れいめい塾のホームページ 三重県津市久居 学習塾 れいめい塾
Gazing At " Promised Land "

2004年度9月第3週


冬眠中の口上

なんや理由はあるようなないような、でもなあ、こればっかは言うてみてもなあ・・・理路整然と説明する自信もないしな。
照れ隠しも半分、頭をかきつつの登場となる次第。まあ、冬眠中に見たいくつかの夢の断片、これから綴るなかで意識するしないに関わらず、ポロポロと零れ落ちてくるだろうが・・・とにかく久しぶり!

9月12日

8月の下旬、ワンポイントで帰省した佑輔(早稲田大学2年)の威勢は良かった。いつのまにか自動車の免許を取り、車を転がしては山梨や千葉でキャンプを張りマージャン三昧の生活を送っているとの嬉しい近況報告。
佑輔はどちらかといえば普段は冷静沈着、しかしひょんなことから熱くなるやブレーキが壊れたダンプカー・・・てなタイプ。しかし今年の正月の帰省時には品質工学についてのレクチャーもしっかり受け、工学部生の看板に偽りなし!とのお墨付きを勝手に与えていた俺としては8月の変身、正直言って心地よかったね。あ奴は成長してるよ・・・。
そんな佑輔からの贈り物、「先生、9月の第3週には1週間戻ってきますから塾で教えていいですか」「ネタは何や」「数V・・・この時期に現役生がどうしても知っておかなくちゃいけない知識ってありますからね」「今年の高3、理系がおるようにみえても数V使う奴の数は読めへんよ。慎太郎は理系やけど理学療法とかで数TAUBで事足りる。まあ、オマエさんの弟はシンプルな理系で突っ張るようやけどな」
しかしこんなやり取り、2学期となり日々の生活のなかでいつしか埋没していた。

あの(という指示代名詞は塾内でしか通用しないが)中塚(三重大学医学部4年)が2週間も中国を彷徨い歩き無事に生還したとか。あの(これも同意)花衣(三重看護大学2年)までが韓国に旅行していたとか。来年医師国家試験を受ける予定の横田の紹介で新しい医学部生がやって来たとか(名前はまだ覚えられない、野球部の新しいキャプテンだ)。菊山(早稲田大学1年)や大森(皇學館大学1年)ですらが免許を取ったとか、そこらへんの猫でも犬でも取れるで。古市(三重大学教育学部4年)が付属中学で教育実習を始めたとか。克典プロディースによる松阪『カッチョブ』でのライブ(克典は社会人1年目なんやけどまだあの業界に首を突っ込んでるわけや)の人数あわせに双子の娘と甚ちゃんともども出むいたとか。『 Journal Spy Effort 』は良かったね! 周囲から寄せられる期待の大きさとあいまって、最年少の根付師「中川忠雲」という根っこ、それらと「ひっそりとゆったりと生きていきたい」と願う大西講師の自我との乖離・・・とか。末っ子で長男という逆境で帰省するか否かで悩む村瀬(横浜市立大学3年)とか。そして極めつけは公務員試験の勉強に没頭していたはずの古西(名古屋大学経済学部3年)の急展開! 公務員志望を見すえながらも広告業界ににらみを据える・・・。
こんな盛りだくさんのトピックが飛び交うなかで祐輔との約束、いつしか記憶の片隅に追いやられていた。

今年の中3の出席率は過去最低・・・閑散とした日曜日の夜に佑輔が姿を見せる。「あれ!オマエ、どないしたん!」と俺。メガネの奥の目が細くなり吐き出す佑輔、「授業ですよ、授業!」 抱えたバッグの中から東京出版の『微積の基礎』をドサッと取り出しスラム街のベッドに並べて見せやがる。「東京で買ってきました。こっちでは1冊単位でしか置いてないから・・・先生、これ請求書! さっそくですけど、高3の1週間のカリキュラムを教えてください」「ええっと、嫌な奴だね、俺の記憶力を試す気やな。月曜日が大森の古典やろ、火曜日が横田の化学、水曜日が中塚の物理、木曜日が新しい野球部キャプテンの二次試験数学、金曜日が塚崎(三重大学医学部6年)の数学V、土曜日が・・・」「中塚さんの物理が土曜日か日曜日のどちらかに入ります」と横にいた松原(津高3年)が言う。「明日の大森には俺から言っとく。理系は全員祐輔にシフトや」「時間は?」「ご随意に。で、教科は?」「数Vと化学・・・午後9時から11時まで数V、11時から1時まで化学」「わかった」
明日から佑輔の古い塾で過ごす1週間が始まる。

