大食い選手権 オリーさん
俺はさっきからジャージャー面を食ってる
何故かというと俺の大好物だからだ
スハシにごちそうになってからはますます大好物だ
いや、それはどうでもいい
大食い選手権とやらに出てるんだ
今朝、狐に出てくれと頼まれた
俺は早食いだが大食いじゃねえ、
お前が出たらどうだ、と言ってやった
狐は僕は熱いものはちょっとひとりでは…
とか言ってサングラスの鼻を押さえ俯いちまった
いつになく弱気な態度が気になって、
優しい俺としては人助けのつもりで引き受けた
だがチェリムは違った
出るからには勝つのよ!
そう言い放った
あいつはやっぱり強い女だ
で、俺はこうして必死こいて
ジャージャー麺を食い散らかしてるというわけ
試合の方式は単純だ
最初はラーメン5杯、30分内に食べれなければ失格
次にジャージャー麺5杯、同じくだ
で残った面子で決勝だ
決勝はチョコパイか、ドーナツを時間内にどれだけ多く食えるか、
それで勝負が決まる
まずラーメンでMUSAの将軍と男組の隊長が失格した
当たり前だ、あのばかども
時間勝負だというのに、何がふーふーだ
食べさせっこなんかしてやがる
勝負を甘くみちゃいけないね
ヘブンのお坊ちゃまは何とかラーメンはクリアしたようだ
筋肉なんとかに出てたのに、案外タフだ
タフといえば、マフラー巻いてる兄ちゃんもいる
吊誉回復だとかぐちぐち言いながら、
スタート直前にむりやり入ってきやがった
ラーメン食うのにマフラーが邪魔だって気づかないほど興奮してるぜ、こいつ
あぶねえ…
でも許せねえよな
神聖な飯のタネのスポーツに薬使うなんてズルはよ
クリーンが売りの俺としては負けらんねえ
後は男組の兵隊が何人かいたが、あいつらは
競技というより、食いだめという感じだ
ラーメンとジャージャー麺食って満足して帰っていきやがった
そうそう、チーフの弟もいたな
ラーメン食いながら、素材だの料理法だの解説してるうちに終わった…
ばかだな、あいつも
要注意人物はふたりだ
男組のガンホとMUSAのチンさんだ
ガンホは文字通り凄い
意外だったのがチンさんだ
きっちり時間どおりにクリアしてくる
頭使ってやがる
侮れねえ
マフラーの兄ちゃんは真っ黒いマフラーになっちまってる
汚ねえ…
あ、ヘブンの兄ちゃんは何かに当たったらしい
棄権だ
あいつ屋台でも物が食えねえらしい
御曹司ってのはめんどくせえもんだな
さあ、いよいよ決勝だ
ガンホとチンさんとマフラーと俺
俺は当然ドーナッツを選んだ
ガンホとチンさんはチョコパイ
マフラーは両方食うらしい
スピードじゃあ負けないが量もあるから計算しないとな
一個づつ慎重に一口でいくぜ
それにしてもガンホの奴、何で口にいれたチョコパイ、
いちいち取り出すんだよ、汚ねえ…
汚い奴らばっかりだぜ
上品なのは俺とチンさんだけだ
あ、チンさん、鼻血出した!
やっぱ年寄りにチョコはきつかったか
リタイヤね
よしっ、残りふたりだ
マフラーの兄ちゃんはどうしても一個口に入れられねえ
俺とガンホの方をチロチロ見やがる
うっせー、俺の口は広くて深いんだ、心と同じよ
へへっ、マフラーの兄ちゃん、もどしそうになってる
無理矢理一個口に入れたからな
こんな姿を家族に見せられない、泣きが入ったぜ
だったら最初からやるなよな
顔もマフラーも真っ黒だからもうカンケーねえけどよ
よし、俺とガンホの一騎打ちだ
個数はどうなってるだろう
ちっ、一緒だ
俺もちょっと苦しくなってきた
でも苦しいのは相手も同じだ
相変わらず口に入れたのを一回出してるぜ
あと一分…
あと一個入る…
30秒
あと一個入れるぞ…ぐえ!
15秒…
何!ガンホが一個リード!
ちくしょう!もう時間がねえ!入れるぞ!
9,8,7,6…
モハモホ…グチュグチュ…
3、2、1…
レロレロ…オックン…
ぐえっ…気持ちわるっ!…でも追いついた…
引き分けか…まあ、仕方ねえ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
優勝!ソ・テプン君、BHC代表!!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
え?俺?何で?
思わずガンホを振り返った
奴はチョコパイ口から出して涙目になってた
馬鹿だな、最後のやつまで出したのかよ…
いつの日か、このチョコパイを、わが祖国で…
は?
わっけわかんねえ、けど
俺が勝ったぜ!
狐がよ、サングラスはずして泣いてやんの
結構いいとこあるよな
え?僕がテプンに出ろって言った?
覚えてねえのかよ!朝頼みに来たろう!
どんな状況でも僕は仕事ができるという事だな…
おい!何、意味上明な事言って遠く見てるんだよ!ったく!
チェリムうう…何で俺に優勝のちゅうしてくんないんだよ
その前にシャワーだ?
鏡を見ろ?
いくら勝つためだからって、少しは人の目を気にしろ?
どういうことだよ!
おいっ、チェリム!
待ってくれよおおおおお!
ペです… れいんさん
♪〜♪(ヒロシのテーマ曲)
ペです…
ご存知冬ソナに出とったとです
出生の秘密がいろいろあったとです
ちゃんと父親も母親もおったとです
でも顔が
父親にも母親にも
ちーっとも似とらんとですっ!
ぺです…
肉体改造してみたとです
満足のいく仕上がり具合になったとです
アクション映画も視野に入れてみたとです
でもあいかわらず
メロ路線からしか声がかからんとですっ!
ペです…
僕には家族が大勢おるとです
僕の為なら何でもしてくれるとです
ロケについて回り
販売ノルマにも協力的かとです
でも家族がほとんど同じ年代の
女所帯なのはなしてですかっ!
ペです…
ここだけの話ですが
れいんさんのお母さんは
密かに僕のファンみたいとです
僕のドラマは必ずチェックしとるとです
でも娘が
こんなにこきおろしてる事は全然知らんとですっ!
ペです…
僕はペ…という吊字です
パ・○ンジュン
ピ・○ンジュン
プ・○ンジュン
ペ・○ンジュン
ポ・○ンジュン
……
やっぱりペが一番しっくり来るとです
…ペです
…ペです
…ペです
◇交錯する想い1 妄想省家政婦mayoさん
テソンはちぇみテスの横を通り過ぎると
何も言わずに私の手を握ったままずんずん歩いていく..
私は振り返ってちぇみを見た..
目を細めた優しい ”ん” の顔でゆっくりと頷いた..
私が唇を噛むと
顎で隣のテソンを指した..
”テソンに従え”の意味だ..
私が首をかしげると
”いいんだ..の顔でゆっくりと頷いた..
私がもう一度唇を噛むと
ほんの一瞬口をすぼめち◎うの形にした..
そして優しい”ん”の顔になった...
私は黙って俯いた...ちょっとにやけた...そしてちょっと辛かった
私はすれ違いざまにぎゅっと握ってくれた手を胸のポケットに置いた
アマゾナイトの丸い石の感触が手のひらに広がる..
私は顔を上げ胸から手を下ろしたとき...テソンが振り返った..
「テソン..何処行くの..」
「ん?ちょっと部屋に戻る..話がある…」
テソンは上安げな私の顔を覗き込んでくすりと笑った..
その笑顔を見て安心している罪人様(ざいにんさま)の自分がいた..
俺は隣のテスの頭を押さえたまま
テソンに引かれていく闇夜に素早くサインを送った..
テソンは部屋へ戻り闇夜を抱くだろう..
最初に影など気にせずに奪ってしまえばよかったか..
今..黙って見送るしか出来ない罪人様の俺がいる..
ポケットに入れていた手の痺れが強くなった..
俺は痺れを押さえるためにその手を握りしめた..
テスの手が俺の頬に伸びてきた
ぽちゃぽちゃっ#として温かい手だ..
俺テスの頭を押さえていた手を離しその手を握った..
テソンは部屋の戻ると私の手を離しベットサイドまで行きすぐ戻ってきた..
そして定番になったテーブルにちょっと腰を落とす姿勢で
いつもの様に私の腰に手を回しぐいっ#と引き寄せた..
「右手を出して..」
私は黙ってテソンの前に右手を差し出した..
テソンは私の右手にブレスレットをはめた..
それはチェーンに細いシンプルなプレートが付いたブレスだった
プレートは1.5mmほどの厚みがあり右の端に小さいルビーが嵌め込んである..
「これ..」
「ぅん..センイル..ソンムル(贈り物)…」
「テソン..」
「どうした?気に入らない?」
私は首を横に振った..
プレートは手首に適度に添うようにほんの少し湾曲している
サイズもちょっとだけ余裕をもたせただけで邪魔にならない..
「花のモチーフとかガラじゃないだろ?」
「ぅん..」
「ペンダントかなぁ〜って思った?」
「ぅん...だってみんなそうだから..でもルビーだから..」
「そう..パワーが出るのはリングかブレス..」
ルビーは身体の右側に付けるといい..
そしてパワーが増幅するのは火曜日...5/3は火曜日だ..
ルビーは...燃え上がる情熱を宿し深い愛を示す..
石の意味が頭に浮かんだとき..胸がチクリ..痛んだ..
テソンの想いは恋などという軽いものではない..
改めて知らされた思いがした..
いつもそばにいて厄介で複雑な私を黙って包んでくれる..
テソンはメンバーの中でも華奢に見えるが
引き寄せられると腕の強さを感じ
抱きすくめられると胸板の厚みを感じる..
テソンの胸はあたたかい..
決して苦しくなく密着しても心地いいように抱いてくれる..
そんな胸の中にいると安心できる..
ほんの数十分前に熱い想いをぶつけ合った..
そんな私でもテソンは好きでいられるのか..
手首のルビーをじっと見つめる私の胸ん中は複雑に交錯していた..
ラブ君の気持ち ぴかろん
俺、どきどきしてる
「おじさん」と知り合った
俺の操るナイフを「危ないから」って取り上げた
ナイフで脅してキスしたら、腕を捻られてナイフを落とされた
どきどきした
俺のキスで反対にどきどきさせてやろうと思ったのに、やっぱおじさんだな、全然平気なんだ…
そして突然おじさんは俺を見たこともないような世界に連れて行った
おじさんは誘拐犯だ…
俺はキスだけでイキそうだった
こんな事初めてだった
一発のキスで俺はおじさんに夢中になった
おじさんおじさん言ってるけど、本とは若いんだ
でも恥ずかしくて名前を呼べない…
おじさんは俺を、みんなのいるホールに連れて行った
「一緒にいてやる」
って言ってくれたから…
なのに邪魔が入った
みんなに「浮気王」って言われてるイナさんだ…
イナさんってこないだまで、あの総支配人そっくりのソクさんとキスしまくってなかったっけ?
僕は夜中にこっそりホテルを抜け出す時に、何度か総支配人がひっくひっく泣いてるのを見たことがあるんだ…
なのに何?
