BHC) Wait for me〜Call me …ラブ ぴかろん
おじさんはさっきからずっと俺の手を握り締めている
目はステージ上の双子に向けられてるけど
二人のショーが終わり、ギョンビンがおじさんとすれ違う
おじさんはギョンビンの方をじっと見つめ何か言いたそうだったけど
ギョンビンの毅然とした表情に何も言えなかったみたい
そして俺を振り返りにっこり笑った
寂しそうな目で…
「ラブ…落ち着いて…頑張れよ」
優しい声でそう言った
俺の番が回ってきてしまった
「うん…」
暗いステージの真ん中に立つ俺
おじさんにもらった青いシャツを羽織ったままポーズを取る
最初はストリッ○まがいのダンス…
まったく…俺の事よっぽどエロいと思ってるんだな、みんな…
本とはそんなに経験ないのに…
おじさんのがよっぽどエロなのに…
でも
期待されてるなら思いっきりやっちゃおう
ギョンビンもドンジュンもとってもセクシーだったもん…
俺も…
おじさんに…
♪4.Wait for me
ホール&オーツのWait for meって曲知ってる?
あんまり有名じゃないかもしれないけど、俺の好きな曲…
題名からして俺の気持ちも入ってる…かな?
ストリッ○には向いてないと思うんだけど…
イントロが流れる中、俺はうなだれた顔を客席から背け、右手を頭に、左手を尻にあて、その気になった
ゆっくりとイントロにあわせて右手を客席の方に伸ばしながら正面を向く
両腕を上に上げ、軽く拳を握る
♪Midnight hour almost over
Time is running out for the magic pair
握った拳を頭に乗せ、両腕を少し開き気味にして俺の顔が客席に見えるようにする
俺は目を瞑って、左肩に口付けするように顔を寄せて悩ましげな表情を作る
ゆっくりと体全体を揺らしながら音楽に合わせて動く
俺の頭の中には、俺の体を愛撫するおじさんがいるんだ…
おじさん…
どうしよう…
俺、おかしくなりそうだ…
♪I know you gave the best that you have
But one more chance
Couldn't be all that hard to bear.
音楽に合わせて俺は左手でゆっくりと自分の右腕をなぞる
そしてその手を胸に這わせ、わき腹から腰へ、さらに太ももへとゆっくりと降ろす
♪Wait for me please
Wait for me
右手で左腕を掴んで自分を抱きしめるようにして、目線を右下に落とし、体を揺らしてリズムを取る
♪Alright, i guess
That's more than i should ask
両腕を前に突き出して顔を上げ、俺はおじさんの顔を思い浮かべておじさんを求める
♪Wait for me please
Wait for me
シャツに手をかけ左右に開き肩まではだけ、右肩を前に出してはすに構える
顔は右肩につけ目を閉じる
♪Although i know the light is fading fast.
そのままシャツを下に落とす
♪You could go either way
Is it easier to stay
左足を左に一歩出しながら右腕を伸ばしてゆっくり右へと動かす
次に右足を一瞬左足に寄せてから右に一歩出しながら、同じように左腕を伸ばして左へと動かす
♪I wonder what you'll do
When your chance rolls around
足を大きく開いて両手を脇に垂らす
顔は左下に向ける
右足を左足前にクロスさせてターンしながら左足を一歩出して後ろを向く
左肩を回して天井を見る
♪But you gotta know how much i want to keep you
両腕を上げ、軽く拳を握り、腕を顔の前に寄せると同時に顔を伏せる
客席からはうなだれた俺の後姿が見えるはず
♪When i'm away i'm afraid it will all fall down.
右手を左肩に、左手を右脇に置き、自分を抱きしめる
誰かに抱きしめられているように見えるでしょ?
そして正面にターンし両腕を真横に勢いよく広げ、顔を上げ、右腕を勢いよく左つま先に向かって下ろしながら
頭をがくりと下げる
腰も同時に落として床に右膝をつける
♪Wait for me please
Wait for me
Alright, i guess
That's more than i should ask
右腕を前に伸ばし、ゆっくりと右に広げながら物欲しげな表情
次に左腕を同じように伸ばしながら右腕は下げる
♪Wait for me please
Wait for me
左膝を床につき、さらに両腕を前に伸ばして俺はおじさんを求める…
♪Although i know the light is fading fast.
両腕を胸によせ、抱きしめるポーズをとる
♪Love is what it does and ours is doing nothing
膝立ちのまま両腕を脇に垂らし、目を軽く閉じて腰をゆっくりと前後に揺らす
♪But all the time we spent
It must be good for something
徐々に強弱と上下の動きをつけて、上体をゆっくりとしならせながら腰を揺らす
俺は…
おじさんをそこに感じている…
♪Please forgive all the disturbance i'm creating
上体を仰け反らせ、荒い息を吐く
両手で髪をかきあげ、俺はおじさんを感じている…
♪But you got a lot to learn if you think that i'm not waiting for you.
両手で頭を抱え目を堅く閉じたまま正面を向く俺
口が開き、ますます息が荒くなる
♪Wait for me please
Wait for me
Alright, i guess
That's more than i should ask
さっきよりも早い動きで腰を揺らしながら腕を降ろし
スケスケシャツの裾に手をかけて脱ぎ始める
♪Wait for me please
Wait for me
頭をシャツから抜いた状態で、腕を頭の上で止め、
腰を前後に大きく揺らす
おじさん…おじさん…
俺はおじさんを感じてるんだ…
♪Although i know the light is fading fast.La la la la…
シャツから腕を抜き、その瞬間を迎えたかのように一瞬仰け反り
そして崩れ落ちる…
おじさん…
俺、今、おじさんに抱かれてた…
舞台が暗くなる
俺はすぐさま立ち上がりナイフを置いたワゴンを取りに走る
舞台右袖にイナさんがいて、ワゴンを渡してくれた
「すっげぇ色っぽかった…」
潤んだ目でそういうイナさんに俺はウインクした
俺にとってはこれからが本番なんだ…
♪10.Call Me
今度の曲はブロンディの『Call Me』
え?こっちでストリッ○やった方がよかったって?
まぁね、なんとなくヤらしっぽい歌詞みたいだし…
でもリズム的にはジャグリングに合ってると思うんだ…それでこれを選んだの…
音楽に乗せて、俺はナイフを投げ上げていく
リズムよく、一本ずつナイフを増やしていく
三本、四本、五本、六本…
今のところいい調子
七本目、上手くいった
問題の八本目…
なかなかナイフに手が出ない
タイミングが難しい
いけるかな?
今かな?
それ!
「あっ!」
カラカラ〜ン
カランカランカチャンカラン
「…」
ナイフがゆっくりと床に落ちていく光景を
俺はぼんやりと見ていた
スローモーションで降ってくる鋭利な銀色の雨を
俺は凍りつく心で見ていた
…落とした…
あっけない終わり方
俺の願い
砕け散った想い
俺は呆然と突っ立っていた
「何やってんだよ!あんな裸踊りに熱中してっからメインの方どじっちまうんだよば〜か!」
一瞬何が起こっているんだか解らなかった
気がつくとイナさんが、俺の落としたナイフを拾っていた
大きな声で文句を言いながら…
ナイフを並べながら言う
「ったくもう、色恋にかまけて練習さぼってんじゃねぇよ!色気づきやがってこの小僧」
俺はただぼぅっとイナさんの顔を見た
「いいか、もう一回やれ」
小声でそう言った
「え?」
「いいからもう一回やるの!」
もう一度俺に向かって小声で言ってから客席に向かって大声で言った
「ったく俺はチーフと賭けてたんだからよっ!成功してもらわねぇと困るんだよ!
いいな、さっきのはリハーサルってことでチーフに報告すっから
今からが本番な!ここ、カットよろしくぅ!音楽、もう一回でるかな?オッケー?
…よっしゃ、俺が傍で見ててやるから、今度こそ、今度こそ絶対成功させろよ!
いいな!でないと俺、泣いちゃうぞ!」
「…」
「返事は?!」
「あ…はい…」
そして俺はイナさんに操られるようにナイフを二つ手に取った
「待て!」
「…」
「笑え」
「…え…」
「こうだよ!」
イナさんは俺の口元をぐいっと指で上げた
「そのまま…よし!Go!」
俺はもう一度ジャグリングをやり始めた
イナさんは斜め後ろにいて、何かやってるらしい
お客さんが笑ってる…
俺は
知らず知らずのうちに
八本のナイフを投げていた
俺は
笑っている
楽しそうにナイフを操っている
「おいおいおい!もうナイフがないふ」
イナさんのベタな駄洒落に客席が沸く
「よっしゃ!成功!これでチーフのメルセデスは俺のモンだぜ!さんきゅー」
そう言って拍手するイナさん
客席を煽って拍手を促すイナさん
俺はナイフを一本ずつワゴンに戻し、全部を置いて手を広げた
イナさんが俺の左手を高く上げ、客席から割れんばかりの拍手を貰う
俺たちは客席に深々と頭を下げて、楽しげに舞台左袖へとひっこんだ
そこにおじさんがいた
袖にたどり着いた俺は急に足が震えだし、へたり込んでしまった…
駆け寄るおじさん
「ラブ、イナ、大丈夫か?!」
イナさんもへたり込んでいる
俺はイナさんの方を見た
イナさんが顔を覆って泣いている
俺も涙が溢れて止まらなくなっていた
「イナさ…」
「ごめんな…でしゃばって…見てられなくて俺…」
泣きじゃくるイナさんの背中をおじさんが擦っている
チクリと何かが胸に刺さった…
それでも俺は泣いているイナさんに近づき、イナさんに抱きついた
「…ありがと…」
必死の思いでそれだけを伝えた
「よく頑張ったな…お前えらいぞ!」
イナさんは泣きながら俺の頭をくしゃくしゃにしてそう言った
その言葉は…おじさんから欲しかった言葉なのに…
真っ先に、おじさんに抱きしめて欲しかったのに…
でも俺は失敗したんだ…
この人に助けてもらわなきゃ、ずっとあそこに突っ立ったままだったんだ…
俺の心の中にうず高く積もった思いが、堰を切って溢れ出した
抑えきれない慟哭が、体の底から噴き出して、上げたことのない声を出す
掠れた、激しい、体中の全てを吐き出すような、雄叫びをあげて、俺は泣いた
そんな泣き方を、俺は今までした事などなかったのに…
俺の中にある全ての気持ちが噴き出してドロドロだった
おじさんへの想いと、叶わぬ恋と、イナさんへの嫉妬と羨望と尊敬の念と、俺自身へのふがいなさと…
全てがぐちゃぐちゃにまじって吐き出された声
ぞっとするほど悲しい声だと、俺自身がそう思った
おじさんは俺を見て、そしてイナさんと俺の肩を抱き寄せた
怖かった…
すごく…怖くて…どうしていいかわかんなかった…
またイナさんに助けられた…
どうしてこの人はこんな事ができるんだろう…
俺はイナさんにはなれない
俺はイナさんには敵わない
俺は…おじさんを…奪えない…
…おじさん…
…イナさん…
…おじさん…
【55♪らぶ LOVE らぶ byラブ(コーラス付)】ロージーさん
波紋 足バンさん
僕とギョンビンは走って舞台をおりた
かなり興奮していた
袖に入る時、ギョンビンの兄貴がギョンビンを見たけど
あいつは振り向かずにそのまま駆け抜けた
兄貴はなにか言いたそうな目をしてたんだけど
袖に入るとまわりが拍手しながら口々にはやし立てるようなことを言っていたけど
僕もギョンビンも聞いちゃいなかった
早くあのふたりの反応が知りたかった
通路に出るドアに向かおうとした時
手前にいたスタッフがドアから出ようとして開けた
そしてそのドアの向こうの階段に2人の姿があった
スヒョンが後ろのミンチョルさんの肩に手を掛け促していた
僕とギョンビンはそこに立ち止まり
ふたりがスローモーションのように近づくのを見ていた
僕たちは顔を見合わせた
なんで…紅潮してるの?
あの2人
僕たちに気づくとふたりは一瞬足を止めてそして真っすぐ歩いてきた
僕たちはその表情を読みとろうとしていた
でもふたりは何事もなかったかのように微笑んでいる
僕はスヒョンを真っすぐ見て聞いた
「どうだった?僕たち」
「最高にセクシーだったよ。あれで一稼ぎできそうだ」
そんなことが聞きたいんじゃない
ミンチョルさんが何気なく自分の唇を触った
ギョンビンの眉がぴくりとしたのがわかった
「ラブのが始まるから、また後でゆっくり」
「僕たちのショウも客席で見たら?」
「ああ、それから」
ミンチョルさんはギョンビンのシャツの前を両手で整えて言った
「もう前は止めたらどうだ?」
僕とギョンビンはどう反応していいかわからず立っていた
タキシードのふたりは「じゃ」と言って奥に入って行った
ギョンビンはいきなり僕の腕を引っ張るとドアを開けて通路に出た
「どうしたの?」
「ミンチョルさんのああいう顔はうしろめたい時の顔だ」
ギョンビンは僕の腕を掴んだまま歩いて行く
迷い れいんさん
どこか静かな場所でとにかくスハを落ち着かせよう
僕はテソンに「すぐ戻る」とそっと耳打ちして、スハを連れ出した
BHCの控え室に入った
ショーの最中だから誰もいない
またすぐ戻れなければ…
あまり時間はない
二人掛けの硬いソファにスハを座らせ僕も座った
スハは幾分落ち着いてきたようだ
目線を下に向けたまま話し始めた
「テジンさん達のショー、とてもよかったです」
「そう…。ありがとう」
「…祭…もうすぐ…終わりますね…」
「…ああ…」
「皆とも仲良くなれて…僕、来てよかったです」
「…ああ…」
スハは下を向いたまま僕を見ようとはしなかった
「さっきはなぜ泣いてた?」
「…あ…皆のショーを見ていて…気持ちが昂ぶって…」
「そうか…」
「はい…すみません」
スハがなぜ泣いていたのか僕にはわかっていた
本当の理由をなぜ言わないのかもわかっていた
祭が終わればもう会えないとそう思っているんだろ?
