行商テキーラ・ボンバーズ ラストステージ4 ぴかろん
おじさんとギョンビンの闘いが風のように起こって風のように止んだ
ギョンビンが俺のとこにやって来て頭をさげてくれた
さっきまでの冷たさが感じられない…
俺は笑顔を作ったつもりだったけど、きっと引きつってるだろうな…
そのすぐ後に
「でも、兄さんとはやめた方がいいよ」
って言われた…
俺は凍りついた
まだ何か言うの?
ドンジュンもかたまってる
ギョンビンが口を開いた
「この人、エロミンって言われるほどスケベなんだ。やめた方がいい。弟が言うんだから間違いないよ」
それを聞いておじさんが思い切りギョンビンの頭をぶった
俺は体の力が抜けて、やっとほんとに笑うことができた
その後俺達はカウンターに座り、テキーラで乾杯した
乾杯が終わったのを見計らって、ギンちゃんがソンブレロを取り出し、カウンターの中の三人を指さした
おじさんと俺は顔を見合わせてすっくと立ち上がった
横でギョンビンがドンジュンにこそこそ言っている声が聞こえた
「兄さんおかしいですよ…あんなじゃなかったですもん…。すっごく楽しそう…」
「ふぅん…。それって…いや?」
「…ううん…。なんだか…。やっとホントの兄さんに会えた気がします…」
「…よかったじゃん…よかったね…」
よかったね…
おじさんも、よかったね…
俺は俯いてクスッと笑った
その時スヒョンさんとミンチョルさんがラウンジに戻ってきた
ドンジュンとギョンビンが固まっている
ミンチョルさんはおじさんに怪我はないかと訪ねた
おじさんは緊張して何か答えていた
俺も緊張してしまっておじさんたちが何を喋っていたのかわからなかった
なんで俺が緊張したかって?
だって…ミンチョルさんがあまりにも…色っぽかったから…
白いシャツが照明の加減で薄い紫色に見えたんだ…
妖艶なミンチョルさんの醸し出す雰囲気に圧倒されちゃった…
スヒョンさんは…穏やかな顔をしていた
神々しいまでの微笑みを湛えていた
やっぱり圧倒される
スケールが違うもん…
本物の天使なんだなと思った
そしてドンジュンが羨ましくなった…
でもドンジュンとギョンビンは固まったまんま…
スヒョンさんとミンチョルさんはスングクさんが渡したグラスを手に、さっきギョンビンたちが座っていた窓際に向かった
俺は二人の後ろ姿に見とれていた
美しい一枚の絵のような二人…
ん?
ミンチョルさんの上着に
なんか草がついてないか?
ん?
スヒョンさんの背中にも…
ん?
「ラブ、行くぞぉっ!」
突然大きな声がして、俺は振り返った
キャラの変わっているおじさんが、随分はりきっている
ギンちゃんはカウンターの中からソッキュさんを連れ出してきた
イナさんがレモンを絞る
おじさんがテキーラを流し込む
俺がシェイクしようとしたら…
ガンホさんが俺の頭の上から手を伸ばしてソッキュさんの頭を掴み、ゆさゆさと揺さぶりだした
ソッキュさんは細い目を一生懸命見開き、ガンホさんを見つめている
ガンホさんはどうやらまたチョコパイを頬張っているらしい…
一体いくつ食べる気なんだろう…
ごっくんさせたあと…口からチョコパイを出したガンホさんは、にんまり笑ってソッキュさんの口に……
ああ…きもち悪いから見てられなかった…ああ…
ソッキュさんの、酒瓶を割ったような悲鳴が、ラウンジにこだました…
ガンホさんは気絶したソッキュさんの首根っこを引っ張って、一足先にラウンジを後にした…
「…ああ怖かったぁ…次いこう…次…」
次のターゲットは仮分数なスングクさんだ
ギンちゃんに促されて照れ笑いを浮かべながらフロアの方に出てきた
スングクさんはギンちゃんに何か言っている
ギンちゃんはクスクス笑いながらスングクさんの背中を叩いている
そしてイナさんがレモンを絞り、またおじさんがテキーラを流し込んだ
今度こそ俺がシェイクを…と張り切ってたのに、シェイクの時になったらわらわらと人が寄って来た
トファンさん、テスさん、スンドン会長、サンドゥおやびん、そしてイナさんとギンちゃんもめっちゃくちゃにスングクさんを揺さぶっている
特にイナさんなんか、目が血走ってるよ…
いや、良く見るとサンドゥおやびんやスンドン会長の目も…
スングクさんはうっすらと仮分数に笑いながら目を閉じて眉間に皺を寄せて耐えている
♪じ〜んせいら〜くあ〜りゃく〜もあるさ〜
どこからともなくそんな歌が聞こえてきた
…ような気がした
なぜだろう…
ごっくんしたあとスングクさんはシェイクしていたみんなに深々と頭を下げた
みんなはポンポンとスングクさんの肩を叩いて席に戻っていった
そして…目立たないけどいぶし銀の活躍をしているチュニルさんの番になった
ギンちゃんがチュニルさんをフロアに立たせ、ソンブレロを被せると、アジュンマ達の席からあっとかきゃっとかいう声が上がった
あれっ…チュニルさん、人気者?
イナさんがレモンを絞り、今度こそ俺がテキーラ・ソーダをと思っていたら、風のファイターが素早い動きでタンっとやってチュニルさんの口にテキーラを流し込んでいた…
まったく…
ネジが外れたんだおじさん…
さっきギョンビンの蹴り食らった時、大事なネジが外れたんだよ絶対…
なんか…クールじゃなくなってる…
でも好きだけど…
そしてシェイク
誰がシェイクするんだろうと思ってたんだ
そしたらデラルスの席からほっぺたをプルプルさせながらマイケルさんが走ってきた
「はあはあはあわっ私がっ!はあはあ」
チュニルさんは口にレモン汁とテキーラを含んだまま、マイケルさんの息が整うのを待っていてあげてる
マイケルさんはチュニルさんをじっと見て礼をし、頭に手をかけ、シェイクし始めた
きゃあっ
がんばってぇっ
黄色い声援が飛んでる…
マイケルさんは声の方をキッと睨んでチュニルさんを激しく揺さぶった
でもすぐにはあはあと息を切らし、足元もフラフラになって手を離してしまった
チュニルさんは顔色一つ変えず、自分で上を向いてごっくんした
「はあはあはあ…チュニルよ…なかなかやるのぉ」
「貴方には負けませんよ…」
チュニルさんが低い声でそう言うと、マイケルさんは、ちいっと言って足を引きずりながら席に戻っていった
チュニルさんはカウンターに戻り、何事もなかったように熱いお茶を淹れてきっちりと飲んだ
「よう…あとは天使と狐だな…」
イナさんが窓際に視線をやって嬉しそうに言った
「え…チーフたちもやっちゃうの?いいの?怒んない?」
「いいんだよ!いいとこに帰ってきたぜ、あの二人ひひひっ。めっちゃくちゃ揺さぶってやる!」
「…イナさんってさ…ミンチョルさんの親友なんだよね?」
「ああ」
イナさんはソンブレロを一つ持って窓際へと向かった
なんだか絶対に見逃してはいけないと思い、俺もワゴンを押してイナさんの後に続いた
ドンジュンとギョンビンは大人しく座っている
妖艶な二人は若い二人を愛おしげに見つめてお酒を飲んでいる
「かっこつけてんじゃねえよば〜か!」
イナさんがスヒョンさんにソンブレロを被せた
ミンチョルさんがまん丸の目でスヒョンさんを見つめ、そしてククッと笑った
ギョンビンがミンチョルさんの顔を見た
行商テキーラ・ボンバーズ ラストステージ5 ぴかろん
「おい、イナ、よせよ…」
「あーんしてごらんスヒョン」
「何さ」
「いいからあーん」
「いやだよ」
「みんなやったんだからお前もやれ!」
「みんな?」
「うん。口開かないならドンジュンにキスしてもらうか?」
「いっいやだよイナさん!」
「…そういうのもアリなの?」
「ないよ!ばかスヒョン!」
「アリアリ。なんならゴックンのあとでもいいんだじぇっ」
「イナさん!やめてよもうっ!」
「…ふう〜ん」
「スヒョン!僕は絶対そんな事しないからねっ!ふんっ!」
ドンジュンは真っ赤になって俯いて、膨れっ面してる
かわいい…
スヒョンさんはすっごく優しく微笑んで、イナさんに向かって口を開けた
イナさんはちょっとぼんやりとスヒョンさんの笑顔を眺めてからおもむろにレモンを絞った
ミンチョルさんはギョンビンにしきりとあれは何なんだと聞いている
ギョンビンは俯いて固まってる
でもミンチョルさんがあんまりしつこく聞くので、クスクス笑い出してぽつぽつと説明しだした
ミンチョルさんはギョンビンが説明するたびに目を輝かせてスヒョンさんを見た
俺はテキーラ・ソーダーをタンっと膝で叩いてスヒョンさんの口に流し込んだ
「ドンジュン!シェイクしろよ!」
イナさんがドンジュンに言った
「やだ!」
「なんで?!」
「イナさんがやんなよ!」
「いいのか?」
「いいよ!」
「めっちゃくちゃしてやるぞ!」
「やっちゃって!」
「よっしゃ!」
イナさんはスヒョンさんの口を閉じさせて思いっきりシェイクしている
ドンジュンはハラハラしながらその様子を見ている
スヒョンさんは最初余裕の微笑みを浮かべていたんだけど、だんだんと目つきが真剣になってきて、シェイクするイナさんの腕を捕まえようと手を泳がせ始めた
ドンジュンはそれを見て少し吹き出した
ミンチョルさんも口を押さえてギョンビンと一緒にくすくす笑ってる
激しいシェイクが終わり、ごっくんさせられたスヒョンさんはちょっと目が虚ろで、口も半開きになっていた
ドンジュンが堪えきれずにブーッと吹き出したその瞬間…
野良猫が天使にむしゃぶりついた…
「「「何やってんの!!」」」
俺もおじさんもギンちゃんもイナさんを引き剥がしにかかった
ドンジュンは真っ青になってる
ミンチョルさんも呆然として固まってる
スヒョンさんのうーうーと呻く声が聞こえる
俺達は必死で野良猫を引き剥がした
ドンジュンさんはぼんやりした顔で目に涙を浮かべてる
ミンチョルさんは引き剥がされたイナさんの方に怖い顔をして歩いていきぺしぺしと頭を三発殴った
「おまえっいい加減にしろっ!この大ぶぁかものっ!」
ミンチョルさんに怒鳴られ
「ったく見境がなさすぎるっ!」
とおじさんに怒鳴られ
「何でスヒョンさんにまで…」
とギンちゃんに呆れられ
イナさんはその場に頭を抱えてしゃがみこんだ
当のスヒョンさんはクックックあっはっはっはと大声で笑い、そして固まって涙ぐんでいるドンジュンを抱きしめた
ドンジュンはプイっと顔を背けたけど、スヒョンさんが優しい笑顔で何か言うと、はっとしてスヒョンさんの顔を見つめてた
それにしても恐るべし野良猫…
しゃがみこんでるイナさんの肩に手をかけてやると、泣き濡れた瞳で俺を見上げる…
「えっえっ…てじゅぅぅ〜」
ほんとにしょうのない人だなぁ…またテジュンさんのこと思い出したのか…
だからってスヒョンさんにまでキスするなんて…全く…
ミンチョルさんが残ってるのに泣き出しちゃって…
ミンチョルさんはギョンビンの横に座った
「貴方の番だよ…」
ギョンビンはそっと言った
「僕はやらない」
ミンチョルさんが答えた
それを聞いたイナさんはすっくと立ち上がると、落ちていたソンブレロを取り上げ、すかさずミンチョルさんに被せた
「なんだ!イナ!やめろっ!今落ち込んでたんじゃないのか!」
「ぶぁか!お前がやんなきゃみんな納得しねぇんだぐしゅっ」
「泣きながら被せるな!」
「うるしゃい!ぶぁか!いばりんぼ!」
「こらっ」
「ギョンビン、れもんしぼりぇっ!」
「はいっ」
「ミンっ!」
「あーん」
「…」
イナさんが大げさに倒れこんだ
だって…ギョンビンが『あーん』って言ったら…すっごく素直に『あーん』したんだもんミンチョルさん…
めちゃくちゃかわいい…
そしておじさんがテキーラ・ソーダを流し込んだ
ギョンビンはおじさんの顔を見てにっこり微笑んだ
いい感じ…
当然シェイクはギョンビンがするんだな…
たのしみ〜
揺らされるミンチョルさんなんて…ふふっ…ふふっ…
ギョンビンは嬉しそうな顔をしてミンチョルさんの口を閉じさせ、
「行くよ」
と声をかけてミンチョルさんの頭を揺らし始めた
すると
ミンチョルさんの頭に飛び掛る野良猫が一匹…
ミンチョルさんとギョンビンの顔が引きつっている
ギョンビンはミンチョルさんの頭を揺らしながら叫ぶ
「ミンチョルさんにキスしたら殺しますよ!」
イナさんが答えて言う
「こんなクソ狐にだれがキスなんかするかよっ!俺はこいつのでっかい頭をガンガンに揺さぶりたいだけなんだよっ!」
それを聞いてギョンビンは手を離した
なんで!なんで手を離すの!
ギョンビンは揺さぶられているミンチョルさんの顔をじいいいっと見つめている
そして…俯いて肩を揺すっている
笑ってるんだ…
いや…俺だって笑ってしまいそうだ…
だって
あんなに妖艶だったミンチョルさんが…
いつもキザでキメキメのミンチョルさんが…
アメリカン・クラッカーみたいにガクガク揺さぶられている…
すごい
イナさん相当気合入れて揺らしてる
だってミンチョルさんの潤んだ目の残像が見えるんだもん…
くくく…
だめっ…もう笑っちゃう…
くはっ
俺が吹き出したと同時に、ラウンジのあちこちでも笑い声が聞こえた
みんな見ててみんな我慢してたんだ…
ああどうしよう
ミンチョルさん絶対拗ねるよなぁクククク…
長いシェイクが終わり、イナさんもミンチョルさんももうーふらっふらになってごっくんフィニッシュ!
イナさんは床にへたりこんでハアハアしている
髪が乱れて寝癖みたいになってる
足を投げ出してはぁひぃと三分開きの口で息を吐いているイナさんは…
やっぱり色っぽくて可愛らしい…
どうせおじさんは見とれてるんだろうな
俺はおじさんをチラッと見てみた
ところがおじさんは全く別の方向を見ていた
それも、雷に打たれたみたいな顔をして…
俺はおじさんの視線の先を追った
俺も電撃ショックを受けた
ミンチョルさんの髪の毛がぐしゃぐしゃになっていて
そのうえ目がうつろで口が一分開き…
これぞまさに究極の『ぽやん顔!』
隣に座っているギョンビンが、これまた口を一分開きにしてじいっとミンチョルさんを見つめている
ラウンジ中が静まり返っている
ただ一人スヒョンさんだけがフフフと笑い
「罪な男だよ」
と言った…
「みん…ろこ?…ここ…ろこれしゅか?」
シェイクが激しすぎてミンチョルさんイっちゃったか?!
