秘密の小部屋 れいんさん
僕はボックス席で女性達の中に所在なさげに座っている闇夜をちらりとみて言った
「テソン…一緒じゃなくてよかったのか?」
「…ああ…後で話すから…」
言葉とは裏腹に気になってしかたがないといった感じのテソン
「おまえの方こそスハはいいのか?」
「…ああ。テプンに誘われたらしい…。後で時間作るから…」
僕達はお互いに顔を見合わせふっと笑った
僕達…似た者同士じゃないか…
気になってしかたのない奴がいて…
でも今はなんとなくこうして二人で飲んでいたい気分で…
「おまえさ…近頃どうなの?」
「どうって…?」
「うまく…いってるのか?」
「…さあな…どうだろう…」
「どうやら…手強い奴に…惚れたらしいな」
テソンはぷっと吹き出してそれからぽつりぽつりと話し始めた
「そう…手強い奴…。あいつの心の中には秘密の小部屋があるんだ
そこには何があるのか知りたいけど僕は入る事ができない
無理に入ろうとするとあいつはその部屋に逃げ込んで中から鍵をかけてしまうんだ」
「そうか…」
「だから僕はあいつがその部屋から顔を覗かせて出てくるのを待つしかない
いつかあいつがその扉を開けて僕に手招きしてくれるんじゃないかと…
でも…そう簡単にはいかないらしい」
「おまえはその中に何があるのか知っているのか?」
「…」
「知らなくてもいい事があるって事か…」
「そう…知りたいけど…今は知らなくてもいい
闇夜がいつか話してくれるまで無理に知ろうとは思わない」
「おまえの気持ちは…伝えてるんだろ?」
「まあな…。あいつが人恋しくなった時にはいつでも僕は抱きしめてやる
いつも僕はあいつを探して…あいつだけを見つめて…あいつの事を待っている」
「闇夜にとってはテソンはきっと、なくてはならない存在なんだ。闇夜もちゃんとわかっているさ」
「多分な…。だけど…なくてはならない存在イコール一番に好きな人…ってわけじゃないんだよ」
「え…」
「いや、いいさ。今は一番じゃなくてもさ。なくてはならない存在ってのはなくなってからしか気づかないもんだろ」
「そうかもな…」
テソンが言ってる言葉の意味は僕にはとてもよくわかった
だけど、テソン、考えてもみろよ
おまえが恋の悩みを打ち明けるなんてさ…
辛い恋をしていたって、何もなく空っぽに生きているより、ずっと幸せなんじゃない?
つくづく僕達って…似ているのかもな…
僕はそう思いながらグラスをいっきに飲み干した
慈しむ心 妄想省mayoさん
隣にいたテソンは僕が一気にグラスを空にするとふっ#っと笑った..
「何だよ…テソン…」
「清楚なジンフィズ….情熱的なチェリーブランデーが加わるとさわやかな味になる…」
「ふはは…何だか,,スハがチェリーブランデーみたいだな…」
「ぅん…さすが…テジュンさんだよ…」
「僕は…会ったばかりのあいつに…何故かすぅっ〜と自分の中にある秘密が言えた…」
「そうか…テジン…心が軽くなっただろ…その時…」
「ぁぁ…自分でも驚いた…」
「お前の気づかない心の隙間に入り込んだんだな…きっと…」
「スハは…」
「ん…」
「僕の傍にいるのが自分の幸せだと言い切ったんだ…」
「はは…やるな…スハも…」
「それに…あいつの瞳は鋭く僕を突いてくる…」
「それだけ…想いが強いってことだよ…」
「ぁぁ…だから…受け入れるのを迷った…」
「でも受け入れた…」
「ぅん…」
「今のお前とスハ…満ち足りた顔してる…」
「解決する問題は…山積みさ…」
「時間をかけて…ゆっくり行けよ…急ぐと…ろくなことがない…」
「お前みたいに…忍耐強くいけるかな…俺は…」
「プッ...僕の忍耐力は誰にも真似できない..」
「あっはは…そうだよな…何しろ…相手が相手だ…」
「お前らしくスハを慈しんでやればいい…そして.お前は…スハの一番になれよ…」
「テソン….」
テソンはちょっと眉を上げてちょっと切なく笑った…
「テジン」
「ん?」
「…スハも…逃げだそうとしただろ…祭りの最中…」
「も…って…闇夜もそんなことがあったのか?」
「ぅん…危なかった…ほんとに…いなくなる寸前だった…あの時…」
テソンはグラスを弄びながら…その時を思い出している様だった…
「本当は…今でも…怖いんだ…いつかまた…僕の前から消えてしまいそうで…」
「テソン…大丈夫さ…」
「…?」
「今…闇夜の右手には…お前の手錠【Ti amo】がはまってる…だろ?…」
「ぅん…ぁ…僕…言ってなかった…プレートの裏…見せてない…」
「ったく…後でちゃんと話せよ…」
「ぅん…お前達も…ペアで揃えるのか?」
「ん…何にするかこれから考えるよ…」
そう言ったテジンはテプン達のBOXにいるスハに視線を送る…
スハはくすぐったいような視線を返していた…
JAZZのステージが始まった…次々とカップル達がフロアへ集まる…
テジンはすくっ#と立ち上がり…真っ直ぐにスハに歩いていく…
テジンとスハがフロアでひとつになっていった…
その森へ 2 足バンさん
スヒョンはベンチの中央にボトルとグラスと籠を置き
僕たちはそれらを挟んで座った
ジャケットの内ポケットから折りたたみ式の万能ナイフを取り出し
小型ナイフでキャップを外して内蔵のオープナーでコルクを抜く
僕はその慣れた手つきをぼんやりと見ていた
グラスに無造作につがれた液体は赤く濃く
内側にねっとりつくグリセリンの多さが上質であることを物語っている
「バルバレスコ、ガヤ1990年。イタリアワインは好き?」
「うん…この包みは?」
「ブルーチーズ。これによく合う」
僕たちは乾杯をして香りを楽しみながらワインを口にふくむ
濃厚な液体が喉を通り抜ける
スヒョンはアンジェロ・ガヤという革新的なイタリアワインの作り手の話をしている
目の前の夜景を眺めながらのゆったりした空気に僕は次第に安らいだ
普段は少し苦手なブルーチーズもスヒョンの言う通りそのワインによく合った
「祭ご苦労だったね。いろいろあって大変だっただろ?」
僕が2杯目のグラスをあける頃スヒョンがそう言った
ベンチの背に肘を掛けて足を組みこちらを真っすぐ見ている
ヴィラのほのかな明かりに影を落とすその瞳は
僕がここにワインを飲むために来たのではないことを思い出させる
「世話になったな…仕事でも…」
「ギョンビンのことでも?」
僕がギョンビンの名を出すとミンチョルの目に小さな動揺が走った
視線を落とした先に空のグラスがあった
その美しい横顔を何度盗み見てきたことだろう
他の男でいっぱいのその心に何度胸を痛めてきたことだろう
僕はふたつのグラスにもう一度ワインをついだ
「僕はね、おまえがずっと好きだった」
スヒョンの唐突な言葉に驚いて顔を上げた
まさかそんな言葉をはっきり聞くとは思っていなかった
スヒョンは目をそらさずに言葉を選びながらゆっくりと話した
いつの頃からか僕への気持ちが募っていったこと
僕への届かぬ想いを封じ込めようとしたこと
その想いは僕の幸せを考えることで昇華してきたこと
僕はとつとつと話すスヒョンの低い声に動悸をおぼえた
ミンを手放すと言ったとき真顔で反対したスヒョンを思い出した
ミンのことで走り回ってくれたスヒョンの姿を
ミンが戻って来たとき良かったと微笑んだスヒョンを思い出した
「でもいつの間にかね…おまえの幸せそうな顔が僕の嫉妬に勝ったんだ」
スヒョンのその言葉に胸が熱くなる
言葉がない
今のこの自分の気持ちをどう伝えていいのかわからなかった
なんの整理もできないままここにきたことを後悔した
スヒョンのこんな気持ちを聞く準備などできていなかった
僕は呆れるほど気楽に考えていたんだ
「スヒョン…」
「ん?」
「…ごめん…」
「謝ることないだろ、ばか」
「僕は…まるで気づいてなかった」
「ミンチョル…」
「ずっと甘えっぱなしだった」
ミンチョルの伏せた睫毛が小刻みに震えている
「無理してなにか言わなくていいよ」
「スヒョン…」
「僕の気持ちと一緒におまえの気持ちも整理してもらいたくて来たんだ」
「そんなこと…」
「僕は正直に全部話したいと思ってる」
「…」
「素直になればいいだけだよ」
「素直って…」
「おまえも少しは好きでいてくれたの?」
ミンチョルの目が大きく開かれその視線がまた彷徨う
手の中のワインが小さく揺れている
自分の気持ちを掴みあぐね、また閉じこもる準備をしているの?
僕は沈みゆく森の中に手を差しのばす
「キスしよう」
心臓がどくんと大きく鳴った
僕は何も答えられずにただスヒョンを見つめた
スヒョンは自分のグラスを向こう側に置くと
右腕をするりと伸ばし僕の耳の下に手を滑り込ませた
その指先は優しく頬に接している
かわせばすぐに逃れられただろうか
でも僕はそうしなかった
そうしないことが自然だった
ゆっくりと力を込めるその腕に引きよせられながら
僕の心を覆っていたなにかがはらりと落ちた
「今度ははずみじゃない」
そう囁いたスヒョンの唇が柔らかく僕の唇に重なった
フォア・ローゼズ・アト・ザ・ウィンドウ・シート オリーさん
僕らは黙ったまま飲み始めた
さっきまでの勢いがちょっと落ちてる
そのうちドンジュンさんがはっとして入口の方を見た
なぜだかわかったので僕はそのまま窓の外を見た
見たくない、あの二人を
かわりにグラスに残ったバーボンを口の中に放りこむと
ドンジュンさんに言葉を投げた
「ねえ、スヒョンさんが帰ってこなかったらどうするつもり?」
彼は怯えたような怒ったような複雑な視線を僕に向けた
僕らが迷い込んだラビリンス
想いの矢があっちこっちで向き合って僕らを封じ込める
めぐってもめぐっても抜け出せない迷路
僕らはその中でどうやってお互いを見つけ出せばいいのだろう
「ごめん、嫌味じゃなくて僕はもう決めてるから、
ドンジュンさんはどうするかな、と思って」
「もう決めてる?」
「僕は、彼が戻ってこなくてもBHCに行くつもり」
「え…」
「BHCでホストやって、彼のそばにいるつもり」
「それって…」
辛くないの?と優しい彼の目が言っている
でもその矢は自分にも向いてるんだよ…
彼が戻ってこないって事は
スヒョンさんも戻ってこないって事
僕らはラビリンスの中で、
矢に射抜かれて身動きがとれなくなってしまう
僕はその恐ろしい幻想をふるい落とそうと
窓の外の美しい夜景に視線を移した
マンハッタンのような華麗な輝きはないけど
点在する小さな灯りがまるで星のように控えめに煌いている
「だめなんだ、彼でないと。だから、戻ってこなくてもそばにいたい」
「ギョンビン…」
「顔を見るのがつらい、とか言われちゃったら、
どこかに消えるしかないけど…」
僕はちょっと唇を噛んだ
ドンジュンさんが僕をじっと見ているのがわかる
ごめん、意地悪なこと聞いてちゃって
変なこと聞かせちゃって
でも聞いてみたかった、言っておきたかった
「あたりまえじゃん、僕もBHCに行くさ」
突然弾んだ声が僕の耳に飛び込んできた
あまりの明るさに僕は思わす振り返った
「戻ってこないなんて事になったら、僕だって黙っちゃいない」
「え?」
「ずっとつきまとって意地悪してやる」
彼はそう言うと僕にウインクした
「それとも、ガンガン稼いであの二人なんか目じゃないって顔しようか」
僕は目の前に座っている新しい友達をしみじみ見つめた
「ギョンビン、人ごとみたいな顔するなよ、僕がナンバーワンで
お前ナンバーツーなんだから。二人とも毎晩指名で大変だよ」
彼はなんてしなやかで、強くて、そして優しい
下に広がる夜景よりも、煌いていて、眩しくて、美しい
僕はその光に誘われるように思わず微笑んでいた
「わかった?わかったら飲みなよ」
彼は僕におかわりをついでくれた
「僕、ホストでやっていけると思う?」
「ナンバーツーが情けないこと言うなよ。パトロンがいるんだろ。凄腕じゃん」
僕は目頭が熱くなったので下を向いた
「どうした?」
彼が心配そうな声を出した
「それ聞いて安心した。じゃ僕は後をついていくから」
僕も彼におかわりをついだ
「そういうこと。でも…」
「何?」
「パトロンがいないナンバーワンってあり?」
「でも今ナンバーワンてテプンさんでしょ」
「そっか。チョロイな」
僕らは初めて声を出して笑った
彼の笑顔がちょっと歪んで見えたのは、
僕の目にかすかに滲んでしまった涙のせい、それとも…
そんなことどっちでもいい
僕らはその後も飲み続けた
「お前らにもばっちり御馳走してやるからな」
イナさんがそう言って僕らの首根っこを押さえにくるまで
JAZZ&Kiss れいんさん
フロアにJAZZのメロデイ…
女性ヴォーカルの声が心にしみる
恋人達は一人…また一人と、手を取り合いフロアに消える
ムーデイーな曲に合わせて、その二つの影達は寄り添い囁き合い体を揺らす
僕が彼を振り返りそうになった時
目の前に彼の右手が差し伸べられた
「おいで…」
彼は僕の手を取りフロアへ歩いた
僕達の影も向き合い一つに重なる
腰に回された彼の手が僕を引き寄せた
僕は彼の鎖骨あたりにそっと手を添えた
彼はその僕の手を握り彼の首へと巻きつけた
僕はもう片方の手もそうっと伸ばして彼に絡みつけた
彼の胸と僕の胸とが合わさった
「…いいの?こんな風に僕と…」
「どうして?…いいだろう?僕がそうしたいんだ」
僕達の頬と頬が自然に寄り添う
曲に合わせて体をわずかに揺らす度、唇が彼に触れそうになる
「誰かに見られている様で…なんだか少し恥ずかしくて…」
「そんな事…皆パートナーしか見てないさ。僕みたいにね」
「…」
「スハも僕の事だけ見てればいいんだよ…」
「テジンさん…僕…こんなにドキドキしてる」
「僕もだよ。初めてのデートでもしてる気分さ」
ねえ、僕…あなたをどんどん好きになってる
顔を見るたび、声を聞くたび…前よりずっと好きになってる
こんなに好きになってもいいの?
