セツブンショー5 ぴかろん
今度の衣装はまともだ…よかった…
豆の枡を忘れずに持ってと…
「おい」
「はいっ」
「今度もおめぇのパフォーマンスでガンガン行けよ。オレぁちょっくらファッションショーの打ち合わせしてくるからよ!」
「えっ…この衣装で…ですか?」
「あんだ?文句あんのか?!…北極行きてぇのか?!」
「…あ…いえ…」
「じゃあ頼んだぞ」
「…あ…はい…」
困った…今度は先生のマイクパフォーマンス…じゃない…ナレーションが入ると思ってたのに…
この衣装…激しいダンスは踊れないよな…
「ソクさん…」
「ん?」
「似合いますね…でもなんでこれもブーツに裾を入れるんでしょう…大体…なんでブーツ?」
「しっ…。先生の作品にケチつけたら大変だぞ。北極グマに食われるぞ」
「…」
「困ったなぁこの衣装でパフォーマンスって何ができると思う?」
「…静かな踊り…」
「…踊り…踊って欲しいの?」
「はいっ」
「…気合入った返事だなぁ…」
「だって凄く…」
「何?」
「色っぽいもん、ソクさんのダンス」
「…」
かわいいなぁスヒョク…
「じゃ、スヒョクのために頑張るからさ、キス」
「はいっ」
え?…なんの躊躇いもなく?…しかもそんなベロベロのキスを…
ああいかん…スヒョクの瞳がウルウルだ…
どうしよう…スヒョクの期待に応えなくては…
と言ってもニッ○に貰ったビデオで見たダンスは…この衣装に合わないし…
「ソクさん、出番です」
「お…おう…」
「頑張って…」
「おう…」
どうしよう…音楽もゆったりしてるな…うーん
とりあえず中央までゆっくり歩いてってと…
僕は何をしようか考えながら舞台中央に立った
豆の枡を中央に置き、真っ直ぐに立つ
スポットライトが僕に降り注ぐ
その瞬間僕の体が勝手に動き出した
ソクさん今度はどんな踊り?
楽しみだぁ…
こんなに楽しんだりキスしたりしててほんとにいいのかな…
いいか…お祭だもん…夢なんだもん…
この夢が終わらないでほしい…
ソクさんは、ゆっくりとした音楽に合わせて両手を前の方に伸ばし、同時に右足を横に広げた
上げた両腕で円を描きながら、流れるように体を左に向ける
そしてゆっくりと右足を前に運ぶ
腕はうねりを描くようにゆっくりと宙を舞う
ソクさんのまなざしは、空を見つめている
これは…太極拳?
きれいな動きだな…
さっきまでのセクシーな振りとは全く違う
柔らかい動きなのに、止めるところはきっちり止めて、それがかっこいい
いや、止めてるんじゃないな…流れてる
ずっと流れてるんだけど、一つ一つのポーズがぴしりと決まる
空気を押し、空気を混ぜ、空気を引き込み風を起こす
足の動きはゆっくりだけど、決して止まりはしない
襲ってきた敵をはぐらかし、引き込み、打ち砕く
大地の気を味方につけ、自分を崩そうとするものに静かに立ち向かう…
そんな動きに思えた
ソクさん…貴方も戦っているんですか?
目に見えない何かと戦っているんですか?
ソクさん…俺は戦えるだろうか…
貴方と一緒にいたら、俺は俺の抱えているこの闇を打ち砕けるだろうか…
ソクさんは両手を左右に広げ、右足を斜め前方に伸ばして敵を蹴る
広げた両手を合わせるように弧を描きながら降ろし、同時に上げていた右足を一歩踏み出す
両手は右ひざの横を通ってまた上に向かい、作った拳で相手のこめかみを挟むようにポーズを決める
そのまま後ろに手を引いてからだを反転させ、また腕を左右に広げて今度は左足を蹴る
きれいだ…
ふらつきのない下半身がソクさんの体を支えている
片足で立っていても微動だにしない
得体の知れないものに、この人は立ち向かっている
この人と一緒なら、俺はきっと闇から抜け出せる…
そんな予感が俺に降りる
止まらない悠然とした動きでまた正面を向く
そして足元にあった豆の枡を取り、弧を描いてそれを撒く
切り刻まれた鬼達に、とどめの弾を撃ち込んでいるようだ…
とどめの弾…
どくん…
俺の心臓が破れる…
どくんどくん…
血が流れ出る…
怖い…
怖い怖い怖い…
ソクさん…やめて…怖い…
何故?
さっきは立ち向かえると思ったのに…
ソクさんの撒く弾が俺を打ち砕く…
それは俺が鬼だから…
舞台の袖に戻ると、幽霊のようなスヒョクがいた
様子がおかしい…
「どうしたスヒョク」
「…」
「スヒョク?」
「…ごめんなさい…」
「?」
「俺は貴方に近づいちゃいけないんだ…鬼だから…」
うつろな瞳で告げるスヒョク
また辛い出来事に囚われたのか?
僕はただ、スヒョクを抱きしめる事しかできなくて、彼の魂が飛んでいかないように僕の胸に包んでやった
「だめです…俺は鬼だから…」
「鬼じゃないよ…」
「俺は人を…殺しました…」
「スヒョク…」
「俺は…鬼です…」
「スヒョク!」
「貴方を好きになる資格なんてない…」
力なくそう言うスヒョクの唇を捉えようとした
スヒョクは顔を背けた
「僕はお前が鬼であっても…好きだよ…ううん…愛してる」
「…」
「僕も…鬼なんだ…」
「ソクさん…」
「お前がいないと…鬼退治できないんだ…僕の心の中の…」
「…鬼退治?」
「お前と一緒に、僕の中の鬼も、お前の中の鬼も…やっつけよう…な?」
「…俺と一緒に?…」
「…どうだった?いまの…」
「…素敵でした…。でも…怖かった…」
「どうして?」
「ソクさんの撒いた豆で打ち砕かれるような気がしたから…」
僕ははかなげなスヒョクを抱きしめて、今度は間違いなく唇を捉えた
「怖がらなくていい…打ち砕くのはお前の中の鬼だけだ…お前はここにいる…」
「…ソクさん…」
「さ…次の衣装は何かな?…手伝ってくれるだろ?」
僕はスヒョクと一緒に次の衣装を探した
スヒョクが先に動きを止めた
衣装を見て、僕は全身が凍りつくのを感じた
◇秘め事3 妄想省家政婦mayoさん
俺が闇夜の頬にそっと触れたとき..
風がざわざわと枝葉を揺らした..
「闇夜...」
「ん?」
「お前は...俺の埋み火が見えたって言ったな...」
「ぅん...」
「じゃ..俺の想いがわかったんだな?」
「....ぅん....」
「そうか...わかっちまったか...」
「闇夜...」
「ん?」
「お前にもあるな...埋み火...」
「見えたの?」
「ん....さっきな...分厚い灰がかかってたが..」
「ふっ...ぅん..」
「俺にしか見えないのか?」
「ぅん...」
「お前は俺とテスがひとつになっても想いは消えなかったのか?..」
「一度は消そうと思ったけど...駄目だった..」
「そうか...」
「ちぇみは...」
「俺はお前の影にテソンを見た..それから閉じこめた..」
「そう...」
私はそっとちぇみの頬に触れた...
ちぇみは少し前と同じように私の手のひらにそっと唇を落とした
風がふたりのほほを通り抜けた..
「お前はもうすぐテソンとひとつになるだろう..」
「今そんなこと言わなくてもいいじゃん..」
「いや.....お前がそうだったように...一人で耐えていたように..」
「…」
「俺もお前の幸せも見守らなくちゃいかん..」
「ちぇみ...」
闇夜は俺の頬から手を下ろし俯いた..
俺はそっと闇夜を抱き寄せ闇夜の顎を軽く上げた...
「俺は..今お前の想いに答える...お前も俺に答えろ...」
「...ぁ.....」
「心配するな...相手がいるうちは最後までしない...」
「...いいよ...」
「...馬鹿...」
「...ごめん...」
「但し...お互いに覚悟しろ...」
「ぅん...」
「互いに大事に思ってくれる相手がいる...」
「ぅん...帰るところもある...」
「ん...心の隅に想いを抱えてるだけでも罪かもしれん..」
「ぅん...」
「だが俺は我慢が足りないようだ..
お前の想いがわかった今...少しでもお前に触れたくなった...」
「ちぇみ...」
「それがお前にも罪を背負わせることになるのにな...」
「ふたりならいい...」
「ん.....辛くても一人で逃げようとするなよ...」
「ぅん...」
「お前は逃げようとした前科があるからな...」
「ぁぅ...」
「最後まで隠し通さなきゃならんぞ...」
「わかってる...」
「お前ならできるな...」
「ぅん...」
「ん....」
風が私の髪を巻き上げた...
ちぇみは私の顔にかかった髪を両手でをかきあげると
眉を上げちょっとやらしく笑った...
「それから...俺は今からちょっとだけ...すけべぇーになる..」
「ちょっとだけ?」
「ん...ちょっとだ...」
「ぷっ...ぅん...」
「極上のキスをお前にやる...誕生日プレゼントだ..」
「お互いのね...」
「そうだな...じゃ...お前もプレゼントしろ..俺に..」
「わかった...」
ちぇみは両手で頬をそっと包みまっすぐに私を見た...
ちょっと細めた目は甘い優しいまなざしに変わっていた...
「闇夜...今のこの..ちょっとの時間だけ」
「ん...」
「...俺だけのオンナになれ...いいな...」
「ぅん...」
2人の足下に吹き込む風がぐるぐると渦を巻いていた...
オン・ザ・シート ぴかろん
ぎゃくてん♪ぎゃくてん♪
うひひ…ついに俺もその日を迎える事ができるのらなぐふふ
あっいかん…顔がにやけてしまう…
よかった…ギョンジンをスカウトして…むふふん…
でも不安…
あの辺まではわかるんだよ…
ほんとにあそこでいいのか…なんだよ…
えっとテジュンはいつも…
やっぱしあそこにああだよな…
でも
不安…
でも
愉しみら…どぅえへへ
隣に座ってニヤニヤしているイナ
どうしたんだろう
ほんとにテジュンさんと僕の立場が逆転する?
どきどきどき
そんな事できるのかな?
だって…あんなにテジュンさんの事好きなくせに…
よくわからない
あ…テジュンさんがこっちを見てる
くそう…さっきはよくも僕にチウを見せ付けてくれたな…
よし…
大胆だけど…僕の技をお見せしましょう!
「イナ」
「…ん?…」
僕はイナにキスをした
いつもと全然違うヤツ
フフン
キスのレパートリーは広いんだぜ
軽くて甘い羽根のようなキス
街角で恋人たちがするようなオシャレなキス
どう?
できる?テジュンさん…
僕はイナから唇を離し、イナを見つめて聞いてみた
「今の…どう?」
「…ん…」
「どう?美味しかった?」
「甘くて…美味しい…」
「こんなキス、テジュンさん、してくれるかい?」
「…。ああ…そういえば…」
「え…」
できるの?!
「したした」
「うそ…」
「んと…背中だったかなぁ…」
「…」
背中に…
「しゅ…種類が違うね、そのキスは」
「そう?」
「…」
「でも今のキス…しゅき…」
「えへ…だろ?」
「ギョンジンきしゅうまい…」
「…最初は痺れなかったくせに…」
「痺れてないよ、今も」
「…え…」
痺れてない?!
「…そうなの?」
「うん」
そんなシレっとショックな事言うなよ…
「なんで…。たいていの人って僕のキスでクラクラすんのに…なんでお前は…」
「だってお前の顔、好みじゃないもん」
ああ
最初っからそう言ってたっけ…
え?
