テソンのひとりごと  妄想省家政婦mayoさん

最近闇夜の背後に複数の影を感じる時がある…

闇夜は闇夜なんだけどぉぉぉ

僕が闇夜にふれるたび、
闇夜が僕にふれるたびに

ひぃぃ〜ん…
きゃーん…
きぃぃっ
オラオラ…
行け行け…
何をしとるんじゃぁ…

…ガヤゴヤガヤゴヤしてる…

でもいつも目の前にいるのは
闇夜で…
mayoシ...

僕の気のせいかな…

僕もちょっと替え歌作ってみた…
♪♪
誰のために耐えるの それは僕らのためよ
君のすべて 月光あびる その日を待ってるの
燃えるその日待ってる 僕の愛の忍耐
きっとその日ひとつになれる それを夢見てる僕

涙なんかいらない いつでもほほえみを
そんな君が好きだと ぼくがささやく
愛の夢を求めて 僕の忍耐はつづく
mayoシだけの僕でありたい それが僕の願い
(伊藤咲子@ひまわり娘より…^^;;)


多忙   足バンさん

僕が会場に戻ると、舞台では白夜倶楽部のパフォーマンスが始まろうとしていた

ギョンビンとドンジュンがいることを確認した
その後ろにテソンが座っている

「テジンは?」
「スハが倒れて連れて行った」
「おまえしばらく前のふたりを見ててくれるか?」
「そのつもり」
「それからそのマイク、メイさんに繋がってるか?」
「ああ」
「イナたちを監視するよう言ってくれないか?」
「了解」

テジュンさんがこちらを気にしている
僕は身を低くして近づいた

「今のところ大丈夫です。殴られたようですがたいしたことありません」
「あのばか…」
「すみませんご心配かけて。ただ今はイナが必要です。あの男にタメ張れるのはあいつくらいです」
「無謀だってことですよ」

すぐにでも飛んで行きたそうなテジュンさんの手を握った
愛情をいっぱい抱えた暖かい手だ

「監視も付けてあります。イナになんとか舞台にも出してやりたいと思ってます」
「はい」
「それから念のためにホテルの全出入り口の警備の強化をお願いできますか」
「ミン君のお兄さんですね」
「…そうです。お願いします」
「わかりました」

テジュンさんはすぐに席をはずし、トランシーバーで指示を出し始めた
僕はギョンビンの隣に滑り込んだ

思いがけずギョンビンはにっこり笑いかけた
ドンジュンは反対に沈んだ顔をしている

「ギョンビン…いいかい?僕の言うことをよく聞いて」
「はい」
「祭が終わって、僕がいいと言うまで勝手に行動しないで」
「勝手って…」
「荷物持って出て行くってことだ」
「はい」
「終わったら君と話したいことがある。いいね?約束だよ。これは仕事じゃない。君と僕の約束だ」
「はい」

不安そうな顔のドンジュンの目を見た

大丈夫
おまえが哀しむようなことはさせないから

通じたのだろう
ドンジュンは小さく頷いた


さて、もうひとり
僕はまたそこを離れると右隅のミンチョルの席に向かった
暗い幕間から合図して呼び出す

「なんだ?」

僕はいきなりミンチョルを抱きしめた
ミンチョルは驚いて身体に力を入れた

「なんのつもりだ。癒しはいらないと言っただろう!」
「いいから、静かにしてろ」
「スヒョン!」
「いいから!」

ミンチョルは諦めたように黙り力を抜いた
嵐のように荒れているかと思った心は、暗くて深いがらんどうだった

兄貴の話をするのは簡単だ
でもミンチョルにとってはそれだけが問題ではない
ミンチョル自身の問題でもある

「ミンチョル…頼みがある」
「ん?」
「祭が終わったら僕に時間をくれないか?ギョンビンのことで」

ミンチョルはいきなり身体を離そうとした
僕は余計に力を入れる

「もう遅い。おまえまで何を言い出すんだ」
「だからこれは僕の頼みだ。どうこうしろって言ってるんじゃない。考えてほしいことがある」
「もう後戻りはできない」
「戻るためじゃない。進むためだ」
「…」
「安心しろ。むりにヨリを戻せなんて話じゃないから。いいね?」
「…」
「一度は真剣におまえを想った男を…信じてくれよ」

ミンチョルは僕の目を真っすぐ見つめ、僕の肩に額を落とすと小さく頷いた
僕はまた力をこめて抱きしめた

そのがらんどうの心をまた暖かく満たしてやりたかった


覗きっこ倶楽部◇6  妄想省家政婦mayoさん

会場にスヒョンが戻ってきた
ドンジュンの後ろに座っている僕に近づいた
イナの監視をメイに依頼するよう指示され
スヒョンが屈んで移動しようとしたとき
僕は静かに聞いた

「スヒョン…紐…ほどけそうか?…」

スヒョンは僕の言葉に驚いたがふっと小さなため息をつき

「ん…まだ端っこ…」

そうひとこと言ってテジュンさんの傍へ行った
僕はちょっとだけ席から離れギョンビン達から目を離さずに
メイに連絡した

「メイ、テソンだ..すまないけど医務室前で張っててくれないか..」
「ん…アラッソ…」
「もし何かあったらすぐ、連絡して」
「ん、アラッソ」

そしてもう1人を呼んだ

「mayoシ…どこ?」
「舞台近く…白夜と一緒…」
「ん…僕そっち行けないけど…」
「ふっ…大丈夫」
「……」
「テソンシ?」
「寂しいくらい言ってよ…」
「xxx…xxx…」

マイクを通して闇夜がxxxをした
ひとりにんまぁ〜としてドンジュンの後ろの席に戻る
スヒョンはあっちに行ったりこっち行ったり…
大丈夫か…あいつ…
僕が心でつぶやいた時
ドンジュンが僕に振返り苦笑した顔を見せた

僕は声に出さず言った
『お前が存分に癒してやるんだろぉ?』
『あたりまえじゃん』
ドンジュンの顔がそう言っていた


マフラーファッションショー オリーさん

「キム次長、ちょっと」
「何すか?」
「マフラー足りないんです」
「どれです?」
「ブルーの濃いやつ。薄いのとセットで巻くんだ」
「さあ、あたしゃ知りません」
「探してよ」
「どれも似たようなマフラーなんだから適当に巻けばいいでしょ。誰もわかりゃしません」
「だめだ。僕の感性が許さない。衣裳とマフラー全部完璧にコーディネートされてるんだから」
「そうすか。このグラデーションのやつでどうです?」
「それはユジンとスキー場の改装現場に行った時のものだよ。僕が言ってるのはユジンを人工降雪の中に連れて行ったときのものだ」
「世の中、自分が気にしてるほど人は見てないもんすよ」
「僕は家族のために常に全力をつくしたいんだ」
「そりゃ、わかりますがね。たかがマフラーでしょ」
「たかが?」
「いえね、あくまで主役は理事ですから。理事がしてりゃあ、どんなマフラーだってOKすよ」
『まったく、いちいちつきあってたらきりがないってもんですよ』
「そ、そうかな」
「そうですよ。あたしが保証しますって」
『とっとと巻いてすましてくださいよ』
「じゃあ、とりあえず、それにしよう」
「そうすよ。どーせ誰も見てない…」
「何です?」
「いや、何でもないすよ」

「ちょっとっ!あたしの許可なしにファションショーやるっていうあちゅかましいのはどこの誰にゃの!」
「僕に何か文句でも?」
「ああら、あにゃたなの。このあたしの前で大胆にもファッションショーをやろうっていうのは」
「マフラーは僕の専売特許ですから、誰にも文句は言わせません」
「ふうううん…ちょっとあにゃた、横向いて」
「え?」
「え、じゃねえ!横向けってって言われたらとっとと向くんだよ!」
「あ、は、はい」
「はい、反対側の横向いて」
「こうですか?」
「しょうよ。ふううん、にゃるほど。で正面がこりぇね。ふううん」
「何なんですか。いきなり」
「ああ、もういいにょいいにょ」
「何か文句がおありですか?」
「もういいにょよ。勝手にやってちょうらい」
「は?」
「あたしの想像力を刺激するものはにゃにもにゃいわ。好きにして」
「どういうことだ?」
「理事、気にしないで、とっとと終わりにしましょうや」
「とっととってどういう意味だ。じっくりだろう?」
「でもマフラー巻いて舞台歩くだけだから。ほら時間押してるってタイムキーパーも合図してますよ」
「しょうよ、しょうよ。こっつまんないショーは早めに切り上げりゅのがしぇいかいよ。その分あたしのショーにまわしぇるわ」
「無礼な人だな、あなたは。僕にそんな口きくと後悔しますよ」
「あたし正直にゃにょよね」
「僕の多彩なマフラー見たらそんなこと言えませんよ」
「ちっ!ド素人が知ったような口きいてんじゃねえよ!とっとと舞台出てさっさと終わりにしねえか!
後から本物のファッションショーとっくりおがませてやるからよ」
「……」
「理事どうしました?理事?」
「……」
「先生、あんまり脅かさないでくださいよ。理事こう見えても小心物なんすから。舞台袖でかたまっちまったじゃないすか。あーあ」
「ありゃ、ごめんにゃさい。でもかたまっちまったのなら好都合。カットよ、カット!」
「そりゃいいや。じゃカットっつうことで」
「う、う、やるぞ、やる。で、出るぞ、舞台!」
「理事、無理しない方が…ああ、手と足一緒に出してる。ああ、まずいなあこりゃ…」
「おひょひょ、ちいっと脅かししゅぎたかしら…ひょひょひょ」


融けていく…    ぴかろん

「そだ!」

突然あげた俺の声に、ミンの兄貴はビクッと体を震わせた

「なーにビクついてんの?…あのね…謝らなきゃいけないことがある…」
「…なに…」
「俺の仲間のスヒョン、さっきの奴ね?あ、知ってるよな?あいつがアンタに失礼な事言った」
「…」
「『二人の男の人生がかかってる』ってさ…ちげーよなっ!『三人の男』だよなっ!」
「…だれ…」
「ばっか!アンタだよ!」
「…」
「なんでそこまで自分を消しちゃうわけ?」
「…消してなんか…」
「消してるじゃねぇか!名前も消して、ほんとの自分も消して…」
「…」
「いいか、後戻りさせねぇからな!今俺の前にいる、このアンタがほんとのアンタなんだ
ここで顔ぐしゃぐしゃにして泣いてるアンタがほんとのアンタ…ミン…ギョンジン…
なあ…そろそろ本名教えてくれてもいいだろ?言わなきゃギョンジンって呼び続けるぞ」
「…」
「頑固なやつ!…とにかくさ、アンタの中から出てった黒いモンを散らせ、な、ギョンジン」
「…黒いモン?」
「目玉からガラスも外れてる…ここにいるアンタは気弱な優しいギョンビンの兄貴のギョンジンだ…」
「ガラス…」

この野郎…ほんとに頑固だな…

「意味が解らない。黒いモンとかガラスとか…」
「わかんなくてもいいよ、んなもん!」
「仮面という意味か?」
「…んーまあそんなモン」
「…お前のたとえは幼稚すぎる」

…くそったれ!

