オ支配人の苦悩と楽しみ ぴかろん
「まったく…総支配人は…」
ため息をついてトランシーバーを操るオ支配人
チッ「総支配人、総支配人、応答願います」
はむはむはむちうちうちう
「テジュン、鳴ってる…んむ…」
「いい」
『総支配人』
「…んふ…ほら…んん…」
「…んるさいなぁ…んむむ…はい…んんん…」
『…どこにいらっしゃるんですか?』
「…んむ…ふは…トイレです…んむ…」
『…また出たり入ったりですか?』
「…んにゃ…ずっむむっとんむ…入ってんむ…出して…んむ…」
『あの…そろそろ切り上げて戻ってください』
「…んは…はい…出たら…」
「もう出したじゃんか!」
「こらっ!聞こえる」
「ん…んむむ…」
宙を見上げるオ支配人
「どうしたんですか?オ支配人」
「ああ、スヒョンさん…総支配人が…」
「何か?」
通りかかったスヒョンにトランシーバーを差し出すオ支配人
聞こえてくるのはちうちうぺちゃぺちゃはむはむんんん…
スヒョン、目を丸くして口元を手で押さえ、吹き出すのを我慢している
「面白そうですね…」
「面白いんですけど…そろそろ戻ってもらわないと困るんですよ…」
「そうですね…」
チッ「総支配人…まだ終わりませんか?」
『終わりませんかって?…んむ…』
「えーっと用足しです」
『もう…んむむん…ちょっむむっとっんむん…』
「一回出したんですよねぇ」
『ええ、んむむ…でもまだ…ん…すっきりしなくてんむむん…』
「困った腹具合ですなぁ…」
『ええ…弱くって…ん、こらっダメッ』
「何がダメ?」
『あ…ああちょっと腹に命令をはふん…馬鹿!』
「馬鹿?」
『腹に…あ。ああっこらっ…くふっやめっこらっ…キヒ』
「痛むんですか?」
『いや…くすぐったくてケヒヒ…こらっあはぁん…』
「えーっと」
『こいつ!こうしてやるっ…んむむむこしょこしょ』
『くひゃっやだっテジュン…ん…ああっや…もう…』
「空耳ですかな?二人分の声が」
『空耳です!…聞こえたじゃないか馬鹿!』
『んぁ…や…』
「馬鹿とは私の事ですか?」
『いえっ腹にっくっあっおまえっ…ああっこらっ』
『あンっやだっテジュ…』
「腹に名前が?」
『ん…は…あ…お…あう…』
「そーしはいにんっ?」
『んああっ…』
「あと何分かかります?」
『さん…』
「三分ですか?」
『さんじゅっぷん…』
「…わかりました、三分ですね、お待ちしております」ちっ
スヒョンはクスクス笑っている
オ支配人も苦笑している
トランシーバーは繋げたまんまなので時折変な音が漏れてくる
ああっああっううっううっぎしっぎしっ…
声を立てずに笑い転げるスヒョンとオ支配人…
「このおとはすぱーりんぐのおとですね。いなさんとてじゅんさんはまたといれのなかですぱーりんぐのとっくんですか?」
通りがかったジュンホが二人に聞いた
二人はジュンホに向かって「しいいっ」と言った
んああんああんてじゅいないなてじゅいなっああんああっいなっいなっいなあああ…
「五十秒だ…」
オ支配人は小声で言った
スヒョンは堪えきれずに吹き出した
左目の涙 足バンさん
誰もいなくなったホールの外
会場内の華やかな音もここではくぐもった振動でしかない
ギョンジンはゆっくりとスヒョンに近づいた
スヒョンはその目を凝視しながらソファから立ち上がる
2メートルほどの距離をおいてふたりは対峙した
ギョンジンの目はつい先ほどとはまったく違っていた
殺気立ったひかりは既になく
全身に絡みついていた重い空気はほぼ消えている
イナ…イナはいったいこの男に何をしたのだろう
渦巻いていたこの男の念をどうやって散らしたのだろう
あの馬鹿なやつに今回は負けたかな
スヒョンは視線をはずさずじっと見据えていた
そしてこの男が辿ってきた人生を考えた
黒い呪縛にもがき自分の気持も把握できずにいたであろう年月
スヒョンが出会った人々は皆同じだった
誰もが迷い込む心の闇
この男はそれが少しばかり大きく深すぎたんだろう
ギョンジンはスヒョンに近づいたものの、どう切り出したものか戸惑っていた
ポケットに手を入れ立っている男の口元は、こころなし微笑んで見える
イナとともに自分の触れられたくなかった部分に切り込みを入れた男
先ほど喉元に自分の狂気を突きつけてしまった相手
そういえばいつだったかこの男の恋人に仕掛けていた時も
やはりこんな目で見ていた
愛する者を守ろうとする強い意志の現れなんだろうか
先に沈黙を破ったのはスヒョンだった
「あなたのおかげで僕はくたくただ。詫びを入れてもらいましょうか」
その目はひどく冷たいもののように思われた
ギョンジンは思わず目線をはずした
自分ひとりでやってみると言ったものの、どう対処していいかわからない
イナに抱きしめてもらい暖かい血が巡りはじめた気がしていたが
こうして射抜くような視線を感じるとまた頑になっていく自分を感じる
父親を…そう…父親を思い出してしまう
ギョンジンは目をつむり唾を呑み込んだ
今ここで戻ってしまっては…
イナの涙が心をよぎった
黒い霧に包まれぬように唇をかみしめた
「悪いが、最後まで祭を楽しんでもらおうかな」
ギョンジンは驚いて目を開けた
思いがけない言葉だった
スヒョンの表情は変わらなかったが
その目に宿っているのは深い慈悲の色のようにも見えた
「僕は今この瞬間からあなたを信用します。敷いていた警備も解除します」
「え…」
「だからあなたにも僕を信用してもらいたい」
「あ…」
「今はなにも言わなくていいです」
「…」
「祭を最後まで見て、そして終わったらあなたの弟と話す時間を作ってほしい
黙って去るという選択はもうないでしょう?」
ギョンジンは返事の代わりに左目からひとすじの涙をこぼした
なにも言えずにいた
スヒョンは数歩進んで親指でギョンジンの涙を拭いた
「右目は理性。左は感性の目だって聞いたことがあるな」
ギョンジンは目を閉じて俯いた
「僕は会場に戻ります。一緒に行きますか?」
「いや…もう少しここに…」
「じゃ、のちほど」
スヒョンがギョンジンとすれ違おうとした時その腕が掴まれた
「僕の…」
「…」
「僕の名は…ミン…ギョンジン…」
スヒョンは男を見つめ、そして初めて微笑みかけた
「よろしく。ギョンジン」
スヒョンは会場のドアを開け入って行った
ギョンジンはしばらく立ったまま目を閉じていた
長い間着け続けていた重い鎧をやっと脱いだような気分だった
【19♪或る恋人たち編(デュエット)】ロージーさん
しゃかい ぴかろん
『べんず』をかこうとしましたが、とてもふくざつすぎてできませんでした…がっくり…
すはせんせいにそういうと、あんしんしたようにわらって、
「勉強とはそういうものだよ。つまづいたところはまた復習すれば・・あ、いや、ベン図についてはもういいよ…
普通こんなフクザツなベン図はないからね…」
といいました
それでこんどは『しゃかい』のべんきょうをしました
すきなばしょ、すきなりゆう、きらいなばしょ、きらいなりゆうをききます
これは『しゃかい』のべんきょうですか?とすはせんせいにきいたら、
「社会勉強だよ」
といいました
だから『しゃかい』のべんきょうなのですね?
ぼくはのーとをもって、みんなにききました
どんじゅんさん
「好きな場所は運転席、理由は運転できるから。嫌いな場所は助手席、運転できないから」
すひょんさん
「好きな場所は…」といってからまわりをきょろきょろみて、ぼくのみみもとでこういいました
「ベッド…理由はドンジュンが…すごいんだよ…」
そしてにやっとわらいました
どうすごいんでしょう?
きらいなばしょは?
「ベッド…理由はドンジュンがすぐに眠ってしまうから」
…おなじばしょがすきできらいということですね?
きまぐれですね
すひょくさん
「好きな場所は…舞台の…幕…理由は…ドキドキするから…嫌いな場所は…橋の真ん中…悲しい思い出しかないから…」
そういってとおくをみつめました
そくさん
「好きな場所はね、中庭…色んな思い出があるから。嫌いな場所は…地下水路…濡れたから…」
ぬれるのがきらいなんですね?
しちゅんさん
「好きな場所はもちろん俺の部屋。メイと初めて…ああケホンケホン。嫌いな場所はこのホテルのメイの部屋…役に立たなかったから」
ちょんまんさん
「好きな場所は編集部屋。愛をはぐくんだから
あと屋上も好きになった。あとファミリールームも好き。あと…」
すきなとこばかりいっぱいいうのでやめた
てぷんさん
「好きな場所…んー、ホールかな?あいつと再会した場所だもん。嫌いな場所は…ベッド…。どうしていいかわかんないもん…」
どうしていいかとは?ぼくでもわかるのになへへっ
みんちょるさん
「好きな場所は…ベッドかな…。子犬が猟犬に生まれ変わったあのベッド…。嫌いな場所はエレベーターかな…僕の美意識が壊された場所だから…」
びいしき…むずかしいです
みんさん
「好きな場所は…その…ミンチョルさんのいるところならどこでも…。好きだから…。嫌いな場所は…ミンチョルさんのいないところ…耐えられないから」
あいです
てそんさん
「秘密部屋とてそまよ部屋と屋根裏と覗きっこ倶楽部とええっと…とにかく盗聴できて二人でいられるところなら…あ、ベッドと毛布とキッチン設備も整ってりゃオッケー
嫌いな場所はね…んーと…そーだなぁ…。闇夜が一緒ならべつにどこも嫌いじゃないよ」
やみよさんがいればなんでもいいんですね
てじゅんさん
「好きな場所…僕の部屋、大浴場、トイレ、ミンチョルさん達の部屋、あとは…医務室!…え?理由?…へへ…へへへ…気持ちいいから
嫌いな場所?…嫌いな…。ソクの部屋!理由は…悔しいから!」
といれがすきとは…かわってるなぁ…
いなさん
「好きな場所かぁ…そおだなぁ…うーん…テジュンの部屋は…あいつに襲われそうになったから…ちょっとヤだし…かといって医務室は…なんか短かったし…
トイレは最悪だったしぃ…んと、大浴場のキスはよかったなぁ…あ、でも…あれだ!ミンチョルの部屋の床でやったとき、テジュンがめちゃくちゃかっくよかったんだ!ミンチョルの部屋!
