北野君(鈴鹿中央病院第2内科勤務)に子供が生まれた。奥さんの名前、美穂からとったのかな?真萌という名前だという。5月3日、塾は俺が大阪にいたことから休み。新米パパの北野君、命名祝いの紅白饅頭を持って家のほうに姿を現した。「娘さん、かわいいでしょ?」というウチの奥さんに元来の童顔をこれ以上もなくほころばせて「ええ。本当にかわいいですね」とうなずいたとのこと。子供が生まれることが分かると、さっそくそのジャンルに詳しい橋本君(山田日赤病院第1外科勤務)の携帯に電話。どのメーカーのデジタルカメラがいいかを尋ねたとのこと。 北野君は橋本君の紹介で「れいめい塾」に密航。この密航というフレーズはプロレス者なら分かる。遠距離にある会場に深夜列車や夜行バスで乗り込むことをさす。奈良県出身で医者になりたいという真摯な希望を生真面目さだけを武器に1浪の後に合格。得意教科が英語と国語という変り種。4月22日に結婚した公則の姉、山田智子の英語と国語を担当してくれた。翌年は6期生、翌々年は7期生。特に7期生の富永健之(中央大学法学部4年)に与えた影響は大。「僕は中学の時、オール5を取ってやろうと思って必死に勉強したんです。でもどうしても体育と美術はダメだった。放課後校庭で鉄棒の練習を毎日やったんですけどできなかった。美術もそうです。どんなにうまく描こうとしても才能がない。それに対して5教科は努力さえすれば5が取れる。才能は絶対にない。誰だって努力すれば伸びるはずです」 去年、医学部長の珠久教授を仲人に鈴鹿サーキットで結婚式を挙げた。俺と奥さんはそろって招かれた。席次表の俺達の紹介に「恩師」とあった。果たして俺は北野君に何かを教えることができたのだろうか。ウチの塾で教えてくれる医学部の学生はなぜか浪人が多い。現役生から「バイトをさせてほしい」と頼まれて、飲み屋で会ってはみるものの、俺の涙腺を刺激する学生はいなかった。どうしようもないことかもしれない。難関と言われる医学部に現役で入る。才能にも恵まれ、また才能におごることなく努力もしただろう。しかし、他人に対して思いやりに欠ける。たとえば数学が分からない生徒に対して「なぜこれ分からんの?」などと気楽に言う感覚。それが俺には分からない。自分は簡単だから他人もまた簡単だろうという幼い思い込み。人間に対する理解が皮相的すぎる。ついついもてあましてしまうし、酒を飲んでもおもしろくない。結局、ウチの塾でバイトする医学生はいつしか浪人だけになってしまった。それもかなり濃いタイプ、癖があるというか、一筋縄ではいかない面々が集まってくる。この意味で橋本君のカ目ききはズバリだったと思う。つまりはウチの塾の体質に合うかどうかを意識的にか無意識なのか、ともかくも正鵠を射た。橋本君がスカウトしてくれた記念すべき1号が北野君だったわけだ。 長谷川君の披露宴の話題を書く予定です。決してマージャンで負けたスカイバレーの支配人・シューちゃんのことは書きません。宣誓します。安心してや、シューちゃん。(3日午後8時) 長谷川君の披露宴は明日、5月4日午後6時から。場所は津駅西口から博物館へ歩くと右側にある・・・なんという店か忘れました。明日、橋本君にでも聞こう。ちなみに橋本君が彼女を連れて来るという噂、ホンマかいな? 5月4日、午前2時からウチの塾はハイ・スパート! 青木の健ボーが塾に姿を見せる。そして日比剛、なぜか甚ちゃんと谷君までが塾に現れる。健ボーがフルボリュームで就職について、結婚式についてまくしたてる。そして甚ちゃんがうなずいている。今度は矛先を変えて俺に尋ねる。「先生、ほんとに公則の結婚式でケーキ投げやったん?」 俺は顛末をしゃべる。「俺さ、兄ちゃんの結婚式に出たんさ。あんな雰囲気の中で絶対にそんなことできんわ」 「ちっとばかし盛り上がりに欠けてたからね。親族の皆さんは富山からわざわざやってきた。『今日の結婚式は大変やったけど楽しかったな』てね感じで帰ってほしかったんや」 「収拾はついたん?」 「すぐに公則には『新婦側の親族にビールをついでまわれ!』ていう指示を出したよ」 「なんで?」 「ケーキまみれの新郎が一人一人ビールをついでいく。『この新郎は優しい人やな。塾の先生はワケの分からん人やけど、この新郎は信じられるなってね。わりと冷静に考えてるやろ?」 「ホームページの25時には記憶がないって書いてたやん」 「まあね」 「アカン! ええかげんな人や」 そんなところへ橋本君から電話。「先生、明日はどうされます?」 「とりあえずはスーツでいこうと思ってんやけど。クリーニングが間に合わへんだんや」 「僕は次の日、多度大社の祭りにバイトで行きますから、津のホテルに泊まります。披露宴が終わったら飲みましょうよ」 かなり飲んだようだ。朝ベッドで身体を起こすと隣に健ボーが寝ている。二日酔いでフラフラになりながら家に戻ると17歳の少年によってハイジャックされたバスへ警察が突入していた。アナウンサーの絶叫を聞きながら再び眠りに落ちた。 健ボーの車は白いジープ。塾の前に止まっていたそのジープに気づいたのは竹中。3階に上がりベッドの上で眠りこけている健ボーを起こす。