「…かわいい…」
おじさんが喉の奥を鳴らして呟いた
俺はギロリと睨んだものの、確かに…こんなかわいいミンチョルさんなら抱っこしてなでなでしたくなっちゃう…
スヒョンさんは平気なのかな?
イナさんは、ふんっざまぁみろ!と捨てゼリフを吐いた
そんなイナさんをスヒョンさんは微笑んで振り返り、
「お前も罪な男だよ…。親友だな、やっぱり…」
と言った
「らぶ…らぶ…」
おじさんがミンチョルさんのぽやん顔を見つめながら俺を呼ぶ
「なに?」
「あれ、やってあれ!ねっねっ!れったいあれやって!ねねね」
…もうなんにも言いたくない…ばか…すけべ…
ほんっと!えろみん!
俺は無言で落っこちたソンブレロを拾い、ワゴンを押してカウンターに向かった
じゅんほくんへの指令 ぴかろん
ジュンホ君宛にこんな指令が届いていたなんて、もうすぐ帰れると喜んでいるジュンホ君はしらない
それは、ラウンジにいたアジュンマたちも関係している
『ファン・ジュンホ殿
貴殿の調査能力は素晴らしい物です。あと10ポイント集めると、貴殿は「最優秀殊勲ホ○ト賞」を受賞できます
そのために以下の調査を行ってください
新人ホ○ト、ミン・ギョンジンの、ホ○ト祭前日、及びホ○ト祭当日の行動と気持ちの変化を調査してください
この調査は、ホ○トであるキム・イナ氏が直接スカウトした人物の査定を行うために必要不可欠です
(なお、ハン・テジュン氏、ユン・ソク氏の資料も入手希望しております)
頑張って調査してください。 おーなー』
罠である…。10ポイントとはなんのポイントなのかまるで解らない
だが、じゅんほ君の調査能力はすぐれており、また、体内時計の正確さはBHC一であるため、ミン・ギョンジンの不思議な二日間が、一体全体普通の人の過ごす何日分にあたるか…など
素晴らしい分析をしてくれるものと思われる
ジュンホ君はきっと成し遂げてくれるだろう…。きっと…。きっと…
「いやですっ!」
ジュンホ君は、大きな声で寝言を言っていた…
ぽわん… オリーさん
なんらか、目の前にピンクのお花、僕の知ってるお花らから
薔薇らと思うんらけろ、それがぽわんぽわんって浮かんでいて、
気分もぽわんってしてたのら…
誰かが僕のほっぺをペチンペチンってぶって、
そいれもって、お水をおっくんて飲ませてくれたのら
はふん…おいひいお水…
目の前に、ワンコがいたのら
はふん、僕のワンコなんらけろ、ちょっとお目目が怪しいのら
ひょっとして怒ってる?
ろーして?
「パブリックな場所でそういう顔しないで」
はふん?そういうお顔?
「だから、人前でそういう顔しないの」
ろーいうお顔?
わかんないからちっと小首なんかかしげてみたのら
「だめっ!ますます艶っぽいでしょ」
はひぃぃん、なんなのらろー?意味がわかりましぇん
ワンコはもう一回僕にお水を飲ませてくれたのら
僕はまた、おっくんて飲んらのら
はひん、おいひい!
ありがとう、と思ってにっこりしたのら
したら、またペチンて…ほっぺ
「だから、もっとシャンとして。もう少し、目に力入らない?」
目に力?
入れたのら…はふん
「違う!誘うんじゃなくて、しゃっきりするの!」
目に力を入れろって言うから、入れたのら
文句があるのかにゃ?
「もういいから寝て!危なくってしょうがない」
はふん…何が危ないのら…
そう思ってちっと回りを見たのら
僕を見ている人がたくさんいたのれ、
僕はにっこり笑って、小首をかしげてあげたのら
ワンコがいきなり僕を引き倒したのら
「もう何もしなくていいからっ!」
うるしゃいワンコなのら
ワンコの手をふりほどいて起きると、目の前にドンジュンがいたのら
またにっこりしてあげたら、何らかいつもと反応が違って
赤くなって下をむいちったのら
となりのスヒョンを見たら、やりすぎだぞってお口を動かしたのら
何をやりすぎたのらろう?
スヒョンとはやってないのに…
ふ・し・ぎ・
違う方を見たら、イナがやっぱりぽわんといたのら
あっ、思いらした!
あいつのせいなのら!
あいつが頭ぶんぶんって振ったから、
僕はこんなにぽわんになっちったのら
ちっ、と睨みつけてやったらの、プン!
僕の大事な頭をあんなにふりふりするなんて、ひどい奴!
文句を言おうと立とうとしたら、ワンコが引き戻したのら
「こういう頭でフラフラしないで」
ワンコは手櫛で僕の髪の毛を直してくれたのら
ふふっ、やしゃしいワンコ…はふん
しょれにしてもイナの奴、プン!
プンして横を向いたら、向こうでワンコのお兄さんが僕を見てたのら
こんにちは、ってにっこりしたのら
したら、またワンコがペチンって…頭
「一番危ない人に挨拶しないの!」
うるしゃいワンコなのら、ワンコのお兄さんらろ?
ちっとワンコを睨んでやったのら
したら、「それは…部屋に帰ってからね」
って赤くなって小さい声で言ったのら
なんらって?
わけのわからないワンコなのら、プン!
わけのわからないことだらけなのれ自分でお水をくいっと飲んだのら
したら、そりはさっきスヒョンと頼んだウイスキーらったのら
「「「あっ」」」
3人が同時に叫んだのら
消えかけていたピンクのお花が真っ赤になったのら…
ふふふふぅぅん…僕は無敵の気分なのらった…
テンシとキツネ 足バンさん
ギョンビンと兄貴の対決が無事に終ってほっとした
ラブがすごく心配そうにしてた
こんなやつだったっけ
こんな優しい目をするやつだっけ
いつかゆっくり話してみたいな
なんて考えながらウォッカでももらおうとしたら
いきなりスヒョンとミンチョルさんが現れた
心臓にいきなり電気が走ったかと思った
だって今夜はもう帰ってこないんじゃないかと思ってたから
僕はギョンビンと顔を合わせたまま何も言えなかった
ふたりはさすがに凄い存在感で店の雰囲気が一気に変わった
ふたりはいつものふたりだけど
ミンチョルさんが妙に艶っぽくっていつになく優しい目をしてて
…すごく怪しい
スヒョンはスヒョンでいつもよりオーラが強くって
…すんごく怪しい
当のふたりはダブルなんか飲んで余裕かましてるけど
僕もギョンジンもずっと黙って座ってた
顔は引きつってたと思う
そしていきなり「ただいま」って言われた
スヒョンにも。ミンチョルさんにも
…?
僕もギョンビンも大混乱だった
それって…
バーボンのせいだかボンバーのせいだかで脳が回らず
僕たちは解釈できずに思考停止状態だった
でもゆっくり考える時間はなかった
その後は…ひどいことになったから
イナさんがスヒョンにボンバーして思いっきりキスしやがった
そりゃ「やっちゃって」って言った僕も悪いけどまさかそんな
いつもなら僕が真っ先にイナさんを100発ハタいたろうけど
ちょっと弱っててそんな余裕なかった
スヒョンは大笑いして楽しそうな顔して涙ぐんでる僕を抱きしめた
僕は思いきりふんってやったんだけど
スヒョンが耳元で”あいつ寂しいんだよ。わかってやれ”って言ったんで
僕はそれ以上うだうだ言うのをやめた
ミンチョルさんのボンバーはもう凄いことになった
ギョンビンの「あーん」に「あーん」したまでは良かったんだけど
イナさんがいきなり仇のようにシェイクするもんだから
あのミンチョルさんの大事な髪がくしゃくしゃになって
ぽやーんって顔になっちゃて…
そのかわいさにみんなショックをウケて静まり返っちゃった
だっていつもあのミンチョルさんが、あれだもん
そっとスヒョンの顔を見たら優しい目でしょうがないなって顔して
「罪な男だよ」って言った
もうもう絶対に怪しい
そのあとのミンチョルさんはもうイっちゃってた
ギョンビンが水を飲ませてもぺんぺんしてもぽわんで
僕と目が合うと凄い色っぽい顔でうふんって微笑むんだもん
思わず顔が熱くなったじゃない
またそっとスヒョンを見ると頬づえついたままで笑って
「やりすぎだぞ」って”くちパク”で言った
なんで声出さないのさ!
すんごくいやらしくない?そういうの!
ミンチョルさんがダブルを一気にくいっと飲み干して僕たちは驚いた
ギョンビンが慌てて水を飲ませてたけど
もうミンチョルさんはかなりご機嫌になっちゃって
暑がってちょっと紫色に見えるシャツのボタンをはずしかけた
ギョンビンが慌てて止め直してたけど
ホントこの人って…天然えろ…
スヒョンはしばらくそんなミンチョルさんを微笑みながら見ていた
その目は子供を見るような深い優しい目だった
僕はなんとなく目をそらして窓の外を見た
でもその窓に映るスヒョンをやっぱり見ていたんだ…
いきなりスヒョンが立ち上がって
ギョンビンに「あと大丈夫だな」って言った
ギョンビンが「はい」と答えると
ちょっと間をおいて「任せたよ」と言った
ギョンビンは真っすぐスヒョンを見てまた「はい」と答えた
え?こんなミンチョルさん放っておいていいの?
スヒョンはそのまま奥に歩いてジュンホ君の前に立った
そして内ポケットから薄い封筒を出すと彼に渡した
何やら会話がやりとりされ
まわりのテプンさんたちから大きな歓声が上がった
必死に遠慮していたジュンホ君だったけどみんなに何か言われて
最後は嬉しそうに受けとったみたいだった
ジュンホ君の耳元で何か囁き彼がにこにこすると
スヒョンは真っすぐ戻って来ていきなり僕の手を掴んだ
「なっなにっ?」
「行くよ」
僕はちょっと心配そうなギョンビンに目で合図した
まったく!みんなが見てる中を引っ張って子供扱いして!
スヒョンが動くとただでさえ目立つっていうのに!
店の外に出たところで僕は思いっきり腕をはずした
「なんなのよ!」
「だから行くんだって」
「どこに!」
「僕の行きたいところ」
「わっがままなんだからっ」
笑いながらどんどん進むスヒョンに仕方なくついて行った
「ジュンホ君に何渡したの?」
「今日の副賞。彼の家族にプレゼント」
「ふぅん…で、最後に何言ったのさ」
「今夜ドンジュンは部屋に戻らないよって言ったの」
「へ?」
立ち止まった僕の腕をスヒョンはまた掴んで歩き出した
ジュンホのギョンジンレポート れいんさん
ぼんばーしぇいくもぶじにおわって、だんだんとかえれるときがちかづいてきました
ほんとにほんとにこんどこそ…とおもっていたら、ぼくにおてがみがきました
ぎょんじんさんについてのちょうさいらいです
あと10ぽいんとあつめると(いつのまにぽいんとあつめていたんでしょうか)
「最優秀殊勲ホ○ト賞」がもらえるそうです
まだならっていないかんじなのでよめません
とにかくなにかのしょうがもらえるみたいです
それをやらないとかえれないようなきがするので、がんばってみます
そのひとはとつぜんやってきました
びゃくやのほんからでてきたそのひとは
ばれんちののすーつをきてまるぼろのたばこをすっていました
かおはぎょんびんさんにそっくりで、つうしょう『えろみん』とよばれていました
ぎょんびんさんのおにいさんということでとうじょうしましたが
たぶん、どらまとほんのきゃらのちがいにこまったすえのくにくのさくだとおもわれます
ぎょんじんさんのさいしょのえものはちーふでした
ぎょんびんさんのふりをしてちかづいて、ちうちうしていました
ぎょんびんさんがもっている「ねらったえものはにがさない」といった
りょうけんのさがでちーふにきょうみをしめしているとおもっていました
あとでわかったことですが、ほんとはちーふにやきもちをやいていたんですね
はじめはすこしつめたいかんじのおとなのかおりをただよわせた
ひとをいるようなめつきのせいかんないんしょうのひとでした
のちにあーいうふうになるとはだれもそうぞうしていなかったとおもいます
それはさておき、このみんきょうだいは、ふくざつのからんだおいたちのせいで
ふつうのきょうだいとはちがっていました
あいゆえのにくしみ、しっと、いかり、せんぼう…
それらのかんじょうにしはいされ、ぎょんじんさんはかなりこうげきてきになっていきました
しょたいめんのどんじゅんさんにいきなり「かれしいるの?」ときいてたときはのけぞりました
ちうのてくもかなりのものらしいです
それから、ぎょんびんさんのしょうらいのために…と、ひそかにちーふとみつだんし
ちーふからぎょんびんさんをひきはなそうとしました
それはもう、みんなをまきこんでおおそうどうでした
あのすひょんさんがそのことで、ぎょんじんさんにひらてうちをしたくらいです
そういえば、このころぎょんじんさんは、なまえがなく、みんあにとよばれていました
そして、てじんさんのへやでおちゃをごちそうになったときも、わざとおゆをかけたり
きょうかいでぐうぜんあったすはせんせいに、いやなことをいったり、いじわるしほうだいでした
いなさんのへやにいおしいり、あやうくたへんなことをしでかしそうになったのもこのころです
それはもうあっちこっちでかましていました
そのけっか、みんなにけいえんされ、こりつしてしまいました
でもぎゃくにあるいみにんきものであったともいえます
このきょうれつなこせいのあくやくきゃらを、いってにひきうけ
みなさん(さっかのみなさん)からひっぱりだこだったからです
(よだんですが、ぎょんじんさんはえろわざのほかに、てーぴんぐというとくぎもあります)
そんなぎょんじんさんをすくったのは、なんとあのいなさんでした
いなさんりゅうのたいあたりのすくいかたです
かえろうとしたぎょんじんさんをひきとめたのも、いなさんです
『ぎょんじん』というなまえのなづけおやも、いってみればいなさんかもしれません
それがよかったのかわるかったのか…
そのあたりからぎょんじんさんのきゃらがはげしくかわりました
いなさんに「ころしてくれ」とたのんだり、なみだをみせたり…
はじめてこころをゆるしたひとは、いなさんだったようです
そしていなさんにめろめろになったわけですが
てじゅんさんというこいびとがいたことで、ひどくなやんでいました
そんなときにであったのがらぶさんです
らぶさんといなさんのあいだでゆれうごき、このじきはかなりなきむしになってたとおもいます
いまはきもちもかたまり、らぶさんにほのじのようです
らぶさんとへやでふたりきりになれるのを、いまかいまかとまっているようです
いやらしい!
おへやでのようすは18きんです。よいこはみないでね
げんざいぎょんじんさんはてじゅんかしていると、ひそかにささやかれています
かおもぎょんびんさんのかおだったはずなのに
なぜかてじゅんさんやそくさんのかおがうかびます
いじょうがげんざいまでのぎょんじんさんについてのちょうさです
これはふつかかんのできごとらしいのですが、まるでとらいあすろんです
ぼくしんぐできたえたぼくでも。これはさすがにはーどだとおもいます
えっと…あのお…こんなもので10ぽいんともらえるでしょうか?