もっと好きになってもいいの?
僕は少し怖いんです
自分がとても欲張りになっていくのが怖いんです
こうして時どき傍にいられるだけで…それでいいと思ってたのに…
僕の事だけを見ていてって…
他の誰かの事を考えたりしないでって…
そんな風にあなたを困らせたりしないかと…
僕はそれが怖いんです
ねえ、スハ…
僕達はここまでくるのも簡単じゃなかった
僕もひどく迷ったし、おまえを傷つけたりもした
だけど…ひとつひとつゆっくりと時間をかけてここまできたんだ
ね?だからこれからだってそうすればいい
おまえがね、立ち止まりたくなったら、僕も一緒に立ち止まるよ
おまえがね、引き返したくなったら、僕も一緒に引き返そう
僕達が登ろうとしている山はとても高くて険しいんだ
急いで登れば息がきれる
疲れたら体を休めて、雨が降ったら雨やどりして…
時にはまわり道をするかもしれない
来た道を引き返す事があるかもしれない
だけど、それでいいじゃないか
そうやってゆっくり登って…
いつか頂上で喜び合える日が来れば…
それでいいだろう?
何も心配しないで…
僕がずっとおまえを守るから…
最後の曲が終わる時、僕はスハにそっとKissした
Sky-lounge_three.. 妄想省家政婦mayoさん
フロアに流れるJAZZが終わる前に僕と闇夜はカウンターに戻った…
ミンギがカウンターの中から半身を乗り出し…こそこそ#と冷やかす…
「テソンさん…ヌナにぞっこんですね#…」
「そういうこと#」
「僕も彼女に逢いたくなっちゃった…」
「はは…教会で知り合った彼女だろ?」←実話(^_^)
「ぁ…ヌナに聞いたの?」
「ん…可愛いんだってな…」
「まぁね…」
ミンギは頭に手をやりくしゃくしゃっと笑った…
僕はミンギににジン・レモンを頼んだ…
冷やっとしたジンが僕の喉をすっきりさせたのを見届けると…
闇夜はカウンターに向けていた身体を僕の方へ向け耳元で言った…
「テソン…」
「ん?」
「お願いがあるの…」
「何…言ってみて…」
僕も闇夜と向かい合い耳元で答えた…
闇夜は僕の両手を取りちょっと目を伏せた
僕の手をぎゅ#っと握ったあと真っ直ぐに僕を見る
フロアにはまだ♪が流れていた
闇夜はまた僕の耳元で言った
「今から…すこしだけ私をひとりにして…」
「…どういうこと?」
「何も聞かないでひとりの時間をちょうだい…」
「mayo…」
闇夜は右手を僕の首に手を伸ばし…僕のペンダントに触れた
僕は闇夜の手首を握ってから昼間につけてあげたプレスを外し..
手のひらにブレスのプレートを裏返して..闇夜の前に差し出した
闇夜は手にとってプレートに刻まれている【Ti amo】の文字を読むと
ブレスをぎゅっ#と握り僕の手に戻し僕の前に手首を差し出す…
僕は闇夜の手首を取ってもう一度ブレスを付けた…
「戻ったら…もう迷わないようにする…」
「…わかった…」
僕は闇夜にみみxxxをし…闇夜の両手を取った
闇夜はカウンターのスツールからストン#と降りる…
「あとで電話して…何があっても…いいね…」
「ぅん…わかった…」
闇夜はひゅ〜っと暗闇へ消えた…
フロアの♪が終わり…ラウンジが少し明るくなった…
イナさんを励ます会 ぴかろん
テジュンさんがラウンジから出ていった
イナさんはテジュンさんが消えた途端、とても解りやすく落ち込んだ
目の前に置かれたカクテルに自分の涙まで混ぜ込んで飲んでいる
酷な事するなぁテジュンさん…
イナが泣いている
テジュンさんが送別会に行っちゃったからだ
部屋のキーを渡されてたな…失くさないといいんだけど…
こういう時は慰めるべきなのか…
でもイナに構うとラブがまた変な風に誤解するかもしれない…
僕はラブの方を見た
おじさんがとっても解りやすく困っている
なんでイナさんといいおじさんといい、そんなに解りやすいのさ…俺より年上のくせに!
俺に頼るなよな!もう…
仕方ないので俺は、カウンターの中のチュニルさんに耳打ちした
チュニルさんはスングクさんと相談してボトルを捜し、ソッキュさんに言って、いろいろと用意してくれた
「ラブ…あの人に何言ったの?」
「あの人じゃないの!こちらはチュニルさん、そちらはスングクさん、あちらはソッキュさん
そんで…もう一人の若い子は…ミンギ君だっけな?覚えた?」
「…チュニルさんに何言ったの?」
「覚えたんだ…さすが…」
「ねぇってば!教えてよ」
子供みたい…
「あのね。おじさんがどうやってイナさんを元気づけたらいいの?って俺に聞いたでしょ?」
「え?」
「目で聞いたでしょ?」
「…う…」
「だから俺がその小道具を用意してもらってるの!わかった?」
「小道具?」
「…おじさん…」
「ん?」
「解ったら返事してよ」
「…はい…」
くふっ。か〜わい〜い…
「お待たせしました。ライムは今ソッキュが切ってますので…」
チュニルさんがボトルとショットグラス三つと塩と炭酸とを用意して俺たちの前に置いてくれた
「…エラドゥーラ テキーラ<アシエンダ デル クリステーロ>…。テキーラ?」
「うん…。これ結構高いの?チュニルさん」
「安くはないですね。ホテルでお出ししてるんですからねぇ」
「BHCにも置いてほしいなぁ」
「もっと高いのもありますよね」
「…オーナーケチだからなぁ…」
「いえ、単にモノを知らないってだけですよ。ラブさんが頼めば即オーケーでしょう…」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
俺はチュニルさんと親しげに会話してしまった
その様子を、チュニルさんの隣で、スングクさんは寡黙に聞いていた
『オーナーがケチ』『モノを知らない』のくだりでスングクさんは「ぶほっ」と吹き出したけど、すぐに『仮分数』の唇に戻った…
「おまたせしました。これぐらいあればよろしいですか?」
ニコニコとソッキュさんがライムを十個分ほど四つ切にしてくれた
さあ、準備オッケー
「イナさん。イナさんってば」
「…ふえ?」
「呆けてないで、テキーラ飲もうよ」
「…てきーら?」
「ん」
「おい、ラブ…。テキーラ、ストレートで飲む気か?」
「勿論」
「…イナはお子ちゃまだぞ…ヤバくないか?」
「やばいって?」
「潰れちゃう…」
「潰れたらテジュンさんの部屋まで送ればいいでしょ?おじさんが!」
「…僕が?!」
「そ!」
俺は戸惑っているおじさんをほったらかして、イナさんの右隣に座った
そしてチュニルさんが用意してくれたテキーラセットをイナさんの前に置いた
「…なに?」
「テキーラ飲むのよ」
「…おれはこれで…」
「つまんないじゃん!そんなカクテルばっかしじゃ…」
「つまんない?」
「いい?見てて」
俺はライムの四つ切を左手の親指と人差し指で持ち、親指の付け根に塩を置き
右手にテキーラを注いだショットグラスを持ち、構える
「行くよ!」
そしてライムに齧りつき、塩を舐め、テキーラを流し込む
しゅっぱぁぁぁぃっ!
「ぶ・くっ…」
成功…
イナさんは俺のすっぱそうな顔を見て頬をブッと膨らまし、吹き出しそうになった
「はーっ!ひーひー…んまいっ!」
「うまいの?」
「ん!口の中で作るカクテルって感じかな?」
「ふうん」
「イナさんもやってみなよ」
「じゃ、僕もやろうかな」
「おじさんはイナさんの後!」
「なんで?」
「一人ずつやんの!」
「だからなんでよ?」
「でないと、面白い顔が見れないじゃんか!」
「…あ…なーる…」
おじさんはぽっかり口を開けたまま頷いた
イナさんはライムを持ち、塩を乗せ、俺が注いだテキーラのショットグラスを右手に持った
「いくじょ!カプ!ぎいいいっしゅっぺっ!ぺろっ…ひひん…ゴクッ…うっぺーええええっしゅっぺーえええっひいいん…」
「くは…あはははあははは、イナさんの顔!ひひひひいひい…」
「…ほんとら…刺激的でうまいなぁ…楽しい…」
「でしょ?おじさんもやってみなよ」
「…」
「どした?」
「…気が進まないけどやってみる…」
おじさんがライムや塩をセットしている間に、俺はイナさんに耳打ちした
「ねぇねぇ、見ものだよ…おじさんの『しゅっぱい』顔…」
「お…おうっ!」
俺たちはおじさんをじいっと見つめた
ライムを齧る、塩を舐める、ゴクッとテキーラを飲む!
「うっかああああっすっぱぁぁぁぁっきょええええっ」
「「…」」
「ひひーひひーはあはあ…」
ペロンと出した舌がエロティックだ…
面白いし…
イナさんと俺は、顔を見合わせて吹き出した
ライムと塩のセットで何杯か順番に飲んで、一人ずつのすっぱい顔に何度も笑った
ミンギくんがストローハットを持ってきた
「お楽しみはこれからですよ」
そう言ってイナさんにウインクした
テキーラ・ボンバー ぴかろん
「ソンブレロはないからこれで代用」
「ライムまだあるの?」
「レモンでいいでしょ?」
「ん。おっけ」
「んじゃ…始めますか…」
そう言うとミンギ君はカウンターからこちら側に出てきた
カウンターの中のおじさんウエイターたちは、なんだかニヤニヤしている
ソッキュさんが大急ぎでレモンの四つ切を作り始めた
ショットグラスにテキーラを少し入れ、炭酸を注ぐミンギ君
注ぎ終わりラブになにやら合図している
ぱさっ
え?
僕にストローハットが被せられた
なに?
「「いぇ〜いへいへい〜」」
ミンギ君とラブが嬉しそうに叫び、僕の口をラブの指がこじ開ける
なによ!キスかよ!
こじ開けられた僕の口の中に、レモンが絞り込まれ、続けざまにミンギ君が、混ぜたテキーラソーダを流し込む
ラブが僕の口を閉じ、二人が僕の頭を揺さぶる
げげぇっ
目がまわっちゃううう…
10回ほど揺さぶられて最後にあごをクイッと上に向けられ、僕は口の中の液体を飲み込んだ
ひいいいっ
「あにすっだよ…」
「「あはははあはははは」」
「ラブちゃん!次!」
「あいよっ」
僕に被せられていたストローハットがイナの頭に移る
「あにっ?!」
「おじさん、ボケっとしてないでイナさん押さえて!」
「あ…あい…」
「「へいへいへーい」」
ミンギ君がテキーラと炭酸をショットグラスに注ぎ、ラブに合図してそのグラスを手のひらで押さえて膝に打ちつける
ショットグラスの炭酸が溢れそうになる
ラブがレモン汁を絞り込んだイナの口に、すぐさまその良く混ざった液体をミンギ君が流し込む
そして口を閉じさせてイナの頭をシェイク
二人とも悪魔のような微笑をたたえている
僕もシェイクした
楽しい…ふふ…
たのし〜
「ひいんひいいん」
イナが涙目でテキーラを飲み込んだ
「ひどいじょ…」
「「「あはははははは」」」
ミンギ君は今度は僕に目で合図した
ラブ?
