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朝の日課  れいんさん

空が白み始めた頃、僕は妙な違和感を感じて目が覚めた
腰のあたりに何か硬いものを突きつけられている…

ここは…どこ…?
僕は銃を突きつけられている…?

不安を感じて僕の頭の中が少しずつ覚醒していく
僕の首筋に微かにかかる吐息…
後ろから抱きしめられているこの腕…

あ…ソクさんだ…
ここは…ソクさんの部屋だ…
そういえば昨夜泊まったんだった…

え?じゃ、さっきから僕の腰に当たっているこれは…

「もおっ!ソクさんっ!」
「ん…?むにゃむにゃ…あ、スヒョク、おはよう…」
「おはようじゃないですよっ!なんで朝っぱらからそんなになってるんですかっ」
「…え?…あ…これ…?」
「そう!それ!僕の腰にさっきから…」
「へへへ…僕のワルサーね。ワルサーがワルサするぞ…なんちって」
「またそんな親父ギャグを…。もう、早くそのワルサーなんとかして下さい」
「だってさあ、おまえがいつも蛇の生殺しにするからさあ、僕のワルサーちゃんがプンプン怒ってるんだもん」
「もうっ!ほんとすけべなんだから」
「健康な男の証拠だろ?…でさ…スヒョク…おはようのちゅうは…?」
「ダメ!だってもうすぐヨンナムさん起こしに来るでしょ?」
「まだ大丈夫だって。あんなの気にしない気にしない。目が覚めるようなのを一つ頼むよ」

そして僕達は布団の中で抱き合ったままキスをした
ん〜…幸せ…

スヒョクも口ではなんだかんだと言いながらも、僕の首に腕を絡ませ、結構いい感じに反応している
身体もだんだんと僕に密着させてくる
こんな事するから、僕のワルサーはなかなか大人しくなってくれない
でも、まあ、なにができないのは辛いけど、スヒョクとこうやって朝を迎えるってのも悪くないなあ…
そうして僕達はしばらく布団の中でおイタをしていたが
やっぱりヨンナムさんに起こされ、朝の日課が始まった

乾布摩擦の時に、上半身裸になってるスヒョクにちょっとムラムラして
乾布摩擦をしてやると言ったら、ヨンナムさんとスヒョクにこっぴどく叱られた
その後の拭き掃除はスヒョクが手伝ってくれたので早く済んだ

「ソクさん、スヒョクさん、ありがとうございました。今日はスヒョクさんのおかげではかどりました。さあ、朝食にしましょう」

そうして三人でお決まりの旅館の朝食メニューを食べながら、僕はヨンナムさんに言った

「ヨンナムさん、そういえば、明日Pオーケストラのコンサートがあるんですが、オーナーからのお達しでBHCメンバー全員強制参加になってるんです で、なぜかヨンナムさんもぜひ出席を…という事なんですが…」
「え?明日…?ああ…行きたいのは山々ですが、明日はちょっと都合が悪いですね」
「ええっ?そんな…一人でも欠けたら、僕の性生活が…いえ、僕の採用が危うくなるんです!」
「…そう言われましてもねえ…明日は仕事が終わった後、配達の旗手の会合と町内の寄り合いがありましてね それから老人会のお世話も…」
「う…ぼ、僕が昼間にやっときますんでぜひ出席して下さい!」
「え…?そうですか?いや…でも…」
「ヨンナムさんとは顔がそっくりなんですから大丈夫です!ヨンナムさんになりきりますから!」
「はあ…じゃあ、お言葉に甘えて…よろしくお願いします」
「はいっ!任せといて下さい…うっうっ…」

そういうわけで、僕はスヒョクとの愛の生活の為に、町内会、老人会、配達の旗手の会合…全てを引き受けた
隣にいたスヒョクが僕の膝を優しく撫でてくれて

「ソクさん、僕も手伝うから…」

と言ってくれた

スヒョク…
僕はおまえの為にこんなに頑張っているんだから…
いつか…そのうち…近いうちに…必ず…頼むよっ!!!

僕はスヒョクの手を握り締めそう念じた


招かれざる客  れいんさん

「ヨンスさん、遅いわよ」
「ああ、ミヒさん、ごめんなさい。支度に手間取って…」
「支度?…その割には地味な服とメイクじゃないの」
「ええ…きっと泣いてしまうと思ったから、ハンカチを多めに準備していたの」
「ふうん…そうなの…とにかく開店と同時に行くわよっ」

そうして待ち合わせた私とミヒさんはBHCに入った

ドキドキするわ…
前も一回来た事があったけど…
あの時は室長とこんな風じゃなかったもの…

あの人、私を見てどう思うかしら
ヨンス、久しぶりだな…元気だったか?
勝手な事をして済まなかったな…
君の顔を見たら急に家に帰りたくなった…

なんて優しい言葉をかけてくれるといいんだけど…

「いらっしゃいませ」

ウシクさんが私とミヒさんをボックス席に案内してくれた

「えっと…まず…ご指名は…?」
「あの…室長は…?」
「あ、えっと…チーフは今から幹部のミーテイングがありまして…ちょっとお席の方には…」
「…そうですか…」
「やだ、ヨンスさん。来た早々涙ぐまないの!辛気臭いったらありゃしない。いつまでもあの男の事考えてちゃダメって言ったでしょ」
「あ…あの…」
「あら、ごめんなさいね。指名ね?そうね…えっと…若いの全部!」
「は…?」
「ここにいるメンバー全部ね。まだお客は誰も来ていないから構わないでしょ」
「ですが…」
「だって、顔見たり、体触ったり、話してみないと誰がいいかなんて分からないじゃないの。だから、とりあえず、全員お願い」
「そう申されましても、まだ出勤していない者もおりまして…」
「そうなの?じゃ、とりあえず、現時点でいる人達全員ね。遅れて出勤する人達はお持ち帰りするからいいわ」
「…では少々お待ち下さい」

ウシクさんはミヒさんに迫力負けしてすごすごと戻っていった

「ミヒさんったら、あんな事言って大丈夫なの?」
「大丈夫よ。こういうのは最初が肝心なの。あの客にはいい加減な事はできないって思わせないとね」
「そういうものかしら…」

私はミヒさんの豪快さに苦笑しながらもあの人を目で探していた

あ…いたわ…
向こうの奥の方で何やら話している…
やっぱりあの若造が傍にいるわ
それに見た事のない仕立ての良さそうなあのスーツ…
あれはいったいどうしたのかしら…
どんどん私の知らない室長になっていってるわ…
あのマンションといい、なぜそんなにいい暮らしをしているの…
それに…気のせいかしら
背が縮んだ様な気がするけど…

きっと気のせいね
私ったらどうかしてるわ…
後であの人と話せるかしら…
ドンゴンさんと噂になった事、ちゃんと誤解を解いておきたいの…

でも…ミヒさんの言うとおり、室長の事は忘れて、新しい出会いを見つけた方がいいのかしらね…


通常営業妨害   ぴかろん

なんかしらねぇけどチーフの奥さん(要注意人物)と骨の髄までシャブリさん(要注意人物)とそれから「努力」「根性」「誠実」って書いてある「キンカクジ」「トウキョウタワー」「ナラノダイブツ」の置物を両手に抱えたチーフの弟さん(要注意人物)の三人と
それから祭の中継でも見た「デラルス」の赤女、カツラジジイ、派手だけどどんくさそうな男の三人が睨みあってるんだ

「ウチが一番乗りよ!」
「あ〜らミミさん、あの時のソフトクリーム勝負でアタクシが0.0001秒早くシャブリ終えたの、解ってるわよねぇっ?」
「何言ってるの?お下品ですことっ!」
「ミヒさん・・私怖いわ・・」
「なにかわいこぶってんのよ!いつものように啖呵きってやんなさいよ、ヨンスさん!」
「いつものように?私、そんな事した事ありませんわっひどいっオオオンオオオン」

うわっ
なんだこの嫌な泣き声…

「ミヒさん!ひどいよヨンスさんを泣かせるなんて!さあヨンスさん、僕の胸に飛び込んでおいで。貴方には特別にニホンのキモノを買ってきたんだ・・ホラっ」
「はっぴじゃの。キモノではないわ」
「あの下膨れの男、キモノの知識がないようですな」
「なんですか!貴方達。僕は今回貴方達にニホンに置き去りにされてから、あちこちのショウを見て回った。そしていたく感銘をうけたんだ!
とくにマツケンのショウは何度見ても素晴らしかった。大体知らないだろう、マツケン・マンボの事」
「マツケン・マンボ?」
「おーほっほっほっ。ソンジェ君、甘いわね。アタクシを誰だとお思い?!アタクシ、こう見えてもショービズ界ではちょっとカオでザマスのよ!
第一あの踊りの振り付けのマジちゃんとは『マジちゃんミミちゃん』と呼び合う仲。そのアタクシが、マジちゃん振り付けのマツケン・マンボの事を知らないとでも?!」
「マイキー、知っておったか?」
「いえ。存じません。きっとミミさん一人でその情報を…」
「うーむ…危機じゃの…」
「まあっ会長もマイキーも、アタクシも昨日初めて入手した情報ですのっ!まだ実際の振り付けは知りませんのよ。知ってたらお二人に特訓してこの場で踊れるようご指導しましたわよ
でもホラ、あーんな三人に負けてられませんでしょう?アタクシ、つい…」
「おお、そうであったか。ミミさん、負けてはならん」
「我々も応援しますぞ」
「お願いね(あてにはならないけど)ケホン」
「おおおんおおおん」
「ちいっまだ泣いてるの?やめて頂戴チョンソ!」
「チョンソ?!私はヨンスよ」
「どっちだって構わないわ、どっちも同じようなものよ、メソメソメソメソ泣いちゃって!ハンっ」
「くうう、ヘビ女!」
「涙の女王!」
「うそつき!」
「きつね」
「ねこ」
「こども」
「もすら」
「らもす」
「すもも」
「もすら」
「らもす」
「すもも」

…。しりとりが始まったけど同じところをぐるぐる回るらしい
邪魔なので出てってくれと言ってやった
出て行こうとしないので、俺は何時間かぶりに「ガム」を口から取り出し、触るのいやだったけど骨の髄シャブリと赤女に向けて「擦り付けてやろうか」って言ってやった
やっと店の外に出た
ドンヒが警察に電話してた
まもなくパトカーがやって来て六人とも連行されていった
もちろんギャーギャー騒いでたけどな

ん?
チーフの弟が「ナラノダイブツ」他の置物を置いてった
どうするんだ?
隠れていたチーフがそっと顔を覗かせ、その置物をみて顔を顰めた

「…これ…欲しい?」
「いや、いらねぇ」
「どうしよう」
「アンタの弟が持って来たんだから、アンタ、家に持って帰れよ」
「僕達のあのマンションへ?!」
「いや、奥さんの方の家へ」
「…そんなことできない!」
「どーして?」
「絶対イヤだ!どうしよう…ミン、ミン」

チーフはあたふたしてミンさんを呼んだ
おろおろしてるチーフのズボンの裾がちっとばかしくしゅくしゅってなってたのは気のせいかな?
ミンさんは飛んできてその置物を見た
とってもイヤそうだった
でもそのなかの「ナラノダイブツ」を手にとり、何か計っていた

「これでも四頭身か…座ってるからな。どうする?これだけでも貰っとく?」
「何言ってるんだよミン!そんな怖ろしいセンスの物体を…」
「ちょっと似てないかな?クスクス」
「…」

しゅるっ

ん?あれ?
チーフ、しゃがんだ?

「だめ!そんな事すると本当に持って帰るよ!」

シャキン

「よしっ」

あん?
俺、夢見てんのかな?

「ねぇホンピョ君、この三つを『オールイン』のチュニルさんに頼んで『供養』してもらってくれない?」
「くよう?」
「持っていけば多分解ってくれると思う。頼むよ」
「解った」

なんで俺が持ってかなきゃなんねぇのかって文句言いたかったけど、チュニルさんに会いたかったので、頼まれごとを引き受けた
俺が店を出るとき、ミンさんがチーフになんか言ってたのが聞こえた

「こっちに来て…」
「ひん」
「…」
「…はっ…」

なんだ!何やってんだっ!見たい!でもこんな荷物持ってるから振り返れない!くそっ
まあいいや

俺は『オールイン』に行ってチュニルさんにその荷物を見せた

「これは…承知いたしました。直ちに供養いたしますとお伝えください」

それだけ言うとチュニルさんはその荷物を持って中に入ろうとした

「あのっ」
「ん?まだ何か?」
「昨日は色々ありがとうございますでございました」
「…言葉遣いの勉強が必要ですな。精進されよ」
「…あのっ」
「まだ何か?」
「またいろいろ教えてくれっかな?」
「そういうときは『ご指導願います』と言うのです」
「ご指導願います」
「この場合、『ご指導願えますか?』と柔らかい疑問形で尋ねるのがよかろう」
「ちっ、めんどくせぇな…ご指導願えますか?」
「前半は余計だが、よかろう。毎日五分ずつ、指導いたしましょう。この時間にここで…では」
「ありがとよっ…じゃねぇや、ありがとうございますです」

チュニルさんは少し笑って奥へ入って行った

店に戻るとミンさんが、子供相手に濃厚なキスをかましていた
その子供はチーフそっくりで俺はびっくりしてドアに頭をぶつけて、そのまま気絶してしまった…


忙しいイナ   足バンさん

朝、僕はイナにしがみつかれて目を覚ました
イナは「テジュ」と言いながら僕の肩に顔を埋めている
ずいぶん長いことそのままでいると
うっすらと目を開けたイナがぼんやりと僕を見上げた

「うわぁぁっ!スヒョンっっ!?」

イナは飛び起きるとしばらく呆然として必死に記憶をたぐり寄せている目をしている
僕は片肘を立てて頭をのせ、その緩やかな時間につき合った

「あ…ああ…そか…そうか…ああ…そう…」

イナは完全に昨日の自分を思い出したようで
うつろな目になったかと思うと再びベッドに突っ伏した

「目が…覚めたら…テジュがいるような気がしてた…」

僕は何も言わずやつの頭をくしゃくしゃした
ベッドから抜け出してボサノヴァをかけ、ブランチの用意をする
その合間に何本かの確認の電話をかけた

ブラインドが開いたままの窓からは明るい陽がさしこむ
イナは床に揺れるひかりをぼんやり眺めている
同じ陽射しをどこかで見ているあの人を想って
そしてその隣になぜ自分がいないのか
こたえの出せない自分を寂しく思って

食欲がないというイナに無理矢理リゾットを食わせた

「食っておけ。今日は忙しいから」
「え?今日は通常営業だろ?夕方だろ?」
「いろいろ予定が入った」
「予定って…俺何にも聞いてないぜ」
「僕が決めた」
「決めたって…」
「いいから早く食えって。時間がない」
「時間って…」
「早く!」
「あ、はい」