9月13日

滅多に叫ばない俺の携帯が今日は頻繁に助けを求めやがる。鳴るだけで電源を充電しそうな勢い。それも発信者を見れば俺と同様、携帯を持ちながらも持っているだけお騒がせ者の大西君からだ。
大西君には広告業界の大手にダチがいる。先週の青天の霹靂、古西の就職志望を広告業界へシフトするや、すぐに連絡を入れてアポイントの要請をしておいた。まずは鉄則、就職業種が決まればその業界人の話を聞くに限る。かつて電通を受けて採集面接で落とされた脛に傷を持つ俺とすりゃ広告業界、決して見知らぬ北の台地ではない。十二分に興味不々、古西のお目付け役でも秘書でも先払いでもええから東京まで話を聞きにいこうかと思っていた。ところがその大西君の親友、海外にいるとか。それを大西君、出張先のシンガポールまで連絡、アポを取り付けたとか。帰国次第直接に古西に連絡を入れてくれることになり一件落着。とりあえずはこれで一歩前進・・・。

青天の霹靂以降、古西は本屋から広告業界の就職マニュアル本を買い漁っている。
西正著『広告業界ハンドブック』(東洋経済新報社)
西正著『広告』(産学社)
『業界就職・広告』(DAY−X出版)
これらの本の登場でそれまでの憲法や経済原論の教材は色あせたセピア色。後生大事に新着本を愛撫しながらも、古西は日がな一日新旧の恋人を相手に机で格闘しながら塾で過ごす。受験生・古西が3年ぶりに顔を覗かせる。名古屋大学の夏休みは今月一杯。東京へ行くにしても、知識を溜め込むにしても、映画を見ては感性を磨くにしてもテンパッてる。就職は大学4年の春が正念場、しかしゲートが開くのはこの11月あたり。つまりはラスト3か月、ジャンが鳴ってる!
こんなオーラス2万点のような古西に援軍。心優しき?先輩の森下(立命館大学院1年)なんぞ『WAY』から古西の硬直した頭脳を刺激するビデオを大量にレンタル。
『クイズ・ショウ』
『セント・オブ・ウーマン』
『レナードの朝』
『アメリカン・ビューティ』
こんなラインナップで先週来ウチの塾は深夜シアターと化している。果たして効果は・・・というと、テレビ界の内幕を暴き全米に一大センセーショナルを巻き起こしたロバート・レッドフォード監督の『クイズ・ショウ』に関して受験生・古西、「だって、テレビってやらせが当たり前やん」とのコメント・・・。黙り込む甚ちゃんと俺、苦笑しきりの森下・・・こんな様子じゃ、ローマは何日したら成るねん!

その森下、今日からサイパンで行われる勉強会へと関西新空港から旅立つ。先々週は東京大学で発表会があった。そんな多忙な日々のベースキャンプがなぜかウチの塾。ホームページを作成するパソコンの前にドッカと居座り、学術書を積み上げ、なにしろキャリーが壊れてしまうほどの積載量、そんな学術書の砂上の楼閣のなか、右往左往しながら論文を書いていく。そんな事情もまた、俺の冬眠のBGMになっていたわけだが・・・。
森下の帰省は木曜日、再びベースキャンプに戻る予定。

そして大西君からの電話に続き、鳥羽の先生からは今週末から福井へ行こや!との有無を言わせぬ迫力で押し切られる。「土曜日はあいの小学校の運動会があるねん」「俺も綱引きに出たわ! じゃあ、運動会が終わってから行こか。奈良の鈴木にもれいめい塾に集合やて言うたるわ! 俺と鈴木は後部座席で酒盛りでもしとるわ」「誰が運転するねん」「オマエに決まっとるやろ!」「俺かて飲みたいわ」「じゃあ、森下でも連れていこや」

