オールイン〜円舞・小白雪姫  足バンさん

どうも解せねぇ

いや、メイクも準備もばっちりなんだがよ…
なんでママ母兼魔法使い役があの赤い女なんだ?
みんな忙しいってよ、テスまで別んとこ行きやがってよ、ふん
だからってなんであの女なんだ?

意外とみんなは平気なんだよね

スングクは「サンドゥさんのキュートさが目だってグーです」だろ
チョングは「長いものには巻かれろ」だろ
チュニルは「毒をもって毒を制す」とかわかんねぇこと言ってよ
テジュンとヨンテ、サング、シボンは恐くてノーコメント
チョンウォンに至っては「誰が出ようが僕の魅力に支障はない」ってよ

それにしてもこいつらのこの格好…
ヨーロッパ貴族の衣装だぜ…ったく何度見ても笑っちまうぜ
スンドン会長なんてルイ16世だぜ、おい。けっけっけ
着付けは全員チュニルなんだけどもさ、
みんなマジな顔で立ってっからおかしくってよ

まぁ俺のこの白雪姫ちゃんと比べりゃ霞んで見えるがな
ん?…待ち時間長くてちょっと化粧崩れしてねぇか?
Tゾーンが危険なんだからよ

「さぁ!皆さま!用意はいいことっ!?出番ですわよっ!」

げっ!全身真っ赤な魔女だ。うへぇ…すげぇハデ…目がおかしくなるぜ

「なぁにっ?サンドゥさん!文句でもあるのかしらっ!」
「いえ…もう目が眩んじゃいまして」(嘘じゃねぇ)
「ほっほっほ!デラルスで出し切れなかった私の魅力を1000%お見せするわっ!」

1%も見たくねぇぞ

「さぁ!野郎ども!行くぜっ!」
「「 うっすっ! 」」

暗い舞台にピンスポットがともると中央にでっかい鏡だ
そこに赤い女がセリ上がってくる
初めは上から降りてくるはずだったが、あの女懲りたらしくって
下から上げろってうるせぇんだこれが
おかげで裏方さんが大急ぎでセリを修理したってよ

「ほーっほっほっほ!この世でいちばん美しいのはわたしよ〜!」

だからそこは「美しいのはだぁれ〜」だって言ったろうが!
これが唯一のセリフだってのに

赤と緑のライトが走り地響きのような音が鳴る
その中で赤い布翻して踊りまくってるぜ
まぁ伊達に芸能界に巾きかしてるわけじゃなさそうだな

うぇ…すげぇ…鏡に映ってる自分見て恍惚としてるぜ。舞台上でよ
客…引いてねぇか?

さて、舞台が暗転して色とりどりの布が天井からすとんすとん垂らされたら…

「おうっ!行ってくるぜっ!てめぇらヌカるんじゃねぇぞ!」

俺は全員と手をぱんぱんっと打ち合わせて気合いを入れた
ちっ!チョンウォンの野郎だけ手鏡見てやがる…

薔薇をくわえ曲に合わせてくるくる回りながら中央に進むんだ…
こう…裾をもってな…曲はフラメンコナンバーだぞ! フラメンコギターとカンタオールの威勢のいい声が響く
まいったか!このミスマッチが今回のウリよ!

おお…会場がざわついてんじゃねぇか…俺だよ、サンドゥだよ!
へっへっへ…かわいらしいだろ?こまわりきいてんだろ?

そこへまたあの女だよ

舞台がおどろおどろしい色に変わり鏡に向かって赤い魔女が躍り出る
すると鏡がぐぅんとしなって凹状になり魔女がべろーんとでかくなるんだ

耳つんざくフラメンコ曲が一段と大きくなっていろんな色が入り乱れてよ
俺様は華麗なすてっぷで回ってよ、とにかく回ってばかりだ
おばはんの差し出したりんごかじって倒れて暗転
くそっ!あの女…袖に下がる時に俺の足踏みやがった…

俺様が真ん中のアクリルの寝台に横になる間に、色とりどりの幕が下にばたんばたんと落とされる
舞台上は虹色に変わるってわけだ
背後のスクリーンには宇宙空間の映像が映し出される

7人の小人の登場だ
小人ったってあいつらだからよ。そら笑え!会場!
え?なんで笑いが出ねぇの?
もしかして…ちょっとかっこいいの?

「ボレロ」に乗って7人の貴族野郎が踊る
チョングとスングクが赤い衣装で両サイド
テジュン、ヨンテ、サング、シボンが青い衣装で後ろをかため、
黒い衣装のチュニルが真ん中

他の6人がゆっくりワルツのようなステップを踏む中、
チュニルが曲に合わせて剣道と太極拳の型を元にした動きをとる
みんな見とれてんじゃねぇか…ちっ!

曲が一段と大きくなる
上手と下手からそれぞれの衣装と同じ色のさらしのような布が投げられ
みんなが一斉に掴む!おぉ!うまくいったじゃねぇか! ここで落とすと冴えねぇんだよ

どんどん伸ばされるさらしを高く持ったまま7人は俺様の寝台を回る
透明な寝台が幾重にもぐるぐる包まれ遠くから見ると
俺はお花の中のかわいい姫様ってこった。照れるぜ

布を離した7人は周りをくるくる回転しながら回り、
「ボレロ」の曲の終わりでびたっと止まる

そこであの御曹司野郎だ

無音の中、上手から回転しながら出てきて真ん中で止まるんだが…
練習のときチョンウォンのやつ何度やっても転んじまってよ
しまいにゃ気分悪くなりやがってよ…

え?なに?白い王子ルックはいいんだが…なんで前はだけてんの?
でもってなんで下にビニール製のスケスケ着て肌見え見えなの?
あの野郎!デジャイナー先生に用があるとか言ってたが…
自分だけ目だちやがってっ!

まぁもうどうでもいいわ!
頼むぜ!ボン!
オールインの意地を見せてやれってんだ!

おお!やったやった!
転ばずにできたじゃねぇか!どら息子!
やりゃできんだよ、おまえもよ!

どら王子が俺の前で両手を振りかざすと曲は「惑星ー木星」ときた!
オーケストラの壮大な音楽に合わせて俺が起きあがる
そして皆が一斉に円を描き舞台を回る
上手からスンドン親父の16世が両手をあげて出てきて、下手から赤い魔女も混ざる

袖と天井のあらゆる方向から白いテープが投げられ
舞台全体が白くなる
そこを赤と青と黒のやつらが回転しながらステップ踏んで回って行く
まぁスンドンにはきついんで中心で両手をかかげて立ってるだけだがよ

小人どもはまぁ気持良さそうに踊ってやがる
スングクなんて表情ひとつも変えねぇで…息もきらしてねぇ…
チュニルはさすがにすげぇ安定感だな
テジュンたちはにこにこ笑って…おまえらよかったな…表舞台でよ…

どら王子はもう自分の世界に入ってんな、ありゃ
ステップがファッションショーっぽいぞ、ったく
でよ…衣装の布の多さで赤いミミのやつが一番目だってんじゃねぇか!

俺はといえばスンドンの前で胸に手当ててかわいいポーズとってんだけど、
どんどんかさばる布やらテープが巻き付いてよ
まるで繭に巻かれたみたいになってんだけどよ
なんか…俺…見えなくなってねぇか?

曲がどん!と終わった瞬間に舞台にしこまれたフラッシュが一斉にたかれ…

終わったぜぇぇぇっっ!

すげぇすげぇ拍手じゃんかよ!
やったぜ
スンドン!チョング!スングク!チュニル!テジュン!ヨンテ!サング!シボン!
そんでもってミミさんよ!

ヤバいんじゃないのこれ…
こんなとこで俺様が泣いちゃナメられっちまう

でも…俺ってみんなから見えてんの?


最終チェック  ぴかろん

俺はイナさんのキスを押し戻すおじさんを見て、嬉しいのと同時に苦しい気持ちになった
おじさんの馬鹿
ホントの気持ちを出せよ…
まだ出せてないじゃない…
ほら…俺が背中を向けたら途端にイナさんを見てるじゃない…
大切だと言われて、一緒にいてもらって、それでもおじさんの好きな人はイナさんで
俺は前よりも嫉妬深くなって
ただ苦しいだけじゃない…
辛いだけじゃない…

でも
おじさんから離れられない
もう離れたくない
好きだからね…
もう遅いからね…
今更捨てるって言ったって
俺…離れないからね…
どんなにひどい事されてもついていくから…
だから本当に邪魔になったら
殺してください…貴方が殺してくれるなら
怖くないから…


ミンチョルさんがイナさんに文句を言いながらやってきた

「痛いんだよ、お前のゲンコツは…」
「ぶぁか!」
「…」
「何だ!」
「やっぱしホンモノは迫力あるな…」

イナさんみたいに明るくなれたらいいのにな…
何でこの人はこんなに能天気なんだろう…
イナさんをじっと見てしまった
目が合った
イナさんが何か言いたそうに口を開いた時、ミンチョルさんがキビキビと俺に話しかけてきた

「ラブ、ナイフジャグリング、やって見せて。練習で使ってたダミーのナイフだ。何本ぐらいまでいける?」

いつもの練習では7本が限度だ…

「…8本…」
「おい、お前いっつも7本…」
「8本でいきます」
「…大丈夫か?」
「8本ね、じゃ頼むよ。やってみて」
「はい」

俺はミンチョルさんとイナさんの前でジャグリングをやってみた
一本ずつナイフを増やしていく
7本目、うまくいった
問題の8本目…
…やった…いけるじゃん!

「おお」
「すげぇなぁうまいなぁ、俺にもやらしてよ」
「無理ですよ…」
「なんでさ!俺、手先は器用だぞ」
「僕だって手先は器用だ」
「ミンチョルはボタンについてはって限定されてんじゃん!」
「むっ」
「俺は花札もトランプもオッケーだし、チップもくるくるできるぞ」
「…手先だけの問題じゃないしさ…リズムとかあるし…」
「…そうなの?じゃ、僕は無理だ…」
「俺、やらせてよ」
「足がそれじゃ無理です」
「…なんで…」
「やりたいなら祭が終わってから教えますよ」
「…お前なんかクソ生意気!さっきは可愛かったのに!なんだよ、ふんっ」

思ったことをすぐに言えるってスッキリするよね…
俺、そうだったのにな…

「ところでラブ。その…君…ミンジとはどうなってるんだ?」

ミンチョルさんにミンジちゃんの事を聞かれた
あれ?ミンジちゃんまだ報告してないの?
やだな…言うのか俺が…

イナさんが意地悪そうな目で俺を見ている

「別れました…」
「え?」
「…ミンジさん、ほかに好きな人がいるみたいです…振られました…」
「…聞いてないな…昨日ミンジと一緒じゃなかったの?」
「海辺のホテルで決め…食事しようと思って行ったら、そこで誰かカッコイイ人と会って…知り合いだって
それでその人とご飯食べるから先に帰れって言われて…」
「…つかぬ事を聞くが、君とミンジは…その…どこまでの仲?」
「…キス…」

プラスαだけど…

「ふうん…そう…じゃあまあいいか…」
「あのさ、ミンチョル、こいつさ、ギョンジンと」
「お前うるさいよ」
「なんだよっ」
「お前とラブ君がギョンジンさんを挟んでいたずらしてた事ぐらい知ってるよ」
「「えっ」」
「みんな知ってる」
「「なんでっ」」
「…衛星中継してるって言ったろ?ああ、もちろんお前とギョンジン君とテジュンさんのトライアングルもな」
「…俺とテジュンのチュウも?」
「…苦情が来てるそうだ」
「…いっ…」
「やりすぎだって…」
「…」
「じゃ、トイレとかも」
「トイレ?」
「…んにゃ…」
「心配するな、会場内だけだ、衛星中継は…」
「…ふうん…」

イナさんがしゅんとしてる
なんでこんな人が好きなんだろう…
凄い人だって事は知ってるけど、こんなとこ見ると、おじさんの趣味を疑っちゃう…

舞台袖にいたら、凄いとしか言いようのない衣装を着た、テジュンさんにそっくりの…ソクさんが走りこんできた
そしてスヒョクにいきなりキスしてる
スヒョクは変だ
顔が上気してるしソクさんにされるがままだ
イナさんはそれを見て引きつってる

「スヒョク、あの衣装持ってきてヒーヒー」
「はい…待っててね…」
「あ、待って」
「ん?何?ソクさ…」

行こうとしたスヒョクにまたキスしてる…
この人もキスが好きなんだな…
イナさんは青ざめてる
あ…そうだったな、イナさん、おじさんの前にこの人に入れ込んでたって聞いた…
スヒョクがあっちの方に行ったと同時にソクさんはその凄い衣装を脱ぎ始めた
俺達三人は目を見張ってソクさんの衣装替えを見ていた