ぼぉっとしているイナを車に押し込んで
昨夜テプンの弟ジソク君に話をつけてもらったスハさんの幼稚園に向かった
園長もスハさんも快く迎えてくれた
彼女と僕たちは1度だけ会ったことがある

「なんだよ。なんでこんなとこに来たんだよ!」
「いつだったかテプンに聞いたことがあるんだ」
「何を!」

「「「 せんせーよろしくおねがいしまーすっ 」」」
「せ、せんせぇ?」
「テコンドーの先生だよ、ほれ、いってこい」
「何でそういうことになるんだよ!」
「イナさん、以前から子供たち1度習ってみたいって言ってたんですよ。よろしくお願いします」
「ま、そういうことだ」
「そんな…」
「「「 ね、見せて見せてえ〜せんせーやってやって〜 」」」

子供たちにせがまれてイナは仕方なく型など披露している
初めは頭なんか掻いていたイナも
子供たちがいちいち「かっこい〜い」と感嘆の声をあげ尊敬の目で見るものだから
照れながらもその気になってきたようだ

「急に勝手言ってすみません」
「いえいえ、子供たち今朝から楽しみにしていたんですよ」

気持ちのいい陽射しの中
子供たちの歓声につつまれてイナはけっこう楽しそうだった
突っ込まれると子供にムキになるところは相変わらずだけど

「いいかおまえら!気合いだぞ気合い!」

とかなんとか言いながら最後は名残惜しそうに子供たちに手を振って別れた

「あー久々にいい汗かいたなー」
「それはちょうどいい。また汗かくからな」
「えええっ?まだ何かあるのかよっ!」
「成り行きだ」

今度はソウル近郊の映画の撮影所を訪れた
もちろんジホ監督の口利きだ

「なんだよっ!今度は何させる気だよ!」
「エキストラ」
「ええええーっ?」
「若い男性がいいんだって」
「何で!嫌だ!帰る!」
「ジホさんの顔つぶすとあとが恐いだろうなぁ」
「スヒョンっ!ならおまえやれよっ」
「僕って激しい運動得意じゃないから」
「激しいエキストラなのかよっ!」
「さぁどうかな…」

かなり激しかった

街の真ん中で大規模な乱闘騒ぎが起こり人々が逃げ惑うシーンらしい
その”人々”のひとりだ

イナは最初すごく嫌がっていたが
いざ始まるとだんだん現場の雰囲気に興奮してきたらしくて
カメリハでは一生懸命走り回っていた
おかげで助監督の目に止まり
”倒れた男性を引きずって逃げる”という大役を仰せつかった
まぁどうも画面の向こうの隅に引っかかる程度らしいんだけど

ほんの5秒くらいのシーンだがNGでずいぶん時間がかかった
OKが出た時イナはへろへろになっていた

「くはぁ〜しんどかった!」
「お疲れさん」
「で?なんていう作品なの?」
「知らない」
「えーっ?なんでこんなことになったんだって?」
「ジホさんに何か仕事ないかって聞いたんだ」
「げっ!なんでまた…」

言いかけてイナは僕を見つめ黙りこくった

「まったく…おせっかいだなおまえは…」
「けっこう楽しそうだったじゃない」
「うん…まぁ…な」
「ふふ」
「くたくただ…今日は店で寝てよう」
「だめ」
「あんでだよっ客なんか…」
「今日は僕のお客さま7~8人がおまえを指名する予定だから」
「なにいいいーーっ?」

僕は開店に間に合うよう急いで車を走らせた


奇妙な関係 帰路 2 ぴかろん

慌ててラブの後を追い、追いついたので肩に手をかけたら凄い目で睨んできた

「なんだよぉ」
「眠りながら変なことするってのは本当にすけべな証拠だよねっ」
「…なんだよぉ…いいじゃねぇか僕がすけべだろうとなんだろうとお前には関係ないだろっ!」
「…そうだよ!関係ないよ…」

ラブはちょっと寂しそうに俯いた
ラブ…

「関係ないけど…関係あるんだもん…馬鹿…」

ラブはそう呟いてぽつぽつ歩き出した
僕はその言葉をしみじみと噛みしめた

関係ないけど関係ある…
多分これからもずっと…
そうでありたいと思っている僕は、いけない男だろうか…

ラブは売店でソフトクリームを求めていた
僕はヨダレのお詫びにそれを奢ってやった
ラブは嬉しそうにクリームを舐めている

ああ…
ヤらしい…

はっ…
いかん!
こう言う事を言うから僕は…

「テジュンも食べる?」
「あうっ…いや…」
「どうしたのさ。もう怒ってないよ。でももう太腿は貸さないけど」
「あ…今度は僕が運転するからさ…」
「大丈夫?」
「…大丈夫だよ、あれぐらい…」
「あれぐらいって…昨日は相当凄かったと思うけどなぁ…」
「そういうことは大丈夫なんだよはっはっはっ」

い…いかん…またラブが僕を睨んだ

「俺、後部座席で寝るわ!」
「しょんなのっ!ちゅまんないっ!」

くすくす笑ってソフトクリームを舐めるラブ
やっぱり…ヤらしい…ふん…

休憩を終えて、僕達はまた車に乗り込んだ
今度は僕の運転
ラブは助手席で外を見ている

「ここに寝ないの?」
「いいよ」
「なんで?」
「なんかされそう」
「ふんっ!」

つまんねぇの…

「ねぇ…」
「ん?」
「アイツに会ってさ、もしも…もしもうまく行ったとしてさ」
「…うん…」
「んでもしもまた、アイツと寝る事になった時さ…」
「…」
「俺…貴方を思い出しそうで怖いな…」

それは…僕だってそうだ…

「アイツと貴方と比べちゃいそうで…怖いな…」
「言うなよそんな事…」
「だって…」
「僕だって…。イナはお子ちゃまだし…お前みたいにその…尽くしてくんないし…。そうなったらヤバイな」
「…」
「もしも元通りになったとしても、暫くえっちなしにした方がいいのかな…」
「いきなりあんなすごいえっちしたら、イナさんだって堪んないよね」
「んにゃ…イナとする時ってさ…僕…あのその…早いんだよね…」
「は?」
「んとその…わりとすぐ…終わっちゃうんだよね〜…はは…は…」
「うそだ!あんなに…」
「だってそうなんだもん…」
「…あれ…。それってもしかしてさ…」
「ん?」
「イナさんが凄いって事だったりして」
「え?…いや、そんなはずは。だってお前の時はもう、脳天痺れまくるけど、イナのときは…えっと…」

どうだったっけ…
たしかに気持ちいいんだけど…
気持ちよくってそんで…あれこれしようと思っててもできなくて…

「ん?」
「…」
「んんん…」
「ちょっと楽しみになってきたんじゃないのぉ〜」
「…。あ、でもお前だってさ…」
「ん?」
「あのその…泥酔状態のアイツしか知らないわけでしょおが…」
「…ん…」
「じゃ、もしかしたらアイツ、シラフだったら…凄いどころか…物凄かったりして…」
「う…」
「ね?」
「…そうかぁ…『えろみん』だからなぁ…」
「楽しみじゃんか!」
「…う…」

僕達は無表情になって、暫く黙っていた

それは「大いなる希望」というべきなのか「大いなる欲望」というべきなのか
それとも「底なしのヘンタイ的思考」というべきなのか…
僕達は黙っていた


厚意  ロージーさん

店に出る前に一度マンションに戻ることにした僕達はレジデンスのロビーを歩いていた
ミスター・トンプソンがにこやかに近づいてくる…

「ミン・ギョンジン様」

兄さんに用があるらしい…

「何か…」
「お留守にメッセージをお預かりしております」

かれが恭しく差し出した封筒に見覚えがあった…

「誰かな…」

…裏に「R」のイニシヤル…

「?…」

…中を確かめる兄さん…

「?…」
「どうしたの?ギョンジン君…」
「これって…」

『必要な時もおありでしょうから…お気に召していただけるかしら…』 Rosy

…いつもの便箋といっしょに…もう一つ入っていたのは…

…駐車場の僕のローバーの隣にそれはあった…
 ジャガー Sタイプ   オーバービュー
もちろん「4.2 Sovereign」、色は…ジャガーといえばこの色「ブリティッシュ・レーシング・グリーン」…
ドイツ車が精密機械なら…ジャグァーはサラブレッド…かな…この大きさが街中には丁度いい…

「どういうこと?」

…さすがの兄さんもびっくりするよね…

「『彼女の厚意』は断れない…ってことだよ!」と彼
「…いいね!兄さんに似合ってるよ!僕にも貸してよ!僕のローバーも貸してあげるから!」
「そりゃ構わないけど…」

…確かにその車は、美しい兄さんによく似合っていた…お洒落で、カッコよくて、セクシーな…僕の自慢の兄さん…

四十階へと昇るエレベーターの中で彼が言った…

「ミン…」
「はい?…」
「僕はとうに覚悟を決めてるよ…」
「…」
「今後『彼女』に関することで…何があっても…なくっても…ミンは何も気にしなくていい…一度しかない人生だ…こういうのも面白いじゃないか…」
「はい…」

エレベーターはあっという間に僕達三人を「我が家」へとはこんだ…


ないしょのはなし_僕の先輩3  妄想省家政婦mayoさん

「また来るのか?ミンギ…」
「いーじゃん#…めんどくさいス…俺んち遠いし…」
「ったく…」
「それに…誰もいないじゃないスか…待ってる人いるんスか?」
「ちっ…」

先輩はテソンさんの車の中で僕を小突いた…ヌナは助手席でくすくす笑っていた…
歓迎会の後…いつものように先輩のマンションに泊まることにした…
僕が家族で住んでいる家は郊外にある…帰るのが面倒な時…先輩の部屋に泊まる…
最近は僕の学校のテキストや着替えも常備してるんだ…へへぇ(^o^)
あ、僕これでも一応学生ね#
僕は広告情報学科なんだけど…他の大学の映像学科の講義に潜り込んで受けたりしてるわけ…
学生証偽造はさ…お手のもんだしさ…^^;;

先輩のマンションは小ぶりだけど外観のモダンな造りのためか各種の業界の人が多く住んでる…
業界って言っても芸能人じゃなくてモデルとか…デザイナー関係の方ね#
先輩はマネージャーになる前にこのマンションに入った…
いろいろあった後もこの部屋は引っ越さないでいる…
部屋は生活感がまるでない…無駄がないけど…無機質な感じ…何個かの段ボールも部屋に積んだまま^^;;
キッチンにはデザインの洒落たレンジやらトースターやら置いてある…でも使った形跡がないんだ…
唯一使ってるのはイタリア製のエスプレッソマシンだけじゃないかな…
冷蔵庫に入ってるのは…volvicと…GUINNESビールと…...チーズと…ぁ…チョコレートね…そんなもんかな…

別に置いてある小さなワインクーラーには何本かのワインが入ってる…
先輩は部屋に帰るとすぐに昼間買ったSassicaia1995をワインクーラーに入れた…

バスルームのドアの前には脱いだTシャツが無造作に投げ捨ててある…先輩の癖だ#

「もぉー…パ○ツ洗濯機に入れるんならTシャツも入れりゃいいじゃないスかぁ…」
「…?」
「ぁ…やります…やります…いつものように…っと…」

Tシャツを拾ってドラム洗濯機に入れるのがいつもこの部屋に来てする僕の仕事#

「サンキュ…ミンギ…」
「ったぐ…」きぃ#

ったく…治らないんだな…この癖は…
いっつも無造作に投げてるTシャツさぁ…どこのブランドだと思う?
PRADAだよ…PRADA#…ったく…もったいない…ちなみ先輩はぱ○つもPRADA…
ヌナに内緒で教えたらさ…「だはは…コマウォ〜…ミンギ…」って超〜喜んでた…^^;
ここのはストレッチが効いてて着やすいんだ…僕パンツとお揃いで新品1組貰ったんだ…
僕にはとっておきだからさ…彼女との…あの時に取っておいてる…あはっ#

リビングには3シーターのソファとガラスのテーブル…
ベットもあるけど先輩はほとんどゆったりとしたソファで寝る…
そのおかげで僕はベットで寝れるってわけだけど…でさ…ベットはさ…ダブルだよ#…
僕さ…前に一度だけ聞いたことあんのよ#…

「先輩〜ここで寝ることあるんスか…誰かとさぁ…でへへ…」
「…あるよ…」
「うはっ…あるんだ…誰と?…」
「…それなりに…」

その時先輩は目の端でベットに視線を送った後…目を伏せて口の端で冷笑した…
好きで抱いたんじゃないだろうな…と思った僕はそれからそのことは口にしてない…

スーツを脱いだ先輩はTシャツとボクサーぱ○つのまま…volvicをグラスに2つ持ってきた…
先輩はソファに寝転がるとそばにあるフロアスタンドのスイッチを弄びはじめる…
僕はテーブルの上にある散らばったマトリョーシカを元に戻しながら先輩に話しかけた…

「先輩…ヒスから最近連絡あった?」
「ぉん…元気みたいだ…今度向こうで演奏会やるらしい…」
「ふ〜ん…」

入れ子の人形マトリョーシカはカン社長の愛人だったヒスが先輩に置いていったものだ…
ヒスはあの後ニューヨークに渡り..音楽院に留学してチェロの勉強に励んでいる…
今は勉強しながら他の演奏家と一緒にCDに参加したり演奏会に出ているみたいだ…
ヒスは定期的に先輩にメールで近況報告をしてくる…
アジョッシ(おじさん)じゃなくてオッパ(お兄さん)って書いてくるらしい^^;;

「ぁ…先輩…そういえばさ…」
「なに?」
「ミンチョルさんの妹って…らぶちゃんと付き合ってたって…」
「らしいね…」
「でね…その…ミンジって妹…ヒスとそっくりだって…」
「ふっ…そう…」

先輩は弄んでいたスタンドのスイッチをパチパチと押し始めた…
部屋が明暗を繰り返す…

「ミンギ…」
「ん?」
「顔は同じでも…中身は…違う…それぞれ人生がある…」
「ぅん…」

見え隠れする先輩の視線はじっと天井を見つめたままだ…
先輩はいつもそうやって視線を止め…ずっと遠い記憶を手繰り終わると目を伏せる…
組み立て終わったテーブルの上のころんした胴体のマトリョーシカは
表情を変えることなく僕にニコッっとしてる…

「ミンギ…明日の昼間は学校行けよ…」
「わかった…」

先輩がパチッっとスイッチをOFFにした…暗闇と静寂が部屋の中に広がる…
僕は月明かりを頼りにベットへ行きタオルケットを手にした…
タオルケットを先輩に掛けたあと…先輩が握ったままのスイッチを手から外した…


ヤンミミの逆襲  びょんきちさん


キィィ〜 クヤシイィ〜 なんてことするのよ。BHCの奴ら! ホンビョとドンヒだったかしら、私達6人を警察に引き渡すなんて許せない!
それに、チーフは何よ。せっかくヨンスさんとソンジェ君も連れて行ってあげたのに、顔も見せないし、この私に挨拶もしないなんて生意気だわ
もう、こうなったら、Pオーケストラコンサートを乗っ取ってやる!! キィィ〜

「電報で〜す」
「チーフ、ヤンミミさんから電報です」
「なんで電報なの? メールにすればいいのに」
「メール打てないんじゃない。最近目がかすむらしいよ」
「ヤン・ミミってそんな歳だったけ? まあ、年齢不祥だけど」
「カン・ミヒさんともなかよしみたいです。ぼく、イトーヨーカドーでみかけました」
「俺もしまむらで買い物してる時、2人を見かけたぜ」
「ゴージャスそうに見えるけど、2人ともお金に困ってるんだね」
「で、なんの電報だろう?」

この前はよくもコケにしてくれたわね
大体、BHCの連中は昔から気にくわないのよ
何さ、みんな同じ顔しちゃってさ!
これは、ヤンミミからの宣戦布告よ!