いつのまにおじさんと知り合っておじさんとこんな仲良くなってておじさんとキスまでしてて…
おじさんが…あの凄いキスするおじさんが…「浮気王」にトロンとなってるの?!
どういうことだよ!
せっかく俺が見つけた人なのに!
自分には総支配人がいるんでしょ?!
おじさんもイナさんに文句言ってた
けど最後に「イナが好きだ」って言った
はっきり言った…
俺、おじさんを奪うからねって宣言したんだ!
どうしたら奪えるかな…
やっぱカラダかな…
あんなにキスがうまいんだから、そりゃあもうきっと…凄いんだろうな…
でも…えっと…それ…イヤだな…
俺が抱きたいな…
でも…きっとまた「大味だ」って言われるかもしれないし…
イナさんはどんなのかな…。やっぱりイナさんが抱かれてるのかな…おじさんに…
俺はちょっと暗くなった…
おじさんがどんな風にイナさんと%$#%するのか、考えたら悲しくなった…
でも、今度聞いてみよう
俺が抱いてもいいか、それとも俺は抱かれたほうがいいの…
今も俺の隣に座って、俺とイナさんの相手を一生懸命してくれてる…
でもほとんどイナさんの相手ばかりだ…
つまんなくて、ずるずると背もたれにもたれかかってだらしなく座った
するとおじさんは俺の膝あたりに跨って、俺の顔にキスしまくった
イナさんが何も言わないのでどうしたのかなと思ってたら、イナさんは総支配人に注意されて、チュウもされていた…
「今がチャンスだからさ…ちゅちゅ」
「ん…やめてよ、こんなとこで!」
ちょっと腕で顔を払ってやったら、暫くじっと俺を見つめて、まだ吸い付いてきた
「ん…んあ…あむ…」
深くて優しい口付け…
「ラブ…」
「んあ?」
「僕はお前のこと気に入ってる…お前は?」
「…わかんないの?」
「薄々はわかってるけど…口に出して言ってほしいな…」
「…俺もおじさんのこと、気に入ってるよ…」
「じゃあ名前で呼んでよ…」
「それは…」
それはホントの恋人同士になれたらね…
「初えっちの時にする…」
ペシン☆
おじさんは俺の頬を軽く叩いた
そしてまたキスをした
名前、呼べる日が来るといいけどな…
絶対イナさんから
「奪うからね」
「…」
おじさんはフクザツな表情をして見せた
【36♪ケ・イ・ケ・ン by らぶ】ロージーさん
◇交錯する想い2 妄想省家政婦mayoさん
プレートのルビーから視線をゆっくりとテソンへ向けた
「私...テソンに...何も返せてない..」
「そんなことないよ...僕は..そばにいてもらって..感謝してる..」
「でも...それだっ..」
次の言葉が続かないうちにテソンは私の髪に指を差し入れ唇を塞いだ..
テソンの唇は温かい..
ゆっくりと上下の私の唇を唇で幾度も挟みながら舌で唇をなぞる..
テソンのリズムはいつもゆったりとした川の流れの様に続く..
唇を離したテソンは私の頬をすぅーっと撫でた..
両手で私の両手を取って口を開いた..
「僕は...君が欲しい..」
「ぁ…」
「ひとつになりたい..」
「ぉ…」
「心も身体もすべて欲しい..」
「ぅ…」
「僕のその日は決めてあった..気づいてたよね..」
「ぅん..」
覚悟していた言葉が来た..
私はテソンから目をそらさないように頑張った..
テソンは黙ったままじぃーっ#と私を見ている
私がちょっと首かしげると
テソンはふっ#と笑ったあと私を引き寄せ軽く抱いた..
私はテソンの耳元で小さく囁いた..
「テソン?」
「ん?」
「..いいよ..テソンが..欲しいなら..」
「いいの?」
「..ずっと待ってたんでしょ..」
「そう...待ってた..」
「..ぃぃょ..」
テソンに見えない私の顔は泣きそうだ..
目を閉じると瞼の奥に浮かぶ顔があった..
…目を細めた優しい”ん”の顔..
…切なげに ”いいんだ..”のゆっくりと頷く顔..
どうしたらいい?と問うても返事はない..
最後の消え入りそうな私の声を聞いたあと
テソンは私の背中を優しく何回も撫でた
そしてみみxxxをしたあとに私の耳元で言った..
「無理しないで..」
「ぇっ..?」
「聞こえなかった?..無理しなくていい..」
「…」
テソンは薄々気づいている..
でも埋み火はテソンには見えない..
さっきの..あの事が..バレた??…見てた??..一瞬思った..
血の気が引いた..見えない冷や汗が流れた..
テソンは私の頬にすりすりして身体を少し離し私を見た..
その眼差しは怒ってる様でも...責める様でもない..
「テソン..?」
「mayo..」
「ん?」
「僕は君の見えない刃を落として..要塞も崩そうとしてきた..
僕への気持ちも嘘じゃない...僕のこと好きだよね..」
「ぅん..」
「でも..本当の要塞があるね..深いところに..
要塞っていうかぁ...核シェルターみたいだ..あっはは..」
「ぁ…ぁの..」
「そこに何かがあるんだ..本当の気持ちなんだろうな..」
「…」
「僕は頑張ってそこに入ろうとした..でも駄目..
僕の欲しいって言葉に..いいよ..って言ってくれたのうれしいよ..」
「…」
「今求めればmayoは僕に黙って抱かれる..
でも..僕..心で泣いてるmayoは欲しくない..」
テソンそこまで一気に言うとふぅっとため息をついた..
饒舌な夢 足バンさん
僕は飛び起きた
夢を見ていた
僕は水中で息ができずにもがいていた
水面を見上げる
苦しいのにその美しくゆらゆらひかる空に惹かれる
水面に誰かの手が差し込まれた
ゆらゆらの水面の向こうに見えるのはミンチョルの顔
僕はその手に向かって手を伸ばした
そのとき水の中に飛び込む影があった
振り返るとドンジュンだった
ドンジュンはたくさんの小さな泡に包まれて僕に手を伸ばす
その泡は白い羽根のように見えた
いきなりドンジュンの手が遠のいた
スロゥモーションのように
僕は慌てて水中で思い切りドンジュンの名を呼んだ
そして沈みゆくドンジュンを追った
追いついたドンジュンの身体はふわりと軽く冷たかった
僕はその身体を抱きしめ悲鳴のように泣いた
飛び起きた僕はひどく汗をかいていた
夢の底から這い出るのにしばらく時間がかかった
ふと目をやるとドンジュンのジャケットがかけられている
急にどきんとした
ドンジュンのやつなにを読んだ?
僕はそのジャケットを握り部屋を出た
会場に入りドンジュンの席を見たがいない
僕は別の出入り口を抜け会場を見渡せる舞台袖に入った
ドンジュンはいた
なぜかテプンたちの賑やかな一団の中にいた
舞台に向かって拍手を送っている
そして笑っていた
ああ…僕はほっとしてその場に膝をついた
そしてドンジュンのジャケットを抱きしめた
「大丈夫ですか?」
忙しく行き交う人の中、僕に声をかけたのはソクさんだった
そのあまりのいでたちに僕は一瞬声が出ず
思わず手の中のジャケットを握りしめた
ソクさんは真剣に僕を心配そうに見ている
「大丈夫…です…あの…」
呆然として立ち上がったとき、ソクさんの後ろからスヒョクが声をかけた
「ソクさん!急いで急いで!」
「あ、じゃぁ行きますんで」
ソクさんは恥ずかしそうにスヒョクの元に走っていった
なんて穏やかな顔なんだ
冷たい目でキスしまくっていたソクさんとは思えなかった
そしてスヒョクも…
「ひゃぁ〜ん!スヒョンしゃぁ〜ん!」
ぎょっとして振り返るとデジャイナー先生が手を広げて向かってくる
僕はまたドンジュンのジャケットを握りしめた
「どぉ?どぉ?今のふたり!いい感じでしょん?」
「え?先生がなにか…」
「ちょっくらいじってやってんにょよん!まーったく不器用なやつらでよ!」
「…」
「うふふぅ〜ん!じゃまたねん!ちゅっ」
…さすがの僕もあの先生のちゅっだけは辛過ぎる
歩き出そうと顔を上げると、そこにミンチョルが立っていた
おかしそうな笑顔で腕組んで
「なんだ…やっと笑ったか」
「ごくろうさま。もう無理するな。僕は復活したから」
「ゲンキンなやつ…あとは全部やりやがれ」
「スヒョン…」
「ん?」
「悪かったな…いろいろと…」
「今に始まったことじゃないだろう」
ミンチョルはいつになく真面目な顔で見つめてくる
「なに?」
「スヒョン…今夜祭のあとで一杯つきあわないか?」
「なんだよ急に…ギョンビンに叱られるぞ」
「いいな、空けておけ」
そう言うとミンチョルは僕の肩をぽんと叩き舞台袖奥へ歩いて行った
あいつ…またなにかやらかしたな
僕はくしゃくしゃになったばか野郎のジャケットを見つめた
イナとラブと僕と… ぴかろん
イナがテジュンさんに呼ばれて怒られてる
当然だろう…うるさすぎる
僕の膝の上に乗ったりして後ろの人の迷惑になる
もっと叱られればいいんだ!
…その隙に僕は、ちょっとかまってやれなかったラブ君にチュウ攻撃をした
嫌がるラブ…なんでさ…
ラブはイナの事を気にしている
…だめかな…やっぱりこんなのって…ラブに申し訳ないや…
ラブが囁いた「奪ってやる」の一言を、僕はとてもすまなく思ってしまった…
僕は…あの悪魔が…好きなんです…
「ラブ…僕はさ…イナが…」
「言わないで!」
「…好きなんだ…」
「言わないでって言ったのに!」
「ごめん…」
「…じゃあ聞かせてよ…。イナさんと寝る時は、おじさんがイナさんを抱くの?それともおじさんが抱かれるの?」
「え…」
僕はラブの質問に目を白黒させた
「どっち?」
どっちって…僕はイナを好きになってからまだ半日も経ってないんだぞ…
なのにもう一週間は経っている気がするのは何故だろう…
その事をラブに言うと、ラブはびっくりしていた
「じゃあ…キスだけの仲?」
「…」
「…え…もうちょっといってるの?」
僕は正直に頷いた
確かに、好きになって半日しか経ってないのに、背中もお腹も知ってるし、ちょっとぱんつにも手をかけた…
ああ、その前に、昨日の晩だっけ?イナの上半身をキスでベトベトにしてやったんだった…
…あん時ヤっちゃえばよかった?…
「そこまでいったら普通最後までやっちゃわない?」
普通なら僕だって止まらないよ
「でもテジュンさんがいるんだもん…」
「…イナさんはその気だったんじゃないの?」
「…それが…」
あいつは僕を抱こうとしてるしな、絶対無理なのに…
「…どうしてイナさんの事好きになったのさ…」
「…ん…それは…」
イナが僕を取り戻してくれた事をラブに手短かに話した
解るかな?解んなくてもいいや…
「…ふぅん…」
ラブは黙りこくった
心なしか目が潤んでる
「どした」
『どうしたの?』とか『どしたんだ』とか…僕はラブにそればっかり聞いてないか?
