大いなる正午27 我々は天使を待つ。夢見る救済によって腐食される時間を、予想だにしない摩訶不思議な空間を。狩人の本能が最も美しく輝く情熱は一本の矢。放たれた軌跡は己の裏側のあの住人たちの目をかすめ鋭く突き刺さるであろう。それは寝た子を大きく揺り動かし、強くしなやかに貫通する。ほの暗きまなざしは、いにしえの彼方よりお互い感受される親子の絆の如く切ない。そして眠いまなこを傷ついた手でようやくさすり始めた頃、人はこう思うのだ。うたた寝は苦痛でしかないと、、、 「個に埋没していく不安と、その行為を増長させざると得ない予感を打破すべく、人々は深く降りていくのだろう。行きつく先が深淵であれば、不安は絶望に向かい、果ては天高く頭上の暗黒に祈りを捧げることによって救われたく敬虔になる、例えそれが盲信であっても。 何故に君を救い出したのかだったね森田君、答えは簡単明瞭さ。もう一度生きるかどうすると云う問いに対して君はこう口にした『死にたくありません』実に生命的な論拠の徴を見せたのだった。今、君は鏡の中に何を見い出すのか、おそらくは何も見えてこないだろう、それでいいんだ。みつおのように半ば予知能力を持ったが為に、すべてが白々しく渇いて終いには虚しさ一辺倒に傾いてゆくよりは、遥かに夢が見れるはずだよ。ただし明確なビジョンは打ち立てた途端に崩壊する。どうしてかって、これはものの例えだが、素晴らしい道が開通したとしよう、人は挙ってそこを渡ろうと躍起になるものだ。道は単に大地を開くだけじゃない、山々を貫通し、大河の上を架橋して交通の利便をはかる、その隧道や大橋が一番の難関であり、竣工した暁には何より魅惑的に映るのは当然さ。そこに群衆が殺到してみたまえ、たちまちにして崩落で圧殺される。 要は確定される論理は整合性を維持するのに、何かを犠牲にせざるを得ないってことさ、犠牲が民主主義に反すると意義を唱えれば逆に整合性が破綻してしまう。こうイメージするといいだろう、容量に限度があるのに意に介さず精神とやらが育んだ正義感でもって、すべてをそこに収めようと努める、ひたすらにね、最後には本末転倒して正義が容量を計りだすんだよ、そして限界というものを無視して大きく逸脱してゆく、、、歪な有様を目の当りにしてもまだ蝕んだ精神は、更なる器を求めて彷徨うのだ、、、最初から整合などと云う器はこの世に存在しないんだよ、それを感知した奴らは今度は、何とあの世にそれを希求しようとする、まあその巨大な力をそれこそ燃料に換算してみたまえ、地球が地軸から飛び出すくらいのエネルギーになる。 そこでだ、それほど安定を維持し均整を保ちたいのだったら、犠牲を犠牲と呼ばせなくするしか方法がなくなってしまう。これでかつて共産圏で試みられた、壮大なる博愛と均等な精神への牧歌だった、、、血塗られたね。結果は君もよく知っているだろう。我がショッカーが描く絵巻物はそんな幼稚な結末に堕ちることはない、そもそも均等な精神などとはどんな代物なんだ、羊羹みたいにどこを切っても同じ味わいを堪能する、不可ない安住を均一に配分するってことなのか、それでは寝た子は育たんぞ、脳軟化の夢見が大量発生して行くだけだよ」 ミュラー大佐は軽く咳払いをすると、これからが本題だと森田梅男に伝えた。そしてこう続いた。 「我々の当初の課題は超能力者の育成と研究にあった、彼らを兵器以上のものにする、、、軍事力つまり武力から真の意味での能力へと人間存在の脱皮をはかる次世代の計画が極秘に進められていたのだ。だが重大な問題が横たわっていた、昨晩話した馴化の不可能性と計算ミスの多発だ。それはそうと昨夜の夢はいかがだったかな、君の脳内の電磁波を読みとって、ちょっとした慰安を能えたのだがね、これも治癒への効果だと思ったものでね、、、君にはこれからひとつの使命を担ってもらわなくてはならない、それは夜回り隊として暗躍してもらうことだ。回復後は徹底した英才教育を受けて生まれかわるんだよ、森田君、猫の目を持つんだ。 みつおは死なせたわけじゃなかった、ひとつの実験だったんだ、、、あの夜は、、、奴は自ら命を絶ったようなものさ。それも確率としてはある程度は計算出来ていた。ある意味では貴重なデータとなったわけだ」 |
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