戻る  目次へ


視察

「BHCはホストの数がすごい」
「それは自慢できます。ステージで歌いながら物まねと突っ込みやってる2人組みはテプンとチョンマンです
テプンは早食いもできるし歌も上手い、元野球選手です
チョンマンは新人ですが、ビールをたくさん持ち運べるので忙しい時はウェイターに使ってます」
「用途が色々あるんですね。あの黒板は何ですか?」
「あそこは通称クラスルームです。国語の教師が2名常駐してます
イヌが黒板にチョークで線を書いて振り返るだけで数名の客が失神します
その後線の説明をして縁とは厄介なものだろう、と言うとさらに数名が失神します」
「失神ですか!」
「何、すぐ気がつくのでほおっておきます。スハは即興で日記の添削をします
時々たどたどしくオルガンを弾きますが、それも評判がいいです」
「オルガンか、懐かしいな」
「コニー・フランシスのレコードをかけたりもします。お好きですか」
「いいなあ…」

「あの男の子は何ですか?」
「彼はラブです。スマートなので美大生が来ると絵のモデルになります
若いのでちょっと危なっかしくてナイフ芸をするんですよ。テーブルに手を広げて指の間をナイフでついたりする」
「危険じゃないですか?」
「今は慣れたので怪我はありません。勇気のあるお客さんはラブの手の上に自分の手を重ねて度胸試しをします
こちらは万が一の事があると困るので勧めてはいないのですが、マニアックな客が毎晩ひとり、ふたりは来ますので」
「ほお…」
「あっちで表札を彫っているのが、テジンです。家具職人で、お客の希望で表札とかお盆とか小物をお土産用に作って喜ばれてます
花模様を入れるのが得意でそれが評判いいんです。コースターなんかもよく出ます
彼が人生を賭けて手に入れた奥さんはとても美人です」
「うらやましい…」
「女性の趣味はテジュンさんと似てますね。あっとこれは余計な事でした」

「美人の奥さんか、懐かしい」
「あっちで携帯いじってるのが新人のシチュンです。携帯で一度に何人の客とコンタクト取れるかというゲームをしてます」
「は?」
「彼の特技は今のところそれしか見つからないので
彼はここに勤めるために、女性を10人速攻で切ったという実績がありましてその軽いノリが若い客に受けてるようです」
「遊びでも芸にまで持っていけるんですねえ。あれ、あそこで塩辛を食べている人は受付の人ですよね」
「彼はウシクといって、BHCの中では一番庶務的なことに向いてます
この間ドラマの放送があって人気に火がついたようで、毎晩カレイの塩辛を無理しておいしそうに食べるのをやってくれ、と言われてます
彼はカレイの塩辛は好きじゃないので、1日に2回だけと限定しました」
「ほんとだ、無理して美味しそうにふるまうあの顔、たまりませんね。目が泳いでる」
「でしょう?中には洗濯紐と洗濯バサミを持ち込んで、寝癖のついた頭でこれを寄り目で見上げてくれとか
雪にすべったふりをしてくれとか、ニット帽をかぶってくしゃくしゃにした髪をセットさせてくれとか
スーツを選ばせてくれとか今一番リクエストが集中しています」
「いやあ、すばらしい。あのちょっと静かな席は何してるんですか?」
「あそこは何もしてません」
「何もしてない?」
「スヒョクとジュンホが座っているだけです」
「座っているだけ?」
「そうです。彼らの哀愁をおびた瞳でみつめられるだけで客は満足します。切なくなって泣く客もいます
ジュンホはボクサーでいい体つきをしているでしょ、体調のいい時にはおさわりができます。それをかわすしぐさがまた受けてまして」
「サービスの質が違う…」
「ここはホストクラブですからね。サービスも色々です」
「想像以上です」
「一番ふつうのホストらしいのがスヒョンです。あそこ盛り上がってるボックス席」