明日、コンサート会場をジャックします
私ね、日本で芸能プロダクションを立ち上げたのよ。もちろん、会長やマイキーも一緒
うちのスター達を引き連れて、Pオーケストラコンサートを乗っ取ってやるわ! 演目を紹介するわね

1)マツケンマンボ by デラルス
2)由紀さおり・ヤンミミ・ピーターのグラデーションショー
3)カン・ムン・ペクの極悪トリオ漫才
4)サンドゥ漫談(金もいらなきゃ女もいらぬあたしゃも少し背がほしい♪)
5)ヒスのチェロ独奏
6)ドーベルマン・イナ実技指導「犬でもできる回し蹴り」
7)ミソチョルと三頭身きちゅねのパペットマペットショー

ヤン・ミミ、本気なんだろうか? 冗談なんだろうか? とうとう頭が狂ったんだろうか? それにしても、どうして僕の三頭身とミソチョルのこと知ってるんだろう…


La mia casa_1 妄想省家政婦mayoさん La mia casa=My house

僕は闇夜に腕枕をしたことがない…
闇夜は僕の肩下に頭を乗せることがあっても僕の伸ばす腕には頭を乗せない…

「どうして?」
「…毎日包丁を持つ腕に負担をかけたくない…」

闇夜はそう言って僕の腕が痺れるの避け…腕枕を拒否する…
今朝も僕がうっすらと目を開けると闇夜の頭は僕の脇の下あたりに半分乗っている…
肩を抱いていた腕をそっと外し…闇夜の頭を枕に乗せた…
髪をかきあげるとちょっとけだるそうな横顔が見える…

昨日の夜…
僕は最初から大きな波で闇夜を捉え続けた…
闇夜に今日から始まる4人の暮らしに揺れないで欲しいと心のどこかで願い
駆り立てられるように僕自身も波に追い立てられるように深く強く闇夜を捉えていた…
僕の揺れを感じたのだろう…
闇夜は僕が支える腕の中で何度も大きく背中を仰け反り…
腕が…足が…舌が激しく絡み合い絶え間なく送られる僕の大きな波にも
闇夜は左右の撓りを続け僕に最後までついてきた…
昇天の後も闇夜の中の僕の余韻が収まるまでしばらく時間がかかった…
僕は互いの震えが通り過ぎた後闇夜の耳元で囁いた…

「ごめん…」

闇夜は何も言わずに僕の髪をかきあげながらそっと首を横に振った…
肩を包み込み身体を回した後僕は闇夜を頭からそっと抱いた…
僕たちはそのまま眠りに入っいった…


朝陽が白い頬に差し産毛が光っている…
頬をそっと撫でると闇夜はうっすらと目を開けた…

「おはよう…」
「ん…おはよう…」
「出掛けてくるね…」
「ぅん…」

僕はベットから出て椅子に寝ているはるみを抱き上げる…
はるみは…みゃみゃ#と鳴いて僕にごろごろ甘えた…
闇夜の隣にはるみを寝かせてたあと…僕はシャワーを浴びて出掛けた…

通常の営業の時…僕は週1度か2度…朝に市場に出掛け食材の調達を頼んでくる…
メンバーの人数も増え…..祭りの後の来店も考えこれまでより多めの調達をした…
自宅へ戻るとはるみが廊下でうろうろしている…

「ご主人様は?」はるみはブルブル#ブルブル#と身体を震わせた…
「シャワーかな?」目をくりくりさせてみゃぁ〜っと鳴いた…

シャワーの後…髪にドライヤーを当てながら聞いた

「冷蔵庫の大量のフカヒレ…何?」
「…ジホ達の分…昨日届いた…」
「達?」
「ジホ…ソヌ…ウォニ…のおやじ予備軍…」
「ぷはは…そう…届けるの?」
「の予定だったけど…メールが来た…」
「何て?」
「ぅん…オーナーの編集分も夕方になるから…店で受け取るって…」
「編集…昨日の分もあるからな…」
「ぅん…」
「ぁ…今日ね…ホワイトアスパラがあった…」
「うそ#…もう季節終わったのに?」
「ぅん…この時期珍しいからさ…自宅用に買っちゃった…」
「たはは…悪いやっちゃ…後は?」
「スカンピもあった…」*スカンピ=あかざえび
「数が少ないよね…いいスカンピは…」
「もち…それも」
「「自宅用^^;;…^^;;」」

はるみと一緒に早めのブランチを済ませ僕はちょっと家で出来る仕込みをした…
その間闇夜は家政婦モードになり…PCの前で諜報部モードで仕事をこなした…

僕は店に出る前に闇夜とはるみに大変な目に遭わされた…
広い廊下に置いてあるストレッチマシーンでうんしょうんしょと運動させられたのだ…
立ち仕事には慣れているけど…腹筋・背筋・腹側筋は効いた…
はるみはマシンに乗っかり僕が腹筋するたびに…みゃ#みゃ#みゃ#と号令をかける…

「これから出勤前はこれね#」
「ぁ…ぁふ…」

留守番のはるみを残し僕等は店に向かった…
闇夜は引きつった僕の脇腹を歩きながら撫でてくれた…


喧嘩  オリーさん

「アナスターシャの事、知らなかったな」
「だって終わったことだもの。わざわざ言う必要ないでしょ」
「別に気にしてないけど」
「だったらいいじゃない」
「いいよ」
「いいって顔してないじゃない」
「ジュンホの奥さんに似てるって?」
「似てたよ。だから何?」
「別に」
「じゃあ、いいでしょ。そっちこそ何よ」
「何が?」
「奥さんが来たからって一々反応しないでよ」
「ちょっと驚いただけだろ」
「縮まなくてもいいだろ」
「縮んだのはその前だろ。それに最近縮む癖がついちゃったんだ、誰かさんのせいで」
「あ、そういう言い方するわけ。僕のせいだって?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃどういうわけ?」
「別にいいじゃないか」
「大体、いつまでもぐずぐずしてるからいけないんだよ」
「ぐずぐずって何?」
「さっさと離婚しないから」
「するって言ってるだろう」
「じゃ早くして」
「この間まで祭で忙しかったろうが。こっちに戻って来て今日が初日だ」
「仕事が早い人にしちゃ、対応遅いでしょ」
「仕事と離婚と一緒にするな」
「手続き関係、得意なんじゃないの」
「いちいち絡むな」
「そっちが先に言い出したんでしょ。昔のことねちねちと」
「ちょっと聞いただけじゃないか」
「つっかかったでしょ」
「それはそっちだろう」
「そっちでしょ」

「おいおい、この張り詰めた空気は何?どうしたの?」
「スヒョン…」
「別に何でもありません」
「何でもないって感じじゃないけど?」
「大したことじゃないんだ」
「僕、店に出てますから」
「ギョンビン、喧嘩したの?」
「何でもないです」
「喧嘩別れするなら、僕に教えてね。引き受けるから」
「何でもないですっ!」
「おお、こわっ!」

「スヒョン、あんまり刺激するなよ」
「ふふん、このくらいさせろよ」
「あれ、イナは?」
「あそこ」
「あそこって、ゼロゼロしてるドーベルマンじゃないか」
「よく見ろよ」
「え?ああ、イナか」
「あちこち連れまわしたから、ちとバテ気味なんだ」

「こらっ!ミンチョル!俺をイヌと間違えるな!」
「だって似てるもん」
「狐に言われたくないぞ」
「ハウス!」
「わん!」
「ほら」
「こら!」
「ステイ!」
「がるるる…」
「ほら」
「こら!」
「伏せ!」
ぺたん…
「ほら」
「やめろっ!」

というわけでイナはドーベルマンになり、僕はミンとちっと喧嘩したのら
それから後は、スヒョンがイナのために集めた女性客で店は大盛り上がりだったのら
初日から売上がすごかったのら
オーナーはきっとウハウハに違いないのら


ドンジュンの憂鬱  足バンさん

僕が起きた時はとっくに陽が高くなっていた

明け方ドンヒの部屋を出て自分の部屋に戻り
シャワーを浴びながらやっぱりイナさんのことを考えていた

テジュンさん…あんなにイナさんを大事にしてたのに
あんなにイナさんのわがままを優しく見守ってたのに
あの優しい目のどこにそんな情熱が潜んでいるんだろう

いろいろな愛情の形があるんだろうけど…
人の気持ちは変わる…んだよね…

はぁ…やっぱり僕はどこかで不安なんだな

ギョンビンはどうなんだろう…
あいつは芯が強いから…
もうミンチョルさんが離れない自信があるんだろうな

そんなことを考えてベッドに潜り込んだ
スヒョンの香りを思い出しながら丸くなって眠った

昼過ぎに起きて祭のときの荷物をほどいて
何やらのろのろと身の回りのことをした
店に行くまでスヒョンに連絡をしないようにした
きっと今日はイナさんの面倒でいっぱいだと思ったから

なのにだ

店に出て僕は呆気にとられることになる

いや、店に着いた時ミミさんたちと警察がもめているのも驚いたし
ホンピョがなんだか変な置き物を持ってうろうろしてるのも驚いたけど…

何人か馴染みのお客さんが入りはじめた頃
スヒョンとイナさんは店に入った
イナさんはせき立てられて奥でシャワーを浴び着替えている

スヒョンはミンチョルさんと何だか言葉を交わしたあと
僕のところに来てキスをして「元気だった?」って聞いた
あんまり元気じゃなかったんだけどね

で、そのあといきなり何人ものお客さんが…というより何人もの女性が
どっと来店してスヒョンのとこに群がったのにまず驚いた

みんな口々にお久しぶり〜会いたかった〜なんて言ってるし
スヒョンはひとりずつハグしたり手にキスしたりして
今日はありがとうなんて…すっごいニッコニコじゃん

どうも様子からするとイナさんを盛り立てるために声をかけたらしい
常連さんじゃないみたいだけど…
まさか全部昔の女じゃないだろうね!ぶーっ

みんな一緒にイナさんのテーブルにつき
イナさんはなんだか大忙しのすごいことになっている
ジュンホ君やシチュンがヘルプについて巻き込まれてる

そんな時また新しいお客さんが入って来た
僕はその人たちを見て固まった

げっ…知ってる…この人たち知ってる…3姉妹と弟…

スヒョンはちょっと驚いて迎えに出ると4人をハグした

「みんな一緒にどうしたの?」
「祭の衛星中継観たのよ!MVPおめでとう〜」
「はいお花〜!」
「元気そうでよかったわぁ」
「兄貴おめでとうございます」
「ありがとう…みんな一段と綺麗になったね…デヨン君も男前になった」

がううう…僕…あの人達ちょっとダメかも…

そぉっと店から逃げ出して通路に出ようとした時
スヒョンに腕を掴まれた

「来いよ」
「いやだってっ!」
「いいから来い」

僕は引きずられて4人の前に連れて行かれ
後ろから首に腕をまわされた

「こいつドンジュン。僕の今一番大切な人」
「…」
「は…じめまして…よろしくおねがいしまつ 」 うっカンだっ!
「「「 きゃぁ〜かわいい〜っ 」」」

ぐぇ…
僕はその人達に思いきり抱きつかれどつかれ回された
特にチーフの奥さん似の人は有無を言わせぬ迫力で
ミミさんやミヒさんまで連想させて調子が悪い…

僕はやっと解放されて通路に避難し壁にもたれた

うううう…落ち着け落ち着け…
過去は過去…今は今…過去は過去…うううう…
顔広過ぎなんだからまったく!
いやホントにうん…カコはカコ、イマはイマ
カコはカコイマはイ?あれ?

「いいフグはいってますか?」
「ひゃぃっ?」

いつの間にか後ろにスヒョンが立ってた。まったく!

「やっぱり…ふくれてると思った」
「なによ!いいの?お客様放っておいて」
「彼女たちなら帰ったよ。お祝いに寄ってくれたんだって」
「う…じゃあイナさんとこ行ってあげなよ!」
「あ…」
「なによ」
「僕の過去を全部紙に書き出せって顔してる」
「してないよっ!ばか!そんなもんいるか!」

スヒョンは笑って僕のデコにキスして店に戻っていく

「店が終ったあとオールインに顔出すから空けておいて」
「イナさんと?」
「そ!」

まったくあの人は…何考えてんだか…

店を覗くとイナさんのボックスは盛り上がっていて
なんだかんだ言いながらイナさんは楽しそうにしてた


思わぬヘルプ  ぴかろん

おう…俺、テプン
昨日はよぉ、せっかく新居を見つけたのによぉ、チェリムの奴が「却下!」っつって怒ってよぉ…
しかも俺には「ウチに来ちゃダメ」っつーしよぉ
テジの教育上よくない!とか言ってよ…

テジは明日のコンサート聞いて、あさって帰るらしいから、今夜は俺も一緒に、家族水入らずでお風呂には三人で入ってウヒヒヒ過ごそうと思うクヒヒヒ

チェリムんちに行くのは初めてだ!
今日は…アレはできねぇな

…よかった…

ん?
聞こえた?!
いや、その、あの…まだ新しい技とか習得してねぇからよ…

ンな事を考えつつ、俺は客にせがまれてジャージャー麺を食っていたんだ

カランカラ〜ン

おっ今日は盛況だなぁ…

「お父さん!」

え…

「ふぇ…ふぇじ…」
「口の周りに一杯なんかついてるよ、かっこ悪いなぁ」

テジだ!
テジはハンカチで俺の口の周りを拭いてくれた

「ふぇじぃぃぃっくううっ」

俺はテジを抱きしめた
俺の席にいた客は皆、テジをかわいいかわいいと言ってなでなでしてくれた
あたりめぇだ!俺のかわいい息子だかんな!

