質問がどうやらギャグではないことがわかった奥さん、11年前の悪夢が蘇ったという。
11年前の2月、俺は心配していた生徒が高校に合格したことで有頂天になり古い塾で酔っ払っては大暴れ、あげく二階から道頓堀ダイブならぬ、駐車場のコンクリートに向かってダイブを敢行。当然のごとく救急車が呼ばれ、今は懐かしい国立津病院から松阪中央病院へと配送された。「記憶が戻らない可能性も十分あると考えてもらって結構です」という医師の説明に、あいを身ごもっていた奥さん、暗然たる思いでベッドに横たわる俺を眺めたという。
そんな修羅場を潜り抜けてきた奥さん、すかさず塾に電話。そして俺に冷ややかに質問する、「れいを殴ったの!?」「なんのこっちゃ?」 俺は奥さんからどんな父親やと思われているんだろうか・・・。
なにしろ出来が悪いにしろ頭は頭、俺は慌てて国立中央へ車を走らせる。研修医とも見える若いドクター、脳を打ったことが気になったのだろう、「CTスキャンを撮ります」 検査の結果、一時的な記憶喪失とのことで幕。しかし口の中も切ったようで「こりゃ今夜は晩メシ食われへんな」と言うと、あれよあれよという間にれいの頬を涙が伝う。少々動揺した父親、「どないした、どこか痛いんか」と尋ねると「めちゃくちゃお腹すいてたのに・・・食べれやんのが辛い」 11年前の悪夢が俺と奥さんの脳裏に蘇る緊迫した状況で、メシが食われへんて泣く!? こんだけ基本的な欲求に忠実なら心配ないわい!
10月6日
津高、全国統一模試の成績返却。愛が3教科総合で全国ランキングに名を連ねたそうな・・・。志望大学はめげることなく東大、その心意気や良し! 竜神、「やっぱ見せなアカン?」「こればっかはね」「今回は数学めちゃくちゃ、英語も思ったほどには・・・まともなのは現代文くらいやな」と言い訳しながら渡す成績表を見ると、現代文の偏差値75.7で津高1位、全国順位193位! 「おまえ、理系やったよな」 呆れる俺に竜神、「次を見ててや」
10月7日
大西君の結婚式当日、バスで行くはずが遅れてしまい俺と奥さんは久しぶりに久居駅から近鉄に乗り込む。午前11時30分から記念写真を撮るとのことで15分前には東洋軒に到着。大西君の根付の師匠、中川先生と久しぶりに歓談。京都からの来賓が遅れ、12時過ぎから結婚式がスタート。
結婚式は人前結婚式とかで、節ちゃんのご両親が立会人を務め親族から選ばれた二組の夫婦が婚姻届にサインする。その直前に大西君が節ちゃんに対して「隠し事はしない」云々の誓約書を読み上げる。内容をよく吟味したんかいな?あんな内容、遵守できる可能性ないで。
節ちゃんがお色直しの間に大西君が阪神グッズに着替えて六甲おろしを熱唱。今年で良かった。
結婚式が終わったのは午後4時前。二次会をやろうと強引に誘われるものの、どこでやるかは未定。このあたりは大西君らしんだが・・・。悪酔いをした人たちも横になれて、元気な人は酒を飲めるような空間をとのリクエスト。このリクエストを受け、俺はカラオケボックスのパラダイスに予約を入れる。そして午後6時から結婚式二次会が始まった。
「塾の生徒、来れる奴は全員呼んでください」と再び大西君からリクエスト。俺は古西の携帯に連絡。「俺さ、明日から授業始まるねん」「まあ無理にとは言えへんから自分で決めたらええよ」 お次は征希、「先生、すんません。実は今夜、治療が一件入ってるんですよ。いつまでパラダイスに?」「分からんねん。なにしろ結婚式当日や。泊まる算段もあるやろからそんなに遅くまでおわんやろしな」「とにかく終わったら電話します」
午後7時、古西が祝いの日本酒持参で登場! 「オマエええんか! 明日から授業やろ」「明日の朝、5時に出ればなんとか」「そりゃ感激! でもえらい早いやん」「バイくで高速ぶっ飛ばしてきたからね」 こ奴のこんなところが先輩連中に愛されているんだろう。
そして仕事が終わった征希(4期生・社会人)が彼女を伴って登場。さらには横山(4期生・社会人)までが歌っている。俺は関西学院の推薦で一発食らっちまった大森をなんとか励ましてやろうと、歌っている大森をステージから引きずり下ろし関節技に・・・と思ったが、予想してたか?大森、先生を歯牙にもかけないような強烈な返し技を披露。すかさず古西も加わり乱打戦。古西は俺のサポート、そこへ大森を助けようと浪人のあたるも参戦。あたる!オマエ浪人やのに重すぎるぞ!
