Happy-Twins Day 5
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 そう、これからがやっかいな仕事だ。
 まずは文献の探索。オレが妖狐だったころに使っていた拠点は数多く、その中で書庫を有するものは数ヶ所あったはず。それを一つ一つ確認しなければならないのだが、この広い魔界のこと、土日の休みを使ってやっと一つの拠点と往復ができる程度だ。深層の拠点となると更に日数を要する。ゆえに、この身体を手に入れてから手入れをしていない拠点もかなり存在する。
 それを考えるとある意味、今回は大掃除隊の気分にもなる。
 家族に不審がられない程度の頻度で、『幽助たちと遊んでくる』とか『高校時代の友達と遊んでくる』といった理由をつけて魔界を回る。晴れて高校を卒業し、一応は社会人となった身なので、以前よりは大目に見てもらえるようにはなった。
 拠点を一つ目二つ目と回り、それぞれの書庫を片っ端から調べてみるが、そう簡単には見つからなかった。こんなことなら所有していた書物は一ヶ所に集めておくんだったと思わなくもないが、万が一のことを考えて分散して保管していたのだ。慎重な己の性格を呪う。
 今日も二日がかりで一つの拠点を見に行くことにした。二十年以上は放置していた場所だ。かなり荒れているかもしれない。
 移動時間を少しでも短縮するため、妖狐の姿で魔界の大地を蹴る。この調子ならあと少しで目的地に着くはずだ。獣道もない森林地帯をそのまま走り続けていたが、こちらを意識し、急接近する妖気を感じ、足を止めた。
 それは、瞬時に目の前に現われた。
「……飛影。こんなところで会うなんて珍しいですね」
「珍しい、じゃない。お前のところへ行こうと思ったら、こっち(魔界)に来ているじゃないか。追いかけてみただけだ。妖狐の姿になんてなって何をしている」
 何だか首が辛いなと思ったら、そういえば今のオレは妖狐だった。正直、この身長でこれだけ近くで飛影を見下ろすのは疲れる。そんなこと、飛影に言ったら殺されそうだな。オレは笑いながら元の姿に戻った。
「おや、わざわざオレを追いかけてくれたなんて嬉しいですね。オレ、今から大掃除なんですけど、飛影も時間あるんでしょう? 一緒にどうです?」
「……大掃除だと? 何のことだ」
 胡散臭そうな表情を浮かべる飛影の様子は、いつ見ても可愛いと思う。ついつい、クスクスと笑ってしまう。
「この近くに、オレが妖狐の頃に使っていた拠点があってね。もうずっと使っていないから、大掃除がてら様子を見に来たんですよ」
 うんうん、ウソは言っていないぞ。最近の飛影は、とっさについたオレのウソは見破ることもあるから、ヘタなウソはつかないほうがいい。以前それで大変な目にあったのだ。
「伝説の妖狐蔵馬が使っていた拠点か……それは興味があるな」
 それはそうだ。妖狐だった頃のオレが作った拠点は、それこそ伝説級の術具の類や貴重な文献が大量に保存されていることで、そしてそれがまったく見つからないことで魔界中の盗賊達に注目されていた。飛影も元その一人だったらしい。
「よし、じゃあ決まりです。二人で手分けすれば、掃除もすぐに終りますし、そしたら夜のお相手もできますよ」
「……お前の頭の中はそれだけか」
 流石は元ケモノ、それも狐、といわんばかりの視線を投げかけてくるが、当然こちらも負けてはいない。
「それが目的でオレに会いに来たんじゃないんですか」
「………………まあいい、案内しろ」
 飛影はあっさりと負けを認めた。やった勝った!




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