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番外編-師走のデパート 足バンさんに捧ぐ

「あら、ミンチョル君じゃない?どうしたの、お正月のお買い物?」
「いえ…」
「デパチカで食材仕入れ?奥さんとご飯作ってるの?毎日?そりゃ大変ね」
「つい…」
「ああ、行きがかり上そうなっちゃったのね。ほら君意地っ張りだから」
「でも…」
「そうね、健康にはいいかもね。ところで何か思い出したの?」
「いえ…」
「そう、不便はない?お店は大丈夫なの?」
「ええ…」
「必要なことは全部覚えたの、ふうん。君、頭いいのね。ま、無理はしないことよ」
「ところで…」
「あら、何で知ってるの?ふふ青いマフラーまいて来たわよん」
「ぜひ…」
「そうね、君の命の恩人だものね。よろしく言っとくわ、え?レポも?」
「僕が…」
「そうか、お店忙しそうだもんね。そういえばmayoさんには日当が出たって聞いたけど…私には出るのかしら?」
「それは…」
「mayoさんには2人分+ボーナスも出したの!え?私はスタッフじゃないから、だめ?経費で落とせない?
もう、あなた記憶なくしてもちゃっかりしてるわね」
「そのかわり…」
「え…何、ちょっと、何、あらっ、ミンチョル君そんなに近づいちゃ…おでこに…きゃっ!」
「じゃ…」
『うわっ!もしかして…これってフェイントで戻ってきて、うわ!どうしよう、こんな人ごみの中で、私には総支配人がいるのに…
でも1回くらいなら…そんなこと、あんなこと、こまっちゃう、どうしましょって…ミンチョル君…どこ?戻ってこないの!
もう下りのエスカレーターに乗っちゃってる…でも、ま、いいか。おでこに○○だけでも、明日は総支配人だし…
でもレポはおでこ分しか書かないわよ!』


魅力
「スヨンに会ったよ」
「まだ忘れられないの?」
「時々倒れる、胸が苦しくなって」
「そんなに?」
「いや、そう思ってたんだけど…」
「けど?」
「医者に言われた。肺活量の問題らしい。そうわかったらちょっと楽になった」
「そうなの?」
「チニさんはチョンウォンのこと?」
「この間も言ったでしょ。私、無能な男は嫌い。一時でもあの人に心を動かされたなんて、人生で最大の汚点だわ
だからあの事はもう抹殺したの」
「そうか。チニさんは有能だからな。勉強もしてるし、偉いよ」
「イナさん、あなたも有能よ」
「え…俺はチンピラさ」
「そんな事ない。買収計画だって見事に切り回してたわ。見直したわよ」
「そう?実は俺、チンピラだけどバカではないらしい。ギャンブルする時はIQ155になるそうだ」
「ほんと!すごいじゃないの」
「へへっ」
「イナさん、女ってね、男の相反するところに惹かれるのよ
やさぐれてるけど優しいとか、チンピラだけど賢いとか、強いけど脆いとか…イナさん気づいてた、自分の魅力?」
「え…俺?」
「やっぱりね、イナさんってそこも魅力よ。ふふっ」
「チニさん…それって」
「おかわりちょうだい…」
「はいっ!」

「でドンジュン、どうした?」
「う・う・う・」
「泣くのはやめて」(ミンチョル手の甲と親指で涙をぬぐってやる)
「え!!」『何??』
「涙を拭くのは…僕の習慣…なんだ。気にしないで」『手が勝手に…』
「…僕、スヒョンさんに飽きられてウシクさんを怒らせてしまいました。どうしたら…」
「スヒョンとウシク?」『スヒョンはあのとおりだからいいとして
ウシクはいい奴で困った状況に置かれても最善をつくす。苦労人だから情にも厚い…』
「ミンチョルさん?」
「ちょっと待って。今思い出して、いや考えてるんだ」
『なぜ怒る?こんな真面目そうな奴を相手に、ええと…あ!不要な涙は嫌いだった!』
「?」
「わかった。泣きすぎだ」
「でも昨日スヒョンさんに、あんな風にこんな風にされてシャツのボタンがこんなになって…急に照明も落ちて…ひっく」
「泣くな」『何だ?僕のパクリ?』「それはショーだろう」
「そうなんですか?」
「自信を持った方がいい」
「でも車の話はあまりするなと…」
「車の話に自信を持つんじゃなくて、車に詳しい自分に自信を持つんだ」
「車に詳しい僕…」
「そして車を売るんじゃなくて、君を売るんだ、わかるか?」
「はあ」

「ミンチョル、ちょっといいか」
「スヒョン、どうした」
「おや、ドンジュン、今度はミンチョル?くくっ」
「…」
「からかうな。で何だ?」
「今日はもう上がる。ユジンさんとドライブに行くんだ」『目隠しして』
『目隠しして』「ドライブ?」
『僕の映画見てないの?』
『色々忙しくて…』
『そう、おととさんは5回も見てくれたのに。ドライブして、ジャグジーのある海辺のこじゃれたホテルに泊まるんだ』
『よく彼女OKしたな』
『ふふっ』
『ポラリスがらみの客だから気をつけてくれ。トラブルは困る』
『わかってる、僕は平和主義者だ』
『だったら新人に悪さするな。しかもボタンはずしは僕の技だ』
『だって忘れちゃったんだろ、昔の事。いいじゃないか』
『いや、体が覚えてる』
『へええ、本能ってすごいな』
「ドンジュン、ミンチョルに色々教えてもらいなさい。僕はもう君に教える事はない。彼もすごいよ、くくっ。じゃ!」
「え?すごいって…」
「余計な事言うな!」
「ハハッ!ユジンさんお待たせ。行こう。さ、目をとじて…」
「スヒョンさん、目隠しするだけなのにワクワクするわ!」
「もっとワクワクさせてあげるよ。本当の○○を教えてあ・げ・る・」
「キャッ!」

