戻る 次へ 目次へ
不必要な心配  ぴかろん

「先生の馬鹿!どうしてその顔見せるんだよ!」
「その顔って…僕にはこの顔しかないもの…」
「ちがうっ!いやだ!眼鏡取って!ドンジュンとスヒョクが見てる!」
「…気のせいだよ…」
「いやだ!」
「…ウシク…」
「…いやだ!そんな風に腕組んじゃダメ!」
「こら…おいおい…」
「早く眼鏡外してよ!」
「…わかったよ。細かい字が読めなくてかけただけなのに…」
「僕が読むからいいの!」
「…ウシク〜」

「ウシクさんどぉしたの?」
「なんだよっ!ドンジュン!」
「…どうしたの?なんか怒ってる?」
「あっち行ってよ!」
「…どうしたの?先生…」
「先生に近寄るな!」
「ウシクさんってあんっ」
「ドンジュン、どうしたのさ」
「スヒョクさん、ウシクさんが変だ」
「スヒョクも来るな!向こうに行っててよ!」
「…先生…どうなってるんですか?ケンカでもした?
」 「ごめん、ドンジュン、スヒョク…。ウシクのヤツナーバスになってて…」
「なってないもん!先生が悪いんだもん!先生が」
「ウシク!」

先生が僕の顎をヒョイッと掴み、そして僕の瞳を覗き込む

「君は僕を信じてないの?僕が君を裏切ると思ってるの?!」

僕は…ただ不安なだけなんだ
その揺れ動く気持ちをいつもこうやって先生にぶつけてて…

「ウシクさん、疲れてるんじゃないの?ギョンビンにベッドルーム借りれるように頼んできたげるよ」
「…ベッドルーム…」
「何さスヒョクさん。変なこと想像しないでよね。まったく、ソクさんの影響かな?」
「変な事なんて…想像してないもん…」
「なんなら君もここに泊まってく?うひひーソクさんと一緒にさ」
「絶対いやだ!」
「どうしてさ〜…」

先生は、ドンジュンとスヒョクが言い合っている場所から数メートル離れたところに僕をひっぱり、そして抱きしめてくれた

僕はいつも我儘を言ってしまう…
こんな…みんなのいる前で…こんな…

「ウシク…」

「眼鏡も顎掴むのも、黒板から振り返るのも腕組むのも…全部見せちゃいやだ!…先生を盗られちゃう…」
「…心配しなくていいよウシク。みんなそれぞれに好きな人がいるもの…」
「好きな人?じゃあどうしてイナさんが泣いてるの?!どうしてテジュンさんがいないの?!」
「…ウシク…大きな声出すな」
「どうしてさ!イナさんに聞こえるから?!先生、イナさんに気遣ってるの?それともさ、その眼鏡顔をドンジュンさんに見せたかった?
ねえ…前に先生ドンジュンさんにキスしてもらったんじゃんねぇ!」
「…それが?」
「…」
「それがどうかした?」
「…」
「馬鹿だなぁ…」

そういうと先生は眼鏡をかけて僕の顎を掴み、そして深く口付けてくれた…

後どれぐらいでこの不安から解放されるの?!
先生…いやだ…笑顔なんか振りまくなよ!
僕だけの先生で居てよ…お願いだから…

「ウシク…僕は君だけのものだよ…知らなかった?」

しらない…そんな事しらない…
ああ…先生…強く抱きしめてて…お願い…


懐かしい香り  れいんさん

「すはせんせい、おつかれさまでした。これ、のみますか?」
「あ、ありがとうジュンホ君。君も疲れただろ?」
「はい、てぷんさんのたっきゅうのあいてはたいへんです
じぶんがみすすると、いまのはれんしゅうだとか、のーかうんとだとかわがままいうし
すまっしゅしたあとは、きせいをはっして、まるでたっきゅうの○いちゃんです」
「あはは、そうだね。てぷんさん、たしかにはりきっていたね」
「うごきすぎてはらへったからちょっときゅうけいって、やっとかいほうされました」
「うん。でも楽しかったね」

そういえば、こんなふうに、すはせんせいとふたりではなすのは、ずいぶんひさしぶりのようなきがします

「ジュンホ君、久しぶりにお家に帰って奥さんやお子さん達は凄く喜んでいたんじゃないの?」
「はい、そのひはみなあつまってごちそうをたべました。おとうさんやおかあさんやこどもたちもぼくをはなしてくれなくて…
そにょんさんも、その…よるおそくまでぼくをはなしてくれなくて…けほんこほん」
「ははは。そう、よかったね」
「すはせんせいは…?せんせいもおうちに…?」
「…うん…僕は…ジュンホ君みたいに皆を喜ばせてあげる事はできなかったな…」
「そうですか…」

すはせんせいは、ふっとめをうるませてとおくをみつめた
かなしげなそのひょうじょうのなかに、なにかつよいいしがみえたようなきがした

せんせいはくるしみながらなやみながら、それでもまえにすすもうとしているのですね
ぼくはあいするつまとであって
これからもつまはずっとそばにいてくれて
だからとてもしあわせで…

せんせいもきっとあいするひとをみつけたのですね
そしてこれから、そのひととともにいきようとおもっているのですね
もしもせかいじゅうのひとたちがせんせいをひなんしたとしても
ぼくはせんせいのみかたです
だって、せんせいがどんなにやさしいひとだか、ぼくはしっているから
いろんなことをたくさんかんがえたすえのけつろんなんだろうとおもうから

「スハ。テプンにはもう解放されたの?」
「あ…テジンさん」

テジンさんがほほえみながらぼくたちのところにやってきました

せんせいがつかもうとしている、ただひとつのあい…
そしてテジンさんがまもろうとしているただひとつのあい…
ぼくは、ふたりがしずかにたしかなあいをはぐくんでいるのだとおもいました

「ぼく、ちょっとおなかがすいたのでむこうでなにかたべてきます」

ぼくはふたりにそういって、そのばをそっとはなれました

「あ…ジュンホ君…」
「…タイミング悪かったかな?」
「いえ…そんな事は…」
「…スハ、こうして二人で話すの…なんだか久ぶりの様な気がする」
「…そうですね。研修や歓迎会で忙しかったから…」
「…そう?疲れてない?」
「はい。大丈夫です。テジンさんこそ…」
「ん…大丈夫だよ。…一人でいる時はスハの事を思っていた…」
「テジンさん…」
「今日はこの後…僕のところに来ないか?…一緒に帰ろう。僕達の家に…」
「え…」
「ちょっと郊外の方に家をみつけたんだ。少し手を加えてさ…。きっとスハも気に入るよ
店まで遠いから、ぽんこつだけど車も買った。きまぐれでよく機嫌が悪くなって手を焼いてるけど」
「…行っても…いいんですか?…僕何も持ってきてなくて…」
「何もいらない。ここみたいに豪華じゃないけど、何でも一通り揃っている。後、足りないのは…おまえだけ」
「テジンさん…」
「その…束縛するつもりじゃないんだ…ただ…スハさえよければ…」

次の言葉を言う前にスハが僕の胸に飛び込んできた
懐かしいスハの香りがした
それがおまえの返事なのかい?
そう思っていいんだね?
僕は思わずスハをぎゅっと抱きしめた
スハを抱きしめると心に温かいものが流れ込む
こうやって…またおまえを抱きしめる事ができた…

「これからずっと僕といて…嫌いになったりしませんか?」
「嫌いになんてならないよ」
「僕…いろいろと口うるさいかもしれませんよ」
「構わないよ」
「料理とか得意じゃないし迷惑かけちゃうかもしれませんよ」
「料理は僕ができる…。それから…たくさん迷惑かけていいよ」
「テジンさん…」
「これからは毎日、顔を見ておやすみとおはようを言えるのかな」
「…はい…」
「好きだよ…スハ…」

もう離さない…
何もかもが全てうまくいったわけじゃないけど…
手放しに喜び合えるわけじゃないけど…
これからが僕達二人のスタートだ
楽しい事も苦しい事も二人で分かち合っていこう
そうやって…長い時を刻んでいこう
僕はスハを強く抱きしめ、その髪にそっと口づけした


大浴場 オリーさん

「シチュン、ちょっとこい」
「え…」
「ジュンホもちょっとこい」
「はい…」
「ドンヒ、お前もこい」
「はい」
「俺は?」
「ホンピョ、お前はだめだ」
「何でよ?」
「汚い」
「何だよ、きたないだけで仲間はずれかよ」
「…ジュンホ、ちょっとこい」
「なんですか?」
「ごにょごにょごにょ…」
「ぼくがですか?」
「お前が一番握力がある」
「テプンさんだって」
「いいから」
「はい…」
「シチュン、缶ビール何本かくすねてこい」
「缶ビール?」
「おお」
「よし、揃ったな。行くぞ」
「「「「どこに??」」」」
「いいからついて来い」

ブクブクブクブク…シャワシャワシャワシャワ…

「風呂入るんすか?」
「卓球で汗流した後は風呂だろ」
「わああーーい、すごいでかい風呂だ。よっしゃ入ろうっと」
「ホンピョ、お前は待て。お前は入る前に、ジュンホに体中洗ってもらえ。垢全部落としてからだ」
「へ?」
「俺はこう見えてもきれいずきだ」
「ホンピョさん、そういうことなので、ぼくがあらいますね。アカすり、ちょっといたいかもしれませんががまんしましょうね」
「おおおいっ!勝手に人の体さわるなよっ!」
「ガタガタ騒ぐな!ジュンホはチャンプだぞ。逆らうと黄金の左フックが飛ぶ。覚えとけ」
「ちっ!」
「よしっ、ジャグジーでリラックスして、缶ビールだ」
「でも、テプンさん、勝手に入っちゃっていいんですか?」
「ドンヒ、ここは俺の新居になるんだ。遠慮するな」
「でも…」
「いいから、いいから」

「イタタタっ!もうちょっと優しくしてくれよぉ!」
「だめです。アカがたまっていっかいこすっただけではおちません
これはどろんこのこどもたちをあらうよりたいへんです。ぼくほんきだしますから」
「本気?」
「ちょっとがまんしてくださいね」

「ひひひひぇえええええええ!!!!イテテテテテッ!!」

「おーい、ホンピョ、綺麗にしてもらえよ」
「テプンさん、だいぶおちてきました。もうすぐです」
「ジュンホ、いいぞ、その調子だ」

「ひひひひぇえええええええ!!!!イテテテテテッ!!」

「おーい、ジュンホも早く洗って、こっちこいよ。気持ちいいぞ」
「テプンさん、あとさいごのいちまいです。もうすこしです」
「さいごのいちまい?」
「はい。アカが5まいくらいかぶさってました」
「きったねえ野郎だな。がんばれよっ、ビールとっとくからな」
「はいっ!」

「ひひひひぇえええええええ!!!!イテテテテテッ!!」

「ホンピョ、どうした。もう風呂入っていいぞ」
「なんだか、体がスースーするんだ」
「そりゃ、お前、アカが取れてすっきりしたんだ」
「着ていた下着を脱がされたみてえだ、ハーックションッ!」

「何騒いでいるんですか。あっ!!」
「おう、ギョンビン、風呂もらってるぞ」
「…」
「超気もちいいぞ。眺めもいいしな。お前も入るか」
「僕はまだいいです」
「だよな、後から狐と入れよ」
「…」

「何騒いでるんだ?あっ!!」
「よう、チーフ。この風呂最高だな。チェリムとテジも気に入ると思うぞ」
「何、勝手に入ってるんだっ!」
「ケチくさいこと言わないの」

「あ、風呂だ、でかいなあ。ソヌ、俺達も入ろう」
「監督、ミンギとテソンも呼んで来よう」
「そうだな、チュニルさんとスングクさんも呼んで来い」
「はい」
「ちょ、ちょっと…」
「おい、先発隊は出ろ。俺達が入るぞ」
「ちっ、もうちょっと入らせてよ」
「うわっ、この黒い塊は何だ?」
「ホンピョ、アカ流しとけ。汚ねえぞ」
「スースーすっから、風呂から出られねえ」
「馬鹿野郎!!しょーがねえ奴だな。ジュンホ、流しとけ」
「またぼくですか」
「お前が一番握力が強い」
「あくりょくはかんけいないです」
「いいから、先発隊は出ろっ」
「全員入ったって大丈夫だよ。ちょっとつめれば」

ガヤガヤ…ワイワイ…ジャバジャバ…グビグビ…

「ギョンビンさん、私達も大浴場を使わせてもらってよろしいのでしょうか」
「チュニルさん、どうぞ。もうどうとでもしてください」
「男たるもの、すすめられたものを断わっては無礼にあたると思いますので、失礼いたします」

「ねえ、拗ねないの」
「らって、らって、僕とミンのお風呂なのに…」
「水道代は後からちゃんとオーナーに請求すればいいから」
「らって、らって…」
「減るものじゃないから、我慢しよう。ねっ?」
「らって、らって…」
「縮んじゃだめだよ、まだ」
「ふぁい」


◇BHC厨房_歓迎会準備編7  妄想省家政婦mayoさん
 
僕は最初から煮込んでおいた鍋から料理のスープを小皿にちょっと分けた…
ちょっとすすった後…小皿を闇夜に渡した…

「mayo…塩が足りないかな…」
「…どれ…ぅーん…ほんのちょっと..」
「OK…」

ひとつまみの塩を鍋に入れ鍋の中でぐるぐるとレードルを回しもう一度小皿に取って味を見た
ぅん…OK…

鍋の中身は…ズッパ・ディ・ペッシュ…イタリア版ブイヤベース
ブイヤベースよりもかなり汁気が少ないのでお腹に溜まらない
水分が少ないので浅鍋で充分調理できて.魚介類の旨みを堪能できる

ポイント1
白ワインを加えたらいったん水分を蒸発させること..
魚介類から出た水分と一緒にきちんと煮詰めとろりとさせ旨みを凝縮すること…
水とトマトホールを加えて煮込むからといってこの手間を省くといまいち間の抜けた味になる..
魚介類はだしが良く出るかさご…わたりがに…殻付きえび..やりいか..あさり..ムール貝…ってとこかな

ポイント2
仕上げはEVを加えて鍋を揺すり煮汁と乳化させてとろりとさせる..
きちんと乳化させないと油っぽくなるよ#

「何だか..バスルームが騒がしいけど…何?」
「ん?..テプンシが若い連中引き連れて入っちゃったみたい…」
「とほほ…それはそれは…チーフはガラスの目玉#青筋ビンビン#かな…」
「きっとそうなのら…れも..ミンがなだめるのら..」
「ぷっはっは#…」

「mayo…ホンピョも入ったかな…」
「ぅ〜ん…リビングにいないから…入ってるんじゃない?」
「いいことだ…少しはキレイになるな..」
「ぷっ…垢が取れて..風邪ひいちゃうかもね…」
「あはは…」

闇夜が冷蔵庫からデザートを取り出そうとしたとき監督と覗きに行ったソヌが小走りにやってきた..

「テソン君..みんなで入ろうってさっ#銭湯みたいだよぉ〜#来てよ#」

ソヌは僕にそう言うとリビングのミンギを連れてまた戻っていった…
わやわやとリビングにいた連中がバスルームヘ向かったようだ…
リビングがし〜〜〜んと静まりかえっている…

「みんな行っちゃった?」
「ん〜どうだろう……テソンは?入らな…ぃ…ぁ…」

僕は闇夜の手を取り…ぐっと引き寄せた反動で唇を塞いだ..
ぱちぱち目の闇夜が僕の胸をちょっと押した..僕は唇を離し闇夜の耳元で囁く…

「僕は君と入る#…今日は泡い〜っぱいっ#にして入ろう#」
「ぁ…ぁふ…」
「嫌?…」
「ぁ…ぅ…ぃゃ…」
「決まりだ#…」
「ぅ…ぅーん…」
「泡にまみれってさぁ〜…ふふっ…へへっ…」
「……^^;;……」(テソンは隠れすっけべぇー#…かもしれない..)

第一陣がバスルームから戻ってきた…

「小腹がすいてるな…」
「だぶん…」

闇夜はペックのオリーブペーストとトマトペーストを混ぜ..
それをバケットの薄切りに塗りクロスティーニを仕上げ皿に並べてから…
冷蔵庫から冷やしておいたいちじくの白ワイン煮の鍋を取り出して器に取り分けた…
僕はズッパ・ディ・ペッシュの仕上げをして鍋ごとリビングのテーブルに置いた…


ヨんじゃった  足バンさん

僕は変な緊張をしていた
なんだかみんな急にいなくなって…
リビングの四角く配置された皮のソファに座ってるのは
南側にイヌ先生とウシクさん
北側にテジンさんとスハ先生
西側にソクさんとスヒョクさん
そしてその向かいに…なぜか僕ドンジュンとミソチョル…

ふた組はそっと寄り添いじぃっと目を閉じてる
ふた組っていうのはイヌ先生チームとテジンさんチームね

ソクさんはスヒョクさんの膝枕でくの字になって寝ている
何だか下宿先の都合で早起きだったらしい
なんだかすんごく幸せそうな寝顔…
スヒョクさんは何事もないような顔で本を読んでいる
くふ…素っ気ないこと言いながら優しくしてるスヒョクさんってかわいい

…って和んでる場合ではないのだ
そういうわけで僕はこの空気に動けずにいる
この静けさの中でちょっと動くと
ソファの張りのある皮におしりが擦れて”ぶぎっ”ておならのような音がする
そうすっとみんながこっちを見るんだもん

想像してみてよ
イヌ先生とウシクさんとテジンさんとスハ先生とスヒョクさんが
一斉に「ふっ」ってこっち見たところっ!
こういうのを針のムシロ状態っていうんじゃない?

