TO・N・DE・MO Day -畑中家のとんでもない一日-
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 飛影は苦渋の表情で次のように話し始めた。
「この部屋に居座っていたオレを見た途端だ。……あの女は一瞬にして豹変し、オレを悪魔だと、息子を連れ去る妖怪だと罵り、暴れた結果がこの部屋の有様だ」
「…………へ、へえ……」
 自分の母親が狂った姿など想像すらできなかったが、この期に及んでまさか飛影が嘘を言っているようにも思えず、蔵馬は返答に窮した。
 飛影は続けた。
「オレが思うに、あの女はお前が普通の人間ではないと、勘付いているんじゃないのか?だからいつか、異世界からお前の迎えが来るかもしれないと、怯えていたんじゃないだろうか。そこにオレが現われたわけだ」
 まるでかぐや姫の世界だ。
「……母さん……気付いていたのかもしれないですね……それでもいつも通りに接してくれて……」
 飛影の姿を見た途端に普通の人間ではないと疑った母親は、カンが鋭かったのかもしれない。半狂乱になってでも飛影を追い出そうとする母親を想像し、素直に嬉しいと思った。
 そして、そんな志保利の誤解を解くため、必死でトンデモを演じる飛影の姿を想像して、蔵馬は笑った。
「だが、そうだな……雪菜にでも聞いてみろ。あいつなら、日にちがいつかくらい知っているかもしれん」
「え、飛影……それって……」
「誕生日、とかいうヤツも悪くはないかも知れんな。キサマの策略とやらを、せいぜい楽しみにしてやるぜ」
 その言葉を聞いた蔵馬は、喜びの余り飛影に思いっきり抱きついた。
「……飛影!嬉しいです、本当に嬉しいです!ああ、こんなに素敵なことがあるなんて!きっと楽しみにしてて下さいね。ありがとう、飛影」
 飛影の首筋に頬を摺り寄せて、まるで見えないはずの尻尾がぱたぱたはしゃいでいるようだ。
「飛影が今日ここに来てたのは、素敵な偶然でしたね。つい先日も、オレ百足まで行ったばっかりだったってのに」
 蔵馬がわざわざ百足まで行って飛影の相手をしてきたのは、つい先週の土日だ。間違ってもこの日に家に来ないようにと、満足させてきたつもりだったのだが……。
「バカ言え。あれで充分なハズないだろう。お前こそ、どうなんだ?」
 飛影の不敵な笑み。分かっているクセに。
「どうなんだって……高校生の性欲をなめないでくださ……あ飛影、ちょっと待って」
 蔵馬はハッとすると、もう間もなく部屋の扉をコンコンと叩く音が鳴った。『おお、危ない危ない』と苦笑いしながら立ち上がり、扉を開くと、そこにはトレイを手にした母親の姿があった。
「秀一、デザートを持ってきたのよ。ヒエイくんと一緒に食べなさい」
 トレイには、おいしそうなバニラアイスが二皿。ミントの葉がちょこんと添えられて、綺麗だ。
「ああ、わざわざありがとう母さん。そうだ、飛影は今日は泊まっていくけどこっちは気にしないで。夕食の後片付けできなくてごめんね」
 その言葉をしかと聞いたのは、志保利よりもむしろ飛影。蔵馬の背後から、またもや悪魔のごときトンデモ声が聞えた。
「ありがとうございます♪ありがたく(息子さんを)ご馳走になります♪」
 母親が立ち去った後、再び脱力してしまった蔵馬の前でふんぞり返りながら、『たまにはアイスクリームプレイもいいな……』と満足顔で呟く飛影の姿があった。

E・N・D




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