「おめぇどーやってここに来た?」
「ん?ヒョンと一緒に来た」
「ヒョン?!…ヒョンって誰だよ」
「おこんばんわ」
「げっ、チェリム…」

俺の席の客がざわめいた

チェリムさんよ!
かっこいい!
素敵!
スタイル抜群ね〜
握手してください
サインください
ハグしてください
きゃあきゃあ素敵ぃぃ

…なんだ?
一瞬にして客がチェリムに群がったぞ…

「あの、チェリムは女ですけんども」

俺は客の一人にそう、忠告した

「解ってるわよ。女性からみてもチェリムちゃんはかっこよくて可愛くて人気あるのよぉぉ」
「おっとこまえだしねぇっ」
「テプン君、ちゃんと彼女を満足させてあげないと許さないわよっ!」

へ?!
あんだよっ!あんでそんな事を…

「ヒョン、かっこいい!」
「テジィ…。あ、すみません、お邪魔しちゃって…え?私はその…ちょっと見学に来ただけで…え?ここに座れって?お・・おごる?…はあ…じゃあちょっとだけ…」

ってチェリムは俺のボックス席に、まるでヘルプのように座った
ついでにテジもヘルプのように座った
テジはチェリムを見てニコニコしている
俺はちっと涙が出そうになって、テジの頭を抱きしめた

「おめーらよぅ、仲良しになったのか?俺がいなくても大丈夫だったのか?」
「はい。お父さんがいないほうが上手くいくみたい」

がーん…

俺はさっきと違う涙を流した

「冗談だよお父さん。あのね、ヒョンはね、すっごく性格がいい人だね」
「そ…そうだろ?そうなんだ!その上美人でスタイルよくてかっこよくて有能なボディガードだぞ!オマケに元検事だから頭もいい!
ま、検事時代の髪型と化粧はちっと気にくわなかったけんども、今、ホラ、セミロングでよ、あいつに似合ってるだろぉでへへ…
しょれによぉ、でへへ…化粧も薄化粧で…あいつさぁ、素顔がかわいいだろ?だからよぉでへへ…ってテジ…」

テジは客の一人と話し込んでいて俺の話を聞いていなかった…ぐしゅ…

もっと言いたかったのに
いいよもう、独り言言うよ…

「しょれによぉ…無い無いと思ってた胸がよ、ちょうどいいぐらいの大きさでウププ…気もちいいんだよなこれが!
しょしょしょれになんちってもアレがアアなった時のきもちよしゃったらにゃいんだもう…ひーひー…」
「アレがアアなるってのはどうなる時ですか?お父さん」
「ぎええっ!なんでそんなトコだけ聞いてんのお前っ!」

とにかくテジはチェリムを「ヒョン」と呼び…なんで「お母さん」じゃないのか、チェリムが嫌がったのかと聞いたら違う、自分がまだそう呼ぶ気持ちになれなくて
それをヒョンに言ったらヒョンは解ってくれた、いい人だ、父さんには勿体無い!・…て言いやがった…とにかくヒョンと呼び、ものすごく親しそうだ

『懐いている』と言うより、テジがチェリムを見守っているように感じるのはなぜだ?!

俺達が盛り上がってると、スヒョンがやって来てチェリムを裏に呼んだ

げぇぇっ!スヒョンの野郎!まさかチェリムに手をだそうってんじゃぁねぇだろうな!どきどぎどき

待つこと10分
その10分が一年ぐらいに感じたぞ!バカスヒョンめ!

チェリムは裏から出てきた
かっくいースーツ着て…

「「「うわぁぁチェリムちゃんすてきいいっ!」」」

客が一斉にチェリムに注目した
かっくいーホ○トがそこにいる…

俺は口を開けたまんまホ○トチェリムに見入っていた

「似合うかな?」
「「「きゃあああっタカラヅカだわぁぁっ」」」

チェリムもなんだか気に入ってるようだ、この扮装…

俺はスヒョンを捕まえてあのカッコウはなんだ!と問い詰めた

「似合うじゃん、彼…あいや、彼女…。かっこいいね、男前だし。結婚しちゃうの勿体無い。ウチで働いてもらおうか」
「なにっ!(@_@;)」

スヒョンの野郎、ククククっと笑って俺の肩をバンバン叩いて冗談冗談といいやがった!

それにしてもチェリムの奴、調子に乗りやがって…
あっ…客の耳元でイロッペー顔で囁いたりしてっ!(@_@;)

…そういえば…アノ時アダ○トビデオの女優のきょにゅうを「揉みしだきたい」だの「顔を埋めたい」だのアブない事言っていた…

まさか…まさかチェリムは…(@_@;)

「お父さん、ヒョン、大丈夫かな?お父さんを捨てて女の人に走ったりしないかな」
「テテテテテジっ!(@_@;)」
「だってヒョンさぁ…家事能力マイナスだよ」
「マイナス?」
「ゼロより悪い…」
「…」

アハハハ、そーっすかぁ。じゃあ俺、がんばりますよぉアッハハハ

チェリムが自分の事を「俺」などと言っている…
あのキレイなおぢょうさんのチェリムがこんな…
こんなとこでホ○トを…

ああ…
チェリム…

こんなとこをテジに見せて…
これのがアレよりよっぽど教育上よくねぇんじゃねえのかよぉ…チェリムううう…

俺は心配の涙を滝のように流し続けた…


店内模様   オリーさん

チェリムさんがスーツ着て接客してる
テプンよりいいかもしれない
スカウトできるか?
超法規的措置が適応できるだろうか、ま、オーナー次第し
イナもハイテンションで客と入り乱れている
落ち込むヒマがなくていいだろう
だんだん調子が上向いてきたみたいだ

でもって、ミンはドンジュンと兄さんと接客中
初日からこっちも人気者だ
ドンジュンとデュエットしたり、兄さんと寸止めしたりして客に受けてる
いいんじゃない…
でも怒ってる…
ミンは顔に出さないタイプだけど…怒ってる
だって目がちいっとばっかし釣り上がってる
そしてその釣り上がった目は決して僕を見ない
絶対怒ってる…ヒン!
いいもん、僕だってアナスターシャ・舌噛みそうな名前・なんか知らなかったもん!

「どうかしたのか?」
「スヒョン…いや、何でもない」
「まじで喧嘩してたの?」
「違うって。つまらないことだ」
「そう、ならいいけど」
「それより久しぶりなのによくこれだけ客集めたな」
「まあね」
「天使は顔が広すぎて、ドンジュン、ハラハラしてるぞ」
「大丈夫だよ。あいつがハラハラするのはこんな事する時だけさ」
スヒョンが僕の肩に手を回した
「ほら、ドンジュンの顔、こっち見てないけどふくれたろ?」
「あれが噂のフグの顔か。可愛いな」
「でもって、ギョンビンの目が3度くらい釣り上がった」
「ミンの目が釣り上がってるのわかるか?」
「わかるさ。僕を誰だと思ってる。何でもお見通しだよ」
「まいったね」
「あっとまた客が来ちゃった。行ってくる」
「わかった」
スヒョンがすいっと離れて行った
ドンジュンの顔はまだふくれたまま
ミンの目はさらに2度くらい釣り上がった

そうこうしてるうちに、またオーナーからのファックスだ
どうしてメールできないのだろう、老眼か?
何だって…明日のコンサートはRRHのコンサートホールでだって?
ヒイン!
RRHにはコンサートホールまであったのだ…嫌な予感…
帰りにみんなで家に寄るなんてこと…ないよね…ヒン!

「チーフ、指名です。親指ハンカチの」
「ああ、わかった。すぐ行く」
じゃ、ちょっと僕も仕事しないとね


奇妙な関係 帰路 3  ぴかろん

「ねぇ…ここんとメールこないね」
「…あ!忘れてた!電源切りっぱなしてた!」
「なんで?」
「だってさ…」

お前とヤってる最中に…イナからメールが来たら…

「萎えちゃうと思って…」
「…ふ…」
「…な?お前だってヤだろ?そんなの」
「…」
「な?」
「…ん…」

くうっ!ヤらしくって可愛いんだからぁっくうっ!

ああいかん、こんなこと言っていてはいかん…
僕はラブに携帯を渡して電源を入れてもらい、メールのチェックをしてもらった

「何これ…」
「何?やっぱしイナからズラズラっとか?!」
「…イナさんからは…ないけど…ソクさん、ギョンビンに…ギンちゃんから…」
「ソク?…ギョンビン君とミンギ君まで?…なんて書いてある?読んでみてよ」

ラブはまず、ソクからのメールを読み出した
ほぼ泣きメールだ

僕達がコンサート?に間に合わないと、あいつの採用は取り消されるらしい

フン、よかったな
ソクのためじゃなくて、僕達は自分達のために、今日中にそっちに着くよ
でも

「おあつらえ向きかもね、コンサートなんて…」
「再会にはぴったし?」
「…ん…」
「あ…スヒョクからだ…」

ラブはスヒョク君が書いたらしいメールも読み始めた
そして急に読むのを辞めた

「どうしたの?」
「…これは…自分で読んで…俺、読めない…。他の人のも…」

そう言って顔を背けた

泣いてる?

ソクとちがってスヒョク君は文才がありそうだしな…
それに…ギョンビン君やミンギ君だろ?

うーん…みんな心配してくれてる?

僕は気になったので車を路肩に止めてそのメールを読んだ


読まなきゃよかった…
僕は激しく後悔した
メールを読んだことも、それからこの二日間の…ことも…

「…ごめん…テジュン…」
「なんで謝る…」
「やっぱり間違ってた…」
「そんな事!」

今更言うなんて…

「ごめん…」
「謝るな!僕がこうしたかったんだから…」

僕は俯いているラブの頭を抱き寄せた

「今更何言ったって、何思ったって、過ぎてしまったことは取り戻せないんだ…だろ?…後悔してないって言ったらウソになるかもしれないけど
僕は…ちゃんとイナと向き合うつもりだよ… 」

ラブは小さく頷いて言った

「俺も…あいつに…全部話す…。それであいつがどう思うか… だよね…・・」
「うん…イナが僕を受け入れてくれるかどうか…」

こんなに愛してるラブと、僕は、『一緒に』…もう一人の愛する人に向き合うんだ…
何とかしたい…
なんとか…

きっと…イナは受け入れてくれる…
受け入れてくれるように説得する…
でもどうやって…

心配だったけど、でもやらなきゃ…
でなきゃ僕達、何のために帰っていくのさ…

僕はラブの唇に軽くキスをして車を車線に戻した…


静かな夜1 れいんさん

僕の気まぐれなボルボV70エステートの助手席にはスハが座っている
歓迎会の後、僕達は片道1時間弱のちょっとしたドライブを楽しんだ

賑やかなその日の出来事、テソンが腕をふるってくれた料理の数々、BHCメンバーの事…
とりとめもなくいろんな話をしたが、互いに本当に聞きたい事には何一つ触れようとはしなかった
どんないきさつがあったにせよ、今、僕の傍にはスハがいる
ただそれだけでよかった

煌く宝石の様な街の灯りを横目に見ながら、ひとときのドライブは終わり、僕達の新しい場所に到着した
緩やかな坂道に車を止めサイドブレーキを引く

着いたと察しドアを開けようとするスハを僕は制した
「ちょっと待って」
スハにそう言って僕は先に車を降りた
助手席に回った僕はドアを開け、スハに手を差し伸べる

「目を閉じて。家まで僕がエスコートするから」

スハは少しはにかんだ後、僕の手にそっと手を乗せ目を閉じた
家の前までゆっくりと進みアイアンの門扉を開ける
庭のアプローチの途中まで歩いたところで僕は立ち止まった

月明かりに照らされて可憐に咲く野花たちを一番にスハに見せたかった
デッキの上に吊られているカンテラの優しい灯りが
長い年月を重ねていった白い小さな建物を優しく浮かび上がらせている

「目を開けて」

スハがゆっくり目を開ける

「…」

スハは瞬きもせずに佇みその風景に見入っている

「…気に入った?」
「…」
「…気に入らない?…そうだよな。大きくもないし、新しくもない…」
「いいえ…凄く…素敵です…」
「ほんと?…この庭を一目見た時、絶対スハは気に入ると思ったんだ。だから…誰よりも先に見せたかった…」
「僕…嬉しくて…胸がいっぱいで…」

言葉に詰まって俯いているスハを僕はそっと抱き寄せた

「これからは、ここが僕達二人の家だ…」
「テジンさん…」
「ここで、胸がいっぱいになってちゃ、中に入れないじゃないか。…さあ…入って」

僕はスハの手を引いて僕達の家の扉を開けた
ちょっとアンテイークな香りがするキッチンやリビングをスハは気に入った様子だった
言葉もなく部屋の中を見回している
スハはふと目がついたのか、僕が作った家具を愛しそうに撫でていた

僕は二階も一通り見終わったスハにシャワーを勧め、その間にワインとチーズの準備をした

お気に入りのソファに方膝を立てて座りスハを待つ
誰かを待つ、緩やかに流れていく時間

そしてバスローブ姿のスハが出てきた
その髪は艶やかに濡れていた
僕は思わずくすりと笑った

「…どうしました?」
「…ん?…前にもそんな風に濡れた髪のバスローブ姿のお前を見たね」

スハはその時の事を思い出したのか、少し顔を赤らめた
あの時、「抱いて」と一生懸命に僕に訴えかけたスハを想い、僕は愛しさに胸が熱くなった

「…こっちにおいで…これで乾杯しよう」

僕は空のワイングラスを少し掲げて見せた
スハが僕の隣に少しだけ間隔を開けて座った
スハの手に握らせたグラスに赤い液体を注ぐ

互いのグラスをカチンと鳴らして、その芳香な香りを楽しみながら少しずつ喉元に流し込む

「テジンさん…」
「ん…?」
「何だか不思議な気持ちがします」
「どうして?」
「僕とあなたが、こんな風に…二人きりで…少し前の僕にはとても想像できなかった…」
「僕だって同じだ…。いろんな事があって…傷つけてしまった人達もいるのに…こんなに穏やかな気持ちで過ごせる日が来るなんて…」
「こんなに幸せでいいのかと…僕は怖くなってしまいます」
「スハ…」

僕はスハが持っていたワイングラスをテーブルに置いた
そしてスハの方に向き直り、そっとその唇に口づけをした

触れていた唇を少しだけ離し、スハの澄んだ瞳をじっと見つめる
スハの額にコツンと額を合わせ、僕は軽く目を閉じて溢れる想いをかみ締めた

「ずっと…こうしたいと思っていた…スハ…愛してるよ」
「僕も…愛しています」

その言葉を合図に僕達はどちらからともなく唇を寄せ合い、深い口づけをした
そうして僕達の長くて静かな夜は過ぎていった


店内模様 2 足バンさん

「ふぅ〜初日から僕たちにもお客さんがつくとはね…ね、ギョンビン」
「うん」
「ドンジュン君もいろいろありがとう」
「はい」
「あの…どうしたの?ギョンビン目が…」
「なに?目がなんだって?兄さん」
「いや、なんでもない…ドンジュン君はちょっとふくれ…」
「ギョンジンさん、次の指名までは他のテーブルの様子をみてて下さい」
「あ、はい…」
「…」
「…」

