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おばけを泣かす方法(座敷ワラシ) ぴかろん

全くよう、何で壁にガム擦っちゃいけねぇの?
アートだよアート!
わかんねぇのかよ!

まだ研修が始まらないのでまた店に戻ってきた俺は、奥のソファで暗〜く沈んでいる、キム・イナの新しい恋人(げーっ)をからかうことにした

「おめーよぉ、何持ってんの?」
「…あっ…」

俺はその暗いけどかっくいー兄ちゃんが持ってたCDを取り上げ、奴の顔を睨んでやった

…ん?
…んんん?あれっ?

「おめー、さっき俺の後ろ歩いてたよな?んで俺の腕を捻ったよな?!」
「僕はここから動いてない」
「…なにっ?!じ…じゃあ、俺の腕を捻ったのはだれだっていうんだよっ!妖怪かよッ!
…それにおめー、あのチーフって奴とあんな事したりこんな事したり、したりされたりあああって映画でやってたよなぁっ」
「僕は映画には出てない…」
「んげ?!」

俺はわけが解らなくなっていた
すると…怖ろしいことに…同じ顔の男が…近づいてきた
俺は背筋がぞーっとして、大声で叫んだ

「ぎゃああああっ同じ顔のオバケがあああっ」

二人は同時に俺を見た

「普通双子だとか思わない?」
「…おばけ扱いは初めてだな…」
「兄さん大丈夫?」
「…」
「兄さん?双子か?」
「違うよ」
「違う?!じゃあじゃあやっぱり…おばけーっぎゃあああっ」

叫んだ俺の口に『兄さん』と呼びかけたオバケがバナナを突っ込んだ
もぐもぐ…うまい…オバケのバナナはうまいな…
いや、そうじゃなくて

「モゴ…おばけりゃないなりゃなんなんらよ」
「兄弟」
「きょーらい?こいちゅにーたん?もごもご」
「そ」
「…あにきっ…ぐしっ…あにきいいい」

俺はハス兄貴をまた思い出したモグモグ

「…なんなのこの子」
「君、CD返してよ」
「いやらっ!みしぇろっ」
「…見せるぐらいいいけど…」

そのそっくり兄弟は同じ顔で並んで座ってて気持ち悪かった

俺はCDを見てみた

ほーるおーつ?
&…これは何だ…なんていう字だ…「と」か?
ぐねぐね書くな!
ほーるとおーつ…
ふんふん…
歌詞が書いてある
読んでみる

「口先で恋をおもちゃにするお前…みえすいたウソは自分を傷つけるだけのこと…逃げようったってそうはいかない…」
「…ちょっと吟遊詩人」
「『プライベート・アイズ』…意味わかんねぇ…」
「君、静かにしてくれないか?君が口ずさんだ詩で兄は今また沈み込んだ」
「おめーの言ってること、よくわかんねぇ…『キッス・オン・マイ・リスト』…君のキスが人生の最上品のリストに入っている…君のキスには逆らえない
明かりを消した時に僕が欲しくなるのが君のキス…あの夜は君の暇つぶしだったのかい?」
「…違うよっ!暇つぶしにキスなんかしないっ!」
「なんだよ元気なほうの兄ちゃん
」 「僕はミンだ」
「ミン…そっちの暗いのは?」
「ギョンジン」
「…ま、いいか、どっちでも」
「よくない!それに、歌詞カード読むのはいいけど、声を出さないでくれないか?!」
「学校で習わなかったか?『声を出して読む練習をしましょう』って」
「どうでもいいけどあっちでやってくれないかな…兄さん、大丈夫?」

「『アイ・キャント・ゴー・フオ・ザット』…俺の身体ばかりか魂まで欲しがるなんて、無理な相談だよ…お望み通りにしてやろう
二倍も優しくしてくれなんて、まだそんな事を言うのかい?」
「うぐっ」
「兄さん!」
「『マン・イーター』…用心しろよ、君を食らいつくしてしまうから…あいつは致命的、君の世界を引き裂いてしまう…表面は美しくても心には野獣が潜んでいるんだ」
「…ううっ僕のことだっ僕がラブを引き裂いたんだうううっ」
「兄さん!」
「『しーずごーん』…彼女は行ってしまった。彼女を取り戻すためなら、悪魔と取引もしよう。何がいけなかったのだろう
素敵なボディのねぇちゃんたちが思い出をかき消すのを手伝ってくれるけど、そんなの彼女のかわりにはならない…」
「ぐっうっううっ前半は僕の気持ちっ、後半はラブの気持ちだったらどうしようっテジュンさんとこうなってたらっううっ」
「…にい…さん…」
「『リッチガール』…雨の中、世間に置き去りにされて、苦痛が感じられないなら、他人を傷つけるのは簡単だ…」
「ううっううっ僕は今まで苦痛を感じてなかったあああ…」
「…はぁ〜」
「『ディド・イット・イン・ア・ミニット』…俺にはよくわからない、本物の恋とつかの間の恋の違いが…
俺だって恋はしたいさ、お前が証明してくれたじゃないか、あっという間にやってのけた、まるで一瞬のうちにね」
「…ラブ…ラブ…うううっお前は僕を一瞬で虜にしたんだぁぁぅぅぅ」
「…」
「『アウト・オブ・タッチ』…気づいてみれば、君に手が届かない。俺は御用済みなのかい?君がいないと気が狂いそうになる…」
「あああっもう用済みなのかああっうあああんうああん」
「…に…」

「『エブリタイム・ユー・ゴ・アウエイ』…君はどこかへ行ってしまうたびに、僕のかけらを持っていってしまう…好きにしろよ、自由になればいい
そんなに僕に寄り添わないでくれ、君のからだの動きを感じてしまう…」
「えっえっええっいやらっどこにも行かないれくれぇぇっえっえっ」
「…にーさーん…」
「『ふられた気持ち』」
「うおおおおんうおおおん」
「っせぇなぁ…『ふられた気持ち』…君のためなら跪いてもいい、それで君が昔みたいに僕を愛してくれるなら…どうかお願いだから…君の愛がなければ、僕は生きていけない
だからあの気持ちを取り戻しておくれ…」
「うああああんああんああんああああん」
「…にーさん…かっこ悪いよ…」
「うええんうええんお前はミンチョルさんと上手くいってるからいいよなあっええんええんおおおん」
「何があったのさ、ラブ君と…」
「うええんええん言えないえええん」

「もう一つ残ってたのにうるさくて読めねえ…なになに?

僕と二人で朝の光を待っている
僕が寒い時は、君が暖めてくれて
やっていけないと思う時には、君が来て抱きしめてくれる
微笑んでおくれ、サラ
僕のためにしばらく…
『サラ・スマイル』」

へーん、わけわかんねえ
なんで泣いてんの?あのカックイーにいちゃん…
キム・イナが浮気者だからか?

まあいい、一匹泣かした
すっきりした
どうして泣いたのかよくわかんねぇけど
俺の声に迫力があったんだろう
ふふんへへん

あーしっかし…研修って何すんだろ…早く始めてくれよう
スヒョンの隣に座るんだからよう!

【93♪REGRET】ロージーさん


ブラザーフッド オリーさん

「ねえ、何があったの?」
「とても言えない」
「あの歌の通りだよ」
「どの歌?」
「みんなだ、サラスマイルも、エブリタイム・ユー・ゴ・アウエイも、マン・イーターも、ディド・イット・イン・ア・ミニットみんなみんな歌のとおりだ」
兄さんはさめざめ泣きだした
「ラブ君に振られた?」
「もっと悪い。実は…」
泣きながら兄さんが事情を話した
僕はあまりの事にしばらく呆然とした
「それは…兄さん、何があっても釈明できないだろう」
「そうだ、僕が悪い」
「僕がラブ君なら殺してるな、もしくは愛想つかして逃げ出すかな」
「お前はいいよ、うまくいってるから」
「そういう言い方は心外だな。僕だって色々あったんだから」
「でも結果的にうまくいったんだろ」
「兄さん、考えてごらん。僕は何度自分の彼女だと思った子に兄さんの名前呼ばれたと思う?」
「…」
「因果応報じゃないか」
「やっぱりお前は冷たい」
「甘えないでよ。僕はその度、兄さんに負けないように死ぬ気で頑張った
愚痴を言うかわりに、いつか勝ってやるって」
「僕だって好きで盗ってたんじゃない。あの頃はお前を誰にも渡したくなかったから」
「ほら、それは兄さんの都合のいい理屈じゃないか。それより自分が人に何をしたか考えなよ」
「…」
「自分がラブ君に何をしたか、よく考えてごらん。泣いてばっかりじゃだめだろ」
「じゃあ、どうすればいいんだ」
「兄さんともあろう人が情けないこと言わないで。自分で考えなよ」
「今度ばかりはだめだ」
「ラブ君が好き?本当に好き?もしかしてイナさんの方が好きなんじゃないの?」
「ラブが大事に決まってるだろう」
「イナさんにはきちんと相手がいる、だからフリーのラブ君にした。そうじゃないって言い切れる?」
「確かにイナも好きだった。でも、でもあの時は、ほんとにラブを…」
「じゃあ、それでいいじゃない。後は待つだけだよ。どんな償いでもする覚悟でね」
「簡単に言うな」
「だって、そうだろう?ラブ君がもし許してくれるならどんな事でもしなくちゃね。許してもらえなくても、何も言えない立場なんだからさ」
「帰ってきてくれるかな…」
「帰ってきてもこなくても、兄さんは待つしかないんだ。腹をくくりなよ」
「お前は強いな」
「僕は強くなんかない。いつも不安だらけだよ」
「そうは見えないけどな」
「彼は器用そうに見えてそうじゃない。今は僕だけど、いつどこで誰とどうなるかわからない
彼自身わかってないんだ。浮気しようとしてする人じゃないからね。それがかえってやっかいだよ」
「そんな風には見えないけどな」
「誰かが彼の心の琴線に触れたらそれで最後、彼はどこかへ行ってしまうかもしれない。だから僕は毎日彼を見て彼を感じて…そうしないと不安だから」
「意外だな」
「でもそんな事してるうちに、彼の中に僕が根をおろして、そして少しづつ育ってる。そんな感じがしてきた」
「そんなに?」
「ここまで来るには結構大変だったよ、僕自身がね。わかる?」
「…」
「兄さんも少し血を流しなよ」
「物騒なこと言うな」
「僕はここまで来るのに随分血を流したよ。当たり前じゃないか。メソメソしてたって始らない」
「だって…」
「今の兄さんじゃチョロイ女だってひっかからないだろうね」
「イナと一緒にいるから余計滅入るのかもしれない。お前と一緒に寮に住もうかな」
「僕は彼と一緒にマンションに住んでるんだ。寮にはいないよ」
「お前だけ何でとんとん拍子なんだ」
「くどいな。僕だって今まで大変だったって言ったろう。自分だけ辛いなんて思わないでよ。僕、彼の首しめたこともあるんだ」
「え?」
「兄さんのとこへ返そうとして彼が僕を突き放した時、知らないうちに首しめてた。もう少しで殺すところだった」
「ギョンビン…」
「あの時ね、彼が最後にいい顔したんだ。殺されてもいいよ、って顔。僕はそれをみて正気に戻った。あの顔は忘れられない
だから何かある度に僕は思い出すことにしてる。わかった?僕だって色々苦労してるんだ」
「随分大人になったな。もう手が届かないよ…ぐすっ」
「またそうやって泣く。僕はただ、欲しいもの、大事なものを守ろうとしてるだけ」
「それがむずかしいものさ、お前は偉い」
「今度はほめ殺し?ねえ、シャッキリしなよ。いいね」
「なあ…」
「何?」
「僕、お前のマンションにおいてもらえない?落ち着いたら自分でマンション探すから」
「イナさんと一緒が辛いなら寮に移れば」
「そんなつれない事言うなよ。二人きりの兄弟じゃないか」
「やっと二人の生活を始められたのに、嫌だよ」
「見捨てる気なのか」
「人聞きの悪い事言わないでよ」
「なあ…」
「…」
「頼む…」
「ふう…後で彼に話しておくから、今夜から?」
「できればそうしてくれ」
「わかったよ。でもくれぐれも僕たちの邪魔はしないでね。約束してよ」
「わかってる。寝かせてもらうだけでいい。一人でじっくり考えてみるから」
「その言葉本当だね?」
「ああ、本当だ」
「絶対だよ。いいね」

兄さんは思いのほか弱っていた
一番端の部屋にしてもらおう…


新人研修  足バンさん

予定の時間までにメンバー全員が集まっていた
あ、ちがう…ラブがいない

あのホンピョとドンヒは今はおとなしい
テプンさんとチョンマンとシチュンに睨まれながら座ってる
イヌ先生とウシクさんは何やら穏やかに雑談して
遅めに到着したスハ先生は隅の方でテジンさんと何か話している
スヒョクさんはジュンホ君と笑いながら喋っている

ドアが開き黒っぽいスーツを着た人が入ってきた
ジュンホ君のシャドーの代役で出たあの人だ
今まで厨房にいたテソンさんが下りてきて握手をしている

僕はといえばギョンビンといろいろ喋りたかったんだけど
一番奥の席で兄貴と話してるみたいなんで離れていた
それにしてもあの2人の新人…やたらスヒョンスヒョンって…ふん

事務室の方からミンチョルさんとイナさんとスヒョンが出てきて
みんなはなんとなく中央付近の椅子に座り直した
さっきのシャドーの人がミンチョルさんのところに行って握手した
新人なのに最初から貫禄ある人だな

ミンチョルさんがまず挨拶して新人たちの名前と略歴を紹介した
ドンヒはドンヒはゲームプロデューサーだった
ホンピョはいろんな経歴の持ち主で外国帰りだって
ギョンビン、ギョンジンは”特殊な仕事”と説明された
ソヌさんっていう人はホテルのマネージャーだったらしい
あとジホさんっていう人は店のプロモにも関わっていくらしくって
特別待遇のため今日の研修には出ないらしい

メンバーの自己紹介がひと通り終わったところで
ドアが勢いよく開きソクさんが入ってきた
なんでスーツにでっかいボトル担いで大汗かいてるんだ?

「すっすみませっはぁひぃ!遅れてしまっはぁはぁ!研修まだ始まってませんっはぁかぁ?はぁ」
「ソクさん…まだですが…なんであなたが研修に出るんですか?」
「はひっ?ミンチョルさはぁはぁ…新人研修ですよひぃ?」

「ええ。あなたは外部契約スタッフとオーナーから聞いていますのでまた追ってご説明します」

ソクさんの顔は能面のようになりへなへなとその場に座り込んだ
律儀にボトルを持ったまま
スヒョンがスヒョクさんに目で合図すると
ソクさんのところに来てソファに連れていってあげた
ソクさんは微笑むスヒョクさんを拝むみたいに見上げて抱きついた
ふふ…あのキス魔のソクさんが…
ま、ちょっとそっとしとくかな

スヒョンが立ち上がり研修内容を説明した
簡単な説明のあと実地があり
そのあと個別に指導があって
夜は歓迎会らしい…また飲むのかな…ヤな予感…

「ホ○トに必要なのはとにかくお客様を気持ちよくさせること
 話術、知識、専門技術、特技、色気などすべて…言わば自分の人生そのものが活かされる」
「うちはそれぞれの個性がウリだ。自分の魅力を最大限に表現してほしい」
「そしてもうひとつ…ギョンジン…ちょっと来て」
「え?僕?」

スヒョンは真ん中のソファで横にギョンジンさんを座らせ客に見立てた
またなんかやらかさないといいけど…

「初めてのお客様の心をつかむ方法は簡単…その方の魅力を引き出す」
「お客の魅力?」
「そう…たとえば…そういえば君はえろみんだったね?」
「こんなとこで言わないでくださいよ」
「いや重要なことだエロティックは才能だよ」
「そうですか?」
「君が囁く時相手は気持ち良さそうになるだろ?」
「うん…」

みんなしーんとしてふたりの会話を聞いている
スヒョンはいつの間にかギョンジンさんの後ろのソファに手を回してる

「で、その時の相手の気持ちって考える?」
「え?」
「気持ちよくさせた相手の気持ちだよ」
「…」

ギョンジンさんはなぜか急に目が泳いで、ちらりとイナさんを見た

「君が親切にすればするほど相手はそれに応えようとする」
「…」
「そしてそれに君もまた応えようとする…快感っていうのは通じるってことだ」
「お互い応えてると思ってることに違いがあったら?」
「人と人の想いに違いがあるのは当然のことだ。初めから全く同じ想いなんてありはしない」
「…」
「その違いを少しづつ埋めていくんだ…それが愛情って仕事だろ?」

ギョンジンさんがなんだかうるうるしてる…
あれ?イヌ先生とかウシクさんとか…あれ?…みんなしんみり聞いてる…
どさくさにまぎれてスヒョンはギョンジンの肩を抱いた

「ギョンジン…君は変わろうとしてるんでしょ?」
「ああ…」
「変わろうとしてるってことはもう変わってるんだよ」
「うん…」
「君が傷つけたと思う過去があるなら、その傷を作ったことを後悔するんじゃなくて
 もう同じような傷を作らないようその傷口を触って思い出すことだ」

あ…スハ先生がテジンさんの横で泣いてる…
ギョンジンは何度も頷いて
変わりたい…変わるよ…必ず…
と小さな声でつぶやいた

「ね?こうやって引き出すんだよ」
「え?」
「みんなの前で変わりたいって素直に言える…そんな君の魅力が伝わったでしょ?」
「スヒョンさん…」

スヒョンはギョンジンの肩をそっと抱き彼の髪にキスをした。むーっ
店内になんとなくため息がこぼれた
そのままスヒョンは新人たちの顔を見て

「お客様の魅力を引き出すことは、お客様の安心感と快感を引き出す…いいね?」

ドンヒはまたえらく感じ入ってぱちぱちと手を叩いた
ホンピョは自分の頭を撫でながら???って顔をしてる
ギョンビンは兄貴の顔をじっと見てる
ソヌさんは腕を組んで静かにほほえんでいた

「ではこれから個人指導に入ります。店の詳しい情報や注意を含め質問して下さい」
「ギョンジン君にはイヌ先生
 ギョンビン君にはテプン君
 ドンヒ君にはテジンさん
 ホンピョ君には僕
 他のメンバーは適当にサブについて下さい
 ソヌ君は接客経験があるのでチーフに話を聞いて下さい」

「ええええ?スヒョンさんじゃないんですか?」
「やった!俺スヒョンさんっ?やったやった!ふん見たかドンヒ」
「君は問題児だから彼なんだよ!」
「ふんっなんとでも言え!いやっほーう」

あああああもう!うるさい!早く終らして帰りたいっ!
それにしてもスヒョンがあの野獣担当?
あーまったくあったまイタイっっ!