それを口にすれば僕が苦しむと…そう思っているんだろ?
僕は黙ってスハの肩に手をまわし引き寄せた
スハの体が傾いて僕の肩にもたれかかった
僕はスハの髪にそっと口づけて、スハの温もりを感じたまま目を閉じた
僕はスハにまだ話していない事がある…
もうすぐ子供が生まれる
僕はそれを楽しみにしている
それはもちろんスハも知っている
だけど…僕はその子には『お父さん』と呼ばれる事はない
僕はこれまで兄になりすまし、妻と関係を持った
そして妻は身ごもった
でも、紙切れの上では、僕と妻は姉弟のままだった
今までずっと…
兄の妻だった人と弟の僕が結婚するなんて、世間では忌み嫌われる
だから僕と妻は、ひっそりと姉と弟として暮らしてきた
もちろん生まれてくる子は愛しい
僕の分身でもあり、兄の分身でもある
僕はその子に、僕のできる事は何でもしてあげたい
妻がその事をどう考えているのかはわからない
わかっているのは、僕はこれからもずっと妻の弟として、
その子に接していかなければならないという事…
父親と呼ばれる事はないまま…
これからずっと一人のまま…
そうなったのは全て僕のせいだ
兄になりすまして生きてきた、僕への罰だ
これから僕は、僕自身を取り戻して、妻と話して
僕の犯した過ちを償っていかなければならない
僕自身として
そう思えるようになったのはスハのおかげだ
僕はスハの肩を強く抱いた
この事をスハに話すべきかどうか…僕は迷っていた
スハの不安を取り除いて、心を軽くしてやりたかった
僕の気持ちを伝えたかった
もう離さないと抱きしめたかった
だけどそれを言ってしまったら…
スハは何もかも捨てて、僕に飛び込んでくるだろう…
それでいいのか?
それでスハは幸せになれるのか?
スハに何もかも捨てさせていいのか?
僕を選択させてもいいのか?
優しいスハは後できっと苦しむに違いない
祭が終わったら、僕の事など忘れてしまった方がスハの為になるんじゃないのか…
僕は迷い続けていた
祭が終わるのが辛いのはおまえだけじゃないんだよ
ほんとは傍にいてほしいんだ
スハの笑顔を見ていたいんだ
そんな僕の気持ち、おまえは気づいていないだろ?
僕はただ切なくて、スハの柔らかい髪を撫で続けていた
◇僕の先輩 妄想省家政婦mayoさん
「ミンギ..」
「はぃ?」
BHCのボクシングのショーが始まってすぐ..
ジホ監督と話していたソヌ先輩が僕を呼んだ..
「先輩..何か..」
「ぅん..ちょっと舞台袖まで行く」
「えっ?まさか..出るんですか?」
「ミンギ君..ジュンホ君..最後までもたない..あの調子じゃ..」
「監督ぅ〜..」
「最後にさ..ソヌ君の出番じゃない?」
ソヌ先輩は監督に言われてふっ#っと唇の端で笑った..
「先輩..シャドーボクシングご披露はいいけど..」
「けど..何..」
「例の3人..来てるんです..会場に..」
「なにっ!..」
「あ、でも..ヌナが話つけたみたいだから..」
「ふっ..そう.. やるね..彼女も..」
「はは..ミンギ君..なら大丈夫じゃない..」
「はぁ..」
ソヌ先輩は手の包帯を取り手を開き閉じし始めてる..やる気満々の様子..
僕はヌナに電話を入れた..ヌナも最初びっくりしていたけど
衣装を手配するから舞台袖にすぐ# 来いと言われた
~~~
ミンギから連絡をもらってすぐに
隣のテソンに頼みチーフに電話入れてもらった..
テソンは手短に用件だけを言い電話を切った..
「あい変わらず..苦手か?チーフ..」
「ぅん..いっつも先にさ..ぱんっ#って電話切るでしょう?」
「はは..ぅん..」
「あれ..嫌いなんだ..耳に響く..耳音ビンタみたいだ..」
「くはは..」
「先に電話切るわけいかんし..チーフだから..」
「ぷっはっは..ホントは先にぱんっ#切ってやりたいんだろ..」
「ぅん...そう..一度やってやりたい..ぱんっ# どうだっ#って..」
「あっはっは..」
いたずら顔の闇夜がちょっと可愛いく見えた僕は闇夜の頬を突っついた..
2人でちょっと笑ってから闇夜の肩をポンポンと叩き2人で舞台袖に戻った..
~~~
監督の言うとおりジュンホさんはラウンドが終わるとヘロヘロだった
舞台裏でスーツに着替えたソヌ先輩はすっかり[ナル]ちゃん..
シュッ#シュッ#っと軽いジャブを出す..
鏡に自分の姿を写し上目使いのジャブの後に
すくっ#っと背筋を伸ばしスーツの襟を整える..
後ろを気にしてまた軽いジャブを出す..
鏡に向かって..視線をそらさずに..自分の顔を見ながら..
完璧[ナル]ちゃんになっている..なりきっていた^^;;
[ナル]ちゃんの出番が終わり満足そうな顔で戻ってきた先輩は
さっき2回に上がってきたスヒョンさんと軽く挨拶を交わし
前髪をたらした人と握手をした..
また元の服に着替えた先輩と僕は
舞台袖から通路に出たところでヌナに会った..
「すまなかったね..急にお願いして..」
「いえ..気をつけてください..大丈夫だとは思いますが..」
「ふっ..わかった..」
「先輩..さっき握手した..前髪たらした人..誰ですか?」
「ぷっ..BHCのチーフ..イ・ミンチョル..」
「えっ..チーフって..スヒョンさんじゃなかったんだ..」
「あはは..彼は..仕事は.完璧って聞いてるよ..」
「そうなんだ..」
「スヒョン..さっきの..今度店に来る人物だよな..」
「そう..キム・ソヌ..2階の正面にもうひとり..映画監督のリュ・ジホがいる..」
「スヒョン..なにか気になる?」
「ぅん..キム・ソヌは.クセがありそうな感じがする..」
「ふっ..そう..どうせお前やドンジュンあたりがまたかき回すんだろう」
「おいっ」
「はは..すまない..」
「かき回す奴..ひとり忘れやしないか?」
「誰だ..」
「ミンだ..」
「ミンはそんなことはしないっ!」
「わからないぞ..最近ミンも妖しい光放つしな..」
「スヒョン…(;_;)..」
『もぉ〜すぅ〜ぐ潤んじゃうんだから..』
僕とソヌ先輩が廊下を進んでいると立ち止まって僕等を見ている人物がいた..
「先輩..どうします?迂回します?」
「大丈夫だ..ミンギ..もう義理のない戦争は終わったんだ..」
先輩はそう言うと..かまわずに歩き出した..
その人物も僕等に向かってゆっくりと近づいてきた..
僕は反射的に先輩の前に立つ..ヌナと同じように通せんぼの手をした..
「ミンギ..手を降ろしていい..」
その人物はゆったりとした口調でそう言った..
波紋2 オリーさん
ギョンビンは僕の手を掴んで通路をどんどん歩いていく
「どこ行くんだよ」
ギョンビンは答えない
「あの二人に何かあっても、せいぜいキスどまりさ
だって、時間がなかった…」
言いかけて僕はあっと思った
自分の唇に触ったミンチョルさんの手…
突然ギョンビンが立ち止まった
そしてその右手が激しく壁を叩いた
「そうだよね、キスどまりだ」
ギョンビンは低い声でそう言うと僕を振り返った
目に怒りを表した青白い炎が灯っている
「ギョンビン…」
「ドンジュンさんは平気?」
「平気じゃないよ、でも…」
「でも?」
「さっき決めたろ。自分の気持ちを強く持つって」
ギョンビンは壁に置いてあった右手を額にあてて俯いた
「そうだったね…」
いきなり後ろからドンジュンさんに抱きつかれた
「ごめん。やっぱり僕のせいだ」
「今さら何言ってるの。それもさっき話したでしょ」
僕は巻きついている彼の手を握った
僕の背中にドンジュンさんの鼓動が響いた…
そうだった、もっと強く…
僕はドンジュンさんの絡まった手をはずした
「僕、ちょっと行ってくる」
そしてまた控え室の方へ走り出した
「待てよ、戻るのか?」
後ろでドンジュンさんの叫ぶ声が聞こえた
僕らはステージが見える場所に椅子を移して座っていた
BGMはWait for me…僕を待っていて…
ミンチョルの目はステージにそそがれている
「スヒョン…」
前を向いたままミンチョルが僕に話しかけた
「さっきのことだけど…」
僕は振り返って人差し指と中指でミンチョルの唇を押さえた
「はずみだ、ただのはずみ。そう言いたいんだろ」
ミンチョルはゆっくりと僕を振り返った
「なぜか…いや、いいんだ。そう、はずみだ。なかった事にしよう」
僕は笑って唇から指をはずした
本当に笑顔になっていられたか…わからない
スヒョンと会話にならない会話をした
僕の中で何かがうごめいているような気がしたけれど、
それが何なのかわからない、いや、もうやめよう…
と、突然ミンが僕の目の前に立ち、僕を見下ろしていた
「いい曲だね、Wait for me、僕が好きな歌だ」
ミンはそう言いながら僕の膝をまたいだ
さっきドンジュンがステージでやったように
「髪が乱れてる。どうかしたの?もうすぐ出番なんだからちゃんとして」
ミンは僕の髪の毛に指を差しこみ撫でつけた
目に強い光が灯っていた
次に僕の膝に腰をおろした
両手で僕の頬をはさむとじっと僕の顔を見つめた
「僕らのショー、よかったでしょ?」
僕は頷いた
「じゃ僕らに負けないように、しっかりやって」
僕は笑った
ミンは笑わずに、僕に唇を重ねた
ミンは僕の唇を優しく包みこんで、舌を絡ませた
僕は目を閉じて、じっとミンの感触を感じとった
ミンが僕を試してる…そんな気がした
スヒョンはどうしているだろう
となりに座っているスヒョンさんの気配が僕を駆り立てた
彼の唇をいつもより丹念に愛撫してから舌を絡めとり、
彼の弱いところを何度も舌でなぞった
悪いけど、彼は渡さないよ
控えめに漏らした彼のため息を確認してから、僕は唇を離した
「今のはマーキングって言うんだ」
彼の耳元でそう囁くと、彼が、え?という目をした
僕はにっこり微笑むと彼の膝から足をはずして立ち上がった
「今はここまで。続きはまた後でね」
スヒョンさんに聞こえるように言ってから僕は歩き出した
スヒョンさんの方は一度も見なかった
Wait for me, please
Wait for me
Although I know the light is fading fast.La la la la……
曲が最後のフレーズを繰り返していた
ギョンビンを追いかけて控え室に入った
ドアのところでギョンビンがしている事を見て凍りついた
スヒョンはステージを見るふりをしていた
ミンチョルさんの顔をはさんでキスしているギョンビンと、
スヒョンを交互に見つめた
スヒョン、何考えてる、今?
ふたりのキスに僕はゆり動かされた気がした
ギョンビンが立ち上がりこちらへ歩いてくる
同時に僕はスヒョンの方へゆっくりと歩き出した
途中、僕らは無言ですれ違った
スヒョンの後ろまで来ると、両手をスヒョンの方へ伸ばした
ミンチョルさんがちらりと僕の方を見たけど…
無視した
「もうすぐだね、そっちのステージ」
ドンジュンがいきなり後ろから両手で僕の肩を抱いた
「お前達に負けないようにしっかりやるよ」
僕は顔を反転させて言った
「大人のショーを見せてやる」
「付け焼刃のくせに大きなこと言わない方がいいよ」
「経験がものを言うんだ」
「じゃあ楽しみにしてるね」
BGMは、Call meにかわっている
ドンジュンは肩越しに僕にキスした
さっきステージでギョンビンとしたように
ドンジュンの声が聞こえる気がした
スヒョン、僕はここだよ、いつでもスヒョンのそばにいるから
ドンジュン…そう言ってるのか?
ドンジュンの心が読みきれないでいると、
重ねられた唇がすっと離された
「じゃあね、客席で見てるから」
ドンジュンはすばやく離れていった
頭の中でアップテンポのCall meがぐるぐる回った
Call me my love,
You can call me any day or night.
