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ヨンナムさんの家 れいんさん

くそっ!
なんで僕がこのヨンナムさんって人の家に…
…それにしても、見れば見るほど顔がそっくり…
親戚か何かか?
それとも何か出生の秘密でも…?

いや、そんな事よりスヒョクだよっ!
せっかく二人でしっぽりと…って思ってたのに…
あの乙女が僕をばっさりと見捨てて…
これからお楽しみだと思ってたのに…
うおーん!うおーん!スヒョクちゅわーーんっ!

僕は泣く泣くヨンナムさんの後をとぼとぼついて行った
店から15分程歩いたところで狭い路地に入り込んだ
賑やかでお洒落なお店界隈からさほど離れた距離ではないはずなのに
そこはあまり綺麗とは言えない路地裏だった

「着きましたよ。ここです。さあどうぞ」
「え?ここ…?」

ヨンナムさんはガタピシ軋むおんぼろの引き戸を開けた

「えへへ、ちょっと開けるのにコツがいってね。いやなに、すぐに慣れますよ」

コツって…。慣れたくないよ、そんなもの…

「ここね、僕の両親が残してくれた建物なんです
とりあえず貸し部屋が3部屋あってね、僕はこの1階に住んでます
ガラじゃないけど、大家兼管理人ですよ」

僕はその木造の古い2階建ての建物を見上げた

「ここ…他にも誰か住んでいるんですか?」
「いえ、今のところ2階の3部屋が空いています」

だから要するにヨンナムさん以外誰も住んでないって事じゃないかっ

「そのうち改装しようとは思っているんですが、なかなか…」

ヨンナムさんは照れ笑いしながら僕を促した
僕は敷居を跨いで中に入った

ぐるりと見渡すと…まあ古いといえば古いけど…和風な作りの昔懐かしい雰囲気…
ヨンナムさんはまず一階の共有スペース(要するに居間みたいなところだ)に僕を案内した
二階はずっと閉め切っていたから、風を通してくるからと、その場所で待たされた

茶褐色の板張りの床は古いなりにも綺麗に磨きあげられていた
ヨンナムさんの人柄が伺える
黒光りするその床にはインド綿の敷物が敷かれ、その上にでんと置かれている長方形のどっしりとした座卓
座卓の周りにはちりめんの座布団が並べてある
壁に置いてある家具は民芸調の骨董品の様な感じ…
階段だんすの上にくけ台が置いてある
部屋の隅には灰被りや火鉢が無造作に置かれ、その上には鉄びんが乗っていた
僕はなんとなく落ち着いた気分になって、正座していた足を投げ出しほっと一息ついた
壁にかけてある額に「誠実・勤労・感謝」と書かれた書があったのには驚いた
ヨンナムさんが書いたのだろうか…

程なくヨンナムさんが降りてきた

「すみません、お待たせしました。ちょっとかび臭かったけど、もう大丈夫です。お部屋にご案内します」

僕は足を踏み出すとぎしぎし鳴る細い階段を上って二階に上った
これって…下宿じゃん!
薄暗い廊下を歩いて、不気味な音のする扉を開けると、広くはないがこざっぱりした部屋があった
二間の畳の部屋と狭い板張りの台所(とてもキッチンと呼べる代物ではない)
小型のテレビとたんすとちゃぶ台と…
はあ〜…質素な作り…
ムードもへったくれもないぞ、この部屋…
こんな薄そうな壁だと、スヒョクといい事できやしない
スヒョクとのらぶらぶな甘い生活を夢見ていた僕は、現実とのあまりのギャップにしばらく固まっていた

「あの、一応台所はありますので、ご自分で作られてもいいですし
一階の先程の部屋で僕と一緒に食べても構いません
僕は料理も好きですし、一人で食べるのも寂しいですからね」

「は、はあ…」
「お風呂とトイレはお部屋についてますが、下にも共有でありますよ
下にあるお風呂は五右衛門風呂なんで、気分を変えたい時にはいつでもどうぞ」

僕は力なくうなづいてとりあえずその部屋に足を踏み入れた
すると…また例のあの書が壁に掛けられていた

「ほう・れん・そう」と書かれている

なんだ!これは!

「あ…これはですね、『ほうこく・れんらく・そうだん』です
大家といってもそんな堅苦しく考えずに、何でも気軽にご相談下さい」

「は…はい…」
「門限もありませんし、ご自由に使って頂いて構いませんが、一つだけ守って頂きたい事が…」
「え?な、なんですか?」
「お友達のご訪問は一向に構わないのですが…その…お部屋での淫らな行為はご遠慮下さい…」
「えっ…?」

そ、そんな馬鹿なっ!
大の男に淫らな行為はするなだとっ?
ここでやらなきゃどこでやるんだっ!
ス、スヒョク〜!!!


奇妙な関係 4  ぴかろん

白地に赤い薔薇と、よく見ると白い薔薇も描かれている
どっちかというとラブの方が似合いそうだ
ラブに押し付けて自分が着ろよと言ってやった

「なんで?これいいよ。かっこいい…」
「恥ずかしいもん!違うの選んでよ」
「…じゃあこれ」

黒いジップアップパーカー
綿素材かな?
袖口に革があしらわれたちょっと洒落た…でも若者向けって感じのパーカー

「これにぃ、このカーゴパンツね」

かなりダボッとしたシルエットのパンツを差し出すラブ

「着てみてよ。ついでに花柄も」
「ええっ」
「どっちかにして!」

僕は無理矢理試着室に放り込まれた



一生着る事のない花柄のシャツに手を通した
下はこれ、このままGパンでいいのか?

ん?
あれ…
ちょっと…意外と似合うかも…フフフン

僕は少し嬉しくなって試着室のドアを開けた

!
ラブがいない!

「ラブっ!ラ〜ブっ!ラブってばあああっ!」

焦って叫んでしまった
逃げたのか?!

店員が僕の方を見て目を丸くした
しまった…
みんな僕の顔を知っているのだった…

「なにさ…ここにいるよ」

ひょいっと顔を出したラブは、僕を見てにっこりした

「ね?似合うでしょ?」
「…派手すぎるだろ…」
「でも…素敵だよテジュン…」
「…」
「もう一個も着てみてよ」
「ラブラブラブ!」
「なにさ」
「そこに居て!絶対動くな!」
「クフフ…はいはい」

僕はもう一つの衣装に着替えた
まだこっちのが恥ずかしくない
けど…このパンツのシルエットが…動きやすいけどなんかこう…ダラダラしててなぁ…
それに…このパーカー…
ちょいと丈が短めで…うううん…

「どう?」

ラブがドアを開けた

「…若作りすぎないか?」
「…かわいい…」
「…かわいい?」
「うん…。あ、ちょっとテジュン!なんで下にシャツなんか着てるのさ!おっさんくさいなぁ!」
「だって…」
「脱いで!素肌にこのパーカーだよ!ほら!」

僕はラブにシャツを脱がされ、もう一度パーカーを着せられた
ファスナーを上まで上げようとしたら、ラブがみぞおちの辺りでそれを止めた

「…何…」
「ここまで!開けとくの!」
「いっ」
「…セクシーじゃん…」
「…」
「いいね。どっちが好き?」
「…こっちのがまだ恥ずかしくない。でも…ファスナー上まで上げちゃだめ?」
「だめっ!そんな事するなら明日帰らない!」
「…」
「じゃ、それ着てデートね。んでこの花柄はディナーの時にね」
「へっ?!なんだって?!」

ラブはさっさと花柄シャツと僕が着てきた服をレジに持って行き、僕の方を指さして会計と手続きを済ませている
その間に店員がやって来て、値札を取ったり裾の具合を調べたりした

「大丈夫ですね、テジュンさん、お似合いですよ」

ああ…名前を知られているぅぅぅ…

「あのぉ…サインしてください」
「はいはい。伝票ね?」
「いえ…色紙に」
「ぐ…」

ラブがレジで笑っているのが見えた
僕はサインをして、それからラブに似合いそうな服を物色し始めた
なんでも似合いそうなんだけどな…
今来ているパーカーだって、本とはラブの方が似合いそうなのにな…
ちきしょー
こうなったらうんと変なヤツを捜して…

捜していたら可愛いシャツを見つけてしまった
くすんだピンク地に、紫色でデザインされた小花が描かれている
唐草模様に見えなくもないけど、その絡まった茎の曲線が、危うげなアイツにぴったりなように思えた
僕はラブを手招きして、そのシャツをあてた

「…メルヘンチック〜」
「そうかな?そんな事ないよ」
「着てみるね…」
「うん」

試着を待つ間、ほかにいいのはないかと捜してみた
何でも似合いそうだよな…革素材でもシースルーでもデニムでも…
あ、タキシードなんかも似合いそう…ふふ

「どう?」

顔を覗かせたラブが照れくさそうにしている

「こんな大人しい色なんて着たことないよ…」
「…可愛い…」
「…」
「君らしい」
「…テジュンにはこういうイメージなんだね、俺って…」

ラブにはそのくすんだピンクのシャツを買った


☆ Ti amo * Te quiero..2☆ *1 妄想省家政婦mayoさん

僕と闇夜はparisの町を散歩する夢を見た
焼きたてのパンを食べながら歩く…いつもは半分こなのに
あまりに美味しいから僕が全部ぺろっと食べて闇夜のぐぅー★が落ちたり
映画を見たり..絵を観て回ったり…公園で昼寝をしたり…めずらしい食材を捜したり…

そんな夢を見ながら2人ですぅーっと眠りに入った…


闇夜の背中に置いていた僕の手が暖かくなってきた…
窓から差し込む陽光にうっすらと目を開ける…リモコンで♪を替えた…
隣の闇夜は陽光をまともに目に受けパチパチしていた…
その瞼に優しくkissを落とす…

「おはよう…」
「ん… おはよう」

闇夜を頭からそっと抱く…ほんの何時間前の甘い戯れの余韻がまだあった…
僕は闇夜の背中から腰までを両手ですぅ〜っと撫で…そのまま腰を掴み僕の上に据えた…
闇夜の頬を包み…下から見上げた…
闇夜の唇が僕の唇を塞ぎ舌を絡めとる…
僕の舌に痺れがきた…いつもと同じだと思っていたらとんでもなかった…
さわさわ〜がざわざわ〜になりじわぁ〜っ広がる…痺れが喉の奥まで及んでくる…
息ができない…僕は闇夜からやっとの事で唇を離した…

「待っ…て…ma…」
「ごめん…強かった…^^;」

それから闇夜は僕の首筋〜喉仏〜鎖骨〜胸〜滑らかに唇を這わせた
脇腹と腿の僕の傷に唇が届いた時僕は身を固くした…
闇夜は丁寧になぞり手のひらをそっと置いた…
僕は闇夜の脇の下から手を入れ上へ引き上げ…そしてひとつになった…
闇夜の髪が僕の頬を幾度も撫でる度に僕は目まいに陥る…

僕は闇夜をきつく抱きしめた…違う…僕が闇夜にしがみついていたかもしれない…
吐息と呻きの中で闇夜の名を呼び闇夜もそれに答えた…
僕達はまた同時に昇天した…

闇夜の中にまだ残る僕の余韻が僕から闇夜に…闇夜から僕へ伝わっていく…
僕等は互いにじっとしたまま…静かに通り過ぎるのを待っていた…

闇夜はちょっと悪戯にちょっと左右に動いた…

「…ぁぁ…」

僕は思わす小さな吐息を漏らす…
ちょっと笑った闇夜の震えがまた僕に伝わる
闇夜の中の僕がようやく静かになって…僕は闇夜の髪を掻きあげ額を合わせる…

「いじわるだな…」
「ごめん…」
「ぃゃ…ぃぃょ…すごく…」
「^^;」

闇夜は身体を少しずらしてうつ伏せになった…

「君は.…をどんどん夢中にさせる…」
「テソンを悦ばせたい…待たせた分… テソンの悦びが自分の悦びにもなる…」
「うれしいよ…君がそう言ってくれて…」

「もう言わないぞ#…こんなこと…照れくさい##…」

闇夜はそう言うとあっちを向いて枕に顔を埋めた
僕は闇夜の髪をかき上げその顔を覗きに行くと「べぇー」っと憎たらしい顔をした^^;


「mayo… 君はあの香水…全部使うの?」
「ほとんどは調査用だよ…」
「調査?」
「どんな香りが好きかで大体人物の傾向がわかる…それに… 香りが変わるときには大方何かあるかな」
「たとえば…」
「仕事で大口決めるぞ…とか…ねーちゃんとヤルぞとか…彼と同じだったけど別れたから…とかいろいろ…」
「はは…そっか」
「それに…きっかけになるんだ…会話の…」
「なるほどね」
「テソンは普段つけないね…」
「これから寝る時はつける…」
「ふっ…テソンがつけたのと私がつけたのペアだよ…」
「だからくんくん嗅いでたのか…」
「そういうこと…」

「研修だけど…店に行くか?今日…」
「私はいいかな…何かあったら呼んで…すぐ行くから…」
「ん…わかった…」
「じゃ〜…シャワー浴びよっ##」
「えっ?」
「一緒にだよっ##」
「ぁ…ぁ…ぁの…」

テソンは私の手を引っ張った…


◆別宅物語*1_諜報部始動再開 *1 妄想省家政婦mayoさん

ふたりでシャワーを浴びた…

 ちょっと…微妙…^^;…ぁ…でもしてない…してない…

ふたりでバスルームを出て…
ふたりでドライヤーかける…

着替えた闇夜に電話…ハンズフリーで会話…

 「あ、おやっさん…どう?」
 「来月現場に入れ…手配はしたからな…ポジャンマジャで奢れよ#」
 「わ〜かった…」

「例の御曹司の新人の調査?」
「ぅん…」
「名前は?」
「御曹司が…ソグ…医大生が…ビョンウ…」
「ややっこしいなぁ〜^^;;…ソクーソグ…ビョンウービョンホンーホンピョ…」
「ぁは…ほんと…」

また電話…

 「ピョートルだ…ヨンジュン何処行った!知らないか?日本か?」
 「ぃや…日本には行ってないと思うよ…シゲ先生今忙しいから…」
 「そうなのか?」
 「ぉぉ…マツケンマンボの振付して…今マツケンサンバ3の振付構想中…
  映画の吹替えの仕事も入ってる…たぶん合間ぬって逢いに来るんじゃない?」
 「じゃぁ…ヨンジュン何処行ったんだ?」
 「イ・ジョンジェさんの店…大学路の…パレス…そこにいると思うよ…」
 「何処だ?」
 「地下鉄4号線…恵化駅の2番出口徒歩2分…ヨンジュンビル1F」
 「ヨンジュンビルだとぅ?」
 「だって…ホントだもの…」

 「わかった…あ…親父がこっちで仕事することになった…来週事務所開きする」
 「お…そう…」
 「ほら…祭りでスンドンさんと仲良くなったみたいでさ…俺はロシアには戻らん!ってさ…」
 「あはは…詳細後でメール入れて…」
 「OK…」

「やっぱり…ユリキムの親父さん…組んだね…」
「ぷっ…ぅん…また金が動くな…ひひ…」
「mayoぉ〜^^;;」

またまた電話...

 「ヌナ〜今日来るぅ?」
 「今日は別宅待機…」
 「えぇ〜ぃ…夜頑張りすぎた?」
 「「ミンギっ##」」
 「ぁっはっは〜…引き上げた機材どうするの?」
 「ミンギ..テソンだ…僕が行ったら店に搬入するから…」
 「OK〜テソンさ〜ん!声が明るい〜朝もやっちゃった?」
 「「ミンギ##」」
 「へへぇ〜じゃテソンさん…店でね#」
 「ぉぉ」

「「ったく…^^;^^;」」

今度は闇夜が電話…

 「監督…オーナー編集分…あとどのくらいかかります?」
 「ん〜あしたの午後だね…」
 「じゃ…明日スタジオ行きます…」
 「ぉ…いいよ…一人で来る?」
 「一人で行ったらどうします?」
 「ぷふっ…湖畔のモーテルに決まってんじゃん…」
 「監督##」
 「なんだ…テソン君聞いてたの…あはは…」
 「もぉ〜」
 「じゃ…後でね…テソン君!いい話…聞かして#あはは」

「ったぐ…ヤジなんだから…」
「まっ…そこがいいんじゃん…監督は…」
「mayoぉ〜^^;;.僕も一緒に行くからね#ソヌもいるでしょ#…きっと#」
「テソン〜^^;;…」
「あはは冗談だよ…絵届けるんだろ?一緒に行こう」
「ぅん…」

「テソン…」
「ん?」
「お腹空いた…」
「ぷっ…わかった…」

僕は着替えてキッチンに向かった…一部始終を見ていたはるみが僕の後に続く…


カウント・ツー・スリー  ぴかろん

飯を食って部屋に戻り、チェリムはシャワーを浴びると言ってバスルームに消えた
俺はシチュンからせしめたナニを枕の下にナニゲに二個隠した
予備はサイドテーブルの引き出しに無造作に入れた

やっぱ決めなくちゃいかんだろう
でも…どうやって?!

ああ…なんであの時ラウンジにスヒョンの野郎はいなかったのか
ジュンホ君の解説はよく解らなかった

『とにかくべっどにふたりでのって、そしてはぐやちうをくりかえしていたらしぜんにそうなります。あとはおふとんにもぐりこめばできます』

できますってだからどうやって!

