TO・N・DE・MO Day -畑中家のとんでもない一日-
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「あーもう飛影ったら、何やってるんですかッ!」
 食事を終えた蔵馬は、無数の脂汗を流しながら家族との会話を切り抜け、ようやく部屋に戻ることができた。もちろん爽やかな笑顔弾けるトンデモ飛影も連れて。蔵馬にしてみると、家族には悪いが一刻も早くあのヘンテコな状況から脱出をはかりたかったのだ。
 ここまでオレを精神的に追い詰めることができるのは、やはりこの飛影だけなのだと思い知らされ……って、これも惚気に入るのか?
「それはこっちのセリフだ、蔵馬。お前、オレを騙したな?」
 蔵馬は、そもそも何故飛影が自分の母親と一緒にいたのか問い詰めたかったが、逆に、いや再び追い詰められていたのは自分の方だった。
 ようやく二人っきりになれたところで、飛影は元のふてぶてしい態度に戻っていた。それに気付いた蔵馬は、体中の力が抜けてしまい、部屋の床にへたり込んでしまった。
「……とりあえず、変な宗教に引っかかったわけでもなさそうなので安心しました。壷なんていりませんからね」
「何の話だッ」
「しかし、貴方にこんなにすごい才能が隠されていたなんて、オレ本気でびっくりしちゃいましたよ。転職でも考えたらどうです?」
 蔵馬の口調は既に気力まで抜けきった。
「アホか。こんなことはもう二度とやらん。貴様のうろたえる顔を存分に見れたからな」
 どうやら疲れていたのは蔵馬だけではなかったようで、飛影も同じように床に腰を下ろした。
「……で?」
 それでも飛影の表情は厳しい。
 蔵馬は観念した顔で白状した。
「もともと妖怪だったオレが今、自分の人間としての誕生日如きで一喜一憂している様を、飛影に知れたらバカにされるかもと思って」
「嘘だな」
「嘘です」
「じゃあ何なんだ」
「……見てて分かりませんでしたか?せっかく家族で祝ってくれるオレの誕生日を、飛影に邪魔されたくなかっただけです。だから飛影がここに来ないようにしたんですよ」
「それも嘘だな」
「嘘じゃありません!」
 飛影があまりにも早く蔵馬の言葉を否定したので、蔵馬もムキになってそれに応えてしまった。
「じゃあ何故オレを今すぐ追い出さない?」
「……」
 飛影の言う通りだ。今すぐにでも、飛影を追い出せばめでたく『誕生日』の続きができるのだから。蔵馬がその気になれば、飛影をここから追い出すことなんてたわいもないことだ。
 でも本当はそうじゃない。追い出せるわけがないじゃないか。蔵馬は目をそらし唇を噛んだ。
「……ッ!何するんですか!」
 痺れを切らした飛影は、乱暴に蔵馬の肩を掴み、その顔を自分に向けさせた。
「お前、そんなにオレが不幸に見えるのか……ッ?」
 飛影の真剣な眼差し。蔵馬の当惑していた瞳が、驚きで見開いた。
「……!飛影……!」
 飛影の胸元で静かに揺れる石。蔵馬は、飛影がとっくに自分の心を見破られていたことを知った。
「どこまで人を馬鹿にしたら気が済むんだ……全く……」
 飛影はたまらず蔵馬を抱き寄せた。飛影の肩口に顔をうずめ、蔵馬は一つだけ、ごめんなさい、と呟いた。飛影には彼が、震えているようにも思えた。




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