キスって顔でするもの?
顔で感じるものなの?
「それってお前だけでしょ…」
「そうかなぁ」
「そうだよ!」
「ソクのキスは…痺れまくったなぁ…。懐かしいな…。もう一回ぐらいしたいなぁ」
そういう事をシレッと僕の前で言うか?!
え?!いつもテジュンさんはこんな風にコイツの天真爛漫な浮気の感想とか聞いてるの?!
…すごい人だ…ほんとに…
ふふん
ギョンジン君、僕にキスを見せつけようとしてるね?
甘いよふふん
僕はこの短期間に、イナにどれほど鍛えられたか…
僕が今までどれほど悶絶したか…
君、元の仕事に戻ったほうがよかったんじゃない?フヒヒ
耐えられるか?イナの無邪気な仕打ちに…
僕は二人の方に近づき、ギョンジン君の隣に座った
イナがちょっと寂しげな目で僕を見た
「テジュン、こっちに座ってよぉ」
「だめ」
「…てじゅ〜」
ふふん、僕らに挟まれてどうしていいかわからないだろうふふん
「あの…テジュンさんはいつも…その…」
「何?」
「こんな風にコイツに翻弄されてるんですか?」
「翻弄?…てのひらで遊ばせてるって言ってくれる?」
やせ我慢だ
ふん
やせ我慢してればやがて新しい世界に到達するんだ!素人め!
「やせ我慢じゃないんですか?」
「くっ…。君はイナに関してはまだまだ素人だ。君にはわからないよ。どんなに言って聞かせて解らせても、次の瞬間に魅力的な対象物が目の前にくると
そいつを捕らえるまで諦めず走っていってしまう…そんなヤツには嫉妬するだけ無駄だ!」
「じゃ全く嫉妬しないんですか?僕が今貴方の目の前でイナにすっごいキスしても」
なんだって?!
挑戦的な野郎だ!
悔しい!
どんなキスだよっ!
すんな!さわんな!僕のイナだぞ!きいっ
ああでも
…
ゾクゾクゾクっ…
いいかも…
「嫉妬…しないわけじゃないけど…別に構わないよ…むしろどんどんしてくれたまえ!」
「へっ?」
「ただし&%$%は許さない!」
「ええ〜っ…」
「何がええっだよ!キスだけでも有りがたく思えよ!」
「キスを許す恋人なんて初めて見ました!僕なら許せません」
「ふん!心が狭いな!」
「…う…」
「なにけんかしてるの?けんかすんなよ、てじゅ、せんぱいなんだからさぁ〜」
かわいいひらがな喋り…
ああもうこの男、邪魔だなぁ
イナのかわいいお顔が見えないじゃないか…あっ!この野郎ほんとにっ!
キスしやがった
うわっはむちゅうどころの濃さじゃない!
なんだよこの激しいキスは!
ごくり
イナ…
あんまり口開けるな!
顎が外れるぞ
こらっ
僕が見てるってのになんだその恍惚の表情は!
ゾクゾク
ん?
イナ…薄目あけて僕を見てるぞ
ゾクっ
ふふん…
イナ…
震える手を僕に向けて伸ばしてくるイナ
ギョンジン君は気づいてない
ふふん
僕はイナの手を少しきつく握ってやった
「…んあっ…」
ぞくぞくっ…
ギョンジン君のキスと僕の手で、イナは意識を飛ばしそうになった
ひひーんどうしよう…
これ…かなり刺激的だ…ひひん
御せぬ心 足バンさん
イナ達にギョンジンの件を任せて、テジュンさんと共に会場に戻った
席に戻ろうとするテジュンさんに声をかけた
「大丈夫ですか?」
「イナならなんとかするでしょう」
「テジュンさん、あなたのことですよ」
テジュンさんはちょっと下を向いて照れたように笑い、上目づかいで僕を見た
「どうやったら憎めるのか、わからないんですよ」
そういうとまた照れくさそうに笑って、ネクタイを締め直して席に向かった
まいったな
イナもすごい男を手に入れたものだ
でも少し心配にもなった
こんなテジュンさんが本気でイナを見限るようなことになったら
イナはどうなっちまうんだろう
そのうちにイナに釘刺さないといけないのかな
いや、釘の1本や2本でどうにかなるやつじゃないかな
自分の席に戻ろうとした時、ふと2階の一角が目に入った
下を覗き込んでいる男は明らかに僕を見ている
横にはカメラの鈍い光が見える
僕が見上げていると男は軽く手をあげた
あれが話に聞いていたリュ・ジホか
僕はホール横の階段に戻り2階へと向かった
そこには4人の男がいた
「上がってきていただいて恐縮です。リュ・ジホです」
「スヒョンさんですね!ウォニです!よろしくお願いします」
「ミンギといいます。よろしく」
そしてもうひとり帽子を目深に被った男は軽く会釈しただけだった
紹介したのはジホだった
「キム・ソヌくんです」
ソヌという男の目には、ひどく冷たい輝きと少年のような無垢な光が同居していた
この男も近いうちにBHC入りだろう
この目がまた風をおこしそうな予感がする
「ちょっと取り込んでて申し訳ない」
「僕も撮影で忙しくしています。お気遣いはいりません」
「レセプションでみんなに会っていただけるでしょう」
「あとはmayoさんたちに任せます」
「では…最後まで楽しんでください」
僕が戻ろうとすると、ジホが呼び止めた
「スヒョンさん…オーナーから話ありましたか?」
「え?」
「映画の件です」
「あ…ええ…」
「あれ、僕が一枚かんでます。よろしく」
「あなたの作品?」
「いえ、そうじゃありません」
「残念だけど、お断りしようかと思っています」
「まぁ時間はありますから、ゆっくり検討してください」
僕はなんとなく曖昧な笑顔を残してその場を出た
思考力が低下しているようであまり細かいことは考えたくなかった
階段を下りてきてまたあの場所で座り込んだ
祭が終わった後をぼんやりと考えた
仕事のこと
この祭がきっかけで大きく変わったみんなの関係
テソンたちも新しい生活にはいる
テジュンさんたちにも動きがあるだろうし
ノーマル組も忙しくなるだろう
もう店での状況も前と同じようなわけにはいかない
そして…ドンジュンのこと…
ぼぅっとしていると、中庭からミンチョルとギョンビンが戻って来るのが見えた
ギョンジンとの話がついたのか、ふたりともすっきりした顔をしている
ホールのドアを開けようとしたミンチョルの腕をギョンビンが引いた
そしていきなりミンチョルにキスをした
ミンチョルはドアに押しつけられながら激しいキスに身を任せ応えている
ああ…その表情といったら…
僕は思わず目を閉じた
そんな自分に苛ついた
こんな不器用な自分に嫌気がさした
いつになったらこの呪縛から逃れられる
ドンジュン…ごめんな…
【32♪僕の恋 byスヒョン】ロージーさん
振り子 ぴかろん
いよいよ俺の出番だ
この何日間か、(俺には無限地獄のように感じられた。まるで何ヶ月ものようにな…)俺は一人、こつこつと階段を落ち続けた
おかげでどこを通れば痛くないか、またどこから転べば何に当たるかが、目を瞑っても解るようになった
完璧だ
しかし舞台というものは魔物だと、デラルスの赤いオンナが嘆いていた
あの女は(ヘビではないのか?)ワイヤーが切れそうになったとキイキイ騒いでいた
ふん
切れたところで貴様に変わりはなかろう…
だが、そういう危険もあるのだ
だから気を抜いてはいけない
いよいよ十連続落ちをする
舞台袖で精神統一をしていると、俺の兄貴が来た
ドンジュンという
随分ナンパになったものだ
兄は何だか潤んだ目をしていて俺にぶらさがってきた
ええいうっとおしい!
精神統一中だというのになんだ!弟にケガをさせたいのか!
俺は思いっきりそう言ったのだが聞こえなかったらしい
あまりに寡黙にし続けていたので心で叫んだことを喋ったと自分で勘違いしているようだ…俺がだぞ…
兄はぶらさがったまま俺に言った
「ねえ…つらいね…恋って…」
何をとち狂っておるか!
「僕じゃないんだ…スヒョン…」
ん?兄のお相手のあの色気過剰男か?!
「ミンチョルさんの事、諦めたつもりでいるんだ…まだ消えてないのに、あの人への想いはさ…」
はあそうですか、俺にはなんの関係もありません
「僕も辛いけどさ…僕は大丈夫なんだ…でも…スヒョンは…スヒョンはさ…ぐすっ…えっ…えっえっ…」
兄貴が泣くなんて…
俺があの車の模型をぶっ壊した時でも泣かなかったのに…
「ええんええん…一度ぐらい想いを遂げさせてやりたい…でもでもっ悔しいし悲しい…でもでもっスヒョンが可哀相だし
やっぱり、一度ぐらいミンチョルさんと…思いっきり…でもっでもっでもっ…スヒョンがミンチョルさんに僕より丁寧に…したらすっごく悔しいし
でもでもっ…きっとスヒョンのことだから一回だけなら物凄く…丁寧にミンチョルさんを愛するだろうし…
その時僕どうしたらいいんだよ!ギョンビンと二人で慰めあうしかないかな?ね、ドンソク、どう思う?お前」
…答えられるわけがなかろう!
俺はぶら下がる兄の頭をペシっとはたいた
「てえっ。兄貴に向かってなんてことするんだよっ!」
兄貴とは思えない…今では俺の方が立派で頼りがいがあるだろう…
「ドンソク…階段落ち頑張れよ」
あん?
「気をつけてな。その長い髪、邪魔にならないか?階段落ち終わったら切れよな、うっとおしいから」
…兄らしい事を少しは言うな…だが髪型については黙っていてくれ
うっとおしいのはお前だ!いつまでぶらさがっているか!
えいっえいっえ…グキ
俺は兄を振り落とそうとして、首の筋を違えた…
ど…どうしてくれる…
なぜ『兄』というものは『弟』の邪魔をしたがるのか…
まったく…
セツブンショー 6 ぴかろん
凍りついた僕はその緑色に光る衣装を手に取った
もしかするとさっきの黒のスケスケ衣装よりも恥ずかしいものかもしれない
どうしよう…
「これは…ソクさん…ピーターパン…ですよね…」
スヒョクが震えながら呟いた
僕は返事ができなかった
「これは…ソクさん…ピーターパンですよねっ」
もう一度強い語調でスヒョクが言った
仕方なく僕は答えた
「そのようだ…」
「タイツ…ラメですよね」
「そのようだ…」
「すんげえ微妙な丈の上着ですよね…」
もう何も答えられない…
「なのにブーツイン…」
僕は諦めて衣装を身につける
スヒョクは黙々とそれを手伝う
タイツは後回しにして上着を着る
微妙な位置で途切れるライン
ギザギザで…隠れるだろうか…
「これでどんな踊りを?」
スヒョク…踊らせたいのか?!
僕はスヒョクを睨んだ
スヒョクは僕の視線に気づかない
ああ…いやだ…
こんなメルヘンな衣装…一体どうしろと…
「ソクさん、タイツ…」
「いやだっ!」
「はかないとパンツ丸見えです…」
「でもっ…」
「ソクさん…」
「なんだよ…」
「…立ったらまた処理しますから…」
スヒョク…こんな時にそんな冗談はよしてくれ
大体、君、さっきまで暗く落ち込んでいたじゃないか…
「…でも…なるべく処理させないでください…」
してほしくない!
