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二日目の朝

旅の二日目
俺はチス叔父貴に踏まれて起きた

「なんだイナ!なんでこんなとこに寝てるんだ?」
「あいてぇ〜。叔父貴、おはよう。あっちの部屋じゃ眠れなくてさ」
「そうか。お前もスヨンさんと別れなければ、家族水入らず、こんなところで遠慮せずに眠れたのに、ああ、すまんすまん、うへへへへっ」

叔父貴、余計なことを…
まあいい。ううっ。まあ。いい

後二日間、楽しい旅にしたいものだ!


遭遇?!

朝から遊園地で遊んでいる
だがミンチョルは、テス君たちの後にばかりくっついているので、俺はあまり楽しくない

「ヨンス!」
「…は?どうした?ミンチョル、幻影でも見たか?」
「ヨンスが回ってる」
「…ミンチョル?」
「あっテス君だ、テスくーん、…女には振ってない…フンっ」
「…」『そーとーあぶねぇな』

「ヨンスさ〜ん」
「あれっ…あれは…え?」
「ソンジェさ〜んうふふふふ」
「…おい、ミンチョル、やっぱり家族呼んだのか?」
「…」
「ミンチョル?」
「…呼んでない…」
「は?だってあれ、お前の弟と奥さんじゃねぇか!」
「…何故いるんだろう…」
「…おい、おいミンチョル、大丈夫か?目玉がガラスになってるぞ?」

「スヨンさ〜ん」
「ソンジェさ〜ん」

「…今、ヨンスさんって言ったか?それともスヨンさんって言ったか?」
「…スヨンさんだ…」
「…ははっはははっお前の弟ったら、義姉さんの名前間違えてるなぁ…はは…はは…」
「…スヨンさんも回ってるぞ…」
「なにっ?!」

「ヨンスさ〜ん、スヨンさ〜ん」
「ソンジェさ〜ん」

「…なんでスヨンとヨンスさんとソンジェ君がここに?!」
「…さあ…なんかこのごろスヨンさんも仲間に入ってミンジとソンジェと仲良くしてるらしいからな…」
「…ってお前、おい、お前、あいつらが旅行するって聞いてたのか?」
「…ううん、聞いてない…」
「…」『ヤバイじゃんか、ミンチョルのうち…』
「僕は…仲間はずれなのか…。はっそうだミンジは?ミンジはいないのか…」

ミンチョル、たまらず、ソンジェの元へ駆け寄る

「やあ兄さん」
「やあ?!これは何だ、どういうことだ!」
「オーナーが気を遣ってくれてさ、僕たちも後から追いかけろって。びっくりした?」
「…え?じゃあ僕を追いかけて来てくれたのか?」

ミンチョル、複雑な心境ながらも、少しウレシイ

「そうだよ、泊まる場所はどうやら別の階みたいだけど、僕たち」
「…そうなのか…。え?ちょっと聞いてもいいか?ヨンスもスヨンさんも一緒の部屋なのか?それとミンジは?」
「ミンジはラブ君と一緒にどこかで乗り物に乗ってるよ。僕たち五人は一緒の部屋さ」
「…ちょっとまってくれ。聞き間違いじゃないのか?今、ミンジはラブ君と一緒に…と言わなかったか?」
「言ったよ」
「…何故…ラブと一緒に?」
「仲良しだからじゃない?」
「…え?一緒に来たっていうのか?」
「うん。僕の車でヨンスさんとスヨンさん、ラブ君の車でミンジ」
「なにいいいいいっいつのまにっ」
「あのイベントの時からずーっとラブ君、仕事帰りにうちに寄るよ」
「うちに?」『僕のうちだぞ!お前のうちじゃないっ!』
「たまぁに泊まってったりする」
「なにいいいいいっ?!」
「心配すんなよ、僕と一緒に兄さんの書斎で寝てるからさ」
「なにいいいいいい?!」
「そんでね、あの『携帯耳切りギツネ』の頭殴ったりして遊んでるんだ、あいつ結構面白い奴だよ。色々な人生経験しててさ」
「…」『みっミソチョルちゃんを殴った?がーんがーんがーん』
「昨日も店の帰りに一緒にうちに来てね、どうせ今日ここに一緒に来るんだからってミンジが泊まれ泊まれって」
「店の帰り…一緒に?」
「うん、僕たちきのうBHCにいったんだ。ヨンスさんが兄さんの働く場所はどんなところなのかって気にしてたから」
「…ヨンスも行ったのか?!」
「うん、みんなでね。そしたらなんだかわけのわかんない男がいてさ
ヨンスさんのことをチャンソだかチュンソだか言って気安く肩に触ったりしてさぁ」
「なにっ?」
「見たこともない変な奴だった」
「お前とどっちが変だ…あいや、その…そんな不審な奴が店に?」
「ああ、テプンさんだっけ?チーフ代理の」
「えっ?テプンがチーフ代理だって?」
「うん、相当大変そうだったけど…」
『そりゃそうだろう。アイツに店を切り回す脳はない!アイツは脳まで胃袋だ!』

「あっメリーゴーランド終ったみたい、じゃあまたね。食事の時に一緒に食べようね、バイバイ」
「…」

「ミンチョル!なんでスヨンが一緒にいるのか聞けたか?!」
「…仲がいいんだって…」
「えっ…」
「…。ああ。後で食事一緒に食べようって…。ふっ…ふふふ…ふははっははははっ」
「…笑い事かよ…」
「笑うしかない!もういい!僕は家族に何も望まない!だからお前も別れた女などに何も望むな!」
「…」
「しっかりしろ」
「…う…」