「…ん…おじさんも色々苦しかったんだなって思ってさ…」
この子、頭いいかも…
少なくともイナよりは…いいかも…
ラブはだらしなく座るのをやめて僕に向き直り、そして首に腕を巻きつけてきた
「じゃあさ…俺とえっちするなら、俺はおじさんに抱かれた方がいいの?それとも俺が抱いてもいいの?」
「…へ?…」
僕がラブとえっちを?!
「そんな事考えてないよ!馬鹿!」
「…」
ラブが少し寂しそうな顔をして僕の唇に自分の唇を強く押し当て、閉じていた僕の口を舌でこじ開けた
あれ?
さっきまでの幼稚なキスとちょっと違う…
この子、学習能力高いじゃないか…
ラブの唇と舌に酔っていると、またイナが邪魔しにきた
「なんでキスしてんのさ!馬鹿!」
自分の事は棚にあげ、また僕に文句の嵐だ…
「…お前今さっきテジュンさんと濃厚なのやってたじゃないか!」
「俺はいいんだよ。お前はダメ!」
僕はイナのあまりの身勝手さに、またちょっとキレた
「なんでお前はよくて僕はダメなの?なんで僕がラブとキスするのがいけないの?」
「だって俺のことが好きなんだろ?」
「ラブの事だって…」
「…え…好きなのか?」
イナの瞳が不安そうに揺れた
僕はまたちょっとキレた…
「好きだけど!お前が僕のことを好きっていう、その気持ちとおんなじようにラブが好きだけど」
「俺がお前を思うのと同じってこと?」
「ああ!」
「なんだ。じゃ、問題ないか。でも、俺が好きなんだったら他のヤツにキスするなよ!
そいつのこと、俺よりも好きになるんじゃねぇぞ!わかったか!」
問題ない?キスするな?俺よりも好きになるな?
「…ちょっと待てよ、お前、何様のつもりだよ!僕が誰のことを思おうと、お前には関係ないだろう!
選ぶのは僕で、お前に指図なんかされたくないよ!僕の好きなものは僕自身でえら…ぶ…」
『勝手に決めないでよ!僕の好きなものは自分で選ぶよ!』
僕の脳裏に弟の声がこだました
そうだ…僕はいつもこんな風に弟を押さえつけてたんだ…
胸の奥から熱い塊がこみ上げてきて、僕は口を押さえた
イナはそんな僕を暫く見つめると、僕の頭をすっぽり抱いて自分の肩に埋めさせた
「…僕は…こんな風に弟を…」
「…な?俺と知り合ってよかったろ?」
僕は、僕が唯一泣けるその胸で、こみ上げる涙を流していた
おじさんが突然震えて泣き出した…
イナさんはおじさんの頭を抱いて自分の肩にもたれさせた
おじさんはイナさんに包まれて泣いている
俺の知らないおじさんとイナさんの関係…
ただの浮気王じゃないんだ…
きっとおじさんが安心して泣ける胸は…イナさんの胸だけなんだ…
俺は到底勝ち目がないと思い、悔しかったけど席を立った
早いほうがいいんだ、諦める時は…
唇を噛みしめて俺はホールの外に向かった
視界がぼやけているのは、涙のせいなんだろう…
奪いたいな…
俺にはおじさんが酷い人だったなんて、信じられないよ…
俺にはとっても優しい顔を見せてくれるじゃんか…
俺が知ってるのは、そういうおじさんだけだもん…
ドアを閉めて、そのドアにもたれかかって俺は泣いた
「なんであいつの事、気に入ったの?」
イナが背中を擦りながら僕に聞いた
「…多分…。僕がミン・ギョンジンを取り戻してから会った初めての人だからかな…
ラブは僕の酷かった頃をしらないもの…。だから…とても安心できるんだ…」
「…そか…そだよな…」
イナは背中を擦りながら僕の顔を覗き込んで言った
「…なぁ…俺のこと、好き?」
イナは解りきったことを聞く
好きだよ…
でなきゃこんなとこにいないよ…
「お前ともっと早くに出会ってたらな…」
「…」
「愛し合ってるか、それとも大嫌いになってるか…」
「今出会えてよかったんだよ…」
そう答えた後、僕は後ろにいるはずのラブを振り返った
いない
「あいつなら外に行ったぞ」
イナの言葉が終わる前に、僕はドアに向かって走り出していた
ドアが重くて開かない
この扉の向こうでお前、泣いてるの?
どんどん叩いてやったらドアが軽くなった
すぐさま外に出て、ラブの姿を確認した
そして後ろから抱きしめた
ラブは消え入りそうな声で囁いた
「俺の胸でも…泣いてほしいな…」
僕の腕の力が強くなった…
罪作りな指 ぴかろん
俺を後ろから抱きすくめるおじさんの震えが伝わってくる
俺の髪に顔を埋めて、俺の頭にキスしている
俺のこと、好き?
俺のことも…好き?
俺のどこが好きなの?
イナさんより俺のこと、好きになってくれるの?
おじさんに問い詰めたかった
『そんな事考えてないよ!馬鹿!』
俺なんか、抱く気にもなんないの?
だったらもうキスしないでよ
追っかけてなんかこないでよ
イナさんとじゃれあってればいいじゃんか…
どうせ俺のことなんか、誰も見てくれないんだもん…
でもおじさんは俺を追っかけてきてくれたんだ…
イナさんが好きなくせに、俺が拗ねてたら俺の機嫌とってくれたんだ
どうして?
「…ごめんな…僕、中途半端で…」
おじさんが震えながら呟いた
「お前の事、気に入ってる。好きだよ。僕が僕を取り戻した後初めて出会った人だからさ…
でもな…イナは…酷かった僕に根気よく付き合ってくれたんだ…。『好き』だけじゃないんだ…。僕はイナに降参してるんだ…」
「…いいよ。わかったよ…ただの浮気者じゃないんでしょ?イナさんは」
「…うん…」
「もう戻りなよ、イナさんのとこに」
「…戻ったって僕のそばにずっといる訳じゃないもん、アイツ…」
「…んふ…とんだ人を好きになったね…おじさん…」
俺もだけど…
俺だけを見てくれる人を好きになりたかったのにな…
おじさんの腕の中でぼんやりしてたら、おじさんは俺の頭を後ろに向かせてまたキスをしてきた
おじさん、いやらしいよ…
誰を想って俺にキスしてるんだよ…
イヤだよこんなの…やだよ…
けどおじさんのキスが欲しい
俺を一瞬で虜にしたキスが欲しい
もっと違う世界に連れてって欲しい
できればおじさんと一緒に行きたいのに
俺だけが一人で違う世界に飛んでっちゃう…
ああ…おじさんのキス…最高だよ…
ふわふわと夢の世界への入り口に、俺は立っていた
なのに俺は突如現実に引き戻された
おじさんは俺のシャツの裾から手を入れて、俺のカラダを触り始めた
やだ!何してるのさ!
俺はびっくりしておじさんの手を押しのけようと思った
キスを落としているおじさんの顔を見た
目を瞑ってても切ない表情だってわかる
おじさん
誰にキスしてるつもりさ
誰のカラダ触ってるつもりさ
いやだよ…俺を見てよ…俺に触ってよ
あ…ああ…おじさん
やっぱり指もいやらしいんだ…
イナさんにもこんな事してたんだ…
なのにイナさんは落ちなかったんだ…
可哀相なおじさん…
また涙が溢れてきた
なんでだろう
ずっと涙とは無縁だったのに
おじさん
いいよ
俺でいいなら
なにしてもいいよ…
俺、おじさんが好きだからさ
おじさんが俺のこと見てなくてもいいよ
誰のこと想っててもかまわないよ
おじさん、俺に夢を見させてくれるから
あ…おじさん…
「…はぁっ…」
ラブが漏らした吐息で僕は我に返った
ああまたやっちゃったよ
背中から抱きしめるとつい癖でこれやっちゃうんだよな
しまった…
「…ごめん…ラブ…、つい癖で」
ラブの顔を見て僕は息ができなくなった
泣かせてしまった
なんて哀しそうな瞳なんだ
僕がこんな事しちゃったから
悲しませてしまった
「…ごめん…」
「謝んないでよ…」
「…ラブ…ごめん…」
「謝んないでよ!」
「…でも…」
「…いやだったら抵抗するから…抵抗しない時はそのまま続けていいよ…」
哀しい瞳でそういうラブに申し訳なさが募る
「ごめん…ごめん…」
「謝んないでって言ってるだろ?!…おじさんがイナさんの代わりに俺にこんな事してるの、解ってるよ!」
「…ラブ…」
「解ってるけど、されてる俺には勘違いさせといてよ!おじさんは俺の事想ってるんだって!それぐらいいいでしょ?
…だから謝んないでよ…惨めだよ…」
「…ラブ…ごめ…」
「ナイフ返して!」
「…」
「さっき取り上げたナイフ…返してよ。ショーの練習するから!」
ラブの迫力に負けて、僕は何も言えずにナイフを返した
イナの事を想いながらキスしてた?
…そうなのかな…
ううん、違う…
「…ラブ…」
「中庭で練習してくる。邪魔しないで!」
「…ラブ…僕は…お前にキスしたいからしてるんだよ」
「…」
「お前にキスしてる時にイナの事なんか考えてない。それだけは解って」
「…じゃ、なんで謝るの…」
「だから…つい癖でその…体に手出ししちゃったから…」
「…」
「驚いたかなと思って…ごめん…」
「触ったカラダが誰の物だか解ってたの?」
「当たり前だろ」
「…俺はイナさんの代わりじゃないの?」
「違うよ…」
「俺の事…気に入ってるってホント?」
「ほんとだよ」
「これからも俺にキスしてくれる?」
「お前が許してくれれば」
「その時は俺の事だけ考えてくれる?」
「うん」
「…」
ラブが胸に飛び込んできた
僕はラブの髪に口付けしてしっかりと抱きしめてやった
ラブに触れているととても優しい気持ちになる
この子の気持ちを大事にしてやりたくなる
今まで弟の気持ちを考えなかった分、ラブに優しくしてやりたくなる…
「おじさんのそばにいてもいいの?」
「…いてくれる?おじさん一人ぼっちなんだもん」
「…イナさんがいるじゃない…」
「アレはフラフラしてるからさ」
「俺も結構フラフラしてるぜ」
「ふぅん…」
「…おじさんだって…フラフラしてる…」
「え?」
「イナさんにキスしたり俺にキスしたり…」
「…ああ…そうだね…」
僕はラブの瞼にキスをした
ラブの口から小さく声が漏れた
「おじさんの香り…俺…おかしくなっちゃうよ…」
可愛らしいことを言う…
「お父さんみたい…」
なに?!
「おいっ!それはないだろう?」
「…んふふ…」
ラブは僕に軽くキスをしてまた僕の胸に顔を埋めた
『お兄ちゃん、大好き…ちゅっ』
幼かった弟の無邪気な笑顔とキスが、僕の頭を掠めた…
【37♪HANAとおじさん(デュエット)】ロージーさん
微笑みの裏側 足バンさん
僕は後ろからテプンたちの席に回った
ドンジュンはテプンとシチュンに挟まれ座っている
シチュンの横にはメイさん、テプンの横にはチェリムさん
テプンの後ろにはチョンマンと出たり入ったりしているチニさん
僕はドンジュンのすぐ後ろに座り、やつの頭にジャケットを押しつけた
ドンジュンは驚いて振り向き一瞬躊躇してから笑った
「少しは休めた?」
僕が答える前に回りから洪水が押し寄せた
会場の大音響にも負けていない
「おおスヒョンさん!お疲れさまでっす!
