2000年25時れいめい塾

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2000年度夏期講習・前期


 田丸君(三重大医学部3年)は去年、微生を落とし留年した。今年は微生の単位を取るだけの1年。そんな気楽な1年のはずが、今年もまた痛打を食らう。なんと乾坤一擲のはずの微生に再び落ちる。唯一の追試が8月9日に実施されるものの、追いつめられたのには違いない。夏季講習を直前に控えた18日、小田君の発案。落ち込んでいる田丸を慰めよう!と俺たちは飲みに出た。落ち込んでいるはずの田丸君、なぜか陽気だ。「どないしたん? ニヤニヤして」 「先生、小田もチュートリ落ちたんですよ」 久しぶりの『よし川』、この日もまたママさんはさっさと帰り俺たちはしこたま飲んだ後、店の鍵を閉めて帰った。

 20,21,22日と中3にとっては中学生活最後のクラブの大会が開かれる。当然、中2や中1も先輩たちの背中を見ることに・・・。中学生がポツポツとしか姿を見せない塾は高校生だけとなり閑散としている。

 20日、高校生による「夏休み突入記念!英単語ターゲット1900、801〜1500大会」が開かれた。試験の前日、試験問題を作っていたら突如ワープロの画面が暗くなる。慌ててシューリマンに駆け込むと「液晶の後ろの蛍光灯のような部分が限界ですね」とのこと。修理代は3万円ほど、でも後いくらか出せば新品が買える。悩むところだ・・・しかし試験は目前。結局、パソコンの一太郎で試験を作ることに。慣れない操作に手間取りながら徹夜で完成。予想していたように高3の今井・波多野の仕上がりが悪い。ミスの単語を50単語ずつ書くペナルティー。

 21日は吉田拓郎のコンサートへ。全県模試の会場でもあり何度か来たことはあったが大ホールは初めて。こんな田舎になんて豪華な設備なんや!と唸ってしまった。1曲目は『ライブ73』から「君去りし後」、続けて『元気です』から「祭りの後」と、岡本おさみ追悼記念か?と見まがう展開。11曲からなるメドレーも数えると全31曲、ラストはやっぱりな!とつい膝を叩いてしまう「今日までそして明日から」。曲の合間の話のネタは、昔からいっしょにやってきた仲間と離れて新しい仲間、つまりは Kinki Kids 周辺とのつきあいのなかでリフレッシュしていく自分の心の変化をおもしろおかしく語っていく。「昔はね、ステージに上がると『俺が来てやったんだ!』なんて思ってたけど。今じゃ『お客様、いらっしゃいませ』だからね」なんて感じだ。ラストも良かったが、ラスマイの『英雄』は絶品だった。これでアンコールをやらなかったらカッコイイんだけどな・・・と思ってたら、50を過ぎて大人になった拓郎がステージに現れた。

 高林紘がキャプテンを務める嬉野中バレー部は決勝で白山中に敗れた。去年と同じツテを踏むことになるのか? 敗者復活戦は25日、河芸アリーナ。

 大森がキャプテンを務める西郊中剣道部は、県大会出場をかけ南郊中と争うことに。南郊中剣道部には中2の小林がいる。順当では西郊中には勝てないだろうと、南郊中は強い者をハナっからぶつける作戦。「これなら西郊中に勝てる」と1年先輩の卓(高田U類)が予想。これにより西郊中大将の大森と対戦するのが、なんと小林。決戦前夜、大森と小林はいつもは軽口をたたき合うのが普通なのに、この夜だけは戒厳令。

 22日、先鋒は南郊中の勝ち。次鋒も南郊中の勝ち。これで卓の目論み通り、南郊中が勝利に一歩前進する。ところが次の中堅が引き分ける。しかし南郊中優位は動かない。副将が悪くても引き分けに持ち込めば勝ちだからだ。当然、西郊中は前に出る。その焦りをつき南郊中が1本奪取! 崖っぷちに追いつめられた西郊中、しかしここで空前の逆転劇。西郊中副将が1本を連取! これで2−1となり、大森と小林の大将戦にもつれ込む。大森はこの日の午前中に個人戦で優勝している。気分的にも乗っていたのだろう。小林を翻弄して1本勝ち。かくして2−2で、代表者決定戦。相手も強者なれど、かろうじて制し西郊中が優勝へ駒を進めた。

