Happy-Twins Day 7
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 夜が明けるよりもずっと早い時間に、オレは目を覚ました。やはり、気になって仕方がないのだと思う。飛影に気付かれないように、そっと寝床を抜け出した。
 この拠点の書庫は小さく、天井のアカル草は一つで済んだ。
 棚に並ぶ本はどれも古くて、貴重なものばかりだ。手に入れるのにかなり苦労したものも多い。これらは後で使いやすくするためにジャンル別に並べてあるので、この中から氷女に関するものを探せばいい。
「……あった……!」
 氷女に関する文献が数冊、綺麗に並べられていた。そうか、この書庫にあったのか。飛影と一緒に来た拠点で見つけるなんて、何と数奇なことだろう。
 一冊ずつ手に取り、ぱらぱらとページを繰る。途中に見慣れない文字の羅列を見つけた。雪菜さんから受け取ったメモを取り出し、それと見比べてみる。見慣れない文字は、メモと本で一致した。どうやらこの本が暦を扱ったものらしい。よし、これで計算すれば誕生日が判明するはず……!
「そんなところで何をしている、蔵馬」
 びっくりして振り向くと、入り口に飛影が立っていた。いつの間に起きたのだろう。
「ああ、飛影。ちょっと調べ物をね。地下に降りれば川が流れてますから、そこで体を洗ったらいいですよ」
 オレはそっと本を閉じた。まだ大して痛みが進んでいない本だから持ち出しても大丈夫。これだけ人間界に持っていけばいい。
 しかし飛影は、本棚に並ぶ書物にも興味があるのか、そのままこちらに近づいてきた。が、彼が注目したのは本棚ではなかった。オレが手にしていたメモをひょいと奪い、それに視線を落とした。
「これは……そうか、これがオレの…………お前はこいつを調べていたのか」
「飛影……! 読めるんですか、これ!」
 一目見ただけで、この文字列が自分の誕生日だと分かるなんて。
「まあな。一応自分の生まれた国の文字くらいは。……この日にちはあの墓標にも書かれていたが、読み取ろうにもとうに朽ち果てていてオレには読めなかった。……そうか、これが……」
 オレたちは一緒になって、たった一片の紙片を見つめていた。
「飛影……おかしいかもしれないけれど、オレ、今とても嬉しいんですよ。とってもね」
「……そうか、オレはそれほどでもないがな」
「好きな人の誕生日は特別なんです」
「……そうかもしれないな」
 そう言って飛影はフッと笑った。その横顔は、雪菜さんをそっと見ている時の顔だった。
 そう。好きな人の誕生日は特別。桑原くんにとっての、雪菜さんの誕生日のように。オレの家族にとっての、オレの誕生日のように。そしてきっと、飛影にとっての、雪菜さんの誕生日もそうなのだ。この特別な日は、飛影の誕生日だからだということだけじゃなく、飛影が大切にしている雪菜さんの誕生日だから、きっともっともっと特別な日になるに違いない。
「そうだ、飛影。これなんて発音するんですか?」
「聞いてどうする」
「この拠点の、入り口の鍵の呪文にします。ここ気に入ったんでしょ? これから飛影は、この場所を好きに使って下さい。一足早い誕生日プレゼントです」
 オレの言葉を聞いて一瞬ポカンとした飛影の顔があまりにもおかしくて、オレは思わず吹き出してしまった。




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