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Gazing At " Promised Land "

2003年度 6月第一週


6月1日

 那理(中3)と彩加(中2)の所属するバレエスクールが津のリージョンプラザで発表会。
 俺はあいにく開始時間の午後2時から日本史&英語の授業。代わりに奥さんと娘のれいとめい、あいを連れて津に出向く。
 俺が小学校の頃、おふくろと何がしかの用で津に出向く際にはいつも食事をした大門の大盛屋。庶民的な定食屋といった風情。一番奥に畳の座敷があり、俺はそこから見える庭を興味深々で眺めていたことを鮮明に覚えている。
 世の中にはこんなうまいものがあるのか!と驚嘆した大盛屋のオムライス。塾を生業としてこの方、生徒や父兄から教えられたオムライスで評判の店は多々あれど、その全ての店を探索したけれど、俺にとってのオムライスは大盛屋のオムライスに尽きた。
 れいとめいが小学校に入るまでは頻繁に訪れた。やはりオムライスを注文した。
 れいとめいが小学校に入学してからは、あいを連れて訪れた。そのあいが小学校に入学するとなかなか大門まで出向く機会はなかった。
 不思議なもので、そんな大盛屋の息子たちがウチの塾に密航してきた。

 れいとめいが口を揃えて言った。「あそこの座敷から庭を見ていた覚えがあるよ」 こんなところは親子だった。
 何度かくしゃみをした。アレルギーとはいえ、季節に関係ないのがシャクの種。奥さんがポケットティッシュをわたしてくれた。調理場の窓越しに兄貴が皿を洗っている姿がうかがえた。そこへ弟が顔を出した。「やっぱ、先生やったんか。先生のくしゃみ、2階でも聞こえた」 そう言って弟は笑った。

 バレエの発表会の開場間際に愛とゆかり(ともに津高1年)も姿を見せた。「ほんとうはバレエ習ってみたかったんですよ」と二人。「なんで?」「だってバレエをすると姿勢がよくなるって言うでしょ」
 あいは今イチ興味がないようで俺といっしょに帰るという。塾への帰りの車中、あいにたずねる。「なんでバレエ見やんかった?」「お父さんはバレエが好きなん?」「・・・あまり好きでもないな。やっぱ、生徒の野球やサッカーの試合を見ているほうがおもしろい」「あいもいっしょ。あまりおもしろい気がせんし・・・」「あのな、一度もバレエを見たことない奴がそんなこと言うのはおかしい。見てから生意気ぬかすべきやで」

6月2日

 大森(津西3年)が剣道個人戦の県大会でベスト8に残った。
 これで東海大会出場決定。英語の仕上がりを考えると喜んでいいのやら悲しんでいいのやら・・・。大森の本命、立命館大学。
 今週末には久居農林で団体戦が行われる。大森の皮算用では団体戦もベスト3には入れるとか。ベスト3・・・つまり東海大会出場枠である。

 去年、卓(当時高田U類)もまた東海大会出場を果たし、あげくインター杯出場、極め付きが国体出場。夏休みの夏季講習どころではなくなった。
 その卓、立命館大学に入学。「剣道とは無縁な生活を送ってみたいんですよ」と言っていたものの、小学校時代からの剣道の恩師に大学入学の挨拶に言ったら「よかったね卓君、立命館は西日本では圧倒的な強さを誇ってる。大学に入ってもレギュラー目指して頑張るんやぞ」と励まされ、あえなく卓の望んでいた今時の大学生ライフは琵琶湖の藻屑と消えちまった。
 5月の連休中、森下(立命館大学国際関係4年)と大西君(立命館大学研究員)が京都衣笠キャンパスを散策中、偶然にも卓に会ったとか。袴姿の剣道部の面々のなか、5kgも痩せた卓の精悍な顔つきが印象的だったという。その卓だが、剣道部の週末の練習は衣笠キャンパスで行われる。理工学部の卓は週末になると琵琶湖キャンパスから衣笠へと密航。当初はクラブの同輩や先輩の下宿に泊めてもらっていたが、フローリングの床にフトンの敷くでもなく学ランをかぶるだけの睡眠。森下、これを聞き「俺んとこへ泊まれよ」と激怒。今では森下の下宿で週末を過ごしているという。近いうちに大森でも誘って京都を急襲しちまおうか。