奇妙な関係 恋人の時間 8 ぴかろん

リビングのソファに並んで座る
僕はラブの肩に口付ける

「待ってよ…もう?」

ラブが怯えた目をして僕を見る

「ふ…怖がるほど僕って凄いの?」
「…」
「いくらなんでもいきなりそんな事しないよ…」
「…朝ごはんは?」
「11時にブランチ」

僕はラブの可愛い唇に軽くくちづけしながら答えた

「んっ…。ブランチ?」
「ん…ここで…」
「ここって…ルームサービス頼んだの?」
「ん」
「いつ?!」
「タバコ買いに行った時」
「じゃ、俺がウンって言う前にもうあ…」

僕はおしゃべりな唇を塞ぐ
ラブの心臓の鼓動が伝わってくる

「…部屋に篭るんだもん…」
「…本気?」
「そ」
「いやらしくない?」
「いやらしい」
「…いいの?俺とで。相手間違えてない?」

昨日だったかの僕のセリフだ…
僕は答えずに、笑ってもう一度ラブにキスをし、そのままソファに彼を押し倒した

開け放した窓からの風が気持ちいい
僕はシャツを脱いでラブを抱きしめる
ラブの肌が僕の肌に密着する

おととい、「違う」と言って、泣いていたラブが、今は僕に腕を回してぴたりとくっつく
僕はラブの肩に顔を埋めて、若くて柔らかいラブの肌に沈み込む
ラブは僕の頭を抱いて、僕の髪に口付けする
しばらくそのままでいた

「…ずっと攻め続けられるのかと思っちゃった…」
「だからそんな体力ないって言ってるだろ?」

心地よい朝の時間を、僕達はそうやってだらだらと過ごしていた

「昼間のジャグジーもいいかも!」

突然身体を起こしてラブが言った

「ジャグジー好きだなぁお前」
「だってさぁ…ここでしか入れないもん」
「入っておいでよ」
「…テジュンは?」
「一緒に入ったら…ただじゃすまないよ」
「…べ〜つに…覚悟はできてるよ…」

そう言い残してラブはテラスに出た
真昼間っから…外だろ?
…ここはそりゃ…外からは見られないだろうけど…
ちょっといくらなんでもなぁ…

「ねぇ〜昼間のジャグジーって最高だよ。こない?」

巧みに誘うな…
よっしゃ…行くか…

僕は服を脱いでジャグジーに入り、ラブを捕まえた
抱きしめてそのまま湯船に身を横たえた

「…」
「どうしたんだよ」
「覚悟してんのに」
「覚悟してるヤツ襲ったって面白くない」
「…ばかっ!」

離れようとするラブを引き戻し、僕はまたキスをする

何度でもキスしたい
ここから帰ったらもう君とこんな時間は過ごせない
過ごさない…

僕達はお湯の中で戯れて、そのまま一つになった


「ジャグジーの中では危険すぎるよ!」

膨れっ面でラブが言った
もうすぐ11時なのでラブは一足先に服を整えてルームサービスが来るのに備えている

「なんで服着るの?」
「すけべジジイ!裸で出られるかよっ!テジュンも服着なよっ!」
「着れない〜」
「なんでっ!」
「お前が凄すぎて〜」
「すけべジジイっ!」

くふ
真っ赤になってやんの…
けどやっぱり、錯覚じゃなくて…僕には本当に…凄かった…
ラブも溺れそうになってたから…満足できたんだろう…と思う…

ドアベルが鳴った
ラブがドアを開ける
ブランチと共に、花束がやって来た
ラブは驚いている
ボーイはジャグジーから手を振った僕に驚いていた
そしてラブの方を見る
ラブは知らん顔をしている

ボーイはワゴンを置くと静かに出て行った

「もう!絶対なんか変だと思ってるよ!あの人。俺はいいけどテジュン、知らないからねっ!」

いいんだもう
なんて思われたって
僕はほんとにすけべジジイなんだからさ…

「ふふ」

「美味しそうなブランチだよ。色んなパンがある…。うわ、これ、テス君の手みたいだ…
サラダも美味しそうだし…ねえテジュン、早く出てきてよ。おなかすいちゃったよぉ」
「色気ないなぁ、花見て何にも思わないの?」

僕はジャグジーから出てバスタオルを腰に巻いた

「…なんか服着ないの?」
「どうせまた脱ぐから…」
「すけべじじいっ!」
「もうボーイさん行っちゃったからお前も脱ぎなよ。暑いだろ?」
「暑くないっ!ちょっとさぁ、テジュン、俺のこと、すっごいスケベだと思ってない?俺は…普通だからねっ」
「ふつーじゃないよぉ」
「…鼻の下が伸びきってる!もう…」

僕は花束を持ってラブに差し出した

「…なに?」
「今日一日の僕の恋人へ」
「…キザ…」

ラブは花束を受け取って中を見た

「きれい…色んな花が入ってる…かわいい、スイトピーだ…。それにアルストロメリア…カスミソウ…マーガレット…あとは…わかんない…」
「優しいカラフルな花束にしてって頼んだの」
「なんで?」
「薔薇だと君のてのひらに傷がつくから」
「…」
「それと…色とりどりの方がキレイで楽しいでしょ?ジャグジー」
「…また入るの?」
「え?入んないの?!」
「…入るけど…あそこではもう…やんないよ…」
「わかった。終わった後に入ろう」
「ばか!」
「いや、やっぱ、やる前に入ろう」
「大ばか!」
「いっそのこと前後に入ろう」
「…テジュンもジャグジー好きなんじゃんか…」
「ジャグジーに入ってるお前が好きなの…花びらジャグジーのね…」

僕は花束を取って包みを開き、花瓶にそれを入れた
ラブはそれに水を入れ、チェストの上に飾った

「綺麗だね…テジュン、ありがとう」

素直ないい子だ…
可愛くて…

「たべよっおなかすいた!」

にっこり笑ってワゴンの上の食事をテーブルへと移している
僕はテーブルについて、運ばれた皿からつまみ食いをする
ラブが僕を睨みつける

こんな風にお互いの相手と過ごせるようになりたいね…


◇厨房−別宅_1◇  妄想省家政婦mayoさん 

テソンが店に出勤した..
とはいえ...テソンに研修など無用だよなぁ...まともに接客したことないし...
と...思いつつ..家政婦モードに入る...

ベットのシーツを外し..ピローカバーを外す..それと..バスローブ2着...
ドラム洗濯機に放り込みスイッチON....
テソンは自分の脱いだ物は網に入れ..また網に入れ洗濯機に入れていた..

マメなやつ^^;;...

電話が鳴った...テソンだ..

「何してんの?」
「ん...家政婦の仕事...」
「ぱ○つ洗った?」
「もぉーっ##」
「ごめん^^;;…また電話するね#」

あふ..

食器のかたづけ..各部屋掃除機...廊下をモップがけ...グリーンの水やり...
その間..器用に私の肩に乗っているはるみが言った....

「まよ...てそんってしんけいしつで..まめまめ?...」
「ぅん...はるみは嫌?」
「ぜんぜん..まよよりしんけいしつじゃない..」
「ちっ...はるみにもやさいしい?」
「ぅん..しゃわーのとき..やさしくあらってくれた..きもちよかった..」
「それはよかった.」
「ぁ...てそん...あんとき..こえがおおきいね...あたしおきちゃったよ#..ふひゃひゃん...」
「はるみ〜^^;....」
「ごめん..みゃぉん...」

電話が鳴った...また..テソンだ..

「らりるれ音声転送した..保存版だな..これ.....」
「わかった...ミンギは?」
「今...下でギョンビンからかってる...見れるよね..今..」
「ちょっと待って.. ん..大丈夫..」
「ん..また電話する..」

あふ^^;;.. .. ..

PCの前に移動し..画面を切り替えると店内の様子が見れた..
ミンギはイナの隣でうなだれているミン兄の顔を覗き込んでいる...

「ギョンジンさぁん..」
「ミンギくぅ〜ん>o<..」
「今度はちゃんと ”らぶ..らぶ..”って言わなきゃ駄目だよ..」
「ぉま..お前〜...て..て..テープ...み..見たのか#...持ってきただけじゃなかったのかっ#」
「へっへ....^^;;..僕はヌナの一番弟子さっ..見ないわけないじゃん..ハード保存分あったのよん#」
「ぅっ...」
「らぶちゃんは僕の友達なんだからさぁ...こころまで離さないようにしなよっ##」
「み..ミンギくぅん...」
「まっ#.. ...戻ってくればの話だけどっさっ...」
「な...戻ってくるよな..な...」
「どうだろうなぁ.....もー嫌われてるかも...」
「あ...あぉぉーん...」「てじゅ..」

「イナさんもー...テジュンさん..一緒なんでしょ?…」
「ミンギ#..、余計なこと言うな!」
「結構..合っちゃたりして...むっつり系だもん..彼.へへ...」

「「み..み..ミミミ..ミ〜ミンギっ## 」」

ミンギはギョンジンとイナが小突こうとするのをするりとかわし..厨房へ逃げこんだ..
残された2人は互いに抱き合い..互いのパートナーの名を呼んでいる...

「てじゅ..てじゅ..」「らぶぅ〜らぶぅ〜」

「けっ..まぁたメソメソしてやんの..このふたり..へへさっきの歌詞なんだっけ..んっと…」

ホンピョは頭に置いた手のひらを前方へ何度も何度も撫で..むちゃくちゃな節で唄い始めた..

「♪置き去りにされて♪好きにしろよ、自由になればいい 
♪だからあの気持ちを取り戻しておくれ♪俺は御用済みなのかい♪」

「「こんのやろぉー.」」

ホンピョはイナとギョンジンにぺったんぺったんと手のひらで頭を叩かれていた..

ミンギが厨房中二階の覗き部屋に戻ってきた..

「テソンさん..ヌナ飲み会は来るよね..」
「あ..聞いてないな..たぶん来ないかな..呼んだら来るかな..」
「っえー来ないのぉー?って..テソンさん..ホントは早く帰りたいんでしょ..」
「ぁ..そういうわけじゃなくて..」
「夜朝夜朝なんでしょ?.もぉー.程々にしなよぉー..飽きられちゃうよー」
「ったく..ジホ監督と一緒にいるから..お前までやらしくなるなぁ..」
「えっへっへ〜」

「テソンさんって..接客することあるの?」
「僕はほとんどないな..最近は..」
「ふ〜ん..」
「僕の知識も専門技術も特技も全部料理だし..話もおもしろくないだろ?」
「そうかな...」
「第一..僕には色気がない..」
「たはは..」
「笑うな#..ミンギ#」
「ごめん^^;;..」

色気がない..確かにそうだよな..でもいいや..僕はひとりだけで..^^;;


ウシクの心配と失敗  ぴかろん

僕の悩み事が一つ増えた…
スヒョンさんが僕を、ミン君のお兄さんの担当にしたからだ
僕が彼に何を教えればいいのだろう…
額に手を当てて俯いているとウシクが来てそっと僕の懐に入ってきた

「ん?どうしたの?」
「…先生…」
「どうした?ウシク」
「…僕…チーフに怒られた…」
「なんで?」
「…今日の打ち上げの店、予約するの忘れてた…」
「…え…」
「昨日寮に帰った時ね、僕宛にチーフからメッセージがあったんだけど…」
「どんな?」
「今日の新人歓迎会のための店を予約しておくようにって・・。んで、店も指定してあったんだけど…」
「珍しいな、ウシクがしくじるなんて」
「昨日中に電話しとかないと取れないからって、くれぐれも昼間に電話しろって書いてあったのに…寮に帰って荷物置いてから僕、先生と…」

ああ…散歩に行ったんだったね…

「河原歩いて公園の芝生に寝そべって、夜までいたじゃない?」
「…そうだったね」
「すっかり忘れてたの」
「うん」
「今朝電話したら案の定一杯だった…。さっきチーフに言ったら『あれほど昨日の昼間に!とその部分だけは目立つように紫のマーカーで書いておいたのに!』って、目を吊り上げて…」
「怒鳴られた?」
「ううん…でも…内緒だよ…顔がちょっと大きくなった…」
「…。それは…。怖かったね。でも、僕が誘ったからいけなかったんだね…」
「…そうだよ…」
「ごめんね」
「先生…」

胸に顔を埋めるウシクの頭を僕はそっと撫でてあげた

「それとね…」
「ん?」
「先生…あの人の事、好きにならないでよ」
「あの人って?」
「…担当の…新人…」
「…なに…。心配してるの?」
「…だって…あの人…いっぱい悩み持ってそうでさ。先生にあれこれ相談しやしないかと思ってさ…
そんな事してるうちに先生があの人を癒したりしないかって…心配で心配で…」
「馬鹿だな…。大丈夫だよ。それより僕が担当でいいのかなぁ。僕、教えられるかなぁ
あの人、僕よりずっとホ○トらしくないかい?着てる物も雰囲気も…
今ちょっと弱ってるみたいだけど…。『えろみん』らしいし…」
「だから心配なんじゃないか!」
「なんで?」
「あの人の技とかかけられたらどうするの?!先生あんまり免疫ないでしょ?…ああ…どうしよう…すっごく嫌だし…それに」
「まだあるの?」
「…お義父さんの事…」
「…ああ…そうだね。そろそろ行かなきゃ…」
「でもあさってオーナー主催の強制参加コンサートに行かなきゃいけないでしょ?」
「じゃあ、それが終わってから休みを貰おうか…」
「あの人の担当はどうするの?」
「あの人、きっと一日か二日ぐらいで営業できるよ。『えろみん』だから…」
「でもラブ君が帰って来なかったら使い物にならないような気がするよ」
「…うーん…」
「その間に先生に『僕はどうすればいいんですか先生』なんて言って迫ってきたらどうする?先生」
「…ウシク…」
「心配だもん!」
「…フラダンスのアジュンマたちの影響かい?ちょっと妄想入ってるよ…フフフ」
「…だって…だって…」
「心配しないで。そんなに心配だったら君も一緒に彼の担当になればいいよ」
「…」

僕はウシクを抱きしめ、彼の唇に唇を近づけて囁いた

「だって僕らは二人で一人…」
「せんせい…」

僕はそっとウシクに口付けた


「ケホンコホン!ウシクは恋わずらいなのか?!今まできっちり仕事をこなしてたのに、予約を忘れるなんて初歩的なミス…
何か問題があるのなら、先にそれを片付けたほうがいいんじゃないか?」

僕達のキスを邪魔するように、事務所から店への通路のドアをあけてチーフの声がした

「ウシクさんを責める前に貴方が自分で予約したらよかったんじゃないの?」
「ム…けほん…」

「そう言えばそうだね…。チーフが指定した店なら、君に紫のマーカーと黒のマーカーを使い分けてメッセージ書くより、店に予約の電話をして得意の携帯耳切りパンっ☆っていうのをやってくれれば済んだ事じゃないか?」
「…先生…。先生がそんな事言うなんて…」
「ン?イメージが狂う?」
「…ううん…そんな先生も好き…」

僕達はもう一度キスをした

「貴方の得意な携帯電話でぶっきらぼうに予約して、耳でパンって切って耳を挟むぐらいの事、昨日の掃除の時にできたはずだよ」
「…らって…らってモップのちゅかい方とかわかんなかったんらもん…」
「しっ!…聞こえるよ!…それよりどうするつもり?会場は…」
「…みん…ちゅめたい…」
「しっ!人に聞かせちゃだめです、らりるれは…。それに…油断しちゃだめ!縮むんだから…」