スハの解説はもっと単純だがもっと難解だ

『愛しいと思うこと。そして、やればできる。それだけです』

ああ…。何のことだかわかんねえ…
どうしよう…。どうしたらいいだろう

俺はテソンからせしめた本を読みふけり、手順を頭に入れた

「テプンもシャワーあびたら?」

およそ色気も素っ気もねぇチェックのパジャマ姿でチェリムが頭にタオルを乗っけて出てきた
俺はそそくさとバスルームに行って念入りに体を洗った

あのキレイなチェリムを今夜…
どきどきどき…
できるのかな…
どきどきどき…

俺はシャワールームを出ると、バスローブを着てチェリムの待つ部屋に行った

チェリムは…

事もあろうに『アダ●トチャンネル』を…ビール片手に見ていた

「テプンも飲む?」
「お…おう」

俺は返事してベッドの上に座った
チェリムが冷蔵庫からビールを出してきた

「このさぁ」
「ん?」
「女優さぁ」

画面にはでかいチチの女優が映っている

「胸、でかいよね」
「う…ん…」
「揉みたい!」
「…」
「ちょっと吸い付いてみたいよね」

なに?チェリム。お前…レ○だったのか?!

「憧れない?」
「…」
「あんな胸だったらテプン、もうアタシのこと襲ってたかなぁ」
「…けほっ」
「…ねねね、あたしって色気ないかなぁ」
「…」
「ある?」
「…」
「なんで黙ってるのよ」
「いや…」

俺はどきどきしていた
チェリムの肩に手を伸ばそうとしていたんだ
したらばチェリムは急にテレビを指さして叫んだ

「ああやって揉みしだくの、されてみたああいっ!」

…無理じゃん…

「そーそーあれ!胸の谷間に顔を埋めさせてあげてぇ」

…ねぇじゃん…

「ついでにアレも埋めさせてあげてぇ」

…だからっ!

「黙れ!」
「…」
「無理な事を言うな!」
「…」
「俺はお前でいいんだ!こんなもん見るな!」

俺はテレビを消した
消したけど次の行動が起こせない
ベッドの端に座ったまま動けない
情けねぇ…
チェリムが待ってるのに…

「テプン…」
「おおおうっ?」
「無理しなくていいよ…イヤだったら…」
「ばばばかっ!イヤなわけねぇだろっ!…ただ…」
「ただ?」
「…うまくできるかどうか…心配で…」

チェリムはにこっと笑って俺に軽くキスをした
そして、親父さんの前でやったように俺の膝に跨った

「ぅおおおいっ…」
「テプン」
「なななんだ」
「好き」
「ぅおうっ」

チェリムは俺のバスローブの隙間から細い手を滑り込ませて胸を弄る
俺はくすぐったくて身を捩りながらもチェリムから目が離せない

やがて俺のバスローブは肘のあたりまで下ろされ、チェリムの唇が俺の首筋や鎖骨や肩に吸い付く

それって俺が…俺がやるべきことじゃないのか…ああ…

俺は焦ってチェリムのボタンを外そうとしたが、バスローブが邪魔で腕があがらない
俺の指はチェリムのわき腹の横でうにょうにょと蠢くだけだった

チェリムは口付けを続け、それが段々と下の方に下がってくるひいっ

「あああっあっだめっやばいったつっ」

チェリムはハッと顔を上げてプフッと吹き出した

「いいんじゃん!立っても」
「…あ…そか…」

それで俺は安心して、それについては自然の成り行きに任せた
でもっ!
俺もなんかしなくちゃなんねぇ!
何をどう?!
とととりあえずバスローブから腕を…腕を…

抜けないっ
チェリムが腕をキめている!
ああこいつボディガードだからっ
キメ方知ってるんだった…

「チェリムっ!腕・・離して…」
「だめ」
「なんでっ!」
「あたしが先」
「ななななんでっ!」
「…食べたかったから…」
「なななっあっおっはっ…はひん…」

俺は…食われた
全身の力が一瞬にして集まり、そして脱力した
チェリムが俺を自由自在に弄ぶ
はひひん
へほほん
ひひーん
どこでそんなことを…

チェリムは突然唇を離してずりずりと這い上がり、俺にキスした

「んふふ…」
「…この…」

スケベ女!と叫ぼうとした俺の唇は、いとも簡単にチェリムの小さなお口に塞がれた
ようやく俺の腕が自由になり、俺はチェリムのパジャマのボタンを外した

俺の手のひらに、チェリムの生肌が吸い付く
手を背中に回して撫で回す

なんて滑らかな肌だろう…

チェリムが上体を起こして俺を見下ろす
俺の目の前にスリムなボディが現れる
平らだと思っていた胸は、柔らかな膨らみを持っている
俺はその膨らみをそっと片手で包み込む
すっぽりと入る膨らみが手のひらに心地いい
そろそろと手のひらで擦りあげるとチェリムが吐息を漏らした
俺は指を動かした
チェリムがもう少し強く吐息を漏らした
俺は、野球のボールの縫い目をなぞるように、チェリムの胸の敏感な部分をなぞる
チェリムが仰け反った
俺は上体を起こしてそれに吸い付いた
声が漏れ、チェリムの体から力が抜ける
チェリムの細い身体を壊さないように、優しく、時に強く
俺は愛撫を繰り返す

チェリムをベッドに横たえ、残りの部分を丁寧に愛する
柔らかいチェリムの身体が撓り、蠢く
俺はもう準備オッケー…
チェリムも多分準備オッケー…

俺はごそごそと枕の下を探り、ナニを出してきて…

「…どうやって使うんだ?!」
「…なに?」
「これ…どうやって使うか知ってる?」
「…」
「使い方まで聞かなかった…」
「知らないの?」
「使ったことねぇもん」
「…じゃ…何人隠し子がいるのよっ!」
「んなもんいねぇよっ!」
「じゃなんで知らないのよっ!」
「らって…縁がなかったもん…女なんて…」
「…」
「もし、テジの母親と、何にもなかったとしたら…俺は…もしかして…あれっ?」

チェリムが初めてかもしれないっ!

「…」
「…」
「どどどどうしようッ!」
「どうしようってここまできて怖気づかないでよ」
「らってらって…これもあれだし…」
「いいわよそんなもん!」
「そんなもんってお前!」
「できたらできた時の事よっ!」
「でも…あっちょっと…」

俺は…チェリムに誘われて…などという色っぽい言葉では到底表現できないような荒っぽさで…
チェリムの中に入った
というか
押し込まれた
というか


れも…
きぼぢい゛い゛…
はひん…

ちぇりむもきぼぢよざぞうら…ひひん…

「ちょっと…じっとしてないで動くの!」
「え゛あ゛あ゛…」

ひんひんひひん…
俺はそーっと動いてみた

あんまり気持ちよすぎて死にそうらった
俺が動くとチェリムも気持ちいいみたいら…ひひん
俺は、俺の動き方を指示するチェリムに従って、強かったり早かったり大きかったりゆっくりだったりしたりしたひへほん…

やがて俺達は、もうらめらってとこまで来たみたいら…
いや、もひかするとおれらけかもしれらい…
おれらけがもうらめらったらろーしょう…
本には「いっしょにいけるようにがんばりましょう」って書いてあったのにひひひん

れもれもれも…ああ…もうらめれしゅ…
ああ…おお…ひひんひひんひひーん

俺は馬になってチェリムを攻めたてた
花火があがった

俺はばったりとチェリムの上に覆いかぶさった


「ごめ…おまえ…いけた?」
「…最初はこんなもんでしょ」
「…」

ぐしゅんやっぱり…

「ごめんにゃしゃい…」
「いいわよ。そのかわり後でもう一回ね」
「…ひひーん…」
「なによっ!」
「わかりばじだ…」

俺はぐったりとチェリムの胸に顔を埋めた
埋まらなかったけど…


【89♪テプンとチェリム】(勝手にロージーの愛の世界)15 ロージーさん


ふたりの休日  足バンさん

かなり遅い朝、僕は香ばしい香りで目を覚ました

ベッドで顔を上げると間仕切りの白いブラインドの向こうで
シャツ1枚を引っ掛けたドンジュンが珈琲をいれていた
手には携帯を持ち誰かと話している

僕はその辺にあったバスタオルを腰に巻いてドンジュンのところに行き
話し中のドンジュンにキスをしてカップを受けとった
どうやら相手はギョンビンらしい

「うん…そう…僕たちは明日店に行くけど。そういえば君も新人だもんね」
「で?店から近いの?」
「へぇ…うんわかった…遊びにいく」
「え?きひひひ…うんうん」
「えー?ほんと?」

どうも僕とミンチョルとの一件以来ギョンビンとは仲がいいらしい
夕べのメールも彼からだったようだ

「え?僕?3カイだよ、そっちは?」

…ん?まさか…

「えー40カイーっ?マジーッ?」

ぶっ!げほっげほっげほっ!

「うぁ!ごめん、ちょっとスヒョンが…うんまたかけるね」

「何してんのさ珈琲吹き出して!あーあタオル汚れちゃって」
「おまえこそギョンビンといったい何の話してるんだよ!」
「え?何って…」
「3回だのナン回だのって」
「3階って僕の寮の話だよ。ねっギョンビンたちの新居って40階なんだってよ!」
「…」
「…」

ドンジュンはいきなり意地悪な目になって僕を覗き込む

「僕らの3回はまだしも40回ってナンだと思ったのさ」
「…」
「くふっ赤くなってる…ぎゃっなんだよっ!こらっ珈琲こぼれるって!」
「そういうこと言うなら40回してやるから来い」
「ぎゃー離せーっ」

スヒョンと僕はその日ずっと戯れていた
どこにも行かずにずっと一緒だった

ソファでスヒョンにもたれ好きな曲を聴いた
一緒にベッドに寝そべり本を読んだ
壁のリトグラフの位置を相談しながら変えてみた
小さな庭の芝にふたり寝転んで暖かい陽射しにまどろんだ
おいしい紅茶のいれかたを習いながらキスをした

昨日の残りの材料でまたパスタ
今日はスヒョンが全部やってくれている
ペペロンチーノはシンプルなだけにタイミング勝負だって
嫌がるスヒョンにムリクリあの赤いエプロンをさせてやった

僕はテーブルに肘をついてキッチンで動きまわるスヒョンを見ていた

今の僕の気持ちはとても落ち着いている
ジュンホ君が言っていた
ふさわしいかどうかを自分で決めちゃだめだって…

僕の静けさに気づきスヒョンは振り向いて微笑む
そして唐辛子を手にしたまま歩いてくると
僕にキスしてまたキッチンに戻って行く
その後ろ姿に僕は言葉にできないほどの大きな安らぎを感じていた

ベッドでスヒョンの胸にもたれながらこれからのことを話した

「やっぱりここに住むのはやめる」
「頑固なやつ…」
「会う度にどきどきしたいんだもん」
「そのかわり毎日来いよ」
「ばっか!それじゃ余計不経済じゃん」

でも本当はスヒョンを縛りたくないんだ…
僕は今のままの自由なスヒョンを見てるのが好きなんだ…

「もうとっくに心が縛られてるんだけど」
「勝手にひとの心読むなっ」

その夜僕は夢をみた…

朝霧漂う深い深い森の中
僕はその大きな木に耳をつけていた
どっくんどっくん…
その心臓の音に僕の身体に暖かさが満ちる
指の先から身体が形を失って
僕のすべてはその木に溶けた
水の音と風の音
鳥や虫たちのささやきを
僕はその木の中で聴いていた
ずっとずっと聴いていた


【90♪アフロディーテの夏】(勝手にロージーの愛の世界)16 ロージーさん


奇妙な関係・恋人の時間  ぴかろん

僕達はたくさん遊んだ
ビリヤードもやったよ
ゲームもした
浜辺でフリスビーなんかもしたんだよ…
それから卓球もした!
僕が勝った!
ラブは下手だった!
ひひん

たくさん遊んで楽しかった
本当に楽しかった
ラブも僕もいっぱい笑った
ソフトクリームを食べたり、ハンバーガーを齧ったり
子供みたいに遊んで笑って食って…

そうこうしているうちに夕方になった

「ディナータイムは何を召し上がりますか?フレンチ?イタリアン?」
「うーん…なんか変わったモン食いたいなぁ」
「変わったモン?おでんとか?」
「そんなんじゃなくてね…うーん…」

ラブは首を傾げて考えている
変わった食いモンってなんだろう…
僕も首を傾げて考えた
僕を見てラブが笑った

「なに?」
「めっちゃくちゃ可愛い…」
「…大人をからかうな!」
「…大人に見えないもん」
「こんな服着せるからだっ!」
「ディナーんときは、アレ着てね」
「ええええっホントにぃっ?面倒じゃんか、着替えるのぉ」
「くふふ。着てくれなきゃ」
「「明日帰らない」」
「…ふふ。じゃあ先に着替えにいこうよ、どこ行くか考えながら」

僕達は部屋に向かった
変わった食い物…

ラブが部屋のドアを開け、チェストの上に乗っていた紙袋の中から、例のナニを出してきた

「うう…」
「着替えさせてあげよっか?」
「いいよ!着るよ!」

僕はパーカーを脱いで、花柄シャツを着た
派手だ…恥ずかしい

「それにはGパンのがいいな」
「えーっめんどくさいなぁ…」
「着替えさせてあげよっ…」
「いいよっ!」

ったく…

僕はラブに背を向けてGパンに履き替えた

「うわ。色っぽいよ…」
「…ばーか!」


ふと閃いた
あそこがいいな
僕も久しぶりだし…

ラブを見てにこっと笑うとラブもにこっと笑った

かわいいな…

「どっかいいとこあった?」
「嫌いなものってある?苦手な食べ物とか」
「特にございませんが」
「左様でございますか。ではご案内いたします」
「え?あったの?いいとこ」
「はい。この花柄でも大丈夫なところでございます」
「くふふふ。そんなに気にする事ないのに」

僕はフロントに電話してタクシーを手配してもらった

「テジュンの車じゃないの?」
「飲んでもいいようにさ」
「飲み屋?」
「いや…なんてえのかなぁ…」
「…言わなくていい。行ってからのお楽しみにする」
「ふふ」

そして僕達はタクシーに乗り、目指す店へと出かけた


店の名前はTin Pan Alley
無国籍料理と銘打っている
何度か来たことがあるが、かなり美味い

白い土壁でできた建物は、一見すると秘密倶楽部のように見えなくもない
おしゃれ…といえばおしゃれなのかもしれない
重い木の扉を開けて中に入ると、アジアンテイストの雑貨や置物、布などが壁に掛けられている
細い通路の向こうに、中庭が見える
中庭にもテーブルセットがおかれ、ここでも食事を楽しめる
僕達は左手に折れ、大きなテーブルが一つと、四人掛けのテーブルが三つ置いてある部屋に通された
このほかにもカウンター席や、五、六人が座れる席のある部屋が、中庭を中心に配置されている
部屋といっても扉はないから、単に仕切られてるってだけなんだが…
僕もこの店の全貌はわかっていない
たいていこの部屋に通されるからだ…

「おしゃれじゃん…。へぇ…たしかに無国籍だね。この壁にはパッチワークが掛かってる」
「奥さんの趣味らしい」
「ふぅぅぅん…」

まわりを眺めていると店員がオーダーを取りにきた

「えーっと…何飲む?」
「…うーん…黒ビール」
「じゃ、黒ビールと、チリビール」
「え…唐辛子が浮んでる…あれ?」
「ん」
「…辛いの好きなの?」
「ん」
「じゃ、『ツラいの』は?」
「ム」

ラブがいたずらっぽく笑う
オレンジがかった照明の中で、その笑顔は優しくて可愛い

「えーとこれとこれと…これと…これをとりあえず…」
「かしこまりました」

黒いシャツに黒の細身のパンツ、黒のミニエプロンで揃えられたかっこいいスタッフのユニフォーム
これもラブが着たら似合うだろうな…

「何頼んだの?」
「ん?美味しいもの」
「ホントに美味しい?」
「ん」

黒ビールとチリビールが先に来た
乾杯したものの、チリビールだけで飲むのはきついぞ…

「ねぇそれってホントに辛いの?」
「辛いっつーか…後でヒリヒリする。飲んでみる?でもなぁ食べながら飲むほうがいいかもよ」

ラブはちょっとだけ僕のチリビールを飲んだ
ふふふ
飲んでから三秒後にかーっと言いながら口を開けてヒーハーしている
そんなに辛いか?