「まったくしょうがないなあ、ドンジュン、どうした?かたまって」
「あ、あ、はい」
「ああいう奴だ、気にするな。彼はオールラウンダーなんだ。誰にでも愛をふりまく」
「愛でしょうか…」
「さあね。彼がオールラウンダーなら、君はスペシャリストを目指せばいい
車のことを語らせたら右に出る者のないホスト。あとはそのルックスを生かしてお客の心を掴む」
「ルックス?」
「そう、悪くないよ、君。素朴な感じが素人っぽくていいし、時々精悍に見えたりするけど怯えた表情はセクシーだ。自覚しなさい」
「僕がセクシー?」
「ここのホストはみなセクシーさ。それぞれ違う魅力を持ってる。だからBHCなんだ」
「全員ですか?」
「そう、全員」
「チョンマンも、シチュンも、そして僕も…?」
「同じことを何度も言わせるな」
「すみません」
「そうだ、君に僕の皮ジャンをあげよう」『ぱっつんぱっつんできついんだ、これ』「着てみて」
「あ、はい」
「で襟立てて、そう、袖まくって、そう。ちょっと横向いて、反対の横向いて、そう。で上目遣いで僕を見て」
「こ、こうですか」
「その時どうしろとスヒョンに言われた?」
「口を半開き…」
「そう、それだ。できたじゃないか。鏡を見てごらん
見てくれはシチュンみたいだけど、そうじゃない君がいる。フェラーリのほんとの美しさを知っているホストだ、どう?」
「そう…ですね。何だかちょっと安心しました」
「安心じゃなくて、自信だ。忘れるな。客には十分受ける」
「はいっ!」

「ミンチョルさん、ちょっといいですか」
「ウシク、どうした?」
「ジュンホが戻りました」
「ジュンホ…?」『ええと、ええと、ジュンホ…』
「退院していいと言われたそうです。今日から店出します?」
「そうか、そうだな」『ジュンホ、退院…ボクサーだ!』「今来てるの?」

「こんにちは、おひさしぶりです。じゅんほです」
「やあ、退院おめでとう。ちょっとそこで待っててもらえる」
「はい」
「ウシク、ドンジュンがお前に嫌われたってしょげてるぞ」
「だってあんまり言われ放題、され放題なのに根性ないから腹がたって。それにあんな事までして…」
「ボタンはずし?」
「ええ、まあ」
「あれはスヒョンのお遊びだ、ほらまた涙たまっちゃったぞ、ドンジュン」
「だから不要な涙は嫌いなんです。泣いても仕方ないのに」
『やっぱり!』「彼は畑違いの職場にきたからとまどってるだけさ
素質はあるから面倒みてやって。人助けは嫌いじゃないだろ」
「チーフの言いつけならやりますけど」
「あと少しで出すから、頼むよ」
「わかりました」
「じゃ、ちょっとそこにかけて。でジュンホおいで」
「は…い」
「もう頭は回復したのか?奥さんは元気?子供達は?」
「はい、みんなげんきです。ぼくがたいいんできたのでよろこんでいます」
「よかった、君の奥さんは美しい人だから、泣かせたらだめだよ」『ああ、他人の妻には優しくできるのに…』
「わかってます」
「店は出られそう?無理なら明日からでもいいけど」
「だいじょうぶです。かぞくにはなしてありますから」
「そうか、ただし店でパンチでデートをネタでやってはいけない。間違ってパンチが頭に当たると大変だ」
「じゃ、ぼくはなにをやれば…」
「そうだなあ…ドンジュン、君のそのタンクトップ脱いでジュンホに貸してやって
ジュンホはその黒のタートル脱いでドンジュンに渡して」
「え、セーターを?」
「黒の皮ジャンに黒のセーターは合うだろ、早く!」
「はいっ」
「よし、ジュンホ、これでいい。これで店に出て座っているだけでいい」
「すわってるだけ?」
「そうだ。客が君の上半身に触ったりしても、我慢だ」
「はい」
「でもタンクトップを脱がせようとしたら体をよじって避けろ。ボクシングの要領だ」
「はい」
「うまくできそうもなかったら、あのプロモーターに迫られた時を思い出せ。しつこくしてきたら、かわす。あのタイミングだ」
「わかりました。それだけでいいんですか?」
「それだけで十分だ。君はいるだけでいい。君の場合、何も言わなくても目が語っている、家族が大事だって。その切なさが大事だ」
「はい。がんばります」
「具合が悪くなったらすぐに早退させるから僕に言って。いいね」
「はい」
「ドンジュン、僕の言ってる事わかった?ジュンホの魅力」
「ジュンホさんて支えてあげたくなる感じがします」
「だろう?こんな風に…」(ミンチョル、ジュンホを抱きすくめる)
「ぎゃっ!」
「ちーふ、ぼく、うつくしいおくさんにしかられます」
「ハハ、ジュンホ、心配するな、食べたりしないから。挨拶だよ、ほんの」
『すごい!あのすばやさはスヒョンさんに勝るとも劣らない…』
「じゃあ2人とも店に出て。ドンジュン、自然にな。ジュンホ、無理するな」
「はい」

「僕、ドンジュンって言います。新米なのでよろしくお願いします」
「ぼくはじゅんほ。よくおやすみします。ぼくさーです。がんばります」
「あ、ジュンホさん、そこはトイレです」
「え?といれですか、すみません…」
「ジュンホさん、店まで手を引いてあげます。さっ」
「ありがとう。ぼくまだほうがくがよくわからなくて」
「大丈夫、僕がそばについていますから」『この人はほおっておけない!』
「みなさんやさしくてうれしいです」