「いつ殺してくれるんだ?」
「だからっ。本名言えよ!墓に名前書かなきゃいけねぇからよ」
「墓碑銘か?」
「…わざわざ難しい言葉で言い直すな!厭味な野郎だな、ほんっとギョンビンそっくり!」
「…そっくり…」
「ああ…そっくりだ…」
「さっきはミンチョルという男とそっくりだと言った…」

ああもう!

「そーだよっ!ミンチョルにもそっくりだよ!その厭味ったらしいとことかほんとは弱いくせに虚勢はってカッコつけてるとことか!」
「…あの男も…弱ってるのか?…」
「ああ!」
「僕のせいで?」
「ちげーよっ!」
「…違う?…お前の周りの奴らはみんな僕のせいだと思ってるぞ…」
「あいつが弱ってるのはあいつ自身のせいだよっ!んなの気にすんな!」
「…じゃあ…今僕がこんなに情けないのは…僕自身のせいなのか?」
「…そうとも言える…大体なんで弟と同じ名前を名乗るようになったんだ…」
「弟は…僕の本当の名前を知らない…」
「…んなことあるかよ…」
「…弟が生まれた時…とても可愛くて…みんな夢中になった…僕も…
僕は僕の名前と一緒の名前をつけてくれと両親に泣いて頼んだんだって…」
「…どだい無理な話だろ…」
「うん…無理だった…」

ミンの兄貴は俺の胸の上で静かに話し始めた
これがこいつの本当の声…本当の言葉…
俺だけが知ってるこいつの姿…
誰も知らないんだな…あんたのこんな姿を…
こんな弱いのに、今までどうやって過ごしてきたんだよ…

俺は奴の話を聞きながらずうっと奴の髪を撫でてやっていた

繊細な神経
それを隠すために用意されたシェルター
小さいときから少しずつ強化してきたその心の壁
ここへ来なければ、一生その壁に守られて表面だけの人生を送っていったんだろう…
弟のものをもぎ取って、弟を愛しながら憎んで
そしてシェルターで守られたこいつの本当の心は、叫び声を上げながら死んでいくんだ…
そんな苦しい…そんな哀しいことってあるかよ…

俺は奴の今までを思って胸が張り裂けそうになった

テジュン、ごめん…まだ帰れねぇや…


テジュンの心配  ぴかろん

イナは帰ってこない
スヒョンさんは大丈夫だと言っている
本当に大丈夫だろうか…心配だ…いろんな意味で…

あいつの事だ、キスは、かましているだろう
間違いない
大体なんであいつがあの危険な男と対決しなきゃなんないんだ!
ほとんど趣味だろう!
…いかん…いかんいかん…みっともない嫉妬だ…

あいつは『危険な男』と聞くとすぐ…うっううっ…いや…

大体あいつはあの男にヤられそうになってたはずだ!
なのになんで二人っきりに…それも僕と昨日…昨日だっけ?!…愛し合った医務室で二人っきりに…ううう…

うーうー…おちつけテジュン…イナはただの仲間思いなんだ…
仲間を助けるために今、悪者を退治しているんだ
おおだから僕の『うるとらまんたろう』をつけて、悪者に挑んでいるのだ!

…キスつきで…

きっと…何回も何回も…
きっとあの色っぽい顔で…あうっ!いかん!

はっ!そうだっ!ディーラーはどうする気だ!
誰がディーラーを…
ちょっと…ちょっとだけ見てこよう…

「総支配人、どこへ?」
「あっいやっイナがいないので、ディーラーはどうしようかと…」
「カジノルームですか?」
「はっはい…」
「スヒョンさんがチニ君に頼んでました」
「はい?」
「総支配人が気もそぞろらしいから頼んでおいたとドンジュン様より伝言がありました」
「…そ…」
「この場から動かないようにしてください」
「…あ…そ…」

ちくしょう!クソ天使め!どこまでも『気が利く』奴だっううう…心配だっしんぱいだっ
心配だったらしんぱいだっ…
…早く帰ってこぉぉぉいっグスン…いなぁぁぁっぐしっぐしっ…

「ソンジェさんの歌はそんなに素晴らしいですか?ホラ、ハンカチどうぞ…ふうん、総支配人、音程には無頓着なんですね」
「…」

ああイナヤ〜、僕はお前といっしょにサンヒョク君の「初めてであった日のように」を聞きたかったというのにぃぃぃぐすぐすぐしっ


泣ける場所 足バンさん

ミンチョルはようやく僕の肩から顔を離した

「もう行くよ」
「その前に」

僕は抱きしめたままミンチョルのサングラスをはずした
きっとひとりきりでずいぶん泣いたんだろう
この明かりの中でも目は赤く、少し腫れているのがわかる

その瞳からはガラスがはずれている
裸のミンチョルがそこにいる
寂しがりやで愛することにも愛されることにも不器用なミンチョル

「その目じゃ仕方がないな。祭が終わる頃にははずせるかな」
「腫れが引けばな」
「じゃなくて。いつもの力のある目に戻れってことだよ」
「あぁ…」

「もうひとつ頼みを聞いてもらいたい」
「ん?」
「祭の間ギョンビンと鉢合わせても、もう心にもない言葉を言わないで」
「…」
「ギョンビンに迷わせたくないって気持はわかる、でももういいだろう?」
「…」
「もうこれ以上傷つける理由はないだろう」
「わかった…」

ミンチョルの目が潤みはじめた

「もう1回だけ泣いてみるか?」
「…いや…もぅ…」

そうか…そうだな…ギョンビンの胸の中だけだな、泣けるのは

「わかった…ちゃんと泣かせてやるから」
「え?」

僕はその潤んだ弱々しい瞳を覗き込んで左目に唇を押しつけた
そして右目にも同じことをした
ミンチョルはじっと目を閉じてされるがままになっていた
指で唇をそっとなぞった
その唇はとっくの昔に諦めた唇だった

僕はサングラスをかけてやった

「大丈夫か?」
「ああ」

ミンチョルが少し笑ったので安心した
僕は彼が会場に戻り席に着くのを見届け、次にするべきことを考えた


チョンウオンです… れいんさん

これはファッションショー出番前…
一人つぶやくチョンウオン…

♪〜♪ ヒロシのテーマ曲

チョンウオンです
ほんとはチソンっていうとです
名字なのか名前なのか
それとも、チ・ソンなのか
わからんとですっ

チョンウオンです
オールインに出とるとです
よく無表情って言われるとです
スングク役の子役の子も
無表情かとです
何も打ち合わせはしとらんとですっ

チョンウオンです
オールインに出とるとです
ベンチで酔っ払ってスヨンさんの横で
ちぢこまって寝たことがあるとです
イナがしたら可愛かって言われるとに
なんで僕がしたら笑い者になるとですかっ

チョンウオンです
エグゼクテイブスイートに泊まっとるとです
他のエグゼクテイブスイートの部屋とは
様子が違うとです
でも、札がかかってたから
間違いはなかはずですっ

チョンウオンです
おちだりえさんに会ったとです
棒読み喋りに
ひと目で恋に落ちたとです
でも、「私はどう?」って言われても
何がどうなのか
わからんとですっ


僕という男   ぴかろん

弟の名前はギョンビンになった
父が大好きだった小説の主人公の名前だ
僕の名前は父の親友の名前だった
弟が生まれる少し前にその親友に手ひどい裏切り方をされたと、後から知った

ギョンビンが生まれてから僕は『お兄ちゃん』と呼ばれていた
父は僕の名前を決して呼ばなかった
時々僕に向かって『ギョンビン』と呼びかけることもあった

ああ、すまない、間違えた…お兄ちゃんよ、ギョンビンを可愛がってやるんだぞ…

可愛がってるよお父さん


本当に可愛かった
僕の宝物だった
僕はギョンビンのお兄ちゃんだけど
父や母の『お兄ちゃん』じゃないよ
どうして『お兄ちゃん』なんだよ
どうして名前で呼んでくれないんだよ…

ずっと後になってからその理由を知って、小さい頃とても悩んだ事をばかばかしく思った

僕も名前を呼んで欲しかったんだ…
だから僕は父さんが僕を『ギョンビン』と呼んだある日、こう言ったんだ

いいよ、僕もギョンビンって名前にするから
今日から僕もギョンビンだからね
ね、いいよね?お母さん、お父さん

それでも僕はやっぱり『お兄ちゃん』と呼ばれ続けた
父や母がギョンビンを呼ぶ時、僕は僕の名前を呼ばれていると、そう思うことにした
僕が弟から取り上げた最初のモノだよ…

学校でも職場でも『ギョンビン』で通した
戸籍上は違う名前でも、僕は『ギョンビン』だと言い張った
それが通るように僕は努力を重ねた
品行方正でスポーツ万能、勉強もできて素晴らしい人格

『姓名判断の先生に、本名ではとんでもない男になると言われて、この名前を使うように言われた
弟と同じ名前になるが学年が違うから認めてくれ
弟に知られてはいけないとも言われているので申し訳ないが始めから同じ名前だった事にしてくれ』

そんな風な事を言ったかな?
学業もスポーツも人格も優秀だった僕は、先生に認められ、誰も文句を言わなかった

弟は素直な性格だから、なんの疑いも持ってなかった

父は弟を可愛がった
毎日弟を抱きしめていた
僕も抱きしめてほしかった
でも僕は父の胸に飛び込むことができなかった
いつも弟が先に飛び込んでいたから

弟が父の胸に抱かれているのを見るのは好きだった
とても幸せそうで
父がギョンビン、ギョンビンと呼ぶのを聞いて、あれは僕の名前だ…父に抱かれているのは僕なんだといつも思っていた

僕は父とあまり話をしなかった
父が僕の方を向いてくれないので…
父を振り向かせたくて勉強も運動も何もかも、人一倍頑張った
弟の世話だって、病気がちな母に代わってやったよ

たまに誉めてくれたな…父も母も…

『お兄ちゃんは偉いね』

って…
嬉しかった
でも弟には

『可愛いね。いい子だね』

と優しく語りかけ、そして

『そんな事して、だめじゃないか!』

と本気で怒っていた
僕は怒られさえもしなかった

でも平気だったよ
僕は『ギョンビン』なんだから…
あそこで可愛いと言って貰ってるのも、怒られているのも、実は僕なんだ…そう思っていたから…

弟が買って貰えるプレゼントは、僕が欲しかったものばかりだった
僕が買って貰えたのは、本や勉強道具や、スポーツで使うもの…実用品の類だった…
だから僕は弟のものを取り上げた
よくないよ、危ないよと言って…

ある日弟がカッターを持ち出して遊んでいた事があった

危ないからお兄ちゃんに貸して

と言うとイヤだとダダをこね始めた
本当に危なかったので、僕は弟の腕を掴んでカッターをもぎ取ろうとした
はずみで弟は手に傷を負った
それほど深い傷ではなかったけれど、小さかった弟はわんわん泣き出した