「ん?…何見てんの…」
「凄い衣装ですね…恥ずかしくないですか?」
「一番恥ずかしいの、終わったから…。お…イナ…なんだか久しぶりだな…元気か?」

ソクさんはニコニコとイナさんに、ふつーに声をかけた
イナさんは真っ青な顔をして俯いてしまった

「なんだよ、どうしたのさイナ。テジュンとケンカでもしたのか?」
「…」
「どうしたの?調子悪いのか?」

ソクさん、罠だよ… この人の手だよ
きっとおじさんにもこんな風に罠を仕掛けるんだ
そんな風に考えてしまう自分が嫌になる…
でも案の定罠だった…
イナさんは近づいてきたソクさんにするりと巻きつくと、あっという間にソクさんの唇を捕らえた
ソクさんは脱ぎかけた衣装が引っかかってて手を動かせないでいる

「こらっぶぁかっ!イナっ!」

ミンチョルさんがイナさんを引っ張るけどイナさんはソクさんに巻きついて離れない
子供みたいだ…
スヒョクが帰ってきた
衣装を取り落とした
見る見る涙が溢れ出した
そして…
イナさんの後ろに回ってイナさんの首を絞めだした

「ぐえっげへっ」
「やめてください!何するんですか!俺のソクさんに何するんですかっ!」
「げへっ…ごほっ…」
「ぶぁかものっ!テジュンさんに言いつけてやる!」
「いい加減にしてください!唇に地雷しかけますよっ!」

スヒョクは半狂乱になりながら怖ろしいことを言った
ソクさんはスヒョクを抱きしめて、まあまあスヒョク、大丈夫だから…犬に噛まれただけだからと言ってますますイナさんの神経を逆撫でした
イナさんは怒ってミンチョルさんに当り散らした
ミンチョルさんはイナさんの頭を三発殴った
めちゃくちゃだ…
俺は一人でぼぉっとその光景を見ていた
手元に8本のダミーナイフがあった
そのうちの一本を、俺は自分のナイフとすり替えた
なんでそんな事したんだろう…

騒ぎは舞台奥にいた妖怪のようなデジャイナー先生の一喝で収まった
ミンチョルさんは小言を言い続けた
イナさんはぐすぐす泣いていた
俺は…ドキドキしていた…
袖の隙間から客席にいるおじさんの顔を確かめた…

おじさん…
おじさんの名前を呼べる日が来るだろうか…
もし、舞台でこの8本のナイフジャクリングが成功したら…きっとその時はおじさんと本当の恋人同士になれるよね…
願掛けってやつ?
やってみてもいいかな…

ダミーのナイフをおじさんのくれたシャツのポケットに仕舞い込んだ

「よぉし、打ち合わせ終わり。じゃああと二十分後に衣装に着替えて集合な」
「…俺ってたしか…」
「ああ、ラブは上半身裸だから、上だけ脱いでおけばいいよ」

俺はもう一度おじさんのいる席に戻った…


幻惑  オリーさん

なぜだか苛ついていた
必要のない確認を何度もやり、必要のない指示を何度も出した
なぜ…

ミンはどこに行ったのだろう
なぜ僕のそばにいないんだ
そのミンの顔になぜだかスヒョンがだぶる
スヒョンが僕を…
気づいていた…いや…気づいていなかった…いや… なら、知らんふりをしていた…どれも違う…でも…

映画の一コマが蘇るように、僕の脳裏に蘇るスヒョンの視線…
静かな水をたたえた湖のような深い視線…
スマートで洒落もののすました視線…
哀しみを隠して無理に微笑みを伝える視線…
そして、熱い熱情を押さえて憂いをたたえる視線…
あの時もあの時も、そして、あの時も…
ずっと僕を見ていた?

目まいを感じて目を閉じた
ミン、なぜ僕のそばにいないんだ
なぜ僕の手を握っていないんだ
なぜ僕の肩を掴んでいないんだ
スヒョンの視線に掴まりそうな僕がいる

ミンチョル…ミンチョル…ミンチョル…
お前にはドンジュンがいるだろう…
そうだよ、可愛いドンジュンがいる、そしてお前にはミンが…
だったら…
だったらどうする?それでも好きだっていったらどうする?
やめろよ…
迷惑か?
やめろよ…
ひとつ教えてくれ
何を?
僕を嫌いか?
いや…
なら好きか?
……
答えろよ
僕にはミンが…
そんなこと聞いてない。僕が好きかどうかだ
スヒョン…

僕は会場の壁にもたれかかった
ドンジュンの思い違いだ
なのになぜこんなに気になる…
あの時僕を抱いてくれたのは
慰めてくれたのは、
そんな意味があったのか…
楽になれよ…
柔らかいスヒョンの声、
だったら僕はお前にずっと残酷な事をしていた?
なぜこんなに胸がざわつくのだろう
ミン、どこに行ったんだ…

「どうしたの?」
突然目の前にミンがいた
「どこいってたんだ」
「ドンジュンさんとボタンはずしの練習」
そういうと後ろを振り返った
少し離れた所でドンジュンが向日葵のように笑っていた
「もうスタンバッてくれ。時間になる」
「わかってる。でも…」
ミンが僕の目を覗き込んだ
「ん?」
「抱いて欲しいの?」
そう言うとミンは僕をふんわり抱きしめた
たちまちミンの香りが僕を包んだ
そう、なぜもっと早く戻ってこないんだ
なぜもっと早くこうやって抱いてくれなかったんだ
でも僕の口はこう言う
「こんな所で何するんだ…」
「いいから、もうちょっと」
ミンは僕を抱く腕に力をこめた
今度はミンのぬくもりまで伝わってきて
僕は思わず目を閉じた
「じゃ、行ってきます」
「うん」
それからミンはドンジュンと腕を組んで離れていった

ミンにハグされて僕は少し落ち着いた
ぎゅっと抱きしめられた感覚が僕を優しく包んでいる
舞台袖の通路に出るとイナがテジュンさんに吸いついていた
僕の穏やかな気分はいっぺんに吹き飛んだ
何をやってるんだ、こんな所でっ!
さっきまでミンの兄貴とテジュンさんと3人でヘロヘロしてたと思ったら
思い切り頭を張ってやった
「ってえ!何すんだよ!ミンチョルっ!」
「いい加減にしろ。時間だぞ」
「っせえよ!んなことわかってらい。な、テジュン、ふふん…」
僕のように状況をわきまえて、なぜハグだけで我慢できないんだっ!
テジュンさんは大らかに大人しく笑っている
テジュンさんの手前仕方なく僕は思わず言葉を飲みこんだ
ぶ…ぶ…ぶぁかっ!
イナをテジュンさんから引き剥がした
「ほら、行くぞ」
「わーった、わーった。相変わらずうっせえ奴だな。じゃね、てじゅ、行ってくるね」
テジュンさんにからみついているイナの腕をひっぺがしてさらに引きづった
ズリズリと音がきこえそうなくらいだった
テジュンさんから聞こえない距離に来た時に僕は叫んだ
「ぶぁかっ!」

「あれがジジイ殺しのハグね」
「ふふ…最初はそっと匂いを嗅がせてやって、後からぎゅっと抱くの
でね、やめろ、って言われてもやめないの。あの人のやめろは、もっとっていう意味だから」
「へえ、やるじゃん。色々教えてもらってるの?」
「うーん、してもらった事は覚えるけど、あとは自分でアレンジする」
「ミンチョルさんて凄そうだよね」
「凄いって言うか、自覚がないところが凄いかな…」
「自覚がない?」
「そう、自分でエロイって自覚。何やってもエロイでしょ、あの人」
「そう言えば、そうね。本能か…」
「そう、理屈はこねるけど、わかってない」
「それをギョンビンが理論づけて覚えるわけね」
「そういう事。僕も本能で動けるようになれば一人前かな」
「言うねえ」
「ね、スヒョンさんてどんなハグが好き?」
「あいつは、ちょっと贅沢だからな、後ろからの攻撃が効果あるかな…」
「後ろからねえ。ふうん…」
「でもこの間弱点見つけたんだ、あづまやで」
「あづまや?弱点?」
「そう、スヒョンの弱点」
「何?教えてよ」
「だめ!これは簡単には教えられないな」
「人には聞いておいてずるいよ」
「もうちょっと君が大人になったら教えてあげるよ」
「もったいつけないで、教えてよ」
「だめ!アレンジしてミンチョルさんにするだろ」
「ケチっ!」
「ほら、行こう」
「いつか教えてよ」
「いつかね」


困惑  足バンさん

僕はイヌ先生とウシクにそろそろだと声をかけ
テプンたちに合図した
ドンジュンはさきほどギョンビンに引っ張って行かれたのを見ていた

そのままジュンホ君のところに行った
ジュンホ君はオールインの舞台を一生懸命見ていた

「ジュンホ君、そろそろだよ」
「あ、はい」
「どうしたの?」
「みんないっしょうけんめいで…すてきですね…まってたかいがあります」
「うん…もうちょっとだからね」
「え?」
「早くソニョンさんやジュン君たちに会いたいでしょ?」
「ええ…でもあえないじかんがおおければ、それだけあうのがたのしみです」
「そうか…じゃ、これ終わったらすぐ袖にね」
「はい」

僕はにこにこのジュンホ君の頬にちょんと触れて準備に向かった

会えない時間が多ければそれだけ会うのが楽しみ…
僕はぼんやりとミンチョルのことを考えた
手に入らないから想うのか?
じゃあ手に入ったらどうなんだ?

あの眼差しの全てが僕だけを見たら
あの唇が僕の名だけを呼んだら
あの指が僕の頬だけに触れたら
そうなったら僕は満たされるのか?

僕はわずかに混乱して息苦しくなり通路の廊下に寄りかかった

僕はいつからミンチョルを気にしていたんだった?
そうだ…ギョンビンが現れてからだ
ギョンビンに手を出すとあの目に怒りが走った
あの冷たい目がにわかにきらきらとひかるんだ

いったい僕はどうしたいんだ?
ドンジュン…どうしたらいい?
おまえに一番相談したいのに…できないじゃない…
羽根をひろげて包んでほしいのに…いないじゃない…

足音に顔を上げると、その主は舞台袖から出てきたミンチョルだった
俯いて歩いていたミンチョルは僕に気づくと足を止めた

「……」
「……」
「あ…と…今ジュンホ君たちに声かけてきた」
「ああ…イナたちはもう向こうだ」

なんだよ、この間は

「ん?」
「ん?」
「なに?」
「なにが?」
「いや…」
「うん…べつに…」
「……」
「……」

「あ…そう…スヒョン…おまえを呼びに行こうとしてたんだった」
「なに?問題?」
「いや…スタッフに僕が休んでた時のこと聞かれちゃって」
「サボってた時だろ?」
「なんでもいいから来い」
「じゃ、手つないで行く?」
「ぶぁ…こほん…ばかっ」

僕とミンチョルは変な明るさでその場をしのいでいた
そして微妙に距離を保って歩いた
ミンチョルが背後の僕を気にしているのがわかる
袖への数段の階段を登ってミンチョルはいきなり振り向いた

「イナが誰かにかじりついてたらすぐに剥がしてくれ」
「ふふ…了解」

僕たちは袖口への扉を開き入った
そして同時に一点に目を奪われ立ち止まった

忙しく行き交う人の流れの向こうに、やはり同時にこちらを向いた4つの目

ショウのために揃いの真っ白いシャツに黒いズボンをはいた
ドンジュンとギョンビンだった
ふたりは壁にもたれて寄り添うように立っている
まるで双子のように

つややかな黒髪にはくしが入れられ
その瞳は濡れて強くひかり、僕たちを凝視していた

僕もミンチョルも思わずにはいられなかった
僕たちはこの2つの輝くような魂の行く末を預かっているのか、と


セツブンショー 7 ぴかろん

ピーターパンの衣装は精神的にも肉体的にもキツかった…
これが終わったら後は大したことはないだろう
次いこう、次

スヒョクが持ってきた衣装は美しい金糸銀糸の衣装だ
古代日本の衣装をイメージしてるらしい…

ああ、ニッ○に聞いた事があるぞ
ヤマダのオロシ…だっけ?え?ヤマタノオロチ?
そのオロチとかをやっつけたのがスサノーノミコトとか言う奴か?
解らん…
まあそのスサノーが着ていたらしき服装をイメージしちゃのよんと先生がダミ声で可愛らしく言ったのだ

着てみた
ブーツインはなしだ!やった!
んーと、なんつーの?これ…
フレンチスリーブみたいな袖
ふわんとしてて肘の上あたりでキュッと絞っててあとはヒラヒラン…そういう袖
わかる?
ずぼんもふわんとしてて膝の上あたりでキュッと絞っててもう一回膨らませてもう一回キュッとしぼってある…
靴は…カンヌシが履いてるような奴
サボみたいな奴…
そしてそのフレンチスリーブの上から、先生が描いた絵を刺繍したという四角いベストみたいなものをかぶり、また腰のところでキュッ
裾はヒラン…

ああ…わかる?
かなりカッコイイと思う
今までで一番まともだと思う

スヒョクにそう言ったら
「そうですね…でも一般的にはかっこいいとは思えません」
と冷静に言われた
脳がかなり『アンドレ化』しているようだ…

ヘアスタイルはこのままでいいらしい…
なんだ、古代ニホンのあの、耳のうえでクルルンと結わえるスタイルにしたかったのに…真ん中わけで、ピシッとして…

髪の毛が短すぎるからダメといわれたけどさ…

僕は豆の枡を持ってスタンバイする
今度はナレーションあり?
と思ってたら
「俺はファッションショーのチェックに行くから、おめぇ頼んだぞ!」
と先生は素早く舞台裏に消えた…

えーっと…この衣装に合う踊りは…あるのか?!