決意

「おい!イナ、こっちだ」
「おお、どうした、正月から呼び出して」
「すまない。大事な話がある」
「ミンチョル、お前やつれたな」
「病み上がりだ」
「イナは調子よさそだな。顔がつやつやしてるぞ」
「温泉に行った」
「温泉?1人で?」
「いや…」
「もしかして、チニさんと?」
「へへっ。でも部屋は別だぞ」
「やったじゃないか!」
「でもないんだ。温泉宿でテジュンさんに会っちまった」
「テジュンさん?まさかチニさんが呼んだんじゃないだろうな」
「いや偶然だ。あの人は仕事しか考えないからな」
「またリサーチしてたのか、温泉宿で」
「そうだ。お台場からの帰りだったらしい」
「じゃあチニさんとのこと早速ばれたのか」
「ばれた。でもあの人は大人だ」
「大人?」
「チニさんは仕事しか興味がないのかと心配していたが、イナさんが相手で安心した、よろしく、と言われた」
「さすがだな」
「で、3人で飲んで、喰って、宴会して、カラオケして…終わった…」
「チニさんも困ったんじゃないか」
「ああ、テジュンさん案外ノリがおやじで、カラオケやったらマイク離さなくてな
衣裳まで用意してた。紫のビロードのジャケットだ。でもま、おもしろかったけど」
「それはすごいな、でも上司から許可が出たんだ。知られた方が今後の展開を考えたら楽だぞ」
「彼女の本心はまだよくわからないけどな」
「何言ってるんだ。一緒に温泉OKだったんだろ。いい線いってるってことだ。焦らずやれよ
あと彼女に言っておいた方がいいぞ」
「何を?」
「デートの時はローヒールにしてくれって」
「俺は別に身長なんか気にしないさ」
「お前は背の高い女性とつきあったことがないから、そんなこと言える。結構大変だぞ
気軽に肩も抱けないし、立ち位置も考えなきゃならないし、抱く時は相手を座らせたりして色々気を使うんだ」
「へえ。そうなのか。覚えとくよ。で、病み上がりって?」
「ケーキ作りに失敗して寝込んだ」
「お前がケーキ作り?」
「そうだ、クリスマスと誕生日のケーキだ。思いっきり失敗して熱を出した
寝ていたらヨンスが枕元で言うんだ。あなた年末の大掃除はいつなさるのって」
「大掃除?」
「僕の担当だったらしい」
「なるほど」
「窓ふきして、床ふいて、換気扇洗って、玄関きれいにして、その他もろもろやったら、本格的にインフルエンザになった」
「インフルエンザ!」
「40度近く熱が出た。関節が痛かった。ソンジェとヨンスが入れ替わり枕元で正月の準備ができてないとか
おせちはどうするのか、とか言うんだ。でも体が動かなかった」
「そりゃまた…」
「紅白も見逃した」
「理事の挨拶見なかったのか」
「それどころじゃなかった。年越しだ、正月だと誰もかまってくれなくて、ただ汗かいて寝ていた」
「わかった、もうそれ以上言うな」『聞くのが辛い…』
「僕は朦朧としながらずっと寝ながら考えていた。僕がいないとあの家はうまく行く」
「それって…」
「ソンジェが食事を作り、ヨンスが上手そうにそれを食べ、みんなが笑い楽しそうだ
僕が寝ている方が皆楽しそうだ」
「妹はどうした」
「あいつはデートばかりしている」
「ラブと本気なのか?」
「わからん。他にも男はいるから早まるなと言ったら叱られた」
「叱られた?」
「あたしはずっとお兄ちゃんが好きだった。だからお兄ちゃんに似た人しか好きになれない
ラブ君はお兄ちゃんの若い頃にそっくりだから好きだ。それのどこが悪いと」
「ううん」
「イナが好きだったこともあるらしい」
「え?」
「店でお前を見たとき横顔が僕に似ているので好きになりかけたが、年が離れているのでやめたそうだ」
「俺は若い子得意なのに」
「今はそういう話じゃないだろう」
「じゃ、ドンジュンなんかどうだ?あいつの方がお前も安心だろう」
「ドンジュンか。そうだな。でもあいつはスヒョンのお手つきだぞ」
「それはたぶん大丈夫だ、でもそれが話か?」
「いや、話はこれからだ」
「勿体つけるなよ」
「僕はあの家を出ようと思う」
「出るって…ヨンスさんとはどうする」
「別れる」
「別れる…」
「もうソンジェと張り合うのも疲れた。あいつはうっとおしい奴だが悪い奴ではない
あいつさえよければ、僕の代わりをすればいい」
「でもヨンスさんがいいと言うか?」
「たぶん大丈夫だろう。彼女もソンジェといた方が楽しそうだ」
「お前はどうするんだ」
「どこか遠くへ行こうと思う」
「店はどうする?」
「だからお前を呼んだ。店も辞める。僕の代わりにチーフをやってくれないか」
「え?」
「僕の事を知ってる人のいない所でやり直したい」
「なんか、前にも聞いたことがあるな、そのセリフ」
「前はミンジの事があったからパリだったが、今度は僕1人だからどこでもいい
ハワイとかロスがいいかな。いるだけでノリが軽くなれそうだ」
「お前のキャラには合わないと思うけど…お前病み上がりだから弱気になってるだけだ」
「イナ、僕は記憶を無くして病院で目が覚めた時、すごくすっきりした気分だった
まるで生まれ変わったような。でもお前に昔の事を覚えろといわれて、戻ってきて以前の生活を始めたらこのありさまだ
すごく疲れる…もう耐えられない」
「まじかよ。ブリザード状態で年越し突入で、実際熱も出たんじゃ現実逃避もしたくなる
だから少し待てよ。そのうち記憶も戻ればまた違う展開があるかもしれないし」
「いや、熱にうなされながらじっくり考えたんだ。思いついたら早い方がいい」
「問題があるんだ」
「何?」
「お前は店を辞められない」
「え?」


