大いなる正午6 この町の戻ってからもう何年になるだろう、木梨銀路はわかりきったことを追尾する執拗な自問に対し、その発令が内包する重層な言語作用の構造を思い描いてみて、ふっと苦笑いを浮かべた。 そう、俺は友人や仲間といった関係には無縁だ、何せ教え子にも金を貸し付けてるんだからと、不甲斐なさを否認しながらも強引に自己肯定の領域へと己を誘導した。 再び惨劇現場を訪れて見て、目の前の空白の広場に唖然としたが、そんな不自然なあり様に関する話題を共感出来る人間がこの町には誰もいないという隠しきれない事実も又、情けなさを通り越して一層の孤高にたたずむ力を要求する。だが、高みに達するほどにすべてが希薄化していく、、、距離感は隔絶に至れば、もう誰ともふれ合うこともない、、、そこまで考えてきて、、、だから鈴子がいる、肉欲は至上の接合ではないか、金は最高の切り札といえるのではないか、それでいい、、、昔話しは封印したつもりだが、甘く香る想い出も沢山あった、、、 銀路は14歳で早熟にして童貞を捨てた。相手は年上だったが、よくありがちがな筆おろし潭みたいに純朴な導きによって女体を知ったわけではなかった、どちらかといえば自分が犯したと表現した方がある意味、適切なのかも知れない。 中学のその女子は以外とませた態度で後輩に接した。放課後の音楽室、掃除当番だった銀路は、軽音楽部員の女子から早く掃除を終わらせるよう小馬鹿にされながらも、何かを伺い見るような目つきを放っていた。相手は思春期特有の敏感さで、銀路の視線の先を見抜いて何と胸をあらわにして「触りたかったお願いしますって言ってみな」と薄笑いで誘いをかけてきた。 銀路は意思をなくした無遊病者の足取りで、弾けるような乳房の前に進んでいくと、無言のまま鷲づかみにしてそのまま押し倒してしまった。無防備な年上の女子は一瞬ひるんでいたが、性行為の前戯というよりは取っ組合いかプロレスの様相となり、それでも時間が経過するにつれ制服は乱れながらもはぎ取られてゆき、最後の下着に手がかかり引き下げようとすると相手はもう観念したというふうに、全身の力を抜いてだらりと横たわる肉体そのものになった。 息が上がっているので、体力的に限界だったのかも知れない。が、そんな事情に気をまわすよりも銀路はまず自分のベルトをはずしてズボンを脱ぐのが先決、逃がしてはと左手で乳房を押さえるようにしながら、段取よく自らの下半身をさらけ出した。そして股間から太ももにずれ落ちそうになっている女の下着を一気に膝下までもっていくと、黒々とした陰毛が目に飛び込んできた。記念となる初体験、それは反り返るくらいに勃起したものをあそこに押し入れた時、快感というよりもペニスが体温計になったような感覚にとらわれたという印象だった、、、 甘い果実はついさっきも食べてきたところだったが、夜更けの公園前にひとりで感慨に耽っているのはどういうわけだ。まあ、仕方ない、明日になればなんらかの噂は入ってくるだろう、、、 しかし、翌日になっても一切の報道はなく、まるで事件そのものがドラマだったとでもいうのか、何の知らせも発動されなかった、ただ、噂は噂を呼んでまことしやかに町中へと急速にひろまっていくだけだった。 風に乗る微細なものら、流れゆく水の変化、波紋状のささやきの伝播、善悪の彼岸からこちら側に押し寄せる意味なき砂嵐、今回は例外であった。過剰に突出する異物に我々は、驚異の目をもって見返すのが常であろう、それが賛美であれ、非難であっても。 ともあれ死闘の惨劇からは、必然として宿す血の両極、すなわち聖性が見事に差し引かれて流布されていった、民主的裁判における断罪の密室的な閉塞感や、全体主義が台頭した時代のあの狭小な息使いから呟かれる巷説として。 放射能汚染のデマに始まり、高速ヘリの飛来に関する幾多の証言、霊安室から銃撃戦の亡骸が消失していたという風説、どこまでが真実なのか嘘なのか、明白な根拠はどこにもなかった、ただひとり無傷だった山下昇は重要参考人として取り調べ中なのか、三島加也子は厳重な監視で外部からは遮断されている、そんな情報すらも細切れの寄せ集めと化し流言となっていった。 |
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