あのさ俺さっき食い過ぎてちょっと腹の調子悪いんだけど舞台大丈夫かなと思って」
「バカね、だから調子こくなって言ったじゃない」
「なに言ってんだよ。おまえが勝ってこいっていったんだろ」
「スヒョンさん!メイをこき使わないで下さいよぉ、もうそれでなくても一緒にいらんないんだから」
「ちょっと!私から仕事取り上げないでよ!大人しく座ってなんかいないわよ」
「スヒョンさん!映画の話きたってホントですか?脚本はまだですか?なんかアシストいらないっすかね」
「なに言ってんの!最初からアシスト狙いでどうするのよ!」
「そんな簡単なものじゃねぇんだって」
「あ、またブースに呼ばれちゃった行かなくちゃ、いい?狙うなら一番よ!」
どこでなにを答えればいいんだ
ドンジュンはおかしそうに笑っている
おまえ、こんなことで僕からガードしてるつもり?
僕の横にジュンホ君が滑り込み肩を叩いた
「あの…すはせんせいたちもどってきませんが、まだいいですか?」
「うん、テジンが一緒なら大丈夫だよ」
「すひょんさんはつかれてませんか?」
「僕は大丈夫、それよりさっきは頑張ったね」
「はい。いつのまにかいちばんでした」
「チョンマンおまえさぁ、スヒョンさん疲れてんだからそんな話あとにしろよ」
「テプンおまえが一番うるさいんだよ」
「こらっおまえら騒いでるとメイにつまみ出されるぞ」
「何をつままれるって?ぐぇ!チェリム!そこ殴るなって!」
僕は3人の頭を一発ずつはたいて静かに舞台を見ろと言った
ドンジュンはお腹を抱えて笑ってる
そんなおまえをこうして見ているのは幸せなものだな…
一瞬さっきの夢の映像が蘇る
冷たい手の感触が蘇る
…
僕は笑っているドンジュンの右首すじに手をかけ、頭を後ろに引き寄せた
ドンジュンの笑顔が途切れる
僕は左耳に顔を近づけ囁いた
「僕はミンチョルに話なんてないぞ」
ドンジュンは視線を落として固まっている
わかりやすいやつ…
「おまえ、なに考えてるの?」
「スヒョンのこと」
「方向が間違ってない?」
ドンジュンはほんの少し間をあけて視線を落としたまま
しかし思いのほか強い口調で言った
「間違ってない。僕は前にしか進まない」
「じゃなんでこっち見ないの?」
尚も視線を落とし続けるドンジュンの睫毛に舞台のライトが反射する
その横顔のシルエットは、もう後には引かないから、と語っている
これでもやつの心も身体も慈しんできた自分だ
きっとなにを言っても無駄なのだろうとわかった
僕はドンジュンの耳の下にそっと唇を這わせた
そして囁いた
「一度だけおまえの策に乗ってやる」
ドンジュンの噛み締めた唇が小さく震え出す前に僕は唇を離し席を立った
固唾を呑んで成り行きを見ていた3人の頭をもう一度順番にはたいて
少しは緊張しろと声をかけて自分の席に戻った
ヨソルの階段落ち ぴかろん
俺は兄のせいで捻った首のまま、階段に向かった
全く、完璧すぎるほど完璧だった仕上がりなのに、どうだ!
あの赤ヘビ女の言った事が現実となった…
しかしやらねばならない
俺の男としての意地だ
みていろ馬鹿兄貴
あの馬鹿兄貴は、昔あんなにも真面目だったというのに…
なんと軟弱になってしまったことよ…
見てろ!俺の転がり様を!
俺は階段のてっぺんに登り、下を見た
あのちょっと階段、歪んでません?
ああ、俺の首が歪んでいるだけか…
俺は深呼吸を一つして、まずは一個目、横転がりを披露した
ずどどテずどどテずどどどテ…
ううっ…首を捻ったせいで、本来ならば「ズドドドドド…」と行くはずが、「テ」が入ってしまい、リズムが狂った
俺の美しい顔に一つキズがついたではないか!
でも一つでよかった…
二つ目は滑り落ち
階段を滑り台のように尻ですべり落ちる
これは首には関係ない
だから楽勝
ズズズズズズゴズズズズゴ
ううっ
いつもより尾?骨が痛い!
尾?骨部分の皮がすりむけた!
なぜだ!
やはり首か!
首に緊張があって尻をリラックスできなかったか!
ええい、次
次は小道具を使う
さーふぁー落ちだ
板に乗る
そのまま落ちる
簡単そうに思うだろう?フフン甘い
実はこれ、結構難しい
へさきを少し上げていないと階段の角…フチ…につっかかり、俺と板はぶざまに転がってしまうからだ
そのためには重心に気をつけて、階段のフチを一つ一つ丁寧に、しかも素早くクリアーせねばならないのだ
俺は頑張った
なんとか成功した!よし!これで波にのるぞ
四つめは逆さ頭落ち
なあに、頭を下にして背中ですべり落ちるだけだ
首がヤバイがそんな事は言ってられない
滑った
首がおかしくなりそうだったが一番下のところで俺の長い髪がクッションになってどうにか無事でいられた
五つめ
ボディボード落ち
ボディボードは使わない
我が肉体ボード代わりに、うつ伏せになってすべり落ちるのだ
これは前を見れるからそう怖くはない
ただ顔を上げていないと危険なので、首に負担がかかる
ええい兄め!
どどどどどど
うう…首がもげそうじゃ…
六つめ
スパイダーマン落ち
ま、これはちょっとした休憩の意味もある
スパイダーマンのようにねっとりじっくりと「降りる」のである
しかしスパイダーマンなので、やはり四つんばい、低い姿勢、頭が下などというキツイ体勢で降りねばならず、筋肉が引きつる
どうにか降りたがやはり首の周りが痛い
七つめ
大また降り
これは階段を5段、ないし6段飛ばしで「降りていく」ものである
ヒッジョーに怖い
踏み外したら足が折れると思う
こないだやっと6段飛ばしができたところだ…
しかし今日は首の調子がこれだ…
はたしてできるだろうか…
とっととっととっとととととっとととおとと
うーむ…
大または最初と最後の一歩ずつだった…
あとは小またになってしまった…
ただ走り降りただけのように見えなかったろうか…
悔しい…
八つめ
くるくる落ち
バレエダンサーのようにくるくると回りながら落ちる
これは目が回りやすく、降りているうちに、自然と階段から落ちることができる、比較的素人にも簡単にできる技である
ただし、断然ケガする率が高くなる
俺はゆっくりしか回らないので今までは無事だった
しかし今日は…ドキドキドキ
くるくるく…ズダダダダダ
ううっ…二回回っただけでよろけてしまった
後はうまく落ちたけど、馬鹿みたいではないか!
九つ目
見得きり降り
カブキの見得きりをしながら落ちる
ケンケンして手を前後にかざして落ちる
階段を踏み外す危険性大
しかし俺はこれは得意だ!
ダンタンタン ダンタンタン ダンタンタンタン ダンタンタン
うまくいったぞ!
大歓声と大拍手が聞こえる
まってくれ、まだだ
もう一つやらせてくれい…
俺は階段のてっぺんに駆け戻った
これで最後だ…
十個目
劇的階段おち「銀ちゃぁ?ん」
階段落ちといえば「銀ちゃん」らしい
それで俺は、かっこよく落ちながら「ぎんちゃぁん」と叫ぶことにした
この落ち方は、斬られた後に階段を転がり落ちていくという状態を現す
だから俺は階段の上で斬られたふりをして、それからずどどどどぉぉぉっと転がり落ちた
『ぎんちゃああああん』
大成功だ!
俺は立ち上がって大歓声と拍手に応えた
ああよかった無事すんだ…
チン隊正が舞台袖におられたので、感想を聞いてみた
「最後、なんか言った?」
「…」
「え?ぎんちゃん?」
「…!」
「ん…聞こえなかったぞ。お主の口がパクパクしてたのでな、呼吸困難でも起こしたかと思って固唾をのんでいたのじゃ
したら起き上がってにっこりだったんでの。安心したわ」
「…」
「まあよいではないか、そんな『ぎんちゃん』などというわけの解らん言葉が聞こえたところで、客はみな引いてしまうわ!
成功成功…の?ヨソルよ」
俺は…俺は「ぎんちゃぁん」と叫んだのに…
俺は脱力感に襲われた
それと同時に体中が痛くなった
ファーストキス オリーさん
僕たちが初めてキスをしたのは、最初に会った日だった
正確に言うと、僕が一方的にしたのだけれど
ミンが初めてここに来た日はよく晴れた日だった
護衛だと言われたけど、そんなもの実際は必要ない
なのに一生懸命役目を果しているミンの姿が何だかおかしかった
緊張している様子も新鮮だった
僕はわざとミンをあちこち連れ歩いた
テジュンさんに会わせたり、会場をぐるぐる回ったり
昼時になったので、レストランで食べる事にした
思ったより混んでいて
僕らは順番を待たなくてはいけなかった
ミンのワイシャツは真っ白で
濃紺のシックなネクタイをしていた
それがかえってミンの瑞々しさを引き立てていた
ここは何が美味しいですか
ミンは僕に小さい声で尋ねてきた
このホテルは何を食べても大丈夫だよ
そんな風に答えた気がする
その時、大きな声とともに男組の兵士が数吊入ってきた
どやどやといきなり僕らのちょっと前に割り込んだ
彼らの態度は横柄で上愉快なのに、みな黙っている
僕はむっとしたので、文句を言おうと一歩踏み出した
が、それより早く僕の後ろにいたミンが彼らにつかつかと近づいた
「みんな並んでいるのだから、ちゃんと並んでください」
兵士達の中で一番大柄な男がにやにやしながらミンのネクタイを掴んだ
「坊やは引っ込んでな」
気の荒い兵士達は後ろで面白がっている
ミンはそ知らぬ顔で掴まれた手に自分の手をかけると
「僕にはミン・ギョンビンという名前があります」
といって男の手をはずした
「とにかく並んでください」
ミンは掴んだ男の手首を巧妙に捻っていた
男はミンに掴まれた手首をはずそうとしたがうまくいかない
ミンはその男の手を捻ったまま静かに言った
「並ぶ気になりましたか」
男はミンの顔を睨んでいたが、たぶん相当痛かったのだろう
「わかったから放せよ」
とぶっきらぼうに呟いた
ミンは男の手を放すと、僕の後ろへ戻ってきた
やるじゃないか、僕はミンを振り返った
予想に反してミンは暗い顔をしていた
こんな性格はいくつになっても直りませんね、
ネクタイに手をかけると遠くをみつめた
食事が終わると中庭を散歩した
歩きながら話をした
僕がそれとなく尋ねると
ミンは空軍を追放されたいきさつを教えてくれた
後悔はしてないけど、空は飛びたかったな
ミンは空を見上げた
空を見つめるミンの目は澄んでいて綺麗だった
権力に負け志を絶たれても、
毅然と立つその姿が美しかった
僕は立ち止まって
気がつくとミンの唇に軽くキスしていた
ミンは驚いて僕を見つめた
でもすぐ顔を赤くして下を向いた
ミンの睫が日の光に反射してキラキラ輝いていた
キスは初めてじゃないだろ、と言うと
ミンはますます赤くなった
僕は両手でミンの頬をはさむと顔を持ち上げて
もう一度、丁寧にキスをした
ミンはただじっとしてそれを素直に受けていた
昼の陽射しが僕らを暖かく包み込んだ
それから僕らはまた散歩した
あの空を見上げたミンの目を見たとき、
僕はとても大事なものを見つけたと思った
恋に落ちたというありふれた表現では言い尽くせない何か…
とても大切なものを
そして今
あの時顔を赤くして僕のキスを受けていたミンは
僕に向かってこんな事を言うようになった
「わがまま言ってると抱いてやらないから」
これは一体どういうことなのだろうか…
【38♪ミンチョルの夢は夜ひらく】ロージーさん
【39♪ミンの夢は夜ひらく】ロージーさん
MUSA ー階段落ち〜殺陣ー 足バンさん
わしは舞台袖でヨソルを見守った
首をひん曲げておる
舞台は魔物?