「出てください!」

とスヒョクに肩を押され、僕は静々と舞台中央に歩いていった

シンセサイザーの音が鳴り響いている
よく聞く音楽だ…
これって太極拳向きじゃんか!
しまったなぁ、先に太極拳やっちゃったしな…
とりあえず静かに動こう…

僕は腰を落とした姿勢で舞台の上を円を描くように動き回る
先ほどのMUSAの舞台装置がそのまま置いてある
階段まで…
ちっ
邪魔だな…
登ろうかな…

僕は金糸銀糸の紐が垂れ下がった舞台の中央にある階段を一段ずつ登り始めた

斜め後ろに進む
当然お客様にシリなど向けてはならない…
適当に豆を撒きながら次はどうしようかと考える

やりにくいな、この音楽…
かわんねぇのかな…

と思っていたら、突然、舞台上の盃に、また水の糸が垂れ下がってきた
そしてその水が止まると曲調が変わった
パーカッションが中心の曲だ…
最初のMUSAの太鼓パフォーマンスにも通ずるような曲だ…

一番端の盃を手に取る
豆の枡をそこに置く
僕は足をガニマタ状態に広げ、盃を右の方に寄せる
顔は左向き
そして左方向進む
足を寄せ、またガニマタに開く、それを繰り返しながら左端の盃まで行く
手に持った盃は右、左、右、左とリズミカルに大きく動かす
端まで行ったら左手で左端の盃の上にそれを重ねる

同じようにその手前の盃を左に持ち、今度は進行方向を右にして同じ動きをする
右端に来たら豆の枡を取り、今度は舞台中央の階段に向かって走り、階段に二、三段駆け上ってからおもむろに振り返って豆撒き!
もう二、三段登って豆撒き!
それを繰り返しながらてっぺんまでいく
そこで豆を置き、両腕を広げる
そしてリズムに合わせて両手首を上、下と動かす
手首だけ…

それから両腕を下に下ろし、手首は同じように動かしながら、両足を揃えて左に体重をかけ、こけそうなところで一歩踏み出す
右足を左足に寄せ、今度は右に体重をかけ、同じように一歩踏み出す
豆をとり、同様に足を一歩ずつ踏み出しながら豆を撒く
撒くったら撒く…

そして階段を駆け下りて盃を真ん中に集め、ピラミッド型に重ねていく
4:3:2:1 と重ねた盃の後ろに立ち、盃に残った豆をざーっと落とす
全て落ちたところでもう一度左右に足を一歩ずつ踏み込む

そして音楽が終わると同時に、僕はその盃を思いっきり蹴飛ばした

暗転

イマイチかも…

舞台袖に首を捻りながら帰ると、スヒョクが嬉しそうな顔をしている
という事はかっこよかったのかな?

「どうだった?」
「まあまあです」

まあまあなの?

「嘘ですよ…かっこよかった…」
「…」
「ソクさん?」
「…」
「…ソクさん?どうしたの?ねぇ、ソクさ…」

嘘をついた罰に僕はスヒョクに電撃キスをお見舞いした
スヒョクの体が震えている
舞台袖でこんなキスすると、スヒョク、アシストできなくなるかもしれないけど…んふ…

「…あ…」

可愛い声を漏らす
瞼がピクピクしてる
うふふ〜ん…やっぱし可愛いな…んんんんんっ

「次の衣装、準備願います!キスなんかしてないで!」

野太い声で叫ぶ男がいる
誰だよ…

ん?

あれは

ゴリアトの仲間で…最初に出てきて死んだあの男にそっくりじゃないか…

僕はスヒョクから唇を離し、くたくたになっているスヒョクを床に座らせて、その男の胸倉を掴んだ

「お前、僕の息子を…」
「は?」
「…あれ?ちょっと違うかな…あんた…名前は?」
「チュニルと申しますが…」
「…人違いか…失礼…」
「次の衣装に着替えてそこはけてください!我々の舞台が始まりますので」

その男は、なんだか小さな姫様のドレスの着付けを器用にこなしていた… 僕はへたりこんでいるスヒョクを起こしてもう一度気付けチュウをすると、次の衣装の前に行った

絶句した… まだ恥ずかしいものがあったのか…

でも…
やっぱりあのピーターパン以上に恥ずかしいものはないよな…

袖にスヒョンさんがいたような気がする
衣装を見て驚いていたがこんな美しい衣装でおどろくなんて…はは…甘いよ…ふう…

しなだれかかるスヒョクにもう一度キスすると、スヒョクは目を回してぶっ倒れてしまった…
ああ…やっぱやばかったか電撃…
でも…好都合だ…
この衣装着てるとこは見せたくないもんな…

僕はスヒョクをそのままにして着替えにかかった…


緊張 1  ぴかろん

俺はおじさんのいる席に戻った
イナさんはそのまま舞台袖に残っている
皆も続々と袖に向かっているというのに俺は…

俺の姿を見て、それまでぼーっとしていたおじさんは笑顔を作った

嘘つき…

俺も笑顔を作っておじさんの隣に座った

嘘つき…

「いいのか?あっちに詰めてなくて…」
「ん…イナさんとミンチョルさんの前でリハやったから…。他の人の打ち合わせもあるだろうしあと20分もあるし…」
「…」
「どしたの?黙り込んじゃって」
「…あ…いや…。ラブは何するんだっけ…」
「ジャグリング。ナイフでね」
「…ナイフって本物じゃないよね…」

おじさんが不安そうに俺を見つめる
へぇ…一応心配してくれてるんだ…

「うん。ニセモンだよ」
「…お前から預かったナイフがないんだ…」
「あはは。ここにあるよ、おじさん隙だらけだったから掏った」

俺は胸のポケットからすり替えた偽者のナイフの柄だけを見せた

「…そうか…ならよかった…。預かるよ」
「何でさ。俺のだよ、これ」
「…危ないから…」
「大丈夫だって」

俺がちょっと睨むとおじさんは手を引っ込めた
そして小さなため息をついた

「どしたのさ」
「…」

おじさんは深く深呼吸をして俺の両肩を掴んだ

「何?」
「…僕の…気持ちを…話してもいいか?」
「…何さ…」
「お前を傷つけるかもしれないから…怖いんだ…」
「…いいよ…言ってみなよ。聞いてやるよ…」

何を話すんだろう…
怖い…

「さっき…イナにキスされたろ?」
「…うん…」
「嫌だったんだ…」
「…へぇ」
「お前の前でキスされるのが…」
「…」
「テジュンさんの前であいつとキスするのも嫌だ」
「…ふ…ん…」
「僕は…もうお前やテジュンさんの前ではあいつとキスしない」

おじさん…嘘つき…イナさんにキスしたいくせに…

「でもあいつと二人っきりになったら…キスすると思う…」


おじさんが震えていた

「さっきお前たちが舞台の方に行った時、その事を思った。お前に秘密にしようと思った
でも…自分が卑怯者に思えてお前に言おうと思った…」
「…おじさん…」
「ごめん…こんな事言ったらお前…傷つくよな…」

イナさんが好きだもんな、おじさんは…

「…参ったな…」
「…すまん」
「違うよ。言わないと思ってたから」
「え?」
「俺に気持ちを伝えるとか言ってたけどできっこないって思ってたからさ…。どきどきしちゃった
どんな怖い事言われるのかと思って…」
「…まだあるよ…」
「…何?…もっと怖い事?」
「…僕はやっぱり…イナが好きだ…」
「…解ってるよ…」
「でもお前が気になる」
「…」
「ナイフ、大丈夫なの?ケガしない?」
「…うまくできたからさ。見ててよ本番。今まで7本しかできなかったのが、さっきは8本できたからそれでいく」
「…偽者って言っても危ないだろ?無理するなよ。7本にしとけよ」
「…チャレンジしなきゃさ…」
「ラブ…」

俺はにっこり笑っておじさんを見た
本当は怖い
なんで本物とすり替えちゃったんだろう…

「なんか隠してないか?」

どきん…
どうしよう…

「あ…ああ…おじさんにショックな事教えてやる。イナさんが、ソクさんって人見た途端青ざめてさ、スヒョクって知ってる?ソクさんの恋人
そいつがソクさんのそばを離れた途端、ソクさんに巻きついてキスかましてたよ」

おじさんは目を丸くして、それから吹き出した

「アハハ…あいつらしいじゃないか…」

そうだね
羨ましいぐらい自分の気持ちに正直で、すぐに実行に移すよね、あの人…

「んでミンチョルさんに頭三発殴られるわスヒョクに首絞められるわ、もう大騒ぎ…」
「クハハハ…見たかったなぁ」
「…見たら妬くくせに…」
「クフ…妬かないよ…」
「嘘つき…」
「嘘じゃないよ」
「…俺は…嫌だった…」
「え?」
「イナさん、軽すぎる…」
「…」
「テジュンさんが好きなくせにおじさんにもソクさんにも惹かれるなんてさ…信じられない…」
「それ、僕に言ってるの?」
「…あ…」
「…ふふ…」
「…ごめん…そんなつもりじゃなくて…」
「一人の人だけ好きでいなきゃいけない?」
「…」
「僕はイナの気持ち、解る…」
「…」
「やっぱ卑怯者かな…ううん…気が多いって事かな…」
「…俺は解んない…好きになったらのめりこんじゃうから…おじさん、後悔するかも…」
「ラブ…」
「…俺…しつこいよ…うっとおしいよ…いいの?」
「ラブ」
「今のうちだよ、切るんなら…。でないと離れないよ…いいの?」
「ラブ…僕に執着するな」
「?!」
「自分の気持ちに素直になれよ。意地とか見栄とか捨てて…。素直な気持ちで僕を求めてくれるなら、僕はお前と向き合う」
「…」
「イナに対する意地で僕を求めるのなら…その時は…」
「その時は殺してくれよな」


お似合いのふたり   妄想省家政婦mayoさん

俺等3人に近づいてきた2人は寄り添っているというよりは..
一人がもう一人の背の高い方の男の腕に絡まって離さない..
この2人..やっぱり良く似ている...
色の白さ..あっさりした顔..細身の体型…そして手の綺麗さだ..

「どぉしたのぉ〜?」人なつこいテスは背の低い方の男に近づいた
「あいつめ..」俺は眉を上げ背の高い方の男を見た
「オモオモ..おもおも..」闇夜は俺の隣で呪文のようにぶつぶつ繰り返す…

シゲッキーはヨンジュンの腕に自分の腕を絡めながら近づいきた

「あらぁーテス君じゃないのぉー....蜘蛛さんも..まよぴーもいたのねぇ」
「マジ先生〜ヨンジュンさんといい仲になっちゃったの?」
「テス君〜そうなのぉ〜アタシたちお似合いでしょ?」

テスが聞くとシゲッキーはヨンジュンの手を弄びながら嬉しそうに答えた
隣のヨンジュンはシゲッキーのいいようにされている..
ぐはは…なかなか似合いのカップルだ…

「テス君何してたの?ステップの練習?」
「僕..ラストは頑張って踊ろうかなと思って..」
「そう...蜘蛛さんと踊りたいのね?」
「ぅん..」
「いいわ。まよぴー..一緒にテス君に教えましょう!」

シゲッキーが闇夜と一緒にテスにステップを教え始めた..
ヨンジュンは俺のそばにやって来た..