理由はテジュンがかっくよかった
で、嫌いな場所はね…んーと…えーと…そんなに嫌な場所ってねぇなぁ…どこででもオッケーだな…そういえば外でやってねぇなぁ…今度やってみよう…
あっ!思い出したっ!俺さぁ、非常階段好きなんだよな…それからさぁ…」
いなさんはといれはさいあくだっていったのに、きらいではないみたいです
どういうきじゅんでえらんでいるのかわかりません
びみょうにてじゅんさんのらいんなっぷとにているのがなかよしのしょうこなのですね
しゃかいもむずかしいし、なんのやくにたつのかよくわかりません…
これならべんずをかんせいさせたほうがたのしかったです…ぐすん
☆渦巻く想い1 妄想省家政婦mayoさん
白夜のステージが終わり袖に引っ込むと皆興奮していた
俺はすぐ懐に入ったテスを抱きしめた
闇夜はハグッてる俺たちに着替えて来ると言って秘密部屋へ戻った
シゲッキーは「ブラボー!ブラボー!」を連発し皆に抱きついて回る
最後にヨンジュンに抱きついて離れない
細身で色白の2人のハグはオンナ同志のハグにも見えるが...
俺はヨンジュンの耳もとでからかった
「ヨンジュン、なかなか似合ってるぞ..」
「なんとかしてくださいよぉー」
「いや、この際どうだ..いいんじゃないか?ん?」
「勘弁して下さいよぉー先輩ぃ〜〜^^; 」
ひしっ#と離れないシゲッキーに困惑しているヨンジュンを残し
俺とテスは着替えを済ませ会場の方へ向かった
テスにテソンのそばに居る様に伝えホールのドアが見える陰に隠れていた
イナがミン兄=ギョンジンと話していた
闇夜がもう一人のミン・ギョンビンを調査したときに
あまりにも違う2人のギョンビンに困惑し俺に聞いてきた
俺は2人のギョンビンと2人の黒蜘蛛について知ってることは話しておいた
ミン兄=ギョンジンが現れたとき俺はここまでこじれるとは思っていなかった
闇夜は本番前にミンのスカウトとギョンジンの調査を後悔していると
ボソッと俺に漏らしていた..
俺は『今は何も考えるな』と闇夜の頭に軽くグー★を落としてステージに立った
~~~~
ホン領事が2人のミンを抱えていたのと同様に黒蜘蛛も2人いた
オ・グッチョルは俺を表で仕事をさせ、裏ではもう一人の黒蜘蛛に
もっと卑劣で残酷な殺しの任務をさせていた
裏黒蜘蛛はギョンジンが愛した金髪の女に執拗な執着を持ち
ギョンジンに異常なほどの嫉妬心を持っていた
裏黒蜘蛛は最後には装甲車と軍用車を持ち出し銃撃戦になった
裏黒蜘蛛はUZIを構えギョンジンの頭を狙い
ギョンジンはM-16A2のライフルを構える
そこにボルボに乗った金髪の女も来ていた
女は裏黒蜘蛛の背後からS&WM36で裏黒蜘蛛の頭を狙っていた
傍に銃撃戦で倒れていた将校が女の足首を掴み女が怯んだ瞬間
裏黒蜘蛛は女を捕まえ銃を手刀で落としベルトに仕込んであった
ナイフを女の首に当てた。銃を構えたギョンジンは引き金を引けないでいた
女がナイフの刃を両手で掴んだ瞬間に
ギョンジンの銃口から発射された弾が裏黒蜘蛛の右手首を砕いた
憎悪で燃えたぎる裏黒蜘蛛にM-16A2が火を噴き
ギョンジンは弾倉が空になるほどに容赦なく引き金を引いた
裏黒蜘蛛の体は宙を舞い旗のようになびいて女の前に倒れた
女は口から血の泡を吹いている裏黒蜘蛛の左目を銃でぶち抜いた
俺は仲間から一部始終を聞いてロシアを出て南へ行こうと決めた
~~~~
着替えを済ませた闇夜がふらふら歩いてきた
俺は闇夜の腕を引っぱった
力が強すぎて闇夜が俺の懐にすっぽり入っちまった
一瞬...俺と闇夜の視線がぶつかった...
「あ、あ、あ...」
「ぁ..お、すまん..」
俺はすぐ闇夜の体を離し俺の後ろへ付かせた
「どう?」
「ん...イナの傍にテジュンが来た...」
「そう...喧嘩してる?」
「ん...いや...おっとっと....闇夜、すまん...」
ちぇみはそう言って振り向くと後ろにいた私にかぶさってきた
ちぇみの陰から覗くと向こう側の廊下を
テジュンさんがイナさんを引っぱって行くのが見えた
2人が通り過ぎた後ちぇみは体を離した
「あはは...テソンに怒られるな...」
「ぉ、ぉ、ぉ」
「ちょっと得した気分だ...一応お前も”オンナ”だからな...」
「あ、ぁふ....」
「テソンが待ってるはずだ。戻ってやれ」
「...ぅん...」
闇夜が俺の懐から離れ..俺はスヒョンがいるソファの陰に移動し
スヒョンとギョンジンの会話を聞いていた
「右目は理性。左は感性の目だって聞いたことがあるな」
俺はスヒョンのこの言葉に苦笑した
『悪魔を撃つときは左目を狙え』
と祖母さんに言われていたギョンジンの女は裏黒蜘蛛の左目をぶち抜いた..
俺の役目は終わったな...そう思った俺はテスの待ってるホールへ急いだ
戻りながらさっきの闇夜の感触がふっと思い出された
そういえば..単車の後ろに乗ったときの胸...
『いけね..』俺はブンブン頭を振っていた
僕の隣にテスが座った
「テソンさん...びっくりしたでしょ?」
「はは..闇夜にびっくりさせられるのは慣れてる..」
「ごめんね...僕踊れなくて..それで...」
「でもちぇみと何かしたかったんだろ?」
「ぅん...」
「格好良かったぞ。さすが息がぴったりだ」
「えへっ...」
僕はテジンにトイレに行くと言って席を離れた
スヒョンやテジュさんが出たり入ったりのドアとは違うドアから出た
回り道をして廊下の曲がり角に来たとき
僕は固まった...
ちぇみの懐に闇夜がいた....
僕はすぐ陰に隠れそっと様子を伺っていると
遠くにイナとテジュンさんが見えた
闇夜はまたちぇみの懐にいた..
僕は廊下の壁に寄りかかって天井を仰いだ....
闇夜の消した想いがまた闇夜の心に棲みつくのを僕は恐れていた...
☆渦巻く想い2 妄想省家政婦mayoさん
廊下を反対に戻りながらまだすこし胸が高鳴っていた
自分でコマしておきながら一時期彼に惹かれていた
彼に恋人が出来、ひとつになったときに自分の想いを消した
2人を幸せにしてやりたかった
そのためなら自分の想いなどどうでもよかった
自分は人を幸せにできないと決めていた
抱えている何百前の因縁や心に残ってる☆彼のこと...
それらを静かに受け止めてくれたのはいつもそばにいたテソンだった
テソンは消したはずの秘めた想いにもいち早く気づいていた
そのことで何回か深夜に大喧嘩をしたこともある
自分の気持ちはどうなんだよ!..と責められた
4人で住むのは僕のためじゃないんだろ?..と疑われた
僕への想いはどのくらいなのさっ!..と詰め寄られた
その度に何も答えずに自分の部屋へ逃げた
消した想いを蒸し返されるのが嫌だった
すべてお膳立てをして姿を消そうと思っていた
引き戻したのは彼と彼の恋人の考えたあの荒行だった
そしてテソンの言葉と自分への想いだった
部屋を変わってからは喧嘩もなくなった
テソンは口癖のように言う
「僕の心のバランスを取ってくれるのは君しかいない」と
テソンにはまだ言ってない
「テソンの前でだけおんなになれる」と
☆.。.:*・°☆★
一度だけ僕は酷いことを言った
僕は代わりなのかっ!..と...
闇夜は目に涙を溜め僕の頬に平手打ちをした
その晩闇夜は自分の部屋へ行った
次の日もその次の日も..2人の時は口をきかなかった
その時闇夜はなかなか僕の言葉を許してくれなかった
メイに部屋を引き渡し僕の部屋で過ごすようになり
僕が闇夜の背中に初めてぺたっ#とくっついた夜
闇夜の心の声を聞いたはずだった
「テソンしかいない…」と
それなのに僕は今動揺している...
あの時の頬の痛みを思い出していた...
☆.。.:*・°☆★
廊下の角を曲がるとテソンが立っていた
手を握ると俯いた...
視線をそらしている...
闇夜は何も言わずに秘密部屋まで僕を引っぱっていった
僕をいつもの様にテーブルに腰を落とさせ視線を同じ高さにした
闇夜はじっと僕を見た
僕の方が先に視線を外してしまった
その僕の瞼に闇夜の唇が落ちた
瞼から睫へ...鼻筋をなぞり口角の★へと唇は落ちていく
僕の唇を唇で丁寧になぞり始めたとき
僕は闇夜の腰に手を回し引き寄せ強く唇を捕らえた
闇夜は僕の首に手を掛けそれに答えた
かすかに開いた闇夜の唇から僕は舌を差し入れた
闇夜の舌を捕らえた瞬間僕はぐるぐると目眩がした....
びりびりと痺れ脳髄まで響くかのようだった
僕は思わず闇夜の唇を離した
「だから...だから今まで...」
僕はそう言うのが精一杯だった
肩で息をしている僕を闇夜が覗き込んだ...
「いやならやめるよ?...」
「いぢわる言うなよ...」
*^_^*...僕はこの笑顔にからっきし弱い...
僕は覚悟を決めて思いっきり唇を吸い闇夜の舌を捕らえに行った
でも僕の舌のほうが絡めとられ翻弄された...
僕の力が抜けたとき闇夜は唇を離した...
闇夜の髪をかきあげるとまっすぐに僕を見ている瞳が見えた
僕は闇夜を思いっきり抱いた...
闇夜は僕の背中に手を回した...
~~~~
俺がテスのそばに行くとテソンがいない。闇夜もいない
「テス、テソンは?」
「ぅん、トイレだって...長いの...」
「プッ...そうか...」
「ねぇ...何処いったんだろ...」
「ん...お楽しみだろ...」
「ずるぅ〜い...」
隣でテジンが笑っていた
「テス...あいつら捜しに行こうか...」
「えっ?いいの?」
「ぁあ...」
俺はテスと席を立ち、ドンジュンにちょっと来いと会場の隅に呼んだ
「蜘蛛さん、僕...席に戻らないと...」
「スヒョンがミン兄の警備を解除した」
「えっ?どういう事?」
「ミン兄に危険はなくなったってことだ」
「ほんと?」
「ぁぁ..後はスヒョンに聞け」
「わかりました...蜘蛛さん、ありがとう」
「ぃや...」
俺は行きかけてドンジュンに声をかけた
「ドンジュン、奴はかなり疲れてる」
「大丈夫...僕がたっぷり癒やすからっ」
ドンジュンは笑って席に戻っていった
テスも俺とドンジュンの顔を見て笑った
「ちぇみ〜どこにいるかな...天井裏?」
「ん......部屋かもしれん...」
~~~~
僕たちのち◎うは止まらなかった
というか僕が止まらなかった
僕たちがもういちどち◎うをしようとしたとき
バタン★
「邪魔するぞ」
「えへっ、迎えにきたよん」
「テソンシ...鍵かけなかったの...」
「ごめん..忘れた..」
「もぉー」
僕は立ち上がって闇夜の肩を抱いて4人で部屋を出た
いとしいもの ぴかろん
…トランシーバーのオ支配人の声に操られて(操られたんだ!)僕は無謀にも二回戦に挑んでK.O.されたのら…
「自爆っていうんだよ!」
とベルトを締めながらイナは言った
そして僕の衣服を整えてくれた
抱きしめようとしたらするりと身をかわし、ドアを開けて鏡の前に立っている
僕はさほど使わなかった(…)腰を擦りながらゆっくり立ち上がり、個室から出た
「テジュン、顔洗えよ」
「んああ…」
「腰、ひねったの?」
「いや…」
そろそろと洗面台に近づく僕を、イナは年寄り扱いする…クソガキ!