「もう〜二人ともずるいですよぉ。なんで僕を置いていくんですかぁ」
「ああ、チョンウォン君、人生は楽しまなきゃいけないな!僕はよおくわかった!」
「は?そうですか」
「僕は、僕なりに、この旅を楽しませて頂く!」

『ああ…スヨン。何故この場に…。せっかくふさがった傷口がまた広がるような気がするぜ…。ううっ…』

「イナ、何深刻な顔してるんだ」
「お前元気いいな。なあ、スヨンが来てる」
「ふーん」
「ふーんって」
「別にどうでもいいんだ、あの人のことは」
「…お前っていいよな、すぐに方向変えられて…」
「お前はいつまでもグジグジ拘ってるよなあ。フンっそんなんじゃ一流の経営者にはなれんぞ!」
「…いいよ、経営者になんかならなくても…俺はただ、幸せになりたいだけなんだ…」
「一ついいことを教えてやる」
「なんだ」
「あの人は、お前の愛を拒否したんだ。そう、僕の大きな愛さえもな」
『…お前の場合は片思いだろう…』
「お前、拒否されたんだぞ」
『…お前だろ?全面拒否されたのは…俺は一瞬でも…いや、一年ぐらいは…受け入れられたんだからな!』
「そんな、拒否する人物にいつまでも固執していたって仕方がないだろう。進歩がないぞ!」
『…くう…こいつ馬鹿だが一理ある…』
「と、父さんに言われた」
『やっぱしトファンの受け売りだったか…』
「だからもういいじゃん、ね、ミンチョルさん」
「ふっ、そうだね。新たな目標に向かえってことだね」
『おお、初めてミンチョルと意見があったぞ。やはり御曹司同士、通じ合うものがあるんだな
それに、昨日の夜、じっくり観察させて貰ったけど、…ぱん○を見てやろうとしてたら、後頭部にミンチョルの足がぶつかったみたいで
僕は昨日二度も記憶が飛んだぞ!あっそうだ、後でバンジージャンプをしなくては!』

ミンチョルは、テス夫妻を見つめている
遠くでソンジェとヨンスに迫る人影が…

「…なんかもめてないか?お前の弟…」
「ほっておこう」
「だって奥さんもいるぞ」『スヨンだって一緒だ!』
「…ちっ。もうどうでもいいのに…」
「とにかくいってみようぜ」

ミンチョルとイナ、ソンジェ達の方に走りよる。チョンウォンは上を走るモノレールに見とれている

「なんなんだ君は、昨日の奴じゃないか!失礼だぞ!」
「んへっ…何?」
「ソンジェさん、助けて」
「んへっ僕はソンジュだよ」
「何言ってるんだ、変な顔して!」
「君に言われたくないぞ、ふっ」
「とにかくヨンスさんを離せ」
「チョンソだよ。彼女はチョンソだ。ほら、この写真みて!なにもかも一緒だろ?」
「そんな子供の頃の写真出されても…」
「とにかく僕は5年待った。やっと現れたんだ、チョンソ〜んへっ」
「昨日もわけの解んないこと言ってたけど、お前、つけてきたのか?」
「ん?ああ、昨日の帰り、君の車を追いかけていたんだ。気づかなかった?んへへ」
「気持ちの悪い!ストーカーじゃないか!」
「あら、ソンジェさん、それはあなただって私にしたわ」
「ヨンスさん、嫌だなあ、そんな事思い出さないでよ」
「とにかくチョンソだ!」
「違います!」

「キム・ジス〜」
「は?うわっなんだあの人はっ」
「チスから手を離せ!」
「は?チョンソだよ」
「チスだ!」
「何言ってるのよ、私はヨンスよっ」
「そうだよ、離せよ」
「ソンジェさんっ助けてっ」
「んへっだから僕はソンジュだって」
「何言ってる…」(以下延々と繰り返す)

「おい、ミンチョル、行かなくていいのか?」
「いい」
「なんで?ソンジェ君だけじゃなくて変な男が二人も奥さんに絡んでるぞ」
「いい」
「冷たくないか?」
「僕にはわかる」
「何が?」
「ヨンスは喜んでいる」
「は?」
「見ろ、三人もの男にチヤホヤされて、ほら、口元、少し緩んでるだろう?」
「…そ、そう言えば…」
「楽しんでるみたいだ。ほっておく」
「でも、スヨンがひとりで…あれっ?いない」
「きっとイイヒトでも見つけたんじゃないのか?」
「うううっ…」
「さあ行こう。テス君たちの後をつけるんだ」
「え?なんで?」

イナ、ミンチョルに腕を掴まれ、強引に引っ張られていく

「へんなことに巻き込まれたから二人を見失ったじゃないかっ!くそう」
「…いいじゃねぇか。明日はテスと二人で遊べるんだろ?あっでもさぁ、奥さんたちが来たんじゃあ
お前もテスを見習って家族サービスした方がいいんじゃないのか?」
「…イナ」
「ん?」
「さっきのアレを見ただろう?」
「アレって…」
「ヨンスは三人の男にチヤホヤされて喜んでいる」
「ん…ああ…まあそう見えなくもないが…」
「これ以上の家族サービスがあるか?」
「…でも、奥さんは、こういう時こそお前に腕を引っ張っていってもらいたいんじゃないのか?」
「…それは、できなくはない!」
「だろ?じゃあやれよ。株があがるぜ」
「…だが、その後どうすればいいんだ!」
「…え?…一緒に乗り物乗ったりゲームしたりランチ食ったり夕飯食ったり…」
「それはテス君としたいことだ!」
「…ああ…そう…」
「な、引っ張っていったはいいが、その後する事がない」
「…」『そうかなぁ…俺だったら、モノレール乗ったり散歩したりするだけでも嬉しいのに…』
「だから今のままの状況で、チヤホヤされる気分を味あわせてやるのが、夫として僕にできる最高のサービスなんだ!」
「…そう…か?」
「ああ、そうだあのおん…いや、テス君の奥さんにも、そういう状況を提供できればいいんだがな。そうしたらテス君はフリーなのに!」
「…いや、だからミン…」
「さあ、二人をさがすんだ!」
「あの…だからミン…」

イナ、ずるずると引っ張られていく


ミンチョルの焦り

あの女め!僕のテス君をいいように引っ張りまわして!
そんな事ばかりしていると、明日、ミソチョルちゃんを貸すのをやめるぞ!