鰻重

「辞められないって?後任ならイナでいける。お前ならオールインと掛け持ちしても店は仕切れる」
「そういう問題じゃないんだ。お前だけじゃない、俺もいやBHCのホストは皆辞められない」
「なぜ?」
「オーナーとの契約書にサインしてる」
「契約書?」
「覚えてないだろうが、俺たちは皆サインしてるんだ」
「契約なら期限があるだろう」
「期限はない」
「え?」
「オーナーとの契約に期限はないんだ」
「だったら弁護士をたててペナルティの相談をさせる」
「ペナルティは受け付けられない」
「そんな契約があるか!そんな訳のわからないものに僕もサインしたのか」
「最初に店に連れてこられた時、お前とテジンが最後まで反発してたな
俺は失業中でガーデニングにも飽きてたからそうでもなかったけど」
「怪しい契約書にサインするほど僕がバカだったとは思えない」
「お前は会社を興したばかりで妻も病弱、夜の仕事などとんでもない
テジンはもうすぐ赤ん坊も生まれるし、妻を得る為に苦労して家具職人になったからとか言ってた」
「当然だ。人権侵害も甚だしい」
「オーナーは言ったよ。家族の心配ができるのも家族がいてこそだ、って
それでテジンもお前も折れた」
「オーナーはやくざか?ジュンホの契約よりひどいじゃないか」
「やくざなら何とかできる。面子を立ててやって払うものを払えば引く
最後の手段で回しゲリを決めれば終わりだ」
「やくざじゃない?」
「もっと悪い。オーナーにとって大事なのはMohsohができるかどうかなんだ」
「Mohsoh…」
「そうだ。これには法律も通用しない。だから弁護士も役に立たない
期限はあるとすれば、オーナーが飽きた時だろうな」
「理不尽だ。そんなことが可能なのか…じゃあ、いつ飽きる、来週か、来月か?」
「そんな短いスパンじゃない。特にお前は今、旬だから注目されてる」
「何でみんなBHCに連れてこられたんだ。見ようによっては似たりよったりの面子ばかりじゃないか」
「厨房のmayoさんているだろう」
「芋洗いの彼女か?」
「彼女の裏の顔はスカウトだ。いやスカウトなんて生易しいもんじゃない
裏の世界では『神隠しのmayo』と呼ばれているらしい」
「神隠し…彼女がメンバーを集めてくるのか?」
「オーナーが全権を委任してる。そろそろあの空軍パイロットくずれも危ないんじゃないかな」
「パイロットくずれ?」
「お前は正月番組見てないから知らないだろう。俺の読みだと、また新人が入るかもしれない」
「そうだったのか…だとしたら、新しい暮らしも無理だ。僕がヨンスと別れて家を出ても、ミューズはBHCの近くだし
ソンジェの事だから律儀にヨンスとの事を報告に来るだろう。あいつは悪気がないだけに止める手立てがない
そんなことなら今の方がましかもしれない。イナ、僕はどうすればいい?」
「う、うん…お前は今弱ってるんだ。そうだ!腹へってないか。ろくなもの食ってないんだろ、飯食いに行こう」
「だったら僕はフランス料理がいい、いや、丼物でもいい」
「とにかく飯食って体力つけて話はそれからだ。行こう、俺のおごりだ」

<イナとミンチョル、喫茶店を出てトコトコと歩き出す>

「そうだ!今週桜並木に行かなければいいんだ。地上波の僕に頼んでみる」
「あとの展開どうするんだ」
「編集すればいい。僕とヨンスのからみをすべてカットしてソンジェとのからみだけ残して小細工すればヨンスとソンジェの物語になる」
「あのドラマでお前の分をカットしたら半分以上空くぞ。ほとんどお前の間でもってるようなもんだからな」
「足りない分はお前のオールインのサービスカットを入れればいい
回しゲリとか、妙な倒れ方とか、ワインテイスティングとか。前宣にもなるし」
「話がまったく違うんだ。無理だろう」
「平気さ。韓流と名前がつけば何でもいいはずだ。理事とミニョンさんの区別もつかない放送局だ
お前と僕がごっちゃになったて気づかないだろう」
「視聴者が気づく。彼らはごまかせない」
「…じゃあ僕はどうすればいい?遠くに行きたくても行けない…」
「だ、だから、飯を食うんだ。鰻にしよう。ほら、ここだ」
「食欲がない」
「なくても食え。いい匂いだ。おやじさん、鰻重の2人前、特上ね。急いでくれ、腹減ってるんだ」
「イナ、僕の気持ちがわかるか」
「え?」
「お前に覚えろと言われたことは、すべて覚えた。それがひとつひとつ現実になっていく
ヨンスに会い、ソンジェに叱られ、店に出て、覚えたことを実体験する。その度に僕の人格は再構築されていくんだ」
「いいじゃないか。誰もお前が記憶喪失だなんて気づいてないし、今のところ完璧だ」
「今は完璧とかは意味がない。人格が再構築されて行く度に、僕自身少しづつ壊れていくような、何かを失っていくような気がする
たぶん自分のアイデンティティを見失っている」
「アイ…デン…ティティって」『弱ってても小難しいこと言う奴だ』
「イナ、教えてくれ、僕はどうすればいい?」
「だ、だ、だからさっきから飯を食うんだって言ってるだろう!さあ食おう!」『どうすればいいのか俺だってわからねえよ!』
「わかった」
「上手いな、この鰻」
「うん」
『わーん、どうしよう!こんなミンチョル初めてだあ!俺はどうしたらいい?!』