それに…
こんな衣装でそんな…お前…
「おいっ!」
「はっはいっ!」
「さっきのパフォーマンスも上々だった」
「はっ…」
「こんどはな…これを借りてきたぞ」
「は?」
先生は僕がせっかく着た上着をスヒョクに言って脱がせた
そんな、何故スヒョクに?!
「着る順番があるんだ!馬鹿野郎」
なぜ僕が馬鹿呼ばわりを?!
そして先生はスヒョクに言って、先にタイツをはかせた
なぜスヒョクに言う?!
タイツなら僕が自分で履く!
僕はスヒョクからラメタイツをもぎ取り、こっそり履いた
ああいやだ
物凄くいやだ…
「履いたか」
「は…はい…」
「じゃあこれだ、おい、スヒョク、てつだえ!」
「はい…」
先生とスヒョクは、なにかしら拷問具のようなものを僕の体に装着しはじめる
「せっ先生っ。こっこれはなんですか?!」
「ハーネスだ!」
「…ハーネス?!」
「さっきの赤いヘビ女のパフォーマンスを見なかったのか?!」
「…は…いえ…見てないです」
「馬鹿野郎!ちゃんと見ておけ!あの女はワイヤーで宙吊りになり、そこでダンスを踊っていたんだ!」
「…」
「そのワイヤーをつけるための装置だ、ハーネスってのは」
「…えと…」
「なんだ!」
「宙吊りって…」
「宙吊りは宙吊りだ!」
「誰が?」
「お前がだ!」
「そんなの聞いてない…」
「馬鹿野郎!ピーターパンといえば宙吊りじゃねえか!」
「…」
「そら、このうえから上着を被せろ」
先生はスヒョクに命じ、スヒョクは上着を僕に被せた
ハーネスは…股間に食い込みそうな勢いである…
これで宙吊りになると、確実に食い込むと思う…
「ソクさん…潰れないようにしてください…」
スヒョク…そんな変な事をいうな!
「大丈夫だ!お前は飛べる!」
「飛べるって…」
「出るときから宙吊りだ!いいな、姿勢よく、かっこよく飛べ!お前は妖精なんだ!」
「妖精って…ピーターパンは妖精ではないんじゃ…ああっ!」
僕はいきなりワイヤーに引っ張られ、体を宙に持っていかれた
ううううううっぎええええっイタイイタイ痛いっ!
本当に食いこむっ!
イトコの嫁の弟の息子だっけ?のニッ○が「宙を舞うのはかなり痛い」と言っていたと聞いた事があるが
こんな理由だったのかっ!ぎえええっ
でも舞台の方に飛んでいく時、僕は自然とピーターパンが空を飛ぶポーズを取っていた…
そして満面の笑み…
僕は一体何者なんだ!
ワイヤーで宙吊りになりながら、妖精のように笑顔で豆を撒く
右へさぁあっ
左へぱぁぁっ…
スヒョク…ごめん…踊りは無理…
こうやってポーズを決めているだけでもかなりの腹筋と背筋を使うのだ…
その上豆を撒き散らし、そして笑顔だぞ!
舞台袖近くの上空を飛ぶ僕を、君は笑いを堪えながら見ているね…
酷い…笑うなんて…
でも…笑っていいよ
笑うことはいいことだよ…
さっきの幽霊みたいな君より、そうやっておかしそうに笑ってる君のほうがずっとかわいい…
スヒョク
君のために僕は飛ぶよ
もんのすごい痛さだけど
君の笑顔を見られるなら僕は…ううっ…
がっ…我慢する…けど…
気をうしないそうら…ひいいん…
◇秘め事4 妄想省家政婦mayoさん
頬を包んで見つめる甘く優しい瞳が静かに閉じた..
私もゆっくり瞳を閉じkissを迎えた...
最初に落ちたkissは甘ったるく私の唇を溶かす..
優しく吸い付き唇だけで私の唇だけを弄ぶ...
甘い疼きが心臓まで届く..
俺は甘ったるいkissをしながら痺れの残る手で
1つ外れていた闇夜のシャツのボタンをもう2つ外した..
手のひらを差し入れ首筋から鎖骨をなぞる..
片方の手がうなじに回された..
私の髪が上げられうなじに強い衝撃が来た..
耳朶を噛み...うなじから..首筋...鎖骨まで..
唇が舌が早い動きで這う..這う..這いつくばる..
首筋の動脈..頸動脈が一気に脈打つ...
どっくんどっくんと音を立て頭に響く
**なぜわかるの...
細くて長い...お前の首を見れば一発でわかる...**
俺は闇夜の柔らかい肌に印を落とさないように
首筋を一気に責めた...ビンゴ#だった..
闇夜の背中が撓り足下が崩れ俺の腕の中へ倒れ込んだ..
俺は木に寄りかって座りこみぐったりした闇夜を懐に抱いた..
ふたりの埋み火が赤々と燃え初め風が入り込む..
大きな炎(ほむら)がふたりを包む..
俺の髪に指が差し入れられた..
虚ろな闇夜の瞳が一瞬妖しく光ったのを俺は見逃した..
俺の瞼に唇と舌が落ちてきた..
瞼〜睫を舌が執拗に攻める..俺の瞼がぴくぴくし始める..
鼻筋を通り唇をなぞりはじめた..
俺は闇夜の唇を捕らえ舌を捜す..
俺は..絡め取ったつもりが絡め取られた..
弄ばれた...この俺の舌が..
舌を捕らえるたびに痺れる..
~さわさわ~とした小さな痺れが
やがて..じわっ#とした痺れになり..
~~さざ波~~の様に広がる...
俺は痺れに耐えきれず一旦唇を離し闇夜を見た...
**少しは加減しろ...
ごめんなさい...**
俺は小さく吹き出した..
闇夜の額にkissをし頬と頬をくっつける..
そっと闇夜の唇に触れる...
俺等の唇は滑らかな動きで甘いkissのリズムを奏でた..
私の耳もとで低く響く声で囁く...
わかるか?...
しびれるほどに...
やるせないほどに...
俺は..お前が好きだ...
熱い吐息が胸に染みていく...
やるせないほどの低く響くその声に...
心の身体もこわれそうになる...
ずっと夢を見ていたかった...
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆
俺は横に座った闇夜の肩を引き寄せ俺の肩に頭をのせた...
闇夜は俺の耳朶に舌でいたづらをする..
「おい..ったく...こそばゆいな..」
「ちぇみ..」
「ん...なんだ..」
「ここ...さっき...ごろごろしたんだけど...何入ってるの...」
闇夜は俺のコートの胸のポケットを指した...
俺はコートの内ポケットからそのごろごろする正体を取り出し手のひらにのせた...
「ぉ?....ぁ.....これ...」
「ん...」
それは500ウォン硬貨くらいの大きさのアマゾナイトだった..
青緑色、空色、水色、白色が混じり合って艶のある美しい石だ..
癒しの石、希望の石とも言われ悲観的な気持ちや渇いた心を癒やし、
焦りや怒りや苛立ち等の感情を調整し、穏やかな平常心に戻してくれる..
心に迷いがある人に進むべき道へと導いてくれる..そんなパワーのある石だ..
そしてアマゾナイトはちぇみの誕生日5/1の誕生日石でもある..
「...これ..お前が持ってろ..」
「ぁ、いいってば...」
「じゃ..お前のポケットのごろごろと交換だ..」
ちぇみは私のブルゾンの胸の表ポケットをつんつん指した
私はブルゾンのポケットから曲玉の石を取り出して手のひらにのせた..
私の石はエメラルドと同じ5月の誕生石の翡翠だ..
「普通のよりもやけに艶っぽいな..光沢がぬらぬらしてる..」
「そそられる感じ?」
「ぁはは...ん..」
「緑の炎が出てくるみたいでしょ..」
「そうだな...そんな感じだ..」
「翡翠は”月の精”でできてるっていう言い伝えもあるらしいよ..」
「そうか.....交換してもいいか?」
「ぅん...いいよ..」
俺と闇夜はお互いのポケットに交換した石を収めた
「闇夜...ちょっと辛かったらその石を握るといい..」
「ぅん..わかった..」
「「^_^センイル チュッカヘ...(誕生日..おめでとう...)^_^」」
俺はもう一度闇夜の頬を両手で包みこみ甘ったるくkissをした..
俺たちはそのkissに甘い夢を閉じこめた..
俺たちは立ち上がり俺は闇夜を抱き寄せ背中をトントン叩いた..
「闇夜...夢は終わりだ...」
「ぅん....」
「覚悟はいいな..」
「ぅん...」
「さて..罪人様のお出ましだな..」
「ふっ...ぅん...」
闇夜の肩を回して背中を押した
「先に行け...」
「ぅぅん...先に行って...」
「...わかった...」
ちぇみの大きな背中を見送った...
我慢していた涙が溢れた..
後ろ手に手を振ったちぇみがぼやけて見えた..
私は涙が乾く様に顔に風を浴びる...
風が髪を揺らし頬にぶつかってきた...
風に何度もビンタをされているようだった...
凄い男 ぴかろん
俺の唇を弄ぶ男と、俺の指を弄ぶ男
俺は脳天が痺れている
今まで感じた事のない衝撃が俺の頭を揺さぶっている
俺、一体何やってんだ?
こんな事…許されるはずないじゃんか…
薄く目を開けて、指を絡めるその腕の先を見た
俺を真っ直ぐに見つめる静かに燃える瞳
その瞳の持ち主を、俺は愛してるんじゃないのか?
ぼんやりとした視界の中に、さらにぼんやりと、俺の舌を攻め続ける男がいる
俺に夢中?
ほんとに?
なんで俺なんかに?
その舌の攻撃に、俺の舌は応えている
応えるたびに指先が強く締め付けられる
俺、何してるんだろう…
こんな事…許されないよな…
不意に涙が流れる
わけがわからない
望んでいるのに、強い否定の気持ちが湧いてくる
唇を離そうとしても、離してはくれない
指を抜き取ろうとしても、余計に絡みつく
二つの心の間を、自分勝手に行き来してた俺は
身動きできないほど苦しくて悲しい
俺が仕掛けたんだ…
どうしよう…
涙が筋になって流れ出す
と、指がするりと自由になった…
俺の指を放したその手は、俺の唇を求め続ける男の肩にかかり、俺からその体を引き剥がした
「…なん…ですか…」
「嫌がってるだろ」
「…え…」
「イナが嫌がってる、わかんないの?」
「…」
四つの目が俺を見つめている
唇の主の目は、戸惑いと疑いの色を帯びていて
指の主の目は、蒼白い炎を燃やしている
俺は唇を押さえて目を逸らした
「嫌がってる?」
「君はイナに関してはまだまだ素人だって事」
「…どういう事ですか?…妬けて邪魔しただけなんじゃないんですか?!」
挑むような目つきで、ギョンジン君は僕につっかかる
僕はペシンと彼の頭を叩いて、彼の耳に囁いた
「ああ見えても実は真面目で繊細なんだよイナは」
「…」
「僕の前でそういう濃いキスはしたくないって事、あいつは」
「…」
「僕はもう平気なんだけどね…あいつが動揺してんだよ…」
「…わかるんですか?」
「まあね」
ギョンジン君はイナの方を向いて、イナの額に自分の額をそっとつけ、俯いたイナの顔を額で押し上げる
くそう…いいテクニックだな…今度やってみよう…
そして聞いた
「…イナ?」
「…」
「…イヤだったの?」
イナはもうぐしゃぐしゃの泣き顔になっていた
そしてコクンと頷いた
ゾクゾクゾク…かわいいっ!
ああ、抱きしめたい!