僕が顔を洗うと、拭いてやるよと言って、顔を何かで撫でた
目を開けると、いたずらっ子顔のイナが、ニヤニヤしながら僕の顔を拭いている
「あっお前っ!トイレットペーパーで拭くなっ!馬鹿っ!」
「だーって他に拭くものねぇんだもん」
「ハンカチ持ってないのか!僕のポケットに入ってるからそれで拭いてよ!」
「…自分でやれよ…」
「イナ!」
「…なにさ…」
「…お前に拭いてほしいの…」
「…くぅん…」
何よ、なんでお前が甘えた声出すのさ…
イナは僕のハンカチでもう一度顔を拭いてくれた
さっきまでの怒りも悲しみも、全部流れていったみたい…
僕の顔に笑みが戻ってきた
イナ…ああっ好きっ!
「クフフ…にやけるなよ、ば〜か」
そう言ってニコッと笑うイナ…ああっ好きっ!
と思ってたらイナから抱きついてきた
しがみつきながらイナは泣き出した
「イナ?」
「…ひくっ…ひくっ…」
「イナ…」
「ごめ…ちょっとだけ…こうしてて…」
肩を震わせているイナの体を、僕はしっかりと抱きしめた
『彼は疲れています…』
イナ…
あの人をあんなに柔らかくしたのは、お前なんだな…
ごめんな…こんな小さな男でさ…
なのにお前…僕を必要としてくれてるんだな…
「イナ」
「…」
「頑張ったね…お前、偉いよ、イイコだよ…」
照れくさかったけど、子供を誉めるようにそう言って、イナの頭を撫でてやった
一瞬震えを止めたイナは、涙を浮かべた丸い瞳で僕の顔を見つめて、それから急にうわーんうわーんと、本当に子供のように泣き出した
僕は慌てて彼の背中をさすり、どうしたんだ、足が痛むのか?よしよし、よしよしと馬鹿みたいに繰り返していた
「てじゅん…だいすき…てじゅん…だいすきだ…」
イナの涙声が何度も呟く
「僕もお前が大好きだよ、イナ…」
もう一度軽くキスをして、イナにも顔を洗えと言い、そして僕らは会場に戻る事にした
「てじゅん…おんぶ…」
「僕は腰が…」
「…おんぶしてくらしゃい…」
「…腰が…」
「あしがいたいよ」
「…」
「てじゅん〜」
「お前、こんな可愛らしいとこ、他の男に見せてないだろうな」
「…ん…」
「その『…ん…』も、見せてないな?!」
「…ん…ミンチョルに見せたら『僕に甘えるな』っておこらりた…」
「見せるな!」
「…ん…」
「んちゅっ…へへ…よし!おにいちゃんがおぶってやる!」
「…お兄ちゃん…」
「ほれっ」
「…兄ちゃんじゃいやだな」
「ほれ」
「おじちゃん、もうといれでへんなことしないでね」
「この野郎!」
「…ね、おじちゃん…」
ああ、かわいい…
「悪い事した時は…する…」
「馬鹿!はやくおんぶしろよ」
「…かわいくない…」
僕はイナをおぶって会場に戻った
イナが僕のうなじにキスをする
くすぐったいなぁ…
ドアを開けようとしたときハタと気づいた
「お前…ソクにもミン君のお兄さんにも…うなじキスしただろ!」
「…」
「こらっ!」
「…くちがかってに…」
目の前のドアが開き、オ支配人がフクザツな表情で立っている
吹き出したいような、怒鳴りたいような顔をして…
僕達は黙って会場に入った
暗い場内に入ったとたん、イナは僕にぎゅっとしがみついて愛してると呟いた…
【20♪ノラの恋】ロージーさん
筋肉番付舞台裏 オリーさん
「君も筋肉番付に出るの?」
「はい。ソンジュさん、こんにちは」
「ジュンホ君だよね。あんたがBHC代表?」
「よくわかりませんけど、おべんきょうはいいからいってこいって」
「そっか。ま、これは僕の一人勝ちなの、ごめんよ、アハっ」
「ひきたてやくってなんですか?ひっぱってなにかをたてるんですか?」
「ま、そんなとこかな。おっ、男組みが来た」
「また懲りずに出てきたの?風邪ひくよ」
「今日は絶好調だからさっ、アハッ」
「ふうん。でそっちはBHCの人?」
「ジュンホです。よろしく」
「僕ウォンビン。これ僕の一人勝ちだから」
「あのソンジュさんもそういいました。ひとりしかかてないのではないでしょうか」
「その通り、勝者はひとり。それは僕です」
「あらら、年寄りが来ちゃったよ」
「年寄り?」
「僕らの感覚だと30過ぎは年寄りなのよ、ねっ、ウォンビン君」
「そうね。それに何でまだマフラーしてるの?」
「…」
「あんたさっきファッションショーで手足いっしょに出してた人だ。大丈夫?」
「僕にとって過去は意味がない。現在が大事です」
「過去の遺産で食いつないでるくせに」
「…」
「兄貴も将軍と出るって言ってたのにどこかな?」
「あの二人、随分唇腫らしてたけど」
「さかりのついたネコにつける薬はない!」
「ねえねえ、さっきからこっち睨んでるあの人誰?」
「MUSAのヨソルさんだよ」
「かいだんおちのひとです」
「ちょっと手強いかも、アハッ」
「彼はバランスが悪い。胴が長いでしょ」
「ほんとだ。体形で僕らの勝ちだね、アハッ」
「これはきんにくのじまんたいかいですか?」
「そうだよ」
「きょうぎはしないのですか?」
「モンスターボックスとかビーチフラッグスとか僕得意だけど、力技はちょっと」
「君軟弱そうだもんね、アハッ」
「失礼な。そっちこそ生っ白い体しちゃって」
「ショットガンタッチとか得意だぜ、僕アハッ」
「ぼくできるでしょうか?」
「気楽にいきなよ。僕の勝ちは決まってるんだから、アハッ」
「何言ってるんだ、僕の勝ちだよ」
「じゃあウォーミングアップします」
シュンシュン…パンパン…ジャブジャブ…フックフック…
「ちょ、ちょっと君、君ボクシングやるの?」
「むかしせかいチャンピョンでした」
「「げ!!プロかよ!!」」
「そうです。フックがとくいです」
ヒュン!
「「わ、わかった」」
「からだをあたためないとだめですよ。みなさんもどうですか」
「いいよ。ちぇっ、こいつも侮れないか」
「それよりミニョンさん。これやりました?」
「何?その紙コップ?」
「ドーピング検査ですよ」
「げ!そんなの必要なの?」
「ほらインチキして筋肉つける人いるでしょ」
「いるよね。写真集出すためとかでさあ、アハッ」
「くすりはからだによくありません」
「みんなやったの?」
「「もちろん!」」
「そ、そう…」
「あれ、ヨソルさんこっちに来るよ」
「ペットボトル持ってるけど、何?」
「……」
「え?何だって?」
「あのドーピング用のお○っこ、どこにだしたらいいですかって」
「げ!この1.5リットルのボトル全部なの!!」
「どうやって入れたの?」
「……」
「からだににあわずあそこはかわいいからもんだいないっていってます」
「だからってこんなに…」
「君、僕にそれちょっと分けてくれない?この紙コップに。マフラー一枚あげるから」
「あ、インチキだぞ!」
「いいじゃないの、こんなにあるんだから」
「臭うからあっちに行ってやってよ、アハッ」
「それより、ステージまん前でかぶりついてる派手な女の人誰?」
「ユリのお母さんだ!」
「あくとくマネージャーだ!」
「僕のお母さんだ!」
「ねえ!まだなの?筋肉モリモリのいい男たちは!」
「早くしてよ。せっかく髪の毛セットしたのよ!」
「ちょっとあんた、今からヨダレ出さないでよね」
「何言ってるの!あんたこそ目が血走ってるわよ!!」
もうひとつの運命の愛 れいんさん
僕は最上階のバーで彼女を待つ…
足の組み方はこんな感じでいいかな
少し頬杖なんかついたりして…ちょっと危険な男のイメージで
え…?彼女って?
そう、もちろん、おちだりえさんさ
彼女の抑揚のない喋り方に何かインスピレーションを感じた…
もしかすると…これが運命の愛ってやつか…
スングクに頼み、彼女に渡りをつけてもらった
このチャンスはものにする
あっ彼女が来た
「やあ」
「お待たせしたかしら」
「いや、君を想いながら待ってる時間は僕にとっては甘いひとときだったよ」(あ・ま〜いっ!)