 今イチぬるい高1に業を煮やし、28日に中2・中3・高1・高2・高3の5学年による一斉試験をすることにする。俺がこういう催しをする際にはいろんな想定をめぐらす。例えば佑輔の弟が夏期講習に参加してきた。橋南中でヒトケタをキープし津高に進学した佑輔の、弟に関する発言・・・家で英語を勉強している姿を見たことがありませんね。確かに塾に姿を見せた弟、英語が壊れている。まず英単語が書けない。綴りの雰囲気は合っているが正確に書けない。そして津西の試験の多さに辟易、諦念モードに入った長沼花衣を覚醒させるには妹・優里の力を借りたい。この意味では常にマイペースの佑輔も同じ。弟の良太が踏ん張れば、今までのクールな仮面を引き破った佑輔が見られるかもしれない。

 中2から高3までの一斉試験の噂を聞きつけ?古西が新しい塾に登場。「先生、本当にすんの?」 「するよ」 「でも中2からやろ? 中3やったら分かる気もするけど」 去年の中3で俺はセンター試験の5&6番の試験を試みた。5&6番は読解、中3は時間制限なし。宮口あすかや佑輔などは高校生の先輩を食う健闘を見せてくれた。しかしあれは冬休みだった。今は夏期講習の夏、それも中3ではなく中2から。古西の顔には、そんな試験できっこないだろうと書いてあった。「できるさ。それもわざわざ高校生にお出ましいただくんや。高校受験クラスの問題じゃ失礼だろう? ピシッと大学じ受験の問題で勝負しまっせ」 狐につつまれたような顔つきで古西は古い塾へと帰っていった。古西が書いたのか? 1階の教室には「25日、中2〜高3一斉試験(範囲不明)」と書かれてあった。

 高2が出題範囲を不定詞に絞ったとの噂が流れてきた。

 高1はというと、不定詞もあるが助動詞も2年範囲やからと、助動詞を見据えて不定詞との両天秤で勉強を始めた。

 24日、中3と中2を前に出題範囲を発表した。「範囲は前置詞、前置詞なら英文を読むうえでM(修飾語)の理解を深まる。また高校入試では私立高校で前置詞補充の問題が必ず出題される。中学生にとってもメリットがある。当然、大学受験でも前置詞の問題が出題される。双方にとって試験すだけの価値がある範囲や。前置詞の授業は今日から4日間。この4日間で高校生に勝つ!」 みんなの目に驚きの色が走る。「心配せんでもいい。高1には勝てる、宿題だけをしてホンワカとぬるま湯につかっている高1には楽勝やな。勝負は高2、さすがにアキちゃんや中井、村瀬あたりは手強い。このあたりとがホンマの勝負やな。決して範囲を先輩たちに教えないように。聞かれたらガセつかましとけ」

 第一回目の前置詞の講義は前置詞のそれぞれの働きを絵で書いて説明。上の above , over 、下の under , below 。そして on には「〜の上」という」意味はなく、接触という概念のみがあるだけということ。場所・時間・方向の前置詞について説明する。仕上げに簡単な試験を」するものの惨憺たる成績。全く分かってない良太に言う。「キチッと覚えていけ。そうすりゃ佑輔は射程距離だ」 気弱に微笑む良太に語気を荒げて言う。「兄ちゃんなんて潰したろ!て思わへんか」 「はあ・・・でも、優しい兄ですから」 「バカ野郎! 兄弟で純愛路線やってんじゃねえ!」

 俺の性格は悪い。3階の教室を抜ける時にはわざと不定詞の内容を黒板に書いておく。だまされる奴が悪いのだ。さっそく高2が準動詞に範囲を絞ったという噂・・・してやったり!