そこにサラダが来た
この店の名前のついたサラダだ
ま、フツーといえばフツーだが、色んな野菜が入っている

「これ…B息のショーでさ、最初にT3がやったパフォーマンスでできそうじゃん」
「はは…本とだ。千切りだもんな」

僕はサラダを小皿に取り分けてラブの前に置いた

「ありがとう」
「どういたしまして」

ラブは箸でサラダを食べた
シャリシャリとリズムよく動いていた口が、一瞬止まった

ふふふ…

「うえ…これって…」
「苦手なモンないっつったろ?」
「にしたって…もしかして大量に入れた?」
「結構固めて入れた…」
「くええっきっつぅぅ」
「くふふ」
「テジュンまとめて食ってみろよ!」
「僕は少しなら我慢して食べれるけど、まとめてはちょっと」
「酷い!」
「解るだろう?」
「三つ葉と思ってた!」
「無国籍料理だぞ」
「げー…俺だって少しなら食べれるけどっきいっ…五、六本まとめて固めて食ったじゃんか!」
「知らないよう〜」
「もうっ!」

ラブがまとめて食ったのは、パクチーだ
こんな店で三つ葉がでてくるなんて…ちっちっ…甘いぞラブ
好きな人は病みつきになるそうだが、僕はちょっと…苦手の部類
でも食えといわれりゃ食うよ
一本で十分だけど…

ラブはごくごくビールを飲んでいた

「もうおかわり頼むからね!」
「どーぞ」

ちょうど次の料理を持ってきたスタッフに、ラブは顰め面のまま、もう一杯黒ビールを頼んでいた
そしてテーブルに並べられた料理を見た

「あ…ゴイクン…」
「これはどう?」
「…まさか中にパクチー爆弾入ってないよねぇ…」
「あ…しまったなぁ、お前の分だけ入れてもらえばよかった…」
「酷いっ!」
「フフ…これは入ってない。大丈夫」

いわゆる生春巻きである
ヌォクドゥングとかいう味噌だれで食べるのが本当らしい
ほかに、甘酢も用意されている
中に入っているえびやニラやビーフンなどが、甘酸っぱいタレでさわやかに食える
ライスペーパーの食感も好きだ…
僕は好きだけど…ラブはどうだろ…

「美味し♪」
「よかった」
「サラダもうまいよ、パクチーは苦手だけどね」
「だろ?ヘルシーだろう?」
「うん」

ラブの頼んだ黒ビールとともに次の料理がやって来た
カオ・パット・バイ・ガパオ
鶏肉のガパオ炒めご飯 フライドエッグのせ

「混ぜさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「なになになに?」
「見てなよ」

パフォーマンスと言う程ではないが、スプーン2つで、炒めご飯と、その上に乗った目玉焼きをがしがしと崩してまぜるわけだ

よーく混ざったところでさあ召し上がれ

「ビビンバみたいだね。混ぜ混ぜ」

可愛らしい感想…
またまたラブに取り分けてやる

「…パクチー入ってない?」
「ん」
「唐辛子の塊とかは?!」
「ないよ」
「いただきます!」

ラブはぱくりとガパオを食べた

「…美味しい…」
「だろ?僕大好きなんだ」
「ピリ甘辛だ…不思議な味」
「卵で和らげてるのかな?」
「やーん!美味しいっ♪」

このほかにも無国籍料理店たるべく、「タコのエスカルゴ風」だの「和風オムライス」だの「麻婆豆腐」だのもある

もう一つの料理が来た
タラモピザという
ナンみたいな生地の上にタラコで作ったディップが乗っかっている
これがまた美味い!
美味いんだが、いつもは四、五人で来ていたのでペロリといけたのだ
でも今日は二人だった…
ちと量が多かったか…

「美味しいけど…全部食べれないよ…」
「うむむ」
「パックに詰めてもらおう!」
「え?」
「だって勿体無いし、夜中なら食えるよ!」
「…恥ずかしくない?」
「なんでさ。気が小さいな!世間体気にしすぎ!俺が頼んであげるよ」

ラブって結構おばさん根性がある?

「あのさあのさ…最後にしよう…もしかしたら食べられるかもしれないしさ」
「…」
「ねっ」
「見栄っ張り!」
「…」

ちょっと膨れっ面になったラブを上目遣いで見つめると、彼はブフッと吹き出した

「ほんっと可愛い…」
「それはこっちのセリフだよ」
「ウソだ!今『おばさんみたい』って思っただろ?」
「…」
「ふんっ!」

楽しい夕食の時間を過ごした
ゆっくりと時間をかけて食べた
色々なことを話しながら…
好きな音楽とか好きな食べ物とか好きな映画とか…

肝心な事は避けていた
話したかったけど、この楽しいひと時を壊したくなかったのも事実だ

「ねぇ。デザート頼もうよ」
「まだ食うの?」
「甘いものは別腹なんだよ」
「…」

ホントにおばさんみたいじゃん…

「なにこれ…燃えるデザートって…」
「それにするか?」
「うん。興味ある」
「じゃ、僕はタピオカとあずきのデザートにしよっと」

それと、ラブは柚子茶ソーダ、僕はベトナム風コーヒーを頼んだ

暫くして僕らの部屋のライトがトーンダウンした

「何っ?停電?」

ラブが驚く
するとゆらゆらと蒼白い炎をゆらめかせながら、ラブの『燃えるデザート』が運ばれてきた
アイスクリームにブランデーをかけて火をつけただけなんだけどね

女の子は喜ぶ

「うわあああっ素敵ぃぃっ」
「…」

ラブも喜ぶ…

「うわああん燃えてて食べらんなぁい」

言う言葉も一緒だ…

「そのうち火が消えるからさ…」

僕のデザートはタピオカに小豆餡をのせ、ココナッツミルクで浸したもの
この店のオリジナルかな?
混ぜて食べるとなんともいえない食感と甘さでたまんない
大好きっ!

僕が嬉しそうにタピオカのプツプツ感を楽しんでいると、火が消えた後は普通のアイスクリームなのでつまらないといった顔をしているラブが僕を恨めしそうに見ていた

「何?」
「それ、たべたい」
「…」
「なんだよっ!俺には派手な演出だけど味はフツーのもん勧めてさっ!自分だけ変わった食いモン食ってさ!ひどいよ!」
「…食べなよ…じゃあ…」

僕の大好きなタピオカちゃん…
ああ…ラブに食われちゃう…
ラブも気に入ったみたいで…どんどん食っちゃう
ああ…ううー…

「くふふ…わかったよ。返すよ」

ラブはニコニコしてタピオカを返してくれた
わーい♪

「くはははっほんっと…テジュンって可愛い♪」

ふんっ

最後に飲み物が来た時に、ラブはまた僕を恨めしそうに見た

「なんでそーゆー変わったものを教えてくんないの?!」
「え?!」
「自分ばっかり変わったモン食って!」

ベトナム風コーヒーのことだ
アルミのフィルターが気になるか?

「これ、練乳入りで甘いよ」
「飲みたい!」
「君だって柚子茶ソーダだぜ」
「柚子茶をソーダで割っただけじゃん!変わってないじゃん!」
「…もう…じゃ、飲ませてやるよ」

しかたなくベトナム風コーヒーをラブにやった

「甘い♪おいしい♪」

嬉しそうだから…まあいいか…

僕達はこうして、恋人としての夕食を、本当に心から楽しんだ

こんな時間を
僕もラブも
心の底に隠している大好きな人と
過ごしたことがない…


それからパート2  オリーさん

寝る前に、ドンジュンさんにメールした
とんでもない所に住む事になっちゃったので
近いうちに遊びに来てね、と
僕の方は上出来な滑り出しだったよって
返事がなかったので
きっとうまくいってるのだな、と思った
寝る時、彼はまだ三頭身だったので
僕はだっこしてあげた…

僕はとても満足してた
朝になって目を覚ましてからも、それは続いていた
彼は僕の隣で子供のような顔をして眠っていた
その顔を見て、一層満足感は強まった
コーヒーを淹れて、寝ている彼の顔に近づけた
彼はうっすらと目を開けた
おはよう…

コーヒーを窓際の椅子に座って飲んだ
朝陽の中のパジャマ姿の彼は綺麗だった
じっとその顔を見ていた
僕の視線に気づいた彼は、はにかんだ微笑を浮かべた
その顔もいいよ
僕は心の中で呟いた
ドンジュンさんからも電話をもらった
40階の僕らの部屋の話をちょっとした
彼の声は弾んでいた
よかった

支度して僕らは、まずBHCの寮へ向かった
彼の荷物を取りに行くのだ
その後、ちょっと店に寄って、それから買い物
二人で何かするのがとてもいい
五頭身半に戻っていた彼は、ローバーで行こうと言った
荷物を運ぶ為の車ではない、と一応釘を刺しておいた

寮は静まり返っていた
みんなは朝方早く着いたはずだ
まだ寝ているのだろう
それとも最後の休みをどこかで過ごしているのだろうか
もしあの豪邸がなかったら僕もここに住んだはずだ
どっちにしても彼と一緒だったのだ
でも3階と40階はちょっと違いすぎるかな

彼の荷物はスーツケース1個とボストンバッグ1個と少なかった
残りはまだ家に置いてあるらしい
早めに回収しなくては
でもうるさい奥さんと弟さんを刺激するといけない
彼にはしがらみが多い

次に店に寄った
祭でしばらく店が休みだったので、心配らしい
一応チーフだったっけ…
店の扉を開けようとした彼が呟いた
鍵の調子がおかしい、と
中に入って僕らは立ちすくんだ
どうなってるんだ、と彼は憮然として言った
床にはカップラーメン、スナックの食べこぼし
色々なゴミが散乱している

床にはあちこちにツバを吐いた跡、そして…
彼がちょっと中へ進んだ時、立ち止まった
何か踏んづけたらしい
足元を見るとガムだった
よく見るとあちこちにガムがくっつけてある
壁、テーブル、椅子…
衛星中継用のスクリーンの隅にまで…
彼のこめかみがピクピクし始めた

警察を呼ぶと言い出した彼を押しとどめた
寝そべった形跡がある
人数は複数、大勢じゃない、2人もしくは3人
なぜわかる?と彼は聞いた
僕はプロだ
入口付近で朝方帰ったみんなと会ってる
外からの足跡と合流しているから
ということは部外者ではないだろう

それで彼は、何となくわかったと言った
オーナーから資料が来てたらしい
舌打ちをしていた
留守の間に新人が来る事になっていたらしい
オーナーの欲はとどまる所を知らず
何でも気に入って欲しがるらしい
凄腕のスカウトがいるから、すぐ話が進む
とんでもないコンビだ、と彼は忌々しそうに呟いた

彼は次に僕の腕を掴んだ
倉庫みたいな所へ連れて行った
モップとバケツを僕に押し付けた
掃除は新人の役目だから、と
僕はモップを彼に押し戻した
二人でやった方が早く終わる、と
買い物に行かなきゃいけないんだから
みんながいる時はチーフと新人だけど
今は二人だけなんだから、ね?

彼は渋々モップを受け取ると、また店に戻った
窓を開け放し、換気をした
僕はヘラであちこちについたガムを取った
彼はモップでスクリーンの前の汚れた床を拭いた
カップ麺の空を蹴飛ばして、その残り汁が床にこぼれた
世話のやける人だ
僕はモップを彼から取ると、ゴミ袋を渡して
散らかったゴミを集めるように言った
こぼれた汁は僕が始末した

店をだいたい元の状態にしたら、けっこう疲れた
しかも昼をとっくに過ぎていた
空腹だ
何か食べなくちゃ
鍵を閉めようとした彼がまた憮然とした
鍵がかからない
応急処置をしてやった
とりあえず、一晩くらいは大丈夫
でも部品を代えないとだめだよ
彼はその場で携帯を出すと
誰かに連絡して鍵の修理を頼んでいた

車に乗ったら空腹が限界にきた
何でもいいから食べよう、と僕
彼は、どこの何が美味いと言い出した
僕はハンドルを切って車を停めると
近くのマックでハンバーガーとコーラを買った
僕にマックは似合わない
ウダウダ言ってる彼の口にバーガーを突っ込んだ

奥行きのある彼の口に
バーガーは半分くらい入ってしまった…


『オールイン』にて・・ ぴかろんさん  

皆さんが店に戻られた後、ホンピョの野郎が馬鹿なことばっかりしでかすので、困った

「こんな汚かったら店で一服もできねえじゃん!しょうがねえなあ…『オールイン』でコーヒー飲んで、今日は解散にしようか…」
「朝ごはんまだだよ」
「おう、チョンマン。ちったぁ元気が出たか?」
「…朝ごはん食べたらオーナーに会いに行ってくる…」
「…そか…じゃ、朝ごはん…つっても…どうするよ…『オールイン』の奴等もいるだろうし…」
「じゃ、僕とスヒョクとで買ってくるよ」
「そうか?じゃあ頼もうかな」
「…僕も行きます」
「イヌ先生も?」
「だって荷物多くなるでしょ?」
「…僕も行く…」
「ウシク…」

イヌ先生とウシクさん
ああ、薔薇投げのパフォーマンスをしてらした、大人っぽい雰囲気のお二人だ
なにやら二人だけの世界って感じがするなぁ
でもあの資料には

『ウシク:明るくて元気で人に優しくて誰からも好かれる。食べる前のお祈りが人気』

とか書いてあったけど…
なんか…暗いなぁ…

「じゃ、四人で買出しな。いいか!何を食べる事になっても文句言うなよ!」
「俺、キムパプくいてえ」

またっ!ホンピョのあほう!

「チョンマン!キムパプは絶対買ってくるんじゃねぇぞ!たとえそれしかなくてもだ!」

イナさんが吼えた
ホンピョはイナさんを睨んでいた

「じゃ、残った奴等、隣の『オールイン』に移動だ。『オールイン』はここと兄弟店だ。俺は実をいうと『オールイン』の従業員でもある。ま、こっちに入り浸りだけどな」
「そうなのか?」

ギョンジンさんがイナさんにびっくり顔で聞いている

「ん。そーなの」

えらく可愛らしい顔で答えるイナさん

「けっ!色気振りまきやがって!」

馬鹿ホンピョ!先輩に向かって!
そりゃ僕もそう思ったけど…

「貴様…」
「んなあっちもこっちもに色気振りまいてるから、愛想つかされて振られるんだよ!」

あ…またイナさんががっくり落ち込んだ
あれ…ギョンジンさんも…
まずいな…

「ととととにかく移動しましょう、ねねね」

僕達は隣の店、『オールイン』に移動した

「なんだよイナ。挨拶まわりか?」
「さっきまで一緒にいたのに」
「ん?元気ないけどどうしたんだ?」
「涙目じゃないか?お前の得意な」
「…テジュン…」
「…イナ…。俺はその…テジュンはテジュンだが、パク・テジュンだぞ!間違えるなよ、間違えてキスなんかするなよっ!」
「誰が間違えるかっ・・れも・・うあああんうあああん」
「けっ。情けねぇ男!弱虫。泣き虫。すけべ。ヘンタイ」
「こらっホンピョ!」
「うっせーな」
「こら、そこの子供」
「あん?」
「君はなぜそんなちゃんちゃんこを着用しているんだ?」
「おめぇ誰だよ」
「僕は御曹司チョンウォン王子様だ」
「…」

あっ!
ホンピョはいきなりそのチョンウォンさんの胸を揉んだ!

「ひいいいっ」
「大したことねぇな」
「ななななっ何をするこのヘンタイこどもっ!」
「胸の筋肉調べただけだよばーか」
「ひひひいいい…ぼっぼっぼくはっもうっお婿にいけないっひいいん」
「ケケケ」

ホンピョは高らかに笑うとまたガムを取り出して壁に擦り付けようとした
その腕を二人の人物が押さえた

「あ…あんだよっ」
「「そのような事をしてはいけない。もしここでそのような事をするならば、お前の命はないものと思え」」
「…」

ホンピョはその二人の迫力に気圧されてガムを手で弄んでいた
僕はティッシュを出してヤツに渡した
ヤツはそこにガムをくっつけ、そして…僕にそのティッシュを渡したのだっ!きいっ!

「あんたら…すげぇ迫力だな」
「「…」」
「なんて名前?」
「「チュングル」」
「あ?」
「「スニルク」」
「お?」
「ケホン、この方はスングクさんだ」
「こちらはチュニルさんだ」
「チュングルとスニルクさんか。覚えた!」
「「ちがうっ!」」
「…じ…冗談だよっ…チュニルさんとスングクさんだろ…わーったよ。ここではやんねぇ…」

ホンピョもコワモテのこのお二人には逆らえないようだ

ホンピョのちゃんちゃんこみたいなきったないベストを引っ張る子供がいた

「あにすんだよ!」
「お前、これ、いいな」
「あん?ガキのくせに俺を『お前』よばわりしたなっ」
「俺はガキではないわ!」
「ん?…大人か?…ちっけぇ〜」
「ムムム。貴様…。貴様をコロスことなど俺には朝飯前だぞ!」

そう言った子供のようなその大人のデコを、ホンピョは人差し指でツイっと弾いた

「ムムウウ!」
「へへん」
「くっくっよっはっ」

その子供みたいな大人は、ホンピョにパンチしようと腕をぶんまわしているのだが、ホンピョがデコを押さえているので、どうやら届かないらしい…

「ハアハアハア…きょうはこれぐらいにしといてやるっはあはあはあ」
「ばーか」
「むむむう」

やがて朝食がとどき、みんなでコーヒーを飲みながら自己紹介をした
その間にまさかチーフがいらっしゃってるなんて、誰も気づかなかった…

僕は時折窓の外にちらちら見えた、BHCの裏口を出たり入ったりしている、メッシュの毛並みの狐が気になっていたのだが…
あれは『飼い狐』だろうか…


ドンヒとホンピョ  ぴかろん

俺達は兄弟分?舎弟?の店の『オールイン』ってとこで朝メシを食い、コーヒーを飲んだ
『オールイン』ってとこにもいろんなホ○トがいる
こん中で気に入ったのはあの迫力の二人だ
あれはタダモノじゃねぇな…

チュングルとスニルクだっけ?
あれ?忘れちった…
あの店ではガム擦りは止めよう…

んでからまた店に帰ったらえらくきれいになっててびっくり
イナの野郎もびっくりしてた

「掃除するドロボーかな?」

ってかわいこぶって、ギョンジンって野郎に上目遣いで聞いてたから、俺は

「ちっ」

っちって唾を吐いたらまたみんなに怒鳴られた
ドンヒがすぐさま雑巾を持ってきて俺様の甘い汁をふき取った

こいつ、よく動くな…
俺の専属の舎弟にしてやってもいいな

そういえば『オールイン』で俺の服を引っ張る、しわくちゃのガキがいた
ガキじゃないらしいけど…どう見ても『サイズは』ガキだ
面白かったからからかってやった
あとから知ったんだけど、あいつはサンドゥとかいうヤ○ザのおやびんらしい…
白雪姫に出てくる七人の小人が組員か?
そういえばアイツ、白雪姫の役をやったとか言って威張ってたな…

そんで、メシ食って解散になった
みんな家に帰って休むとか…
俺はチャンスだと思った
今日はスヒョン、いないしな…

だから俺は兄貴のとこに泊まりたかったのにドンヒはガンとして兄貴の住所を教えてくれなかった
ドケチ!