泣き声を聞きつけて飛んできた父と母は、僕を叱った
小さい弟になんてことをするんだと…
僕は何も言えなかった
何もしていないのに疑われた

父はますます僕に話しかけなくなった

そうしてあの夜、父は帰らぬ人となった
父の死に際に、そばいたのはギョンビンだけだった

僕は長男として家を守らなければとますます頑張った
母は『お兄ちゃん、いつもすまないわね』とねぎらいの言葉をくれた
でも笑顔は弟にしか向けなかった
僕は余程窮屈な人間だったんだろうね
アルバイトしながら学校へ行き、弟の世話もしてやった…

弟が『お兄ちゃん、大好き』と言って抱きついてくれることだけが僕の癒される時間だった

僕は弟の幸せを願っていた
弟さえ幸せなら僕も幸せだと…
弟のためにならない人間は近づけないようにした
ガールフレンドだってそうだ
僕は父親代わりでもあるんだ
だからろくでもない女と付き合わせるわけにはいかないと思ってた

連れてくる女を値踏みし、暫くして誘い出す
僕の誘惑に乗るような女は、ギョンビンにふさわしくない…そう思ってた
ギョンビンは晩生だったから女の子にキスさえもなかなかできなかったんだ
物足りないと感じてた女の子たちは、簡単に僕の誘惑に落ちた
キスしてやればもう僕に夢中だった
こんなくだらない女がギョンビンの恋人になるなんて許せない…いつもそう思った
僕はギョンビンのために一生懸命だったんだ…

でもギョンビンの気持ちは…考えてなかった
人の気持ちを思いやることは、教わらなかったから…
だって誰も僕の気持ちを考えてくれた事なんてなかったから…
だからそんなものなんだと思ってたんだ…

ギョンビンはね
天才なんだよ…
よくいるだろ?さほど勉強しなくてもできる奴
そういう奴は本当に天才なんだよ
特別に努力してないのになんでもこなせてしまう ギョンビンはそういう奴なんだ
その上性格もいい

僕は本当に弟になりたかった
あんな風に明るく笑いたかった

僕達二人が並んで歩いていると、太陽と月みたいだねって言われた
どちらも輝いてるねって…

太陽はもちろんギョンビンだ
僕は太陽の光を反射する月だ
ギョンビンがいなければ輝くことなんてできない

それでよかった
それでも十分幸せだった
ギョンビンがそばにいてくれたから


【17♪スヒョン ミンチョル編】ロージーさん


心凍らせて オリーさん

スヒョンに抱かれて春のような温もりを感じた
凍えた胸に小さな灯りがともったような気がした
でもその温もりも心まで満たす事はできない
たぶん気づかれてしまっただろう
僕は、もうがらんどうだって
壊れた容器にいくら水をそそいでもたまることはない
それと同じだ

何かあるたびに僕を抱いてくれるね
それなのに僕は何一つ応えることはできない
もう優しくしないでくれ
こんな僕にかまわないでくれ
僕は温もりには縁のない人間だから
吹雪の中で来た道を見失い
これから行く道もわからない
愚かな人間だから

スヒョン
ひとつだけ読み違えたことがあるよ
僕はミンのために突き放したんじゃない
迷わせたくないから突き放したんじゃない
僕自身のために突き放したんだ
僕がもう耐えられないから
これ以上ミンの姿を見ることに耐えられないから
早く僕の目の前から消えてくれないと
僕はどうなるかわからないから
最後までとんでもないわがままだろう
僕はこんな奴なんだ
だから、もう
すまない…


僕という男 2 ぴかろん

ギョンビンの男友達が遊びに来た時、僕はその子の頭に熱いお茶をぶちまけてしまった事がある
わざとじゃない
その友達が慌てていて、自分のカップの熱いお茶をギョンビンの腕にかけてしまったんだ
それを熱がるギョンビンに気を取られてしまった…
でもギョンビンは後から僕を睨みつけてこう言った

「わざとだろ?」

信じてもらえないことがどんなに悲しいことか、僕は初めて知ったよ…

その頃からギョンビンは僕を避けるようになった
ガールフレンドを誘い出して、別れるように仕向けた事もばれた
僕に逆らうようになった
僕がギョンビンのためを思ってしている事をギョンビンはちっとも理解しなかった

ギョンビンが離れていって、やがてお互い職をもち、恋人ができて僕は結婚した

僕が唯一僕でいられたのは、あの結婚生活の間だけだったかもしれない
妻は僕自身を愛してくれた
僕の本当の名前で僕を呼んでくれた
僕も彼女を愛した
僕の事を大切にしてくれた初めての人だったから

弟と離れて、弟と関係なく生きていくのも幸せなんだと初めて思った
あのまま、あの生活が続いていれば僕はこんな風にならなかったろうな…
その生活は突然幕を閉じた
妻は爆死した…
僕はまた一人ぼっちになった
また『ミン・ギョンビン』という名前の男になった
そうしたら弟も恋人を殺されたという…
そして同じ仕事をしていたという…

嬉しかった
同時にまた僕自身がシェルターの中に閉じ込められていくのを感じた
僕は弟を愛してる
可愛くて仕方がない
僕の憧れで僕の自慢だ

僕の欲しい物をいとも簡単に手に入れる弟を
羨ましいとか、憎らしいとか、腹が立つだとか
そんな風に思うのは間違いだと
そんなどろどろした感情を弟に対して持つのはいけないことだと思ってた

僕はそういう感情に気づかないふりをしてずっと過ごしてきた
そんな感情を引き起こさないように弟をコントロールしようとしてたんだね…きっと…

弟は猛烈に反発した

…当たり前だよね…
今ならわかるよ…
今なら僕のしてきた事が間違ってたってわかるよ…

弟は自分というものを隠さずに表現する
僕にはできなかった
何かしようとするといつも父の目を思い出す

きちんとしろ
ギョンビンの手本になるように

口に出しては言わないけど
目がそう言ってた

一言だけ、覚えてる言葉がある

『ギョンビンを裏切るな』

どうして僕がギョンビンを裏切るのさ!
そんな事を言われて頭にきたけど、言い返すことなどできなかった
僕の名前は父さんを裏切った親友と同じ名前だったから…

ここへ来て、弟がミンチョルという男と恋人関係にあると知ったとき
僕は我慢できなかった

男とだって?
汚らわしい
僕の大切なギョンビンが男に犯された?
あの可愛くて賢くて僕の自慢だった弟が?
僕がなりたくて仕方なかったあのギョンビンが?
僕の周りの全ての愛情を、僕の分まで受けていたくせに
なんで男とデキてるんだ、みっともない!

…そんな気持ちかな…

怒りが抑えられなかった
僕の中にしまいこまれていた弟への妬みや恨みが一気に噴出した
めちゃくちゃにしてやりたくなった
僕の人生は弟のせいでめちゃくちゃになったんだ
僕自身なんて無いも同然だったんだ…

僕は弟が好きだった
可愛くてしかたなかった
僕が女だったら弟と結婚したいと思ったろう
男でよかった…女だったら…フフ…近親ナントカになっちゃうよ…
そう軽く思ってたんだ
それが…

弟は男とデキていた
ならば僕でもよかったんじゃないか!
弟だけを見つめて生きてきたのに
…妻を思い出そうとしてももう思い出せないんだ
僕の名前も僕自身の姿も、妻の思い出とともに封印してしまったから…
もう僕には弟しかいなかったんだから…
…だから僕は…弟を壊して、弟に殺されたいんだ…
僕の全てである弟に僕の命を絶ってもらいたいんだ…
でも…でも…
そんな勇気なんかない…
僕にはそんな事する勇気なんかないんだ…
キム・イナ…お前のいうその仮面が剥がれ落ちて砕け散った今
僕はもう何もできないんだ

僕の名前…
教えるから…
だから早く…
一思いに殺してくれよ…


白夜パフォーマンス▲▽ 本番GO!▼△  妄想省家政婦mayoさん

♪♪.。.:*・°☆.。.:*・°♪.。.:*・°☆.。.:*・°♪.。.:*・°☆.。.:*・°♪.。.:*・°☆♪♪

ステージのライトが落とされ2つのスポットが交差し、左右に分かれた
スポットはきんきら衣装のリマリオとピョートルに照らされた

♪♪ズンチャズンズンズンチャ!ズンチャズンズンズンチャ!♪♪

フラメンコギターに合わせて2人は
触覚ダンスを踊りながらステージ中央で合流する...
人差し指の上に中指を重ね額〜床〜額〜床を差すポーズ...
動きが速くなり床を指したポーズで終わると同時に
エレキのサンバの前奏が流れる♪

左右から銀ラメのTシャツの群衆が溢れ出てあや棒を持ち..右左ステップ....

  男組の群衆だ...衣装いつのまに用意したんだろう...
  闇夜は何も言ってなかったけど...

左右の袖からヨンジュン、チンソクが出てくると同時に群衆が左右にサァーっと分かれた
ステージ後方にいたユリキム親父...
ゆっさゆっさと身体を揺らしてステージ中央へ..
別れていた群衆がまた左右から集まる...
左チンソク、右ヨンジュンが片膝ついてキングユリキムをお出迎え..

♪♪
叩けボンゴ 響けサンバ 踊れ白夜のカルナバル〜♪
誰も彼..も 浮か..れ騒ぎ 光る..油がはじ..け飛ぶぅぅ〜♪

熱い..風に 体あ..ずけ 心ゆくま..で踊....ればぁ〜
こ..ころ満..足 腹も満足 腹にあふれるこのリズ...ムぅ〜♪
オーエーオエぇー ユリキムサンバ
オーエーオエぇー ユリキムサンバ

 あ、やばい...親父..息切れてるしぃ〜歌詞まちがってるしぃ〜
 腹へってんのか?それとも...食い過ぎか?...ユリキム親父...

サンバ ビバ サンバ
ユ・リ・キ・ム サぁンバ オエ!

ユリキム親父はまた歌詞を飛ばした.. ステージ中央から後方へユリキム親父は移動し群衆が前に出る
サンバの間奏に入った
群衆の前でサンバに合わせてリマリオダンスのあと群衆と一緒に左右に分かれる

♪♪
ユリキム親父と入れ替わりに右袖からちぇみキング登場...
チンソク、ヨンジュンが舞台右で片膝ついてちぇみキングをお出迎え

ちぇみ・ヨンジュン・チンソク、舞台左へ移動する...
 4歩左へ→ポーズ腕10:10#腰左右にクィッ#ふりふり〃
 3度繰り返し舞台「左」へ
 両手180度、右足を左へ2回放り腕10:10#腰左右にクィッ#ふりふり〃
 2度繰り返し「中央」へ

シゲッキーと腰元ダンサー1人が同時に左袖から登場
 4歩右へ→ポーズ腕10:10#腰左右にクィッ#ふりふり〃
 3度繰り返し舞台「右」へ
 両手180度、右足を左へ2回放り腕10:10#腰左右にクィッ#ふりふり〃
 2度繰り返し「中央」へ

ヨンジュン_チンソク_シゲッキー(サンバボーイABC)
  ちぇみ__腰元ダンサー

2列になって中央で踊る..