目の前の男が邪魔だっ!
「突然濃いのしたからか?」
イナは首を横に振る
違うって…
僕がすぐそばにいたからだよ、ば〜か
イナが愛してるのは、ぼ・く
けど…イナは君の事も…
「…テジュンさん…どうしてイナは…」
「だから君はまだまだ、イナに関しては素人なんだってば」
眉を少し上げてテジュンさんは余裕のある微笑みを浮かべた
僕の後ろで震えながら唇を押さえているイナ
頭の中がぐるぐる回る
どういう事だ?
「つまり…僕には貴方とのキスを見せ付けても平気で…貴方には僕とのキスを見せたくないと?」
「…そういう事じゃないと思う…」
「じゃ、どういう事なんですか?!」
「言葉にはできないなぁ、僕、こんなイナ見るの、実は初めてだからさ…」
「…じゃあどうして…見てるだけで嫌がってるってわかるんですか?」
「見てるからわかるんだよ…」
「…」
わからない…
「イナの心にね、罪の意識が芽生えたみたいな感じ…」
「罪の…意識?」
「…二人にこんな事されてていいのかって感じかな?」
…イナの心を読めるの?
なに…
自慢?
「…僕にどうしろっていうんですか…」
「…どうしろって…」
「僕は一体何なんですか!僕はイナに弄ばれてるだけなの?」
「…違うよ…」
「じゃあ何なんですか!」
「…悔しいけどさ…」
「…」
「君の事も真剣に考え始めてるってことかもね…わかんないけど…」
「…」
穏やかじゃないな
少しばかりざわつく…
いつものイナならうまく切り替えできたはずだ…
ちょっと刺激が強すぎたかな?
僕にとってもかなりの刺激だったもの
僕はため息を一つついて立ち上がった
「どこ行くんですか!」
ギョンジン君が鋭く言った
「仕事」
「置いていくんですか?!僕達を」
「…『僕達を』ね…二人にしてあげる。慰めてやってよ…」
「慰めてって…わけがわかんないのにっ」
「イナと付き合うつもりなら、いろんな覚悟がいるよ」
「…」
それは僕自身にも言える言葉だ
これからもずっとイナは、変わる事無く自由に飛び続けるはずだから…
それでなくちゃイナじゃないし…
そういうイナを受け止められないなら、早めに降りたほうがいいんだ
どうする?ギョンジン君…
テジュンが俺の後ろを通り過ぎようとした
俺は思わずテジュンの腕を掴んだ
テジュンの瞳にはまだ蒼白い炎が灯ってる
叱ってよ…
俺、こんな酷い事してるんだぜ?
でもテジュンはフッと笑って、そして俺の髪を無造作に掴んだ
そして顔を近づけてこう言った
「僕だって覚悟してるんだ。やるんならとことんやれば?」
蒼白い炎の中に、一瞬火花が散った
怖かった
テジュンがこのまま離れていくんじゃないかと思って
「いやだ!」
「…」
「やだ…ごめんなさい…テジュンごめんなさい…」
「なにが?なに謝ってるの?」
「怒ってる?目の前でキスしたこと怒ってる?」
「怒ってないよ」
「うそだ!」
「うそじゃない。お前がギョンジン君を連れてきたんだろ?僕は大歓迎するよ」
「…怒ってるくせに…」
「どうして?怒ってないよ。怒ったって仕方ないもん」
「…」
「…お前には怒るだけ無駄だ」
「テジュ…」
「…いいよ、いくらでも僕の目の前でギョンジン君とキスすればいいさ。僕は平気だ。ううん、むしろ愉しみだよ」
「テジュ…うそだ…」
「ほんと」
ほんとだった
ほんとだからそう言っただけだった
でもイナは怯えた目をしていた
あれ?
ちょっと…誤算?
僕はもう、ギョンジン君に関しては、嫉妬なんかしない
いや、しないというより、嫉妬の先にある得体のしれない悦びに心を奪われつつあるのかもしれない…
これって…ヤバいかな…
イナの髪を掴んだまま、僕は怯えた顔のイナに素早くキスをする
ギョンジン君のねっとりとしたキスより短く、でも確実にイナの弱点を捉えるキスを…
イナの吐息が漏れたと同時に唇を乱暴に離し、掴んでいた髪も離す
そしてイナ達に背を向けて、仕事に戻る
…ちょっとかっくいい?
僕のキスを凝視していたギョンジン君
ふふ…
ゾクゾクする…
悩め悩め!
唇と髪を突き放されたイナは、涙を浮かべた目で僕を追っている
かわいいイナ
ふふ…泣け!寂しいだろう、泣け!
我慢した後はご褒美が欲しくなるんだ、僕…
「ちったぁ反省しろよ!浮気者」
イナの方を振り向いて、イナが欲しがっている怒りの言葉を投げつけて、この回はおしまい
後は未熟な二人に始末させよう
うふ
うふふ
えむのあとのえすって
堪えられないんだよなぁうふふ
受け止めてくれよな?せっかく素敵な『三人組』になっちゃったんだからさっ
前向きな僕は、鼻歌を歌いながらオ支配人のところへ向かった
【33♪プレイバックpart3 by Ina&Tejyun(デュエット)】ロージーさん
素人の悩み ぴかろん
イナはテジュンさんの姿を追って震えている
イナに関しては素人な僕
確かに素人な僕
イナが僕をBHCに誘った
この誘いに本当に乗ってもいいのか?
この先ずーっと、このわけのわからない状態で突き進んでいかなくてはならないのか?
テジュンさんはなんであんなに悠然としてるの?
愛されてるって自信があるからか?
じゃあ僕はどうすればいいんだろう…
イナと一緒にいると穏やかな気持ちになれると思ったのに…
「…イナ…」
僕はそっとイナを呼んでみた
「…うん?」
振り向きもせずに生返事する
「こっち向けよ」
思わず肩を掴む
振り向いたイナの目に涙が溜まってる
「…ごめん…」
「…ふえ?…」
「テジュンさんに対抗意識燃やしちゃった…ごめん…」
「…ふぁ…」
イナは腑抜けている
僕をしつこく責め続け、説得し続けたあのイナじゃない
恋する瞳を揺らめかせ、ぼんやりと口を開けている
僕など必要ないのではないか…
ふいにきゅうんと胸が痛くなって、僕はイナの頬を撫でた
「…なに…」
ぼんやりと呟くイナ
「…僕はほんとうに、BHCに行ってもいいの?」
「…ああ…」
「…なんのために行くの?」
「…え…」
「僕はお前に誘われたよね?」
「…ああ…」
「お前は僕が必要?」
「…」
「必要ないんじゃないの?!」
答えないイナに少し苛立って、語気を荒くしてしまった
イナの目から涙が零れ落ちる
なんで泣く?
なにを泣く?
わからない…
お前が何を考えているのか…
僕は困惑してその涙を拭った
僕の方が泣きたいよ
なんだよこのぐちゃぐちゃの状況は…
「ギョンジン…」
「ん?」
「…」
「なんだよ」
「…ギョンジンのこと…好きだ…」
「…」
「でも…テジュンのことは…たまらなく好きなんだ俺…」
ずきん…
「なんであいつ、あんなすごいんだろ…」
すごい…
「なんであいつ、俺のこと全部受け止めてくれるんだろ」
…
「なんで怒らないんだろ…なんで…お前にも優しいんだろ…」
ああ…
テジュンさんは…
「凄い人だね…」
ほんとに、凄い人だね…
「僕は…お前の何番目の男?」
「…へ…」
「…僕は一緒に行ってもいいの?ほんとうにいいの?」
「…どう思う?」
「…僕は…」
お前のそばにいたい…
その言葉を呑み込んだ
テジュンさんがいる限り僕の想いは報われないじゃないか…
「俺は…来て欲しいよ…」
「…酷いやつだよな、お前って」
「…」
「僕は決して一番にはなれないじゃないか…テジュンさんがいる限りさ…」
「…」
「…でも…」
お前のそばにいたい…
「さっきな」
「うん」
「お前にキスされてるときな」
「うん」
「テジュンが物凄い目で俺達を見てた」
「…うん…」
「ああ嫉妬してるんだなって、俺、ちょっといい気になってた」
「…ん…」
「こんな目の前で意地悪だな俺達って…俺、テジュンに手を伸ばしたんだ」
「…」
「お前に見えないように…テジュンと手を繋ごうと思って…」
「…」
「テジュン、俺の手を強く掴んだんだ」
「…ん…」
「俺…なんか…切り裂かれたみたいだった…」
「…」
「テジュンの気持ちも考えずにお前とキスしてる俺って何だろうって…。すっごくテジュンに申し訳なくなって…」
「…うん…」
「けど、信じられないぐらい感じたんだ…俺…」
「…」
「いんらんだからかな…」
「…そんなことないよ…」
「お前が嫌なんじゃないんだ…こんな事してる俺が嫌なんだ…」
「…」
「なのにテジュンは怒らないだろ?」
「…うん…」
「どういうつもりなのかわかんない…。また愛想つかされるのかなって思っちゃう…」
「…だったら…テジュンさんのとこに行けばいい。じっとしてればいいじゃんか…」
「ギョンジン…どうしたらいい?俺どうしたらいいの?」
「…そんなこと僕に聞くなよ…」
「ギョンジンは?ギョンジンはどうしたい?」
「…お前と一緒にいたい…」
「俺もお前と一緒にいたい…」
「…テジュンさんとも一緒にいたいんだろ?」
「…ん…」
「…なるほど、欲張り…」
「だめだよな、やっぱり…」
「…ダメじゃないよ…きっと…」
「…」
「僕、自信ないけど…お前たちと一緒にいたい。お前のNo,2でも構わないから…お前と…テジュンさんと…一緒に過ごしたい…変かな…」
「…お前…」
「変?」
「お前No,2じゃないぞ」
「…え…」
「No,2は永久欠番でソクだ」
「…」
未熟なものどもが考えまくっている
フフン
ば〜か
「イナ、ギョンジン君…あのね、僕はね、みんなで仲良くすればいいと思うよ」
へへふふふふふへへへ
「…テジュンさん…」
「ギョンジン君、僕、君の事好きだよ、あ、勘違いしないでね、友達としてだから」
「…」
「イナ。さっきのことならそんなに思いつめなくていいよ」
「ふえ?」
「お前が思いつめるとろくなことない」
「…」
「お前はフラフラしてればいいんだ」
「…テジュン…」
「それがお前の長所であり短所でもあるわけだからさ」
「…」
「だから、ぐちゃぐちゃ考えてないで、とりあえず前にすすもうぜ」
「テジュンさん…」
「…テジュン…」
僕を尊敬のまなざしで見つめる二人
ふふん
罠にかかったなふふん
さあ、いこう、新しい世界へ…『三人で!』フフン
◇秘め事のひとりごと 妄想省家政婦mayoさん
俺は闇夜の言葉に従って先に秘密の場所を後にした
俺に泣き顔を見せたくないのだろう..
わかるか?
俺も今にも泣きそうだ..
俺も見られたくないからな
振り返ることなくお前に手を振った…
お前ならわかる筈..俺のやるせなさが..
お前の滑らかな肌の感触が俺の手のひらに残っている
柔らかい身体の撓りは思った通りだ..