「ヨンジュンよぉー」
「せ、先輩〜^^;;..ち、違いますって..祭り終了までの限定ですって..」
「限定?」
「僕を日本に連れて行くって聞かなくて…」
「日本でサンバボーイズにするって張り切ってたからな」
「僕日本に行くつもりはないですし」
「ん…まぁお前はレストランの方もあるからな…」
「そう…たまに店に出なくちゃいけないでしょ?」
「ん…で、限定策に出たか…」
「そういうことです..祭りの最中だけ一緒にいてちょうだい..って」
「抱きついて離れなかったのか?」
「はい...まいっちゃいます…」
「もしかして...白夜のショーが終わってからずっとか?」
「そーですよ...僕も..あの人も..出番はラストだけですから…」
「はは..そうか..」
「先輩はテス猫ちゃん離れないし..僕に.付き合ってくれないし..」
「ぷっ..俺のせいにするな..」

俺がテス達に目をやると
シゲッキーはステップを、闇夜は手の振りを教えていた…

「テスく〜ん、ツンツンツトトン右左右左…」
「テスシ、胸前から…手を広げて〜右左繰り返し〜…」
「んしょ…こっちがこうで…顔がこっち..」
「テスく〜ん.. ステップつけるわよぉ〜」
「手がこう…足はこっちで…ツントトトン…?」
「違うわ〜テスく〜ん…ツンツン..ツトトン♪」
「えっと…ツンツン..ツト#..トン#」
「ん〜ちょっとドタつくけど..OKOK〜」

テスの踊りがまあまあ..まともになってきた…
俺は隣に座ったヨンジュンに話し掛けた…

「ヨンジュン…でもまんざら嫌でもなさそうだが?」
「先輩〜〜僕そういう趣味ないっすよ..」
「な、どっちが男でとっちが女だ?」
「ぁふ…」
「ん〜シゲッキーが迫ってくる女役か…おい、どっちだ?攻め受けは決まってるのか?」
「せ、先輩!…っつー..何もしてませんって!」
「ぷっはは...いっそお前から..ち○うでもしてみろ、おとなしくなるんじゃないか?」
「ったぐ…すけべぇーおやじのノリなんだからぁ…」
「ヨンジュン!」
「す、すいません…」
「こりゃ祭りが終わってシゲッキーが帰るときが大変だな..」
「おとなしく帰ると思います?」
「ぷっはっは..俺は知らん..」
「先輩ぃ〜」

俺とヨンジュンが話しているとベンチの後ろにテソンが来た…

「あれッ…マジ先生…ヨンジュンも?」
「お、テソンどうした?」
「ぅん…そろそろスタンバイだから…テス呼びにきた。あいつ裏方だから…」
「そっか…」

テソンの姿を見つけると3人はサンバの練習を止め
それぞれはそれぞれのパートナーになる…

シゲッキーは真っ先にヨンジュンの腕に絡みつく
ヨンジュンを見つめる目は恋する乙女だ…
相当惚れられた様子だな…

テスは俺の懐にやってくる…
俺が髪をクシャクシャすると無邪気に笑う…

テソンは片手を広げて闇夜の肩を呼ぶ…
闇夜の肩を捕らえると指4本で軽く叩く…
テソンはいつもそうやって闇夜の肩を抱く…

俺とテスの後ろを歩いているテソン等の会話が
闇夜のマイクからかすかに聞こえた…
俺と闇夜もマイクは内緒話のままだ…

「そろそろなの?」
「ぅん…さっき..どこにいたの?」
「あ、ミンギに呼ばれて..2階に行ったの..」
「そう…平気だった?」
「大丈夫だって…」
「ぅん…ならいいけど」
「テソン…」
「ん?..何..」
「…心配してくれるの嬉しいよ」

闇夜にしては甘ったるいこと言いやがる
俺はテスに気づかれないように目で笑っていた

「あたりまえじゃん…」

そりゃそうだ…テソンは闇夜にベタ惚れだ…

「でも…束縛しないで…」
「mayo…」

僕は闇夜に言われて黙りこくってしまった…
何も返せなかった…
僕が大事にしてることが闇夜にとって束縛なのか…

あ、あっちゃ…闇夜の奴…
俺は振り返って2人の顔色を伺う衝動を押さえていた


緊張 2  ぴかろん

「ラブ、何言い出すんだよ」
「だって俺から離れるなんてできないもん!」
「…ラブ…」
「俺、おじさんのいうような、そんな…器用なまねできないよ!」
「…」

おじさんは優しい顔をして俺の頬を触った

「傷つけたかな…でも、僕は後悔してない。お前にほんとの事言えてよかった…」
「…俺もよかった…」

ほんとはそんな事思ってなかった
でも…でも…嘘つかれるよりはいいのかな…

おじさんは俺を優しく抱きしめた
心臓の鼓動が大きくなる

「俺…俺さ…」

自分で何を言おうとしているのかわからなかった

「俺…あの…悲しかった…。おじさんがイナさんばっかり見てるから…
やっぱりイナさんを追っかけてるんだって解って、悲しかった…」

何言ってんだろう
確かに悲しかった
でも違う
俺の言いたいのはこんな事じゃなかった
何が言いたいのか解らない
何でだろう…

「うん…ごめんな…。でも僕から離れないつもりなら、辛いぞ…いいか?」
「…うん…」
「…ラブ…。ありがと…。僕の気持ちを受け止めてくれて…。思ってること正直に話すと気持ちが軽くなるね
初めて知ったよ…。聞いてくれる人がお前でよかった…」

おじさん
俺、受け止めてなんかいないのに…
ずっと心がざわついてるのに…

「俺はイナさんに嫉妬してるよ…おじさんが俺に『大切だ』って言ってからずっと…今まで以上にイナさんに嫉妬してる…
苦しくてたまんない…」
「…ラブ…」
「同じようにおじさんもテジュンさんに嫉妬してるんだろうなって思う…」
「…うん…そうだね…」
「おじさん…そろそろ行くよ…ちゃんと見ててね。本番で8本成功したら…きっと願いが叶うって、俺…思ってるんだ…」
「願い?」
「ん…」
「…頑張れよ…気をつけてな」
「…」
「ラブ?」

俺は急に怖くなった
失敗したらどうしよう
願いが叶わなくなる?
俺が震えだしたのを察したおじさんは、俺の体をぎゅっと抱きしめてくれた

おじさんの香りを吸い込む
なんども吸い込む
目を閉じて深く吸い込んでいたらおじさんの唇が降りてきた
俺の舌先を軽く噛み、吸う
俺は徐々に口を大きく開け、おじさんの舌を強く吸う
おじさんのキスも激しくなる
俺の舌を丁寧になぞる
俺の歯も唇もその舌で占領する
俺は気が遠くなる

俺の頭の中には、すり替えた自分のナイフの切っ先が浮かぶ

怖い

俺が漏らした恐怖の声をおじさんは悦びの声と勘違いしたんだろう
もっと激しく俺を攻めだした
音を立てて唇を吸い、舌を吸い、軽く離してはまた俺の口の中に入り込む
俺は怖くて、もっと捉えてほしくて、おじさんの舌を深く吸い込む
おじさんも負けずに吸い込む

おじさんの手がシャツの裾から入ってくる
体を撫で回してベルトに手をかける

やめて…
それでなくても

「立っちゃう…やめ…て…あ…」

異常な興奮が俺を襲う
あ…あ…このまま続けてたら、ここでホントにイッちゃう…

「やめ…おじさ…イっちゃうから…おねが…」

おじさんは唇と手を俺から離す

はあはあはあ
俺の息遣いだけが荒い…

「ごめん…今から舞台だったのに…つい…、お前が色っぽいから…」

そう言って軽く口付けする

「…もぉ…ヤバいよ…。俺、上半身裸でやんなきゃいけないのに…」
「え…ちくび立っちゃった?」

おじさんがいたずらっぽく笑う

「ばか!」

俺の興奮が次第におさまる

「続きは…後でしてあげる…」

おじさんの目が妖しく光る

「…ん…」

俺は席を立ってから声をかけた

「おじさんも…袖に来て…」
「え…」
「俺の服、持っててくんない?」
「…」

持っててくれたら気づくだろうか…
俺がナイフをすり替えたこと…

そうだ
俺はおじさんに気づいて欲しかったんだ…
俺、こんなに危ういよって伝えたかったんだ…

おじさんに心配ばかりかけるいけない子だよって…
だからいつも抱きしめててって…伝えたかったんだ…

でも言えない…うっとおしがられたらいやだもの…
我儘だって言われたら悲しいもの…

それよりもなによりも、優しさを装って俺を包み込むふりをされたら…一番辛いもの…

上気したいやらしい体を俺は自分で抱きしめ、それからおじさんの手をひっぱって、俺は舞台袖に向かった


ジュンホのことわざ れいんさん

ぼくは、まつりのあいだも
なぜか、まいぺーすにおべんきょうをつづけています
きょうは、すはせんせいに
ことわざをおしえてもらいました
ここにいるみんなをおもいうかべて
ことわざをあてはめよう…
これはけっこう、あたまをつかう、おうようもんだいです

1.いなさん「二兎を追う者は一兎も得ず」
これはいなさんには、きょうくんとして
おしえたほうがいいですね
…でも、いなさんのばあい「二兎」じゃないかも

2.いなさん「馬の耳に念仏」
いなさんっていろいろあてはまることわざありますね
ようするにこれは、なんかいいってもわからない
ってことですね

3.てじゅんさん「仏の顔も三度」
これはむしろいなさんにつたえるべきですね
いみは…ようするに、いいかげんにしとけよ…
  ってことですね

4.らぶさん「薄氷を履むが如し」
きけんなじょうたいってことですね
こおりがこわれないといいですね

5.ぎょんじんさん「あちらを立てればこちらが立たず」
これはまた、いなさんがらみですね
はっきりしないといけないですね

6.てぷんさん「鉄は熱いうちに打て」
もたもたしてるとさめちゃうぞ
ちゃんすはのがすなってことですね

7.すひょんさん「寝た子を起こす」
このいみはなにかふかそうです
なりゆきをみまもるしかないですね

8.どんじゅんさん「待てば海路の日和あり」
これはぼくからどんじゅんさんへのえーるです

9.みんちょるさん「魚心あれば水心」
これはみんちょるさんじしんというより
まわりについてるひとたちのいとをかんじます

10.ぎょんびんさん「案ずるより生むが易い」
あれこれしんぱいしないでしんじてまってろ
ってことですね
または、いろんなわざをためしてみろってことでしょうか

11.てじんさん「急がば回れ」
いそがずにじかんをかけてかくじつに…
ってことですね
なにかいそぎたいことでもあるのでしょうか

12.すはせんせい「女房と畳は新しい方が良い」
…これはみせられません
すはせんせいがまたくらくなります

13.てそんさん「知らぬが仏」 
しらないほうがいいこともあるってことですね
…ふかいです…

14.よんすさん「七転び八起き」
よんすさんにあてはめるとこわいです
でも、ぼくはよんすさんに「覆水盆に返らず」
ってことわざをおくりたいです
でも…やっぱりこわいです

15.そんじぇさん「多芸は無芸」
これはちょっとりあるすぎて
ほんにんにはいえません

16.みにょんさん「煮ても焼いても食えぬ」
けっきょく…どうしたらいいか
  わからないってことですね

17.ちょんうおんさん「毒にも薬にもならぬ」
ようするに…うすいってことですね

18.さんどうさん「小さく生んで大きく育てる」
これはあるいみほめことばですね
ちいさくてもりっぱになったってことです

ことわざって、おもしろいです
みんなにあてはめると、いみがよくわかります
さいごにぼくから、みんなにおくることわざ…

「終わり良ければ全て良し」


◇悪魔と小悪魔4 妄想省mayoさん

シゲッキー&ヨンジュンはホールのドアを開けて入っていった..
俺はテソン等を待ってようか迷ったがテスを促し先にホールへ戻った…

僕はホールへ向かう途中廊下の影に闇夜を引き込み
壁にどんっ#っと押し付けた…
闇夜は頭をぶつけ首がうなだれた…
僕は闇夜を軽く抱きよせ後頭部を優しく撫でた…

「ごめん..大丈夫?」
「ぅん…」
「mayo…」
「ん?」
「僕は…君がいないと…駄目…」
「ぅん…」
「僕は...何かあったらって心配もする」
「わかってる…」
「もしかして..僕の想いが負担になってるの?」
「ぁの…そうつもりでいったんじゃなくて…」
「じゃ..何…」
「ぁの..テソンが大変かなぁーと思って..」
「何が…」
「いつもいつも私の行方気にしたら…」
「mayo…」
「ん?」

