肉体の門


深夜をすでにまわった市内のスナックのカウンター、大橋性也は隣の席でしきりに煙草をくゆらせている森田梅男から問われるままに笑みを浮かべながら話している。
「森田さんもう知ってるんですか、早いっすねえ、いやあ僕すごい体験しちゃったみたいな感じで少しばかデンジャラスなんすっけどね」酔いもかなり進んできたのだろうか、性也は思い出す途端に何かがあふれ出すような気分で増々上気していく。
「貞子さんすっごくいい体してるんです、背丈もあるでしょ、で程よい肉付きたまんいなあ。思わず我を忘れてむしゃぶりついちゃったみたいな、ぎゃはは、オッパイもベリーなサイズでね、あそこもワンダフルなんすよ、これ。何せいきなり脱ぎ脱ぎのお股、はいオープンですからたまりませんよ」
紫煙に靄かかる隣席、性也の悦楽の余韻に思わず膝を乗り出した森田は、想像の枠を突き抜け早くも脳裏に官能の体感が押し寄せて来るのを拒むことが出来なかった。

両手が滑りゆく。右手をしっかりと背中にまわしながらもう一方が脇腹からなぞるように、しっとりと掌が乳房に滑走して行き着く先へまるで導かれたとしかいいようのない指先が乳首を探りあてると、その挟まれた桜色に染め上がった胸元丘陵の突起は敏感な反応にゆらぎ、性也自身の手先へと往還しながら深く快感のウロボロスに沈潜していく。まだ肌を合わせて間もない汗に湿る以前の、あの緊張から忘我へとのめり込んでゆく手前のめくるめく目眩の前兆。どこかで覚めた冷静さがやがて興奮の高まりにつれ、潮の満つるのを止めてしまいたい欲望に駆られながらひたすら女体をかき抱く。唇は首筋から肩へとナメクジの粘着を讃え、時折きつく吸い上げる。舌先はヤドカリの動きに似て淫靡に這い出し、狂おしいほどに柔肌を舐めまわしていく。
体躯をくねらせながら快楽に呼応する貞子がおもわず高い音色の声を発すると、合図といわんばかりに性也は股間に顔を埋めただひたすら溢れ出る蜜を飲み啜るかのように口先の音をたてていく。熟しきった割れ目はそんな性也のすべてを飲みこんでしまうかのようにざくろを割った如く果実を剥き出しにして、微かな動物的な臭いを沁みだし始めた。海に呑み込まれたい、性急な野生は地を蹴り上げ大きく断崖から白い波頭のしぶきへと飛び込んで行かんと跳躍した。
いきり立ったペニスをやにわに手を添え一気に貞子の芯に突き刺すようにズブリと侵入する、亀頭が潜り抜けると続く陰茎が根元まで海中深く沈んでいった。柔らかな感触が痺れるように全身に広がっていく。眉間に聖痕が刻まれ咆哮を上げる貞子。

ハーイ、カット。次はアングルを変えます。
照れくさそうに体を離しながらも、もう一度全裸の女優に視線を向ける。「店長、初めての割には落ち着いてたじゃない、AV経験なかったよね確か。中々いい演技だったよ」性也は監督らしき男の言葉に今度は苦笑いとなった。

森田は目が輝きだしているのを自覚していた。
「性ちゃん、すごいなあ〜、俺恥ずかしいけど思わず立ってしまったよ。それでさあ、肝心なことなんだけど、何がきっかけでそのAV男優みたいな依頼があったわけよ、よかったら教えて欲しいんだけどさ」
「いやあ〜、それはちょっと内密ぽいんで、あんまり言えないですけどね、まあ森田さんとの仲だもんね、教えちゃおうかな。実は妙な事がありましね、いわば成り行きというか何というか」

聞き伝手の性にまつわる話し程、妄想逞しく躍動し股間に伝導する物語はない。本能という強力なるエネルギーに培われているからこそ、過剰な逸脱が羽ばたき勝手気ままに飛翔する。俺にも機会が巡ってくる可能性がないとも言えない。この店長が目の前で語った濡れ場は決して閉じられたものじゃない。さあ教えてくれ、その内密の気妙な成り行きとやらを。
森田はまるで宝くじで特賞を当てた知り合いに対して、同確立で存在すべき理の均一さが支配しているのは揺るぎなき事実と、嫉妬を越えた情動が高ぶり荒ぶり次第に募っていくのであった。