俺の動きに最後まで添い..ついて来れる撓りに違いない…
お前がくれた痺れがまだ俺の舌に残っている…
お前が安らぎとも違う熱い想いが欲しいとき…
罪を抱えるのが辛くなったとき…
いつでも俺の処に来い…
甘ったるいkissをしてやる…
闇夜..次のkissは俺も負けんぞ…
お前がよこす痺れを止めてやる…ぐはは…待ってろ…
すけべぇーな俺の妄想は建物のドアに手をかけるまで続いた…
俺はドアの前で埋み火に分厚い分厚いをかけた
ドアを開け罪人様の俺はカリスマの顔に戻った…
すぐにホールに戻る気になれなかった…
中庭のいつものベンチに座り胸のポケットの石を取り出した
いつもは柑橘系なのに
今日はかすかなイランイランの香りが私の鼻腔をくすぐった
官能を呼ぶ香りだ…
ったく…すけべぇーめっ…
石に向かって悪態をつきながらも胸はキュン#とする
ちょっとの時間だけ..
俺だけのオンナになれ..いいな…
思い出した言葉に胸がキュンキュン##となる
首筋に落ちたkissが蘇る…胸が疼く…
ちょいとすけべぇーな闇夜がここにいる…
手のひらのアマゾナイトの石を見た
辛くても一人で逃げようとするな
最後まで隠し通さなきゃならんぞ
お前ならできるな…
石をぎゅっ#と握り..埋み火に分厚い灰をかけた…
ポケットに石をしまい込んだとき
遠くにテソンの姿が見えた
罪人様の私はいつもの闇夜の顔に戻った…
すごいんですぅ ぴかろん
テジュンが凄い男だって事は前々からなんとなく解ってたけど…
ギョンジンも含めた俺を丸ごと受け止めてくれるなんて…
「しゅごい…」
思わず赤ちゃん喋りでテジュンの後姿に向かって呟いてしまった…
ギョンジンが聞き逃すはずがない
ギョンジンは俺をまた背中からから抱きしめる
だから…ここ…よく考えたら客席だぞ…くすぐったいし…それに俺…もうテジュンの前でお前とこういう事したくないモン…あ…
ギョンジンの息が耳にかかる
「外いこう…」
はへん…おしょと?おしょとならてじゅんにみちゅかんない?
「ン…でも…見られてる方がいいか?」
はへん…
あっ!いかんっ!また俺はっ!
俺はボタンにかかった奴の手を捻って止めた
「痛っ…何だよっ!」
「ばかっ!今さっき反省したばっかりなのにっもうっ!」
「…だってテジュンさん何か僕達に『もっとやっていい』って言ってるみたいだったもん」
「んなことないっ!テジュンはあれですっごく悩んじゃうタイプなんだからなっ!無理してんだからなっ!」
「…そおかなぁ…」
不満そうに言いながら、ギョンジンは俺の胸に手を滑り込ませる
はへん
「ばかっ!お前手が早すぎるっ!」
「あ、ごめん、つい癖で…」
どんな癖だよ
どーいう癖だよっ!もうっ
俺の体に伸びてくるギョンジンの手をペシペシ叩いていると、目の前をキツネとギョンビンが通りかかった
「おいっミンチョル」
つい声をかけてしまった
振り返ったミンチョルの目はウルウルしている
「ふえ?なぁに?」
心なしか赤ちゃん喋りっぽい…
こいつら…もしかして…この短時間に…
「えと…」
俺は聞きたい事の洪水に飲まれて、何も言えない
するとギョンジンがギョンビンに言った
「お前…上手くなったみたいだな…」
ギョンビンはギョンジンを睨みつけて答えた
「兄さん程じゃないよ」
それを聞いてますますミンチョルに聞きたくなった
でも…
「おいっミンチョル!ちょっとお茶飲みに行こう」
「そんなひまない」
「何いってんの、舞台の最終確認しよう!俺と二人で!なっなっ!あ、ギョンビン、ここでギョンジンと座ってて」
「ふぁ…」
ぽーっとしているミンチョルの腕を引っ張って、俺はケンケンしながらロビーに行った
「なにさ…」
「んとさ…」
「ふぁぃ」
「…えと…どっちが攻め?」
「ふぇ?」
「…あっち?」
「…ふん…」
「で、どんな感じなの?」
「かんじ…すごかった…」
ごくり…
どう凄いんだ…
今日はよく『凄い』という言葉を使うな、俺…
「何がどう凄いのさ、ギョンビンって、受けるときも凄いんだろ?」
言ってて恥ずかしくなる
「ん…そのときはね…なんかもう…すいこまれそうで…」
聞いてても恥ずかしくなる
いつもなら絶対こんな事喋らないのに
頬が上気してるし、ついさっき終わりましたの顔だよな…まじまじ…
へへ…やらしい顔…まじまじ
こんなにまじまじ見てるのに、こいつ、夢見心地って感じだよ…
そんなに…凄いのか?!
「じゃ、さっきのはどうだったの?」
「ん…あ…の…もう…あらしのような、ごくらくのような…いなずまがひかっててはながさいてるような…
そんでびりびりしびれてここちよくて…」
ああ、完全にイカレてるわ…
「つまりめちゃくちゃよかったってことか」
「…すぱーくりんぐなんだ…」
ひらがな喋りだし、意味不明だし…
「ふううん…」
ん…ギョンビンのやつ、さっき気になること言ってたぞ…
『にいさんほどじゃないよ』
兄さんほどじゃない…という事は、『兄さんはもっと凄い』という事か?!
それは…攻めの時だな…
じゃ…じゃ…。関係ない…。関係ないよな…
んでも…
「おまえぼたんここ、はずれてるよ」
ミンチョルがゆっくりと、不器用そうな指を伸ばしてきた
いや、ボタンに関してはミンチョルは器用だったんだ…
その指は俺のシャツの中ほどで外れているボタンを優雅にとめた
さっきのギョンジンの手の感触が甦る
「へへん…」
ミンチョルがギロリと俺を睨む
あ…現実に引き戻しちゃったみたい
「変な声だしゅなっ!ぶぁか!」
んや、まだちっと、現実に着地できてないな…
俺達はまじまじと見詰め合って、くすくす笑いあった
「ミンチョルさんとうまく行ってよかったな」
「…兄さんからそんな言葉聞くと、調子狂うな」
「…なぁ…」
「ん?」
「お前、抱かれる方じゃなかったの?僕はてっきりそうだと思ってたんだけど」
「…」
「今のミンチョルさんみたら…お前の方が凛々しく見えたからさ」
「ふふ」
「意外だった」
「僕達はね…決めてないんだよ兄さん」
「何を?」
「…そのうち解るよ」
「何だよ!教えろよ」
「…兄さん、案外受ける方かもね…」
「…え?…」
「イナさんと…そうなりたいなら、手っ取り早いのは…受ける事かもよ」
ギョンビンはいたずらっぽく笑った
受ける?受けるって何?
◇秘め事の代償 妄想省家政婦mayoさん
俺がホールの戻ってまもなくテスが俺の懐に戻ってきた
いつもの様にテスの頭をくしゃ#っとする
「終わったのか」
「ぅん...一服してたの?」
「ぉ..ぉぉん..ごめん..見てなくて…」
「いいのいいの..僕の出番ないから..えへっ#」
テスはちょっと背伸びをして俺の頭をナデナデした..
ジュンホと話をしていたテソンが俺のそばに来た
「闇夜..見た?」
「どうした..戻ってないのか..」(戻ってないのは確かだな..ウソはついとらん^^;)
「ぅん..↑のジホのところに行って部屋に戻ってから見てないんだ..」
「そうか..」
「テソンさん、きっとあそこだよ」
「何処?テス..」
「いつものところだって..ね、ちぇみぃ〜..」
「ぉ、ぉ、そうだな..」(闇夜はあの後きっとあそこにいるはず..)
「何処?ちぇみ」
「ん..テソン、中庭のベンチだろう..」(おぃ〜!闇夜ぉ〜そこにいろよぉ〜!)
「そっか...ちょっと見てくる..」
テソンはホールを出て行った
俺の背中にすぅぅーと冷や汗が流れた..
いかんいかん…俺がしっかりしないとな..闇夜..
僕は中庭の闇夜のお気に入りのベンチへ歩いていた
闇夜の後ろ姿がみえた..
僕の姿を見つけるとベンチを立って僕の方へ歩いてきた..
僕のそばにきた闇夜の顔を見ると血の気がなく妙に白かった..
「調子悪いの?」
「…大丈夫..」
「今日、朝薬湯飲むの忘れちゃっからかな..」
「…朝強烈なもの見ちゃったからね..モニターで..」
「ぷっ..ぅん..ごめん..僕も忘れちゃって..」
「大丈夫..」
「見えないから心配した..」
「ごめんね..」
「ぅん..」
アヒルの口になったテソンの頬に手のひらをおいた..
テソンはその手を取って降ろすと指の間に指を絡ませた
テソンと闇夜がホールに戻ってきた
俺とテスの隣ですれ違う時…
闇夜の手がすぅぅと伸びてきた..
俺はその手をぎゅっ##と握った..
握った手はすぐ離れた……
離れた俺の手のひらに~~さわさわ~~と痺れが広がった..
俺はその手をズボンのポケットに入れた...痺れはまだ続いていた…
妖しい時間 ぴかろん
ミンチョルと別れて、俺はギョンジンの隣に戻ろうかどうしようか迷った
すうっと目の前をテスと蜘蛛とテソンと闇夜の、仲良し不気味隊
(こう呼んでいるのを知られたら、俺は殺される…)がすれ違うのを見た
そして俺は見てしまった
闇夜の手と、蜘蛛の手が一瞬絡みつくのを…
俺は生唾を飲み込んだ
さっきのギョンジンのキスの時、テジュンが指を絡ませた、あの感覚を思い出す
あいつら…
俺と一緒…
二組の不気味隊がすれ違ってから暫くして、俺はギョンジンの後ろに立ち、ギョンジンを見下ろした
「ん?イナ、お帰り」
俺はギョンジンをじっと見つめた後、テジュンの方に向かった
「イナ?」
ギョンジンの視線を背中に感じる
オ支配人と並んでいるテジュンの肩を掴み、俺の方を向かせる
「何だ?どうしたの?」
俺は、今さっき見たばかりの、あの白い小さな手と、黒い大きな手の、一瞬の炎を思い出した
背中に突き刺さるギョンジンの視線
俺を見るテジュンの瞳
俺はテジュンの唇に吸い付いた
馬鹿な俺…
どうしようもない俺…
テジュンは面食らっている
ギョンジンが緊張しているのが解る
テジュンが欲しかった
今すぐ欲しかった
ミンチョルの様子を見て羨ましくなった
蜘蛛と闇夜を見て妖しい気持ちになった
ギョンジンの姿を見て狂わせたくなった
馬鹿な俺…
どうしようもない俺…
我慢のきかない俺…
テジュンはゆっくりと唇を緩め、唇の上で呟いた
「いんらん…」
はぁ…
欲しい…
テジュンが欲しい…
俺は切なくなってまたテジュンの唇を求める
「だめ…ここをどこだと思ってんの…」
俺の好きな唇の上での会話
俺の好きな男
背中、俺の好きなもう一人の男の視線を感じながら俺は一人でどんどん淫らになっていく
はぁ…
テジュン…
どうしよう…
「ギョンジンにやってもらえよ」
俺は驚いてテジュンを見た
醒めた目で俺を見るテジュン
俺の火をあっという間に消してしまうテジュン
「…ごめん…仕事中だね…」
胸の奥がきゅうんと痛み、俺は小さくテジュンから飛びのいた
背中にギョンジンの視線を感じたまま、俺はまた、ホールから出た
テジュンが追ってきてくれると思ってた
壁に寄りかかって俺のどうしようもない淫らな心を、俺は戒め、そして甘やかした
また涙が出てきた
今日は何回泣いただろう
俺は甘えている
テジュンに甘えている
ギョンジンに甘えている
こんなんじゃだめだ
背中から抱きしめられた
ギョンジンだと解っていた
テジュンは来てくれなかったんだ
それともギョンジンに来させたの?