「あ、あれがチーフの”ガラス越し親指ハンカチ”か。客が専用ガラス板持つのか」
 ダンッ!
「な、なんだよギョンビン…グラス片付けるから」
 カチャ
「あ!今度は”冷たく見下す目”のリクエストだ。迫力だな…女の子倒れそうだぞ」
 ゴンッ!
「なんだよ…わかったよ灰皿も片付けるよ」
 ごそごそ
「お!あれはスヒョンさんの噂の”こっち見ながらハグ”か。ここキスは禁止なの?」
 ガンッ!
「な、なによドンジュン君まで…お皿も片付けるって」
 カチャカチャ

「あの…ふたりとももしかして怒ってる?」
「「 べつに 」」
「そうだよね…ふたりとも幸せなんだもんね」
 ダダンッ!
「あ、ボトルも片付けるから。もしかして彼らのことで何か?ねぇ」
「…」
「あ、それってさっきふたりが肩抱いてたから?」
「兄さん!」
「じゃぁまたふたりであのダンスやっちゃえば?」
「いい!」
「何で?」
「ああゆーのはあのふたりには効果ないの!」
「そう、余計なことして煽るとろくなことないの」
「そうなの?でも駆け引きって意味じゃ…」
「兄さん!」「ギョンジンさん!」
「は、はい」
「兄さんそんなこと言える立場じゃないでしょ」
「そうだよ。ひとににアドバイスしてる場合じゃないでしょ」
「あ、はい」
「アナスターシャのことだって兄さんが言わなきゃ何の騒ぎにもならなかったんだからね!」
「え、なんか騒ぎになったの?」
「この件でギョンビンが喧嘩別れしたらカジるよホント!」
「な、なんでドンジュン君にかじられるの?」

「兄さんこそちょっと明日のこと考えたら」
「あ、はい」
「僕たちにはどうにもできないんだからね」
「う…はい…」
「ちゃんと気持ちを伝えるんだよ」
「はい…」
「誤解なら解けるし」
「はい…ぐし…」
「傷は一緒に埋めるんだよ」
「う…ぐし…」
「僕はいつでも話きくからね」
「ん…」
「僕もどっかでフォローするよ」
「ぐすん…」

「ドンジュンさん”柔道寝技で激しい息づかい”ご指名です」
「ギョンビンさん”狐調教秘話”ご指名です」
「ギョンジンさん”口コミえろみん談義”ご指名です」

「「「 はーい 」」」


黒板  ぴかろん

俺はイヌって先生のテーブルに『へるぷ』っていうのでついている
ドンヒも一緒だ
よかった…
こいつは何かと頼りになるかンな…

んで、イヌ先生が黒板を出してくると、客が全員固唾を呑んで胸の前でお祈りのポーズしてるんだよな

俺もそうしなきゃイカンのかと思ってよ、ドンヒとお祈りのポーズしたんだよ

背中に鋭い視線を感じたんだがよ、とにかくイヌ先生の『唯一無二の技』らしいから見なきゃいけないとか言われてよ、視線を無視して見てたんだよ

したらよ、黒板にすいいーっと線をひくじゃん?
何してんだ?

んで、おもむろに俺達の方に振り返った…

☆★☆(@_@;)
キィィィィン
…すっげぇ…

俺、全身鳥肌立った!
ドンヒの奴は小突いたらバラバラに割れそうなぐらい固まってる
これか…これがホ○トってモンなんだな!
すっげぇわ…
客もみんなぼーっとしてる

先生のセリフが続くんだが、それも耳にはいらねぇくらいかっくいー…

んでからよ、続けて胸ポッケからメガネを取り出したんだ…
んで…かけたんだ!

きえええっカックイー!はあああん…

俺とドンヒはぼぇぇぇっとしてたんだ…
したら俺たちの後ろからタタタッと小走りでイヌ先生のトコまで走った奴がいる

ウシクさんだった
先生はウシクさんを見てさっと腕を伸ばし、肩を掴んだ
そして小声でウシクさんになんか言った
ウシクさんは震えてる
どどどどーしたんだよっ(@_@;)

「…今はダメだよ、営業中だ…」
「やだっ!いやだっ!いやだいやだっ!」
「ウシク…ウシクってば」
「どおしてメガネまでかけるのさっ!いやだっ!こんなもんっ」

そう叫んでウシクさんはイヌ先生のメガネをひったくった

「あっ…」

おおい…イヌ先生の目の下にメガネのつるが引っかかったみたいだ…
ちっと切れた…

「あ…ご…ごめんなさい…先生ごめんなさ…」
「大丈夫だから。ウシク、裏に行ってて」
「でも僕」
「いいから!行くんだ!」
「…せんせ…」

厳しい口調で言った先生を呆然と見つめたあと、ウシクさんは涙目で走り去った

その後はにかんだ笑顔でペコリと礼をし、ちょっと傷の手当してきますと言って先生は裏に行った
後を俺達が任されたってことかい?

「貴方達は新人ね?何ができるの?」
「僕はどこまでも走ることができます」
「俺は金庫破り」
「ぶっそうねぇ…」
「ちょっと今のイヌ先生の『黒板振り返り』に挑戦してみてよ」
「ええっ…僕達がですか?」
「そうそう、初々しいの見てみたい」

そういうわけで、俺とドンヒはイヌ先生のまねをして黒板線引きと振り返りをさせられた
俺は振り返るたびにカワイイと言われ、ドンヒはかっこいいと言われた
それにしても…ウシクさん…どうしたんだ?イカレてんな、相当…


「ウシク…ウシク」
「もういい!僕なんかもうどうなってもいい!」
「ウシク…お客様の前でいくらなんでもキスできないだろう?」
「いやだ!いやだもう!先生なんかもう嫌いだ」
「ウシク、ウシク」

僕は不安定なウシクを背中から抱きしめた
今夜は随分ひどいな…
抱きしめても暴れ続けている

「ぁっ」

ウシクの指がさっきの傷のところに当たった

「あ…せ…せんせ…ごめん…ごめんなさい…ぼく…」

ウシクが僕の方に振り返った瞬間、僕はウシクを抱きしめて唇を塞いだ
ウシクは震えて泣いている

もう少しだからウシク…もう少しで糸口が見つかるんだから

唇を離してそういうと、ウシクは泣きながら言った

「もっと絡まるかもしれないのに?」

僕は微笑んでもう一度ウシクに接吻した

「それならそれで、絡んだ糸をゆっくり解すさ…」
「…せんせい…」


店内模様3  れいんさん

「スハ、今日から通常営業だけど、大丈夫?」
「はい、テジンさん…でも、僕、ちゃんとできるでしょうか」
「心配しなくてもいいよ…お客様もちゃんとそのキャラクターに合わせたリクエストするから無理する事はない」
「リクエストって…?」
「うん、例えば…そうだな…チーフはさすがに色んな技を持っているからリクエストも多種多様なんだ
親指ハンカチ、冷たく見下す目、通りすがりの腕掴み、ソファで無理な体勢での狸寝入り…」
「へえ…凄いですね。スヒョンさんは?」
「スヒョンも色々技を持ってるけど…こっち見てハグとかね。でも、あいつの場合、人前でできない技が多いからな…」
「わあ…やっぱりBHCの人達って凄いですね。で、他には?」
「ん…そうだな、イヌ先生は黒板にチョークで線引いて振り返る技だけど…近頃ウシクが情緒不安定だからな…
テプンは食い物関係やお尻ふりふり歩きや他にも一発芸が…あいつは多芸だから
で、スヒョクは銃の早撃ち…ちょっと最近乙女キャラについての問い合わせが増えてきてるよ
ジュンホ君はボクシング関係とカールおじさんのつけ髭なんかも密かにブレイクしてきている」
「それから…?」
「ん…と、後はテソンはほとんど厨房だけど、たまに持ち上げて投げてくれってリクエストが入る時がある。床にマットレスを敷くけどね」
「で、テジンさんは…?」
「僕…?そうだな…雨の中、傘を差してお出迎えってのがあるんだけど、雨降らせるセットとか後片付けが大変で、月に一回の予約制になっている
後はスリーオンスリーもできるし、家具作り講座もあるし…実は…お尻を少しだけ見せてアレっていうのが一番の得意技なんだけど…それもちょっと人前ではできないし…」
「むっ…なんですか?それっ!」
「あっ…いや、別に…なんでもない…」
「ふん…それにしても…あ〜あ、僕は何にも取り得がないな…きっと指名なんかつかない…」

『あっ、スハ先生、ここにいたんですか?お客様からご指名です』
「えっ?僕…?」
『はい、スハ先生の前髪切らせてくれってリクエストです』
「…」


cucina_1   妄想省家政婦mayoさん cucina=kitchen

闇夜は僕の仕込みと調理を手伝いながら隣で”まかない”を作っている…
メンバーの皆が出番の合間に小腹がすいた時…厨房に来て
手でつまんだり…フォークひと刺しで口に入れられる様に用意していた…

小ぶりのキムバブ…トマトのブルケスッタ…ぶつ切りのタコのマリネ…
カニクリームチーズとマッシュポテト…カリフラワーのカレーピクルス…
ひと口大のカットフルーツ…等々…

指名の合間をぬって厨房にメンバーが出入りする…

ホンピョとドンヒは顔を両手でこすりながら入ってきた…

「すんげぇーよな…」
「ぅん…鳥肌が収まらない…」

ホンピョがキムパブを口に入れようとしたときドンヒが止めた

「あーにすんだよ…」
「駄目だよ…お祈りしなくちゃ…」
「っるせーなぁ…○#%&◇$+△〜〜」
「違うっ!」
「ったぐ…おめーはよー」
「きちんとしないと…イヌ先生に嫌われるっ」
「ぉ…ぉぉ〜ん…ちゃんと教えろっ」
「『日々の糧を与えたもう神に感謝します』だよ」
「わーった」

「「『日々の糧を与えたもう神に感謝します』」」

お祈りをして2人はキムパブとつまんで店内へ戻った…

ひょいっと厨房に来たドンジュンはカリフラワーのピクルスを口に入れた…
膨らんでいたほっぺたは酸っぱいピクルスでちょっと引っ込んだ…

チーフはリンゴを食べに来た…もうひと欠片食べようとしたがミンが後ろで首を振った…
つまんだリンゴをチーフはボールに戻した…

テジがひとりで厨房を覗きに来た…闇夜はテジの前に屈んでテジと目線を同じにし…
テジの口にメロンを入れ…ズボンのポケットにチョコの包みを何個か入れた…

「ヒョンと食べてね…」
「はい…^_^…ありがとうございます…」

テジはピョコっと頭を下げてチェリムヒョンの側に戻った…

ソヌが僕と闇夜を覗きに来てメロンを口に入れた…

「ぁ…ソヌさんの分…フカヒレ…どうします?」
「ん?どうしますって?」
「持っていっても家で食べないでしょう?」
「ぷっ#…ぅん…監督の分と一緒にしてくれるかな…アトリエでみんなで食べる…」
「わかりました…」

ソヌは巨峰をつまんだ後…店内に戻った…

「mayo…ほんとに何もしないんだな…ソヌさん…」
「んー…敢えてしないってのもある…か…」
「何故?」
「…」
「ん?」
「…欺く欺く然々…あぁしたことの…こうしことの…」
「そう…わからなくもないな…」
「ぅん…」

ジホが店の正面のドアからカメラを抱えて入ってきた…
店内を撮影して回っている…客がジホと見て指さす…

「「あ…モンスター…モンスター…」」
「「やってやって!ゴム!ゴム!」」

「えっ?見たい?」

ジホがゴム!ゴム!と言った客の顔をカメラでクローズアップする…

「「見たい!見たい!」」
「オッケー!!」

ジホは側にいたソヌにカメラを渡す…おもむろに赤い太いゴムを取り出した…

「たはは…mayo〜監督…いつも持ってるのか?」
「そうみたいね…」

ジホは自分の腰にゴムを巻き付けた…後ろで若い連中がゴムを支えた…

「うぉぉぉぉっぉぉぉぉ〜〜〜〜…」

ジホは吠えながらフロアを真っ直ぐに突き進む…ゴムの伸びきったところで

「おどりゃっ」っともう一歩踏み出そうとしたが…
そのままずるずるずるずる〜〜〜バタァーン…と倒れた…

「カット!!」ソヌがカメラを抱えながら叫んだ…

若い連中が倒れたジホを起こした…
ソヌはジホにカメラを返す…ジホはまた客の顔をカメラでクローズアップした

「はぁはぁはぁ…どう…?」

「「素敵ぃぃぃ!!!」」

ジホは満足そうに客に笑うと厨房へやってきた…

「テソン君…水…」
「ぷっ…はい…」
「ふぅぅ…ゴムが強すぎるな…改良しよう…そう思わない?」
「あはは…^^;;…^^;;…」

僕はこそこそと闇夜の耳元で言った…

『ね…mayo…今度はあのお○り文字書きするとか言い出すんじゃない?』
『あはっ…チーフから却下じゃない?』
『そうかな…』

僕と闇夜はくすくす笑った…


ジュンホの災難  びょんきちさん

きょうぼくは、イトーヨーカドーにいきました
おくさんとこどもたちもいっしょです
とってもしあわせです

おくさんは、もっとこうきゅうなおみせがすきみたいだけど
ぼくはびんぼーだったんで、こうきゅうなおみせはきらいです
ほんぴょしゃんは、しまむらがサイコーだといってました

おこのみしょくどうでランチをしてたときです
「あ〜ら、ソンジェ君じゃないの?」
とつぜんヘビ女がジュンにだきつきいてきました
「ソンジェじゃないよ。僕はジュンだよ!」
「だって、ソンジェ君の子供の頃にそっくりなんですもん」
「あなたどなたですか? うちの子に何するんですか?」
「私? 私はショービズ界の女王ヤン・ミミよ」
「だから、何の御用なんですか!!!」
うちのおくさんは、かなりおこっています

そこに、もっとこわいひとがあらわれました
「あら、ジュンホ君こんにちわ!」

うわっ、チャン会長だ。ぼくをだましたひどい女だ
しんゆうのそんすんほんくんもだまされたんだ
スケスケネグリジェでせまったきたこわいおばさんだ

「ミミさんの友達のカン・ミヒです。よろしくね!」
このひと、カン・ミヒなんかじゃない
また、ぼくをいじめにきたんだ。あっ、あたまがいたい
あたまにくもがいっぱいいる。ウゥゥッ…