ええいたわけ!魔物は自分の中におるのじゃ!
舞台中央に大階段は鎮座しておる
両脇には金糸銀糸の無数の紐が垂れ下がりまだ暗い会場でもまばゆく光を放っておる
これは次の節分ショーでも使うとか言っておったな。ケチめ
裏で叩かれる大太鼓の音とともに
階段中央からレーザー光が発せられ
スモークが炊かれたの舞台の中央にひと型がせり上がる
片膝をつき髪をばらりと垂らしたヨソルのシルエットは素晴らしくカッコいいぞ
地鳴りのような太鼓の音とともにゆっくりと階段を登る
ううう!頑張るのじゃヨソル!
砂漠で主人のために這いつくばって生き抜いたおまえじゃ!
他の砂漠でも生き抜いたんじゃろう?
よほど砂好きとみえるが、それがおまえの魂じゃ!
それにしても将軍はどうした
ヨソルが最後の階段を転げ落ちた時に上に立ってる予定じゃなかった?
そんでヨソルが袖にさがった後階段を駆け下りて殺陣に入るんじゃなかった?
そんなことを考えておる間に階段落ちが始まった
ひとつ…おお、まぁまぁじゃ。少しリズムが違ったが
ふたつ…う、うむ。いつもよりケツが出ておったな…首を庇ったか!
みっつ…さーふぁー落ちは難なくいったな
よっつ…おお!なんとか首はもったが少し頭を打ったな
いつつ…ぼでーぼーどの上で首を傾げるでない!かわいこぶって見えるじゃろう!
むっつ…蜘蛛落ちじゃ。だから首を傾けるでないと言うに!それじゃ貞子じゃろぅ!
ここでわしの袖を引っ張る輩がおる
「チン…遅れてごめんね…」
唇を腫らした将軍が泣きそうな顔で立っておる
横には男組の隊長殿がぶら下がっておる
「どうしよう…もう階段の上行ってスタンバイできないね、ヨソルに言ってって言われたセリフがあったんだけど…」
「予定変更じゃ。殺陣の時せり上がって来るんじゃ」
「えっ?せり上がりやっていいの?」
「その軟弱な喋り方やめんかっ!」
「はぁ〜い!じゃ隊長!舞台下に行こう行こう!」
た…たわけ!
祭が終わった暁にはその腐った性根叩き直してくれる!
スパコンしてくれる元気も出ぬわ!
おお…それよりヨソルじゃった
ななつ…大跳ばしじゃが…ええい!なんじゃ!子犬の階段降りじゃないわっ!ったく!
やっつ…くるくるじゃ。うぬぬ!2回で落ちたか!なんとかなったが…
ここのつ…見得じゃ!見せ場じゃ!頑張れ!おぉぉぉ!やったっ!成功じゃ!凄い拍手じゃ!うぅ…よしよし
そして最後じゃ!もう何も考えるな!
おおおおおぉぉぉぉっっっ!
やったっ!やったぞ!ヨソル!成功じゃ!
何か口をぱくぱくしているが大丈夫かの?
おお、立ち上がったか。よしよし
この歓声が聞こえるか!この拍手が聞こえるか!
みんなおまえのための拍手ぞ!
黙々と耐えてきたおまえへの賛辞ぞっっっ!
ひときわ大きな太鼓にシンセサイザーの音が加わり
歓声に応えたヨソルがこちらにはけてきた
なにやらぎんちゃんがどうのと言っていたが、そんな話を聞いている時間はない
「最後に槍持って出るまで少し休め、首を冷やせ」
「はぁ…ひぃ…」
次は殺陣の連中の番じゃ
予定通り階段の後ろから十人の武士が躍り出て舞台前部に一列に並ぶ
剣を抜き太鼓とシンセの音楽に合わせて殺陣を舞う
ここで将軍が階段を走り下りて加わるはずじゃったに!
まぁひとりくらい抜けても動揺せぬところが我がチームじゃ
暗い舞台を無尽に駆け抜けるライトに観客も目を奪われておる
金糸銀糸に反射するその様は夢のようじゃ
更に上手下手からタライほどもある朱の大きな杯を持った十人の武士が加わる
武士らは剣の中をくぐり抜け舞台前部にその杯を均等に並べる
突然天井より本物の水が細い糸を引いて十の杯に落ち始める
会場よりざわめきとため息が漏れておる
さぁこれからが見せ場じゃ!
耳をつんざくような太鼓の音を背に
二十人の武士が舞いながら水を切りそのしぶきが無数の光の円を描き消える
統制のとれた人と光の円舞に観客はもはや言葉を失っておる
突如金糸銀糸が素早く天井に引き上げられ
二十人の武士は型を作ったままその場に静止する
それと同時に一切の音が止まる
会場に突然の静寂じゃ
ほの暗い舞台で動いておるのは光を反射する十の水の筋だけじゃ
そして聞こえるのもその厳とした水の音だけじゃ
いきなり天井から凄まじい量の紅い吹雪が舞い落ちはじめる
沈んだ灰色だった階段は瞬く間に真っ赤な階段へと変貌する
「さぁ!ヨソル!最後の見せ場じゃ!」
ヨソルは槍を手に袖より走り出る
水のすじを端から切り走る
切られた水は絶妙のタイミングで流れを止めるのじゃ
端まで走り抜けたヨソルはそのまま武士たちの間を駆け抜け、紅い階段に走り登る
そうそう…ここで滑るなよ!
階段上部に立ったヨソルが大股を開き槍を捧げて型を作る
ここで再び太鼓の凄まじい音が鳴り出す
その音に誘われるようにヨソルは隠し持っていた金の扇を片手に高く掲げる
わしの出番じゃ
わしはまだ降り続く紅い雪の中を
弓矢を持ちゆっくりと舞台中央に出て立ち止まる
観客には真っ赤な階段としゃらしゃらと降り注ぐ紅い吹雪
二十の黒い武士の影と紅い杯、
そして階段中央の静止しているヨソルのシルエットが
現実離れした夢のような光景として映っておることじゃろう
わしは中央で観客に背を向けるとヨソルに向かって弓を引く
背中に全ての目が集中しているのを感じる
快感じゃ
突如全ての音が鳴り止んだ瞬間、ヨソルが手の扇を高く放り投げる
くるくると舞う美しい金の放物線めがけてわしは弓を放った
扇は矢に射抜かれ、後方の壁の真ん中に打ち付けられ
同時に一切の明かりが落とされた
しばしの静寂の後,会場から割れるような拍手と歓声が起こった
会場が振動するような歓声じゃった
感動じゃ…やったぞヨソル…
皆もよくやった…
終わった…
わしは舞台上で不覚にも涙ぐんだぞ
将軍がスタンバっておったセリが突然の故障で動かなかったと聞いたのは
万来の拍手とともに舞台をおりた直後であった
たわけが
◇交錯する想い3 妄想省家政婦mayoさん
テソンの口調は眼差しと一緒だった..怒らない…責めない…
私に対し怒り、責め言葉を吐けば
私が貝のように口を閉じて何も言わず消えるのを知っている..
沈黙が続いた…♪だけが静かに部屋に流れている..
テソンはいつも部屋に入るとすぐ♪のスイッチを入れる..
テソンと私はどんな時も常に部屋に♪が流れていないと駄目だ..
初めてのハグ..初めてのち◎う..喧嘩の時..
その時その時の曲は2人の思い出になっている..
今は同じ曲がピアノのインストを挟んで繰り返し流れている..
まだ2人がち◎うもしない時に
テソンが熱を出し暗闇のあの夢にうなされ何度も両手が空に泳いだ
私はその手を取って自分の背中に回した..
その日を境にテソンは暗闇の夢を見なくなった..
熱が引いたテソンが朝もやの中でそっと聞いていた曲だ..
テソンは私の両手を取って弄びながらまた口を開いた
「僕は...mayoのどんな厄介も受け止めようと思った」
「ごめん..次から次…」
「ぅぅん..ちょっと楽しかった..次は何かなぁって…」
「テソンはその度に優しく包んでくれた..」
「好きだから...どんなことも受け入れようと思ったから」
「テソン..」
「でも..君の本当の要塞..それは壊せなくてじれったかった」
「…」
「秘密って..謎って..暴かれるためにあると思ってたから..」
「…」
「僕..しつこいじゃない?..頑張ったけどさ、駄目だった
でもね..そのままにしておく秘密もある..って思ったんだ..」
「ごめん…」
「ぅぅん..いいんだ..君は気持ちの切替えがきちんとできる人だ..」
「…」
「無理にえぐらないって僕は最初に言ったでしょ?憶えてるよね」
「ぅん…」
「だから..もう探るの止めた」
「テソン…」
「今日は..ちょっと苦しんでる..だから抱かない..抱けない…」
♪がピアノのインストからヴォーカル部に入っている
ノ ハナマン(君一人だけ)..テソンのお気に入りの曲だ
テソンはこの曲の前後にピアノのインストを入れてアレンジした..
♪君だけは 何も言わなくても
僕の目を見るだけで 僕の心を解ってくれたから♪
「何があっても..その度に僕のところに戻ってくるよね..」
「..ぅん..」
「何があっても..僕が包んであげるから..」
「テソン..」
テソンの指先が私の唇に触れる...何度も優しくなぞり唇を重ねる..
柔らかく温かい唇がゆっくりと動く..
唇の暖かさが顔全体に..心にまで染み渡る..
♪僕を解ってるでしょ?
愛している人も...これから愛する人も..
君一人だけなんだよ..♪
互いに求め合う舌が滑り込み...探り合い...ひとつに絡まり合う..
僕の唇に温かいものが流れ落ちてきた..mayoの涙だ..
僕は唇を離し頬をそっと包んだ..
「..顔腫れちゃうぞ..ちょっと前も泣いてたんだろ?」
「ぁぅ…」
テソンはくすっ#と笑い親指で私の涙を拭った..
そっと抱いて何度も背中を撫でてくれた...そして耳元で囁いた..