「何で泣いてるの?」
何も答えたくなかった
「散歩するか?気分転換」
ちょっと前にお前そう言って俺を屋上に連れてったよな…
そんでお前、消えようとしたんだよな
「怖い?」
「…何が?」
「僕と散歩するの…怖いか?」
俺は首を横に振った
「お前が消えなけりゃ怖くないよ…」
俺の肩越しに口付けするギョンジン
テジュンにしてほしかったのに…
ごめんギョンジン
俺、今、テジュンが欲しい…
「行こう…」
ギョンジンは俺をおぶって外に向かった
背中で泣いている俺の事、酷いやつだと思ってるんだろ?
できること 足バンさん
僕は首をひん曲げたまま舞台にでていくドンソクを見守った
なにがあってもやり抜くやつだもんね
袖から見るドンソクの階段落ちに僕は知らずに涙を流していた
走るライトが夢のように僕の気持をかき乱す
命をかけてふたりシベリアを駆け抜けたあの日々を思い出す
そうだ…僕はいつも前を向いて走ってきたんだ…
袖から会場を見渡す
テジュンさんやイナやギョンビンの兄貴まで戻ってきたのに
スヒョンの姿が見えない
僕はスタッフが行き交う裏を通り幕の後ろや通路やあの階段を捜した
そして控え室を覗いて…見つけた
スヒョンは隅の黒い皮のソファで眠っていた
身体を伸ばし顔に片腕を乗せてもう片方の腕はだらりと垂れている
僕はソファの端に少し腰掛けた
疲れたよね
大変だったもんね…
でも安心して…みんな今は笑ってるよ…
スヒョンだけだよ…笑ってないの…
僕はそっとスヒョンのお腹のあたりに頬をつけてみた
目を閉じるとゆっくりとスヒョンが入ってくる
スヒョンは夢をみていた
ゆらゆらと揺れる水の中から空を見ているような…透明な…
僕はそこでスヒョンから身体を離した
それ以上は感じたくなかった
もしその先にミンチョルさんのシルエットを見てしまったら
やはり辛いのはわかっていたから
スヒョンに自分のジャケットをかけて立ち上がった
そしてそっとドアを抜け、ミンチョルさんを捜した
廊下を通り抜けると
ミンチョルさんはドアから会場に入ろうとするところだった
今までいたらしいイナさんと入れ違いにギョンビンが出てきた
そのまま手をつないだふたりは近づく僕を見た
ギョンビンは少し照れたように僕に笑いかけた
ミンチョルさんは今日僕がつっかかったせいか真面目な顔だ
「よかったですね、ふたりとも」
そう言ったのは本心だった
僕は微笑んでいるギョンビンの顔がとても嬉しかった
「あの…さっきはぶったりして済みませんでした」
「え?ミンチョルさんドンジュンさんにぶたれたの?」
ギョンビンはおかしそうにミンチョルさんを見た
ミンチョルさんは急に愛想をくずした
「ドンジュン…おまえももうやめるなんて言わないだろう?」
「うん…でも…」
「まだ問題があるのか?」
僕はごくりと唾を呑み込んで真っすぐ顔をあげて言った
「スヒョンのことなんだけど」
「なにか?」
「スヒョン、今回はすごくミンチョルさんたちのこと心配してたでしょ」
「ミンにもずいぶん優しくしたようだが」
違う!そう言おうとした時、ギョンビンが先に声を出した
「ミンチョルさん違うんです。あれは僕たちのことどうにかきっかけを作ろうとして」
「ふふ…わかってるよ…かなりショッキングで効果的だった」
僕はもう一気に言うしかなかった
「スヒョンはミンチョルさんのこと好きなんです。忘れられないんです」
「ドンジュン…」
「ギョンビンごめん…でも言わせてもらうから」
「…」
「スヒョンはおまえに惚れてるんだよ」
「でもだめなんです」
「ドンジュン…」
「僕じゃだめなんだ…わかるんです…」
僕は絶対泣かないでこの話をしたかった
目も泳がせたくなかった
何度も唾を呑み込んでその衝動を抑えた
「祭が終わるまでに…一度ゆっくりスヒョンと時間を作ってください」
「ドンジュン…」
「お願いします…スヒョンの気持を聞いてあげてください」
「スヒョンがそんなことを望んでいるのか?」
「わからないけど、そういう機会が必要なんです」
「ドンジュン…」
「スヒョンって自分のことは一番後回しになっちゃうから…」
僕は横で黙っているギョンビンの腕を掴んで目を見た
「ギョンビンごめん。こんな話めちゃくちゃだと思うけど…頼む」
ギョンビンは優しい目で僕を見て僕の頭をくしゃっとした
そしてミンチョルさんを振り返り目で何かを語りかけた
ミンチョルさんは左手でそっと僕の頬に触れた
僕が小さく震えているのを知られたくなくって、半歩さがってその手から逃れた
「いいよ…時間をつくろう…おまえのために」
僕はにっこり笑ってお辞儀をした
もう限界だった
手洗いに行ってから会場に戻ると言ってふたりから離れた
トイレに入って誰もいないのを確認して僕は壁にもたれて泣いた
涙がどんどん流れてきて止まらなかった
自分の嗚咽が小さな空間にこだました
その声が「おまえってばかじゃないの」って言ってるみたいだ
こんなストレートなことしかできない自分が恨めしかった
でもまわりくどいことなんてできない
自分の気持に嘘ついて幸せそうにすることなんてできない
そんなに泣くと身体がひからびるぞ
いつだったかスヒョンに言われた言葉を思い出して
涙が止まらなかった
スヒョン…大好きだよ…スヒョン…
【34♪天使のララバイ】ロージーさん
妖しい時間 2 ぴかろん
ギョンジンは暫く歩くと、テニスコートの近くのベンチに俺を座らせた
そして横に座るとまた俺の唇を優しく塞いだ
顔を背けようとしたけど、ギョンジンの唇は素早かった
「お前が欲しがってるのはテジュンさんだって解ってるけど…」
そう言うとギョンジンは俺のベルトに手をかけた
ギョンジンの腕を握って、俺は抵抗した
でもギョンジンは俺の両腕を左手で押さえ、シャツの裾から俺の体を弄り始めた
テジュン…テジュン…助けて…テジュン…
俺がどうなってもいいのか…
「僕におぶさったのはお前だ」
ギョンジンが冷たい目でそう言った
そうだ
俺だ
俺がお前の背中に乗ってついてきたんだ
こうなる事が解ってたのに…
俺の首筋にギョンジンの唇が這う
裾からめくり上げられたシャツの下でギョンジンの指が蠢く
はぁ…はぁ…はぁ…
ギョンジンの唇が俺の体を吸う
きつく吸う
テジュンとは違う唇がテジュンとは違うやり方で、俺の体を這っている
あ…あ…
ごめんテジュン…こんな…
ごめんギョンジン…俺…
ギョンジンは俺のズボンを器用にずらす
嫌だ…嫌だギョンジン
俺は抵抗した
ギョンジンは辞めない
「だめだ!俺、ギョンジン、だめだ!」
「どうして?こんなに感じてるくせに」
「ギョンジンに感じてるんじゃない!俺、テジュンに…」
抵抗する俺の口を深く塞いで吸った後、ギョンジンは耳元で囁いた
「テジュンさんに行けって言われたんだ…」
頭が真っ白になった
うそだ
テジュンがそんな事
うそだ
「本とだよ…嘘だと思うなら電話してみなよ…」
ギョンジンの目が血走っている
俺は電話を探し出し、テジュンにかけた
コールする間も、ギョンジンの愛撫はやまない
「イナか?」
「テジュ…ン…お前…ギョンジンに…あっ…」
「…」
「あ…テジュン…助けて…」
「…好きなようにしろと言った、ギョンジンに…」
「テジュン!うそ」
「…嘘じゃない」
「…テ…」
後ろから電話をもぎ取るギョンジン
俺の体を弄りながらテジュンに告げる
「いいんですか…もう止まりませんよ…イナを…抱きますよ」
嫌だ!嫌だテジュン嫌だ!助けて…
ギョンジンは電話を切るとまた俺を後ろから抱きしめた
背中に唇を這わせ、両手が俺の体を弄ぶ
ああ…
こんな気持ちでギョンジンに抱かれるのは嫌だ…
ギョンジンの執拗な愛撫に俺はもう抵抗できなかった
俺なんか壊れてしまえ
力を抜いて俺は目を固く閉じた
俺の唇に優しく触れる温かい唇
俺は震えた
涙がまた噴き出した
俺の唇を包むその人の首に
俺は腕を巻きつけて
自分から深く口付けた
ギョンジンの手と唇が止まり
俺からすうっと離れた
薄く目を開けて見ると
目の前にテジュンの顔があった
ギョンジンはテジュンの方に来て、テジュンとパンッと手を合わせ、薄目を開けている俺にウインクした
俺は唇をずらしてテジュンに聞いた
「どういうこと?」
「…んふ…」
数m先を歩いていたギョンジンが振り返って叫んだ
「僕にはまだまだ早いって事!」
ギョンジンはにっこり微笑んでホテルに帰っていった
テジュン…酷いな…俺怖かったんだぞ…
イナ…頼むからホールでヤりたそうな顔すんの、やめてくれ…
僕だって我慢できなくなる
だって俺…テジュンが好きなんだもん…
テジュンが欲しかったんだもん…
ギョンジンにヤられるかと思ったじゃんか!
フン
本とはやりたかったんじゃないの?
ばか!ばかばか!
俺はその後、ミンチョルが言っていたすぱーくりんぐな世界をテジュンと二人で漂った
虐め ぴかろん
ふん…
あのままやっちゃえばよかった…
僕は少し膨れっ面をしながら…でも本とは安堵のため息をつきながら、ホールの方に向かった
イナが出て行った後、テジュンさんは僕の方に走ってきて、イナを頼むと言ったんだ
僕は、いいんですかイナを抱いても…と挑んでみた
だめだ!絶対だめ!
テジュンさんは、毅然として僕にそう言った
僕は負けずに言い返した
貴方がだめだと言っても、僕は止まりません
僕だってイナが好きだ!イナを抱きたい!
テジュンさんは僕のおでこにデコピンを一発食らわすと
百年早いんだよ!
と言った
そして
イナが誰を望んでいるか、よく考えろ!
今は僕だ。僕を望んでいるんだ。わかるか?
望んでいないものを与えられたってイナは幸せにはなれないだろ?
…だったら貴方が行けばいいじゃないか!どうして僕が…
くふん…だってさ…
何ですか…
君とキスしてるイナって…たまんないんだもんっ
デコピンのお返しをしておけばよかった…
そんな事のために僕がBHCに来てもいいとか大歓迎とか言ってたんですか?
それもある。いや、それがほとんどだ!
でも…イナは君の事も好きなんだ…
だから…もしかしたらいずれ君を求めるようになるかもしれない…
その時が来たら…抱けばいい…
…本気で言ってるんですか?
イナが求めるなら…それを僕は止められない
でも今は君じゃなくて僕を求めてる
無理に抱いたらイナだけじゃなくて、君も傷つくことになる
…
言っとくけど、『もしかしたら、万が一』だからな!
まいった…僕はテジュンさんがいる限り、やっぱりNo.2(3?)にしかなれないみたいだ…
がっかりした
でもテジュンさんが『キスはどんどんやっていい』と言ったので、キス+αを狙ってイナの所へ行ったのだった
+αはやったけど、後味悪いんだよな…
僕はちょっと中庭に出てみようと思った
今なら誰もいないよね?