本当はもっと闇夜の気持ちをえぐりたかった…
でもやっぱり僕は闇夜の言葉を追求するのを止めてやった…
僕は闇夜の顎を片手で挟み軽く2,3回振って言ってやった…

「もぉー…こんなめんどくさい奴…好きになんなきゃ良かった..」
「ぁ…ぁの…」
「ぷっ…うそうそ…」

私の唇はテソンが片手で強く顎を掴んでいるせいで
ひよこの口のように8の字に上下にぱっくり開いていた…
テソンは上下の私の唇を軽く噛んだあと舌を入れ
私の舌と絡め始めた…
いつものテソンらしくない口撃に私は戸惑った…
私の目のぱちくりぱちくりが収まるとテソンは唇を離した…

僕は闇夜を優しくハグしたあと、闇夜の肩を抱き2人でホールに戻った..
ちぇみの懐にいるテスを促しスタンバイの為一緒に舞台袖に向かう
テスが僕の顔を見てにこっ#っと笑った…

俺の右隣に闇夜が戻ってきた…
俺が言うより先に闇夜が口を開いた…

「聞こえたんでしょ…」
「ふっ…ん…余計なことをテソンに言うな…」
「ぅん…つい出ちゃったんだ…」
「あとでベタな言い訳せにゃならん…だろ?」
「ぅん..」
「お前はそういうのがへたくそだ…」
「はい…よくお分かりで..」
「真面目に聞けっ..」
「はぃ..」
「だったら最初から不安にさせることは言うな..」
「はぃ.」
「俺が直接あいつに言うわけいかんのだ…わかるか?」
「はい..」
「馬鹿者…」
「はい…馬鹿です…」
「唇腫れかして…」
「ぁ…」
「誰もいなけりゃかぶりつくとこだっ…ったぐ..」
「ごめん…」
「頭打っただろ…」
「何でわかるの..」
「音で解るっ#」
「…さすが…特殊部隊」
「茶化すなっ…」
「ごめん..」
「大馬鹿者…」
「はい…嫌いですか?こんな馬鹿は…」

ちぇみ悪魔は何も言わず前を向いたまま後頭部をすりすり〃撫でてくれた…
小悪魔闇夜はお礼に左足先で脛すりすり〃をした…
相変わらず懲りない悪魔と小悪魔である…


【44♪パラダイスホテル イナと闇夜(デュエット) 】ロージーさん


ぶぁかものの法則  ぴかろん

舞台裏で衣装に着替えている皆を横目に俺は袖にいるソクを見つめていた
さっきスヒョクに絞められた首が痛い
あの野郎…

大体スヒョク!てめえも着替えろよな!
何ソクの体にべたべた触ってんだよ!くそっ
何ソクに見とれてんだよっ!ばか!

ソクもソクだ
なぁにが「久しぶり、元気か?」だよっ!
ふつーじゃん!ふつーに喋ってるじゃん!
あんなに熱いキスを交わした仲なのに
アンタ、俺の事好きとか言っただろーがっばかっ!

ソクをじっと見つめていたら双子ルックのドンジュンとギョンビンが近づいてきた
そして何かこそこそと耳打ちしてる
なんかや〜な感じ!
睨んでやったらクスクス笑ってる
ますますヤな感じ

「お前らさぁ」
「「はい?」」

ユニゾンかよ!

「そういうのってヤな感じだっての解んない?」
「「そういうのって?」」

からかってんのか?
もっと睨んでやる
奴ら、口元をプルプル震わせてやがる
笑いたいんだな…腹の立つ!
俺は奴らの頭を一発ずつ殴ってやった
正確に言うと殴ろうとしたけどドンジュンの頭しか殴れなかった…だ
ギョンビンは流石にギョンジンの弟だけあって(へへん)すいっと身をかわしやがった
あとでドンジュンがギョンビンずっるぅ〜いっとかゆって甘えた声を出してたけど…
ムカつく!

「ばかっ!」
「「ばかはイナさんでしょ?」」

なんだと?

「「テジュンさんがいるのに何であちこちフラフラするのさ」」

ユニゾンで言うな!気持ち悪い!

「だって…」
「「だって何?僕はそれが解んないよ!不誠実じゃんか!」」
「不誠実?…ぶぁっかぁ〜この上なく誠実じゃねぇか!」
「「どこが!」」
「この上なく俺自身の気持ちに誠実なんだよ!俺は!それのどこが悪いの?テジュンだってわかってるよ!」
「「…」」

双子ルックは顔を見合わせて黙り込んだ
ざまあみろ!
邪魔すんな!
俺はソクを見てるんだ!

…なんだあの衣装…

あ…こっち来た…チャンス

俺はソクを手招きした
ソクはブンブン手を横に振って顔を顰めた
涙を浮かべてみた
ソクの手が少しゆるくなる
顔を覆って泣くまねをしてみた

ソクがスヒョクの行方を見やってからそぉっと俺の方に近づいてくる

ひひ
かかった

チョロいな、テジュンといっしょ♪

「どうしたんだよ…」
「ソク…つめたいもん…」

ひらがな喋り攻撃はどう?
あ、ちょっと困った顔してるヒヒ

「冷たいって…僕は今スヒョクに夢中なんだもん」

げーっ聞きたくねぇ!そんな事!

「…なんでスヒョクがいいの?」
「…んふ…かわいいから」

俺のがかわいいぞ!ギョンジンだってテジュンだって俺の事『可愛い男』って言うぞ!

「…おれは?」
「お前?…お前はどーしようもない奴」
「…ひどい…」
「…そうだ…お前さ…」
「なになに?」

なんだろう…
ソクが耳打ちしてきた

「やん、くすぐったい」

ってお決まりの事ぐらいゆっとかないとな
でもソクは俺の頭をべちっと叩いた

「あのな、お前ってさ、テジュンとアレの時さ、ごにょごにょごにょ…なんかしてやったりするの?」
「???」
「…参考までに…」
「え?何それ…」
「もぉ〜やだなぁ〜カマトトぶるなよぉへっへっ」

ソク…すけべオヤジになってる…
でもソクの質問の意味が解らない

『テジュンのあれを手であれしたり、あれを口であれしたりしてやってるのか?』

「あれって何?」
「しいいっ!…あれはあれだろうが!」
「何のこと?」
「…え…わかんないの?」
「さっぱり」
「…例えばな、スヒョクはな、今朝僕の…ごにょごにょ」
「…」
「でごにょ…」
「…なんでそんな事すんの?」
「え?…そりゃ…惚れてくれてるんだろうなぁってへっへっ」
「…ふうん…」
「え?お前、してないの?当然お前ならしてるものと思ったが…」
「…しなきゃいけないの?」
「しなきゃいけない事はないだろうけど…」
「…手で…なら…いいけどなんで口?」
「…あ…んと…」
「そんな事する人いるの?」
「…あ…いや、忘れてくれ!すまん!」

慌てて帰ろうとするソクを捕まえてキスした
ソクは俺を押し戻そうとしたけど、ちょっと微笑んで俺に電撃キスをしてくれた

ああ…久しぶり
はへん…ふへぇん…しびれりゅう…

今ならミンチョルもスヒョクもいないから…しびれ放題…ひひん…はあん…

べりべりべりっ☆

双子に引っぺがされた…

「「ぶあかっ!」」

はふん…電撃されたからもう何言われてもいいもん…

俺はソクにばいばいと手を振って、双子に引きずられた

それにしても口で…
ふうん

絶対いやだな!


ジュンホの四字熟語 れいんさん

ぼくは、べんきょうねっしんです
みんなのりくえすとがあったので
ひきつづき「四字熟語」のおべんきょうです
みんなをおもいうかべて「四字熟語」をあてはめます
…ことわざよりむずかしそうです

1.すひょんさん「完全無欠」
ふんふん…ぱーふぇくとってことですね
すひょんさんでも、といれはするのでしょうか
あんまりかんがえたくありません

2.どんじゅんさん「多情多感」
これはきがおおいということではなくて
かんじゅせいゆたかで、きずつきやすい
といういみです
ぼくってなかなかかしこいです

3.ぎょんびんさん「疑心暗鬼」
うたがわしくおもい、ふあんになること
だれをうたがってるのでしょう
きつねさんのことでしょうか

4.みんちょるさん「頑固一徹」
これは、ほし・いってつ…ではありません
でも、にたようなものだとおもいます

5.よんじゅんさん「長身痩躯」
たしかに、やせててせがたかいです
BHCのみんなにはあてはまりませんね

6.やみよさん「神出鬼没」
いどころがよくつかめないということですね
とりついてるみなさんもそうですね

7.ちゅにるさん「泰然自若」
たしかにおちついています
「孤軍奮闘」
これはしょーのきつけのことをさしていますね

8.ほんぴょさん「興味津々」
このひとのことはまだよくしりません
そのうちきっとあえるとおもいます

9.ぎょんじんさん「紆余曲折」
いろいろふくざつそうです
たぶん、いなさんがまたからんでます

10.らぶさん「一触即発」
いつどうなるかわからない、きけんせいがあります
しんぱいです

11.てじんさん「一進一退」
これはつまり…どんどんいけよ!
ってことですね

12.すはせんせい「四面楚歌」「手械足枷」「前途多難」
これ、またみせられませんね
すはせんせいがどんよりします

13.てぷんさん「牛飲馬食」
うしやうまなみに、たべたりのんだり
するといういみですね
「天衣無縫」
これはつまり、なーんもかんがえとらん
ってことですね

14.そくさん「一念発起」「一心不乱」
これくらいのきがまえがないと
あのいしょうはきられないってことですね

15.いなさん「自由奔放」「大胆不敵」「意志薄弱」
これは、いなさんのせいかくのことですね
「一挙両得」「自業自得」「因果応報」
これはつまり、そのけっかということです

16.てじゅんさん「情状酌量」
じじょうをこうりょして、ばつをかるくすること
だから、いなさん、つけあがるんです
「精力絶倫」
…げんきってことですね

17.そんじぇさん「器用貧乏」
みなさん、いみはわかりますね

ぼくは、おべんきょうのしすぎで、だんだんあたまが
いたくなりました
このへんで、きょうはおしまいです

ここのすろーがんは「自画自賛」でしたね
それでは、みなさん、さようなら


記者会見 オリーさん

私は今ホスト祭が行われているホテルに来ています
強力なユニットがデビューするという情報を聞きつけてやってまいりました
緊急記者会見があるそうです。どんなユニットなんでしょうか?
それでは行ってきまーす!あ、始まっちゃってる?…まずっ…

(司会)お二人に質問のある方はどうぞ
Q:お名前を教えて下さい
「カン・ドンジュン。みんなはドンジュンて呼ぶよ、スヒョンは時々僕の天使って」
「ミン・ギョンビンです。ギョンビンて呼ばれます。彼、ミンチョルさんは…ミンって」

Q:スヒョンさんとかミンチョルさんて誰ですか?
「「ノーコメント!」」

(司会)スヒョン、及びミンチョルへの言及はお控えください。はい、次の方
Q:大変仲がいいそうですが、ふだんはどんな風に呼び合っているのですか?
「嫌な奴」
「軽い人」

Q:緊急デビューということですが、どんな活動をされるのですか?
「ボタンはずし?」
「ふたりでやることってそれしかありません」

Q:デビューされる前は何をなさってたんですか?
「ホスト、あっその前はカーデザイナー」
「諜報部員、これからホスト」

Q:大変変わった経歴ですが、得意なことは?
「僕ハンドル持たせたらスゴイの、エロクなるよ」
「戦闘機の操縦ができますが、最近は狐の操縦が得意です」

Q:デビューするに当たって抱負を一言
「スタンばってたらここへ来いって言われただけだもん」
「抱負の前にデビューの意味とこの会見の主旨を説明してください」

(司会)ほ、ほ、他にご質問のある方は?
Q:ボタンはずしのほかに活動の予定は?
「スヒョン確保」
「狐確保および調教」

Q:お二人は写真集も出すそうですが、どんな内容になりそうですか?
「何、それ。ギョンビン聞いてる?」
「知りません」

Q:タイトルは『えくすたしぃ〜』だそうですが
「だったら、こいつとじゃなくてスヒョンと一緒のとこ撮ってよ。特にあづまやなんかで」
「僕らのExstacyは他人に見せたくありません。よく盗撮されるのでこれ以上はやめてください」
「お前、何それ?」「何って?」「知ってるのか?」「知ってますよ、当然でしょ」
「いつだよ?」「いつって言われても、何回もあるから」「うっそー!」
「僕の相手は彼ですよ、ふっ。あれ?ドンジュンさん、まだ?」
「うるさいな、僕は天使なんだよ……誰だよっ!変なこと聞く奴は!!」

(司会)ケホン、写真集の質問は控えてください。他には?
Q:目標とする芸能人はいますか?
「興味ないなあ。あ、でも目標にするホストはスヒョンね」
「芸能界の知識がないので答えられません。人生の目標は彼との愛です」

Q:好きな言葉を教えて下さい
「ハンドル、車、スヒョン、ええっと、天使の指とあづまや…それから…」
「そういう答でいいんですか?」
「じゃ、お前何て答えるの?」
「ひと言、『献身』ですませるけど。ちょっと高度なやつなら、献身と調教は紙一重とか」
「なるほど、じゃ、僕は『素直』。高度なやつは、天使と悪魔は紙一重ってどう?」

Q:まだユニット名を聞いてないんですが、教えて下さい
「ユニット名?どうする、ギョンビン?」
「さあ」「ボタンはずしボーイズじゃだめ?」「ダイレクトすぎませんか」
「じゃ、エンジェル。ずばり天使」「僕は天使じゃないです」
「じゃアスファルトボーイズ」
「僕のが入ってない。ホワイトナイトボーイズにして」
「じゃあ、JJキラーズ。」「何JJ?」「ジジイ殺しよ…」
「ぷっ、それいいかも。JJラバーズ、ジジイの愛人」
「くう、それもいいなあ。」「JJキャッチャーズ」
「「ジジイ確保!キャハハハ!」」

(司会)ケホン・コホン…

「だめ?」「とりあえず、セクシーボーイズでどうですか」
「無難かな」「きっと誰かさん達がいい名前考えてくれますよ」
「とりあえずセクシーボーイズにしといて。後から変更すっから」

(司会)ケホン…そろそろ時間ですので、このへんで。セ、セクシーボーイズのお二人でしたあ。ではショーの方頑張って下さいね!