野良猫の言い分 ぴかろん
ふんっ
スヒョンにキスしてやった
らってスヒョンの微笑みがあんまりしゅてきでしゃ…
おとなってかんじでしゃ…
俺、悩んでた時にスヒョンがなぐしゃめてくれたこと思い出してしゃ…
ドンジュンのばかが遠慮してシェィクしないんだもん
俺に「やっちゃって!」っちったもん
らから「やっちった」…
みんなにおこらりた…
きちゅねがまた前足で俺の頭を三発も殴ったにゃ…
痛いにゃ…ばか
ギョンジンまで「みしゃかいがにゃい」とか言うし…
おみゃーらってみしゃかいがにゃいらっ!ぷんっ!
おまけに舎弟のみんぎまでもが変な目でみるし…ぐしゅ
れもラブはやしゃしい…
れも…ラブの顔みたら…てじゅがラブになんかしてりゅとこ想像しちってぐしゅ…えーんえーん…
ないちったえーんえーん
したらきちゅねがボンバー拒否しててよ!
腹が立ったから怒鳴りちゅけてやったんら…
しょんな拒否してるくせに猟犬が「あーん」ちったらばかーってでっけー口あけてやんの!
思わずコケちった…
思いっきり、思いっきりシェイクしてやったら!ふんっ
したら…ずっるい…あんなぽやんとした顔しやがって…
あれに似た顔は見たことあるら…
あいちゅのでかい顔がもっとでかくなって部屋にこもってたときら…
あんときもらりるれってかわいこぶってやがったら!ふんっ
…あんときもかなりぽやぽやしてたけどよ、今、俺がシェイクしたことによってあいちゅの「ぽやん」が「究極の、無敵のぽやん」になって「天然えろが拡散した」とか
「龍角散」だとかいう声があちこちから聞こえてきた
ふんっ
俺のおかげだろっ!
みんな見てんだあのぽやん狐を…
ギョンジンまでぽーっとなって…
でもな
スヒョンはちがうじょ!
しゃしゅが天使ら!
へーきな顔してたのらっ!かっくいー!
…ん…
ちょっとまて…
なんでへーき?
あいちゅ…きちゅねに「ほ」のじらったんじゃないの?
もう「しゅっきり」した?
「しゅっきりしゃしぇてきた?!」
…
いっ…
いいいっ…
ましゃかこのぽやん顔を「じょんぶんに見てきた」かりゃ「へーき」?!
うう
ありうる…
ぷんっ!なんらよ!みんなしてきちゅねのことちやほやしてっ!
「お前も罪な男だよ」
へっ…
スヒョンが俺に優しく微笑んだ…
ぐしゅ…
ぐしゅぐしゅ…
ええんええんてじゅ〜
なんれここにてじゅはいないのらあっ
ええんええんええんええん…
俺は泣きながらカウンターに戻って
テキーラの残りをガンガン飲んだ
ラブとギョンジンが心配そうにしながら…でも二人とも俺にずっと付き合ってくれた
だんだん酔いが回ってきて、俺はカウンターに突っ伏してテジュンの名前を呼び続けた
セクシー・フォックス オリーさん
スヒョンさんとドンジュンさんは行ってしまった
僕は彼と残された
スヒョンさんが最後に一言、任せたよって…
その目の色がすごく深くて僕は驚いた
二人の間に何があったのかわからないけど、
スヒョンさんの目の中に穏やかな光を見て、
何だか胸が熱くなった
何か気のきいたこと言いたかったけど、
ただはいって返事するのが精一杯だった
で、横を見ると彼はもうギンギンに色っぽくなっちゃってる
テキーラとウイスキーで完璧に輝いてしまった
「僕らも行こう」
彼はいきなり僕の手を掴んで立ち上がった
目立つよ!ボタンもう一つ留めてよ
「今日は暑いね」
そう言うと、僕がせっかく留めてあげたボタンを
あっという間に3つはずしてしまった
違う!あんただけ暑いの!
彼は僕の腰に手をあてて、ゆらりと歩き出した
目立ちすぎ…
ラウンジに残っている人がそっと僕らを見ているのがわかる
でも彼は全然気にせず、ゆるゆる歩くのだった
途中でBHCのみんながいるボックスに寄った
「どう?みんな楽しんでる?」
みんな黙ってた、というか口がきけずにいた
「テプン?隣の人が彼女?」
「あ、ああ…」
「綺麗だね、テプンをよろしく」
彼はテプンさんの手から焼酎のグラスをすっと取ると
チェリムさんにウインクして飲み干した
チェリムさんはその場で撃沈した
「シチュンの彼女はメイさんだったの?」
「は、はい…」
「メイさん、こいつには厳しくした方がいいよ」
「だ、大丈夫です。あたし強いから」
「頑張って」
彼はメイさんの頬にチュッと音をたててキスした
メイさんもイッちゃった
スハ先生はテジンさんの隣でそんな彼をじっと見ている
今にもメモを取りそうな勢いだ
「テジン、後でミンのペンダント直してくれないか」
「いつでもいいよ」
「ありがとう、後で持っていくよ」
テジンさんはずっとスハ先生の肩を強く抱いたまま答えてた
彼は今度はソクさんの手を取った
「こんなに、長くて細い指だったんだね、僕を殴った手は」
そういうとソクさんの手に唇をあてた
隣のスヒョクさんが急速冷凍しそうになった
でも彼はすかさずスヒョクさんの頬をさすり、
「帰ったら、ちゃんと店に出られるよ。彼とうまくやるんだ、いいね」と言った
スヒョクさんはただコクコクうなづいてた
隣のいたチョンマンさんはポケーっと口を開けて見ていたので、
彼が口を閉じてあげて、頬っぺた両手ばさみをした
「チョンマン、君これからどうするの?何か相談があったらいつでもおいで」
チョンマンさんも恍惚とした目でコクコクうなづいてた
「ジュンホ、待たせたね。あとちょっとの辛抱だよ」
ジュンホさんはニコニコと嬉しそうに笑った
「ここではジュンホの体内時計だけが頼りだからね。それでかろうじて
みんなが時間を気にするんだ。ほんとにご苦労さん」
「ぼく、いっぱいべんきょうできたのでとてもよかったです
れぽーとのかきかたもわかりました。ごほうびももらえそうです」
「オーナーに言っておくよ、奮発してくれってね」
「チーフ、ありがとう。きょうはとってもいろっぽくてすてきです
そにょんさんもいろっぽいけど、チーフのはもっとパワフルです
おとこのぼくでもふらふらです。ギョンビンさんがんばってください」
ジュンホさんはいつでも率直です
最後に彼はみんなをぐいっと見渡しながら、僕の腰をぐっと抱きよせた
「みんな、お疲れさん。ゆっくり飲んで、ゆっくり休んで。また店でよろしく」
みんなはただ、コクコクうなづいてた
彼は僕の耳に食いつきそうなくらい口を近づけると、
「行くよ…」と囁いた
僕は固まってるみんなの方を振り返って
「お先に…」と言うのが精一杯だった
テソンさん達のテーブルでは、テソンさんはヘロヘロになってて
蜘蛛とmayoさんは青白くなって飲み比べをしていていた
僕はテスさんに合図して彼に気づかれないように、そのテーブルを避けて通った
これでタンカレーなんか一緒に飲まれたら…考えただけで寒気がした
そうして僕は彼とゆらゆら歩いてラウンジを後にした
野良猫の始末 ぴかろん
イナはテジュンさんの名前を呼び続けている
カウンターにつっぷして、辞めろというのにテキーラの残りをガンガン飲んでいる
仕方ないので、そのテキーラ全部がイナの胃に吸い込まれないように、ラブと僕もガンガン飲んでやった
いくらボンバーズで各テーブル回ってて発散させたからって、アルコールは残ってて、おまけにやっぱり回ってるわけで…相当キツい…
けどこんなグタグタなイナにこれ以上飲ませるのはヤバいよな…
そんなわけで、僕としては早くラブと部屋でなにをあれしたいのに…
はた迷惑でドロドロのイナに付き合ってやった…
僕を助けてくれたイナに、これぐらいの事はお返ししなくちゃな…
どろんどろんで寂しそうなイナを見つめて心の中でありがとうを言った
酔いつぶれたイナをテジュンさんの部屋までおぶって行くことになった
「おじさんがおぶってってあげなよ…ね…」
ラブは笑顔でそう言った
僕はラブに部屋のキーを渡して先に帰っていてと告げた
それがどういう意味か解ってる?
僕はもう迷わない
お前の元へ真っ直ぐに帰るから…
だから…この野良猫を送り届けたら
こいつにサヨナラしてお前のところに
飛んで帰って来るから…
待っていて…
「デスクにね…お前へのプレゼントが置いてあるから…」
パーティーの時、ラブが少し離れていた間、僕はラブを見つめていた
ラブを見て、イナを見て、そしてまたラブを見た
僕は会場をこっそり抜け出して、ラブの青いシャツを買ったショップで彼への贈り物を選んで、大急ぎで部屋のデスクに置いておいた…
ほんとは僕の手から渡すつもりだったんだけど…
やっかいな野良猫を送り届けなきゃいけないからな…
どう思うだろう…
気に入らないかな…
でも…だけど…僕も「男の子」は初めてだし…えへへ…
デスクにプレゼントを置いてからずーっと…ずーっと…
早く部屋に戻りたかった
二人で部屋に閉じこもりたかったんだ…
長かった…
もう少しでたどり着くウフフフフ…
ラブは僕達にバイバイと手を振って、カウンターに残っていたテキーラを飲み干した
そんなに飲むな!正体不明になっちゃう!
僕だってヤバいのに!もうっ
「じゃ…行ってくる」
僕はラブに熱い視線を送ってラウンジを出た
背中の猫が熱い…
野良猫はぐずぐずとテジュンさんの名前を呟いている
ほんの少し前まで元気良くボンバーズやってたのにカウンターでは全然元気がなかった…
解りやすい
単純な猫
お前の瞳はテジュンさん以外を受け入れない
それは今日一日、ずっとお前といて、ずっとお前に触れて
よく解った
僕の入り込む余地なんてない
僕は少し離れて見ていて、それで気がついた
いつも僕に寄り添ってくれているのは
あのいたいけな子なんだって事
僕の気持ちに沿うように先回りばかりして
お前への気持ちも汲んでくれて
自分の事は後回しにして
今日知り合ったばかりなのに
とんでもないほどあいつを傷つけた
今だってきっと傷ついて待ってるに違いない
こんな僕をこんなにも大切に思ってくれた人なんて
アイツ以外にいないんだ…
もちろんお前にも感謝してる
『好きだ』という気持ちもある
でも、きっとそれは『友達』という意味の『好き』なんだろうと思う
僕には今まで友達なんていなかったから…
だからその違いがよくわかんなかった
それにお前、すぐにキスしてくるし…
僕もしたけど…
だってここに来てから色っぽいことなんにもしてなかったんだもん
いや、したか…
弟の恋人や、天使の恋人にちょっかいかけたんだった…
そんな自暴自棄な僕を救い出してくれた事、本当に感謝している
だから…
お前にはテジュンさんと幸せになってほしいんだ…
本当にテジュンさんだけを見て、テジュンさんと一緒に歩んでいってほしいんだ
あの人は凄い人だから…
テジュンさんの部屋の前についた
僕はイナを背中から降ろし、キーを貸せと言った
イナは手を広げてここにあると顎で胸のポケットを指した
胸ポケットからキーを抜き取って鍵を開け、イナに入るように言った
イナは僕の背中を押して入ってよと言った
「ラブが待ってるから帰るよ」
イナの目からぽろぽろと涙が零れ落ちた
「一杯だけつきあえよぉ…寂しいじゃんかよぉ…」
「まだ飲む気?」
僕だって足元危ういのに…
「おねがい…おねがい…一杯でいいから…。俺を一人にしないでよ…」
まったく…僕はこれに弱い…
野良猫の色気は僕を惑わせる…
「ほんとに一杯だけね!」
僕はそう言ってテジュンさんの部屋に入った
あの時…僕はあの窓からテジュンさんとこいつの秘め事を見ていたんだ
その後僕はこいつを犯そうとした…
口の中に苦い唾が広がる
あんな事をした僕をお前、許してくれたんだ…
一杯ぐらい付き合わなきゃ悪いかな…
イナは冷蔵庫から焼酎を取り出してきた
「ちゃんぽんにして大丈夫なのか?」
「じゃ、ちがうのにする?テキーラもあるみたいよ」
「…どっちでもいいよ…」
かわんないか、一杯だけだし…
イナは焼酎をグラスにどぼどぼとついだ
イナはベッドに腰掛け、僕はテジュンさんのデスクの椅子を持ってきて腰掛けた
乾杯して飲む
イナはイッキに飲んでしまった
「ばか!病院に走らなきゃいけなくなるぞ!」
「大丈夫だよ!」
そしてまたどぼどぼついだ
「テジュンさんが帰ってきたら…残念がるぞぉ…ガーガー寝てるヤツ抱けないって…」
「…」
イナはまたゴクゴク飲もうとした
僕は自分のコップを脇に置いてイナの手を止めた
「はなせよっ!帰りたかったら帰れよ!俺なんかほっとけよ!」
ああ
完全に酔ってるね…
「もうやめなよ」
「うるさいな!一人でこの部屋にいるのイヤなんだよっ!」
「じゃあ、ゆっくり飲め。な?でないとホントに今帰っちゃうよ」
そう言うとイナは大人しくなった
…今にも泣きそうな顔をして…
ベッドにおいてあるクッションを抱きしめて唇を噛んでいる
テジュンさん…遅いな…
しょうがないか…最後なんだもんな…
僕は…このまま諜報部辞めちゃっても誰も何も言わないけどさ…
テジュンさんはみんなに慕われてたんだろうしな…
「もう少し我慢しなよ…ね?ご褒美たっぷりくれるよ」
「ばか!」
野良猫がかわいそうに思ったけど、できるだけ早く部屋に戻らないと、今度はラブをなだめるのに時間がかかるぞ…
僕はグラスの焼酎をくいっと空けた
「いいのみっぷりぃ」
イナはそう言うとまたどぼどぼと僕のグラスに焼酎をついだ
「こらっ!一杯だけって言ったろ!」
「…もう一杯ぐらいいいじゃんか…ゆっくり飲もうよ…」
「…イナ…言ったろ?ラブが待ってるんだ…」
「…お前も…お前もラブの方がいいの?」
お前もってどういう意味だよ…
「テジュンもそうなのかな。テジュンもラブの方が好きなのかな… 」
何言ってるんだよ…全くもう…
クッションを抱きしめてイナは泣き出した
「イナ…泣くなよ」
「てじゅ…てじゅ…」
ふぅっ…ほんとにまいったな…どうしよう…
「お前、もうねんねしなよ」
「てじゅがかえるまでおきてるもん…」
「…じゃあ僕はそろそろ失礼する」
「まだそれ飲んでないじゃん!」
ふぅっ…わがまま…
僕はちょっとキレて、その焼酎をぐいぐいと飲んだ
…マズいかな…やばい
ちょっとくらっとした…
帰ろう…ラブが待ってる…
飲み干したグラスをテジュンさんのデスクに置き、僕はドアに向かった
4人のまうむ..six.. 妄想省mayoさん
「テスシ..」
「何..mayoシ..」
「ちぇみにあんまし飲ませると...ほら...あのさ..この後..」
「ぷっ...今日は軽く..済ませるよ...僕から..」
「ぁぁ...そっ...^^;;..頑張って..」
「ぅん#....それよりテソンさん.. 大丈夫?」
「飲み終わって1時間後がアルコール濃度最高ってとこかな...」
「酔いのピークだね...今...」
「ぅん.徐々にアルコール濃度減少していくかな...悪酔いはしない量だから..」
「じゃ..ちぇみは?」
「飲み終えて5時間後が悪酔いのピーク..」
「夜中まで飲むと..朝に二日酔いになるか..」
「果物やハチミツ..糖分は血液のアルコール濃度..下げる働きがあるよ..」
「だから..飲み屋で果物が出るのかなぁ..あとチョコレートとかさぁ〜」
「ぷっ...そうだね..」
カチン#..カチン#.. カチン#..カチン#…
闇夜の持ってきたショットグラスは..1オンス(30ml)..