らりるれは解る…でも縮むってなんだろう…
まぁいいや
心配しなくてもミン君がなんとかしてくれそうじゃないか…
それより何をどう教えたらいいのか…僕はウシクにキスしながら悩んでいた

「もう、先生!嫌だ!あの人の事考えちゃ!」
「あ…ごめんごめん」

僕はやきもちをやくウシクをもう一度抱きしめた


テプンの研修   オリーさん

「テプンさん、よろしくお願いします」
「ギョンビン、俺に当たってラッキーだな。すべて任せろ」
「色々教えてください」
「わかってるって。とりあえず、あの奥の席に行こう」
「あそこ?」
「おうよ、邪魔が入るといけねえ」
「わかりました」

「でよ、俺の武勇伝聞きたくねえか?」
「武勇伝ですか、聞きたいです」
「よし、特別に教えてやる。そのために隅っこに来たんだからよ」
「タチの悪いお客さんでも来たとか?」
「ちゃうちゃう。その手の話じゃねえ」
「じゃ、何の話?」
「チェリムだよ」
「チェリムさんてテプンさんの彼女?」
「ちっちっ、今じゃ、フィアンセって呼んでくれよ」
「婚約したんですか?」
「お前はっきりと物を言う奴だな。率直な奴は、俺は好きだぞ」
「でもチェリムさんと武勇伝と何の関係が?」
「まあ、あせるな」
「あ、はい」

「まず、俺はな、あいつの親父をきっと睨みつけた」
「え?」
「だから、チェリムの親父だよ」
「お父さんを睨んだりして大丈夫なんですか?」
「それよ、それ。何しろ最初が肝心だからな」
「それで?」
「一言決めてやったのよ」
「何て?」
「お嬢さんをください、ってな」
「はあ…」
「俺の毅然とした態度に、あの気難しい親父もたちまち降参ってわけよ」
「OK出たんですね」
「当たり前よ。ぜひ、うちの娘を貰ってやってくれ、なんちゃってな」

「テプンさんて、お子さんいらっしゃいましたよね」
「おお、可愛いテジがな」
「そのことは大丈夫だったんですか?」
「ノープロブレムよ。テジは俺に似て賢いからよ、親父さんも喜んでた」
「よかったですね。おめでとうございます」
「これは武勇伝の前半よ」
「後半は?」
「ひひ、聞きたい?」
「話したいんでしょ、どうぞ」
「素直な奴は好きだ。お前にだけ特別だぞ」
「はあ…」

「俺のカッコよさに参ったチェリムはよ、俺の手を掴んでよ、今日は帰さない、なんちゃって…バンっ!」
「痛っ、ぶたないでください」
「でな、チェリムんが俺をホテルに無理矢理連れ込んで、じゃなくて、俺達はホテルにしけこんでだな、せがまれてな、ヒヒ、バンっ!」
「だからぶたないでください!」
「でもって、俺がだな、ヒヒ、バっ…お前よけるなよっ」
「だって痛いですから」
「でもって、な、な、俺がキツイ一発をチェリムに決めたってわけよ。ヒヒッ、バッ…おい、よけるな、調子が狂うじゃねえかっ」
「ぶたなくても話はできるでしょ」
「そうか」

「要するに、お父さんに結婚の承諾を得て、チェリムさんとうまくいったという話ですね」
「ま、簡単に言うとそういう事だ。どうだ、あの堅物の親父からOKもらったんだぞ」
「そんなに堅物なんですか?」
「お偉いさんでな、そりゃもう大変よ。けど俺の優秀な弟より見込みがあるなんちって、な、バっ…よけるなっつってんだろっ!」
「無駄に叩かれるのは性に合いません」
「ちっと生意気な奴だな」
「とにかくおめでとうございます。よかったですね」
「ありがとよ。どうだ、いい話だったろ?」
「いい話ですけど、研修は?まさかこれが研修じゃないですよね」

「あ…う…これが研修だ!」
「え?」
「お前、俺の話を無駄に聞いてたな?」
「どういうことです?」
「俺は今、対人関係の難しさを説明してやったんだぞ」
「はあ…」
「難攻不落の親父を落とし、強気のチェリムをねじ伏せる、これがホストの基本よ。わかるか?」
「よくわかりません」
「お前、見た目より頭悪いな」
「すみません」
「とにかく愛だ!ホストも親父も愛だ!愛がすべてを解決する!わかったか?」
「はあ…」
「たとえチェリムにねじ伏せられようが愛があれば問題ない!」
「あれ?チェリムさんに一発決めたんじゃないんですか?」
「え?あ、そうそう、と、とにかく愛だからな」
「わかりました。でも…」
「でも?」
「チェリムさんがテジ君のお母さんてことですよね。結婚すれば」
「当たり前だろっ。テジにも母親ができるんだ。何だか泣けるな」
「でもチェリムさん、お母さんとか呼ばせてくれますかね。初婚でしょ」
「そっか、そうだよな。ううん…そっか。チェリムがお母さん…ううん。そこまで考えてなかった…」
「はあ?」
「いや、決めるのに精一杯でよ、テジとチェリムの事まで考えてなかったな…」
「考えてなかったんですか?」
「そうか、だよな。でもテジはよ、母親が欲しいと思うんだ。でも…だよな」
「仕方ないなあ。ここはチェリムさんの性格を逆手に取るしかないですね」
「え?どうやって?」
「チェリムさんて気が強いんですよね、でも優しい。テジ君はほんとに賢いんですよね?」
「当たり前だ、俺のふぃあんせぇで俺の子供だからな」
「チェリムさんの前でテジ君に言うんですよ」
「何て?」
「チェリムと結婚する。お前にも母親ができるぞって」
「ふん、普通の話じゃねえか」
「お前がチェリムをお母さんと呼びたい気持ちは痛いほどわかる、俺も呼ばせてやりたい」
「ふむふむ。で?」
「でもチェリムはこの通り若くて綺麗だ、初婚だし。だからチェリムは俺のカミさんになるけど、彼女のことはお姉さんとか、チェリムさんて呼んでくれないかって」
「ほお…」
「そしたら、気は強いけど優しいチェリムさんは『あんた、何バカ言ってるのよ!そんなこと言ったらテジがかわいそうじゃない!いいのよ、テジ、私をお母さんと呼んでみて』とか言わないとも限りませんよ」
「ギョンビン…俺と握手してくれ」
「いいですよ」
「そうだな。最初からお母さんと呼んでもいいか、なんて聞いたらあいつむくれだろうからな。ウンウン。そうか、そうか。お前天才だな」
「プロファイリングをちょっとやってましたから」
「ファイル?書類の整理か」
「違います」
「よおし!できた!とにかくだ、これで研修は終わりだ」
「え…これだけ?」
「そうだ。わからない事があったら、何でも俺に聞け」
「あの、接客とかで何かないんですか?」

「だから愛だって言ってるだろっ!ホストもチェリムもテジも親父も愛だ!わかったか!」
「はあ…」
「よし、ジャージャー麺でも食いに行こう。他の奴らまだ終わってねえからよ。あ、当然研修してやったんだからお前のおごりだぞ」
「え…」
「よし、行こう!!」
「はあ…」


テジンの研修  れいんさん

なんでだっ!
なんで僕の指導はスヒョンさんじゃないんだよおっ!
僕はスヒョンさんに…
スヒョンさんのあのオーラを間近で見て学んで
キング・オブ・ホ○トへの道を手に入れたかったのに…
しかもだ!
ほかの奴の担当ならまだあきらめもつく!
なんでよりによってあのホンピョの奴の指導にあたるんだ!
ひどいぢゃないかあ〜

はあ…
でもくよくよしてたって始まらない
いつも、どんな時でも前向きなのは僕の長所だ
研修後に打ち上げがあるらしいから、その時こそスヒョンさんの隣をがっちりキープだ

ところで…と…僕の担当はテジンさん…だったな

僕はスヒョンさん達に恨めしげに投げかけていた視線を戻しテジンさんを探した

テジンさんは前髪を切り揃えた男の人と何やら話していた

「スハ…。気持ちはもう落ち着いたか?」
「はい…。すみません。スヒョンさんのお話を聞いててつい気持ちが昂ぶってしまって…」

なんだ?
あの二人のまわりの空気…やけにしっとりしているぞ

「…そう…。これから僕は新人の指導をしないといけないみたいだけど…僕が傍にいなくても大丈夫?」
「はい。僕の事は気にしないで。テジンさんこそあれこれ忙しかったのに、大丈夫ですか?」

あのお…いつまでそこでしっとりしてるんですかね…
僕、ここで待ってるんですけどお…

「僕?大丈夫だよ。スハの笑顔はいつも僕を元気にしてくれる」
「僕もです。テジンさんに一日会えなかっただけで…僕…」

おいおい、今度は指を絡ませて見つめ合ってるぜ
僕の事は完全無視かよ

「今日は一緒に帰れるよ。今夜は一晩中おまえを離さないからね。わかってる?覚悟しといて…」
「やだ…テジンさん…そんな事…ほら、みんなに見られちゃう…」
「見られたっていいさ。ねえ、今、たまらなくおまえにキスしたい…」
「あ…ダメですよ。今は…。ね?あとで…」
「わかったよ…。しばらくお預けだ…。いい?ちゃんと僕の事考えてて。いい子にして待ってるんだよ」

あー、けほん。こほん
あのー、そろそろ研修をお願いしますよー

テジンさんは色っぽい視線のまま僕の方を振り返った

どき!
え?
そんな目で僕を見ないで…

「ごめん、待たせたね。僕はテジン。よろしくね」
「あ、ぼ、僕はドンヒです。よろしくお願いします」

テジンさんがすっと手を差し出してきて僕に握手を求めた
なんか…しっとりと包み込むような優しい手…

「君はほんとはスヒョンに指導してもらいたかったんじゃない?」
「え…いえ…まあ…」
「僕じゃ不満かな?」
「いえ!そ、そんな事は…」
「そう?…ほら、あっちの新人君はひとすじ縄ではいかなさそうだからスヒョンが指導に当たるんだと思うよ
君はすでにホ○トとしての天性の素質を持っているようだから…」
「えっ?そうですか?やっぱり…?天性の素質…いやあ〜ホ○ト経験はまるっきりないんですけどね
隠そうとしても自然に内面から溢れ出てくるものなんすかね」
「ふふ…そうだね。君は十分そのままでいいよ
後は細かい事だけ教えてあげれば、僕はお役御免みたいだね」
「細かい事って…?」
「うん…。あのね、僕、こう見えても…あっちの方には自信があるんだ」
「えっ?あっちの方っ…?」
「そう。自分で言うのもなんだけど、僕って手先が器用でね」
「手先がっ?」
「だからね、あんな事もこんな事もこの指で自由自在に…なんなら…君も試してみる?」
「そ、そ、そんなっ!ぼ、僕はそんな事はっ!…少しばっかり興味はありますが…まだ心の準備がっ」
「興味があるなら大丈夫。ね、僕に任せて。僕の言うとおりにすればいいんだから…」
「ひいっ!だ、だって僕達まだ知り合ったばかりで…」
「もう黙って…。さあ、こっちにおいで…。僕の道具を見せてあげるよ」
「ええっ?こんなところでっ?そ、そんな道具だなんてっ」

テジンさんは僕の肩を抱いてドアの方に歩き出した

ああっ!僕はこれからどこか別の部屋に連れて行かれて…
そして、そして…奪われてしまうのかっ?
ああ…でも体が言う事をきかない

僕は催眠術にでもかかったように、テジンさんに肩を抱かれたまま、なす術もなく歩き出した

スヒョンさんになら…と思っていたけど…
テジンさんも…なんだか…悪くないかも…

夢心地でドアのところまで行くとテジンさんは僕の肩からすっと手を離した

「ほら、見て。僕の道具箱。これでいろんな物を作り上げたり修理したりして…命を吹き込むんだ」
「はあ?」
「ん?どうかした?」
「あの…あんな事、こんな事って…?」
「僕は物を作るのが得意で、おまけに料理も得意なんだ」
「…」
「ねえ…何か別のコト考えてた?」
「べ、べつに…その…」
「ふふふ…君はスジが良さそうだから、今みたいにさ、誰かの話を真剣に聞いてあげて…
ね?聞き上手って一番難しいんだよ。そしてね、ちょっと色っぽい夢を見せてあげるんだ。わかる?」
「は、は、はいっ」
「はい、じゃ、これで研修終わり」
「あ、ありがとうございましたっ!」
「あ、ねえ、ちょっと待って」

テジンさんはそう言うと、突然、僕が着ていた上着を手早く脱がせた

ええっ?
何っ?
何するのっ?
油断させといてフェイントかっ?

そして僕の胸元にしなやかや指先を伸ばしてきた

ああ…!
やっぱり僕はこのまま…この人に…

僕は観念して目を閉じた
するとテジンさんはあっという間に僕のネクタイをしゅるしゅるとほどいた

「君にはこっちが似合うよ」

そう言ってどこから持ってきたのか、細めのネクタイを僕に締めた
そして僕の耳元で

「いい子だったね。完ペキだよ」

そう囁いて僕の肩をポンと叩いた
僕は体の力が抜けてしまって、へなへなとその場に座り込んだ


ゆるやかな時間・イヌの研修  ぴかろん

僕は僕の担当になったイヌ先生の研修を受ける事になった
それまでに僕は弟やスヒョンさんのさりげない研修を受けたと言えるだろう…
短い時間に色々な事を考えた
ラブがきっと僕のところに戻ってきてくれるよう、僕は祈り、待つしかない…
戻ってきてくれたら僕は…僕はラブのために全てを捧げたいと思った…

僕がテーブルに両肘をついて、顔の前で神に祈るような格好をしていると、いつの間にかイヌ先生がいらしていた
そして僕の隣には僕と同じように祈りのポーズをとっているウシクさんがいた

僕はちょっとぎょっとした

「ギョンジン君、担当のイヌです。よろしく」
「アシスタントのウシクです」
「あ…よ…よろしくお願いします」
「僕が何故貴方の担当なのか、ちょっとよくわからないのですが…なにせ貴方に教えるようなことって何もない気がするのでね」
「そんな事…。僕はホ○トという職業は初めてですし…」
「僕だって少しやってはいるけど、本当にこれでいいのかどうか迷っています」
「はあ…」
「貴方の方が女性のあしらいは上手でしょうし、服装だってそのままでとてもホ○トらしいです」
「はあ…」
「でも研修はしなきゃいけないってスヒョンさんに言われたので…」

そういうと、イヌ先生は可動式の黒板を出してきた
そしてチョークですうっと横に直線を引いた
こちらを振り向いた時、僕はどきんとした
あまりにもかっこよくて…

「人と人が出会う確率ってものすごいものなんです」
「は…はい…」
「この地上には何億という人間がいる。その中で知り合える人はごく僅かだ」
「…はい…」
「そしてその中でも愛し合える人と出会える確率はもっともっと少ない」
「…は…い…」
「人との出会いを大切にしたい。僕はそう思っています」
「…はい…」

イヌ先生はズキンと来るようなことをおっしゃった
僕は俯いてしまった
先生は言葉を止めた
あまりに黙っていらっしゃるので、僕はそっと先生を見上げた
すると僕の隣のウシクさんの方を潤んだ瞳で見ているではないか…
少しだけ首を動かしてウシクさんを見ると、同じように潤んだ瞳でイヌ先生を見つめている…

この二人は愛し合ってるんだな…

ラブ…
ラブ…

僕はラブを思い出して涙してしまった

「あ…すみません、薔薇に見とれちゃって…」

先生が我に返った…と言うように発言した
薔薇?…ああ…ウシクさんの事か…
溢れていた涙がなぜかスッと引いた

「お客様との出会いも同じです。この店を選んで来てくださったお客様を僕達は心からもてなしたい。お金を払ってくださる以上の心をお返ししたい
そんな気持ちでみんなが働いています。その心を忘れないでください。そうすれば貴方がナンバーワンになる日は近いでしょう…」
「ナンバーワンだなんて…。僕はそんな事は望んでいません。僕はただ」
「ただ?」
「あ…いえ…研修には関係ない事です…」
「言ってみて」
「…」
「先生…言いたくないみたいだからいいじゃない」
「ウシク。心配しなくていいよ」
「だって…」

何が心配なんだろう、なんとなくウシクさんが僕を睨んでいるような気がするけど…

「そんなに心配ならこっちにおいで」

イヌ先生はウシクさんににっこり微笑んで左手を広げた
途端にウシクさんは僕の隣から立ち上がって先生の懐に飛び込んだ
先生はウシクさんの頭を抱きしめて、その髪に接吻をした
僕はその様子をうっとりと眺めていた

こんな風にラブを包んであげたいな…

「すまない。ウシクはちょっと揺れていてね。普段はこんなじゃないんだ。ね、ウシク」
「先生…」
「あ…いえ…。羨ましいです…。お二人の愛がその…伝わってきて…」
「はは…」
「あの…質問してもいいですか?」
「なんだい?」
「あの…その…。お二人は一緒に暮らしてらっしゃるんですか?」
「まだだよ」
「…まだ…だね…」
「あのっそのっ…お二人は…付き合い出してどれぐらいでそのぅ…ナニがアレになったんですか?」

僕の馬鹿!なんてことを聞くんだ!