それにしても、どこへ行ったんだ!ああもう、イナは遅い!
スヨンさんを見かけてからというもの、少し走るとすぐに胸を押さえてハアハアしている。…仮病だ!

…ん?あっいた!いたぞ!見つけた!

「イナ!こっちだ!早く来い!」
「ミンチョル〜、もう辞めようよ〜。どうせ明日テス君と一緒に遊ぶんだろぉ?」『っていうか遊んでもらうんだろ?か…』
「いいから来るんだ!」
「うおっわかったわかった!行くから引っ張るな!」

イナはノロマだ!そんなノロノロしているからスヨンさんはチョンウォンに傾いたり仕事一筋になったりしてたんだ!
大体あの強風の岬に家を建ててから、風が強い、家が吹き飛ぶかもしれない…ぐらいのこと、考えなかったのか?
それでよく、ISICを、一時的とはいえ、切り回していたものだ!…ああ、勝負師のカンかな? …だが、女性に対してのカンは、鈍かったようだな、残念!

ああっ見失う!ん?あ…あれは…

「うわっ急に立ち止まるなよ!…どうしたんだミンチョル」
「プリクラ…」
「ん?」
「テス君があの女に、プリクラの中へ連れ込まれて襲われそうだ!助けに行かなくては!」
「…。いいじゃんか、襲われたって…夫婦なんだからな!」
「いや、テス君は嫌がっているに違いない!」
「…」『思い込みの激しいヤツ…真顔で言ってるからなあ…病気だな、これは』
「さあ、行こう!」
「行こうって…お前、また邪魔する気か?テス君に叱られてもいいのか?!」
「ふっ」
「…なんだよ、フッてのは…」
「…今日のところは、あの女の機嫌を損ねないよう、泳がせておく」
「…」『わからん。ミンチョルの考えが全くわからん』
「だが、プリクラを調べる必要はある」
「えっ?」

僕は、阿呆面をしたイナの腕をぐいっと引っ張り、今し方テス君とあの女が出てきたプリクラを調べに行った


翻弄されるイナ

いいけどね…。スヨンの事をあれこれ思い巡らしているより、ずっといいけどね…
でも俺はこの旅から帰ったとき、確実にミンチョルを見る目が変わると思う、このままのミンチョルだったら…

あのキツネの縫いぐるみといい、テス君への執着といい、そして家族への距離感といい…何かおかしい
いくら義弟と嫁が必要以上に仲がいいからって、コイツが一言言えば丸く収まるもんだろう、普通
それを必要以上に義弟に遠慮してないか?いや、嫁にも…。何故だ?何か後ろめたいことがあったっけ?
あるとするなら親父さんの事ぐらいだろ?

しょうがないのかなぁ、小さい頃から培われた性格ってのは…
でも、いつだったか

『僕は感情を隠すのが上手いんだ』

って言ってたけど、『キツネ、義弟、嫁』の三点…あ、いや、テス君もいれて、四点だ…については感情が隠し切れてませんからっ残念!

…おっと、昨日の夜みてたテレビの芸人の口調が移ってしまった…

こういう時、あの芸人なら、最後になんて斬るだろう…うーん

『スダレ前髪で、瞳隠して口元隠さず。震える唇気持ちが伝わる』斬りっ…

どうだろう…。イケてるかな?ふっ…

ああもう、プリクラを調べるってなんだよ。俺はプリクラなんかやったことないぞ!

「ここに立ってみろ」
「え?何?まさか撮る気?」
「実験だ!」
「実験?」
「明日テス君と撮る時に、スムーズに事を進めないといけないから、手順を覚えておかなくては…」
「…いや、待て、俺と撮るのか?気持ち悪くないか?」『テス君と撮るってのもキモチワルイけど…』
「実験に犠牲は付き物だ」
「犠牲って…」
「なんだ、いいじゃないか。ここで撮った君と僕のプリクラ、店でお客さんに差し上げたら喜んでもらえるぞ」
「あ、なーるほど」『計算高いヤツ…』
「フムフム、こうなってるのか、どれがいい?」
「…何が…」
「フレーム」
「…」
「やっぱりハートかな?」
「…」『げえっ』
「ああ、でもハートは…ダメだ!ダメだダメだっ」
「…どうした…深刻な顔して…」
「…ハートで撮ると…また『ワンパターン』って言われる…」
「ああ、ヨンスさんにか?」
「…それに『顔が入りきらないじゃないの』とも…」
「ぶっ」
「言っておくが、これは僕だけの問題じゃないぞ!お前だってそうだろう」
「知らない、俺、撮ったことないもん」
「何?スヨンさんと撮らなかったのか?」
「…」
「ああ、すまない。じゃ、撮ろう」
『こいつ…わざとスヨンの名前出したな…。底意地の悪い男だ』
「ほら、前を向くんだ。あっ!こんなフレームがあったんだぁ」

えらいニコニコ顔でミンチョルが選んだフレームは…キツネ…

「いい顔しろ」

俺は、思いっきりふてくされた顔をした
ミンチョル?…想像がつくだろう?キツネのフレームに御満悦で、それはそれは、極上の笑顔だったよ
ああ、店で客に配るのがもったいないくらいだぜ
売れば高値で売れるだろうよ、けっ