そのうちに誰か来て場が変わるだろう…
スヒョンはどこに行っちゃったんだろう
ギョンビンは風呂がどうとかって急いでどっか行っちゃったし
そういえばイナさんたちってどうしたんだろう
ここ広すぎてみんなの動向が把握できない

僕は仕方なくミソチョルをそっと抱きしめてしばらくおとなしくしてようと思った

「ぎゃぁぁぁーー!」

僕はミソチョルを思わず落としてしまった
みんなは当然びくーっとして僕を見て
ソクさんはスヒョクさんの膝から転げ落ちてしまった

「ななななにっ?ガサ入れかっっ?」
「どうしたの?ドンジュン」
「だいじょうぶ?」
「あうっ!すみませんっ!ちょっと持病の腕の痙攣がおきてっ!」

僕は自分でも何だかわけのわからないことを言って
ミソチョルを掴んですたこらと廊下に出た

あーびっくりした…
何がどーしったって…

ミソチョルを抱きしめた瞬間…ミンチョルさんの顔が流れ込んできたんだもん
いろんなミンチョルさんの顔が



僕は回りにひとの気配がないことを確かめて
もう一度そっとミソチョルを抱きしめてみた

入ってくる…
笑ってるミンチョルさん…はにかんでるミンチョルさん…
苛ついてる…怒ってる…泣いてる…それから…

ひっ



まっまずい…

ひっひじょうにまずい…

僕は”抱きしめないように”注意しながらそっと彼を運び
まだ片付いてないダイニングのテーブルにちょんと置いた
椅子に座ってテーブルに顎を乗せてじっと見てみる
なんて誰かさんにそっくりなんだろう

おまえそんなにミンチョルさんが好きなの?
ずっとミンチョルさんだけを見てきたの?
笑顔も涙も寂しさも…それからえっといろいろ…も
みんな見てきたんだね…

「ドンジュン…こんなとこにいたの?」
「スヒョン」
「なぁイナとギョンジン見なかったか?」
「ううん…どっかの部屋にしけこんでんじゃないの?」
「まさかなぁ…で、おまえ何やってるの?」
「それがさ、ミソ…あぅ…いや…んーっとmayoさんに何かうまい物でもえっと」

「え?呼びました?」
「ぎゃっ!ままmayoさん!キキキッチンにいたのっ?いや何でもにゃいかなーっ?」
「おまえ何かまた怪しくない?」
「ないないっ全然ないっ」
「白状しろっこらっ」
「ぎゃーっっ!ぎゃったっ助けてmayoさん!」

白状?何見たかって?
スヒョンのやつに言えるわけないじゃん!ぶーっ


テイラー  ロージーさん

「マダム」に指定された場所はマンションのすぐ近くの、表通りを少し入った小路の中ほどにあった
その店は想像していたよりずっと小さくて質素だったけれど…「知る人ぞ知る」っていうのはこういうところのことかな…
彼と僕と兄さんは、その古くて飾り気はないが、どこもかしこもピカピカに磨き上げられた建物の中に入った

「いらっしゃいませ」

…なんだかホッとする…この雰囲気…

「ミンですが…」
「はい、お待ちしておりました…お忙しいところご足労頂きまして…有難うぞんじます」
「あの…」
「はい、○○様から申し付かっております。…まずは…どうぞこちらにお掛けくださいませ…」

僕達は壁際に置いてあるやはり古いが、座り心地のよさそうなソファーに腰を下ろした…

「私はオクムラと申します…よろしくお願いいたします」
「イです」「ミンです」「ミンです」「「「よろしく」」」

奥から若い人がトレイを持って出てきた

「いらっしゃいませ…どうぞ…」
「「「ありがとう」」」

…日本茶だった…美味しい…

オクムラさんは横の棚から分厚い生地見本らしきものをいくつか持ってきて前のテーブルに広げた

…「ゼニア」「ダンヒル」「ランバン」「ミラショーン」…

「早速でございますが…生地からお選びいただけますでしょうか?…お気に召すものがあればよろしゅうございますが…」

僕達は見本帳をひと通り見てから…選び出した…
彼はゼニアのダークネイビーの無地…兄さんもゼニアの茶に白とブルーのオルタナティブ・ストライプ…僕も紺にやはり白とブルーのオルタナティブ・ストライプ…みんなゼニアだ…
オクムラさんは奥からそれぞれの一メートル位あるサンプル生地を出してきて並べた

「「「いいね!」」」
「ではまず…これが一点といたしまして…」

「「「えっ!!」」」
「あの…○○様より、お一人様五着もしくはそれ以上…というご指示でしたが…」
「「「…」」」

それからは戦争だった…

やっとのことで仮縫いの日取りを決めるところまでこぎ着けた…
そのあと彼が兄さんに目をやってから…

「彼の分はなるべく早くお願いできますか?…僕達のは遅れても構いませんので…」
「はいかしこまりました」
「それではこれで…きょうはお世話になりました」
「あのう…恐れ入りますが…秋冬物も…という○○様のお申し付けですので…お時間のおありの時にお寄りいただけますでしょうか? …お仮縫いとは別にお日にちを取っていただいたほうが…」
「「「…」」」

…ああ…

帰りに近くのカフェに寄ってコーヒーとサンドウィッチをたのんだ …朝…昨日のパーティーの料理をmayoさんがとっておいてくれたのを三人で食べて出てきたんだけどずいぶんお腹がすいた…

「…まいったね…」
「ごめんなさい…」
「ミンが謝ることないだろう…」
「でも…」

それまで黙っていた兄さんがにやにやしながら言った

「おまえどうやってこんな凄いパトロン見つけたの?」
「どうやってって…」
「ある日突然、空から降って来たんだよね」と彼
「…」
「まるで災難みたいだね…ふふ」

…そういえば、まだ彼にも見せてないけど…「引っ越し祝い」…今朝届いたんだ…
三人分別々に…たぶん時計だ…きっと凄いんだろうな…

…ああ…


混乱する僕  ぴかろん

僕の先生はね、すごくかっこいいんだ
くるっと振り返るとドキッとする
だからその顔を人に見せないで!

僕の先生はね、すごく優しいんだ
僕を背中から包み込んでくれる
その腕は僕だけのものなんだから!

僕の先生はね、すごくセクシーなんだ
そこに立っているだけでぞくぞくしちゃう
だから他の人の前に立たないで!

僕の先生はね、僕が救い出したんだ
誰も触らないで!
誰も話しかけないで!
誰とも話さないで!
僕だけを見ていて!
僕だけを抱きしめて…
僕だけにキスして…


僕はどうかしている
僕は僕が嫌いだ
なのにどうして先生は
僕を愛していると言うの?!
僕のどこがどう好きなの?
先生は僕を可哀相に思ってるだけなんだろ?!

僕はどうかしている
ずっと混乱している
お義父さんに会いたい
そうすればきっと僕は僕を取り戻せる
でも、取り戻した僕がこのまんまの僕だったら
先生はきっと僕に愛想をつかしてしまうんだろう

少しでも先生が離れると
僕は不安になる
先生はずっと一緒にいてくれる

いやでしょう?
「どうして?」
うっとおしいでしょ?
「全然」
どうして?
「僕も一緒にいたいから」

そして先生は僕を抱きしめてキスをする

「コンサートが終わったら、そのままお義父さんのところへ行こう」
「…え…」
「不安を一つ取り除いてあげるよ」
「…行きたくない…」
「僕が一緒なのに?」
「…行きたくない!」
「じゃあデートしよう」
「…」
「それならいいね?」

行き先はお義父さんのところだね…
行きたくない…会いたい…

波打つ僕の心を先生のキスが鎮める
鎮めても鎮めても波は次々に起こってくるのに…

「もう少しだからウシク…」

何が…どう…

僕は疲れた
先生、眠りたいよ…ぐっすり眠りたいよ…

先生に体を密着させて目を閉じる
時間の経つのがとても遅い
先生の胸の中で浅い眠りを貪る
先生と一緒に味のないご飯を食べる
先生と一緒に息をして、先生と一緒に歩く

こんなに無茶苦茶なのに、僕はまだ生きていたいんだ…


眠れぬ夜  足バンさん

スヒョンにミソチョルの秘密を聞かれる前にとっとと逃げ出した
あんなのスヒョンが読んじゃったらどうなることやら!

で、僕はイナさんを捜そうかなと思ってた矢先
ギョンビンさんがプレイルーム側の廊下を歩いてきた

「スヒョンさんは?」
「ギョンジンさん!イナさんも一緒?スヒョン捜してたんだよ」
「スヒョンさんリビング?」
「うん…どうかしたの?」
「イナが…ちょっとまいっちゃってて」
「へ?」

僕はギョンジン兄貴が指したプレイルームに入って行った
部屋の電気が半分おとされて少し薄暗い
卓球台の上やあちらこちらにラケットやタオルが落ちていて
僕が逃げ出したあとも散々みんなが楽しんだ形跡があった
片付けないとまずいな

広い部屋の隅の木製ベンチにイナさんは座っていた
横には酒の瓶とグラスが置いてある

僕はぼんやり下を向いているイナさんの横に軽く腰掛けた

「イナさん…飲み過ぎちゃったの?」
「向こう行ってろ」
「…イナさん?」

僕が顔を覗き込もうとした時
イナさんはいきなり「行けって!」と言いながら僕の左肩をどんっと押した
不意をつかれた僕は変にバランスを失って
グラスとともにスロゥモーションのように床に滑り落ちた

グラスの割れる音が冷たく響いた

鋭い破片の中で驚いて見上げると
その僕を呆然と乾いた目で見ているイナさんがいた

「何やってるんだっ!」

入口からスヒョンとギョンジンさんが飛び込んできた
スヒョンはしゃがんで怪我はないかと聞いたが
幸い床についた左手の薬指に小さなかすり傷がついただけだった

「ドンジュン…ごめん…」

イナさんが消え入りそうな声でそう言った

立ち上がった僕をギョンジンさんが支えてくれたが
その彼は妙に静かな眼差しをしていた
スヒョンは顔を手で覆ったイナさんの隣に黙って座った

「何の騒ぎだ!」

ミンチョルさんとギョンビンがドアに立ちグラスの破片と僕らの様子に驚いている

「イナっ!どういうことだ!」
「ごめん…」
「ミンチョルさん大丈夫ですから」
「ドンジュン、君には聞いていない。イナ説明しろ」

イナさんは顔を覆ったまま肩を小さく振るわせはじめ
突然スヒョンにしがみついて声をあげて泣き出した
スヒョンはその肩を抱いた

ギョンジンがミンチョルさんの側に歩いて行き
何ごとか言葉少なに説明している

「そ…」

聞き終わったミンチョルさんは何か言いかけて腰に両手を当て
そして視線を落としてから大きなため息をついた

「スヒョン…頼んでいいか?」
「ああ」
「ドンジュン…ギョンジンも出よう」
「でも…」
「おいでよ兄さん」

僕はそこを出ながら照度の落とされた部屋を振り返った
スヒョンはイナさんの肩をぎゅっと抱きしめながら
泣きじゃくる哀しそうなその声に耳を傾けている

僕は静かにドアを閉めた

「少しだけ天使を貸してやって」

ミンチョルさんは微笑みながら僕の肩をぽんとたたいた
僕はギョンビンに促されるまま、また賑やかなリビングに戻った


ピカピカピー  ぴかろん

みんなで風呂に入った
広かった風呂がたちまちイモ洗い状態になった
はえぎわのアブなそうなおっさんが入ってきたときにはビビった

だってよ、背中にピシピシ傷があったんでぃっ!
俺だって頬に刀傷があるけどよ

あと…傷のあるヤツっていたっけ?
みんなツルツルした身体してんなあ…
俺も元チャンプに擦って貰ったからよ、スースーすんだよ…
俺の垢の始末してたな、握力が一番強いって言われて…
垢は握力で始末するもんなんだな。よし!

俺はぎゅうぎゅうの湯船でくつろいでいた
『こんなとこでよくくつろげるな』ってか?
懐かしくてよ…施設の風呂、思い出しちまった…
兄貴と一緒に入ったんだよな…ぐすっ…

ちっと目を瞑ってたらよ、俺の顎をぐいっと上げるヤツがいた

「あんだよっ!あっ!あんたは…えっとんっと…チュングル…」
「チュニルだ」
「あ…チュニルさん…」
「男たるものこんなまばらな髭を小汚く生やすのはいかん」
「…え…小汚ねぇ?」
「剃るがよかろう」
「…髭はえてたほうがかっくよくねぇか?」
「こんなまばらではかっこよくない」
「…そか?」
「髭を剃り、顔を洗い、そしてゆず日本酒ローションで肌を整えてみるといい」
「…は?」
「私の手作りローションだ。後ほど試すといい」
「…」
「ツルツルになる」
「…はぁ…」

そんな会話があったもんでよ、俺は髭を剃って顔を洗面所だって言われたトコで洗った

どうやって水を出すだかわかんねぇからよ、またチュングルさんを呼んだんだ

「ここに手をかざせば水が出てくる」

って言うんだ
なんで蛇口つけねえんだ?まあいい…
俺は顔を洗ってタオルを捜した

「チュングルさんよう、タオルねぇか?」
「君の前に折りたたんである」

「へ?これか?…なんでぶら下げたりつるくしたりしてねぇの?不便じゃんか。手がふけねぇ」
「手を拭くのならここに手をかざす。すると風が出てくる」
「いや、手じゃねぇ、顔を拭きたいんだ」
「ならそのタオルを使うといい」
「使った後どこに干すんだ?」
「使ったら足元のカゴに入れるのだ」
「あんで?捨てるのか?勿体ねぇ!大体よぉ、俺様が使ったタオルはもう使えねえってのか?」
「違う。洗濯するのだ」
「え?一回しか使ってねぇのにか?」
「ここではそうするのだ」
「…ったく金持ちってのはよぉ!けっ…」

俺はしぶしぶチュングルさんの言うとおりにした

顔は垢すりしてねえから、タオルが黒くなった
こりゃ使えねぇか…

「もう一度丁寧に…この洗顔石鹸を使いたまえ。私の手作り石鹸だ」
「…あんた…石鹸も作れるのか?」
「よく泡立てる」
「泡立てる?」
「こうだ」

チュングルさんは器用に石鹸を泡立て、モコモコの泡を俺の顔に擦り付けた

「そっと洗う」

ゴシゴシゴ…

「ダメだ!小鳥を撫でるが如くてのひらで包むが如く、ゆっくり優しくだ。私がヨシと言うまで!」
「う…(イライライラ)」

俺は五分ぐらいゆっくり優しくクルクルしていた

「よし。漱げ。これも丁寧にパシャパシャとな」

パシャパシャ…

ああめんどくせぇ…

ようやくオーケーが出て俺はもう一度タオルで顔を拭いた

「ぷは…なんか…さっばりした」
「すかさずこれをつける。これは直接てのひらにとり、肌に押し付けるように馴染ませる」

ぴしゃんぴしゃん

「違う!そっとだ!」

そっと…

「よし。どれ…ふむ…ふむふむ…よし。はなまるだ!」

俺は合格点を貰ったのでアイツに報告しようとソファのトコに行った

あり?いねぇ…
あ、こんなトコに動いてやがる

おめぇ、勝手に動くなよ!捜すじゃねぇか
『ホンピョしゃん。僕、もう一人お喋りできる人とお友達になりました』
よかったな。お、ご馳走も一人で食ったのか?
『いえ。ジュンホさんという方がたべしゃしぇてくれましたっおいちかったれしゅ〜。しょれよりホンピョしゃん…なんだか光ってましゅけろ、恋でもしましたか?』
鯉?
『あ…しゅみましぇん…ぴっかぴかしてるから恋だと思って…』
確かによう、俺は体も顔もピカピカになったからな
鯉かもしれない…
『お相手はどなたでしゅか?』
お相手?なんの?
『恋でしゅ』
鯉の相手は…鯉だろう…
『…びみょうに何かちがってましゅね』
そうか?気にするな…。それよりそんなに俺ってピカピカか?
『あい。まぶしいれしゅ』
ふうん、チュングルさんのおかげだな…

俺はミソチョルににっこり笑いかけて頭を撫でてやった

遠くからキツネが睨んでいた
うっとおしいのでミソチョルを抱きしめて鼻にチウしてやったフフン

キツネが前髪を揺らしながらやって来た

「きいっ!しゃわるなっ!きいっ!」しゅるっ…

ん?

「だめっ!」

ん?

「こっち来て!」
「あう」しゃきしゃきン
「…よかった…戻った」
「すまない。危なかった…」

んん?何これ…
ミソチョル、今、チーフが五頭身半から四頭身半に縮んだような気がしたんだけど…
『キキキキ気のせいれしゅよ…』
だよなぁ…俺、湯あたりしたのかな…ちょっとあっちで休んでくらぁ…

ミソチョルのヤツ、妙に慌ててたな…なんでだろう…
ま、いいか…


かわいいひと れいんさん

はっ!