「いつか..mayoの心が少し楽になった時...その時は思いっきり抱く..」
「ぅん..」
「僕はしつこいからね..」
「ぁ..」
「待った分..じっくり..ゆっくり攻めてやる..」
「ぉ..」
「楽しみだ..」
「ぁひ..」
「負けないから..」
「ぁ..」
「覚悟してよ..」
「ぁひゅ..」
テソンはくすくす笑って軽いち◎うをした..
僕と闇夜は部屋を出た
途中カフェに寄る闇夜と別れて僕は先にホールへ戻った
~~~~
テソンがホールへ戻ってきた..
ひとりだ...ぁぅ....隣に闇夜がいない..
俺の胸ん中が..ざわざわざわざわしてくる..
俺の頭ん中で..り〜んご〜ん!と鐘が響く..
俺の"中心"で..ちーん!と音が鳴る..ご愁傷様#と呟き付きだ
「ちぇみ..」
「ぉ..ぉ..どうした..」
「テソンさんのとこに行くね..」
「ん..」
俺はテスにデコxxxをした..
テスは俺の頬をぽちゃぽちゃの両手でナデナデ#をし
懐から離れテソンの隣に座った..
俺は腕を組んだまま壁の隅に寄りかかった..
~~~~
僕の隣にテスが来た..
顔を覗き込んでぽちゃぽちゃのクリームパンの両手で僕の頬をナデナデした..
「どうした..テス..」
「ぅん?..あったかくしてあげたの..テソンさんとこ..」
「テス…」
「あったかい?」
「ぅん..テス..ありがとう..」
テスの手はほんとに暖かかった..
僕は自分の頬にあるテスの手に自分の手のひらを乗せた..
テスは何も言わず...にこっ#^_^ と笑う..
僕はテスの顔を覗き込んだ..声には出さずに僕は心で問うた
……テス...お前...もしかして...気づいてんか?
テスはまた何も言わず...にこっ#^_^# と笑った..
テソンさんの頬をナデナデした..
テソンさん…僕..気づいてる..
僕にもちぇみの心に隅に何かがあるの見えるの..少しだけ..
僕...みんなのこと好きだからさ...何も言わないことにしたの
…大丈夫だよ...テソンさん..
戻ってくるのはいつも僕んとこ..テソンさんとこだから..
僕はテスの髪をくしゃくしゃした..
テスはえへっ#と笑った..
~~~~
俺はホールのドアを気にしながら太鼓の音に引きずられ舞台に視線を移した
ぼんやりと眺めた舞台ではMUSAの殺陣のショーが始まっていた
舞台に赤い吹雪が舞っていた..まるで今の俺の胸ん中に降っている様だ..
俺はふっとため息をついてまたホールのドアに目線を向けた
闇夜がそっとドアを開けて入ってきた..
すれ違った時に見た青白い横顔はちょっと桜色になっている..
おい!..まさか…
闇夜は俺の方へ歩いてきた..
カフェに寄って2階のジホ達の軽い食事を運ぶようお願いしてきた..
一日撮影でろくに食事を取っていないはずだ..
ジホの分の野菜ジュースを忘れないようにしてもらい、
コーヒーの1つはエスプレッソで角砂糖1個にしてもらう..ソヌの分だ..
ホールに入ると壁の隅っこで腕を組み私をじっと見据える瞳..
私はその瞳に向かって歩いていった..
過去の僕と今の僕 ぴかろん
「ねぇおじさん…」
僕の胸でラブが呟く
「なに?」
僕にこんな優しい声が出せるのかと思うくらい優しく聞く
「時々さ」
「ん?」
「パパって呼んでもいい?」
ああ、いいよと言おうとして僕は突然過去に引っ張り込まれた
『ぱぁぱ…ぱぁぱ…』
妻が死んで、チフンを義母に預けた時、話しだしたチフンが泣きながら僕を呼んだ
その時の事が甦った
今、どんな風に成長しているんだろうか
『僕によく似てるからいい子だよ』
弟の言葉がリピートする
似てる?
じゃあ…ラブにも似てる?
ああ…いいよ…
もう一度そう言おうとしたが言葉が出なかった
僕の唇は、ただ震えるだけで何も言えなかった
パパと呼んでもいいかと、冗談のつもりで言ってみた
おじさんは急に凍りついた
…あれ…
俺はまずい事を言ってしまったのかなと思い、取り繕うつもりで言葉を続けた
「何さ、どっかに隠し子でもいるの?」
馬鹿!
そう言って俺の頭を小突いてくれると思ったのに…
ビンゴかよ…
子供…いるんだ…おじさん…
「…あ…いない…隠し子なんて…」
じゃあ隠してない子供がいるんだね…
余計なこと言っちゃった…
ごめん、おじさん…
「俺、ナイフ投げの練習してくる。おじさんはホールに戻ってたら?」
「…ああ…」
そしてイナさんの胸で泣けばいい…
俺は振り返らずに真っ直ぐ中庭に向かった
僕が捨てたチフン…
幼い声が甦る
ラブに何も言えなかった
僕はイナを求めてふらふらとホールに帰った
席に戻りイナを捜す
テジュンさんの横で笑いながら舞台を見ている
ああ…そうだよね、お前にはテジュンさんがいるんだもの
僕はすとんと席に着いて小さなため息をついた
「イナ」
「なに?」
「行ってやれ」
「ん?」
テジュンが顎をしゃくったその方向に、ラブを追っかけていったはずのギョンジンがいた
生気のない顔で俯いている
どぉしたんだよ…
俺はテジュンの顔を見た
テジュンは行けと合図する
もう一度ギョンジンを見て、そしてテジュンに行ってくるねと告げた
テジュンはにっこり笑った
俺はギョンジンの方に行きかけてもう一度テジュンを振り返り、テジュンにキスをした
テジュンの温かい手が俺の頬を撫でた
俺はギョンジンの元へ向かった
木に向かってナイフを投げようと思った
ニ、三回腕を振り上げて、結局やめた
木が可哀相に思えたから…
俺は地べたに座り込み、左手の指を広げて、いつものヤツをやった
タンタンタンタンタン
俺、おじさんの事を知る度に、おじさんを傷つけてる…
取り戻したっていうおじさんに、深い傷を負わせている…
なんであんな事言っちゃったんだろ…
パパなんて…呼ぶ気なんかなかったのに…
「父さん…」
俺の父さんは俺のことなんて、見てくれなかったよな
体面ばかり気にして、無理矢理留学させられたっけ…
おじさんはどうして子供と別れたんだろう…
別れたんだよね?
そうに決まってる、あの顔は…
俺、やっぱりおじさんのそばにいちゃいけないんじゃないのかな…
タンタンタンタン
痛っ…
ああやっちゃった…
中指と人差し指の間を切ってしまった…
血が流れる
少し痛い
でもさほど深い傷ではない
俺はシャツの裾で血を抑えた
医務室に行こうかな…
でも…どうでもいいや…
もう…なんでもいいや…
大きくため息をついて、俺は芝生に寝転がった
「何幽霊にとり憑かれてんの」
イナの声がした
「はっ…」
小さく息を吐いてイナを見た
「何のこと?」
イナは僕の頬を触った
「イナ様の目は誤魔化せないの。何があった?あのガキがなんか喚いたのか?ん?」
僕はじっとイナを見つめた
イナの優しい瞳を見つめた
喉の奥が震えて、自然に涙が流れ落ちた
イナは微笑んで僕の頭を自分の胸に包み込んだ
「なッき虫ぃ〜。何回泣けば気が済むんだよ」
包み込む声が胸に響いて僕は涙を抑えられなかった
「外行くか?ロビー?」
僕は頷いてイナの後に従おうとした
「じゃ、おんぶ」
イナはこんな時も僕を笑わせる
それが…有難い…
イナをおんぶしてロビーまで来た
中庭は見えない
どうして泣いてるのかをイナに話した
ラブと話しているといろんなことを思い出す
弟の小さかった頃の事、チフンの事、一人で突っ張ってた頃の事、寂しいのに友達も作らなかった事…
イナに話した
イナは親指を噛みながら話を聞いていた
話し終わると僕の涙を親指で拭い、そして頬に親指のフシを押し付けてきた
「…?」
「ツバついちゃったから」
ああ…親指噛んでたから?
馬鹿野郎…どうしても笑わせる気か?
僕は泣きながらクスッと笑った
でも余計に悲しくなった
◇悪魔小悪魔1 妄想省家政婦mayoさん
「顔色が良くなったんじゃないか..さっきより..」
「ぷっ...気になるの?」
「あたりまえだっ」
「部屋出るときに薬湯飲まされた..」
俺は隣に来た闇夜にくんくんした..
「たっぷり飲まされたみたいだな..」
「ぅん...ぶちゅーする?」
「お、いいぞ...ここでか?」
「できる?..」
「ぁふっ..冗談だっ..」
俺等は壁の隅で互いに正面を向いたまま
互いの周波数のみでこそこそ内緒話を始めた..
「何か言われたか..」
「核シェルターがあるって..」
「そっか..俺はそれを壊したってことか..」
「そういうことになるね..」
「テソンは気づいてるんだろ..」
「ぅん...ちぇみ...テスシも感じてるよ..」
「おい..」
「テスシが一番4人の幸せ願ってる...背中話の時感じた..」
「..そうか」
「テソンもテスシも深いんだ...想いが..」
「わかってる....俺等もだろうが..」
「って?」
「ん...俺とお前…」
「莫迦..」
「莫迦はないだろうぉぉ..」
「ごめん..」
「俺が火つけちまったな..すまん..闇夜..」
「ひとりでカリスマしてぇー恰好つけないでよ..」
「すまん..」
「どっちのせいでもない..ふたりに責任あるもん..」
「ん..お前は..埋み火を消せるか?」
「出来ない..消せる?」
「出来ん…」
「それでも..テソンとひとつになったら..」
「ん..耐えるのみ#..お前もそうしてきただろ..」
「ぅん..」
「お前は俺の気持ちも知らないまま俺とテスを見守ってきたて..そうだろ..」
「ぅん..」
「俺はその分お前に安らぎをあたえなきゃならん..テソンを通してな..」
「ちぇみ...できる?」
「悔しいが耐えるのみ#」
「でも全部知った今からの方が耐えるの辛いよ?」
「お互いさまだろ..」
「ぅん..」
「今まで以上に辛いとこは見せちゃならんぞ..」
「わかってる..」
「お前ならできるな..俺もちゃんとする..」
「やるしかない..」
「ん..お前も冷静なときはシビアだからな..ま、そこがいいんだが..」
「好き?」
「ん...」
俺たちは見つめ合うことなくお互いにちょっと笑った..
「俺は...テスもお前も失いたくない...贅沢で悪魔な罪人様だな..」
「一緒だよ..」
俺たちは見つめ合うことなくお互いにため息をついた..
「甘い夢を見た罰は受けなきゃならんからな..耐えるのみ#」
「もう...見ないの?甘い夢..」
「ん?…」
隣の悪魔は隣の小悪魔に上気味に目の端で笑いかけた..
隣の小悪魔は隣の悪魔に妖しい笑いを返した..