俺とドケチドンヒは寮に帰るっていうチョンマンって猿みたいな人と、スヒョクっていう…チョンマン猿に似てるんだけどもっとかっくいー人にくっついて寮に行った

猿は猿のくせに元気がなかった
スヒョクってかっくいー人に『ぼくこれからどうしよう』とか『おーなーゆるしてくれるかな』とかぶつくさ言って、はーふーはーふーため息ばっかしついてた
辛気臭ぇったらありゃしない!
スヒョクって人は猿の肩叩いて
『思うとおりやんなよ。オーナーは理解してくれるって。今から行くんだろ?頑張れ』
と励ましていた

かっくいー

俺、今日はこの人の隣で寝る!

そう決めていたのに俺はドンヒと一緒の部屋だった
ちいっ!
ドンヒも『ちいっ!』て顔してた
つまらないので寝た

明日にはスヒョンに会えるだろう
スヒョン
逃がさねぇぞ…


ホンピョの奴、あんなに寝てたのにもう寝息を立てて…
赤ん坊かよ!

僕はシャワーを浴びて肌を整え、パジャマに着替えてホンピョの隣の布団で寝…ようと思ったらホンピョの奴、僕の布団と自分の布団の真ん中に、横になって寝ている!きいっ!
重たい!きいっ!

やっとのことでホンピョをホンピョの布団に動かした
僕はやっと布団に横になった…と思ったら腹に衝撃が…

うぐ…

ホンピョのかかとが僕のわき腹に入った…
死にそうだ…
しばらく動けなかった

ようやく痛みが治まって、ホンピョの足をどけることができた
でもまたかかと落としされたら大変だ
腹ならまだしも、僕の端正な顔などに傷つけられたら大変だ!
僕は起き上がって荷造り用のガムテープを取り出し、ホンピョの両足首をそれでくっつけた

フン
ざまあみろ!

ようやく安心して眠れた


朝になって俺は、足の自由を奪われていることを知り、驚愕した
隣のドンヒはパジャマのボタンを全開にしてグースカ寝ている
その姿を見て俺の目から涙が溢れた

襲われた?!

寝込みを襲われたんだ!
ううう
俺のケツが…
ううう

うわーんうわーん


ん?なんだよ…うるさいな…
座敷ワラシが泣いてる…
ああ、足をくっつけといたからだ

「おはよう」
「うわーん近寄るな野獣!」
「は?」
「俺をこんなにして襲ったんだろう!うわーんあんな映画見てたから俺を俺をうわーん」
「…ばかか!誰が貴様なんか襲うか!」
「へ?じゃ、俺のケツは無事か?」
「お前のような垢だらけのケツなんか誰も襲わない!ばか!お前の寝相が悪いから足をくっつけただけだばか!第一足をくっつけてなにをどう…ケホンケホン」
「ほ…ほんとか?俺は無事なんだな?…よかったぁ…スヒョン…俺は無事だ…ああよかった…」

僕はこの、とんでもない馬鹿を横目で見て、身なりを整え、出勤の準備をした

「どこ行くんだ?」
「店だよ。今日は新人歓迎研修会だろ?君も準備しろよ」
「これ、取って」
「んなもん自分で取れるでしょうが!」
「ドケチ!」
「甘えるな!ばか!」
「ふんっ」
「はやく準備しろよ」
「え?もうできてるぜ」
「…」
「このままで行く」
「やめろよ!今日はチーフもスヒョンさんもいらっしゃるんだぞ」
「スヒョン…そだったな…。歯、みがこ」
「歯も顔も体もみがけよ!」
「…からだも…。おまっそんなことっ!いくらスヒョンがあんなすごくても、最初っからそんな、お前、俺だってよぉ…」
「ばかっ!どうでもいいから早く準備しろ!」
「シャワー浴びた方がいいか?」
「無論」
「じゃ、ちょっと待ってて」

奴はシャワーを浴びて出てきた
本当にちゃんと洗ったのか?!
ただ水を被っただけじゃないのか?!

ああ…チーフやスヒョンさんに失礼があったらどうしよう…同じ新人として恥ずかしい…
あっこいつまた同じ服を着ようとしてっ!

「こらっ着替えろ!ちゃんとした服に着替えろ!」
「これのどこがちゃんとしてない!ああ?」
「…スヒョンさんに失礼だと思わないか?」
「スヒョン…そうだった…。でも俺、こんな服しかねぇぞ」
「…じゃあ仕方ない。僕の服を貸してやる!」

僕はピンクのシャツに幅広のレジメンタル・タイを渡してやった
ホンピョは顔を顰めてタイを返してきた

「首が絞まるからいらねえ」
「ふんっ」

ピンクのシャツなんか似合うはずがない!と思っていたら…意外と似合うじゃないか…
そうか、顔が同じ系統だからだ…

「オールバックにした方がいいんじゃないか?」

僕がホンピョの髪に手を伸ばすと、ホンピョは素早い動きで僕の腕を掴んだ

「触んな!」
「なんだよ」
「頭触んな!」

物凄い目で睨まれた
なんだ?『妖怪アンテナ』でもくっついてるのか?!ばか!

とにかく、とりあえず服を着て外に出た
奴は…Gパンに雪駄だ…
せっかくのピンクのシャツが…
そっそれに…無精髭だらけ…
おまけにガムを噛みながらそこいらに唾を吐くしタバコちょーだいっていって変な吸い方して、火のついたまんまフイって捨てるし…

僕は昨日からこいつの行動を見て知ってるから、こいつの後ろから、ペットボトル入りの水道水とゴミ袋を持って、火のついたタバコを消してゴミ袋に入れ、吐いた唾の上から水を流してきれいにし
ガムを取り出したらすぐにゴミ袋を差し出して、人の迷惑にならないよう、細心の注意を払った

そんな僕にこの野郎、一言だけこう言った

「デッキブラシみたい」

きいっ!むかつくっ!きいっ!

そうこうするうちにBHCについた
昨日いなかった人が、ドアの鍵を直していた


奇妙な関係・恋人の時間 2 ぴかろん

美味しい夕飯を、たっぷりと時間をかけて食べた僕達は、タクシーを呼んでホテルに帰ることにした

「あとはお花のジャクジーね」
「ふぁい」

夜の街を走るタクシーの中で僕達はそっと手を繋いでいた
僕は今日という日に酔っている
今日の僕の恋人は、可愛くて優しくて美しいラブ
僕を慕い、僕に甘え、僕をからかい、僕を癒す
そしてまた、僕も
彼を慈しみ、彼を甘えさせ、彼をからかい、彼を癒した

僕達は濃密な一日を過ごした

タクシーが信号に止められた時、ラブが言った

「あのお店!行きたいっ!」
「え?無理だよ、そんな急に」
「だめ?運転手さん、だめかな?買い物したいんだけど、ちょっとだけ待っててもらえるかな」
「ラブ、ご迷惑だよ」
「ようがすよ」
「ほんと?」
「信号越えて、あの角で停まりますからちょっとお待ちを」
「いいんですか?すみません」
「ありがとうおじさん」
「いやいやハハハァ…」
「申し訳ないです」

タクシーの運転手さんは、角で車を停め、待っていてくれると言う

「すみません。こんな親切な運転手さんは初めてですよ」
「いえいえ、私もお客さんは選んで行動しますよ、ハン・テジュンさん」
「い゛っ」
「貴方はご存知ないでしょうが、私は…」

ホテリア・ホテルで僕がドアマンをやっていた頃から知っているという…
そう言えばお顔をお見掛けしたことが…
などという冷や汗ものの会話をし、出世なさってお顔を拝見しなくなったので寂しかったと言われた

「貴方の対応は素晴らしくてね。運転手仲間でも一番人気のホテルマンなんですよ、貴方は。貴方からの電話があると、みんな我先にってホテリア・ホテルに向かったんですよ。知らなかったでしょう?」
「…そ…そうだったんですか…。恐縮です」
「今日は?休暇ですか?それとも調査?」
「…僕…」

ホテルを辞めた事を告げた
運転手さんは絶句して涙を浮かべた
僕は驚いてしまった
ラブも買い物に行くにいけず、じっと運転手さんを見ている
運転手さんはすみません、寂しくなる…さあ行ってきて、待ってますから…と言って僕達に外へ行くよう促した

「すごいね、テジュン…」
「…はぁ〜。びっくりした…」
「あのおじさんに何かプレゼントしたら?ちょっとしたモン」
「…そうだね。お前が買い物してる間になんか見つけるよ」
「ここ、雑貨もあるみたいだからさ、ほら」

そこはアジアンテイストの雑貨や服を売っている店だった
さっきの無国籍料理の影響らしい…
ラブは車から見つけて気に入ったらしい服を手にとり、僕にあてた

「なに?また僕に買うつもり?」
「だって似合いそうだもん。これ、部屋着によさそうでしょ?ダラダラしてて」
「…まあ…」
「俺も買うからお揃いね」
「お揃いって…」

ラブは店の中に入っていってしまった

お揃いの部屋着なんて…帰ったら…どうするんだよ…

ふっとため息をつき、僕は小物を見た
運転手さんに何がいいかな…

うーん…

雑貨を見回していたら、ストラップが目に留まった
ターコイズをあしらったシルバーのストラップ
ターコイズって『身代わり』になってくれるとか『身を守る』とか言わなかったっけな…
綺麗だし、それに…お安い…
男がしててもおかしくないよな…
これにしよう
どんなデザインがいいかなと僕はたくさんぶら下がっているそのストラップを選んでいた
細長いターコイズの小さな板の周りに、シルバーの細工が施してあるものを手に取った
甘すぎず、渋すぎず、いいんじゃないかな?安いし(^^;;)
これをあの運転手さんに…

すぐに決まってしまったので、僕は他のものも見てみた

ダイヤの形のターコイズ、周りにやっぱりシルバー細工がある
同じような形で、ストラップの紐の部分に、小さなターコイズのビーズとシルバーのビーズがあしらってある、ちょっと見、ペアっぽいものもあった

これ…
イナに…
おみやげ…

胸の奥がしくりと痛んだ

どっちかが…僕のね…
待っててね…

同じくターコイズがハートの形に削られて、周りにシルバーをあしらった小さなストラップを見つけた
これもやっぱりストラップの部分だけ違う、ペアっぽいのがあった…

これは…
ラブとギョンジン君に…

またしくりと胸が痛んだ

今日一日だけの恋人だから… ごめんね…


僕は支払いを済ませて、タクシーに戻った
さっきのストラップを運転手さんに渡すと、運転手さんは感激してくれた
しかしその後、すまなそうな顔をして僕に色紙を差し出した



恥ずかしい…
でもサインしちゃった…

そこに、大きな紙袋を持ったラブが帰ってきた

「ごめんなさい、お待たせしちゃって。はい、これ、運転手さんにどーぞ」
「えっわわわわ私にっ?ななななんですかっ?」
「大したもんじゃないです。待っててくれたお礼。でっかいハンカチ。エスニックな柄のね」
「あうあうなんていいお兄ちゃんなんだろう!やはりハン・テジュンさんは連れているお兄ちゃんも違うねっ!かっこよくて優しい!
ありがとう!私感激ですううう」

こうして僕らは感激している運転手さんとともに、海辺のホテルに戻った
運転手さんがお金を受け取ろうとしないのでしばらく押し問答していた
ようやく、無理矢理半額の代金を貰ってくれた…
僕達はタクシーが見えなくなるまで手を振っていた

そして手を繋いで部屋に戻った
僕の身体の芯がずきずきと痛んでいた


新人  足バンさん

新人との顔合わせ当日
言われていた時間は午前10:00だったからちょっと早かったけど
ひと通り新人の書類に目を通すとかいうスヒョンについてきた

駐車場に車を入れてるスヒョンよりひと足先に店に入った
いつの間にかドアのノブが変わってる

店内には既に何人かのメンバーが来ていた

イナさんが向こうで、よぉ!と手をあげた
側にはギョンビンの兄貴がぼんやり座ってる
テプンさんは妙にニヤニヤしてチョンマンと喋りながら手を振った
ジュンホ君はテーブルを拭きながらぺこりとお辞儀をした
テソンさんなんかも来てるのかな?
チーフとギョンビンはまだみたい

テジンさんは入口近くのテーブルで何やら道具を片付けていた
鍵を変えたのはどうもテジンさんらしい
テジンさんは僕に「どうだった?」っていう顔をしたので
僕は胸元の銀のペンダントをちょっと見せて微笑むと
彼も満足そうににっこり笑ってくれた

そして…
う”…なんだか嫌な視線を感じる…

入口奥のテーブルを見るとスーツを着た男と小汚いやつが僕を見てる
スーツがさっと立ち上がって側に来て
自分が新人のドンヒで向こうがホンピョだと言った

「ドンジュンさんですよね」
「うん…よろしく」
「…スヒョンさんと映画に出てらっしゃいましたね」
「あ…観たの?」
「僕スヒョンさんにマンツーマンで研修お願いしたいんです」
「へ?」
「僕スヒョンさんについていきますから」
「は?」

汚いやつがテーブルに足を投げ出して煙草の煙をぽんぽん輪にして出した
その上ガムを噛みながらこっちをじろじろ見てる
ヤーな感じ
奥からイナさんが来てその足を蹴り落とした
ホンピョはまたテーブルに足を上げた

「その態度やめろって言っただろばかっ」
「っせぇなぁ!いちいち先輩ヅラすんなっ」
「ホンピョ!よせって今日くらいおとなしくしてろ!」
「ドンヒおまえもへこへこすんじゃねぇよ!」

…なに?…いったいなに?こいつらなにっ???

「あ、スヒョンさん、おはようございまーす!」

異様にニッコニコのテプンさんの大きな声に振り向くと
ドアの前にいつの間にかスヒョンが立っていた
とたんにドンヒの顔が輝きすっ飛んで行った

ドンヒが息を吸って何か言おうとしたけど
スヒョンは手をあげてそれを制した
ドンヒの横をすり抜け真っすぐホンピョのところに歩いていく
野郎は急に足をおろして煙草をピンと下に落とし座り直した
横にいたイナさんが頭をぺんと叩いた

「いい加減にしろこの野郎!」
「引っ込んでろ!俺はスヒョンさんに用があんだ!」

スヒョンは何も言わずにちょっとその場に立ってたけど
捨てられた煙草を拾いホンピョのすぐ横のソファに座った
う…スヒョン…怒ってる?

いきなりスヒョンはテーブルに足を乗せ両足を組み
で…
げっ…その煙草をくわえた
店の空気が一気に緊張した
ホンピョもドンヒも固まっている

スヒョンはうまそうに一服吸ってから天井に向かって煙を吐き出し
低い声でホンピョに「灰皿」と言った
ホンピョは慌ててテーブルの上の灰皿を差し出した
その中で煙草を消すと
今度はホンピョに顔を近づけ顎を掴んだ

げげっなにすんのさっ!