「さあ、かけて。…あ、そこの君。こちらのレデイにロマネコンテイエを…
支払いはシーワールドグループで…。え?ツケはダメ?…あ、そう…」
「…ところで、早速だけど…君はお仕事は何を?」
「ギャンブラーとマイケルの愛人ですわ」
「…え?そ、そう。なかなかスリリングなお仕事だね…で、ご趣味は…?」
「…殿方の誘惑かしら…」
「…え?そ、それはまたハイセンスなご趣味だ…と、ところで…僕も君もオールインには出演していたけど、絡みはなかったね
僕が思うに、あれはキャステイングのミスだと思うな。僕らが出会っていれば、当時のイナ達よりナイスカップルになったと思うんだが」
「…そうかしら…?」
「僕はこの通り、シーワールドグループの御曹司だし、ルックスも…まあ、見ての通りだ
年の離れたマイケルさんよりずっと君にふさわしいと思うんだが…」
「…まあ…確かにマイケルのファッションセンスにはついて行けない時もあったわ…」
「…ゆっくり考えてくれたまえ。心が決まったら僕のエグゼクテイブスイートに電話してくれたまえ」
「…考えてみるわ…」
「…じゃあ、二人の運命の出会いを記念して…君のその…眠そうな瞳に乾杯!」
◇似たもの同士 妄想省家政婦mayoさん
「テスシ、後で中庭で特訓ね」
「やだっ…できないもん…」
「最後くらいちぇみと踊ろうよ…ん?」
「…..ぅん…ちゃんとできるようになる?」
「大丈夫だから」
「わかった…」
闇夜とテスは歩きながらサンバの振りを練習している
僕とちぇみは2人の後ろを歩いていた
「邪魔しないでくださいよぉ…」
「いい加減止めないとお前達の唇が腫れる…ぐはは…」
「もぉ…誰のせいだと思ってるんですか」
「お?俺か?」
「見たんですっ!さっき!..廊下で!」
「ありゃりゃ…見ちゃったの..^^; 」
「それも…2回もハグって…」
「えぇ〜ぃ…妬けたか」
「そりゃ…妬けます…少しは..」
「いーじゃん…たまにはハグさせろ、テソン」
「ぅーん…ギュー#ハグは駄目ですよ…」
「ギューハグしたらつぶれるだろ」
「って?」
「ん…あいつはカラダ全体がやわらかぁ〜い…」
「ちょっとぉー手つきがやらしいっ!」
「お、お、すまん…」
「揉んだりしてないですよねっ!」
「お?いいのか?」
「駄目っ!それは僕だけっ!」
「ぐはは…お、テソン、ち◎うは?」
「ちぇみ!」
「冗談だっ!」
「っていうか…コロサレたいならどうぞ…」
「な、何っ!す..すごいのか…ぅーむ…コロサレてみようか…」
「もぉー!テスに言いつけますよっ!」
「あ、あ、駄目それは駄目…」
「テスはちぇみの泣きどころ」
「あたりまえだっ」
「もぉーオヤジなんだから」
「悪いかっ…俺はお前等の兄貴で…オヤジみたいなもんだっ」
「ちぇみ…」
「まっ、たまに情けないオヤジになるけどな」
「僕らは格好いいちぇみも好きだし目じり下げっ放しの情けないちぇみも好きだよ」
「ふっ….そんな顔になれたきっかけは…お前たちじゃないか」
「そういわれれば..そうですね」
「テソン…」
「はい…..」
「闇夜を幸せに出来るのはお前だけだ」
「ちぇみ…もしかして」
「ん…」
「僕の気持ち…見越してたの?」
「俺も馬鹿じゃない
お前の気持ちを知ってて闇夜にちょっかい出せるかっ」
「あ、ぁふ…」
「ん…お、テソン」
「はい?」
「また単車に乗せてもいいか?」
「もぉー!闇夜がOKならどーぞっ!テスはどうするんですか…」
「ん?テスとかわりばんこ…駄目?」
「僕はずぅーと車ですか?」
「そうだ…いかんか?」
「っこのっスケベオヤジ!」
「だはは…」
「テスシ…何かやらしくない?あの2人」
「しょうがないんだ…ちぇみ、スケベオヤジだからさっ」
「男はみんなスケベじゃん」
「僕は違うよ?」
「何、どこが違うの…」
「僕は"ちょっとえっち"」
「テスシらしいね..」
「でしょ?えへっ…テソンさんは…」
「あやしい…アヤシイ…怪しい…妖しい…どれかな…」
「んっとね…テソンさんがアヤシイ、mayoさんは妖しい..」
「むぉっほっほ…ぴったりだわ〜」
『まよ、メイ!』
『お?なに?』
『あんたたち4人組見えないから…』
『今ホールに戻るよ…あ、メイ』
『なに?』
『差し入れあるから、例の場所5分後!』
『アラッソ!』
闇夜はスケベとえっちとアヤシイ3人を残し先にホールへ急いだ
泣き面にハチ れいんさん
「室長!」
「あ…ヨンス…」
「室長、なんだか忙しそうね…いったいいつになったらこの祭は終わるの?」
「そ、そう?まだ始まったばかりだと思うが」
「私にとっては長すぎるわ。毎日あなたからの電話を待っているの…」
「…ヨンス。話はもう済んだはずだろ?」
「いいえ、私の中では何一つ終わってないわ」
「離婚届にサインしただろ?君はソンジェとやり直すんじゃないのか?」
「…それは、勝手にソンジェさんが…。ソンジェさん、今、音合わせしてるの。だから二人で話せるわ
あの人がいると話がややこしくなって…。私、あなたと別れるなんて一度も考えた事ないのよ」
「…だって君、さっきヘブンのソンジュ君と…」
「あれは…ただ、可哀想な人を放っておけなかっただけ。あなたもそんな私の事よく知ってるはずよ」
「とにかく…僕の気持ちは変わらない。もう後戻りできない時もある。わかるだろ?ヨンス」
「…あなたはいつもそうやって、一人で壁を作って私を突き放すのね
今までもそうだったわ。私を巻き込みたくないからなのね…」
「いや…だから…ふう〜(前髪フー)僕は今忙しい。それに、今こんな話をする気分じゃない…。悪いがもう行くよ」
「待って!…話はまだあるの…室長、なぜお部屋の中でそんなサングラスしてるの?」
「え…?いや、これはその…僕の尊敬する方に頂いたサングラスだから」
「そのサングラス…はずして見せて」
「…何を言ってるんだ」
「私にあなたの目を見せて」
「どういうつもりだ、ヨンス」
「私は鼻が利くのよ。あなたの変化に気づかないとでも?」
「う…」
「きっとそのサングラスの下はガラスの目玉ね。…何かあったのね。いつも一緒にいるあの人はどうしたの?」
「え…」
「…そう…。ねえ室長、あれはちょっとした心の迷いだったのよ。家に戻って来てくれたら、全てが元通りうまく行くわ」
「それはできないと言ってるだろ」
「室長は、泣くのも笑うのも僕の前だけにしてくれって私に言ってたでしょ
あれは嘘だったの?あなたは誰かの前で泣いたり笑ったりしてるの?」
「君だって…誰の前でも泣いてるじゃないか」
「そ、それは…花粉のせいよ」
「…ふう〜(前髪フー)もうよそう。すまないがわかってくれヨンス。僕はもう行くよ。じゃ…」
「室長!待って室長!室長おおおおおお〜!」
泣き崩れるヨンス
♪道に倒れて誰かの名を〜(BY中島みゆき)
(私が諦めると思ったら大間違いよ
何枚だって離婚届け破ってやるわ
私は忍耐強い女…。室長…私と根くらべよ
いつまでも待ち続けるわ。…あ・な・た)
ギョンジンの扱い ぴかろん
「てじゅ…あいしてる…」
「わかったから…」
「あのしゃ…ギョンジン…」
「ん?」
「ギョンジンどこ行った?」
「…知らない…」
俺とテジュンがごしょごしょ話していると吹き出したくて堪らないといった顔をしたスヒョンが俺のところに来た
「イナ…ギョンジンならホールの外にいる。祭を見るように言ったけど、中々入りづらいみたいだ。なんとかしてくれ」
「え…俺が?」
「お前しかいないだろ?」
「ん…てじゅ…いいか?ちゅれてきても…」
「しょぉがないなぁでへへへぇそんなかわいい声で言われちゃあぐふふふぅ」
スヒョンが堪えきれずに吹き出した
そして『よくやるよ…負けた…参った…僕にはできない…』と首を振りながら席に戻っていった
「てじゅ…おれ…いってきてもいい?」
「僕が呼んでくる」
「へ?」
「お前こんな足じゃないか…座ってなよ…な?」
「てじゅ…やしゃしい…」
「キヒヒ…じゃあ待っててね」
「…ん…」
…チョロいな…
あ…いけない…こういう事思うからまたああなってこうなって…気を引き締めよう…
「あの…総支配人は…」
オ支配人が話しかけて来た
チョングそっくりだなぁ
「はい…なんですか?」
「その…貴方に夢中ですね…」
オ支配人はにっこり笑って俺を見つめた
もっと違うことを言いたいんだろうけど…
「いえ…俺の方が夢中なんです…」
「そうですか?あの方は貴方の事ばかり考えてますよ。どうか一つ、浮気の方は…」
「…俺…気を引きたいのかな…もしかして…」
「は?」
「…あ…いえ…こんなにかまってくれてても…もっと…」
欲しくて…欲張りだな…俺って…
優しすぎるんだもん
もっと叱ってくれてもいいのによ…
「あの方は優しいですか?」
「へっ?あっはいっ優しすぎます…」
「もっと叱ってもらいたい?」
「…なんでわかるんですか?」
「んーチョングから色々聞いてますからねぇ…無鉄砲だし仲間思いだしって…」
「…はあ…」
「叱ってくれる女性に弱かったのになぁって…今じゃアレだもんなぁって…」
「…はあ…」
「時々叱ってくれるんでしょ?」
「…叱るっていうか…」
責めて攻めてるよな…
「仲がいいですね…でも…トイレではちょっと…あと…絨毯の上もちょっと…ハウスキーパーが愚痴をこぼしてましたから…」
「…すみません…」
俺はちょっと恥ずかしくなった
「イナ、つれてきたよぉん」
でれでれしたテジュンの声がちょっと恥ずかしい
ギョンジンの顔を見たらまん丸の目をテジュンに向けていた
俺は隣の席をポンポンと叩いて奴を座らせた
「大丈夫だった?」
「…え?あ…うん…スヒョンさんに…謝ろうと思ったんだけど…やっぱ怖くて…でも…頑張ったよ…
したらね、祭を見ていけって。その後でギョンビンと話す機会を設けるって…それに…」
柔らかな表情で嬉しそうに話すギョンジンを見て、俺はやっぱり嬉しくなった
「僕を信用してくれるって…そう言ってくれた…。嬉しかった…」
そう言ってはにかんだ
ギョンビンにそっくりだ…
俺はギョンジンを抱きしめた
後ろでテジュンがビクっと動いたけど、ごめんなテジュン、我慢してくれ、後で埋め合わせすっから…
「ギョンジン、頑張ったな、偉いぞ。イイコイイコ」
「馬鹿…」
笑いながらもギョンジンは俺の肩に顔を埋めてじっとしていた
テジュンの顔を見るのがちょっと怖いけど、さっきテジュンにしてもらったのと同じ事をギョンジンにしてやってるんだよ!わかるだろ?