男2人、一口六噛みのペースで黙々と鰻重を食べる


下着

「上手かったろ、少しは元気が出たか」
「うん」
「よし。で話のつづきだが、俺は嘘がつけないからはっきり言うが…」
「現状維持だろ」
「そうだ。それしか思いつかない。すまん」
「いや僕もそう思った。店を辞められないならそれしかない」
「今まで通りでやってみろよ」
「いつまで維持できるか自信がない」
「できるだけ踏ん張れ。お前はオーナーのお気に入りだから辞めたいなんて事が知れたら何をされるかわからない」
「監禁でもされるか?」
「ありえるかも」
「!」
「お前自身安定してないから、そんな時勝負に出ても負けるだけだ」
「ギャンブルの鉄則?」
「まあな。それにお前ヨンスさんを愛していたのかもしれないし」
「ナビもできないのに?」
「細かい事を言うなよ。もっと大局的に考えろ」
「でも思い出したらやっぱりソンジェに負けたくなかっただけだったとか…」
「うーん、俺は違うと思う。意地だけでお前があんな大騒ぎしたとは思えない」
「イナは一直線だったからいい」
「その分失った時の喪失感と言ったら…って過ぎたことをごちゃごちゃ言わないでくれ。俺は新しい一歩を踏み出そうとしてるんだ」
「すまない」
「あ、いや、まだ上手くいくかどうかわからないってば」
「現状維持か…」
「そうだ!今週桜並木のところじっくり見てみろ。クールでキザな室長を見れば何か思い出すかもしれないし」
「失った物はどうでもいい。先のことを考えたい」
「だから!先へ進むために過去を見極めるんだ」『あ!これいいセリフ』
「今、自画自賛しなかったか?」
「し、してない!人が相談に乗ってるのに何言ってんだ。飯までおごってやったのに」『弱ってるくせに鋭い…』
「すまない」
「現状維持を続けながら抜け道を探してみよう。ヨンスさんの他に誰か好きな人でも作ったらどうだ」
「好きな人?」
「事故の前はテスを気に入ってたようだけど」
「テス君ってあのオールインの?」
「ああ、俺はそんな気がしてたけどな」
「男だぞ。僕はそういう趣味はない、と思う」
「そういう意味じゃなくって、何ていうかな、精神的なというかいっしょにいて安らぐ相手だよ」
「それがテス君?あの内気そうな?」
「俺の見当違いかもしれないけどな」
「テス君だったら、ドンジュンの方がいい」
「いきなりそこまで具体的かよ」
「たとえの話だ」
「だんだん調子戻ってきたじゃないか」
「そうかな」
「明日は店に出るよな」
「うん。鰻も食べたし、ちょっと持ち直したみたいだ」
「よーし、今日は帰ってゆっくりしろ。もう弟はいないんだろ」
「三が日が終わったから帰った、はずだ」
「だったらヨンスさんと2人でくつろげ」
「わかった。そうだ、下着を買って帰らなくちゃ」
「下着?」
「熱が出て着替え全部使ってしまった。洗濯してないから新しいの買っていかないと」
「ミンチョル、お前…」『病気なのに洗濯もしてもらえないのか!』
「何?」
「いや、俺がそのうち絶対!何とかしてやるから!めげるなよ!」『なんて不憫な奴だ。普段はあんなにキザキザしてるくせに…』
「イナ、色々ありがとう。じゃあ、明日店で」
「気をつけて帰れよ」
「僕は子供じゃない、大丈夫だよ」
「そうだな」『でも今のお前は子供以下みたいだ。いや子供じゃなくて子ギツネみたい…』


公園

「イナ、おはよう」
「出てきたな、チーフ」
「昨日はすまなかった」
「いや、で調子は?」
「帰りにボクサータイプのイカすパンツ買ったら少し気が晴れた」
「アイデンティティの喪失がパンツで解消かあ?」
「そう簡単ではないけど、とりあえず。ところで店が騒がしいけど」
「ドンジュンが泣いてる」
「またスヒョンか」
「あんな変なビデオ見ちゃって、赤ちゃん返りしてる」
「困った奴だな。ちょっと行ってくる」

<テス、ビデオを持って帰ってくる>
「イナさん、ビデオ取って来ました!ミンチョルさん…」
「やあ、テス君。それは何?」
「あ、その、これは…」
「お前のキツネ踊りのビデオだ。ドンジュンに研究資料で見せろって」
「僕のキツネ踊り?」
「ほら!お前が落下する前にデラルスと踊ったやつだよ。覚えてるだろ、なっ!」
「…ああ!あれね」『って何?』
「ミンチョルさん見せろって言ったんですよね?だからこれ見せて落ち着かせようと…」
「僕のビデオ見ると落ち着く?」
「あ、その、ひどくて、いや、すごくて、あの…」
『イナ、何でそのキツネ踊りのビデオがあるんだ?』
『オーナーの差し金で全部録画してあるんだ。みんなは生中継で見ちまった。悪いがすごい代物だ』
『ひどいのか』
『かなりな勢いだ』
『わかった』
「テス君、そのビデオは僕が預かろう。ドンジュンには僕が話す」
「あ、は、はい」

<ミンチョル店に行く>
「ドンジュンいつまで泣いてる。立て!」
「ミ、ミンチョルさん…」
「立てといってるのが聞こえないのか!早く立て!」
「チーフ、ちょっとドンジュン混乱してて」
「ウシク、黙っててくれ」
「ひゃい!」『ひぃ!田村麻呂状態!』
「立ったらついてこい!」
「ど、どこへ…」
「うるさい!黙ってついてこい」
「は、はい。グスッ」
「イナ、ちょっと出てくるから時間が来たら店開けてくれ」
「いいけど、どこ行く?」
「ちょっとそこまで」
「ふうううん…」

<ミンチョル、ドンジュンと店を出て行く>
「イナさん、ミンチョルさんとドンジュンどこ行ったんですか?」
「知らん」
「でも、あの、どこ…」
「知らねえよ!それよりお前今日のヘルプ大丈夫だろうな、あ、こら!テス!どこ行くんだ!」
『後でチニさんが来るからヘルプさせて逃げようと思ってたのに、くっそー!』

<テス2人の後をつける>
「何かよくない事が起こりそうな気がする。でもよくない事って?」

「あ、公園に入っていく。暗くて寒いのに、ベンチに座った
もっと近づかなくちゃ話が聞こえないって、どうして僕こんな事してるの?」

「かけて」
「はい」
「続きをどうぞ」
「え?」
「泣きたいんだろ。ここなら聞いてる人はいない、僕以外は」
「ミンチョルさん…」
「君はいいな、悲しいときにすぐ泣けて」
「…」
「僕はあまり感情を出さないから、あまり人前で泣けないんだ」
「はあ」
「どうした、泣かないの?もう涙は枯れた?」
「叱られるかと思ってたから」
「さっきの事?」
「すごく怖い顔でした」
「ああでもしないと君動かなかったろう」
「優しいんですね」
「あまりそういう事を言われたことがない」『らしい』
「優しいです」