ということで、ホテルから生中継、ボタンはずしでデビューするセクシーボーイズのキュートでラブリーな素顔をお伝えしました
とーっても清清しくてとーっても仲良しのお二人でしたね。これからの活躍がとーっても楽しみです。それではスタジオにお返しします、どーぞー!

ふいぃぃ。結局何のユニットだったのよ、今の?え?わからない?勘弁してよね、カンペないレポやんないって言ってあるでしょ…てまだ入ってるの…カットよっ…


男たるもの  足バンさん

チュニルだ

やっと小白雪姫が終わりほっとしている
成功といっていいだろう
話が来たときはどうなることかと思ったが
なんとか満足いくものになったようだ

あのような西洋の衣装でも着付けは重要だ
特に激しい運動を伴う場合ブラウスや腰回りが緩んでは台無しだ
常に最高の状態を保つ
これは常に冷静であり続けることと同じくらい難しいが
男たるものそうでありたいのもだ

さて、舞台をおりて着替えも済ませ売店でお茶を買った
私は丁寧にたてたお茶しか飲まなかったが
祭に来てからいろいろなことにトライしている
この缶のお茶にしてもしかり
喉を通った時の香りはかなり忠実に再現されている
開発者の苦労が忍ばれる逸品だ

私は小ホールの扉を望むベンチに腰を下ろした
ここでは確か映画の小品が上映されていたはずだ

中から2人の男がよろよろと出てきた
男組の隊長とMUSAの将軍だったかな
2人は「僕らまだまだだね」「ふぁいてぃーん」と見つめ合い
「くぅん」とか「ひぃん」とか言いながらひしと抱き合って、そして去った
チャレンジャーの匂いがする
男たるものそうでありたいのもだ

ほどなくすると中からまたひとりの男が出てきた
あれはポラリスの理事だ
彼はおもむろに手鏡を出して大きく口をあけ、むにゅむにゅ動かして見ている
「やっぱりあんな口あけてキスしたら唾がつくじゃないか、ふん絶対嫌だ」
と言いマフラーを巻き直して立ち去った
このくそ熱いのにあのいでたちを頑に守っている
ある意味執念を感じさせる男だ

次に出てきたのは会社の御曹司…名は何と言ったか…
とにかくうちのチョンウォンの王子ルックを自分のものだと言ってごねていた男だ
彼は憮然として出てきて、ひとこと言って行ってしまった
「僕の映像がないっ!」
的を外しているのは一目瞭然だが
ある種の気迫を感じる

もうお茶もなくなったので席を立とうとしたところ
またひとり出てきた
あれは確かお隣BHCのミンチョル氏の弟だったな
「信じられない!信じられない!兄さんったらなんでこんな映画に出たの!あぁ!顔から火が出るよ!なんてこと!
 でも凄いテクだな、どこであんな…まさかヨンスさんと…あぁ!そんなことをっ?まさかあの兄さんが?
 でも”僕の心を飲み込むんだ”なんて言うような兄さんだからわからない!あぁじゃあいずれは僕の役目?
 ひぇ〜恥ずかしいっ!でも兄さんには負けない!頑張るぞぉ!よしもう1回復習だ!こじゃれたスヒョンさんのも
 もう1回観よう!蜘蛛ももう1回だ、あの危険な感じは使える!それからテプンさんのコミカルさも!イナさんの
 ヤらしさも学習だ!待っててヨンスさん!」
そう言ってまた小ホールに入って行った
執着心は買えるが…
男たるものもう少し口数を減らすべきだな

ミンチョル氏の弟が入ってほどなくして女性が2人出てきた
「あん退屈だったわ、どう?ヨンスさん」
「ええ、思ったほどじゃなかったですわ、ミヒさん」
「この程度でタイトルが”Eroticism”よ」
「笑えますわね」
「でもあなたのダンナ、頑張ってたじゃない」
「子供の遊びですわ」
「厳しいのね」
「ますます意欲が湧いてきたわ」
「頼もしいこと」
2人は楽しそうに笑いながらレストランの方へ行った

……。
もう少し濃い茶でも買ってくるか…。


好奇心  ぴかろん

ああ…電撃キスはいいなぁ…
くそ
スヒョクの奴あれをいっぱいしてもらってるのか…
でもその代わりに今朝手で…

…俺も手でしたらソクに電撃キスしてもらえるのかな…

じゃあもしも口ならば…

げげ

いやだ!絶対いやだ!
何で口?
だって最終的にはああなってこうじゃんか!
必要ない!

俺が色々考えてたら双子がまたやって来た

この二人はどうなんだろう…
知ってるのかな?『あれをああ』とかいうの…
聞いてみよう

「なあなあなあ、お前らさあ…」

ごにょごにょごにょ?ごにょごにょごにょにょ?

「「…」」
「どうなの?それって普通の事なの?」
「「一般的にはよくあることだと思います」」
「…え?よくある事?」
「「そうです」」

お互いの顔を見る双子

「「…」」

しばしの間

「「常識だよねぇ」」

「常識なのぉ?!うそぉ…」
「「イナさん…結婚してたんでしょ?」」
「うん…」
「「してもらわなかったの?」」
「そんな事!とんでもねぇ!スヨンはシスター崩れだぞ!清純派だったんだぞ!
俺だってそっちに関しては…スヨン一筋…うっうううっ…」
「「あ…泣いちゃった…僕達ってやっぱりジジイ殺しなんだねへへ」」
「…ジジイ殺し?…俺がジジイだっての?」
「「…」」
「…腹立つなぁ…」
「「じゃ、僕達これで」」
「おうっ!お前ら!若さだけで勝てると思うなよ!」
「「僕ら、若さだけじゃありませんから。テクももってまぁす。ねっ」」
「…テクって何?」
「「…」」
「ねぇ、何よ…」
「「…じゃっこれでっいこうギョンビンドンジュン」」
「ちょっとぉテクって何よぉ〜…ああいっちゃった…。へぇ〜ふぅん…一般的かぁ…
…ぜってぇテジュンに知られないようにしよぉっと…」

ナイフ  ぴかろん

おじさんの手を引っ張って俺は舞台袖まで来た
ドンジュンとギョンビンが衣装に着替えて並んで立ってる
決まってるね…カッコイイよ…

俺はそんな言葉をかけたように思う
心臓がどきどきしててよく覚えてない

おじさんは袖口の脇に隠れるように立っている
俺はおじさんのところへ行って中までおいでよと言った

「だめだよ。僕は部外者だもん。それに…まだ謝ってない人もいるし…
祭が終わってから皆さんにちゃんと謝って、挨拶もしなきゃさ…」
「堅いの…」

俺はおじさんのシャツの襟を掴んで前に引っ張った
それからその胸に頭をつけた

怖い
怖くてたまらない
どうしよう

「まだ怖いの?」
「…うん…」
「何がしてほしい?」
「…キス…」
「濃いめ?薄いめ?」
「…濃すぎないヤツ…」

おじさんは丁度いいぐらいのキスをしてくれた
でも俺の恐怖心は治まらない
唇を離しておじさんの肩に頭を乗せた

「お前は着替えなくていいの?」
「ん…このシャツ脱げばオッケー」
「…なんでお前だけ裸?」
「…知らないよ…」
「色っぽいからだね…」
「…俺なんか…」

色っぽくないよ…

「直前に脱げばいいのか?」
「ん…だってまだ…」

ち○びがたってる

そう耳元に囁くと、おじさんは眉根を寄せてすまなそうな顔をした

「くふっ…」
「笑った…」
「…」
「そんなに緊張するなよ」
「だって失敗したら」

もしかしたらナイフがぐっさり突き刺さるかもしれない…

「失敗したっていいじゃないか。誰も怒らないよ」
「俺がいやなんだもん!」
「…ラブ…」
「…失敗したくないんだもん…願いが叶わなかったらいやだもん…」

俺はおじさんの背中に手をまわしてぎゅっと抱きついた
おじさんは俺の頭を撫でてくれた

「失敗したからって願いが叶わないわけじゃないさ
もし失敗したらお前の願いが叶うように僕も手伝ってやるから心配するな…緊張しすぎだぞ」
「…手伝ってくれるの?」
「ああ」

イナさんとおじさんが離れてくれるようにっていう願いなのに?

「…おじさん…」
「ん?」
「ボタンはずしといて…」
「え?」
「おじさんが留めたボタンだから、おじさんが外してよ…」
「だって直前でいいってお前」
「ボタン外しとけば直前にサッと脱げるじゃん…」
「ああ…そうか。わかった」

おじさんは俺のシャツのボタンを外し始めた
少しずつ露わになる俺の胸
その生肌におじさんの息がかかる
俺は生唾を飲み込む

「はい…他にして欲しい事は?」
「印…つけて…」
「…どこに?」
「肩の…入墨んとこ…」
「…」

おじさんは俺のシャツをずらした

「こんなとこに…お前…」
「勢いでやっちゃった…」
「…セクシーだ…」

おじさんは俺の名前の上に赤い印をつけた

「他には?」
「…あ…」
「ん?」
「抱きしめて…」

おじさんは俺の言うとおりの事をしてくれる
裸の胸におじさんのシャツの感触が刺さる

「…は…」
「?」
「ごめん…感じちゃう…」
「何もしてないのに?」
「ごめん…緊張してるせいだ…。もうあっちでアップするよ…。脱がせて…」
「…あ…ああ…」

おじさんは戸惑いながら俺のシャツを脱がせた
おじさんの方を振り返らずに俺はナイフの置いてある台に近づいた

8本目のナイフは本物…
だから今は7本のナイフで練習する

一本ずつ本数を増やしていく
軽くクリアできた

もう一本、今やってみようか…

「ラブ!ちょっと邪魔」
「あ…ごめんなさい…」

スヒョクがパタパタとソクさんの衣装を持って俺の前を通り過ぎた
俺は練習をやめてストレッチする事にした


おかしい
ラブが変だ
緊張のせいだけじゃない
何か隠してる
何を?

僕はラブのシャツを抱きしめて考えてみた

コトンと何かが落ちた

ああ、ラブのナイフだ…やっぱり預かっておいた方がいいな

手に取ってみた
あれ
かるい…
こんなもんだったかな?