俺は背中でテジュンに語った
見てるかどうか知らないけどさ…
「イナ…本当にありがとう…」
「まだまだ、これからが大変だかんな、なっ」
「イナ…心細くなったらさ…」
そう前置きしてから俺の耳に囁いた
「抱きしめてくれる?テジュンさんに内緒で」
「内緒だと怒るんだ、こえぇんだよ。だからちっと断ってから抱きしめてやる。俺もテジュンに秘密作りたくないし…散々つらい目に合わせたしさ…」
「…ふ…許してくれるの?」
「ああ」
「どうやって仲直りしたの?」
「…といれ…」
「トイレ?連れション?」
「まあいいじゃねぇか…」
「それと…手とか繋いでも…いい?」
「なに甘えたさんになってんだよ」
「…だめならいいよ…」
「んばか。手ぐらいいくらでも繋いでやる」
「それからさ」
「まだあんのかよ!」
「頑張ったら…さっきみたいに…撫でてくれるか?」
「僕が撫でてやる!」
テジュンが引きつった笑顔で俺たちの後ろから顔を突っ込んだ
「テジュン…いや、ギョンジンは俺になでなでして貰いたいんだよ…なっ」
「えっ…あ…その…テジュンさんにそんななでなでしてもらうなんて厚かましい事」
「いーえっ!イナがそーゆー事してるの見るのちょっとイヤですからっ僕がしてあげますから僕に言うんですよいいですねっ!」
「…は…はい…」
テジュンは自分の席に戻った
テジュンにそう言われたギョンジンは、なぜか少し微笑んでいた
俺はちょっと面白くない…
面白くないのでギョンジンに呟いた
「お前さ、気合入れたかったら言えよ。ちょっとぐらいならキスしてもいいって言われたからさ…」
「…」
「な?」
「…テジュンさんにしてもらおうかな…」
「なにっ?!」
「クフン…」
「お前、絶対元々性格わるいだろっ!」
「クフフ冗談だってばクヒヒ」
くそったれっ!
横を見るとテジュンもクスクス笑ってた
ばかっ!
誰も知らない ぴかろん
俺のこと、誰もかまってくれないな…
いいんだけどさ…ミンジちゃんとこそこそ会ってるから
今ミンジちゃんの兄貴のキツネが弱っててさ、チャンスなんだよなぁ
でさ、こっそり抜け出してそろそろ俺たちもキメたいなってリゾートホテルに連れてった
スヒョンさんがよく利用するってとこさ…
したらさ…
コワモテのホテルマネージャーがいたんだよ
んでミンジちゃん、そいつと知り合いみたいでさ…
仲良く喋っててさ
俺、ミンジちゃんにも構ってもらえなくてさ
んで、もう戻らねぇとキツネが怒るからってミンジちゃんに言ったんだけどさ…
「一人で帰りなよ、わたし彼とご飯食べる約束したからウフ」
って、俺の前では見せた事のない色っぽい笑い方してさ…
傷ついたな…
黙って車に戻って1時間ぐらい待ってたんだけど帰ってこないしさ
車のハンドルんとこでナイフタンタンやった
ハンドルがボコボコになった
この車だれのだっけ…シルバーのベンツだけど…
ちぇ…キメられなかったぜ…
もしかして潮時なのかな…
つまんねぇなぁ…
BHCのみんなはラブラブしてるしな
余ってる奴、いねぇんだよ…
女もいねぇし…
いや、俺は基本的に女がいいんだよな…うん
はあん…
しばらく我慢してたからそろそろ…パワー全開できる相手探そうかな…やっぱミンジちゃんだと…
あとでキツネこわいしさ
それに結婚したら…あのハニワ男が義理とはいえお兄さんになったりするし
ああ、キツネもお兄さんとか言わなきゃいけないし
やっぱ…潮時だな…
俺はもう一度ホテルのフロントに戻って
「アデュー」
と書いた紙を彼女に残してホテルに戻った
祭の前日の事だった
【21♪…M…】ロージーさん
ランナウェイ オリーさん
なぜ兄さんがイナさん達と一緒に…
それもあんなに楽しそうに…
兄さんはいつでもそうだ
僕がなくしたものを簡単に手に入れる
僕が持っていたものを簡単に奪い取る
僕はここからいなくなるのに
何で今さらイナさんと親しくする必要があるのか
またざわざわと頭の中に黒い雲が湧いてきた
僕がどんな気持ちでここにいると思ってるんだ
雲はどんどん大きくなる
兄さんのせいじゃないけど
僕が捨てられたのは
兄さんが悪い訳じゃないけど
僕が遊ばれたのは
でも、でもそんな風にイナさんと
くっつかなくてもいいじゃないか
どうして僕の神経を逆なでするんだ
だって…彼とイナさんは親友なんだ…
大きくなった黒い雲が僕を押しつぶそうとする
なんで僕はここにいなくちゃいけないのか
逃げたらだめだなんて言ってるけど、
罰なんだろう、兄さん
試練だなんてかっこつけてるけど
わかってるんだ
兄さんのいつものやり方だ
きれいな理屈の裏に残酷なトゲがある
僕をさらし者にしたいんだろう
本気で心配してくれてると思ったけど、
兄さんに助けを求めた僕が間違ってた
今まで何度同じ思いをさせられたか忘れてたよ
もう十分罰は受けた
兄さんの知らない場所で兄さんの知らない恋人作って
そして捨てられた
でもそれで罰はそれですんでるはずだ
決めたよ
僕はもう誰にも助けを求めない
「ドンジュンさん、喉乾きません?何か買ってきます。何がいい?コーラ?コーヒー?」
「僕はコーラ」
「スヒョンさんは?」
「そうだな、僕はコーヒー。でもドンジュンに買いに行かせるよ」
「大丈夫です。すぐ戻ります」
僕はそう言うと会場を出た
スヒョンさんが僕の姿を目で追っていた
飲み物を買う途中でフロントに立ち寄り話をつけた
バイトだというベルボーイの男の子は面白そうに瞳を輝かせた
「頼んだよ、10分後に。時計を合わせよう」
「何だか本物のスパイみたい」
彼はワクワクして言った
「ちょっとしつこい相手をまくだけなんだ。悪いね」
そして飲み物を買うと席に戻った
僕の顔を見たスヒョンさんが安堵のため息を小さく漏らした
すみません、スヒョンさん、約束を守れなくて
9分経ったところで僕はスヒョンさんを振り返った
「財布がないんです。たぶんさっき落としたんだ。ちょっと見てきます」
それだけ言うと、さっさと席を立った
後ろからドンジュンさんが何か言ったけど
僕はどんどん進んで会場の外に出た
10分ちょうど
僕は会場の入口と反対側の柱の陰に隠れた
カメラの位置はわかってる
ここは死角だ
スヒョンさんとドンジュンさんがドアを開けて出てきた
僕はベルボーイの彼に合図をした
メインエントランスへ向かって彼は勢いよく走り出した
スヒョンさんとドンジュンさんが走っている彼に気づいた
そして彼を追った
特殊部隊の女の子も無線で叫びながらメインエントランスへ向かった
Good job!
僕はショップの脇の通路を走って裏口へ出た
待っていたタクシーに乗り込み体をうずめた
「空港まで大急ぎで。乗り遅れそうなんだ。チップははずむよ」
運転手は小さくうなずいてアクセルを踏みこんだ
「さよなら、兄さん、そして……」
僕は喉まで出かかった彼の名前を飲み込んだ…
【22♪Run away 】ロージーさん
古傷 ぴかろん
…チェミが闇夜のことを「ぽよよん」とか言って嬉しそうな顔をしたとき、僕ちょっと…ううん…すっごく寂しかった
だって僕は「ぽよよん」としてないもん…
トイレに行くと言って少し蜘蛛さんから離れた
トイレの鏡の前で自分の顔を見つめた
そう、僕、ここんとこにキズがあったんだ…
今あんまり見えなくなってるけど…
僕は何だか少し、気持ちにトゲが出てきたみたいで
自分の爪で頬のキズを…昔のキズを…引っかいた
薄く血が滲んだ
昔の僕みたいだ
突っ張っていきがってたあの頃…イナさ…イナに勝負を挑んではボコボコにされてたあの頃の僕…
僕は鏡に向かってフフっと歪んだ微笑を浮かべた
こんな僕をちぇみは知らないよね…こんな僕を見たら、ちぇみ…なんて言うかな…
それとも何も気づかない?
僕はちょっとだけ心を固くしてちぇみの元に戻った
ジュンホの考え れいんさん
いなさんとてじゅんさんはなかよしだ
せまいといれに、いっしょにはいったりする
ちゅうこうせいくらいのおんなのこは、よくといれに、いっしょにいったりするらしい
でも、なかにまでは、いっしょにはいったりはしないとおもう
よっぽど、あのふたりは、なかがいいんだな
お・しはいにんのとらんしーばーからも、ふたりのこえがきこえてた
ああとか、いいとか、ううとか…
はっせいれんしゅうでもしてるのかな
でもぼくは、だんだんあのふたりが、ただのなかよしとはちがうようなきがしてきた
だいのしんゆうなのかな…
なんだかそれも、ちょっとちがうようなきがする
だって、いなさん、いやだとか、やめてとか、やめないでとか、もっととか、いってるし
てじゅんさんも、おしおきだとか、こうしてやるとか、もういっかいとか、いってるし
なにかのとりあいのけんかでもしてるのかな
…だけど、ぼくはやっぱりあのふたりは、こいびとどうしなのかもしれないとおもうんだ
それがいちばんぴったりする
おとこのひとたちのこいびとどうし…
ちょっとふしぎだけど、ぼくにはむずかしくてよくわからないけど、
でも、かみさまがだめっていったわけじゃない
おとこのひとがすきになったひとが、おとこのひとでもいいとおもう
そのひとたちがしあわせなら
ぼくは、びーえっちしーのみんながだいすきだ
だれがだれをすきになっても、ぼくのだいすきななかまにかわりはないんだ
つむじ風 ぴかろん
ギョンビンが飲み物を買ってくるって席を立った…
僕は隣のギョンビンにはりついていたから、ギョンビンの心の動きがよく解る
飲み物の話が出る前に、ギョンビンはイナさんの方をちらっと見てた
それからだ…
普通を装ってたけど僕には解る
ギョンビン、動揺してる…ううん…動揺っていうより…怒り?なんだろう…いつものギョンビンじゃなかった…
僕はギョンビンが席を立つと同時にイナさんたちの方を見た
そして僕も腹が立った
イナさんとギョンビンの兄貴が、柔らかな空気に包まれている…テジュンさんまで一緒になって…
ギョンビンが苦しんでるのにあの兄貴ったら…
それに…イナさんまで…
怒りが抑えられなくなって、僕はイナさん達の席の前まで歩いていった
スヒョンが何か言ってたけど知らない
一言言ってやりたかったんだ
僕が目の前に立ったと言うのにイナさんとギョンビンの兄貴は俯いてクスクス笑ってる
むかつく
こいつのせいでギョンビンもミンチョルさんも苦しんでいるってのに!
「ちょっと!」
声をかけたら二人がハッとした顔で僕を見上げた
「なんだ…ドンジュンか…どうした?」
「静かにしてくんない?笑い声が耳につく」
「…は…そんなに大きな声で笑ってねぇぞ?」
「…苦しんで悲しんで辛い気持ちで座ってる人もいるんだよ!そんな場所で自分達だけ楽しそうに笑ってるのってどうよ!」
「…なに言ってるの?お前…」
「イナ…」
ギョンビンの兄貴は僕の事まともに見ない
俯いてる
心なしか震えてるみたいだ
スヒョンがコイツの事を何か言ってたみたいだけど僕はギョンビンが心配で聞いてなかった
「イナさん…そんなにこの人のキスはよかったの?」
「…は?」
「コロッと騙されちゃって…なにさ!テジュンさんがよく許してくれたね」
「…ドンジュン…」
「ギョンビンがどんな思いしてるか知ってる?ミンチョルさんがどんだけ苦しんでるか知ってるの?」
ギョンビンの兄貴は俯いて震えてるだけ
何も言わない
腹が立つ
「あんたはいいよね。弟を連れて帰ればいいだけだもん、弟の気持ちも、その恋人の気持ちも
僕達の気持ちも全部切りすてりゃいいんだもん!」
「ドンジュン…」
「イナさんだってなんだよ!ミンチョルさんの親友じゃないの?!何こいつのキスにとち狂ってんだよ!