例年ならばこの時期に夏期講習の疲れを癒す目的で鳥羽の先生と旅に出る。今年はそれがなし崩し的に潰れた。今イチ夏期講習に対する充実感がなかったからだ。一部の生徒はともかく、全体としての中3の動きは鈍い。まだまだ荒っぽいものの中2のほうが受験時における瞬発力は買える。今年の中3は女の子が多いとこもあるのか、開き直りめいたもの、果断なる決断、自己に対する無謀とも言える自信・・・かつてウチの塾に巣食ってきたイズムとはかけ離れたところで日々を過ごしている。これに業を煮やした俺は気分が晴れない。何をする気も起こらない。

村瀬が焼酎の鏡月とウーロン茶を持って登場。「先生、明日帰ります」「なんや、もう帰るんか。オマエのほうの就職ももっと詰めておきたかったけどな」「また11月に戻ってきます」「そうか・・・じゃあ、それまでに東京で就職するか地元へ戻るか、旗幟鮮明にしといてや」「はい」

古西は村瀬が帰っていったことに憤慨している。「最後の夜やったら徹夜でマージャンせんかい!おもろない」と憮然として『広告業界ハンドブック』を読んでいる。

佑輔の化学の授業が終わって松原・亜矢歌(松阪高校3年)ともども姿を見せる。古西、してやったり!の笑顔。「祐輔、マージャンの準備でもしよか」 俺は全速力で松原と亜矢歌を送って塾へとって返す。走行距離26kmで所要時間20分弱。教室に戻ると佑輔の長い長い夜が始まることに・・・。

9月14日

古西がオーラスの親11本場なんぞやりやがって終了。午前7時をまわったところで解散。佑輔は古西が送り、俺は久しぶりに家に帰って仮眠を取る。今度は福井の刀称から電話。「鳥羽から電話があったけど、夜の12時にこっちに着いても飲む場所もない。もっとはや来いや!」 適当に相槌を打って再びまどろむ。すると大西君から電話、「先生、今まで忘れとったんやけど、僕の祖母の一番下の弟 、僕の大叔父が大手の広告代理店Tにいてたんやわ。それも常務や。でね、今しがた連絡したんやけどね、途中で切れて・・・。それでね、大叔父とはまた連絡するにしてもダチがね言うんですよ。最近の入社志望者はマニュアル化されたとてつもない奴が多いって」「マニュアル化されたとてつもない奴?」「ええ・・・つまりね、大学の在学中にとてつもない経験してる奴がいっぱいいてる。でもね、それが揃いも揃って規格品・・・とてつもない規格外の規格品・・・そう言うんですよ」 俺の頭に蘇ったのは去年の今井・・・。

今井は立教大学に進学、在学時のほとんどの時期を外食産業でバイトをして過ごした。当初の志望はバイトの影響もあったんだろう、ちょっとオシャレで高級風の外食産業。ところが3年の夏に帰省してきたときには志望変更を告白する。かといって具体的には決まっていない・・・。俺はすかさず今井に四国のお遍路さんにチャレンジするように指示した。自分の一生の仕事を考えるたびに出る。当然四国には仕事をリタイヤして巡礼している人もいる。そんな人生の先達に「仕事とは?」「人生とは?」という問いを投げかけながらの旅・・・。そのシチュエイションが面接官に何がしかを訴えることができるんじゃないか、俺はそう踏んだ。
規格外の規格品・・・その言葉は鮮烈に響いた。「つまりさ、大西君、こういうことかな。海外で生活した経験、それも通常の留学なんかじゃなくてインドで1年間生活したとか、海外ボランティアをアフリカなんぞで2年間やってきたとか、とてつもない経験・・・」「そうそう、南北アメリカをヒッチハイクで縦断した奴もおったらしいよ。そんなとてつもない経験をしている奴らが揃いも揃って同じタイプに見えてくる」「それって『クイズ・ショウ』や」「えっ」「いや、こっちの話や。俺さ、それってよく分かるよ。たぶんな、志望者の連中、それも電通や博報堂クラスになったら、そんじょそこらのキャラでは目立てへん、なにしろ倍率は100倍を優に超える。技術職なんかを除けば文系の学生にとったら限りなき狭い門。勉強なんかできなくとも人に誇れる、自分にしかないものが肝心なんて、今まで喧伝されてきてるやん。だからさ、大学の4年間を通して就職面接を見据えて自分を演出してきたんや。とてつもない経験を自分に課することによって差別化を図る・・・」「それそれそれ、先生それや」
現在の就職志望者の気質に触れた気がして俺は興奮している。俺が今井に授けたサジェスチョンなんぞ、電通や博報堂クラスになると先刻ご承知というわけだ。やっぱ国内企業の最難関、強敵やで。「大西君、俺が去年今井相手に仕掛けた手やで」「そうそう、ダチも、まるで誰かの指示に従って採用する側が目を見張るような経験をしたんやないかって言ってた」
今日も盆と正月がパートナーシップを組んでやってくるようだ。

