断章13


慣れた身のこなしでで着衣を脱ぎ捨てると、いつもは戯れの儀式の為たいそう大事に、尾ひれをつけて最上級の賛辞で装飾される営みであるが故、パンティー脱衣の典礼は裸体にとって最後の供物を捧げだす神聖な瞬間となるはずであった。女にとってみれば最も羞恥と期待が交錯する式典であり、男の側からしてみれば日常を剥離してみようと云う喜悦に満ちあふれた、すべてを破壊しかねない祭礼であった。
今宵のY子はその儀礼を黙殺して、自身の手で薄皮をめくるように裸の中心部を性也の眼前にさらけ出した。部屋の明かりさえ落とすことを忘れ去り、一定の至近距離が確保されれば磁石が自然に力強くつがえる如く、互いの裸形は約束の地を授けられ眼には見えない法王から祝福を与えられた。ただし裸の王様を心の底から認める条件と引き換えに。
ふたりの肉体が溶け合う光景は、濡れ場などと称されることをもってみれば、如何に粘着性のある分泌液にまみれながら、そして吐息が限りなく獣の咆哮に類似しているかを存分に思い知ることとなろう。
全裸で重なり合う性也とY子の肉体は、見る見るうちに野生のあかしが明確な荒くれに誘導され羞恥が次第に露出趣味にとってかわり、興奮にたぎった性也の肉棒とY子の蜜つぼは、そこが生命体の根源であることを十分に感じとることによって、間違いなく双方の性器は小便の排泄口であることから異界への旅立ちへの鍵と鍵穴に変貌するのであった。そうしていきり立った堅物がぬめった湿地に足を滑り込ますのと同じ案配で、思わぬ粘り気とほどよく伸縮する陰の唇に陽根は、大地に飲み込まれる悪夢に幻惑され恐怖を歓喜へと昇華させるのである。
もう何度となく果てることも意に介せずに、Y子の股ぐらに埋没していったのだろう、熱したものが頂点に達するのが明徴となった至高への跳躍の寸前、慣例にはあくまで忠実にと誓約に対する信奉をこれまでなしくずしにしてこなかった性也のほとばしる精液は、その定まりの放出地点にいつもと寸分も違わない精密な水鉄砲としての機能を発揮しようと、湿潤地である巾着から精確な時機を計測しかけたのだが、つま先が部屋の両端に伸びる勢いで大きく足を開げ自由を謳歌せんとばかりにその狭間に向かい入れた性也を、両の腕は反対に相手を拘束する力加減でもってしっかと背中にまわし抱きながら、かつてない完全な自由の歌声を上げたのであった。
「いいのよ、、、中に出して!思いっきり出して!」
まったく予期しなかった過激な一言に一瞬ひるんだものの、Y子の唐突でしかも激しい怒声に命令口調で調教されるしもべの役割を速やかに受け入れたと、その天啓を脳内に壮大にこだまさせ引き抜きかけたものを再び、ずぶずぶと底なし沼に差し入れてゆき、笑っているのか泣いているのかもうあらゆる感情の熱風が吹きすぶままに任せている顔色を怖いもの見たさが倍増していく好奇で穴が開くほどに眼球へ固定し、ゼリーが溶け出したかの下の穴にはいっそうの急速な腰使いで肉棒を上下させ、感極まったところで自らもよだれに滴る口をY子の唇に重ねるというよりこすり合わせながら、唾液と唾液がじゅくじゅくと音をたてるくらいに吸い付いたのだった。
歯と歯が無骨に当たったが気にもとめず、上気した肉体の発汗で髪の毛まで濡れそぼった一束のY子の長い頭髪が本人の頬に張り付いてその先が口元まで乱れるままにすかれているのもすでに遅しと、どくどくと亀頭の先端を勢いよく上ってくる精巣から送りだされる噴出が子宮に向かって決死の突撃を開始したのと同時に、その乱れ髪を含んだ口の中にも唾液を滴らせる調子で尚も強烈に唇を密閉させた、それはY子の観音様に注いだ生命の奉納を成就させる為あたかも豊作祈願の古式に則った迷妄と神秘が混じり合う奇跡のアマルガムを精製する行為によく似ていた。
割れ目の奥深くへと注入した秘薬は口先からいつこぼれ出てくるかもわからない、古代人の心性さながら珍奇なる風習をどこで伝承されたのかもつゆ知らぬままに、性也はこの時、いにしえの彼方へとめくらむスピードで逆行したのである。
しばらくの間ふたりは余波に名残を惜しむと云う面持ちで、もうすっかり波頭が鎮静し穏やかさを取り戻したかの海上を心身ともに抜け殻となった空疎な状態を賛美する良心だけを頼りにしながら、ひたすらに漂っているのであった。そうして磁力が衰微したことを殊更に図式にして現してみようとでも思い立ったのだろうか、どちらの発汗やら分泌物やらにまみれているのか見分けもつかない身体は、まず性也が膝を立てて半身の起こすとY子の右側にそのまま倒れこんだ。その姿体はY子から思いの他、大きく隔たりちょうど天井から俯瞰すればくの字を描いていて、密接の宴の後の虚しさを寒々と語っているかのようにも見えた。