気持ちの火照りがなかなか治まらない
だから少しだけ気を鎮めたくなって中庭に出た
あ…誤算だ
誰かいる…
木に…なんか打ち付けてる?
ワラ人形か?!
いや、違うな…
僕はそっと人影に近づいてみた
タンタンタンタンタンタンタンタン
目にも止まらぬ速さで、自分の指の間にナイフの切っ先を落としている
なんだこいつ…死にたいのか?!
その男は、ナイフに集中していて僕には気づいてない
こんな危ない男が出入りしてるなんて、ホテルのセキュリティーはどうなってるんだ!
あとでたっぷりテジュンさんに文句言ってやる!
僕は、そうっとその男の背後に近づいた
そしてナイフを持つ右手首を捉えた
「は?」
「何危ないことしてんの?君」
男の顔を見てたまげた
また同じ顔…
「あれ?ミン・ギョンビン?」
「…」
「…じゃねぇな…兄貴の方か…」
「そうだよ、君は?」
「ラブ」
「なんでこんな事してるの?」
「気合入れてるのさ」
気合…
イナの気合はキスで入るんだよな
コイツの場合はナイフでこんな
「危険だよ…やめな」
「大丈夫だよ、いつもやってるんだから」
「じゃ、せめて僕がいる間はやめてくんない?君がケガしたら医務室に連れてかなきゃいけなくなる
僕は今、医務室にだけは行きたくないんだ」
「…なんで?」
「色々と思い出すから…」
「…へへ…おもしろいおっさんだな」
…おっさん?!
がーん…ショックだ…
こいつギョンビンと同じぐらいだろ?だったら僕と三つ四つしか違わないはずなのに…
こいつから見たらテジュンさんなんか『おじいさん』だろうな…
そんな事でも思わないと、ショックから立ち直れそうになかった…
「へへ…しょげてんの?おっさん。大丈夫だって、おっさん、イケてるよ」
「おっさんじゃない!」
「ふぅん…かわいい…」
かわいいだと?!このクソガキ…
次の瞬間、ぼくの喉元にクソガキはナイフをあてた
油断した
この僕がこんなガキにナイフを突きつけられるなんて…
「動くなよ…」
何をする気だ…
僕はクソガキの様子を窺った
「かわいいおっさん、名前は?」
「…ミン・ギョンジン…」
「ふうん…ギョンジンか…」
そう言うと、クソガキは僕にキスを仕掛けてきた
…幼稚なキス…
「ン…は…。怖くて応えられないの?…口、少し開けてみろよ…ん?」
は…こんな幼稚なキスで口が開くもんか
僕は唇を開かずにチャンスを待った
「口、開けろよな」
クソガキは、僕の唇にナイフの切っ先をあてた
そしてその上から自分の唇を被せてきた
何するんだこの男…
「ナイフ…邪魔だ…」
「…ん?…んふ…こういうのがスリリングでいいんじゃないか…。これだからおっさんは…」
「ナイフ、どけてみな」
「やだよ」
じゃあ実力行使するまでだ
僕はクソガキの腕をひゅっと捻ると手首を決め、ナイフを地面に落とさせた
クソガキは鳩が豆鉄砲くらったような顔で僕を見ている
「君、ミン・ギョンビンの職業知ってる?」
「…ス…スパイ…」
「僕も同業でね…こんな脅しに普通乗らないんだ…よっ」
「アイテテテテ」
決めた手首を裏返してやる
苦痛に顔を歪めるクソガキ
「えっと…名前なんだっけ?」
「一度で覚えろよ!ラブだ!」
一々癪にさわる男だな
「お前僕の名前覚えてるのか?」
「ミン・ギョンジン!痛いっ!腕捻らないでくれ!舞台でナイフジャグリングやるんだから…イテテ」
「そう…それはすまなかった」
腕を緩めてやると、僕を凄い目で睨んだ
そして僕の首に腕を回すと、またキスを挑んできた
なんなんだコイツ…
「口、開けてごらんよ、ドキドキさせてあげるから…」
…は…
僕は吹き出しそうになった
薄く口を開いてやると、待ってましたとばかりに舌を滑り込ませる
そして僕の舌を吸ったりつついたり…
ふふん…かわいいな、こいつ
一生懸命じゃん…
唇を離すと、色っぽい目で聞いてきた
「どう?」
僕はちょっと眉をあげて、クソガキを見つめた
「大味だな」
そう言うと、クソガキはむうっと膨れっ面になった
僕はクソガキの頭を掴むと、素早く唇を奪い、有無を言わせず口の中へ攻め込んだ
クソガキは目を白黒させている
ふっ
勢いだけで女を抱いてきたガキのキスなんかで、僕がドキドキするとでも思ってんのか!
僕は力の120%を出して、ガキの口中を攻め続けた
はん…ここが弱いんだね
舌の裏と舌の先っぽ…
いやらしい奴…
僕は特にその舌の先を攻めてやった
歯で噛んだり唇で吸い込んだり舌で遊んだり
ああ楽しい
ガキの体からどんどん力が抜けていった
僕の体からずり落ちそうになるガキを、芝生に押し付けてまた執拗にキスしてやった
ガキは息も絶え絶えになっている
涙をポロポロ流して何事か言おうとしている
大方『許してください』だろう…
許すもんか!
僕はイナの事でむしゃくしゃしてるんだ!
許すもんか!
ガキが僕の頭を掴んだ
手が震えている
ふん
わかったか!
最上級のキスを味わえたんだ
よぉく覚えておけ、生意気なクソガキ!
僕はようやく落ち着いて、クソガキから唇を離した
はあはあと苦しげに息をするガキに、もう一度唇を近づけてやる
クソガキは涙をいっぱい溜めた瞳を僕に向け、そして自分から僕の唇を捉えにきた
わざと突っぱねてやると顔をくしゃくしゃにした
かわいいじゃん…
僕はニヤリと笑ってキスを落としてやる
今度は優しいヤツ
イナはどんなキスをしても痺れてくれない
こいつはどうだろう
「なぁ、お前、僕のキスってどんな感じ?」
「…イッちゃいそう…」
これこれこれ!
僕の欲しかった賛辞の言葉!
僕はとっても気分がよくなって、クソガキに甘いキスを落とし続けた
「…ん…んは…死んじゃう…」
「ン…コロしちゃう…」
「おじさん…すごい…」
「おじさんはないだろ?ギョンジンだよ…」
「…ギョン…ジン…」
「…ん…」
「俺…美味しい?」
「…大味…」
クソガキは僕の胸をドンドン叩こうとした
でもできなかった
僕がもっと深く口付けたから
「ギョンジン…恋人は?」
恋人…
「愛人ならいるけど…」
「…俺…どう?」
「…考えとく…」
「俺の名前は…」
「ラブだろ?覚えたよ…ん…」
突然飛び込んできた甘くて危険なチョコレート
イナの方がもちろんいいけど…でもこの子も結構かわいいかも…
静かな嵐 オリーさん
離れていくドンジュンの後姿をミンと見送った
ふたりで壁にもたれてしばらくそのまま黙っていた
ミンが僕の手を握った
「さっき、スヒョンさんに抱かれた時わかったんです」
「何を?」
「あの人不思議な力があるんですね」
「不思議な力?」
「抱いてもらうと癒される。何か楽になるんです」
「そうだね…」
「時々スヒョンさんとくっついていたのはそういうわけ?」
「くっついていたって…」
「気づいてました」
「そんなんじゃないけど…楽にしてやるよって。スヒョンに触られるとみんなばれてしまって…楽にしてやるから抱かせろって」
「気持ちまでわかるんですか…」
「天使だからね」
「じゃあ、僕の気持ちもわかっちゃったんだ、あの時」
「スヒョンがわざと挑発してたのはわかったんだけど…妬けた…」
「僕もクラっときたな、あの時」
「ミン?」
「ふふ。癒されたって意味ですよ。それに…」
「それに?」
「僕に何て言ったと思います?」
「何て?」
「ミンチョルを頼むって」
「……」
「それでわかりました。あの人の気持ちが…」
「僕はいつも自分のことで精一杯なってしまうから…」
「ほっとけなくなるんですよ」
「え?」
「やせ我慢してるミンチョルさんて、超セクシーだから」
「やせ我慢?」
「そう。見る人が見るとすぐわかる。で、ほっとけない。何とかしてあげなくちゃって」
「なるべくわからないようにしてるんだけど」
「ミエミエなのに、何言ってるんだか。ほんとに得な人だな。みんなに心配してもらっちゃって」
「そうなの?」
「自覚が足りないな。完璧な自己中ですね」
「ひどいな」
僕は思わず苦笑いをした
次の瞬間ミンが唐突に僕の肩を抱きこんだ
「でも戻って来て下さい。スヒョンさんと話しても」
「え?」
「僕は独占欲が強くて、嫉妬深くて、心が狭い。だからちゃんと戻ってこないとひどいですよ」
「話をするだけだよ。スヒョンは疲れてるんだ。色々面倒かけたから」
「スヒョンさんは相手にとって不足はないけど、あんまり勝負したくない。それに…」
「そんなことにはならない…」
「それにドンジュンさん、すごいです。僕なら絶対あんな事言えない」
ミンはそう言うとさらに強く僕を抱きしめた
「逆の立場でも、僕あんなこと言えません。彼の事考えると…」
「ミン…」
「ちゃんと戻って来て。でないと…」
「でないと?」
「もう抱いてやらない…」
「……」
疲れきった顔のスヒョン、
笑顔を作りながら泣いていたドンジュン、
そして僕を抱きしめるミン、
僕の頭の中で3人の顔が入り乱れて舞った
ジュンホのお勉強 れいんさん
ぼくはまつりのあいだのいつのまにおべんきょうをしてるのかな
じっさい、ぼくもよくわからないけど
あんまりふかくかんがえないことにしよう
ちかごろぼくがおしえてもらいにいかなくても、
みんなのほうからやってきて
おもいおもいのことをかいては、かえっていきます
ありがたいけど…あいてをするのもちょっとめんどうです
きょうはすはせんせいが、おべんきょうのじかんに
まどのそとをぼんやりみながら
「既婚」とかいてためいきをついていました
いろいろきかないほうがよさそうです
そのあと、てすさんといつもいっしょにいるちぇみさんがやってきて
はじめに「女」とかいてつぎに「乳」とかいて
そしてさいごに「親父」とかいたあと
ぜんぶくしゃくしゃにまるめてしまいました
…かきにげかな…
そのあとてそんさんが、すこしさびしいかおをして
「風来坊」ってかきました
どーいういみですかってきいたら、ふっとわらって
やっぱりこっちにするって「忍耐」とかいていきました
けっきょくいみはわからずじまい…
いなさんはおおきなじで「甘口」「辛口」とかいて
「ジュンホ、おまえどっちが好き?」ってきいてきました
ぼくがなにかいおうとするまえに
「まっいいかっ」といってもっとおおきなじで「逆転」とかいてたいせつそうにもってかえりました
そのあとすぐに、てじゅんさんがやってきて
「今日はアルファベットを教えてあげよう」といって「M]とかいて「いや…違う」とけして
「S」とかいて、また「違う」となんどもかいてはけし、かいてはけし…とうとうかみがやぶれちゃいました
さいごにあたらしいかみに「野良猫」とかいて、はなをちーんとかみました
…はやくしごとにもどってください
つぎにてぷんさんがきました
「おい、ジュンホ、英語を教えてやるよ」といって「Xday」とかきました
いみをきいたら「そりゃ、お前、その日の事だよ」といって、「あ、いかん、いかん。想像したらまたこいつが言う事聞かなくなってきやがった」
って、まえかがみにはしっていきました
こいつってどいつですか?…ああ…そいつのことですね
ぎょんびんさんがやってきました
ぎょんびんさんは「元サヤ」ってかきました
これって、ただしいにほんごですか?じしょにはのってませんけど…ってきいたら
「僕とミンチョルさんを見てたらわかるよ」ってにんまりわらってかえりました
つぎにきたみんちょるさんは
せなかにいたでもはいっているような、すごくいいしせいで
せいざをして、いきなりもうひつのしょをかきはじめました
おおきく「決意」と「離婚」とかいてまんぞくげにかえっていきました
…たっぴつでした
そのあとにきたよんすさんが
みんちょるさんのかいたしょをじっとみて
じぶんも「不屈」とかいていったことは
まだだれにもはなしていません…
【35♪イナの夢は夜ひらく】ロージーさん
もう一つのトライアングル ぴかろん
僕、ちょっと危ないラブを誘ってホールに戻った
ラブは最初ホールに行くのを嫌がった
「だって誰も俺のこと気にかけてくんないもん」
拗ねた横顔が可愛らしい
僕はラブの髪をくしゃっと触って立ち上がり、手を差し伸べた
なんだかとても優しい気持ちになった
「何さ」
「おじさんが一緒にいてあげるよ」
ラブはへへっと笑うと僕の手をぐいっと引っ張った
どうせ自分の方に倒れこませようとしたんだろ?