互いに10杯までいったところで..1本目のボトルは残りわずかだ..
ミンギがササッっと俺等のテーブルへ寄ってきた..
2本目のタンカレーと小さなビンとスプーン2本…
闇夜は小さなビンを見て笑った..
「ミンギ..気が利くじゃん..」
「先輩が持っていけってさ..僕達..ヌナに言われて持ち歩いてるじゃん..」
「そうだった...」
「ほどほどしてよ..ヌナ..」
ちぇみさん..降参した方がいいよ!勝てないから..せいぜい頑張って!」
闇夜はミンギの持ってきたビンを開け中身をスプーンですくい..テソンの口に持っていく..
テソンはにんまぁ〜^o^..と笑う..何だ??..中身は..
闇夜がテスを促す..テスもほんのちょっとスプーンですくって俺の口元に持ってきた..
俺はくんくん匂いを嗅いで...口に入れた..
ユーカリのはちみつだ..
舌先にピリッと来たあとに自然な甘味が広がった..
テスが2本目のボトルの封を開け..俺と闇夜のグラスに注ぐ..
小悪魔はまた「ふふん#」と笑う..
闇夜は1杯ごとに妖気漂う視線をよこしやがる..
酒にやられるというよりは..この妖気..(毒気だな)にやられるのか..
くそ..底なしの妖怪だ..闇夜は..
===
ミンチョルさんが彼と一緒にテーブルを回っている..
彼が僕等のテーブルを見てヤバイと思ったのか僕に合図をした..
ミンチョルさんと彼は僕等のテーブルを避けた..
「ふっ..逃げたな..」
隣でmayoシのドスの効いた呟きが聞こえた...
はちみつのビンに指を突っ込んだテソンさんはその指をmayoシの口に入れた
そのあと自分の口に入れてにこにこしてる..
===
カチン#..カチン#
2本目のボトルは半分強..残したところだ..
##どんっ##..
テーブルに“かなり強い衝撃音”が落ちた..
ちぇみの顔が横向きに突っ伏した.. ふふん#..私の勝ち!
テソンはその音でびっくりして私の顔を見たが..また肩に頭を置いた..
「mayoシ..やった!」
テスは私に合図をし…ちぇみの顔を覗き込む..
「てぇーしゅ〜.. ..みーじゅ〜..くぅ〜だしゃいっ##..」
私がテスのグラスにvolvicを注ぐ..テスはグラスのvolvicを口に含み..
「よっこいっしょ#..」
と..ぽちゃぽちゃの両手で重そうな(じゃないな..)
“デカくて重たいちぇみの頭”を起し..口移しでvolvicを飲ませる..
「でへっへぇ〜^o^..おいしいどぇ〜す」
ゴクリと喉を鳴らしたちぇみはテスの顔中にchu#をする..
飲んでも飲まなくても..すけべぇーは変わらんか..
テスは嬉しそうに私を見た..私は瞬きしながら頷いた
ふぅぅ〜っとソファに身体を預けると..
テソンが手を伸ばし頭を撫でた..そして耳元で言った..
「ばぁ〜かっ!!!まぁよぉ!!」
「…?!..(何"っ!!)」
テソンの顔を覗き込むとふにゃぁ〜っと顔になってる
テソンは横から私の肩を抱きかかえ肩に顔をうずめた..
◇new face.. カウンターにて 妄想省mayoさん
カウンターの中にミンギが入り
前にソヌ・ジホ・ウォニが座ってそれぞれ飲んでいた
一組..二組..三組..
ラウンジからカップル達が消えていく..
4人は時たまテソン達のテーブルへ視線を送る..
「ミンギ君..」
「監督..何か..」
「ぃやぁ.しっかし..彼女..強いね..」
「ぁ〜ぁ..ヌナですかぁ..」
「ぅん..」
「2本目いったじぃょぉー」
「監督..ヌナのあだ名教えましょうか」
「教えて..」
「聞きたいじぃょぉー」
「ポジャンマジャの妖怪..」*ポジャンマジャ=屋台
「ぷひゃひゃ..何それ..どういうことよ..ミンギ君」
「先輩とヌナと僕で屋台行くんですけど..」
「ソヌ君#..屋台なんか行くの?」
「あはは..変ですか?」
「ほら..きりっ#としてるからさぁ..汚ったねぇ屋台とかいくのかなぁと思って..」
「あはは.僕..おでん好きですから..」
「監督〜先輩..尾行の時..鼻の穴広げておでんの串にかぶりついてたでしょ..」
「ミンギっ!」
「はひ..^^;; 」
「あ〜そっかそっかそうだった...で、それで?」
「ぁ、僕等とヌナで屋台にいるとね..よく絡まれるんスよ..」
「ふふん..で?」
「僕や先輩にケンカさせないようにカタつけるんす..」
「飲み比べ?」
「そう..」
「相手は必ず負けるよね..見返りは何?」
「負けたほうが店にいる全員の飲み代払うんです..」
「だはははは.. ..しこたま飲んで..食って..タダになるわけ?」
「そう..」
「やるね..ソヌ君は勝負することあるの?彼女と..」
「出来ないんですよ..」
「どうして?」
「監督..先輩GUINNESS派でしょ..」
「ぁ〜そうだったね..」
「彼女..ビールだけは受け付けないんですよ.」
「あはは..そういうこと..弱みはあるのか..安心した.」
「僕は酔わせてみたいんですけどねぇ..」
「先輩っ!」
「^^;;..」
「おっほぉ〜ソヌ君もそういうこと言えるようになった..」
「監督道まっしぐらだじぃょぉー」
「ウォニ..何よそれ..」
「ぷっ..監督..たらし…だもん..」
「ソヌ君っ!!僕の!!どこがっ#」
「^^;;..」
##どんっ##..
テソン達のテーブルが音を立てた..
「ぁ..ちぇみさん..撃沈...」
「くっは〜一番強そうな彼がやられちゃったか..」
「でも1本半だよミンギ....いつもより量が少ない..」
「先輩〜あの酒じゃ..あれくらいが限界だよぉ..」
「そうか..」
「それに..」
「……??」
「今日は..ヌナに妖気..ぅぅん..毒気が漂ってる..」
「「「「ぷっはっは..」」」」
カウンターの4人はライムを噛じる妖怪ポジャンマジャを見ていた..
プレゼント ぴかろん
イナさんが酔いつぶれてしまったからおじさんに送るように言った
おじさんは躊躇っていたけどおじさん以外に誰が送るのさ…
「試してるの?」
嫌な事聞く
…そうかもしれない
でも信じてる…
それに
もしイナさんと何かしてきても俺
それでもおじさんの事好きだから
だから…おじさんのしたいようにしたらいい…
「信じてるよ」
そう言ってやった
おじさんは嬉しそうな顔をした
あれ…意外だな…
困った顔すると思ってたのに…
「待っててね…。それから…デスクの上に…お前へのプレゼント、置いてあるから…」
プレゼント?いつの間に用意したの?
「僕はマジシャンなんだよ…」
「…キザ…」
「むっ」
おじさんはちょっと膨れっ面をして、俺の頬を撫で、それからイナさんをおぶってテジュンさんの部屋に向かった
俺はカウンターに残っていたテキーラを飲み干して、おじさんにもらったキーを握り締め、席を立った
おじさんの部屋に入る
おじさんの香りがする
真っ先にデスクを見る
封筒と、それから小さい箱がある
二つも?ん?
封筒の方は闇夜さんのサインがあった…
開けて見てみた
俺のスケッチ画だ…
チェーンキーをぶるんぶるんやってるとこ…
こんなとこ見られてたの?怖いなぁ…
サインは『テファ』ってなってる
ああ…ヘブンの濃いい絵描きさんだ…
…あの人もスパイの才能あるんじゃないの?!
でも…柔らかで素敵なタッチだ…大事にしよう…
もう一枚は…
…やだ…
どっから見てたの?!
これ…これ…どこでだろう…
ホールの外かな…やだ…
恥ずかしい…
おじさんが見たらなんて言うだろう…
俺は絵の中のおじさんの指にそっと触れてみた
この指がもうすぐ俺に降りてくる?
…あ…シャワー浴びた方がいいのかな…
そんなの期待してるみたいで変かな…
でも…おじさんは『その気満々』なんだろうし…
でもでも…酔っ払ってるからわかんないかな…
でもでもでも…シャワー浴びてる間に帰ってきたら…
…ええい…五分で浴びよう!
俺は慌ててシャワールームに飛び込んでやたらめったら泡を立てて全身洗いまくった
こんなとこ見たら…おじさん笑うだろうな…馬鹿みたい…
今日起こった出来事が熱いお湯に流されていく…
一日だけなのに、何度泣いただろう
たった一日なのに、俺はもう朝いた俺と違ってる
こんなに…一人の人を愛するなんて思わなかった
もう離れられない…捨てられたとしても…きっとずっとおじさんの事想い続けるんだろう…
シャワールームから出て、バスローブを借りようかどうしようか迷った
おじさんもシャワー浴びたら…着る物ないか…
じゃ、やっぱし若者はバスタオルを腰に巻く!だな…
でもこれ使っちゃうとおじさん、体拭けないか?!
うーん…
まあいいや…
何くだらない事悩んでるんだろ
ほんっと馬鹿みたいだ…
俺はまたデスクの方に向かった
まだ帰ってないよね
五分なんてとうに過ぎてるよ…大丈夫かな…
まさかドアの外にいたりしないよね?
そうっとドアを開けて人影がないか確認する
いない
よかった
時計を見る
おじさんがイナさんをおぶってってから四十分近く経ってる…
俺、結局普通にシャワー浴びちゃったよ…
だってさ…一応さ…コホンケホン…
おじさん遅いかな…
何かしてる?
話してるのかもしれない…
イナさんの事だからまたおじさんにダダこねてるのかもしれない…
それとも
やっばりイナさんのこと抱きたくなっちゃって…
俺は首を横に振ってその考えを打ち消した
そしてもう一度さっきの絵を見ようとして気がついた
忘れてた!…
おじさんが用意してくれたプレゼント…
「ラブへ…ギョンジンより」
つまんないメッセージカードだなぁ…フフ…おじさんらしいけど…
俺は包みを開けてみた
香水が入ってた
「rush」
おじさんの好みの香水?
スッと膝の裏に降ってみた
甘い香りがする…華やかな…
ん?女性用?!
これ、ほんとに俺のためのプレゼント?!
怪しいなぁ…
ずっと持ってたんじゃないの?知り合った女の子にあげようとか思って!
まあいいや…何だって嬉しい…
おじさんの言葉、信じるよ
それに
とってもいい香りだし…
ダンダンダン
乱暴にドアを叩く音がした
帰ってきた…
俺はすっ飛んで行ってドアを開けた
すっかり酔っ払ってるおじさんがそこにいた
やっかいな野良猫 ぴかろん
「いやだ!行かないで!」
イナが背中にしがみついた
ばか…
お前の求めてる人はテジュンさんでしょ?
振り返ってイナをベッドに押し戻す
ベッドに座らせてイナを振りほどこうとした時、イナの腕が僕を引き寄せた
僕はバランスを失ってイナの上に倒れこんだ
全くもう!だめだよ、こんな…
イナが切ない目をして僕を見上げている
「ほんとにラブが好き?俺じゃなくて?」
「ああ…」
そう答えたときイナは僕の頭を引き寄せてキスをした
僕とイナとの間に、クッションが挟まっている
僕の心のたがをはずすような香りが漂う
僕は息苦しくなってイナから唇を外した
クラクラする…
「この…この香り…なに?」
「…いいにおいだろ?テジュンの香りだよ…」
そんなものを抱きしめて僕にキスして…僕はテジュンさんの身代わりなんだ…
「この香り嗅いでると…おかしくなりそうなんだ…。いつもテジュンが俺を抱くときね…この香りがするんだ…」
ああ…この香りって…。『ブルガリ・ブラック』だ…。
手に入れようかどうしようか迷っていたあの『ブルガリ・ブラック』
こんな…官能的な香水をテジュンさんが使ってたなんて…
ううん…違う…普段はもっとさわやかな香りだった
あれは『CK-be』だ…
僕も時々つけてるから解る
でもこれは…
そうだよ、あの時、こいつを犯そうとした時もこの香りが漂っていたんだ…
それで僕は…
それで…
くらくらする
イナの顔が歪む…
イナが僕を引き寄せる
僕はブルガリ・ブラックの香りに翻弄される
イナの唇に吸い付く
だめだ
帰らなきゃいけない
なのに勝手に指が動く
僕の指はイナのシャツのボタンを引きちぎり
そしてイナの肌に触れた
イナの唇から吐息が漏れる
僕の唇はイナの顎を捉え、それから首筋を這う
何してるんだ
やめろよ!