「僕…今寝てた?」
「はい、ソクさん」
「ひどいな、スヒョク。なんで起こしてくれなかったの?」
「なんでって…ソクさん、気持ち良さそうに寝てたから…」
「せっかくスヒョクに膝枕してもらってたのに、寝てたら勿体ないだろ?」
「…」
「スヒョクのもちもちっとした太腿の感触をもそっと…」
「ソクさん!起きてたら膝枕なんてしてません!」
「ちぇっ」

近頃のソクさん…昔と随分変わったな…
以前はもっとクールで渋くて…どちらかといえば危険な男って感じだったのに…
今のソクさんときたら…
ちょっとすけべ親父はいってるけど、なんかほっとけなくて可愛いんだよな…
ついつい、苛めたりいじりたくなっちゃう。へへへ

「なあ、スヒョク。テプンさん達さあ、皆さっぱりした顔であっちから出てきたけど…あれ何?」
「ああ、お風呂に入ってたみたいですね」
「え?皆で一緒に?」
「ええ…随分と大きいお風呂のようですね。ジャグジー付きの」
「チュニルさんやスングクさんまで?」
「ええ、そのようですね」
「スヒョク…」
「え?」
「ねえ…」
「…何ですか?」
「僕達も…一緒に入ろうよ」
「ソクさんっ!…嫌だ!」
「んな事言わずにさあ…いいじゃないかあ…な?」
「またやらしい事考えてるでしょ?」
「そんなんじゃないって。ただ汗を流してさっぱりしたいなあ…と」
「ほんとに?」
「うんうん!ほんとほんと」
「何にもしない?」
「うん!しないしない」

…ってなわけで僕はスヒョクの手を引いて、るんるんとバスルームに行った

へっへっ
何にもしないなんて言ったけど…
スヒョクも二人っきりで裸でいたりすると…ちっとは色っぽい事になるって事も…

なーんて考えながら僕は着ている物をさっさと脱ぎ始めた

「なあ、スヒョク…ほんと自分でも思うんだけど…僕って変わったよな」
「…」
「お前に惚れちゃってる自分がな…結構スキだったりするんだ」
「…」
「…何にもしないって約束したけどさ…ちょっとくらいさ…いいだろ?」
「…」
「僕達…爆弾処理した仲じゃないか」
「…」
「僕のトマホークはもう制御不能になっちゃってるぞ…なんちって」
「…」
「なんだよ、何とか言えよ…ぎょえっ!!ドンヒっ!」
「ソクさん…あ、どうも」
「い、いつからそこにいたんだっ?ス、スヒョクはっ?」
「あ、スヒョクさんは、タオルタオルって言いながらここから出てきて…で、僕は忘れ物取りに来て…」
「あ…う…僕の話…聞いてた?」
「はい、爆弾処理がどうとかって…」
「ぎえっ!」
「危険な任務に就かれていらしたんですね」
「え?…ん…まあ、危険といえば危険だな」
「その…やはりそれは慎重に取り扱わなければいけないんですよね」
「そうそう、一つ間違うと、いう事聞かなくなるから、くれぐれも慎重にね」
「凄いですね。やはり、スヒョクさんとあうんの呼吸で対処する事が不可欠なんですね」
「ん…まあ…あうんの呼吸は重要だろうな。ここまでは大丈夫とか、ここから先はもうダメだとか…」
「なるほど…メモメモ」

ガチャ…

「あっ!スヒョク!」
「…ソクさん…」
「どこ行ってたんだよお…急にいなくなっちゃって…」
「ソクさん!これどういう事ですかっ!なんでドンヒ君の前で裸でいるんですかっ!」
「スヒョクさん、僕はただ忘れ物取りに来ただけで…そしたらソクさんが爆弾処理について詳しく教えてくれて」

バチーーンっ☆

「痛えっ!」
「ソクさんの馬鹿っ!」
「違うってば!スヒョク、誤解だよっ」
「僕がちょっといなくなった隙にこれだもの!彼にも爆弾処理させるつもり?」
「スヒョク!何て事言うんだ!と、とにかく風呂の中でゆっくり話そう…な?」
「やだっ!もう一緒になんて入んないっ!もう、ソクさんなんか嫌いっ!」

バタバタバタっ…

「ううっ…スヒョク〜っ!」


◇BHC厨房_歓迎会準備編8  妄想省家政婦mayoさん

「あ#…まぁた自分達だけ旨いもん食ってる!…」
「ほんとだ#…狡いな..テソン君…」
「「…^^;; ^^;;…」」
バスルームヘ行ったソヌとミンギが戻ってきた..
僕と闇夜はガラスの器に入れたジェラートを食べ合いっこしていた…
バニラのジェラートは闇夜がマカロンと一緒にマーケットで買ってきたものだ..

闇夜の方はに器に入れたジェラートにエスプレッソを流し入れて冷凍庫で凍らせたもの..
エスプレッソに緩いシャリシャリ感が出る頃が美味しい…
冷凍庫から出すタイミングが遅れるとガチガチに凍るし..
早すぎてもまだべちゃべちゃしていたり...と結構難しい…
僕の方は煮詰めたバルサミコ酢少しとハチミツをかけて..刻んだピスタチオをパラパラちらしている…

「どっちにします?」
「僕..ヌナの方…」
「僕はテソン君の…」

闇夜は冷凍庫に入れていた何個かのエスプレッソのジェラートの器を全部出した…
これ以上入れておくとシャシシャリ感がなくなるからだ…
ミンギは手を伸ばして器を取りひとくち食べ..ぅんぅんと頷いた..
ソヌがミンギを突っついた…

「あ…^o^…」…ソヌはミンギに向かって口を開けた…
「何スかぁ?」…ミンギはスプーンをもったまま澄ました顔でソヌを見る…
「あっ!..^o^…」….口を開けたままのソヌ..
「先輩〜食いたかったら 一個食ゃぁいいじゃないっスかぁ〜」…口をとんがらすミンギ..
「…!?」…ソヌの目つきが変わった..

ミンギを顔をじっと見据えたまま..手からスプーン取りあげ..ひとくち口に入れたソヌ…

「(^_^)v…美味いね…」
「ったぐぅ〜」

その後ソヌは僕と同じバルサミコのジェラートをひとくち口に入れ…首を傾げた…

「テソン君…このはちみつは?」
「どこのだと思います?」
「んー…わかんないなぁ…どこの?mayoさん…」
「ギリシャのはちみつです…」
「これは..はじめてだな..滑らかでコクがある…瓶見せて..」
「はい…」

「「わぁ…綺麗だ…」」

高さ10cmくらいの小さな瓶に入ったはちみつはパールの輝きがある..
スプーンで掬うとほんのちょっと蒼白さも混じってとても綺麗だ…
闇夜がいつものはちみつ専門店で見つけてきたものだ..

「それは..なかなか採れなくて…今はもう売ってないんです…」
「お…そうなの…」
「もったいないから料理には使えません…」
「あはは…2人でいつもこっそりチビチビ舐めてたのか..」

「「…^^;; ^^;;…」」

ミソチョルの側を離れたホンピョがミンギの隣に来た…

「うわ..小綺麗になったじゃない…」
「ぉ…ぉう…」

ホンピョは両手で頭を撫でる..闇夜からエスプレッソのジェラートをもらうと
「うめぇ.うめぇ..うめぇ..」と3口で食べた…^^;;

テジンが覗きに来てエスプレッソジェラートの器2個手にし..
僕と闇夜を見て…にぃぃ〜#と笑い…持っていった…

シチュンが来て顎で僕のバスサミコジェラートを顎で指した…
僕が冷凍庫からジェラートを出して器に盛っていると…

テプンがズッパ・ディ・ペッシュの空の鍋を持って来た…
エスプレッソジェラートに手を伸ばし..1口で食べた..^^;;
テプンは側にいるホンピョの顔を覗き

「お?髭もそったか……ん?風呂入ったのにちょっと臭せぇな…」

キッチンの周りにいたソヌ..ミンギ…シチュン…テプンはホンピョをくんくんした…

「わぁーった!ホンピョ..服が臭ぇのか?…」

ホンピョも自分で自分をくんくんして首を傾げていた…


果てしない宴会 オリーさん
僕たちはスヒョンさんとイナさんをプレイルームに残し、リヴィングに戻った
カウンターでチュニルさんとスングクさんがバスローブを着てシェイカーを振っていた
「男たるもの、風呂の後はリラックスしなくてはなりません。バスローブをお借りしました」
「どうぞ、ご遠慮なく」
テプンさん達もバスローブを着ている
どうやら風呂に入った人は全員バスローブのようだ
ある意味わかりやすくていいか
キッチンでmayoさん達がコソコソしてる
ドンジュンさんと一緒に近づいてみると…シャーベットだ
「どっちにする?」
テソンさんが聞いてきた
「僕エスプレッソ」
「僕も」
「僕も」
いつの間にか彼も後ろにいた
「ふたりで一つにしようよ」
「どうして?」
「カロリー高いから」
「一個食べたい」
「半分づつにしよう」
「一個食べたい」
「半分づつにしよう」
「一個食べたい」
「二人ともいいかげんにしなよ。食べさせてあげなよ、ギョンビン」
「そうだ、そうだ!ドンジュンいい子だ」
「だって…」
「食べた後、トレーニングルームで走ってもらえばいいじゃん」
「そうか、そうだね!」
「ケホン!ミン、半分づつにしよう」
話がついた

テプンさん達がカラオケルームに移動した
「俺の素晴らしい歌を聞かせてやる。ギョンビンもドンジュンも来い」

「テプンさん元気だねえ」
ドンジュンさんがにんまり笑った
「御馳走を食べ、卓球で汗を流し、その汗を風呂で洗い落とし、仕上げはカラオケ。これが宴会の王道だ」
「ふううん。ねえ、ギョンビン、僕らも行こうよ」
「うん…」
僕は兄さんの方をちらっと見た
兄さんはカウンターの隅の席で飲んでいた
普通に見えた
でも違う
彼の方を見た
すましてる、けど、顎をかすかに兄さんの方へ振った
「僕ちょっと兄さんと話があるから」
「そう?じゃミンチョルさん、行こうよ」
「え…何?」
「カラオケだよ。さっ、行こう!」
ドンジュンさんはミンチョルさんの腕を取った

「ドンジュンさん、お願いがありますが」
「何?チュニルさん」
「このサワーをカラオケルームの方たちに持って行ってくれませんか」
「やれやれ、美味しいカクテル飲めるのに、サワーなの、あの人たち」
「やはり飲みなれたものがよさそうです。こちらがグレープフルーツ、こちらがレモン、こちらがライムです。他にも要望があれば用意します」
「わかったあ。はい、ミンチョルさんはこっちのトレー持って。僕は氷を持ってくから」
「え、僕が?」
「気にしないの。じゃ、カラオケルームにいるからね」
ドンジュンさんは彼を引き連れて歩き出した
「ほら、ミンチョルさん、よそ見するとこぼれるよ。まっすぐ持って」
「あ、うん」
「ミンチョルさんも歌えば?」
「僕?僕は歌は…上手いから、やめとく」
「変な理屈だな。上手いんだったら聞かせてよ」
「だめだ」
「ギョンビンだけ?」
「ケホンコホン…」

兄さんは夜景を見ていた
僕はチュニルさんにバーボンのロックをもらって、兄さんのそばに行った
「何一人でカッコつけてるの」
僕は兄さんのグラスに自分のグラスをぶつけて勝手に乾杯した
兄さんは、夜景を見ながらぽつりと言った
「イナはすごいな」
「え?何?」
「イナのカンはすごい。ラブとテジュンさんが…」
「え?」
「ラブとテジュンさんが、寝たそうだ」
そう言うと、兄さんはグラスを握り直し、強い酒を一気に喉へほおりこんだ
僕は何も言えず、黙っていた
「すみません、おかわりを」
おかわりをもらうと、また一気に喉へほおりこんだ
「やめなよ、そういう飲み方」
兄さんは僕の方を見ず、ずっと夜景を見ていた
「綺麗だな、ここの眺めは」
「そうだね」
「ラブがいたら…もっと綺麗だろうな…」

そう言った兄さんの肩が小さく震えだした


眠れぬ夜 2 足バンさん

しんとした空気に支配される部屋に
イナのすすり泣く声だけが響き真新しい壁に吸い込まれていく

どうやらイナはテジュンさんとラブに何かあったらしいと感じたようだ
ただの思い過ごしと片付けることはできない

こいつの人並み外れた勘がそう感じたのならそうなのだろう
いや、それが本当かどうかはどうでもいい
こいつがそう感じてしまったこと、それが大事なことなんだ

少し静かになったイナの身体を離して顔を見た
目は何かに必死にすがるようで
口元は笑い出すのかと思うほど歪んでいる

「どうしよう…どうしようスヒョン…テジュ…」
「イナ…」
「どうしたらいいんだよっ!テジュが行っちゃうよ!行っちゃうよ!」
「イナ?」
「行っちゃう!行っちゃう!行っちゃう!」

イナは僕の黒いシャツをわしづかみし胸元を乱暴に揺さぶる
足元で割れたグラスの破片が踏まれカチリと音を立てた
イナの苦しげな瞳からまた涙が溢れ出した

「スヒョン!スヒョン!どうしたらいい俺!どうしたらいいっ!聞いてるのかっ?」
「聞いてるよ」
「俺が悪かったのはわかってるよ!わかってるから!」
「いい悪いじゃないよ」
「じゃ何なんだよ!何で行っちゃうんだよ!何でラブんとこ行っちゃうんだよ!」

涙に覆われたイナの声はくぐもった悲鳴のように聞こえた

「なんとかしてよスヒョン!なんとかしてよ!」
「イナ」
「おまえ天使なんだろ!頼むからなんとかしてよ!テジュの心をどうにかしてよ!」
「イナ」
「イナじゃねぇよっ!イナなんかどこにもいねぇよっ!」

イナは横にあったバーボンのボトルを掴むと床に投げつけた
ボトルは鈍い音を立てて転がり
茶色い液体をまきながらくるくると回転してゆっくり止まった

イナは情けない顔で「割れもしねぇ」とつぶやくと
袖で涙を拭き「帰る」と言っていきなり立ちあがった
僕はその前に立ちはだかり両肩を押さえる

「待てって」
「離せよ!ひとりで考えるから!」
「だめだ」
「うるせぇ!おまえはドンジュンといちゃついてろっ!」

突き放そうとするその肩を思いきり引きずり
イナを白い壁にどすんと音がするほど激しく押さえつけた

「なんだよ!キスでもして癒してくれんのかっ!」
「してほしいなら何でもしてやるよ」
「何でもかっ!はっ!結局誰とでもできんのかよっ!」
「…」
「できんのかよっ!」

僕が目をそらさずにいると
やがてイナの唇は震えだし顔を苦しそうに歪めた
僕が力を抜くとイナは静かに僕の首に手をまわして抱きついてきた
そっと抱きしめてやるとイナはまた泣き出した

「スヒョン…」
「ん?」
「俺…生きてる?」
「うん温かいよ」
「頭と身体がばらばらになりそうだ…」
「ちゃんとくっついてるよ」

しばらくそうしてイナを抱きしめたあと
僕は彼の手を引いて窓際にあるシャープなラインの黒皮のソファに座った
天井までブラインドが上げられた窓からは
都会の灯に反射して少しオレンジがかった夜の雲が見える

抱き寄せられたイナは僕の肩に頭をあずけ
小さな子供のように鼻をすすりながら爪を噛んでいる

「僕とミンチョルのこと話したでしょ?」
「…」
「いくつもの愛情がありえるって話したでしょ?」
「…」
「それぞれ本気だってこともあるって」
「おまえらは何にもなかったんだろ?」
「身体が繋がらなきゃいいってもんじゃないだろ?」
「心でやったってこと?」
「かもな」
「俺わかんねぇもんそういうの」

イナは僕の肩に頭を尚押しつけた

「頭で考えてもわからないことがあるってことだよ」
「スヒョンもわかってないの?」
「そんなとこかな」
「それでドンジュンはいいって?」
「どうかな…でもずっとちゃんと話し続けてる」
「何を?」
「おまえが必要だって」
「やつは信じてくれる?」
「だから今日言ったでしょ…信じてなんかくれなくていいんだって
 今お互いが必要なら一緒にいればいいんだって」
「もしテジュが必要だって思ってくれなかったら?」
「必要だと思わせる男になれよ」
「でも俺ってこんなだもん…」

僕は抱きしめた腕に力をこめた

「そんなおまえをちゃんと見せて、そしてちゃんと見てもらえよ」
「自信ねぇよ…」
「ミンチョルも僕もついてるから…ね?」

イナは涙を溜めた目で済まなそうに僕を見上げた
捨てられて長い間歩き回った野良猫のようだった

僕はノラの唇に軽くくちづけた
ノラは小さなため息をついて目を閉じた

「俺…今日ひとりでいたくない…」
「ギョンジンはここにいるんだろ?顔合わせるの辛かったら僕のうちにおいで」
「ドンジュンは?」
「一緒でもいいでしょ?」
「いいの?」
「こんな男…危なっかしくて放っておけないでしょ」

ノラはちょっと微笑んで僕の胸に顔を押しつけた

遠くの雲の薄オレンジ色は夜が更けるにつれて濃さを増したように見えた


Kyo-dai Jingi  ぴかろん

兄さんは声を立てずに泣いている

ふっと昔を思い出した
小さかった頃、兄さんが部屋の机の前に座っていて、僕は兄さんがいつものように勉強しているのだと思っていた

僕はベッドに寝転んで、本だったか漫画だったかを読んでいた

その時かすかに兄さんのすすり泣く声が聞こえたんだ
僕はその場から逃げ出した
見てはいけないと思って…

兄さんは僕から顔を背けている
僕は兄さんの顎を掴んでこっちを向かせた

ぼろぼろだ…あの時もこんな顔して泣いてたのかな…

「僕の前で我慢すんなよ…兄弟だろ?」
「…く…はぁっ…ああっ…」

兄さんは堪えきれずに泣き出した
泣けば少しはすっきりするよね?
僕、兄さんがこんなにも泣き虫だなんて思わなかったよ…

僕は兄さんの肩を擦り続けた
かける言葉が見つからない…
もしも彼がスヒョンさんと寝ていたら…

そんな事、するはずがない
彼が僕を傷つけるようなこと…よっぽどの理由がないかぎり…

「きっとラブがテジュンさんを誘ったんだ…」
「兄さん…」
「僕が…僕がラブを…ズタズタにしたから…」
「…でも…イナさんの勘ってだけだろ?まだホントに寝たかどうかなんて…」
「…テジュンさんが応じるなんて思わなかった…」
「兄さん…」
「…イナがいるのに…あの人はイナを愛してるのに」
「…」
「ラブは…ラブは…どうしてテジュンさんを…」
「どうしてだろう…一緒に居たから?寂しかったから?慰めて欲しかったから?…それともあの子、抱かれるのが好きなのかな…」
「違う!そんな子じゃない!」
「…じゃあ…」
「じゃあ?じゃあ何?…どんな理由があるの?!」
「…好きになったんだ…本気で…。抱かれたいって思うぐらい…」
「…」
「…兄さん、解ってたんだろ?」
「…」
「もしもラブ君がテジュンさんに抱かれるとしたら、その時は…ラブ君がテジュンさんを好きになった時だって…
テジュンさんにしたって…好きにならなきゃラブ君を抱いたりしないって…」
「…」
「どうするの?」
「…」
「兄さんの気持ちは?今の気持ち…。もしも本当に彼らがデキちゃってたら…」
「わからない…どうしていいのか」
「どんな風に思う?腹が立つ?」
「…」
「言葉に出してみなよ、聞いてあげるから」
「…腹が…立つ…」
「どうして?」
「僕を好きだって言ったのに…」
「それから?」
「けど僕はあの子に酷い事をした…」
「うん」
「だから…ヤケを起こさないか心配だった」
「それで?」
「腹が立つんだけどね…一方でホッとしてる…。相手がテジュンさんでよかったと思ってる…。変だな。イヤなのに…。悲しいのにさ…
テジュンさんなら、ラブをおもちゃにしないって…。僕みたいにあんな…あんな…」
「…」
「…会えないかな…もう一度…。もう一度会いたい…。会って話したい。僕の気持ちを…全て…」
「兄さんは彼が好き?」
「…好きだ…好きだ!そばにいてほしいんだ!ラブでなきゃだめなんだ!」
「…もしも…二人が戻ってきたら…兄さん、どうする?」
「…」
「戻って来て、テジュンさんとラブ君が付き合うって言ったらどうする?テジュンさんを選んだとしたら?」
「…どうしよう…どうしよう…どうしたらいい?」
「じゃあ、もしも戻ってきて、テジュンさんはイナさんと、ラブ君は兄さんと、また付き合うことになったら?」
「…え…」
「…ラブ君の気持ちって、兄さんがここであれこれ思ってたってどうにもなんないよね…。そんな事をどうしよう…なんて言ってないでさ、ラブ君が兄さんのもとへ戻ってきたらどうするか…考えた方がいいと思う…」
「戻ってこなかったら?」
「戻ってくるよ…もしも、二人が付き合うことになったとしても、そのまま逃げていくような人じゃないでしょ?あの人たち・・。きっと戻ってくる…少なくとも一度は…。その時、どうするか…。それを考えた方がいいと思うよ…」
「…戻ってきたら…」
「…これからの事…だよね、兄さんとラブ君のこれから…」
「…」

