Happy-Twins Day 6
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「これ、これですよ」
 オレが指差した先は、周りとはなんら変わらない森の中の宙だった。高さは飛影の視線と同じくらい。
「何もないじゃないか」
「よ〜く目を凝らしてみて。ちゃんと見えるでしょう?」
 その視線の先が陽炎のように空気が揺らいで見え、そして古びた紙片が浮かび上がった。古い呪符だ。今にも朽ち果てそうに見えるが、この符自体に術を施してあり、決して汚れたり破れたりすることはない。それを手に取り、口元に近づけてある呪文を呟き、フッと息を吹きかける。その瞬間、目の前に石造りの扉が出現した。
「……なるほど。この森全体がカモフラージュだったのか。簡単には見つからないわけだ」
 流石は魔界で盗賊としてその名を馳せた飛影。その仕掛けに素直に感心している様子だった。
「さあ、どうぞ」
 その先は真っ暗だが、アカル草の種を一つ二つと投げれば、次々と足元を照らしていく。電気はもちろんない。この拠点は全体が石造りになっていて、奥の部屋へ通じる道も、部屋自体も石で出来ている。薄暗くひんやりとした通路を、飛影は黙ってオレの後ろをついてきた。
 そのままいくつかの部屋を一緒に見て回る。天井にもアカル草の種をいくつか投げつける。電球と変わらない明るさで部屋の様子が現われた。
「この拠点には特に、光に弱いアイテムを中心に保存しているんです。だから、石の隙間からとる外界の光も極力抑えてあります」
「オレにはこのくらいが丁度いい。これもあるしな」
 しゅっと指先に炎を揺らめかせ、それをすぐに消した。なるほど、飛影ならオレのアカル草などなくても不自由はなさそうだ。
 幸いなことに、どの部屋も大した変化はなかった。生ものを扱った実験が数十年と放置されていて、その後始末が大変だったりしたこともあったが、この拠点はそんなこともなく、多少の腐敗物を処分し、塵を始末するくらいで掃除は済んでしまった。もちろん、飛影が掃除に協力してくれるなど初めから期待はしていなかったけれど。
「なんだ、もう終わりなのか」
「まあね」
 今回は掃除が一番の目的ではないから、また次の機会にでも徹底的に掃除すればいい。




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