ミンギ君はイナの頭のストローハットをラブに移した
「えっ?俺はレモンセッターで…」
「だ〜め!逃げられないの!ギョンジンさん!押さえて!」
「おうっ!」
「おれれもんしぼりゅっ!」
「あっやだっミンギくんったすけてっ!」
「「「いひひひひひ」」」
三人がかりでラブをシェイクした
「あひ〜ん…フラフラになるううう…」
「「「ひひひひ」」」
「くそっ!ミンギだって!」
次はミンギ君の番だ
ラブがテキーラの炭酸割り担当になってまた三人でシェイク
「くわ〜っ…ヤバい〜」
「「「あははははは」」」
ひとしきり大笑いした
「ココだけで楽しんでちゃダメですよ…テキーラはまだまだありますから…いってらっしゃい」
チュニルさんに言われて僕らはみんなに一杯ずつこいつをお見舞いすることにした
「テキーラ・ボンバーって飲み方なんだ。みんなで盛り上がるのに最適」
ミンギ君が嬉しそうに言った
「じゃ、カウンターからいくか…」
「「「おうっ!」」」
僕達テキーラ・ボンバー隊は、ボンバーセットをワゴンに乗せて、皆のところを行商に行った
シェイクされたので恥ずかしさや気後れなんてのが飛んでいってしまってた…
(ご参考(^^;;)
テキーラの粋な楽しみ方
1.小さめのグラスにテキーラを1/3注ぐ
2.ソーダを2/3入れていっぱいにする
3.レモンを半分に切る
4.大勢の中から1人を選び、3人ぐらいで取り囲む(他の人は拍手”パチパチパチ”)
5.選ばれた人にソンブレロとポンチョを着せる(用意できれば)
6.選ばれた人は、テキーラのグラスを手のひらでかぶせるように持ち、
中身がよく混ざるように持ち上げグラスの底をテーブルに打ち付ける
7.1人が、選ばれた人の口の中にレモンを絞り込む
8.選ばれた人は、テキーラを一気に飲み干す
9.もう1人が、選ばれた人の口を手でふさぎながら、頭を持って激しくゆさぶる(10回くらい)
10.みんなで盛り上がる
または
相手にテキーラを「一気のみ」させる。ポイントは、自分で飲むのではなく、相手に飲ませる
まず、テキーラ・グラスの下から1/4程度までテキーラを注ぎ、その上からに炭酸水を加える
そして、テキーラ・グラスの口を手で塞ぎ、そのまま、思いっきり膝でたたく
そうすると、テキーラと炭酸水がシェイクされるとともに、炭酸水がふられたため、ものすごい勢いで液体が吹きこぼれてくる
それを相手に口の中に一気に流しこむ。標的になった相手にとって、既に液体は吹きこぼれて始めているため、服を汚さないためには、
口を開け、テキーラを飲まざるを得ない
(テキーラボンバーはテキーラがなくなるまで永遠続く…飲みたくない人は、誰かがセットしているのを見つけたら、すぐ逃げるべし)
行商 テキーラ・ボンバーズ ぴかろん
テキーラ・ボンバーズの俺たちは、全員にテキーラ・ボンバーをお見舞いするべく行商を始めた
ワゴンを押すおじさん
ストローハットをニヤニヤしながら持ち歩くイナさん
どこからかマラカスを持ち出してきたミンギ
そして俺
カウンター席から順に行く
俺達の少し先にいたチェミテスの二人にボンバーイェ〜!
「なにぃ〜僕達お酒の追加頼みにきただけなのにぃ〜」
「ここで会ったが百年目なんだよ!ほいっ!」
まずはテス君
カウンターに座っていたわけではないのだ
白夜チームのボックス席の注文を、親切にもカウンターまで伝えにきただけなのに…
有無を言わさずストローハットを被せるイナさん…
意地悪だな…
そのとき、奥のボックス席にいたマイケルさんが立ち上がり、俺たちに
「逃げないから待ってて!」
と意味不明の言葉を残してラウンジから走り去った
「…何あれ?」
「…逃げてンじゃん?」
「まあいいかフフフ」
テス君はチェミさんをうるうる見つめてたけど
チェミさんが顎でクイッと『やれ』の合図をしたので決心がついたようだ
周りのみんなが囃し立てる
ミンギがマラカスをシャカシャカならす
イナさんがレモンを絞り、俺がテキーラソーダを叩きつけてテスさんの口に流し込む
「「いぇ〜」」
テスさんの頭は、当然チェミさんがシェイクしている
チェミさん、めちゃくちゃ嬉しそうな顔…
クイっと最後の仕上げで顎をあげ、ついでにテスさんの唇にチュッだもん…
でっれでれの顔になってる…
いいなぁ…テスさんぐったりしてチェミさんの胸に凭れかかってる…いいなぁ…
イナさんがチェミさんにストローハットを被せる
今度はテスさんが張りきった
チェミさんはニコニコとレモン汁とテキーラソーダを受け、嬉しそうに口を閉じた
テスさんがチェミさんをシェイクする
力が足りない…っていうか…大きいから…えへへ…
チェミさんは自分で首を振ってた…あはは…
ゴックンしてテスさんに唇突き出してる
テスさんはくりいむぱんでその唇を『くりいむぱ〜んち』
大拍手〜
次のターゲットはテジンさんとテソンさん
テジンさんにストローハットを被せると、首を横に振ってダメだよって顔をした
隣のテソンさんがテジンさんを羽交い絞めにして笑ってる
テソンさんの笑顔ってめったに見ないから貴重だなぁ
こんなに明るく笑う人だったんだ…
「スハ!来いよ!」
テソンさんが大きな声でボックス席にいるスハ先生を呼んだ
スハ先生ははにかんで立ち上がり、恥ずかしそうにしながらも、テジンさんの後ろに立ってその頭をがっちり掴んだ
「すはっ!裏切り者ぉぉぉ」
「くはは」
なんだかいい感じ…
楽しそうに頭をシェイクしている
「うううう〜きくぅぅ」
「「はははは」」
「スハ!お前もやれっ!」
テジンさんがはじけるような笑顔でスハさんを捕まえ、テソンさんがストローハットをその頭に乗せる
嬉しそうにシェイクされるスハ先生
楽しいね…
ふとおじさんを見ると顔が強張っている
あ…まだ許してもらってないんだ…
俺はおじさんの方に手を伸ばし、そっとその手を握った
テソンさんはストローハットを自分の隣の席にいたソンジェさんに被せた
「「ずるいっテソン!」」
「僕は後で!」
「絶対やれよ!」
ボンバーズはソンジェさんのところに移動
ミンギとイナさんがボンバーやってくれてた
おじさんはスハさんとテジンさんの前に立って頭を下げた
「…あ…」
「お二人にちゃんと謝りたかったんです…すみませんでした…」
「…。さっきは…ごめんなさい…。僕、イライラしてたもので…。貴方が謝りに来てくれたって言うのに失礼な事してしまって…」
「いえ…元はといえば僕が悪いんです。すみませんでした。テジンさんも…ご迷惑おかけしました…」
「よかったね」
「…え?」
「すっかりキレイになったみたい」
「…そう…でしょうか…」
「うん。…来るんでしょ?BHC」
「…行ってもいいんでしょうか」
「大歓迎。頑張ってね」
「…ありがとうございます…」
「それとぉ…」
「はい?」
「ラブ君の事…しあわせにしてあげて。それで過去の罪は償えると思うし、貴方自身もきっとしあわせになれるよ…」
「…はい…」
俺はテジンさんとおじさんの会話を聞いていた
テジンさんはスハさんをちらっと見ながらにっこり微笑んでおじさんに言葉を告げていた…
優しいな…俺の事まで気にしてくれてる…
ボンバーズの攻撃は、ソンジェさんの隣のサンヒョク君に移っていた
「あれっもうチーフの弟さん終わったの?」
「ああ…飲ませるの、大変…。『君、手は洗ったの?そのレモン、農薬使ってない?首の筋が違ったら責任は誰がとるの?服を汚さないでね!
僕は元医学部だったんだ、下手に頭を振って僕の脳をこわさないでよ!ああっサンヒョク、君、僕の頭振る係?!いいと思ってるの?!
歌手やレースの先輩でもある僕にそんなげふっ』って…ね?イナさん…」
「そ。んでさ、頭シェイクしたら、ほっぺたがブルンブルンしてさ…。口角下がってるだろ?口の中から液体が漏れてきた…」
「…」
「何してるのさ!僕のときはさっさとやったじゃない!はやくサンヒョクにもやってよ!待ってるだろ?サンヒョクが!ねぇサンヒョク?」
「…わん…」
「かわいそうに…すっごく嫌そうだなぁ…」
イナさんはそういいながら嬉しそうな顔をしてレモンを絞った
行商 テキーラ・ボンバーズ2 ぴかろん
サンヒョクさんの頭を思いっきり揺すっていたソンジェさん
サンヒョクさんの脳やら首筋やらの責任は…ソンジェさんが取るんだろうね
その隣にいたマフラーを巻いたミニョンさんは、そっと微笑み掌を俺たちに向けてボンバー拒否をした
「何気取ってンすか!こういう時に参加しないから理事は嫌がられるンすよ!はいはいはい、口あけて、あーん。ほれっ」
キム次長のおかげでミニョンさんもボンバー参加
口閉じさせて頭を揺するキム次長
マフラーをひっぱるサンヒョクさん…
ごっくんし終わったあともあの微笑みを絶やさないミニョンさん…家族の期待に応えた…のかな?
次はキム次長
この人はノリがいいからなんだかんだ喋りながら自分でレモン絞って自分の膝でテキーラソーダ作って
自分で流し込んで自分でタテノリシェイクして
「キュ〜」
なんて古い擬音で倒れこんだ
「次、行ってみよう…う…」
張り切っていたイナさんが突然固まった
そして涙を一筋流した
「…どうしたの?イナさん…」
そう聞いた俺の腕をおじさんが引っ張った
ふと顔をあげるとテジュンさん…じゃなくてテジュンさんそっくりのソクさんがいたんだ…
あちゃぁ…思い出したってこと?
元気になってたのに…
「ぶぁかっ!こんなとこできしゅしてんじゃねぇよっぐしゅっ」
ぺちん☆とソクさんの頭を叩いてイナさんはストローハットをソクさんに被せた
それでもソクさんはスヒョクの唇から離れない
スヒョクは皆を気にして一生懸命ソクさんの肩を押しているというのに…まったく…ジジイはしつこい…
「んもっ!てじゅにしょっくりな顔して濃厚なチュウしてんじゃねぇよっ!」
イナさんは泣きながら叫んだ
俺はおじさんの顔を見てみた
おじさんは笑いを堪えていた
そうだよね、こういうところが可愛いんだよね、おじさん的にも一般的にもさ…
ようやく離れたソクさんはブツブツ言いながらイナさんを睨んだ
イナさんも涙目でソクさんを睨んでいる
スヒョクがソクさんの腕を羽交い絞めにし、ニコニコ笑っている
イナさんはソクさんの口に手をかけそして
あああっ!
キスしてんの!