兄さんは黙り込んだ
真っ直ぐ前を見つめている

「ね、どうにもならない事で泣いてるより、どうにかなる自分の気持ちの事、考えた方がいいでしょ?」
「…ああ…」

瞬きもせずに、目の前のグラスを見つめている
僕はもう一度兄さんの顎を掴んで僕の方を向かせた

「目に光が戻った…。それでこそ僕の兄さんだ」
「…気のせいだろ…」
「もう…世話がやけるな…」

僕は、スツールから降りがてら、兄さんの唇にチュッとキスしてやった
兄さんは眉をピクリと上げて驚いた目で僕を見つめた

「もうちょっと濃い目のする?」

笑って唇を近づけると、兄さんは唇を震わせてポロポロと涙を落とした

僕はキスをやめて天井を見上げた
こんなやり方じゃ、慰めにもなんないか…はぁっ…

「帰ってきてくれるだけでいい…。僕のところに…帰ってきてくれるだけで…それだけでいい…。誰のことを好きでも…。ううん…顔を見るだけでもいい…。それだけでいいから…」
「許すって事?」
「…許す?…許してもらうのは僕の方だよ…。あんな酷い事をした…」
「…でも今こんな酷い目にあってるじゃない…お互いに許しあいたいってこと?」
「…許し…」

兄さんの動きが止まり、また表情がなくなった
喉が動いている
何かを考えているんだね…

「こうなっちゃうとどっちの方が罪が重いかだね」
「…つみ?」
「兄さんは…イナさんの名前を呼んだ…。ラブ君は…テジュンさんと寝た…。どっちの罪がおも」
「やめろ!黙れ!」
「…」
「…すまない…一人で考える…」
「…」

結局僕は、なんの役にも立たないんだね…
昔っから何でもかんでも一人で考えて、一人で決めてさ…

彼のところへ行こう…

僕は兄さんのそばを離れた

「ギョンビン!」

呼ばれて首だけ振り返った

「…ありがとう…。気持ちが固まったら…聞いてくれるか?」

兄さんははっきりとそう言った

「いいよ。カラオケルームにいるから呼んでね…」

役に…立てたのかな…僕は…

【99♪涙のグラス by ミン&ギョンジン】ロージーさん

余興  足バンさん

僕はカラオケルームでなんとなくぼんやりしていた
スヒョンとイナさんのことが少し気になって

無理矢理引きずり込んだミンチョルさんは
テプンさん達のちょっと不気味なバスローブ軍団に囲まれて
何か歌えってせっつかれてかなり困ってる
みんなチーフの歌って興味津々なんだよね

ギョンビンが部屋に入ってきた

「あれ…兄貴はいいの?」
「うん…ちょっとひとりになりたいって」
「大丈夫?」
「うん…あとでまた様子見にいきます」

ギョンビンが兄貴のことを本気で心配しているのがわかる
ふたりの関係もこうして一歩ずつ変わっていくんだろうな
僕は不意に弟のドンソクのことを思い出した
祭から帰ったら連絡しようと思ってたんだ…

「ね、彼歌ったんですか?」
「ううんまだ…誰も歌ってないの。みんなうるさくてずっとあの調子」
「スヒョンさんの歌も聴いてみたいな」
「下手そうじゃない?」
「…大丈夫ですかね…イナさん」
「…うん…」

僕はつい最近経験した引き裂かれるような時間を思った
ギョンビンも同じようなことを感じているのかもしれない
その端正な横顔が青ざめ震えていたのは
ほんの少し前の出来事だったんだ

「ギョンビン…」
「はい?」
「しあわせ?」
「はい」
「そ、よかった」
「ドンジュンさんは?」
「うん…ひみつ」
「ずるいなぁもぉ…」

いきなりドアが開き、ジホ監督がひょっこりと顔を見せた

「ね、ギョンジン君…ちょっと借りてもいいスーツなんてある?」
「はい…僕のでよければ…どうかしましたか?」
「ふふ…あの風来坊にちょっと合わせてみたくてさ」
「え?誰ですって?」
「もしかしてホンピョっ?」
「あたり」

「なになになにっ?なんか面白いことすんのかっ?」

耳聡いテプンさんがみんなをかき分けてすっ飛んできた
監督の話を聞いて黙ってられるテプンさんじゃない
「そっち先にやろう!」と言って
ジュンホ君やみんなを連れて出て行った

残ったミンチョルさんはホッとため息をついたくせに
「せっかく歌おうと思ったんだけどなぁ」と言って
ギョンビンに「めっ」ってやれた

ふたりの間に交わされる温かい空気が気持ちよかった

ギョンビンが出してきた何着かのスーツは
リビングで裸にむかれたホンピョに次々と合わせられた
ホンピョはもうみんなに取り囲まれ
完全にされるがままで呆然と立っている

仕切っているのはジホ監督
どうも仕事柄いじってみたくなったらしい
ソヌさんやミンギ君、テソンさん、mayoさんは1番前であれこれ言ってる
テプンさん達は冷やかしばっかりうるさい
イヌ先生やテジンさん達はいきなりのファッションショーをおかしそうに見ている

みんなの歓声があがった
濃紺の三つ揃いを着せたら意外とカッコよかったからだ
本人は何だかよくわからず照れて頭を撫で付けてる

そこにいきなり櫛とスプレーを持ったチュニルさんが現れて
すごい手際の良さで髪をオールバックに整え上げ
スングクさんが白いチーフをさっと胸にさした

「「「おおおお〜っ」」」
「イケルイケル!ホンピョ!」
「けっこういいですよ」
「イケてる時のイナっぽくない?」
「そうやってるとチンピラから親分くらいに昇格だぞ」
「やっぱそっち系か?」
「品がない品が!」
「キッてしてみろ、キッって」
「頭かいちゃダメですよ!」
「髪染めちゃったら?」
「ピアスなんかどう?」
「うーん…まだ何か足りないなぁ」

みんな勝手なことを言いながら思いきり楽しんでる
ミンチョルさんは少し離れたところで腕組みをして
苦笑しながら楽しそうなメンバーの様子を見ていた

「ミンチョルさんってさ、メンバーみんなのこと好きなんだね」

僕がギョンビンに小さな声で言うと
彼はすごくいい笑顔でこくりと頷いた

スーツを着せられたホンピョを引きずって
大満足のみんなが再びカラオケルームに移動したのは
ずいぶん経ってからだった
もちろんミンチョルさんやギョンビンも引きずられて行った

僕はスヒョンたちの部屋を気にしながら
みんなのあとを追った


ロンリーナイト オリーさん

静かだったリヴィングがまた騒々しくなった
振り返ると、ホンピョ君を囲んでみんなが騒いでいる
弟がスーツを持ってきて、ホンピョ君を着せ替え人形にしているようだ
ここの連中はなんだかんだ言っても仲がいい
僕はぼんやりとそんな光景を見ていた
イナはまだ見当たらない

弟は自分のスーツを着ているホンピョ君を笑いながら見ている
とても穏やかな顔
いつの間にか、僕の手を離れて巣立ってしまった弟
いや、いつまでもそんな風に見ていてはいけないな
すべて対等に向き合える、そんな存在になった
それを喜ばなくてはいけない
でも今の僕はまだちょっとさびしい
馬鹿だな

弟のスーツを着ると、ホンピョ君もそれらしく見える
あの濃紺のスーツは弟のお気に入り
あれを着たときのあいつは、一段と締まって精悍に見えた
ホンピョ君もそれなりに見える
馬子にも衣装と言ったところか
彼もまあ素材は悪くないから

ラブはどんなスーツが似合うだろう
あの子はまだスーツより、ジーパンだろう
若くて、しなやかで、何よりも無垢で…
また酒を飲みたくなった
チュニルさんが置いていったボトルに手を伸ばした
みんなの盛り上がっている様子を見ながら
喉の奥にアルコールをほおりこんだ

弟と目が合った
あいつは首を横に振って、だめだ、という合図をした
僕はグラスを掲げて、チアーズと口を動かした
弟がみんなの輪から離れて僕の方へ近づいてきた
叱られるか…

「頼みがあるんだ」
弟はいきなりこう切り出した
「お前が僕に何の頼み?もう飲むなって?」
「違うよ」
「じゃ、何?」
「明日、店に出る前にちょっとつきあってほしいところがあるんだ」
「どこ?」
「お楽しみ」
「僕とお前で?」
「彼も一緒」
僕はくくっと笑った
「お前達の邪魔はしたくないな」
「違うんだ、兄さんも一緒でないと困る」
「ほお?何だろうね?」
「だから、お楽しみだって。彼もまだ知らない」
「よくわからないけど、いいだろう。行くよ」
「よかった」
弟はほっとした表情を浮かべた

「もう休む?部屋に案内しようか?」
「追い払うのか。そんなに酔っ払いに見えるか?」
「見えないよ。だから言ってるんだ」
「見えないならいいだろう」
「体は酔ってるのに、頭が酔えない。そういう酒はやめた方がいい」
弟は僕の腕を取ると強引に歩き出した
空いてる方の手でボトルを掴むと弟についていった

「ここだよ。シャワーもついてるから」
「至れり尽せりだな」
「後で来るから」
「いいよ。一人で大丈夫だ。色々考えるから」
弟は僕の手からボトルを抜き取った
「これはもうやめて。考えるのにお酒はいらないだろ」
「ほんとにお前はカタブツだ」
「そうかな」
「そうさ。置いていけよ」
「だめだよ」
「うるさい奴だ。あんまりうるさいと嫌われるぞ」
「彼はそこが好きらしいよ」
「ちぇっ。いい加減にしてくれ」
僕はネクタイを緩めてベッドの上に寝そべった
弟はドアの所で振り返って言った
「後で来るから」
「いいって言ったろう」
「僕が来たいんだ。いいだろ?」
返事をする前に、弟はドアを閉めた

わずかに聞こえていた喧騒が消えた
いきなりの静寂に僕は震えた
臆病な奴
何のために虚勢を張ってるんだ
せっかく弟が僕に近づいてきてくれているのに…
でも今夜は一人で乗り越えないと…
贖罪?
そんなきれいなものじゃない
ただ僕にできることは、今夜一人で震えること、それだけだ

ラブ、僕は今、怖くて怖くて震えているんだ
お前を失ったらどうしよう
お前が帰ってこなかったらどうしよう
その恐ろしさが僕を怯えさせる

シャワールームに入って、自分の顔を見た
弟がなぜ僕を部屋に連れてきたかやっとわかった
ひどい顔だ
知らないうちに泣いていたんだ…
馬鹿な奴

シャワーを浴びて、涙を洗い流して、ベッドに戻った
そして、また震えた
涙を流しているのだろうか
そんなこともわからないほど、僕はただ震えていた
ラブのために…
そして自分のために…


◇BHC厨房_歓迎会準備編9  妄想省家政婦mayoさん  

皆がホンピョを連れてカラオケルームへ向かうとき僕は闇夜に言った...

「どうする?」
「カラ酒飲むわけないっしょ…唄えば腹が減る…」
「あはは…そうだな..」

僕と闇夜はまたキッチン戻った…

闇夜はドライパン粉を手で摺り合わせ..さらに目の細かいざるにすりつけながら細かくする..
すりおろしたパルミジャーノとさらさらに細かくしたパン粉を3:1の割合にした…
それをノンスティクフライパンに大さじ1くらいづつ小判型に広げる..
フライパンを火にかけ..中火弱で静かに焼く…
チーズの油が溶けてプツプツと表面が膨らみやがてパン粉とつながっていく…
そっとひっくり返し裏面も薄いきつね色に焼く..熱いうちにあき瓶の周囲に巻き付けていくと..
チュイールの形のチーズパン粉のせんべいが出来上がる…
闇夜は粗熱の取れたそれをナプキンを敷いたかごに入れた…

僕はグリーンアスパラは塩ゆでし冷やしたものを半分の長さに切って下半分にクリームチーズを塗る..
チーズを塗った部分に2cm幅くらいに切った生ハムを巻き付けた..
冷やしておいた湯むきトマトのボールにEVオリーブ油..塩..胡椒..レモン汁…はちみつを入れ..
ボールを揺すって乳化させる..ルッコラをちぎって入れてから皿に移した…

ソヌは僕等がキッチンに戻るとキッチンの前に横向きに寄りかかり僕等の手元に視線を向けている..
僕は作業をしながら様子を見ているソヌに話しかけた…

「ソヌさん..好きですね..見るの…」
「ぅん…昔の癖かな..」
「自分でも作るんですか?」
「いや..最近は…しないな…食べる専門…それに…」
「…?」
「一人で作って…一人で食べても美味くないでしょ..」
「…そうですね…」
「テソン邸に行けば美味しい物が食べれるね…珍しい食材がいっぱいありそうだ…」
「あはは…いつでも来て下さい…何でもありますから…」
「いいの?」

僕は闇夜を見た..闇夜は俯いて笑いながら頷いている…

「いいみたいです…」
「あはは…じゃミンギとお邪魔しよう…」

ソヌは僕に嬉しそうに笑った…

闇夜は短めのグリッシーニにも生ハムを巻き付け…
細いバケットを斜めにカットし軽くトーストしたものと一緒にバスケットに並べる…

ミンギがてへへ#とやってきた

「あ…やっぱし何か作ってると思った…持っていくね..」
「くちばしが長いな…ミンギは…」
「えぃ〜ぃ…先輩程じゃないッスよ…」
「ぉ…ぃ!」

ミンギはソヌに笑いながら料理をワゴンに並べ僕等の顔を覗いた..

「テソンさんも…ヌナも…唄わないの?」

僕と闇夜はミンギに首を振った…

「何でよぉ〜」…ミンギがアヒルの口になる..
「僕等にも休憩させて…」
「ぅん…わかった…先輩!行くよ#」
「僕はいいよぉ〜…」
「い〜から#」

ミンギがソヌを引っぱってカラオケルームへ向かった…

僕と闇夜は8割方キッチン周りを綺麗すると..
2人同時に腕を上げ大きく息を吸って下げると同時に息を吐いた…

「疲れた?」
「ちょっと…」
「ん…向こうで座ってて…」

2つのカップにコーヒーを淹れた…別宅用に買ったキューバクリスタルだ..

「お?…めずらしい…テソンもコーヒーなんて…」
「ぅん..これは香りがいいし..飲める…」
「それはよかった…」

僕はくすっ#っと笑った闇夜の肩を抱いて髪にkissを落とした…


ソクの災難  ぴかろん

ミンミン宅にFAXが届いた

『パーティーは盛り上がってるか〜い?
明日から営業だよ〜ん
解ってるだろうね…
休業中の分、頑張って取り戻しておくれよ〜ん

ところで、あさってだけんど、全員参加の慰労コンサートの事は、チーフから聞いたかな?
○月○日午後7時から、Pオーケストラのコンサートであ〜る
じぇったいに全員、参加するよ〜に!
もし一人でも欠けていたら…ユン・ソク君のショー出演の許可はおろか、採用も取り消すからそのつもりで!
全員の中には、キム・ヨンナム氏、ハン・テジュン氏も入っているので注意
熱があっても参加するように!