Call me, call me, call me…
控え室を出ると、ドアのすぐ傍にギョンビンが立っていた
僕を見ると、はっと顔を上げた
「ごめん、我慢できなくて…」
僕はそういうギョンビンの肩を抱いた
「客席で見てやろうよ。あのふたり」
僕らは肩を組んで通路を歩き出した
【56♪やさしいキスをして byミン】ロージーさん
Another Wait for me ぴかろん
僕は弟たちのショーを見ていた
次に出番を控えたラブの手を握り締めて
ラブの手は冷たかった
緊張しているんだろう
暖めてあげるつもりだった
でもできなかった
弟のあんな表情を見たのは初めてだったから
お前、あのひとの前で…そんなふうに顔を歪めているの?
お前、なんて淫らなんだ…
僕にそっくりなお前
じゃあきっと僕も
そんなふうに顔を歪めて
淫らに女を抱いてたんだろう…
お前が腰を揺らして恍惚の表情を浮かべるに従って
僕の気持ちは沈んでいく
何故だろう
小さかったお前はもういないんだ
一人前の男になって
僕の手から離れていったんだ
解っていたつもりだったけど
今、はっきりとそれを感じた
僕はいつまでも弟離れのできない
なさけない兄だね…
お前がドンジュン君と袖に帰ってきたとき
僕は何か声をかけたかった
口を開いたけど声がでなかった
精悍な顔つきで真っ直ぐ前を見て、
お前は何を考えてるんだろう…
ラブの手が動いた
もう出番か…
僕はラブを振り返って笑い顔を作った
笑えているかな?
頑張れよと言ってラブを送り出す
ラブが舞台中央に立つ
その向こう…こちらと反対の舞台袖にイナがいる
イナも心配そうな顔をしてラブをみつめている
イナ…
ラブ…
僕の好きな人達が一直線上に並んでいる
音楽が始まり、ラブが動き出した
Wait for me
まるで僕の気持ちを歌っているような曲
僕のこころを見透かしてるの?ラブ…
それともお前が待っていてほしいの?
ラブの表情が切なく揺れている
お前が求めているのは、この僕なんだね?
僕は…
お前を求め
そしてお前の向こうに見えるアイツをも求めている
こんなに欲張りだから僕は…僕は…
自分を決めかねている
どちらに対する気持ちが本物なのか
いや…どちらも本物なのだと思う
僕は妖しく光る舞台上のラブを見つめた
ラブの頭が仰け反ったり項垂れたりするたびに、
ラブの体越しにイナの顔が見える
まるでラブの動きに呼応するように、イナの表情も切なく変化する
僕は…二人に見とれていた…
ラブは膝立ちになり、ゆっくりと腰を揺らし始めた
どくん…どくん…
さっきの弟たちのショーで使われた心臓の音が、僕の体の中で鳴り響いている
ラブのからだ…ラブの顔…ラブの腕…ラブの声…
僕に抱かれている…
僕が抱いている…
そこにいるのは僕だろう?ラブ…ラブ…ラブ…
舞台の上のラブと同化しそうになったとき…
ラブの顔と重なってイナの顔が見えた
この上なく妖しい表情で、誰を見つめているんだ…お前…
誰に抱かれてるつもりなんだ…お前…
聞かなくても解ってる…
テジュンさんを思ってるってことぐらい…
ラブから逸れた気持ちは、僕を冷静にし、僕は醒めた目でラブとイナを見つめた
やがてラブは崩れ落ち…舞台が暗転するとすぐさまナイフジャグリングの用意を始めた
ほっとした…
弟達が上品なエロティシズムなら
ラブのそれはこの上なく下品なものかもしれない
それでもラブは透明だ…
ラブ…
僕はお前が欲しい
でも…こんな僕がお前を抱いていいと思う?
僕の心には、イナがいて、時々お前の事を忘れさせてしまうんだ…
こんな僕がきらきらとひかるお前を抱いていいと思うか?
僕は僕を決めかねている
気持ちのこもらない事はしたくない
でもお前の傍にいると僕は
衝動だけでお前を抱いてしまいそうで怖いんだ
お前はきっと僕を受け入れるから…
お前はきっと…どんな形の僕であれ…抱きしめようとするから…
自分がずたずたになると解っていても…
ラブが落としてしまったナイフを
イナは袖から飛び出して行って拾い集め
そして舞台を修復した…
僕はピクリとも動けなかった
イナ…お前はどうしてそんな風に動けるの?
袖に帰ってきた二人は、同時に床にしゃがみこんだ
ラブはきっと僕を待っている
解っていた
抱きしめてキスしてやりたかった
よくやった、よく頑張ったと声をかけてやりたかった
でも僕はイナのところへ行った
イナの足が気になったのは本当の事…
イナが泣いた理由を知りたかったのも本当の事…
そして…ラブの気持ちから逃げたかったのも本当の事…
僕は…卑怯者だから…イナがいないと何もできない…
ラブ…もう少し…お願いだから…もう少し…
Wait for me…
反乱 ぴかろん
俺はそっと立ち上がって、廊下の方に行こうとした
「ラブ…どこへ行くんだ?」
まだ泣いてるイナさんの肩を抱いたおじさんが、俺を気にしてくれている…
優しいね…おじさんの気持ちは俺なんか見てないのに…
「空気…吸いに行ってくる…」
「…早く…帰っておいでよ…」
おじさんの目が優しい
知ってる、どうしてそんな優しい目なのか…
イナさんに触れているから…
俺は少し微笑んで頷き、おじさんたちに背を向けた
途端に強張る俺の顔…
俺は優しくなれない
俺はちっぽけな男だ…
イナさんみたいに…あんな風に…我を忘れて人を助けるなんてできやしない
おじさんのくれたシャツを羽織り、ふらふらと廊下を歩いて客席の方に向かった
通路の端にテジュンさんがいた…
「やあ、ラブ君、素敵だったよ」
相変わらず穏やかな顔でテジュンさんは言う
この人がいるからイナさんはいつもあんな風に明るくいられるのかな…
「イナさんに助けて貰いました…ありがとうございました」
「僕に礼?ははは。直接言えばいいのに」
「ええ、言いましたけど…テジュンさんからも伝えて…」
そう言いかけた俺の目から、突然涙が零れ落ちた
テジュンさんがそれを察して、客席から見えないところに俺を引っ張った
「…ラブ君…」
「すみません…ちょっとまだ舞台の興奮が醒めなくて…」
「ごめんな…イナの奴出しゃばって…」
「…そんな…」
「きっとギョンジン君、盗っちゃったんだろ?」
「…え…」
「…無意識でそういう事やっちゃうんだ、あいつは…」
テジュンさん…
「僕が許してるのがいけないのかもね…」
テジュンさんは静かに言った
無意識で、おじさんを、盗っちゃう
そうかもしれない
あんなとこで泣かなくてもいいじゃない…イナさんが泣く必要ないじゃない…
俺は自分の浅ましい考え方を打ち消せなかった
また涙が零れた
テジュンさんが俺を優しく引き寄せて抱きしめてくれた…
「どうして泣くの?お前が…」
僕はイナに尋ねた
心臓がどきどきしている
イナの肩に触れた手が、異様に熱を帯びている気がする
「…後先考えずに出ちまった…。ラブはお前に出てきて欲しかったんじゃないかって、あいつの後姿見ながら思った…
俺っていつもそうなんだ…。体が勝手に動いてしまう…。考えてから動きゃいいのによ…。馬鹿だな…俺…」
僕はイナがいじらしくなって、その頭を抱きしめた
「やめろよ…ラブが帰ってきたらまた…」
「構わない」
「…ギョンジン…」
「自分に嘘はつけない…僕はお前が好きだ…お前が一番好きなんだ…」
「…ギョンジン…」
「たとえお前が誰を思っていようと…。そうやって人のために動けるお前が好きなんだ…」
「…ラブは…。ラブはどうなるのさ…」
「…ラブも…好きだよ…」
「じゃあラブを見てやれよ」
「…」
僕は返事をしなかった
返事ができなかった
返事をしたくなかったんだ
卑怯者だから…
「俺…いけないよな…ふらふらしてちゃ…」
僕の胸の中で呟くイナ
「俺の気持ちはテジュンに向いてるってのに、お前やソクにちょっかいかけてさ…。俺何やってんだろうね」
「だけど、したいからそうしてるんだろ?」
「…そうだけど…」
「それがキム・イナなんだろ?」
「…そんなのでいいわけないだ…」
怒ったような目をしたイナの唇を、僕は塞いだ
そうしたかったから…
イナは少しだけ抵抗して、そして僕との口付けに没頭した…
イナの方から唇を外し、もう一度軽く口付けをして、僕の唇に唇で触れながらイナは呟いた
「キム・イナは…淫らだと思う?」
「ああ…」
「ラブの…踊り…いやらしかった…」
「うん…」
「変な気分になっちゃった…」
「ああ…お前の顔、色っぽかった…テジュンさんの事思ってたんだろ?」
「ううん…お前の顔が見えたから…」
「…え…」
イナの唇が僕の唇を塞ぎ、イナの舌が僕の中に深く入り込んできた
イナ…
どういう意味?…イナ?…
「テジュンさん…」
「君は…柔らかいね…」
「テジュンさんはあったかい…」
「…キスでもしちゃう?」
「…」
俺はテジュンさんの顔を見上げた
テジュンさんの目は、相変わらず優しく微笑んでる
冗談だとわかって、俺は微笑み返した
「いいよ…」
そう言って離れようとしたとき、テジュンさんの唇が俺の唇に重なった
これは…イナさんへのキスなんでしょ?
俺へのキスじゃないでしょ?
テジュンさんは柔らかい唇で俺の唇をこじ開ける
テジュンさんの舌が俺の口の中へ入ってくる
俺は、いけないと思いながらそれを止められない
目の前にあるテジュンさんの顔を、薄目を開けて見た
テジュンさんも同じように俺を見ている…
俺は目を瞑ってテジュンさんのキスを味わった
思ったより熱いキス
こんな温かくて激しいキスを
イナさんはいつも受けてるんだ
なのに他の人のキスを求めて彷徨うなんて…
俺はテジュンさんの唇に酔った
イナさんへの対抗意識もあった
でもテジュンさんの唇は…おじさんの唇とも違って
包み込むような優しさと甘さがあった
こんなに優しい人をないがしろにしているイナさんが許せなかった
長い間キスをしていた
ようやく唇を離した時、俺は恥ずかしくなって俯いた
おでことおでこをくっつけてテジュンさんは俺に言った
「秘密にできる?」
俺は迷わず頷いた
「火遊びみたいなモンだろ?…テジュンさんは今イナさんにキスしてたつもり
俺は今、おじさんにキスしてたつもり…。そういうことだろ?」
「違うよ」
「…」
テジュンさんは俺をまっすぐに見ていた
「僕が今キスしてたのはラブ君だ。君がキスしてたのは僕だ」
「…じゃあ…じゃあ…一体何のキス?」
「…何のキスだろう…わからない…君にキスしたかっただけ…」
「…」
「イナみたい?」
「ううん…俺も丁度キスしたかったから…」
「…キスしたくなったら…またしよっか…」
「…ふふ…うふふ…」
「…ダメか…」
「…ううん…ダメじゃない…。でも…キスだけね…」
「…ああ…」
俺たちはゆるりと抱き合ってお互いの心を慰めあっていた
そういうキスなんだろうなと俺は思った
温かいけど哀しい…
テジュンさんも俺も、決して満たされてはいない…
でもきっと、時にはこんなキスが…俺たちには必要なんだ…
多分テジュンさんには、もっと前からこんなキスが…必要だったんだ…
「ねぇ」
「…ん?」
「俺、ちょっとは役に立つ?」
「…ふふ…」
返事の代わりにテジュンさんは俺の髪に口付けてくれた…
BHC) Dance Dance Dance 足バンさん
暗闇の舞台
客席にまだざわめきが残る中、
ミンチョルとスヒョンは手をとり初めの立ち位置に進んだ
中央で向き合いワルツの型をとる
スヒョンの左手とミンチョルの右手がしっかりと組まれ、
スヒョンの右手は相手の背中の高い位置へ、ミンチョルの左手はスヒョンの肩に添えられる
突然スヒョンは腕に力を入れミンチョルを引き寄せ耳元に囁いた
もうなにも考えないで
僕のことだけを考えて僕に任せて
そうすれば最高に気持ちよくさせてあげるから
ミンチョルはそのスヒョンらしい表現に思わず笑ってしまった
わかった…任せるよ
ワルツ♪人知れぬ涙(ドニゼッティ作 歌劇「愛の妙薬」より ルチアーノ・パバロッティ)
曲が始まる
舞台奥に天井からゆるりと幾重にも真っすぐ垂らされた薄布全体が
ほんのりと白くひかる
ふたりの黒いシルエットが切りとられた絵のように浮かび上がる
ピンスポットがおとされ
タキシードに身を包んだ艶やかな男ふたりが観客の前に姿を現す
重厚な声楽家の声が響き始めると同時にふたりは緩やかに足を運ぶ
舞台上を反時計回りに大きく回りながら進んでいく
優しく美しく丁寧なターンを繰り返しながら
ふたりの足が鮮やかに交差しながらステップを踏んでいく
観客はしっとりした美しいそのシルエットに魅了される
足を踏んだらどうする?