「主人は頭の病気なんです。興奮させないでください!」
「まあ、知らなかったわ。ごめんなさいね」
「それで、ミミさん、ミヒさん、一体何の御用なんですか!」
「私ったら、昨日、興奮してBHCに変な電報送っちゃたのよん」
「それがどうしたんですか?」
「今考えると、大人気ないことしちゃったかなって思って」
「はあ?」
「マツケンマンボのマジちゃんも、スケジュールいっぱいだし」
「由紀さおりも、NHK朝のテレビ小説で忙しいし」
「ペクちゃんも大鐘賞取っちゃって多忙だし」
「ヒスはニューヨークだし」
「代役にヨンスも考えたけど、過労で倒れちゃったし」
「てなわけで、乗っ取り計画が暗礁に乗り上げそうなのよ」
「私って歌手の才能はあるけど、ブッキング能力がないのよね」
「ジュンホ君、チーフに謝っといてちょうだい。これからも仲良くしてねん」
「で、良かったら、うちのタレント貸すわよ。面白いわよ」
「これがうちの看板スターのDVD。みんなで見てね。じゃあ、バ〜イ」
そういって、ヘビ女はさっさとかえってしまった

『カン・ムン・ペク 24時間爆笑コントライブ! 笑いは地球を救う!』
『初回限定盤特典、3ショットヌードカレンダー付き』
これは、なんなんだろう? ぼ…ぼくはまたあたまがいたくなった


奇妙な関係 ヨンナムの家  ぴかろん

僕達はヨンナムの家に着いた
僕は昔、むかあし、両親に連れられてここに遊びに来た時、とっても怖かったことを覚えている
薄暗くて、ぎしぎし言う床や階段
そこら中に貼られた、意味不明の書
ぴかぴかに磨きこまれた廊下
多分僕は五、六歳だったはず…

そして学生時代の何回か、僕は友達とともにここを訪れ、ヨンナムのお父さん…即ち僕の伯父さんの指導の下
「規則正しく明るい生活合宿」というものをしたのであった
その合宿は、友達の親には大変好評で、僕がいなくても伯父さんは僕の友達を受け入れ、一週間でピカピカに清くて正しくて明るい青少年に仕立て上げて親元に返していた
強制はしない
ただ「逆らえない満面の笑顔」で「爽やか」に「誘う」のだ
みんな「断りきれず」仕事をこなし、「逆らえず」働き、健康的に動き、食べ、話し、眠ったのだ

「逆らえない満面の笑顔」と「書」を引き継いだヨンナムは、伯父さんと同様、時々青少年を泊まらせて合宿しているらしい
伯父さんとちがって「ミネラル・ウォーター」の配達という力仕事が加わっているので、より体を使った厳しい?合宿になっているようだ

そーか…ソクも「逆らえず」に「色即是空」なんだな…

ヨンナムの和風の下宿を、目を丸くして見入っているラブに笑いかけて、僕はがたぴし軋むオンボロ引き戸を引いた

「うっよっ」
「…どうしたの?」
「ん?開けるのにコツがいってね…。はっ…」カラカラカラ
「開いた」

あの頃から全く変わっていないこの家…

ほの暗い廊下、共有スペースの居間
おお、この座卓、まだ使ってるんだ!
あ、階段だんす…
あれに昇ってよく怒られたなぁ…
火鉢も鉄瓶もそのまんま…
懐かしいな

ああ、ヨンナムの書だ…
昔は伯父さんの書だったのにな…

「なにこれ…」
「読んでみなよ」
「…いい…」

「兄弟!」
「おお兄弟!」
「元気だった?」
「お前こそ…肌がツヤツヤだなぁ」
「…お前は…肌ツヤはいいけど、なんかやつれてるような気もしますな…」
「あーうんちょっと…働きすぎた…」
「そうか。ホテルマンって気を遣うんだな…。で、この方は?」
「あっ…僕の…こ…。けほっ…。アバ…いてっ!…つねるなよ!…あの…相棒のラブだ」
「…こ・アバ・相棒…」
「相棒だ相棒!ヨンナム、あ・い・ぼ・う!」
「恋人…アバンチュール…そして相棒へ…」
「「げほっごほほっ!」」
「どうした?二人とも…」
「ななな何言ってんの?お前…」
「さっき見てたメロドラマでそういう話をやってたんだぁ〜。んで?何でラブ君もここへ?」
「あ…ちょっとその、和風下宿に興味があるらしくって…な…見学して…そのよければ…仲間と一緒に合宿したいってラブが…」
「…そんな事一言も言って…」
「って言ってたんだよなあっラブ?!」
「あああ…はははい…」
「…えーと…仲間って?」
「んあ。もしかして僕が世話になるかもしんないBHCってホ○トクラブの仲間…」
「ああ、BHC…。そういえばBHC系の顔だね。あそこの新人君と仲良くなったよ、僕」
「しんじん?」
「うん。僕を『兄貴、兄貴』って慕う子と、それからかっこいいんだけどちょっとセンスが一昔前の男の子と、それから昨日ソクさんが連れて来たスヒョク君」
「新人が入ったのか…ふうん…。ソクのヤツ、スヒョク君連れてきたって?変なことしてなかったか?」
「お前が言うなよ!ところで君は…テジュンと一緒に帰ってきたの?」
「あうっははいっ」
「どーして?」
「…」
「ヨンナム…とにかく荷物を片付けさせてくれよ。ソクの部屋の隣はイヤだぞ!」
「どうして?端から順に詰めていかないと僕はイヤなんだけど!」
「…らって…」
「らって?!『だって』だろ?!」
「あの…」
「部屋には通すけど『淫らな行為』は…」
「わかってる!しない!…キスぐらいでやめとく…」
「テジュン!」
「うははは。じょーだんだってば…」
「お前は…。そんな事言いながら学生時代だって親父の目を盗んであんな事やこんなあわわわ」
「黙れ馬鹿!ラブに変な事教えるな!」

危ない…僕の過去をばらされるところだった…
ラブは疑いの目で僕を見ている

「あはは…なに?ラブちゃん…」
「やっぱし…すけべだったんだ…むかしから…」
「な…なんのことぉ?」

取り繕うけどほころびが…うう…
馬鹿ヨンナム
お前だってソクや僕と同じ系統の顔なんだから、ちったぁすけべになりやがれ!

「とにかく、部屋に案内する。君も来る?」
「えっと…俺は…」
「来てよ!荷物片付けるの手伝ってよ!」
「僕が手伝うけど…」
「いいよお前は!」
「なんで?」
「僕の荷物チェックして『いいもの』を抜き出すからさ、お前」
「いいもの?!ここの生活に不必要なもんばっかし持ち込むからだ!」
「あのさー、僕もう成人したんだからさぁ」
「…そうだな…」
「ラブ!来てよ」
「…あ…うん…後からでもいい?」
「なんでっ!」
「あの、ヨンナムさん…ちょっと見学しててもいいですか?」
「いいよぉどぉぞどぉぞ。あっちがトイレでこっちが台所ね。裏庭にもいけるし…」
「ありがと。ちょっと見せてください」
「いいよぉ〜気に入ったら住んでもいいよぉ〜」

ヨンナムの奴、やたらと愛想がいいじゃねぇか…

「お前、あの子はダメだぞ」
「何が?」
「手出しすんなよ」
「…は?!」
「だから…ちゃんとその…恋人がいる…」
「お前か?」
「…。あっそうだ!」
「なんだよテジュン」
「いや…今日なんかコンサートがあるとか?で、お…お前も招待されてるとか?」
「ああ、そうだけど?」
「じゃ、一緒にいこうな」
「ああ…変な奴…。部屋はここだ」

僕は部屋に入った
懐かしいな…

「おい…なんだよこの書…」

『色即是空 空即是色』

あまりにもタイムリーすぎておもしろくない

「ん?なんで?」
「昔この部屋には伯父さんのあの…なんだっけ…」
「『仲良きことは美しき哉』…か?」
「んん、それそれ、それがあったじゃん」
「あれはもう人にあげた」
「あれのがよかったのに…それにこれさぁ、ソクの部屋に飾ってやれよ」
「どうして?」
「あいつ悶々としてるからさ…」
「…」
「なんだよ…」
「お前…あの子と何かあったな」
「うぐっ」
「ふん。僕の目は誤魔化せないからな!」

ヨンナムは鋭い目で僕を睨んで階下へと行った
ふうっ、ヨンナムのクソ真面目光線には耐えられない
あいつももう少し色恋を知ればなぁ…


◇ Bon voyage…eight…◇  妄想省家政婦mayoさん

「ホントに乗るのか?」
「ぅん#僕ね…好きなの…」
「ぁ…そっ…俺はここで待ってる…行って来い…」
「えっ〜駄目##」
「いいからっ#」
「駄目#行くよ#」
「ぃ…ぃ…嫌だ#」

麻城(マソン)ICで高速を降りたテスが向かった先は…エバーランドだ…
テスが「あれだよ…」と指さしたのは…真っ赤な…Rolling X- train…
この真っ赤なコースターは360度の回転を2回と…2回の螺旋状のコースを一気に上下する

エバーランドの駐車場で俺とテスは押し問答の最中だ…
テスは車のシートから半落ちした俺の顔を覗き込む…

「ね…もしかして…ぷひひ…うそ…苦手なわけ?ちぇみ…」
「ぅぐぐ…」
「特殊部隊にいたのに?」
「ぁぅ…」
「いっぱい怖いことしたじゃんか…」
「ぅ…せ…ぅ…ん…」
「戦闘機も乗ってたじゃんか…」
「ぉぅ…」
「それでも駄目なんだ…」
「せ…戦闘機は自分で好きなように操縦できる#」
「ぅん…まぁね…」
「それに…」
「何…」
「あの手の乗り物はオトコの機能によろしくない…」
「えっ…そうなの?」
「ん…」
「またぁー…乗りたくないからさぁ…んなこと言うんだ#」
「ち…違う#戦闘機の時はそれなりのカバーをするだろ#」
「ふ〜ん…そう言われればそっか…」
「だろ?だから#乗らん#」
「かえってちょうどいいかも…」
「…!?」
「ちぇみはちょっと弱くなった方が…えっへっへ〜」
「おいっ!…」

テスは運転席から降りて助手席の俺をずるずると車から引きずり下ろした…
ぐいぐいと両手で俺を引っぱっていく…

「か…勘弁してくれ#」
「乗れば楽しいって#あっはっはぁ〜」
「なぁ〜ほれ…あっちのフォーシーズンズガーデンの方に行こう#」
「嫌#あそこは嫌い#…」
「…?」
「あそこのローズガーデンは…ミンチョルさんが…」
「あ…ぁ…そっか…すまん…」
「いいよ別に…行くよ#ちぇみ#」
「ぁ…ぉ〜〜ん…>o<…」

というわけで…俺は…真っ赤なRolling X- trainに乗せられた…
平日の夕方で乗ってる人間はまばらだ…
テスと俺は一番後ろに座った…係員は奇妙なカップルの俺たちを不思議そうに見た…
当然だろう…タレ目のテスと顔のデカイ怖そうなおやじの俺だ…

「最初は一番後ろね#」
「へっ?@_@…ぃ…1回だけじゃのか?…」
「何言ってんのさぁー…せっかく来たのにぃー…」
「ぁ…ぁふ…」
「後ろ2回… 前2回#いい?」
「くそっ…どうとでもしろっ…」
「えへへ…」
「…@_@」
「目瞑るとかえって気持ち悪いよ…ちぇみ…」
「うそつけ…」
「ん?ほんとだってば#」
「そ…そっ…ん…」
「ぁ…動いた…ひゃほぉー^o^〜〜」

テスはすでにバーから手を離し両手をあげている…
俺は前のバーをがっちり握っていた…

カチャ…カチャ…っとX- trainは動きはじめ一直線に進みスピードを上げる…
スピードが上がったところでゴォーと一気に下降した…

『うっぷ…』

下降した途端俺は吐きそうになった…
吐きそうなのを飲み込んだら…天地がひっくり返った…ぐるりん@…ぐるりん@と2回転…
ぐらぐらと目眩がして…俺の”俺様”が一気に縮んだ…

『んぐっ…』

俺は思わず片手で俺様を押さえた…

2回転の後はで右左に螺旋状に揺さぶられる…もの凄いスピードで揺さぶられる…
螺旋の左右の揺さぶりは下降よりも効く…

『ぐえっ…』

吐き気頂点…
最後にぐるりんの一歩手前の傾斜の揺さぶりを終えてX- trainは止まった…
テスは心配そうに俺を覗き込む…

「……(-_-)」
「平気?ちぇみ…」
「……平気じゃない#…」
「ごめんね…僕…わがまま言っちゃって…」
「ぅ…ぅん…^^;;」

テスは後2回…前2回と言ったが俺は1回で勘弁してくれると思った…甘かった…

「ちぇみ#次!一番前#」
「おいっ!」

テスは…はうはうの俺を引っぱって続けざまに乗り込んだ…
俺がへろへろになったのは言うまでもない…

芝生の上でテスと寝っ転がった…
テスはぽちゃぽちゃの手で俺のぽっぺたを撫でた…で…俺の俺様にちょいと触れた…

「ね…」
「何だ…」
「大丈夫だよね…ここ…」
「わからん#」
「てへへ…」
「ったぐ…」
「鍛えてるから大丈夫だよね#」
「ん…」
「^_^…」

「帰るぞ…」
「ぅん#…ぁ…テソンさんに電話しなくちゃ#」
「ん…」

テスはテソンに連絡を入れ…俺たちの乗る車は…4人の新居へ向かった…


指名  れいんさん

今日からBHCは通常営業
僕は昨夜からお泊りしていたスヒョクと一緒に出勤した
チーフにも、そのうち僕の熱意が伝わり、メンバーの一員として認めてもらえるかもしれない

店に着くとちらほらと客が入っていた
着替えを済ませ、控え室にいると、ウシクさんがスヒョクを呼びに来た

「スヒョクさん、ご指名ですよ」
「え?僕?…珍しいな、こんな早い時間に指名だなんて…」

どこのどいつだ!
僕のスヒョクを指名した女は!

「あ、スヒョクさん、ご指名は女性ではなくて男性のお客様です」

男だと?
ますますもって許せん!
ちょっと心配だから僕もヘルプにつこう

控え室を出たスヒョクはぴったりと後をついて行ってた僕の方を振り返り言った

「なんでソクさんまで来るんですか?」
「だって…心配だからさ。男の客だっていうしさ」
「もう!ここはホ○トクラブなんだからついて来られちゃ仕事にならないでしょ」
「ん…じゃあさ、仕事を早く覚える為のヘルプって事で…」
「…しょうがないなあ…じゃあ余計な事しちゃダメですよ。それからセツブンショー以来、様子が変になっちゃったけどそれ以前のソクさんみたいに渋くお願いしますよ」
「うんうん!渋めねっ!了解っ!」

そしてスヒョクと僕はBOX席についた

「あ!ガンホ兄貴じゃないすか!それにウジンやソンシクまで!」
「よお、スヒョク、元気だったか?」
「はい、元気です。ウジン!ソンシク!おまえら生きていたのか?俺はてっきりあの時…あんな事になって俺と兄貴は大変だったんだぞ」
「へへっ、すみません。ご心配かけて。でも、この通り、なりゆき上元気です」
「そうか…よかった…。で、今日はまた何でここに?」
「うん、いや、なに、おまえの仕事ぶりを見たくてな。それにウジンやソンシクをおまえに会わせたくてさ」
「そう…ほんと驚いちゃったよ。でも、ありがとう」
「…ところで、スヒョク、こちらの方は?」
「え?ああ…この人は、まあ一応…ヘルプのソクさん」

ダークスーツに身を包み、ダンヒルのライターで煙草に火を点け
脚を組んだまま、けだるそうにソファにもたれながら煙草の煙をくゆらせていた僕は
軽く彼らに会釈した

スヒョク、どうだ?
僕、渋くていい感じ?