「ホストらしいか…」
「女性の心を掴む天才でして、何でも望みどおりです」
「あやかりたいですね」
「まったくです。でも彼には彼の悩みがあるようですよ」
「ここの料理はどなたが?さっきご馳走になったお作りは見事なものでした」
「うちの料理はテソンという和食の板前がしています
元はホストだったんですが、代打で厨房に入って、そのまま料理担当になってしまいました
実際いい腕なので助かってます。食材にうるさくて、本格的で贅沢な物を作ります」
「確かにいい腕です。うちに欲しいくらいです」
「テジュンさん、引き抜きは勘弁してください」
「わかってますよ。でイナさんは回しゲリが得意?」
「彼はテコンドーの名手です。ギャンブラーですが、ここでは簡単なトランプごっことか占いをしてます
本格的にギャンブルをする時はオールインに行きます」
「チニさんのお父さまがいらっしゃる所ですね。でミンチョルさんは何を?」
「僕は総括です。時々リクエストを受けますが、最近ドラマのせいで無理な注文もあって困ってます」
「無理な注文?」
「ガラスごしに涙拭いてくれとか、すれ違いざまに腕を掴んでくれとか、鍋をつつきながら拗ねてくれとか
両手で顔を挟んでくれとかはまだいいんですが、シャツを着たままシャワーを浴びてくれとか
ボロボロになって泣きついてくれとか、その後で膝枕させてくれとか…きりがありません」
「すごいリクエストですね。やるんですか?」
「ここではできないのでホテルのスイート貸しきってもらいます。後で備品を弁償しないといけませんし、かなり高くつきますね
予約制ですが年に数回はやります」
「やるんですか…すごい!」
「オプションのドライブコースだと泣きながら運転して高速のはしからはしまで車線変更してくれとか
一緒に服のまま海に入ってくれとかですね」
「おお!」
「他には映画館で笑いながら泣いてポップコーン食べさせてくれとか。結構しんどいです」
「すばらしい!見習うべき点が大いにありますよ」
「そうですか?でもホテルとはコンセプトが違うんじゃないですか」
「客を満足させるという点では一緒です」
「なるほど」
「今度うちのホテルでホスト祭でも企画したくなりましたよ。ディナーショーと絡めても面白そうだ」
「去年イベントをやりましたが、結構きつかったです。準備から企画、進行すべて自分達でやりましたから」
「うちの企画にのっていただければ、出演だけでOKにしますよ、いかがです?」
「名のあるホテルでホスト祭とかおやりになって大丈夫ですか?」
「ホテルも過当競争時代です。何事もお客様のニーズに答えていかないと生き残れません」
「なるほど。もし僕らで力になれる事があれば喜んでお手伝いしましょう。他ならぬテジュンさんですから」
「ありがとうございます、心強い」
「さて、見学はこのくらいにして、テプン達のショーが終わったらカラオケなんかいかがです?
なかなかだそうじゃないですか」
「いやいやいや。マイク握るとついおやじが入ってしまって」
『さすがに自覚している』
「じゃ、ちょっとジャケット取ってきます。カラオケ用にビロードのやつを持ってるんです」
「はあ…」

「チーフ、あのテジュンさんて人、案外ホストに向いてるんじゃないですか?」
「ウシクもそう思う?」
「ええ、デュエットしたお客さんだけでなく、店内すべてのお客さんに握手して最後は感激して泣いてましたからね」
「それでもイヤミにならないのは、やはり誠実な人柄のせいかな…」
「ですね」
「そろそろお開きにしたい。ウシク、最後の一曲だって言ってきてくれ」
「さっきも言いましたよ」
「う…ん…」
かくしてBHCの夜はふける


雪崩

<修行の旅の翌日、いつになく早めの出勤のミンチョル。なぜ…>
「おはよう、ってまだみんないるわけないな」
「うわ!ミンチョル!」
「チーフ、どうして…」
「え?何?」
「ぎゃっ!まずい!」
ドタン!バタン!ドシン!ボコン!
「イナ?みんなもいるのか?」
「な、何でもないっす!おいっ、隠せ、消せっ」
「テプン、チョンマン、何突っ立ってるんだ、テレビの前で?」
「いや、何も…早く消せっ!チョンマン…」
「スイッチがどこかに…キキッ」
「テプン、チョンマン、どいてみろ」
『うわぁ〜、ほんとだ、綺麗だね…』『ドンジュン、僕は今日という日を…』
「何だ、これ?」
『ガムああ〜ん…』
「これは修行の旅じゃないか!」
「ひゃい!」
「イナ、どういう事だ?」
「こういう事だ。すべてビデオに撮ってある。きつね踊りと同じで…」
「みんなで鑑賞会か」
「そう…だ」
「そうか。ちょっとまき戻せ。僕が寝ているところがあるだろう。そこは僕も何があったか知らない。見せろ」
「お、いいのか」
「こういうのは確認作業が大事だ」
「よし、テプン、ミンチョルが寝てるとこまでまき戻せ」
「僕とスヒョンの風呂の場面はとばせ」
「よし、そこはとばせ、テプン」
「おっす」