 アキちゃんの弟、直矢は白山中野球部。ここは地区大会を勝ち抜いて県大会に出場、ゆえにクラブは朝から。夜しか来れない直矢に俺は言った。「兄ちゃんなんか潰したれ。それが兄ちゃんのためや」 

 25日、高林紘が敗者復活戦で勝ち上がり県大会出場を決めた。「オマエはそんなに俺の授業を受けたくないんか」 嬉野中男子バレー部キャプテンの紘はニヤっと笑った。

 前置詞講義2回目は公立レベルの前置詞を演習問題2枚を用いて説明。付帯状況の with あたりでつまずく者が続出する。with , in , within あたりを中心に、そして前置詞と接続詞の関係、 because と because of 、while と during 、by と till などを詳細に解説する。しかし中2のなかには諦めモードに入ってる奴がいる。

 26日は夏休み前半の楽しみのひとつ、中1&小6の自己紹介英文スピーチ大会がある。ウチの塾では長い夏を俺が乗り切るため、いろんな催しがある。これもそのひとつ、ハイライトは小6の悠志が英文30文に挑戦する。以下にその30文を記しておく。

  My name is Yushi Kasai.  I am eleven years old.  I am from Hisai.  There are four in my family.  My father, mother, sister and me.  My father works for Sun Valley.  He comes home late.  He is gentle.  My mother works for old people too.  She likes tennis very much.  She is sometimes strict.  My grandfather and grandmother live in Tsu.  He likes baseball.  His favorite team is Dragons.  He is gentle.  She likes sewing.  She is young.  I like basketball.  I play basketball on Saturday.  It is hard.  But it is fun.  I want a basket goal.  I like pro-wrestling too.  My favorite wrestler is Thunder Riger.  He is small.  But he is strong.  I go to Rissei elementary school.  My school is fun.  I have many friends.  My sister is naughty.  She plays basketball too.

 悠志は決して勉強の得意なタイプではない。算数は若干見所があるが、語学、国語の読解はザルだし漢字の書きともなると字も汚いし覚えも悪い。中学校の正確な綴りを要求する試験では甚だお寒い結果が予想される。今年1年かけてなんとか人並みに、というのが俺の戦略。しかし音での理解、何度も何度もくどいくらいに俺に発音を聞いてくるその熱意は買える。夏休みのスピーチ大会で衆目を集める体験ををすることで意外と自信を付けるんじゃねいか?との狙い。同様のことは山脇由子にも言えた。理科・社会などの暗記系が苦手で点数が伸びない由子も英語のスピーチでは楽しそうな表情を見せていた。小学校からやってきたECCを披露するチャンスだ。なんとか自信を付けてほしい・・・2人に対する俺のスタンスは同じ。運動会を心待ちにしている生徒もいる。つまりは英語のスピーチ大会はウチの塾の運動会みたいなもの。俺はこの日、高3を除く高校生を全て呼んだ。なんとか盛り上げてほしかった。由子は何度かつまった。この日のために1週間毎日塾に来て練習していた。何度も何度も壁に向かって発音していた。頑張れ!由子。しかしつまった。つまったけど、由子はよく頑張った。允(高田U類1年)がつぶやいた。「すげえ速かった。途中でつまったけど、すんげえ良かった」   

 三重大医学部の面々の西日本医学部体育大会(通称、西医体)が目前に迫っている。いつも遅れがちになるバイト料を6人全員にすぐ払うことになる。奥さんがやりくりに苦労している。これもまたウチの夏期講習の風物詩。野球部の小田(キャプテン)・田丸・塚崎、サッカー部の高橋・村田・黒田が抜ける。後に残るは大森・岡田・伊藤など文系講師のみ。ゆえにこの時期の高校生の授業は英語一色となる。塚崎君がバイト料の請求用紙を持ってきて「先生、できれば今日お願いします」 「分かってる、西医体の季節や。すぐに渡す」 今日の高1の数学は宿題の質問受け。高1全員が宿題に振り回されている。理系の多い高1こそ、質問は他の日にまわして授業を進めるべきなのだ。やはり甘い。数学だけは前へ前へと進むことがセオリー。家へ戻り奥さんから塚崎君のバイト料をせしめて塾にもどると塚崎君は机につっぷして眠りこけている。西医体直前の練習・・・小田君がキャプテンやからしゃあないわ。なにしろ神宮で野球をやりたくて立教大学に進学。2年間の神宮生活を堪能してから医学部に飛び込んだという変わり者。そんな小田君の大会直前の過酷ともいえる練習・・・。俺はバイト代の入った封筒を眠りこける顔の横に置いた。