僕の指がイナの肩をはだけさせ、それを唇でついばむ
あの時もこんな事したんだ…
僕の指はイナの胸を弄り、敏感な部分に触れる
「ん…あ…」
イナがくぐもった声を出す
僕の頭は痺れてしまい、何がなんだか解らなくなる
そのまま唇でイナの胸にむしゃぶりつく
「あ…ああ…テジュン…」
痺れた脳が覚醒した瞬間
ああ
ああ…なんて事を…
「ごめんイナ…」
…ごめん…ラブ…
イナは夢の中にいる
テジュンさんに愛撫されているのだと勘違いしている
よかった…ここで留まる事ができて…
僕はイナの切なげに歪んだ顔を見下ろした
「てじゅ…。…ギョン…ジン…」
「お前が欲しいのはテジュンさんだろ…。僕の欲しいからだはこれじゃない…。今はっきり解ったよ。ごめんな…イナ」
「ギョンジン…ギョンジン!」
離れた僕をイナが切ない声で呼ぶ
僕はもう振り向かない
「…ギョンジン…ごめん…」
小さな声でイナが呟いた
テジュンさんの部屋を出た途端、酔いがいっきに回ってきた
ラブ…ラブ…ごめん
ちょっと道草食っちゃった
今から帰るから…待ってて…お願いだよ…
足元の床が大きくうねるような気がした
でも僕は僕を待っているあの子の元へ
帰らなくては…
帰らなくては…
◆OBSESSION(ギョンジン)
マンダリン、ベルガモット、ラベンダー、さらにスパイシーなナツメグ、コリアンダー等、そしてバニラ、ムスク、アンバー…と
ジャック・キャバリエ(名調香師)特有のフワッとした上品な甘さが香る。セクシーでありながら、清潔感、上品さが際立つフレグランス
スパイシーな甘さが心地よいセクシーさを感じさせる香り。独自のフェロモン的な魅惑の香調がセクシーさを演出する
◆rush(ラブ)
セクシーでゴージャス。甘くセクシーなオリエンタル系の香りながらスパイスがきりっと全体を引き締めているので激しく攻撃的に香る
自信に満ちた華やかな香り・・なんだって〜(^^;;)
◆CK-be(テジュン:普段遣い、ギョンジンも持っているらしい…)
ホワイトムスクの甘い香りが余韻を残すセクシー系。大人っぽさを醸し出す・・とか(^^;;)
◆ブルガリ・ブラック(テジュン:そーゆー時に使う…、ギョンジンも興味を持っていた香り?(^^;;))
渋みのきいたブラックティーをベースに、マットブラックのようにひたと肌になじむ。ナツメグなどの芳しい香り
夜遊び大好きな人にはぴったりなゴージャス系・・だそーです(^^;;)
言葉のない夜 ぴかろん
おじさんはいきなり俺に抱きついてくんくんと鼻をならし、そしてキスをした
また飲んだの?そうだね?
ラウンジでも相当飲んでたのに…テジュンさんの部屋で飲んだんだ…
よくそのまんまイナさんと寝なかったね…
テジュンさんが帰ってきた?
ああ…そんなじゃなくて…どうして『俺のために帰ってきてくれたんだ』って素直に思えないんだろう…
おじさんはハアハアと荒い息をしながら俺の唇を貪る
一度唇を離して、上半身裸の俺をまじまじと見つめてニヤッとエロティックな笑顔を浮かべる
俺は急に恥ずかしくなった
「おじさんもシャワー浴び…」
きつく抱きしめられ、俺の唇はまた塞がれた
そのままおじさんは自分の上着を脱ぎ、ネクタイを外そうとやっきになっている
でも酔っていて上手く脱げないみたい…
俺はおじさんのネクタイに手をかけ、外し、それからシャツのボタンを外し始めた
脳裏にさっきの絵が浮ぶ…
ふらふらしているおじさんの体を支え、容赦なく降りてくる口付けを受けたり交わしたりしながら、
俺はやっとの事でおじさんのシャツを脱がせた
おじさんの荒い息が俺の唇に触れたり離れたりして
おじさんの腕が俺の体を抱きしめる
肌と肌が触れ合う
ねっとりと汗ばんでいるおじさんの体から気が狂いそうなぐらい俺の心を揺さぶる香りがする…
おじさんは俺の唇を吸い、はあっと息をしてまた吸う
俺はおじさんのベルトに手をかけ、それからスラックスのファスナーを緩め、床に落とした
おじさんはまた唇を離し、酔った目で俺を見つめ、そしてベッドに押し倒した
乱暴に唇を塞がれ、体を弄られる
いやだ…もっと優しくして…もっと優しく…
おじさんの唇が音を立てて俺の体に吸い付く
首筋や顎や喉や…鎖骨や腕や脇に…
痛いほど吸い付いてたくさんの印を落としていく
俺はおじさんの唇を感じて何も言う事ができない
俺の吐く短い息とおじさんの吐く荒い息が交互に耳に届く
おじさんは俺をうつ伏せにし、背中を舌でなぞる
高い喘ぎ声が小さく口をついて出る
俺の入墨に音を立てて吸い付く唇
そのまま背中を降り、全身をくまなく愛撫し続ける唇
その唇が欲しくて
俺はおじさんの方へ顔を向ける
でもおじさんは俺のからだの中ほどにくちづけを落とし続けていて
俺は気が遠くなりそうなぐらい感じてしまった
おじさんの名前を呼びたい…
だけどうまく口がまわらない…
俺も相当酔ってるのかな…
おじさんは俺の体を表返してまた俺を攻め立てる
わき腹や胸を吸い続け、俺の全身に印をつけていく
俺もおじさんに何かしたいよ…
俺は体を起こしておじさんの頭を掴んだ
おじさんは顔を上げて酔った目で俺を見た
俺はおじさんの唇にキスをしておじさんの体を触った
キスをしながらおじさんは低く吐息を漏らす
はぁはぁと荒く息をする
俺もおじさんに印をつけたい…おじさんの全身に唇を這わせ続ける…
そしておじさんを捉える
おじさんの呻く声が聞こえる
口に含みながらおじさんの顔を見た
なんて切ない顔だろう…
その顔を見れただけでも俺、嬉しいよ…
あ…はあはあはあ…
息が荒くなっておじさんは俺の頭を掴んで引っ張った
やめるの?
はあはあはあ…
俺の顔を切ない目で見つめて、おじさんは優しくキスしてくれた
しなくていいの?
してあげたいのに…
キスしながらもう一度俺の体を下にして、おじさんは俺の足をぐっと持ち上げた
まって…
まってよ…
まだ…まだだめだよ…
怖かった
初めてだから…
どんな風なのかまるで解ってなかった
おじさんはいきなり俺に入ってきた
体が切り裂かれるような激痛が走る
俺が逃げるとおじさんは俺の肩を押さえて逃がさないようにする
俺が首を振って唇を離してもすぐに唇を塞がれてしまう
どうする事もできず、ただ痛みに耐え呻くしかなかった
涙が溢れてくる
おじさんは…おじさんは酔っていて気づかない…
目を閉じてキスをして腰を動かしている
痛い…痛いよ…お願い…お願い…優しくしてよ…
おじさんは唇を離し上体を起こして俺の両足を抱えた
俺はもっと深くもっと激しく突き上げられ
叫ぶことも息をすることもできないぐらいだった
俺は涙で霞んだ目でおじさんを見る
目を閉じて眉を寄せて低い声を漏らしている…
気持ちいいの?
感じてるの?
おじさんが気持ちいいなら
それでいいよ…
俺は…俺は…
ああ…
おじさんの動きが少し緩くなった
俺はようやく呼吸することができた
そしておじさんの動きに合わせて腰を揺らしてみた
頭の中に音楽が流れる
舞台でおじさんを感じた時が甦ってくる
痛みのなかから少しの悦びを見つけ出す
そこに集中する…
俺の体に閃光が走り、痛みと快感が交錯する
おじさんと俺の動きがぴたりと合うと
おじさんは快い呻き声を漏らす
その声が俺の体の芯に響いて
俺もまた吐息を漏らす
おじさんが大きく緩く動くと
俺の悦びも大きくなる
ああ…あ…ああ…
滑らかな胸板と意外にも太い腕
しなやかな腰に生け捕られた俺の声が漏れる
ああ…おじさん…俺達…今…ひとつになってるんだ…
そう感じた時俺の目から涙が溢れた
痛みの涙ではなくて
幸せの涙だった
喉の奥から声を絞り出してみた
「ギョン…ジン…ギョンジ…ン」
はあはあはあ…
おじさんの顔を見つめて俺はもう一度おじさんの名前を呼んだ
「ギョンジン…ああ…ギョンジン…ギョンジン」
おじさんの目から涙が流れた
はあはあはあはあはあはあ…
荒い息づかいしか聞こえない
名前、名前呼んでよ…俺の名前も呼んでよおじさん…
にわかにおじさんの動きが激しくなった
痛みよりも悦びのほうが大きくて俺はずっとおじさんの名前を呼び続けおじさんにしがみついた
おじさんは激しく腰を打ちつけ、からだの底から声を出した
幾度か大きく動きそして名前を呼んで果てた
俺の胸に突っ伏して荒い息をしながらすうっと眠りについた…
俺の目からまた涙が溢れた
銀のナイフが落ちてきて
俺の体を貫いた
底なしの空間に放り込まれ
どこまでも俺は落ちていく
俺の目から溢れているのは
今度は絶望の涙
俺に覆いかぶさっているのは
俺の愛する人
覆いかぶさられている俺は
ただの人形
おじさんの呼んだ名前が空っぽになった心にこだまする
「イナ…イナ…」
心から血が流れていた…
【73♪哀しくも狂おしく燃え】(勝手にロージーの愛の世界4) ロージーさん
【74♪うらはら】(勝手にロージーの愛の世界5)ロージーさん
ドリーマー オリーさん
ラウンジを出て、エレベターに乗った
ドアが閉まったとたん、彼は僕の肩に頭をのせた
今度は僕が彼の腰をぐっと抱いた
「大丈夫?」
「ん…」
「気持ち悪くない?」
「ん…」
彼の体温が僕にじんわりと伝わってきた
エレベーターを降りると部屋に向かって歩き出した
彼はカクカク歩きになっていた
「もう少しだから、頑張って」
「ん…」
彼は目を閉じたまま歩いてる
僕はそれを支えるために腰に回した手に力を入れた
「ミン…」
「何?」
「ずっとこうして歩いていこう…」
僕は奥歯を噛みしめた
「うん」
部屋の前まで来ると片手でカードキーをかざしドアを開けた
中に入るとベッドルームまでいって彼をベッドに座らせた
「水、飲む?」
「ん…」
僕は冷蔵庫からボトルを出して、ベッドの上の彼に握らせた
「ほら、飲んで」
「ん…」
「自分で飲める?」
「ん…」
僕はボトルを取り返して飲ませてあげた
彼の口から少し水がこぼれ、喉まで伝わっていった
「僕、ちょっとシャワーあびてくるから」
「ん…」
「一人で大丈夫ね?」
「ん…」
僕は彼を残してバスルームへ向かった
バスルームに入ると熱いお湯をひねり出し、その下へ飛び込んだ
水圧が高いホテルのシャワーのおかげで
すぐさま体中が心地よい温もりに包まれた
同時に僕も疲れていることに気づいた
全身にボディシャンプーを注いで、おおざっぱに流すと
早々にバスルームを後にした
バスタオルで頭を拭きながらベッドルームへ戻ると
彼は服を着たままくの字に横になっていた
「だめだよ、服着たままじゃ」
「ん…」
僕は寝たままの彼の服を脱がせた
ズボンに細かい芝がついていた
「スヒョンさんとどこ行ったの?」
「ん…」
「芝生で何したの?」
「ん…」
彼はずっと目を閉じたまま「ん」しか言わない
シャツの背中にもわずかに芝がついていた
寝転んだわけね、芝生の上で
なぜだか心がざわついたりしなかった
彼にシーツをかけてやった
垂れている前髪の上からおでこにキスした
彼の口がかすかに動いた
「ミ…ン…」
「何?」
返事はなかった
彼の後ろからベッドに滑り込むと抱きしめた
また暖かい感触が広がった
「おやすみ」
耳元で囁くと、彼は静かに寝息をたてていた
僕は彼を抱きしめながら、あの封筒の事を考えた
彼はどう言うだろう…
夢を見た
僕はブルックリン橋に中途にいた
ダウンタウンのオフィスに行かなければならないのに、
とんでもない大渋滞に巻き込まれていた
いくら待っても身動きできない
進むことも戻ることもできず、
時計を気にしながらハンドルを握っていた
僕はなかなかマンハッタン島に渡れずにいた
突然気がつくと、セントラルパークにいた
空は澄み渡ってとても青かった
レモネードの売り子がいたので、二つ頼んだ
赤毛でそばかすのある男の子が、目の前でレモンを絞り
そのまま大きなコップに放りこんだ
振り返って後を歩いていた彼を手招きした
彼は笑いながら僕と売り子のそばまできた
「喉かわいたでしょ」
「ん…」
彼はコップを受け取った
ふたりで芝生に座ってレモネードを飲んだ
甘酸っぱい味が口の中で広がり、乾いた体を潤した
僕は彼の膝に頭をぐいぐいのせて寝転がった
「ねえ…」
「何?」
「真昼間のセントラルパークにその紫色のシャツは合わないよ」
彼は唇を片方つり上げて、くっくと笑った
僕も声を出して笑った
目の上に広がる空が眩しかった
目を覚ますと、もう遅い朝だった
彼はまだ寝息をたてていた
ねえ、目が覚めたら出かけよう
僕らの場所に…
ドリーマー2 オリーさん
エレベーターのドアが閉まると、
僕は急に力が抜けた
思わず肩に寄りかかると、
ミンは僕を支えてくれた
体の温かさがとても心地よくて、
そのまま目を閉じた
心配して色々聞いてくれたけど、
僕は答えることができないほど
ミンのそばで心地よかった
エレベーターを降りた後、
部屋まで長い廊下を歩いた
ミンはしっかり僕を支えてくれたので
僕はただ、寄り沿って歩けばよかった
こんな風に二人で歩いていけたらいいね
僕はそう思ったので言ってみた
ミンの肩がピクっと震えた
そして小さな声でうん、と返事をした
部屋に戻るとすぐベッドに腰掛けた
僕はもうずっと目を閉じたまま
ふわふわと雲の上をただよう気分だった
ミンが水を持たせてくれたけど、
もう何もいらないよ
それでもミンは僕に水を飲ませてくれた
ミンが何か言って部屋から出て行った
僕はそのままベッドの端で横になった
雲の中を歩いていくとスヒョンがいた
スヒョンは僕を見て笑って言った
「おまえの心の一番深いところに、
もう形も無いほど自然に彼がいるんだよ…」
僕よりも僕をわかっているんだね、スヒョン
僕とミンが同じ船に乗った恋人同士なら、
スヒョンはそれを迷わないように導いてくれる灯台…
それでいいかな
僕はもうミンとは離れられない
でもいつも灯台の灯りは感じているから、
それでいいよね
スヒョンにも大事な相手がいるだろう
すぐそばでずっとお前を待っている相手が
どうかその相手と歩いていってくれ
僕がミンと歩いていくように
帰る場所をずっと大切にしよう
スヒョンが優しい笑顔をくれた
そうだな、そうしよう
じゃあ、行くよ
スヒョンは雲のかなたへ歩き出した
僕はその後姿を見ながら、
大切な相手の名前を呼んでみた
「ミ…ン…」
その夜は、
ミンがずっと僕を抱いているのを感じた
だから、とてもよく眠れた
目が覚めると、もう昼近かった
ふと隣を見ると、ミンはもうベッドにいなかった
僕は声を出してミンを呼んだ
【75♪ふたりの誓い】ロージーさん
森から 足バンさん
スヒョンは僕の腕を掴んだまま歩いて行く
