Happy-Twins Day 3
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「!」
「!!」
 驚く二人の顔。
 そう、誕生日パーティー。誰のって、もちろん飛影の……って、アレ?
「く、蔵馬ァ! お前、いい提案するじゃねぇか! 一瞬でも疑って悪かった! 男のオレにゃ、そんなシャレたこと思いつきもしなかったぜ。よっしゃ、雪菜さんの為なら特上の誕生日パーティーを準備するぜぇッ!」
「蔵馬さん……私、そんな素敵なことされるなんて初めてです……あの、本当によろしいんでしょうか……」
 ……二人とも、これまでに見たこともないくらい顔を輝かせている。
 何ということだろう……つい『飛影の誕生日パーティー』ということだけで頭がいっぱいになってしまったけれど、この話の流れだと『雪菜さんの誕生日パーティー』じゃないか。何でこんな簡単なことに気付かなかったのか……。
 だが、ここからうまく話を合わせていくことこそ、オレの本分ともいえよう。そして桑原くん、オレだって立派な日本男児だ。忘れないでくれ。
「雪菜さん、人間界では年に一度、誕生日をお祝いするのが当たり前なんですよ。今年は雪菜さんホームステイ最初の誕生日になるから、どんなに盛大にお祝いされたってバチは当たりませんよ。生まれて初めてならなおさらです。ほら、桑原くんだって喜んでいる」
「雪菜さん、ケーキはやっぱり苺がたくさん乗っているやつでしょうか。いや、チョコレートムースもいいかもしれませんねえ。雪菜さんの一番食べたいケーキを仰ってくださいね!」
 まるで自分の誕生日のように、いや、その十倍以上は喜んでいる桑原くんの姿は本当に嬉しそうだ。好きな相手の誕生日を考えると自然とそうなってしまう気持ち、自分も嫌というほど分かる。
「でも……何だか申し訳ないですわ。故郷でもそんな風習なんて特にありませんでしたし……」
「気にしないで。お誕生日って、色んな人に「おめでとう」をもらって、そして元気いっぱいで「ありがとう」を返す、そういう日なんです。せっかく人間界にいるんだから、人間界のよい風習はどんどんもらっちゃえばいいんですよ」
 う〜ん、飛影だったらどんなに「おめでとう」を言っても決して「ありがとう」は返ってこないだろうなあ。もし返ってきたら、それはそれで怖い気がするけれど。
「そうですよ、雪菜さん。いや〜あ、楽しみですねぇ!」
「はい、ありがとうございます。……でも……私の誕生日をお教えするのには、二つ困ったことが……」
「ゆ、雪菜さん、どうしてですか!」
「困ったこと……ですか」
 すぐに「魔界暦○月○日です」と教えてくれるのだと思い込んでいたが、たかが誕生日を教えるのに二つも困ったことがあるとは、思いもしなかった。
「はい。一つは……私たち氷女は確かに暦を使って生活をしているのですが、それは魔界で一般的に通用している魔界暦ではなく、それとは全く別の、氷河の国独自の暦を使っているのです」
「なるほど……」
 魔界は広く、また存在している種族も無数と言われる。その中には、先述の通りそもそも暦を使わない種族もいれば、独自の暦を使う種族も多くいる。氷女の種族もその一つだったらしい。
「氷河の国は雲が厚く、しかも国自体が移動していますから、太陽や月を元にした魔界暦は実用性が低かったのだと思います。ですから、私は氷河の国の暦での誕生日は知っているのですが、それが魔界暦で言うところの何月何日に当たるのかは知らないのです」
「ちょっ! 雪菜さん、それじゃ誕生日パーティーが……」
 ついさっきまで喜んでいた桑原くんは一気に気持ちがしぼんでしまったようだ。
「ですから蔵馬さん、氷河の国での私の誕生日をお教えしますから、それが魔界暦でいつになるのか、そしてそれが人間界では何月何日になるのか、調べて頂けないでしょうか。とても難しいお願いだとは分かっていますが……」
「く、蔵馬! 雪菜さんがこうやってお願いしているんだ! もしお前のその頭で調べられるものなら調べてやってくれ!」
 氷河の国の暦……か。氷河の国は外界との交流を避けて生活するため、その生活様式など多くが謎に包まれていることで有名だ。しかしオレなら……いけるかもしれない。
「……大丈夫。確実、とまではいきませんが、確か昔、氷河の国についての文献を集めていたことを思い出しました。その文献が今もオレの書庫に残っていて、そこに暦に関するものがあれば、あとは計算で魔界暦に直すことも、そして人間界の暦に直すこともできるはずです」
「よかった……」
「さすが蔵馬!」
 とは言ってみたものの、これはやっかいなことになりそうな気がした。
 魔界にはオレが妖狐だったころ拠点に使っていた場所がいくつもあり、書庫も分散している。目的のものがどこの拠点の書庫にしまってあるかなんて、正直思い出せそうにもない。それを一つ一つ探していかなければならないのだ。
 それにうまく見つかったとして、暦を計算することは、場合によってはかなり骨の折れる仕事になるだろう。
 それでも、何が何でもやってみせるという意気込みだけはある。飛影の誕生日を掴むためなら、どんな苦労も厭わない。




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