「うーん、よく聞こえない…ふたり仲良く並んで座ってまるで恋人同士じゃないか!
ミンチョルさんてばひどい!って、どうして僕こんなにあせってるの?」

「冬の星は綺麗だ。あんなに輝いてる」
「そうですね。そう言えばモンゴルの星はすごいらしいですよ。大地に寝転んで見ると星が降って来るみたいだって」
「へえ、見てみたいな」
「そうだ、ミンチョルさん、今度一緒にモンゴルに行って見ましょうよ、星を」
「そうだな。でも店がある」
「休暇があるじゃないですか。最長1ヶ月って契約書に書いてありましたよ」
「1ヶ月も?」
「知らないんですか。僕契約した時、隅から隅まで読みました」
「随分前に契約したから細かいことは忘れてしまった」『いい事を聞いた!』
「1ヶ月あったらモンゴルの星をたくさん見れますよ。あちこち車で移動して夜はテントはって。うわ!いいなあ!」

「あ、また近づいて何か言ってる。こら!ドンジュン、離れろ!って、どうして僕こんなに気になるの?」

「モンゴルか。車のことは君がいれば大丈夫だし。満点の星に包まれて眠ったら最高だろうな」
「でしょう!わあ、すごいや!」
「でもその前にやる事がある」
「え?」
「君が一人前のホストになる事だ」
「は、はい」
「今日のようにいちいち反応してるうちはダメだ」
「は、はい」
「僕のキツネ踊りのビデオだ。ひどい代物らしい。僕自身この時の記憶がないくらい(実際ないけど)疲れていた
だからこれを見ると皆元気になるらしい。後で見るといい」
「そんなにひどいんですか」
「踊りは得意じゃないから」
「見なくていいですか。人の得意じゃないもの見ても…
この間スヒョンさんがスケートリンクで困ってるの見て思いました
人が苦手なことしてるの見て自分を慰めるっていうのは僕の趣味じゃない」
「君こそ優しいじゃないか」
「そうですか」
「あとは涙をとまればいいけどな」

「あ!ミンチョルさん、あいつの涙ふいてやってる、いつもの技だ
すっごく優しくしてるみたい、ひどい!って、どうして僕ってば?」

「昔ヨンスと遊園地でこんな風に並んで座って観覧車を見たことがある」『らしい』
「奥さんですよね」
「そう。新婚旅行だった。すごく嬉しくて、すごく辛かった」『らしい』
「新婚旅行なのに辛かったんですか?」
「ヨンスは健気に楽しそうにふるまってた」『らしい』
「切ないですね」
「変な話をしてしまったな。すまない」
「いえ。ミンチョルさん…」
「何?」
「ちょっと寄りかかってもいいですか」
「いいよ、僕はよく人に寄りかかられる」『らしい』

「あ!あいつミンチョルさんの肩に!ずうずうしい奴!ミンチョルさんがあいつの肩を抱いた!
何だかすっごく、くやしい!ミンチョルさんを盗られたみたい!って、どうして僕ってば?」

「不思議だ」
「何がです?」
「僕はあまり自分の事を人に話したことがない」『らしい』「でも、君といると自然と話ができる。なぜかな」
「僕も今同じ事思ってました。何だかチーフといると落ち着きます」
「人に話を聞いてもらうっていい事だな。昨日もイナに助けてもらった」
「イナさんに?ちょっと恐そうだけど」
「あいつはとても情が深い。いい奴だ。ところで君は弟がいたね」
「ええ、でもあまり上手くいってなくて」
「君も?僕もだ。弟と言っても赤の他人だが。弟は面倒だ」
「厄介です。長男って苦労が多いですよね」
「確かに」
「僕、チーフの弟になりたい気分です」
「じゃ僕の兄貴は誰がなってくれる?」
「僕じゃ無理ですね、ちょっと」
「僕の条件をのんでくれたら兄貴になってやろう」
「条件?」
「僕が話をしたい時、話を聞くこと」
「そんなの簡単です。やった!」
「僕も兄さんが欲しい」
「チーフが話したいとき、僕そばにいますから」
「そう。じゃそれで手を打とう。さて、店が始まってる」
「あ、はい」
「行こうか」

「あ、2人ですっごく密着しながら立ち上がった!何だかいやらしい!許せない!そうだ!
チョンエに相談してみよう、いや、これはチョンエに言ったらまずい事かもって、どうして僕ってば?あ!こっちに来る!隠れなきゃ」

「ミンチョルさん…」
「何?」
「いつか絶対行きましょうね!モンゴル」
「そうだな。星に抱かれて寝たいね。気分いいだろうな、きっと」
「いいですよ、最高です!」

「え!絶対イク?ミンチョルさんが抱かれて寝たい!
ドンジュンに?何がいいんだ、最高なんだ!ぜーったい許せない!あいつ!!」


狼狽

<公園の植え込みの近く>
「あれ?そこにいるのはテス君?」
「あ、いや、その…」
「そんなとこで何してる?」
「いや、その…」『ああん!み、見つかった!』
「今日はイナのヘルプじゃないの?」
「つまり、その…」『そうだった!イナさんに叱られる!』
「もしかして、テプン?また何か言いつけられた?」
「は、はい!お、お菓子を…」『そんなこと言われてないけど…』
「そうか。君はテプンのおつかい係じゃないんだから、無理言うようなら断わってもいいよ。わかった?」
「は、はい」
「じゃ、ドンジュン行こう」
「はい」
「あ、あのミンチョルさん…」
「何?」
「い、いえ、別に…」
「気をつけて帰っておいで」
「はい…」『ああん!2人で肩抱き合って歩いてる!くっそー!』