 小学校6年でウチの塾に密航してきた大森、入塾当初より勉強ならぬ剣道の目標が一つ先輩となる卓だった。ともに小学校の頃から中勢地区では名を馳せてきている。大森が中学に進学して以来、大森と卓は5年間にわたり名勝負を繰り広げてきた。一度は大森に敗れた卓が、大森に勝つまではと塾を休んだこともあった。去年、三重県大会個人戦で準優勝を果たしインター杯・国体へと出場した卓の後を追いかけるように、大森もまた今年、高校最後の夏にインター杯を目指す。そしてその向こう側、大学入試もまた、卓を追いかけるように西日本大学剣道の覇者・立命館大学を目指す。

 東海大会は21・22日の両日、試合会場は静岡県静岡市。Jリーグを夢見て静岡学院に進学した知樹もいるし、黒田君(静岡市民病院)もいる。そそられるな・・・。

 深夜3時、久しぶりに家に帰る。奥さんが起きてくれては夕飯?をつくってくれる。平身低頭の俺に奥さん、ひょいと言った。「征希君が来てくれてね」「えっ、あいつよく来るの?」「ええ、週に1.2回は」
 最近の征希、塾の方へはとんとご無沙汰である。別段寂しいとかではないが、複雑な心境である。なにしろ俺よりも頻繁に俺の家にいる。
 「じゃあ、あいの相手でもしてくれてるんか」「それがね、あいが『征希兄ちゃん、遊んでよ」と言ったら、『僕は遊んだらへん』って。『なんで? 太郎兄ちゃん(北海道大学4年)はいつも遊んでくれるよ』ってあいが言うと、『太郎は精神年齢が子供やから、子供と遊んでるんがふさわしい。俺は大人やから子供のあいちゃんとは遊んだらへん』ですって」 多分、今ごろはススキノあたりでくしゃみしている奴がいるだろうよ。
 そして奥さんが続けたネタが興味深い。「征希君ったら、最近走っているみたいよ」「なんで」「体重を昔の黄金期に戻すんですって」「それでアイツ最近は塾に寄りつかへんねんな。スリムになって変身の美学を実践する気か、そりゃおもしろい、お手並み拝見や。俺も走るぞ!」「普段運動してないんだから、最初は歩くことから始めたらいいの!」
 近いうちにさるび野へ行こう。

6月3日

 河合塾出版から新しい英単語帳が出版された。今までの地味な「2001」と比べると装丁が今流。価格も850円とターゲット1900など売れ筋商品に比べてリーズナブルに設定されている。タイトルが舐めてる。「英単語の王道」と来たもんだ。当然、単語の配列も変わっているはず。パソコンに打ち直す労苦を考えると気が滅入るが、何はともあれ1冊購入。とりあえず600単語あたりまで打ち込み、さっそく高3と高2、あとはミッシングボーイのブーチャン相手に試験を開始する。

 大森が試験を受けに古い塾からやって来る。「来やがったな、この野郎! 東海大会個人戦出場おめでとう。でもな、まさかインター杯までは考えてへんやろな」「いや・・・できれば」「できれば英語の勉強してくれや。このままじゃ来年、衣笠で酒飲まれへん」「いや・・・英語も頑張って」「うん!頑張るんは英語と日本史と国語だけでええわ。祝い事でもある、静岡には見に行ってやるよ。だからそこで打ち止めや」「いや・・・」「ハイハイハイ、試験や試験」 その大森の成績、300までの基本単語で正答率5割を切る。やはり剣道の練習に忙殺されている。これならと、ブーチャンに海外帰りならぬ一週間の家出レスラーの輝きを期待したが、それでも大森の牙城を崩せない。やはり英語はキャリアがものをいう・・・。

 中間試験が終わったばかりの中3に一挙に後置修飾を説明する。中1の前置詞句から始まり、不定詞の形容詞的用法後置修飾、現在分詞&過去分詞の後置修飾から関係代名詞節へと進む。時間にして2時間30分の一気呵成。俺としては久しぶりの授業、教える側としての快感は十分感じたものの、こちらが思うほどに生徒達は理解してないって永年の勘がささやいている。第一外科同様、明日から這いつくばるような調練を繰り返すべきだろう。    