 バイト料を今日取りに来ると言ってた村田君が午後11時になっても来ない。村田君の携帯に電話。メチャクチャ騒がしい。阿鼻叫喚てやつやね。「すいません、すいません、ちょっと・・・、先生、僕、今、何を言ってるか自分でも分からないので明日また連絡します」

 この夜、高1の佳子から「中3は英語、何をやってるの?」と聞かれた直嗣、「代名詞かな」と嘘をついたとか・・・。すかさず高1は代名詞へと方針変更。俺は直嗣に言う。「俺もな、オマエらにガセネタふりまいたれと言ったけど、まさかホンマにするとは思てへんだわ。直嗣、先輩に恨まれるで」 「ぼ、僕はそんなこと言うてへん」 この直嗣もまたテニスで郡市大会準優勝を決めた。県大会は29日、伊勢アリーナ。

 海津圭亮(早稲田大学文学部2年)が帰省、姿を見せる。「元気やったか」 「なんとか、ところで先生、いつから始めます?」 「今日からでもええで。ウチの高3の状況は把握してる?」 「ええ、ホームページで見ておきましたから大体のところは」 「あれが全てや、あれ以上でもなく、あれ以下でもない」 海津はかなり痩せた。浪人時代の浪人時代の歪みのある体型ではなくなった。そこへ中井とアキちゃんが姿を見せる。つかつか近寄る2人に言う。「先輩だ、挨拶しろ」 あわてて挨拶する2人。「なんのようや」 当然俺はこ奴らが28日の試験の偵察にやってきたと思った次第だ。「海津先輩が中から見えたんで挨拶に・・・」 「なるほど、明日からの段取りを組んどいてや」 3人してゴソゴソと相談が始まる。海津の2人に対する指示が的確になった。昨年の夏もこの2人を教えた。2回目の気安さもあっただろうが、それ以上に年下に対する威厳のようなものが備わっていた。「圭亮、いつから始める?」 「明日からさっそく」 「場所はどこを使う?」 「1階の教室お願いします」 「わかった」 歯切れのいい口調、ちったあ東京でもまれてきたか・・・内心うれしくなった。

 黒田君が姿を見せる。「先生、明日出発なんでバイト料お願いします」 「はいはい、まあ頑張ってきてや。勝算のほうはどうでっか」 「初戦が強いとこですから」 「どこ?」 「金沢です」 「あれ? 前に当たったとこちゃう?」 「ええ、前も1−0で負けてます」 「強いの?」 「前は金沢がそのまま突っ走って優勝です」 「因縁のリベンジマッチやん?」 「でも相手にはいい選手がいるんですよ。全国代表選手なんですけどね。なんとかその選手を徹底マークしていけば勝算が出てくるんじゃないかと」 「そりゃ寒いな・・・高橋君なら勝算、どう言うかな」 「高橋さんは絶対に負けるとは言いませんから」 そう言って黒田君は微笑む。「ところで先生、一斉の英語の試験ですけど本当にやるんですか?」 「やるよ」 「でも、中2から高3でしょ」 「そう、中2から高3までがやるだけの価値があるエリア・・・前置詞や」 「え、前置詞!・・・なるほど」 「前置詞といっても知識探求のイディオム系、 put up with とか look into なんかの知ってて良かったシリーズじゃなくて、シンプルな前置詞の問題や。接触の on とかね」 「確かに・・・、それでしたら中学生も高校生もできますよね」 「だろ?」 そして虚空を見上げ唸る黒田君。「どないしたん?」 「いやあ、前に高3に前置詞のプリントやっとけと渡しといたんですけどね。やってますかねえ・・・」 「それは25日、明らかになるよ」 再び黒田君、腕を組んで虚空を見上げてつぶやく。「できるかな・・・」