僕はラブのナイフを腰のポケットに差し込んだ

ぼんやりとラブの背中を見つめた
あんなとこに入墨なんてあったのか…
医務室でも裸をみたのに、気づかなかったなんて…

「BHCの方々、袖から幕裏に移動願いまぁす」

誰かが指示を出して、みんなは幕の裏の方に移動を始めた
ラブがナイフ8本を持って裏手へ行く
一瞬僕に視線を投げかけて消えていった

ふう…こっちまで緊張するよ…

出番の時にはまた袖にくるらしい
それまで裏で進行の確認か

僕は近くにあったいすに腰を降ろした
コツン
腰に刺してあったナイフが邪魔だったので、胸ポケットに入れようともう一度そのナイフを手に取った

軽い

よくみるとラブのものじゃない

あいつ、緊張して間違えたのか?大変だ…
でも本物を使うわけないよな
予備のダミーナイフがあるだろう

僕はナイフを胸ポケットに移し、ラブのシャツを纏って彼らの出番を待っていた


【45♪情熱のあらし by らぶ 】ロージーさん


◇悪魔と小悪魔5  妄想省家政婦mayoさん

「闇夜..」
「…」
「…??…ぉ..ぉいっ!!」

隣の闇夜のマイクに通信しても返事がない..
闇夜が俺の右腕をいきなり掴んだ..
俺が腕を見るのと闇夜が俺の右腕から落ちていくのと同時だった..
俺は闇夜が床にペタンと座り込む寸前に
闇夜の腕を引っ張り上げ..腰を支えた..

闇夜の顔はまた青白くなっていて鼻血を出していた..
『頭打ったからか..?』
俺は闇夜の鼻をバンダナで押さえ目立たないようにホールを出た..
外に出るドアを開けとりあえず壁に立たせる..
といっても支えがないと立てない状態だ..
俺は腰を抱いたまま髪を掻き上げ何回か頬を叩く..
閉じていた目が虚ろに開いた..
「俺がわかるかっ?!」
闇夜は力無く頷いた..
さて..どうする..
「部屋に戻るか?」かすかに首を振る..
「医務室に行くぞ?」また首を振る..
抱えて歩くにはだらりとしていた..
俺は闇夜を背におぶって中庭の木の下まで運んだ..
ゆっくりと背から下ろし腰を落とした俺の左腿に頭を移動した..
途中噴水の水で濡らした何枚かのバンダナを額にのせる..
鼻血はなんとか止まってくれた..
俺は闇夜の手のひらに触れた
闇夜の手はいつも冷たいが今はひやっ#とするほど冷たかった..
『テソンに血の気吸われたか?』
俺は可笑しくなって#馬鹿者め..と目を閉じたままの闇夜に毒づいた..
両方の手をぎゅっ#ぎゅっ#と何度か握ると手は温かくなってきた..
顔にかすかに血の気が戻ったとき闇夜の頭が少し動いた..

ぼんやりと目を開けると上から覗いているでかい顔があった..
でかい顔に手を伸ばした..瞼からすぅっとした鼻筋をなぞり..
顎の線をなぞり薄目の唇をなぞる...手のひらに唇が落ちた..
私の手を握るとそっと降ろした..

「気が付いたか..」
「..ごめんなさい..」
「ぷっ..素直だと気味が悪い..」
「ぁふ..鼻血..出た?」
「ん..少しな..」
「そう..」
「しょっちゅう出るのか?」
「たまに..」
「テソンは知ってるのか?」
「知らない..言わないで..心配する..」
「ん..わかった..」
「サンキュ..」

闇夜はそう言うと視線を外し遠くを見て目を伏せた..
起きあがろうとしたので俺は頭をがっつり押さえた..

「まだ横になってろ..ふらふらするだろ..」
「ぅん...ごめん..」
「頭打ってホールの熱気に当たったんだろう..」
「ぅん...立ちっぱしだったし..」
「ん..それに..お前..」
「何..」
「今日一日ち◎うしすぎだな...はは..」
「ぉ..ぁ..ぅぅーん..」
「血の気もなくなるわな..ぷはは..」
「そんな..笑わなくても..いろいろあったわけで..」
「ん…」
「いっぺんにいろいろ来たわけで..」
「ん…そうだな..」
「その...大変なわけで..」
「ん..わかってる..すまん、すまん..」
「ちぇみ...起こして..」
「ん…」
闇夜は起きあがり木に寄りかかり..大きく深呼吸をした..
曲げた膝に両手を置き寄りかかってる姿はまるでおとこだ..

「闇夜...祭りが終わったら別宅直行か?」
「ぅん..テソンの荷物もすでに入ってる..」
「そうか..」
「ベーカリーどうする?」
「少し落ち着いたら考える..」
「ん...行こうか..」
「大丈夫か」
「ぅん..」

立ち上がった闇夜はふらついていたが長居をするわけにもいかずホールへ戻った
また2人で壁に寄りかかった..


心が抱きしめる  足バンさん

ギョンビンとショウのための衣装に着替えた
真っ白なシャツに黒いスラックス
着替え終わって髪整えてちょっと練習

ららら…ステップ踏んで…
ギョンビンがするりと横から僕の身体に絡んで…
抱きかかえるように…ボタンをぴんぴんぴん…

「ずいぶんうまくなったじゃん」
「そう?」
「ね、ここで僕もギョンビンのボタンはずすことにしよう」
「どうやって?」

ららら…ここで僕が後ろに回って…そう、腰を一緒に揺らしてね…
客席には僕が後ろから抱きついてる感じ…胸んとこまさぐるよ…
君は目を伏せて僕は肩越しに客席を見る…そう…
で…ぴんぴんぴん…

「どう?もっとセクシーじゃない?」
「うん、いいかも」
「あとはアドリブで適当にやろう」
「了解」

僕たちは袖の壁にもたれて、忙しそうに動き回ってる人たちを見ていた
ふたりとも考えたいことは一緒だったけど
あえて何も言わなかった
これ以上何か言ったところで変化などないから

不意に入口のドアが開いた
そしてミンチョルさんとスヒョンが入ってきた

ふたりは僕たちの姿を見て急に立ち止まった
ふたりは固まったように僕らを見つめている

4人の間の忙しい人たちがぼうっと霞む
僕たちの間の時が止まる

ギョンビンの心はミンチョルさんに駆け寄りくちづけをし
僕の心はスヒョンの胸に飛び込んでくちづけをした
僕たちのあの人たちを無くしたくなくて
思い切り抱きしめた
心で

スヒョンが足元に視線を落とすと、
ミンチョルさんはその様子を気にした

濃いスーツと真っすぐなタイのミンチョルさん
ワイン色のジャケットに白いシャツのスヒョン
立っているふたりのまわりには落ち着いた空気が支配していて
僕たちがどんなに騒いでも
どんなにジジイ呼ばわりしてもどこかかわされそうな
そんな大人の香りに満ちている

肌をよせるふたりを想像すると
ただそれだけで暗い底なし穴に落ちて行く錯覚を憶える

僕たちの奥からふたりを呼ぶスタッフの声がした
と同時に扉からテジュンさんが顔を出し、僕らに取材が来てると告げた

取材?

聞いていたミンチョルさんはテジュンさんに何事か確認して言った

「オーナー絡みだ。行ってこい」
「え〜」
「仕事だ」

しぶしぶ歩き出した僕らは2人とすれ違った
8つの視線が絡み合う

すれ違う瞬間
ギョンビンはミンチョルさんの首筋に
そして僕はスヒョンの首筋にキスをした

言葉にならない想いをこめたキスだった

ミンチョルさんとスヒョンは一瞬目を閉じて微笑んで
お互い顔を見合わせて…
そしてそのまま振り返らずに歩いて行った

僕らもあとはもう振り返らなかった


◇ぱーとなーたち  妄想省家政婦mayoさん

「ちぇみ..」
「ん..どうした..」
「ちょっと舞台袖に行って来る..」
「ん....行って来い..」
目元口元に笑みを浮かべゆっくり瞬きをしながら頷く..
「ちぇみ..」
「ん..何だ..」
「頷き顔..好き..」
「馬鹿っ#..早く行けっ!」
俺は闇夜の手をぎゅっ#っと握って離した
相変わらず冷たい手だが倒れた時ほどの
ひやりとした感触ではなかった..

☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
舞台の袖のあたりにメンバーが集まっていた..
包丁ショーの3人テジン・テプン・テソンは壁近くでたむろしている

テプンは壁にもたれ丸椅子に座り腿の上にはチェリムがいた
チェリムはテプンの首に巻きつき ち◎うち◎う を繰り返す..
テプンの左手はチェリムの胸に置かれているが動いてはいない..
動かしようがないのか..
「怪我しないでよっ!むちゅ◎」
「わぁーかってるってっ!んちゅ◎」
「終わったら挨拶行くんだから..むーちゅ◎」
「お、おぉ!んんんちゅ◎」

テジンは隅っこの方で立ったまま目を閉じながら..
自分のシャツのボタンを外しては留め〜外しては留め〜している..
ボタンが3個外れるとシャツの間から自分の手を滑り込ませ
自分の胸に持って行き..首をかしげ..ため息..
ぶつぶつ何やら呟いている…
「頬と頬をくっつけて..右手でボタン外し..左手を滑り込ませる…?
 唇をなぞりながら…右手でボタン外し..左手を滑り込ませる…?
 耳元で囁きながら.. 右手でボタン外し..左手を滑り込ませる…?
 スハはどれが好きかなぁ…全部かなぁ..」

テソンはそんなテジンを横目で見てくすくす笑っていた..
私は斜め後ろからテソンの手を見ていた..
手を結んで開いてを何回も繰り返していた..
料理人のせいかメンバーの中でもテソンの手は綺麗だ..
神経質なせいもあるが爪も甘皮も綺麗に整えている..
テソンは斜め後ろにいた私に気づき寄って来た..
「来たの..」
「ぅん..」
テソンは私の頬を手のひらですぅーと撫でた
デコxxxの後..テソンが私の頭をぐっ#と下げ私の顔を覗くように見た..
「…??」
「また..出たね..鼻血..」
「ぁ....…またって…」
「知ってるよ..前から..君は血管が細くて...疲れるとすぐ破れる...違うかな..」
「ぁふ…」
「いつ出た..」
「さっき..」
「…頭..ぶつけたからかな..ごめんよ..」
私は首を横に振った..
テソンは頭から私を包み背中をトントンした..

袖の入り口にスハが遠慮がちに立っていた..
私はそれに気づきテソンに合図した..
「テソン..スハさんあっちの隅に連れて行くから..」
「ふっ..わかった..テジン呼んで来るから..」
「ぅん..」
俯き加減のスハをテプンたちとは反対側の隅に連れて行くと
テソンに連れられたテジンが来た..ボタンは3つ開いていた..
私とテソンはその場を離れ..後で2人でちょっと振り返った..
スハをそっと抱いているテジンがいた…
私はテジンがボタンの外れたシャツをどうするのか気になったが
テソンに肩を叩かれて元の場所に戻った…

☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
マイクからテソンと闇夜の会話が洩れ聞こえた..
テソンはいつも闇夜を気遣う..いつも闇夜だけを見ている..
俺はテソンの想いが深いことを思い知らされる..
と同時に闇夜を任せられると感じていた..


ナイフ 2 ぴかろん

俺たちは舞台裏でB息ショーの順番の確認をしていた
俺の番は最後に近い…
少しでも緊張をほぐすために俺はみんなからちょっと離れたところでジャグリングの練習をしていた

「なあなあ」

イナさんだ

「…なんですか…」
「ギョンジンどこ?」
「…なんで?」
「睨むなよ、足のサポートテープ、もう一回巻きなおしてもらおうと思ってさ…
さっき袖の後ろの方にいたような気がしたんだけど…」
「…」
「いなかったっけ…しょうがないな…まあいいか。あ、お前、顔が引きつってるぞ、大丈夫か?」
「…は…はい…」
「体も緊張してるのか?ビーチクびんびんじゃねえか…」
「…」

イナさんはニヤっと笑うと俺の方に近づいた

「お前さ、さっきみたいに笑えよ…」
「…へ?」
「笑ったほうが可愛いよ」
「…」

そう言って俺をそっと抱きしめた
イナさんに包まれるなんて思ってもみなかった

嫌じゃない…少しだけ心が落ち着く
なんで?

「気楽にやろうぜ。な?」
「…うん…」

イナさんはばいばいと手を振って前に歩いていった
俺はなんだかやれそうな気がして、8本のナイフを手に持ってみた

本物に被せてあった鞘を外す
明らかに偽者とは違う金属の輝き

ゴクッ

音を立てて唾を飲み込む俺がいる

ナイフを構え、すっと投げようとした時

「そうそう、あのさ…袖にもしギョンジンがいたらちょっと借りるあわわ」

イナさんがこちらに向かってもう一度やって来た
そして何かに躓いて俺の方に倒れこんだ

ナイフが!

カラン…

落ちた…

「イ…イナさん…イナさん!」
「ん?あ、ごめん」
「大丈夫ですか?!」
「大丈夫だよ、ちょっと躓いただけ…な、ギョンジンいたらちょっと借りるけど、妬くなよ」
「…」

ほっとした
ナイフが刺さったかと思った

「あいて…なんだ?こんなとこ薄く切っちゃった…」

え?