スヒョクの顔色が変わった
そしてイナさんの後頭部に張り手を入れた
スヒョクが涙目…
イナさんは頭を押さえてしゃがみこむ
…
スヒョクには悪いんだけど…笑っちゃった…
おじさんも…クスクス笑ってる
スヒョクが俺を睨んだ
ごめん…ごめんって…だって漫画みたいなんだもん…
スヒョクは俺の方に来て言った
「ラブのばか!笑い事じゃないよ!お前だってこんな事されてみろよ!頭にくるだろ?!」
「…え…」
俺はちらっとおじさんを見て、それからスヒョクの顔を見た
「俺…慣れてるけど…」
「慣れてるって…そんな…」
「…」
スヒョクはまじまじと俺の顔を見つめた
「慣れるなんておかしいよな…ごめん。笑い事じゃない。ごめん」
「…俺こそ…。お前みたいに冗談で受け止められたらいいんだけど…俺…」
真剣なんだ…
スヒョクは小さな声で付け足して俯いた
いつの間にかそんなに好きになってたんだ…
俺は微笑んでスヒョクの肩をポンと叩き、イナさんを立たせて俺のいたところに連れて行き
俺はソクさんの後方にまわって羽交い絞めした
ミンギに合図し、スヒョクにレモンを持つように言った
スヒョクはソクさんの口をこじ開けその中にレモンを絞った
嬉しそうな顔…
ミンギが液体を流し込み、スヒョクはソクさんの頭をシェイクする
そしてゴックンさせると同時に唇を塞いでいた
間近で見るスヒョクのキスは結構激しかった
ソクさんはそのまんま器用に立ち上がってスヒョクを座らせ、キスしたまんまレモンを取り
ミンギに合図を送ってスヒョクから唇を離した途端、
半開きのスヒョクの口の中にレモンを絞った
ミンギが液体を流し込み、スヒョクのシェイクが始まった
ソクさんも楽しそうだ
仕上げに顎を上げてごっくんさせてからまたキスだよ…
そのまんま俺たちに、バイバイなのかあっちへ行けなのかわからないような手の振り方をした
イナさんは二人を睨みつけながらおじさんの斜め前を歩いていた
次はボックス席
ピッカピカのシゲッキーとヨンジュンさんのところについたとき
さっき逃げていったマイケルさんがハアハアいいながら帰ってきた
「ままま間に合ったぁ!はいっこれ!」
とシゲッキーにピッカピカのソンブレロを被せた
「何?!どうしたのこれ?!」
「はあはあわっはああわれっはあはあひいだとひいおもっひい」
「なんじゃ、マイキー。ちょっと走ったぐらいで息切れか?!ワシが説明しよう。そもそもワシラはデ・ラルスじゃ
ワシラに言えばソンブレロの一つや二ついくらでも貸してしんぜるというに!たわけもののうつけもの!…
あ、これ、マイキーが言ってると思ってくれ」
「はあひいかいちょひいそれはなかとですひいひい」
「ほれの?マイキーがせっかく部屋から持ってきてくれたんじゃ。使ってくれい。ふたぁつもあるぞい!」
トファンさんがそういうので、お言葉に甘えてデラルスのソンブレロを借りることにした
ミラーマンなヨンジュン&シゲッキーの二人には、デラルスのソンブレロが良く似合う
なんの違和感もない
2つ持ってきてくれてよかった…
二人とも背が高いので、中腰になってもらった
無理矢理あけなくてもノリのいい二人は、二人同時に口をあーんとあけた…
俺とミンギは片手にレモン、片手にテキーラをセットしておいて、二人に同時にレモンとテキーラを注ぎ込む
口を閉じてスックと立ち上がった二人はにっこり笑いあって腰を揺さぶりながらダンス
そしてお互いの頭を掴み、激しく揺さぶりあっている
決して笑顔を崩さない
揺さぶりあっている二人の顔は、同じに見える
すごい…
ステップを踏みながらのヘッドバンギングである…
ボンバーズだけでなく、周りの人たちみんな、固唾をのんで見守っている
二人は同時に天を仰ぎ、両手を真横に広げてポーズを決めた
指先から足のつま先まで全くスキなし!
素晴らしい!
一斉にヤンヤの声と拍手が起こった
二人はにっこり微笑み、皆に手を振っていた
ミンギと俺はソンブレロを回収し(背が高いからちょっと飛び上がって取った…)次のボックス席を見た
舌なめずりをして待っている獣のような女が二人…いや二頭…
俺達を挑発しているらしいけど、どんだけテンパッている男でもきっとシオシオに萎えてしまうであろうぐらい
おどろおどろしいオーラを撒き散らしている
こう言う時はどうすればいいんだ…抜かしてもいいのかな…こわいよう〜
アナザ・インサイド・ストーリィ・アト・ザ・ウィンドウ・シート オリーさん
僕はラウンジの入口が見える場所に座っていたから、
あの二人が入ってきたのが見えた
人ごみに紛れたってあの二人はとても目立つ
ステージのスポットライト浴びてるみたいに
そこだけキラキラ輝くんだ
口惜しいけど…
そしたらギョンビンの声が飛び込んできた
「……つもり?」
何だって?
今何て言った?
ギョンビンの顔を振り返ると、
あいつったら空のグラス握りしめて僕をじっと見てた
しばらくあいつの顔を眺めてた
何てこと聞いてくれるのさ
たった今、あんなツーショット見たばかりなのに…
そしたらあいつ、もう自分は決めてるって言い出した
どうすんだよ、またどっかへ逃亡か?
「……に行くつもり」
戻ってこなくてもそばにいるつもりって
ギョンビン…
やめろよ、そういう言い方
僕の涙腺弱いの知ってるんだろ、ちくしょう
ついありきたりの言葉が出ちゃったじゃないか
辛くないのか、なんて
あいつはスっと視線をはずすと窓の外を見るふりをした
でもって、どうしてもあの狐じゃないとだめだって
ほんとはこんなこと言う奴じゃないから、正直まいった
でもちょっと羨ましくなった
そこまで言えるのかよ、
この複雑なスクエアの一角にいる僕にまで
でもって狐がつらいとか言い出したらどこかへって…
そんなことないってば、ないよ
でも、もし、もしそうなったら狐の言いそうなことでもある
僕はただギョンビンの横顔をじっと見つめるしかなかった
そのくっきりとした端正な横顔を
あいつってば、よく見るとかっこいいよな
顎の線とかシャープだし、案外睫長いし、
刈り上げた髪が知的な雰囲気でさ…
ちぇっ、狐にはもったいないかもしれないぜ
その時だった
あの二人がふぅっと連れ立って出て行った
まるで一枚の絵のように完璧なシルエットで
僕らがまだ届かない大人のシルエット…
いや、僕だって、カッコよくてイケてるのは当然だし
何より、若くてこれからが登り坂さ
そうさ、ギョンビン、僕らだって負けてられるかよ
僕は大きく深呼吸した
ドンジュン、ここは一発景気つける場面ぜって
そしてギョンビンに向かって言ってやったんだ
あいつ、振り返ってえっていう顔した
あったりまえじゃんか、お前ひとりに
そんなことさせるかよっての、ヘン!
あいつったら、照れたようなはにかんだような笑顔を見せた
僕があいつの恋人だったら、ペロペロしたくなるような笑顔だったな
なんだかんだ言っても、僕達友達だよな
たぶん僕だったから聞いたんだろ、言ったんだろ
わかってるよ…でも口に出さなくていいだろ
かわりに言った
「飲みなよ」って
何事もひとりじゃないって案外いいかもね
あいつも僕についでくれた
僕らは色んな話して飲みまくった
サービスであの雪山修行の話なんかしてやろうと思ってたら
イナさんに首根っこを押さえられた
ばっちり御馳走してやるからなって
わかったよ、
雪山の話はまたあとでな
行商 テキーラ・ボンバーズ3 ぴかろん
カン・ミヒとヤン・ミミの魔女コンビに足が竦んだ俺とミンギを見て、おじさんが前に出た
おじさんっ!大丈夫なの?!妖怪だよっ!いくら女性が得意っつったってこの二人は化け物なんだよっ!
「失礼。レディの方にはこんな野蛮な飲み方、させられません」
「ああらぁん…素敵な紳士ちゃんじゃなぁい?ちょっとそのスーツ脱いでみなぁい?」
「レディの前でそんな事。お美しいお二人のおぐしを乱すような真似、僕達には出来かねます。お二人にはこれを…」
おじさんは二人の妖怪の前に、ソフトクリームを置いた
かなり巨大なシロモノだ
「こちらを、手を使わずにお口だけでクリアしてください。最後まで食べられたらその時、お二人はきっと…」
そこまで言っておじさんは二人の妖怪の耳元に何か囁いていた
「んまあっふむっふむっ。アタクシがやり遂げてみせるわっ!」
「なによっそういうことはアタクシの方がうまいわっ!ふむっふむっ!」
妖怪をやり過ごして俺たちはトファンさんとマイケルさんにそっとソンブレロを被せた
「お役に立ちますかな?ソンブレロは…」
「我々のソンブレロには『荒波』のスパンコール刺繍が入っております!」
「…素敵ですね…」
妖怪をやり過ごした関係で、ボンバーズの先頭に立ったおじさんがトファンさんとマイケルさんの相手をする羽目になった…
結構人あしらいうまいんじゃん、おじさん…
でもあの妖怪たちに何言ったんだろう…
ソンブレロ自慢をしている二人をイナさんとミンギに任せて、俺はおじさんをつついた
「ねぇ…あの妖怪たちに何言ったのさ。あのソフトクリームなんなのさ」
「あれはね…ごにょごにょ…」
俺は顔が真っ赤になった
おじさんの顔を見るとニヤニヤといやらしい顔をして笑ってる
「ばかっ!」
「くふふふ…お前も練習しなよ…くははは」
ああっもうっ聞かなきゃよかった!けほんこほん
そんな練習なら俺よりイナさんがしたらいいんだよ!テジュンさん喜ぶよきっと!ばかっ!
それにしてもあの妖怪おばばたち…真剣だ…
見ないほうがいい
怖い…
イナさんとミンギがトファンさんとマイケルさんをシェィクしている
こちらも二人同時だ
なんというか…すごい…
濃い二人がブルンブルン揺さぶられているのって…迫力だ…
ごっくんして終わり
二人はわははははあはははと甲高い声で笑っている
でも顔色が悪い
マイケルさんなんか、ソンブレロとって来たばかりでハアハアしてたしな…
大丈夫かな…揺すりすぎだよイナさんとミンギは…
「いや、楽しかった。ありがとう」
青い顔で礼を言い、マイケルさんとトファンさんがソンブレロを返してくれた
あっ!やばっ!
俺は慌ててトファンさんのところに飛んでってもう一度ソンブレロを被せた
「なんじゃな?」
「いえっ、『髪の毛』が引っかかってたのでっ!」
「おお、そうかの…すまんのう」
トファンさんはにこにこ笑って俺に礼を言った
俺は慎重にソンブレロを取り、トファンさんの「髪の毛」に異常はないかを確かめた
おっけ…
ふと見上げるとイナさんとミンギ君がほくそ笑んでる
俺は二人のそばに行って囁いた
「もうちょっと手加減してやんなよぉ危ないじゃん色々な意味で…」
「「いーんだよ。なっ」」
二人は声を揃えて言った
なんでそんなに仲良し?
「「オールインでは酷い目にあわされたんだもん。なーっ」」
ああ…そう言う事…
俺がさっきの妖怪女Aにべたべた触られたってのと同じような感じね…ふーん
その横に、白夜チームがいた
チェミさんとテスさんはさっき飲んで貰ったからいいとして、えーっとこの人、デラルスに入ったんじゃなかったっけ?
リマリオさん…
「デラルスの方ですよね?」
「いえ…僕、臨時デラルスで…。祭が終わったら僕は白夜倶楽部に行くんです!連れて行ってもらうんですっ!」
リマリオさんはちょっと涙目でそう言った
イナさんが有無を言わさずソンブレロを被せる
「アンタ、これめちゃくちゃ似合うぜ。デラルスにいたほうがいいんじゃねぇのぉ?」
意地悪く言うと、リマリオさんは唇を噛みしめてイナさんを睨んだ
隣にいたピョートルさんが微笑んで、リマリオさんの肩をそっと叩いた
こちらも二人同時にテキーラ・ボンバーだ
イナさんはすっかり楽しんでいる
ちらっとソクさんを見たら、スヒョクとずううっと何か囁きあってはキスしてるし…
時計見まくってるし…
部屋に帰りたい?
…スヒョク…危うし!
って
俺だって部屋に帰れば…(おじさんの部屋だけど…)『危うし!』だ…
妖怪女たちに目をやると、手を使わずソフトクリームをやっつけている
…俺も練習した方がいいんだろうか…
「見るんじゃないよ、あんなもの。参考にもなりゃしないから」
おじさんが耳元で囁いた
くすぐったいな、もう…
「お前なら練習なしでも上手だよ、きっと」
!
もうっ!!