テジュンさんの事好きなんじゃないの?なんでテジュンさん一筋になんないのさ!浮気者っ!浮気者の裏切り者っ!」
「ドンジュン君、イナは…」
「テジュンさんはすぐに騙されるんだ!イナさんもコイツも善人を利用してるんだ!違う?
あんたたちのせいで苦しんでる人がいるってのになんであんたたちだけそんな楽しそうなんだよ!許せない!」
ドンジュンの気持ちはわかる
ギョンジンはまだみんなに詫びを入れてないから
でも俺はドンジュンの言葉にカチンと来た
俺はドンジュンの胸倉を掴んだ
「なんだよっ!僕の言ってること間違ってるっての?」
「お前はまっすぐだよ!ギョンビンの事もミンチョルの事も一生懸命考えてやって何とかしてやりたいと思ってるんだろ?わかるよ
けどなぁ。お前一度だってコイツの事考えた事あるか?!こいつが今俺の横で笑ってるのは、やっと笑えるようになったからだ!
それに、悲しんでる奴がいるからって俺たちまでなんで笑っちゃいけないんだよ!お前、何様のつもりでそんな事いってるんだよ!コイツはなあっ」
「イナ!…いいんだ…僕が悪かった…スヒョンさんに…あとで時間を作るといわれた…それまで祭を見ていろと…」
「はぁ?何言ってんのさ!時間作ってまたギョンビンとミンチョルさんを苦しめるだけだろ?!」
「ドンジュン、みんながみんな、お前みたいに思ったことすぐに口にできやしないんだ。こいつは」
「イナさんは誰の味方なのさ!僕ら仲間じゃないの?」
「…」
「なんでコイツの肩もつんだよ!裏切り者!」
俺はドンジュンの頬を平手で殴った
その時スヒョンが飛んできた
言葉が出てこなかった
悔しくて涙が溢れた
ドンジュンはスヒョンに引っ張られて席に戻った
テジュンが俺の背中を擦る
ギョンジンはすまなそうに俯いて黙り込んでいる
「イナ…もう少し時間をかけよう…な?」
俺は逃げ出しそうなギョンジンの手を左手で、俺を抑えてくれるテジュンの手を右手で握り締め、必死で涙を堪えた
「イナ…」
「テジュン…ギョンジン…俺…悔しい…辛い…。俺…ギョンジンの気持ちがめちゃくちゃ解る…」
「イナ…僕の気持ちなんて…解らなくていい…僕はお前に迷惑ばかりかけてる…すまない…すまない…」
「信じてもらえないのって…誤解されるって…それも…俺の大事な仲間によ…こんな辛いことだったのかよ…うっ…くぅっ…」
「イナ…大丈夫だ…ちゃんと話しすれば解って貰えるから…な?」
ぼろぼろ流れる俺の涙をテジュンが拭ってくれた
隣でギョンジンも泣いていた
「ぜってぇ俺が守ってやる…ぜってぇ解らせてやる、お前のこと…」
「僕も手伝うよ」
テジュンは優しく微笑んで俺とギョンジンを見つめてた
ありがと…テジュン…
風の余波 足バンさん
僕はスヒョンに無理矢理引っ張られて席に押し込められた
スヒョンは冷たい目で僕を睨んだ
荒げぬ声で威嚇した
「おまえなにやってるんだ」
「なにってなにさ」
「みんなが苦労してほぐそうとしてる紐からめるな」
「なに言ってるのさ、一番の犠牲者はギョンビンなんだよ」
「一番も二番もないんだ!子供みたいなこと言うな」
僕は猛烈に頭に来た
掴まれている手首をはずそうとしたが離してくれない
「僕はみんなみたいに大人じゃない」
「真っすぐ進めばいいってもんじゃないんだ」
「ちょっと僕ミンチョルさん呼んでくる」
「だめだ!」
「なんでよ、悠長なこと言ってたらまたどうかなるよ」
「ミンチョルは兄貴だけの問題じゃないんだ。あいつ自身の問題にケリをつけなくちゃいけないんだ」
「…」
「わかるか?」
「わかるよ。スヒョンのミンチョルさんへの思い入れがね」
そう言うとスヒョンは凍ったような哀しげな目で僕を見た
また言ってしまった…そう思ったが遅かった
スヒョンが僕の腕を離した時ギョンビンが戻ってきた
僕たちは別れて間にギョンビンが座った
ギョンビンの向こうにスヒョンの凍ったままの横顔が見える
僕の頭と心臓はぐるぐるしていたが目をつむって落ち着こうとした
そんな僕をギョンビンが覗きこんだ
「これ僕のおごりです」
「そうなの?」
「うん…ありがとう…いろいろと…」
「スヒョンさんもありがとうございました。ご迷惑かけて」
「じゃぁこの珈琲もごちそうになろうかな」
「もちろんです」
そしてギョンビンはもう一度僕を見てありがとうと言った
なにかおかしい
そしてそれは唐突に起きた
「財布がないんです。たぶんさっき落としたんだ。ちょっと見てきます」
「ギョンビン!ちょっと待ってよ」
僕とスヒョンは顔を見合わせ同時に立ち上がった
飲みかけのコーラが床に落ちた
弟 ぴかろん
俺の背中を擦り続けてくれたテジュンのおかげで、ようやく気持ちを落ち着かせる事ができた
ドンジュンの言うことは解る
俺だってついこないだまではギョンジンの事をあんな風に思ってた…
でも今はコイツの事がよく解る
テジュンに告げられた別れ、ドンジュンに言われた言葉…
俺は自分の言葉を呑み込んではいない
ちゃんと相手に伝えたつもりだった
それでも伝わらないし誤解されるんだってこと、よく解った
こいつは…伝えなかったんだ…だから…こんな風に…
どうやってドンジュンに伝えればいいんだろう…
あのまっすぐ野郎に…
そんな事をぼんやり考えていたら、スヒョンとドンジュンが慌てて通路を走り抜けるのが見えた
何かあったのか?
突然ギョンジンが立ち上がった
「どうしたの?」
「僕…行きます…」
「どこへ!」
「…必ず戻るから…」
「どこ行くんだ」
「待ってて…」
ギョンジンはまっすぐに俺を見つめてそう言った
そしてこう付け加えた
「信じて…」
真剣なまなざしに圧倒され、俺は唾を飲み込み、ひとつ息を吸ってから口を開いた
「…馬鹿…信じてるさ…」
奴はちょっと眉を上げて、それから風のように会場から出て行った
僕には解る
僕の弟だから…
さっきドンジュンさんが僕達のところへ来て言った言葉
あれはきっとギョンビンの気持ちを伝えたかったんだ…
ギョンビンは僕達を見て、僕に怒りを感じたんだろう…
ギョンビンにとっても、ドンジュンさんにとっても、僕はまだ『ギョンビンの兄のミン・ギョンビン』なんだから…
あの人達はまだ、僕が『ミン・ギョンジン』であることを知らないのだから…
みんなを傷つけてほくそ笑んでいた『ミン・ギョンビン』なのだから…
僕のせいで思い悩んでいるミンチョルさんと弟…
僕はまだ、和んだりしちゃいけなかったんだ…
なのにイナとテジュンさんとスヒョンさんの優しさに甘えて…柔らかな空気の中に入りたくて…
みんなの癪に障るようなことをしてしまった…
外に出るとスヒョンさんとドンジュンさんがメインエントランスにいるのが見えた
違う
そっちじゃない
僕には解る
僕の弟だから…
僕と同じ仕事をしていた弟だから…
僕は頭の中のホテル見取り図を引っ張り出した
ショップの裏手…
あそこだ!
裏口にたどり着いた時、タクシーが走り去るのを見た
あれだ!
周りにタクシーはいない…
この通路はどうなっていたっけ…
確かカーブを曲がってこの真下をもう一度通るはずだ!
僕は道をつっきって、植え込みを抜け、ホテルの私道を確認した
思ったとおりさっきのタクシーが下ってくる
公道に繋がるその道に、僕は飛び降りた
キキイイッ
撥ねられてもいいと思っていた
でもタクシーは3mほど手前で止まった
運転手は突然降って来た僕に驚いて、固まっている
後ろの座席に座っていたギョンビンが運転手にお金を渡して降りてきた
「…どうして僕の邪魔ばかりするの?…」
氷のような瞳で僕を見下ろしてそう静かに呟いた
「行くな」
「また命令?」
「とにかく…話をしよう!」
「今度はどんな理由をつけるの?僕のため?僕の将来のため?!」
「ギョンビン…」
「兄さんはいつだって僕のやりたい事を邪魔する!僕の欲しかったものを横取りする!何が目的?
ミンチョルさんが欲しいの?!僕は捨てられたよ!僕も彼を捨てた!欲しけりゃ取りにいけよ!僕はここから消える
それでいいんだろ?それで満足なんだろ?」
「ギョンビン!落ち着いてくれ」
「兄さんはいいよ、いつだって冷静だもん!どうやってイナさんに取り入ったのさ!イナさんに口聞いてもらうの?!
ミンチョルさんと仲良くなるためにさあ!」
「ギョンビン!…違う!ギョンビン…」
「もういやだ!兄さんのいないところに行く!」
「ギョンビン!」
「僕は兄さんの操り人形じゃないからねっ」
「わかってるよ!」
「…わかってる?何がわかってるのさ!いつもいつも僕をコントロールしてたじゃないか!」
「すまなかった」
「…」
「僕が悪かった…僕が…ずっと…ごめん…ごめんギョンビンごめん…」
「…」
「どうしたら今までのこと、許してもらえるだろう…いや、いや違う…許さなくていい…
けど…わかってほしい…僕は間違っていた。僕は…狂ってた…
祭の終わった後、お前やミンチョルさんや、みんなにきちんと話して謝ろうと思ってた…
ギョンビン…行かないでくれ…僕と一緒になんか行かなくていいから!ここに残ってていいんだから…」
「もう遅いよ…ここにいる理由なんか、もうない!ここにいたって仕方がない!」
「僕がミンチョルさんに話す!なんとかする!お前を傷つけたことも謝る…だから…」
「…」
「ギョンビン…会場に戻ろう…なっ?」
「…こんどはどういう作戦なの?」
「…え…」
「新しい罠だね、それも相当手の込んだ…」
「…ギョンビン…」
「もう兄さんの手口には乗らないよ…」
「ギョンビン、違う、待ってくれ、僕は…僕は…」
「なに?『僕はお前の事を思って』かい?」
「僕を…信じてくれ…」
「信じられると思う?!何度裏切られたかわかんない!殺されかけたことだってある!兄弟だからと思って黙ってきたけどもういやだ!