右足を左へ2回放り腕10:10#腰左右にクィッ#ふりふり#袖を持ってターン◎
前列のちぇみと腰元ダンサーは向かい合ってステップ〜ターン◎

  シゲッキーはさすがプロだなぁ...
  そっか...10:10とき手のひらは下向きなんだ..ふむふむ..
  腰元ダンサーって誰だろ...テス?
  いや...ちょっと違う...テスより小柄だよな...
  えっ?ちょっとぉーうそっ!待って!ぁわわ...
  僕、聞いてないって!!..ぁふ...(>_<)

  誰も気づいてないよな....ったく、もぉっ!
  ドンジュンが振り返った..
  「ねぇテソンさん…前列の人って...もしかして...」
  僕は口に指を当てしっ#のしぐさをした...
  ドンジュンはくすくす笑った...

ステージの5人が片手を上げ決めのポーズをする...

間奏が終わると同時に腰元ダンサーが舞台右袖に引き
群衆が左右から集まる。群衆の前にサンバボーズABC

♪♪
叩けボンゴ 響けサンバ 踊れ白夜のカルナバル
夢とうつつ 時は過ぎて はずむ白夜の愛の夜ぅっ〜♪

瞳うるむ 頬を包み 愛を囁き踊れば
今日も明日も 愛は輝き 熱く熱く燃え上がるぅ〜♪♪
オーレーオレ ちぇみちぇみサンバ
オーレーオレ ちぇみちぇみサンバ

あーぁ 恋せよアミーゴ 踊ろうセニョリータ
眠りさえ忘れて 愛し合おうぉ〜

サンバ ビバ サンバ
ちぇみちぇみサンバ

  ちぇみ..歌が上手いじゃん...
  カラオケでもマイクを離さないらしい...
  ちぇみの歌詞って...自分たちのことみたいだよな...

♪♪.。.:*・°☆.。.:*・°♪
舞台右袖
「mayoさん、ごめんねぇ」
「ん..いいよ...」
「僕...どうしても足もつれちゃうんだもん..」
「駄目だった?」
「ぅん...手の振り付けるとますますもつれちゃうんだもん..」
「そっか...」
「ちぇみと踊りたかったけど...ちゃんとできなかったんだもん...」
「だって...そのかわりすごいことするじゃない...」
「ぅん..(^o^)..ねぇ...テソンさんに怒られる?」
「ふっ...大丈夫だよ..きっと...」
「テソンさん、優しいから大丈夫だよね」
「ぅぅん...^^;;....あ、そろそろだよ」

♪♪.。.:*・°☆.。.:*・°♪
オーレーオレ ちぇみちぇみサンバ♪
オーレーオレ ちぇみちぇみサンバ♪

サンバ ビバ サンバ
ちぇみちぇみサンバぁ.....

2番サビのラストの時にテスがちぇみに向かって飛び出して行く

『テス!滝ん中だと思えっ!!』
『ぅんっ!!』

オレっ!

ちぇみは飛び込んできたテスを空中へ思いっきり放り投げた
テスは空でくるっくる◎っと素早く回転し見事に着地した..

会場はどよめきと拍手とで一気にヒートアップしていた...
テスが着地し、白夜のメンバーは手にしたものを会場に向けて放った

金銀の投げテープが蜘蛛の巣の様に会場へどっと流れ込んだ...
通常の5mテープの倍はあろうかと思われる何本もの金銀のテープは ライトに照らされナイアガラの花火の様にステージと会場を繋いでいた

♪♪.。.:*・°☆.。.:*・°♪.。.:*・°☆.。.:*・°♪.。.:*・°☆.。.:*・°♪.。.:*・°☆♪♪


とむらい   ぴかろん

俺は奴の話を聞いていた
奴は静かに語り続けた

もう涙も出ないのか?
泣いていいんだぞ?

そう声をかけてやりたかったけど、俺の方が泣いちまってて、口も聞けなかった

俺は奴を抱きしめた
そんな辛い、悲しい思いをずうっと溜めてきたのかよ…
悲しかったことも悔しかったことも全部あんた自身と一緒にそのシェルターの中に仕舞い込んで…

俺は大きく息を吸い込んで、胸に奴を抱いたまま聞いた

「本との名前は何?」
「…呼んでくれたら返事するよ…」
「…ミン・ギョンジン?」
「…なに?」

返事をしたギョンジンをもう一度抱きしめた

「ギョンジン…」
「ああ…そうだよ…それが僕の名前だよ…」
「ギョンジン…」
「…うん…」
「ギョンジン、ギョンジン…ギョンジン」
「…うん…う…」

俺たちは抱き合って泣いた

「なんで…お前まで…泣く…泣くんだよ…」
「しらねぇよ…もらい泣きしてんだよ!俺は心が優しいんだよっ」
「…ああ…お前は…優しすぎる…僕みたいな男に…もらい泣きしてくれるなんて…」
「…望み通り殺してやるよ…」
「頼む…」

ギョンジンはゆっくりと起き上がった
俺も起き上がった

ギョンジンは目を閉じた
閉じた目から溢れる涙を俺は唇で吸い取った

「…そんな事しなくていいよ…」
「…るさい…」
「…殺ってくれ…お前に殺されたら本望だ…」

俺はギョンジンの首に手を当てて、そして奴の唇にまたキスをした…
奴の鼓動が聞こえる

「ミン・ギョンビン…兄のミン・ギョンビン…二度と出てくんな…ここにいるミン・ギョンジンに…二度と近づくな…」

軽く奴の喉を絞め、そして手を離した

「…」
「終わり…」
「…なに…これ…」
「ミン・ギョンビンを葬り去った…アンタはミン・ギョンジンとして生きる」
「…ふざけんなよ…ちゃんと殺してくれよ」
「もう殺した…アンタはさっきまでのアンタじゃない…ギョンジンだ」
「…僕のような男は生きてたって意味がない…」
「あるよ。する事はいっぱいある。…いいか、まずミン・ギョンビンがしでかした事の後始末だ。それだけでも大変だぜ」
「…」
「死んでおじゃんにするつもりだったってわけ?そんな虫のいい話ないでしょ?
大体『ミン・ギョンビン』がやった事だって言っても、アンタ自身がやろうと思わなきゃできてない事ばっかりなんだぜ
幸い大事には至ってないようだけどな…。責任取れよ」
「…どうやって…」
「謝ればいいじゃん、ギョンビンにもミンチョルにもスヒョンにもドンジュンにも…それに…テジュンにもな」
「…できない…」
「できないじゃねぇよ!しなきゃなんねぇんだよ、アンタがギョンジンとして生きるために」
「いやだ…できない…怖い…」
「甘えてんじゃねぇよ!てめぇの後始末ぐらいちゃんとしろよ、馬鹿」
「…お前には全て話しただろう?…僕は…もう…楽になりたい…」
「…おい。俺はまだアンタの話しか聞いてねぇんだ。他の奴らの話…とくにアンタの弟の思いは何にも聞いてねぇ。片手落ちだ。公平じゃねえ
だからみんなに会って自分の事話せよ!特に弟にな!今までどんな気持ちで生きてきたか、アンタの本当の名前はなんなのか、全部話せよ!
そんでみんなから話を聞けよ!」
「そんな…」
「…俺がついててやる。ぜってぇ見捨てねぇ」
「いやだ!できない!そんな事できない…」
「できないんじゃねぇ!やろうとしないだけだ!逃げてるだけだ!またおんなじ事繰り返すつもりかよ」
「…」
「せっかく俺に名前を言えたんだ。気持ちを話せたんだ。他の奴らにだって言える、な」
「…お前は…好意的だったもの…」
「好意的?…あんな怖い目に合わせた俺が好意的だなんて思うか?…冗談じゃねぇよ」

俺の言葉に奴は俯いて唇をかみ締めていた

「すまなかった…」

俺には謝れるのに…馬鹿

「なあ…あんたさあ…親父さんに抱きしめてほしかったんだろ?なんで飛び込まなかったんだよ。名前呼んでほしかったんだろ?
なんでそう言わなかったんだよ。思ってるだけじゃ伝わらない。言わなきゃわかんねぇんだよ」

奴は頭を抱えて俯いた

「…僕は…心の中で弟を犯した…お前の事も、心の中で犯した…」
「だから…そういうのは、思うだけならいいんだよ、実行したわけじゃない。アンタは実行できなかった。したくなかったからだ。それは悪い事だからだろ?」
「思うだけでも罪だよ…」
「…しょうがねぇだろ?心に浮かんでくる事をアンタ止められるのか?罪だなんて…そんな風に縛り付けてるからなんにも言えなかったんだ!
アンタはいつもそうやって何かのせいにしてるんだ!できないできないって、自分がやろうとしないだけじゃんか馬鹿野郎
失敗するのが怖くて何もやらなかったら、欲しい物だって手に入るわけないだろう?アンタが自分で選んでそういう人生を今まで生きてきたんじゃねぇか!
アンタが自分で親父に抱かれることも、名前を呼んでもらうことも放棄したんだ!」
「…僕が…選んだ?」
「そうだよ!」

奴は黙り込んだ
暫く俯いていた
それから口を開いて俺にこう言った

「…僕は今みんなに…謝りたいと思ってる…謝ることで僕は…ミン・ギョンジンとして一歩踏み出せるのか?」
「そうだよ」
「…それでみんな許してくれるのか?」
「許してもらえなくったっていいんだ。アンタの気が済めばそれでいいんだ。だけどアンタのしでかした事で、みんながどう思ったかだけはしっかり聞け
それだけでいい。まずはそこから始めろ。人の気持ちを知る事は大事だ…」

奴はまた黙り込んだ
そして顔を上げて言った

「…どうして僕にこんなに…心を砕いてくれるんだ、お前…」
「わっかんねぇ…。俺って馬鹿なんだよ…きっと…」
「…」
「ほっとけねぇんだ…それだけ…」
「…」
「俺を信じろよ、俺もアンタを信じるから。ずっとそばにいてやるから…な?」
「…怖い…」
「俺だって怖いよ…アンタの側に立つんだからな…」
「…ほんとに?」
「言ってるだろ?ほっとけねぇって…でも全面的に援護するわけじゃねぇぞ」
「…」
「会場に戻ろう」
「いやだ!…まだ弟と顔を会わせられない…」
「いきなりそんなとこに連れてかねぇから安心しろ。俺を信じろよ」
「…」
「じゃ、おんぶ」
「…」
「おんぶしてってくれよな」

奴は黙って俺をおぶった

テジュン、今帰るからな…ちょっとやっかいな荷物連れてるけど、怒んないでくれよな…テジュン…


切ない涙2   れいんさん

「いったいどうしたんだ?スハ」
優しい目をしたテジンさん
「僕は…その…テジンさんの事が…好きで…だから…もう少しだけ傍にいて欲しいんです…」
ぼくは消え入りそうな声で言った
僕の心臓の音はテジンさんに聞こえてないかな