「もう一枚とろう。今度は君がフレームを選べ」

俺は薔薇のフレームを選んだ。ミンチョルの口がへの字になった。ざまーみろ

「何やってるんですかっ」カシャっ

あーあ。ミンチョルと俺は、飛び込んできたチョンウォンの方を向いてしまったので、お互いに間抜けヅラになってしまった

「ああ、プリント倶楽部ですね?名前だけは知ってます。いやぁ、ミンチョルさん、一緒に撮りましょう!No,1ホ○ト同士、良い記念になる」
「…僕はNo,1じゃないよ」
「いや、これは失礼。でも僕たち御曹司同士、記念になる」
「…イナ…」
「撮れば?二人で」
「…お客さんに喜ばれると思うか?」
「…ああ、チョンウォン、顔はイイからな」
「さ、撮りましょう。んーと、どうすればいいんです」カシャ

「あーあ、むやみにボタン押すからもう撮れちゃったぞ」
「えええっ。まだナウいポーズさえも決めてないというのに!」
「…」
「もう一枚撮りましょう」
「…」
「さ、いきます」カシャ

「あああっまたっ」
「…何遍やっても同じだ!もういいだろ?ミンチョルももういいだろ?」
「ああ…」

ミンチョルはなんだかまだ未練がましそうに見えた
いいじゃねぇかっ!明日、テスくんとっ!とるんだろーがっ

ふと気がつくと、隣のプリクラがやけに騒がしい
なんなんだ?


プリクラ騒動

「僕だ!僕がチョンソと撮るんだ!」
「あっちへ行け!俺がチスと撮るんだぞ!」
「辞めろよ!ヨンスさんが怖がってるだろっ、さあ、この隣のプリクラで撮りましょう、スヨンさ〜ん、一緒に撮りましょう」

「スッスヨっ」

イナ、顔面蒼白になる

「どうした?イナ」
「スヨ…スヨ…」
「どうしたんですか?ミンチョルさん…ああ、スヨンさん」
「あらっチョンウォンさん。…イナさんも…どうしたの?イナさん、顔色が良くないわ、まだ胸が痛むの?」
「あっう…」『お前のせいなんだぞ…スヨン…』
「背中さすりましょうか?」
「いやっいいっ」『そんな事されたら、ますます未練がつのる…』

「スヨンさん、あの連中がケンカしてる間に記念のプリクラ撮りましょうよ、あれ?兄さん、兄さんたちもプリクラ?男同士で?」
「…ああ、いけないか?店のお客様へのおみやげだ!」
「ふーん。さ、スヨンさん、入って!」
「あら、あなた、室長!」
「や、やあ、ヨンス、楽しそうだね、随分賑やかだ」
「いやだわ、困ってるのよ。あの不思議な人たちが、私を誰かと間違えているらしくて…」
「そう?僕には楽しそうに見えたけど」
「…ひどいっ!私がどんなに困っているか、わかってくださらないの?」
「兄さん!またヨンスさんを泣かせたね!」
「…あ…の。その…」
「うっうっ…いいわ。私泣かない。そのかわり、私と一緒に一枚撮ってくださらない?」
「…昔撮ったじゃないか…」
「あれ一枚きりよ!ひどいわ!ミンジなんて、昨日も今日も、もう20回ぐらいプリクラやってるのよっ!」
「なにっ?!」
「兄さん、撮ってあげなよ。…僕じゃダメなんだ、ヨンスさんには…」
『フン。口ではそんな事言いながら、心の中ではなんて思ってるんだかな!』
「お願い、室長」
「…わかったよ」

カシャ

「あら。ハートのフレームね。懐かしいわ」
『あっしまった。どーでもよかったから、適当にボタン押したらハートだったんだ…』
「うわぁ、ウレシイ。昔のと比べてみようかな?うふふ。室長は、渋くなったわねぇ…。渋い…渋いお顔…うっうううっ」
「どっどうした?何で泣くんだ?」
「…笑ってくださらないなんて…私のことを愛していないのねっ…」
「兄さん!何故笑ってあげないんだ!僕に言ったあの言葉を忘れたの?必ずヨンスさんを幸せにするって!」
『忘れた…』
「ひどい人だ、兄さんはやっぱり冷たい人なんだね!」
「…わかったよ、悪かった。ヨンス、ごめんね、もう一度撮ろう」
「ええ。あなた」

ミンチョル、笑顔

「わあ〜かわいい笑顔ね。まあっあなた、フレームがハートじゃないわ」
「かわいいだろ?キツネだよ」
「…そうね。少し子供っぽいかもしれないけど、あなたの笑顔が素敵だからこれでいいわ」
「…」
「兄さん!やれば出来るじゃないか。見直したよ。さあヨンスさん、スヨンさん、僕と一緒に撮ってよ」
「ええ、いいわよ」

『す…スヨンまで…なぜ…』

「あっこらっ僕がチョンソと撮るんだぞっ」
「何を言うか痴漢野郎め!俺のチスに触るな!」
「はいっチーズ」カシャカシャっ


ミンチョルの呟き

ヨンスと、プリクラを撮ってしまった…。妻だけど、今ではなんだか遠い存在に思える…
キツネのフレームのおかげで笑顔になれたのに、それをまた貶した…
そしてまた、あのへんな男たちにチヤホヤされて、困った顔をしながら…喜んでいる。僕にはよくわかる