俺はほっぺたを膨らませておじさんから顔を背けた
ピョートルさんとリマリオさんはシェイクされてちょっと髪が乱れてた
そんなピョートルさんの髪を、隣の『彼』が手櫛で直してあげていた
いい感じ…
ソンブレロがユリキムさんとスンドン会長に被せられた
オ・ギョモ様がレモン絞りを買って出た
物凄く嬉しそうな顔をしている
二人に同時にレモンを絞り、イナさんとミンギ君が液体を注ぐ
オ・ギョモ様はユリキムさんをシェイク
イナさんがスンドン会長をシェイクしようとしてたら、トファンさんがそうっとやってきて、シェイクしはじめた
ごっくんし終わり、ソンブレロを外し、トファンさんがスンドン会長の頭のてっぺんをテンテンと触ってほやぁ〜っと笑った
ははぁ〜
トファンさん、スンドン会長のひよこ頭を触りたかったんだ…すっごく幸せそう…
俺もちょっと触りたくなったので、そおっと触ってみた
ほやぁ〜
トファンさんと顔を見合わせ、満ち足りた微笑を交わした
しあわせ〜な手触りだ…
それからオ・ギョモ様にソンブレロを被せた
スンドン会長がレモンセッター、ユリキムさんがシェイカーで、イナさんが液体を注ぎ込む
シェイクされている間、地震かと思うぐらい床が揺れた
オ・ギョモ様は大喜びで
「宮中でもこれをしたい!」
なんて言っている
「ヌナは?!」
ミンギはmayoさんを捜しているみたいだ
テソンさんが
「mayoは下戸だからダメ!逃げた!そのかわり僕が飲む」
と言ったのだが、ミンギは疑わしい顔をしてソンブレロ片手にあちこち捜している
「一杯ぐらい飲ませたいのにぃ〜ヌナ〜」
「いないんだよ!ここには!」
テソンさんの口元は引きつってるよ…
テソンさんはソンブレロを取り上げ、ミンギにあーんと自分の口を開けた
ミンギはその大きさにぎょっとした顔をしたけど、苦笑いして
「ヌナぁ!聞いてるぅ?聞いてないぃ?どっちでもいいけどぉ!後で飲んでよ!薄目につくるからさぁ」
と叫び、イナさんに合図してテソンさんの口でテキーラカクテルを作った
mayoさん、どこに行ったんだろう…
その森へ 3 足バンさん
スヒョンのくちづけはシルクのように柔らかかった
壊れものに触れるように僕の唇を優しく丹念に吸う
しかしそれ以上は踏み入ってこなかった
唐突に唇が離され僕は吐息の行き場を失った
スヒョンは頬に指を滑らせ親指でゆっくりと僕の唇をなぞる
僕は黙って僕の唇を見つめるその目を見ていた
「少しは好きでいてくれたの?」
今度は答えなくてはいけないと…
正直に伝えなくてはいけないと思った
僕の頬に添えられている右手にそっと手を重ねる
「スヒョン…僕は…おまえのその優しさにずっと甘えてきた」
「うん…?」
「何度も…何度も癒されてきた」
「うん…」
「その…存在が大きすぎて気づかなかった」
ミンチョルは視線を落とし何度か唾を飲み込みそしてまた僕を見た
その瞳はいつだったか僕を頼って来たときのように潤んでいた
「その…うまく言えないが…」
「…」
「すきだよ…大切な人だ」
いつも涼しげなスヒョンの瞳がはじめてはっきりと濃い色を帯び
自信に満ちている口元がはじめて小さく震えた
僕は、やっと口にできたそのひとことが
スヒョンにとってどれほど大きな意味を持つのかを思い知った
彼は僕に触れていた手をはずすと目を伏せた
「ありがとう…そのひとことでもう十分だ」
長い間身体に取り巻いていた見えない霧がすいと消えたようだった
枝を広げて守ってきた美しい木は僕の存在に気づいてくれていた
気づいてほしいなんて思ったことなどないのに…
…そう言ったら嘘になるか
でも…そう…すべてが報われたような気持ちだった
「スヒョン…」
スヒョンはしばらくの間俯いてしまっていた
どう声をかけていいのか戸惑っていると
彼はいきなり顔を上げ穏やかな目でにこりと笑った
そして立ち上がると僕に両手を差し出した
「もう一度だけ」
「なに?」
「ダンス」
スヒョンは一瞬躊躇している僕の手からグラスを取り上げて置くと
腕を強く引っぱり立ち上がらせた
笑顔で腕を差し出し、すっと背筋を伸ばす
僕は仕方なくその左手を掴み肩に手を添えた
「こんななりじゃサマにならないかな」
僕たちはヴィラからこぼれる僅かなひかりを背にもう一度ワルツを踊った
手入れの行き届いた芝の上でステップを踏む
ふたりの中で”人知れぬ涙”がおごそかに流れ
タキシード姿の僕たちが静かに蘇る
観客のいないその舞台は遥か彼方のソウルの町の灯に繋がっていた
静寂の中、時折ひかりに照らされるミンチョルの顔は穏やかで美しかった
もうどこかに隠れてしまおうなんて思わない?
僕はやはりそういう穏やかなおまえの顔が一番好きだ
「次はタンゴ?」
そう聞いたミンチョルの手をはずし僕はその腰を抱き寄せた
「いや”ジェラシー”はもういい」
僕はその言葉に苦笑した
スヒョンの首に手を回してチークの形になり肩に頬をあずけた
スヒョンのぬくもりに抱かれゆっくりと踊る
庭をさらさらと心地よい風が通り抜け
ひかりにつつまれた舞台が懐かしく感じられる
僕はあのときスヒョンにおとした耳下へのキスを思い出した
きっと僕のそんな気持ちを読んだんだろう
足を止め頭を起こす僕の目をおかしそうに覗き込むスヒョン
スヒョンがその抱きしめた腕に力を入れると
それを合図にしたかのように僕たちはくちづけを交わした
今度は先ほどのような柔らかいくちづけではなかった
開かれた口が隙間なく合わされ舌が絡む
背中に回された手が僕の頭をつかみ強く押さえつけた
僕は息もつけぬその激しいくちづけにただ夢中で応じた
闇夜..最後の仕事..one 妄想省mayoさん
ひとりになったのは最後の仕事が残っていたから..
打ち上げが終わる前に..朝になる前に..終わらせたい仕事があったから..
その後で...気持ちを整理したかったから..
~~~
ラウンジを出たあと..フロントに寄って明日の朝依頼した物の確認をする..
「承っておりますよ^_^..」
フロントの返事に安心し..もう一つ依頼したいことを伝える..
フロントの影から若い男が出て来た..
「いいですよ..何時でもお待ちしてます..私がご一緒しましょう..」と笑顔で答えた..
部屋に戻り..すぐオーディオのスイッチを入れた..
迷ってテソンの好きな..♪Bossa Nova for Lvers の一枚をセットした..
キッチンの冷蔵庫から大瓶の緑のペリエのボトルを開け..
冷凍庫で冷やした極小さなグラスへ注ぐ..
テソンは炭酸のミネラルを飲まない..なのでこのボトルを開けることはない..絶対..
ボトルの中身は...京都の大吟醸..
女性蔵元の作ったそれはすっきりとして燐とした口当たりだ..
テソンが寝静まって毎日ちびちびと飲んでいたボトルの中身は
祭りがおわるのと同じく..さっき注いだので空になった..
テーブルに置いたままのスケッチブックを開き一枚一枚外し
スキャナーからPCに取り込む..PCが読込をすべて終わる間..
すべての絵を広げカップリングで組み合わせ..椅子に座りゆっくり眺めた..
~~~
★ミンチョル
左手は腰に当て..右手は前髪の中の額に当て.俯き加減..全身..ちょっとイタイ
★ギョンビン
ミンチョル後ろに立つ上半身構図..ミンチョル..顔でか
メッシュの頭を肩に引き寄せている後ろ姿の上半身構図
★スヒョン
ドンジュンと向かい合って2人で「ひ・み・つ」の構図
★ドンジュン
シャツ3個ボタンはずし..顔ちょい斜め..上目使い..上半身構図
★イナ
テーブルに右手を伸ばし顎を乗せ半開きの唇..上半身構図..
テジュンとち◎うの構図...テジュンの頬→きゅぅっとすぼまっている..上半身構図
★テプン
前傾姿勢股間押走...全身構図..
チェリムと腕組み..チェリムに振り向く..上半身構図
★シチュン
レストランにて..でかいパフェのグラス越しの上半身構図
中庭木の下にて..メイとのHUG..肩より上構図
★チョンマン
リハーサルにて..モップをマイク代わり..全身構図
チョンマンの肩にチニの手..上半身構図..身長ほぼ同じ..修正ありか..
★テジン
ブースにて..俯いて銀細工中...後ろに首の切れた背広の男..チャン理事か?
★スハ
正面・左右からの顔3種..正面しちさん..左右刈り上げ構図
★ラブ
ロビーを出るところ..チェーンの長いキーホルダーぐるぐる回す..全身構図
ギョンジンにボタンを外されている..上半身構図
★スヒョク
ソクに肩を抱かれ頭を寄せている..全身構図
ステージ袖を掴みステージ凝視の表情...上半身構図
★ウシク
リハーサルにて..薔薇の香りを嗅いでいる..全身構図
★イヌ
レストランにて..テーブルに左肘を付き..手のひらは口元と頬..上半身構図
★ジュンホ
中庭ベンチに座りノートに何かを書いている..全身構図
ベンチの上にことわざ辞典...辞書..
★ソヌ
帽子越しの向かって左の構図..頬に薄い傷跡アリ..肩より上構図
★ジホ
カメラを担いでレンズを覗く横顔..上半身構図
★ソヌ・ジホ・ミンギ・ウォニ
モニター前のジホ・ミンギ・ウォニ..後ろに立つソヌ..
天井裏からの構図と思われる..
~~~~~
*門外不出*スキャナーなし..原図保存
★ミンチョルを抱くスヒョン
幕間での例のHUG場面と思われる..
スヒョンの表情を捉えた構図..
ミンチョルの表情を捉えた構図..
*別宅用*スキャナーなし..原図保存
★テソン闇夜のデコにち◎う寸前...両者目を閉じている...上半身構図
★ちぇみテスてそまよ
ちぇみの懐にテス..テスを肩から抱くちぇみ..ちぇみの腕にぽちゃぽちゃのテスの手
隣に闇夜の肩を抱くテソン..テソンの腰に闇夜の手..正面全身構図
~~~~~
ふぅぅぅ…
見事な仕事ぶり..よくもまぁ...覗いたものだ..
空になったグラスを弄んでいるとPCの取り込みが終わった..
それぞれの絵を赤いA4版の封筒に入れ..
各封筒の右上に名前を書き..右下に
スゴハジョスムニダ..(ご苦労様)..と書いた..
いくつかの封筒を残し...封筒を抱えフロントに降りる..
フロントでさっきの彼が待っていた..
「じゃ..行きましょうか...」
「ぁの..」
「ぁ、ヒョンスでいいですよ..ベルボーイって皆言ってますから..いまだに」
「そうですか..ヒョンスさん..テジュンさんの送別会は..」
「さっき顔出してきました..これが終わったらまた顔出します..」
「す..すいません...^^;;..夜中に..」
「いえ..BHCの皆さんには楽しませていただきましたから..じゃ..行きましょうか」
「ぁ..はぃ..」
EVで2Fへ..
皆が打ち上げでいない間に各部屋へ封筒を置いていくことにしたのだ..
マスターキーでヒョンスが鍵を開ける..
ファミリールーム…シチュン・チョンマン・テプン
散らかり放題の部屋だ..ったぐ!もぉ〜!!..いろんな食い物の匂いがする..
テーブルにあった物をザザーっと払い..3人分の赤い封筒を置いて部屋を出る..
EVで3Fへ..
テジン部屋…テジンとスハの封筒を置いた
ジュンホ部屋…テーブルにあるジュンホのいつものノートの上に封筒を置いた
イヌ部屋…イヌとウシクの封筒を置いた
ウシク・スヒョン部屋…ん?..荷物あるし..スヒョンとドンジュンの封筒を置いた
スハ部屋…テジン部屋で済#
イナ・テス部屋…ほとんど使用無...パス#
ミンミンは…パス#
EVで7Fへ..
ソク部屋…スヒョクの封筒をベットに置いた
ギョンジン部屋…ラブの封筒をベットに置いた..
EVで1Fへ降りる..
ヒョンスにテジュンさんの部屋へ封筒を置くようにお願いした..イナの分だ..
フロントに礼を言って外へ出た..
ひんやりと風が頬を撫でる...いつものベンチで青白い月を見ていた..
ひときわ明るい☆がチカチカ光っていた..
右の耳はちぇみのマイク..左の耳はミンギのマイク..
両方からラウンジの音が聞こえてきた..
どっと疲れが出た..血の気が引いて来た..
ベンチに横になった..マイクの音が小さくなっていった..
行商 テキーラ・ボンバーズ4 ぴかろん
次にオールインの席
イナさんは旧友のサング、シボン、ヨンテ、テジュンさんと抱き合いながらそれぞれにレモンをもたせた
「順番に絞ってけよ。俺がテキーラ流し込んでやっから。そしたら思いっきりシェイクだ!」
「「「「おうっ」」」」
はじから順にソンブレロをリレーし、シェイクするときは四人でぐわああっとシェイクしていた
くいっと顎を上げるのはイナさんの役目らしい
四人とも笑顔で飲み干し、イナさんとそれぞれ抱き合っていた
友達が多いな…イナさんって…
その次はMUSAと男組の席だ
チンさんとサンドゥ親分が親しげに喋っている
その横で寡黙なヨソルさんがしきりに髪をいじくっている
それを横目で見ているのがジンソクさんで、その隣には…またチョコパイを頬張るガンホさんがいる
みんな無視しているが、みんなのいる前の席ではジョン将軍とドン隊長の熱い、いや暑苦しいラブシーンが延々と続いている
イナさんはチンさんにソンブレロを被せた
ボンバーしようとしていると、イナさんの服の裾をクイクイ引っ張る子供がいる
子供?!こんな時間に?!
