アトムの製作期間については、約2年と考えられます。
愛蔵版の「アトム大使の巻」では、
サーカスの団長が、アトムを
「科学省が2年の年月をかけて全力を挙げて完成した…」
と紹介しています。
もっとも全集版では、このセリフは出てきませんので、
オリジナルの「アトム大使」にはなかったと考えられます。
また、愛蔵版「アトム今昔物語」では、
アトム完成のテレビ報道で、
「天馬博士をチーフとする
科学省精密機械局の
技師たちは きょう ついに
2年にわたって製作された
超高性能ロボット「トビオ」を
完成しました」
と紹介されています。
もっとも、これもサンケイ新聞復刻版では、
同じ場面で「ついに3年にわたって製作された」
となっています。
製作にかかってから「2年」たって、
ほとんど完成するのですが、
未来からタイムマシンでアトムが来ているので、
同じものが二つ存在できないという
「タイム・パラドックス」のために動かないのです。
ここのところは、オリジナルでも同じ「2年」なので、
2年で正解と考えて良いと思います。
未来から来た方のアトムが壊れることによって
アトムが誕生しますが、
壊れるところのストーリーは、愛蔵版では、
オリジナルから変更されています。
オリジナルでは、アトムが事情を知って「自爆」するのですが、
愛蔵版では、すでに動かなくなっているアトムを、
スカラという宇宙人が爆破させるのです。
余談になりましたが、2年の製作にかかった費用はどうだったのでしょう。
「アトム今昔物語」は、
サンケイ新聞に1967年から連載された
別シリーズの「鉄腕アトム」です。
少年連載版とは、別なストーリーと理解されてはいますが、
製作費のヒントになるお話は、こちらだけに出てきます。
愛息トビオくんの事故死がきっかけで、
科学省長官の天馬博士は、
少年ロボットの製作に一生懸命になりますが、
科学省の空気は冷たいのです。
委員全員の反対にあったうえ、
部下からは
「予算もないのに
そんなユメみたいな計画に
のっかるわけにはいきません」
と言われてしまいます。
失意の長官に、
日系二世の須井柄(すいがら)という人物が、
「私に科学省に寄付させてください
1千万ドル」
と申し出ます。
条件は、
「できたロボットを
私に一日だけかしてほしい」
というだけ。
この1千万ドルのおかげで、
「科学省は あたらしい
ロボットの製作に やっと
のりだしのでした」。
ということは、
製作費は、1千万ドル(寄付)+α(科学省予算)ということになります。
対ドル相場は上下していますので、
寄付を受けた時点で、円としての価値は変わります。
製作にかかる前に寄付を受けたのでしょうが、
2002年1月4日、年明けのドル相場は、約131円ですから、
1千万ドルは、大体13億円でしょうか。
ところで、
今昔物語がサンケイ新聞に連載されたころは、
まだ固定相場制でした。
円が変動相場制に移行したのは、
1973年2月14日でした。
1ドル=308円の固定相場だったものが、
その日のうちに、271円台に、
翌15日には、264円台になったのでした。
私が就職した1972年ころのことですが、
某レストランに「1ドルステーキ」というメニューがありました。
値段が360円という意味です。
それほど1ドル=360円が、染みついていた訳ですから、
1千万ドルは、36億円と考えるのが妥当でしょう。
おそらく寄付金のほかに科学省の予算も使ったと思われます。
製作費が寄付金の倍としても70億円くらい、
せいぜい数十億円ということになります。
手元のパンフレットによると、
映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」の製作費が
150億円というのです。
とすると、鉄腕アトムの製作費、
案外安いですね。
ロボット時代が花開いていて、
基礎技術は既に出来上がっていたということでしょうか。
アトムと同等の力をもつというコバルトやウランを、
お茶の水博士が簡単につくってしまう時代ですから、…
もっとも、映画の製作費は高いのだと考えた方がいいかもしれません。
クレジットが延々と流れるのを見ていると、
信じられないくらいたくさんの人が関わっていますからね。
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