過去の僕と今の僕 2 ぴかろん
「メソメソしたって仕方ないじゃん」
「…でも…」
「会いたいんなら会いに行けよ、息子にさ!」
「…」
「面と向かって会えないんなら、陰からこっそり見てくればいいじゃん」
「…それは…」
「なんで泣くの?」
「え…」
「お前の息子は今、幸せに暮らしてるんだろ?なんで泣くの?」
「…だって…」
「捨てた事を後悔してるからか?どうしようもなかったってまた自分に言い訳してるの?」
「…」
「その時にそれが一番いい方法だと思ったんだろ?お前が決めたことなんだろ?」
「…そうだけど…間違ってた…手放すんじゃなかった…」
「そんな事思ってないくせに」
「…でも…」
「手放したくなかったのならすぐに迎えに行ってたさ。アナ…なんだっけそのアナって女んとこにもこまめに行ってたさ
行かなかったんじゃねぇかお前」
「…」
「凍ってたんだからしょうがねぇだろ?」
「…」
「お前そん時は凍ってたの!今溶けたけど氷に埋まってたマンモスだったの!そんなヤツのとこにいたって、子供がまともに育つかよ!
だからいいんだよ。今息子幸せなんだから、よかったんだよ。そう思え!」
「でも…」
「会いに行きたきゃ行けって言うの!何度も言わせんなよ。お前が泣いてるのは自分が可哀相だと思ってるからだよ!」
「…え…」
「今泣くぐらいなら、その時一緒に生きていく道を探せばよかったんだ。今泣くなんて卑怯だ」
「…」
「ラブは気づいてないと思うか?」
「…多分…でも…」
「あいつ、勘のいいやつだから、きっと気づいてるぞ。ラブが気の毒だよ…。お前なんかよりラブの方がよっぽど大人だよ!」
「…」
さっき、ラブとケンカしてたくせに…
「言っとくけど、俺はお前よりラブの事よく知ってるぜ。あんまり喋っちゃいねぇけどよ
あいつ、危ないけどいい奴なんだからな。泣かすなよ…」
イナ…
「ま、しょうがねぇか、まだ自己中は抜けないってことさ」
「自己中…」
「そうだよ。一日やそこらで人間成長できませんって事だよ。テジュンだってそうさ。ここまでくるのに俺がどれだけ苦労したか…」
「え?」
「いい男にするためにあっちこっちフラフラしてやったんだよ。だからあんな凄い男になったんだよ」
そうだろうか…
でもイナのヘンなたとえ話は、妙に説得力がある
僕ははまだ、僕を取り戻して一日も経っていないんだ…
「じゃあ、僕はまだ未熟な僕だから…泣いちゃってもしょうがないよね…」
そう言うとイナはペチンと頬を叩いた
「甘えてんな〜。まぁいいけどさ。訳のわかってないラブにはちゃんと説明してやれっつーの」
「…」
「何?あいつにはキレイなお前しか見せたくないわけ?」
「…」
「あのね、過去のお前がいてこその今のお前なんだからな!お前って人間はずーっと続いてきてるんだからな!」
「…」
「んな、今日から生まれ変わりましたなんての嘘だかんな」
「だって兄のミン・ギョンビンは死にましたってお前…」
「そう!そいつは死んだの。ウソもんだから死んだっていいの!でもウソもんやってたのはホンモンのお前でしょ?」
「…ホンモン…」
「ホラ…もう涙拭けよ…」
「…拭いてよ…」
「ちっ…しょうがねぇな…ちゅっ」
「…」
イナは唇で涙を吸った
どきんと胸が高鳴る
イナの瞳は急に色気を帯びて僕に顔を寄せてこう言った
「もっと濃いのしよっか…」
「ばか…」
イナはキスが好きだ
僕もキスが好きだ
だからまたキスをした
イナの唇に触れていると自分を憐れんでいた事が馬鹿げてたと思える
ああ…やっぱりイナにはかなわない…
こんなヘンな奴なのに
僕はイナに惚れている…
こんなヘンな奴だから
僕はきっと惚れてるんだろう
「…ん…やっぱお前のキス、いい…。な、今度寝ような…」
色っぽい顔つきでンな事言うくせにいざとなったら逃げるんだ、お前は…
くすっと笑うとイナはちょっと怒った顔をして
「逃げると思ってるだろ!逃げねぇよ!だって俺が抱くんだもん、お前のこと…」
そんな事をいう唇を僕は捕まえに行った
僕はかわいいその男を簡単に捕まえた
そして僕は唇の上でイナに降伏した
「ありがと…お前が好きです…」
イナは一言こう答えた
「はふん…俺もしゅき…」
血がなかなか止まらないな…えーい
俺はシャツを脱いでぐるぐると手に巻きつけた
ハダカになった背中を芝が擽る
おじさんの指を思い出してずきんと胸が痛む
おじさんは今頃イナさんの胸で甘えてて
おじさんは悲しい思い出をイナさんの胸で泣いて流すんだ
そして何事もなかったように俺に笑顔を見せるんだ
おじさんの昔を俺は知らない
なんにも知らないんだな…
俺がそれを知ろうとしたら
またおじさんを泣かせてしまうのかな
だったら知らないほうがいい…
もう何も言わないほうがいい…
おじさんには笑ってて欲しいもん…
終わらない恋 れいんさん
僕はあいつの手元を見つめていた
俯いてシャツのボタンを繕うスハ
頬は薄紅色に染まっている
口づけを交わした唇が微かに濡れている
僕が思っているよりあいつはずっと強い…
真っすぐな分だけ強くなれるのか…
愛しさに僕はまたスハに触れたくなる
手を伸ばしたら届くのに…
僕はぎゅっと唇を噛んだ
僕は今、何の約束もしてやれない
あいつの想いに応える術が見つからない
僕は何をすべきなのか…
祭が終わったら…妻に話そう…
僕が僕である事を
気づいているのに、何も言わない妻
気づいているのを知っているのに、何も打ち明けない僕
僕はテジンだ。紛れもなく
あいつが僕に一歩踏み出す勇気をくれた
心が揺れてるこんな僕を、兄さんは許してくれるだろうか…
「テジンさん、終わりましたよ」
僕の瞳を覗き込むスハ
そして僕の肩にふわりとシャツをかけてくれた
僕は黙って袖を通した
一つ一つ丁寧にスハがボタンを留めてくれる
スハの吐息が首筋にかかる
抱き寄せてキスしたい…
柔らかく甘い果実のようなその唇…
僕はまだスハの感触を覚えていた
「さあ、もう祭に戻らないと」
「…おまえも一緒に行こう」
「…先に行ってて下さい」
「スハは…行かないのか?」
「…後で行きます。…すぐに行きますから」
「ほんと? …もう僕に黙ってどこかに行ったりしない?」
「必ず行きますから。…約束します」
僕はスハに背中を押されて歩きだした
ドアの手前で立ち止まり、体を捻ってスハの方に向き直った
考える間も与えずに、スハの頬に手を添えてそっとキスした
「僕の隣を空けておくから…」
僕はキスしながら囁いた
「ん…あ…はい…」
テジンさんが部屋から出た後、僕は急に体の力が抜けた
そこにあった椅子にぐったりと座り込む
ふーっと大きく息をついた
体の火照りが治まらない
僕は目を閉じてテジンさんを思い浮かべた
甘い余韻が体に広がる
体の芯が疼きだす
僕は少し気を落ち着けたくて
サイドボードの引き出しから日記を取り出した
僕の想いを書き綴ろうと、とりとめもなくペンを走らせた
静かに夜が流れていく
そばにいてもいい?
切なくて
ずっとあなたとここにいたい
二人の景色を絵にしてしまっておけたら
思い出もいつかきっと色褪せ
お互い違う空 見る日が来るかな
好きだから 好きだから
離れたくない
ただ側にいて
遠くを見つめている
悲しい横顔を見ていたい
いつまでこんな切なさ続くの?
急に不安になった
だけど言い出せなくて
ふいに会話途切れ
窓の外を見つめるあなたを見たら
切なくて 切なくて
胸が痛い
今すぐに抱きしめて
会いたくて 会いたくて
夜が来る度
今だけ僕を抱きしめて
好きだから 好きだから
忘れない
はかないこの時を
涙が頬を落ちたのは
切なくて 愛しくて
終わらない恋をしよう
同じ景色見つめて
ひといきに書いた後、僕は日記をパタンと閉じた
そして部屋の灯りを消して
あの人が待っている場所に向かった
過去の僕と今の僕 3 ぴかろん
初めて見たとき、かっこいいと思った
それから寂しそうだと思った
きっと一人ぼっちなんだとそう思った
俺と同じだと思ってた
一人じゃないじゃん …イナさんがいるんじゃん…
なのにそんな寂しそうな顔しててずっるいじゃん…
でも…子供と…離れ離れになってたら
そりゃ悲しいよね…普通…
はぁ…
俺の頭はどうにかなってる
おじさんのことばかり考えてる
目を瞑ってても涙が流れ出す
俺、こんなに泣き虫だった?
「ラブ!ラブ!しっかりしろ!」
空耳?
おじさんの声がした
「ああ…こんなに血が…」
目を開けるとおじさんがオロオロしている
「おじさん…」
「ラブ!しっかりしろ!どこにナイフが刺さったんだ!」
「へ?」
「こんなに血が…胸か?腹か?」
「…指だけど…切ったの…」
「…」
おじさんは俺の腕をそっと持ち上げて俺の体に傷がないか確認している
「…びっくりさせんなよ…でも凄い血だ…医務室いこう」
「いいよ」
「だめだ!」
「じゃ、一人でいくよ、おじさん医務室行きたくないんでしょ?」
「…ラブ…」
「よっこらしょ…っつっ…」
「つれてってやる」
「いいよ」
「強情だな、あの医務室はいっつも医者がいないらしいぞ。僕が手当てしてやるから」
「…」
「…さっきはごめん…」
「…」
「歩けるか?歩きながら話そう」
「いいよ、話なんかしたくない」
「…聞いて欲しいんだ」
「…」
俺は歩きながらおじさんの話を聞いた
子供と別れたいきさつと、イナさんに叱られたって事を
「ごめんな…心配かけたな」
医務室の椅子に座って俺はおじさんの治療を受けた
へぇ…器用だな
スパイって何でもできるんだ…
「やっぱりナイフ、預かっとこうかな…」
「さっきは油断してただけだよ。もう大丈夫…」
「…心配だな…どうして自分を傷つけるような事するの?」
「え?」
「見てると堪らない…怖くてさ…」
「…そう?」
「あ、ちょっと待ってろよ、着る物もって来るから…」
そう言うとおじさんは俺の体をまじまじ見つめて医務室から出て行った
おじさんが巻いてくれた包帯にキスしてみた
イナさんがどうしておじさんの心を捉えたかが解った
俺にもそんな風にとことん付き合ってくれる人ができるといいな…
俺はどんな風におじさんを癒せるんだろう…
「ほい、これどう?」
おじさんはおおよそ俺が選びそうもないブルーのボタンダウンシャツを買ってきてくれた
「…だっせぇ…」
「…似合うと思うけどな…」
「こういうの、好み?」
「こういうのも好み」
「…ふうん…」
俺はおじさんがくれたシャツに手を通した
「おじさん…」
「ん?」
「ボタンとめてよ…」
「ああ…」
なんのためらいもなくとめてくれるのな…
俺、色っぽくないの?