一同、衝撃と驚愕のうちにビデオを見終わる

「ミンチョル、スヒョンはどうなった、この後」
「僕は家まで送ってもらって先に帰った。後の事は知らない」
「スヒョンさん大丈夫ですかね」
「ウシク、お互い大人だ、ほっておけ」
「でもドンジュン、どうしてこんなに変身しちゃったんでしょうね」
「わからん。きっかけは、車と雪かな。あとスヒョンが寒さに弱いせいかもしれない」
「いくら寒さに弱いからって、あれはないっすよ。もうメロメロ!」
「いいか、みんな、このビデオはドンジュンには見せるな。いいな」
「スヒョンさんじゃなくてドンジュンですか?」
「そう、あいつを見極めるまで見せるな」
「見極める?」
「どっちが本物のドンジュンか。ピーピー泣く方か、スケコマシの方か、あるいは二重人格か」
「第二のテソンか…」
「僕は最近立ち直ってる」
「どうしてふたりともおとこどうしなのに、なかよしですか?」
「ジュンホ、2人ともちょっと遊んでるだけだ。君は美しい奥さんのことだけ考えていればいい」
「ちーふ、わかりました」
「あれはスケコマシだ」
「そうですよ、しかも並みのスケコマシじゃありませんよ。相手はスヒョンさんですよ」
「そうだな。ただ、あいつからハンドルと雪を取ったらどうなるか確かめないと
テプン、いやウシク、このビデオを厳重に保管してくれ、頼む」
「わかりました」

「イナ、ちょっと聞きたいんだが、テス君に僕が家で洗濯してる事言ったか?」
「え?…覚えてない。どうして?」
「僕の留守に彼が洗濯しに僕の家へ来たらしい」
「テスが!」
「それをきっかけに昨日は大変だった」
「どうした?」
「昨日遅く家へ帰ったらソンジェとヨンスが起きていた。ソンジェは僕を責めまくった
ヨンスさんを侮辱した、洗濯もできない女性だと言いふらしたとか、セーターを虫食いにしたからって
あてつけるようにスーツで雪山へ行った、とか…」
「うわあ…」
「旅先にも何度かソンジェが電話をよこしたんだが、あのありさまだったのでろくな返答ができなくて
ヨンスさん、ヨンスはそばで私が悪いとアヒルのように泣いて、それを見たソンジェがますます僕に怒るという悪循環が延々続いた
もう頭痛も感じないほどだった…」
「ミンチョル…」
「で、僕はとうとう切れてしまった」
「切れた?!」
「すべてぶちまけた」
「すべてって、忘れた事?」
「覚えているのはこのミソチョルだけだと」
「よけいなことまで言わなくてもよかったのに、そんなぬいぐるみの事…」
「僕は嘘はつけない。ヨンスは泣いていた。ぬいぐるみの事を覚えているのに私は覚えていないんですかと」
「で、弟がまた怒った」
「その通り」
「で?」
「家を出ることになった」
「せっかくいい流れになってきてたのに、一気に逆流かよ」
「今頃2人で今後について話しているだろう。僕は別れてもいいと言ってきたから」
「え!」
「思えばソンジェも気の毒な奴だ。兄貴の嫁さんをずっと好きで、いつまでも他に女性を見つけられない
最近は歌も歌ってカッコよくなってるのに、不憫だ」
「お前、人のこと不憫だなんて言ってる時かよ。ヨンスさんはお前が好きなんだろう?」
「いくら好きでも毎日泣いて暮らしているのでは気の毒だ。泣くのが快感なら別だが
笑ってソンジェと食事をしている方が彼女にとってもいいだろう」
「でもお前、思い出したらすっごく後悔するかもしれないぞ」
「イナ、どっちにしろ後悔っていうのは後でするもんだ」
「それにしても、早まったことを」
「僕はスッキリした。これでいい」
「あの〜、お取り込み中すみません…」
「え?あ、ウシクどうした?」
「何だか、大変なお話のようですが、これ聞いちゃってていいんでしょうか?」
「は?」「あ!」
「おい、お前ら、何でそこにいるんだ!」
「何でって2人でいきなりそこで深い話始めるから、みんな動くに動けなくて…」
「あちゃ〜」
「聞かれてしまったものは仕方がない。どうせいずれわかる事だ。みんな、僕はしばらくBHCの寮で寝泊りするから」
「はあ。それはいいんですけど…」
「ウシク、まだ何か?」
「さっきから、忘れたとか思い出すとか、どういう意味ですか?ミンチョルさん…もしかして…」
「う…」