「おやびん…こんなとこに紛れ込んでたの?オールインほったらかしかよ!」
イナさん…アンタ、そんな事言えないでしょうに…
サンドゥ親分は、チンさんと一緒にボンバーしたいらしかった
俺はもう一つのソンブレロをサンドゥ親分に被せた
「うっしゃ、行くぞ!」
イナさんが二人の口にレモンを絞り入れ、ミンギと俺がテキーラソーダを流し込む
チンさんはヨソルさんに…サンドゥ親分は…テスさんとそれからカウンターから飛び出してきたスングクさんに
めっちゃくちゃにシェイクされている
ヨソルさんは、サンドゥ親分の揺すられ方を見て、チンさんのシェイク加減を強めにした
でもすぐさま「金のスリッパ」でスパコォンを決められ、またシェイク加減を緩めた
ごっくん…
チンさんは満足げ
サンドゥ親分はフラフラと床に倒れこんだ
その隙に、テスさんとスングクさんは元の場所に逃げ帰った
次はヨソルさんとジンソクさんだ
並べてみると二人ともいい男だなぁ…
イナさんはじいっと二人を見て、小さな声でフンっと言った
なーにライバル心燃やしてんだろっ!しょうのない人だなぁ…
ヨソルさんはチンさんにシェイクされてる…というか…突っ立ってるからチンさん届かないし…
だからチンさんは髪の毛を引っ張って緩めてを繰り返し、ぐいっと引っ張って前のめりになった時に
ヨソルさんの頭をスパコンスパコンとスリッパで叩いていた…
ジンソクさんのシェイクはガンホさんがやった
ジンソクさんはチョコパイまみれのガンホさんの手を指さして、恐怖の瞳で抗議してたけど
ガンホさんには通じなかったみたいだ
ほっぺたにチョコがついてる…
それでもかっこいいんだからなぁ…
それからガンホさんの番
ソンブレロがちょっときつい?
きつそうに見えるだけかな?
イナさんがレモンを持ったと同時に、ガンホさんはチョコパイをもう一個食べた…
イナさんは小さく舌鼓を打ち、はやくしろよと呟いた
ガンホさんの目が一瞬鋭く光ったが、すぐにニヤっと笑い、あーんと口を開けた
イナさんは目をひん剥いて
「ここにレモン絞ンのかよ!」
と言いながら、条件反射のようにレモン汁をチョコパイの上に振りかけていた
「ぐえええ…しらねぇぞ!」
そう言って顔を背けたイナさんの横を通り、ミンギがテキーラを流し込む
シェイカーがいない…
「ラブ!やれよ!」
え…俺?!
恐る恐るガンホさんの頭を揺らした
ガンホさんは最初ニコニコしていたけれど、段々と怖ろしい形相になり
液体をごっくんしたあと、口の中からチョコパイをげろん…と出した…
「まじゅい〜」
そう言ってから、またチョコパイを口に入れた
ちょっと気持ち悪かったので後ろを向くと、おじさんが俺を見つめていた
なによ…
なに見てるのよ…
おじさんは突然、俺を引き寄せてキスをした
「なに!なに急に…」
「さっきキスしてから1時間過ぎただろ?」
…2時間ぐらいは我慢しろよ!イナさんもいるってのに…
俺はおじさんを押しのけ、おじさんから顔を背けた
「ラブぅ〜…部屋に行きたいよぉ〜」
ばか!
こども!
俺はおじさんのわがままだだこねを無視した
行商 テキーラ・ボンバーズ5 ぴかろん
俺がプイっとそっぽを向いたら、おじさんはがっくり項垂れてた
あはは
かわいいな…
部屋に帰りたいって…
それって…
俺!危うし!
スヒョクは?!
ん?
ソクさんと連れ立って出て行くじゃん!
いっ…いよいよ?!
俺はちょっと気になったのでスヒョクを呼び止めて手招きした
ソクさんが不服そうな顔をした
もうっ!
ジジイは我慢がきかねぇっつーの、ホントだなっ!
「なに?」
「…どこいくの?」
「え?トイレだけど…」
「…トイレ?トイレに二人で?!」
「うん」
まさかトイレで…
「なんで?」
「…スヒョク…お前…その…ソクさんと…まだ…アレだよな?」
「アレって?」
「…だからその…ごにょ」
「まだだよ」
こいつ、すっきりと答えるな…
「なんで?」
「と…トイレに何しにいくの?」
「おしっこ」
「…それだけ?」
「…『大』もしろって言うの?」
「いや…ごめん…いってらっしゃい…」
「変なの!ラブったら…」
「ごめん…」
スヒョクはニコッと笑ってソクさんのとこへ戻ってった
おじさんが俺を見ていてくっくくっく笑ってる
なんだよ!
「人の心配してないで自分の心配したらどう?」
うるさいな!
「人の話、聞いてないでよ!」
「あの二人がトイレで何すると思ったの?」
「…べつに…」
うるさいな!くっくくっく笑うな!
俺は気を取り直してボンバー作業にかかった
イナさんとミンギ君が手を焼いてるぞ
くっつきあったまま離れない『ドンとジョン』
ヨソルさんが立ち上がって無理矢理引き裂く
途端に抗議する二人
有無を言わさずソンブレロを被せるチンさん
お互いの顔を見つめるドンとジョン
また瞳がハートになっている
「ジョン…似合う〜」
「ドンこそとっても、すっごく似合う…」
確かに!
チンさんがボンバーの説明をしている
うんうん頷く二人
そしてイナさんからレモンをひったくり、お互いの口に流し込む
ミンギ君とイナさんが慌ててテキーラソーダを膝に叩きつけ、二人に流し込む
二人はまたキスをした!
チンさんとヨソルさんが慌てて二人を引き剥がそうとしたけどくっついて離れない
仕方ないのでチンさんとヨソルさんは二人の頭を小突き回したりスリッパでスパコンスパコンし続けたりしてた
いつまでたってもゴックンしないので、チンさんは、ハア〜っと大きなため息をついてソンブレロを回収し
ミンギ君に渡して深々と頭を下げた
「誠にみっともないところをお見せした。申し訳ござらん…」
「…い…いえ…へへっ」
ミンギ君は相当面食らってるようだけど、気持ちを立て直して次に向かった
「やぁ、久しぶりっ。んふっ。君、だれ?見かけない顔んふっ」
「こいつはイナの少年時代をやっていたんだ」
「ほぉ、チョンウォン君はこの人と友達なの?」
慌ててミンギ君が口を挟んだ
「いえっ!違いますっ!」
イナさんはため息をついてソンジュさんとチョンウォンさんにソンブレロを被せた
「おやっんふっ…チョンウォン君、なかなか似合うよ」
「ソンジュ君こそ…間の抜けた顔にはそれぐらいの派手な帽子の方がいいね」
「んふっ」
イナさんはまたため息をついておじさんのところに来た
そしておじさんの背中を押して、行け!と言った
おじさんと交替するらしい
おじさんは戸惑ってる
ミンギ君が振り向いて俺にテキーラの準備をしろと言った
俺はおじさんを促してショットグラスを持たせた
「俺のやるとおりにしたらいいから…」
「うん…」
心配そう…
テキーラでバーバリーのスーツが汚れたら…とか考えてるんだろ…ふんっ
ミンギ君がソンジュさんとチョンウォンさんにレモンを絞る
同時に俺は膝にショットグラスを打ちつける
おじさんは?
なんだ、うまいじゃん…
大急ぎで二人の口に流し込み口を閉じさせる
するとソンジュさんのうしろからチャン理事が、チョンウォンさんの後ろからなぜかスンドン会長が
二人の頭を押さえつけ、シェイクし始めた
ソンジュさんは…面白い顔がますます面白くなった
チョンウォンさんはスンドン会長を見て、蝋人形のように無表情になった
「ラ〜ブ…あいつの無表情はいつもの事だよ…」
ため息まじりにイナさんが言った
へぇ〜…そうなんだ…
それからチャン理事とテファさんの番になった
テファさん…ソンブレロが似合いすぎる…
すっごく似合う…
デラルスにスカウトされそう…
ミンギはまたまた二人にレモンを絞る
おじさんと俺はテキーラを流し込む
おじさん…うまいじゃん…こぼさないじゃん…面白くないっ!
チャン理事をソンジュさんが嬉しそうにシェイクしてる
チャン理事は中腰が辛そうだ…
テファさんは…なぜかユリキムさんに揺らされている
それも…なぜだろう…頭をかき抱くようにシェイクしているぞ、ユリキムさん…
「ピョートル…太ってはならんぞ…」
呟く声が聞こえた
ピョートルさんは真剣な顔で頷いていた
ミンギが振り返って俺に言った
「ラブちゃん…次の席はフラのアジュンマたちだよ」
「…ミンギ君、ラブちゃんって…」
「だめ?可愛いもん、ラブちゃん…」
「…なんか照れるなぁ…」
「ラブちゃんも俺の事ミンちゃんって呼んでいいよ」
「…ミンちゃんはまずいよ…ギョンビンと被るから…」
「そっか…ちぇっ…」
「…じゃ、ギンちゃんって呼ぶよ」
「ギンちゃん?…いいね。ラブちゃんとギンちゃんだけの秘密だね」
にっこり笑ってミンギ君…いや…ギンちゃんはウインクした
へへ…もう一つの秘密ができちゃった
おじさんが睨んでる
「なんだよ!」
「僕もギョンちゃんって呼んで」
「ギョンビンと被る!」
「じゃジンちゃん」
「じいちゃんみたいでしょ!おじさんはおじさんでいいの!」
「…いつになったら名前呼んでくれるのさ…」
「だから…」
本当に恋人になれたら…
「初…初…えっ…ちのときって言っただろ…」
そう答えてやるとおじさんはちょっとエロい顔になってにやぁっと笑い
ワゴン越しに俺の耳元に唇を寄せてそっと囁いた
俺の耳たぶに唇が微かに触れる
だから…エロいっていうのに…もう…ああ…
「あと何分後?」
「ばかっ!」
「これ終わったら部屋に戻る?」
「イナさんどーするんだよ!朝まで飲むの!」
「えーっ…じゃあ朝っぱらからヤるのぉ?」
「「ばかっ!」」
えっ?
『ばか』がユニゾンした…
あ…すぐ後ろにイナさんがいたんだ…
イナさんは涙を浮かべて俺とおじさんを睨んでいた
ごめん…テジュンさんいなくてしゃびしいんだよね…
おじさんはまた、ククククッと笑って、イナさんにますます睨みつけられていた…
闇夜..最後の仕事..two.. 妄想省mayoさん
「ちぇみぃ..」
「ん..何だ..」
「mayoシ..どこにいったんだろ..」
隣にいるテスが俺に聞いた
jazzの後闇夜が姿を消して..正直俺も気になっていた
「テソンさん..心配してないみたいだよね..」
「ん..どっかでふらふら〜してんだろ..」
「そうかな...でも..遅いよ..」
テスは闇夜に電話をかけた..
「出ない..全然出ない..何かあったんだ..」
「…!?」
「僕...何だか..胸騒ぎがする..
「ぉぃ..」
「ちぇみ...捜してきて..」
「ぁっ..つ..テス..俺が行っても..ぃぃのか?..」
テスは俺の顔をぽちゃぽちゃで包んだ..
「ちぇみだから..頼むの..」
「…」
「ちぇみにとって大事な人は..僕にも大事なの..」
「テス..お前..」
「..^_^..」
「俺が..もし..すけべぇーになったらどうする..」
「あっはは〜..その手で胸もんだり..###するわけじゃないでしょ?」
「ぁ..あたりまえだっ!んなことせん!!」
「心配してないからちぇみに頼むんだ..」
「テス..」
「行って..テソンさんに聞かれたら僕がちゃんと言うから..」
「ん..わかった..見つけたら電話する..」
「ぅん..」
~~~~~
俺はテスの髪をくちゃ#っとしてからラウンジを出た..
真っ直ぐ例の風の通る木の場所へ行った…いない..
中庭の木の下…いない
残るいつものベンチに闇夜はいた..
血の気のない顔でくの字に横たわっていた..
昼間と同じように闇夜を背負い中庭の木の下へ運ぶ..
腿に頭を乗せた..
血の気のない青白い顔は月あかりで銀色になっている..
闇夜の頬を軽く撫で..手のひらを置いた..
俺の頭の中に走馬燈の様に祭りでの出来事が浮かぶ..
見事な調査をする闇夜が俺の前に現れ..
初っぱな緑のマスクを被せられ..
あのパン屋をやってたときの情けない顔も知っていた..
どっから捜してくるのか..次から次と俺の情報を持ってくる..
おまえのせいで黒蜘蛛のカリスマが崩れはじめた..
お前のコマしで俺は楽になっていく自分に気が付いた..
どこか人恋しくなっていた俺の心の隙間にテスが入り込む..
テスに夢中になる俺を..
俺に夢中になるテスを..
お前は最初からずっと見守っていた..
お前の気持ちに気づかずにいた俺は
テスと海辺のホテルから戻ったとき..べらべらとテスの可愛さを話した..
今から思えば俺はお間抜けな奴だ..ったく..
最初からお前の気持ちに気づいていたら..どうだ?
お前だけを見ているテソンから奪えたか..
俺でも手を焼くお前だけをずっと見続けている..
そんなテソンから離すわけにはいかなかった..
俺等は想いをもっともっと奥深く埋めて行かなくては..
俺が奥歯を噛んでちょっと空を仰いだ時..闇夜が目をさました..
~~~~~
僕はちぇみのデカイ顔をぽちゃぽちゃして..デカイ背中を押して送り出した..
心配なんかしてない..
ちぇみもmayoシも..
どうする事が自分の為なのか..僕とテソンさんの為なのか知ってるから..
僕がちぇみを包んで..
テソンさんがmayoシを包んで..