テジンさんはじっと僕の顔を見つめ、僕の頬を優しく撫でた
「…自分が何言ってるのかわかってるのか?
気が動転してるんだよ。…少し休めば落ち着く」
「…テジンさんは僕が嫌いですか…」
こんな事聞くつもりじゃなかったのに
「そんな事を聞いてどうするんだ?…僕はもう誰の事も不幸にしたくない。君もそうだろ?」
「…わかってます。僕もテジンさんが苦しむのは見たくない…。でも僕は…もう自分の気持ちを抑えられない
…あなたを好きになってしまったから…!」
「もう言うな!…もしも君の気持ちを受け止めたとしても…その先に何がある?
ただ、地獄が待ってるだけだ。わざわざ暗い底なし沼で君まで一緒にもがく事はない
君まで僕のように重い十字架を背負うつもりか
君にそんな事をさせたくない
それくらいわからない君じゃないだろ?」

テジンさんの言った事はわかりすぎるくらいわかっていた
僕は涙が溢れ出すのを止める事ができなかった
誰かの前でそんなに泣いた事はなかった
恥ずかしくて、胸が苦しくて…

そんな僕をテジンさんはふわりと抱きしめてくれた
僕はますます涙が溢れた
テジンさんの胸にしがみついて、子供みたいに泣いた
テジンさんは僕の髪をそっと撫でて、それから涙でぐしゃぐしゃになった僕の頬にそっと口づけした

僕は彼の肌に触れたくて、夢中で彼のシャツのボタンを外そうとした
手が震えてうまくいかない
腹が立つくらい不器用な僕

彼は僕の震える手を握りしめ、そっと口づけし、それから僕の唇に口づけた
とても優しくてとても悲しい口づけだった
そして彼は
「…もう行くよ。何も考えずにしばらく眠るんだ。…そして忘れるんだ。いいね」
そう言って立ち上がった

僕はもう引き止める事ができなかった
静かに扉が閉まる音がして、それを合図に僕は枕に突っ伏して泣いた


僕は静かに扉を閉めた
そして扉にもたれかかった
部屋の中からスハの嗚咽が漏れてくる
傷つけてしまっただろうか…
だが、あのままスハを受け止めたら、もっと傷つける事になる
スハはまっすぐすぎる
純粋でまっ正面から僕に向かってくる
そんなスハがたまらなく愛しいと思った
強く抱きしめて、何度も何度も口づけしたかった
あいつの体中に僕の口づけを残したかった
でも、そんな事をしたら、スハは今よりもっと苦しむ
深い沼から抜け出せなくなる
…だからあれでよかったんだ…
僕にしては上出来だろう

そのうち、またスヒョンの世話にならなきゃいけないかもな…
ふっと笑いにも似た溜息がもれた
…もっと早くに出会っていれば…
僕は心の中でつぶやいて長い廊下を歩き出した


気合  ぴかろん

ギョンジンの背中におぶわれて、来た道を帰る俺
来た時と同じように奴の首に軽くキスしてみた
首を竦めて立ち止まり、俺の方を振り返ろうとする、無理だけど…

「どきっとするから辞めろよ…」
「どきっとさせてんだよ」
「…」
「早く行けよ」
「ちょっと待ってろ」

奴は急に俺を下に降ろして廊下にある椅子に座らせると、近くのショップに入っていった
ウインドウ越しに見る奴の顔は、さわやかな青年そのものだ
本当にさわやかな青年になるために、今からキツい拷問が待ってる
俺だったら逃げ出すけどなぁ…なんてね…
奴は何かを買い、レジの店員と言葉を交わしている
ふっと見せる笑顔が柔らかい
その顔を見てると俺まで嬉しくなって、うふふとにやけてしまう
まだ辛い事が残ってるけど、棘の抜けた奴の笑顔は十分にみんなに伝わるだろう…
一人にしたくない…

奴が戻ってきた

「何買ったんだよ、余裕あるな、アンタ」
「足、出して」
「へ?」
「ほら…」

言われるがままに足を出す俺

「ここのショップは何でも揃うね…無くても仕方ないと思ってたのに、あったよ」
「何が?」

俺の問いには答えずに、ギョンジンは俺の足に、足首用のサポートバンドを巻きだした

「お前、舞台に立つ時ってスポーツシューズ履くんだよな?じゃ、多分これ巻いても履けるよな?」
「…何これ…」
「テーピングだけじゃヤワだから…。僕もよく捻挫したからさ、コイツで足首固めて試合だとか大会だとか出てた」
「…アンタ、何やってたの?」
「色々…ホラ、スポーツ万能だから」
「…あっそ!」
「よし。ちょっと立ってごらんよ」

奴の優しい口調が心地いい
俺は立ち上がって少し歩いてみた

「本とだ、いけそう」
「でも無理すんなよ、本番だけだぞ、頑張るのは…」
「うん…」
「はい…お待たせ…」

もう一度俺をおぶって立ち上がるギョンジン
俺は少し胸が熱くなって奴にしがみついた

「苦しいよ…」
「ありがと…ギョンジン…」
「…礼を言うのは僕の方だから…」

ぼそぼそと呟いてギョンジンはホールに向かって歩き出した

テジュンの真後ろのドアまで来たとき、ギョンジンはその足を止めた

「…これ以上…行けない…」
「降ろして」
「…キム・イナ…これ以上…進めない…」
「俺がついてる」
「…怖い…」
「ギョンジン」

俺は目を泳がせているギョンジンの肩を掴んで抱きしめた
奴の震えが和らいでいく

「景気づけに…キスでもする?うんと濃いぃの…」

冗談半分でけしかけてみた
ギョンジンは、真顔で頷きやがった
げ…もしあのドアをテジュンが開けて外に出てきたら…
んでも…舞台みてなきゃなんないから…出てこないよな…

俺は内心ドキドキしながら…そしてちょっとしたスリルを味わうつもりで…ギョンジンとキスをした
ギョンジンの奴…本気を出しやがった…
気合を入れるためなのか何なのか解んないけど…俺としたキスの中で一番凄いキスを仕掛けてきた
ソクのキスが頭をよぎり、テジュンのキスが心に浮かび、そして俺はギョンジンのキスに夢中になった…
俺ってほんとに…ダメな奴…
夢中になってて解らなかったんだ…
真後ろにテジュンが立ってるって事…
俺もギョンジンも本とに気合入れてやってたからさ…
だから…

「五分経過」

ってテジュンの声がした時、夢だと思ったんだ
ギョンジンは、弾かれたように俺から離れ、俺は普通に後ろを振り返った
いつもの顔をしたテジュンが立ってた


兄   足バンさん

白夜のパフォーマンスは素晴らしかった
舞台から客席に投げられた輝くテープが夢のように美しい
僕は知らぬ間に涙ぐんでいた

隣に座っているドンジュンさんは喜んで大きな拍手をして僕を見た
僕が少しためらっているとドンジュンさんは僕の両手を掴んで手をぱちぱちさせた
僕はおかしくなって吹き出してしまった

「あ、笑った笑った」

ドンジュンさんは僕の頭をくしゃくしゃっと撫でて頬をつねった
いいやつ。ストレート過ぎてアブナイこともあるけれど
僕が遠くへ行ってもこいつとはまた会えるかな
いや…やめた方がいいのかな…

次の節分ショーが終わるとドンジュンさんはちょっと出ようと言った
え?マフラーファッションショーは?
いいから。ちょっと外の空気吸ってこよう
ドンジュンさんがテソンさんにそう伝えるとテソンさんも一緒に行くと言った
スヒョンさんの姿はまた先ほどから見当たらない

僕たちは3人でホールの出入り口に近い中庭に出た
テソンさんがあまり遠くには行けないと言ったから

僕とドンジュンさんは木陰に腰を下ろした
テソンさんは少し離れた場所で僕たちを見ている

とても気持のいい日だ
新緑の影がちらちらと僕たちの頬をくすぐる
昨日までの僕だったら子供のように戯れただろう

「昔の仕事って危ないことあったんでしょ?」
「ええ…死に損ないました」
「もしも…」
「もし帰ったらまたそんなことするか、ですか?」
「うん」
「そうですね…わからない…兄と考えます」

「兄貴のこと好き?」
「え?」
「言ってたじゃない、自分の幸せは兄貴の幸せじゃないって」
「ええ…」
「僕にもね、弟がいるんだ、喧嘩っ早い真っすぐ過ぎるやつ」
「似た者兄弟ですね」

ドンジュンさんはふくれて僕の頭をこづいた

「僕は弟からずいぶん恨まれてた」
「え…?」
「僕にはどうすることもできなかったんだけど」

僕にはどうすることもできなかった…
そう…僕もそうだった

僕はずっと兄さんにかわいがられてきた
本当に。僕の分身のようにかわいがってくれた

兄さんはなんでもできた。勉強もスポーツも
大人たちからも信頼されていた
僕はいつも叱られたけど兄さんは叱られたりしなかった
それがとても羨ましかったな
僕はそんな兄さんがとても自慢で誇りだった

でもひとつだけ、いつも気になっていた
父さんと僕が一緒にいる時、兄さんはけっして側に近づかなかったんだ
僕が父さんにくすぐられてお兄ちゃん助けてって手をのばしても
兄さんは少し離れたところでただ微笑んで見ているだけだった

僕は兄さんはあまり父さんのことが好きじゃないんだって、そう思った
いつも厳しい父さんのことが嫌いなんだってそう思った
だから僕は父さんに優しくしてあげた
兄さんが近づかない分近くにいてあげようと思ったんだ

なんとなく父さんと兄さんの間には緊張があった
僕は父さんも母さんも兄さんも大好きだったから、
僕が元気にしていてみんなが笑ってくれるならと、いつも気にしていた
ふたりは月と太陽だって言われた
兄さんが月で僕が太陽だって
でもそう言われるのはあまり好きじゃなかった
いつも家族を照らしていなくちゃいけないみたいで
疲れた顔なんてできなかったから
僕は静かに輝いていられる兄さんが時々羨ましかった

でもある頃から兄さんの態度が気になりはじめた
よく考えてみると兄さんは僕のものをみんな取り上げていた
危ないとか良くないとかふさわしくないとか
僕の好きな子もいつの間にか兄さんと仲良くなっていた

一度見てしまった
女の子との約束に急に行けなくなって兄さんに伝えてもらうことにした
兄さんは了解してすぐ走って行ってくれたけど、
少ししてその子にその日どうしても返さなければならないものがあったのを思い出し
間に合わないのを覚悟でその場所に向かった

その子は泣いていた
兄さんは弟がもう君とさよならしたいって説得していたんだ
心臓が凍っってしまった
なにがなんだかわからなかった

それ以来僕は兄さんと距離をおくことにした
兄さんは少し感づいていたのかもしれない
遊びにきた僕の友達に熱いお茶をかけたりしたんだ

兄さんに反発しはじめた。もう顔を見るのも嫌だった

ずいぶんそんな時間を過ごして
その後違う道に進んで連絡をとることもなかった

でも…僕が婚約者を失った頃
兄さんも奥さんを亡くしたって知った

僕も辛かったけど兄さんのことを考えると何倍も辛かった
本当はすぐにでも会って抱きあって泣きたかったんだ
あんなに嫌な思いをさせられた兄さんだけど
やっぱり僕にとってはたったひとりの肉親だから…

