TO・N・DE・MO Day -畑中家のとんでもない一日-
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「ホントはね、飛影にも誕生日があればいいと思ってたんだ」
「……」
 飛影は何もかも受け止めてくれると悟った蔵馬は、少しずつ自分の心の中を語り始めた。自分の肩に回された飛影の腕が心地よかった。
「丸一年をかけて貴方をからかうプランを練ったりとか、それに普通に貴方を喜ばせることを考えたりとか、そんな日が一年に一回あればどんなに楽しいだろうって、ちょっと考えただけだった」
 飛影は特に返事をすることはなかったが、ただ蔵馬の言葉を真摯に聞いていた。
「だけど、気付いたんです。飛影が生まれた日はつまり、飛影が初めて人を殺めた日だったと……」
「……」
「それからです。飛影に、楽しい誕生日の姿なんて、特にそんなオレの姿なんて見せたくないと思って……」
「お前は、頭がいいクセに本当にバカだな」
 飛影は蔵馬の顔を少しだけ上げさせると、フッと笑った。
「そうですね。ささいなことかもしれないけれど、オレにとって貴方に何ができるだろうって思うと、こんなことばかりしか思い浮かばなくて」
 ふふっと、やっと蔵馬の表情に笑みがこぼれるようになると、ようやく飛影はがっしりと蔵馬を抱いていた腕を外し、蔵馬を自由にさせた。
「貴様はどう思うか知らんが、オレにしてみれば、自分の正体を打ち明けることの出来ないお前の方が、よっぽど不幸に見えるぞ」
「……そうですね」
 飛影が最も大切にしている氷泪石。それは飛影にとって、彼の母親そのものだ。飛影の母親は、自分の子供が炎の妖怪であると、そして自分の命も尽きると、知っても迷わず双子を産んだ。そのことをも飛影は受け止めて生きている。蔵馬は改めて自分の浅はかさを思い知った。
「……だが、そうとも言い切れんかもな」
「……え?」
 蔵馬は、飛影の言っている意味が分からず、一瞬キョトンとなってしまった。
「お前、自分の部屋が少しおかしいと思わないか?」
 蔵馬は部屋を見回した。よく見てみると、今朝、自分が部屋を出た時よりも散らかっている。置き物などが多少散乱しているのだ。
「どうしたんでしょう、これは……」
「実はお前が帰ってくる少し前に、オレはいつも通りこの部屋に来たのだが……その時にあの女に運悪く見つかった」
「あ、オレの母さんに?」
 つまり、トンデモ飛影の誕生秘話というわけか?蔵馬は興味津々と話の続きを期待した。




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