そして4人で大っきく包まるの..
そしたら..きっと.みんなの心が暖かくなる..
テソンさんが僕の隣に座った
「あれっ..ちぇみは?」
「ぅん?..mayoシ捜しに行ったよ..」
「えっ!?」
僕がソファから腰を浮かし立ち上がろうとしたとき..
テスが僕の腕を押さえ..ぐぃっ#っと下へ引っぱった..
僕はストン#っとまたソファに腰を落とした..
「座って..テソンさん..」
「テス..お前..平気なの?」
「僕が行けって言ったの..mayoシの電話通じなかったんだ」
「ぉいっ!..な...何故僕に言わないっ!」
「ちぇみに行って欲しかったんだ」
「テス..」
テスは僕にいつもの笑顔を見せ..僕の顔をぽちゃぽちゃで撫でた..
夜景 ぴかろん
俺はソクさんとトイレに行った
行く時にラブが変なことを聞いてきた
何しに行くかって
用を足しに行くに決まってるだろう!
俺とソクさんはさっさと用を足してトイレを出た
ラブの馬鹿!
トイレで何するんだよ!
俺はトイレを出てからソクさんにその事を話した
「しまった…その手があったか…僕はテジュンと同類だってのに…まずった…」
ソクさんは頭を振りながらしきりに悔しがっていた
…
ラブ
…
わかったよ…
トイレに行く前にこの話をしなくてよかったよ…
俺は歩を早めてラウンジに向かった
ソクさんが一生懸命俺についてくる
かわいい…
かわいいと思ってしまう…
ラウンジの入り口の手前でソクさんは立ち止まった
ちょっと広めのスペースがあって、窓から夜景が見下ろせる
「スヒョク…見てごらんよ…」
俺はソクさんを振り返った
「…きれい…」
「だろ?こっちにおいで」
ソクさん…俺が綺麗って言ったのは…貴方の横顔なんだけど…
俺はソクさんの横顔だけを見て、ソクさんの方にゆっくりと近づいた
ソクさんは俺を振り返り微笑んだ
それから俺の肩を抱き寄せ、窓の方に近づいていった
「あのさ…さっきのトイレからも綺麗な夜景が見えたんだ。知ってる?お前そそくさと出てったから見てなかったろう?」
「…ラブが変なこと言うから気になっちゃって…」
「ここからも見えるから…いいか…」
「なにが?」
「二人で見たかったの…トイレからであっても…」
「…トイレじゃムードないよ…」
「でもさぁ、綺麗なトイレだったぞ」
「こだわるね、何考えてんの?!トイレでなんかしようとしてるの?!」
「…」
「もうっ!」
「やっぱしイヤ?」
「普通イヤだろ?大体何するのさ!キス?」
「…」
「もうっ!」
「…慣れてからならいいか?」
「何に!」
「…うふふん…」
ろくでもないこと考えてるだろ!
睫毛が揺れてる…
ばか
すけべ…
どきどきする…
酔ったのかな…
俺はソクさんの肩に凭れかかって
足元に見える宝石箱のような夜景を眺めた
「綺麗だ…」
「宝石の上で寝てみたいね…」
「…」
「それもイヤ?」
「実現不可能なこと言わないでよ!」
「ムード壊すなよぉ」
「そんなものの上でそんな事したら背中傷だらけになっちゃう」
「…」
「痛いし…」
「僕はただ『寝転んでみたい』と思っただけなんだけどな」
ソクさんは意地悪な顔で俺を見た
絶対ウソだ!
揚げ足とっただけだ!
俺はほっぺたを膨らませてソクさんから顔を背けた
…ラブがギョンジンさんにやってたように…
ラブはどうなの?
あの人が好きなんだろ?
あの人イナさんとキスしてるよ…
平気なの?
なんで笑ってられるの?
あいつ…傷つきやすいやつだから…わざと平気なふりしてるんじゃないかな…
あの人を責めたら自分が傷つくって思って…
「スヒョク…」
ソクさんが俺を背中から抱きしめる
俺の肩にソクさんの顎が乗ってる
くすぐったいってば…
「美味しそうな耳」
「んもう!…あ…」
「かわいい声…」
そう言って俺の体の向きを変え、俺の唇を塞ぐ
「大事にする…」
「…ソクさん…」
ソクさんの手がシャツの裾から俺の肌を探ろうとした
俺はピシャリと手を叩いてそれを阻止した
「なんだよぉ…」
「気をつけ!」
「…スヒョクぅ…」
「いいから、窓の方向いて気をつけして反省しなさいっ!」
「…」
「気をつけしないと…後で部屋へいってあげない」
ソクさんは、すぐに窓の方を向いて気をつけした
ふふふ
かわいいっ
俺は少し離れてソクさんの後姿を見つめた
俺…この人が好きだよ…
とてもとても好きだよ…
俺はソクさんのまわりをゆっくりと回ってソクさんの顔を見つめた
睫毛が長いね
鼻が立派なのが…ちょっと…怖いへへっ
でもその分唇が可愛くて…
俺はソクさんの手をとって眺めた
「なんだよ…」
「きれいな指…」
「お前だって…」
ソクさんの指にキスした
それから口に含んでソクさんの顔を見た
ソクさんはびっくりした顔をしている
その指に軽く歯を立ててから解放する…
ソクさんの唇から吐息が漏れる
俺はソクさんの首に右腕を巻きつけ、左手でソクさんの顎を掴んで唇を近づける
ソクさんが口を少しだけ開ける
でもまだ触れてあげない
触れるふりをして煽る
ソクさんは我慢できなくて舌を出す
その瞬間を捉える
「は…」
甘い声を出す
俺はソクさんの舌を捉え、それから唇を吸い、深い口付けをする
「スヒョ…」
俺にこんな事を教えたのは…貴方だからね…
責任とってよね…
その森へ 4 足バンさん
僕はミンチョルの背中に回した腕に力を入れ再び唇を重ねた
なかば開かれた口は濡れて吸いつき
お互い控え目に差し出された舌はすぐに深く絡み合った
僕の首に絡んでいる腕が優しく締めつける
僕は眩むような動悸をおぼえながら
彼の頭を押さえつけ激しくくちづけた
スヒョンのくちづけに頭の中心がじんじんと痺れる
ミンのような真っすぐな激しさではない
あのギョンジンのような僕を探るような巧みなものでもない
ただ深く優しく僕の身体をまるごとつつみこむような
暖かい海に浮かんでいるような感覚になり
僕の身体から力が抜ける
ふとミンチョルの身体の力が抜けたような気がした
僕たちは崩れるように芝生に膝をつき
尚もくちづけながら絡み合った
僕は彼が身体を打ちつけないよう抱きかかえながら草の上に倒れ込んだ
背中のジャンパーごしに地面の冷たさが伝わる
スヒョンは僕の頭を抱き、息もできないほどのキスを続ける
僕の中の罪悪感はその激しく吸いつく音にかき消される
スヒョンの熱い唇が頬を過ぎ耳もとから首筋に這っていったとき
僕はこのまま堕ちていってしまうのかと
ぼんやりとした頭で考えた
しかしそれはほんのひとときの迷いだった
突然スヒョンはその激しい唇の愛撫を止めた
肩で息をしながら僕の首筋に顔をうずめ動かない
僕も新鮮な空気をむさぼりながら動けずにいる
しんと静まり返った辺りの空間に
ふたりの荒い息づかいだけが響く
どれくらいそのままでいただろう
僕はミンチョルの肩に顔をうずめ目を閉じていた
ミンチョルの心臓の音が遠くのこだまのように伝わってくる
そのこだまは森の奥にゆっくりと吸い込まれていく
…
そこから先へは行けない
行った先が暗闇だということを知っている
僕たちがふたりで歩くべきはそんな道ではないことを
僕もミンチョルもわかっている
スヒョンはずいぶんたってからゆっくりと顔を上げた
僕はなぜか寂しそうな彼の目を想像していたが
僕を見たその目が思いがけずいたずらっぽく微笑んだので意外だった
微笑むどころか下を向き密かに笑っている
「なに?」
「いや…」
「なんだよ」
「…かわいい…その髪…」
ミンチョルが僕との激しい”やりとり”のせいですっかりヘアスタイルを乱し
洗いっぱなしの少年のような髪型になっている
なんのことやら理解できずにぽかんとしている顔といったら…
こういうところを見せつけられるから困る
僕は思わず手を出してもっとくしゃくしゃにしてやった
「ばかっやめろって!」
むっとして抵抗しようとした僕の手をすかさず押さえつけ
絡んだ足は僕の動きを封じる
「暴れるなよ…欲情しちゃうだろう」
あからさまな言葉に驚いて静かになるとスヒョンは笑いながらすぐに力を緩めた
そしてゆっくりと僕の髪に手を伸ばす
優しく手ぐしで髪をすくその顔はいつもの微笑みに戻っている
僕がいつも癒されてきたあの微笑み
ちょうどそのとき向こうのヴィラの明かりが落とされた
それは午前1時を回ったことを示している
ほのかに明るかった広い前庭はすっかり影につつまれ
僕たちを照らすのは点在する灯りと月明かりだけになった
スヒョンは僕の身体から離れるとすぐ横に仰向けになり
僕たちは並んで夜空を見た
「寒くないか?」
「ああ」
「あいつらなにしてるかな」
スヒョンのその言葉に僕は一瞬どきりとした
ミンの顔をいきなり鮮明に思い出し呵責の念が押しよせた
スヒョンを見ると彼は気持ち良さそうに冷たい空気を吸っていた
行商ボンバーズ アジュンマたちのララバイ 〜前半〜 ぴかろん
俺たちはフラをプレゼントしてくれたアジュンマたちのボックス席に移った
鳴り物入りでその席に行くとアジュンマたちは一斉に俺達を見た
みんな瞳にハートが浮んでいる
照れくさかった
ミンギ…ギンちゃんは最初に小柄なご婦人にソンブレロを被せた
「あらっ私が最初なのっ?ど…どうしましょう…オロオロ」
小柄なご婦人はおろおろしつつも手にしていたキラキラ光る小さなバッグをからだの脇に置いて、覚悟を決めた様だった
「ご指名は?」
ギンちゃんがにっこり笑って聞いている
「ごごご指名って…」
「シェイカーは誰がいいですか?」
「…うっ…そそそ…そうねぇ…。ラブ君かギョンジンさんか…」
「オッケィ。ラブちゃんギョンジンさんご指名入りましたぁ〜っ」
ご指名って…ギンちゃん…
「ギョンジンさんレモン絞ってそこで待機、俺がテキーラ流し込むからラブちゃんとギョンジンさんでシェイクね」
ギンちゃんが俺達に耳打ちする
「わかった…」
「くれぐれも…優しく…だよ」
「わかってる」
素敵な詩をプレゼントしてくださったご婦人に手荒な真似はしませんって。ね、おじさん…
ん?
おじさん?
おじさんはニヤニヤしてる
「おじさん!優しく!だよ」
「わかってるよ、僕にご婦人の扱いを指導する気?」
「…」
あーはいはい…アンタは『えろみん』だったよね…はいはいはい!
ギンちゃんが薄目のテキーラ・ソーダを作り俺達に合図する
おじさんがそっと小柄なご婦人の頬に手を添えて耳元で囁く
「お口をお開けになって…」
ご婦人の口が小さく開いたところへレモン汁が絞り込まれる
おじさんなんだか嬉しそうに見えるんだけど…なんかヤらしくない?!
ギンちゃんがタンっと膝にショット・グラスを打ちつけ、ご婦人の口に流し込む
俺はおじさんとご婦人の頭をそぉっと抱え、控えめに揺らす
ご婦人は揺らされながらも俺達の顔を交互に見つめている
おじさんは何を思ったか俺の唇にチュッとキスをして、ご婦人の顔を見た
ご婦人は優しい瞳でおじさんを見つめた
俺は…
俺は恥ずかしかった…
最後に顎をクイッと上にあげてゴックン
「ありがとう…。貴方達の幸せを、私、祈っておりますわ…」
ご婦人はそう言うとうっすらと涙を溜めた瞳で俺達の手を握った
照れくさかった…
「もうっ…なんであんな事…」
「あの方がそうしろって…」
「言ったの?!」
「目で訴えてた…フフ」
んもうっ!ぜったい『えろみんの勝手な解釈』だろっ!
…でも…小柄なご婦人が言った言葉を思い返すと…ホントに…ホントに『目でそう言った』のかもしれない…
ありがと…
俺はもう一度小柄なご婦人を振り返って、ちょっと微笑んでぺこりと頭を下げた
ご婦人はにっこり笑って胸の前で手を組み合わせ、一瞬目を閉じて祈るポーズをした
ありがと…
「はいっお次のお方のリクエストは?」
ギンちゃんはどんどん進めてる
さっきキム次長をここに連れてきたご婦人だ
スハさんとテジンさんをチラチラと気にしてた人…
うーん
なんだか闇夜さんと通ずるものがあるような…
闇夜さんほどハードではないにせよ…鋭い観察眼をお持ちの方とみた!
