TO・N・DE・MO Day -畑中家のとんでもない一日- | ||
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毎年この季節になると、オレのかわいい植物たちは人間にちょっとしたイタズラを仕掛ける。否、彼らは自分達が繁栄するために行っていることなのに、人間が勝手に迷惑がっているのだ。果ては、専用マスクとか専用サプリメントなんかが市場に出回る始末。 「…は…は………ハークション!!!」 「あはは、それが人間界でいう、花粉症というものですよ」 滅多に見ることのない飛影の盛大なクシャミシーンを真正面で見学できた感動から、蔵馬は笑わずにはいられなかった。 「だから何だというんだ。オレ達妖怪に(ズルッ)そんな怪しい病気など関係(ズルッ)ないだろうが」 飛影は鼻をズビズビすすりながら、近くに置いてあるティッシュケースから荒っぽく紙を取り出し、鼻をかみ、またクシャミを連発した。目は真っ赤で今にも泣きそうな顔になっているのだからまた笑える。これで百目妖怪にでも変身したら双方悶絶モノだろうなぁ……。そんな発想が浮かび、また笑いを必死でこらえた。 もちろん妖怪である飛影が花粉症などかかるわけがない。これは蔵馬が魔界スギから特別に採取した花粉を使った模擬実験だ。『飛影も、人間の苦しみというものを多少身をもって知っておいても損はないでしょう』と、有無を言わさず超高濃度魔界スギ花粉蔵馬仕様を嗅がせた結果がこれだ。 「確かにオレ達には無縁の病気ですが……でも飛影!貴方は人間界ではいつもどこで休んでいるんでしたっけ?」 「その辺の山の中」 「この家にはどこから入ってくるんでしたっけ?」 「目の前の窓。だからそれがどうしたッ?」 蔵馬は呆れたような顔で一つため息をつき、一気にまくし立てた。 「あのねぇ、飛影!飛影がウチにやってくる度に、貴方はその服に大量のスギ花粉を持ち込んでいるんですよ!おお、オレには見える……その禍々しいほどの漆黒の衣に、無数のかわいいかわいい胞子たちが苦しそうに蠢いているのを……!ああ、なんという……」 「…………」 飛影は蔵馬の馬鹿馬鹿しい台詞に絶句する他はなかったが、何とか口を開くことができた。 「貴様の不服はそれだけか……?」 「いいえ!ここからが大事なのですが、我が家族は揃いも揃って重度のスギ花粉症なのです!つまり早い話が、飛影がウチに来るとオレ様大迷惑」 その蔵馬の言葉に、一瞬にして飛影の顔が歪んだ。 「……つまり、オレは邪魔者だと、そう言いたいのか……?」 「その通りです!いやー、飛影も物分りいいじゃないですか!」 大満足な蔵馬の顔に、飛影は一瞬にして怒りが頂点に達した。 「オレが、このオレが邪魔者扱いだとはな!貴様こそ、昨夜あれほど楽しいんでいたクセに」 「ええ、それはもう天国で……じゃなくて。スギ花粉はあと1ヶ月くらいは続きますから、来るなら来月以降ということで」 「こんなところ二度と来るかボケッ!」 「寂しくなったら、オレの方から百足に行きますよ〜。それじゃ、さようならー」 蔵馬は、部屋の窓から飛び出た飛影の、既に遠くに見える背中に向かって嬉々として手を振った。その小さな小さな背中は、未だクシャミに翻弄されているようにも見えた。 「こんなに計画通りになるなんて、飛影ったらホントに単純なんだから……」 くすっと、胸の内で穏やかに笑った。 |