カミングアウト

「ミンチョルさん、この間トレペの予備の場所わかりませんでしたよね
忘れたっていうのは、どういうことですか…」
「そういえば、このあいだ、テーブル番号聞いてたよな」
「ウシク、テプン…」
「でも業務はちゃんとやってるし、メンバーことも知ってる。矛盾してます。わけを教えて下さい」
「それは…」
「うしくさん、ちーふはなにかわすれちゃったですか」
「それを今聞いてるんだよ」
「ミンチョルさん、もしかして生まれ変わりですか?」
「イヌ、それは違う」
「ミンチョル…」
「イナ…」
「みんな、聞いてくれ!みんなに隠していたことがある。実はミンチョルは記憶がない。あの事故からだ」
「えっー!!」
「だって、今までと変わってないじゃないですか。トレペの予備の場所知らないくらいで」
「それは…覚えたんだ」
「覚えた!!!!!」
「イナが店の事、家の事、すべて調べて教えてくれた。それを覚えた」
「信じられネェ。俺にはできねえ」
「テプンにやれとは言ってねえよ」
「ただ、細かい事が漏れてたな。家でもトイレの場所がわからなかった…」
「悪かった、資料の不備だ」
「いや、日常生活の細かい事までは無理だったんだ。仕方がない」
「おぼえたってなんですか?」
「ジュンホ、字を読むんだ。イナが用意してくれた紙に字がいっぱい書いてある
例えば、君は家族をとても愛していて美しい奥さんと子供達のために世界チャンピョンになったとか」
「じ、ですか」
「そう、で実際に君に会って、世界チャンピョンのジュンホだな、綺麗な奥さんがいるんだなって」
「ちーふ、おぼえてくれてありがとう」
「全員そうやって覚えたんですか」
「そうだ」
「でも、どうして…」
「ミンチョルは家庭でも色々あったし、オーナーにもばれるとやばいから隠していたんだ
知っていたのは、俺とテソン、スヒョンくらいだ。あ、mayoさんは別ね。あの人別格だから」
「やはり無理があった。今日家を出てきたので問題はひとつ片付いた。今まで黙っていてすまなかった」
「いえ、そんな…」
「事故の後って事は、俺のせい?」
「そうだ、テプンお前のせいだ」
「イナさん、そこに戻るのかよお!!」
「これは僕の問題だ。テプン気にするな」
「でも…家出ちゃったんでしょ」
「過ぎたことだ。みんなに頼みがある。すべて今まで通りだ。僕が店は仕切るからしっかりやってくれ」
「わ、わかりました!」
「オーナーには、ばらすなよ、特にテプン!」
「へーい」
「ミンチョルさん、相談してくれれば色々ノウハウを教えたのに」
「テジン、そうだったな」
「妻は気づいてます。この間煙草をもらいました…」
「よかったじゃないか。努力が報われたな」
「はい。ミンチョルさんもあまり早まらない方がいいですよ」
「ありがとう。さてと、じゃあ開店準備にかかってくれ」