「そうですか…いつも弟分のスヒョクが世話になっています。こいつ、ちょっとそそっかしい処があるから、一つよろしく頼みます」
「…こちらこそ、僕のスヒョクが昔いろいろお世話になったみたいで。当初スヒョクは随分屈折していましたが、僕の愛の力で今は元気にやっています」
「けほんこほん!…ソクさん!」
「それから、お客様、何やら親しげにスヒョクに肩など組まれましては少々困りますね。うちの大事なホ○トなんでね」
「ちょっと!ソクさん!」
「あの…スヒョク、おまえ…こちらの方とどんな関係…?」
「ど、どんなって…」
「ええ、スヒョクと僕はとても親しい間柄で…体の関係はまだちょっとしかないんですが、まあ、それはおいおい…」
「ソクさん!ちょっとこっちに来て!」

スヒョクは彼らに「ちょと失礼」と一言声をかけ、僕を引っ張りながら席を立った
僕は席から少し離れた場所に連れて行かれ、スヒョクにまた叱られた

「もう!ソクさん!なんであんな事言うのさ!兄貴と俺は死ぬか生きるかの戦場で戦っていた、国は違うけどある意味同士なんだよ
ソクさんとの関係をあんなにペラペラ喋ったら、兄貴達びっくりするだろ?」
「だってさあ…あいつやたらとスヒョクになれなれしいんだもん」
「それは、昔からの知り合いで兄貴分だから…」
「スヒョク、まさかあいつと何かあったのか?」
「ないよっ!何もあるわけないだろっ!」
「あいつ、顔も体もデカイから…きっともの凄い物持ってるかも…」
「ソクさんっ!いい加減にして下さい!もうヘルプ頼みませんよっ」
「スヒョク〜!そんな事言うなよ〜」
「じゃあ、ちゃんと真面目にやる?」
「うん!真面目にやるからさ…僕がやきもち焼かないように、僕を好きだって証拠を見せてくれよ」
「証拠って…」
「ん?『愛してる』のちゅう」
「もう、ソクさんった…ん…んん」

僕は柱の陰に素早くスヒョクを引っ張り込み、スヒョクの唇にキスした
いつもの様に少しだけ抵抗してみせたスヒョクも
これまたいつもの様にだんだんと感じ始めて僕の唇に反応している
スヒョクもこれ…結構楽しんでる…?
可愛くて少しヤらしい僕のスヒョク…

慌しく愛の確認をした僕達は、何もなかった様に元の席に戻った
しかし、僕は、兄貴とやらの隣に座ろうとしたスヒョクを制し、二人の間にすかさず割り込んで座った
そうして暑苦しく三人の男がぴったりと、密着して座るという奇妙な格好になった
場に微妙な空気が流れたが、そんな事は知った事じゃない

そんな空気の中、ひとしきり昔話を楽しんだ兄貴御一行は「そろそろ帰ろうか」そう言って席を立った
スヒョクに見送られ、フロア付近まで歩いていた兄貴が踵を返して僕の所に戻ってきた

「弟分をよろしく頼むな。どうやら、あいつ、あんたにぞっこんらしい」

その兄貴は僕の肩をポンと叩いてそう言った

ふん…顔はデカイけど、いい奴じゃん…
僕はあからさまに表情を崩さない様に、口の端に少しだけ笑みを浮かべ
軽く二・三度頷いた


【100♪「他人の関係」 by テジュン&ラブ】ロージーさん

【101♪「うしろ姿」 by テジュン】ロージーさん

【102♪「おまえのブルース」 by ギョンジン】ロージーさん


多忙な日の終わり  足バンさん

営業が終ったあと
僕とイナさんはスヒョンに連れられて「オールイン」に行った
出がけにホンピョとドンヒも取っ捕まえてきた

「スヒョン〜俺もうくたくただよぉ〜」
「スヒョンさん〜まだ帰れないんっすか?」
「残業ということでしょうか?」
「つべこべ言わずいらっしゃい」

ドアを開けて驚いた…店内改装中なんだもん
テジュンさん、ヨンテさん、サングさんがあちこち手直ししたり
チョングさん、シボンさんが壁塗ったり
スングクさんやサンドゥ親分が照明付け替えたりしてる
チュニルさんが指揮をとってるみたい

「おおおっ!イナっ!待ってたぞ!」
「スヒョンさんもドンジュン君も新人君もどーもどーも!」
「なんだこりゃ…今日は通常営業だったろ?」
「営業はしたよ。これは会長の業務命令なんだ」
「業者いれろよ」
「最近閑古鳥だったから自分たちでやれってさ」
「ったくケチくせぇなぁ」
「何言ってんだよ!おまえがBHCに行ったきりだからだぞ」
「チョンウォンのアホはどうしたんだよ」
「リエさんとデートだって」
「あんのドラ息子!」
「いいんだよ!いるとうるさいから」
「イナ、いいからおまえも手伝え、ほれこれ運んでくれ」
「っったくよぉ!」

「スヒョン…僕たちは?」
「俺たちも手伝うんすか?」
「ここに来て笑って座ってるわけにいかないでしょ」

うえぇ…やっぱそうだよな…

僕とホンピョとドンヒは指図されるまま色々手伝わされた
改装っていうより大掃除に近いんじゃないの?
ホンピョは文句言ってたけど、チュニルさんがチラリと見る度にお口を閉じた
僕は電気関係に詳しいよねとかいわれて配線をやらされた
スヒョンは新しいグラスなんかを磨いてる…やっぱ一番ラクしてるし…

でもさ…よく見るとイナさんがよく笑ってるんだ
久々に昔の仲間と大騒ぎしてるって感じなんだよね
僕にはわからない話で盛り上がって
チョングさんなんかと”イヒヒ”とか怪しげに目配せしたり
誰かにドつかれたりしてさ
顔にペンキつけて…ふふ…楽しそうじゃん

スヒョンはそんなイナさんを温かい目で見守ってる
…かと思えば
スングクさんにシェイカーの振り方習ってるし!
まったくあのひとはっ!

ずいぶん作業が進んだところで本日の作業終了となった
けっこう遅い時間だった
みんなに夜食とお酒が振る舞われて
あとはちょっとした宴会になっちゃったんだけどね

イナさんはもう10年ぶりの同窓会ってノリで騒いでた
かなり飲んでたからかなり酔うんじゃないかと思ったんだけど…

やっぱ…かなり立派な酔っぱらいができ上がった

僕とスヒョンはグデグデのイナさんを抱えてスヒョンんちに帰った
今日もそのまま寮に戻ろうとしたら

「ドンジュン…イナを風呂にいれてやってよ」
「ええっ?やだよ!」
「そうか…じゃ僕が裸になっていれてやるか…」
「なんで裸になるのよ!」
「だって服濡れるじゃない」
「服なんて…ああ!もう!いいよいれるよ!」

結局僕はシャツとスラックスをがっしりまくり上げて
「ろんじゅん〜さんきゅ〜きもひい〜よ〜ん」
とか言ってるイナさんを風呂に突っ込んだ
頭からシャワーをかけてゴシゴシ洗ってやった

バスローブを羽織らせたイナさんをスヒョンに押しつけて帰ろうとしたら
イナさんがいきなりスヒョンに抱きついて
「きょおはホントあいあと〜すひょん〜あ〜ひろいむね〜」
だって。この酔っぱらい!
僕は急いでスヒョンから引き離してベッドに引きずって行った

「もう世話のやけるひとなんだから!」
「まったくだ」
「スヒョンもだよっ!」

ソファにどっかり座ってだらけてると
スヒョンが「ご苦労さま」と言って冷えた白ワインをコップに入れて持ってきた

「ね…」
「ん?」
「テジュンさん…帰ってくるかな…」
「明日のコンサートに来るよう言ってあるらしい」

僕とスヒョンはソファでコップワインを弄びながら
ベッドで大の字になって寝ているイナさんを見た

突然イナさんが「やだっ!」と言って大きく寝返りをうった

スヒョンが様子を見に行くと
イナさんはまたそのまま寝息をたてはじめた

疲れきって子供みたいに寝ているイナさん…
スヒョンはベッドの淵に腰掛けイナさんの髪を撫でてやる

「おまえ…今日がんばったよな…」

ぽつりと言ったその言葉に僕の涙腺はまた緩む

「明日イナをコーディネイトしてやろうかな」
「え?」
「イナを最高にかっこよくしてやろうかな」

僕は涙を拭ってうんうんとただ頷いた
横に座ったスヒョンが肩を抱き寄せデコにキスしてくれる

いつもハラハラさせられてばかりだけど
こんなスヒョンが僕はやっぱり好き…


引っ越し祝い オリーさん

僕は何となくむしゃくしゃしていた
ドンジュンさんとあれを見てから
ドンジュンさんもたぶん同じ
何気なくスヒョンさんが彼の肩に回した手
別にいいけど、大したことじゃないから
でも当然面白くない
その前にもちょっとあったし…

僕たちは店がはねてから兄さんと3人でマンションに帰ってきた
僕は必要以上に口をきかなかった
彼も口数が少なかった
店で冷たく見下す目をやったからか
それとも僕と口争いをしたのが尾を引いてるのか
たぶん、後者
だって我儘だもの、この人
突っかかられてニコニコしてるようなタイプじゃないから
でも僕だって面白くない…

兄さんは初めて店に出て結構お客がついたので上機嫌だった
そういえば僕も初めてだったんだ
ちょっと祭に出たせいか、あまり違和感はなかったな
兄さんが一人だけ話をして盛り上がっていた
「饒舌なのはいいけど、気持ちの整理はついたんでしょうね」
「う…せっかく初出勤で盛り上がってるのに変な事言うな」
「変な事じゃなくて、大事な事でしょ」
「こいつ、やけに冷たいとこあるでしょ、ね、ミンチョルさん?」
「そうね」
「僕のどこが冷たいの?」
「ほら、そうやって突っかかってさ。ね、ミンチョルさん?」
「そうね」
「僕ばっかり悪者にしないでよ。兄さんだって意地悪じゃないか」
「僕のどこが意地悪だよ、ね、ミンチョルさん?」
「そうね」
「そうねそうねって、さっきからそうねばっかりじゃないですか」
「そうね」
話はそこで途切れた

フロントでトンプソンさんが僕らに笑顔で挨拶してくれた
「3人とも大変仲がおよろしいご様子で」
彼はちょっと眉毛をぴくりとさせてトンプソンさんに微笑んだ
「そうねって言わないの?」
ちょっと絡んでやった
でも無言
トンプソンさんはそれ以上話しかけなかった

部屋に戻ると、兄さんが突然よどんだ雰囲気になった
「明日、ラブたち帰ってくるかな」
「みんな結構メール入れてたみたいだし、大丈夫だよ」
「僕もメールしようかな」
「したいならすれば」
「お前はやっぱり冷たい」
「僕も一応ラブ君にはメールしといたよ。大した役には立たないと思うけど」
「お前はやっぱり優しい」
「どっちよっ!」

彼は僕たちの話を聞かないように、ソファで新聞なんか読んでるふりしてる
でもって新聞から目を離さずに兄さんに言った
「オーナーが全員出席しないとソクさんを採用しないって条件出したでしょう
だから大丈夫ですよ。テジュンさんは信用できる人ですから」
「でも、最近キャラ変わったんでしょ、あの人」
「あなたも変わったでしょ」
「あっ…」
話はまたそこで途切れた

僕は二人を置いてドレッシングルームに着替えに行った
クローゼットの一番下に例の物が入っている
ああ、どうしよう
この雰囲気でこれはちょっとまずい
今朝の仮縫いでも兄さん結構ぶっ飛んでたし
彼は慣れてきたみたいだけど、機嫌悪いし
でも引越し祝だからあまり遅くなるとな…
僕は三つの箱を眺めてため息をついた

「ギョンビン、風呂に入っていいか」
「うわっ!」
「何驚いてるの?」
「べ、別に。着替えてる時に入ってこないでよ」
「何、女子高生みたいなこと言ってんだ。着替え終わってるじゃないか」
「急に話しかけられるとびっくりするから」
「スキが増えたな、ミン・ギョンビン」
「お互いさまでしょ」
「それよりミンチョルさん何で機嫌悪いの?お前ら喧嘩でもしたの?」
「何言ってるの、アナスターシャのことペラペラと。少しは考えてよ」
「だってすごく似てたろ。ついムラムラ…いや…」
「やっぱり」
「何でもないっ。先に風呂入るぞ。わぁーい、ジャグジーだ」

兄さんはとっととバスルームに消えた
でもってバスルームに入ってからはとても静かだ
やれやれ、浮き沈みが激しい

リヴィングに戻ると彼は今度は経済誌を読んでいた
何でホストがフォーチュン?
ま、どうでもいいけど
僕はバーカウンターで昨日のワインの残りを飲んだ
彼にも、と思ったけど、知らんふりして一人で飲んだ
こういう時、広い家はいい
でもって僕のジャケットのポケットにはすんごい箱が三つ

「僕にもワインをくれないか」
突然彼の声がした
「いるの?」
「いるよ」
「あ、そう」
自分で飲めば、と言いかけたけどやめた
ジャケットのポケットが重かったから
ええい!引っ越し祝いに何の文句がある!
僕は腹をくくった

ワインのボトルとグラスを持って彼のところへ行った
彼はグラスだけ受け取ると、僕が注ぐのを待ってる
もうっ!
でもポケットが重い
僕はワインを注いでやった
注ぎ終わると、また雑誌に目を落とした