ふうっ…。夜、こっそりもう一回来ようかな。ミソチョルちゃんを連れて…。はあっ…


二日目の夜は更けて…

あー、疲れた
プリクラ騒動で本当に疲れた

いや、その後まだ、騒動があったんだ
テス夫妻の後をつけてったら、バンジージャンプがあったんだ

テス達は、止せばいいのに並んでやがる
俺は止めようって言ってるのに、ミンチョルは並んでしまって動かない

「いいか、ミンチョル!俺は、並ぶだけだからなっ!いいな!」
「…」
『なんだよ…その寂しげな潤んだ瞳は…。そんな目なら俺にだってできるぞ!』
「…あの女だけ落ちればいいのに…」
「馬鹿、そんな事言うな」
「ほら、カップルで跳んでいる人もいるだろう?テス君たちは二人で跳ぶつもりなんだな…ぐすっ」
「…じゃあお前も奥さんと跳べばいいじゃないか!」
「だめなんだ、妻は病弱だからな」
『…そういう時はどうして晴れ晴れとした顔になるんだ?え?』
「見てみろ。カップルばかりだ…」
「え?…はっ…スッスヨ…」
「ん?スヨンさんも並んでいるのか?」
「…ああ、お前の義弟とな…」
「ソンジェか?ソンジェなら人畜無害だから大丈夫だ」
「…いくら人畜無害でも、俺の神経に触るようなことばかりする奴だよな、お前の義弟って…」
「だろう?!君もフクスケ人形を割りたくなるだろう?」
「…お前の気持ち、よくわかったよ。だが、俺はフクスケは要らない。そんな物に頼ったら、取り返しのつかないことになりそうだ」
「?何言ってんだ?ストレス解消にもってこいだぞ」
「いや、いい。フクスケ割りは、危険だ」『麻薬みたいなモンだろう…。ミンチョルを見ていると解る
フクスケ割りがエスカレートして、こんなになっちまったんだ…
本人に直接言いたいことを言わない限り、ミンチョルは変なまんまなんじゃないか?』

「なっ何をしているっ!」

突然走り出したミンチョル、俺はミンチョルの突飛な行動に、慣れては来たものの、本当に疲れる…
俺、休養の為に温泉に来たんじゃないのか?カジノ
「ミンチョル、どうしたんだよ」
「ミンジ!ミンジ!止めなさいっ危ないからこっちにくるんだっ!ミンジ〜!」

見るとミンジちゃんとその彼氏のラブが、今、まさに、抱き合いながら、ジャンプするところだった

「ミンジ〜〜〜っ」

ミンチョルは、半狂乱になりながら、ブランブランしている二人を見ていた

あーあ。泣いてる

「無事じゃん。よかったな」
「無事じゃないっ!あの二人、いったいどこまで!」
「野暮な事言うなよ、ミンジちゃんだってもう成人してるんだぜ。それにラブも、真剣に付き合ってるみたいだしさ」
『あ・よく知らないのに口からでまかせ言っちまった・・・』 「なにっ真剣にだと?」
「あ…ううん…俺は良くしらないけど、ほれっ義弟に聞いてみろよ」

ミンチョルは、涙をササッと拭いてから、…スヨンと…スヨンと並んでいるソンジェ君のところに行った

「真剣なのか!」
「兄さん、何?」
「真剣に付き合っているのか?」
「兄さん、僕たちは友達だよ、ね、スヨンさん」
「違う!ミンジだ!ミンジとあの、あの」
「ラブ君?うん、真剣みたいだよ。昨日も『いずれは結婚したいなぁ』なんて言ってたよ。ね、スヨンさん」
「けっこ…ん…」

ミンチョルが膝をついて座り込んだ。俺は助けに行きたいけど、足が動かない。スヨンの顔を見るのがつらい

「しっかりしてミンチョルさん。ミンジとラブ君は、好き同士。今はラブラブだけど、でも…もう少し長い目で見たほうがいいわね、結婚については
私は、そう思うわ」
「…」
「ね?ミンチョルさん」
「…でも、ミンジは、傷物になってはいないだろうか…」
「…さあ…それは…ご本人に聞かないとねぇ…」
「…そんなこと!聞けない!聞いてもしも『そうよ』なんて言われたら…ああっ」

「室長、どうしたの?」
「ヨ、ヨンス」
「まあ、こんなに泣いて…どうしたの?話して」
「ミ・ミンジは、まだ$%&だろうか…ぐすっぐすっ」
「はあ?」
「…あの、ラブと、&%@$ないだろうか…ぐすっぐすっ」
「そんな事だったの。泣かなくてもいいじゃないの。少しみっともないわ」
「…」
「私、今からこの方とバンジージャンプするの!」
「…」
「やあっんへっ」
「…そう…」
「それだけ?私がこんな変な人とあそこから、ミンジとラブ君のように抱き合って跳ぶのよっ。いいの?」
「…ヨンス…」
「何?」 「…それは失礼だよ。『変な人』だなんて…」
「そうそう。んふっ」
「だって変なのよ!跳ぶ前に何か投げて、びょ〜んびょ〜んしてる間にどーのこーのって」
「?」
「戻ってくる!」
「?」
「ねえ、何を投げるんだった?」
「んへっ…これさ!」

ブーメランを取り出すソンジュ

「ねっ変な人でしょう?」
「…確かに…」
「いいのね?私がこの人と一緒に跳んでも…」
「…ああ、いや…その…止めておくべきだね」
「そうでしょう?妻がこんな変な人と抱き合って跳ぶというのよ。止めない方がおかしいわよねっ」
『…これは、本当にヨンスか?』「あ、その前に、君は体が弱いからね、危険だろ?僕と一緒に跳びたいと言っても、僕は君をとめるよ」
『ああ、また口が勝手に…』
「あなた…室長…ミンチョルさんっ」