皆が固唾をのんで見守る中
スヒョンはホンピョの口を開かせるとそのまま指を入れた
めちゃくちゃヤらしい
そしてガムを取り出し、ホンピョに「手」と言った
呆気にとられ口を開いたままのホンピョが手のひらを出すと
そこに丁寧にガムを乗せた

「よくできたね」

スヒョンはにっこり笑うとホンピョの肩をぽんと叩き立ち上がった
そしてドンヒに「よろしく」と微笑みかけ
イナさんにちょっと来いと言って奥の事務室に入って行った

息詰まっていた店内の空気がどっとほぐれた

ホンピョは右手に灰皿、左手にガムをくっつけたまま呆然としていたが
ソファになすり付けようとして思い留まり
シャツに擦り付けて酷い有り様になっている
ジュンホ君がおしぼりを持っていってにこっと手渡すと
ホンピョは拗ねたようにぺこりと頭を下げた

ふん…素直になればかわいいじゃん

ドンヒは何やら感じ入った様子で
ああやっぱり彼についていくしかない
とかなんとかつぶやいてホンピョのとこに行った

「ホンピョ!僕のシャツにガムつけるなよ!」
「っるせぇな…それよかドンヒ…参ったなおい」
「君何も言えなかったじゃないか」
「あのきっつい目…俺のスヒョンにそっくりだ…」
「君を見るとみんなキツい目になるんだよ」
「すげぇ迫力だ」
「ますます君には渡せない」
「へへん!俺は口に手突っ込まれた仲だぞ」
「あれは怒られたんだよバカだな!」

あうう…あったまイタイ…なんてやつらが入ってきたんだ…


奇妙な関係 恋人の時間3 ぴかろん

部屋に入って電気を点けようとしたラブを、僕は壁に押し付けてキスをした
僕は酔っていた
今日という一日に酔っていた
恋人としての最後の時間を、ラブだけを見つめて、ラブの事だけを考えて過ごしたかった
ラブは驚いていたけれど、丁寧に僕のキスに応えてくれた
唇を離すとラブは

「まだする事残ってるんだよ…忘れてない?」

と妖艶な笑みを浮かべて言った

「花ジャグジー?」
「そ」
「…僕も入るの?」
「…二人で入らなきゃ…」
「…シャワー浴びてくる…」
「二人で浴びちゃう?」
「…それは…ちょっとまずいだろ…」

まずいと思う
これ以上酔っちゃったらヤバイと思う
それで僕達は別々のバスルームに散った


シャワーから出て、喉が渇いていたので水を飲んだ
ラブはバスローブを羽織って、既に何か飲んでいた

「早かったね」

声をかけると、昨日の残りのバーボンをグラスについで、にこりと笑った
そして今朝かけていたCDを…プレイヤーを借りたんだな、知らなかった…またかけた

ホール&オーツのベストアルバム

僕の車からいつの間にか取ってきてたらしい…

「聞きたくないんじゃなかったの?」

ラブは答えずに微笑んだ
そして、曲に合わせて踊りだした

何も言わず、何を聞いても答えず、ただメロディに身を委ねてゆらゆらと動くラブは
今の僕には刺激が強すぎた
僕は酒のおいてあるワゴンの方に行って、ラブと同じバーボンを注いだ

椅子に座ってラブが踊り終わるのを待つことにした
ラブはとり憑かれたように踊っている
どうしたっていうのだろう…
もう4曲にもなる

踊りながらバーボンを口に含み、喉を動かす
バスローブを羽織っているのが救いだ

ラブの視線は宙を彷徨っている
さっきまでの明るさも、昨日の激しさもなかった
静かに、何かを探り出そうとしているようなラブを、僕はそっと盗み見ていた

曲が『Wait For Me』に変わった
ラブは、舞台の振り付けで踊りだした

こんなセクシーなダンスを…

ちらちらとラブを見た
妖艶な動きを見るたびにドキっとした

ふとラブと目が合った
僕は視線を動かせなくなった
ラブの目が僕を真っ直ぐ見ていたから

ラブは僕に近づき、僕の首に絡みつきながらローブのベルトを外し、僕の膝に跨ってローブを床に落とした
そして目を閉じて、ゆっくりと前後に動き出した

これは…ダンスなんだ…ダンス…

ラブから目が離せなかった
こんなことをしていては…いけない…いけない…

僕は必死で目を逸らし、ラブの肩を掴んで言った

「お前、誘ってるのか?!」

ラブは目を開けて僕を見つめた
また何も答えずに、膝から降り、チェストの脇に飾られた薔薇の花束を無造作に掴むと、テラスのジャグジーへと向かった

後姿が震えているように見えた

ラブはジャグジーに、その薔薇の花びらを乱暴にちぎって投げ入れていた
僕は傍に行ってラブの腕を掴んだ

「何してる!棘が刺さってるじゃないか!」

ラブは泣いていた
とても哀しそうで寂しそうだった
胸の奥がきりきり痛んだ

「離してよ!」

僕は薔薇の茎を握り締めているラブの拳を開いて、その茎を後ろに投げ捨てた
てのひらに2つ、棘が刺さっている

「ばか…こんなことするな!…ばか」

なぜそうしたんだろう…
そうしたかったからなのか…
僕はラブのてのひらの棘を口付けしながら歯で挟みとった

顔を上げると切なそうな顔のラブが右手を伸ばして僕の口からその棘を取り出した

僕はもう一つの棘も、同じようにして取った
ラブはもう一度同じように僕の口から棘を取り出した
棘をピンと跳ね飛ばしたあと、僕の唇を触り、その指を僕の口の中にそっと捩じ込んだ
入ってきたラブの指を、僕は軽く噛み、舐め、吸った

そうしたかったから…

ラブは目を閉じて感情を抑え、僕のローブのベルトを取り去り、僕を裸にした
そして先に花びらの浮んだジャグジーに入っていった
ラブの背中にある入墨を、初めてじっくりと見た
僕はジャクジーに飛び込むと、後ろからラブを抱きしめ、その入墨に歯を立てた
僕の身体の芯には火がついていた

ラブの身体を花の中に沈めて、僕はラブの名前を噛み、舐め、吸った
ラブの甘いため息が僕の思考を停止させる
肩から首筋、そして耳へと唇を這わせ、ラブの身体をこちらに向けて僕はラブの唇を捉えた
ラブは僕の頭を抱きしめ、キスに応える
激しく口付けた後、ラブが言った

「誘ってるんだ…テジュンを…」

ラブの瞳に涙が光っていた

「貴方が…好きだ…」

ズキンとする痛みと、求めていた言葉とを、僕は同時に受け取った
痛みを感じながら、僕はラブの求めている言葉を囁いた

「僕も…お前が好きだ…」

僕達はまたキスをした
湯の面で花びらが舞う
ラブと僕の心から流れている血の涙のように赤い花びら
切なく顔を歪めるラブを、僕はジャグジーの縁に座らせ、抱きしめてキスをした

顎を噛み、喉を吸い、胸を這い、僕の唇は止まらなかった
ラブの腕は僕の頭にしがみつき、僕の唇から繰り出される快感に震えていた
ラブの胸のそこに辿り着いた時、ラブは小さな高い声を出した
僕は夢中で吸い付き、噛み、舌を転がした
ラブの押し殺した声が僕の舌を動かす
反対側の胸には僕の指があった

両手をそこに残したまま、僕は唇を下へと這わせた
ラブの指が僕の髪を掴む
止めるでもなく、促すでもなく、ただ僕の頭の動きに添えられ、僕の唇と舌が行動を起こすたびに
その指に力が込められた

僕はラブの腰を抱きしめ、ラブの中心を唇で捉えた
一瞬、吐息とともに声を発し、ラブは指を口に咥えた

我慢しなくてもいいのにと思った
でも
耐えて歪むラブの顔は今まで見た誰の顔よりも美しくて
僕の唇はそのまま彼を攻め続けた
ラブは口から指を外し、僕の頭にしがみついた
間もなく彼は背中を仰け反らせて声を出さずに荒い息をし始めた
大きく波打つ彼の体を支えながら僕は彼を昂ぶりの極致へと導いた

やがて彼は小刻みに震え、ああ…とため息のような声を発して僕に全てを解き放った
僕はその全てを受け入れた

ジャグジーの縁から滑るようにお湯の中へ崩れ落ちた彼の身体を抱きとめて、僕は彼の顔を覗き込んだ

「…こんなこと…しなくていいのに…」

そう言った彼の、頬を伝う涙を、僕は僕の頬で拭いとった
それからしばらく、僕達は薔薇の花びらの中で漂っていた


ジャグジーから出て、僕達は無言でバスローブを羽織った
これでもう、恋人の時間は終わったのだ…
今日一日のできごとは、僕の心の中に鍵をかけて仕舞って置こう

僕は彼を振り返って微笑みかけた


◆別宅物語*2_諜報部始動再開2 妄想省家政婦mayoさん

僕と闇夜とはるみで朝食を摂った後..
部屋で1時間ほどPCをいじっていた闇夜がノートPCを手にしてリビングのテーブルに来た..

「テソン..」
「何...」
「研修に顔出す前に..ちょっと見ておいて..」
「ぅん...」

すっかりお仕事モードの闇夜の隣に僕は座った...
闇夜はPCを開き..留守中の店の様子を編集した画像ファイルを開いた...

「撮ってたのか?..」
「ぅん..」
「祭りの間は店には行ってないだろ..どうやって此処(PC)に落としたんだ...」
「録画の画像を基地局を通して転送する...簡単さ..」
「あひゅ..毎日チェックしてたのか?」
「何もないときは消してたからね...」
「それで..毎日遅くまで起きてたのか..」
「それもある..」

@@恐るべし...諜報部長官#
闇夜は留守中に店に入り込んだ新人2人の様子を初めて僕に見せた..

「くっはぁー...これがホンピョか?でもって..派手な太っいネクタイが...」
「ドンヒだ..」
「ぅわ...汚ったないなぁ...ホンピョは厨房には出入り禁止だっ##」
「ぷはは...でもこの2人はいいコンビだよ..」

  画面の2人が祭りの様子を見ている...どうも2人はスヒョンに教育係をやって欲しい様子..
隣の闇夜はテーブルに肘を付いて手のひらを口に当て..時折にやにやしながら見ている..
@@余裕の笑い...諜報部長官#

店にやってきたミンミンの様子も写っていた..
店の汚い様子にチーフの忌々しそうな顔..
ミンがちょっと目を細め..顔をくっ#と動かし..状況を瞬時に把握した顔..

「さすが..ミンね..状況把握が早いわ..」
「ぅん...モップを持ってるチーフなんか絶対店では見られないな...」
「ぷっ##....そうだね...」

「恐れ入るな..君の調査は..」
「何かあったらオーナーに説明できない..あらゆる手段を駆使する..」
「ふっ..さすがだ..」

「祭りが終わって人数が増えると思ったし..実際はもっと増えたけどね..」
「出入りが多くなるから心配になったか..」
「そういうこと..厨房中二階の覗きっこ部屋にも人が入り込むだろうと予想した..」
「ふぅ...そっか..此処(PC)に落とせば確実ってことか..」
「ぅん..パスワードも私しか知らない..」
「僕は?」

闇夜は僕の耳元でファイルを開くパスワードを教えてくれた..
*^_^*..僕の顔がだらけのは言うまでもない..^^;

「テソン..時間だよ..行かなきゃ..」
「ぁ..ぅん...mayo..一緒に行こう〜」
「今日は家政婦の仕事があるの#...5分もあれば行ける..何かあったらすぐ行くから..」
「アラッソォ...」

テソンはアヒル口になった...はるみが私の膝からテソンの膝に移動した..
はるみはテソンが抱き上げると目をくりくりさせてみゃぁ〜っと鳴いた..

「ぁ..家政婦さん..」
「何..」
「僕のぱ○つ..洗ってね..」
「ぉ..ぉ..ぉ..」

「それと..」
「何..」
「今晩もふたりきりだからさ..」
「だから..何..」
「へへ..早く帰る##」
「ぁ..ぉ..ぅ..」

テソンは私にデコchuをして店に向かった..


◇ Bon voyage..four..◇   妄想省家政婦mayoさん
 
俺とテスは朝もやの中..竹の回廊を歩く..
テスは歩きながら両手を広げ..何度も思い切り深呼吸をしていた..
すぅぅ〜はぁぁ〜と深呼吸をしたあとテスはくすくす笑った..

「どうした..テス..」
「ちぇみ..」
「ん...何だ..」
「竹の香りが凄い...昼間の香りと全然違う..」
「ふっ..ん..」
「何だか....朝靄の竹ってさ..」
「ん...どうした..」

「...しっぽり濡れて色っぽい感じしない?...でっへへ..^o^..」
「ぷはは...やらしいぞ..テス..」
「ちぇみが言うとすっけべぇーに聞こえるけど..僕が言うと可愛いじゃんか..」
「ぁふ..^^;;...んまぁ..当たってはいるが...ん...」
「えへっ^_^...」

確かに..朝露に濡れた竹から発せられる香りは湿り気を含み..ちょと艶っぽい感がある..
でもって....朝方の..ようで...か.....はっきり言うのは止めた方がいいな...ん...^^;;

「ぁ...」...隣のテスが首筋に手を当てた...
「ぉっ..」俺はうなじに手を当てた..

ふたりで上を見上げると葉の先にゆらゆらしていた朝露がまた俺とテスの瞼に落ちた..

「「ぉっと..」」

テスはちょっと背のびをして俺の瞼にchu#をする...俺もお返しをする..

「竹の味がする..」
「ん...」

朝靄のあと..光の筋が竹林に賑やかに入り込んで来る...
竹肌の朝露が朝日ですぅぅ〜っと消えるまで俺等は竹林に佇んでいた..

宿を引き払った後..昨日の星里の竹林田園カフェ近くにある竹細工の店に行った..
店のばあさんがテスに話しかける...

ばあさん「ぱっ↑もぉ↓っぐ↑にぃ↓ゃ?↑〜」
テス...「…??」
ばあさん「や→ぱっ↑もぉ↓っぐ↑にぃ↓ゃ?↑〜」

「ちぇみ...何て言ってるの?」
「はは...ソウル言葉で言うと..『ぱっ..もぐそ?』だ..(ご飯食べましたか?)」
「そっか..」

テスはばあさんに..ぅんぅん#^_^#..と頷いて見せた..
ばあさんは顔をほころばせテスの口におこげ飴を入れる..

僕がおばあちゃんと身振り手振りで話し込んでいると..ちぇみは竹筒を選んでいた..
直径3cm..長さ10cm程の細い竹筒を10本...
直径6cm..長さが8cm程の竹筒を4つ..直径5cm..高さ5cm程の竹筒を1つ..

「ちぇみ..何に使うの?」
「ん?..ちょっと...」

その後にちぇみと一緒に何個かの竹細工を選んで僕達はお店を出た..
ばあちゃんは僕達の車が見えなくなるまで手を振っていた..

「テス...今日は江原道まで北上する..」
「ぅん..ぁ..ちぇみ...江原道では何て言うの?『ぱっ..もぐそ..』」
「ぷはは..『しっさ..はしょそぉ〜?..』だ...」
「しっさ..はしょそぉ〜..全然違うね..」
「ん...済州道は..『ぱっ..もぐすがっ?』だな..」
「おもしろい#...」
「お前はソウル生まれか?」
「ぅん...」
「そうか...じゃ..わからないか...」

潭陽(タミャン) ICから88オリンピック 高速道路を東に走ると智異山国立公園が見えて来る..

智異山は韓国では済州島の漢拏山に次ぐ2番目高さで..韓国初の国立公園だ...ん..
全羅南北道..慶尚南道の3道と5つの市郡にまたがるかなり大規模な国立公園だ..

高所では雲海や壮大な稜線が眺められるが..智異山は常に気候が変わりやすい..
晴れる日は一年のうち100日もない..それだけに雲霧と霞とが生み出す風景は趣がある..

「テス..智異山は登ったことあるか?」
「んー...ない..僕..そんなの縁がなかったもん..」
「あはは..そっか..いつか2人で登ろう...」
「ぅん#」

智異山の北側を走り慶尚北道の大邱から中央高速道路に乗換え北上する..
慶尚北道は、道の大部分が山脈に囲まれてるため国立公園が多い..
月岳山と小白山の国立公園の間を中央高速で通り抜け雉岳山をぐるりと東へ廻る..

万鐘から嶺東高速に乗り江原道の江陵から海岸線に沿って南へ下ると...東海市(トンヘシ)だ..
江陵市(カンヌンシ)から東海市は東海(トンヘ)=日本海に面している..
この辺一体の海岸線は海水浴の適地が多い..夏には海水浴客であふれる
韓国では東海のことを日本海とは言わない..で..まぁ..いろいろと両国モメてるわけだ..ん..

東海市内から20分程で頭陀山と青玉山を背景に形成された武陵谷がある..

武陵谷

で..もって..ここも清風明月のロケ地だ..すまん^^;;.

武陵桃源と呼ばれる 武陵谷は頭陀山と青玉山を背景で成り立った谷で
武陵盤石に始まり観音瀧..ヨンチュ瀧..一対瀧..将軍岩..数多い奇岩怪石..などが造る絶景は仙境に到逹したような感じを与え..壮観だ..

車を降りて管理事務所に挨拶をしてテスと岩場を歩く..
ここ一週間は入山統制をしているため谷には誰もいない..
テスは武陵谷に近づき瀧の音が聞こえたときから高揚しているのがわかる..

「テス..滑るから気をつけろ..」
「大丈夫#瀧はまだ?ちぇみ〜」
「もうすぐだ...」

上流まで歩くと2本の瀧が落ちる滝壺にたどり着く..
前を歩くテスが俺を振り返った..