ほんじゃ、ばっはは〜い』

なんだこれ?
いつの時代のあいさつだ?
そして異常なハイテンション…
大体これ、差出人の名前が書いてない…
ま、文体で解るが…
オーナーだ…
きっと、手に入れた香水の香りに酔っているんだろう…
まったく…
それにしても…

「ちょっとみんな聞いてくれ。あさって○日午後7時からのコンサートの話だが、全員強制参加だ。一人でも欠けると…ソクさんのショー出演は禁止、いやそれどころか、ソクさんの採用は取り消しになるそうだ
僕は別にそれでも構わないが、それによって悲しむ人がいる。なので全員必ず参加するように!いいね」
「「「「ふぁぁぁぃ」」」」
「あ…でも…大丈夫かな…」
「何が?」
「…テジュンさんとラブ君だよ…」
「あ…」
「テテテテジュンまだ来てないんですかッ?!」
「ラブ君も…」
「なななんでラブ君いないんですかっ!」
「…」
「そそそんなっ!なんとかしてくださいようチーフ!」
「なんとかと言われても…」
「ぼぼ僕はテジュンに連絡取ります!だからラブ君に連絡とって、僕の命がかかっていると!」
「…ラブとテジュンさんは…一緒にいるんですよ…」
「へっ?なんで?」
「…」
「…何か…あったんですか?…イナが元気なかったりハイテンションだったりしたのは…なんかあったからですか?」
「それは…わかりません…」
「…わかりました!僕が連絡を取ります!そして二人をコンサート会場に来させます!」
「…来るかなぁ…」
「来させます!僕の命がかかってるんですよっ!あのスケベ野郎!まったく!」

ソクさんは携帯電話を取り出してテジュンさんにかけようとした
僕はそれを止めた…

「直接話さないほうがいいかもしれない…。とにかくあさっての夜までに帰ってくればいいんですから…ね…。もう少し様子を見ましょう」
「そそそんな悠長な事言ってられませんっ!僕の命がっ僕の愛がっ!スススヒョクうっどうしよぉぉええんええん」

ソクさんのオタオタぶりと、スヒョクの心配そうな顔を見て僕はどうしたらいいのか考えた
…そして遠くにいるだろうテジュンさんとラブの顔を思い浮かべ、さっきのイナとギョンジンの心中を思った

「めめめメールをうちますっ!感動的な、帰ってきたくなるような…そんなメールをっ!きいっスヒョクっなんて打てばいい?ねえっなんて打ってほしい?ああっああっどうしようっ!こんな事ならお前がイヤがってもアレコレしておくんだったきいっ!」

慌てふためくソクさんを見つめながら、もし僕がスヒョンとどうにかなっていたら、ミンもドンジュンも一体どうなっていただろうと思い胸が痛んだ…


ソクよりテジュンへ…メールでGO!  皆様

『そろそろ帰れ とっとと帰れ 帰らない気か このやろう 』R

『今すぐ帰れ ちゃっちゃと帰れ お願い帰って たのみます 』R

『テジュンへ…
今どこだ!
誰と何してるかは聞かないが…

今すぐ帰ってきてくれ!
ただちに帰ってきてくれ!
何があっても、コンサートに間に合うように帰ってきてくれ!
でないと…
僕は…僕は…BHCにいられなくなるんだあああ〜
スヒョクといられなくなるんだあああ〜
スヒョクとあんな事こんな事できなくなるんだあああ〜
僕のダイナマイトは点火寸前なのにっ!

いいかっ!
這ってでも帰って来い!
パンツはき忘れてでもいいから今すぐ帰って来い!
でないと…でないと…もう絶交だかんなっ!

                        ソクより 』R2

『おい!どうして返事をくれないんだっ!解っているのか?僕の命が、愛が、生活が、性生活がかかってるんだ!←今僕のアドニスちゃんから「ここを消して」と言われた。消したふりをした。口裏合わせろよ!
だから…早くこっちに来い!
誰だか知らんがお前もアドニスを連れているのか?
ふん!あほう!身の程知らずめ!
さっさと帰って来い!そのアドニスも連れて帰って来いよ!でないと僕は路頭に迷う
お前と同じ顔の僕を迷わせたくないだろう?!

いいか!お前とそのアドニスがどうなろうと構わん、ただ…一匹…いや二匹、死に掛けているヤツがいることだけは伝えておこう!いいな、こいつらの命とそして僕の命と愛と生活と性生活がかかっているんだからなっ!
とにかく返事ぐらいしろ!
まさか返事できないほどアドニスに溺れているんじゃないだろうな!
そんなはずはないな…ふんっばか!
いや、ばかといったのは取り消すから…
ご褒美あげるから帰ってきて、おねがいっはやくっああん〜  ソクより』P

『テジュン〜テジュン〜
お前とラブ君が○日のコンサートに来ないとぉ、僕はBHCに採用してもらえないんだ!だからぁ頼むからぁ…おねがいらからぁ(;_;)帰ってきてけろ〜ひひーんひひーん
僕のアドニスちゃんも涙ぐんでるから…おねがいらから早く帰ってきて!
帰ってきてくれたら、お前の分も早起きと掃除と洗濯としてやるしぃ、お前が部屋でみだらな行為をしてもなんとかヨンナムを誤魔化すし!なっなっ!
頼むよう…お願いだよう…
でなきゃ僕はなんのために色即是空? ソク』 P

『おまえばかりが いいおもいして ゆるされるのか ばちあたり

  いちどくらいは ぼくにいいめを みせろさもなきゃ ばけてやる

  ともかくもどれ とにかくもどれ ひとまずもどれ とりあえず 』R

『ボク キトク スグカエレ  』A

『サヨウナラ ウラミマス…』R2

『大至急帰還 演奏会必着 熱列歓迎 面談即決 狂喜乱舞 心頭滅却 因果応報 色即是空 青息吐息』B


Holiday 3 ロージーさん

ぼく…ちかごろひっぱりだこのみそちょるでしゅ。おかげでせかいがひろがってホンビョしゃんやジュンホさんともおともだちになれたんでしゅ…
でも…こまったこともあるんでしゅ…ミンチョルさんとミンのひみつを…うっかりしゃべっちゃったんでしゅ…いえ、もちろんジュンホさんだけでしゅ…
…ミンチョルさんにしられたらどうしよう…いっきょにしんらいをうしないかねないじょうきょうなんでしゅ…
おまけにドンジュンさんにだきしめられたとき、まるひえいぞうがどっとながれだしちゃって…ドンジュンさんが「ぎゃぁぁーー!」っていうくらいしゅごいのなんでしゅ…

でも、これはぼくがわるいんじゃないんでしゅよ…ドンジュンさんのとくしゅのうりょくのせいなんでしゅもん…

でも…ドンジュンさんはだれにもないしょにしてくれるとおもいましゅ…きっと…スヒョンさんにはぜったいしられたくないはずでしゅから…
けど…スヒョンさんにもちょっとおしえてあげたいな…とおもうぼくはわるいこでしゅね…

それはともかくとてもうれしいことがあったんでしゅ!
どこかの「マダム」から「おままごとせっと」をいただいたんでしゅ!
ミンチョルさんがちっちゃくなったときぼくと、おままごとをしてあそんでくれるんでしゅよ!
じかんがあるときはミンもいっしょなんでしゅ…そんなときのミンはね、とってもやさしいんでしゅよ!
ふだんはミンチョルさんにちょっときびしいときもあるんでしゅけどね…それもあいしてるからだってぼくにはわかってるんでしゅ
きょうもいままでおままごとしてたんでしゅ…そしたらみんちょるさんが…

「ねえ…みん…ぼく…ほしいものがあるのらよ!」
「なあに?」
はんばーがーやさんしぇっと!」
  「こんなにたくさん…ぱんもおやさいもそろってるでしょ?」
「でも…ほしいのらも!」
「うーん…どうしようかな…」
「ほしい!…ほしい!」
「こまったね…」
「…」

そういうとミンはおへやをでていったんでしゅ…ぼくにはわかっていたんでしゅけどね…きっと…

…ミンがかえってきました…

「…これなーんだ?」
「うわーい!はんばーがーやさんら!」

みんちょるさんはとてもうれしそうにぴょんぴょんしたあと、ミンにだっこしてミンのおかおぢゅうきしゅしたんでしゅ
ミンのしあわせそうなかおったら…もうでれでれなんでしゅよ…
ミンのでれでれなおかおなんて…まるひのなかのまるひでしゅ…

『ミンチョルさあん!はやくつづきをしましょうよ!』

…きょうはもう…おままごとはおしまいかな…またこんどあそんでね…みんちょるさん…


しりとりゲーム  れいんさん

「宴もたけなわ。ここらで何かゲームでもやろうぜ」
と、テプンさんが言い出しました

気が進まなさそうなミンチョルさんも
元気がないイナさんやギョンジンさんをちらりと見て
俯き加減に少し考え込み、結局やる事になりました

多分イナさんとギョンジンさんの気を紛らわそうと思ったんですね

と、いうわけでしりとりゲームスタート!
実況は、僕、イ・ドンヒがお伝えします

ミンチョル「ビーエッチシー」
やっぱりスタートはチーフからですね

スヒョン「イ…イナ」
スヒョンさんがイナさんを優しく見つめています

ギョンジン「な…涙…」
せっかく明るくなりかけたのに、ギョンジンさんが涙ぐみながら言ってます

イナ「ダ…ダイサイ」
やはり落ち込んでいてもギャンブラーの血が騒ぐのか…

スヒョン「イ…イ・ミンチョル」
あ!うっかり口滑らせたら、ドンジュンさんがむっとした顔しています

イナ「ル…ルーレット」
ここでイナさん、またギャンブラーの本能が…

ソク「ト…トマホーク」
ソクさん…またそんな危険物を…

ギョンジン「く…苦悩…」
う…ギョンジンさん、徹底的に落ち込んでいます…

イヌ「ウ…ウシクは不安定…」
イヌ先生がウシクさんを見つめ、手を握り締めています

ウシク「い…イヌ先生は僕だけのもの…」
こ、これはわけのわからないしりとりになっています

ギョンビン「の…飲みすぎ…」
ギョンビンさんがギョンジンさんを嗜めるように言っています

ソヌ「ぎ…義理のない戦争…」
ソヌさん、まだ映画を引きずっていますね

チュニル「う…宇治茶」
チュニルさんが渋さをアピールしています

ソヌ「や…やくざ…」
ソヌさん、映画の事はもう忘れて下さい…

ホンピョ「ざ…座敷わらし」
ぷっ!

ギョンビン「シ…シルクのパジャマ…」
ギョンビンさんがチーフに色っぽい視線を向けています

ソヌ「マ…マカロンショコラ…」
ソヌさん、意外と食いしん坊です

ギョンジン「ラ…ラブ…」
ああ…またいっきにテンジョン下がりました…

ミンチョル「ぶ…ぶあかっ」
チーフがイナさんに言ってます…

スングク「か…仮分数…」
スングクさん、存在感をアピールしています

ホンピョ「う…うがいと手洗い…」
ぷっ!

テプン「い…1ラウンド…」
テプンさん、よっぽどトラウマになってるんでしょうか

スヒョン「ド…ドンジュン怒るな…」

ドンジュン「な…なんなのさ…」

スヒョン「さ…さらっと流して…」

これはしりとりではなくてほとんど会話になっています…

イナ「テ…テジュン…」

…そうして最後にイナさんのとどめの言葉でいっきに場は沈み、しりとりは終わりました…


メール騒動   ぴかろん

俺はソクさんとお風呂に入ろうと思ってたんだけど、ソクさんったらドンヒさんに「詳しい爆弾処理の仕方」を教えてたつて聞いてさ、それで思いっきり両手でソクさんのほっぺた叩いて風呂場から出てきたの
ソクさん暫くしてがっくり項垂れて帰ってきたけど、その後にチーフが「オーナーからの伝言」を伝えたもんだから今度は慌てふためいててさ…
かっこ悪い…そして…かわいい…

でも、テジュンさんとラブが帰って来なかったら本当にヤバイ…
ま、あさってだからきっと帰って来る…と思うけど
ちょっと心配…
ソクさんは涙目でメール打ちまくってる
ずっとメールしている
どんなメールを打ったのか聞いてみた
そばによるとソクさんは俺の首に纏わりついてわあわあ泣き出した
俺はソクさんの顔をぐいっと平手で押し(だってそうしないと俺の首にキスするんだもん…)ソクさんのメールを読んだ

「これ、消してないじゃない!」
「あ…」
「俺、こんなこと言ってないよ!何これ」
「いいん…」
「こんなメールで帰って来ると思う?」
「ううう…」
「…性生活って?!」
「え?」
「みだらな行為を誤魔化す?!」
「お…おお…」
「まったく…。ダメじゃん!ちょっと俺が打つ」
「えへへん…」
「打つから纏わりつかないで!」
「いひん…スヒョク…いい匂いらもん」

べちん☆

ソクさんは涙目でしゃがみこんだ
俺はソクさんの携帯でテジュンさんにメールを打った

『スヒョクです
テジュンさん、ラブと一緒なの?早く帰ってきて。みんな待ってます
あさってのコンサートにはきっと帰って来るよね?
イナさんもギョンジンさんも…二人を待ってる…
あの二人、すごく落ち込んでる…
二人を救えるのはテジュンさんとラブだけだ

ソクさんの採用云々よりも、イナさんとギョンジンさんの落ち込みの方が俺は気になるんだ…
特にイナさんは…
テジュンさん、前に俺に言ったよね、『イナを悲しませるようなことはしたくない』って…
あれ、ウソだったの?!
違うよね?
早く帰ってきてイナさんを安心させてあげてよ
でないとまたイナさんの病気が出ちゃうかもしれないもん!心配だもん俺…

で…なんでラブと一緒なの?
ラブ、なんかあったの?
俺、祭のとき同室だったのに、あいつの事何にも知らなくてさ…ごめん…
今からでも俺、ラブの相談に乗るからさ、ラブと二人で早く帰ってきてよ
寂しいよ…

スヒョクより』

ピッ

「…送信したの?なんて書いたの?」
「いいじゃん別に…」
「まさかお前、『テジュンさん愛してます』なんて書かなかったろうな!」

ばかだな…書くわけないじゃん…
でも読まれたらヤだから削除しとこう

ピピッ

「あっ!お前!なんで削除したのさっ!読めないじゃないかっ!きいっ」
「はいどーぞ。さ、俺、今からお風呂に入ってこよっとぉ」
「え?フロ?ぼぼぼ僕も入るっ」

ピロロロン♪

「あっ!返事がきたっ!」

ソクさんはメールの返事に夢中になっている
その隙に俺はお風呂に行った

誰からの返事かな?
   テジュンさんだといいけどね


『ソクさんへ
〜帰ってきてくれたら、お前の分も早起きと掃除と洗濯としてやるしぃ、お前が部屋でみだらな行為をしてもなんとかヨンナムを誤魔化すし!なっなっ!
頼むよう…お願いだよう…
でなきゃ僕はなんのために色即是空? ソク〜

という、テジュン宛のメールが、なぜか僕に届きました
とても気になる部分が3〜4箇所ほどあります
後ほど詳しいことをお聞きしたい
          ヨンナム』


「なんでヨンナムさんとこに?」

そういいながら送信済みのそのメールをもう一度テジュン宛に送り

『追伸・さっきスヒョクがお前にメールしたはずだ!なんて書いてあったかすぐに僕宛に転送してくれ!永久保存にしたいから。ウフン
  ソク』

などと書いている迷えるソクであった


ミンのメール オリーさん

ギョンビンです
今回兄さんのしでかした事は決して許される事ではないと僕は思います
ですからラブ君がどうしようと、とやかくいう気はありませんし
また言う資格も僕にはありません
ただ、無理を承知でひとつだけお願いがあります
兄との事をどうするにせよ、一度兄の話を聞いてあげてくれませんか
兄は後悔しています、それだけは確かです
このメールは兄に頼まれたわけではありません
僕の独断で打っています
弟として僕にできるのはこのくらいなのです
大事な物を失う辛さは僕もわかっているつもりです
勝手なお願いですが、考えてみてください
お願いします
ラブ君へ


眠れぬ夜 3 足バンさん

ずいぶん長いことイナは僕の肩に頭をあずけぼうっとしていた
どこか向こうの部屋で騒ぎが起こっている気もするが
遮音性の優れたこの家ではほとんど聞こえない

「ごめんなスヒョン…」
「ん?」
「さっき酷いこと言って…」
「何て言ったんだった?」
「聞くやつがあるか」

「さて、じゃそろそろ」
「もう行くのか?」
「何言ってんだ、掃除だよ掃除」
「へ?」

キッチンから用済みの紙袋をもらってきてイナにグラスの処理をさせた
僕はまき散らされたバーボンの後始末をした
イナは子供のようにしゃがんで小さな破片をつまみ、袋に入れている

「ばかだよな…戻らねぇよな…割れちゃったら…」

そう言った後ろ姿はひどく小さく見えた

「破片を残らずつければ元通りだろう」
「気が遠くなる作業だな」
「時間はかかるね」
「たとえくっついても使い物にならないだろ」
「グラスは酒入れるだけのものじゃないだろう」
「…」

イナはかけらを拾いながら泣いているようだった

他にもメンバーが散らかしていたものをあらかた片付けた
そんなことをしているうちにイナは少し落ち着いたようだ

イナを連れてカラオケルームに顔を出した
前の方でテプンとチョンマンがブルースブラザースになっている
ドンジュンに声をかけミンチョルとギョンビンを呼んでもらった
ドアを閉めると中の喧噪は遮断される

「今日は僕のうちに連れて帰る」
「そう…頼むよ…あとのことはいいから」

イナは心配気に見ているミンチョルとギョンビンに

「悪いな…何だか調子狂わせちゃって」
「ギョンジンを頼むよ」

そう言うとそのままエントランスに歩いて行った
ミンチョルがそのあとを追って何かひとこと言葉をかけている

僕は離れたところでぼんやりしているドンジュンに「行くよ」と声を掛けた
ドンジュンがバイバイと手を振るので
「ばか、おまえも行くんだよ」と言って腕を引っ張った

僕の家に着くまで僕たち3人は何も喋らなかった

イナは何をどう考えていいのか混乱し続けているんだろう
ドンジュンはイナの心情が痛いほどわかるのだろう

家についてまずイナを風呂に入れた
ミンチョルたちの風呂とは比べ物にならないが
それでも手足をのばせるホテルサイズだ
温めの湯を張ってゆっくり入るように言った

風呂の外に着替えを置きに行くとイナのかすかなすすり泣きが聞こえた

振り返るとドアの横でドンジュンが俯いて立っている
僕は後ろで扉を閉めてドンジュンを抱きしめた

「イナさん…辛そう…」
「うん」
「僕…イナさんの気持ち…」
「わかってるよ」

僕はドンジュンの肩を包むように抱きしめてくちづけた
ドンジュンはぽろりと涙をこぼして優しく応えた
唇を離すと、彼は僕の胸のシャツでぎゅうっと涙を拭いて微笑んだ

「僕帰る…」
「おまえが帰るとイナが気を使うだろう」
「うん…そう思ってついて来たけど…やっぱり帰る」
「ドンジュン…」
「僕がいるとあの人カッコつけちゃうよきっと」
「うん」
「イナさんの話ゆっくり聞いてあげてよ」
「うん」
「スヒョン」
「ん?」
「ありがと」
「ん?」
「帰ってきてくれて」