「ナニがアレ?」
「…」
「ウシク、意味、解る?」
「ごにょごにょ」

ウシクさんが先生に耳打ちすると、先生は一瞬真顔になってからウシクさんにそっと微笑み、そして僕に言った

「心が結ばれたのは…そうだな…二日ぐらいたってからだっけ?」

ウシクさんがイヌ先生の胸の中でコクンと頷く

「心…が…。あの…からだは…そのっ…ああ…すみませんっ!」

僕の馬鹿!頭が麻痺してるのかっ!

「身体はまだです」
「えっ!」
「ね」

ウシクさんがまた頷く

「焦らないで温めていこうって決めたんです。僕達には解決しなきゃいけない問題もあるので…」
「あの…付き合いだしてからどれぐらいたつんですか?」
「祭の最中からだから…十日ぐらい?…でも半年ぐらいかもしれない…ね?」

またウシクさんが頷く

僕はショックだった
僕とラブは知り合ったその日に…しかもあんな事に…

僕が焦りすぎたんだ…こんなにゆっくりと愛を育んでいる人達がいるっていうのに…

「でももし僕達に何の問題もなければ、きっと…どうだろうね。あの日に…ね」
「うん…途中までいったものね」
「いつも途中までだもんね」
「もう…先生の意地悪…」
「だって本との事じゃないか」
「…僕のせいだって言いたいんだ…先生の意地悪…」
「違うよウシク…泣かないで」

え?泣く?なんで泣く?

「ほら。ギョンジン君が見てるよ」
「あの人の事なんか気にしないで!」
「ウシク…」

え?僕の事を気にしてる?何それ…何言ってるんだ?

「ごめんね。僕が君の担当になったからってウシクはやきもちをやいてるんだ」
「は…」
「ちょっと待っててね。…ウシク…困った子だな。いつからそんなに聞き分けのない子になったんだ?」
「だって…だって…先生はいつも僕だけと話してたもん!」
「そんな事ないよ、みんなと同じように話してたよ」
「こんな風に話してないもん!それに…」
「それに…なんだい?」
「あの顔を見せた!」
「あの顔?」
「…黒板から振り向く顔…」
「…だって説明しなきゃ…」
「いやだ!あの顔は僕だけの物なんだからっ!人に見せちゃいやだ!」
「ウシク…。なんでそんな急にダダをこねるんだい?」
「いやだいやだ…」

イヌ先生は泣いているウシクさんの涙を拭うと、そのまま頬を包み、キスをした
僕が見ているというのに…

でも…とても美しいキスだった…
本当に彼を愛して、大事にしているんだ…
ウシクさんがダダをこねたり不安がったりしたら、こんな風に心配の種を取り除いてあげてるんだ…

僕は二人を見ていて、知らぬ間に泣いていた
僕もラブとこんな風に愛し合いたい…
戻ってきてくれたらもっとよくラブの心を見て、穏やかな気持ちにさせてあげたい…
心からそう思った

「ごめんね、ところでさっき言いかけたことは何?」
「え…」
「ナンバーワンじゃなくて貴方が望むことは?…『ぼくはただ』…なんですか?」
「…僕はただ…愛する人の…オンリーワンになりたい…」

僕達三人はゆるりとした時間を過ごした
今言った言葉を僕は決して忘れない
もう泣かないで待つよ…
君が僕のもとにやってくる時まで
僕は待つよ…

「きっと…なれますよ」
「そうだよ…」

ウシクさんと先生は優しくそう言ってくれた


ミンの優位  オリーさん

僕は兄さんの事を彼に話しに行った
でも彼は他の事で困っていた
「どうしたの?」
「打ち上げの会場が予約できてないんだ。まずい」
「だからウシクさんに頼まないで自分でやればよかったんだよ」
「らって、ウシクは頼りになるんらもん…」
「店でらりるれしないで」
「あい」
「店でやれば?」
「研修の後、明日の営業に備えて掃除が入る」
「じゃあだめだね。あの僕も話があるんだけど」
「何?」
「兄さんがひどく落ち込んでて、それで落ち着くまで僕らのマンションに住まわせてやりたいんだけど、いい?」
「イナから話を聞いたよ。イナとは離れた方がいいかもしれないな」
「僕もそう思うんだ」
「ミンのマンションなんだから、僕に聞くことないよ」
「そんな言い方しないで。確かに名義は僕だけど、僕ら二人の物じゃないか」
「すまない。ちょっと変なこと言われたから…」
「変なこと?」
「あ、いや、気にしないで」

「おいおい、仲良しのお二人さん、何話してるの?」
「イナ、何か用か?」
「おお、打ち上げどこでやるんだよ」
「今ちょっと困ってるんだ。予約が取れてなくて」
「へえ。じゃ、お前のマンションでやれば?」
「だめ!」
「へん!ミンチョルに言ってるんじゃねえよ、ギョンビンに聞いてるんだ」
「え…」
「だってミンチョル居候だろ。マンションの持ち主に聞かねえとな。どうよ?」

「どうしたの?」
「スヒョン…」
「打ち上げの会場が決まってないって言うから、ギョンビンにナンチャラヒルズ使わせてくれって頼んでるんだよ」
「へえ、それはいいな。僕も一度行ってみたかったんだ」
「スヒョン!」
「だめなの、ミンチョル?」
「僕らだってまだ入ったばかりで落ち着いてないんだから」
「いいの、いいの。こいつには決定権はないんだからさ。ギョンビンがOKすればいいのよ」

「イナっ、勝手なことばかり言うな」
「ふんっ!」
「どうなってるの?」
「ミン、大した事じゃないんだ」
「そうそう、ミンチョルがヒモになったってだけの事」
「イナっ!」
「言いすぎだぞ、イナ」
「またそうやってスヒョンとミンチョルで俺を責める」
「ヒモって?」
「いいんだ、ミン、気にしないで」
「そりゃ、ギョンビンのセリフだろうよ」

「イナッ!じぇったい、ちゅかわしぇにゃいから!僕らのマンションなんらから!」
「うっしぇー!らからおまえには聞いてないのら!ギョンビンに聞いてるのら!」
「ふたりともやめないか。また僕にまで感染しゅるじゃないか。あっまずっ!」

「マンションが僕の名義だから、彼が僕のヒモ状態って事ですか」
「そういう事。だから今日の打ち上げ、お前のとこのマンションで、なっ?」
「イナ、いい加減にしろ。でも僕も君達の豪華マンション見たいな」
「そっかあ、ヒモかあ」
「ミン?」
「三頭身でらりるれで…おまけにヒモ…」
「ミン…」
「わかりました。ヒモの彼が困ってるんだからパトロンとしては助けないとね」
「ミン!」
「物分りがいい奴だな。よしっ、決まりだ。みんなに言ってくる」
「ギョンビン、ほんとにいいの?」
「いいですよ。だってヒモだもの、ふふっ」
「悪い子だ、あんまりいじめるなよ。じゃ、頼むよ」

「ミン…」
「ねえ、ヒモだったら…」
「何…」
「僕の言う事、もっと素直に聞いてね」
「ミンっ!」
「ふふん…」

シュルシュルシュル…
「ちょ、ちょっと、こんなとこで縮まないでよっ!」
「ヒンッ!ろうせ僕はヒモなのらっ!」
「冗談だよ、冗談っ!僕の気持ち知ってるでしょっ!」
「ヒンッ!らってらって…ヒンッ!」
「ほらっ、人が来るからっ!」
「ヒンッ!いいもん、いいもん、ヒンッ!」

シュルシュルシュル…


スヒョンの研修  足バンさん

「いやぁ参ったな〜スヒョンさんやっぱ俺の担当だもんな〜ちきしょう泣けるなぁ」
「そこに座って」
「はいっはいっはいっ」
「ええと…君の経歴みたけど…いろいろやってるね」
「まあね」
「社長からボクサーからコソ泥まで幅広いな」
「いやぁそういわれると照れちゃうな」
「てことは何でもできるってことだな」
「任せて下さいよ!」
「じゃ、そういう才能を活かして頑張って」
「はいっ!…って…終わりっすか?」
「うん…ここは個性を尊重する店だからそれで充分」

「でも…昨日から俺どんだけホ○ト向きじゃないって言われたことか」
「向いてる向いてないは関係ない」
「そそそーっすよねっ!嬉しいなぁスヒョンさん」
「あそこでこっち見てるドンジュン君もね最初同じこと言われてた」
「あいつジトーっと見やがって」
「じゃ、そういうことで」
「ちょちょちょっと!もっとなんかないんっすか?」
「たとえば?」
「えっと…煙草のポイ捨てやめろとか」
「強制はしない」
「そっそれからえと…ガムくっつけるのやめろとか」
「それも自由だ」
「あっそっそれからもっとこぎれいな服着ろとか」
「それも個性の範疇だから強制しない」
「あうっ…ちゃんと風呂入れとか」
「人並みでいい」
「ひっっ髭はっ?これいいんすか?」
「剃りたければ剃れ」

「…」
「なに?」
「なんか…こう…調子狂っちゃってさ…」
「なんで?」
「だって俺いっつもあれこれ言われ続けてきたから…」
「勘違いするな。強制しないとか自由とかいうのは自覚しろってことだ」
「へ?」
「煙草を捨てるのは自由だ。しかしお客様がそれを不快に思ったら全ておしまいだ」
「はぁ…」
「お客様はさっきも言ったようにここに快感を求めてくる。捨てられた煙草やこびりついたガムにまみれたいという方がいらっしゃったらその時に実力を発揮しろ」
「そ…そんな客いるんすかね…」
「いたらその方にとって君はNo.1ホストだ」
「…そ、そうかなぁ…」

「いずれわかる。じゃ、これで」
「あっあっあっ!わかった!わかりました!客が嫌がんないようにすればいいんすね!」
「物わかりがいいね」
「そ、そんでこの服でいいんすか?普段はTシャツなんだけど」
「しばらくお客様の反応を見よう。新しいキャラだから」
「ででで、客と何話したらいいんすか?」
「君って勉強熱心だね」
「へへへ…そうっすか?てっ照れるな」
「内容は君に任せる」
「任せるって…俺が詳しいのはケンカとムショと錠前破りとスヒョンのことくらい…」

「スヒョンさんって彼女なの?」
「…死んじまったんだ…ぐし…俺のせいで…」
「愛してたの?」
「…うん…うん…かみさん気取りのキツい女で…ぐし…」
「ここにお子さんがいるって書いてあるけど」
「や…それは違う女の…間違ってその…」
「今は会ってないの?」
「うん…別れてからは…でも俺似のかわいい子なんスよ…えと…写真1枚だけ…これ…」
「かわいい子だね…」
「でしょ?でしょ?へへ…稼げたら少し送ってやろうかと思ってさ」

「君って優しい人なんだよ、元来」
「いや…そんなんじゃないっすよ…」
「お兄さんのことでも悩んだでしょ?」
「そんなことまで伝わってるんすか?」
「ここの調査にぬかりはない…2人のお兄さんのこともわかっている」
「今でも死んじまった兄貴の夢みます…」
「そう…」
「一緒に船に乗るはず…だったんす…うぅ…ぐし…」
「…」
「ぎゃー!かかか肩だだ抱かないでくだくだっっ」
「何言ってるの…これは基本だよ」
「ななななんの基本っすかっっ」
「癒し」
「いいいやし?みみみんなが見てますますます!」
「君が大声出すからだよ」
「あのドドドドンジュンってやつが怖い顔してますよっ!」
「大丈夫」

「ひーん俺まだ覚悟できてないんすよっっっ」
「勘違いしないで手出したりしないから」
「えっそうなんすか?」
「ここはそういう習慣ないから安心して」
「でっでもなんだかTV中継じゃいろいろ観ちゃったけど」
「うん…仲いいのここの連中」

「でね…僕が思うに君はいい男だと思うんだ」
「俺が?」
「情に厚いでしょ?それでいろいろ損してるでしょ?」
「うん…まぁ…」
「でも自分に嘘つかずに生きてるでしょ…そこがいいと思うよ」
「や…そんなこと言われたの初めてだな…」
「こっち見てごらん…」
「は…う…」
「その頬の傷よりずっと深い傷を抱えてるでしょ?」
「う…」
「ここの連中はみんな同じような辛い過去を持ってる…君だけじゃない」
「…」
「拗ねないで…ひとりじゃないってことだけ憶えておいて」
「は…い…」

「何か質問は?」
「あ…う…俺…ほんとに…このままでいいんでしょうか…」
「そのままがいいよ。魅力的だ」
「みりょ…」
「何か心配?」
「や…マジでなんか…調子が…力出なくて…」
「腹空いたのかな?何か食いに行こうか」
「えええっ?スッスヒョンさんとですかっっ?」
「うん…ついでに1枚くらい服見立ててあげようか」
「ほっほっほんとですかっ?」
「うんそれも研修の一環だから…ドンジュンも誘おう」

「そういえばあの野郎スヒョンさんのなんっすか?」
「僕の恋人だ」
「いーーーーーっ!」
「なに?気に入らない?」
「あぅ…いえ…その…そのっ」
「なに?」
「ほっ惚れてるんっすかあいつに!」
「そういうことだ」
「あぅぅ」
「問題ないね?」
「はっはぃ」
「じゃ行こう」
「は…はい…ひぃん…」


奇妙な関係 恋人の時間 9 ぴかろん

僕達は目の前に並んだ、ブランチというには豪華なメニューを見渡していた
サーロインの一口ステーキ、有機野菜とモッツァレラチーズの入ったパスタが盛られた、トマトをくりぬいて作った可愛い器、生ハムのサラダ、それからパンが数種類にアイスコーヒーだ

「ただ食べるんじゃ面白くないね。食べさせあいこしようよ」
「…すけべジジイの考えそうなことだよね〜」
「そうか?」
「それがお望みなの?」
「おのじょみ…」

ラブはしょうがないなという顔をした

「んじゃ、そうしよう…はい、あーん」
「だめだよ、フォークは使わないの」
「へ?」
「手で…じかに…」
「…」
「なにさ」
「テジュンってさ…すっげーすっげー、すけべだ」
「ふふ〜ん」

僕達はとっても楽しく食べさせあいこした
パスタなんか、手から食べさせるのって…すんげぇ興奮する…
まとめてがばっと食べさせるのも楽しいし、たらら〜んってつりさげて、あーんしてる顔みるのも楽しい
ちゅるちゅるさせるのもうふうふうふふ

ま、そんなに量はないんだけどさ、このパスタ…

僕が夢中になっていろんな食べさせ方をしていたら、ラブが睨んできた

「なに?」
「ぜってーヤらしい…」
「…なんで〜」
「すけべな顔してる…」
「あ〜ん」
「もういい!今度はテジュンの番」

うわーい
ラブはどんな食べさせ方するのかなっ
と楽しみにしてたら、トマトの器のふたにパスタを乗せて普通にパクッだよ…
つまんねぇ…もぎゅもぎゅもぎゅ…
次は…一口ステーキだっ
え…
あーんしてたらポイっと口の中に放り込んだ
ちゃんとぉ、お口までぇ、持ってきてよもぐもぐもぐ

「不満そう…」
「らって…」
「しょうがないなぁ…」

そう言ってラブはパスタをまとめて僕の口に入れた
僕はラブの指からパスタを絡め取る
ちょっと歯を立てたりしてふふふ

ん?
睨んでる…
けひひ
いいじゃぁん…
指、舐めちゃうぞ

「ぜってーすんげぇすけべだ…あいつより…」

言いかけてちょっと口をつぐみ、それからラブはもう一度口を開いた

「ギョンジンよりエロいよテジュン…」

ラブがギョンジン君の名前を出した
落ち着いている
僕は…少し嬉しかった
確実に浮き上がってきているから…
僕はどうだろう
僕は…


無理することはないよね…

ちょっと考えていたら垂らしたパスタがやってきた

「ちょっと!オリジナリティのある食べさせ方してよ!」
「えー、めんどくさいなぁ…」

ラブは垂らされた端っこをもう一方の手でつまんで、横にピンと張ってにっこりした

「さ、エロてじゅ、どうやって食べる?」
「む…」

僕はしばし考えた
そしてラブの頭を掴んで引き寄せ、パスタを挟んでキスしてやった
ラブは驚いてパスタから手を離し、僕の肩をオリーブオイルだらけの手で押し戻そうとした
僕は思いっきりパスタをちゅるちゅるしてやった

「は…ん…」

へへへっ
どうだっ…もぐもぐもぐ

ラブの瞳が潤んでいる

「ぜってぇ…すげぇ…えっちだ…」

俯いたラブのおでこに、オリーブオイルだらけの唇でキスしてやった

「んもぉ、油つけんなよぉ…」

ラブはサラダの千切り野菜を掴んでぐしゃっと僕の唇におしつけた
ドレッシングが滴り落ちた

「ふひて、ふひて」
「へ?」
「お口でふひて」
「口で拭け?…んもうっ!」

ラブは真っ赤になってぐいっと親指で僕の口を拭き、その親指を僕の口に突っ込んだ
はふん…

「おいちい…」
「離せよ…」

もちろんすぐに解放するわけにはいかない
たっぷり味わってからバコっ☆

「てぇっ!ひでぇっ殴るなんて」
「やりすぎ!」
「まだ一回しかやってない」
「違うっ!もうっ」

ラブはテス君の手のパンをとって、僕の口にまたまた押し込んだ
パンが大きすぎてふがふが…にゃにもれきないっ…ふが

れも…このパン、美味しい…

「れ、れ、このふぁん、おいひいろ」
「美味しい?…どれどれ」

もう一個あったテス手パンに手を伸ばそうとしたラブの頭をまたまた引き寄せて、僕が口に咥えてるパンをラブの口に押し付けてやったひひひん

「あぐっ…ちょっろ…むむ…むぐ…がみゅっもぐっ…あん…おいしい…おいしいけろ…あうっ」

なんかしゃべってりゅな…ふん…しゃべらしぇてやんにゃい…
もぐもぐはむはむはむ…ごっくんもぐはむ…はむ…はむちうちう…

とまぁこんなぐあいに食べたりキスしたりキスしたり食べたりをした
ラブにいっぱい殴られたけど…はひん…

食後のアイスコーヒーを飲もうとしたら、ラブが僕の分を取り上げてごくごく飲んだ

「なにするんだよぅ」

そして僕の顔を引き寄せて口移しで…はへん…ひひん…ヤ〜らし〜…
こいつだってヤ〜らしいんじゃんはふん…

「あ、こぼしたね!だめじゃんか!」
「らって僕、お前よりお口小さいもん」
「かわいこぶってもだめ!…あんな事したくせに」
「え?え?あんな事ってな…」バコッ☆

またなぐらりた…
殴ってからラブは笑っていた

「なんれ笑う…」
「…テジュンが元気になってきたから…」
「うん。もうできるよ」
「ばかっ!」

僕は照れくさかった
本当に少しずつ、勇気がわいてきたように思えたから…
明日、イナに会えると思えるようになってきたから
漠然とだけどそう思えたから…


奇妙な関係 恋人の時間 10  ぴかろん

食事を終えてラブは洗面所に行った
何してるのか覗きに行ったら歯磨きしてた
ラブは僕の顔を見るなり、もう一つの歯ブラシに歯磨き粉をつけて、僕の口に押し込んだ

歯磨き?
うふっ…

「こりぇは、おくと、きしゅしゅるためれしゅか?しょえとも、おくのかららを、あめあめしゅるためれしゅか?
 しょして、おくが、おまえのかららを、あめあめしゅゆとき、いいにおいのほうがいいかられしゅか?」

歯ブラシを口に突っ込んだまま聞いた
ラブは完全に僕を無視した

なんだよっ!