<店の前>
「あれ、スヒョンじゃないか、今から出勤か」
「ああ、ミンチョルか」
「同伴じゃないなら、遅刻にカウントするぞ」
「自分が同伴だからってきびしい事言うなよって、あれ!相手はドンジュン!な、何なんだお前達!」
「何が?」
「肩なんか抱き合っちゃって。ドンジュン、どういう事だ!」
「え?どういうって、別に何でもありません」
「何でもないって…2人まるで…○○みたいじゃないか!いつの間に…」
「スヒョン、何ブツブツ言ってる。僕がドンジュンと一緒に歩いちゃいけないのか?」
「いや、別に。だけど、ミンチョル新年早々やってくれるな」
「だから何を」
「そんな事言いながらまだ肩抱き合いやがって!」
「うるさいな。そんなに気になるならやめるよ。ドンジュン、じゃ腕でも組もうか」
「あ、はい」
「げ!お前ら開き直ってるな!」
「別に開き直ってるわけじゃない。僕とドンジュンは今すごくいい感じなんだ。別にいいだろ」
「いい感じって何だそれ…べ、別にいいさ。僕はもう関係ないんだから」
「前は何か関係あったの?」
「し、指導係だったじゃないか…」
「とにかく遅刻だ。店に入れよ。ドンジュン行こう」
「お前らだって遅刻じゃないか」
「僕らは遅刻じゃない。ちょっとやぼ用でね」
「く、ミンチョルちょっと待て!」
「何だ、手を放せ、スヒョン。言いたい事があるなら聞こうか」
「ミンチョル、お前ドンジュンに何したんだ」
「何って、話しただけだ。お前がたいそうなビデオ作ってくれたおかげでな」
「嘘だ、そうか…ビデオ見て…そのつまり…もう手をつけたのか」
「何?」
「とぼけるな」
「くどいな。これだけははっきり言っておく
今後ドンジュンをからかうような小細工するつもりなら、僕を相手にしてると思え
これはチーフとしてではなく、イ・ミンチョルとして言ってる。わかったな」
「な、何だって…」
「行こう、ドンジュン」
「はい。スヒョンさん、ビデオの事は僕もう気にしてませんから。忘れてください」

店の前に取り残されるスヒョン、放心状態

「兄貴としてはあのくらい脅かしておけばよかった?」
「すごいです。頼りになる兄さんです。僕初めてだなあ、こういうの
スヒョンさんちょっと気の毒になっちゃいました」
「ほら、君はやっぱり優しい」

「スヒョンさん?何してるんですか、そんなとこに座り込んで」
「ああ、テス君、どうしたの?君も遅刻?」
「あ、いえ、僕は、その…」
「あ!君、今の2人つけてたんだ」
「え!どうして…いえ、僕、公園なんかに行ってません!」
「そうだよね、で公園で何があったのか教えてくれる?」
「だ、だから、ぼ、僕、う、植え込みの影から覗いたりしてません!」
「そうだよね、でベンチで何してたか教えてくれる?」
「だ、だから、ぼ、僕、テプンさんのお、おつかいに…」

「げ!ミンチョルがドンジュンに抱かれて寝ただって!
ドンジュンがいいです、最高ですだって!くそっ!やっぱりあいつら!」
「スヒョンさん、ぼ、僕そんなこと言ってません」
「言ってなくてもわかるんだ、そうかやっぱり。うう、くそう…先を越された」
「スヒョンさん…」『どうしてわかっちゃうの!!』
「いや、ちょっと待って。寝たじゃなくて、寝たいって言ってたんだよね」
「だから、僕…」
「よし!まだ勝負はついてない。テス君行こう!」
「え、ぼ、僕は今日は家に帰ります、だって、チョンエに相談しないと…」
「何言ってるんだ、君はバカか。奥さんに浮気の相談する奴がいるか!」
「え?浮気って…」
「とにかく、2人から目を離すと危険だ。ほら、ぐずぐずしてると君の好きなミンチョルをほんとに盗られちゃうぞ」
「え!僕ミンチョルさんのこと好きなんですか?」
「何言ってるんだ、君は自分の気持ちもわからないのか!このほんとのバカ!」
「え…そ、そんな!!」
「いいからつべこべ言ってないで行こう!」
「ひぇえええん…か、帰りたいぃぃ…」
『それにしても、さっきミンチョルの心が読めなかった、どーして?』

ーミンチョル&ドンジュン店内へ
「おっ、戻ったか。ミンチョル、ドンジュンはどうだ?」
「ん…大丈夫だ」
「イナさん、すいません…ボクもう大丈夫です」
「ったく。毎度毎度メソメソすんなよ!」
「ははは…イナ、そう怒るな…さっ、ドンジュン、仕事だ」
「はいっ、ミンチョルさん」

「なんか2人ともすっきりした感じだな…ミンチョル、お前何かしたのか?」
「イナ、人聞きの悪いこと言うなよ。2人で話をしただけだ」
「そうか?まぁいい…あ、テス見たか? どっか行っちまうし…スヒョンもまだなんだ。また遅刻か?あいつ…」
「イナ、スヒョンは店の前にいたからすぐ来るはずだ」
「そうか。わかった。テスは?」
「いや…」(あいつ、僕の後をつけたのか?ドンジュンとの話を聞いてた?ふっ…スヒョンと出くわしたら…まぁいいさ)
「イナ、そういえばBHCには1ヶ月の休暇があるらしいんだが。聞いてるか?」
「1ヶ月の休暇ぁ?俺は知らねぇぞ。そんなもんがあったのか?」
「あぁ…契約書にあるらいいんだが…」
「ん〜俺も知らん。オーナーが最近付け足した項目じゃないのか?」
「そうなのか?メンバーによって違うのか…?」

ーテス&スヒョン店内へ
「おい!テス!何処いってたんだ。5番テーブル予約入ってるから。俺のヘルプにつけよ」
「あ、あ、ちょっと…」(ミンチョルさんの後付けたなんて言えるか)
「イナ、テス君はテプンの使いに出たんだ」
『テス君、そういうことにしておこう』
『スヒョンさん…;;ToT;;』
「ちっ…またおやつ頼んだのか?テプンの奴…あぁ、スヒョン、遅刻だぞ。今日は忙しいからな」
「わかってるよ」(イナまでミンチョルと同じ事言いやがる…)
『ふ〜〜ん…イナ、チニさんが来たら後で逃げるつもりなんだろう?』
『うっ…』


