暗殺の夜2


いつもの寝起きとはまるで異なる。衝撃的な事件に遭遇した後、その鮮明な記憶が生き生きと映像となり甦って来るのと同じ情況で。
決して未来を体験したわけではない、眠りの中でただ不吉な予言を告知されたに過ぎない。夢は自分自身の光と陰と闇を司る、密やかな願いが翼を広げる生けとし生けるものの飛行であり、あるいは失墜する砂漠の渇きであり、たどりつけぬ王国であった。
昇は、占星術や手相占などの予知が秘める、希望と失意が同居するあの信憑性に心ゆらぐ一種賭けにも似た幻惑を人が払拭しないのは、そこに未知なる指針の光明を探りあてようと試みる悲愴な宿命を感じとるからに違いないと考えていた。
未来予見に限らず我々は映画や小説、演劇あらゆる実体なき創作される芸術と呼ばれるものを通し深く感銘を得、根源なる地層まで下降していくであろう、そして日々の生活とは異相の情念が揺り動かされ、さざ波が砂浜いっぱいに引き寄せては押し返すように、地下水も又枯渇の井戸の底より躍動的に湧出して、やがては水位が再び冷めるように低下してゆく。
先程の夢の知らせはタイムトラベルとは違う。自分自身の道標が条理の垣根を越え踊り出たのである。これは思念でありながらも退廃的な舞踏のように肉体性に溢れだす、一人旅立つ耽美な孤高の影絵とも言える。
昇は朝食件昼食のCGCマークの醤油ラーメンをすすると、シャワーを浴び、部屋の整頓、スーツのブラシかけ、パソコンの電源を入れた、、、(この段は782貞子の休日のままである)

閃くままにドラマも又きらめく。昇が最初に思いつきとった行為は予言により示された今夜集う人々の再確認であり、対処であった。堅井先輩と長島君に貞子さん、この3人は知っている(詳細は784の相関図参照)このまま行けば先輩と長島君を射殺してしまう事になる、加也子という貞子さんの従姉妹も、その後自分は小銃をもぎ取られてしまう。すでにこの町へとハンドルを握り走行しているであろう堅井研二に電話を入れる。運転中なのか中々つながらない。では長島君に連絡をつけよう、彼は今夜の合コンの段取でもある、そして何よりみつおと言う人物との関わりが不明であり、ここから切り崩していくのが賢明と思われる。そう昇は穏便に予想図を変更したかった、冷静に出来るだけ怪しまれる事なく自然体に。
「もしもし山下です、長島君あのさ今日のメンバーなんだけどさ、男性チームは後ひとり誰が来るわけ」
「あっ山下さんは知らないかなあ、と言っても僕もよく知らなんだけど、みつおさんってけっこう年上の人でね、えっ名字、それが下の名前しか知らないですよ。昨日話した例の事故で入院した一人から紹介してもらったんです」
「すまんけど、その事故の人から聞いてもらえないかな、どんな素性かって」
長島君は少し驚いた様子で「何です、興信所じゃあるまいし別にいいじゃないですか、知らないメンバーが来たって、何か都合でもあるんですか」
「都合なんてもんじゃないんだよ、ゴホゴホ、いやいや、何か気になるじゃないか、後の3人はよく知ってるもんだからさあ、その人だけ浮いたりしたら悪いじゃない、それで気を使うわけよ」昇は我ながら上手く切りかわしたとほくそ笑む。
「そうなんですか、さすが〜、分かりました。でも入院してるんで連絡とれるかどうか、とにかく後で折り返し電話しますから」よし、一歩前進した、重要人物だからな。その時携帯が着信音を発した、先輩からだ。
「あー先輩、今どこですか」「うんさっき出発進行したとこだがね、何か用ですかあ〜」心躍る顔が目に浮かぶ。
昇は口実を用意していないのに気がつく、仕方ない嘘も方便だ、命には代えられない「え〜とですね、何か集まりがよくなくてですね、雲行きが怪しいんですよ、それでですね」
話し終わらない先から怒調を帯びた声色で「おい、まさか中止とか言うんじゃないよなあ、もう気合い入れてるんだよ、上等じゃないか、中止ならそれで、確認させてもらから。へへ、俺はなあ〜とにかく走り出してるんだ」
とほほ、一歩後退した。まさか、先輩あなたを殺してしまうんです、何て説明してみるわけにもいかない。
昇は早くも途方にくれた。