「ミンチョル」
「何?」
「大丈夫か?」
「意外とな。気が楽になったよ。失う物は何もないし」
「そっか」
「イナ、お前が泣いてどうする」
「バカ野郎、誰が泣くかよ!」
「バカ野郎のお前だよ」


クラッシュ

「ねえ、ミンチョルさん、モンゴルは・い・つ?」
「当分無理だな」
「僕とふ・た・りになりたくないの?」
「…見極めが難しい奴だな」
「え」

「ミンチョルさん、弟さんから電話です」
「ソンジェ?」
「断わります?」
「いや、出よう」

「ミンチョル」「着替えは持ってる。部屋が見つかるまで寮にいる」
「ああ、なるべく早く見つける」「それはお前が決める事だ。僕がとやかく言う問題ではない」
「彼女と話してくれ。僕はない」「わかった。約束する。切るぞ」パ…

「チーフ、携帯じゃないので折りたためません」
「そ、そうだな、ウシク。ふーっ」
「大丈夫ですか、チーフ」
「ああ、何でもない」

「ミンチョルさんどうしたんですか。ウシクさん」
「と、当分話しかけるな。あ、危ない…」
「え?」
「どんじゅんさん、チーフはいえでしたんだ」
「家出?」
「そう、ぼくもしたことがあるんだ」
「ど、どうして?」
「きおくそーしつっていうのをかくしてたんだけど、おとうとさんにいろいろいわれてきれちゃったんだって
おくさんともわかれるって」
「記憶喪失?奥さんと別れる?」
「そうだよ。せんたくものとか、ゆきやまのこととかいろいろせめられて、ばらしちゃったらしいよ」
「い、いつから記憶喪失なの?」
「そらからおちたときだって」
「僕達が入るちょっと前?でもそんな全然…」
「ちーふはおぼえたんだよ。イナさんのじをよんだって。ぼくのこともおぼえてくれたんだ」
「覚えた?馬鹿な…」
「ちーふはばかじゃないよ。ぼくがたたかったいみもわかってくれてたよ」
「そうじゃなくて…」

『君はすぐ泣けていいな』『弟は厄介だ』『君は優しい』

「だからあんなに寂しそうだったの…だから僕を助けてくれたの…」
「ドンジュンさん、どうしたの?ないてるの?」
「知らなかった。ミンチョルさんがそんな重いもの背負ってるなんて」
「チーフは、にもつはもってないからだいじょうぶ」
「それなのに僕の事心配してくれて。ええん、ええん」
「誰だ?泣いてんのは」
「ウシクさん、ドンジュンさんです」
「おっ、ジュンホ、カタカナしゃべりができてるぞ」
「ほんとですか?」
「でドンジュンが泣いてるって?」
「チーフのことおしえてあげたらなきだしました」
「何?コマシが泣いてるって。テソンよりたちが悪い?」
「そうだな。でもテプン、でもチーフも心配だ」
「うーん、弟にしてみたらチャンスだからな。イケイケでくるぞ」
「さっきも電話があった。荷物を引き取れとか言われたらしい」
「出てきたばかりじゃねえか。あいつもえぐいな。でも昔の事覚えてないってのが弱いなあ」
「イナさんはこれを恐れてたんだ」
「あの弟は他人巻き込み発散型だからな。チーフはシャッター閉鎖蓄積型だけど」
「他人巻き込み発散型?」
「何かあると人を巻き込んで大騒ぎする。兄さんが悪い、ヨンスさんがかわいそうって」
「言われるとそうかもしれないなあ。チーフは抱え込むタイプだからなあ」
「弟はきっとこう言う『兄さん、昔の事を忘れたならヨンスさんを自由にしてあげて
僕が面倒みるから。いい、二度と彼女に近づかないで』」
「そっくりだ、テプン」
「なぜかすっかり覚えたぜ、あの口調」

『ミンチョルさんそんな目にあったんだ…僕がスヒョンさんと○○○してる間に…グスン…』

「おはようございます」
「テス、今日ヘルプか?」
「ミンチョルさんがまた来てくれって。あそこで泣いてるのはあいつ、じゃなくてドンジュンさん?」
「そうだ。スヒョコマシからピーピーに戻った」