僕の幸せと兄さんの幸せは一致しない
それはわかってる
でも僕はどうしても断つことはできない

僕が苛められて泣いていた時一緒に泣いてくれた兄さん
父さんが死んだ夜ずっと抱きしめてくれた兄さん
軍に逆らった法廷の証言を認めてくれた兄さん
目をつぶると思い出すのはそんな兄さんの姿ばかり

「だから…僕は兄さんと帰ろうと思うんです」
「ギョンビン…」
「いつか兄さんとちゃんと向き合える日が来るって思いたいんです」
「でも…」
「泣かないで下さいよ、ほんとに涙もろいですね」
「おまえも少し泣きなよっ」

いえ…僕は泣きません…今は…泣きません

「さ、行きましょう、スヒョンさんに叱られる」
「ふん、いいよスヒョンなんて」

立ち上がった時ドンジュンさんが僕の腕を掴んだ

「ありがと…話してくれて…」
「僕のために泣いてくれたお礼です」

ドンジュンさんはまた涙をぽろぽろとこぼした
こんなに素直に泣けたら…僕もまた変われるだろうか


岐路 オリーさん

「挨拶にしては長すぎないかい?」
「テジュン…」
「僕の忍耐にも限度があるよ、イナ」
「違うんだよ、テジュン。今気合入れてたとこなんだ」
「気合ねえ」
「あの…僕のせいなんです」
「あなたは黙ってて。これは僕とイナの問題だから」
「でも、僕は彼に助けられたから。もちろん彼にはあなたがいるのも承知してます」
「それで5分もね」
「やめてくれよ、ほんとにこいつこれから大変なんだ」
「イナ、お前の悪い癖だよ。僕はいつまで辛抱すればいいんだ」
「あと少し。こいつがちゃんと話ができればそれで済む」
「その度にそんな濃厚な挨拶してたんじゃ、僕だって身がもたない」
「わかってくれてるんじゃなかったのか」
「お前の癖はわかってるさ。でも、頭で理解するのと心が乱れるのは別物だよ。今はっきりそれがわかった」
「すみません。僕が消えます。やっぱり虫がよすぎた。つい彼の好意に甘えてしまった」

ギョンジンはそう言うと会場とは反対の方向へ歩き出した
その後姿は切なすぎるほど孤独だった
だめだよ、ここで逃げたら!
「おい、ギョンジン、待てよ!」
「イナ、追うな。彼の問題は彼が片付けるしかないんだよ」
「テジュンは何もわかってないよ。あいつがどんなに辛かったか」
「だからって何でいつもお前なんだ」
「俺しかいねえだろ!」
「行ったら僕達の事どうなるかわかってる?」
「どういうことだよ」
「言っただろう、僕ももう限界だって」
「テジュン、これが最後だから行かせてくれ」
「だめだ、イナ」
「くっ、今あいつ離したら一生だめになっちまうかもしれないんだ」
「イナ!」
「テジュン、絶対戻るから」
「イナ、行ったらもう僕達は終わりだ」
「テジュン…そんなこと…」

俺は遠ざかってゆくミンの兄貴、いや、ギョンジンの後姿を振り返った
今あいつがこのまま行ってしまったらみんなおじゃんだ
あいつがせっかく心を開いて俺に教えてくれた事、全部水の泡だ

「テジュン、俺行くよ」

そう言って俺は駆け出した
サポーターをしてもらったのが役立ったぜ、早速
ちょっと足をかばいながらギョンジンの後を追った
俺の後ろでテジュンがどんな顔してるか想像したら揺れたけど、
でも賭け事にはここじゃなきゃだめ、っていう瞬間があるんだ
今がそれだよ
テジュンわかってくれよ
俺はテジュンのことを頭から振り払いギョンジンの後を追った
テジュンは後で何とかなると思ってたんだ、その時は
ちゃんと説明すればわかってもらえると思ってたんだ、その時は
こんな俺ってやっぱり甘かったのかな…


覗きっこ倶楽部◇7  妄想省家政婦mayoさん

白夜のステージが終わった頃に
スハを抱えていったテジンが戻ってきて僕の隣に座った

「スハ、大丈夫なのか?」
「ぁあ...一度にいろんな事があって混乱したんだろう...」
「テジン...それだけか?」
「テソン...余計な心配しなくて...いい....」
「ん...わかった...今は何も言わない」
「ぁぁ...そうしてくれ...」
「ぅん...」

ドンジュンが外の空気を吸おうとギョンビンを誘った
僕たちはホールに近い中庭へ向かった
ドンジュンはちょっと振り返り小声で僕に言った

「...踊り...上手かったね...ビックリしちゃった..へへっ...」
「ぁ、ぁふ...^^;」

僕は少し離れて2人を見ていた
あの2人は互いに兄と弟の立場だ...

兄として弟をどう見ていたのか...
弟として兄をどう思っていたのか...

兄として弟の許せないところ....
弟として兄の許せないところ...
2人は互いの兄弟の確執が理解できるのかもしれないな..

僕には羨ましくもあった...
僕には兄弟がいないから...

兄弟ってどんな感じなのかな...
うっとうしくてうざいときもあるんだろうな....
ライバルでもあるけど親友にもなれるのかな...

僕は...BHCにいっぱい兄弟がいると思ってる...
喧嘩をしたり..じゃれあったり...
尊敬したり...学んだり...

みんなは...迷惑かな...僕..頼りないもんな...
でも...僕はみんなの幸せを願ってる...

そんなことを考えてたときに、メイから合図があった

「テソン、メイ...」
「お、何かあった?」
「イナとミン兄が医務室出た...今ホールに向かって...」
「それで?」
「今...ドアの前...どうする?」
「メイ、別のドアから入ってスヒョンを見つけて報告してくれないか..」
「わかった...」
「すまない...」
「いいよっ」

メイの通信を切ったとき
ドンジュンがぽろぽろ泣いていた...


限界   ぴかろん

ドアを開けたとき、イナとミン君の兄貴がキスをしていた
僕は怒るべきか、それともいつものイナの癖なんだと我慢するべきかを考えていた
時計を見ながら…

イナは夢中でキスをしている
ミン君の兄貴も同じだ

医務室でもこんな濃厚なキスをしていたのか…
イナ…
お前はキスでこの人を懐柔したってわけか?
…お前はこの男に犯されそうになったんだぞ、わかってるのか?
僕がどんなに心配してたか…お前…解ってるのか?
そんな…想いの篭ったキスを…僕に隠れて…
僕が知らないと思ってお前は…

ソクともこんな風に…
この人とだって…こんな風にいつも…
僕が許すと思ってお前は…

五分過ぎたところで僕の我慢は限界に達した
いくらなんでも長すぎる
僕は激しく波打つ心と正反対の静かな声を出した

「五分経過」

飛びのいたミン君の兄と違ってイナは普段通りの顔で僕の方を見た
甘えるのもいい加減にしろ…
僕の気持ちを考えた事があるのか!
そう言って殴ってやればよかった
でもできなかった…

イナは今、この人に夢中なんだ…
好きだとか愛してるとか、そういう事じゃなくて多分…
イナはこの男を救いたいと考えている
立派な事だよ…
いつもそうやって、仲間外れになっている奴に体当たりでぶつかっていく
そしてそいつをいつの間にか立ち直らせる

ソクがそうだったじゃないか
解ってる

僕はお前を選んだのに、お前は僕をなんだと思ってるの?
部屋に置いてある座り心地のいいクッションか?
ただ待ってればいいと思ってるの?
待っていて、お前が甘えた調子で縋って来た時だけ抱いてやればいいの?

イナがミン君の兄貴を追いかけようとした時、僕は言った

「行ったらもう僕達は終わりだ」

イナが追いかけていくのは解ってた
あいつはそういう奴だから
でも僕を捨てて追いかけていくなんて
酷いよイナ…

「テジュン!お願いだから。これが最後だから…。あいつさえ何とかなったら俺もう…絶対…」
「お前の絶対ほどあてにならないものはない…。僕はもう疲れた…。会場に戻る時はみんなのところに行ってくれ…
僕は…仕事に戻る…」

仕事に…戻るよ…

「テジュン!後で全部話す!だから…待ってて…お願いだから…」

大声で叫びながらミン君の兄貴を追いかけるお前
ああ…話は聞いてやる…
けど…どれだけ寂しさを埋めてやっても、僕では足りないんだ、お前は…
そんなお前が好きなんだけど、僕はお前の恋人を続けて行く自信がない…
僕は会場に戻った


俺がテジュンに向かって叫びながら、ギョンジンの後を追っていると、ギョンジンが急に立ち止まって振り向いた
どすんと奴にぶつかり、俺はよろめいた

「てぇなぁもう!」
「…お前、戻れ」
「アンタと一緒なら戻る」
「戻んなきゃあの人を失う」
「アンタと一緒に帰る」
「…」
「テジュンを失わせたくないなら一緒に来てくれ…」

そう言ってみた
ギョンジンは黙って俺に背中を向けてしゃがんだ

「…なに…」
「おぶってやる」
「…ギョンジン…」
「…まったく…お前には参るよ…また僕は逃げ出すとこだった…」
「ギョンジン」
「…ここで逃げてちゃ…いけないよな…弟に…会えなくなる…」
「そうだよ!ああ、よかった…」

ギョンジンの事はよかったけど…テジュンの事は…
俺はギョンジンにおぶわれて、さっきのドアのところに戻ってきた
テジュンの姿はもうない
中に入っていったのだろう
唾を呑み込み、俺はギョンジンにおぶわれたまま、会場内に入った

テジュンがいた
ギョンジンは真っ直ぐにテジュンの方へと向かった
俺は心臓が破れるんじゃないかと思うほどドキドキしていた

「…テジュンさん…すみませんでした…僕がイナ君に…甘えてしまって…」
「あなたに謝っていただく理由はありません」
「…いえ…以前にもあなたに失礼な事をしてしまって…」
「悪いが僕は仕事中だ。邪魔しないでください」
「テジュンさん…」
「他のお客様の迷惑になる。そのおぶっている人を連れて外へ出てください」

テジュン…
めちゃくちゃ怒ってる…

俺はギョンジンの背中からもがいて降り、テジュンの腕に縋った

「テジュ…」
「終わりだ」
「…テ…」
「僕は仕事に戻った」
「…テジュン…聞いてくれ…さっきのは…」
「お前の言い訳など聞きたくない」
「…テジュン…」
「終わりだ。お前と一緒に行くと言ったが、取り消す」
「…」
「この人に守ってもらえばいい」
「…いやだ…」
「静かにしてくれ」
「いやだ!いやだテジュンいやだ」