練習の時にそう言ったのはミンチョルだった
知らん顔して進めればいい
もつれてふたりで倒れたら?
そのままラブシーンにすればいい
そんな会話を思い出すとミンチョルは肩の力が抜けるのを感じた
スヒョンに身を任せ軽やかにステップを踏んでいる自分がいる
スヒョンは、硬さが抜け楽しそうな顔を見せているミンチョルに
静かな満足感を憶えた
舞台をゆっくりと数度巡り中央に戻ると曲はちょうど終わる
暗転
次の曲のためにふたりは舞台の右奥に立ち、タンゴの型を組む
スヒョンは客席に背を向けミンチョルは客に顔を向ける
今度はミンチョルの左腕は肘を張ったスヒョンの右腕の上に乗せるように添わされ
親指はスヒョンの腋に差し込まれている
またスヒョンが腕に力を入れミンチョルを引き寄せたので
ミンチョルは笑いそうになった
この曲のタイトルは?
ミンチョルは今日交わしたスヒョンとの会話を思い出し
おかしくなってやはり小さく吹き出してしまった
薄布全体が深紅に染まる
タンゴ ♪9.ジェラシー(アルフレッド・ハウゼ・タンゴオーケストラ)
ジェラシーか…おまえも感じるの?
練習の時にそう言ったのはスヒョンだった
あたりまえだ。人を機械みたいに言うな
僕は小さい頃ジェラシーって食い物だと思ってた
ミンチョルは笑ってしまい
貴重な練習時間をずいぶん無駄にしてしまった
再びスポットがおちると前奏が始まり
情熱的な旋律とともに大きく足を踏み出す
反時計回りにキレのあるステップで進む
ワルツの足を擦るようなステップとは違い
床から足を離してメリハリのある動きを意識する
ミンチョルとスヒョンの力強い優雅なステップに観客はしばし見とれる
急ごしらえのカップルだと知ればさぞ驚いたことだろう
舞台を何回か回り中央に位置し
ふたりが客席に顔を向けたところで曲が終わる
暗転
次の曲のためにふたりは別れ、舞台の左右に立つ
チーク ♪6.Superstar(The Carpenters)
舞台全体がほのかな白い反射光につつまれ、
左袖から風が吹き薄布が翻る。スローモーションのように
曲が始まると左からミンチョルが、右からスヒョンが相手を見つめながら進む
中央でミンチョルはそっと腕を伸ばしスヒョンの首に巻き付く
スヒョンはミンチョルの腰を抱く
唇が触れるのではないかと思われるほどの距離で見つめ合うふたり
その甘美な情景に客席は静寂につつまれる
暖かい女性ヴォーカルの声とともにゆっくりと動き出すふたり
ワルツのステップを活かしてゆっくりと小さくターンするよう
先生がアレンジしてくれたものだ
スヒョンはミンチョルの耳元で囁いた
楽しかった?
まだ終わってないぞ
いい思い出になった
スヒョン…
ミンチョルもスヒョンも
ステージ下の最前列に愛しいふたりが座っていることに気づいていた
スヒョンは先ほど聞こえていたミンチョルとギョンビンの
くちづけの音を思い出した
ミンチョルは先ほどスヒョンとドンジュンがくちづけている時の
一瞬の静寂を思い出した
そしてふたりは”はずみ”のくちづけを思い出していた
don’t you remember you told me you loved me baby
You said you’d be coming back this way again baby
Baby, baby, baby, baby, oh, baby, I love you I really do
ミンチョルが目を閉じてスヒョンの肩に頬をあずけた
気持ちよく踊れたよ
おまえ大変だったから…楽しんでほしかった
スヒョン…
おまえには笑っていてほしい
舞台上で風に舞う薄布は乱反射する優しいひかりに輝き
その中央で風に吹かれて抱き合うふたりの姿は
夢の中の春の映像のように美しかった
曲が終わり
夢のようなひかりと風の全てがフェードアウトする
静寂。そして大きな拍手
観客は一遍の愛の詩を読み終ったような、
そんな満たされた思いを感じていた
暗闇の中、スヒョンはもう一度ミンチョルを抱きしめ
ミンチョルももう一度首を抱いた腕に力をこめた
そしてスヒョンの耳の下にゆっくりとキスをして
するりと腕をはずし袖に戻っていった
スヒョンはしばし佇み、そしてほの暗い客席を見下ろした
そのまま舞台から飛び降りて
最前列のギョンビンとドンジュンの前に立った
ギョンビンのシートの左右の肘掛けに両手をつくと、ギョンビンの顔を覗き込んだ
「もう少し余裕を持て」
「…」
「僕は君と何かを奪い合っているつもりなどない」
そして隣で見つめていたドンジュンに目を向けると
そのまま身体を伸ばしてキスをした
「次ラストだ、すぐに袖に回れ」
そう言うとスヒョンはふたりに笑いかけドアから出て行った
【57♪愛と恋とジェラシー byスヒョン】ロージーさん
スヒョン
キャパシティ ぴかろん
テジュンさんとぼんやり廊下に立っていたら靴音をカツカツ鳴らしたタキシード姿のスヒョンさんがやって来た
「ラブ…」
俺に声をかけ、チラッとテジュンさんを見て、数秒後に会釈する
「ラストだぞ…行こう」
そう言って袖口へ向かっていった
俺はテジュンさんの顔を見た
「頑張って…見てるから…」
優しい微笑み
ほっとする
双子が走ってくる
ギョンビンはおじさんそっくりな顔で真っ直ぐ前を見て、何かに挑むような顔つきで俺たちに気づいてもいないようだった
ドンジュンは俺の前でスピードを落とし、くりくりした目で俺たちを見た
「…なにしてんの?」
「…え…」
「じゃあね、客席から見てるよ、頑張れよ」
俺はテジュンさんの笑顔に微笑み返し、そこに突っ立っていたドンジュンとともに袖へと歩き出した
「…なに…してたの?テジュンさんと…」
「…ふふ…」
秘密にできる?
テジュンさんの言葉が頭をよぎった
「…息…してた…」
「息?」
「…うん…」
「…へ〜んなの…」
ドンジュンは不思議そうな顔をして前を向いた
俺は息をしていた
ずっと苦しかった
テジュンさんのキスのおかげで息ができたみたいな気がした
「…くふふ…」
「…なに一人で笑ってんのさ、気持ち悪い!」
「…あはは…ごめんごめん。行こうよ」
「…」
「なに?」
「…ラブって、笑うと可愛いね」
「…そ?」
「笑ってなよ」
ドンジュンの顔がなんだか寂しげに見えた
いつも輝いてる奴なのにな…
コイツでもこんな時があるんだ…
「行こうよ…」
俺はドンジュンの腕を取って袖へと急いだ
みんながワイワイと袖に集まっている
ミンチョルさんが指示をだしている
「ドンジュン、ミン、ラブ、スヒョク。トップで踊る。いいね?次はテプン・テソン・テジンのT3だ
それからシチュン・チョンマン・ジュンホ君が行って、次にウシク・イヌ先生。ラストがスヒョン・イナだ」
「お前は?」
イナさんがすかさず聞いた
イナさんの横にはおじさんがいて、おじさんの左手とイナさんの右手が微妙に触れ合っていた
「僕は…PDだから…」
「何言ってんだよ!お前が出なきゃ始まんないだろーが!我儘チーフ!」
「僕は…」
「シリに尻尾つけてやろうか?」
「ム」
「ヒヒヒ」
「…」
「ミンチョル、みんなの真似して動けばいいから…ね?」
スヒョンさんが静かに言った
「…」
「お前だけ出ないなんて卑怯だぞ!」
「…わかったよ…」
「あれ…素直…」
そんな会話を耳にしながら俺はイナさんとおじさんの手を凝視していた
おじさんは俺の視線に気づいたようだ
こっちをじっと見ている
せっかく息ができてたのに…また苦しくなるよ…
秘密にできる?
テジュンさんの声がした
うん…できるよ…
俺は心の中でそう返事しておじさんを見た
おじさん
俺、秘密があるんだぜ…
その時イナさんが俺の方を振り向いた
イナさんは少しバツの悪そうな顔をした
そしておじさんの手から自分の手を離した…ように見えた
イナさん…
俺、イナさんにも秘密があるんだぜ…
俺は二人に微笑みかけてそちらの方に進んだ
「…どこ行ってたの?」
おじさんが聞いた
「廊下」
「…なんか…」
「なに?」
「…いや…」
おじさんは言葉を呑み込んだ
「ラブ」
「ん?」
「キスしたぞ」
イナさんが俺に言った
この人って…秘密にできない人なんだな…
俺はイナさんを見て、それからおじさんを見た
俺もテジュンさんとキスしたよ
心の中でそう言ってやった
「だってお前がいないんだもん…」
これだもんな…まいっちゃう…
「くふ…そんなこと報告しないでよ…」
「だってさ…」
「イナさんは馬鹿正直すぎる」
「…」
「おじさん見てみなよ、しらばっくれてるじゃん」
「…ラブ…」
「しちゃったモンはしょうがないよね?」
「…あ…うん…」
そう
しちゃったモンはしょうがないよね?
でしょ?
おじさんの手が俺の肩に伸びてきた
俺はその手を受けようかどうしようか迷っていた
でもおじさんはその手を引っ込めた
いくじなし…
「ギョンジン、スハ、ラストにこのマフラーで僕達全員をひっくくる…いいね?」
ミンチョルさんの指示に手がひっこんだのか、それとも俺に触れるのをためらったのか…
どっちにしたって…
おじさんの心を占めているのはこの人なんでしょう?
俺は小さく息を吐いてドンジュンたちのいる方に向かった
テジュンさんのおかげで心に余裕ができたみたい…
いいよ
待つよ
無理矢理奪い取るなんてできないから
テジュンさんと一緒に
おじさんの事
待つよ…
俺はおじさんの視線を背中に感じながら、テジュンさんの唇を思い出していた
ダンス・ダンス・ダンス オリーさん
そんなに近くに寄らないで、僕の彼だから
そんなに優しく抱かないで、僕の彼だから
そんなに上手にリードしないで、僕の彼だから
さっきからそんなことばかり考えてる
どうしてこんなに不安、
どうしてこんなに嫉妬
それはあの人が僕にないものを持ってるから
彼を包むあの白くて、綺麗で、大きな羽
僕にはない
僕はただ、彼に向かっていくだけ
僕はただ、彼のそばにいるだけ
僕はただ、ずっとずっと彼を一人占めしたいだけ
どうしたらあんな風になれるの、スヒョンに抱かれて
どうしたらあんな事できるの、スヒョンにまかせて
どうしたらあんな顔作れるの、スヒョンを信じて
さっきからそんなことばかり考えてる
スヒョンといる時はいつもとんがってる
スヒョンといる時はいつもからかってる
ミンチョルさんみたいにやればいいの?
あんな風にすべてをゆだねて?
ほんとは僕のことだけ見ててほしい
ほんとは僕のことだけ大事にしてほしい
だって僕はスヒョンが大好きだから
相手がスヒョンさんだと、
こんなに上手に踊れたんだね、
こんなに上手にステップ踏めたんだね、
こんなに上手にターンできたんだね、
僕とだったら?
相手がミンチョルさんだと
こんなに上手に腕を組めるんだね、
こんなに上手に顔を寄せ合えるんだね、
こんなに上手にひとつになれるんだね、
僕には無理かも
二人の華麗なダンスが終わった
気がつくとスヒョンさんが僕の目の前にいた
僕は何も答えられない
わかってる、カリカリしすぎてるって
でも余裕を持つなんてできない
とてもかなわないもの
僕はあんな風には踊れない
僕にはできない
二人の夢のようなダンスが終わった
気がつくとスヒョンが隣のギョンビンに何か言ってる
それから、顔だけ僕の方に向けるとキスした
柔らかくて、優しいキス
何が言いたいの、スヒョン
ただいまって言ってくれてるの、スヒョン
僕はミンチョルさんみたいに踊れないよ
それでもいいって言ってるの?
僕はドンジュンさんの後をのろのろと歩いた
なぜだか一人で砂漠を歩いているみたい
何も形をとどめることのない砂漠
スヒョンさんがもし本気になったら
僕の作った砂の城はさらさらと音をたてて崩れてしまう
僕は砂漠に埋もれてしまって
二度と彼を捕まえることはできない
後にはただ砂の絨毯が続いているだけ
自分を信じて、彼を信じて、でも
頭ではわかってるけど、心がわかってくれない
スヒョンの後を追って控え室に向かった
ねえ、スヒョン今のキスはどういう意味?
ほんとに、だたいまっていう意味?
僕はいつだってスヒョンのそばにいるつもり
スヒョンのことは僕が一番わかってるつもり
でもふたりのあんなダンス見たら、
僕は一人で待ってることにちょっと自信がないよ
ねえ、今のキス、本当に?
ねえ、スヒョン、本当に、ただいまって?
ねえ、スヒョン、やっぱり優しすぎるよ
【58♪青い鳥 byミン(JSAリードギター)】ロージーさん
◇僕の先輩2 妄想省家政婦mayoさん
僕はソヌ先輩を見ているカン社長の姿が視界に入ってすぐ..
