TO・N・DE・MO Day -畑中家のとんでもない一日-
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「おーい南野!放課後の毎週恒例ゲーム論議会を忘れるなよ。今日のテーマは待ちに待った、ビアンカVSフローラの決着だ!」
 今まさに帰ろうとした蔵馬は、教室から廊下に出たところでその荒息声に呼び止められた。
「しまったな、今日だったか……」
「なんだよ、出られないのか?珍しいな」
 クラスメイトでもある海藤優は意外そうな表情だ。
「ああ、悪いが今日はすぐに帰らないとならなくてね。論議に出られなくて非常に残念だ。オレはフローラに一票。理由はキャラ的にマニア向けだし、なんと言っても親世代の伏線としてうまくできている。じゃあオレの分も頼んだよ」
「おい、オレがビアンカ派だということを忘れるな!いつしかお前を論破してみせるぞー!!」
 海藤のオタトーク響き渡る校舎を、蔵馬は残念そうに去った。

 今日は特別な日だ。
『誕生日』
 オレが人間として生まれた記念日。母や義弟がそれを祝うため、オレの帰りを待っている。人間として生きるオレが出来る、数少ない孝行ができる大切な日だ。
 そしてその一方で、今日この日まで飛影が何も気付かずにオレの家に寄り付かくて本当によかったと安堵した。
 蔵馬は早足で家の前まで辿り着き、玄関の扉を開いたところで―――
「ただい…………アレ?」
「お帰りなさい、秀一」
「お帰りなさい、シュウイチくん♪」
 蔵馬が玄関の扉を開いた目の前には、自分の帰りを待っていた母親と、そしてその隣にもう一人、飛影の姿が……。
「えええ――!飛影、何でここにッ?」
 ありえない光景だ。想像すらしたことのない光景だ。自分の母親と飛影が並んで玄関先に立っているなんて!そもそも、なぜ飛影がここにいるのか。状況が飲み込めずに蔵馬は珍しく混乱した。
「こら秀一。お客さんに対して失礼でしょ」
「え、いや、でも何で……」
「秀一の誕生日祝いに来てくれたに決まっているでしょう」
「………ハイ?」
 『飛影』が『誕生日祝い』……ありえない言葉の組み合わせに、蔵馬は人間に生まれて初めて脳内が真っ白になった。
 しかし、トドメは当の飛影のセリフだった。
「いえ、オレがいきなり来たのが悪かったんです。シュウイチくん、オタンジョウビおめでとう♪」
 飛影が、オレのかわいい飛影がありえないセリフを吐いた!しかもその表情は、今までに見たこともない爽やか溢れる笑顔!何か悪い宗教にでも引っかかり洗脳されたのだろうか。思わず自宅の玄関で気を失いそうになったところで、一瞬その『トンデモ』飛影がニヤリと不敵に笑った。
 ―――恐ろしく壮大な演技だ。




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