講師のバイト料やらで奥さんと銀行ツアーにしゃれこんで塾に戻ると古西がスラム街のベッドに場所を移して本を読んでいる。覗き込めば公務員試験の問題週『数的処理』。「大西さんから電話あった?」「ああ、なんで」「大西さんの友達から電話もらったんやけどさ」「そりゃなにより、一歩前進でんな。で、内容は?」「一度東京へ見にくればって」「そりゃそりゃ、なんにも武器がないアンタにすりゃ渡りに船やん。ここは勝負勝負やで」「それでさ、東京へ行くのが18日からの3連休になったら、先生行ってくれる」 俺もまた現役バリバリの話を拝聴する意欲は十分にあった。電通にしろ、俺が受けた頃から比べれば世界の電通、その影響力は単に広告媒体中心だけでなくクライアントの営業中枢にまで及ぶ。つまりは過去20年間の広告業界の変遷を体感してみたかったのだ。しかし、福井に行く予定ができあがっていた。

ふと気付けば古西の見ている本が装いも新たに『広告批評』。今日もまた本屋まで買出しに行ったんだろう。「やっと比較広告の意味が分かったわ」「ペプシとコカコーラか」「そうそう」「でも、比較広告は日本人の気質にそぐわへんから今イチ敬遠されとるけどな。でもな、『クイズ・ショウ』を観てテレビなんてヤラセが当たり前やろ!と睥睨するオマエさんが俺達にとっての新人類だとしたら、今風新人類の目から見た比較広告ってのもおもしろいかもしれへんな。新しい世代にとっての比較広告は旧人類ほどには嫌悪感を持たないという主張を、具体的な事例、自分でコンテを作って説明する展開にでもなりゃ勝負の目がでるかな」「コンテ・・・?」

征希(社会人)が真ん中のコンピューターの部屋(といっても森下が全て外へ出しちまったが)の床にバスマットを2枚敷いて寝ている。今夜は愛の漢文の授業か・・・。
里恵(社会人)がやって来る。「授業か」「そう、今夜は高3の現代文」 そこへ今日からウチの塾に密航する少年が姿を見せる。三重高の3年、秋に数学1教科の推薦試験を控えている。しかし今週中には近畿大学の学内推薦の締め切りだとか。どうにか受かりそうな内申とかで、それなら学内推薦を受ければと水を向けると今イチ本意でない様子。もしかしたら高校入試が全知全能を傾けての勝負でなかったのかもしれぬ。「とりあえずは今日から授業を受けてみるか。横田のほうには伝えてあるから」「はい」「じゃあ、里恵。古い塾へ行くついでに連れていってやってよ。横田は化学の授業や。佑輔が来たら佑輔にバトンタッチや」「わかった」

中2の理科はしつこいほどに絵を書かせている。耳や目などの感覚器官の内部や消化系や血液循環図なんかだ。ウチの高3の連中を見ていたら理学療法や作業療法・薬学などへの進学志望が増えている。近々理系の理科3教科入試や文系の理科2教科入試の時代が来る。生物分野を中学のうちからJ2レベルにしておくことが肝心だと思う。

大西君から電話。「先生にはダチは仙台にいてるって言ってたよね」「ああ、マンションなんか販売して左遷かなって」「そうそう、それがさ、仙台の支店長でめちゃくちゃ栄転なんや。マンションの販売もね、広告だけじゃなくてクライアントの営業活動もまる抱えやってるんやって。今、話しててびっくりしたわ」「つまり『広告大好きです!』なんて目を輝かして言うタイプではアカンってか」「そうなんや、今の広告代理店は昔みたいに広告だけでメシ食ってるんやないんですわ。やっぱこんな時代、営業ともタイアップしての広告代理店」「つまりパートナーシップって奴やな」「だから、古西にもね、広告代理店の表の顔だけじゃなくて裏の顔、いろんな分野、つきつめればクライアントの営業を担うという意識づけが必要やわ。だからネットでもいいから、会社の構成図を詳細に見てほしんですよ」