後ろポケットの携帯のスライドを下げた...僕の携帯は二つ折りではない..
後ろ手でリダイヤルボタンを押し発信ボタンを押す..
最新の発信履歴はヌナだ..僕の携帯は無線も兼ねている..
ヌナが受信すればそのまま僕らの会話は聞こえる..
僕らを見据えながら右肩を下げ気味にしてカン社長は近づいてきた
「ミンギ..手を降ろしていい..」
ソヌ先輩の前で通せんぼをした僕にゆったりとした口調で言った..
ちょっとだけ振り向くと先輩は頷いた..僕は手を下ろした..
先輩は僕の前に出てカン社長と向き合う..
「元気そうだな..」
「ゲンキじゃいけませんか..」
「そう..突っかかるな..ソヌ..」
カン社長の顔からソヌ先輩に対する苛立ちは感じられない..
「俺を連れ戻そうとしても無駄ですよ..」
「わかっている..」
「もう俺を怒らせないで欲しいですし..」
「..私も死にたくないからね...それに..」
「…?」
「お前にはもう手出しはせん..安心しろ..」
「ふっ..そうですか..それでは礼を言わなくてなりませんね..」
ソヌ先輩がそう言うとカン社長は一度目を伏せ..目を開けて先輩を見た..
目の端がちょっとほころんだ顔でソヌ先輩の肩をぽんっ#とひとつ叩き..
そのまま僕らの脇を通り過ぎた..
僕は後ろを振り向いてカン社長がホールのドアを開け入ったのを確認し
携帯を取り出してヌナと通話した..
「ミンギ..大丈夫?」
「ぅん..社長..やけにおとなしかったス..」
「あはは..そう..」
「カン社長に何て話つけたんスか..会場に来たとき..」
「別に何も..ただ..ペクとムンとは顔合わせない方がいいよ」
「わかった..先輩にも言っとく..」
「..あ..ミンギ..手は大丈夫か聞いて..」
「ぅん..ちょっと待って..先輩..」
僕はソヌ先輩に手の調子は大丈夫か聞いた..
先輩は左の手のひらを結んで〜開いて〜をしてみる..
スムーズに曲がるのは3本だけ..小指と薬指はやっぱり調子が悪そうだ..
先輩はふっ#笑うと僕の携帯を取りあげ..てヌナと話をした..
痛みはないから大丈夫..ありがとうみたいな事を言っていた..
先輩は携帯のスライドを静かに閉じてから僕に戻した..
「先輩..」
「ん..何..」
「先輩が...BHCに行くしかないのはわかるんスけど..」
「何だ..」
「実際..BHCでホ○ト...できるんスか..?」
「ふっ..僕もわからないな..」
先輩は僕を見てぎこちなく笑うと僕の肩を叩いた..
僕と先輩がホールの2階に戻るとジホ監督とウォニさんが拍手で迎えた..
「恰好よかったじぃょぉー^o^ 」
「ソヌ君..ズームでいいショットも撮れたよ..ぅん..」
[ナル]ちゃん=先輩は気分良さそうに笑う..
ここに鏡があったらきっと先輩は..
顎に当てた親指を支点に残り4本の指で自分の頬から顎までをなでる..
前髪を指ですぅっっと撫でつけて..
右左..と自分の顔を写してちょっと上目使いで見る..
そして..満足そうに笑うんだろうなぁ..自分の姿に..
僕が半開きの口で先輩の姿を妄想していた..
「何だ..ミンギ..」
「あ..いや..恰好よかったスよ..先輩..」
「ふっそう..」
生え際..ちょっと危ないけどね..先輩..
願い れいんさん
僕らは言葉もないまま寄り添っていた
だけど、いつまでこうしていたって答えは出ない
「さあ、そろそろ時間だ…。戻ろう」
僕はスハの腕をとり、立ち上がらせた
ドアの方まで行きかけた時、スハの声がした
「テジンさん…。お願いがあります」
僕はドアノブにかけた手を止め、振り返った
「何だい?」
「…あの…」
下を向いてたスハが、意を決したように顔を上げ、真っすぐに僕を見た
「祭が終わったら…最後に…僕を抱いてください…」
僕は驚いた
スハの口からそんな言葉を聞くとは思っていなかった
何と答えていいのかわからなかった
「何を言い出すんだ…」
それだけ言うのがやっとだった
「お願いです。一度だけでいいから…僕を抱いて下さい」
「…それは…できない…」
「どうして…?僕を愛していないから…?」
スハの声は震えていた
精一杯の想いを振り絞って言っているのだろう
「そんな事をしても辛くなるだけだろう」
「辛くなってもいいんです。あなたを忘れたくないから…
僕の体にあなたを刻み付けてほしいんです」
僕はどう言ったらいい?
スハの想いを受け止めてやりたい…
愛していると抱きしめたい…
でも…
「僕はそんな事は望んでいない。もっと自分を大切にしろ」
僕はスハに冷たい言葉を浴びせかけた
でもスハはまだ言葉を続けた
「愛しています。あなたを苦しめたくはないし…
誰も苦しめたくはないけど…でもあなたを愛しているんです
だから僕に思い出を下さい」
スハの言葉が僕の心をえぐる
僕が閉じ込めようとしている想いを、スハの言葉がこじ開けようとする
スハを抱きしめそうになる自分がいた
僕は胸が苦しくて…
スハを見る事ができなくて…
スハに背を向け、ドアノブに手をかけた
「余計な思い出などない方がいい。僕の事は忘れてくれ」
と、その時、僕はスハから抱きしめられた
「嫌です!忘れたくなんかない…!」
背中にスハの温もりが伝わる
スハ…
頼むから…わかってくれ…
僕は涙が出そうになった
愛しているから…
おまえが苦しむとわかっているから…
すまない…。スハ…
僕は目を閉じて、息を吸い込み、そして言った
「迷惑なんだ!」
僕は言ってはいけない最後の言葉をスハに投げつけた
…これで、もう終わりだ…
抱きしめていたスハの腕から力が抜けていく
僕はそのまま黙ってドアを開け、薄暗い廊下に出た
◇おかしな奴ら2 妄想省家政婦mayoさん
俺は舞台を見ながらBSHC3人組の動きもチェックしていた..
闇夜から『不穏な動きがあればすぐ知らせろっ#..すぐだぞっ#..』と通信が来たからだ..
「お前なぁ...おしえてね..ちぇみぃ〜#...つぅー可愛い言い方が出来ないのかっ#」
「ぉ?..んな風に言ったらむらむらでれでれ#なるだろぅ?ん?」
…ったぐ…まっ..闇夜らしいと言えばそれまでだが..
ソヌのシャドーボクシングの時..3人に動きがあった..
カンがまず身を乗り出した...そして腕を組んで椅子に座りなおった..
ペクは亀のように首を出したり引っ込めたりして..
カエルの口で「アイゴゥー..アイゴゥ-...シバル(くそっ..)..」を繰り返す..
ムンソクはちっこい目をぱちぱちさせて鼻にシワを寄せ..
「むぉ..ほっほ..いせっき!(この野郎)」と引きつった笑い..
ソヌの出番が終わり暗転になるとカンがホールから出た..
カンが席を外すとムンソクがペクに向かってジャブの姿勢..
「ぉ..ぉ...ぉ、もっしんにゃ?(格好いいか?..)」…**いいわけねぇぜよ
ペクがそれを見てカエルの口を突き出す..
ムンソクのジャブをペクが手のひらで止めた..弾みでムンソクの顔に当たる..
ちょいと涙目のムンソク..
「いーしっし..ウソッ!ウソッ!(笑え! 笑えよ)」とペク..
ペクが首の後ろに手をやり笑いながら謝る…**まるで漫才だっ#
程なくカンが席に戻ってきた..
何事もなかったように座り直るペクとムンソク..
「カンは戻った?」..と闇夜
「ん...何かあったのか?」
「ソヌと遭遇した」
「…無事のようだな..お前の睨み勝ちはかなりの効果だな..」
「ぷっ..まぁね~~」
ったぐ..小悪魔めっ##
BHCの若い2人のエロいダンスが始まった..
カンは..ぽかぁーんとした口で見入っている..
ごくりと喉を鳴らし..乗り出して見入るペクとムンソク…**笑うぜっ#この3人はっ
ペクの手が無意識に隣のムンソクのシャツのボタンにかかる..
ラーメン頭のムンソクが「はひっ?」っという顔になる…**気持ち悪いぜっ
カンがそんな2人を目で威嚇..おとなしくなるペクとムンソク..
BHCの大人2人のダンスが始まった..
ワルツの時にちょいと体を揺らすカン…**ぷぷ..カンは踊れるのか?
タンゴに入るとペクとムンソクがまたおかしくなった^^;;
2人の足が椅子の下で絡まってるぜ…**まったく..
ダンスがチークに入ると3人の顎が出た..
カンはまずいまずい..と体制を立て直し”ん”の口になってダンスを凝視..
ペクは”お?”の後舞台を指さし..いつものにたにた笑い..
ムンソクは”むぉっほっほ”の後にペクの肩に手を回す..
暗転の後..3人のため息..
あ〜ぁ##ったぐ..いやいや..見てて飽きないぜっ#この3人..
俺は腹の筋肉がひくひくしていた..
闇夜がコマしたくなる気持ちがわかってきた..
「闇夜..」
「ん?」
「笑うぜ..あの3人..」
「だろっ?」
「ん..だがBSHCには行くなよっ!」
「くはは...わかんねぇ..」
小悪魔の笑いがマイクから聞こえた..
B息 足バンさん
舞台袖にBHCの全員がスタンバイした
衣装はそれぞれの最後のステージ衣装のままだ
ダンスに参加しないギョンジンとスハもラストの演出のために待機、
アシスタントにテスが立っている
まず最初の音楽に合わせて袖からひとりずつが飛び出し
舞台の思い思いの場所に立って止まる
全員が揃ったところであわせてダンス
曲が「ラブ・マシーン」に変わり
まずドンジュン、ギョンビン、ラブ、スヒョクが前に出て
一列になり歌いながら踊る
その間うしろの全員は肩幅に足を開き、手を高くあげ打ちながら歌う
次はテプン、テソン、テジンが出て踊る
最初の4人は大きくまわり一番うしろにつく
同じように
シチュン、チョンマン、ジュンホ
ウシク、イヌ
スヒョン、ミンチョル、イナで繰り返す
スヒョン、ミンチョル、イナが前列に出たところで
ギョンジン、スハがマフラーを持って袖から登場となる
「最後だ〜やっと終るぜ〜」
「いなさん、あしだいじょうぶですか?」
「おう、おまえこそ大丈夫か?踊れんのか?」
「はい、ひとやすみしてげんきになりました」
「ちょっと顔腫れてんな、メイクする?」
「あはは、いいですよぉ」
ジュンホと楽しそうに喋るイナをラブはじっと見つめている
そしてそんなラブとイナを少し離れてギョンジンが見つめていた
スヒョクは袖の奥でこちらを見ているソクに微笑みかけ、
ウシクとイヌはしっかりと手を握り幕のすぐ横に立っていた
「テジン…どうかしたのか?」
「あ?…いや…べつに…」
テジンが浮かない顔をしているのを横にいるテソンが気にしている
テソンは振り向きスハを見た
スハは最後に使う長いマフラーを握りしめ俯いていた
テプン、シチュン、チョンマンは相変わらずだった
「ああ!たまらない!また緊張だ!」
「チョンマン今度は踊りだけだからなんてことないだろ」
「テプンおまえみたいに適当に流せない性格なんだ!」
「よっくゆーよ」
「ふたりともやめろってチーフが睨んでるぞ」
舞台に一番近いところにミンチョルとスヒョンが立っている
「チーフ!パーティ終ったら自由行動ですよね?」
「もう遊びの計画か?」
「みんなでぱぁっとやりませんかっ?」
「ああ…かまわないが…僕はスヒョンと約束があるから」
対角線の幕横にいたギョンビンとドンジュンがぴくりとした
スヒョンはポケットに手を突っ込んだまま目を閉じた
「なぁにがぱぁっとだよ、チェリムさんが待っんだろ?」
「だって…一晩中ふたりってわけにはよぉ」
「他のみんなは忙しいんだかんな」
「みんなで飲もうぜぇおい〜」
テスは袖口で後ろに隠しているものがあった
花束だった
BHCのみんなの話し合いで
ラストに、客席のある人物に渡すことになっていた
なにも知らされていない闇夜は
テソンに”今回だけ最前列に座って見て”と言われ
しぶしぶその席に座っていた
「B息ダンスいきまーす!」
進行スタッフの声が響き
最初の曲、スティングの「The Lazarus heart」が流れはじめた
♪1.The Lazarus heart
B息☆スタンバイ 妄想省家政婦mayoさん
BSHCのおかしな奴らのおかげで俺の腹の筋肉がまだヒクついている時
携帯がぶるぶると俺を揺らした..
テスだった..俺はホールを出て携帯を開いた..
「ちぇみぃ〜」
「ん〜どうした...」
「B息そろそろ始まるからさ..こっち来て..」
「ぉ..ん..」
「B息終わったらすぐあんどれ先生んとこ直行だからさ〜」
「そっか..」
「パルリ〜##早く来ないと..また闇夜に怒られるよ#ぷっ!」
「テスぅ^^;;」
「早くねっ!」
「ん...わかった..」
舞台の袖はBHCの連中がたむろっていた..