僕はその言葉に大きく息を吸い込んだ
突然の温かい波紋に胸がいっぱいになったから

僕は抱きしめた腕にもう一度力をこめて深くくちづけた

ドンジュンが「おやすみ明日お店でね」と言って出て行き
ずいぶん経ってからイナが出てきた

「ドンジュンは?」
「帰った」
「何で?まずくないの?」
「まずくないよ…おまえの話聞いてやれって」
「おまえらって…いい関係なんだな…」

僕たちはソファの座面に寄りかかり床に焼酎とつまみをおいて
何やら遅くまで話した
イナはやたらと昔の話をしたがった
小さな頃の話や若い頃のムショの話をはじめてゆっくり聞いた

「考えたら俺…テジュにこんな話したことないや」
「彼の話も聞いたことない?」
「うん」
「これからなんじゃない?」
「ミンチョルに言われたんだ…どうしても守りたかったらじっとしていた方がいいこともあるって
 辛抱強くチャンスを待てって」
「それもひとつの方法だな」
「うん」
「最後に決めるのはおまえ自信だよ」
「…」
「なに?」
「きつねも同じこと言いやがったよ」
「ふふ」
「さっき帰りにあいつに言われたんだ…僕もスヒョンもついてるからって」
「そうか」

イナは空のグラスを両手で握りしめて目を閉じた

「俺ってなんだかんだ言って恵まれてんのかもな」
「なんだ…まだ涙残ってたのか?」
「酒飲むと全部涙になっちまう」
「もう休めよ…ベッド使っていいから」

イナは少し申し訳無さそうに僕を見た

「…スヒョン…」
「ん?」
「嫌じゃなかったら…その…横にいてくんないか?」
「僕手出さないけどいい?」
「ば、ばっかっ!そんなんじゃねぇよ!」
「ふふ…いいよ」

その夜、僕はイナの傍らで眠った

泣き疲れ話し疲れたイナは僕の横にもぐりこみ
子供のような顔で寝息をたてた
こんな寝顔をテジュンさんは愛しんでいるんだろう
そしてきっと今彼はイナへの気持ちを洗い出しているんだろう

テジュ…

イナの小さな声が聞こえた
そしてこぼれた小さな涙がシーツにしみをつくる

僕はその頭の下に腕を差し入れ抱き寄せてやった

できることなど何もなかったが
せめて辛い夢をみないように


ミンギのメール 妄想省家政婦mayoさん

=僕の友達..らぶちゃんへ=
らぶちゃん..帰ってくるよね..
ギョンジンさん...無理して飲んでる..見てられないよ..
震えた肩を後ろから抱いてあげてよ..
らぶちゃんの心ちゃんと見てくれると思うからさ...
また楽しくボンバー出来る日..きっと来るよね#
待ってるよ..
=らぶちゃんの友達..ギンちゃんことミンギより=

PS:テジュンさんへ
俺さ..イナ兄貴の自信持った顔好きなんだ...
お互い必要なんでしょ?...真っ直ぐ向き合って欲しいんだ...
そしたらまたイナ兄貴の顔に自信が戻ると思うんだ..
生意気言ってごめんなさい...
泣き虫野良兄貴のことよろしく頼みます..


新人の帰り道  ぴかろん

お腹も満腹、いろいろと楽しいことやらなんだかヤバそうなことやらがあって、チーフのお宅も見たし、チーフのお宅のフロも入ったし
そろそろ適当にお開きにしろってことで・・(前置きが長くなりました・・)新人の僕達は帰ることにしました

僕達ってのは、ホンピョと僕、ドンヒです
帰る前の出来事をちょっとお知らせします

テプンさんとチョンマンさんは…なんかチーフともめてました
いえ、正確に言えば『テプンさんとチーフが』なんですけどね
チョンマンさんはテプンさんに、バスローブを脱いで服を着ろって一生懸命説得…でもテプンさんは「ここは俺の住まいだから」って言い張って…
チーフの目が釣りあがりきり、どこかに電話しました

「もしもし、僕は貴方のフィアンセが働く店のチーフ、イ・ミンチョルと申します。実は貴方のフィアンセ、ソ・テプン君が、新居を僕達のマンションの空き部屋にすると言って聞かないのですが…はい、かわります。ほれっ!」
「なんでチェリムに電話なんかすんだよっ!…もしもし?え?あ…テジィ元気だったか?あのな、今、新居に来て…え?なに?チェリムが怒ってる?
え、いや、かわんなくていいからっ!いいか…あ…はい。はい。でもっあのっすげぇんだぜっ。お前も見たらぜってぇ気に入る…いや、廊下でキャッチボールだってでき…あのそれにジャグジーで親子三人水いら…はい…。ええ。はい。あ…そ…それは…。いえ。まだ…
えっ?そそそ、そんな!そんな事は俺にはまだ…。はい?それができるようになってからそういう口を聞けだと?!おめぇ誰に向かって…。…
ずびばぜん…もういいばぜん。はぇ。がえり゛ばず…。え?!俺は寮に帰れって?!あんでっ!え?もうテジと寝てる?!…はい…。わかりました。はい。はい。おやすみなさいませ…」

テプンさんは黙ってチーフに電話を返しました
チーフはパンっと電話を閉じました
テプンさんはチョンマンさんの持っていた服に着替え、項垂れてエレベーターに向かいました

チェリムさんにこっぴどく叱られたようです

「チェリムがよう…俺は寮に帰れ、もうテジと一緒に寝てるから今日は来るなって…ぐしゅっ」
「新居は?」
「…馬鹿じゃないのかって…。もっとちゃんとヤれるようになってからそういう口聞けって言うから怒鳴ってやったら、泣き出してよう…」
「テプンさんがでしょ?」
「…で…謝ったから許してやった」
「謝ってたのテプンさんでしょう?」
「…はぁ〜、いい新居だと思ったのによぅ…」

チョンマンさんとそんな事を言いながら帰って行ったのでした

その後僕達も、テソンさん、mayoさんの片付けを少しだけ手伝い、チーフにお礼を言い、まだ残ってる人達に手を振ってエレベーターに乗りました

ホンピョはすっかり人が違ってます
これなら絶対チェックされないはずです

一階に着き、コンシェルジェさんに挨拶して僕はドアを出たんですよ
でもホンピョが捕まってる…
なんで?ちゃんとスーツも着てるのに…
ん?
ニコニコしてる…なんだろう…

「見違えました、ホンピョ様。大変お似合いでございます!」
「いやっ…そぉ?なんかよぅ、垢も擦られて髭も剃られて髪型これだろ?俺、どうしていいかわかんなくなっちまってよ…歩き方変じゃねえか?どうしたらいい?こんな三つ揃い着たときにはよぉ」
「はい。ガニマタと猫背を辞め、自分は映画スターだと思いこんで歩くことでございます」
「映画スター?ちょっとやってみていい?見ててよトン…トン…」
「トンプソンでございます」
「そう!トンプソンさん」

ホンピョのヤツ、偉くギクシャク、でもまっすぐ歩いてるぞ…何やってんだろ…
あれ…でも…かっこいいじゃん…
すごいな
BHCの皆さんは自分を輝かせるだけでなく、他人の魅力も引き出すことができるんだ
じゃあやっぱり僕もテジンさんに頂いたあのネクタイを締めないと…

「もう少し自信をお持ちになって」
「自信っつったってよぉ…」
「それは胸を張りすぎでございます。チンピラに見えます」
「だって俺、チンピラだしよぉ」
「いいえ。貴方様は紳士でございますよ」
「んまたまたぁ、おだてようったってもうあのウマいメシはねぇぞ」
「いえいえ。本当に貴方様は紳士でございます。私にあのおいしいご馳走を持ってきてくださった…そのお心遣い、そして、紳士の心得をお聞きになったその向上心…それこそが貴方さまが紳士たる所以でございます!」

紳士?
紳士道をこの方に習ってるのか?
こいつ、なかなかやるな…
僕も一緒に歩いてみよう

僕はホンピョと一緒に歩いてみました
コンシェルジェさんは少し驚いていたけど、僕達二人を見つめて微笑み、そして拍手したんですよ

「ブラボー!お二人のコンビネーションは素晴らしい」
「二人?およっドンヒ!いつの間に…」
「いや、君のウォーキングレッスンに混ぜて貰おうと思ってさ。あ、すみません。僕はドンヒと申します」
「私はトンプソンでございます」
「あの、僕にも紳士道を教えていただけませんか?」
「貴方様は私がお教えするようなことは…。あ…でも…スーツは今風のモノを着られたほうが…」
「…」
「トンさん、コイツのこたぁどーでもいいんだよ」
「いえ、でもお二人はとても…相性が良さそうでございますな…何かお二人でなさってはいかがですか?」
「「へっ?」」

こいつと二人で何を?!漫才ぐらいしか思い浮かばねぇ…

僕達は顔を見合わせにらみ合いました
そしてトンプソンさんに礼を言ってチーフのマンションを後にしたのです


◇BHC厨房_歓迎会帰宅編 妄想省家政婦mayoさん
 
カラオケルームから皆が出て来た頃..僕と闇夜はキッチンに戻った..
ミンギがワゴンに乗せてきたグラスを闇夜に渡しながら僕に聞いた..

「テソンさん..イナ兄貴帰った?」
「ぅん…」
「そう…」

ソヌは項垂れてため息をついたミンギの背中を軽くトントンと叩いた..
ミンギはぅんぅんと頷いてソヌに切なく笑った..

ホンピョがドンヒと一緒に残りの皿とバスケットを持って来た..
ホンピョは闇夜をツンツン突っつく..

「それ着て帰っていいって?」
「ぉ…ぉぅ…何も言われないから..いいと思うけどよぉ…」
「ぷっ…そう…脱いだらちゃんとハンガーに掛けて…」
「わーてる…」
「そのまま寝ちゃ駄目だよ…」
「わーったって..」
「僕がちゃんと見てます#」
「そっか…ドンヒさんお願いね…」
「はいっ#..」

ホンピョとドンヒはど突き合いながら帰っていった…

テプンはバスローブのまま帰るのを抵抗してたけど…チェリムに勝てるわけない…
結局服を着替えてチョンマンと帰っていった…

他のメンバーもパラパラと帰り僕等とソヌ達が残った…
僕はBHCから持ち出してきた物を整理しながらソヌに聞いた..

「あれ?監督は?」
「ん?…あそこ…」

ソヌは拳を口に当てくすっ#と笑った…
ジホはソファででれぇ〜っとひっくり返っている…
ミンギも闇夜と一緒にグラスを拭きながら笑っている…

「ミンギ…はしゃぎすぎた?..監督…」
「ぅん…チョンマンさんやホンピョさん,ドンヒさん捕まえてさ…じゃれてたよ..」
「たはは..そう…」
「オヤジだからさ…疲れちゃったかも…」
「ミンギ〜…僕にも言ってる?それ…」
「ぁは…先輩…^^;;…」

片づけが終わった闇夜は小さな箱を開け..1個口に入れた…
僕が箱を覗くと…Debaove et Gallais のチョコだ…

「mayo…ろくに料理も食べないで…そんなんばっか食べる#..」
「だって..疲れがとれる…」
「ふっ..ぅん…ぁ..^o^…」…闇夜は僕の口にチョコを入れる…
「僕も…ぁ…^o^…」…ミンギの口にもチョコを入れた…
「僕も…ぁ…^o^…」…ソヌの口にはミンギが入れた

コーティングが少し厚めのここのチョコはまったりとして上品な味がする..
僕たちは互いにぅんぅん頷き親指を立てた…


僕たちは労をねぎらうチーフとミンに挨拶をして..ミンミン邸を出た…
僕の車でジホをアトリエへ送り…ソヌ宅へ回りソヌとミンギを降ろし..
BHCへ寄って荷物を降ろし..その後僕等はやっと別宅へ帰った…

「はるみ〜」

はるみは闇夜に抱きついて前足をバタバタし…僕が顔を撫でるとみゃぁ〜っと鳴いた..
闇夜はリビング側と中庭側のガラス戸を全開にして風を入れ..深呼吸をした…

「ぁ〜気持ちぃぃ〜」
「…ほっとするな..座ってて…僕が片づける…」
「ぅん…」

中庭のベンチに座りはるみとじゃれた…

「何してたの?はるみ…」
「すとれっちしてたにゃん..」
「えぇ〜…あれ使って?」
「そう..にゃん#」
「たはは…それは見事…」
「てそんはつかうにょ?あれ…」
「ん…明日させよう…」
「ひゃひゃ…たのしみ..みゃ〜…」

はるみはどうやら出がけに届いたテスが副賞でもらったストレッチマシーンを使ったらしい…

「あとは?何してた?」
「あっちのへやとおふろであそんだにゃん…」
「あはは…そう…」
「おふろもべっともおっきい〜〜にゃぁ…」
「ん…じゃぁ…帰ったら一緒に入れてもらうといい..」
「そうするみゃぁ…ひゃっひゃ…ぁ…まよ..↑」
「ん?…」

はるみが大きな目をくりっ#として空を指した…ひときわ明るい☆がきらりん#と煌めいた..
ふっ#っと笑ってはるみを撫でた..

中庭に来たテソンがはるみを抱き上げた…胴体を持ちゆさゆさ揺らし..顔を覗く…

「はるみもあわあわお風呂に入る?」

みゃぁみゃぁぁ〜とはるみはテソン腕の中で足をばたばたさせた…^^;;

テソンははるみを抱いたまま部屋へ向かった…


ソク帰る   れいんさん

スヒョクがあんまりせがむものだから、僕は仕方なくスヒョクを部屋に連れて行く事にした
何度も断ったのにスヒョクときたら

「ソクさんはもう俺に飽きたんですね…」とか
「誰か他に好きな人でもできたんですね、ドンヒ君とか…」
なんて涙目で言うもんだから…しぶしぶだ!
これも惚れた弱みってやつかな…

あーあ…あんなおんぼろ下宿のへんてこりんな部屋みたら絶対スヒョク笑うだろうな…

僕はそんな事を考えながら重い足取りで歩き、そしてとうとう家の前に着いた

「…ここだよ」
「へえ〜…ふ〜ん…なんだか風情があっていいですね」

そう言ってスヒョクはおんぼろな引き戸に手をかけた

「あれ?開かない…」
「ああ、それはなちょっとコツがあるんだ。貸して」

あ…僕、ヨンナムさんみたいな事言ってるよ…
でもって、いつの間にかコツ覚えてるし…

「わあ!さすがですね!ソクさん!」

んな事でキラキラした瞳で僕を見るなよスヒョク…くうっ!たまらんっ!

スヒョクは家の中に入ってもずっとキョロキョロあちこち見回しては、目を輝かせ歓声を上げている
玄関のたたきに置いてあった下駄を見ても喜ぶし、階段がみしみし鳴っても喜ぶし…
へへへ、可愛いな…

で、問題の僕の部屋に入った…

ふん!笑うなら笑えよ
だから何もないっつっただろ

「うわあ〜ほんとだ。シンプルで男らしい部屋ですね。いいなあソクさん」

へっ?そ、そうか?

「俺、この家もこの部屋も凄く好きです。なんだか懐かしい感じがして…落ち着きます」

そうか…気に入ったのか…

「ねえ、ソクさん。今日俺ここに泊まっていってもいい?」

え?
ええっ?
ほんとか、スヒョク
いいのか?やっとその気になってくれたのか?

「スヒョク…泊まっていってもいいけど…わかってて言ってるの?」
「ソクさん…」

こうなったら雰囲気がどうのなんて言ってられないここらでバシっと決めなきゃな…

僕はスヒョクの腕を素早く掴み抱き寄せた
そして顎に手を添えて顔を近づけ囁いた

「なあ、スヒョク…あんまり焦らすなよ。…僕がどんなに愛しているか十分知ってるはずだろ?」
「や…だ…ソクさん…今来たばかりなのに…」
「今日こそ、僕のマグナム44を派手にぶっぱなしてもいいだろう?」

そして僕はとびきり濃い目のキスでスヒョクの唇を塞いだ

「あ…ん…」
「好きだよ…スヒョク…」

トントン

「ソクさーんっ!どなかたお客さんですかーっ?」

げっ!!!ヨンナムさんだっ!

僕とスヒョクは慌てて体を離し、ちゃぶ台の所にしらじらしく座り直し衣服の乱れを整えた

「あ、いらっしゃい。ソクさんの初めてのお客さんですね
僕、ここの管理人のヨンナムです。ソクさんにはいつも色々お手伝い頂いて助かっているんですよ」
「あ、初めまして。俺、スヒョクです。…ソクさんがお手伝いを…?」
「ええ、朝から床を雑巾がけしてくれたり、御飯をよそってくれたり…5時に起きて乾布摩擦やラジオ体操も…」
「あわわわわわ〜」

僕は咄嗟に手を伸ばしてヨンナムさんの口を塞いだ

「ふがっふがっ…ど、どうしたんですか、ソクさん!」
「えっと…ああ…もうそんな話はもういいですよ。ところで、何か用でも?」
「あ、そうそう、これに記入して頂こうと思いまして」
「なんです?これ」
「ええ、出入りされた方のお名前やご住所を書いてもらってます。まあ、宿帳みたいなものですよ。セキュリテイの問題もありますし…」

なにがセキュリテイだよ!こんなおんぼろ下宿でっ!

「あ、それからこれ…お茶とお菓子持って来ました。ゆっくりしていって下さいね」

だいたい予想はついていたけど、ヨンナムさんは日本茶と豆大福を出してくれた
…にしても、スヒョクはニコニコと嬉しそうにヨンナムさんと話が盛り上がっている
ヨンナムさんもスヒョクが書いた名前や住所を見て今度ハガキを出すとか言っている
メルアド交換していたのにわざわざハガキ出さなくても…
そうしてそのうち二人できゃっきゃと連れ立って他の部屋を見学に行った

しばらくすると息を切らせてスヒョクが戻ってきた

「ねえねえソクさんっ、この家の至る所にヨンナムさんが書いた書みたいなのが掛けてありましたよ
俺、それを見て感動しました!いい事書いてあります!」

ふう〜ん…なんて書いてあったの?