6月4日

 昨夜は允(あたる)を送ってからガストで日本史の仏教史の勉強をしてた。週末ではないはず、と見まがうほどに店内は込んでいた。これからはデニーズに河岸を代えようか・・・。

 午前4時、塾に戻るとブーチャンが粗末な折りたたみベッドで眠り込んでいる。パソコンを立ち上げるとBBSに仁志(立命館大学2年)からの書き込み。以下・・・

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日記を読んで、卓も大森も幸せものだと思いました。
 
自分の試合を見に来てくれる人がいる。
応援してくれる人がいる。
気にかけてくれる人がいる。
 
他者からの応援や激励がプレッシャーとなり、本来の力が出せないときがあると思います。しかし、それらが力になり、能力以上のものを出せるときもあります。
それは、見守ってくれている人の温かさに気づいたときです。2人には見守ってくれている人がいます。その人たちに感謝することを忘れないでください。
 
大森は卓のようにインターハイ、国体に出場できるようにがんばってほしいと思います。国体に出場となったら夏休みはほとんど消えますが…。そして、志望大学に合格できるようにがんばってほしいと思います。さほど勉強しなっかた僕が言うのも失礼ですが…。
 
とにかく、部活と受験勉強をうまく両立してがんばってください!!
 

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 俺の日記を読んでさっそくの書き込み、ありがたい。なかなか熱い文章だが、よく読めば「自分の試合を見に来てくれる人がいる」とある。仁志もまた津西のソフトボール部キャプテンとして全国大会へ出場したっけ。ところが何故か?ソフトボールの全国大会は九州地区で持ちまわりですることになっている。夏季講習の真っ只中、俺は九州ツアーを断念した。仁志、そのことまだ根に持ってんの? 今度、卓が森下んちに泊まる夜にいっしょに飲もや。それでチャラってことにせん?

 深夜1時、北海道の斉藤太郎から電話。いつものようにくぐもった声、そして聞くことは「森下先輩どうなった」「まだまだ最前線で出張ってるよ」「そうか・・・ちょっと前に叔父に会ったんやけどな、例の・・・」「三菱商事の偉いさんやな」「ああ・・・やっぱ言うてたわ。年齢が3歳上やと考えるなって」 森下は5年間留学してからの大学3年編入、現役に比べると都合3歳上となる。「やっぱ三菱商事あたりは依然として年齢制限ありか・・・」と俺。「それとな、英語だけでは弱いらしいわ。英語ともう一つオプションが必要やって言ってたな」 征希に言わせりゃ精神年齢子供だそうだが、どうしてどうして・・・。森下を心配して頻繁に連絡してきやがる。こんな性根が面接官に愛されたんだろう。 

 森下が日産自動車の面接で上京した折、塾で4年先輩となる越知(4期生)と飲んだ。越知は言ったそうな、「この状況になっても志望を下げへんていうのは心意気として買えるな。頑張れ」

 クラブではなく就職試験というフィールドで、森下もまた先輩や後輩連中から見られているわけだ。

6月5日

 中1が試験休み(塾の試験休みで中間期末試験の後は1週間ほど休み)も明け、塾に姿を見せる。

 ウチの塾の一番嫌なルール・・・英語の書き写し。これは各中学1〜3年で一番点数の悪かった点数を500点から引いた数だけ次回の試験範囲の英語の教科書を写す。
 すでに結果が出ている南郊中で説明すると、南郊中の最低点は352点。これを500点から引くと148点。つまり英語の教科書を148ページ書き写すことになる。同じ1ページでも中1の1ページと中3の1ページでは英単語の語数が違う。当然、中3にすれば厳しい。だから中3は常に自分の中学の後輩の仕上がりを頭に入れておかねばならない。
大票田?東中の1年が姿を見せ、全学年の成績が出揃い、東中の書き写しが決定。最低点は313点。これで書き写しは187ページ。
 中1の塾生に関しては平均点が436点。最初の試験は簡単につくってある、こんなもんだろう。
 中2に関しては相対的に上がってはいるが、途中から入塾しているメンバーでほころびが目立つ。それもあり塾平均は400点を少々切ったかな。