イナさんの腕に細くて赤い筋が見えた
うっすらと血が滲んでいる

「おめぇのナイフ、あぶねぇなぁ。ニセモンでもこんなになるのぉ?気をつけろよ」

そう言ってイナさんは舞台袖へと向かった
俺は動けなくなった

ナイフに触れたぐらいなんだろう、イナさんの腕は…

もしも…突き刺さったら
もしも…変な風に刃が当たったら
そしてそのまま倒れこんだり体を捻ったりしたら…

切れる肉体
切れる血管
切り刻まれる心

俺は恐ろしさのどん底に堕ち込む
ナイフを拾わなくては…

はっはっはっはっ…

息苦しくなる
瞬きができない

どうしよう…どうしよう…どうしよう…


俺は袖の後ろに座っていたギョンジンの前に足を出した

「何?」
「もっかいまいて」
「僕にひらがな喋りは通用しないよ」
「まいて」
「緩んだの?」
「…ん…」
「…それも通用しないよ…。イナはあちこち愛想ふりまきすぎだよ…」

ギョンジンはテープを巻きなおしながらそう言った
フン!

俺はテープを巻いてるギョンジンの顔をぐいっと上に向かせてキスしてやった

うふん…反応アリ
袖に来てからキスの調子がいいぞぉん♪

あっ…こいつ…すんげぇ深く舌入れやがんの…
はふん…

れも、ソクの電撃には負けるのら…
はふん

少しの間、ギョンジンとキスをして、それからくすっと笑いあった
ギョンジンはまた、俺の足元に跪いた


「それ、ラブのシャツ?」
「ん、預かっといてって…」
「…ふうん…」

ポタッ

イナの足にサポートテープを巻いていた時、僕の手に血が落ちた

「…何…。何?血?!…イナ…」

慌ててイナを見た
平然としている

「なにさ」
「なにさって…今血が落ちてきた…お前どっかケガしてない?」
「ケガ?…ああ、これ…うわっこんなに血がでてきた!擦っただけなのに…」
「待ってろ。確か救急箱があったはずだ…」

僕は袖の棚にあった救急箱を持ってきてイナの腕を消毒し、包帯を巻いた

「へへ、俺傷だらけじゃん」
「どこでやったの?」
「…んと…、あ、ラブに倒れこんだ時」
「ラブと?どこで?」
「裏でさ。アイツ緊張しててさ、ナイフ投げようとしてたとこに俺が躓いて倒れこんで
そんとき腕をナイフがかすったの。ニセモンなのに切れたりするんだなぁ…」

僕はイナのテープを巻き終え、ラブに預かったナイフを取り出した

「…こんなだった?」
「ん、そうそう、それで練習してた」
「これって…」

僕は鞘を外してナイフの刃先をイナの腕に当て、すいっと引いてやった

「ぎゃあああっ何すんだよっ!」
「切れないようにできてるんだよ…」
「…へ?…あ…ほんとだ…」
「切ろうと思ったらよっぽどの力を加えないと…」
「そんなによっかかってないけど…」

悪い予感がした
僕はダミーのナイフを持って舞台裏に走った
確認を終えたBHCのメンバーとぶつかりながら僕はラブが座り込んでいる場所まで行った


緊急事態  足バンさん

僕は呆然とした

「なんでだ?」
「わからない」

ミンチョルも呆気にとられた顔をしている

なんでここにきてBHCの進行表に「チークダンス」が入ってるんだっっ?
それも僕とミンチョルっっっ!

突然ミンチョルの携帯が鳴った

「はい、はい、え?…はい…はい、はい、はい…は…い」 パンッ!
「なに?」
「オーナーだ。衛星中継のお客様からのリクエストに応えたまでだそうだ」
「ぼくたちの?ちーくだんすをかっ?」
「ひらがなで喋るな」
「だってもう始まるんだぞ!」
「仕方あるまい。業務命令だ」
「だいたいミンチョル、おまえダンスなんてできるのか?
 チークったって仮にも舞台で踊るんだぞ,ワルツくらい踊んなきゃまずいだろう」
「おまえがリードしろ」
「リードって、お互い息合わせなきゃダンスなんて無理だよ」
「少しはサンバ練習したぞ」
「サンバとは違う!それに2人だと目立つんだよ!かっこ悪いと!」

運動神経っていうかセンスっていうか…そういうものが…

「あ…」
「へ?」
「今、僕が運動神経ないとか思っただろ」
「う…いや…」
「背けば2ヶ月減給そしてキス及び全ての秘め事禁止だそうだ」
「へ?」
「耐えられないだろう?」
「前者が?後者が?」
「後者に決まってるだろう」

はぁ…この野郎…まぁ僕も耐えられないけど
しかし
どう考えたってミンチョルと優雅に踊れるイメージが湧かない
絶対ドンジュンとギョンビンに思いきり笑われるに決まってる

「ちょっと待ってろ!」

僕は外に飛び出てあのダンスの先生を捜し出した
中庭で白夜のヨンジュンさんといちゃついているところを、無理矢理引っ張ってきた
マジ先生は最初すごく嫌がったが
綺麗な総支配人の指を触らせてやると約束するとすぐOKしてくれた
ヨンジュンさんがちょっとむくれた

誰にも見られないよう控え室にこもって
速攻でダンスの講義を受けた

「ミンチョル、もう息切れたのか、はぁはぁ」
「おまえだって…はぁひぃ」
「ま、こんなところね!あなた達いいお胸してるんだから背筋伸ばすだけでも違うのよ!
 いい?こうなったらせめて堂々とね!」
「「 はぁ〜い 」」
「じゃアタシはこれで!ヨンジュン行きましょ!」

控え室に取り残された僕たちに時間はなかった

「もう1回やるか」
「ああ…はぁひぃ」

リードできる僕が男性役だ
ミンチョルと手を組み右手を彼の腰にまわす
ミンチョルの片手は僕に軽く添えられる

いちにっさん、いちにっさん…

控え室の静寂の中、僕たちの身体はぴったりと寄り添い静かに回転する
先ほどまでは焦っていたのと先生たちもいて何も感じなかったが
こうしてふたりきりになると落ち着かなくなる
顔の高さが同じだから左右にずらさないとまずいことになる

「あの…スヒョンもう時間…」

いきなり顔の向きをかえたミンチョルと唇が触れそうになる
僕たちは弾かれたように身体を離した

「ばかっ!いきなりこっち向くな!顔近づけすぎるな」
「おまえも息吹きかけるな」
「その前髪もくすぐったいんだよ」
「…」
「…」
「行くか?」
「ああ」

なんとなく無言になって僕たちは部屋を出た

そして僕たちに用意されていた黒いタキシードと蝶タイに目眩を起こした
これ着てふたりでダンスかよ…
僕たちは大きなため息をついて…とりあえず着替えた


【46♪ダンスをうまく踊りたい byミンチョル】ロージーさん


ナイフ 3 ぴかろん

「ラブ!」
「…」

ラブは片手にナイフを握り締めたまま呆然と座っていた

「お前…間違えてるよ…こっちがショーのナイフだよ…」

僕はゆっくりと優しい口調でラブに話しかけた

「そっちとこっちと取り替えよう」

わざと?わざと本物を持ってきたのか?

「…」
「ラブ?」
「…イナさんは…」
「…」
「イナさんにケガさせた…」
「大丈夫だよ」
「腕、切れてたでしょう?」
「ん、ちょっとね」
「…」

ラブは震えて両手で顔を覆った

「どうしよう…どうしよう…」
「大丈夫だ!大丈夫…イナはへっちゃらだったから、な?」

僕はラブを抱きしめた


「やめてよ…刺すよ…」
「わざと本物のナイフ持ってきたんだな…」
「…」
「どうして?どうしてそんな事するんだよ…。危ないじゃないか、ケガしたらどうするんだよ」
「…ねえ…今までわかんなかった?それがニセモノだってこと…」
「…いや…わかってた。でもまさかショーで本物使う気ではないだろうと思ってたんだ…」
「…」
「それで…怖かったんだね…」
「…」
「ほら、預かるよ」
「いやだ…」
「だめだよ、危ないし…」
「嫌だ!」
「…ラブ…」
「これを投げて8本成功させなきゃ、願いが叶わないんだ」
「…ばか…」
「…これでなきゃだめなんだ!」
「成功したからってお前の願いが叶う保証がどこにあるの!」
「…」
「意味ないよ、そんな事しても…」
「意味…ない…」
「ただの自己満足だよ、そんなの」
「…」
「こっちでやって。これで成功させて。これは預かる」
「嫌だ!」
「ラブ」
「嫌だ、これでやる!これでやるんだ!これで」
「貸せよっ」

僕は最初ラブからナイフを取ったときのようにラブの腕を捻った

「こんなもんに頼るなよ!頼るなら僕を頼れよ!ばか!」
「…」
「ばか!」

僕はラブをもう一度抱きしめた
スヒョンさんやミンチョルさん、ドンジュン君と弟の四人がまだ近くにいたけれど、僕は構わずラブの唇を強く吸った

ラブは激しく抵抗した
僕はラブの手首を掴み、片手で動きを封じてもう片方の手でラブの頭を掴んだ
そして噛みつくようなキスをした

ラブは力を抜いて僕に体を預けた

四人の視線を感じる
構わない
ラブには今、僕が必要なはずだから

唇を離し、ラブの頬を撫でながら僕は強い口調で言った

「傷つけないでくれ、僕のラブの体を…。傷つけないでくれよ、自分で傷つけないでくれよ!大事にしてくれよ、ラブ!」

涙がぼろぼろ流れた
自分でも驚いた

これは
ラブのための涙だ…
僕は
ラブの事を思って泣いている

「ごめんな…ごめん…。僕が寂しい思いをさせたんだ…ごめん…」

泣きながらラブの体を抱きしめた
ラブは声を詰まらせてごめんと言い、そして徐々にしゃくりあげて、そしてわんわんと泣き出した

弟がじっとこちらを見ている
弟と目が合った
弟は寂しそうな顔で笑った


「ラブ…大丈夫だな?できるな?」

ラブは涙でドロドロの顔をあげて、首を数度、縦に振った…
僕は本物のナイフを預かり、ダミーナイフをラブに渡し
こっちを見ている四人に会釈すると、ラブの肩を抱いて袖の方に向かった

ラブの髪に口付けながら歩く
涙が溢れる

このナイフ…いつか二人で…捨てような…ラブ…
大切な…僕のラブ…


映画鑑賞 れいんさん

テジンさんは出番前の準備に忙しい
「後でアシスト頼むかもしれないから
それまで映画でも観て時間潰しておいで」
って、テジンさんに言われた

映画か…
小ホールでやってるらしい…
気分が滅入っているから、少しは気分転換になるかな…
思い切り泣けるような映画がいいな…

ビューテイフルナイトか…
タイトルからすると、美しい感動作のようだ
僕は小ホールに入った
まばらに人が座っている
僕は空いている席に腰を下ろした
僕の席の後ろに女性が二人座っていた
聞くつもりはなかったが、なんとなく…
話声が耳に入ってきた…

「この映画、お宅のご主人がでてるんじゃないの?」
「ええ、そのようですわ」
「ちょっと、大丈夫?いくら映画といっても…平気なの?」
「ええ、ご心配なく。あの人は完璧主義なところがありますから、
少々役にのめり込んで演技しただけの事ですわ」
「でも…結構きわどいシーンがあるって聞いたわ…」
「そのようですわね。随分スタントを使ったり
CG処理なんかもしたんじゃないかしら」
「あら、そうなの?スタントなしかと思ってたわ」
「いいえ、あの人案外そういうのにはオクテなんですのよ」

そんな会話が聞こえてきた
スタントにCG処理…
どうやら、この映画は涙の感動作ではなく
アクション映画らしい…

ふと、僕の前の席に座っている男の人に目が止まった
なにか、この場には不似合いな、凛としたたたずまいでそこにいる
どういったらいいのか…どこかの組の若頭…とでもいうような…
手にはカテキン入りのお茶の缶を持っている
何か独り言を言っているようだ

「このビューテイフルナイトという映画…どうやら、私が思っていた様な仁侠映画とは趣が違うようだ
が、しかし、男たる者、中座するなど、製作者達に対して礼節を欠く様な振る舞いをするわけにはいかない
最後まで、皆の思いを無駄にせぬよう、しかとこの目に焼き付けて帰らねば…」

と、きっちりつぶやいているのが聞こえた

ビューテイフルナイト…
どんな映画なんだろう

あ…暗くなってきた
もうすぐ始まる…
僕は期待に胸を膨らませ、スクリーンを見つめた


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