エレベーターは客室階を通り過ぎロビーのある1階についた
ロビーを抜けてどんどん歩いて行く
その行き先は…
「ちょっと…なんで祭の会場なの?」
真っ暗な会場に入るとスヒョンは非常灯を頼りに舞台の方に進む
まだ整然と並べられたままの椅子の最前列まで行くと
真ん中の席に僕を座らせた
そのまま階段を駆け上がり舞台袖に入ると
小さな音が響いて舞台の予備灯がいくつかついた
舞台はほんのりとした白いひかりにつつまれる
「スヒョン…なんなの?」
スヒョンは舞台上を歩いてくると真ん中のステージ縁に腰を下ろし
足をぶらんと下げた
僕は目の前のスヒョンを見上げまったくわけがわからずにいた
「ドンジュン…これから言うことをよく聞いて」
「う…ん…」
「聞くのが辛くてもちゃんと聞いて」
「…」
「そして最後におまえが判断して。いい?」
「ん…」
僕の心臓は突然きりきりと痛みだした
来た
僕が投げた賭けの答えが出る
指の先が痺れだしたけど、でもちゃんと聞く約束だ
僕は真っすぐにスヒョンの目を見て大きく息を吸った
そして会場に低く響くスヒョンの言葉に耳を傾けた
スヒョンは僕から視線を外さずゆっくりと喋りだした
今日ミンチョルさんへのこれまでの気持ちを伝えたこと
洗いざらい素直な気持ちを話したこと
ミンチョルさんも大切な人だと告白してくれたこと
もう一度ダンスをしたこと
そして何度もキスをしたこと
そのまま最後までいってしまいたい気持ちを抑えたこと
それには気の遠くなるような努力を要したこと
でも心から満ち足りたこと…
僕は途中から涙が出て止まらなかった
スヒョンの想いを考えると切なくて我慢ができなかった
スヒョンは何度か息を吸い言葉を選びながら続ける
「ドンジュン…僕は結果的にミンチョルと寝たと思ってる
その瞬間は他のすべてを忘れた」
僕は目を閉じた
「気持ちの整理はできた
でもそれはもうあいつのことを何でもないと思えるようなことじゃない
これからも大事に守っていきたいし幸せになってもらいたい
それはきっと今までと何も変わらない」
僕は椅子の上で膝を抱えて泣いた
「ドンジュン…」
「…」
「ドンジュン?」
「ん…」
「これじゃなにも変わっていないと思うでしょ?」
「ん…」
「でもひとつだけ違うことがあるんだよ」
「ん…」
「僕はもう揺れてない」
僕はその言葉に顔を上げた。ぐしゃぐしゃの顔を
「僕にはどうしてもおまえが必要なんだけど…こういう答えの僕じゃだめか?」
「…」
「だめ?」
僕は言葉が出せずにいた
スヒョンへの想いがこみ上げて苦しくて何も言えなかった
涙で白いひかりの中のスヒョンが歪む
スヒョンが微笑んでそこに座ったまま手を広げた
僕はその瞬間なんにも考えずに椅子から飛び出して
そしてスヒョンに飛び込んで抱きついた
僕の泣き声が広い会場に響いた
スヒョンは僕の頭を抱きかかえて髪に顔を埋めている
僕の泣き声が小さくなるのを待って
スヒョンは僕の手を掴み舞台の上に身体を引き上げた
ふたり立ったままスヒョンは僕をきつく抱きしめる
「おまえ…フィナーレのダンスの時泣いてたでしょ」
「ん…」
「あの時こうしてやりたかった」
僕たちはしばらくそうして立っていた
僕は目を閉じてスヒョンにしがみつきぬくもりを抱きしめた
舞台の思い出とスヒョンへの想いがぐるぐると駆け巡った
僕たちはゆっくりとスヒョンの部屋に戻り
別々にシャワーを浴びて
そして一緒に眠った
ただスヒョンの腕の中で眠った
キスはたった一度の額へのキスだった
それで充分だった
僕は…
スヒョンの大切な思い出の日を
そっとしておいてあげたかった
【76♪想い出にさようなら】ロージーさん
ざんこくなあさ ぴかろん
おじさんが起きるまで俺は身動きひとつできなかった
涙も枯れ果てた
2時間ほどして、ようやくおじさんが呻きながら目を覚ました
俺は目を見開いて天井を見つめていた
体が痛い
心は痛まない
だってもう
俺の心なんて
どっかへとんでっちゃったから…
「う…うう…あ…いて…」
頭を押さえておじさんがのろのろと体を起こす
ベッドサイドに手を伸ばして煙草を取ろうとしている
震える手で煙草を口に持っていき、ライターを点ける
ふぅーっと息を吐き出して、また頭を押さえる
俺はおじさんの仕種をぼんやりと見ていた
「ああ…きもちわる…」
俺はおじさんの吸っている煙草に手を伸ばし、それを取り上げた
「泥酔してたのに煙草なんか吸ったらゲロするよ」
「…あ…」
おじさんは俺を見た
「これ、俺もらっていい?」
おじさんは小さく頷き、また呻いている
俺は、煙草を吸った
きつい煙草
おじさんの煙草
フィルターがおじさんの唾液で湿っている
涙が出そうになる
枯れたはずなのに…
「げほっきついな、やっぱし…目にしみる…」
「う…ラブ…」
「なに?」
「僕…お前を…抱いたのか?」
…何?
「は?」
「…ごめん…記憶が途切れてて…。…抱い…た?…」
「…はぁっ…」
「…ごめん…ごめんよ…。ちゃんと抱きたかったのに…あつっ気持ち悪い…」
「…はっ!信じられない!覚えてないの?すごかったよ」
「…ラブ…」
おじさんは俺に唇を寄せてきた
覚えてない?あんなに激しかったのに…
俺は
俺は
あんなに…切り刻まれたのに…
おじさんが俺にキスする
舌を捉えようとしている
強く吸う
苦しげな顔をしている
あっと言って俺から離れると、ベッドから転げ落ちるように走り出す
洗面所へ直行
ずきんずきんと胸が痛む
なに?おれはあんたのなに?
あんたがすきなときだけおれをもてあそんで
おれはだれかのみがわりで…
ああ
きのうまだ俺に冷たかったギョンビンに言われた言葉を思い出すよ
いやならはっきりそういえば?
にいさんの言いなりになってて…
俺はぼんやりと起き上がり、シャワーを浴びようと思った
洗面所ではおじさんが苦しそうにゲーゲーやってる
その背中を見下ろして俺はバスルームに足を向けた
ひときわ苦しそうな声がした
俺はつい、振り返ってその背中を見てしまった
昨日の…ラウンジでの…優しかったおじさんを思い出す
こんな楽しいの、初めてって…子供みたいに笑ってた顔…思い出す
俺を選んでくれたと思ったのにな…
ねぇ、酔った時って本音がでるんでしょ?
だから…貴方の心はやっぱりあの人のもとにあるんでしょ?
自分では気づいてないんだね…
記憶がないなんて…
なんて男…
俺はおじさんの背中をさすってやった
はあはあと肩で息をして口を漱いでいるおじさん
「もう少し休めば?」
「…ああ…」
ふらつくおじさんをベッドまで連れて行き、寝かせた
おじさんは俺の腕を掴んだ
「なに?」
「怒ってる?」
「…」
「ごめんね…後でちゃんと抱くから…」
「ばか。ちゃんと…抱いてたよ…」
「…ほんとに?…でも…いやだ…覚えてないなんて…最低だ、僕。…ごめんなラブ…」
「寝なよ…」
「どこ行くの…」
「シャワー浴びてくる」
「…僕も浴びたい…」
「だめだよ…寝てなきゃ…」
「…ラブ…。ほんとに後で…ね…」
俺は笑顔を作ってバスルームに向かった
蛇口を捻る
一瞬冷たい水が出た
それから徐々に温かなお湯に包まれる
頭からお湯をかぶり、染み付いたものを流す
心はどっかとんでったはずなのに
さっきベッドのなかにあったよ
むき出しの、血みどろの、切り刻まれた俺の心が
俺のナイフでおじさんの横に突き立てられていた
いけにえ?
おじさんのための捧げ物?
からっぽのからだの中から
叫び声がする
俺は泣いた
少しだけ声をあげて泣いた
おじさんに気づかれないように泣きじゃくった
ひどいよ
ひどいよひどいよ
なんでイナさんを抱いてこなかったのさ!
そしたら俺、イナさんの身代わりなんかしなくてもよかったのに…
俺は俺として、おじさんの前に体を投げ出してやったのに…
俺を見るふりして、俺を抱きながら…イナさんの事を想うなんて…ひどいよ
あああ…あああ…
シャワーから出ると、おじさんは目を瞑っていた
俺はおじさんがくれた香水を手に取り、眺めた
そしてしゅっとひと噴きさせて服を着た
同じもの、イナさんにもあげたの?
「どこか…いくの?」
「なんだ、寝てないの?」
「どこいくの…」
「散歩…。コーヒー飲んでくる」
「…元気だな…お前も僕と同じぐらい飲んだだろ?」
「おじさんよりは少なかったよ」
「帰ってきてね、この部屋に…」
「…」
「もう少ししたら僕も元気になるか…そしたら」
しようね…すきだよ…
潤んだ瞳でそう言った
なんて残酷な…
俺は頷いて微笑んだ
完璧に笑えただろうか…
大丈夫
心がそこに突き刺さってるから
もう震えない
あんたの望み通りに演じてやるよ…大丈夫
からっぽの体で俺は廊下に出た
後ろでドアの閉まる音がした
それと同時に俺のからっぽの瞳から涙が一粒零れ落ちた
4人のまうむ..seven.. 妄想省mayoさん
片膝をソファに立てて投げ出し..僕の膝にデカイ頭を乗せているちぇみ..
下から手を伸ばして僕の顔むちゃむちゃ..頭くしゃくしゃ撫で回す..
たまに僕の首根っこを引き寄せて顔中にchu#をする..
「でへっへぇ〜」と繰り返し..
僕の膝で寝ころんだままブツブツ振り付きでサンバ♪を歌い出す..
こんなに壊れたちぇみ...初めて..
さっきテーブルに突っ伏したとき..大きな額にちょっとコブができた..
僕のぽちゃぽちゃでコブをなでなでしながら..隣のテソンさん達を見た..
テソンさんも片膝をソファに立てて投げ出して..
半身を起こして背中をmayoシの胸に預けてる..
mayoシが片手をテソンさんの肩に回して支えている..
テソンさんはハチミツが気に入ってみたい..
瓶を弄び..指を突っ込んでグリグリして自分でちょっと舐めた後..
mayoシの口に持っていく..そんで..指を出したり入れたりしてるんだ...
…テソンさん..ヤらしい..
たまにmayoシがテソンさんの指を噛んでその動きを止めてるけど..
mayoシが空のグラスをもてあましているから僕がジンを注いであげると..
「ごめん..^^;;..」って言うと..クイッ#って..グラスをまた空にする..
ボトルの残りを空けるつもりみたいだ..
「..mayoシ..」
「ん?なに..」
「何でそんなに飲めるの?飲むの?」
「私さ..」
「ぅん..」
「いっくら飲んでも酔えない..こういう風になってみたくて飲むけどさ..」
mayoシはちぇみとテソンさんを指さして言った..
「最後まで正気なんだね?..」
「ぅん..だからいつも薄気味悪いって言われる..ぁ..テソンと一緒だね..」
「mayoシ..」
「何考えるかわかんない!とかさ..本性わかんない!とかさ言われるんだ..ぁはは..」
mayoシはそう言うとちょっと寂しそうに笑って横を向いた..
僕に向き直ったmayシはちぇみを指さした..
「こんなになるとはね..」
「えへっ...ほんとだ..」
「ぁ..mayoシ..テソンさんの着替えできる?ちぇみ..こんなだしさ..」
「ぅ..ぅ..ん...何とかするよ..」
「っていうか..も..いっか..心配することないか..」
「ぅぅ〜ん^^;;..」
「あのさ...mayoシ..言っておくことあるんだ..」
「ん?..テソンのこと?」
「ぅん...」
「何?」
テスは私の耳元でこそこそっと話始めた..
「テソンさん熱出したとき..僕とちぇみで着替えしてあげたじゃない?」
「ぉん..」
「その時..ちぇみが気がついたんだけど..」
「ぅん..」
「テソンさん...昔の傷がある...」
「えっ?!..何処に..」
「腿とか..腰のあたり..凄く薄いけど...」
「それって..もしかして...」
「たぶん..」
「そう...そうだったのかな...」
「ぅん...」
僕とmayoシが頷いていると..ラウンジに残ってた人たちが挨拶をして帰っていく..
「まよぴー〜何かあったら電話しなさい」ユリキムの親父..HUG付き
「何だ何だ..のんべぇ#...早く寝ろっ..」ピョートルさん..
「オモオモ..先輩〜どうしちゃったのさ..もぉ〜カリスマ返上!」ヨンジュンさん..
「おやおや...蜘蛛さん...ご機嫌ね..シゲもご機嫌よ..ヨンジュ~ン^o^..」シゲ先生..
「テスゃ〜また踊ろうなっ#..闇夜さん早く寝んと..肌に悪いぞ..」サンドゥ親びん..
「お先に失礼致す..テス君..闇夜どの..」チンさん..
「(*^_^*)...」..mayoシにヘアピンもらって嬉しそうな...ヨソルさん
「#$%+`*...」ち◎うしたまま手を振る...将軍&隊長さん..
「これを飲んで..利尿作用があるから..」緑茶のパック置いていくチュニルさん..
「チョコレートはいいんだよ..のんべぇには...」チョコパイ置いていくガンホさん..
「切っちゃったからさ..かじって....」ライムを置いていくソッキュさん..
「ぁぁ…カリスマはいづこへ...」仮分数のスングクさん...
「まだ飲んでるじぃょぉー」ウォニさん..
「まよ君....ポジャンマジャ..今度僕と行こう#..絶対行こう#」ジホ監督..
「ヌナぁー残りの未開封タンカレー...いただき#」ミンギ君..
「mayoさん..ケーキありがとう..」ソヌさん..
ソヌさん達が来たらちぇみとテソンさんがむっくり起きた..
そん時だけ一瞬正気...
ソヌさんが去ると..
また"ふんにゃらふんにゃら"のちぇみとテソンさん..
ラウンジに誰もいなくなった..
僕はクーラーからボトルを取り出す..
静まりかえったラウンジにカラカラと氷の音が響く..
..2本目もなくなりかけていた...
mayoシのグラスに最後の一杯を注ぐ..mayoシは僕のグラスにvolvicを注いだ..
「「コンベ##」」
後ろを振り返り..夜景を見ながらふたりで一気にグラスを空けた..僕は水だけど...
僕とmayoシはそれぞれの"れろれろふんにゃら"を抱えてラウンジを出た...
action ぴかろん
廊下に出てエレベーターに乗り、中庭へ向かった
早朝の中庭には人がいない…
朝露に濡れた木々や芝生のひんやりした空気が俺を清めてくれる
昨日一日の出来事がつぎつぎとフラッシュバックする
心がないはずなのに、ぴくぴくと俺のからだが震える
寂しくて…
涙が流れる…
好きなのに
好きだったのに
好きだと言ってくれたのに貴方は…
「あああ…ううっううっ…」
声をあげて泣いた
もう枯れたと思っていた涙が溢れ出した
俺はそこで暫くの間、自分を哀れんでいた
誰かが俺を包み込んだ
まさか…おじさん?