 今日の中1の授業、今回の中間試験の反省と期末試験に向けての勉強方法の再考でレポート提出。「次は頑張る」じゃなく「どういうふうに頑張る」のかを考えさせる授業。生徒達にすれば気の抜けたような授業だが、これが一番重要な授業。それぞれが書いたレポートは各自の机の前にでも貼ってもらう。コピーしたレポートは俺が持ち、これからのひと月、俺が盾としてチクチク言うことになる。

 前日の日記で仁志に週末の飲み会でチャラにしようと呼びかけたところ、仁志は今週末と勘違いしたらしい。時間を調整するとBBSに載せてきた。となると勢い勝負、急遽金曜日の夜に京都へ出向くことに決定。卓と仁志、それに就職戦線異常ありの森下交えて飲むつもり。しかし翌土曜日は久居農林で開催される剣道の県大会がある。大森もさることながら、高2にして三重県を制覇した員弁総合の市川君の勇姿を拝んでみたい。強行軍・・・これが楽しいんやって。

 前期後期制を採用している津高と三重高、中間試験が来週に迫っている。ゆえに今日の花衣の高1数学の授業も聞いているのは数人。津高の面々、てんでバラバラのところに布陣しては勉強している。

 高3の直嗣と大森(ともに津西3年)と菊山(津高3年)が全国統一模試第1回マークの成績表を持って姿を見せる。やはり大森の成績がきびしい。英語で全国偏差50を大幅に切っている。直嗣もまた理系のはずが理系教科がパッとしない。菊山はそこそこか…去年の祐輔に比べると、数学は偏差値70でほぼ互角、物理や化学では秀でているようだが、英語が偏差値60では祐輔に遠く及ばない。塚崎(三重大学医学部5年)が覗きこむ。「菊山はできることはできるんですけど、苦手な場所はとことんひどい」 河合塾で浪人している允(あたる)も成績表が返ってきたとかで見せに来る。理系講師の塚崎に見せても仕方ないのだが、塚崎やむなく「文系やのにこの国語は悪すぎるやろ」とのコメント。その允、英単語のあまりの貧困さに苦言を呈していたが、さすが浪人?偏差値60弱に持ち込んでいる。まずは安心。最近誕生したi−mode掲示板にも、俺が允の近況を書かないからだろう、後輩の現況を案じたと思われる以下のような書き込みがあった。

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名古屋の予備校行った二人、ちゃんとやってるん? 阪神タイガースとちゃうけど6月は大事やと思うで!そろそろ早起きと電車がウザくなってきたはず。「まぁ夏にめっちゃやればなんとかなるやろ」「ま、まだ冬もあるし・・」「元旦に伊勢神宮行けば受かるって!ハァハァ・・」とか思っちゃダメね。あとは「友達からメールこやんかなー」とか言って携帯の液晶奴隷になってちゃダメね。今日頑張った奴にだけ明日が来るってカイジも言ってるでしょ!

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 投稿者は「新大学生」とある。まあ、誰だか察しはつくが、元気でやっているようで安心したよ。

 仁志が、自分の試合を見てくれる、自分を見守ってくれる人達がいることに感謝し、その暖かさを糧に実力以上のものを出してほしいと書いていた。しかし、それってクラブをやってる連中だけの特権じゃない。勉強もしかり。ウチの塾はずっと昔から受験とプロレスが同義だった。どうすれば観客=先輩や後輩、最近では不特定多数の人々をうならせるような試合=受験ができるのか? そして俺は、どうすればそれが可能となる環境を構築することができるのか?

 今春、アキちゃんが久居高校から早稲田に合格したとき、アキちゃんの顔も知らない人達が祝杯をあげた。アキちゃんとの関係はこのホームページ上を通して。俺がホームページで描き続けたアキちゃんの軌跡を読み、いつしか感情輸入してくれた人達が祝杯をあげてくれたわけだ。してやったり!山本明徳。