「ここだ##」
「ん..」


奇妙な関係 恋人の時間 4  ぴかろん

僕達はベッドルームに戻った
それぞれのベッドに横たわり、眠ろうとした
僕達の奇妙な時間は終わった
明日は帰るんだ

まだ興奮のおさまらない頭を振りながら、僕は何度も自分に言い聞かせた

「テジュン…」

いつの間にか僕のベッドの横に立っていたラブが呟く

「抱いて…」

僕は彼を見つめる

「だめだよ…それはいけない…」

ラブは切なそうな顔で僕に訴える

「いけない?なぜ?…俺がどうして貴方を誘ったのか…解らない?」
「…君の傷を癒すためだろう?」
「…」

ラブはゆっくり首を横に振った

「貴方なら解ってると思ってた…」
「…何を?」
「俺が貴方を誘った理由を…」
「…え…」

僕は身を起こしてラブを見つめた
ラブは僕の肩に腕を絡ませてキスをする

「…ラブ…もう…やめよう…。一日十分楽しんだじゃないか…。これでもう…」
「このままじゃ帰れない…」
「どうして?!」
「このまま帰って、貴方に癒されたって言って、それでアイツは俺をどんな風に見ると思う?」
「…言うつもりなのか?」

ラブはコクンと頷いた

「何故言うんだ!言わなくてもいい事だろう?」
「ねぇ…これで俺とアイツの罪は同等だと思う?」
「…え…」
「俺の気持ちを踏みにじってきたアイツの罪と、俺が犯した罪と…同じぐらいだと思う?」
「…」
「…足りないだろう?」
「ラブ…」
「足りないんだ。俺はもっと罪を犯さなきゃ…」
「そんな風に憎むな!」
「違うよ…憎んでるんじゃないんだ…」
「…どういう事?」
「…ねぇ…イナさんのメールにあったよね。『俺達が何をしても、テジュンがイナさんを許してきたように、自分もテジュンを許せるかな』って…」
「…それが…」
「『許す』って…何?」
「…え…」
「ねぇ…許す立場の人って…許される立場の人の、上に立ってるんだよね…」

そうだ…それがどうかしたのか?

「貴方はいつもイナさんを許してきた。ずっとそうだったから感じてないかもしれないけど、いつも許される立場の人って…どんな気持ちでいるか、わかる?」
「…え…」
「…イナさんのメールを読んで感じた。あの人はずっと…貴方に対して後ろめたい気持ちを持ち続けているんだって…」
「…そんな…。そんなはずはないよ…。だってアイツ、懲りずに誰とでもキスを…。そのくせ僕が誰かとキスしようもんなら怒って…」
「怒ってそれで?」
「反省して…。僕だけを見るだとか…そんな事ばかり言って…」
「おじさんもそうだよ。俺を見つけてはごめんねごめんねって謝ってばかりいて…。でも僕が誰かとキスしたりしたら猛烈にやきもちやいてさ」
「…お前の事が好きなんだよ」
「そう。イナさんも貴方の事が好きなんだ」
「僕だってイナを愛してる」
「俺も…あの人をね…愛してる…」
「だったらこんな事、なおさらしちゃいけない!」
「ううん…だから…抱いてほしいんだ…」
「ラブ…解らない…どうしてだよ」
「少しでも好きになったら、いつでも抱いてやるって貴方、言ったよね」
「あれは言葉のアヤだよ」
「俺を欲しくない?」

…欲しいと…僕は思っていた
そんな事、できるわけないけど…

「俺ね。おじさんとちゃんと愛し合いたい。あの人をちゃんと好きになりたい。でも、今のまま帰ったって…さっきのあれぐらいの事、したよって言ったって、多分おじさんの罪と同等じゃないと思うんだ…」
「罪って…同等って…」
「それぐらいじゃおじさんは傷つかない。ううん、傷ついたとしても…俺につけた傷の大きさとは比べ物にならないって…これからもずっとあの人は俺に引け目を感じながら俺と付き合っていくんだ…きっと…」
「…」
「イナさんもそうだよ…きっと…」
「そんなの…それは君の理論だ!イナは僕にそんな罪を犯してなんか…」
「いない?…おじさんを誘ったんだよ。おじさんに抱かれそうになったんだよ…。貴方がたった数時間いないってだけで…」
「…」
「普通じゃ考えられない…。なんでか解る?」
「…」
「いつも貴方が許すから…」
「でも…」
「イナさんはきっと待ってるんだ…貴方が過ちを犯すことを…。無意識にね」
「…僕はこれからずっと、イナと一緒に生きていくんだ!…もうイナの好き勝手にはさせない」
「そうやって貴方はイナさんを上から見下ろして押さえつけるんだ、一生」
「…え…」
「必ず戻ってくる。悪さしても必ず。イナさんは貴方の懐に甘えて飛び込んでくる。でもね、いっつも不安なんだ。だからたったの数時間でさえ、一人て待てないんだ!」
「不安?」
「貴方がいつも高いところにいて、イナさんが何をしても嫉妬さえしないで許すから」
「嫉妬してるよ!いつもしてる!君が知らないだけだ!僕は…僕は嫉妬深い男なんだ」
「でも見せないでしょ?どんなに苦しんだかイナさんに見せてない」
「…そんな事ない。見せてきたよ。僕の醜い感情だってアイツに…」
「イナさんがしでかした事が引き起こした貴方の醜い感情をね」
「…」
「貴方から起こった感情じゃない。イナさんの行動から起こった感情だ。そんな嫉妬をぶつけられて、イナさんは反省して、貴方を愛してると言って、貴方もイナさんを愛してると囁いて…イナさんは刹那の安心を得るだけだ」
「…」
「貴方はイナさんより高いところに立ってるんだよ。俺もそう。…俺は、貴方だから誘ったんだ。貴方がイナさんと本当に対等に愛し合うために俺が必要だと思った。俺もそう。貴方が必要だ
…一緒に堕ちよう…きっと堕ちてくれると思って…。だから…誘ったんだよ…」
「…」
「イナさんの気持ち、解る?」
「お前こそ、ギョンジンの気持ちが解るのか?!」
「解らない。だから…解りたい…。今日一日貴方といて、少しだけ解りかけてる。理解したい。あの人のいるところに行きたい!」
「…ラブ…」
「あの人の居る場所まで堕ちたい」
「…ラブ…」
「そこまで堕ちれば、あの人は俺と向き合える…」


告白  れいんさん

その日僕は久しぶりに家に帰った
日程的には少々ハードだったけど無理をしてでも帰る必要があった

久しぶりにうんと家族サービスしてこいよ…そう言って送り出してくれる人もいた
僕は曖昧に笑ってみせたが、帰る目的はそんな事ではない
それどころか僕は酷い仕打ちをする為に帰るのだ
妻に、僕の裏切りを打ち明ける為に

僕は家までの遠い道のりで何度も逃げ出したくなった
何度も引き返したくなった
だけどその度に彼の顔が浮かんだ


「何を得たくて何を失うのか、それを選択するのは僕自身だ」以前、彼にそんな事を言った
何度も悩んだ末の結論だ
彼とはもう離れられない…離れたくない
彼を失いたくないのならば、僕は逃げ出してはいけない…
何度もそう自分に言い聞かせていた


妻はいつもと変わらず優しく僕を出迎えてくれた
二人の子供達も嬉しそうに僕にまとわりついてきた
僕がこれから残酷な事を告げようとしている事など知らずに
喜ぶ子供達の顔を見て、胸か締め付けられるようだった


子供達が遊び疲れて眠ってから、僕は話を切り出した
彼との出会い
彼を愛してしまった事
そして彼を忘れる事ができない事…

妻は言葉を失い呆然としていた
無理もない
誠実な良き夫であったはずの僕が、急にこんな事を言うのだから

僕をずっと慕い続けてくれた妻に、僕は一度は救いの手を差し伸べておきながら
また絶望の淵に突き落としたのだ


すまない…身勝手な僕を許してほしい…
いや、許してほしいなんて言えるはずもない…
君は何も悪くない…悪いのは僕だ
君はいつも本当によくしてくれた
僕にはもったいない程の自慢の妻だ
それはわかっているのに…
頭ではわかっているのに…
自分の感情をどうする事もできない
何もなかったように振舞う事すらできない
そう言って僕はただ詫び続けるしかなかった

あなたは本当に不器用な人ね…
嘘をつき通して何くわぬ顔で私を騙す事もできたのに…
…あなたがそれ程までにおっしゃるなんて…よほどその方を…愛してらっしゃるのね…


妻はそう言ったまましばらく俯いていた
妻の唇が小刻みに震えていた


僕をなじるなり責めるなり、君の気のすむようにしてほしい
憎まれて当然の事だ
僕は酷い男だ
君に嘘をつき通してあげる事すらできない…


妻がようやく口を開いた


私は…三年前にあなたが私を妻に迎えてくれた事、とても感謝しています
あの時あなたに偶然会っていなければ、私はどうなっていたかわかりません
…三年間…とても…幸せでした
あなたが…私とあの子達に幸せをくれました
あなたは本当に良き夫、良き父親でいて下さった
子供達はあなたの事を実の父親だと思っています
いずれ時期が来て…話がわかる年になったら…子供達には私の方から話します
…それまでは…あの子達の父親だと…思わせていて下さい…
これまでも離れて暮らしていたのだから…今までと何の変わりもないでしょう…

そして…今度は…私があなたを救う番ですね…
あなたを自由にする事が…今まであなたがしてくれた事への…私の感謝の気持ちです…


感情を抑えているだろう妻の言葉を、僕はうなだれたままの姿勢で聞いていた
涙で視界がぼやけはじめた


本当はね…私…その方が憎らしい…
私の事も…そんな風に愛してほしかった…
いやね…最後まであなたの前ではいい妻でいたいのに…

さあ…もうお部屋で休んで下さい
私の気持ちが変わらないうちに…
これ以上惨めな気持ちにさせないで…
いやな女になりたくないの


妻は僕を促して部屋の扉をそっと閉めた
閉まりかけの扉の隙間から見えた妻の背中はとてもか細かった
扉がぱたんと静かに閉まった後に、部屋の中から妻の嗚咽か聞こえた
泣き声も漏らすまいと必死に押し殺している妻の叫びが聞こえた…
僕をなじる事もせず、僕にすがって泣く事もしなかった妻
誰もいない部屋で一人むせび泣く妻に、僕はただ心の中で詫び続けるしかなかった


奇妙な関係 恋人の時間 5 ぴかろん

ラブは僕の唇に貪りついた
僕はされるがままになっていた
ぼんやりとイナの顔が浮んだ
イナは僕を見るたびに、良心の呵責を感じていたとでもいうのか?

いつも不安そうな顔をしていた
僕がどんなに愛していると言っても、どこへも行くなと言っても、あいつはフラフラしていた
僕を信じてないんじゃなくて…僕に対して犯した罪を、後ろめたく思っていたから?だから罪を繰り返していた?
どういう事?
僕が堕ちるのを待っている?

ラブの唇が僕の首筋を這う
僕が唾を飲み込んだ時、ぐりぐりと動いた喉仏に噛み付く
僕はあっと声をあげて、理性と激情の狭間に落ちそうになった


いつも僕が許していた
いつもイナが謝っていた
それでうまく行っていると思っていた
何をやっても可愛くて、どうしても憎めなくて…

それは僕の感情
あいつはどう感じていたのだろう
許すという僕を『チョロいな』って小馬鹿にしてさ…

それは…僕がアイツを叱って、それから愛して、それで何もかもオッケーっていう、そういう方程式ができあがってたってこと?
かわいいから許すと、愛しているから抱くと…

確かに僕は、悪いことなんてしてないと思う
ラブとキスしたのだって、今さっきの行為だって、許されない範囲のことじゃないと思う
僕はアイツを怒らせたことが…ない…


「僕らやお前らの今までの関係を、白紙にしてしまうって事か?」
「…同じ高さでぶつかり合いたいんだ…今まで俺はそれを避けてきた…貴方も…そうでしょう?」
「…ぶつかり合う…」
「もしもね。俺が貴方の事好きになんなかったら、こんな事思わなかったかもしれない。でも…俺…ほんとに…貴方が好きだよ
俺もう…おじさんとよりも貴方と長い時間一緒にいるんだ。貴方の事が好きだから…だから抱いてほしい…そう思ったんだ…ヤケになって言ってるんじゃない」
「…ラブ…」
「貴方はどう?俺を好きだって言ってくれたけど、俺を欲しいと思わなかった?」
「…僕は…。ずっと考えてた。お前と過ごした二日間でお前と一緒にしたこと、僕はまだ、イナとはしていない事ばかりだった
さっきのあれも…イナにはしてやってない…。それだけでも十分、罪じゃないのか?」
「それぐらいの罪、貴方は十分耐えられるでしょう?」
「…え…」
「イナさんに秘密にしておけるでしょう?」
「…」
「イナさんは、他の誰かとキスしたことでさえ貴方に秘密にできない人だよ。罪を犯したらそれに耐えられない人なんだよ…だから…」
「僕に、耐え切れない罪を背負えって?」
「…そう…」

悪魔の囁きに聞こえた
妖艶な悪魔が言葉巧みに僕を快楽の世界へ誘おうとしているように思えた


抱くのは簡単だ
その後どうすればいい?
僕は一体どうなってしまう?

イナは…
ソクやギョンジンと、いつも後先を考えずにキスを繰り返していた

「イナさんは貴方といると息苦しいんだきっと…」

僕は全身に衝撃を受けた
息苦しい?
僕を慕って僕に甘えるあいつが、僕といると息苦しくなる?どうして?!

「貴方の事が好きすぎて…」

僕は頭に血が上って、僕に打撃を与えたラブを押さえつけた

「どうしてそんな事を言う?どうしてこんなことをする…どうして楽しい思い出だけで満足しない?!どうして僕を巻き添えにする!」
「楽しい思い出なんていらない!俺に必要なのはぶつかる勇気だ!
貴方にもぶつかって欲しいから。目を逸らさないで…。俺も目を逸らしてばかりいたから…だから。貴方の事が解る」
「目を逸らしてなんかいない!」
「逸らしてる…俺から…」
「…」
「俺を抱きたいくせに。俺は抱いて欲しいんだ!貴方に!」
「…ラブ…。そんな事したらお前の大切なものが壊れてしまわないか?僕は僕の大切なものを壊したくないんだ…」
「壊れてもいい!俺は今、貴方に抱かれたい。明日からは、あの人と向き合いたい!」
「…」
「悔いを残したくない。貴方との関係も、あの人との関係も…。もう逃げたくない。それでぶっ壊れても、俺…ひとりで立ち上がる…」
「ラブ…」
「今朝…あのCD聞きながら決心した。揺らぐかもしれないけど。俺はもう逃げない。そう思わせてくれたのは貴方なんだ。だから貴方を好きになったんだ。…貴方も…逃げないで」
「…」


だからあんなに澄み切った瞳をしていたの?
なのに僕のような男を好きだと言ってくれるの?

僕は…イナが離れていくのが嫌で、『許す』ふりをして逃げていたのか…
そうなのかもしれない…

僕の気持ち、今の気持ち…

ラブがぶつけてきた彼の気持ちを、いけないと思う反面、身体の芯を揺さぶられるほど嬉しいとも思っている
そして確かに彼が欲しい
抱きたい
抱いて…いいのか…


ラブの唇がまた僕を攻め立てる
僕は次第にその唇に溺れていく

『イナと向き合うために…』

そんなのは口実でしかない…
僕にとっては口実でしかない…

僕は
この男が欲しい
欲しくて堪らない
それが真実だ
僕の、今の、真実だ

僕はラブの唇を求めて顔を上げた
ラブはそれに気づいて唇を寄せてくれた
本能がむき出しになっているのを、お前、わかってるね?
お前が火をつけたの、知ってる?

僕は止まらないよ
お前から逃げないよ…
いいんだな?