 試験前日の講義内容は大学受験と高校受験がリンクする問題を取り上げる。 Kuwana is in the north of Mie. (桑名は三重の北部にある) この場合は桑名が三重に含まれるから in 、Kuwana is to the north of Hisai. (桑名は久居の北部にある) この場合は別個の2地点の方向を表すから to 、Tsu is on the north of Hisai. (津は久居の北部にある) この場合は津と久居が接触しているから on となるなどの問題。なんとか高校受験レベルの問題は解けるようにはなった。しかし手応えがない。やってる奴はやってる、そんな感じはある。しかし手を抜いてる奴もいる。

 夜になり三重大医学部サッカー部の高橋君がバイト料を取りにくる。「いつ出発するねん?」 「明日の朝です」 「第一戦は?」 「金沢です」 「強いらしいね?」 「なかなか・・・。キーパーが190cmからの長身、これが動きいいんですよ。それにゼッケン10、これが全日本なんです。この2人がね・・・問題なんですよ」 「そりゃきついな」 「後は天候ですよね。ウチが勝つには不確定要素が高くなるような天気がいい・・・暑いといいんですけどね」 「なるほど」 「でも曇りなんですよ、最高気温26度。過ごしやすい天気らしい」 「なんで分かるねん」 「インターネットで調べたんです。こんな時に便利ですよね」 「雨は?」 「雨だったらさらにウチに有利ですけどね。しかし雨の可能性20%未満です。過ごしやすい天気だと実力がもろに出ます」 「金沢に勝ったら?」 「一挙に決勝まで行けるでしょ。その時は来週一杯帰れないと思いますが・・・」 「塾とすりゃ困るけどね。明日からは理系がみんな出払うから文系教科で責めるよ。さっそく英語の中2から高3までの一斉試験が待ってる」 「ハハハ、どんな展開になるか興味津々ですね」 「宿泊先のホテルのパソコンからでもHPの速報見てや」 「それいいですね、やっぱりインターネットって便利ですね」 「ああ、とにかく当日の深夜にはネットに載せるつもりや。楽しみにしとってや」  

 顔色のすぐれない村田君が姿を見せる。「すいませんでした、昨日は」 「大変やった?」 「ええ、サッカー部の飲み会の後で泌尿器科の飲み会に行ったんです」 「ハシゴか? そりゃ大変やな」 「今日は一日中寝ていました」 「ハハハ、そういや村田君、今は泌尿器科でポリクリやってたもんな」 「ええ、長谷川先輩には本当にお世話になってます。分からないといつも長谷川先輩とこへ聞きに行くんです」 「マチコ先生(長谷川君の奥さん)は元気?」 「ええ、でもみんな村田先生と呼んでるんですけど、名札見たら長谷川ってなってるんです」 「ハハハ、やっぱ部内的にはすぐには変わらんよな」 「村田君はいつ出発や?」 「明日の朝です」 「ポリクリは?」 「ええ、西医体ということで融通がきく科もあるらしいんですが僕はすぐに戻らないと・・・」 「そりゃ大変やな」 「それと先生、ポリクリのカタがつくのは盆あたり。生徒たちの授業はちょくちょく抜けますけど、盆開けから集中してやりますから」 「へえへえ、それで結構。大切なんは自分の勉強、盆明けからブッ飛ばしてくれりゃいいから」 「じゃあ、行ってきます」

 最後は野球部キャプテンの小田君。高1の化学の授業を終えてやってくる。「先生、じゃあ行ってきます」 「やっぱ鳥取へ行くの?」 「ええ」 小田君はこの春、鳥取にあるトレーニングジムで2週間過ごした。プロ野球のイチローなどがカリスマとして慕うトレーナーが経営、一番のポイントは柔らかい筋力をつけるため絶対にバーベルなど重いものを持たなせないこと。打って走れるドクターを目指す?小田君、発遭遇で熱愛。「とにかく重心の位置が今までとは違うんです。無駄な動きがなくなった」と絶賛。あげく「僕も高校生の頃にここを知っていたら、僕の人生も今とは変わっていたかな」と言うほどの惚れ込みよう。今回も西医体の直前の調整に鳥取に乗り込む。「もう一人のピッチャーがケガをしましてね。僕が一人で投げきるしかないですから」 「あんまり勝つと田丸君、大変やな」 野球は8月2日から始まる。勝つほどに田丸君の微生の追試9日が迫ってくる。「田丸には悪いが投げて勝って、投げて勝って、勝ちまくってきます」