「ねえ」
彼がゆっくりと顔を上げる
「何か?」
「これ。引っ越し祝いだって。僕と色違いのお揃いらしいよ。あの…」
彼の目がきらりと光ったような気がした


奇妙な関係 ヨンナムの家 2 ぴかろん

ヨンナムが下へ降りて行って暫くすると、ラブが上がってきた
うわっうわあっという声がする
きっとギシギシ階段に驚いているんだろう

「テジュン…どこ?」
「真ん中の部屋」
「顔出してよ」
「真ん中の部屋だ!手が離せないからドア開けて」
「…けち…」

ギシギシ
廊下が鳴る
ギイイ
ドアが開いてラブが部屋に入ってくる

「あ!…」

いただきます
はむはむはむ…
おかわり…
はむはむあむあむ…
もう一杯…あむあ…べちん☆

「…ばか…」

ラブが赤くなっている
僕はへへっと笑ってラブから離れ、洋服をタンスに詰め始めた
僕の背中にしがみつくラブ
ぎしっ…

「しいいっ静かにしないと…下に響くからね…んっちゅううう」
「…」

ああまたやっちゃった…
ここに来るとこれ…ついやっちゃうんだよなぁ…相手ラブだし…余計我慢できない…
この薄暗い空間が妖しくってさぁ…

伯父さんの目と耳を盗んで、あの頃どうやってヤったんだっけ…んーっと…軋みの少ないとこを捜して

ベチ☆

「なに!」
「すっげぇすけべな顔してた!」
「してねぇよ!」
「してた!いい?えっちはもうしない!」
「…」
「…それよりさ…」
「…なにさ…」
「怖いよ俺…」

会うことがか?…それは

「僕だって怖いよ」
「この荷物片付けたら会場に向かわなきゃね…」
「…ああ…」
「…どんな顔して会えばいい?」
「…このまんまだ…」
「…」
「取り繕ったって仕方ない。僕達はあいつらのとこに戻りたくて戻ってきたんだ。そう伝えればいい」
「…俺達の事は?」
「…伝える…。僕はその上でイナに判断してもらおうと思う。お前は?」
「俺もそのつもり。でも…うまく言えるかな。ちゃんと自分の気持ち、伝えられるかな…」
「…なあラブ。僕達どうしてこうなっちゃったんだっけ?…お互いの相手にきちんと向き合うためだったよな?」
「…」
「だから…言わなきゃ…」
「解ってる…」
「怖いけど…」

ラブは素早く僕の唇に吸いついた
僕はよろけてしまって床に倒れこんだ
ラブの口付けが激しくなる
不安な気持ちがビンビン伝わる

ドンドンドンぎしぎしっ

「どうかしたかぁ?今大きな音がしたけどぉ」

いかん!ヨンナムが階段を駆け上がってきたっ!
僕達は大急ぎで部屋の隅と隅に離れた

バタン

「あれ?床が抜けたのかと思ったけど違ったね」

ヨンナムがにこっと笑う
そして僕を意味ありげに見つめる

「なんだよ…」
「ここんとこ」

ヨンナムが唇の端を指差して言った

「なんだか赤い…」
「えっ!」

僕は思わず唇を触った
同時にラブも唇を触っていた

ああ…
引っかかった…
ヨンナムがニヤリと笑う

「…あーあ…心配…」

そしてラブの方に視線を投げ

「君もコイツには気をつけたほうがいいよ」

と余計な事を言った
ラブは目をまん丸にしていた…くそっ…

ヨンナムが降りていってから僕達は無造作に荷物をタンスやら本棚やらに押し込んだ
二人とも黙っていた

「ね、テジュン…その格好で行くつもり?」
「ん?まずいか?」
「ちょっとあまりにもラフすぎるよ」
「お前はどうすんの?」
「俺の荷物、ホテルに置きっぱなしだったね…」
「ああ、オ支配人に頼んどいたから送ってくれてるとおもうよ、BHCに…」
「俺はこのまんまでいいでしょ」
「うん…。僕は…」

ラブは箪笥を開けてさっさっさっと服を見繕い、僕に押し当てた

「これぐらいでいいんじゃない?それとも…もっとおしゃれする?イナさんに会うんだし…」

僕は渡された服を見て感心した

「お前っていい奥さんになれそう」
「なんだよっ!」

プラダの細いストライプのカッターシャツに黒のスポーツスラックス、そしてノーブランドのライトグレーのジャケット

「見るなよ…」

いたずらっぽくそういう僕の、パーカーのジッパーを下ろしたのはラブだった…
ちょっとじゃれ合いながら着替えを済ませた

「似合うよ」
「お前の見立てだからね」

微笑み合って額をくっつける僕達…
コンサート会場に向かう時間が迫ってくる


La mia casa_2   妄想省家政婦mayoさん

僕は闇夜を閉店30分程前に先に帰した…
もしちぇみテスが早めに着いて..初めて帰る新居に明かりがないと寂しいと思ったからだ..
僕は閉店と同時に自宅へ帰った..
僕が帰ると家には風が入り…テーブルのセッティングがすでに整っていた…
ちょうど闇夜はキッチンでフンギ(きのこ)のペーストを作り終えたところだった..

「アスパラ用だね?」
「ぅん…カルボナーラソースじゃ重いかなと思って…」
「時間もちょっとが遅いしね…」
「ぅん…仕上げはお願い…」
「OK…」

僕が帰ってまもなくちぇみテスがご帰還した…

俺とテスは明かりのついた新居に着いた..

「「おかえり…」」
「「ただいま…」」

テスはテソンと闇夜のほほをぽちゃぽちゃで交互に撫でる..
俺はテソンの肩をポンと軽く叩き闇夜の頭をくちゃっとした..
テソンと闇夜の足下に一匹の猫がいた..

「mayoシ…はるみちゃん?」
「ぅん…」
「可愛いね..ちぇみ..」
「ん…」

はるみはチマチョゴリを着せられて行儀良く前足を揃え..俺とテスを見上げている..
テソンが俺等に韓式の挨拶の仕草をした…ぉ…そういうことか…

「テス…これだ..これ…」
「ぁ…そっか…」

俺とテスは頭の脇に手を持ってきてそのまま屈み..礼をして..立ち上がる…
はるみは上→下→上と顔を動かした..テスが抱き上げるとほほにすりすりしみゃぁ〜っと鳴いた..
振り返って俺の顔をじぃぃ〜っと見てる..俺もじぃぃ〜っと見た..
みゃぁ〜っと鳴いたのでテスの手から抱き上げ...はるみのチョゴリをちょっとめくった…

「ちぇみぃー…何してんのさ…」
「ん…雌かどうか確かめた…」
「「「もぉーっ#…ったぐ#…やらしい#」」」
「はるみぃ…怒られちゃったぜ…^^;;」…はるみは前足で俺の頭をぱこんっ#と叩いた…

はるみを闇夜に戻し俺等は荷物を置きに一旦部屋へ入った..

「お…」
「うわっ…」

俺等の部屋もフローリングのワンルームだ..
ドアの正面に大理石天板とアイアン製のコンソールを備え..
天板の上にアップライトの小さなスタンドを置き..アイアンの足の下には小鉢のグリーンが3鉢..
コンソール上部には両端に飾りの付いたアイアンバーが備えてある…
バーにはあんどれショーで俺等が着た衣装のベルトが2本..ランダムに掛けてあった…

「ちぇみ…これ…僕たちが着たやつだ…」
「ん…ここに使ったのか..」(ふっ…闇夜め#…)

クイーンサイズのベットはarflex-A・BED…細い水牛革を編み込んだ構造になっている..
色はライトブラウン..リネン類は薄いベージュだ…ホテルの様にベットメイキングしてある…
ベットの足下にはジュート(麻)のラグが敷いてあった..

「デカイ〜@@…」
「ん…いくら暴れてもいいな..」
「えへへ…」

ベットの側には天井から大判のタイシルクのタペストリーを下げてスクリーン代わりにして
タペストリーの下部両端にはおもりを付け…ふわふわと揺れないようにまでしている…

照明はすべてアップライトか間接照明だった…
大鉢のパキラの下部から照明を当て天井にそれが影となって映る..

クローゼットは壁に埋め込んだようだ..扉の色はベットの水牛革と同じだ…
一方の壁には一枚板を付けデスク代わりにし..板の色もベットと同じだった…

デスクの上には旅行の前に闇夜にメンテナンスを頼んでいた俺のノートPCが置いてある…
俺は立ったままPCを開きパスワードを入力した
PCは立ち上がり何個かのフォルダとアイコンがデスクトップに表示される…
2種あるメールソフトの内の1つをクリックする…ログインのパスワードは2つ…

『2つか…厳重だな…当然か…パスワードは…何だ…』

俺は入力せずにソフトを閉じ…PCをスリープ状態にして閉じた…

闇夜が廊下から俺等を呼んだ…バスルームを覗いていたテスを呼んでリビングへ戻った…


ホンピョとドンヒの夜  ぴかろん

昨日の晩はえらいことだった
『オールイン』の改装の手伝いをさせられた
いやなに、俺はこういう体を使った作業は慣れている
でもよ、せっかくのスーツがよ…
スーツが汚れるのがイヤでよ…文句たれてたらチュングル…チュニルク…チュングク…とにかくその兄貴がよ、鋭い眼光で睨んできたからよ、上着だけ脱いで作業したよ

終わってから宴会だった
イナさんがベロンベロンに酔って、またスヒョンとドンジュンさんといっしょに…あ、スヒョン「さん」とドンジュンさんといっしょにお帰りにおなりにあそばした

ああっ舌噛みそうっ!きいっ!

んで俺はドンヒがうるさいからドンヒと肩を組んでやって、寮に帰ってきて、んで、んで、ドンヒがうるさいから、またドンヒの部屋に行って
んで、んで、ドンヒがうるさいから、スーツ脱いでハンガーにかけて、んでんでんで、ドンヒがうるさいから、フロに入ってお湯かぶって
出ようとしたら服きたままのドンヒが入ってきてよ・・俺、襲われるかと思ったぜ!

「どーせ石鹸使ってないだろ!ついでだ!頭の洗ってやる!」

っつってよ、ドンヒがうるさいからよ、仕方なく洗ってもらった

もちろん「大事なトコ」は死守したさ!
ドンヒの野郎、俺様のワイルドでキュートな魅力にちっとばかし惹かれてるらしいかんな…
だってよぉ、おとといの夜だってよぉ、子守歌歌って背中トントンしてくれとだけ言ったのによぉ…
結果的に、俺の背中にすがり付いて寝てやがったんだよぉ(T_T)

こええよぉぉ
俺、いつかコイツに襲われるよぉぉ…

でもよ、昨日の夜もよ、ドンヒがうるさいからよ、フロ入ったあと、ドンヒが用意しといてくれたぱんつとしゃつ着てよ、ドンヒがうるさいからよぉっ仕方なくよぉっ
…おとといから俺の枕も置いてあるしよおっ…ほんっと仕方なくよぉっ…
ドンヒのベッドでドンヒの横で寝てやったんでいっ!
俺様の身の回りのことを色々とやってくれてるんでな、俺様としても何かしてやりたいと思ってよぉ

「腕枕してやる」

っつったんだけどな、じいいっと俺様の顔を見てな

「いい!」

っつって向こう向いたんだ
遠慮か?
ま、俺様の下僕だからよ、俺様の腕枕なんざ百年早いと思ったんだろう

「ういやつじゃ」

んでドンヒの野郎が「どーしてもさせてください」っていうんでよ、おとといの晩と同じように、子守歌聞いてやってよ、(なかなかうめぇんだ。声がな、低くてよ。いいんだよ…)
んで、俺様の背中をトントンすることを許してやったんだよ
俺様はいつの間にか寝たみたいだ
で、朝起きたらまた背中からドンヒの野郎が俺様に抱きついててよ…

まいったなぁ…
いつか襲われるな…


まったくホンピョの奴、また昨日も僕の部屋にやってきた!
意味ないじゃん、一人ずつの部屋の!
またゆっくり眠れなかった!
その上、あの野郎、僕の部屋のシャワーを使ったんだ!
絶対石鹸使ってないと思って服着たまま、洗いに行ってやった

え?面倒見がいいって?
ふんっ
仕方ないでしょう?!
どーせまた僕のベッドにもぐりこむつもりだったらしいからさ、僕のベッドが汚れるの、イヤじゃん?!
ふんっ!

それに、こいつせっかくキレイになったのにさ
ここで「体は毎日石鹸を使って洗うと清潔でいい匂いで人から好かれます」ってことを徹底的に教え込まなきゃさ!ふんっ!

ま、ジュンホさんが垢を五枚剥いてくれた効果が持続していて、簡単に泡が立ったから、洗うのも簡単だった

それにしても…
あいつ、大事なトコは自分で洗うって言ってたけど
…もちろん僕だってソコは洗う気ないけど…
ちゃんと洗ったかどうか、非常に心配だ…

んで、僕は奴の下着を用意し…(イトーヨーカドーであいつ用に買ってきた。もちろん月末にまとめてあいつに請求するさ!ふんっ!…買い物してたらジュンホさん一家を見かけた。それと『赤い女』も…
僕、おととい『赤い女』たちのことを警察に通報したから、見つかるとまた『地獄の果てまで走らなきゃ』なんないと思って、素早く隠れたけどね…)
そして奴と入れ替わりにフロに入った

フロから出ると…やっぱり奴は僕のベッドでゴロゴロしていた…

部屋に帰れよ…

そう言ってやるとパッと起き上がり、急に涙目になって、自分の枕をしっかり抱きしめて

「しゃびしくないのか?!俺様がいなくなったらしゃびしいだろ?ん?」

とか言い出した

「べっつに〜。僕は一人でゆっくりと、手足を伸ばして眠りたいんだけどな」

と言うとものすごーく僕を睨んで、枕と一緒にまたベッドにねっころがり、大の字になってぎゃーぎゃー喚いた
子供だよ…ほんとに…

「るせーな。喚くなら出てけよ!」
「つめてぇっ!お前、つめてぇっ!」
「…お前、甘えたいの?」
「…」
「人恋しいの?」
「…」

ずーっと僕を睨んでる
じーっと見てたら…奴の目がうるっとなって…一粒涙がこぼれたんだよひいっ!
ちょっと見とれちゃった…

「お前…今の…『ウリ』になるぞ!」
「ぐしっへっ?」
「じいいっと人を睨みつけるように見つめて、ぽろっと涙こぼすの…。イヌ先生ほどじゃないけど、ちっと鳥肌が立った」
「ぐしっ…へへっそうか?俺様、研究したんら!ぐしっ」

嘘をつけ!

「らから一緒に寝ていいらろ?ぐしっ」
「あーもー、今夜限りにしてくれよな!」
「わあいわあい。子守歌歌ってくれ!」

全く、今泣いたカラスがもう目をキラキラさせてやがる…
ちょっと…かわいいかも…

仕方ないのでまたおとといのように歌を歌い、背中をトントンし、そのうち僕らは寝てしまい
朝起きたらやっぱり後ろからホンピョを抱きしめるようにして寝ていたってわけだ…はふっ…

起きたとき、僕は寝ぼけてて、女の子を抱きしめているんだと勘違いして…その…

ホンピョの首筋に軽くキスしてしまった…きいっ!
幸い奴は気づかなかった
奴だとわかって素早く唇を拭い、起きだし、洗面所で念入りに口を漱いで、そして顔を洗ったさ!もちろんな!

アア…今夜こそ、ちゃんと一人でゆっくり眠りたいっああああっ
(リレー106)

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