俯いて歯を磨いていたらラブがクスクス笑い出した
口を漱いで、笑いながらこう言った

「虫歯になるといけないからね?」

ふんっ…あめあめしちやる!あしょこもここも…

「またすけべな目になってる…」

ラブは水の入ったグラスを僕に渡してリビングに行ってしまった
僕は落ち着いて歯を磨いた

抱いていたいとかいいながら、まだ一回しか…その…体力の関係もあって…ナニだ…
でも…やっぱし…その…


歯を磨き終わってリビングに行くと、ラブは昨日の夜、タクシーを止めて買ったらしい服をソファに並べていた

「何してんの?」

ラブの肩に顎を乗っけて僕は言った

「いつまでその格好でいる気?」
「それはこっちのセリフ。いつまで服着てる気?」

それには答えず、ラブは自分が買い求めたエスニックな服を僕にあてた

「この襟なしの白と薄紫をさ…テジュンとイナさんにって思ってんだけど…」
「え…」

イナにも?

「んで、こっちの襟つき方は…俺と…ギョンジン…」
「…ちょっと待ってて」

僕も買ったんだ!ストラップ
四人お揃いじゃないけど、ニュアンスが似た奴!
お互いのペアで持ってたらいいなって僕も思ってたんだ…
ラブも同じようなこと考えてたんだ…

僕は嬉しくなって、昨日買ったストラップ四本を取り出して、ラブが並べた服の上に置いた

「これ…」
「おんなじ様なこと考えてた…」
「…ハートが僕達?」
「うん」
「ダイヤが貴方達だ…」
「うん…」
「…帰ろうね…あいつらんとこへ…」
「うん…」

切なくなって僕はラブを後ろから抱きすくめ、ラブの肩に顔を埋めた
ラブは僕の手をそっと包み込み、僕の指に軽くキスをした

ラブが愛しい
イナが愛しい
僕の胸がキリキリ痛む
どちらも好きでいるのはいけないことなのか?
どちらかに決めなきゃいけないのか?
二人とも好きなんだ
どうしようもないんだ…
そして今は…

ラブがとても愛しい…

ラブはくるりと僕の方を向いて、僕の唇に深いくちづけをした
その唇に溺れそうになる前に、ラブは唇を離して言った

「…ずっと抱いてるとか言うわりにさ…」
「…」
「俺が誘わなきゃ、貴方、乗ってこないんだからな…世話がやける…」
「…生意気言うな…。じゃあもう…遠慮しないぞ…」

僕はラブを床に横たえて服を脱がせた
ラブにキスを落としながら、本当はラブに溺れるのが怖かった…
底まで行きたいなんて言ったくせに、まだ船の上で、海の中に飛び込もうかどうしようか思案している初心者のダイバーのように…
エアタンクも背負ってるのに…このままでも帰れそうな気がしていて…
この中途半端なまんま…
そんな事を考えていたら涙が出てきた
僕はラブに悟られないように、ラブの身体にキスを続けていた

「今、帰っても、きっと大丈夫だよ…」

ラブの声が震えていた

「今帰った方が…その方が貴方にはいいのかもしれないよ…俺だって…」

僕の中の最後の砦が崩れた
帰ってしまえばもうラブとこんな時を過ごすことができない
その方が本当にいいのかもしれない
けれどきっと後悔する…
粉々にしてしまいたいと思ってたのに、まだ無残な形が残っている

「ラブ…ラブ…」

僕は彼の名前を呼んだ

「俺…怖い…底に沈むのが怖い…」
「僕も怖い」
「なら引返そう…」
「嫌だ!」
「テジュン」

僕はラブの手を取って、海に飛び込んだ


それからの何時間か、僕達はリビングの床やソファや、それから窓辺やテーブルや…
いろいろなところで愛し合った
何度果てたのかわからない
気が狂いそうなぐらいラブを愛した
海の底の楽園で僕達は狂っていた
時を忘れて、現実を忘れて踊っていた
何度抱いても痺れるのは何故だろう…
何度抱いても快感に顔を歪めるのは何故だラブ…
陽が西に傾き始めた頃、僕達は汗にまみれた身体を床に投げ出し、肩で息をしながら天井を見上げた
そしてどちらからともなく笑い出した
お互いの笑い声を聞いて、笑いが止まらなくなった
僕達の脳は、どこかおかしくなってしまったに違いない

しばらく笑い続けて腹筋が痛くなり、呼吸を整えて僕はラブの頭を抱き寄せた

「そろそろ身支度整えなきゃまたルームサービスが来る…」
「おなかすいた…。こんどはどんなごちそう?」
「ごちそうじゃない…」
「え?」
「飲茶セットとか海苔巻きとかピザとか適当にたのんだ…」
「…なにそれ…」
「だって…合間につまめると思って…」
「ばかっ!」
「うふん…」
「…壊れちゃうよ俺…」
「僕ももう壊れてる…」
「もういい?」
「まだまだ…」
「えーっまだなの?」
「まだ夜は長いもん」
「…え…」
「こんなの序の口」
「誰だよ、体力ないなんて言ったの…」
「…まだエアタンクの空気、きれてない?」
「…まだ…大丈夫だよ…」
「…」
「ん?なに?」
「えっちだなぁラブったら」
「どっちが!!」

ラブは起き上がってシャワールームに向かった
僕もすぐ後をついていった

「言っとくけど!シャワールームではダメだよ」
「ええん?なんでぇ?」
「そういうのはイナさんとしてちょーだい!」
「そんなのイナがかわいそうだよ」
「なんで!」
「そんなヘンタイな事ばかりあいつにしちゃかわいそうでしょ?」
「…俺ならいいってわけ?」
「だってお前えっちだもん」
「違うもんっ!テジュンがスケベなだけだも…ん…あ…」

騒いでいるラブの唇を塞いで、僕はシャワールームに彼を引きずり込む
丁寧に身体を洗ってやりながらキスを繰り返す
あとは…


キング・オブ・パフォーマンス  れいんさん

僕はスヒョクの胸に顔を埋めたまま隅のソファに座っていた

「スヒョク…スヒョク…僕って正式採用じゃなかったのか?」
「ソクさん…落ち着いて…どうやら…今のところはそうみたいですね…」
「僕はおまえと一緒にいられると思って…あんな過酷な寺同然の暮らしにも耐えたのに…」
「…寺って?」
「うっうっ、スヒョク〜!…ね?寮を出て僕と一緒に暮らそう。なっ?おまえも僕に会えなくて寂しかっただろ?」
「えっと…昨日は一日荷物の整理で忙しくてそれどころじゃ…」
「えっ?そんな…朝も昼も夜も僕とずっと一緒にいたいとかって思わないの?」
「ええ…それはまあ…でも寮を出るなんて…それにソクさんお店でも会えるでしょ
 ソクさんのお部屋にだって僕、遊びに行くし…」
「それがな…あんまりあの部屋には呼びたくないっつーか…」
「え?どうして?」
「ん…まあ…シンプルでシャープな感じの部屋なんでな…」
「へええ〜そうなんですか?ふうん…ますます遊びに行きたくなっちゃうな…」
「まっ待て待て…あのな、あの部屋ではな…その…ゴニョゴニョがな…ちとまずい感じなんだ」
「ならなおさら遊びに行きたいなっ」
「スヒョク〜おまえ、面白がってない?僕の色即是空な生活…」
「ふふ、困ってるソクさんってかわいい。ところでソクさん…お店の件ですが…ソクさんにはあの特技があるでしょ?
 それをチーフとの交渉材料にしたらどうですか?」
「え?特技って?」
「例の…ほら、祭の時のセツブンショーでのパフォーマンスですよ」
「ああ…あれがどうした?」
「BHCでショータイムにあれをやったら絶対お客様に好評だと思うんですけど…
 そのへんからチーフと交渉してみたらどうです?」
「ふうん…なるほどね。言われてみたらあんなパフォーマンスできる奴はここにはいないよな」
「ね?そうでしょ?衣装だってアンドレ先生に頼めばすぐに手に入りますよ」
「わかった、スヒョク!おまえとの愛のためにも僕頑張るよ!あのキツネにちょっと話つけてくる。あ、でも今、研修中かな」
「大丈夫みたい。今はジュンホ君が体内時計についての研修やってるみたいだから…」
「そうか…ね、ね、スヒョク…その前に僕に元気の出るおまじない…」

僕はそう言ってスヒョクの唇めがけて素早く電撃ちゅうをおみまいした

ああ…ん…久しぶりのこの感触…やっぱこれだよな…

僕は夢中になってスヒョクの唇を吸った
スヒョクは僕の胸に手を添えて少しだけ抵抗してみせたが、すぐに僕のキスに応えはじめた
程なくスヒョクも顔の角度を変えたり、僕の首に腕を絡ませたりしながら僕の唇を吸っている
少しだけ薄目を開けてスヒョクの顔を見たら、悩ましい表情で僕のキスに夢中になっていた
水を得た魚の様になった僕は、少しだけ開いていたスヒョクの唇に僕の舌を差し込んだ
そしてスヒョクの舌を絡め取った
スヒョクは一瞬身体をピクンと震わせて僕の舌の動きを感じているようだ

ああ…スヒョク…おまえってば、前よりずっと敏感に反応するようなってる…
ますます一人になんてしておけない…

「ん…ね…ソクさん…早く…チーフに…」

僕はまだまだスヒョクを味わっていたかったけど、この先のスヒョクとの甘い生活の為にもキツネと話をつけるべく、しぶしぶスヒョクから唇を離した

「スヒョク、ここで待ってて。ちょっとチーフと話してくるから」


ふう〜
久しぶりのソクさんのキスにちょっと感じてしまった…
やっぱり、ソクさんのキスは凄いや
そういえば、祭の間はずっと一緒にいたんだよな
ショーの合間にキスばっかりしてたっけ…
ふふっ、ソクさんにもう少し優しくしてあげないとかわいそうかな…

あれ?
ソクさん、何ビデオテープごそごそ探してるんだろ
ビデオテープをデッキにセットしてチーフを呼びに行ったぞ

なるほど…パフォーマンスのビデオをチーフに見せながら直談判するつもりなんだ
あーあ…熱く語ってるぞ…
身振り手振り…腰まで振ってる…
チーフも身を乗り出して画面を見ているみたい…
食いついたかな?
なんとかBHCホ○ト、ショー部門担当って事で、正式採用説得できればいいんだけど…


奇妙な関係 恋人の時間 11 ぴかろん

ルームサービスが来た
僕が受け取った
ドアのところでワゴンを受け取った

「おなかすいた」
「くいしんぼ」
「…ほんとに…つまめるものばっかり…。テジュンってヤらしい…」
「…時間が勿体無い…あーん」

僕は海苔巻きを彼の口に入れてやった
彼は口をもごもごさせながら、くるりと身を翻して、チェストの上に飾ってある花を抜き取った

「勿体無いけど…入れちゃおう…」

ラブはジャグジーに向かい、花をちぎってお湯に投げ入れた

「…綺麗…」
「あーん、もう一個…」
「あむ…このピザ美味しい…」
「そう?」
「…うん…テジュンは食べないの?…あん…」
「僕の食べ物はここにあるからはむ」

僕はラブの肩の入墨を食べた
それから唇を…胸を…全身を啄ばんだ
そして花のジャグジーにラブを滑り込ませた
花の中を漂うラブは美しかった
ずっと見ていたいぐらい綺麗だった

「入んないの?」
「綺麗だよ」
「ばーか」
「好きだよ」
「俺も好きだよ…」

僕はお湯の中に入ってラブにまたキスをした
長いキスをした
色とりどりの花が、海の底の熱帯魚のように見えた
僕は恋をしている
ラブと恋をしている
いつ燃え尽きてもおかしくないほど
お互いを求め合っている
三日間とちょっと…
二人だけで過ごした
段々と好きになっていった
離れられないぐらい好きになってしまった
好きだ
好きだ
好きだ

キスをしながら僕は泣いていた
ラブが僕の涙を唇で拭う

「底に来たよね?」
「うん…」
「どうする?」
「たっぷりあしょぶ」
「まだ遊ぶの?」
「うん…」
「しようがない人だな…。この中ではいやだからね!」

ラブの目にも涙が光っていた
僕達はジャクジーから上がると手をつないでベッドルームに入った


さっきのワゴンに、お酒とグラスを用意し、僕らは最後の夜に乾杯した
食べ物はたくさんあるけれど、さほどおなかはすいてない
ラブは少し食べていたけど僕は胸が一杯で食べられない

ラブがテキーラを口移しで僕に飲ませる

いやらしいのはお前の方だ
俺が誘わなきゃ手出ししないくせに…
僕が先に手出ししたら逃げるくせに…
逃げないよ

もう一度口移しのテキーラを飲む
僕の口からあふれ出したテキーラが、僕の胸をつたう
ラブの唇がそれを追う
舌で僕の胸を舐め上げる

ふ…ほら…いやらしい…
ふん…もっとすごい事するくせに…

顎に滴るテキーラも、ラブが飲む
唇のわきからもテキーラを吸う
唇を塞いで、僕の口からテキーラの残りを貪る

ほら…いやらし…


ランチ de 研修  足バンさん

僕はスヒョンと昼食に出た
野獣と一緒に

外に出たとたんに野獣は僕を肘で突っつき小声で話しかけてきた

「おまえよぉ、マジでスヒョンさんのアレなのか?」
「あれって?」
「アレはアレだろ。色恋の仲かっつうのよ」
「そうだよ」
「ちょっと聞くけどさ、この業界はそういうことになってんのか?男と男」
「そんなことないよ。ノーマルもいるよ」
「マル?まぁいいやそれならいいんだけどな、それナシでもホ○トはできるんだな?」
「もちろん。お客のほとんどは女性だし。手は付けちゃだめだけど」
「言いたかないけどさ、スヒョンさんが俺にクラッときておまえを捨てても恨みっこナシだぜ
 それは俺の魅力が勝ったってことだかんな」
「それはそうだね」
「そんでよ、あのドンヒって奴は中身ねぇくせに威張るから気をつけろよ」
「了解」
「とにかく俺はスヒョンさんについて本気でNo.1目指すからよ」
「うん頑張って。君ならすぐに一流のホ○トになれそう」
「そうか?おまえ思ったよりいい奴だな、今度錠前破り教えてやるよ」
「ほんと?」
「おまえ気に入ったもん。でも秘密だかんな」

ふん。単純なやつ…

ランチは近くのオフィスビルの地下にできたセルフサービスのフレンチ
野獣は皿にめいっぱい乗せろと店員に言いスヒョンに何か言われ
あれもこれもと頼んでスヒョンに何か言われ
皿を乗せ過ぎたトレイが重いと文句たれてスヒョンに何か言われていた
その度におとなしくなるとこはかわいいけど