 医学部講師が全員いなくなって、代わりに海津が帰ってきた。30日には今春、関西学院に合格じたての女子大生が講師としてやってくる。名前も知らないし会ったこともない。大家さんから頼まれたこともあり引き受けた。「人生勉強させてやってよ」と大家の山野のオヤジさん。そして同じ日、福井からの密航者アキラ見参! 今年も今年とて、ウチの塾のなかは疾風が吹き荒れる。

 深夜12時を過ぎても良太が前置詞のプリントを解いている。今までやってきたやつだ。何度も何度も・・・、そのプリントを俺は1枚ずつ採点していく。合わないまでも少しはもともな解答を書くようになった。「できるようになったやん」 いつしか中3も帰ってしまった。時刻は午前1時前。「兄ちゃんといっしょに送ってやるよ。帰ろや」と、良太を促す。高校生の教室に入り佑輔に言う。「帰ろや」 「え?もうですか」 「いいじゃねえか、弟もいっしょや」 後藤兄弟に健太を伴って深夜の道を飛ばす。塾に戻ると午前2時。1階には明かりが・・・。ドア越しに覗くと村瀬の背中。午前3時、允を送る時も明かりはついている。教室の中に入り背中越しに覗くと英文法の本を読んでいる。ジャンルは準動詞・・・はずしたな!村瀬、允を送る車の中、心の中でささやく。こんな状況を設定すると俄然村瀬は受験生に戻る。これがこ奴のいいとこでもある。高2となり数学の手を抜いていたことを叱ると、次の全統で津高順位を136番からヒョイと17番まで上げてくる。器用だ・・・しかし俺たちが状況を設定しなければ燃えないところがまた村瀬。自分からテンションを上げる努力をしない。これが最悪。いつしか夜が明けてきた・・・。

 28日、中2〜高3一斉試験当日・・・。この日も小学生に起こされた。午前は英語、小学生1年から6年までは中1と同様にスピーチの練習。しかし自己紹介文の内容の構成を踏まえないで好きな文をのべつ書くために覚えられない。先週も余り進まず、この日までに工夫をしておくことと言っておいたものの、やはりダラダラした文章が続く。少々キツイことを言ってから授業は終了。昼過ぎに良太が姿を見せる。「どうしたの?オマエ、こんな時間に」 微笑むだけだ。「試験までに前置詞の勉強してくってか?」 「うん」 「今までのプリント全部やり直せ」 良太はイスから離れプリントを取りに行った。自分から動く・・・今までにないフットワーク。ちったあ良くなったか? これで今日の兄弟対決、おもしろくなってきた。

 奥さんと娘たちが大阪へ行くのを中川駅まで送る。塾に戻ると村瀬登場、今日は家族で食事に行くからとトップバッターで試験に臨む。中3と中2のなかに一人座り試験に見入る。うめき声が漏れる・・・ここが出るとは・・・。「あれ! 村瀬君、やっぱハズされたかな?」 「ええ・・・、まいったな」 村瀬の手が鉛筆に伸びる。

 中2と中3が教室を埋め尽くしていく。俺は言う。「今日のテストは昼と夜の2回に分けて実施します。どちらでも都合のいいほうを受けること。まだ不十分やからアカンて言う人は夜8時まで勉強してていいから。今日の夜受ける人?」 中3の菊山が手を挙げる。「そうか菊山、オマエなんとか古西を倒してスペイン村を狙ってるな」 古西に勝ったらスペイン村無料招待!と言い切ったのは昨夜だった。「嫌な奴だね、この野郎」 菊山の他には夜受けるメンバーはいないようだった。「じゃあ、今から試験開始の3時まで各自で勉強するように」  チラリと見える村瀬の背中、中学生たちのなかで埋もれるように受験生の背中があった。

 問題は50問から成る。1問2点、計100点。最後まで解いたはずなのに村瀬は3枚のプリントの上をさまよっている。十分すぎる見直しの末に終了・・・採点・・・ミス4。100点換算で92点。俺は黒板に「高2 村瀬 92点」と書き込んだ。