名古屋大学で院生を指導する森井君、最後までウチのノリでスウィング。肩の激痛でサンドバッグ状態の俺ともども、健太(浪人)の車に投げ捨てられる。俺と森井君は二人並んで眠るに落ちる。
いいかげんな大西君、その日泊まるホテルも決めていない。カラオケ大会終了後、ウチの塾で食事をしてから出発。結婚式の夜、少なくとも奥さんの記憶には一生残る夜を、いったいどこで過ごしたのやら・・・。未確認飛行物体、京都目指してゆっくり走る。
10月8日
一夜明けても激痛とランデブー。名古屋大学で授業があるという森井君を久居駅まで送る。悪女の深情け?去る気配のない激痛に業を煮やして西村整形外科へ。前に来たのは今年の春、高校入試合格記念カラオケ大会の翌日。あの時は脱臼ですんだ。さらに1年前、やはり同じくカラオケ大会の翌日。あん時は手首の骨を折ったっけ。
西村先生、微笑みながら「今度はどうしました」「ここが・・・痛いんですが」 先生の指が俺の肩のあちらこちらを這いずる。うめき声を上げながら指から逃れようとする俺。「こりゃ鎖骨折れてるかな。レントゲン撮りましょうか」
肩にギプスを付け、慣れない姿勢と右手だけでなんとか車を運転して家に戻る。しかし布団に横になる動作、到底一人では無理な状態。奥さんの手を借りてやっと横になる。携帯電話で大西君を呼び出す・・・やっぱり留守電か。簡潔にメッセージを入れる。「鎖骨骨折、全治ひと月半」
10月9日
一人で横たわることができない以上、布団から一人で立ち上がることもできない。奥さんの鼻歌が聞こえる。たぶん庭で洗濯物を干しているんだろう。「お〜い」 聞こえない、クソッ、そんなに広くないはずなのに。再び叫ぶ、しかし大声を出すと肩に痛みが走る。「確か骨折では鎖骨が一番痛いってどこかで読んだな」 奥さんが部屋に入ってくる。「呼んだ?」「ああ」「でも、ケガの時くらいね、毎日家にいるのは・・・」「起こしてくれ」「どうするの」「今日は伊勢で飲み会や」「そんな状態で伊勢まで行くの!」「村田君と高橋君と飲めるんや、絶対に行くよ」 そんなところへ携帯が鳴る。大西君の情けなさそうな声が響く。「先生、僕も足の親指にヒビ入ってるって・・・で、脳波の件もあるし、今入院してるねん」
伊勢市駅裏で橋本君と7時に待ち合わせ。まずは『串一』で高橋君を交えて飲み始める。ウチのホームページを見る暇もないのだろう、俺の鎖骨骨折を聞いて心底楽しそうに笑う。もう一人のゲスト、村田君からの応答はなし。
二軒目は山田日赤近くの『さかなや』、この店に入った頃から高橋君のピッチが鈍る。ビールのお代わりを頼むたびに桃源郷へと沈んでいく。オペが終わった村田君が登場したのは午後10時近く。いつもの笑顔で登場、「先生、久しぶりです!」 こりゃ最終電車には乗れそうもない・・・一人ごちる。
ぶらぶら夜道を歩きながらスナックへ入る。高橋ドクター、さっそくソファの上に横になっていびきを立て始める。
10月10日
村田君に起こされる。やはり肩が痛い。酒といっしょに飲んだ鎮痛剤ははやり効かないようだ。「先生、病院へ行く前に送りますから・・・」 時刻はなんと午前6時半、とにかく村田君の車に乗り込み発進。「先生、本当に昨夜は楽しかったですよ」「俺こそめちゃくちゃ楽しかったよ。でも、高橋君も弱くなったな」「やっぱり仕事がありますからね」
昨夜、村田君のベッドに肩の痛みを我慢しながら時間をかけて横になった視線の先には、床の上で横たわっている高橋君の姿があった。先ほど目覚めた時にはいなかった。たぶん深夜にでも自分の部屋、隣りの部屋に戻っていったんだろう。
伊勢市に送ってくれると思いきや、車は国道23号線に入る。ラッシュ時までには時間があるが、さすが幹線道?そこそこの賑わい。そんななかを村田君、これ以上はないと思えるような安全運転で北上する。そして俺を家まで送り届けるや、一転。一目散に山田日赤を目指す。
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