「ミンチョル?ねえちょっとチョンソ、この人ミンチョルっていうの?」
「私はヨンスよ!何度言えば解るの?気安く肩に手をかけないで!」
「んふっ。ねえ、怒ってないで、教えてよ、この人がミンチョルっていう人なの?」
「僕はミンチョルですけど、何か?」
「ふーん。後でお話があります」
「は?」
「んふっ。チョンソ、順番が来たよ、行こう」
「嫌よ、私は行かないわっ」
「あっチョンソ」
「チス!来い!逃げるんだ!」
「あっ…あなたっ室長っ…」 「ヨ・ヨンス…」

俺は少し離れて一部始終を見ていたが、…面白かった
確かにミンチョルの言うとおり、ミンチョルの奥さんは、このチヤホヤされている状況を、ある意味楽しんでいるようにも見える
奥さんは、後から来た、この上なく濃い人に引っ張られて、またどこかへ連れ去られてしまった
あの、変な男(突然スーツの胸ポケットからデカいブーメランを出していたな…)が、その後を、それはそれは素晴らしいフォームで走って追いかけていった…
ミンチョルは、妹さんのことをぐじぐじ泣いているようだが、肝心の妹さんは、とっくに跳び終わってもうどこかに行ってしまったようだ
ミンチョルは、涙で充血した目をして、俺のところに戻ってきた

「もうすぐテス君たちが跳ぶみたいだ」
「そう…」

そう言えば、あのフクス…いや、ソンジェ君とスヨンは?
はっ…あの二人がこっちに来る!

「スヨンさん、楽しかったね」
「ふふっごめんなさい。必要以上に抱き着いちゃったわ」
「いいんだ。嬉しいよ」

がーんがーんがーん…もう跳び終ったのか… そしてこいつに、『必要以上に』抱き着いたのか…がーんがーんがーん…

「あれっイナさん、ヨンスさんたち知らない?」

俺は呆然としてはいたものの、この二人の姿をこれ以上見たくなくて、ヨンスさんが連れ去られた方向を指差した

「え?あっち?あっちへ?なぜ?」
「ねえ、あのソンジュさんと争っていた人がまたヨンスさんを『チス』って人と勘違いして…」

勘がいいな、スヨン

俺はそう言いたかったのに、言えなかった
だってスヨンとソンジェ君は、もう走り去っていたから…

動く気力の無くなった俺の肩を、ミンチョルがポンと叩いた

「いつでも割らせてやるぞ、フクスケ…」

ふうっ…


二日目の夜は、もっと更けて…

ああ、悲しい出来事を思い出して、随分語ってしまった…

その後、ぐずぐずしている俺達のところにあいつがやってきた

「もうっ二人とも勝手じゃないか!僕をほおってどこに行ってたんだ!…
おお、ミンチョルさん、やっと僕と勝負する気になったようですね?ふふん、負けませんよ」

チョンウォンだ、間違いない!

ああ、また昨日見ていたお笑い番組の芸人のギャグを使ってしまった…
バンジージャンプのところでチョンウォンに掴まってしまった
ミンチョルは、もうバンジーに興味は無くなっている。テス夫妻が既に跳び終わり、どこかへ姿をくらましたからだ

「ヨンスのおかげで、テス君たちを見失った…。ふっ…ヨンスはどうして僕の邪魔をしたがるのかなぁ、ふっ…ふふふふっ」

うつろな目でそう呟くミンチョル
でも俺は、俺自身がショックから立ち直るために必死だった
だから、ミンチョルを慰めるなんて、とてもできやしなかったんだ
そうしたら、あいつだ

「さあっ丁度空いてますよ。はいっ並びましょう。待ったなし!逃げてもダメ!いいですね?ああ僕はこの瞬間をどんなに待ち望んだことか…
さあ、登りましょう」

そう言うと、チョンウォンは、ミンチョルの背中を押してどんどん登らせていった
俺はその出来事が現実に俺の目の前で起こっているように思えなかった
ただ、ベルトに縛られているミンチョルとチョンウォンの姿を地上から見上げていると、それがだんだん、スヨンとフクス…ソンジェ君の姿に見えてきてしまった

俺の目に涙が溢れているようだ。二人の姿がうすぼんやりとしか見えない

…跳んだ!

「ぎゃあああああっ」

どちらの叫び声だろう…

さっきまで跳んでいたカップル達は、みな、しっかりと抱き合いながらジャンプしていた
しかし、チョンウォンとミンチョルは、さすがにそれはしていない
…背中合わせだ
…それは、怖いだろう…

きっとミンチョルだって、恐怖に顔を引きつらせていたろうな…
しまった…泣いてる場合じゃなかった…

俺は我に返って涙を拭くと、伸び縮みしている二人の、顔が見えるあたりまで走って行った

うわははは。うははは。…いいものを見た!
ミンチョルが、完璧にキツネになっている

コーンコーン

俺は心の中で、びよーんびよーんと引っ張られているキツネ顔のミンチョルにセリフをつけてやった

「コーンコンコン」

うわははは。うわははは
おもしろい。ミンチョルの奴、本当に顔が引きつってる

チョンウォンはどうだろうな
ミンチョルでさえこんな真っ青なんだから、チョンウォンなんてワンワン泣いてるかもしれない…

ん?
あいつ…
顔色一つ変えてない…

さすがトファンの息子だな…。ここぞってときはキメるんだな…
それに引き換え、俺といいミンチョルといい、どうしてこう、動揺してしまうんだろう…

二人のジャンプが終り、俺はミンチョルをからかってやろうと、出口に迎えに行った
しかし二人はなかなか出てこない
10分ぐらい経って、やっとミンチョルが、赤い目をしながら出てきた