 この日記を塾内で配るにあたり、冒頭のバレエの発表会の感想を愛とゆかりに聞いてみた。「感想ですか・・・」と愛はしばらく考え込んだ。「まあ、いろいろと感じたことはありますが、私は那理ちゃんが出るから行ったんです。どうしても津東で新体操をしたいという那理ちゃん。新体操での硬い動きを是正するために、柔らかい動きを会得するためにバレエを習い始めたんでしょ? 那理ちゃんにとって新体操が全てですよね。その新体操を高校でもするために優秀な指導者がいる津東へ行きたい。私やゆかりちゃんが津高へ来たかったのとは違った意味で那理ちゃんの高校入試はある。今の中3で一番努力しているのは那理ちゃんだと思います。まあ、れいちゃんもめいちゃんも遅くまで頑張っていますけど」「別に俺に気を使わなくっていいよ。確かに那理の勉強は切ったら血が出るような勉強や。オマエの言いたいことは分かるよ」「だから那理ちゃん以外の子だったら行ってなかったと思います」

 高校入試であれ、大学入試であれ、ウチの受験生は人から見られているという意識を持つべきなのだ。漆黒の闇に向って「まかせなさい!」と吼えてみろ。そして自分を応援したくなるような、大向こうをうならせるような勉強の大海原へ飛び込んでいけ。

 現役の大森も直嗣も、高六の綾奈も、伊勢女の怜美も、大検から大学入試に臨む響平も、浪人の允も、そして21歳にして大学入試を志したブーちゃんも見得を切れ! 名前も顔も知らない不特定多数に向かって見得を切れ!   

6月6日

中2の授業中、携帯が鳴る。仁志からだ。「先生、どこ?」「すまん。まだ塾や!」「やっぱり」「心配するなって、今から1時間15分後には京都に辿りついてやるよ!」
この時、飲み始めていたのは森下と卓と仁志。大西君は担当教授やその友人たち、つまりは日本美学界のお歴々とともに河原町あたりにしけ込んでいたとか。
こ奴ら、俺の携帯を鳴らす時に賭けをしたそうな。俺が車で走っている最中か、まだ塾にいるか・・・結局、その賭け全員一致で俺はまだ塾にいると・・・。
俺は授業を素早く終わらせ、拝み手をしながら中2の間を通り抜けていく。時刻は9時50分、しかしながら、深夜ならともかくこの時間帯では国道1号線、土山から栗東まで悠然と走るトラックにはばまれてる。京都南から西大路、一条通りを左折して大西君の下宿に車を止めたのは11時30分。やっぱり1時間15分では無理だ。

仁和寺そばの飲み屋、「まいど!」と入っていくと、マスター「遠路はるばる!」と声をかけてくれる。このマスターとは一度マージャンを打っている。「お久しぶりです!」壁にもたれた卓が顔を真っ赤にして挨拶する。この上ずった声、ずいぶん酔いがまわっているようだ。仁志は卓にせっつく。「だから卓、早く先輩へ電話しろって。明日は休みますって」 仁志も・・・だいぶ酔っている。「いや先輩、それはできませんよ」と卓。その卓、Tシャツ姿で寒い寒いと震えている。「そりゃ酒が足りんからや」と森下。俺は着ていた上着を脱いで卓に渡す。「家から着てきた奴、汚れてへんよ」「そりゃ安全ですね!」「えらい言いぐさやな で明日の剣道部の練習は?」「午前8時からですね」「じゃあ、しんどかったら切り上げて帰り。明日は大森の団体戦や。何か伝言ないか」「はあ・・・頑張れと」「アホらし、よおあるセリフや。そんなん言うたかて大森感動せんで」
深夜1時を過ぎて大西君が登場、「ごめん先生、今日は偉いさん方と飲んでもうヘロヘロ・・・下宿で少しダウンしてやっと来れたわ」
大西君、6月はCOEプログラムで大忙しとか。「実はね、教授が気い使ってくれましてね。僕が先生とこで現代文を教えてたん知ってはりますから、受験出版社でN社ってあるでしょ」「薄っぺらい何日完成シリーズ出してる会社やろ」「ええ、あそこの人を東京から呼んでくれはって本を書かへんかって。出版社の条件聞いたら原稿料100万と売れ行き次第では歩合ってことで」「ええやん、近々結婚する身やったら結納金になるし」「あっ、実はね先生、先生に仲人断られたからこっちで仲人探して結納終わったんですよ」 別段、大西君の仲人を断ったのは悪気はない。大西君の結婚式に出席する面々、かなり派手。いわゆる世間でも名の通った人が多い。俺が仲人では役者不足もこの上ない。「そりゃめでたい」「確かに条件はいいけど今は忙しい、めちゃ忙しいんですわ」「じゃあ、塾のほうにもしばらく来られへんね」「いや、6月さえ終わったら7月には集中して行きますよ」「そりゃありがたい。これで開明学院の永橋塾長との約束を果たせる」「約束って?」「大西君といっしょに飯を食べに行こうと約束してたんや」「わかりました、じゃあ7月にお願いします」