 村瀬の点数は俺の予想とピッタシ。その村瀬に遅れること30分、古西が現れる。「今夜は田丸先輩の授業があるから試験今からやっていい?」 「大歓迎です。村瀬はミス4の92点で終了したわ」 「やるやん、でも俺、何もやってへんからな」 「高3はいつだって『かかってきなさい!』だよ」  

 下の教室、1階では海津圭亮の古典が始まっている。受講生は今井・アキちゃん・中井の3人。波多野は国語がどうしようもなく、あえてはずした。波多野の夏は英語と日本史の完成度を磨く。国語はやるつもりはない、やったところで上がる保証はねえ。それなら英語と日本史だ。4期生の横山(同志社大から花王販売)のように英語95、日本史95、国語40で勝負するつもりだ。

 3階の高1の部屋で皇学館中学のアユミとレイ(うちの娘とは別人)を教えている。古西の試験は前期試験を終えて久しぶりの岡田さんに頼んできた。試験に備えて高1の佳子(津西)・清美(津高)・大輔(津高)・允・恵(高田)が勉強している。そんな高1に「村瀬の点数はドンピシャやったから古西も当てましょう」と言って黒板に向かう。「やっぱ、高3やからな94点と書きたいけどな、問題が本質を問う前置詞やからな、古西は86点あたりかな」 すると突然ドアを開け古西が顔を出す。「アカンわ、爆発したわ!」 「ミスは?」 「12」 「なんやて!」 中2と中3の勉強する教室の黒板に点数を書き込んだ。「じゃあ行きます」 「じゃあな」 「はい、ミスは12やと触れ回っときます」 古西は俺のほうを見ずに手だけを挙げて応えた。

 高3 古西 76点

 古西はアキちゃんと2人、1階で古典終了後、すかさず海津の小論文にはいる。第一回目のテーマは「いやしについて」

 午後3時、菊山を除く中学生スタート。同時に夜は都合が悪いという清美さんも試験開始。そして1時間後、答え合わせという段になり砂山(津高2年)登場。砂山はコンピューターの部屋で試験に突入。そして答え合わせが始まる。清美さんはいっしょにしたくないと岡田さんが採点を・・・。静寂・・・溜め息・・・安堵・・・。

 中3 蔭山 64点  横山 36点  佐野 80点  岡田 74点

     川合 78点

 中2 大市 22点  木下 34点  川島 58点  竹内 46点

     優里 90点  由依 70点  竹中 70点  坊   50点

     良太 64点

 高1 清美 62点

 高2 砂山 72点

 してやったり! それ以外の感想はない。点数を見てもらえば一目瞭然。例え4日間であろうと英語はやったでけのものが結果に出る。とくに中2の英語の苦手な生徒にそれを身にしみて分かってほしかった。これで現時点のトップは高2の村瀬、そして2位は中2の長沼優里、3位に中3の佐野となった次第。

 俺は上の成績を黒板に書き込んでいく。その結果を見に来る生徒たちがたむろするなかで夜の試験が迫る。高校生に言う。「やっぱ、あの感情を露わにしない菊山が夜に試験をするって言った時には震えたよ。夜に備えて勉強している菊山なんて初めて見たよ」 大輔が笑いながら言う。「先生、菊山の奴、こっちの教室で数学の勉強していたよ」 「なに! あの野郎、余裕かましやがって!」 中井・アキちゃん・今井・阿部・寺田・波多野の高校生がやって来て着席する。波多野に言う。「波多野、どこの範囲やと思う」 「分かりません」 「前置詞や」 「終わりました」 ドッと笑いが起こる。そこへ菊山・直矢・小林・真歩の中学生が入場。午後8時、試合開始。

 遅れてやってきたのは佑輔と仁志(津西2年)。こ奴らは全員の点数が黒板に書いてある中学生の部屋で試験開始。弟、良太の点数を見た佑輔の表情に変化があったのか? 俺はビデオをまわすべきだったと後悔した。「どや、佑輔。弟の点数を見た感想は?」 「やばいですね」