「えっと…お風呂の脱衣所には『鬼は外、福は内』って。で、トイレの中には『メール一文字事故一生』って書いてありました」

あっそう…

僕は嬉しそうに話すスヒョクを見て思った
この分じゃ今日も引き金は引けそうにもないな…
僕の可哀相なマグナム44…


夜明け前 オリーさん

テプンをやっと追い出した
攻める所さえ押さえておけば、いくらあいつが駄々をこねてもだめなのだ、ふふん
ホンピョとドンヒも引き上げた
テジンとスハ先生、イヌ先生とウシクもそれぞれ肩を寄せ合い帰っていった
ソクさんはどんどんエレベーターに乗り込むスヒョクの後を
おいていかれないよう、必死でついて行った
素晴らしい料理を取り仕切ったテソンとmayoさんは最後まで片付けをしてくれた
ちょっと途中でまた口をモゴモゴさせていたが
そして監督ご一行と帰った
監督ははしゃぎすぎて疲れたらしい
ソヌ君とミンギ君に抱えられるようにして帰っていった

僕とミンはカウンターで、一杯づつ残りの白ワインを飲んだ
「ちょっと疲れたね」
「うん」
「スーツ、ホンピョにあげちゃっていいの?」
「あ、うん。もうかなり着ていたし」
「そう」
「それより、明日なんだけど…」
「ん?」
「店に出る前に一緒に行って欲しい所があるんだけど」
「どこ?」
「んと、よくわからないんだけど、兄さんも一緒に」
「何?」
「ちょっとね」
「ふううん」
ミンは言いづらそうだった
「いいよ」
また何か秘密…たぶん例の件か
「よかった」
ミンはほっとした顔になった

寝る前にミンは兄さんの様子を見てくる、とゲストルームの方へ行った
僕はミソチョルを連れて寝室へ行った
ミンはなかなか戻ってこなかったので、僕はミソチョルと一緒に寝た
もうかなり遅い時間だ
「今日はミンを貸してあげようか」
ミソチョルがうん、とうなづいた気がした
僕はミソチョルを胸に抱いて目を閉じた

兄さんは泣きながら眠ってしまっていた
僕はしばらくベッドの端に腰かけてその寝顔を見ていた
ごめんね、僕は何もしてあげられない
親指で涙の跡をぬぐった
寝ていたと思っていた兄さんが静かに目を開いた

「ごめん、寝てたと思ってたから」
「今起きた」
「起こしちゃったね」
「みんなは?」
「もう帰った」
「そうか。最後まで付き合えなくて悪かったな」
「いいよ、そんなこと気にしなくて。水持ってくる」

僕はキッチンに行って、冷たい水を持ってきた
兄さんは美味しそうにその水を全部飲んだ
「ねえ…」
「何だ?」
「今夜一緒にいようか?家に居た時みたいに一緒に寝る?」
兄さんが僕の顔をじっと見た
何かを考えていた
「いや、今夜はひとりでいい。ひとりでいないと…」
兄さんはまだ、何かと闘っている
僕は兄さんの手からグラスを取り上げた
「わかった。じゃ、僕は行くよ」
「ああ」
「明日、一緒に出かけるの忘れないでね」
「わかってる」
結局僕は何もできないまま、兄さんの部屋を出た

寝室に戻ると、彼はもう寝ていた
パジャマに着替えてベッドに近づくと、彼の胸にミソチョルがいた
僕はまたベッドに腰かけてしばらく彼の顔を見ていた
僕の大事な物はちゃんとここにいる
それがどういうことか、わかったような気がした
彼を抱きしめたい衝動に駆られたけど、背中を向けてベッドに入った
兄さんの事を思うと、何だかそうしなくてはいけない気がしたから
後ろから彼の手がゆっくりと伸びてきて僕を包んだ
「おかえり」
彼はそう言って僕を抱いてくれた
僕はその手を握り締めて、唇を噛んだ
こみ上げてくる涙をこらえるために

「あ、いけない」
彼がもそもそ動いた
「ミソチョルがつぶれる」
僕らの間に挟まったミソチョルを取り出すと、僕の胸に押しつけた
僕はもう片方の手でミソチョルを抱いた

僕らは3人で静かに眠った


色即是空なソクさん  ぴかろん

「ところでソクさん」
「なんでしょうヨンナムさん」

早く出て行け!そしてとっとと寝ろ!

「先ほど頂いたメールですが」
「げっ…」
「これですね…えっと『帰ってきてくれたら、お前の分も早起きと掃除と洗濯としてやる』とありますが」
「はい…」
「テジュンに何か弱みでも握られている?」
「…い、いえ、その。それはその前に書いた『帰ってこないと僕のBHC採用が見送られる』ということに関しての取引みたいな…」
「それでテジュンはなんと?」
「返事がきません」
「そうですか…きっとかわい子ちゃんとヤりまくってるんでしょう」

えっ?
ヨンナムさんがそんな事を言うなんて

僕はぎょっとしてヨンナムさんを見た
ヨンナムさんは涼しい顔をしている

「それからここ、『お前が部屋でみだらな行為をしてもなんとかヨンナムを誤魔化すし』…」
「あうっ」
「僕は…貴方と名前を呼び捨てにしあうほど仲良くなりましたっけねぇ」
「あっちょっと急いでたものですから…『敬称略』というヤツです…」
「ほほう…」

さっきのところと今のところをなにやらメモに書き付けているヨンナムさん
なんなんだ!

「そしてこれは?『僕はなんのために色即是空?』」
「え?」
「これはどう捉えたらよいものか…」
「は?」
「『色即是空』と言うのはですね、仏教用語でして、『現世の万物は形を持っているが永久不変のものはなく、全てのものは因縁による仮の相である、ということ』とこの辞書に書いてあります」

そう言ってヨンナムさんは古ぼけた辞書を渡してくれた

ふむ…
はあん…へぇんほおおん

んなこたどーでもいいんだよっ!早く下りてけよ!そして歯磨いてシッコして寝ろ!けっ!

「この文章に当てはめると『僕はなんのために現世の万物は形を持っているが永久不変のものはなく、全てのものは因縁による仮の相である?』ということになりますね?意味がよくわからない…何が言いたいのか…」
「ええ、ですから今ここにある僕の形は永久不変のものではなく、このスヒョクとの因縁により仮の相が変わっていくと…」
「ほお…スヒョク君により変わる相ですか…あなたの形が?」
「ええ!例えばさっきは爆発寸前だったんですけど、ヨンナムさんとの因縁によって鎮火しましたっ!きいっ!」
「おお、そこに僕との因縁が絡むのですな」
「ええっ」

スヒョクはクスクス笑っている。きいっ!何も面白くないってばっ!

「それで、一体なぜ爆発寸前に?」
「それは愛です」

スヒョク!げらげら笑うな!

「愛?なぜそこに愛が出てくるんでしょう…」
「愛が溜まりに溜まって爆発しそうな相なんですよっ!」
「ほほう。で、なぜテジュンの淫らな行為を僕に誤魔化すなどと言う事を企むのですか?」
「へっ?いや、それはテジュンだって愛が溜まりに溜まれば爆発してしまうでしょうから、空気というか圧力を抜くというか…しないと…」
「なぜそれが淫らな行為?」
「あーそれはその…もののたとえといいますか、その、あの、メールを楽しくするための言葉のあやといいますかその…」
「貴方は何故テジュンにそんなにも気を遣うのですか?掃除や洗濯をかわってやるなどと言うのはいけません。テジュンにはテジュンの仕事をさせなくては不公平です!」
「は…はいですから…それは別に本気では…」
「ではウソだというのですか?!」
「…ウソというか…その」
「ウソはいけません!」
「…」
「そう思いませんか?」
「そうだよソクさん、ウソつく人って嫌いだな、俺」
「ですよね?スヒョク君」
「はいヨンナムさん」

何ヨンナムに調子合わせてるんだよ!なんでこんな禅問答させられてるんだよっ!
きいっ

「貴方の今朝の仕事ぶりを拝見していると、テジュンよりも随分見込みのある方だとお見受けしたのですが、僕の買いかぶりでしょうか」
「…は?…」
「貴方は誠実で思いやりがあり、人の『嫌がることはしない』方だと思いました。テジュンよりも僕に似ていると思いました」
「そうですよ、ソクさんは誠実だし思いやりもあるし、人の嫌がることはしません。ただちょっとすけべうぐっ」
「スヒョク!何もいうんじゃないっ!」
「すけべ…。男たるもの少々スケベなのは仕方ないですね。でも!この部屋で淫らな行為はやめてください」
「どーしてですかっ!僕は大人ですよっ!健康な成人男子が少々淫らな行為をするってのは健康な証拠じゃないですかっ!」
「ええ。そうですね。それは僕だって健康な成人男子ですから解ります。けど、この部屋では困ります!」
「なんでですかっ!せっかくスヒョクが泊まりに来たのにっ!」
「命に関わることなのです」
「…へっ?」
「昔、親父の言いつけを守らなかったあるばか者がいましてね、淫らな行為にふけっていて…そして…そこです!
ちょうど、ソクさんの足があるあたり…そこの床を踏み抜きましてね…。下の階に落ちました」

え…

「この下宿は古いのです。ですから…普通に静かに生活するにはよいのですが、どたんばたん暴れますと…危険なんですよ
わかりましたか?それに…もしそういうことをしていれば僕はすぐに解ります。よく響きますから。そいういうことです」



僕は涙目でスヒョクをみた
スヒョクは涼しい顔をして笑っている
なんで笑うか!せっかくの君との楽しい一夜を…なんで落下する恐怖におののきながら過ごさなくてはならないんだ!

「くれぐれもご注意を…ではそろそろ失礼します。朝五時には起こしますのでゆっくりお眠りください」

ヨンナムさんはきちっと礼をして部屋を出て行った

「スヒョク〜」
「近づかないで!俺、落ちたくないから!」
「キスぐらいいいだろう?」
「…キスで済まないじゃない…。それよりもう寝ようよ。俺も明日の朝の仕事、手伝うからさ」
「…そうだな。寝よう寝よう」

ふんっ一緒の布団にもぐりこめばこっちのものだ!
だいたい床を踏み抜くほど激しくやらなきゃいいんだし…

スヒョクはかいがいしく布団をひいてくれた

「寝ようか、ソクさん」
「うううっかわいいっ!スヒョクっ!」
「うわっやめてよソクさん!」

ズターン☆

「「しいいいっ」」
「どうしましたかっ」
「い、いえ、足がすべっちゃって」
「床に気をつけてくださいね〜。あの〜この建物、もしかすると重要文化財に指定されるかもしれないって噂があるんでね〜よろしく〜」
「…はい…」

結局何もできないっていうのか?キスさえも?!
いや
キスぐらいはいいだろう…
僕はそうっとスヒョクの方に這って行って、スヒョクの顎を掴み、くちづけした
スヒョクは少し抵抗して(いつも少しだけ抵抗するんだ♪)そして僕のくちづけに応え始めた
くふん…たまんなぁいくふんへへんほほん
ああ…スヒョクとの因縁で僕の形は永久不変ではなく…爆発寸前になって…

「スヒョク!我慢できないっ」
「おやすみなさい」
「じゃなくてっ!ほらっマグナムがっ!」
「…ワルサーP38の筒先…」
「へ?」
「の方が似てるかな…じゃ、おやすみなさい」

ワルサーP38の筒先?ってあのほそーい筒先?ルパン三世の愛用の銃の?

「ねぇねぇ何が?何が似てるって?」
「…ZZZZ」

うそっもう寝てる
いったい何がよ、ねぇスヒョクぅぅぅっねえっ!

僕はスヒョクの上に乗っかって組み敷こうとした

みしっみしぱきっ

うっ…
床が軋んだ…

僕はスヒョクの上に跨ったまましばらく動けなかった
あうーん、やっぱり僕はスヒョクとの新しい住まいを捜したい〜!
いっそのことチーフの家にいいっ!きいっ!
それよりもなによりも、テジュンの馬鹿野郎!早く帰ってこーいっ!


S.F.C.  足バンさん

僕とホンピョはいい気分で寮に戻った
ホンピョがずっとかっこつけて歩いているのがおかしかった

今日から僕とホンピョはそれぞれの部屋が与えられる
寮といってもマンションの一部を借り上げてあるものだ
入口の常駐の管理人さんに鍵をもらう

3階の一部屋、昨日泊まった部屋がホンピョの部屋で
その隣が僕の部屋になった
送られてきた荷物はもうそれぞれの部屋に運ばれていた

「おまえの部屋の方がきれいじゃねぇか?」
「ええ?同じでしょう!」
「そうかなぁ」

部屋の前でごたごたやってるとドンジュンさんが帰ってきた
ドンジュンさんは同じ階の端の部屋みたい

「今帰り?ずっと歌ってたの?」
「スヒョンさんたちとお帰りになったんじゃないんですか?」
「うん…イナさんはスヒョンちに行った」
「…」
「なに?」
「いえ…その…やっぱり重複交際…」べちんっ!
「いたっ!痛いよホンピョっ!なんだよ!」
「君、いけないんじゃないの?そんな立ち入ったお話をしては」
「何なんだよその喋り方はっ!」
「へへへドンジュンさん、どうです?こんな僕」
「BHCの誰かとソンジェさんが混ざったみたいでやだな」
「ソンジェさんって誰ですか?」
「チーフの弟…そのうち嫌でもわかるよ」

「ドンジュンさん!いろいろ教えて下さいよ!」
「うん、また…」
「ちょっと僕の部屋に来ませんかっ?」
「えっ?今から?」
「へへっ実はテソンさんに残ったお酒貰ってきちゃったんです」
「おお君!実はわたくしもmayoさんにこんなものを」
「あ!夜食の残り!さすがミスターホンピョ!」
「おまえら酔ってんの?」
「ドンジュンさん!ちょっとだけですって!”S.F.C.”の発足記念です!」
「えすえふしー?」
「”スヒョンさんファンクラブ”ですよっ!」

僕たちは嫌がるドンジュンさんを引きずり込んで2次会を強行した

僕はドンジュンさんに店のいろいろな注意点を聞き出し
というか質問攻めにした

最初はなんとなく元気がなかったドンジュンさんも
変な客の話やホンピョの変な紳士っぷりに楽しそうになってきた

要注意人物の話も聞いた
メンバーの関係者が多かったのは意外だった
まぁムゲにできないだけにややこしいんだろうな

そういえばテプンさんが言ってた
”狙われると生き血を吸われる赤い女”とか
”掴まると骨までしゃぶられる女”とかホントかな
ばけもの屋敷みたいだな

「まぁ女の扱いは任せてくれたまえ」
「いい加減にその喋り方やめてよ」
「僕だって女を守らせたらすごいよ」
「守ってどうするのよ」
「で、ドンジュンさんは?」
「え?」
「あのスヒョンさんを射止めたくらいだから、百戦錬磨ですよね?」
「ぅ…」
「え?なんですって?」
「…」

「「えええええ〜っ?」」
「初恋の人とキスだけしかできなっ…うっぷ」
「黙れ!ばかっ!」
「くるひぃぃぃ」
「もう帰るっ!」
「あああ済みませんっもう言いませんっ!絶対言いません!」

ドンジュンさんは耳まで真っ赤にしてふくれている
くふ…ちょっとかわいいかも

”S.F.C.”の飲み会は明け方まで続いた
一番最初につぶれたのはスーツを着続けたホンピョだった
ドンジュンさんがどうなったのかはわからない
僕も喋り疲れて寝てしまったから

でも朝起きてみると僕たちになんだか上着が掛けてあった

窓を開けて新鮮な空気を入れてみた
研修から歓迎会、2次会をゆっくり思い返してみる
僕は新しい職場でやっていけそうな気がした


奇妙な関係 帰路  ぴかろん

チェックアウトをして僕の車に荷物を詰め、僕達は帰路についた
運転はラブ
僕は助手席でうとうとしていた

「眠いなら眠っていきなよ。昨日頑張りすぎたからさ…へへ」
「うー…じゃ、寝る…」
「よかったらここ貸そうか?」

ラブは太腿を叩いた
え…い…いいの?