再会

「ミンチョル、早速だけどチニさんの相手しててくれないか」
「いいよ、どうした?」
「回しゲリ一発芸のリクエストがきちまった。ちょっとだけ頼む」
「わかった。ドンジュン、イナの彼女を紹介しておこう。おいで」
「はい」
「チニさん、こんばんは。明けましておめでとう」
「あら、ミンチョルさん、あけおめ!あら、そちらの彼は?」
「ドンジュンです。新人なのでひとつよろしく」
「そう、私はチニ。よろしくね、坊や」
「よ、よろしくお願いします」『ぼ、坊や…』
「イナの代わりにちょっといい?」
「どうぞ、どうぞ。彼の回しゲリ人気なんですってね」
「そうなんだ、ジュンホもできるんだが、ドクターストップがかかってるもんで、イナにリクエストが集中してしまって」
「動いてる時のイナさんて素敵よね」
「そうだね。イナも最近調子が良くなってきた。たぶんチニさんのおかげ」
「え?そうなの」
「去年、イナはよく倒れた。胸が苦しいって言って」
「それは肺活量の問題だって言ってたわよ」
「そうなんだけど、やっぱり精神的なものが大きかったと思う。でもチニさんと再会してからすごく良くなった
ありがとう」
「あら、お礼だなんて。こんなことならドラマの最中からモーションかけておけばよかったわ
キャスティングのせいで手が出せなかったのよね、一生の不覚。ふふ」
「これからイナも集中放送とかあって、大変になるかもしれない
そんな時チニさんがそばにいてくれたら、心強い」
「イナさんはもう終わった事だって言ってたわよ」
「終わってるんだけど、いざ放送が始まるとちょっと影響されるんだ。今の僕のように」
「そうなの…大変ね。でも大丈夫、私イナさんのそばにいてあげるわ」
「僕も君のような女性がイナのそばにいてくれたら嬉しい」
「ミンチョルさんって案外人のこと気にかけてて優しいのよね」

「今日はなぜかそう言われるな、ドンジュン?」
「やっぱりミンチョルさん優しいんですよ」
「ところで私にローヒール履くようにってイナさんに言ったんですって」
「まいったな、イナがばらしたの?」
「そうよ、ミンチョルさんの奥さん背が高いから苦労してるらしいって」
「ハハ、そうなんだ」『最近苦労するほど接近してないけど』
「私がハイヒール履くと、イナさんがメッってお茶目な顔して睨むの
その顔が大好きだから私ヒールやめないわよ」
「それなら僕がとやかく言う事はないな。チニさんの楽しみを奪ってはまずいからね
イナのその顔、僕も見たいよ」
「私も見せてあげたいわ。すごく可愛いのよ!」
「ミンチョルさん、お話中すみません」
「何?ウシク」
「お客さんがいらしてます。ハンさんとかおっしゃってますが」
「ハンさん?もしかしてテジュンさん?」
「そんな感じでした」
「あら、やだ!また総支配人登場なの。温泉に続いてえ?」
「よく鉢合わせするらしいね。イナから聞いたょ」
「ミンチョルさん、彼にマイク持たせたらダメょ。店が終わっても離さないから
それにしても、せっかく休暇最後の夜なのに!」
「チニさん、最初にここで挨拶ちょっとしてから、僕が店の案内するから、その間にイナと出ればいい
今日はイナもそのつもりだから」
「ほんと?ありがとう!やっぱり優しいわ、ミンチョルさんて」

「テジュンさん、お久しぶりです。その節は大変お世話になりました」
「ミンチョルさん、その後いかがです?お元気そうですが、でもちょっと痩せました?」
「あなたの観察眼にはかないませんね、ちょっと年末から寝込みましてね。もう大丈夫です
それよりよく来てくれました」
「あちこち回っていい勉強をしました。最後はBHCで締めようと思いましてね」
「大歓迎です。どうぞこちらへ。チニさんも来てるんですよ」
「え!また?まずいな、叱られる…」
「大丈夫ですよ。彼女と新年の挨拶でもしていってください」
「総支配人、私の後をつけてるの?」
「いや、決してそんなつもりは…申しわけない」
「チニさん、いじめちゃだめだよ」
「そうね、支配人今年もよろしく。乾杯しましょう」
「ああ、そうだね、今年もしっかり働いてください」
「もう!ほんとに(クソ!)真面目なんだから、支配人て」
「ミンチョルさん、チニさんて明るくてハキハキしてていいですね」
「ドンジュン、勉強になるだろ」
「はい」
「テジュンさん、新人のドンジュンです。よろしく」
「ほお、まだ新人がいるんですか。ハン・テジュンです。よろしく」
「ドンジュン、テジュンさんは僕の命の恩人なんだ」
「そうなんですか!どうもありがとうございます!」
「何だか、奥さんみたいな言い方ですね」
「あ、そんなつもりでは。でもミンチョルさんの命の恩人だったら、僕感謝しないと」
「あら、2人あやしいの?」
「え?そんな…別に…」
「チニさん、彼慣れてないんだから、からかっちゃだめだよ」
「だって、顔を赤くするホストなんて可愛いじゃない、ね、ドンジュン君」
「あ、その…」
「あれえ!テジュンさん!」
「ああ、イナさん。すみません。またお邪魔しちゃって」
「あ、いやいやいやいや。その節は…」
「チニさんに今叱られたところでして」
「そんなことないすよ。BHCに見学に来るって言ってましたもんね」
「そうなんだ。イナは今日は上がりだろ。僕が店を案内するから
テジュンさん、どうです、店を一回りしてみませんか」
「お願いします!」
「じゃ、チニさん、イナをよろしく」
「チニさん、職場で会いましょう」
「わかってまーす」
「じゃ、ミンチョルお先」



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