…馬鹿だな…そんなはずないじゃん…
「どうしたんだラブ君」
…テジュンさん…
テジュンさんは俺の顔を見て、顔を顰めた
「…なにが…あった…」
言えるわけないじゃん…こんな惨めな話…
それに…それにテジュンさんの大切な…イナさんが絡んでるんだよ…
言えるわけないじゃん…
俺は涙を拭って立ち上がった
「ラブ君…」
「ちょっと…辛かったこと思い出してただけ。昔の事…。今、帰りなの?イナさん待ちくたびれて泣いてたよ…」
「…君、どこ行くの?」
「…散歩…。一人になりたいから…」
「そう…」
テジュンさんはそう言うと俺の手を引っ張って先に歩き出した
「なに…離してよ」
「一人になりたいんだろ?最適の場所、教えてあげる…誰も来ない…」
「…」
テジュンさんは俺を見ずに歩いていく
俺は手を引っ張られたままテジュンさんの後をついていった
ホテルの裏側に小さな、芝生の敷かれた場所があった
「どうぞ。ここなら人が来ないよ。存分に泣けばいい。一人がいいのなら僕はもう行くよ…元気出してね」
テジュンさんは柔らかい微笑みを残して背を向けた
その背中に縋りたくなって俺はテジュンさんを追いかけた
俺の足音を聞いて、テジュンさんは立ち止まった
温かい背中が俺を待っていてくれた
飛び込んでいいのかどうか、俺は迷った
テジュンさんは俺の方を振り向くと、俺の腕を強引に掴んで抱き寄せた
俺を丸ごと包んでくれた
また、枯れたはずの涙が溢れた
テジュンさんは俺の頭を優しく撫でて
「泣きたいだけ泣いていいよ」
と言った
まるで何もかも知っているかのように…
俺はテジュンさんの香りに包まれてしばらくじっとしていた
そのうちどんどん哀しくなってきて、俺は声をあげて泣いた
テジュンさんはずっと俺の背中を擦ってくれていた
涙のわけを話してしまった
俺の話を聞きながら、テジュンさんは震えていた
全部話し終わったとき、テジュンさんはもう一度俺の頭を抱きしめてくれた
俺は、落ち着いていた
「ごめんね…イヤな話聞かせちゃった…」
「ラブ…君…」
「…許せないんだ…俺…」
「…当たり前だろ?!許さなくていい。君は何も悪い事してない」
「…テジュンさん…違うんだ…俺、テジュンさんに話してて解った…俺が許せないのは俺自身なんだ…」
「なぜ!」
「だって…俺…。おじさんが誰を好きでも、おじさんの事愛してるって…変わらず愛してるって…。そう、おじさんにも言ったし、俺自分でもそう思ってたんだ…
なのにさ…、いざとなったらこうだもん…。弱いね、俺って…。みっともないよね、俺って…」
「ら…ぶ…ばか…ばかやろう…君は悪くなんかない!弱くなんか…ない!…イナが、イナとギョンジン君がいけないんだ…。君をこんな目に遭わせて…」
「違うよ…違う…。どんなに立派な事言ってても、結局俺って自分の事しか考えてないんだ… 。おじさんの気持ち解ってるなんて言っておきながら…こんな…」
「…君は…」
テジュンさんは急にぽろぽろと涙を流した
「テジュンさん…泣かないでよ…」
「君のような子をこんな風に扱うなんて!僕が許さない!」
「…テジュンさん…」
「イナを懲らしめる…」
テジュンさんが俺を強く抱きしめた
しばらくの間、俺達はそうしていた
テジュンさん、きっと悲しんでる…
ごめん…話すつもりじゃなかったのに…
ごめんね…巻き込んじゃって…
「ラブ君…。ギョンジン君にちゃんと確かめたのかい?イナの名前の事…」
「…そんな事確かめられるわけないじゃない!」
「…確かめてごらん…誤解かもしれないから…」
「…誤解?!あんなにはっきりとイナさんの名前呼んだのに?!」
「…ギョンジン君は…君の事を 大切に思っているんだと思う…」
「テジュンさん…あの人はね…。すけべなエロミンなんだって…だから…だから…ただ、誰でもいいから抱きたかったから俺を…」
「いや違う。彼は君を大切に思ってる。僕はそう思う。…確かめるべきだ。僕はギョンジン君がイナを本気で好きだとは思えない…」
「…」
「あいつが本気で好きなのは、君だ…。記憶がないって言ってたけど、時間がたてば思い出すこともある…」
「…もう…いいよ…」
「…ラブ君…諦めてしまうのか?」
「俺は…もう…どうでもいいもん…」
「ラブ…」
俺は、優しいテジュンさんの胸に凭れ掛かってこれから先どうしようかと考えていた
「…だったら…僕のために確かめてくれないか…」
「…え…」
「イナと何があったのか…。何もないのにイナの名前を呼ぶはずなんかない。気持ちは君に向いてるのに…きっとイナが何かしたんだ…」
「…テジュンさん…。イナさんは…寂しかったんだよ…貴方がいなくて…」
「寂しいからって人を傷つけるような事…許されない」
テジュンさんは唇を噛みしめていた
「ねぇ、覚えてる?あいつ『テジュンしか見ない』って言ったんだよ。…口ばっかり…いつもそうだ。僕のいない間だってきっとソクやギョンジン君にキスしてたんだろ?」
そうだね…。スヒョンさんにまで手を出してたもん…
「僕はイナに確かめる。君はギョンジン君に確かめてみて…。きっと…イナが手を出したんだ…」
「…テジュンさん…。もしそうだったらどうするの?」
「…僕だけならいいけど、君をこんなに傷つけてる…。謝らせる」
「いいよ…そんな…もういい…」
「だめだ。だめだ!だめだ!」
テジュンさんは首を強く横に振った
そしてまた涙を流した
「テジュンさんも泣き虫だな…。おじさ…」
おじさんみたいと言いかけて、俺は口をつぐんだ
テジュンさんはまた俺を撫でてくれた
「君はいい子だけど、好きな人に正面からぶつかろうとしない…。ギョンジン君は君の方を向いてる…。それは確かだ
だから…確かめてごらん、彼の気持ちを…。ちゃんとね」
「…ぶつかる…」
ああそうだ…ドンジュンもギョンビンも、ちゃんと、正面から好きな人にぶつかってって、向き合ってたよね…
イナさんだってあんなだけど…自分の気持ちに真っ正直だ…。
俺は?
俺の気持ちは?
でも…
「そんな事したら俺、あの人の事、傷つけちゃうんじゃないかな…」
「あいつだって少々傷を負ったってかまわないさ!」
「…違うや…そうじゃないや。テジュンさん…俺、怖いんだ…自分がもっと傷つきそうで…」
「そうだね…もっと傷つくかもしれない。…それでも確かめなきゃ…。でないと…後悔する」
テジュンさんの腕に力が入り、俺はまた強く抱きしめられた
テジュンさんは自分に言い聞かせてたのかもしれない
「君を好きになればよかった…そしたらこんなに苦しまなくて済んだろうな…」
「俺も…テジュンさんみたいに優しい人を好きになればよかった…。そしたら…ずっと貴方だけ見てるのに…」
テジュンさんは俺の頬を撫でてそっとキスをした
俺はそのキスを受けて、そして舌を絡めた
テジュンさんの舌は俺の口内に深く入ってきて、俺の哀しみを消そうとするように強く吸い上げた
…キスしながらまた泣いた
どこに涙が残っているのか解らないぐらい泣いた
やっと涙が治まったとき、俺はテジュンさんの胸をそっと押して言った
「ごめんね…やな事につき合わせちゃって…。もう行って…。イナさんきっとおかしくなってるよ…」
「…いいんだよ…いいんだ」
「ね…俺も…行くから…。おじさんに…ぶつかってみるから…」
「…ああ…。頑張れ…」
「…うん…」
そうだね…諦めるのは答えを聞いてからでも遅くない…
俺の事好きって言ったの、ウソ?
怖いけど…
怖いけど聞いてみよう…
これ以上堕ちることなんてないだろう?
ありがとうテジュンさん…
いつも俺の背中を押してくれて
貴方だって辛いのに…
ごめんなさい…
やってみるね…貴方のために…
俺は、テジュンさんと別れて、またおじさんの部屋に向かった
ヨンナムssi れいんさん
ヨンナムさんは、ぴくりともせず豪快に寝ているホンピョに気を遣いながら腰掛けた
「突然すみません。お忙しいのに、お引止めしちゃって…」
「いや、いいんですよ。こちらのお店には随分ご贔屓にして頂いてますからね」
「そうなんですか。…ところで・このお店の評判ってどうなんですか?」
「ええ、それはもう、数あるホ○トクラブの中でもNo1ですよ」
「へえ〜凄いんだ…。皆似たような顔してるのにな…」
「いえいえ、やはり、いいホ○トクラブというのは挨拶がちゃんとしてますよ
いらっしゃいませ、ありがとうございました…これはなんといっても接客の基本ですね」
ヨンナムさんは嫌な顔一つせず一生懸命話してくれた
ふうん…この人凄くいい人みたい…
僕は相槌をうちながらそんな事を考えていた
「それから電話の応対…顔が見えなくても丁寧に受け答えする…それでお店の質がわかります」
へえ…この人の誠実な人柄が伺える意見だな…
「そしてね、他店では初回はまずフリーで来たお客様がお好みのホ○トを選ぶ
そして次に行った時に初回に指名した子がつく
それから先ずっとそのお客様の永久指名ホ○トになるってわけです
途中で指名の変更はできない。ホ○ト同士のもめ事になるからね
飲み物だって一番高いブランデーになるとボトルがバカラグラスでできてる1本○百万単位…もめるわけですよね」
この人なかなか詳しいな。
「だけど、このお店は違う。今日はワイワイ騒ぎたい気分だからテプンさん、今日は一緒にお祈りしたいからウシクさん…
そんな風にその日の気分で選べるし、それでホ○ト同士がもめたりなんかしない
むしろ仲が良すぎるくらいだ。お客様はホ○ト同士が仲良くしてるのを見てますます喜んだりする
それがこのお店の魅力なんだ」
メンバー一人一人の事までよく知ってるんだ…。案外、頭もきれる人みたい…
「いやいや参考になりました。凄くお詳しいんですね」
「いや、まあ、長い事いろんなお店をまわっているからね」
「配達のお仕事だけではもったいないな。いい感じなのに…」
「いやあ、僕は女性の扱いなんてからきしダメですよ」
ヨンナムさんは目じりにしわを寄せてくったくなく笑った
笑った顔、結構かわいいじゃん
ん?待てよ。この笑顔どこかで見たな…
僕はさっきからこの人と会った事があるような気がしてた
でも、誰だか思い出せずにいた
あ…!
今、ずっと観ていたあの祭の中継画面が頭に浮かんだ
思い出した!あの人だ!
祭の間、やたらとあちこちでキスしてた男二人…
一人はイナさんといつでもどこでもちゅうちゅう…
もう一人は、しらふではとても着れそうにない恥ずかしい格好をしていた人…
それも何度もさらにグレードアップした衣装に着替えていた…
その人もショーの合間にやたらとちゅうちゅうしていたな…
ヨンナムさんってその二人にそっくりなんだ!
雰囲気は違うけど顔はそっくり…
でもこの人は男相手にキスしまくる様な、そんな人には見えないけどね
僕はまじまじとヨンナムさんの顔を凝視した
僕があんまりあからさまにじろじろ見たからなのかヨンナムさんは目を泳がせ始め
「あ…もうこんな時間ですね。喋りすぎました。そろそろこのへんで失礼します。明日早いので…」
そう言って立ち上がった
ヨンナムさんは慌てて足を踏み出した拍子に躓いてバランスを崩し、寝ていたホンピョに覆いかぶさった
「ぐえっ!なんだっ!」
「あっ!す、すみませんっ」
「いてえなっ!何すんだよっ!…え?あんた誰…?」
ホンピョは目をゴシゴシ擦った
ついでによだれも手の甲でクイッと拭った
それから目を大きく見開き
「あっ!兄貴っ!」
と叫んでヨンナムさんにしがみついた
いきなりなんだよ…こいつ寝ぼけてるのか?
「えっ!兄貴って…人違いですっ!」
ヨンナムさんは焦ってホンピョの腕をふりほどこうとした
「嘘だっ!兄貴だろっ?俺の兄貴だろっ?やっぱり無事だったんだなっ!」
ホンピョはしがみついたままヨンナムさんから離れない
「ち、違いますっ!僕はミネラルウォーターの配達に…」
ヨンナムさんはどうしたらいいのか困っている
「おい、ホンピョ。寝ぼけるのもいい加減にしろ!」
僕は奴の頭にげんこつを落とした
「いてえなっ!何すんだよっ!」
「目、覚めた?」
「兄貴じゃ…ないのか…?」
「違うよ。この人はヨンナムさん」
いたたまれない様子のヨンナムさんは、僕達に丁寧に一礼して、慌ててその場を立ち去った
「俺…夢見てたのか…。さっきの人…兄貴だと思っちゃったぜ…
優しかった兄貴に…なんとなく似てたんだ…
祭の中継で兄貴そっくりの人を見かけたんだ…兄貴より随分年食ってたけどよ
それで俺…うとうとしながら兄貴の夢見ちゃったんだ…」
ずっとがさつな奴だと思ってたホンピョの寂しそうな顔を、僕はその時はじめて見た
◇4人のまうむ.. eight.. 妄想省mayoさん
4人でEVに乗り込み..テソンを連れて降りようとしたとき
レロレロのちぇみが私とテソンの頭を交互にくしゃくしゃくしゃっとする
「「でへっへぇぇ〜〜だははぁ〜」」←ちぇみ&テソン
「「もぉー..しょうがないなぁ〜」」←テス&闇夜
「mayoシ..重くない?大丈夫?」
「ぅん..テスシ..運転気をつけてね..」
「ぅん..わかった..」
テスと私は互いに軽く背中を叩き合った
部屋へ戻りベットサイドにテソンを立たせたまま機械的に着替えをさせた
胸板は☆チカチカチカ☆してまともに見られない..
横を向いてパジャマのボタンをかけた..
さすがにボトムのチャックは外せない
テソンの手を取り..チャックまで持っていくと..
にまぁー^o^..っとしながらテソンはボタンを外し..チャックを下ろしてくれた..
足元に..裾を広げたパジャマのズボンを置くと..テソンは素直にはいた..
よかった..着替え完了..^^;;
テソンをベットに寝かせ、ベットから離れ..シャワーを浴びる..
まだ飲み終って時間が浅い..
湯の温度を体温と同じ34度に合わせ背中からシャワーを浴びた..
今日一日に起こった怒涛の出来事がぐるぐる頭の中を回る..
疲れた..
部屋着に着替えテソンの隣に滑り込みテソンの頭を胸にぽとん#と落とす..
テソンは自然と私の背中に手を廻し..
「まぁ〜ょぉぉ〜」っと何度か連呼し..すりすり..と身体を寄せてきた..
テソンの背中に両手を回しそっと..とんとん#..っとすると
テソンは胸の中で顔を上下して..洗うようにして動かす..
耳元で「おやすみ..」と囁くと...一旦顔を見上げ..
(>▽<)...にんまぁーと笑ってまた胸に顔を埋めた
程なく静かな寝息が聞こえてきた..
テソンの体に軽い震えが起こった..酔いが冷める時に時たま起こる現象だ..