僕は倒れなかった
ラブは目を丸くしている
ラブの手を引っ張り上げて無理矢理立たせた
「あんっ」
「ガキはおじさんの言う事素直に聞くもんだよ」
ちゅ
ラブの瞳が潤む
ああ…
楽しいじゃん…
すぐに反応が浮かんでくるナイーブな瞳…
いいじゃんコイツ…
「行こう」
僕はラブの腕を引っ張って会場に戻った
ラブは僕の隣に座ってそわそわしている
「どうしたの?」
「落ち着かない」
そう言うので手を握ってやった
ラブはまた僕を見る
ニコ
ラプは俯く
ああ…いい感じ〜
イナとテジュンさんにコケにされてた分、一気に挽回ってかんじ♪
暫くラブの指で遊んだ
時々顔を見ると、もどかしそうな表情を浮かべて俯いてる
「どうしたんだよ、最初の威勢はどこ行ったの?」
「おじさんのさ」
「ん?」
「愛人ってどんな人?」
「…」
僕はラブにその酷い愛人と、愛人の男の話を聞かせてやった…はは
「え〜っ!おじさん、そんな事されて耐えてるの?」
「…まあね…こういうシチュエーションは初めてでさ」
「おじさんのキスで振り向かないなんて、その女、不感症だよ!切っちゃえばいいのに…」
『女』…
そだな『男』とは言ってないしな…
でも坊や、僕は『女』なら、必ず落とせるんだけどね…
あいつは…
ふうっとため息をついたら、ラブは同情を込めた目で僕を覗き込んだ
「大丈夫だよ、おじさん、魅力的だからさ」
「なぁ…おじさんっての、やめようよ」
「…だってさ…」
「だって何さ!」
「恥ずかしいもん、名前呼ぶの…」
へぇ〜、かわいいじゃんか…
僕は力を入れてラブの手を握った
ラブがごくりと生唾を飲んだ
「おいっ!なんで俺の席にこいつが座ってんだよ!」
イナ!
「…何…終わったの?早くない?」
べしん☆
イナの後ろにいたテジュンさんが僕の頭を叩く
ああ…クールな僕がこいつらにかかると台無しだ…
テジュンさんはイナに軽くキスして、また持ち場に戻っていった
こんなに何度も抜けてていいのか?総支配人のくせに!ふん
イナは僕の横に座っているラブの前に仁王立ちしている
「どうしたのさイナ、僕の左の席空いてるじゃないか。座れば?」
「ラブ、どけ!」
「え…なんで俺がどかなきゃいけないのさ」
「ここは俺の席なの!」
「なんでさ!」
「こっからのがテジュンがよく見えるの!」
「じゃあもっとテジュンさんの近くに行けばいいだろ?」
「だめ!隣はギョンジンでなきゃだめなの!」
『隣はギョンジンでなきゃだめ』
心の中で反芻した
きゅんと胸が痛む
くそ…テジュンさんが好きなくせに…
「どけよ!」
「嫌だ!イナさんあっち行けよ!」
「なんだと?!」
「ぜったいどかない!」
「あん?クソ生意気な!じゃ、こうしてやらぁ」
イナはラブの膝の上に無理矢理座った
「もうっ!重い!ばかっ!」
「なぁギョンジン…」
「んあ?」
「さっきは…ごめんな…俺…お前の気持ちも考えずに…」
「…」
「なんだよっ!俺を無視すんなよイナさんのばかっ!」
「るせぇんだよ!…でも…ギョンジン…怖かった…」
そんな話をラブの上に座ってするなよ
僕はイナの腕を引っ張って立たせた
「あん…何だよ」
「こっちに座りなよ…お前のが年上だろ?ガキは聞き分けないんだから、お前が大人になれよ、な?」
「…わかった…」
イナはそう言うとラブにあっかんべーをして、そして僕の…膝の上に座った!
「…い…」
僕とラブの目はきっと同じようにまん丸だったに違いない
イナは全く構わず僕の右太ももに体重をかけ、ラブに背中で壁を作り、僕の肩に左腕を回した
ラブはイナを睨みつけてるんだろう
僕はイナの香りに酔いそうだった
…テジュンさんの香りのたっぷり混ざった香りに…
「んなぁ…」
鼻にかかった甘えた声でイナは僕の右耳に囁く
僕が右肩を竦めたのを見てくすっと笑う
悪魔め!
「なんでコイツといるのさ…」
「ん?…それは…」
お前らのエッチを想像して一人悶々としてるのが嫌で、中庭に出たらこいつに出くわしたんだよ!
「こいつ、フラフラしてんだぜ。危ない奴だから相手にすんなよ…」
それはお前の方だろう…
耳にイナの吐息がかかる
ゾクゾクする
ラブからは見えないし、聞こえてないはずだ…
きっと僕の顔は悩ましい顔になってるんだろう
この野郎…
「あの後さ…テジュン…すごかった…」
だから…そんな事…聞きたくないのに…
「もしテジュンが来てくれなかったら…俺達…どうなってた?」
「…は?…」
「どぉなってた?ん?」
「…それ…は…」
僕がお前を…抱いて…たかも…
テジュンさんに釘を刺されてたから、やっぱやめてるかも…
「わかんない…」
「…教えてやろっか…」
何を?
「あの後もしもテジュンがこなかったらね…おれがおまえを…だいてたの」
「有り得ない!」
「なんでさ!」
「有り得ないから」
この馬鹿野郎…自分がどれだけ感じやすいかまだわかってないのか?
あ…でも…僕のキスじゃ溶けないんだった…ぐすん
突如ラブが立ち上がった
そして僕の左隣の席に座りなおした
ラブの方を見ると口をとんがらせている
「どした?」
「なんなんだよお前!邪魔だから向こういけ!」
「イナ!…ラブ…どした?」
「一緒にいてくれるって言ったくせに…嘘つき…」
かわいいっ!
ちょっとにやけちゃったよ僕…
左手でラブの太ももを擦ってやった
俯いて唇を噛みしめている
寂しがりやなんだな…
と、イナが僕の左腕を掴んで、自分の肩に置いた
え?やきもち?イナが僕に?
そしてまた立ち上がって、こんどは左太ももの上に座った…
ラブにまた壁を作るイナ…
幼稚だ…
幼稚なくせにいやらしい…
イナは僕の顔を覗き込むと、僕の唇を掬い取って深く口付けをする
ラブを横目で確かめると、驚いて固まっている
イナはお構いなしにキスし続ける
そして唇の上で囁く
「おれさぁ…お前のキス…好きなんだぁ…」
痺れないくせにそんな事言うな…ああ…
ラブは怒ってイナの背中を叩いた
イナも怒ってラブの頭を叩いた
まるで子供のけんかだ
僕はおかしいのを堪えながら、イナを右隣に座らせた
「なんだよコイツ!邪魔すんな!」
イナがきつく言い放つ
でもちっとも堪えてないラブ
イナを睨みつけて僕の左腕に自分の腕を巻きつけている
えっと…これって…僕の取り合い?
ちょっと口元がゆるんじゃう…
ふと舞台の方をみたら、テジュンさんと目が合った
テジュンさんはにっこり笑った
余裕の笑いかよ…
僕は眉と口角を上げて笑顔を作って返した
そしてふっとため息をついた
僕の好きなイナは、貴方が大好きで…
でも僕のキスも好きだって平然と言うんですよ…
貴方の教育がなってないからコイツは…
違うな…
元々こうなんだな…
そこが可愛くて放っておけない…
イナの手をきゅっと握るとイナは僕に切ない顔を向ける
そしてまた唇を近づけてくる
その時ラブが僕の頭を自分の方に捻った
うわっ首が折れるじゃないか!
「痛いじゃないかラ…」
キスされた
今度はイナが固まる
ラブの頬に涙が流れている
僕はそっと唇を外してラブに訊ねた
「どうしたのさ…」
「一緒にいてくれないじゃん、おじさんの馬鹿」
「…いるじゃないか、隣に…」
「イナさんとばっかり…俺なんかずっと無視して…馬鹿…」
「…無視してないよ…イナがうるさくてさ…」
「おじさん、誰とでもキスすんの?!こんなんじゃ愛人、愛想尽かすよ!」
「…いや、あの…」
「愛人って誰だよ!」
「イナは黙ってて…ラブ…あのね」
「愛人って何さ、あの女の他にも女がいるのかよ!」
「イナちょっと黙っててよ…ラブ…あの」
「なんだよ!俺の事好きだって言ったくせに!」
…僕はちょっとキレた
イナの方を向き直って詰め寄ってやった
「…貴様、テジュンさんがいるくせにソクさんだ僕だって騒ぎまくって…
自分がフラフラしてんのに、僕に愛人がいようといまいと関係ないだろ!責める資格があるのかよ!」
「…」
「愛人なんかいないよ!いや、いるか…お前のことだよ!馬鹿!」
「…」
「僕をめちゃくちゃに振り回す最低の愛人!僕のことをおもちゃにしか考えてない最低の男!でも僕はお前が…」
興奮して一気に怒鳴りつけてやった
その僕にイナはまたキスをする…
「…なんだよ…」
「怒っちゃやだ…」
きゅううん…
テジュンさん…
これですか?
これに貴方は嵌ったんですか?
イナの甘い唇が僕を離してくれない
ラブの手が僕の左手を握り締める
僕もラブの手を握り返す
これって…さっきのイナ状態?
ああ…
ほんとだ…
強烈すぎる…
ラブには刺激が強すぎる…
僕は我に返ってイナから唇を離した
「あん…」
そしてラブに向き直ってごめんと言った
ラブは俯いて泣いていた
「ごめん…ごめんって」
「…愛人って女じゃなかったんだ…この浮気モンだったんだ…」
「何だと?」
「…そうだ…この浮気者が…僕は好きなんだ…」
「デヘヘ」
「…ラブ…」
「…俺…」
離れていくかな…
ラブは僕の耳にコソコソと呟いた
「そいつからおじさん奪うから!」
思わず見つめたラブの目に、小さな炎が灯っていた