涙が溢れてきた
本気なのか?
いやだ
テジュンがいなけりゃ俺はなにもできない
泣き叫ぶ俺の口を掌で塞いで、テジュンは乱暴に俺を会場の外へ引きずり出した

「テジュンさん!」

ギョンジンを突き飛ばして俺を引っ張っていくテジュン

「静かにしろ!迷惑だと言っているだろう!もう終わりだ。行ったら終わりだとお前に告げた!
お前はあの人の後を追った。だから…終わりだ」
「いやだっいやだっテジュンいやだ…俺を待っててくれたんじゃねぇのかよっ」
「待ちくたびれた…」
「テジュン!」
「…さようなら…」
「テジュン!…テジュン待ってくれよ…テジュン俺、俺…ハッタリかましすぎて…俺…疲れちゃったんだよ…
テジュン!テジュン!待ってよ…抱きしめてくれよ!テジュン!お前がいなきゃ俺…テジュン…」

テジュンは会場に入っていった…
ロビーに放りだされた俺は、切り損ねたカードのようにバラバラに床に散らばった


そして尚  足バンさん

僕は白夜のパフォーマンスが終わるのを袖で待っていた
そしてテッヒョンに万が一の場合は手を貸してくれるよう頼んだ
テッヒョンはやはり事情をmayoさんから聞いていて
いつでも呼ぶように言ってくれた

会場に戻り見渡すとギョンビンもドンジュンもいない
テソンもいない
テソンが一緒なら大丈夫か?
いやしかし
僕は焦って手近なドアに向かおうとした時呼び止められた
メイさんだった

イナとギョンビンの兄貴がここに来る

一瞬姿の見えないギョンビンたちのことを考えた
イナがいったいどういう話に持って行ったのか見当がつかない今
ギョンビンたちと会わせるには早いと感じた

その時テジュンさんが後方のドアから入ってきた
テジュンさんの顔が一瞬歪んだように見えた
他には誰も見当たらなかった

「テジュン…さん…?」
「ああ…」
「どうしたんですか?」
「ちょっと…疲れて…空気を吸いに…」

空気を吸いに出ただけでないことくらいすぐにわかる
そこにいたはずのイナとギョンビンの兄貴はいない
そしてテジュンさんのこの顔だ
あの馬鹿野郎がなにをしたのか想像がつく

「テジュンさん…」
「仕事に戻ります」

テジュンさんの目に、見たこともない強い挑戦的なひかりが走った

「テジュンさん、ちょっと待って」
「大丈夫です。仕事に戻ります」
「テジュンさん!」

テジュンさんは自分の席に戻って行った

僕はドアの外に出ると思わず壁に寄りかかった
走り回っている自分がひどくむなしく感じた
僕は重く感じる足を引きずって
ギョンビンとドンジュンを捜しに出た

中庭に出た時3人が歩いてきた
ギョンビンとドンジュンの顔を見て安堵にどっと疲れた
そのためだろうか、僕は自分で思わぬ荒い声を出していた

「ドンジュンっ!席を離れるなと言ったろうっ!」

ドンジュンはびくんとして突っ立った
ギョンビンは黙って立っている
テソンが割って入った

「スヒョン…僕もついてるから大丈夫だと思ったんだ」
「…すまない…また続けて頼めるか」
「わかった、テジンも戻ったから」
「そうか」

テソンはギョンビンを連れてホテルに入った
俯いていたドンジュンが歩きかけて振り向いた

「疲れてるの?」
「ああ…そうかもな」
「僕は僕なりにギョンビンを守ってる」
「わかってるよ」
「石頭のためにどこまで走り回る気?」
「ミンチョルのことは言うなといっただろう!」
「かばってばっかり」
「同じことを何度も言わせるな!」

ドンジュンは僕を睨むと歩いて行った

ばかだな
失敗したらおまえまで出て行くっていうからやってるんだろう

僕はしばらく空を仰いでいた
会場の喧噪はここまでは届かない

大きく息を吸って会場に戻ろうと振り向いた時
遠くのホールの入口にイナが放り出される姿が目に入った


一歩  ぴかろん

放り出されたイナは、気が狂ったように泣き叫んでいた
そして急に静かになった

僕はとても疲れていたけれど、やっぱりあの馬鹿を放っておけなくて、近づいてみた

「イナ…どうしたんだ…」
「…テジュンを待ってんだ…」
「…何があった…」
「テジュン怒らせちゃったんだ…」

様子がおかしい…あの…チニさんとテジュンさんとの間で迷い苦しんでいた時よりもずっと…

「イナ…ちょっとごめん」

僕はイナを抱きしめてみた
だらりと垂らした腕、虚ろな瞳
こいつまでがらんどうになっちまったのか?

ここでも別れが…

「イナ…」
「テジュンは?」
「イナ」
「テジュン、来てくれるよな?」
「イナ、しっかりしろ」
「テジュンがいないと俺、だめなんだ…ギョンジン助けたくても助けられないんだ…テジュンは?」
「…イナ…」

テジュンさんの方か、なんとかしなきゃいけないのは…
でも…

「イナ、もう少しここで待ってろ。テジュンさん呼んでくるから」

そういい残してホールへ戻った

テジュンさんを見つけ近寄ると、ミンの兄貴がテジュンさんに何事か詰め寄っていた
僕は身を堅くしてそちらの方に行った

「お願いです!イナ君のところへ行ってあげてください。僕が全て悪いんだ。僕が彼に頼りすぎたんだ…
さっきのキスだって…彼は僕を元気づけようと…」
「キスでなくてもいいでしょう?どうしてキス?…あいつは余程貴方のキスが気に入ったんでしょう
行って落ち込んでるあいつに、さっき以上のキスしてやってください。あいつはキスが大好きなんですから」
「…だったら貴方がしてあげればいい。僕のキスなんか…彼は貴方を求めてるんだ。お願いですから…」

ミンの兄貴?これが?
殺気も厭味もなくなっている…
イナがこんな風にこいつを変えたのか?

…命がけだったのか?…

僕は二人の間に割って入った

「失礼、君は外に行ってくれないか」
「あ…」

僕の顔を見て、ミンの兄貴は少し青ざめた
それから口を閉じて頭を下げ、僕の言うとおり外へ行った

「テジュンさん」
「…なんです?」
「失礼」
「あっ!」

こうした方が手っ取り早い
僕はテジュンさんを抱きしめた

言った端から後悔してる
心配で押し潰されそうな自分を必死で支えている
イナの名前を呼び続けている

「テジュンさん…イナのところへ行ってあげてください」
「できません」
「なぜですか?失ってもいいんですか?」
「…もういいんです…」
「後悔しますよ、一生…」
「…僕では役不足なんだ…アイツの恋人なんて…」
「…イナは貴方が来るのを待ってます…」
「…今、あの人が行ったでしょう?」
「イナは命がけで彼を救おうとしてる。まだ終わってない。貴方の支えが必要なんですよ」
「僕は見ていられません…辛すぎる…」
「…もう少しだけ待ってやれませんか?」
「もういやです…」
「…うそつき…」
「…」
「…離れる事で二人が幸せになるとは思えません。乗り越えてこそ掴む事のできるものでしょ?幸せってのは…」
「…」
「考え直してください…」

僕はそれだけ言ってドアを出た
ミンの兄貴がイナのそばで何か言っている
少し疲れた…
僕は廊下の隅のソファに向かって歩き出した

「イナ…ごめん…僕が逃げ出さなきゃよかったんだ…」
「…なぁ…」
「ん?」
「俺さぁ…」
「ん」
「頑張ったよなぁ…アンタの事で俺、すごく頑張ったよなぁ…」
「うん…とても…」
「俺さぁ…アンタの事がうまくいったら、テジュンに誉めてもらえると思ってたんだ…よく頑張ったなって…」
「…」
「…違ってた…。アンタがさ、勉強やらなんやら頑張ってたのにさ
親父さんに誉められなかったっての…その気持ち…今…俺…すっごく解るよ…」
「イナ…」
「…抱きしめてくれるだけでもいいのにさ…突き放されるっての…こんな…辛いことだったんだな…」
「イナ」
「俺…表面だけしか解ってなかった、アンタの気持ち…」
「僕の事なんかいいんだ!イナ、なんとかする。僕が何とかしてやるから!」
「…テジュンがいなくなったらどうしよう…ほんとにいなくなったらどうしよう…」
「待ってろ!絶対連れてくる!」

僕はさっき出てきたドアに向かった
そのドアを開けようとしたとき、テジュンさんが出てきた

「慰め終わりましたか」
「いいえ、僕には無理です」
「…」
「僕は彼に助けられました。僕は今まで自分で自分を苦しめる選択ばかりしてきました、気づかずに…
そして僕がこんなに不幸なのは全部弟のせいだと思い込んでました。貴方にそんな選択をしてほしくない。イナの恋人だから…」
「…何度もイナを選んださ。そして何度も裏切られてる…信じていたって目の前で見た君とのキスは…説得力があるよ…
イナが浮気者だって事、イナが僕を忘れているって事、よく解ったよ…」
「もう一度選んでください。イナがいる人生とイナを失くす人生と…どちらを選択しますか?」
「…」
「僕は失礼します。他の人にも謝らなくちゃいけないから…。イナは…僕についてきてくれると言いました。僕に勇気がなかったから…
こんな僕にそこまで親身になってくれる人はいませんでした。僕は彼に感謝してます。彼に伝えてください。ここから先は僕一人でやってみるって…」
「ミンさん…」
「彼は疲れてます…」
「…」

僕は怖い
けれど、イナに頼るわけにはいかない
イナのくれた命がけの口付けを、僕は台無しにしたくない…

ソファのところにスヒョンさんがいる…
この人に謝りにいこう…

イナとテジュンさんがうまくいくように祈りながらスヒョンさんに近づいた
僕の姿を見て、スヒョンさんはソファから立ち上がった


嗜虐的な選択   ぴかろん

イナのいる人生といない人生?

僕は面食らった
僕の目の前からイナがいなくなる人生…
具体的には考えていなかった
浅はかな僕…
そうだよ
一時の感情だよ
だけどここでもしあいつを許したら、この先僕はずっとずっと、イナの事をやきもきしながら待たなくてはいけないんじゃないかと

そう思って…それで僕は…

イナが僕のそばからいなくなる…

たまらない…
そんな事考えられない…
昨日までそう思っていたんだ僕は…

あいつがミン君の兄貴を放っておけないのは、それが仲間にかかわることだからだ…
仲間を大切にするのは、あいつがひとりぼっちだからだ…

僕は…あいつを支えてやろうと決心したのではなかったのか?!