「ミンチョル〜、泣いただろう」
「…ものすごい恐怖だった…」
「お前、叫んでたろう、カッコワリィ」
「そんなこと言うなら君もやってみればいい!どんなに恐ろしいか…まだ震えが止まらない」
「お前、顔が引きつってたぞ…クププ…だけど、チョンウォンの奴、顔色一つ変えてなかった。俺はアイツを見直したよ。チョンウォンは?」
「…」

ミンチョルは無言のまま顎をしゃくり、ある方向を示した
担架が運ばれている。乗っているのはチョンウォンだ

「どっどうしたんだ?怪我でも?」
「…気絶してる…」
「きぜつ?」
「ああ、跳ぶ前に係員がこう言ったんだ。『あんたまた来たのか!昨日も気を失ったじゃないか!迷惑だから止めろ』って…
でもチョンウォンのやつ、勝手にベルトを巻き付けて『この人と跳ぶから大丈夫だ!』って…」
「…」
「それで、…跳んだ…」
「…」
「死ぬかと思った…。怖かったぞ」
「…そうか…。やっぱりアイツは馬鹿なんだな」
「そうだな」

そんな事もあったな。でもミンチョルの引きつりキツネ顔は、一生忘れないぞ

夕飯のときに、みんなが写したプリクラを見せ合うことになった
一番多く撮っていたのは、やはりミンジちゃんとラブだ
昨日から撮りまくっているらしく、50枚もあった
どーすんだよ、こんなにたくさん
こんなラブラブの二人のプリクラ、お客さんに渡せないぞ
あーあ、ホッペにチューなんてもう全然平気だね、この二人
もちろんミンチョルは、二人のプリクラを見てワナワナ震えている
その次に多いのがヨンスさんのプリクラだ
ご存知の通り、ヨンスさんはモテモテだったからな
いろんな人と写ってる
ミンチョルとも写ってるし…。あの変なヤツや、あの濃い人、それからソンジェとか、あとスヨンと…ソンジェとヨンスさんの三人のとか…
テス君たちのは、ほのぼのとしてる
夫婦で写ってるのもあるけど、家族4人で撮ってるのがほとんどだ

「イナさんも一緒に撮りたかったのになぁ。捜してたんですよぉ。どこにいってたんですかぁ?」
「あ、いや、ミンチョルとチョンウォンに引っ張りまわされてて…」
「あー、あの二人に…。イナさん」
「ん?」
「大きな声じゃ言えませんけど」
「なんだ?」
「あの二人と一緒にいると、馬鹿になりませんか?」
「…」
「気をつけた方がいいですよ」
「…」

テス君、ちょっとひどいぞ。チョンウォンはわかるが、ミンチョルは、ちょっと可哀相だぞ
まあ、テス君がそういうのもわかるけどさ。ふー

食事が終わって、寝る前にひとっ風呂浴びて、俺はまたこっそり叔父貴たちの部屋に潜り込んだ
廊下だってなんだって、あの馬鹿コンビ(おっと…言っちゃったよ…)と一緒よりは安らぐからな…
さあ、明日また運転してかなきゃなんないから早く寝よう


ミンチョル、深夜に…

眠れない。寝る前に風呂に入った。テス君は今日もイナと喋っていて、僕とあまり喋ってくれなかった
でもいい。明日はデート一緒に遊べるんだ
そう思うとちょっと興奮してしまうな

そうそう。プリクラ撮らなきゃ、二人で
あっそうだ。今からミソチョルちゃんと一緒に撮ってこよう。明日の予行演習だ!

あれ?イナがいない(…シャレじゃないぞ。僕はシャレなんか言わないぞ)
スヨンさんでも探りに行ったのかな?まあいい。さ、ミソチョルちゃん、このドアホウに気づかれないように行こうね

僕はミソチョルちゃんを連れてプリクラのある所まで行ってみた
だが、遊園地には綱が張られていた…

そうか、閉園時間があるんだ…
ミソチョルちゃん…残念だね…ここまで来たのに、プリクラ撮れないなんて…

僕はミソチョルちゃんを抱きしめて、しばらく地べたに座り込んで空を見上げていた

飛行機が飛んでいる。ん?飛行機?
しかも低空飛行している…
なんだ?敵機来襲か?

ふっまさか、そんな時代じゃないし…。でも、なんだか低空飛行しているように見える

飛行機は、しばらく僕の頭上あたりを旋回し、三つのライトを落とした!ように見えた

僕は疲れているのかな…。今飛行機から落とされた物はなんなんだろう
まさか爆弾?!