なんてね…
「わわわ…私…どなたでも結構なんですけどぉ…でも…あのっ…
貴方と…イナさんの…『少年から青年へ』コンビでシェイクしていただけたら〜」
「えっ…俺?!いいんですか?俺でもっ…嬉しいっ」
ギンちゃんはえらく喜んでいる
イナさんもにっこり笑って前に進み出た
レモン絞りはおじさんだ
だって『ご婦人の扱い』に慣れてるもん!さっき見て解ったもん!
すっげぇ優しいの…
やンなっちゃうぐらい…
妬いてもしょうがないんだけど…
俺にもあんな風にしてくンないかな…
あ、ヤバっ。俺、テキーラ・ソーダの係だった!
慌てて作ったからさっきのご婦人よりちょい濃い目?
ヤバイかな?
……
大丈夫だろ…へへ…
レモンの後に、タンしたテキーラを流し込む
ギンちゃんとイナさんは、それはもう嬉しそうにご婦人の頭をシェイクする
おいおいギンちゃん、『くれぐれも優しく』っつったのはお前だろーが!
ちょっと激しすぎないか?
ごっくん
「ひゃははは」
イナさんっ!失礼だろっ
「いひひ。ごめん。髪の毛乱れちゃったひひひ」
「すみませんヒヒ。調子に乗っちゃってヒヒ」
「う…構わないわ…貴方達を指名した時点でこんな事、覚悟していたもの…う…」
「…大丈夫ですか?」
俺は思わず声をかけた
ご婦人はうっとりした目で俺を見て言った
「ラブ君…ありがとう…大丈夫よ…貴方こそ頑張るのよっ!応援してるわっ!負けないでねっ!」
ご婦人は今のシェイクで酔いが回ったのだろうか、段々と声に力を込め、そして俺の手を握って上下に何度も揺さぶった
「あ…ありがと…」
なんかお礼ばっかし言ってるな…俺…
照れくさいや…
ご婦人の傍を離れると、おじさんが耳打ちしてきた
「いいな、お前…。モテモテじゃん…」
俺はおじさんの顔を見上げた
おじさんはちょっとスネた顔をしている
あれっ…。妬いてるの?!なんで?
「はぁい。お次の方のご指名は?」
「はいはいはいっ!ラブ君っ!」
次のご婦人は勢い良くそう言った後、俺を見て急に俯いた
「ほらっ…モテモテじゃんか!」
おじさんは本格的にスネた顔になった
知らないよ!モテモテかどうかなんて!
きっとおじさんが『ひどいことばっかりする』から俺に同情してくれてるんだよ、みんな!
俺も思いっきりスネておじさんにフンってしてやった
それから俯いてるご婦人の頬を包んで上を向かせた
ご婦人はビクっとして、それから目を潤ませて、今にも泣き出しそうになった
「わっ私ほんとはっテジュンさんの大ファンなんですけどっでもっあのっラブ君の事が愛しくてっうっうっ」
『テジュンさんの大ファン』と、そのご婦人が告白した時、イナさんがピクリと動いた
そして小さな声で呟いた
「てじゅにもふぁんがいるんだ…」
いるよっ!俺だってファンの一人だよっ!
あっ…いけない…『秘密』だった…
このご婦人がフラの舞台の演出をされたと聞いた
すごいな…ごく普通の人に見えるのに…すごい才能の持ち主なんだな…
俺はにっこり笑ってご婦人の唇にそっと触れた
ご婦人は恥ずかしそうに口を開けた
レモン係はおじさんなんだけど、おじさんは俺にレモンを押し付けてぷいっと横を向いた
スネてんの?
こども〜
俺はご婦人の口にレモンを絞った
ギンちゃんがテキーラを注ぐ
そっと顎を抱えて優しくシェイク
イナさんがちょっとだけご婦人を睨み、それからにっこり笑った
ご婦人はご自分でバンギングを始めた…
タテノリだ…
侮れない…
もういいでしょう?ってぐらいバンギングしてるよ…
俺は無理矢理ご婦人の頭を止めて、そしてクイッと上を向かせた
ごっくん
ほっ…
「大丈夫ですか?」
「ふぇぇい…ああ…いい気分だわ…。はっ…。お…おほほほほ。ちょっとトリップしちゃっておほほほほ」
…あぶない?…
「…ラブ君。しあわせになるのよ!私も祈ってるわ」
ご婦人はそう言って俺の手をそっと握った
「あ…ありがと…」
俺はますます照れくさくなった
「ちっ!なんでラブだけ優しくされてんだよっ!」
イナさんがほっぺたをぷぅっと膨らませてスネている
その向こうでおじさんがいじけている
ご婦人は、そっちをちょっと睨んで、そしてクスクス笑った
「どうしようもない人たちなのね…彼らは…」
「え?…あ…。はい…」
「総支配人も早くしあわせになってほしいんだけどなぁ…」
「…あ…。すみません…」
つい、思わず詫びてしまった…
おじさんとイナさんが同時に俺を見た
俺は知らん顔して誤魔化した
行商ボンバーズ アジュンマたちのララバイ 〜後半〜 ぴかろん
「さあ、こちらの方のご指名は?」
「私っイナさんとミンギくんっ!」
次のご婦人も勢いがいい
指名された二人はにっこり笑ってそのご婦人の前に立つ
このご婦人は…『回しの天才』とか『オリーさん調』とかいったうたい文句のついてる人じゃなかったっけ?
意表をつく展開を思いつく人らしい…
おじさんはレモン係に復帰
そっと頬に触れてご婦人の口を開けさせる
…おじさんも『ご婦人回しの天才』なんだろ?!
ふんっ
手つきがいやらしい!
レモンを絞り込み、俺がテキーラを注ぐ
ヤバイかな…俺、だんだんテキーラの量、増やしてないかな…
ギンちゃんとイナさんがシェイク
また激しく揺さぶるっ!だめじゃん!優しくでしょーがっ!
「あんた、足、くじいたんだって?大丈夫か?俺と一緒だな」
「むぐぐ」
そんな…シェイク中に喋りかけるなよ、イナさんったら…
「しっかり治さないと癖になるぞ!後でギョンジンにテーピングしてもらいなよ。あいつ上手いぜ。他の事もうまいけど…ヒヒヒ」
余計な事をっ!もうっイナさんのばかっ!
なにが『てじゅしかみない』だよっ!
さっきもソクさんにキスしてたし…
おじさんだって油断してたら唇奪われちゃうぞ!
俺はおじさんを睨みつけた
おじさんは俺の視線に気づいて不思議そうな顔をした
ふんっ!ばかっ!
ごっくん
「ひいいい…」
「大丈夫か?」
「だだだ大丈夫」
「ギョンジン、テーピングしてやってよ」
「ん…」
「ひひひひいいいっえええええろみんにててててーぴんぐぅぅぅぅ」
チュニルさんがテーピングのテープを持ってきて、おじさんがご婦人の足首にまきつける
ご婦人は卒倒しそうだ
チュニルさんの方もチラチラと見ている
…気が多いのかしらん…
スングクさんもやってきて、イナさんがしてるのとおなじ足首用のサポーターテープを持ってきた
おじさんはそれも器用に巻く
「これ、やるよ。しばらくこれつけといたほうがいいぜ。なっギョンジン」
「うん、そうですね。長く歩いたりする時はこの巻き方で保護してください。でも無理はせずに安静が一番ですよ」
おじさんは涼やかな微笑みをご婦人に向けた
ご婦人はフリーズした
「おっ!凍ったら急速解凍しなきゃいけねぇんだぞ!」
イナさんはそう言ってご婦人の頭をハグした
今度はおじさんがフリーズした
ご婦人は『解凍』どころか、氷河に埋められたみたいに動かなくなった
「ちょっと、アンタ、大丈夫か?」
「あい…らいじょぶれしゅへへん」
「…。アンタか!『らりるれ』の産みの親は!」
「あい…しょおれしゅらへへん」
「ったく…アンタら…すげぇよ…」
氷河に埋められたらりるれご婦人を後に、次のご婦人へと移った
「おっおっお手柔らかにお願いします。フリーズすると冬眠してしまいますっ
せっかく冬眠から醒めて、フットワークが軽くなったとこですからっ!」
「わっかりましたっ。で、ご指名は?」
「…と…特に誰といって指名は…」
「わっかりましたっ」
ギンちゃんはにこっと笑っておじさんにレモンを持たせた
ご婦人を前にするとおじさんはすぐにフリーズ状態から抜け出せるんだね!ふんっ!
またご婦人の頬に触れ、そっと口を開かせる
ああわかったよ!すんげぇテクニックだよっふんっ!
…俺…何妬いてんだろ…
ばかみたい…
ギンちゃんがテキーラ・ソーダを作って流し込み、俺とイナさんとおじさんに合図し、四人でシェイクだ
ギンちゃんとイナさんが暴走しないように、俺はご婦人の頭をしっかり守った
ご婦人はどこを見ていいのか解らないような顔で、目だけぐるぐる回して、四人の顔を順番に見つめていた
ごっくん
「くるくるくるくるっ」
「だだだ大丈夫ですかっ」
「だだだ大丈夫ですっくるっ」
完全に目が回ってるみたい…ホントに大丈夫?!
「貴方達の幸せをくるくる祈ってくるくるますくるっ…」
「ギンちゃん!くるくるって…」
「ラブちゃん!逆回し!」
俺とギンちゃんはそのご婦人の頭を抱えて、ゆっくりと『目が回っている』方と逆に回し始めた
「おお…」
目の回転が治まり、ご婦人の『くるくる』も止まった
「ありがとう…楽しかったわ…。ラブ君!私も貴方を応援してるわ。幸せを祈ってるから!ファイティン!」
「あ…ありがと…」
俺ってそんなに薄幸に見えるのかしらん…
確かに今、薄幸かも…
でも…俺…おじさんの傍にいられるから…しあわせなんだよ、みなさん…
「…次の人ね…」
ギンちゃんが険しい顔で囁く
「オーナーと繋がりがあるらしい…んで…『えす』らしい…」
「…」
「気をつけろよ…」
「…ん…」
ちらりとそのご婦人を見た
目の奥が意地悪そうに見える
ギンちゃんが変なこと言うから先入観持っちゃうじゃん…
「ご指名は?」
「四人!」
ギンちゃんがまた俺に囁く
「ね?欲が深いだろ?」
おじさんがレモンを持ってご婦人の横に立つ
「あ、ごっくんの時にチュウしてね、あいつとあいつに。なんなら三人で一緒でもいいよ」
ご婦人はおじさんをニカッと笑って見上げ、そんな事を言ってあーんと口を開けた
おじさんは苦笑して一瞬目を閉じ、
「お客様のご要望なら…仕方ないかなぁ」
なんて事をほざいて、レモンを絞り込む
ギンちゃんが随分濃い目のテキーラ・ソーダを流し込む
そして顎を押さえ込み、四人でシェイク
ギンちゃんは、シェイクしている最中からなんだか可笑しそうな顔をして俺達を見ている
さっきの言葉を思い出す
「ごっくんの時に…三人一緒でも…」
おいっ!このババアっ!
ごっくん
あっ!どーすんのっ!
ババア…いや、ご婦人の目がじいいっと俺達に注がれている
おじさんはすっかり『えろみん』の顔になって、俺とイナさんの首根っこに両腕を回し引き寄せる
三人一緒のチュウかよっ!そんなの見て面白いのかよっ!
おじさんは俺とイナさんに唇を寄せると、まずイナさんに軽く、ついばむようなキスをし、それから俺に、同じようなキスをした
どきんどきん…
ババア…いや…ご婦人の目が輝いている…
くそババア〜っ!
それからおじさんはイナさんに本格的なキスをして…なんでするのさ!そんな事っ!
…イナさんの目が色っぽくなったところで唇を離して今度は俺にキスをした
俺は頑なに口を閉じていた
絶対に開けなかった
おじさんは諦めて唇を離し、それからイナさんの顔を俺の方に寄せて…俺達にキスさせやがった!
イナさんは呆けてるから思い入れたっぷりに俺に吸い付いてくるけど!俺はっ俺はっ…イヤだっ
顔を背けようとしたらおじさんまで唇を寄せてきた
逃げらンないじゃんかっ!逃げらンない…じゃん…ばか…
いつの間にかイナさんが離れ、俺はおじさんの深いくちづけを受けていた
まわりのアジュンマたちがほぅ〜っとため息をついている…
真下で見上げているくそババアがパチパチと拍手している…
くそババア…ばかっ…でも…うれしい…
おじさんはようやく俺を解放してくれた…
イナさんがしゃがみこんで得意の上目遣いでくそババアに何か言ってる
くそババアはニヤっと笑ってペシンとイナさんの前髪を叩いた
イナさんは少しスネた顔をして、それからニヤッと笑った
「頑張れよ、てめぇら」
くそババアは妖怪先生のような低い声でそう呟き、不敵な笑みを浮かべた
ただ一人犠牲にならなかったギンちゃんは、満面の笑みを浮かべて拍手していた