俺が袖の邪魔にならない場所に待機しているとテスが俺の姿を見つけ寄ってきた..
「闇夜は?」
「ぅん?..あそこだよ→→」
俺が..ん?..っとテスを見ると笑いながら俺の耳元でこそこそ言った..
テスが顎で指した方を見ると客席の最前列真ん中にぽつんと座っている
「はは...そうか..よくあそこに座ったな..ごねただろ..」
「ぅん..テソンさんに言われて渋々ね..」
「ぷっ..そうか..」
客席の闇夜は所在なさげでちょっとアヒルの口で目だけきょろきょろしていた..
B息のスタンバイにメンバーが袖に集まった来た..
圧巻だった..
そうだよね..み〜んな同じ顔だったんだ..
ピチピチの色気のある..ドンジュン..ギョンビン..
いつも弾けてて見てるとゲンキになる..テプン..チョンマン..シチュン..
いつも和みをくれる....ジュンホ..やっと帰れるね#
えっちで危なっかしいけど憎めない..ラブ..
いつも早く来て掃除してた..ウシク..
ぐるぐるの渦から抜け出せた..イヌ....ウシクの対面あるんだよね..頑張って#
いつも無理な注文ばっかでごめんなさい..テジン..
もう逃げちゃ駄目だよ..スハ..
どんな奴の面倒も最後まで見てしまう..イナ..
イナに絡んで..メンバーに絡んで幸せになっていく..ソク..ギョンジン..テジュン..
傍によると緊張する..スヒョン..ミンチョル..きっとずっと苦手だろう^^;;
みんなのがやがやした声が頭ん中でこだましていた..
みんなの愛や悩みが頭ん中でぐるぐる旋回していた..
みんなの泣いたり怒ったり..どれだけ見てきたか..
そして隣にはいつもいつも....テソンがいた..
私がぼぉーっとしているとテソンが肩を叩いた..
「どうした?」
「ぅん..一気に集まると..すごい..」
「はは..ぅん..mayo..」
「ん?」
「B息は客席最前列で見ること..いいね..」
「えっ?..やだよ..ここでいい..」
「駄目だ..」
「あんなとこ..落ち着かない..」
「駄目っ##..」
テソンは語気を強めると怖い..
私はテソンに背中を叩かれのろのろと..渋々..客席に座った..
ジュンホのB息スタンバイ れいんさん
ぼくたちBHCのしょーも、もうすぐおわります
みんながぶたいそでにあつまって、
らすとの、うたとだんすのすたんばいをしています
こうしてみると、あっかんです
みんな、からだのはばや、かみがたや、せいかくはちがうけど
ぼくもふくめて、きほんてきにおなじかおです
ぼくのきずはたいしたことはありません
すこしやすんでたら、げんきになりました
いなさんに「かおがはれてる」っていわれたけど…
めいくなんてとんでもないです
あ、あとで、ぼくのかわりにしゃどーぼくしんぐにでてくれた
そぬさんってひとに、おれいをいわなければいけません
あのひとも、おなじかおをしてるけど
はえぎわをみればみわけがつきます
まつりのあいだに、みんないろいろあったみたいです
あいかわらず、にぎやかでげんきなのは
てぷんさんとしちゅんさんとちょんまんさんです
まつりがおわったら、ぱあーっとのむぞ…なんててぷんさんがいってます
ぼく、おさけはよわいんだけど…
むりやりつれていかれそうな、いやなよかんがします
でも、さいごくらいいいかな…
てそんさんは、きゃくせきのやみよさんをきにしたり
てじんさんやすはせんせいを、ちらちらみたりしています
いつも、まわりのひとのことをきにかけてる、やさしいひとです
たじゅうじんかくなんかじゃないです
てじんさんとすはせんせいは、おたがいをちらちらみたり
めをふせたりしています
なんなのでしょうか
いいたいことはぶっちゃけてください
すひょくさんは、そくさんをみてほほえんでいます
あのいしょうをきているそくさんをみたら、だれでもほほえみたくなるとおもいます
いなさんとらぶさんとぎょんじんさんとてじゅんさんの4にんには
なにかびみょうなくうきがただよっています
4にんで、ぐるーぷこうさいしているのでしょうか
ぎょんびんさんとどんじゅんさんとすひょんさんとちーふの4にんは、
ぐるーぷこうさいとはとてもいえない、ぴりぴりむーどがあります
くわしくせつめいすると、ぎょんびんさんがいちばんぴりぴりしています
どんじゅんさんは、ぎょんびんさんをみたり、すひょんさんをみたりして
しんぱいそうな、こまったかおをして、ときどきためいきをついています
すひょんさんは、めをとじて、かべによりかかったりして、わりとおちついているようにみえます
ちーふは、ぽやんとしているようにもみえるし、
いそがしそうにもみえるし、だんすをいやがっているようにもみえます
はっきりいって、よくわかりません
すこしはなれたところに、むーむーをきているあじゅんまが、すうにんいます
こがらでしょうひんなかわいらしいひともいれば
いけいけでごーじゃすなかんじのひともいます
みんなくちぐちに、「しゃる・うい・だんすは、よかった」だの
「ざりがにには、てをやいた」だの、「みんに、しっしん」だの
「かふんしょうが、あっかした。」だの
「しゃこうだんすのせんせいは、いけめん」だの、にぎやかです
ときどき、BHCのめんばーをみては、めがはーとになっています
すみませんが…おしずかにおねがいします
さあ、いよいよでばんですね
そにょんさん、もうすこしまっていてくださいね
さいごまで、ぼく、がんばります
らりるれ… オリーさん
はひぃぃぃん…
ミンの機嫌がすごく悪いのら
きっと僕のダンスがすっごく上手だったから妬いてるのら
だから慰めてあげたのら
あれはスヒョンのリードが上手だったから、
だからうまくいっただけらよ、って
そしたら、ますます目がつり上がっちゃったのら
はひぃぃぃん
ろうしよう…
ましゃか…あのはずみのキス、ばれたのかにゃ
れも、ミンだってドンジュンとキスしてたのら
だからフィフティフィフティなのら
あっと留学時代の癖が出ちった、つい英語が
五分五分ってことらよ
知ってる?あ、そう
それにあれははずみだっていうことでなかった事になったのら
心配ないのら……たぶん…
祭はやっとB息まできたから、あともう少しなのら
でもって後はスヒョンとお酒飲んでお話すればいいのら
でも何でスヒョンとお話するんだっけ?
えっっと、そうそうドンジュンに頼まれたんだ
スヒョンが僕のこと好きらから、お話してあげてって
スヒョンが僕のこと好きらって…
でもスヒョンは天使だからみんなのこと好きなんらよ
何で僕らけ、お話しなくちゃいけないのかな…
スヒョンにはドンジュンがいるじゃないか
変なドンジュン、ちょっとカン違いしてるかも…
それにしても、ミンなのら
機嫌が悪いのら
知らない人が見ると、精悍だとか、男らしいとかに見えるらしい
でもありは単に機嫌が悪いらけなのら
僕にはわかるのら
ちっとご機嫌直してもらおうと、ちうしてあげようとしたら
今はいい、とかつっぱねられちった…ちぇっ
仕方がないから、お手手を握ってあげたのら…
したら、今はやめて、とか言われちった…ちぇっ
なんでご機嫌ななめなのかな…
仕方ないから、B息の指示でも出そうっと
したら、イナの奴、僕にも踊れとか、いばったのら
いやな奴
ふらふらしてるくせに、こういう時だけ僕につっかっかるのら
れも、スヒョンがみんなのまねすればいいからね、って
やっぱりスヒョンは優しいのら、らって、天使らもの
あり?またミンの目がつり上がったのら…
ろうしてらろう…
最近、なんらか立場が弱いのら…
らから、久々にらりるれっちったのら
はひぃぃぃん…
【59♪ホスト祭りメインテーマ「愛は勝つ」 全員大合唱】ロージーさん
ひとり言大会 アジュマR 匿名希望さん
いったいどうしてこんなことに…例の歌詞も見つからないみたいだし…それにしても「フラ」なんて踊ったことないのに…
だいたいこの衣装…小柄で胸のありすぎるワタクシには不利だヮ!…せっかくライトを浴びるからには納得のいくもので極めたくってよ!
もっとこう…トップスはボディラインに添ったもので…スカートは膝が見えるくらいで生地をたっぷり使ったティアードかなんか…
まぁ…いまさらどうこう言ってもはじまらないヮ…往生際がいいのがワタクシの取り柄ですもの…けど…
さっきのチュニルさんすてきだったヮ…あれだけでもここにいる意味があるってものじゃなくって?…
それに…向こうに居るあの子達…近くでみると想像を絶する美しさネ…他の皆さんは口を開けて見てらっしゃるけど…
私はちょっと斜(はす)に構えて少し俯いたりなんかしちゃおう…そのほうが細くみえるし…目立つもの…それにしても衣装が…ちっ!…
よくってよ!…パーティーの時には…思いっきり極めてみせる…それから…「ごーじゃすでいけいけ」ってわたくしのことかしら?…
ウフンそれに…「きゅーとでみすてりあす」ってのも付け加えてくださる?…なにしろ…暗いところだとまだ三十半ばで通るんですもの…
誰も知らないと思ってって?…いいえわたくしは正直者ですことよ!ほ〜ほっほほっほほ…
Aさんも…わたくしがこうも見事に餌に食いつくとは思ってもみなかったんじゃなくって?
…次はあなたよ…カモン!…猫なんかかぶったら承知しなくってよ!…
B息 後悔 足バンさん
スティングの歌に合わせて僕は飛び出した
次にギョンビン、ラブがつづく
アップテンポの曲に身を任せているけど
僕の心は地の底を這うような気分だった
ー僕はスヒョンと約束があるから
なんでもなさそうにミンチョルさんがそう言ったとき
僕はいきなり猛烈に後悔した
ふたりに時間を作ったことを、じゃない
スヒョンがとても傷つくんじゃないかと思ったから
僕はスヒョンに自分の気持ちと向き合ってほしかった
そしてその上で僕を選んでくれることを願っていた
もし選んでもらえなかったら
その時は僕はその地獄に耐えるしかないって、
それでもスヒョンの気持ちにケリをつけてほしかった
でも今になって後悔してる
スヒョンがミンチョルさんにばっさり切られたら…
ミンチョルさんとギョンビンの強い繋がりを知っていながら
僕はスヒョンにひどいことをしてるんじゃないの?
スヒョンが封じようとしていた気持ちを
ただいたずらにえぐり出してるんじゃないの?
スヒョンのためとか言ってて
本当は自分の自己満足のためなんじゃないの?
自分が納得したいための偽善なんじゃないの?