授業を終えた佑輔と横田が二人でやって来る。「佑輔、マージャンしよか」「いえ、今日は結構です」 どうやら横田と二人でファミレスかカラオケにでも行くんだろう。
横田は東京都出身で実家が佑輔が下宿している場所の近所。それもあって横田が東京に帰省すると決まって二人で飲みに出るとか。ウチの塾で過ごした生徒とその生徒を教えた講師が異郷の地で酒を酌み交わす・・・いいねえ。

明日は健康診断に行くとかで今夜は絶対に酒を飲まないようにと奥さんから厳命されている。スラム街のベッドを掻き分け(先日の地震で大菩薩峠全巻を始め多数の書籍が落下したまま)、なんとか寝る場所を確保して横になり、最近ハマッいる『創天航路』既刊の32巻を最初っから読み直す。

9月15日

今日もまた大西君からの連絡から一日が始まる。「先生、ダチの勤務する代理店の人事担当者から連絡があってさ!」 思わず俺は上体を起こす。「ダチから人事に話をしたようで、要点は二つ。数ある広告代理店があるなかで弊社を志望する動機を明確に説明できるように。もう一つが為替さど経済知識を習得してほしいということ」「やっぱ広告が大好きなだけの馬鹿はいらないってか」「そういうことやろな、要は営業マンとしての資質も十分に検討に入れるということでしょ」

奥さんの検診に付き合い、俺は車中で待機。鳥羽のオッサンから電話、「福井から電話でな、土曜日の深夜ではやっぱりアカンてさ。鈴木と土曜日にれいめい塾に入って徹夜でマージャンして森下の運転で福井旅行としゃれこむ。それでどや」「俺はかまへんで」

塾では古西が公務員試験の勉強の傍ら、ネットで広告代理店のホームページを検索している。俺は大西君からの電話の要点を伝える。「まだ今年度の資料は出てへんはずやけどな。ネットで調べれるところまで調べてみるけど」「それにな、広告が好きなだけの志望者は技術ならともかく営業部門ではアウトやろ。代理店の組織図を調べて関連企業までチェックしとけよ」「わかった、でも為替って言ってもさ」「そりゃオマエ経済学部なんやから、日経新聞くらいは毎日読むこっちゃ」「一応来月から講読することにしたんやけどな」

再び大西君から電話。「前にお話しした大叔父がね、連絡してくれたんですよ。でね、大叔父が言うには『勉強なんかできなくっていいけどな。直感やら感性はどうなんや。そいつはコピーやキャプションができるんか?』ってね。大叔父と人事担当者との話の内容、かなり食い違ってるんですわ」「大叔父さんて何歳や」「60を少し越えたところかな」「それやったら就職しはった時の代理店なんて、それこそ広告屋の時代や。何よりもまず広告が大好きなことが大切やったんと違うかな」「そうかもしれへん。ダチの話やら朝に電話くれた人事担当の話では、広告が好きなことより営業マンとして優れているかのほうに重心がかかるような印象を受けたのに、大叔父の話となるとキャッチやコピー、キャプションですからね」「まあ広告に興味があるのは当然として、その上で営業ができるセンスが不可欠・・・てなとこで理解してこか。結局はどっちも必要なんやろな。でも今の古西を見てりゃ、広告より営業力で押すしかないやろ。広告代理店が志望ていうても広告業界国内売上第10位の会社に行く気があるんかい?って聞いたら躊躇しとったしな」「そのあたりが怖いんやな、あいつ」と電話越しに笑う。