「なんか…こう…食いにくいっすね…スヒョンさんが見てると」
「なかなかうまいよナイフ使い」
「そーっすか?ひひ…ホントはキムパブなんかの方がいいんだけど」
「なんでも経験だよ」
「はいっはいっ頑張りまっす」

「ところでスヒョンさん…事務室でしゃべってたのって何ですか?」
「何ってなんのこと?」
「チーフとイナの野郎と”らりるれ”ってやつ。あれっすか?業界の隠語っすか?」
「けほんっごほっ」
「スヒョン何それ?」
「けほっ…何だろう…何の話だったかな」
「もうわかんないことだらけで…道は険しいな」
「コホ…まずは立ち聞きをやめることだな」
「あ…はぁ…すみません」

じぃ…

「なんだよドンジュン」
「何の話だって?」
「いや…だからよくわからないんだけど」
「そう…じゃぁイナさんに聞いてみようかな」
「やっ!そりは…それはダメだって」
「なんでよ」
「あいつ今弱ってるからそっとしておいてやろう、うん」
「怪しい…」
「なんすか?なんかマズいことでも言っちゃったかな?企業秘密ってやつに触れちゃったかな?」

怪しい…

近くのファッションビルで野獣に服をみつくろった
…って言っても奴の個性を引き出すっていうと
洗練されたものになるはずもなく…
尻にドクロの刺繍が入ったジーンズに切りっぱなしの黒いノースリーブTシャツ
それと黒いスニーカー

奴は靴の紐が面倒だとか
端が切りっぱなしの服は不良品だとか騒いでいたけど
着てみるとけっこう似合ってて満足したらしく
結局おとなしく買うことになった

「ドンジュン…おまえも何か買う?」
「いい…」
「なんか怒ってるの?」

僕はいきなりスヒョンの首を抱きしめて濃い濃〜いキスをした
店員とホンピョが目を丸くして固まったのがわかった

「ぶぁっは…はぁ…どうしたんだよ…ドンジュン」
「もう!さっきのこと探ろうとしたのに入ってこなかった!」
「わかった!わかったって!ちゃんと話すから」
「約束だよっ!」

「すっげぇ…俺至近距離で初めて見たわ…よぉ店員さん…あれがホ○トの鑑だぜ」
「そ…そうなんですか?」
「俺もそのうちばっちりキメるからな」
「が…頑張って下さい…」

僕たちの有意義なおランチタイムは終った


打ち上げは… オリーさん

僕はシュルシュルしている彼をなだめすかして、元の大きさに戻した
「みんないるんだから、いじけてちゃだめ。わかった?」
ぽわんの時だけでなく、拗ねても三頭身になってしまう
まったく手のかかる人だ
可愛い!!
「ヒモだなんて思ってないから、わかるよね?」
「あい…」
「ただのヒモじゃなくて、可愛いヒモだからね」
「シュルシュル…」
「冗談だってばっ!」
「あい…」

店に入るとイナさんが声を張り上げていた
「おーっす、みんな聞いてくれ。今日の打ち上げの場所が決まった」
僕と彼は入口の所で立ち止まった
「ええっと、ギョンビンがRRHっていうすげえマンションに住んでるというので、そこでやる
あっ、そこにはチーフが居候してるらしい」
「シュルシュ…」
「だめっ!ちょっと行ってくるから、シュルシュルしないでよっ」
僕はイナさんに近づいた

「ちょっと…」
「お、何だよ、ギョンビン」
僕はイナさんの耳元で囁いた
「そういう言い方するなら、僕、貸しませんよ」
「じゃあ何て言えばいいんだよ」
「あえて言うなら同居と言って下さい」
「同居だけど、ミンチョルは居候だろ?」
僕はイナさんをめっと睨みつけた
「そんな事ばっかり言ってると、テジュンさん戻って来ないから」

「あ…」
イナさんの目が泳いだ
「お、お前、そういう事言うか?先輩に向かって…」
一瞬で涙目になった
彼と友達だという理由がちょっと分かった気がした
「言わせたのは誰ですか?訂正してください」
「お前、ほんとにキツイ奴だな」
「ウシクさんが落ち込んでるっていうから承知したんですからね」
イナさんはちょっと目をウルウルさせて僕と彼のマンションだって言い直した
「セキュリティが厳しいので、コンシェルジェでBHCと言うようにして下さい」
僕は涙目のイナさんに変わって説明した

彼はやっと元に戻って、テソンさんに何やら話をしていた
たぶん料理の打ち合わせだろう
誰かに腕を掴まれたので振り返るとドンジュンさんだった
「よお、元気?」
彼は明るい笑顔だった
きっといい休日を過ごしたに違いない
「すごいマンションらしいね」
「そう。実は僕らが一番びっくりしちゃってるの」
「早速遊びに行こうと思ってたけど、今夜行けるとはね」
「うん、今夜はみんなも一緒だから、またゆっくり、ね」
「研修って、ギョンビンも新人なんだな」
「テプンさんが担当です」
「早食いは教えてもらわない方がいいよ。おなかこわすから」
「わかってますって」
「スヒョンの担当が、あいつなんだよ」
「誰?」
「ほら、ガムくちゃくちゃしてる奴」
「ああ、彼。おかげで昨日は掃除させられちゃいましたよ」
「何で?」
「店に来たら、あちこちガムがついてて、彼踏んづけちゃって…」
「で、ギョンビンが掃除したの?」
「二人で、仲良く」
「ププっ、ミンチョルさんも掃除したの?」
「そう。ある意味大変だったけどね」
「そりゃ、いいや」
「じゃあ、僕テプンさんの所に行きますから」
「うん、また後で」

ドンジュンさんと別れて、ちらっと彼の方を見るとBR> ウシクさんと何やら話をしていた
笑顔だったのでほっとした
もう、シュルシュルはないだろう
僕はテプンさんを探した
テプンさんは僕を思い切り隅の席に連れて行った

【94♪僕のきつねが】ロージーさん


奇妙な関係 恋人の時間 12 ぴかろん

ラブが僕を押し倒して体中を撫で回す
ゆっくりと撫で回す
僕の吐息は塞がれていて外に出すことができない
ラブの手が僕の首筋を撫でる
肩をなぞる
頬を包む
僕の眉をなぞる
鼻筋をなぞる
瞼をなぞる
睫毛をなぞる
唇を離して手で唇をなぞる
僕はやっと息を吐くことができた
目を閉じてラブの指先を感じていた
ラブが僕の顎をなぞっていた時、僕は頬に冷たいものを感じた
薄く目を開けるとラブがぽたぽたと涙を落としているのが見えた
僕はたまらなくなってラブを抱きしめた
そのまま身体を入れ替えて僕はラブに口付け
今日一日で幾度となく触れた彼の身体にもう一度触れた

何度も触れたのに、彼はまた、初めて触れられたかのようにビクリと動いた
唇の端から甘い声が漏れる
閉じた瞼から涙が溢れている
長い時間をかけて僕はラブの身体を僕の脳裏に刻み込んだ
そしてまた僕達は繋がる
それだけで彼の目からは涙があふれる
何度目かの繋がりから、彼はそれだけで泣き出すようになった
少しでも動くと、首を振り、押し殺した泣き声を上げる
そんな彼が愛しくて、僕はじっとしたまま彼の顔を見つめていた
手の甲を噛み、僕の方に涙に濡れた瞳を向け、動くように促す
少し動くとまた震えて泣き出すくせに…
僕だって震えて泣きそうなんだ…泣くなよ…

身体を起こして僕の胡坐の上に彼を座らせる
目を見開いて止めてとでも言うように首を振る
僕は何もせずに彼の顔を見つめる
すると彼は震えて首を振りながら僕にしがみつく
また少し動くと頭を後ろに逸らせてああ…と枯れた声を出す
その喉もとに噛みつくとああ…とまた哀しげな声を上げる

彼の腰を持ち上げて動かしてやる
片手を頭に当てて苦しげな表情で僕を見つめ
もうやめてと懇願する
やめてやるとまたイヤイヤをする…
もう一度ベッドに横たえて僕は動きを大きくする
大きく早く彼を攻める
彼は泣き叫びながら僕の唇を求めてしがみつく

愛しいラブ

僕達はほぼ同時に果てる


それでもまだ時間があった
僕は貪欲になる
死んでしまいそうなぐらい愛したのに
もっと欲しくなる
きりがない僕の欲望
それはラブも同じだった

もういいといいながら
しばらく休むとまた僕を求めるまなざしを向ける

エアタンク…まだ大丈夫?

もう…残り僅かだよ…

そう…
少し休もうか…

うん…

僕らは身体を寄せ合って少しの間眠る
海の底で美しい景色を見た
えもいわれぬ快感に酔いしれた
でももうそろそろ浮上しなくては…
本当に溺れてしまう…

夢うつつの中で僕達はお互いの気持ちを感じ取っていた


フレンドシップ  オリーさん

「イナ、ちょっといいか」
「何だよ、まだ何かあんのか」
「いいから来てくれ」
「わーったよ。今行く」

「お前、まだだめか?」
「何がだよ」
「わかってるんだろう?」
「…」
「すぐに落ち着けっていうのは無理かもしれないけど…」
「だったら何も言うなよ」

「僕とスヒョンのこと、知ってるだろ」
「薄々な」
「お互い違う道を歩いていると思ったら、ある日突然交わってしまった」
「正直驚いたぜ」
「僕はどうしていいかわからず、でも違う道に足を踏み入れた」
「…」
「ミンは出て行く僕を黙って見送り、戻った僕を黙って迎えてくれた」
「あいつらしいじゃねえか」
「何も聞かず、何も求めず、ただ黙って迎えてくれた」
「お前もラッキーな奴だな」
「そうだな。僕とスヒョンはまた交わることのない道を歩き始め
僕とミンはまた同じ道を歩き始めた」

「だから俺にもあいつのように待ってろって言うのか」
「それは人それぞれ違うものさ。イナにはイナのやり方があるだろ」
「確かに、俺はギョンビンみたいに黙ってなんかいられねえよ」
「それでいいじゃないか。でも…」
「でも?」
「お前ができる最高のやり方でテジュンさんを迎えてやれよ」
「どうすりゃいいんだか、わかんねえよ」

「以前のお前はそうじゃなかった。何でも大胆に攻めていったじゃないか
人の事を羨んだり妬んだりせず、自分の人生と向き合ってたろう」
「昔は怖いもの知らずだったからな」
「そこだよ」
「え?」
「人は失う物がない時は捨て身になれる。でも守りたい物があると消極的になってしまう」
「俺に守りたい物ができたってことか…」
「失いたくない人ができたから、わからないうちに戸惑ってるんだ」
「かもな」
「御曹司っていうのは気楽に見えるだろ?でも案外大変なんだ
持っている物を維持しなければいけないから大胆に攻められない
ある意味、成り上がるより大変かもしれない。ま、僕はすべて無くしたけど」
「無くすのが怖いか…」
「持っている事が普通だから、スタートがそこから始まる
持っている物が大きければ大きいほど身動きが取れない
逆に何もなければどんな事だってやれる強みがある」
「テジュンを無くしたくなくて、身動きできない俺か…前ならどんどん行けたのに
俺はこの件に関したら御曹司ってことだな」
「イナが御曹司っていうのは似合わないけどな」
「悪かったな、どうせ俺は前科者だよ」
「そのくらい威勢がいい方がお前らしい。で、どうしても守りたければ
じっとしていた方がいい時もある。そして辛抱強くチャンスを待つんだ」
「なるほど。ギャンブルの事、俺忘れてたわ
勝負は最後に一発でかいのを決めればいいんだ。だろ?」 「どうするか決めるのはイナ自身だ」

「お前とスヒョン、また交わっちまうことはないのか」
「僕とスヒョンの歩いている道は違うけど、お互いどこをどう歩いているか自然とわかる
そんな感じかな」
「それって、まだ完全に切れてねえって事だろ」
「そうだな…でもお互い帰る場所があったのは確かだ
特に僕の場合、ミンが両手を広げて待っていてくれた」
「ほんとにお前って果報者。狐なのに…でも俺もできるかな」
「だからイナはイナのやり方を探すんだよ」
「果報者が何言ってるんだか」
「これでも僕は、これからミンと歩いていけるように僕なりに努力してる」
「お前がか?」
「そうだよ」
「どうやって?」
「僕のすべてをミンに見せてる。どんな小さな事でも隠さず、ごまかさず
ミンが僕に隙間もないほど寄り添えるように。それが今の僕にできるすべてだ」
「お前のできるすべてね…」
「ミンを失いたくない」
「お前、今の話、ギョンビンにしたのか」
「いや。うまく言えない」
「ばっかだなあ。俺にじゃなくあいつに言ってやれよ」
「面と向かってはなかなか言えないんだ」
「キザで器用そうに見えるお前は、ほんとは不器用な大馬鹿者だ」
「大胆不敵なギャンブラーが、ピイピイ泣いてるんだ。人の事言えないだろ
とにかくだ、ちゃんと考えろよ。いいな」
「わかったよ。お前さ…」
「何だ?」
「ヒモにしておくには惜しい男だな」
「まだ言うか!大体こんな賢いヒモは他にはいない」
「けっ、自惚れの強い奴だぜ。ギョンビンはどうしてお前みたいのがいいのか、わかんねえよ」
「僕だって、どうしてテジュンさんみたいに良識ある人がお前がいいのかわからないね」
「馬鹿野郎!」
「そっちこそ!」
「戻るぞ」
「言われなくても戻る」

「ふんっ!」
「へんっ!」
「ありがとよ」
「だったら、もっとありがたそうに言え」
「ふんっ!」
「へんっ!」


◇厨房_別宅_2◇   妄想省家政婦mayoさん 

僕はBHC厨房の中二階の通称「覗きっこ部屋」でテソンさんに機材の説明を受けていた…
ここには映画に出て来る様なスパイグッズがたくさんあるんだ…
ライター型やペン型カメラなんか普通だけど…隠しマイクの種類もすごいんだ…
紙みたいに薄いマイクもあって鼻クソみたいな小さい粒々が表面にくっついてる…
粒々を強くこするとテソンさんに怒られた…

「ミンギ..そこにチップが埋まってる..指紋をつけないで..」
「テソンさん..こういうの..ヌナはどうやって手に入れるの?」
「はは..いろいろその都度違う..そのマイクはmayoが造った..」
「えっ##..」
「その鼻くそみたいな部品を調達して自分で基盤に半田付けするんだ..拡大レンズ使ってさ..」
「うっそぉー」
「そのうちミンギにも造らせる..って言ってたよ..頑張って ^_^」
「ひょえー@@」

打ち合わせの後..各自が教育つーの?研修つーの?そんなのをやってた…
イヌ先生は可動式の黒板持ち出して線書いてた…振り返った顔が格好良かった…
ギョンジンさんが泣き顔から憂い顔になっていた^^;

スヒョンさんはスマートな語り口でうるさいホンピョさんを静かにさせてから
ドンジュンさんを連れてランチに行ったみたい…

ドンヒさんはスヒョン狙いが外れてがっかり顔だったけど..
テジンさんにネクタイ外されてヘナヘナ…でもって外された太いネクタイ拾ってた…^^;;

テプンさんはギョンビンさんにチェリムさんとの”ナニ”をツバ飛ばして喋ってる…
モニターで見ていたテソンさんが僕に背中を向けてヌナにこそこそ電話…^^;;

「mayo!mayo!テプン..やっちゃたってっさっ##」

自分たちもやっちゃったくせに…っと僕はテソンさんの背中向かって無言で言った^^;…
で…ちょっと…想像した…テソンさんとヌナ….
でも…僕には全っ然##…想像つかないんだ…何故かな…

先輩の研修はチーフのミンチョルさんみたいだ…
でもミンチョルさんがソクさんに捕まったり…ギョンビンさんといちゃいちゃしたりで…
先輩と話すタイミングが合わないみたいだった…
間をもてあました先輩が僕とテソンさんを見つけて上がってきた…

「前に来たときは気が付かなかったけど..すごいね..ここ..」
「先輩〜何でもあるんだ..ないのは銃刀くらいだね..」
「あはは..テソン君..覗きっこ部屋じゃなくて..スパイ小屋って呼ぼうか..これから..」
「ソヌさん^^;;」

テソンさんが苦笑してる…
先輩は一度BHCに逃げてきて..テソンさんとヌナに助けられた…
朝方連絡が来て僕が先輩を迎えに来た時この部屋にいた…
僕はその時初めてヌナとテソンさんに会ったんだっけ…

ミンチョルさんがテソンさんをふわ〜んと例の手で呼び…テソンさんと先輩は下に降りた…
テソンさんと話したあとにミンチョルさんが先輩と一緒に事務所の方に行った…

テソンさんはまた僕の隣に戻ってきてヌナに電話をかけた…

「ヌナ…歓迎会来るって?」
「ぅん…僕ひとりじゃ大変だからさ…」
「そっか…僕も手伝うよ…」
「サンキュ…」

僕とテソンさんは先輩とミンチョルさんの研修…?…を聞き始めた…
テソンさんはごそごそ机の下をいじっていた…

「やった…ミンギ…ちょっとPCに繋いで…」

僕がPCにセットすると事務所の様子が写った…恐るべし@@諜報部
僕とテソンさんはPCの前にへばりついた…へっへ〜…^^;;