僕が不幸になれば兄さんは幸せなんだろ?!そうだろ?!」
「…ギョンビン…」
スヒョンさんとドンジュンさんが走ってくるのが見えた
二人は俯いて泣いているギョンビンの腕を掴んで会場に戻っていった
スヒョンさんが僕を振り返ったけど、僕は涙も流せずに突っ立っているだけだった
『信じてもらえないことがこんなに辛いことだなんて…』
僕は…イナの気持ちが…よく解った
◇愛しいお前1 妄想省家政婦mayoさん
闇夜が僕たちを残していった後テスがトイレに行った
僕はテスの口元がちょっと歪んでいるのを見逃さなかった
隣にいたちぇみはそれにいち早く気づいていた
「調子に乗って喋りすぎたな..」
「そうみたい..ごめん..ちぇみ..」
「いや、お前のせいじゃない..テソン、先に行っててくれ..」
「わかった..」
僕が廊下の先を曲がると闇夜がいた
「お?メイは?」
「ん、ちょっと後にしてくれって言われて..それに..」
「ふっ..さすが勘がいいな..テス..か?..」
「寂しそうな顔してた..さっき..マズイなと思って..」
「戻ろう..」
「ぅん..」
僕と闇夜が戻るとちぇみがテスの腕を引っ張って歩いて来た
通り過ぎる時、ちぇみは僕にちょっと目で合図をして
「ついて来るなっ#」
と僕たちに言い放った
ちぇみの目はちょっと悲しそうで..テスは僕たちを見ずに俯いていた..
☆.。.:*・°☆★
俺の前でテスは歪んだ顔をほとんど見せない..
いつも無邪気に優しい笑顔で俺を見ている
そんなテスから俺はいつも安らぎを感じている
テスがトイレに行く横顔を見..しまった..と思った
テソンと一緒になって、調子にのってべらべらと
スケベおやぢのノリでくっちゃべってしまった
一応オンナの闇夜の◎ほにょほにょ◎などテスの側で
言うべきではなかった..
案の定トイレから出てきたテスは身を固くして出てきた
俯いて出てきたテスの顔を両手で挟んで覗くと
俺がいつも唇で優しくなぞってやる頬の傷に血が滲んでいる
手を掴み指を見るとつめの間に引っ掻いた時の血が入り込んでいた
俺と過ごすようになってからは昔を思い出すような
こんなことはしないでいたはずだ...
俺はいつものようにテスの頬へ唇を落とそうとした
テスは顔を歪め両手で力いっぱい俺の胸を押した
「テス...」
テスは何も言わず唇を噛み俺をじっと見ている
ハリネズミのように全身にトゲをピン#と張っていた
俺はテスの手を引っ張りズンズンと歩き出した
途中心配そうにしているテソンと闇夜が目に入った
そばにテソン等がいればテスは本音を俺にぶちまけないはずだ
俺はテソンに『マイク』と合図をし「ついて来るな」と言った
日々の甘ったるいやり取りで俺は大丈夫だと思い込んでいた
テソン等と同じように俺とテスも4人で暮らす前に
片付けなくてはならない事だった
ドアを出て中庭の大きな木の下へ来た
俺が先に胡座をかいて座った。テスは突っ立ったままだ
「座れっ..」
「……」
「いいから、座れっ#」
俺の声にぴくん#としたテスは俯いたまま
俺の前に胡座をかいて座った
頬へ手を伸ばし、赤くなった傷にふれた瞬間
テスは俺の手をぴしゃりと祓った..
いつもなら真っ先に俺の懐に飛び込んで..
俺の髪をくちゃくちゃ掻き回して..
俺の首に巻きついて甘えるくせに..
「僕に触らなくていいよっ!」
「テス..」
「僕なんかの心配なんかしなくていいよっ!」
「テス..」
「無理に僕に優しくしなくていいっ!」
「俺は...無理にお前と一緒にいるわけじゃないぞ、テス..」
「……」
ちぇみは穏やかに響く低声で僕に言った
僕はちぇみのちょっと寂しそうな目を見ていた
【23♪Club MOUSOU】ロージーさん
じゅんほのちょうさ ぴかろん
まだまつりがはじまるまえのぼくのべんきょうとけんきゅうはっぴょうを、ぼくはかってにやっています
だってまつりがはじまったけど、ぷろぐらむはすすんでても、またまえにもどったり、じかんがとまったりしているようにしかおもえないからです
それではきょうのけんきゅうをはっぴょうします
すはせんせいにきいたら
「それは文化人類学かもしれないね。いや待てよ、経済にも繋がるかもしれない。うーん…心理学かなぁ…」
といってかりあげたところをしきりにかいていました
『じこしょうかいをしてください。とくぎとしゅみをおしえてください』
ぼくはこうかいたかみをみなさんにわたしました
いなさんがやっていたあんけーとをまねしてみたかったのです
でもいなさんのやっていたあんけーとは、いみがわからなくてこまりました
なんのやくにたつのかもわかりませんでした
ぼくのあんけーとは、しゅうけいしたら
「印刷してみんなに渡そうね。僕もみなさんの事がわかってたすかるな…」
とすはせんせいがおっしゃってたので、やくにたちそうでうれしいです
「イ・ミンチョルです。趣味は仕事と傷つくこと。特技はガラスの目玉と虚勢を張る事かな?ああ、電話の耳切りも得意だよ
それから、洒落た言葉を並べ立てることもね。それと片手でボタンを外す事と、涙目運転三車線斜め変更。あと、走ることね、胸に板を入れて…。それから…」
それからのつぎをおしえてくれませんでした
なぞです
「ソ・テプン。趣味は野球と家族…最近読書。例の…ほら…アレを…ほら…。特技は手品と歌と野菜を切ることと一口でいろんなものを食べる事と体を曲げて走る事と
…うーん…あっ、じゃじゃ馬を馴らす事ヘヘン」
うるさいです
あれとはきっとぼくがしっているあれですね?ふふん
「ユン・ソクです。趣味ですか?…キス…かな?特技は…電撃…かな…ンフフ」
にやにやしていたのでこわくなってにげました
「イ・スヒョクです。趣味は…趣味は…チャレンジすることです。特技は…えと…んと…敵と仲良くなるこ…うっううっ…」
とちゅうであたまをかかえたのでやめにしました
「チェ・スヒョンです。特技は人を癒す事と愛する事…ンフ…ンフフ。趣味は…最近は…ホンモノの天使に振り回される事…かな…ふぅっ…」
さいしょはおもいだしわらいしてたのに、さいごはとおいめでためいきついてました
「カン・ドンジュンです。趣味?車でしょ?コマシでしょ?あとジジイいじめかな?特技は車でしょ?コマシでしょ?ジジイいじめかな?」
しゅみととくぎがおなじなんですね
「ミン・ギョンビンです。趣味は…狐のお世話をする事…です…。特技は家出」
いえでがとくぎかぁ
「シチュンです。趣味?オンナ。今はメイ。特技?…えっへっへっ…いっひっひっひっ…メイに聞いてくれよぉ〜へっへっへっ…」
いやです
「イム・デスです。デスデスだってアハハ。えっと趣味はねっ、チェミの懐に入ることでぇ…特技はぁパタパタ走ることでしょ?
それからポコポコ殴られることでしょ?それからんっとぉ…チェミをコマすことでしょ?んっとぉそれからぁ…あっこれこれ、くりいむぱんっ(^o^)」
たべたくないです
「ハン・テジュンです。趣味ですか?…え…えへへ…いろんな場所でトライすること…かなえっへっへっ。イヒヒ…あ…失礼…
特技ですか?特技…うーん…そうだなぁ…イナを泣かす事…かな?…くふ…グフフフ」
ちょっとあぶないです
てじゅんさんにはしつもんをしたかったのでしつもんしてみました
「といれにふたりではいるのはなぜですか?」
「へっ?ふっ二人でっ?」
「はい、まえにいなさんとはいってましたね。すぱーりんぐのようなきんとれのようなおとがしてました」
「きっ…気のせいだろ?筋トレとかスパーリングなんかしてないよっ!」
「じゃああのはっはっとかあっあっとかうっうっとかいうこえはなんですか?」
「…発声練習…」
「ふうん…」
めがおよぎだしたのでやめました
「キム・イナ。趣味?…キス。え?ソクもそう答えたの?気が合うなぁ…。特技?…あー、テコンドーだろぉカードゲームだろぉ…
あと…あ、テジュンを操ること。それと『危険なヤツ』となかよくなることかな?」
やっぱり。えらいなぁいなさんは…
しつもんしたくなったのできいてみました
「どうやってきけんなひととなかよくなるんですか?」
「んー、そうだなぁ。『危険なヤツ』と俺って、結構趣味が同じだったりするんだよな。だから趣味を通じて仲良くなる…かな?あ、テジュンが呼んでる。じゃあな…
てじゅ〜ここだよぉっ…あしがいたいからいけにゃいもんっきてよぉっ」
てじゅんさんをあやつるほうほうをみせてくれたんだな…
それときけんなひととしゅみがおんなじってことは…えっと…『きす』ですか?