中3は全国入試問題の国語と社会と理科を北海道から沖縄に順次解かせている。この3教科では点を落とせない。確かに当座の実力テストやら中間テストも大事なんだろうが、公立高校の記述対策としては他府県の問題に勝る問題集はない。地道に一歩一歩解いていく、受験勉強はここに極まれる。
ひるがえって就職試験もまた同様、自分の希望業種を見据えながら一歩ずつ着実に日々を刻んでいく。このような感覚、十分に受験生の時に養ったはずなのに、ただ憧れだけで「できれば行きたいなあ」なんぞを呟くだけの馬鹿が無数生息する。ほんま、アホっちゃうか?
確かに古西の取り組みは遅い。彼女との離別が現在の状況を生み出しているわけだが、遅いものの慣れないフットワークでじたばたし始めた熱意は買ってやりたい。ウチの塾に駐在している限り、否応なくこのジタバタ感を強いられる。恐いのは村瀬、こっちにいる間は十分に説教めいた話をしたにはしたが、横浜の空気に触れればまた平和な日常へと埋没していくんじゃないか・・・。
こんな折も折、松原(関西学院大学)が電通に入りたいとの情報をキャッチ。文系の学生ならば一度は広告代理店に夢を馳せる、今回の松原情報、単なる憧れか、それともマジか・・・。

9月16日

平田(津東3年)が全国統一模試マークの成績を持参。一応8割以上を叩き、神戸大学医学部作業療法ではC判定。
ウチの塾に入ってきた時は文系、資質を見た俺はこ奴が理系を選ばなかったことに地団太を踏む思い。その理由・・・物理が難しそうで数学もVCまであってしんどそう・・・。こんな下らない理由で自分の志望を文系に据えるなんて呆れてものも言えなかった。ところがこの5月に急遽理系にシフト、化学を第一歩から勉強し始める。そして志望学部を理学療法&作業療法に据えた。

つくづく器用な奴だと思う。国語(55.8)と数学(59.9)以外を全て偏差値60以上、瞬く間に神戸大学を射程距離に置いている。課題は二次教科の数学と生物だろうが、この時期の仕上がりとしては十分だろう。佑輔が言うには「今の高3では最も勉強しているんじゃないですか」とのコメント、耳が痛い。生え抜きは何をやってるねん!

この日、古西は一旦名古屋の下宿に帰省。明日、再び塾に戻るとか。

大西君から電話。「ダチから電話があって、古西のことをしつこく聞くんですわ。それでね、何を話せばいいか分からんからって、最近塾の先輩で就職活動した先輩がいてへんかって。ダチが言う雰囲気をうまく伝えるには最近就職活動を経験した奴やったら分かってくれるやろって。それで森下を推薦したんですけどね」「森下はサイパンや」「なんで」「なんやゼミの研究会らしいわ」「そうか、でいつ帰ってきます?」「ええっと・・・あ!今日や今日、さっそく森下に連絡しとくわ」
森下に何回か連絡するものの、発信音は聞こえるものの応答なし。「下宿に帰ってきたけど、疲れたから眠ってるんやろ」と、佑輔帰省の噂を聞きつけマージャンをしようと手ぐすね引いて待っている征希が哄笑する。

9月17日

明日は末娘のあいの運動会。上の双子の姉ちゃん達とちがい末っ子のあいは運動オンチ。運動会に行くにしても心から湧き上がる猛き感情はない。かといって行かないわけにもいかず鬱々としていると、あいが言う。「100m走でもし一着やったら私のお願いを聞いてくれますか」「なんでっか」「バイキングに連れていって」
あいのいうバイキングは、河芸の23号沿いのバイキングのこと。あれってチェーン店やな、去年新潟に住む耕治んとこに遊びに行ったときにもあったっけ。しかしウチの塾一の味の鉄人・征希に言わせるとメイジャス(明和町のジャスコ)のバイキングのほうが格段上とのことらしい。
とりあえずはこれで明日の運動会の楽しみができたわけだ。