飲み屋を出たのは午前3時くらい。ファミマでビールとチュウハイ買って森下の下宿で再び飲み始める。下宿には一足早く帰った卓が眠っている。京福嵐山線沿いに建てられた新築マンション、奥の変形の6畳間に真新しいソファーが鎮座している。飲み屋で森下が今日ソファーを買ったと自慢していたやつだろう。もしかしたら俺に気を使ってくれたのかなと思いきや、いつしかいつものようにフローリングの床で寝逃げをかましたらしい。

6月7日

卓がドア越しに挨拶したような・・・。軟弱な俺は再びフローリングにへたり込んだ? ふと目覚め時計を見れば午前11時・・・えらいこっちゃ! 久居農林では剣道の団体戦が始まっている。「森下、じゃあな・・・ああ、今夜塾で授業があったよな。じゃあ今夜!」 大西君の下宿まで駆け足、あわててエスティマに乗り込み。ウナギの寝床のような駐車場からうなりながら脱出。すかさず右折して再び右折、すると前に止まっていた車がクラクションひとつ。近寄ってきた車の運ちゃん、笑いながら言った。「兄ちゃん、ここ一方通行や」 頭を下げながらあわててバック。エスティマ、チャリンチャリンと不協和音を響かせながら狭い狭い路地を走る。

久居農林に辿り着いたのは午後2時。さっそく鈴鹿高専との準決勝が始まる。先鋒が1年生だと大森・兄が教えてくれる。「じゃあ、しばらくは津西も安泰か」「いえ、今の2年生の層が薄い。来年からは今年のようにはいかんでしょう」 引き分けが多く、1−0で大将の大森登場。しかし勝っていることもあり無難に逃げ切りを図る魂胆見え見えだったんだろう、大森に注意が宣告される。結局は1−0のまま決勝戦へ。相手は言わずとしれた三重高。先鋒の1年生、今までの相手と違って守勢一方。あげく一本負け。そして引き分けが続いて、今度は0−1で大森登場。インターハイに出場するには攻めるしかない。果敢に攻め込むものの、引き面を取られる。この一瞬にインターハイ出場が消えた。そして大森が転倒したところへ面が決まる。0−2で三重高の優勝が決まった。

夜、いつのまにか前田(早稲田大学院)がパソコンの前に座っている。「どないした」「選挙ですよ。叔父が嬉野町議会の選挙に出てるんで帰ってこい!って。まあ400票あたりが勝負ですから俺の一票も大きいらしい」 そこへ大森が悄然として姿を見せた。「ごくろうさん」「はあ」 テンションが低い・・・無理もないか。あと2週間で東海大会、それが終わると大学受験に突入する。大森の希望大学が立命館と聞いた途端、前田の説教が始まっている。早稲田には合格したが立命館に落ちるという失態を犯している。「英語や英語、とにかく私立文系やったら英語が勝負や。国語は模試の実力があっても本番がどうなるか分からない。その点、英語は実力があればその実力を裏切らない。これは日本史も同じや。英語と日本史、これを徹底的にやって確実な得点を稼ぐ。あとは国語の出来に賭ける、これが私立の合格のしかたや」

俺の言いたいことを前田がしゃべっていた。そうなのだ・・・いつだってこうだったのだ。ウチの塾生をそだててきたのは俺だけじゃない。いつだって先輩がいた。こと受験に関しては口の悪い、シビアな先輩がいつだっていた。先輩の語りかけるセリフには毒もあったが、経験に裏づけされた重さがあった。自分にとって耳の痛い話であっても、それは愛情の裏返し。いつだって合格を報告する時の誇らしい笑顔を希求していた。

かつての受験生・前田に説教をぶっこいていたのは越知だった。そして今、前田は年齢が9歳も下の大森に熱っぽく話している。

その大森、何年か後に今の前田と同じように説教をしているはずなのだ。

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