〜〜〜〜

ミンチョルとソヌはテーブルを挟みソファに座っている…
ミンチョルはテーブルに置いた資料にもう一度目を通し…
前髪を薬指でサッと祓いソファに背もたれた…
ソヌはソファに深く座り足を組み…ソファの縁に肘を付き手のひらを頬に当てている…

「ソヌさんはマネージャーの経験が豊富だから基本的な接客に関しては問題ないですね…」
「マネージャーとして一切の業務を任されてきたから…」
「そうでしたね…資料にもそうある…」
「ミンチョルさ…」
「チーフでいいですよ…ソヌさん…」
「チーフは売り上げの管理..経費の管理もしているのかな?…」
「一応…」
「そう…」
「何か…」
「僕はスカウトが最初に話を持ってきたとき..悪いが調べさせてもらった…店の状態を…」
「ふっ…そうですか…その時はまだ…マネージャーだったんですね…」
「ぷっ#そう…」

「で…どうでした?ソヌさんの調査は…」
「確かに数字的には大きな問題はない…
 細かく見ると…営業時間の割に経費がかかりすぎて回転が悪いけどね…」
「営業時間が短い分内容の濃いサービスで客単価を高くする…」
「そうだね…BHCはこの傾向が強い…メンバーが多彩なのも魅力的だから…
 それに…営業時間が短いのはオーナーの意向と聞いた…」
「何処からその話を…スカウトからですか?」
「そう…余計なことは言わずに答えられる範囲で簡潔に答えてくれた…」
「そうですか…」(ちっ…ったく…)

ミンチョルのこめかみに筋が立ってきた…

「で...問題がある...」
「問題...?」
「チーフ..僕は数字的には大きな問題はない...経費がかかり...細かい数字を見た..云々...言ったよね..」
「...あっ##...」
「セキュリティー…」
「わかったようだね…セキュリティーに問題があった…」
「しかし..PWで保護されていたはず..」
「半分素人の僕でもハッカーできるようなシステムじゃ駄目だよ..」
「…」
「数字を読まれても店は繁盛かもしれない…でも何時..何処で足下を掬われるかわからない..」
「あなたは身をもって経験してる...ってことですか..」
「それに..」
「それに...?」
「僕がこの話をしたときにすぐ気が付かないと…ちょっと..ぼけちゃった..のら?」
「ぁ…ぁ…」
「…解読しやすかったよ..PW…」
「あぅ..」
「まっ..安易に今の恋人の名前に替えるのもいただけないかな…^_^…」
「ソヌさん…^^;;…」

「僕は数字には強い…でもホストとして客の前に立てるかはちょっと不安はある..」
「仕事を完璧にこなし隙がない..愛を知らないと資料にはありました」
「…知らないわけじゃないよ…」

ソヌはちょっと遠くを見る目になった…だがすぐ瞬きをして元の顔に戻る…

「祭りでメンバーのショーを見て..パーティー..打ち上げに出てよかったよ...皆のこともわかったしね..」
「顔は皆同じですけど..皆個性がありますから…」
「サイズもかな?..」
「うっ…」
「ぷっ…」
「ソヌさんが..皆と関わって少しづつ自分を取り戻せるといいですね..」
「そうありたいね..」

お互いに眉を上げふっ##っと笑う…

「ドアの外で待ってるんよ…彼…」

ソヌはそう言うとソファから立ち上がり事務所のドアを開けた…
ドアの外にいたミンを中へ促し…ソヌは事務所を出た…


ジュンホの研修  れいんさん

いまから、たいないどけいについてのおはなしをしたいとおもいます

ぼくはからだのなかには、たいないどけいがあります
まちがってとけいをたべてしまって、いぶくろのなかにとけいがあるというわけではありません
でも、たいないどけいといぶくろというのは、とてもみっせつなかんけいがあります
それについては、またあとでおはなししたいとおもいます

みなさんはたいないどけいをごぞんじですか?
またはじぶんももっているというかたはいませんか?

あ、てぷんさん
さっきから、がっつぽーずとかぴーすさいんをぼくにしてみせていますが…
なにかぼくにいいたいことでもありますか?

「おっ!いや、なに…その…俺もおまえの仲間になったってのを、その…ちょっと一言報告しとこうかと…」

てぷんさんもからだのなかにたいないどけいがあるんですか?

「違う違う!その話じゃなくて…その…チェリムとな…なにをだな…」

え…?
…ああ…れいのことですね
で?なんらうんどで、はんていは?

「えっ?えっと…1ラウンドで…テクニカルノックアウトかな(俺の方が)…」

ふっ…
じゃ、またつぎのしあいにむけて、とれーにんぐにはげんでください

「は、はい…(しゅん…)」

さて、はなしはもどりますが、なぜかぼくたちのまわりには
どこにいってもとけいがありません
3っかくらいたっているようなのに、1じかんしかたっていなかったりします
そこで、たいないどけいがゆいいつたよりになってくるわけです

ひとはむかし、ひがしのそらにひがのぼれば、あさ
にしのそらにひがしずめば、ゆうがた
そらにほしがかがやけば、よる…
というふうにじかんのながれをとらえていました

でもそれはおくがいにいてこそわかることです
ぼくたちのように、しつないにいることがおおいとそういうわけにはいきません
そこで、さきほどおはなしした、いぶくろがじゅうようないみをもつことになるのです

たくさんねむっておなかがすいてめがさめた
そのときたべたのがあさごはん
つぎにおなかがすいてたべたのがおひるごはん…
そんなぐあいです

ときどきこばらがすいておやつをたべたり、やしょくをたべたりすることもあるかもしれません
そのときはちゃんとまちがえないようにかうんとしてください
そしてねむくなったらよるです

ですから、やたらかんしょくをしたり、よふかしやあさねぼうをすると
たいないどけいがくるってきます
きそくただしいせいかつが、せいかくなたいないどけいをいじしていくきほんてきなことです

みなさん、わかりましたでしょうか?
なにかごしつもんはありませんか?
ではこれで、たいないどけいのけんしゅうをおわりたいとおもいます

あ、さいごにつけくわえておきますが、ちゅうやをとわず、なにやあれをしますと
たいないどけいがくるってきますので、ちゅういしてください

「「「どきっ!」」」

いま、どきっとしたかたがた…くれぐれもそれはよるにおねがいします…


チョンマンです  ぴかろん

チョンマンです…
チニさんと約束したとです
アメリカに映画の勉強に行くって事…

チョンマンです…
オーナーに許可を貰いに行ったとです…
なんて言われるか心配だったとです…
店を辞めろと言われたら…そうするしかなかと…
らって僕はチニさんが大好きだし、そして映画も大好きだから…
れもそうするとBHCの仲間達に会えなくなると…

ツラか〜…
仕事にも慣れて、せっかく楽しくなってきたとですし…
辞めるのは嫌です

チョンマンです
不安を抱えながらオーナーに会うたとです

「僕、アメリカに映画の勉強をしに、一年ぐらい行きたいんです。あの…チニさんと…」

思い切ってそうゆうたとです!
するとオーナーはこうゆうたと…

「チニさんと?一緒に住むの?」

そそそそんな事までは具体的に決めておらんとですっ!

「あのあの第一の目的は勉強なんで…」
「スンドン会長にもう言ったの?」
「ひひひん。まだれす」
「一緒に行くんだったらスンドン会長に先に許しを乞うべきだよ。…ま、前後してるけど…いいよ、私は」

あっさりすぎると…

「は…あの…辞めろとか休んで困るとかいったことは…」
「んー、新人も入ってきたし、スカウトがまたもっとピチピチしたのを連れてくるみたいだから…いいよ別に」
「へっ…じゃっ辞めなきゃいけない?」
「うんにゃ、辞めちゃだめだよ。君もある意味看板なんだから!あのモノマネショーは君にしかできないし」
「…はい…」
「だからま、そう堅く考えないで、したいだけ勉強もナニもほほほしてくりゃいいじゃん」
「ふあっ?!」
「あ、チニくんとキメたときには必ず報告ね」
「ひえっ?!」
「まぁそれについてはきっと、テプンあたりが君に毎週電話入れて聞き込むだろうから、正直に答えるように!ウソついてもだめだよ
チニさんにはチェリム君からさぐりを入れてもらうからね。もしウソついたら強制送還してもらう」
「…」
「ま、できれば二、三ヶ月に一度は帰ってきてほしいねぇ。でないとお客様、君の事忘れちゃうよお」
「…ふひん…」

チョンマンです…
というわけでなんだかオーケーのようですが、スンドン会長にご挨拶しなければいけないのがずっしり重荷です
それと…なぜ僕とチニさんがキメた事を報告しなきゃいけないんですかっ!
それもテプンさんに?!うう…
こんなことならこっそり黙って行ってしまえばよかったとですっ!
れも…ああ…僕はBHCが好きですから、留学から帰ってきたらホ○トをしながら…映画製作にかかわりたかとですううう…

チョンマンです…

そうだっ!留学中はストイックにプラトニックラブを貫けば…そうすればテプンさんに報告なんぞしなくてよかとです!
名案です!ちょっと希望の光が射してきたとですぅっ!


お父さんの結婚  足バンさん

テジです
いつも僕のお父さんがお世話になってます

祭っていうお仕事の間僕はずっとおばさんの家にいました
お父さんといる時より落ち着いた毎日でした

ジソクおじさんはスハ先生といつもご飯を食べにきます
チャンジュおばさんは新婚は新婚らしく勝手にやれって言いながら
でもほんとは嬉しそうにご飯を出してます

ここだけの話ですが…チャンジュおばさんとパッカさんってすっごく仲がいいんですよ
僕バッカさんって大好きです

ユンジュおばさんは身体の調子も良くていろんな勉強してます
僕にお勉強を教えてくれるのもユンジュおばさんです
シニョプさんとはしょっちゅう喧嘩をしてるみたいですけど
それがけっこう楽しそうなんでおかしいです

ムンジュおばさんは…あ、お姉ちゃんって呼べってうるさいんだけど
何度「叔母」さんの意味だって言ってもやだって言うんだ
そのムンジュお姉ちゃんは相変わらずピルドゥおじさんを
お尻に敷いてます

で、祭が終わったあと、お父さんが早朝すんごい勢いで駆け込んできました

「テジ!テジ!テジ!会いたかったよぉ〜!」

って僕を抱きしめて、僕と目が合うと
「いやっまいったなもぉ〜けっけっけ」
なんてニヤニヤしちゃってすんごく不気味な再会でした
すぐに女性関係に変化ありだってわかりました

お父さんは靴を脱ぎ捨てて転びそうに部屋に入って行くと
チャンジュおばさんに土下座して
「俺けけけ結婚するからっ!ばしっとキメたから!」
と言いながらまた
「いやどーしてもって言われて、もうどうにもなんなくってよ」

結婚か…思ったより展開が早いですね
でもお父さんが”ばしっとキメた”って言うときは
”ばしっとキメられた”時だって僕はわかってます

で、話を聞いてたら相手はあのチェリムさんだって言うじゃないですか
やっぱ”キメられた”のはもう間違いありません

チャンジュおばさんはちょっと戸惑ってたけど
ジソクおじさん達にちゃんと話すのよって微笑みました
第1関門突破だよお父さん
側にいたユンジュおばちゃんは嬉しそうに
さっそくムンジュおばちゃんに電話をいれてました

お父さんはヒャッホーとかイッヒーとか叫んで僕を振り返り
「テジっ!おまえ!聞いてたのか!」
聞こえるでしょう、普通

いきなり真剣な目で僕の肩をつかんだので
”俺は結婚することになった。おまえにお母さんができる”
って言うかと思ったら
「男はキメるときはキメなくちゃなんねぇぞ。いいか最初が肝心だ
 ”一日の計は朝にあり”ってんだぞ憶えとけよ」
よほどキメられたんだな

僕は何気なく
「いつか赤ちゃんができたら僕の兄弟だね」
って言ったら
「おおおおおめぇテジ!そそそりゃ仕方なかったんだよ!いろいろ準備はしたんだぞ!
 でもどうしてもって言われりゃそりゃよ!辛いけどよ男は迷っちゃいけねぇんだよ!」
これ以上話すと聞いちゃいけないこと言い出しそうだから
僕はその辺で切り上げることにしました

なんでもいいな
お父さんが幸せそうな顔してるから、きっと大丈夫だ

オッチョコチョイで人が良くて調子のいいお父さん
なんだか心配で見てる方がどきどきするけど…

友達や家族を大事にするお父さん…

僕はお父さんに感謝してます

ホントのお父さんかどうかはわからないけど
そんなことはどうでもいいと思ってます
テプン父さん…
僕にとってはたったひとりの最高のお父さんです

幸せになってほしいな


僕の居る場所  ぴかろん

ミソチョルです
みなしゃん、覚えてらっしゃいましゅか?
僕は祭が終わってからミンミンと一緒に豪華なマンションにやってきました
僕のお部屋は今のところココみたいれしゅ

でも僕は歩けないのでココがどこなのかよくわかりましぇん…
ただ…とっても天井に近くって…このままここにいることになると僕は埃にまみれてしまいしょうでしゅ

あのね…それにすっごくはじゅかしいんですけど…僕の目の下でミンとミンチョルさんはあのその…ごにょごにょ…

ひいいん
僕は目をつぶりましたけど、僕のいるところがゆさゆさ揺れたりして、僕はすっごく怖かったんで薄目を開けたら…ミンチョルさんの髪の毛が鳥の巣になってたんでしゅ…
それをミンが優しくなでなでしてましたけども、ミンチョルさんの目はぽやんになってて、それから・・ゆさゆさが終わるとミンチョルさんは…僕と同じぐらいの大きさになっているような気がしました…
ミンチョルさんと僕は確かに、確かに目が合ったのに、ミンがいろいろと注文をつけて、それにしたがっていたので、きっと僕の事をわしゅれたのでしゅね…ぐしゅん…

ミンとミンチョルさんは色違いのテロテロのパジャマを着て眠りました
どうみてもミンチョルさんのパジャマが大きすぎます…どうしてでしょう…
僕も、やっと静かに眠れそうで、朝までぐっすり眠りました

「おはよう」というミンチョルさんの低い声が聞こえたので、僕に言ったのかなと思って慌てて目をあけたら…ミンとチウをしていました…ひひーん…
長いことチウしたあと、かなりなんだかんだとじゃれあってました
あ。ミンチョルさんのパジャマ、ちょうどよくなってましゅ…
不思議だな…
それからお着替えをしてどこかへお出かけしていくようでした
僕のいる部屋のドアを閉めるとき、ミンが僕にウインクして行きました
ひぇん…僕はいつまでここにいればいいのでしゅかぁぁっぐしゅんぐしゅん

泣いていたらミンが忘れ物を取りに来て、僕を見上げて言いました

「彼が気づいたら降ろしてあげるからね。フフ」

きぢゅいてましゅよううう…ミンがあんなにミンチョルさんを苛めるからあああ…ええんええん
でも…ま、いいか…
苛めてても仲良しみたいでしゅから…
らってミンチョルさんのぽわんな顔、いっぱいみちゃったんだもんえへへ…


ソクのお願い    オリーさん

「ミンチョルさん、ちょっといいですか?」
「何です、ソクさん」
「ちょっと、こっち、こっち」
「何です?また僕を襲う?」
「いやいや、その節はすみません。僕すっかり変わりましたから」
「そのようですね」
「で、これ、これ見てください」
「はあ…これは祭の時のセツブンショーですね」
「そうです。どうですか?」
「いいですね」
「でしょう?」
「すごくいいですね」
「でしょう?」
「じゃ、これで」
「あ、ちょっと待って」
「まだ何か?」
「いや、いいでしょ、これ」
「踊りも衣裳も素晴らしい。なかなかですよ」
「でしょう?」
「じゃ、これで」

「あ、ちょっと…」
「何か?」
「この衣裳全部送ってもらえばすぐ届くんです。いくつかは手元にありますし」
「よかったですね。また使えそうじゃないですか」
「そうなんです!使えそうじゃなくて、使えます」
「そう。じゃ、これで」
「あ、ちょっと…」
「何か言いたいならはっきり言って下さい。僕もヒマじゃありませんから」
「あ、すみません。あの、あの、あのですね…」
「はい」
「あのですね…」
「はい」
「あの…」
「早くっ!」
「ショーをやらせてくださいっ!」
「は?」
「僕にBHCでショーをやらせてくださいっ!」
「…」
「だめですか?」
「…」
「だめ?」
「…」
「何とか言って…」
「…」

「惜しいな」
「は?」
「惜しいなって言ったんです」
「何がです?」
「いいショーなんですが、ソクさん、あなたじゃだめです」
「え…」
「この店には、この顔でないとダメなんですよ」
「この顔って?」
「僕、スヒョン、イナ、スヒョク…全員です」
「は?それは…みんな似てるけど、微妙に違うじゃないですかっ!
あなたとスヒョクは似ても似つかない!」

「どういう意味です?」
「そのスヒョクの方が可愛くて、あなたがつり目だ、なんていう意味ではありませんっ!が…」
「という意味でしょうがっ!ケホン。とにかくこの店はBHC系でないと。じゃ、僕はこれで」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!じゃ、僕何してればいいんですか?」
「外部契約スタッフですから、そのうちオーナーから連絡がありますよ」
「そのうちって?」
「オーナーが忘れてなければ、そのうち」
「そんな…じゃ僕はそれまでずっとあの寺で待機ですか…」
「寺?」
「あ、下宿でした、寺のような下宿。禁欲生活が辛くて、あ、いや…ゲホンっ!」

「どうしてもというなら、裏技がありますが」
「裏技?何です、教えて下さいっ!」
「ゲ、ゲホっ!ちょ、ちょっと首絞めないでくださいよ」
「すみません、つい興奮して。で裏技って?」
「この店はBHC系の顔じゃないとダメなんですが、オーナーはMKB系の顔も好きなんです」
「MKB系?」
「Milky Boy系だからMKB。わかります?ソクさんはMKB系に入りますから、うまくすればうまくいきます」
「何をどう?」
「スヒョクをメインにショーをするんです。あなたはアシスト。祭と逆です」
「あ…」
「鼻血が出てますよ」
「すみません、スヒョクがあの踊りをするのを想像したら、つい…ゴックンっ!」
「ほら、鼻血拭いて下さい」
「僕がアシストでスヒョクが踊る」
「さっきも言ったように、あなたMKB系だから、どさくさに紛れて二人で踊ったりしてもたぶんオーナーは文句言わないと思いますよ」
「あ、ありがとうっ!」
「だから、首絞めないで。ゲホッ!」
「それで行きます、それだっ!」
「でも…」
「でも?」
「乙女のスヒョクがあの踊りしてくれますか?」
「あ…」
「ほらっ、鼻血!」
「しますっ!させますっ!頼みますっ!説得しますっ!」

「大丈夫ですか?」
「はいっ!」
「じゃあ、二人でよく話し合って」
「あ、ありがとうございますっ!」

「あと、今度店にカウンターバーを作るんですよ。祭でカクテルが好評だったので」
「はあ…」
「あなた、シェーカー振れます?」
「腰なら振れますが…」

スパコォォォォンっ!