夜になって森下が京都から戻る。「ゴメンゴメン、先生に連絡せんかって・・・昨日はぐっすりと寝てた」「ところで大西君のダチから電話あったか」「あったあった、いや大西さんの友達だけあって声までそっくりや」「で、内容は?」「うん、やっぱり広告業界は厳しいからよっぽど目立つものがないとアカンらしいいな」「去年オマエさんが受けてきた企業もイコール日本てな企業ばっかやん」「でもさ、広告代理店の顕著な違いはコネで採用する比率が他業種に比べて格段と高いみたいやな」「そりゃ昔からや。スポンサー筋の影響力抜群やからな。たぶん電通にしろ博報堂にしろ、採用人数100人前後の半数程度はコネで決まってるんとちがうか」「はっきりと内訳には言及せんかったけど、かなり厳しいらしい。だからゲリラ戦・・・」「なんやそれ?」「解禁は11月かららしいけど、そんな暗黙のルールを無視して今から動く」「そういや会社へ自分を売り込む覚悟で行け!なんてアドバイスあったよな」「結果がどうなるか分からんけど一般採用まで待ってるよりは今から動く」「じゃあ、さっそく人事担当に直筆で手紙を書いてアポが取れたら上京か・・・」「うん、そんなとこかな」

古西の授業が終わり、俺の高1自由参加の英文読解が終わりとさりげなく場が動く。「先生、疲れてる?」と優しく聞くわりには古西、いそいそとマージャン卓を運んでくる。
結局、徹夜でマージャンしたまま運動会へ出向くことになる。

9月18日

中3の大矢の弟が生徒会の会長で選手宣誓なんぞやってる、いやびっくりしたね。
1番目の競技があいの走る小5の100m走。古西ともども応援するものの、あいは4着。下を見ながら走ったのが敗因?いや、それ以前の問題として資質に尽きる。
あいたちを教育実習で教えた智美(皇學館大学教育学部4年)が姿を見せる。智美は古西と同学年、ともに津高を目指しウチで受験生の日々を過ごした。
「先生、あいちゃんは?」「あきまへん、4着ですわ」「そう、でもかわいいから」「なんのなぐさめにもならんがな」

大西君が夕刻前に登場、古西相手に就職対策を講じている。今夜中に広告代理店に送る手紙を仕上げることに決定。さっそくノートパソコン相手に格闘する古西。叩きの書面をワープロで打ち上げ、コピーを5枚。それが大西君・甚ちゃん・森下、そして俺の手元に配られ、さっそく罵声と怒号が飛び交う。その一つ一つに頷きつつ古西は再びパソコンと対峙。そんな愁嘆場のなかで中学生たちが勉強している。
今年も受験が始まった・・・。

午後8時になっても鳥羽のオッサンがまだ姿を見せない。森下が微笑みながら言う、「先生、鳥羽の先生に電話してみたら。たぶん・・・」「キング(パチンコ屋)ってか!」「そうそう」 携帯にかけると騒々しい中、途切れ途切れに声がする。「森下、当たりや!」

鳥羽のオッサン、姿を見せるやウチの若い衆、森下と甚ちゃんと古西を連れては前の飲み屋でベースキャンプ。どうやら勝った様子。そして奈良から鈴木のセンセがやってきて「マージャンするぞ!」と叫び、飲み屋にいた連中を連れて雀荘へ繰り出す。ただ一人残された俺、何も言うまい。中2相手に一次関数の仕上げに入る・・・。

前のページに戻る トップページに戻る
2002年
2003年
2004年1月第一週
2004年1月第二週
2004年1月第三週
2004年1月第五週
2004年3月第三週

2004年4月第一週
2004年5月第三週
2004年6月第四週
2004年9月第三週
2004年9月第四週

2004年9月第五週
2004年10月第一週
2004年10月第ニ週
2004年10月第三週
2004年10月第五週
2004年10月30日松原氏講演要旨
れいめい塾のホームページ 三重県津市久居 学習塾れいめい塾のホームページ 三重県津市久居 学習塾リンク集 れいめい塾 三重県津市久居 学習塾一覧表:れいめい塾発『25時』 三重県津市久居 学習・進学塾『 HARD & LOOSE 』 れいめい塾 津市久居れいめい塾の日記(関係者ブログ集) 三重県津市久居広告一覧 れいめい塾 三重県津市久居 学習塾 進学塾サイトマップ|れいめい塾 三重県津市久居 進学塾&学習塾
当ホームページに掲載されているあらゆる内容の無許可転載・転用を禁止します。
れいめい塾のホームページ 三重県津市久居 学習塾Copyright(c) 2000-2009.reimei-juku. All rights reserved. Never reproduce or republicate without permission
ホームページ管理:橋本康志橋本クリニック|皮膚科(皮ふ科)|広島県呉市の皮膚科(皮ふ科) 日曜診療 ゆめタウン呉