Happy-Twins Day 1
1         10




「だが、そうだな……雪菜にでも聞いてみろ。あいつなら、日にちがいつかくらい知っているかもしれん」
 その言葉を聞いたとき、オレはどんなに嬉しかっただろう。



 事前に電話で連絡はしておいた。
「実は、雪菜さんにお話があって」
 受話器の向こうの桑原くんは、怪訝そうな声を出してはいたが。
 そんな彼とは真逆のオレ。これから、ずっと待ち望んでいた素敵なものが手に入るかもしれない、という期待は自分でも驚くくらい大きく、桑原家へ向かう自分の足取りが、まるで宙を浮いているかのように軽かった。
 桑原家を訪れるのは、これが始めてではない。この家は桑原くんの父親の気質だろうか、気軽に出入りする客が多く、いつの間にかオレもそんな客の一人になっていた。
 いつものように玄関のチャイムを鳴らすと、ほどなくして家の中から扉が開かれた。そこから顔を見せたのはやはり桑原くんだった。
「……よう」
 いつもとは違う、訝しげな表情をこちらに見せてきた。無理もないだろう。桑原くんにとって自分の命よりも大切であろう雪菜さんを相手に、何の話を始めるのか気になって仕方がないのだ。
 電話で直接雪菜さんにお話をすることもできた。けれどもしそうすれば、桑原くんに不信感を抱かせてしまうことは必死だ。だからこうして、二人が一緒にいるところにお邪魔したのだ。
「……桑原くん……そんなに怖い顔をしないで、ね。別におかしな話があって来たわけじゃないんです」
「……お、おう……。まあ、上がれや」
「お邪魔します」
 いつものようにリビングルームに通される。この家のリビングルームは広く、白を基調にコーディネイトされていて、とても綺麗だ。空気までもが澄んでいるような雰囲気がある。それはきっと、ここに雪菜さんがいるからだ。彼女は、そこにいるだけで場を清浄にするような存在感がある。
「蔵馬さん、いらっしゃいませ。少しお久しぶりですね」
 リビングのソファで、飼い猫を撫でながら座っていた雪菜さんは、オレが部屋に入って来るなり立ち上がり、丁寧に挨拶をした。人間界の洋服が似合っている。
「こんにちは、雪菜さん。わざわざお時間を作って頂いてすみません」
「いえいえ、いいんですよ。今、お茶をおいれしますわ」
 そう言って雪菜さんは静かにキッチンへ移動した。お茶の準備をする彼女の手つきから、この家にはもうずいぶん馴染んでいることが分かる。
「彼女、すっかり桑原くんの家族ですね。君のお陰ですよ」
 その言葉に、緊張を隠せないでいた桑原くんの表情が一気に緩んだ。




戻る 続き