おじさんはさわやかな笑顔で俺のボタンを留める
俺はおじさんの顔を見つめる
寂しくなっておじさんにキスした
「こら…ラ…ブ…」
おじさんの手が止まった
おじさんの首に腕を巻きつけておじさんの唇を吸った
俺、おじさんが好きだ
おじさんの事がすごく好きだ
どうしよう…おじさんが見ているのはイナさんなのに…
「…ラブ…」
「おじさん…男、抱いたことある?」
「…ないよ…なんでそんな事聞くの?」
「俺はあるよ、抱かれたこと」
「…」
おじさんの目がまん丸になった…
嘘なのにな…
「だからさ、やりたくなったらやらせてやるよ…タダで…」
おじさんを怒らせたかった
なんでだろう…振り向かせたかったのかな…
でもおじさんは怒らなかった
にこっと笑って俺の頬を両手で包んだ
「ンな事言うな…」
「なんだよ、タダでやらせてやるのにさ…」
「そんな風に言うなよ…もし抱くなら…」
なにさ…
「ちゃんと好きになってから抱くよ…」
そうなってくれたらいいのに…そしたら俺、寂しくないのに…
「イナさんがいる限り無理って事か…」
「…ごめん…」
「謝らないでよ…希望もないのかよ…。おじさん、謝ってばっかしだ…」
ばか…
「…でも僕、お前が大事だよ」
「え…」
「大切にしたいと思ってる…だから余計無理かな…抱くなんてさ…ふふ」
「…」
その言葉だけで俺はふんわりと優しい気持ちになれる
たくさん望んじゃいけないんだ…
おじさんが好きだ
そばにいたい
いさせてください…
目を瞑っておじさんの胸に凭れた
おじさんが肩を抱いてくれた
とても気持ちよくて、やっぱりお父さんみたいだと思った
僕はラブと話していて気づいた
イナを抱きたいのだろうか…
抱けるのだろうか
女しか相手にしてこなかったのに…
イナと一つになりたいのだろうか…
イナに触れたいと思う
イナが僕の愛撫に乱れる姿を…見てみたいとも思う
でもその先に僕は足を踏み入れたいのだろうか…
わからない…
男を好きになったことなんてないもの…
ああ、弟は別だけど…
男にこんなに惹かれたことなんてないもの…
ぼんやりと考えてるとラブが僕の顔を見上げていた
いつも寂しそうな目をしている…
いけない、ラブの事、考えてあげなきゃ…
「おじさん…」
「なに?」
「無理しなくていいよ…無理に俺の事考えなくていい…俺、おじさんにそんな負担かけたくない」
「…ラブ…」
「俺、おじさんのそばにいたいからさ。おじさんは普通にしてて…。俺もう無理言わない。だから…そばにだけいさせてよ…ね」
「…ごめ…あ…また謝っちゃった…」
「時々キスしてくれる?」
「ん」
「すっごいのだよ」
「んはは…」
「俺、キスとか&%$3とか好きだからさっへへ」
「…ばか…」
「…だから…したい時は…言ってね…」
「ばか!」
「…」
「そんな風に思ってないって言っただろ?!」
「…イナさんの事、抱きたい?」
「…」
「ねぇ…抱きたい?」
「…わかんない…」
「…わかんないのか…」
俺は少しだけホッとした
「このシャツ、似合う?俺…」
「似合うよ」
「嘘つき…」
「ホントだよ」
「おじさん…」
「なんだ?」
「イナさんが空いてないときはさ、真っ先に俺のとこにきてね」
「は?」
「おじさんが泣きたくなったときさ、イナさんが空いてなかったら…俺のこと捜してね」
「ラブ…」
「俺…背中ぐらい擦ってあげられるよ…」
おじさんのために何かしたいからさ…
「ありがとう…参ったな…」
「ん?何が?」
「…どうしてこうも降参しなくちゃいけない奴らばっかりいるんだよ…」
そう言うとおじさんは俺の肩に顔を埋めた
「しばらくこうさせてくれる?」
「うん」
俺は嬉しかった…おじさんの頭の重みが嬉しくて背中を擦ってあげた…
おじさんは俺の首筋にキスをして、ひとつ印をつけた…
声が漏れそうになったけど俺は我慢していた
「ラブ…僕にもつけてよ…」
「…え…」
「つけてよ印…」
どうしてなのかわからない…おじさんがどうしてそんな事言い出したのかわからないけど…
俺はいいよと言ってドキドキしながらおじさんの鎖骨あたりにキスを落とした…ありったけの想いを込めて…
◇悪魔小悪魔2 妄想省家政婦mayoさん
悪魔ちぇみは腕を組みカリスマ顔で壁に寄りかかり
右隣の小悪魔闇夜はブルゾンのポケットに右手を隠し
唇を噛みながら壁に寄りかっている
「お前…それ癖なのか?」
「何」
「しょっちゅう唇噛んでるだろ」
「いつも噛んでると唇赤くなる…口紅が要らないしょ」
「…赤い唇はちとそそられるが..」
「…いつでも待ってる..」
「おいっ」
「冗談っ..」
「ぉ..お前が言うと冗談に聞こえん」
「それは私にすけべぇー心がメラメラだからだ」
「ぅぅ〜む…そうかもしれん」
「「ったく!!」」
「ちぇみ…」
「ん…」
「さっき後から来たから…焦った?」
「ぉ..ん…ちょっと..」
「ちょっと?」
「嘘です…かなりです…」
「ぷっ…心臓バクバク..頭リ〜ンゴ〜ン..そこ..チーン!!とか鳴ったっしょ..」
「お..お前なぁ!…」
「ふひ…」
「ったくお前は…男と喋ってるみたいだ..」
「だって…おとこおんなだもん…」
「ふっ…そうだな…」
「ちぇみとはえろい会話もできるし...本音も言える…馬鹿も言えるんだ..」
「闇夜…」
「男みたいに何でも話せるし..たまにグー★で叱ってくれる..」
「特典でち◎う付きだしな..しかも極上だ..ぐはは…」
「ちぇみっ」
「ぉ..すまん..はしゃぎすぎた…罪人様だったな..クォン(;_;)」
「闇夜…」
「ん?」
「俺はそのお前の中性的なとこが気に入ってる…」
「それ、誉めてんの?」
「ん…俺は、ほら..”おんな・女”ってのが相手だとカリスマになっちまうだろ」
「ぷひひ…ぅん…」
「正直疲れる…ずっとやってると」
「だろうね…」
「ん…だがお前はどーも調子が狂う…最初男かと思ったぞ」
「おいっ!」
「んだが..ほら..お前も月のものあるからな…女と確信した」
「ちょ、ちょっとぉー!何でわかんの!」
「んなもの…わかる…」
「ぁ..ぉ..くぅぅー!やらしいっ!」
「ぉ..ぃ..い..痛いっつーの!!」
小悪魔闇夜は正面を向いたままちぇみ悪魔の右足を踏み
つま先でグリグリグリグリした…
ちぇみ悪魔は奥歯を噛んでじっと我慢のカリスマ顔…
「痛いぞっ…ったく」
「もぉぅー」
「俺もお前にしか言わん!…こんなことは..」
「ぅぅぅーむ…」
「お前…怒るとおっかないな」
「そう!」
「テソンにもそうなのか?」
「一度だけ…手を上げた」
「ぉっとぉ…いつ」
「ん…俺は代わりなのか…って言われた時…」
「ぁちゃ…んなことがあったのか…」
「ぅん…ちぇみ…」
「ん…何だ…」
「テソンがちぇみの代わりじゃないように…ちぇみもテソンの代わりじゃないよ」
「ん…わかってる…俺も同じだからな」
「そう?」
「ん…だがあいつらを不幸にできんぞ」
「ぅん…」
「でもふたりなら辛いのは半分こだ…罰も半分こだ…ん?」
「ぅん…」
「で、楽しみは倍だ…ん..」
「楽しみって…すけべぇーなこと?」
「ぉぃ〜それだけじゃないだろうぉ」
「ぅん…」
「お..そうだ…別宅に防音装置つけろ」
「やだぁ…そんなに凄いの?」
「お前等もわからんぞ」
「もうーせつないなぁ」
「すまん…だが..俺はお前の声…聞きたくない」
「耳栓してればっ」
「ふんっ#」
ちょっとご機嫌ななめのちぇみ悪魔のために小悪魔闇夜は
左靴を脱ぎ、左足先をちぇみ悪魔の裾へ滑り込ませ
右くるぶし〜向こう脛〜ふくらはぎ..をこちょこちょした…
ちぇみ悪魔が機嫌が直ったのはいうまでもない…
罪を忘れ..おのれのつかの間の戯言にふける悪魔な2人であった…
やさしくてくるしい… ぴかろん
鎖骨にキスを落とすラブを愛しく思った
同時に、僕が絶対に印をつけてはいけないイナの事も愛しく思った
僕はラブに触れながら、いつもイナを思い出している
ラブはその事に気づいているんだろう…
すまないと思う
それを許してくれるラブに僕は降参した
きっと本当は許してないはずだ
でも僕は今、ラブに甘えている
『ラブの方がずっと大人だぞ』
そうだ
イナの言うとおりだ
僕は僕の過去を持て余している
僕は今の僕をどうすればいいのかわからない
何がしたくて何がしたくないのかわからない
僕はスローペースで混乱しているのだろう
ラブを抱きしめて心を落ち着かせ、ラブにキスをして混乱し、ラブに抱きしめられて謝罪する
そしてまた混乱し、イナを求める
僕はラブに印を落とした
何故そんな事をしたんだろう
僕はラブに印をつけてと言った
何故そんな事を言ったんだろう
鎖骨から流れ込むラブの若さがチクチクと僕の肉に突き刺さる
印はなんのためなんだろう
ただラブといると暖かくて優しくて切なくなる
そんな自分がとても可愛いと思う
そしてラブといるとどうしても過去を引きずり出す
苦しくて悲しくて動けなくなって
そしてラブを傷つけている
僕が黙り込むとラブは傷ついている
僕の痛みをラブは感じ取っている
どうして
どうして何も言わないの
僕の胸の中でラブは寂しい目をしたまま微笑む
その寂しさを取り除く手助けをしたいけれど
それは僕の寂しさなのかな
ラブは僕から哀しい想いを吸い取っていく
一緒にいてもいいのだろうか
最初に会った時はあんなに威勢がよかったのに
数時間後の今は水を吸い込んだ綿のように憂いを含んでそこにいる
僕のそばにいてほしい
けれどラブのためになるのだろうか
ラブのつけた印を触り、僕のつけた印を眺め、そしてラブの瞳を見つめた
「なんでそんな寂しそうな顔してるのさ、おじさん…」
「…え…」
「おじさんが寂しそうだと俺も寂しくなっちゃうんだから…」
「…ごめ」
謝ろうとした僕の唇をラブが塞いだ
唇を離してすごいキスしてと乞う
すごいキスってどんなキスさ…
どんなのでもすごいよ、おじさんのキスはさ…
僕はラブに口付ける
ラブの弱いところを軽く噛む
ラブは固く目を閉じて、嗚咽を漏らすまいと我慢している
我慢なんかするなよ…お前も何か話せよ…
ああでも今の僕には、何も受け止めてあげる力がない…
ごめん…
ごめんな…
僕はラブの舌に絡みつき、彼が望むキスを与えることしかできなかった
【40♪テジュンの夢は夜ひらく】ロージーさん