『きす』をつうじてなかよくなるんですね
ふうん、さかなずきなんですね…
進む道 1 足バンさん
振り返るとギョンジンは亡霊のように立っていた
ドンジュンにギョンビンを連れて行くよう言って
離れて立っていたメイさんにもふたりを頼んだ
僕は坂を下りゆっくりとギョンジンに近づいた
「怪我はないか?」
「…大丈夫…」
「悪かった」
「…なにがです」
「僕がうかつだった。ギョンビンにまかれるなんて」
「スヒョンさんのせいじゃない」
僕はギョンジンの背中を押して歩き出そうとした
しかしギョンジンは足を止めた
ギョンジンはごくりと唾を呑み込んで俯いた
「無理かもしれない…弟と話すことなんて…」
「最初から諦めるな」
「でも今だって…」
「まだなにも始まっていない」
僕は人が変わってしまったかのようなギョンジンを見つめた
僕からはずされた視線の行く先になにがあるのか
僕はギョンジンの手を引き通路から芝生の中に移動した
「ちょっと抱かせてもらっていいか?」
「え?」
返事を待たずに僕はギョンジンを抱きしめた
硬いかと思った身体は思いのほかふわりとした感触だった
「目を閉じて…僕に身体を預けて…」
ギョンジンは言われるまま力を抜いた
少しは抵抗するかとも思ったが
こんな風にできるのもきっとイナのやつのおかげなのだろう
風がざわめいている
吹かれる木々の音がギョンジンの闇と一緒に入ってくる
正直言って怖かった
この男の抱えているものが深過ぎるような気がして
でももうここで止めないと不幸と誤解の連鎖は終わらない
彼の心は嵐のあとの夜の海だ
おさまらぬ風に波は落ち着きを知らず
砂浜には得体の知れないものが散乱している
暗く濁った海面は渦を巻き深海へとつづく
自分の想いを封じ込め、自分を見失ったことさえ知らずにいる
そしてそんな自分を認めるのが苦手なやつ
どこかミンチョルに似ている…そう感じた
吐き出す方向が違っただけなのかもしれない…
イナのように諦めず耳を傾けてくれる友人がいたら
彼の人生も違ったものになったのかもしれない
やはりこの男をひとりでどこかに行かすべきではないと感じた
僕は尚力をこめて抱きしめた
「さっきはよく頑張ってくれたね」
「…」
「もう一度言う。僕は君を信じている」
「スヒョンさん…」
僕は彼の瞳をしっかり見据え、息を整えてから言った
「ミンチョルと話してみないか?」
ギョンジンはひどく驚いて顔を上げた
「いつ…」
「これから」
「え…」
「これ以上こじらせたくない」
「でも…」
「無理か?まだ」
「何をどう話せばいのかわからない」
「君の気持を話せばいい」
「そんな…」
「今ならできるだろう?」
「…」
「イナの気持を形にしてやってくれないか?」
「…」
「やってくれるか?」
ギョンジンは僕の肩で小さく頷いた
僕はその陽炎のような肩をもう一度強く抱きしめた
僕にもこの時期のこの選択が正しいのかわからなかった
いや、正しい道なんてありはしないのだろう
とにかく一歩ずつ近づくしかなかった
僕たちはゆっくりと会場に向かった
続・筋肉番付 れいんさん
「お母さん、来てくれたの。ありがとう」
「ちょっと…ミニョン。人前でお母さんはやめてちょうだい」
「え?僕を応援しに来てくれたんじゃ?」
「あ…当たり前じゃないの」
「ざっと見てみたけど、僕レベルのベリーマッチョな奴はいないね。軽く優勝は頂きだ」
「そ、そう…。とにかくがんばりなさい」
…まったく、ミニョンがいるんじゃやりにくいったらないわ
〜場内アナウンス〜
そろそろ競技をはじめましょうかね
あたしゃ実況のキムざんす
解説にはケイン・コスギさんに来ていただきました
よろしくお願いするざんす
今回の種目は…バーンアウトガイズ…?
こりゃどんなもんざんしょ?ケインさん
「これはスピード系のタイムトライアルですね
反復横跳び、腹筋30回、10メートルの上りうんていの複合競技です」
って事はいろんな要素が要求されるってわけっすね
じゃ、選手の紹介いってみましょうかね
第一走者 ヘブン代表ソンジュ
第二走者 ポラリス代表ミニョン
第三走者 BHC代表ジュンホ
第四走者 男組代表ウオンビン
第五走者 MUSA代表ヨソル
え〜、尚、男組隊長とMUSA将軍は一身上の都合により欠場ざんす
じゃ、位置について…ピ・ピ・ピ・ピーーン!
おおっ!いきなり反復横跳び…ヨソルこけましたーー!!
やはり手足のバランスが悪いかあー?
ウオンビンはスタート地点の全身鏡をまだ見ています。出遅れてるざんすー!
やはり予想通り、ジュンホ、ソンジュがリード!
さすが抜きん出た反射神経ですな
ポラリスミニョンはちょっとマフラーが邪魔で跳びにくそうざんす!
…あれほどマフラーやめとけって言ったのに…
次は腹筋30回ー!
おおっ!早い!早い!
ここでも、ジュンホ、ソンジュがリード!
ミニョンはやっとマフラーが邪魔だと気づいたようです!
ターバン風に頭に巻きましたね
やはりこの3人の優勝争いになりそうですね
さあ!最後に10メートルの上りうんてい!
ああ〜!ここに来てソンジュ力尽きた〜!
やはり高い所にのぼるのは精神的に辛いようですな
チョンソもテファも高い所に行っちゃったしね…
おお〜っとっ!ジュンホ!早い!早い!ゴール目前っ!
ああああ〜!ここで火事場のバカぢから!ミニョンが追い上げます!
すごい形相ですっ!
これくらい演技も頑張れば…
いやいや、しかしあの顔は彼の家族には見せられませんな
おおおおーーっ!ジュンホを抜いたっ!
ミニョントップに躍り出たっ!
おお〜!ミニョン!!優勝おおお!!!
いやいやいや〜、意外にも彼の根性を見せつけられましたね〜
…え?審判の方…どうしましたか?
ドーピングの検査結果が出た?
え?…ミニョン…失格?!
◇愛しいお前2 妄想省家政婦mayoさん
わかってる..わかってるんだ
僕に優しくていつも僕を守ってくれて
暖ったかく包んでくれる懐も大好きさ
僕はいつもちぇみに甘えてるけど
照れくさい顔で僕に甘えてくる
僕にしか見せないそんな顔も大好きだよ
ちょっと大きい顔も、ごつごつした手も大好き
全部全部好きさ..
でも僕はおとこだもん..
おんなとのそれとは違うもん..
「無理してる...」
「テス..」
「僕なんかより本当は..おんなのほうがいいに決まってる..」
「さっきの会話気にしてるのか?」
「……」
「悪かった。ごめん..」
「ちぇみ..」
「何だ...ん?」
「4人で..4人で住むのだって闇夜がいるからじゃないの?」
「闇夜にはテソンがいる..」
「まだヤってないよ?あの2人..やればいいじゃん」
「ぁ..ぉ...」
「ちぇみがヤっちゃえばいいじゃんっ#」
「ぉ..ぉいっ#」
「おとこの僕よりきっといいよね..絶対いいよね..ふふん!...」
「んな..何を言い出すんだ..お前らしくない..」
ホテルに来たばかりの頃
俺は女ながらも見事な調査をする闇夜に正直興味を持った
闇夜が腹王の男組弟に絡まれていたときに助けたのも
そんな興味もあったからだ..
だが..闇夜の傍にまだ影の薄かったテソンの存在を見た
その頃からテソンの心は闇夜だけを見ていた..
俺は闇夜に手を出すのを止めた....
そして闇夜とテソンのおかげかテスに安らぎを感じた..
「ちぇみは好きな女には手出さないできた..」
「テス!」
「好きでたまらないのに好きな女にはいつも何もしなかったじゃない!」
「お前..」
「本当に好きなの、僕?おとこの僕?」
「ぁ..っぅ..」
「僕がいなくたっていいじゃん..3人で住めばいいっ!」
「おいっ!!」
「そうだね....どっち先だろう?テソンさん?ちぇみ?」
「あ、あぅ..」
「早い者勝ちだよ、ちぇみ!!」
「ぃ...いい加減にしないかっ#」
僕と闇夜はちぇみのコートの襟に仕込んであるマイクから
いつかは爆発するであろうと思っていたテスの本音を聞いていた
闇夜は黙って奥歯をかんで聞いている..
2人を幸せにしたいと思っている自分の存在が今2人を裂こうとする..
闇夜はそう思ってるに違いなく....
僕は闇夜を後ろからそっと抱いた..
闇夜は手を伸ばし僕の頭を自分の肩にのせた..
「これからの俺にはお前がいなければ意味がないんだっ
お前にはそれがわかってるだろっ#」
「わかんないっ!!..おとこの僕で満足してると思えないっ!!!」
テスは立ち上がると掴もうとした俺の手を払い..走り出した
俺はすぐテスを追いかけた
途中..横からテソンが出てきて俺を止めた
「離せっ!追いかけるっ!」
「待って..待って..ちょっと闇夜に任せて..」
「…??...テソン..」
少し遠目で見えたテスは後ろからガシッ#..と闇夜に押さえられていた..
進む道2 オリーさん
よしっ!ジュンホ君は頑張ったな。さすがだ
それにしてもミニョン君、やっぱりか…
大変だな、彼も色々…
そんなことをぼんやりと考えていたら肩を掴まれた
「スヒョン、どうした?」
「ちょっと来てくれ」
「急ぐのか?」
「ああ」
「今はまずい」
「いいから」
いつもとちょっと違うスヒョンの態度
どうした?
「いいから来てくれ」
「でも…」
「後はテジュンさんがやってくれる。とにかく来い」
スヒョンは僕の腕を取ると半ば強引に会場の外へ連れ出した
「何かあったのか?」
スヒョンは黙って会場の脇の控え室の前まで僕を引っ張っていった
「スヒョン、一体どうした?」
控え室のドアの前でスヒョンはやっと僕を振り返った
「中でギョンビンの兄貴が待ってる」
「何?」
「ギョンビンの兄貴が話があるそうだ」
「何言ってるんだ。彼と話なんかない」
「お前がなくても向こうがある」
「いい加減にしてくれ。冗談につきあってるヒマはない」
掴まれた腕をふりほどいた
もう二度と会う事はないと言ったじゃないか
それなのにまだぐずぐずしていて…
どうして早くミンを連れて立ち去ってくれないのか…
迷惑だ、これ以上
「大事な事なんだ、ミンチョル」
スヒョンがまた腕を取った
いつになく厳しい顔があった
でもだめだ
僕はかぶりを振った
「スヒョン、本当にもう勘弁してくれ。わかってるだろう」
「わかってるから言ってる」
「スヒョン?」
「お前にとっても大事な事だ。会って話を聞いてやれ」
僕はめまいがしてきた
これ以上何をどうすればいいんだ
これ以上…
額に手をやり下を向いていると唐突にスヒョンの両腕が僕を包んだ
「行って話を聞いてこい。そしてもう一度考えろ」
何を考えろっていうんだ
「お前の事、ギョンビンの事、もう一度考えてみろ」
もう考えた。答えを出しただろう
「別の道があるかもしれない」
別の道?
「そうだよ。お前自身のことも含めて」
スヒョン何があった?
「僕からは言えない。とにかく行ってくれ」
僕はスヒョンの顔をみつめた
「いいだろう?僕を信じてくれ」
スヒョンの目は怖いほど真剣だった
僕はスヒョンの頬に手をあてた
「わかった、話を聞くだけでいいんだな」
「ああ」
スヒョンはちょっと安心したようにため息をついた
「お前からの話じゃなかったら絶対行かない所だ」
「ひとりでいいか?僕も行こうか?」
「いつから僕のお母さんになった?」
「その調子だ。行って来い」
僕はドアのノブに手をかけた
少し考えてからスヒョンに言った
「お母さんに頼みがある」
「何?」
「そこで待っててくれ」
「わかったわ、ミンチョル君。いってらっしゃい」
「馬鹿…」
僕たちは笑った
ドアを開けるとだだっ広いテーブルの隅にミンの兄さんが腰掛けていた
僕を見ると弾かれたように立ち上がった
僕は息を大きく吐いて言った
「何かお話があるそうですが」
それから僕は彼の長い告白を聞くことになった