Happy-Twins Day 4
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「蔵馬さん、本当にありがとうございます。でも、もう一つのことなんですが……」
 そうだった。『誕生日を教えるのに困ったこと』はもう一つあったのだ。
 雪菜さんは少し恥ずかしそうに、桑原くんを気にしているようだ。
「……何か言いにくいことなんですか?」
「雪菜さん、そんな遠慮なんて、オレ達の前では無用ですよ!」
 しかし、雪菜さんは更に縮こまるばかりで、しかも少し赤面しているようだ。
「……あの……もし蔵馬さんに暦を調べてもらったら、……私の歳がばれてしまいます……!」
 それは搾り出すような声だった。
「そんなこと、雪菜さんったら、何を気にするんですかァ」
「でもっ……」
 その意味に気付かない桑原くん。困ったような表情の雪菜さん。
「……大丈夫ですよ。オレは誰にも、雪菜さんの歳をばらしたりはしませんから」
「……ええ……」
 まだ十代の少女に見えても、彼女は桑原くんよりも、そしておそらくはこの家の誰よりも遥かに年上だ。そのことが気になって仕方がないのだろう。
「それに、例え雪菜さんが何歳でも、それでもオレの方がずっと年寄りですよ。気にしないで」
 その一言が余程効いたのか、雪菜さんはずいぶん安心した表情を見せた。
「はい。蔵馬さんにそう言って頂くとほっとします」
 ……それってまるで、オレのことを男性扱いしていないように聞こえるんですけれど……。
「よっしゃ、これで心置きなく雪菜さんの誕生日パーティーが開けるってもんだ!」
「桑原くんったら、まだいつなのかも分からないのに、はしゃぎすぎですよ」
 桑原くんの様子がおかしくて思わず笑ってしまう。そう言う自分だってはしゃぎたいくらいだ。もしこの場に自分と飛影しかいなかったら、絶対にはしゃいでいる……だろうな。
「それじゃ蔵馬さん。私の誕生日はここに書きますから、これをお持ちになって下さい」
 雪菜さんは電話機横のメモ用紙とシャープペンシルをテーブルに持ってきて、丁寧に文字を綴った。しかしそれは氷女の言葉らしく、恐らくは数字の羅列なのだろうけれど、一見しただけでは何と書いてあるのかも分からなかった。
「雪菜さん……コレ、何て読むんです?」
 隣から桑原くんがきょとんとした表情で覗き込んでいる。
「ふふふ、秘密です。……この氷河の国の言葉も、もう書くことはないと思っていたのに、たったこれだけの言葉で素敵なことが起こるなんて不思議なこともあるものですね……。それじゃ蔵馬さん、これをお願いします」
「はい、確かに受け取りました。任せて下さいね」
 受け取ったメモ用紙を自分の手の中にそっと開く。やはり何と書いてあるのかも読めないが、それは確かに目の前にいる少女の、そして飛影の誕生日なのだ。きっとこれは、ずっとオレの宝物になるだろう。
「おう、蔵馬。マジで頼むぜ!」
「蔵馬さん、本当にすみません。お願いします」
 二人に見送られ、オレは桑原家を後にした。目の前に爽やかな青空が広がる。何て清々しく素敵な気分なのだろう。これからやっかいな仕事が待っているとしても。




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