お前を抱く
…これは僕が選択した事
どうなってもいい…そうさ、たとえぶっ壊れても

わかったよ…お前と一緒に堕ちよう
あいつらのいる場所まで…

僕らは貪るように互いの身体に口付けた


 祖父の遺産 オリーさん

彼の口にバーガーを突っ込んだら、二口でたいらげた
「ポテトは?」
「ない」
「どうして?」
「急いでるから」
「ふうん」
明らかに不満そうな彼はコーラのストローを噛んだ
僕は無視して自分の分を口に突っ込むと車を出した

必要な物を一通り揃えてマンションに戻ると夕方だった
荷物を運び込んで、整理すると夜
最後の休みだったのに
店の掃除が長引いたせいで予定が狂った
彼がおなかがすいたと言ったので
僕はすかさずラーメンを作った
何が食べたいとか聞くと面倒だから
彼はおいひいと言って、はふはふしながら食べていた
空腹には勝てなかったようだ

それから彼はちょっと書斎にこもり、何か書類を見ていた
僕はカラオケルームで色々な曲を調べた
僕の歌もあって、ちょっとどぎまぎした
歌詞を読んだらもっとどぎまぎした
でもちょっと口づさんでみたりした
いつかちゃんと練習してみよう

寝る前に二人でジャグジーの風呂につかって疲れを癒した
彼は5頭身半に戻っていたので
今日は溺れる事はなかった
ちょっとつまらない…
ワインを飲んだ
昼間買ったスパークリングワイン
お風呂もグラスの中も泡立っていた

そしてまたあのパオのベッドで寝た
今の僕の一番のお気に入り
お気に入りの場所で彼を抱いて寝る
とてもいい
そして朝を迎えた

初めての出勤の日、僕らは早めに部屋を出た
散歩がてら歩いていく事にしたからだ
朝の空気はとても気分がいいはずだ
今日は研修と打ち上げだから
スーツでなくてもいいと、ミンに言った
ミンはポロシャツとジーパンに着替えた
僕は黒のVネックのセーターとスーツ
ラフでいいって、やっぱりスーツじゃないとミンが笑った
だってポロシャツは
ボーダーのしか持ってないんだ
水色と白の…ああ、恥ずかしい

エレベーターホールを抜けて
受付でコンシェルジェのマネージャーと
いくつか気になる点を話した
彼は丁寧に教えてくれた
と、背後で突然大きな声がした
「兄さん!!」
振り向くとソンジェがいた
僕は車で行かなかった事を後悔した

「まさか、本当にここに住んでるの?」
「どうして知ってる?」
「ヨンスさんが、ホテルからつけてきたんだ
新しい素敵なお友達に頼んで尾行したらしいよ」
「…」
「でも僕は信用しなかったんだ。だってここすごく高いんだよ」
「そうらしいな」
「どうやって入ったの?」
「どうやってって…」
「僕もここに応募したんだ。自分のマンションをここにして
ノースウィングの方にミューズを移そうと思って」
「ミューズは自社ビルがあるだろう」
「何言ってるの、ここに入るってだけで一流企業の証明になるんだ
絶対入れると思ってたのに」
「どうした?」
「ご縁がありませんでした、って手紙が来たよ。もしかして断わられたのかな?」
「それ以上の断わり方があるのか」
「でね、ここの上5階はすごいらしいよ。ワンフロアぶち抜きなんだてって
世界中の金持が入ってるって噂だよ」
「ほお…」
「40階に誰が入ってるか知ってる?」
「…」
「ビル・ゲイツだって噂だよ」
「ビル・ゲイツが韓国にいるのか?」
「違うよ。彼はね、焼肉と石焼ビビンバが大好物なんだって
時々自家用ジェット飛ばして食べにくるらしい。その時に宿が必要だからって
買ったらしいんだ。すごいよね」
「なるほど」
「でその下はスピルバーグ監督だってさ」
「スピルバーグはキムチが好物か?」
「よくわかったね。そうらしいよ。スターウォーズの試写会には
みんなで来て泊るらしいよ。ああ、凄いなあ…」
「まったくだ。じゃ、僕はこれで」
「あ、ちょっと待ってよ、兄さん」
「まだ何か?」
「ヨンスさんとの事、どうするの?」
「どうするのって、お前離婚届持っていったじゃないか」
「あれ、破かれちゃった」
「破かれた?まさか…」
「ヨンスさんがびりびりって。だからまた書いてよ」
「書くのはいくらでも書くけど、お前ちゃんと話進めてるんだろうな」
「進めてるよ。ヨンスさん、これから毎晩店に行くって」
「え…」
「目先を変えたいんじゃないかな。兄さんの店、いくら行ってもみんな似た顔なのにね」
「ソンジェ、僕はいくらでも署名してやる。だからもっと建設的な話を聞かせてくれ」
「わかってるって。とりあえず、もう一枚サインして」
「わかった」
僕はサインして弟に渡した
「ありがとう、兄さん。今度遊びに行くから」
「まだ落ち着いてないから。それに僕のマンションじゃないんだ」
「誰?」
「ミンのだ」
「そうなの?」
弟は少し離れて立っていたミンの所へ行っていきなり手を握った
「ねえ、どうやってここに入れたの?僕にも教えてよ」
「実は、深い事情がありまして」
手を握られたミンは、そう言って目を伏せた
「深い事情?」
「僕の大金持ちの祖父の遺産なんです。お金を残しても醜い争いになるだけだと言って
僕にはこのマンションをくれました
孫の中で祖父の遺産を貰ったのはお気に入りの僕だけなんです
だから、あまり公にしないでくれませんか」
ミンは神妙な顔で言った
「遺産かあ。その大金持のおじいさんはもう死んじゃったのね。じゃあ口聞いてもらえないね。残念だなあ」
僕とミンはまだブツブツ言っている弟を残してマンションを出た

せっかく早く出たのに…ちっ!
朝の爽快な気分が吹き飛んだ
それにしても、大金持のおじいさんね…
僕はミンの肘をつついた
ミンはにやりと笑った

店に着くと壊れていた鍵は直っていた


【91♪バラ色の人生】ロージーさん


イナへ  足バンさん

事務室に入るとイナは喋りつづけた

「スヒョン〜ひでぇだろ?今度の新人!のっけからずっとあの態度だぜ!
 まったくオーナーも物好きなんだからよ!あいつのどこをどーやってホ○トにすんだよ」
「イナ」
「わかってるって!相手にすんなって言うんだろ?でもあれじゃ他の連中引いちゃうだろが」
「イナ!」
「なんだよ、だから…」
「テジュンさんはどうしたんだ」
「う…」

僕は目を通していた新人の書類をデスクにもどし
ソファにふんぞり返っているイナを見た

「なんでおまえとギョンジンがここにいて、テジュンさんとラブが一緒なんだ?」
「なんで…知ってんだよ…」
「オ支配人が帰り際に言ってたんだよ」
「…」
「おまえまた何かやらかしたのか?」
「やったのは俺じゃねぇよ…ギョンジンだよ…」
「でもおまえもカンでるんだろ」
「…」

イナは急に情けない顔になって目に涙を浮かべた

「俺…テジュを信じてるもん…」

僕はイナの隣に腰を下ろして顔を覗き込んだ
口をとんがらして爪を噛んでいる子供のようなイナ

「祭の間のおまえはちょっと目に余ったな」
「ふん…」
「信じてるっていうけど…信じるって一番ヤバいんだぞ」
「なんでだよ」
「考えなくなるからだよ。自分のことも相手のことも」
「あんでよ」
「信じてるって言葉にごまかされて、今何を考えなきゃいけないか忘れるからだよ」
「んなことねぇもん」
「神さま信じてる人たちが皆幸せか?自分の神さま信じるあまりテロ起こしてる連中がいるんだぞ」
「…」

「どうしたらいいんだよ…じゃぁ…」
「おまえが何でテジュンさんを好きなのか、なぜテジュンさんはおまえをいつも許してくれるのか、ちゃんと考えろ」
「考えたよ」
「何でテジュンさんを苦しませてしまうかもだ」

「テジュ…ラブとなんかあるかな…」
「愛情はたったひとつとは限らないよ」

イナはぴくりとして顔を上げ僕を見つめた

「いろいろな形で共存することだってあるんだ…どっちも本気で」
「…」
「いい?」
「スヒョン…キツネの…」
「だから!」
「…」
「ちゃんと向き合え。いいな!」

イナは涙をためて小さく何度か頷いた
そしてしばらく我慢していたが
いきなり僕の首に抱きついて大声で泣きだした
テジュ…テジュ…

そっと腕を回してやると
底なしの寂しさと混乱とテジュンさんへの想いがどっと流れ込んできた
いつかもそうだった
あのときと状況はまるきり違うのにイナは同じように苦しんでいる
不器用なやつ…

ノックの音がして勢いよくドアが開きさっきの新人ふたりが顔を出した
僕たちの状況を見て凍りついた

「「げっっ」」
「ししし失礼ししししました!」
「あの野郎俺のスヒョンさんになにしてやがっ…」
「おまえら何勝手に事務室開けてんだ!」
「テプンっおまえまで手出すなって!」
「チョンマンおまえネクタイ野郎いけ」
「僕をこいつと一緒にしないで下さい!」
「ちょっとテプンさんたち!やめなってば」
「ドンジュン邪魔すんな」
「あー!そんなノブ引っ張ったら壊れるって!あーほらっ」

何やら押し合いへし合いしている騒ぎの中で
イナは僕にしがみついてまだ泣き続けている

騒いでいる連中のずっと向こうで
テジンが苦笑しながらしまいかけた大工道具をもう一度出していた

やれやれ…


奇妙な関係 恋人の時間 6 ぴかろん

俺はテジュンに口付ける
テジュンを巻き込んだのは俺だ
いけない事かもしれない
でも俺はテジュンに抱かれたかった

テジュンも俺を抱きたいと
そう思っているに違いないと
俺は確信していた

テジュンが俺をいかせてくれたあの後
テジュンが俺を本当に好きだという事に気づいた
テジュンは俺を大切にしてくれる
テジュンは俺の気持ちを大事にしてくれる

俺はテジュンが好きだ
なぜもっと早くに知り合えなかったのだろう
俺が一番辛かった時、テジュンは俺に言ったよね

君を好きになればよかった
そうすればこんなに苦しまなくてよかったのに

解ってるよ
イナさんを愛してるって
そして俺も
俺もどうしても
アイツを愛してるってこと
解ってるんだ

他の誰だってよかった
俺だけがアイツのいる場所まで堕ちればいいんだから
でも俺はテジュンを誘った
テジュンと一緒ならきっと
俺がたどり着いたその思いが
アイツにも、イナさんにも届くと思ったから…

ごめん…巻き込んで
でもそうなんだ
イナさんの気持ちはきっと
アイツと同じで
貴方に対していつも
何かしら後ろめたさを感じているはず
違うかな?


テジュンの唇も指も
もう止まらない
俺の唇も指も身体も
もう止まらない

俺の肩の入墨に舌を這わせながら後ろから俺の胸を弄る
俺はテジュンの腰やわき腹を撫で、それからテジュンの耳に手をやる
テジュンも俺の耳に唇と舌を這わせ、俺達の吐息が一つになる

テジュンが俺の身体を少し捩り、俺の唇を吸う
心の奥底にイナさんを仕舞いこみながら俺の身体を求める
ベッドサイドのラジオのスイッチを、俺は足の指を伸ばして入れた
テジュンが俺の顔を覗き込んでクスッと笑った

よかった…
笑顔が見れて…

「心配そうな顔…。そんな顔するなら僕を誘うなよ」
「腹括ったの?」
「括んなきゃこんなとこまでこないだろ…それよりお前、余裕だな…」
「だって…恥ずかしいよ…静か過ぎて」
「よく言うよ、もう全部僕に見せたくせに…」
「…そんな言葉…取っとかなくていいの?明日に…」
「ぶっ壊すんだろう?今までを…僕達は」

俺の唇を狂おしく塞ぐテジュン
ラジオからデビッド・ボウイの曲が流れてきた
退廃的なメロディが、今の俺達にぴったりだ…
だけど俺たち、ぶっ壊した後に、もっと凄いモンをぶち建てるんだ…
そのための、最後の恋人の時間…

テジュンの長い指が俺の背中をなぞる

ああ
これを俺は夢見ていた
この指が俺の身体を這い回ることを
俺は夢見ていたんだ
あの時、あの通路でキスした時から
俺はテジュンを求めていたんだ…
あの時から俺は、テジュンとこうなりたいと思っていたんだ…

「テジュン…好きだよ…好き…」
「僕もだラブ…ずっと前から、僕はお前が欲しかった…」
「…ほんと?…今…俺も…あ…あ…俺もそう思って…」

テジュンの指と唇に、俺の言葉がかき消される
いつもこんなに優しいの?
いつもイナさんはこんな風に愛されてるの?

アイツは…
アイツは俺をどんな風に抱くんだろう…


テジュンは僕をうつ伏せにし、腰を高く上げさせた
そうした後も長い指と唇と舌が俺の身体をくまなく巡り
俺はそれだけで息もつけないほど感じていた

テジュンが静かに俺の中に訪れる
俺は小さな悲鳴を上げる

「大丈夫?」
「あ…うん…」

テジュンと一つになった
もう後戻りはできなかった
テジュンの息遣いが激しくなり
俺は段々何も考えられなくなってきた
俺は激しい突きに叫び声を上げ
狂ったように頭を振った
テジュンは身体を離し、俺の向きを変えた

「乗って」

一言だけそう言った
俺はテジュンに跨った

ああ…
頭の中でWait For Meの音楽が流れる
俺はゆっくりと腰を動かし、テジュンを見下ろした
テジュンも俺をみつめて切なげに顔をゆがめた

イナさんの事、思ってるんだね…
ごめんね、俺もだよ…
あの人の事、思ってる

ギョンジン…
そこまで降りていくから
待ってて
待っててお願い…

俺は大きく腰を揺らした
テジュンもそれにあわせて俺を突き上げた

「あ…テジュ…テジュン…テジュン」
「ラブ…ラブ…」

お互いの名前の中に、違う相手を感じる
それでも俺は幸せだった
俺と一緒に堕ちてくれるテジュンを
俺は本当に好きだった…
そしてやっとアイツの気持ちが解った
二人ともが好きで二人ともを求める気持ちが
俺を抱きながらイナさんの名前を無意識で呼んだアイツの気持ちが
アイツの心の中にはあの時
俺がいたんだと
俺は今ようやく解った

押し寄せる心と身体の波に、俺は身を預けて漂い、全てをぶち壊して散り散りに砕けた


これでよかったのだろうか
僕には解らない
これで本当にイナと向き合えるのだろうか
イナの犯した罪は、たった今僕が犯した罪と、本当に同等だろうか…
僕はラブを抱きたかった
その想いを無意識に打ち消していた
そんなことになるはずがないと頭から否定していた

ラブと繋がった時、イナの泣き顔が見えたような気がした
ラブを突き上げた時、イナが僕の上でなまめかしく動くのを見た気がした
でも僕が抱いているのはイナではない
イナとは違う身体だ…
戸惑いながら、それでも僕は、僕の今の気持ちに従ってラブを抱いた
体中の細胞がいつもと違ったリズムで震えている
悦びの声を上げている
僕はラブの中に僕を放った
怒涛のように流れ出す僕
その直後に怖ろしい後悔の念が押し寄せてきた

僕とラブとでは立場が違いすぎる…
僕はラブを抱いてはいけなかったのではないか…

それでも僕は崩れ落ちてくるラブを抱きとめた
朦朧としているラブに口付けながら僕は思った
イナは、ソクやギョンジンとキスしている時、キスした後、僕の事を思い浮かべ、今の僕と同じように激しく後悔していたのではないのか…
己の気持ちにあまりにも正直すぎて、結果僕を傷つけていると言う事に
イナはきっと心を痛めていたに違いない
今の僕のように…

ラブの名前を呼びながら
僕の心にはイナがいた
ラブを抱きながらイナの名を呼んだというギョンジンの気持ちが
僕にも解った

ラブもきっと理解できたのだろう
意識がぼやけていても、美しい微笑みを湛えていた

僕は…ただ…
イナに会った時に
どんな顔をすればいいのか…
どんな顔になるのか…
それがとても怖かった

できるならばもっとラブを求めたかった
ラブの身体は入った瞬間から僕を捉えて離さなかった
こんな感覚は初めてだった…

崩すなら粉々に崩してしまえ…
それで吹き飛んでしまうなら
それだけのことだ…

そう思ってみても僕は怖かった
それと同時にこの甘い毒を
もう一度味わってみたかった

【92♪ラブの夢は夜ひらく】ロージーさん


みんならりるれ… オリーさん

「何してるっ!」
事務室の前で彼が叫んだ
色々な組み合わせで掴み合いになっていた
ドアのノブが壊れていた
彼はみんなを押しのけて中に入った
イナさんがスヒョンさんにしがみついていた
彼はみんなを外に出した
「イナとスヒョンと打ち合わせするから店で待っててくれ」

「あ、あのチーフっ!」
太いネクタイをした新人が彼に話しかけた
「僕、ドンヒですっ、よ、よろしくお願いします。あのっ…」
「話は後で聞く」
彼はそういうと、ドンヒさんも外に出した
僕にも顎を振って行くように合図した
僕はみんなの後から店の方へ移動した
新人二人が前を歩いていた

「まずいなあ、チーフに見られちゃった」
「関係ねえよ。それよりあのイナって奴もスヒョン狙いか」
小汚い方の新人が口からガムを出して手につけた
その指が壁につく前に、僕は手首を掴んだ
手首を掴むのは最近得意技だ
「痛っ!こいつ何すんだよっ」
「ミン・ギョンビンです、よろしく」
僕は手首を返して、ガムをその人の口に戻してあげた
「お前見覚えあるぞ。確か映画に出てたろっ!」
「えっ、ていうことはチーフとあの…」
僕は面倒だったので一礼して店に入った
ドンジュンさんを探した
でもその前に、ひどい顔をした兄さんを見つけてしまった

「イナ、どうした?テジュンさんは?」
イナは俯いていて返事をしない
かわりにスヒョンが説明してくれた
イナの…ぶぁかっ!
と言う事は、ミンの兄さんも…
「俺ができることはテジュンを信じて待つことだけだ」
イナはいつになくしおらしい
「イナ、テジュンさんを信じるのはいいけど…」
「何だ?」
「その前に、自分を信じてないとな。相手に求めすぎたらだめだ
彼が何をしようとお前が信じてればそれでいいだろう」
「ミンチョル…」
「僕はそれをミンに教えてもらった。そしてスヒョンはドンジュンに」
スヒョンがゆっくり微笑んだ
「いい事言うじゃねえか、ミンチョル」
「だから、お前も落ち着け。店も始まる」
「わかってる」
ひとしきりまたイナは泣いた
泣きやむのを待って、スヒョンが僕に聞いた
「ローズ・ヒルズに住んでるって?」
「そうなんだ。40階だ」
「ヒルズの40階、そうか、そういう事か。40回じゃなかったのか…」
スヒョンがクスクス笑った
泣いていたイナの目がキラリと光った

「お前寮にいたんじゃないのか?」
「昨日、荷物を移した」
「ナンチャラヒルズって、あのでかいビルか?」
「僕のじゃないんだ。ミンのマンションだ」
「ミンチョル!お前とうとう…」
「え?」
「ギョンビンのヒモになったのかっ」
「ヒ、ヒモとは何だ!」

