Happy-Twins Day 9
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 そうして、ついに当日がやってきた。
 飛影は、急に躯から追い出され、訳の分からないままオレに連れて来られた先が桑原家・雪菜さんの誕生日パーティーで、初めこそは苦渋に満ちた表情を見せたが、さすが雪菜さんのお出迎えにはすぐさま涼しい顔に切り替えた。
「……おい、これはどういうことだ蔵馬」
 隣から超低音。自分が知らないところで、躯にまで手が回っていたのだから機嫌が悪い。
「どうって。普通に「おいで」って言って素直に来てくれる? 来てくれないでしょう? ああ、雪菜さん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。でもお礼を言うのはこちらの方ですわ。何といっても蔵馬さんのお陰ですもの」
 桑原家のリビングには、既に幽助たちが集まって大騒ぎしていた。
「おお、蔵馬。飛影も連れてきてくれたんだな!」
「ええ、折角なんだから人数足りなかったら寂しいでしょ」
「私も、飛影さんまで来て下さって本当に嬉しいです」
 雪菜さんは、心の底から嬉しそうに微笑んでいた。その時、珍しいことが起きた。飛影の方から、雪菜さんに声を掛けたのだ。
「……この中で、魔界生まれの魔界育ちはオレとお前だけだ。お前は、こうして誕生日を祝われて嬉しいものなのか? オレには正直よく分からない」
「飛影! 雪菜さんに対してなんてことを!」
 逆上しかけた桑原くんが飛影に飛び掛ったが、飛影は何食わぬ顔でそれを片手で止めた。
「嬉しいのはもちろんです。皆さんの気持ちがとても嬉しいんです。あ……もしかして飛影さん、ご自分の誕生日をご存知ではないのかしら……やだ、それじゃ私、大変な失礼を……」
 雪菜さんは慌てて口を手で覆い、顔を曇らせた。魔界の住人にとって誕生日があるということは即ち、恵まれた育ちだということを言っているようなものだから。
 だがその時さらっと返した飛影の言葉に、その場にいた全員が、何よりもオレが度肝を抜かれた。
「いや、オレにも誕生日はある。蔵馬に調べてもらった。人間界では、ちょうど今日になるらしいな」
 オレは耳を疑った。
 それは飛影にとって真実であり、同時に嘘だった。優しい嘘だった。




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