おまえの気が済むなら…そう言ったスヒョン
僕の心臓はきりきりと痛み出した
ー僕はスヒョンと約束があるから
ミンチョルさんがそう言ったとき、ギョンビンがびくんとした
ギョンビンはミンチョルさんたちのダンスの後
ずっと表情が硬い
「ギョンビン…大丈夫だよ…」
「ん?」
「ミンチョルさんは…大丈夫だよ…」
「そんなことわかってるよ」
「そうだよね…ごめん…」
僕はなんだかとても惨めな気分になって俯いた
しばらくしてギョンビンはそっと手を握ってくれた
「スヒョンさんも…大丈夫だよ…」
「…」
「そんなことわかってるって…言いなよ」
「うん…」
ギョンビンは優しい目をしてた
それでも僕は言えなかった。わかってるなんて
スヒョンを見た
指示を出しているミンチョルさんの横でぼんやり舞台の方を見ている
不意にスヒョンが振り返って僕を見た
僕がよほど元気のない顔していたのか、
スヒョンは首を傾けてクリっとした目で笑いかけた
僕は笑ったつもりで顔を引きつらせただけだったかも
曲が始まって僕は飛び出た
とにかくこのステージを終えなくちゃなんない
メンバーが次々とステージに飛び出してきてランダムに立つ
僕は一番左端の後ろ側に立っている
なんとなく前に出たくなかった
イナさんがじゃらじゃらさせたGジャンで飛び出して
次にタキシードのスヒョンが…
スヒョンが…
ミンチョルさんの手を引っ張って出てきた
全員が揃ったところで簡単なステップを合わせて踊る
ミンチョルさんは緊張してるのか照れてるのか
スヒョンのステップを見ながらついていってる
スヒョンはミンチョルさんの動きを気にしながら教えるように踊ってる
僕は夢中で踊った
フリなんか間違ってるかもしれないけど
そんなことどうでもよかった
こぼれてくる涙はごまかして拭った
【60♪守ってあげたい byドンジュン】ロージーさん
Fear オリーさん
僕は黙って待ってればいいんだよね
そしたら、僕のところへ戻ってくるよね
僕は信じていればいいんだよね
そしてら、僕のところへ帰ってくるよね
わかってるけど…
僕達は会った途端お互いを選んだはずだよね
少なくとも僕はそう信じてる
あなたもそうでしょ……
でも、でも
あんな風にあの人とステップ踏んだりしてると、
僕の自信はたちまち嫉妬にかわってしまう
こんな気持ちは初めてだよ
自分の気持ちをコントロールできないなんて
どうすればいいんだろう
僕は今とてもひどい顔してるでしょ
だからあまり見ないで
もし他の誰かだったら僕はこんなに心配しないよ
相手があの人だから僕は…
だって僕以外にあなたが甘える人はあの人だけ
あなたは気づいてないでしょう
あなたはあの人にいつも助けられて
だから、ほんとはあの人のこと…
僕はあの人にはかなわない
だって僕にあなたを頼むって
平気な顔して言える人なんだよ
かなうはずない
僕にはできないもの
馬鹿だなあ、ミンは
そう言って戻って来るよね
心配しなくていいんだよ
そう言って帰ってくるよね
僕にまた甘えてくれるよね
僕をまた愛してくれるよね
他の誰かじゃ僕はだめだよ
かわりは誰にもつとまらない
あなたじゃないと僕はだめだよ
だから戻ってきてくれるよね
だから帰ってきてくれるよね
でも…
僕は今とてもひどい顔してるでしょ
だからあまり見ないで
【61♪嘆き byミン(JSAリードギター)】ロージーさん
見つめていたい れいんさん
僕は一人部屋に残された
体の力がいっきに抜けて呆然と立ち尽くしていた
「迷惑なんだ!」…彼の言葉が耳に残る
胸が張り裂けそうだった…
僕はさっきまで彼と寄り添い座っていたソファに腰を下ろした
そして彼の背中を抱きしめた温もりを感じていたくて
その手で自分を抱きしめた
さっきの彼は…どこか…悲しげだった
ひどい言葉を僕に言ったけど…
確かにあの時…彼の背中は泣いていた…
僕は彼の言葉の一つ一つを思い出した
僕を不幸にしたくないから…
僕を迷わせたくないから…
僕を苦しめたくないから…
だからわざと僕を傷つけたのですね
優しいはずの彼がなぜそう言ったのか、僕にはわかった
彼の僕への想いが、今、初めてわかった
愛してるとは言ってくれない彼の心が…
痛いほどにわかった
僕は両手で顔を覆い、声をころして泣いた
愛していたいだけなのに…
見つめていたい…それだけなのに…
残された時間はあとわずか…
つけっぱなしのラジオから流れてくる悲しいメロデイが僕の胸を締め付けた
♪〜Every breath you takeEvery move you make 〜♪
♪10.Every breath you take(見つめていたいbyポリス)
スハが姿を見せるまで、僕は内心気が気ではなかった
ひどい言葉を投げつけて、部屋を出てからずっと心がざわついていた
僕はスハを傷つけた…
苦い後悔が僕の中で渦巻いていた
「スハが来たら声をかけてくれないか」
テソンにそう頼んだ
テソンは何も聞かずに「わかった」と言ってくれた
テソンの気遣いがありがたかった
僕達がスタンバイしてるところに遅れてスハがやって来た
僕はちらりとスハを見た
一人で泣いていたんだろ?
目が潤んでいる…
テソンが何事かスハに話しかけてくれている
テソンに促されて、スハが皆のところに近づいた
スハ…大丈夫か?
スハ…アシストちゃんとできるか?
スハは落としていた視線をゆっくりと僕に向けた
僕とスハの視線が交錯する
僕を許さなくていいんだよ
僕を憎んでいいんだよ
憎んで…そして…忘れてくれ
だけど、スハの瞳は優しかった
優しい瞳で僕を見つめ、そしてぎこちなく微笑んだ
おまえをひどく傷つけたこの僕に、なぜ優しく微笑みかける?
まだ僕を愛してくれてるの?
僕の中にいるスハは僕の中でどんどん大きくなっていく
僕の心はスハに埋め尽くされていく
愛してると口にすれば僕は楽になれるのだろうか
離したくないと口にすればスハの笑顔を見られるのだろうか
祭りが終わってしまったら、僕は大切なものを失くしてしまうのだろうか
僕はまだ答えを見つけられずにいた
B息…ラブ ぴかろん
最後のショーだ
BHCのみんなが参加するショー
俺は背中にイナさんとおじさんの視線を受けて舞台に飛び出した
ドンジュン…元気ないな…
笑顔を作ってるけど今にも泣き出しそうに見えるよ…
俺に笑ってろって言ったくせに…
いつも皆を明るくリードする君がそんなんじゃ…
そんな隅っこに立つなんて…
ギョンビンは張り詰めてるね…
おじさんとおんなじ顔だから余計に緊張しちゃうよ、俺
スヒョクは、緊張してるけど、さっきから何度かソクさんのヘルプしてたから…
それにソクさんにキスしてもらってたから…一番幸せそう…
よかったね
お前いつも何かに怯えてたもん…
俺は…
俺は…
真っ直ぐ客席を見た
俺は…おじさんが好きだ
たとえおじさんが俺を見てなくても
俺は…おじさんが好きなんだ…
それだけは変わらない
変えられない
どうしようもないもん…
おじさんがイナさんに惹かれるように
イナさんがテジュンさんを愛していながら浮気するように
俺もどうしようもなくおじさんが好きになってしまったんだ
そんな
すぐに
気持ち
変えられない
客席の中にテジュンさんの顔が見えた
優しい顔
ほっとする…
俺はテジュンさんににっこり微笑んで、テジュンさんにだけ解るように小さく手を振ってみた
テジュンさんは、口元を手で覆って俯いて笑い、そしてそぉっと右手を上げて指をひらりと動かした
その指がとてもきれいで
その指で背中を撫でられたらどうなっちゃうだろう…
なんて一瞬想像した
そして後ろを振り返ってイナさんとおじさんの方を見てみた
まだ袖にいるイナさんは、俺が舞台に飛び出したのをいいことにまた…
おじさんの唇に吸い付いてる…
俺はもう一度テジュンさんの方を向いて
テジュンさんにだけ解るように唇をすぼめてキスを届けた
テジュンさんはゆっくりと微笑んで、そして一瞬目を閉じた
受け取ってくれた?
あの二人はまたキスしてるよ…
テジュンさん、いいの?
俺、テジュンさんがいてくれるから、随分気持ちが落ち着いたよ…
ありがと…
平気じゃないけど
俺には秘密があるんだもん…
だから…
耐えられるもん…
やがてイナさんが舞台に飛び出してきた
一瞬前後にすれ違った
俺はイナさんを意識したけど、イナさんの神経は客席のテジュンさんに向けられていた
後ろに行くとおじさんの視線を感じた
でも俺はおじさんを見なかった
そのかわり、客席のテジュンさんを見ていた
イナさんは、テジュンさんに思いっきり手を振っている
さっきまでおじさんとキスしてたくせにな…
テジュンさんは『しょうがないな』という顔をして
でもとても優しい瞳でイナさんを見つめて、顔をくしゃっとした…
イナさんは…愛されてる…
…
でも俺には
秘密があるんだもん…
だから…
耐えられるんだもん…
ふっとため息をついたとき、一瞬ドンジュンと目が合った
みんな何かしら心に抱えてるモンがあるんだね…
俺だけじゃないんだね…ドンジュン、ギョンビン
それに…スヒョク…
俺は唇を噛みしめてからだを揺らしていた
一度もおじさんの方を見なかった…
【62♪ストリッパー byラブ(JSA ドラムス)】ロージーさん
B息 狭間 足バンさん
曲にのってメンバーが次々と舞台に飛び出していった
最初に出るドンジュンに声をかけようとしたが
ドンジュンは僕の顔を見ずに通り抜けていった
続くギョンビンは僕をちらりと見て、そしてミンチョルを見て出ていった
「ミンの機嫌が悪いんだ」
ミンチョルは僕の顔を見ると小さな声で
そう言ってため息をついた
僕はかなり…かなり驚いて思わずミンチョルを見つめた
「おまえ、理由わからないのか?」
「いや…おまえとその…アレしたことでもバレたのかと…」
「…」
僕はしばらくミンチョルを見つめて、そして俯いて笑ってしまった
「なにがおかしい」
「いや…べつに…」
僕はなんとか笑いを押しとどめ、
笑われて不愉快そうにしているかわいい男の耳元に囁いた
「そんな状況で本当に僕とふたりになっていいのか?」
「それはかまわないんだが…」
「帰さないかもしれないよ」
「え?」
「それでもいいの?」
「…それは…ミンに怒られる…」
その本当に当惑したようなミンチョルの顔に、
僕は不覚にもまた吹き出してしまった
まったく…手のかかるやつ…
ミンチョルがいきなり恐い顔をしたのでその視線を追うと
イナがギョンジンに抱きついて吸いついていた
ミンチョルが思いきりイナの頭をはたき「行けっ!ぶぁかっ」と言った
イナがブツクサ言いながら舞台に出ていった後
急に弱気になって立ちすくんでるミンチョルの手を
強引に引っ張って舞台に出た
本当に手のかかるやつ
全員が揃ってステップを踏む
練習のつめが甘かったように思ったが、そこそこ揃っていた
ミンチョルも舞台に出て吹っ切れたのかリズムにノッている
ドンジュンは一番端で曲に身体を合わせている
リハーサルでは一番前で飛び跳ねていたのに
おまえ…なんて顔で踊ってるの
練習通りのステップ
サボるだのなんだの散々勝手なこと言って、
なのに意外とちゃんと憶えてたりする
おまえはそんなやつ
なんでもとにかくとことんやってみる
結果が出るまでやってみる
好き勝手やって
真面目で真っすぐで、うそのつけないやつ
だから傷つくときも半端じゃないでしょ?
そんなおまえに、ごまかしなんか通用しないね
おまえも…なんて手のかかるやつ…
曲が「ラブ・マシーン」に変わり、何色ものライトが一斉に走る
決められた順に前に出て一列になる
ドンジュン、ギョンビン、ラブ、スヒョク
今日ひときわ妖しいオーラを放つ4人が歌い踊る
♪なんだか もったいない みんなホントNICE BODY、EYES and MOUTH
みんなに 見せましょう タダじゃない じゃない …
B息…ギョンジンの不安 ぴかろん
僕はラブの肩に手を伸ばした
ラブに触れていいのかどうか迷った
廊下に出ていたというラブは、なんだか吹っ切れたような余裕のある表情をしていた
イナが僕達のキスの事を言った時も、フッと笑って下を向いて、怒ったりしなかった…
少し、心がガタついた…
僕の手が伸びきる前に、僕はミンチョルさんの指示を受けた
スハさんと一緒に最後にマフラーでみんなを一くくりにする役目を与えられた
僕は
祭が終わった後
本当にBHCに行くのだろうか…
僕の不安な顔をイナは見逃さない
僕の手を握り締めて小さな声で「ばか」と言った
「馬鹿って言うなよ…」
「行くとこもないくせに迷うな」
「…」
「ばかなんだから!」
ラブはもう舞台の方を見ていた
そして音楽にのって飛び出していった
ラブは
若いから
何でも跳ね返す力があるのかな…
僕は
ラブが言うように
やっぱり「おじさん」なのかな…
いろんなことがこの二日間で僕の中を通り過ぎて行って
気持ちが揺れすぎて
何が正しいことなのか判断がつかないでいる
昨日までの僕は
弟の事で頭がいっぱいだったのに
今日の僕は
イナと…ラブと…僕が傷つけてしまった人たちの事で
パンパンに膨らんでいる
人を見るたびに、僕は小さな混乱を繰り返している
そしてそのたびに
イナは僕を助けてくれる
ラブも…
ラブは何も言わないけど
きっと僕の気持ちを感じ取ってくれているんだろう…
だから
自分の気持ちを抑えて
僕をイナの元へ行かせてくれているのだろう…
違うかな…
そんな風に望むのは
僕には過ぎたことなのかな…
ごめん
僕は今
僕の事で精一杯で
お前の気持ちにまで対処できないでいる
ごめん
思わせぶりな事ばかりして
お前を惑わせているよね…
なのになんでそんなに
お前は僕を受け止められるの?
僕は
イナと
キスしたんだよ
なんで
怒らないの?
どうやったらそんな風に
悠然としていられるの?
僕はいつも…ずっと今まで
いつもいつも余裕なく生きてきたように思う
僕はいつも…ずっと今まで
いつもいつも自分の事ばかり考えてきたんだと思う
お前のように
イナのように
他人の事まで考えられなくて
情けない…ごめん…ごめんなさい…
他人の事…
そうだ…
僕はまだスハさんに謝ってなかったんだ
「謝らなくちゃ」
僕の呟きと、僕の視線の先を見て
イナは僕の手を離した
「気が済むようにしてこいよ」
…どうして僕の心がわかるの?
