TO・N・DE・MO Day -畑中家のとんでもない一日-
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 居間には、蔵馬の予想通り母親が愛情こめて作ったご馳走がところ狭しと並んでいた。どれも美味しそうに見える力作ばかりだ。
「わ、すっげー!義母さん、秀兄の誕生日は気合いが違うね!」
 二階から義弟が降りてきて、目を輝かせながらテーブルに着いた。
 そんなテーブルに、まさか飛影と一緒に座ることになろうとは。しかも蔵馬の隣に座っているそのトンデモ飛影は、始終爽やかな笑みを振りまき続け、蔵馬はどん底に突き落とされたような気分だった。
「今年は育ち盛りの男の子が二人もいるし、たくさん作っておいてよかったわ〜。ヒエイくんもどんどん食べちゃって頂戴ね」
「ありがとうございます♪ご馳走になります♪」
 あ、ありえない……。
 これは罰ゲームだ。飛影を『花粉症』などという低レベルな題材でコロッと騙そうとしたオレに対する、盛大な仕返しなのだ。その演技力たるや、かの天才子役・楯岡守とやらも裸足で逃げ出してしまうに違いない。
 やがて帰宅した義父も加わり、賑やかな(?)ひと時が流れた。
 蔵馬は元々あまり友人を家に連れてこなかったので、母親はハンドルネーム・ヒエイと名乗る少年をここぞとばかりに可愛がり、また義弟は、さすが秀兄の連れてくる友達はちょっと違うよな、とやはり目を輝かせていた。そんな家族に対し、飛影は一つもボロを出すことはなく、蔵馬をどこまでも唖然とさせたのだった。
 蔵馬は飛影のありえない振る舞いに当惑しつつも、ようやく本来自分のすべき事を思い出し、箸を進めることにした。今日はなんと言っても、家族と一緒にこの一日を楽しむことが一番大事なのだから。
 気持ちが落ち着いた蔵馬は、改めて隣に座る飛影に目をやった。驚くことに、ちゃんと行儀よく食べている。以前首縊島ホテルへ行くことになった際、恥をかかせまいと蔵馬がみっちり教え込んでいたお陰で、お箸の使い方はぎこちないものの何とかなっているようだ。それでも動作がごく自然に見えてしまうのは、その恐るべき演技力の賜物だろうか。
 蔵馬は家族に悟られぬよう、一つこっそりため息をついた。
「秀一は友達があまり多くなくてね。だからヒエイくんはいつまでも仲良くしてあげて欲しいわ」
「ええ、オレに任せて下さい♪それに、シュウイチ君はオレにとって、とても大切な人ですから♪」
「まあ、ありがとう。母さん嬉しいわ」
 蔵馬に顔を向けた飛影は、満面の笑みに白い歯がキラリ。ちょっ、何言ってんだ飛影ッ!うっかり違うセリフに聞えそうになったじゃないかッ!
 いっそこのまま気を失えたら、どんなに幸せだろうか……蔵馬の頭の片隅に、そんな思いが一瞬横切った。




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