787 貞子の休日7 一人の人間が衆目を前にして消え去る。不可解な言葉を残して。どこから来たって?警告、危険なゲーム、パソコン、スクロール。 半ば放心、半ば、驚愕に支配された面々は、顔をつき合わすようにしてお互いの目の中を覗きこもうとする。 やがて富江がぽつりとこう言った。もう涙は枯れていた。「みつおさん、貴方、知ってるんでしょ、何もかもが決まってるって、わかってたって。消えた彼女も同じように言ってた。知ってるなら説明して、何が起ころうとしているのか」残りの人々もみつおに視線を集める。 「そう、ある程度はわかっている、しかしすべてではない。知っている事だけ知っている」横合いから加也子が口を尖らせ「何よそれもっときちんと話してよ」「あの女の人は自分の意思でここに来たんではないんだ、それを確認しよう、今すぐに」みつおは鋭くまなこを見開いた。長島君「どうやって確認するわけですか」「パソコンさ」生真面目な表情で聞き入ってた貞子が閃いた様子で、店内の奥の方に駆け出していった。辺りは人達には人ひとり消えた事を容認している雰囲気はない。ざわめきと酔いの集合体の方がアクシデントをかき消してしまったとでも言わんばかりに。 貞子は駆け足で厨房にいた店長を見つけるや「すいません、パソコンありますか。急いでるんです」と切ない声色でそうお願いしてみた。「えっ、パソコンですか、ここにはないですよ、お店には」店長も意表をつかれた様子だがしっかりと答える。「事務所とか経理室ないんでしょうか」「ないですけど、一体どうしったって言うんでしょうか」「とにかく確認したい事があるんです」「この店舗の3階が私の住まいになってまして、そこにはありますけど」「すいませんけど、お邪魔させてもらえませんか」「え〜っ」「今すぐに」「今すぐにですか」「緊急事態なんです、説明は後でしますから。お願いします」畳み掛けるような貞子の熱意に圧倒された店長は渋々、まあいっか、わかりましたよ、と後の仕事をスタッフに託すとエプロンをとり、こちらですと案内してくれようとしてくれる。店長に続いてホールに戻った貞子は「みんな、パソコン見れるよ、さあ一緒に急いで」と手招きでメンバーを促した。それを聞いた連中は即座に理解し、あたふたと後に続く。一旦、玄関を出て2階店舗に上がる階段を更に3階まで一気に駆け上がる。真向かいにある児童公園の桜がそよ風に促され、はらはらとに舞い落ちていた。 「あっ、すいません靴脱いで下さい、散らかってるけど、どうぞ」寝室件居間といった趣きの部屋に向かうと、店長は早速、パソコンの電源を入れる。画面が立ち上がる間に「それでどうそりゃいいですか」と貞子に向かって問いかけた。「みつおさん、どうすれば」みつおは落ち着いた面持ちで「赤いバーのサイト、BBSに行くんだ」その言葉を耳にするや否や、貞子と昇は頭に一撃を受けたような痛みを感じた。 画面がモニターに現れる、赤い背景に白地の文面。みつおはマウスを手にスクロールで軽く下降していく。 778みつおの冒険、みつおは赤く染まったまぶたをそっと開いた。目覚めは変わらない。何が、、、、「ここだ、3段落」 「今日はいい天気だ。おっ、いい色のパンスト履いてるねえ〜、え、そんなとこしか見ないって。そんなことないよ、他のところだってちゃんと見てますよ。へえ〜と彼女は微笑む。へえ〜と私も微笑み返す。 見つめる向こうには一枚の白紙がまるで屏風のように二人の距離を遮断している。とても薄い紙だけれど、けっして破れない。それにすぐ汚れる。春風がそよぎ、暖かな光が優しさをこめて降りそそぐと、辺りは痴呆的な陽気さに包まれていく。 そうそう、みつおって人知ってる?知らないなあ。嘘、貴方の後ろにいつもいるわよ。一瞬、寒気がしてそっと振返った。誰もいないよ。じゃ、みつは?それは僕だよ。ふ〜ん、それも嘘くさい。それはそうだよ、いつだって物語は謎めいている。帰らない日々を惜しもうとも、実は二度と戻らない事にこそ、夢見を託す情熱がとても醒めているように。」
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