お前は…凄いね…ほんとに…ありがと…
イナから離れてスハさんの前に立った
スハさんはぼんやりとマフラーを持って突っ立っていた
「あの…スハさん」
「…」
「今朝は…申し訳ありませんでした…。あの時僕はどうかしてました…。貴方に嫌な思いをさせてしまって…」
「…は?…」
僕に向けたスハさんの目は、心ここにあらずといった風で、多分僕の言葉なんて耳に入ってなかったのだろう
僕は同じ事を繰り返した
スハさんはため息をついて一言だけ言った
「構いませんよ…気にしてない」
軽い威圧感を感じた
朴訥とした、人の良さそうなスハさんの朝の印象とは違って、なんだか思いつめたような空気が僕の前にあった
「でも…僕…あの…祭の後BHCに行くことになって…それで貴方とテジンさんにまだ僕の非礼を詫びてなくてそれで…」
「すみませんが…僕は今、貴方の話を聞きたくない」
「は…」
「…BHCに来るのなら、BHCでゆっくり話を聞きます。今は…一人にしておいてください」
「…す…すみません…でした…」
柔らかな、でもきっぱりとした拒絶
簡単に許してもらおうなんて思ってなかったけど
この、一番情に流されそうだと思っていたスハさんに、こんな風に拒絶されるなんて…
思ってもいなかった…
僕はスハさんに背を向けた
少し先にテジンさんがいたけど
僕はもう
彼に謝る勇気が残っていなかった
ほら
僕はやっぱり自分の事しか考えられない
拒絶されて当たり前なのに
いざそうなると、傷ついた自分の心を
どうしていいのかわからない
僕はこんなにも弱かったんだ…
「気が済んだか?」
イナの顔がぼやけている
また僕は泣いているのかな…
イナの手が僕の頬を撫でる
「…イナ…僕…本当にBHCに行っていいの?…」
「あたりめぇだろ?!」
「…スハさんは許してくれてない…」
「一発で許されるわけないじゃんか!大体、今でなくてもいいだろ?謝るの…」
「でも…」
「スッキリしたかった?…それはお前の都合だよな」
「…僕の…」
都合
そうだ
僕の都合だ
スハさんの都合なんて
考えてなかった
イナに言われてやっとそんな事に気づく僕
「泣くなよ…」
イナが涙を拭ってくれる
その優しさにまた僕は甘える
こみ上げてくる涙と、自分に対する情けなさが
僕から言葉を奪う
何も言えずにただからだを引きつらせて泣く僕を
イナはそっと抱きしめて
またキスをしてくれた
こんな僕に
どうしてここまで心を砕いてくれるのか…
「んふ…このチュウはおまけのチュウ…今から俺、出なきゃいけないでしょ?…気合入れなきゃさ」
ふざけてそんな事を言うけど
本とは僕を慰めるためのキスなんだろ?
もう一度僕の唇を捉えて、イナは目を閉じて切なそうな顔をした
ぱちん☆
「行け!ぶぁか!」
目を吊り上げたミンチョルさんに頭を叩かれて、イナはぶつくさ言いながら舞台に出て行った
ラブとすれ違うイナを見た
そしてラブを見た
ラブは決して僕を見ようとはしなかった
B息…軽い衝撃 ぴかろん
俺はミンチョルに頭を叩かれ「ぶぁか」と言われ、舞台に出た
てめぇも出ろよ!一人でよ!
いや
一匹で出ろよ馬鹿!
クソ狐め、威張りやがって!
ふんっ
ギョンジンを慰めてただけなのに…ふんっ
舞台に出て客席を見た
あ〜
てじゅ〜
俺は思いっきり手を振った
てじゅはかおをくしゃってしてくりたでへへ…
しゅき…
やがて音楽が変わって、ガキども四人組が前に出た
スヒョク、踊れるのか?
ソクの舞台をかぶりつきで見てたからってそうそう踊れるもんじゃねぇだろう…
と思ってたら…
匍匐前進だ…
そだよな…お前、それで舞台に立ったんだもんな…
それにしても見事な匍匐前進だ…
ワニみたい…
それを妨げないように後の三人がクネクネお色気ダンスしてやがる
ギョンビンとドンジュンは、さっきみたいに絡んで腰振って…ヤバイだろうが…
顔つきがさっきとは全然違うな…
ギョンビンは怒ってるみたいだしドンジュンは泣き出しそう…
それに
立ち位置がさっきとは逆か…
ドンジュンの腰を支えてギョンビンが後ろに立ってて
それで怒った顔してドンジュン泣かせてるって見えるじゃねぇかっどすけべぇ☆
まいるな、あいつら…
そしてラブ…
相変わらず色っぽいの…
両腕で頭を挟み込んで客席に色っぽい顔を見せてるんだろうな…
あいつ見てると…ザワザワしちゃう…
てじゅ…
こんばん
だいてほしいにゃ…
ラブの奴は頭を挟んでた腕を上に上げて手を組み、両腕を客席に向け、両手で作ったピストルで、バーン☆
かっこつけてやんの…
誰か撃たれたってことね?
誰を撃ったのよ
俺は、何の気なしにテジュンを見た
視線が前の四人に注がれている
いや…ラブに注がれている
そしてその片方の目が素早く閉じられたのを
俺は見逃さなかった
ウインク?
ラブに?
なんで…
いや…見間違いだよな…
でもテジュンの視線はラブから離れず、その顔はゆっくりと微笑みを作った…
ざわ…
ざわざわ…
なにこれ…
なんで…
その目…なにさ…テジュン…
どこ見てるのさ…
俺、ここだぞ!
方向が違うだろ?!
違うじゃん…
なにさ…
俺は急に不安になった
四人の踊りが終わってテプン・テソン・テジンの踊りが始まる
テジュンの目は満遍なく三人を見ている
さっきみたいな集中力はない
さっきのあれ…なに?
俺の頭からテジュンのウインクが消えない
俺へじゃなくてラブへのウインクが…
シチュン、チョンマン、ジュンホが出て踊り、続いてウシク、イヌがしっとりと踊る…
そしてスヒョンとミンチョルが手を取り合って前に行き、俺はその間を割って入るはずだった…
1拍遅れてしまい、スヒョンがチラリと俺を見た
批難するように…
俺が遅れると、リズム感の悪い、不器用な、威張りんぼの狐が、ずーっと音を外すから気をつけてくれと何度も念を押されていたのだ
もちろんスヒョンはただ「ミンチョルがうまく踊れないといけないからタイミングずらすなよ」と言っただけだが…
外してしまった…
それでもリズム感の悪い、不器用な、威張りんぼの狐は、天使にリードされて音楽に乗って楽しそうに踊っていた
俺の顔はきっと強張っているに違いない
テジュンの方を見たくても見れない…
「どうした?イナ…」
「足でも痛いのか?」
コソコソとスヒョンとミンチョルが俺に声をかける
ああ、いけない…舞台だった…
俺は気持ちを立て直して笑顔を作って踊った
といってもテコンドーの型なんだけどさ
テジュンの顔が目に入った
テジュンは優しく微笑んでいる
いつもの顔だ…
ねえ…
さっきのアレ…
俺の見間違いだよね…
お前
目にゴミが入っただけだよね…
今度はテジュンから目が離せなかった
ずっとテジュンを見つめていた
俺はどんな顔をしてたんだろう…
テジュンは最初ニコニコしてたのに
『どうしたの?』
って聞きたそうな顔になってきた
そうだよ…やっぱり見間違いだよ…
後ろめたさなんか微塵も感じられないもの、テジュンに…
俺はもう一度笑顔を作って
テジュンに向かって口の形を
『しゅ・き』
と動かした
テジュンは…ふっと笑ってウインクした…
さっき見たのと同じように…
B息 フィナーレ 足バンさん
♪暑けりゃ 脱いだらいい 寒けりゃ 強くhug hug hug hug
誰にも わからない BHCってどこにあるのかしら ダイナマイト BHC ダイナマイト
どんなに 不景気だって BHCはインフレーション
こんなに サービスされちゃ きちゃう きちゃう
明るいBHCに 接客希望だわ〜
BHCの未来は wow wow wow wow
みんなが羨む yeah yeah yeah yeah
恋をしようじゃないか wow wow wow wow
Yeah〜 Makin' love all of the night!
観客は売り上げNo.1の店の華やかなフィナーレを堪能していた
メンバーが入れ替わりながらダンスを披露し
まばゆいひかりの中を駆け抜ける
それぞれが、それぞれの想いを抱いて
これからの自分や、愛する者の未来を想い描いて
スヒョン、ミンチョル、イナが最前列に出て踊り終えると
そのままのフォーメーションで動きを合わせステップ
そしてエンディングにはいる
全員が舞台中央に寄り、
同時に袖からギョンジンとスハが長く繋がれたマフラーを持って登場する
スハが舞台右寄りで一方の端を持ち静止
ギョンジンがメンバーの回りを1周回って、
その端を持ったまま舞台左寄りに静止
メンバーはその間手を打ち歌う
会場も一緒になって手拍子をおくっている
♪BHCの未来は wow wow wow wow
みんなが羨む yeah yeah yeah yeah
恋をしようじゃないか wow wow wow wow
Yeah〜 Makin' love all of the night!
曲が終わった瞬間、全員が真っすぐ前を向いて立ち静止
全てのスポットライトが落とされ、
白くひかるバックスクリーンの前に全員のそのシルエットが浮かぶ
満場の拍手。ブラボーの声
再び舞台が明るくなると、ギョンビンとスハはゆっくりと交差して
メンバーを囲んでいたマフラーが解かれる
一歩進み出たミンチョルが袖に向かって合図すると
テスが歩み寄りミンチョルに花束を手渡した
ミンチョルは受け取った花を持ったまま客席に目を落とし
そのままゆっくりと舞台横の階段を下りた
最前列に座っていた闇夜はなにが起こっているのかわからず
ぽかんと口を開けている
闇夜の前に立ったミンチョルはちょっと咳払いをした
「いつもありがとう」
小振りだが野の花をアレンジした花束は派手を嫌う闇夜によく似合った
午前中に急遽テジンが買いに走ったものだった
「花粉の少なそうなものを選んでもらった」
ミンチョルがいたずらっぽく笑うと
闇夜は固まったままその小さな贈り物を受け取った
舞台ではメンバーみんなが微笑んで見ている
そしてテソンは人一倍愛情のこもった目でその光景を見つめていた
客席からおこった優しい拍手に
闇夜は自分らしくもなく涙をこらえることができなかった
店のために走り回った労が報われたような気がした
ひたすら突っ走ってきたけれど、
愛するメンバーのためになにかができたんだと
そのとき初めて実感できた
こぼれた彼女の涙とともに
B息の舞台は静かに幕をおろした
アジュマP の呟き ぴかろん
歌詞がないと思っていたら、いつの間にかあったわ…
どうしよう…この歌詞にどうやって振りを…
って一応練習していたんだったわ
でも練習の時にはまだ歌詞はなかったのよ
だから適当に手をひらひらフラフラしてたのよっ!
泣いちゃうわ…踊りながら泣いちゃう…そしてニヤけちゃう…
らって、らって
「僕の唇」
って…
ひひーん
いけない、馬になっちゃいけない!
私はザリガニにならなくては…おほほほ…
とにかく「笑顔」が大切ね
お肌の具合とか皺とかは厚化粧でカバー…
ええ、同い年のミミさんが懇切丁寧にメイクをしてくれたし…(意外に面倒見がいいのね…)
着付もチュニルの兄貴がしてくれたし…
あとで玉露でも贈りましょう…
おほほほ
あの子達が同じ顔で一塊になっている舞台ってスゴいものよぉ〜
見たいでしょ
いい匂いよぉ〜
おーほほほ
幸せそーな子もいれば、苦悩してる子もいるし、そわそわしてる子もいるのよっおほほほ
よりどりみどり…だけど見てるだけで幸せ…
この子たちへの愛をこめて、わしら、頑張ってフラフラ踊るだす〜
れっつごー!
アジュマOの呟き オリーさん
ちっ!
どうしてこうなのかしら!
せっかくデビューできると思ったのに、さっきから鼻水たれまくり
花粉症の鼻水ってね、粘着性がないのよ
だから出たら最後、つーーーーーーっと垂れちゃうの!!
文字通り垂れ流しよ!
もうメイクも何もあったもんじゃないわ
あっちでド派手なミミさんにド派手なメークしてもらってるオバサンがいるけど、
ちっ!あたしゃメークもできゃしない
こうなったら奥の手だわ、ティッシュ丸めて突っ込むしかないわね
まさか、踊ってる間に取れたりしないわよね…
念のためちょっと多めに突っ込むわ
おまけに、昨日捻挫したのよ!
信じられないくらい痛かったわ
しばらく廊下でのた打ち回ったの…かわいそうでしょ…
自分の履いてたスリッパ踏んづけて足がからまって倒れたなんて、
一生の不覚だわ
あんまり痛かったからそのまま昼寝しちゃったじゃない
え?
昼寝と捻挫と何の関係があるか、ですって?
大ありよ
嫌な事があったときは寝るのよ!!!
あなたそんなことも知らないの?
足首がゾウさんになっちまった…ちっ!
おかげでパソの前に座るのもちょっち大変
まいったわよ…
そうでなくても踊りは苦手なのに
とにかく、鼻にセンして、足をかばって、
がんばるっきゃないわ!!!
それにしても、あの闇夜とかいう人、いいわね
どうしてキツネから花束もらえるの…
おまけに花粉の少ない花とか気をつかってもらっちゃってさ
きいきい!
あたしにも花粉の少ない花くれないかしら
特別参加だからそのくらい美味しい事あるわよね?
ね?ね?
あっもう出番
ちょっと待って!
もう一回鼻セン確認するから…ひひいいいん……