「何してる。準備はできたのか」
「あ、チーフ」
「ミンチョルさん、ヘルプに来たんですけど」

「ああ、テス君よろしく。そうだ、頼みがある。僕の車に服が入ってるトランクがある
悪いがそれをBHCの寮に運んでくれないか。キーはこれ」
「あ、はい。整理しておきますか」
「いや、運ぶだけでいい。詰め込んであるだけなんだ」
「はい!行って来ます!」『整理してあげちゃいます!』
「ところでウシク、あの泣いてるの、もしかして…」
「ドンジュンです」「また?」「はい」「戻った?」「はい」「ふーっ」
「どうします?」「ミニカーでも買ってやるか」「あ、いいかも」
「わあああん、ミンチョルさん…」
「え?わっ!」

ミンチョル、ドンジュンに抱きつかれ押し倒される。ドテッ!

「お、おい、ドンジュンおおいかぶさるな!」
「わあああん…!」
「苦しいって、お前案外重いな。うう…」
「わあああん…!」
「おい、上から抱きつくな!」
「こらああ!ミンチョルさんから離れろ!」
「やだもん、わああん!」
「こいつ!早く離れろ!」
「テ、テス君、一緒に乗らないでくれ、うう…」
「ドンジュンがどかないから、僕もどけない!」
「チーフ!!」
「わあああん!」
「ドンジュンが先!」
「2人ともやめろ!」
「く、く、苦しい…」
「チーフ!」
「い、息が…」
「2人ともどけ!」
「ドンジュンが先だってば!」
「わあああん!」
「ぐっ!」
「チーフ!!」

「おい!何してるんだ!」
「あっ、イナさん!」
「ミンチョル!」
ドタン、バタン、スコーン、バコーン、ドタン、パタン…しぃ〜ん

「テソンとテプン、ミンチョルを控え室に運べ。完全に落ちてる」
「はい」
「ウシク、2人に冷たいタオル持って来てやれ」
「はい」

「イナさんの足蹴りきれいに入ったな」
「ジュンホの左フックもな。さすが元チャンプだ」
「あれは腫れるぞ」

「えええん」「わあああん」
「ちっ、ふたりともうるさい!泣くな!」


バージョンアップ

「スヒョンさん、どこ行ってたんですか!」
「買い物。おもちゃのハンドル。ほら!」
「げ!」
「ドンジュンにシュミレーターはまだ危険だから。このアンパンマンのやつ、いいだろ?
これくらいでちょうどいいコマシ具合かなって」
「相当きてますね、大丈夫ですか?」
「色々試してみないと。キティちゃんの、ウシク、お前使う?」
「ぼ、僕は関わりたくありません!」
「遠慮するなよ、アンパンマンのはいくつかあるんだ」
「それより早く店に出てください。今日はチーフもイナさんも出られそうもないし」
「どうして?ほら、おでかけハンドルはしゃべるんだぞ」
「忙しいんですよ。ドンジュンとテスも顔腫れてるからだめだし」
「顔が腫れてる?」
「ドンジュンがチーフに抱きついて倒しちゃって、その上からテスが覆い被さって
それをイナさんとジュンホが止めに入って…ああ!もうどうでもいいから、店に出て!」
「ドンジュンがミンチョルに抱きついた?ど、どうして?」
「知りませんよ。チーフは今落ちてます」
「やられたのか、フェロモンに」
「落ちてるだけです!」
「どうして抱きついたりしたんだ、ドンジュン・で、どこ?」
「控え室ですよ。あ、ちょっとスヒョンさん!どこ行くんですか!店は?ったくもう!」