「ヒモじゃねえか、相手のマンションに転がり込んで面倒見てもらってんらろ
これをヒモと言わじゅ何らよ」
「友達でも言っていい事と悪い事があるじょ!」
「うっしぇえ。お前人に説教たれやがって、自分はヒモかよ」
「僕とミンはそんなんじゃないのら」
「じゃあ、どんなんらよ、えっ?」
「こいちゅ、弱ってると思って優しくしてやってりゅのに」
「お前こしょ、ギョンビンにしゅてられたら、また路頭に迷うのら」
「ミンは僕をしゅてたりしないもん!」
「わかるもんか!あいちゅ免疫なかったから、お前の色香にだましゃれたらけで、しょのうち目が覚めるじょ」
「う、う、うるしゃいっ!泣き虫め!お前こしょ、テジュンしゃん帰ってこないじょ」
「て、てじゅのことは言うなっ」
「二人とも、いい加減にしゅるのら!ぼ、僕までらりるれっちったじゃないか」
「スヒョン、こいちゅ、ひどいのらろ」
「ミンチョル、しゅてられたら僕が拾ってあげりゅから」
「ほんと?」
「れも、ドンジュンに聞かにゃいと。らめらろうな…」
「僕のことしゅきって言ったのはうしょなのか!」
「あっ!お前ら、やっぱりしょういう事か。こいちゅら、何考えてるのら!」
「うっしゃい!僕らはメンタルで高尚な関係なのら」
「きちゅね!ホれたハれた高尚も何もないのら!」
「らいたい、イナがぐしゅぐしゅしてりゅから、こういう事になりゅ!」
「おっ、スヒョン、お前やっぱきちゅねの味方か?ドンジュンに言いちゅけりゅじょ」
「ちっと待って。そりはだめなのら。しぇっかくうまくいってりゅのに」
「イナ、大人げない事しゅるんじゃない。らから、お前小学校低学年って言われるのら」
「誰が小学生なのら!」
「ドラマが進むごとにろんろん学年がしゃがって、今じゃ小学1年生じゃないか!」
「小学生は賭場に出入りできないのら、あほっ!」
「らから、見てる人が混乱してるのら。あほっ!」
「確かにイナは小学生レベルら」
「スヒョンっ!こいちゅ!」
「らから言ったのら。まちゅりの間は目に余ったって!持ち越しゅな!」
「きちゅねと天使で可愛い小学生をいじめて、視聴者がらまってないじょ」
「へへん、元は同じらから、れんれん平気らもん」
「きちゅねっ!」

「あのう…」
「「「ひゃい?」」」
「ドアノブ直したよ」
「「「テジン!!」」」

「今のじぇんぶ・じゃなくて、今の聞いてた?」
「大丈夫。ヒモとか小学生とか聞いてませんから」
「「「聞いてるじゃねえか!!!」」」
「いや、僕も色々あって、今の話よかったよ。元気になった。じゃ」
「「「あ…そうなの…」」」

「ほら、研修の打ち合わせだ」
「イナ、涙の跡拭け」
「落ち着くんだぞ」
「誰に言ってる」
「お前達にきまってるだろ」
「お前もらりるれしたくせに」
「案外はまるな、あれ」
「ケホン!始めるぞ」
「うっす」


◇ Bon voyage…five…◇ *1 妄想省家政婦mayoさん
 
「ここだ##」
「ん…」

振り返ったテスに俺は瞬き頷き顔で答えた…

左に傾斜の緩やかな岩肌を段を刻みながら落ちる瀧..正面は真っ直ぐに落ちる瀧…
2つの瀧が流れ落ちる滝壺は底が見えるほど透明感を湛えている…

滝壺の深さは確か…俺が立って肩くらいか…

お目当ての瀧が見つかりすっかりご機嫌のテスは俺の懐に来て…俺の顔を覗き込む…

「ちぇ〜みっ#…**^_^**…」

テスのおねだりの顔だ…

「テス…まだちょっと水は冷たいぞ…」
「一緒なら冷たくないってばぁー…ねっ?」
「ぁ…」
「だってぇー…誰もいないもーん…ねっ?」
「ぅ…」
「いつも###でみせてくれるここで泳げるんだ…ねっ?」
「ぉ…」
「岩場で寝っ転がってれば乾いちゃうってばぁー…ねっ?」
「ぃ…」
「駄目ぇ〜?…ね…」
「ぅ…ぅ…ん…」

テスは…俺に話しかけながら…ちゃっちゃと…ポンポンと…自分の服を脱ぎ始め…
俺のシャツのボタンを外し…ベルトを外し…チャックを下げ…俺に返事をする間を与えない…
で…俺は…全部…脱がされた…^^;;…

「へっへぇー^o^〜…」
「ったぐ...わーかった#…」
「そぉーこなくっちゃ#…v^o^v…」

とういうことで…俺らは…すっ○ん○ん#で…滝壺で泳いだ…

水温は思ったほど冷たくなく..泳ぐには問題なかった…
テスは水の中で生き生きと泳ぐ…
大地ではドッタ#バッタ#と走り…足がもつれるくせに…
バシャバシャと無駄に飛沫を立てることなく滑らかに泳ぐ…
水の中ではテスにはかなわない…俺はされるがままだ…^^;;

滝壺から出て岩場でふたりで寝っ転がる..程なく濡れた身体が乾いてきた…

「ちぇみ…明日も来たいな…」
「ん…帰り道だからいいぞ…」
「やった^_^..」

下山の時間も考え..雲にほんの少しだけ茜色が混じってきたのと同時に俺らは武陵谷を後にした…


東海市から海岸線に沿って30分ほど南に下ると三陟市(サンチョクシ)だ…
市内を車で通りすぎている時..キョロキョロと外の様子を見てテスが言った…

「ちぇみ…何だか…おばちゃんがいーっぱい#ウヨウヨいる…」
「ぷっはっは…」
「それも…日本人かな…何故?」
「あはは…しょうがない…」

三陟には最近日本人観光客が多く訪れる…あじゅんま軍団つーやつだな…ん…
ほれ…”マフラーP”が18話で海にカメラだのネックレスだのコインを海に投げただろう…
その海岸がここ三陟の海岸だ…
でもって3だか4だかの新作映画「外出(4月の雪)」のロケ地だ…

三陟ツアーもあるぞ…ツアーの最後にグッズプレゼント…
ま…いつものあの顔の写真で家族は大喜びってとこか…

”マフラーP”の家族や”ソナチアン”が訪れるのは三陟市だけではない…
江原道の海岸添いは北から襄陽(ヤンヤン)郡→江陵市(カンヌンシ)→東海市→三陟市で位置している…
襄陽(ヤンヤン)郡には襄陽(ヤンヤン)国際空港がある…
国際空港だが..はっきり言って…かなりうら寂しい空港だ^^;;
2002年4月に開港したこの空港は開港目前の頃は国際路線を全く誘致できないでいた…

空港の近くには”マフラーP”のドラマ中盤の舞台となったドラゴンバレーリゾートが位置し…
”マフラーP”=チュンサン家のある春川市(チュンチョン)も襄陽(ヤンヤン)郡の西隣に位置している…
というわけで江原道に”マフラーP”の家族はツアーで続々とお出ましになるというわけだ…ん…

いやはや…ご苦労なこった…


三陟の市内を抜け海岸の岸壁に立つホテルに入ったときは夜になっていた…

「うっわ…」

部屋に入ったテスは固まった…


奇妙な関係 恋人の時間 6 ぴかろん

ラブはそのまま眠ってしまった
僕は眠れない
ラブの頭を肩に乗せてずっと撫でていた

僕はどうしたらいい?
明日帰ってイナの顔を見て、何を言えばいい?

ラブに対する気持ちも、イナに対する気持ちも
なんだか中途半端な気がした

壊した物も中途半端
何をすればいいのかもわからない

僕は目を閉じて眠ろうとした
でもできなかった…


そのまま夜明けを迎えた
僕はラブを起こさないようにベッドから抜け出し、リビングにタバコを取りに行った

普段は吸わない
箱は空っぽだった
ちょうど今の僕みたいに…

…ラブの奴…全部吸っちゃったな…
はぁ…

僕はのろのろと服を着てタバコを買いに出た


まだ6時前だった
ショップが開いてないので、フロントで聞いてみた
ここで買えるというので、セーラムを二箱買った

「あ…それと…」

僕はフロントに頼みごとをした
その後まっすぐ部屋に戻った

タバコに火をつけてテラスに出る
昨夜の出来事が夢のように思える
本当にラブを抱いたのか?
けれど僕の身体に残っているラブの感触が
僕の胸を締め付ける
本当にラブを抱いてしまったのだ

だから僕は…そうしようと思ったんじゃないか…


「テジュン?どうしたの?」
「起きてたのか?」

上半身は裸のまま、Gパンを履いたラブが、ベッドルームから出てきた

「どこ行ったのかと思ったよ。タバコ?」
「お前が全部吸っちゃったから」
「…ごめん…」
「何してたの?」
「荷物詰めてた」

ラブは明るい顔をしていた
僕に微笑んでいたその顔が段々と微笑みをなくす

「…テジュン…。どうしたのさ…」
「…何が?」
「…ごめん。わかってる…俺が巻き込んだからだ…」
「…いや…僕が決めた事だ。お前のせいじゃない」
「…帰る準備するね…引き伸ばしてごめん」
「…」
「何時に発つ?」
「帰らない」
「…え…」
「今日は帰らない」
「…何…言ってるの…」
「帰らない。帰れない」
「…イ…イナさんが待ってるんだろ?!」
「このままじゃダメになる」
「…どう言う事?」
「こんな気持ちのままイナに会ったって何も言えない。どうにもならない」


テジュンは静かにそう言った
俺はテジュンの横顔を見つめた

「今日帰らないって…じゃあ…いつ帰るの?」

テジュンは俺の顔を見て、ゆっくり微笑んだ

「昨日はお前のための一日だったろ?だから今日は僕のための一日にしてくれないかな…」
「…」
「恋人の時間を延長してくんない?」
「…じゃあ…。明日は帰る?」
「うん…」
「…わかった…。俺が引っ張り込んだんだものね。貴方様のご希望もお聞きしなくちゃ…だね…」

俺がちょっとふざけてそういうとテジュンは海を見つめて微笑み、タバコをふかした
その仕種が大人らしくて俺は見とれてしまった
そして夜の事を思い出してしまった

「今日さ、何する?何して遊ぶ?」

俺は少し震えながら言った

「ずっとお前を抱いていたい」

え…

「ずうっと…。朝から晩まで…」
「そんな…」

そんな色っぽいこと言うなよ…

俺はどきどきして俯いた
テジュンは俺の肩を抱き寄せて俺の頭に自分の頭をくっつけた

「こんな中途半端じゃ、どこにも行けない」
「中途…半端?」
「…ごめんね、お前はもうスッキリしただろうけど、僕は何の心の準備もしてなかったから…気持ちが浮いたり沈んだりしてる。溺れかかってる」
「…テジュン…」
「お前を好きなのも、イナを好きなのも本当だ。イナに会いたいけど、会うのが怖い
 お前を抱いたって言うつもりだけど、何で抱いたのか聞かれたら何て答えようかって言葉に詰まっちゃう…」
「言わなくてもいいじゃん…そんな事…」
「耐え切れない罪を背負えって言ったのお前だろ?」
「…」
「でも耐え切れないのか耐え切れるのかわかんないんだ、昨日の事…」
「…テジュン」
「ぶち壊したものが中途半端に残ってる。どうしようもない。こんなとこに何も建てられない。だから…もっと粉々にしたい
 溺れるなら、底までいきたい…。でないと浮き上がれない。ダメかな…」
「…わかった。付き合うよ…」
「…ホントに?!」
「…何だよ、急に元気…」
「…ウフフ…」
「それになんか…急に…すけべ顔…」
「…らって…」
「らりるれってるし…」

テジュンはいたずら小僧のような顔をして僕の目の前に顔を持ってきた
そしてこう言った

お前、すごいんだもん…たまんない…

どきどきした
だって、俺だってそうだったんだもん…
最初っからもう…脳天痺れちゃったんだもん…
あとはもう…ああ…わけが解らなくなっちゃって…


え…
って事は…俺…このすっごいテジュンに一日中…え…え…

俺…どうなんの?!

「どうしよう…僕、沈んで浮かび上がれなくなっちゃうかな?」
「…そんな…。俺の方が壊れちゃう…。やだ…帰れなくなっちゃう!やだっ!」
「…え…。僕…凄かったの?」

俺は黙って頷いた

「え…うそ…」

テジュンは絶句した
俺達は暫く黙って顔を見合わせた

テジュンは急に真顔になって俺から離れた
そしてテラスの柵に凭れて海を眺めていた
俺は恥ずかしくて近寄れなかった
昨日のことが生々しく甦った

あんな事を…一日中?!
どうしよう…
溺れるのは俺の方かもしれない…

「そんな不安な顔しなくっても大丈夫だよ」

突然テジュンが言った

「僕そんなに体力ないもん♪」
「…ばか…」
「ただ、一日ずっとくっついていたい。それで…お前への想いを終わらせたい…」



終わらせられるのかどうか、解らなかった
今日と言う日が過ぎてみなければ…
でもいつまでも迷っているわけにはいかない
だから

「ずっとこの部屋でお前を抱く」
「…」
「溺れて死んじゃうかな…」
「…エアタンクしょってくから大丈夫…」
「…」
「エアタンクの空気、限りがあるからね。気をつけないと死んじゃうかも…」
「わかった。底まで沈んで海の中の楽園に行こう…」
「…う…ん…」

多分僕達は身体の相性がよかったのだろう…
そんな相手に巡り会えるなんて思ってもいなかった
今日一日、ラブに恋する
思いっきり恋する
明日の朝には夢が終わる
終わらせなきゃいけない

僕はラブの肩を抱いてリビングに戻った


爽やかな朝  れいんさん

そして…朝を迎えた
いつもとは…全然…まるっきり…違いすぎる朝だ
これは悪い夢でも見てるんだ
お洒落とは程遠い殺風景な部屋で…
隣にいるはずのスヒョクはいなくて…
夢だったら早く覚めてくれ…

そんな願いも虚しくヨンナムさんが爽やかに元気いっぱいに起こしにきてくれた
早朝5時に…

「さあ!早く顔を洗って下さい!表で乾布摩擦やりますよ!毎日続けると健康にいいですからね」

この僕が乾布摩擦…
勘弁してくれよ…ある意味いじめだ

僕はしかたなくのろのろ起き上がり、洗面所に行き、顔を洗った
そこで僕はある事に気づいた
この家には各部屋に何かしらの書がかけてあるという事に
洗面所にもひとつあった

「乗るなら飲むな」

はあ〜ヨンナムさんらしい…

僕はとにかく乾布摩擦とその後にラジオ体操も終えて着替えた
ちょうど着替え終わったところにヨンナムさんがやってきた

「朝食の前にもう少し運動しましょう。お腹がすくと御飯がうまい!」

と、逆らう事など到底できない満面の笑顔で言った
もう、なんでもやってやるよ
運動ってなんだ?
ジョギンクか?

ぼーっと立っていた僕はあれよあれよという間にヨンナムさんに雑巾とバケツを持たされていた

はあ〜ヨンナムさんってば毎朝これやってるんだ
だから床はピカピカなんだな…

なんだかすごく健全な生活…
ここは寺か?

僕はぼやきながらも拭き掃除を終えた
朝からこんなに動いた事はない
なるほど、確かに腹が減ってきた

「朝食の支度ができましたよ。ソクさん、すみませんが御飯をよそって下さい」

僕はヨンナムさんに言われるまま台所へと足を踏み入れた
やはり台所にも例の書があった

「一日一善 メシは三膳」

だんだん慣れてくる自分がこわい

そして僕はヨンナムさんと朝食を食べた
メニューは…

トーストとサラダとヨーグルト…なんて事はあるはずもない

御飯と豆腐のみそ汁とほうれん草のお浸しとアジの開き
海苔・生たまご・お新香…

な?思った通り
まるで旅館の朝ごはんだ
僕はつっこむ元気もなくもくもくと食べた
しかし、確かに御飯がおいしくて、三杯も食べてしまった

「今日はBHCで新人研修があるんでしたよね」

はっ!そうだった。すっかり忘れていた
そうだ!スヒョクだ!スヒョクに会える!
スヒョクに会ったら…スヒョクを説得して、どこか二人で部屋でも借りよう
そして寺の小坊主みたいな暮らしから抜け出すんだ

ああ…スヒョク…
あいつも僕に会えなくて寂しい思いをしているだろう
久しぶりに濃いめのキスなんかして…とろけさせて…
それから…それから…

僕はスヒョクと三杯の御飯のおかげで元気が湧いてきた
身支度を整えて(もちろんスーツでキメキメだ)ヨンナムさんに「行ってきます」と挨拶をした

「あ、ソクさん。ちょっと待って下さい。…これついでにBHCに届けて頂けますか?」

…え?

おそるおそる振り返った僕にヨンナムさんは、断れない笑顔でそれを渡した

「これ、今日納品するミネラルウオーターです。ほんとは僕が届けないといけないんですが
本当にすみません。助かりますよ。ソクさん」

そう言ってあのでっかいボトルを僕の肩にどんと乗せた
どうやらばっちり決めたスーツにこのボトルを担いで店まで歩いていかなければならないらしい

玄関に掛けてあった

「三歩進んで二歩下がる」

の書が僕の未来を暗示しているような気がして僕は深く溜息をついた

そうして僕は誰にも会わないように気をつけながら店までの道のりを足早に歩いた


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