「あ、すみません。いえ振れませんが」
「まだバーテンが決まってなくて、とりあえず、オールインからチュニルさんを応援に頼むことになってるんです
ショーの合間に手伝いします?」
「します!します!腰が振れるんだから、シェーカーくらいいくらでも振りますっ!」
「シェイカーはだてに振ればいいってもんじゃありません」
「はあ…」
「じゃ、チュニルさんに色々教えてもらって下さい。僕から話しておきます」
「わかりました」
「じゃ、僕はこれで」
「ミンチョルさん、つり目だなんて言ってすみませんっ!あなたいい人だ」
「ふっ」

「スヒョク〜、うまくいったよ」
「よかったね」
「スヒョク〜、で、お願いがあるんだ」
「何?」
「僕と君とでショーをするならOKだって。やるよね?ね?」
「どんな?」
「祭で僕が踊ったやつだよ。あれをスヒョクも覚えて僕と二人で、ねっ!」
「いやだ」
「え…」
「恥ずかしい」
「そ、そんな…」
「僕、乙女だよ。あんな踊りできないっ!」
「スヒョク〜、僕の生活かかってるんだよ〜」
「いやだ!」
「スヒョク〜」
「いやだ!」
以下繰り返し


◇厨房ー別宅_3◇  妄想省家政婦mayoさん  

「ミンギ…」
「なに..テソンさん…」
「ソヌさんってさ…僕が最初会った時と随分と感じが変わった…」
「へへ…そう?」
「一度mayoと食事に行ったときに初めて話したけど…」
「えっ…来たことあんの?僕が休みの時か…」
「ぅん…その時もちょっとは笑ったけどさ…今とは全然違ってたな…」
「その後いろいろあったからね…先輩も…」
「ホントは…優しくて…よく笑って…そんな人なんじゃないか?ソヌさんって…」
「…」
「ミンギ?…」

ミンギはちょっと黙った…
僕はミンギの肩に手を伸ばし…軽く叩いた…肩をすくめてミンギはちょっと笑った…

「先輩はさ…」
「ぅん…」
「愛を知らないんじゃないんだ…信じなくなって…忘れたんだよ…」
「忘れるために仕事に打ち込んだってことかな…」
「そんなとこかな…」
「そうか…」

「やべ…僕…まぁ〜た…口すべらしちゃった…先輩に内緒だよ#…」
「はは…わかった…また…って…」
「ヌナは知ってるよ…ポジャンマジャで僕がポロッ#っと言っちゃった^^;…」
「そう…ミンギ…ポジャンマジャって何よ…」
「ぇっ@@…ぁ…ぁ〜もぉ〜僕ってホンっト…この口だ…この口が悪いんだ…」

ミンギは揃えた4本の指で自分のお喋りなデカイ口をピシピシ##叩いていた…

「僕と先輩とヌナでポジャンマジャたまに行くんだ…」
「ぁぅ…そうなの…」
「ごめん…テソンさん…」
「別にあやまることないよ…」
「うっそぉー…今すんげぇーヤキモチ妬いたっしょぉー」
「ぁ…あのね##」
「あ…でも…もう…そんな心配ないか…へっへぇ〜^o^ 」

ミンギは僕の顔を下から覗き込み…「ぷひひ,,」と冷やかす…
僕がミンギの頭を押さえ込みじゃれていると闇夜から電話が入った…

「どうした…?」
「はるみは連れて行けないね…」
「ぅん...はるみはお留守番かな…」
「わかった…」

〜〜〜
はるみは私の膝の上で後足を揃え…PCの端に前足を軽く添えて画面を覗いている…

「はるみは…どっちが好き?メッシュ?はえぎわ?」
「んー…どっちも…かにゃ〜…でみょぉ…」
「どっちかって言ったら?」

はるみは首をかしげ目をくりくりと動かし振り返る…

「はえぎわかにゃん…」
「ぷっ…だよね…渋いよねっ#」
「ぅん…それに…"はえぎわ"っていわないと…まよ…ごはんくれないもん…にゃ?」
「はるみ〜」
「ごめん…みゃぉん#」

はるみの顔をつんつんした後…オーナーからのメールが届いた…
オーナーはOKか…
チーフの許可いるかな…んー…いいや…無視#無視#…けっけ^o^

一件の企画書を急いで仕上げた…そしてファイルをさるところにメールで送る…

「どょこにおくったにょ?」
「ん…おもしろいとこ…こういう人がいる処だよ…」

はるみに写真を見せた…

「ふひゃひゃ#ふひゃひゃ#…かわいー#かわいーにゃぁ〜ん#」
「でしょー^_^」

「さて…はるみはまたお留守番かな…」
「ふぃ〜ん…>o<…でもがまんする…にゃん…」
「そっ?がまんできる?」
「みゃん#…てそんだけじゃたいへんだみょん…」
「明日になればさ…留守番おやじと陽だまり君…帰ってくるからさ…」
「ひだまりくん?」
「ぅん…暖かいんだ…はるみも気に入るよ…」
「みゃん#^o^…でも…まよぉ〜また…おやじなにょ〜?…」
「ごめん〜…ちょっとすけべぇーなんだ…はるみ…^^;;…」
「ひゃひゃ…なら…かんげい…みゃぉん#」
「…^^;;」

〜〜〜

闇夜の電話が終わるころにソヌは上がってきてソファに足を組んで座っていた…
ミンギはソヌに気付かれない様に…僕に口をキュ#っと結んで軽く頭を振って見せた…
内緒内緒の意だ…^^;;…僕も口をキュ#っと結んで…眉を上げた…

「ミンギ…」
「は…はい…先輩…な…何か…」
「何かまた…そのデカイ口がぱくぱく〜っと動いたんじゃないか?」
「ぃ…ぃえ…何も…」
「そっ#…ぁ…テソン君…はるみって…もう君たち子供いるの?」
「ち…違いますって#…彼女の愛猫です…」
「そう…可愛いの?」
「目が青くて大きくて…白いラグドールです…」
「そう…ブルーアイはめずらしい…」
「彼女もそう言ってました…」

「僕見たいなぁ…」
「ミンギ…厨房には入れないからさ…」
「そっかぁ…僕今度見にいってもいい?」
「いいよ…ぁ…ミンギ…監督って歓迎会来るの?」
「ぅん…ぁ…場所教えないとね…」

ミンギは携帯でジホに連絡をした…


不安定な僕  ぴかろん

先生の懐はあったかい
僕はいつになく我儘で甘えん坊だ
そして大事な用事さえも忘れてしまう
昨日も先生と一緒にお義父さんに電話した
近いうちにうかがいますと言うと嬉しそうに待ってるよと言ってくれた
お義父さんを悲しませてしまうかもしれないのに…
ううん、絶対に悲しませる…
そう思うと不安で堪らない
僕は先生にしがみついた
先生がギョンジンの研修をしている時でさえも
僕は不安に耐え切れず先生にしがみついた

先生にくっついている時、僕は少しだけ安心できる
お義父さんに会って、本当の事を言って…
それから僕達どうなるんだろう…
不安だった

先生と散歩してそれから…
寮に戻ったのは朝になってからだった
先生のマンションにくっついていった
ずっと抱きしめて貰っていた
先生がにっこり笑って大丈夫だよって言ってくれると少しの間だけ大丈夫だって思える
でもすぐに不安になる
僕は先生に当り散らす
先生はまた僕を抱きしめて頭を撫でてくれる
安心する
今度はギョンジンの事を思い出して当り散らす
先生は少し僕を咎めて、僕の事をどんなに思っているか、どんなに大事かを何度も言い聞かせてくれる
ずっとこの繰り返しだ
先生はイヤにならないのかな…
こんな不安定な僕なんか、突き放したいんじゃないのかな…

そう思うとまた僕は先生に嫌味を言う
嫌味を言って泣いて叫んで帰ろうとする
先生は引きとめない
なんで引きとめないのさとダダをこねると、両手を広げて僕を待っている
僕は先生の懐に飛び込んで温めてもらう
こんな僕は嫌だ
こんな僕なんか嫌でしょう?
僕だってこんな人間嫌いなんだから、先生、もう嫌でしょう?

泣きじゃくって先生に言葉をぶつける
先生は僕の頬を包み込んで優しく微笑み

「大好きだよ」

と言ってくれる
どうしてさ…どうしてそんなに優しいのさ…
僕なんか…こんな僕なんか…

「もうすぐだよ。心配しないで…」
「何がもうすぐなんだよ!どうにもならなかったらどうするんだよ!」
「どうにかなるさ。大丈夫だよ」
「どうにかなるって」
「僕だってどうにかなったんだ…。大丈夫だ…」

先生は僕にくちづける
先生への想いが溢れ出す
なのに僕はいつも同じ言葉を吐く

先生なんか好きにならなきゃよかった…
先生なんかと出会わなきゃよかった…

先生を傷つけると知りながら僕はその言葉を毎日繰り返す

嫌だろ?早く捨てちゃえよ、僕なんか

「ウシク」

なんだよ!殴りたきゃ殴れよ!

「愛してるよ」

…先生…先生…

僕は夜が怖い
一人でいるのが怖い
先生の腕の中でないと眠れない
先生の腕の中でさえもぐっすりとなんて眠れない…

僕は僕が犯すであろう罪に怯えている
先生は・・それを知っているから優しいんだ…

「何があっても離さない。僕達の心はいつも一緒だよ…ウシク…愛してる」

先生…先生…助けて…怖いよ…


研修チェック  足バンさん

店に戻るとほとんどの研修が終っていた
というか…ふふ…まともな研修になっていただろうか

「ホンピョ…じゃ頑張って」
「うすっ頑張ります!」
「今度ゆっくりお兄さんの話でも聞かせて」
「はいっそりゃもうっ…はいっうるうる」

端のボックスでポケッとしているギョンジンのところへ行った

「イヌ先生のお話どうだった?」
「スヒョンさん…僕…先生とウシクさんの様子を見てたら…心にしみちゃって…」
「あのふたりも今越えようとしている険しい山があるんだ」
「あんな風にラブをつつんでやりたい…」
「君は変わったね」
「本当に?」
「うん…僕君を引っぱたいたような記憶があるなぁ」
「あ…そうですね…すみませんでした」
「ここに来てもらえてよかったよ…ようこそ」

手を差し出すとギョンジンはちょっとはにかみ微笑んで手を握った
そういう顔はギョンビンにそっくりだ

次は体内時計について必死にメモをとっているドンヒのところへ

「うぁっ!スヒョンさんっ!」
「勉強熱心だね。いろいろわかった?」
「はいっ!テジンさんのあの色気は勉強になりました!」
「うん…彼のムッツリビームは店1番かもね…そのネクタイは?」
「あっテジンさんにしていただいたんですが…なんか細くて落ち着かないんですが」
「その方が色っぽいかな」
「そ、そうですかっ?」
「うん…でも個性を大事にね君だけの」
「あっそんなに近づかないでくだっ…やっもっと近づいても…じゃなくてえっと」
「ふふ…じゃ頑張って」
「ははいっ…」

厨房にいるソヌ君のところへ顔を出す
テソンとミンギ君がみんなにお茶を入れてくれているところだった

「お疲れさまでした。ゆっくり話せましたか?」
「ええ。でもちょっと余計なことまで言ってしまったかも」
「経営のこととか?」
「まぁ…」
「心強いです。ぜひ頭突っ込んで下さい…いやちょっと怖いけど」
「あれ?僕って怖いですか?」
「でもスヒョンさん…先輩ってこんなクールな顔して意外とアレなんですよ」
「アレ?」
「こらっミンギっ!おまえはまた!」
「じゃそのうちにアレな部分を見せてもらいましょうか」
「スヒョンさんまで!」

僕たちは笑って握手をした
その手は少し冷たく…瞬く間だったが…
たったひとり佇む彼のシルエットが見えたような気がした
一筋縄ではいかないかな。いろんな意味で

「そうだ…テソン…今度新居に呼んでよ」
「え?ああ」
「あ…mayoさんって僕のこと苦手なんだっけ」
「やっそんなことは…緊張しちゃう…のかな…はは…」
「まぁいいや。そのうちにね。とりあえずおめでとう」
「おおおっおめ?」
「ふふ…じゃまたあとでね」

さて…最後はギョンビン…
と思ったらなにやら悲痛な顔をしたソクさんが目に入った
側に寄るとソクさんはいきなり僕に抱きついて涙目で事情を説明した
隣ではスヒョクが涼しい顔をして座っている

「いいアイディアだと思うけどな…スヒョクは嫌なの?」
「嫌ですよあんな変態っぽいの」
「へっへんたい〜ひぃん〜」
「じゃぁちょっと内容変えたら?」
「今度こそ接吻ショウとかっ?痛てぇ!痛いよスヒョクぅ…あ、どこ行くのぉ〜」
「ソクさん…ちっちっまったくダメですね」
「ダダダメって?」
「恋愛に於いては、あまり好きにならないことが好きにさせる確実な方法である
 by ラ・ロシュフーコー」
「なんですって?」
「だから、しばらくシェイカーの勉強でもして知らんぷりしてろってことです」
「ええええええ〜!しょんなぁ〜やっぱ苦行でしゅかっ」
「スヒョクへの気持ち真剣ですよね?」
「はいそれはもう!」
「ここへの出入り許可は僕からも頼んでおきますから。焦らないで、ね?」
「はい…お願いしましゅ…ひぃん」

さてやっとギョンビンのところへ行って様子を聞く

「どう?」
「はい。とても勉強になりました」
「君も彼にいいアドバイスしてくれたんだろう?」
「え?ええまぁ…」
「テプンはね家族が多いんだ…今度兄貴と遊びに行ったらどう?」
「え?」
「すごくいい兄弟姉妹なんだあそこ」
「…はい…」
「今日はあとでお世話になるけどよろしくね…じゃ」
「あ、あの…」
「ん?」
「今度あらためてドンジュンさんと来て下さい」
「ありがとう…ぜひそうさせてもらうよ」

ギョンビンはぺこりと頭を下げて向こうに行った
ふふ…相変わらず涼しげな目に強いひかりを宿してるいい男だな

事務所につづく通路に出ると端のソファにドンジュンがずるりと座っている
あの座りかたは”フグ”になっている印だ
僕は横に座って首根っこをつまんだ

「フグが釣れた」
「話す約束!」
「だからさ、イナと3人で話しててふざけてたの」
「で?ミンチョルさんに何て言ったの?」
「捨てられたら…僕がひにょひぇあえうぅ…」
「なに?なんだって?」
「けほん…拾ってあげるって」
「ぶーぶー!」
「だからふざけてたんだって」
「ホントっ?ホンネっ?」
「ホン…え?」
「もお!はい!ゴメンの濃厚ちゅ!」

まったく…はい濃厚な濃厚な…んんんー

「あのぉ!お取り込み中すみません!」
「ぶほっドンヒっ」
「ネクタイの素材とコーディネイトについてお聞きしたいです!」
「え?なに?あ、こらドンジュむんんはなりぇなさむんんん」

…なにやら前途多難を予感させる新人研修日だった


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