「ドンジュン、どうした!」
「ええん、スヒョンさん、ええん」
「うわ!すごい顔になってる。イナ、お前がやったのか!」
「ああ」
「イナさんがけりあげたところを、ぼくがひだりフックでなぐったんです」
「ジュンホ!お前プロだろうが。何てことするんだ!」
「プロだからだいじょうぶ。しあいモードとけんかモードつかいわけます」
「使い分けるって、こんなに腫れてるじゃないか!」
「スヒョンうるさいぞ、静かにしろ」
「イナ、ミンチョルはどうした!あいつ男に興味がないなんて言ってたくせに…くそっ!」
「ミンチョルはここで寝てる。ドンジュンとテスにのしかかられて失神したんだ」
「そんなによかったのか?」
「違うって!」
「ドンジュン、もしかしてミンチョルのこと、そうなのか?え?」
「ええん、僕、ええん」
「ええん、じゃわからん!はっきり言ってくれ!」
「スヒョン、今はやめとけ」
「あんな事、こんな事したくせに、やっぱりミンチョルの方が…」
「ええん、ミンチョルさん、ごめんなさい…」
「僕より奴が心配か…許せん!でもどっちを?ああん、わかんない!」
「ジュンホ、こいつをほおり出せ!ったく」
「あ、チーフきがつきそうですよ、イナさん」

「お!ミンチョル!気がついたか!」
「…」
「おい、ミンチョル!うっ!おい、急に手首掴むな」『ドクン!』
「すまない、つい…」「だ、大丈夫なのか?俺がわかるか?」『ドキン!』
「イナだろ。わかるさ。ちょっとぼーっとするけど」
「やれやれ、よかった、心配したぞ。水でも飲むか?」
「いや、いい。大丈夫だ」
「ミンチョルさん!」
「テス君、その顔どうした?」
「これはその、何でもありません…」
「ミ、ミンチョルさん!」
「ドンジュンもどうしたその顔?」
「何でもありません。気がついてよかった…ヒック…」
「まだ泣いてるのか?」
「えええん!」
「ドンジュン、ミンチョルのために泣くな!ミンチョル、ドンジュンの涙拭くな!」
「スヒョンまだいたのか、早く店に出ろ」
「あ、そうかイナ、店の時間だったな。もう始まってる?」
「とっくにな。ミンチョル今日はどうする?」
「んー、そうだな。まだちょっと…イナ休んでもいい?」
「い、いいよ」『見つめるな!』「お、俺とスヒョンで何とかする」
「スヒョン、頼める?」
「あ、ああ、ミンチョル、た、たまにはいいんじゃない…」『ドキン!』
「そう、ありがと。じゃテス君、一緒に食事でも行こうか」
「しょ、食事?は、はい!」
「ドンジュンも来る?顔が腫れてるから店は無理だろ」
「ヒック、い、行きます…」
「ミ、ミンチョル、ドンジュンも連れてくのか?」
「スヒョン、何か心配?じゃジュンホもつれてく?」
「い、いや、ドンジュン行っておいで」『ドキドキドキ!』
「ぼくはおかねがほしいからおみせにでます。おくさんがむかえにきてくれます」
「ジュンホは偉いな。じゃ頑張って。さっ、行こう。僕のおごりだ」
「ミンチョル…」
「イナ、じゃあ店のことよろしく」
「あ、ああ。わ、わかった…」『ドキドキドキ!』

「食事が終わったら、寮の部屋の整理、一緒にしてくれる?テス君。ドンジュンもしたい?
いいよ、じゃみんなで。ふっ」
「テス君、僕の所に泊まりたい?そうか、その顔じゃ帰れないか」
「ドンジュンは寮に部屋があるだろ」
「しょうがないな、じゃ、3人で川の字で…ふっ」

「おい、イナ、ミンチョル変じゃないか?」
「な、何が?」
「なんかこう、艶っぽいっていうか、色っぽいっていうか。さっき『頼める?』なんて下から上目遣いで見られたら
ゾクゾクしちゃった」
「な、何言ってんだ!お前おかしいぞ」
「ドンジュンをうまく熟成させて発酵させるとあんな風になるような…」
「ば、馬鹿!」
「あんな目でずっとみつめられたら死ぬぞ。あ!それであいつの奥さん鈍感なのか」
「早く店に出ろ!」
「わかったよ。あー、どきどきした…ドンジュン大丈夫かな…僕も行きたかったな、いや…」

『バンビちゃん、リス君もちょっと変…さっきキツネ君に手首掴まれて下から見上げられたら
胸がドキドキしたんだ。確かに色っぽかった…ごめん、バンビちゃん!キツネににらまれたリス?
キツネ君てあんなにセクシーだった?ってこんなメール送れねえよ、俺はアホか!まずい、まだドキドキしてる…』
戻る  目次へ