背中を擦ってテソンを包み込み頭をそっと撫でる
「かあさん..」
テソンの寝言が聞こえた..
~~~~~
朦朧とした意識の中に僕と母さんの姿が見えた..
幼子の僕が母さんの胸に顔を埋め..
母さんは僕の背中を両手で包み..背中をすりすりする..
たまに僕が見上げると..僕の頭を撫でてくれていた..
僕の両親は離婚している
離婚の原因は..父さんの暴力..暴力の原因は..僕だ..
小さな会社を経営していた父さんは仕事が忙しいと言いながら
外に女を作りほとんど家に帰ってこなかった..
そんな父さんに母さんはじっと耐えていた..
たまに帰ってきて僕が父さんに食ってかかるのが気に入らなくて
父さんはいつも僕を殴り..蹴り..物差しで叩いた..
ある日父さんの投げたアイロンの先が僕の腿に一瞬刺さって落ちた..
母さんは次の日僕を連れて家を出た..
母さんはそれから女手ひとつで僕を育ててくれた..
手先が器用で韓服の仕立てや洋裁の注文を受け..
洋服に合わせて帽子も作ったりしてそこそこ評判がよく..
毎日遅くまでミシンを踏んでいた..
母さんは僕が隣で手伝っていると優しく頭を撫でてくれる..
「テソンは器用ね..母さんに似たのかしら..」
「ぼくもおおきくなったらおよーふくつくる..」
「んー..テソンはコックさんになりなさい..」
「ごはんつくるひと?」
「そう....手に職をつけなさい..ん?」
「ぼくにできるかな..」
「大丈夫よ..」
「じゃ..ぼく..これからまいにちかあさんのごはんつくる..」
「そう?ありがとう..」
幼子の僕はそれから毎日キッチンに立ち..包丁を握り食事を作った..
何度も指を切ったりしても..父さんの暴力に比べれば全然痛くなかった..
母さんは僕が早く独り立ちできるように..僕に手に職を付けさせたかったのだろう
一流の料理人を輩出した難関の調理師学校をトップで卒業した僕は
卒業式の夜に母さんに懐石料理を作った..
母さんは..一口一口ゆっくりと味わいながら.. 涙を流していた..
それからまもなく..母さんは僕を残して逝った..
ひとりぼっちになった僕は途端に心のバランスを崩した..
人に優しくできる時は稀で..
気に入らないことがあると物に当ったり..暴力を振るう..
その度に..やっぱり僕は父さんの子なのか..
僕を蹴る..叩く..父さんの歪んだ顔が浮かび..
目立たなくなった傷が脈打つような感じだった
その度にまた僕は心の自分と格闘する..
本当の自分がどれなのか..
僕はいつもいつも自問自答するのに疲れていた..
ある日を境に僕の心のバランスが少しづつ変わっていった
ふと小さい頃の母さんの隣にいるような感覚..
穏やかな気持に陥る時が僕に訪れていたのだ..
僕の隣で黙々と仕事をこなす闇夜が僕にそういう時をくれるの?
それからずぅぅぅーっと僕は闇夜だけを見てきた..
チェックアウト オリーさん
名前を呼んでも答がないので、起きてミンを探しに行った
ミンはクローゼットの前で荷造りをしていた
近づいて後ろから首の回りにそっと腕を回した
「おはよう」
「起きた?」
「うん」
「二日酔い?」
「いや、すっきりしてる」
「昨日随分飲んだから心配したよ」
「すまない。実は昨日、話そうと思ってたんだけど」
「何?」
「スヒョンとのこと」
「言いたいの?」
「話しておきたい」
「いいよ、わかってるから。どうしても話したいの?」
「ひとつだけ、言いたい」
僕はミンの額に手をあてた
「何?」
「スヒョンに言われた。僕の心の一番深いところに
形もないほど自然にミンがいるって」
「……」
「僕とキスしてもその思いがわかるって」
「それって…」
「ん?」
「スヒョンさんとキスしたってことだよね」
「あ…」
ミンは振り返った
「夜風に吹かれて美味しいワイン飲んで、
芝生の上で抱き合ってキスした、っていうことだよね?」
「ミン…」
「大体当ってる」
ミンはじっと僕を見つめた
僕は目を伏せてうなづいた
ミンは僕の頬にキスして言った
「スヒョンさん言ってたよね、罪な男だって」
「そんなこと言った?」
「シェイクされた後だったから覚えがないか」
「うん…」
「ほんと罪な男」
「やめてくれ」
「でもいいよ、罪な男がどこで何しても一緒について回ってるんだから」
「もっとちゃんと話すつもりだったのに」
「昨日のこと憶えてる?」
「何?」
「ずっと一緒に歩いていこうって言ったこと」
「うん。ミンも返事した」
「これからずっとだよ」
「ああ、ずっとだ」
今度はミンが僕の首に腕を回して抱きしめた
「シャワー浴びてきて。行きたいところがあるんだ」
「どこ?」
「いいから」
僕はミンにシャワールームへ押しやられた
僕がシャワーを終えて出てくると、
ミンは大体荷造りを終わっていた
「後は誰かさんが支度すればOKだよ」
「そんなに急いでどこに行きたいの?」
「いいから」
最後に部屋を出るとき、ミンがベッドルームへ走っていった
戻ってくると手にミソチョルを持っていた
「荷造り忘れたの?」
「この子はカバンの中に突っ込んじゃ可哀想だ。僕が持ってく」
「ふうん…」
「何?」
「ミンにぬいぐるみね」
「何?」
「合わないな」
「誰かよりましだよ」
カフェで遅い朝食を取った後、
フロントでチェックアウトを頼んだ
BHCのメンバーには先に出るからとメッセージを残した
フロントマネージャーから赤い封筒を渡された
「これは?」
「お渡しするようにと承っております」
「何だろうね」
「さあ」
車を回してもらっている間、
僕らはロビーのソファに腰かけてその封筒を開いた
「あ…」
僕とミンは驚嘆の声を上げた
ちょっと悩んだポーズの僕とその頭を肩に引き寄せ後ろ向きで立つミン
「これ、誰が?」
「ヘヴンのテファさんらしい」
「いつの間に描いたんだろう。上手いね」
「僕こんなに深刻な顔する?」
「足りないくらい」
「……」
「本物はもっと苦悩してる」
「……」
「これ、新しい部屋に飾ろう」
「新しい部屋?」
「んと…その…二人で住む部屋ってこと」
「それはいいかもしれないな」
ドアマンが車が来たと合図してくれたので、僕らは車寄せに出た
「車が違う。これは僕のじゃない」
「いえ、こちらのお車でございます」
「確かにベンツだけど、これは去年出た新しい型だ
僕のはその前の型だから」
ドアマンがちょっと困った顔になった
中からベルボーイが走ってきて白い封筒を僕に渡した
封筒を開いて中の手紙を読んだ
「どうしたの?」
ミンが覗き込む
僕は黙ってミンに手紙を見せた
ミンは手紙を読んであっと声を上げた
『ゲンの悪いお車はもうおやめになって、
新しいもので再出発なさいませ
マダムRより』
「ミン、心当たりがあるのか。どうなってる?」
僕はさっきの絵のようなポーズになっていた
真夜中のソクさんスヒョクさん ぴかろん
部屋に帰ってきてからスヒョクはポテトチップスやらチーズやらを皿に盛り、チュニルさんに貰ったワインを開けてグラスに注ぎ
ソファに座ってテレビをつけた
よく働く奥さんだな…うふふふん
でも…まだ飲んだり食ったりテレビなんか見たりすんの?
フロにはいろぉよぉ〜うふふふん
スヒョクはワインをぐびぐび…味わってないな、あの飲み方は…飲んで、ぱりぱりチップスを口に入れて
テレビのチャンネルをしきりと変えている
僕はしばらくその可愛らしい様子を眺めていた
でもスヒョクは僕の方を見ないんだ
くふん…はじらい?
もうしばらくの間、僕はスヒョクから見える壁に凭れて彼を見つめていた
笑顔でね…
でも…
30分経っても僕の方を見てくれないんだ
そんなに恥ずかしいの?
これだからオトメは…くふふん…
僕はそっとスヒョクの座っているソファに近づいてスヒョクの前に立った
「ソクさん邪魔!」
「ん?あ…はいはい…」
ちょっと待て…。邪魔?
僕はスヒョクが見つめているテレビを見た
野球中継だ
大リーグか…
ちっ
こんな夜中に野球なんかやるな!
といいたいところだが僕も野球が大好きなので、スヒョクの横に座って一緒になって観戦した
つい夢中になって当初の目的を忘れてしまった
そして野球の試合が終わった
するとスヒョクはまたチャンネルを変え、違うスポーツを見ようとした
ちょっと待てよ…
僕もスポーツ観戦は好きだ…
でも…でも今見なくてもいいだろ…
僕はスヒョクが持っているテレビのリモコンを取り上げようと手を伸ばした
「だめ!」
「ちょっと貸せよ」
「これは俺の!」
「何言ってんの、もう野球終わったからテレビ消そうよ」
「いやだ!まだ見る」
「…」
スヒョクがチャンネルを変え続けていると、画面にえらいもんが映った
えっちな映画というか…いや…アダ●トビデオか…
言っておくがノーマルなヤツだぞ…
そうそう男色モノは放送してないだろう…
スヒョクはチャンネルを変えようとして慌ててリモコンを取り落とした
チャンス!
僕は素早くリモコンをベッドの下に蹴り入れた
「あっ!何すんだよっ!」
「もういいだろ?」
「ばかっ!テレビ見たいのにっ」
「スヒョク…」
「いいよもう!これ見るからっ」
「スヒョク…これって…のーまるなえっちびでおだぞ?」
「いいの!ソクさんあっち行けよ」
「なんだよ…こんなの見なくても僕がぐえっ」
スヒョクは僕の口にポテトチップスをがばっと突っ込んだ
「げへげへっ…ばりばりパリパリ…もぐもぐ…スヒョク〜僕にもワインください〜」
「ん」
スヒョクは僕の方を見ずにワインを注いでくれた
画面見てる…
おい…
興奮しないのか?
僕はワインを飲んでスヒョクの顔を見つめた
必死で画面の方を見てるけど、僕を意識してるんだろう?
僕も画面を見てみた
男が女の耳にくちづけしながら、胸元に手を入れている…
「なんでこんなの見るのさ。消そうよ」
「ソクさんがリモコン蹴飛ばしたから消せない」
「スイッチ押せばいいんだよ」
「だめっ!見るっ」
「なんで!」
「…」
恥じらいか?!恥らっているにしては見ているものに恥じらいがない!
でもスヒョクは僕を見ない
やっぱり恥ずかしいのか!そうか!
くふふん…
かわいい…
僕はスヒョクの横顔をじっと観察してみた
くふふふ。意識してる…。お口が一分開きになっているくふふん。お目目がうるうるしているくふふふん
僕はその映像と同じようにスヒョクの耳にくちづけをして、胸元に手を滑り込ませた
一分開きのお口から小さな吐息が漏れる
シャツのボタンを外した
スヒョクは動かない
よっしゃ!かかった!あとはどうやってここからベッドに移動させるかだ!
僕はスヒョクの唇にキスをしようとした
すると
「見えない!」
と言って僕の頭をぞんざいに押しのけた
くっ…まだ『その気』にならないかっ!
仕方ないので耳やら首筋やら肩やらにキスし、胸やら腕やら腹やら背中やらを手で探りながら
シャツをほとんど脱がせてやった
背中にキスしまくった
ベルトも外してやった
そしてスヒョクの体の向きを変えようと力を入れたら
「じゃまっ!みえないっ!」
とまた怒鳴られた…
ちっ…
画面ではそろそろナニがアレの場面である
「こっちもそろそろどうだろう」
とスヒョクに言ってみたが無視された
ちいっ!…
とりあえずスヒョクが半裸状態だから僕もそれに合わせよう…
肌が触れ合ったらスヒョクも僕の方を見てくれるかもしれないし…くふふ…
僕が服を脱いでるとスヒョクが突然立ち上がった
いっ!どこいくのっ!
スヒョクは無言でトイレに行った
そしてベルトもシャツもきっちりと着て帰ってきた
ソファに座ろうとして立ち止まり、冷蔵庫から今度はビールを出してきた
プシュッと開けてグビグビ飲んでいる
「なんでビール…」
「これしかないもん」
「ワイン飲んじゃったの?」
「うん」
「…なんで服着たの?」
「え?脱げてたから…」
脱げてたんじゃねぇよ!僕が脱がしたんだよ!もうっ
僕はムッとしてまたスヒョクのボタンを外し、ベルトを緩めてやった
ああもうっ画面のやつらはすでに終わっている
スヒョクはまた立ち上がり、そしてやっとテレビを消した
そのまま洗面所へ向かったのでまた衣服を整えられては大変と、僕は後をついていった
スヒョクはシャツの前をはだけたまんま、歯を磨いている
くふっ
たしなみ?
それが終わるとベッドの方にスタスタ歩き出した
そして
「おやすみ」
と言ってシーツの間にもぐりこんだ
僕はニヤつく顔を抑えられず、スヒョクの後を追ってシーツにもぐった
「なんだよっ!くっつくなよっ!」
「なんだよぉスヒョクぅぅ今までまってたのにィ」
「俺、疲れたし眠いから寝る。おやすみ」
「スヒョク!…スヒョク?」
スヒョクはすーすー寝息を立てている
なんだって?!
どーゆーことよっ…
なんにもなし?
そんなっ…
そんなにイヤなの?
僕がセツブンショーであんなに腰振ったからか?!
…
そうだった…あれでちょっと腰の筋が…
でも…できるぞスヒョク!大丈夫だぞ…ねえって…ねえ…
だめだ…寝ている…かわいい顔をして…くすん…
仕方ない、目覚めの一発に変更しよう…くそっ…
僕は目を閉じてスヒョクの横で大人しく寝た
うとうとしだした時、僕は息苦しくなって目を開けた
スヒョクが僕にキスしている!
「ス…スヒョク…」
「…ソクさん…」
「どどどうしたの?」
「今日は、このままでもいい?」
えとんと。どういう意味?
「今日はこうやって眠るだけでもいい?」
おいっ!それはないだろう…
「なんで?ダメ?」
「だってソクさん…腰痛いだろ?…それに…」
「それに何?」
「やっぱ…怖い…」
きゅうん…かわいいっ
「優しくする…」
「…やだ…」
「ほんとにヤなの?」
スヒョクは俯いて黙り込んだ
きゅううううん!かわいいいっ!恥じらいだあああっくうううう…
僕はスヒョクの唇を掬って丁寧になぞり、深いくち付けを落とした
スヒョクは腕をつっぱって少し抵抗したけど、やがて力を抜き、僕の首に腕を回した
「いい?」
「…いやだ…」
「ふふ…」
可愛らしい声でいやだというスヒョクの唇をもう一度捉え、僕はスヒョクを抱きしめた
「今日のところはとりあえず、いけるトコまでいってみようか」
そう言うとスヒョクは首をかしげて僕を見つめた
それで僕は我慢できなくなり、お互いに、いけるとこまでいってみた…
ちなみに「最後まで」は、いっていない…