アクビをしながら目を覚ました健ボー、「竹中! なんでオマエがここにおるねん」 去年の北野君の結婚式の話をしながら奥さんと久居駅まで歩いた。久しぶりに腕を組んでいた。結婚以前も以後も腕を組むなんて動作、のべにしても10回もない。話題が橋本君のスピーチになった時、奥さんあわてて言った。「長谷川君からスピーチを頼まれていたわ」 「まいったな、突然言われたって」 「だって、昨日は私かなり怒っていたから。いったいいつになったら大阪から帰ってくるのか、連絡はないし。本当に男はいつだって待たせるだけだし。それもよりによって5月3日だし・・・」 5月3日は俺たち夫婦の結婚記念日だった。結婚して12年がたつ。12年前のあの日、ゴールデンウィークの渋滞のなか友人たちは全国から津に集まってきてくれた。友人が中心の結婚式、時間は2時間近く延長となり、俺は『ぐでんぐでん』を歌っては会場の中を走り回り、ケーキを投げまくった。手前味噌ではなく楽しい結婚式だった。 いつ買ったか思い出せないスーツを身にまとい津駅西口から博物館のほうへ歩く。10分ほどでフェニックスというお店にたどり着く。ドアを開けると満面に笑みをたたえた長谷川君が迎えてくれる。身体が引き締まった? いや痩せたって感じだ。さぞや・・・と思いつつ視線は横に。ボーイッシュでスラリとした女性、これが奥さんか・・・と思いつつ挨拶。「塾の話はよく聞いていますよ」と、泌尿器科の村田先生こと長谷川君の奥さん、にこやかに言う。そして茅野君が現れ、少し遅刻して橋本君もやってきた。茅野君もスピーチを頼まれたとかで落ち着かない様子。橋本君は昼過ぎから津駅前のパチンコ屋にいたそうな。乾杯の音頭は泌尿器科の先輩、そしてさっそくスピーチが開始、俺がトップ。内容はホームページに載せた春についてのネタ、10年かかってドクターになった長谷川君が入局1年にして家庭を持つ人生の魔可不思議。そこそこ受けホッとして席につくと茅野君が赤面している。次は村田先生の友達がスピーチ。茅野君、思わずため息。そして司会者の「お食事が用意してございます。皆様でしばしご歓談を・・・」という挨拶に茅野君再び大きなため息。 オーベンという言葉が病院関係の言葉にあるらしい。ドイツ語からきたようだが、それに日本語の大小にひっかけてコベンという言葉ができた。オーベンとは入局したての医師の面倒を見る入局して3年ほどのキャリアを持つドクターのことを指す。そしてオーベンに指導されるビギナーのことをコベンというらしい。つまり新郎の長谷川君はコベンで、新婦の村田マリコ先生は長谷川君を指導するオーベンだったわけだ。「そんな2人が結婚するって珍しいパターンじゃないの?」と、長谷川君に聞くと「確かにあんまりないパターンですね。たまにオーベンが男性でコベンが女性というのならあるようですが」 「そやろな。でさ、昨日も健ボーなんかと話していてどうしても聞きたいことがあるって。そんな関係、子弟関係の2人がさ、どんなキッカケで恋愛関係に発展したんかいな?」 このあたりの仔細は橋本君も知らないらしい。「やっぱ長谷川君から言ったんやろ、と健ボーが言うんやけど俺は今イチ、どうにもジグゾーパズルがはまんない。コベンという弟子の身分をついついわきまえてしまいすぎるのが長谷川君やと思うしね」 「僕は彼女が言わせたと思いますが、彼女に聞いたらきっと僕が言ったと言うと思いますよ」 お互いどうしがお互いを意識するキッカケとなったこと・・・看護婦がそれなりに2人のことを噂し出した時があったという。特別に意識はしていなかったというものの、すでに親密な雰囲気があったのかもしれない。オーベンとコベンが仕事帰りに食事をすることは珍しくない。そんな食事の時、マリコ先生は切り出したという。「最近、看護婦が私達のことを噂しているけど・・・。実際のところはどうなの」 「そりゃ・・・好きですけど」 「そう・・・」 これは長谷川君からのネタだが、確かに告白したのは長谷川君だ。しかしマリコ先生の戦略にしてやられたという感もある。マリコ先生の友人、橋本君の先輩となる第一外科の女性の先生が冗談めかして言っていた。「鈴鹿中央病院のほうでは、オーベンがコベンをもてあそんだらしいの風評が立っています」 でもあんなステキな先生ならもてあそばれるのも大歓迎やん、長谷川君。「新婦は家で料理を作ってるんですか?」という質問にはマリコ先生、「週に1度か2度は・・・。後はブロンコ・ビリーかサガミかな」 「新郎は家で何をしてるんですか?」という質問には「ゴミを出してくれてます」 これには店内大爆笑。かなり雰囲気が盛り上がった頃に茅野君のスピーチ。「僕は頭が悪いもんでカンニングペーパーで失礼します」 すかさず橋本君がヤジを飛ばす。「学生の時と同じやん!」 仕事場では当然にしてマリコ先生が先輩、長谷川君は敬語を使うそうである。しかし家ではなんとか対等に話そうと思うものの、ついつい仕事場の延長になっていまうそうである。マリコ先生はこれで長谷川性になるわけだから泌尿器科に2人の長谷川先生が誕生することになる。「長谷川先生」と呼ばれて2人が振り向くなんて光景を想像すると微笑んでしまう。 長谷川夫妻に幸多からんことを祈る。 |