三つの光は、すごい速度で落ちてきたが、ある時点から急に速度が緩くなった
そこからフワフワとどこかに漂っていった

なんなんだ、あれは…

結局落下地点は、はっきりしなかった
僕は相当疲れているのかもしれない。早く寝よう

ミソチョルちゃんを抱いて、僕は部屋に戻った。ガチャ…ん?…開かない…

しまった。鍵を持って来なかった

ピンポンピンポーン

ううう。あのドアホウはきっと起きないだろう。ううう。どうしよう…
はっそうだ!こんな時こそテス君だ!テス君たちの部屋でもウフフ、寝かせて貰おうウフフ

ピンポーン「すみません。あのぉ締め出されちゃって…」ガチャ
「何だよ、どうしたんだミンチョル」

なぜイナが…
なぜ寝間着姿で…

「…何…してる?」
「え?あ、いや、ちょっと遊びにきててその…お前こそキツネ持ってどうしたんだ?」
「あ…いや…そのあの女に渡しに来た…んだよ…」
「え?今夜渡す事になってたの?」
「あ…の…。明日朝からテス君と…その遊びたいし…その」
「テスたち、もうぐっすり寝てるぜ」
「あ、ふーん」
『がっかりしたな?』
「あれっこんなところに布団が?なぜ?」
「い、いや、これは、その、俺がその、仮に寝ようと思ってな」
「仮に?」
「あああ遊びに来てて、眠くなったから、その、仮にここで寝て、起きたら、その、向こうの部屋に行こうと思っててな。じゃ一緒にあっちの部屋に行くか」
「チョンウォンが起きない」
「あ、そうか…」
「仕方ないな、ここで寝よう」
「へ?」
「一緒に寝よう、イナ」
「い、嫌だ!」
「しょうがないだろう、チョンウォンが起きないんだから」
「じゃあ二人で起こそう」
「だめだよ。オートロックだろう?二人とも出てってこっちも閉まったら僕たち廊下で寝ることになるぞ」
「あ、ああ、そうか。じゃあ俺がチョンウォンを起こしてみるよ」
「起きないと思うが」
「でもこんな狭いところで眠れないだろう!俺は明日運転して帰るんだぞ!」
「…そうだったな」
「じゃあお前、ここで待ってろ。チョンウォンがドアを開けたら呼ぶから来いよ」
「…」
「いいな?」
「ああ、わかった」

神様、ありがとう!こんなチャンスがやってくるなんて
イナが外に出たとたん、僕はイナが寝ていた布団に潜り込んでミソチョルちゃんと一緒に眠りに落ちた

え?イナがどうなったか?

…知らない…


イナ、窮地を脱す

ミンチョルのやつ、ドアを開けない!
チョンウォンが起きないのはなんとなく解っていたが、ミンチョルまで俺を締め出すなんて…

あっ、あの野郎、まさか最初からそのつもりだったんじゃ…
俺は運転手だって言ってるのに!事故起こしてもしらないからなっ!

俺は寝間着姿のまま、疲れ果ててドアの前でうとうとしていた

「あの、お客様、もしかして締め出されました?」

綺麗な声がした。俺は夢かうつつかわからないまま、その声の方を見た

「あら?もしかすると…キム・イナさんじゃない?」
「は?…」
「うふっ。お久しぶりね」
「…もしかして、チニさん?」
「そうよ。覚えていてくださった?」
「…君、どうしたの?こんなところで、こんな時間に…」
「うふふ。私このホテルで一から修行し直してるのよ」
「ええっそうだったの?それで、君、こんな遅くに、見回りかなにか?」
「そうよ。一応支配人なの。総支配人はハン・テジュンさんって言って、有名な方よ」
「そうなんだ…へぇ」
「締め出されちゃったのね。何号室?今マスターキーを持ってくるわ」
「ああ、ありがとう」
「…それとも、少しお茶でも飲みます?」
「え?お、お茶?でもオ…僕…この格好だし…」
「じゃあ私部屋からコートを持ってくるから、ロビーに行きましょう」
「え?でもこの時間はもう閉まってるでしょ?」
「だから大丈夫なの。ついてらして」

チニさんだ。相変わらず綺麗だな。そして…背が高い…

俺はチニさんの黒いコートを借りて寝間着の上に羽織ると、チニさんの後をついてロビーまで行った

懐かしいな、彼女と組んでやった仕事を思い出す
チニさんは、俺とスヨンの事で心をくだいてくれた。そのお礼も言ってないや

「父に聞いたわ…残念な結果になったって…。でも、元気だして。スヨンさんだけが女性ってわけじゃないわ」
「…そうだね…。そう言えば君は、結婚は?」
「まだよ。仕事が楽しくて」
「…あの、余計なお世話かもしれないけど…チョンウォンも一緒に来てるんだ…」
「え?チョンウォンさん?」
「よかったら、会わないか?」
「嫌よ!絶対に嫌!」
「…君、チョンウォンの事、好きだったんじゃ…」
「どうかしてたわ、私!甘いマスクに騙されてたのよ」
「…チニさ…」
「だって、馬鹿でしょう?あの人」
「…」『ひどい…けど…当たってる…』
「結局あの人はお父様がいなくちゃ何もできやしない人なのよ!違う?」
「…ん…まあ…。でも。今は…その…頑張ってるよ、彼なりに…」
「へえ?きっと勘違いと頓珍漢で頑張ってるんでしょうね」
「…」『チニさんってこんなにキツかったっけ?』

俺はチョンウォンの事を『馬鹿だ』と見抜いていたチニさんを尊敬した
そして結構遅くまでいろいろな事を話した
スヨンが来ていることも…

チニさんは何も言わず、優しく微笑むだけだった
俺は思い切って名刺を渡した

「ホ○トクラブ?へえええっイナさんったらホ○トになったの?」

楽しそうに笑うチニさんは、眩しく見えた

「あれっそういやぁ、スンドン会長から聞いてなかったですか?」
「え?父はイナさんと一緒に働くことになった…とは言ってたけど、ま、まさか、父もホ○トに?!」
「あ…。しまった…」
「…へえええ…父がねぇ…ふふ。あのヒヨコが…」
「チ、チニさん…」
「そう、じゃあ今度お店に遊びに行かせてちょうだいね。父の働く姿も見てみたいわ」
「あ、ああ、いいけど、でもチョンウォンもいますよ」
「なんですって!」
「…あの…じゃあ、その隣にあるこっちに来てください。俺…僕は両方に顔出してますから」
「『BHC』?」
「ええ。チニさんには物足りない男たちかもしれませんが、結構お客さんは喜んでくれてますよ
よかったら、こちらに。こちらの方はチョンウォンはいませんし、来させませんから」
「そう…。父の姿もみたいけど、チョンウォンさんがいるのはイヤだし、わかったわ。今度BHCに行くわね」

長く話し込んでしまった。もう4時だ
チニさんにマスターキーで部屋を開けてもらって、俺は(嫌だったけど)チョンウォンの隣の布団で眠った

久しぶりに幸せな気分になれた…うふっ…恋の予感?うふふっ(^o^)


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