 高校生の部屋では解説が始まる。採点の終わった高3から自虐めいた哄笑が起こる。「どないした、波多野」 「すいません、轟沈です」 名前を呼びあげていく。「阿部」 「64点」 「寺田」 「78点」 「今井」 「70点」 高2に移る。「アキちゃん」 「48点」 消え入りそうな声。「中井」 「48点」 再びコオロギが鳴いている。そして高1、「大輔」 「72点」 「あすかチャン」 「68点」 「恵」 「62点」 「卓」 「50点」 「橋本」 「56点」 「花衣」 「56点」 「允」 「58点」 「佳子」 「72点」 いよいよ中学生の番だ。「菊山」 聞き取りにくい声。何度か聞き直す。「90点」 張りつめた緊張が交錯する。「直矢」 「58点」 すかさず叫ぶ俺。「直矢! そんな点ではアカンやろ。そんなヘボい点じゃお兄ちゃんに勝てへん・・・あれ、勝ってるやん」 ドッと笑いが起こる。苦虫を噛みつぶした様な」顔のアキちゃん。 「小林」 「40点」 最後は真歩だ。しかしこ奴はこんな状況では点数を決して言わない。恥ずかしいと言う。俺は隣りに座っている佳子に言った。「佳子、隣りに座ってる子の点数はなんぼや?」 「・・・84点」 再び緊張の交錯。

 俺は黒板に書き足していく。

 中2 小林 40点  直矢 58点  真歩 84点

 中3 菊山 90点

 高1 大輔 72点  あすか 68点   恵   62点   卓  50点

     橋本 56点  花衣 56点   允   58点  佳子 72点

 高2 明徳 48点  中井 48点

 高3 阿部 64点  今井 70点  寺田 78点 波多野 56点

 そして佑輔と仁志の解法に入る。答を言う俺に思うようにいかない佑輔の焦りの表情が垣間見える。「いいじゃねえか、佑輔。ここは英語に自信を持てない弟に花を持たせて、あ奴の自信を引き出すっていう戦略もある」 「なるほど、そういう考え方もありますよね。しかし、・・・やばいな」 そして結果が出た。

 高1 佑輔 68点

 高2 仁志 70点

 深夜、古い塾の中井から電話。「すいません、先生。僕の得点間違ってました」 「わざわざ連絡してくるんや、なんぼ上がったんや」 「いえ、下がったんです」 「アホ! 正直の上に何かつくわ。で、何点や?」 「48点じゃなくて38点でした」 

 かくして7月28日は終わった。英語はやった者勝ち、この試験はそれを証明したにすぎない。塾内順位を並べる趣味はない。興味があればやってもらえばいい。ただ、高1と高2に言っておきたい。このままじゃ腐っちまうよ、アンタの英語は。高校の英語をディフェンスしてばっかではじり貧やな。もっとアグレッシブに英語に取り組むこっちゃ。英語というフィールドでは高校なんて関係ない。さらには中学と高校の境界なんてないんだ。つまりはバリアフリー、やった者勝ち、ただそれだけなんや。

 29日、れいめい塾は普通の塾にもどった。今日は夏休みの宿題にあてることにした。ポツポツと質問を受け付けていると電話が鳴る。高橋君だ。「先生、負けちゃいました」 「そうか? スコアは」 「0−0でPKでやられました。8人目まで行ったんですけど」 「そりゃ惜しい」 「最悪の天候、HPにあったように過ごしやすい曇りだったんですけど、みんな頑張ってくれて・・・」 「次は来年やな」 「僕って5連敗中ですから」 「でも、留年したから後2年勝負できるやん」 「ハハハ、そうですよね。また来年頑張ります」 「これからどうする」 「少し旅行してから帰ります」 「そうか、帰ってくるの楽しみにしてるよ」

 そして深夜、福井からの密航者アキラがオヤジとともに登場した。やっぱ密航は夜に限るで・・・天真爛漫なオヤジは車から自転車を降ろしながらつぶやいた。古い塾では高3が掃除したんだろう、ウチの塾基準では整理整頓された部屋のなか、『AKIRA’S ROOM』とベニヤ板に書かれた向こう側に縦1m横1mの空間が広がっていた。そしてポツンとある机の上、カップ麺「緑のたぬき」が1個置かれていた。 

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