「お顔どっち向ければいい?」
「ばかっ!もう貸さない!」
「あっひひんへへん」

僕はお馬鹿のふりをして慌ててラブの太腿に頭を乗せる
ラブの方を向いて乗せたら案の定殴られた…
そりゃそうだよな…ふざけすぎ

「何はしゃいでるんだよ、全く…」
「しゅみましぇん…」

僕はラブの柔らかい太腿に頭を乗せて眠った
でもこの体勢、実は腰が微妙に痛かったりする
れもこんなチャンスはもう二度とないのれ、僕は腰の痛さなど我慢してラブ枕に寝たのら…
ちょっとちゅっとかしたりしてひひん
ラブはきづいてないのら…
れも…眠気に負けてそれ以上はれきないのら…
っていうかしちゃいけないのらった…はふん…

いい香りがしゅる…

ラブ、香水ちゅけてたっけ?ん?
あ…石鹸の香りらな…
しょえともラブは元々こんないい匂いがしゅるのらったっけ…

ああ…しょだしょだ…
しゅっごくいい匂いがしたんらったんらはへん…

僕は夢を見た
ラブと愛し合う夢…
また繋がってる夢…
微笑み合って一つに溶け合う夢…
こんな夢見てるようじゃイナに会えないのに…

れも…
まだ余韻の時間らよな…
BHCに着くまでまだ時間があるもんな…
イナに…
会えるかな…
イナの顔…
ちゃんと見れるのかな…

はふ
いい気持ちら…すっごくいい気持ち…
ラブが僕の頭を撫でてくれているんらな…
腰を抱きたいけろしょれはらめら…らめらふふんひひん…

ばこっ☆

「てえっ!なに…」バコッ☆
「あわっ危ないっ!急に起き上がるなよ!馬鹿っ!」
「馬鹿ってなんらよいてぇ…」
「ヨダレ垂らさないでよ気持ち悪いっ!もう!」
「あ…ああごめん…」
「急に起き上がるからハンドル動いたしもうっ!」
「…ごめんなしゃい…」
「起きて」
「へい…」

頭を上げるとどこかのドライブインのパーキングだった

「もぉ〜Gパンにヨダレのしみがぁぁ〜」
「…脱ぐ?」
バコッ☆

ラブはプンプンして車を降りた
僕も慌てて降りた

「なになに?怒ったの?」
「休憩すんの」

ラブはプンプンしながらトイレに行った
おしっ○らなひひん…並んでしよっと…
と思ってたらラブはハンカチを水に浸して僕がつけたヨダレのところをゴシゴシしている
僕の甘い蜜を…ぐしゅん…
僕がじっと彼を見ていたらギロッと睨まれた
あいーん、今は余韻の時間れはないのれしゅかぁっ…

「全くもう、可愛らしかったのは最初の10分だけだったよ!」
「へ?」
「くーくー寝ちゃったけど貴方の手が俺の…もうっ!」
「へ?」
「起きてるのかと思ったじゃないか!」
「ほ?」
「無意識で変なことするのやめてよね!」
「は?」
「腰は抱きしめるし…」
「いっ…」
「顔の向き変えて…埋めようとするし…」
「げっ…」
「匂い嗅ぎまくるしっ!」
「ぎょっ…」
「もうちょっとで事故るとこだったんだからねっ!」

うしょ…眠りながらしょんなことを…

「ヘンタイ!」
「ぐ…」
「ジュンホ君が貴方の事ヘンタイって言ってた意味がよぉくわかったよ!」
「…あの…」
「何!」
「しょーゆー時はひとちゅ、早めに殴って起こしてくんないかにゃ…」
「…」
「でないと…眠りながらもっと変なことしゅるかもしれにゃい…」
「…」

ラブは顔を真っ赤にして用を足しに行った


ホンピョとドンヒ  れいんさん

ドンジュンさんと飲んだ後、僕らはそれぞれ部屋に戻った
僕はホンピョとど突き合いながらもホンピョを部屋に連れて行ってやった

「ふぁ〜疲れたな…たらふく食ったし、風呂も入ったし、しこたま飲んだし…後は寝るだけかあ〜」

ホンピョはその場にごろりと大の字になった

「おいホンピョ、せっかく頂いたスーツが台無しだろ。着替えろよ」
「ちっ!めんどくせーな」
「ほら脱げよ」
「脱げ脱げって気色わりいなあ…おまえ早速そっちの方に方針転換かよ」
「なっなんでだよっ!そりゃ、ちょっとは気持ちが揺れなかったわけじゃないけど…あ、いや、おまえ相手にそんな事あるわけないだろ!」
「わっかんねーぞ!ワイルドな俺様はどうやらほっとけないタイプらしいぞ。皆こぞって俺の世話焼きたがるし…」
「おまえがあまりにも人としての最低限のものが身についてないからだろ」
「うるせえな。そうじゃなくて、あのプリテイウーマンみたいに磨けば光るダイヤの原石だと皆思ってんじゃないのか?」

僕はホンピョとそんな軽口を叩きあいながらホンピョが脱いだスーツをハンガーに掛けてやった
ホンピョはまたごろりと大の字になっていた

「おい、お前髪になんかつけられてただろ?」
「あん?おう、そういえばオールバックってやつにされたな。どーだ?かっこいいだろ?」
「寝る前に髪洗えよ。ベタベタするだろ?」
「ちっおまえは女みたいにうるせー奴だな。いーよ、このまんまで」
「よくないっ!僕が気になる!そのベタベタがついた物どーせ僕が洗濯するハメになりそうだ」
「俺…もう動けねえ…」

仕方なく僕は洗面所にホンピョを連れて行き軽くシャンプーしてやった
僕って面倒見のいい奴…

「今度こそ寝るぞ〜」

と言ってたホンピョに歯磨きをさせて、僕はおやすみを言い、自分の部屋に戻った
この前あいつの寝相の悪さには酷い目にあったけど今日は一人でゆっくり眠れそうだ
やっとウトウト眠くなってきた時にドアがパッと開きホンピョが僕の部屋に来た

「おい、ドンヒもう寝たか?」
「…もう寝た」
「ちっ、寝た奴が喋るか」
「…なんだよ」
「あのよ…俺もこっちの部屋で寝ていいか?」
「えっ?なんでだよっ」
「あのよ…その…しゃびしいっ!」
「は?寂しい…?すぐ隣の部屋なんだから寂しい事ないだろ?それにお前寝相悪いからやだよっ」
「夜真っ暗になると…兄貴の事思い出しちゃってよお…なんだか一人だと寝付けねーんだ」
「嫌だ!僕も疲れてるんだからゆっくり眠りたい」
「ふん!じゃあ一晩中、兄貴い、兄貴いって隣の部屋で吠えててもいいか?」
「…わかったよ。じゃ枕持ってこい」
「えへへん、ありがとよっ」

ホンピョは僕の狭いベッドに枕を抱いたまま潜り込んだ

「…ドンヒ」
「…なんだよっ」
「まだ眠れない…」
「そんなの知るかっ。野良犬が一匹、野良犬がニ匹…って犬の数でも数えろよ」
「んな事言わずによお…子守歌、歌ってくれよ」
「はあ?僕は眠いからもう寝るっ!」
「…しゃびしいっ!大きな声で野良犬の数数えるぞ」
「…わーったよ」

なんだか子守歌かどうかわからないが、とにかく僕は思いついた歌をボソボソと歌ってやった

「ドンヒ、背中トントンしながら歌ってな」
「…」

ホンピョはまた調子に乗ってガキの様な事を言っていた

しばらくそうやっているうちに、いつの間にか僕はホンピョを後ろから抱っこする様な格好になり
そして二人ともくの字の姿勢ですやすやと深い眠りについていた

明日はいい事ありますように…


奇妙な関係 目撃しちゃった・・ ぴかろん

僕はラブから離れて用を足した
あれれ、どっかでみたような人がいるぞ…
二人組で個室に入っていく。個室に二人…
僕が先駆者なんだけど…
いや、そんな事はどうでもいい…
ラブを呼ぼうかと思ったけどプンスカしてるので辞めた
僕はその二人組の入った個室の前に立った

「ぶちゅぶちゅううくひゃい!」
「ジョンったら文句いわらいのっ!」
「らってこんなとこれ」
「ジョンがふたりっきりにられるとこっちったかや、ここしかないらしょ?ばしゅのなからと弟やらスファコンがうるしゃいれしょ?」
「たしかによしょるも槍でちゅちゅくにゃ」
「おうちにかえるまれ、あのおふとんはちゅかえにゃいれしょ?」
「あのおふとんはろーやってちゅかうのにゃ?」
「…しゃー…」
「ぼくらちはこうやってちゅうちゅうしゅればもう天国らろ?」
「あい」
「らからべちゅにおふとんっていららいらろ?」
「あい」
「あとはひふかにかよえばいいらけらろ?」
「あいそーれしゅ」
「らったらあのおふとん、チンにやる?」
「弟もほしいかもれしゅ」
「よしょるもほしがるかにゃ?」
「よしょるしゃんは、野営がしゅきれしょう」
「うん、きったねぇしにゃ」
「ぼくらちってねないでちゅうちゅうしゅるのがしゅきれしゅね」
「しょうしょうちゅうちゅう」
「くしゃいれしゅね」
「うんうんちゅうちゅう」
「こんなかれちゅうしゅるのはやめましょうか」
「しょうらねドン」
「れましょうジョン」

バタン☆

「「ん」」
「あわわわ…いや、どーも」
「「これはこれはそーしはいりん」」
「…今お帰りですか?将軍と隊長」
「「ん、ひふかのちりょうがながびいちゃっれ」」
「キスのしすぎですか?」
「「しぇんしぇいがおっしゃるには、しすぎじゃらくて、仕方が悪いらしいれしゅ」」
「ほお…」
「「しゅってばかりれなく、れろれろとかはむはむとかいれたらどーれしゅかって」」
「…そ…そうですね。そのほうがより、楽しいかと…」
「「しょうれしゅか…じゃ、もっと研究しましゅ。れもばしゅでしゅるとスファコーンと槍と弟が…ねっ」」
「…はあ、まぁ頑張ってください」
「「あい」」

ああビックリした。唇が顔の半分ぐらいにはれ上がった将軍と隊長だった
一途な人たちだ…でも、こんな前に立って観察なんかしなくてもよかったな…
僕はちょっと後悔した
ラブの方を見ると、もう出口に行きかけていた
僕は慌てて手を洗ってラブを追いかけた


◇ Bon voyage...seven....◇   妄想省家政婦mayoさん
 
蒼白く薄いグレー雲の切れ間からほんの少し橙色の雲が現れ始める..
夜明けの合図だ..
テスは俺の肩に頭を預け寝ている
鼻を軽くつまんだ...金魚の様に口をぱくぱくした後..テスは頭を振って目を開けた…

「起きろ…日の出を見逃すぞ..」
「ぁ…ぅ..ぅん#」

いつもは揺すってもぐずって起きないテスが目をこすりながら素直に起きた..
ベットに起きあがり懐に入ってきたテスとシーツにくるまった..

「ちぇみ…日の出は初めてだね..」
「ん…」
「一緒に海行った朝..僕..寝坊しちゃったから..」
「そうだ#…お前は寝つきコロッ#…寝起きグータラ..だからな…」
「^^;;…」
「いっくら揺すっても起きなかった..お前が日の出見よう☆って言ったんだぞ…」
「だって…」
「何だ..」
「あん時…夜…壊れたんだもん..ちぇみのせいで..起きれないよ..あれじゃ…」
「ぁ…ぁはは…ん…」
「最近少しは鍛えられてきたけどさっ#」
「たはは…俺には勝てんだろな…」

地平線に橙の太陽がちらっと顔を出し始めた..
最初蜃気楼のようにゆらゆらとぐずっていた太陽はむくむくっと昇り始める..
半分まで上がるとそれからは早い動きでするすると上がってくる様に感じる…
丸く姿を現した太陽は一気に俺等を橙に照らし包み込む程だ…
地平線から太陽が浮いた…
それまでじっと見ていたテスが大きくため息をついた..

「凄い近く感じる…」
「ん…」

テスは振り返り俺の首に巻き付いて頬を合わせてきた..

「暖かいな…お前はほっぺたも…」
「ちぇみも暖かいよ…」
「ふっ..そっか…」
「ぅん#…」

俺等はすこし太陽が高くなるまで…ちょっと..じゃれた…

三陟のホテルを出て東海市へ向けて国道を離れ海岸沿いを車を走らせる
東海の湫岩(チュアム)海岸あたりは相変わらず日本のソナチアンがウロウロしている…
隣のテスがぼそっと口に出した..

「ちぇみ..そういえば..東海ってさ..」
「ん…何だ…」
「ウシクさんの彼女の実家があるはず…」
「そうなのか?」
「ぅん..確かそう…」
「そっか…だが…薔薇投げの2人はもう…あれだろ…」
「ぅん…でも..イヌ先生大人だから…うまく収まるといいけど..」
「ん…」

昨日と同じように東海の市内から西の三和洞へ入り武陵谷へ向かう…
岩場を歩きながら前を歩いてるテスに声をかけた

「テス..今日は違う瀧を見にいこう…」
「ぅん#…どっち?」
「ん…その先を右だ…」
「わかった#」

昨日の双瀧の近くにあるヨンチュ瀧は双瀧よりも緩やかな段を刻みながら落ちている…
岩肌は光を受けて青緑色に輝く…滝壺は双瀧より深い…
水の色も底の岩色と相まって青緑色に近いが透明感がある…

ヨンチュ瀧

「ちぇみ…ここ…」
「ん…」
「ここもだ…###の時の…」
「ん…テス…此処は昨日の瀧より深いぞ…」
「大丈夫ぅ#へっへぇ〜〜…」

とういうことで…俺らは…また…滝壺で泳いだ…

昨日より深さがあるせいかテスは水中でくるくる〜くるくる〜とターンを繰り返す..
飛沫を上げ水中から現れ..太陽の光がチカチカと水面に..テスの身体に反射する…

器用な泳ぎを何処で覚えたんだ..いったい..

韓国では基本的に学校での水泳の授業がない…ほとんどの学校にはプールがないのだ..
そのせいかスイミングスクールに通わせる親が多いと聞く…ん…

俺は案の定…水中で水面でテスに翻弄される…へとへとになる前に俺は滝壺から出た..

「ずるぅ〜い#ちぇみ…」
「おやじは疲れるんだ#…」
「都合悪いときだけおやじになるんだからぁ〜」
「んぐっ…つべこべ言うな…」
「ぷっ#」

先に着替えた俺は滝壺から上がってきたテスにタオルを渡しすぐ着替えさせた…
双瀧よりちょっと上流にあたる此処は少し水温が冷たい…
上がったままでいては風邪を引いてしまうからだ…

テスを懐に入れひなたぼっこをしながら2人でずっと瀧を眺めていた…

「どっちの瀧が好きだ?」
「ん〜両方…ちぇみは?」
「俺もだ…」
「此処の滝壺は…底の岩肌がすごく綺麗だった…」
「ん…」
「ここ…紅葉も綺麗だろうね…」
「ソウルからそう遠くないからまた来れる..^_^」
「ぅん#…^_^」

夕方になる前に岩場を下山して武陵谷を後にした…

東海市から東海高速で江陵市へ向かい嶺東高速に乗り換えた…
嶺東高速の新葛(シンガル)で京釜高速に乗り換えればソウルJCTは2つ目だ…
一気に走れば3時間強でソウルに着く..休憩を挟んでも夜早くには別宅に帰れるだろう…

途中休憩をしているときテスが運転を代わると俺に言った…

「どうした…俺は大丈夫だぞ…あとちょっとだ..」
「違うんだ…行きたい処あるんだ…いい?」
「ん…いいぞ…何処だ?」
「ん〜〜〜…着いてからのお楽しみ..」
「…?」

首を傾げた俺を見てテスはにぃぃ〜っとちょっと不気味に笑った…

高速を乗り換える新葛(シンガル)の1つ手前の麻城(マソン)IC でテスは高速を降りた…
国道を進むと目の前に…見えてきた…

「おい!まさか…あそこに行くのか?」
「そうだよ…」
「何しに#…」
「ん?…あれだよ…」

テスが走りながら指さした…

俺は車のシートからずるずると半落ちした…


通常営業  オリーさん

僕とミンとお兄さんはちょっと早めに店に入った
店にはテソンとmayoさんが来ていて、仕込みをしていた
「何だか、久しぶりの光景だね」
テソンとmayoさんは顔を見合わせて笑った
この二人ってば…ふふん…

店のチェックをして、オーナーからの気まぐれな連絡とか
たまった書類を見ていると、ウシクもやってきた
「遅れてすみません」
「いや、僕たちが早く来ただけだ。気にしなくていいよ」
ウシクははにかんだ微笑を浮かべた
ウシクもちょっと…ふふん…

そこへイヌ先生もやってきた
ウシクの顔が輝いた、ふふん…
「先生、今日も黒板に線描くの?」
「そうだよ。僕の技だもの」
「僕だけに描いて」
「ウシクには後で特別に描いてあげるから。いいね」
「先生…いやだ、いやだ…」
ウシクは重症のようだ
包装紙を口でブチブチ引きちぎっていたワイルドなウシクはどこへ行った…

ホンピョとドンヒがやってきた
ホンピョは昨日のミンのスーツを着ている
「おはようございます」
「おはようございますでございます」
「ホンピョ、言葉遣いが丁寧になってるけど、変だ」
「えっ!しごく丁寧にいったつもりなんだけどよぉ」
「『おはようございます』はおはようございますで十分だ」
「へぃ」
ドンヒがホンピョの頭をこづいている
「だから昨日から言ってるだろう。付け焼刃はやめろ」
「お前こそその太いネクタイやめろ」
「うるさいっ!」
新人ふたりは仲がいい

スヒョンとイナはまだ来ない
ドンジュンも

「おはようございます」
「ジュンホ、おはよう」
「きょうはひさしぶりのしゅっきんです。ソニョンさんにおくってもらいました。そしたら…」
「そしたら?」
「ギョンビンさんとギョンジンさんがさわいでいます」
「騒いでる?」

「あれはアナスターシャだろ、絶対」
「兄さん、ジュンホさんの奥さんだよ」
「いや、あれは絶対アナスターシャだ」
「兄さんのアナスターシャは金髪で青い目じゃないか」
「僕が言ってるのは、お前のアナスターシャの事だ」
「何で僕のアナスターシャの事知ってるの?」
「あ、いや、その、ほら、業界狭いから噂で」
「噂?僕らの関係はほんとに一部の人しか知らなかったはずだけど。まさか兄さん?」
「え…」
「アナスターシャにまで手を出してたんじゃないだろうね」
「あ、いや、その、そんな…」
「あれから彼女行方不明なんだけど、もしかして…」
「ぼ、僕は何も知らないよ。その…つまり…」
「兄さんっ!」
お兄さんはちょっと元気になったようだ

でも…
「アナスターシャって誰?」
「「え!!!」」
「こいつの昔の恋人ですよ」
お兄さんは元気になったようだ
「ふうん、昔の恋人ね」
「昔の事だからね、過ぎたことだからね!」
「濡れるような黒髪で、引き込まれるような漆黒の瞳で、愛らしい唇で…」
お兄さんはかなり元気になったようだ
「兄さん!何でそんなに詳しいのっ!」
「ミンの恋人ね。知らなかったなあ、ふうん…」
「あっ、もう終わった事だからね、いいね!」
「でも行方不明って何?」
「急にいなくなっちゃってね、どうしたのかな、って思ってたらジュンホ君の奥さんか」
「じゃあ、終わったわけじゃないの?ふうん…」
「だから昔の事だって!」

「ソニョンさんはずっとぼくのおくさんです」
「でしょ!ほら、人違いだし」
「でもそっくりだなあ。あの瞳…ギョンビン、ちょっと血が騒ぐだろ」
「ふうん…しゅ…るっ…」
「ほら!そんなことないってば!兄さん!刺激するような事言わないの!」

そこへさっきまで駄々をこねていたウシクが、困惑した顔でやってきた
「チーフ、お客さんです」
「今日はアポないはずだけど、誰?」
「奥さん、元奥さん、別居中の奥さん…とにかく奥さんです…」
「げほっ!」

縮みかけていた僕はすぐさま元に戻った


戻る 次へ 目次へ