…イナ…僕は…お前が思うほど寛大な人間じゃない
とてもちっぽけな人間なんだ…
お前が信じてくれるほど、僕はお前を信じてないのかもしれない…
お前に嫌われないためにお前を自由にしてやっている卑怯者なのに…
その自由も奪おうとしてる…
キスしようが誰と寝ようが構わないって言ったのは僕だ…
イナ…イナ…

僕が追い出して捨てたその場所で、イナはうつろな目をして座っていた

「イナ…」
「テジュン…テジュンだ…きてくれたんだ…よかった…俺、俺今夢みてたんだ…怖い夢だった…テジュンがね、俺に『終わりだ』って言うんだよ…」
「イナ」
「怖かった…死ぬ事よりも何よりも怖かった…テジュンがいなくなる事なんて考えられない…よかった…きてくれた…」
「イナ…」

そんな可愛いことを言う、混乱したイナを、僕は愛おしく思った
手放したくなかった

「イナ…僕はね…とても酷い男だよ」
「え?なんで?」
「イナ…お前は夢を見てたんじゃない。僕はお前に『終わりだ』と言った」
「…うそだ…」
「お前、ミン君の兄貴とキスしてたろ?それが許せない。耐えられない」
「テジュン…あれは…」
「ミン君のお兄さんに聞いた。勇気を貰ったと言っていた。ここから先は一人でやると伝えてくれと…」
「…ほんと?」
「…心配か?一人でやると言ってたんだ!それでも僕よりあいつなのか!」
「…テジュン…」
「僕と別れてもいいのか?」
「いやだ…」
「僕だってお前と別れたくない」
「…テジュン…」
「…お前…僕の言うことを聞くか?」
「…なに?」
「聞くかと言ってるんだ」
「聞くよ。聞いたら…終わりだなんて言わない?」
「…ああ…」
「テジュン…」
「…こっちに来い」

僕はイナを立たせて腕を引っ張った

「どこ行くのさ」
「黙ってついて来い」
「…テジュン…あのね、俺、頑張ったんだよ…ギョンジンの事でね、俺、すごく…」
「黙れ!」
「…テジュン…テジュン、どこ行くんだよ…」

僕はイナをトイレに連れ込んだ
イナの顔は引きつっていた


「テジュン…テジュンちょっと待てよテジュン…冗談だろ?…前に俺が拒んだから?
わざわざこんなとこで…待てよテジュン…いやだ!いやだ!人が来るよ…」
「…うるさいな…」

僕はネクタイでイナの口にさるぐつわを噛ませた
そしてシャツのボタンを外し、ベルトを緩め、スボンを脱がせた
イナは身を捩って嫌がった

僕はさるぐつわの上からイナにキスをして、そしてイナを抱いた…
抱いたというよりも犯したというべきかもしれない
抵抗はしなかったが、見開かれたその目は、怖れと哀しみの入り混じった目をしていた
その目を見つめながら僕はとても後悔していた
終わりだと言ってしまった事と
こうやってこんな所でイナを抱いている事を…

イナ…イナ…愛してる…
僕を捨てないでくれ…僕から離れないでくれ…イナ…

僕はずっとそう呟きながらイナを突き上げていた

僕が果てた後、イナの胸に埋めた僕の頭を、イナはそっと撫でてくれた

俺が悪いんだ…ごめんテジュン…嫌な思いばかりさせて…

涙声でそう呟いていたイナ…
僕はこんな事をしてしまった自分が恥ずかしくて、泣いてしまった…

イナの服を整えて、イナの涙を拭った

「ごめん…イナ…ごめんな…」
「…テジュン…そばにいてくれる?」
「…いてもいいのか?こんな嫉妬深い男なのに…」
「俺が悪いんだ…悪い事したら…叱ってくれよ…」
「こんな叱り方だぞ?」
「いいよ…」
「いいのか?」
「いいよ!テジュンさえいてくれるなら俺…」
「イナ…」
「…でもテジュン…俺…あいつだけは…なんとかしたいんだ…」
「…ミン君のお兄さんか?」
「…ギョンジンって言うんだ、あいつ…」
「…」
「だめか?あいつ一人で弟に会うの…難しいと思う…」
「もう、あんなキス、しないって約束してくれ」
「あんなキス?」
「あんな濃厚なの…」
「ああ…しない…」
「濃厚じゃなかったらちょっとぐらいは許す」
「…テジュン?」
「…止めたって無駄だもんな…お前…」
「信用ねぇんだな…俺って…」
「当たり前だろ?」
「…テジュン…ごめんな…テジュン…」
「僕の方こそ…ごめん…こんなとこで…」
「痛かった…」
「ごめん…」
「でも…ちょっと…よかった…」
「…」

僕はイナを睨んでやった
イナは笑った
安心したように笑った

イナを失くしたくない…
もう絶対離したくない…

僕はイナを強く抱きしめた


【18♪イナ テジュン編】ロージーさん


妄想ギター侍 れいんさん

これは祭の出番前の…
どんなシチュエーションかはわかりません…

♪〜♪(ギター侍風に…)

僕はソ・ン・ジェ
損するソンジェ
お菓子のCM出てるんだ
おいしい顔って得意なの
…って、言うじゃな〜い?

…だって、あんたのほっぺた
いつも落ちてますからっ!…残念っ!!

…ソンジェの万有引力斬りっ!!


私、ヨ・ン・ス
涙のヒロインって呼ばれます
美日々に天階 泣きどおし
傷つく人をほっとけない
…って、言うじゃな〜い?

…でも、あんたが好きなのは
傷つく人に手を差し伸べる
あんたの姿ですからっっ!…残念っ!!

…ヨンスの不幸好き斬りっ!!


僕はミ・ニョ・ン
僕のカラダはベリーマッチョ
夏でもマフラー離せません
僕は家族が何より大事
…って、言うじゃな〜い?

…そりゃ、あんたの家族は
たいそう気前がいいですからっ!…残念っ!!


…サザエさんちもびっくりの大家族斬りっ!!



といれのかいだん  ぴかろん

ぼくがといれにいったときのこわいはなしをします
ぼくはおまつりをたのしんでいました
でもちょっと、といれにいきたくなったので、せきをはなれました
みんななにかぴりぴりしてたので、きんちょうしてしまってといれがちかくなったのかもしれません

ぼくがといれにいくと、こしつがひとつ、しまってました
ぼくがようをたそうとしていたら、そのこしつから、へんなおとがきこえてきました
へんなこえもきこえてきました

がたん、どん、くうっいやっ、ああ、んん

といったこわいおとでした

『いや』というのはいやなことだといういみかな?とおもい、これは、あけてたすけなきゃいけないかな?
とようをたしながらおもいました
てをあらったらたすけにいこうとおもいました
でもなかなかおしっ○がおわりません
そのうち『いや』がきこえなくなりました

うう、ああ、うっうっ、がたんがたん、どんどん

というこわいおとになり、ぼくはせすじがさむくなり、ますますおしっ○がおわらなくなりました
だれかなぐられてるのかな?でもなぐるおとではないな、ぼくは『もとぼくさー』なので、なぐるおとはわかります

ぎしぎしぎし、はっはっはっ、ううっううっううっ

りずむよくきざまれるこわいおととこえ
なにをしてるのかなぁ…

あ、『きんとれ』だ!

こわかったのでわざとあかるいことをおもいうかべようとしました
『きんとれ』は、けっして『あかるい』わけではありませんが、『さつじん』とかよりはあかるいとおもいます
ぼくが『ぼくさー』だったころ、きんとれをしているとき、りずむよくうごかなくてはならず、こきゅうおんもりずむよくきざまれたものでした だから『きんとれ』してるんだなとおもいました

でも…といれで?

ああ、だれかが、『きんにくばんづけ』のためにこんなとこできんにくをきたえているんだな…

こわかったのでむりやりそうおもいました

ああ、ああ、ああああてじゅん、いないないなああ

こわいこえにいなさんとてじゅんさんのなまえがはいりました
こえはふたりぶんです
なああんだ、いなさんとてじゅんさんかぁ…
ふたりで『きんとれ』をしているんだな?
ふうううん…

とってもくるしそうなこえです…
どんなとれーにんぐなんでしょう…
ぼくはすこしほっとしたので、ようやくおしっ○もおわり、てをあらって、しまっているこしつのまえにいってみました

あっあってじゅてじゅいないなうううっ

というおおきなこえがして、そのあとはあはあいういきづかいがきこえました
ぼくはすぱーりんぐをおもいだしました
さんぷんかんのすぱーりんぐは、とてもくるしくて、ちょうどこんなかんじだったなぁとおもいました

そか、すぱーりんぐをしてたんだな?
がんばりやさんなんだな…とおもいました

ぼくがといれをでようとしたとき、こしつからちゅうちゅうぺちゃぺちゃというおとがすこしきこえました
どこかけがをしたのかな?
ちをすいだしてくすりをぬっているのかな…
なつかしいな、りんぐ…
ぼくはもうたてないけど…
そうおもってといれのそとにでました
かいじょうにもどりながらぼくはおもいました

どうしてあんなせまいところですぱーりんぐしてるのかな?
へんなひとたちだなぁ
まあいいか、いちばんなかよしなんだもの、あのひとたちは…

それともまたてじゅんさんのはらぐあいがおかしかったのかしらん…

ふしぎです
ふたりでといれにはいるのはどうしてですか?
このぎもんをひとにきいたらはじですか?


君へ ードンジュンの独白ー 足バンさん

僕はね、ギョンビン
君の笑った顔が好きなんだ
下を向いて照れる顔が好きなんだ

真っすぐな僕のことばに
真っすぐに応えてくれる
そんな目が好きなんだ

いつも真っすぐあの人を見てた
あの目が好きだったんだ

ギョンビン
あの人を抹殺しようとしてるでしょ
ぽんってdelete押したでしょ

でも知ってるよね
ディスクにはちゃんと記憶されてるって
そんなに簡単に消せるものじゃないって
手をかけてやればまた再生できるって
本当に抹消するには
自分をたたき壊すしかないんだよ

僕はね、ギョンビン
昨日までを忘れたりしてほしくない
忘れたふりなんかしてほしくない

今日の君を作ったのは昨日までの君だよ
一秒だって切り取ったりしちゃだめだよ

笑ったことも泣いたことも
愛したことも苦しんだことも
みんな今の君を作ってるんだから
全部が君のその血の中に流れているんだから

ちゃんと全部を持ったまま
そうしながら前を向いていて

そうすればどんな道を通ってきたのか思い出せる
どこを曲がってきたのか思い出せる

そうすればいつでも変わっていける
忘れてしまったら
変わることもできない

ゆっくり目を閉じて
いっぱい息を吸い込んで
放棄しない勇気をもって

ねえ、ギョンビン
僕は君のその真っすぐな目が好きなんだ

その瞳をあの人に帰してあげたい


べんず  ぴかろん

ぼくのべんきょうはとってもすすんでいます
きょうは、さんすうのべんきょうをすこしやりました
すはせんせいにおしえてもらいました
『べんず』というものです

「円を描くでしょ?もう一つ円を描くの。重なる部分は両方に属する…属するってわかる?」

ぞくっていうのはぼうそうぞくですか?それともそくさんのしんせきですか?

「んーちょっと違うけど暴走族に入っている人とかソクさんの親戚にあたる人とかいうときに
『暴走族に属する』『ソクさんの親戚に属する』と言えるね。わかるかな?」

なんとなくわかります

ぼくは『べんず』をかいてみて、おもいつくそういうかんじのひとびとをあてはめてみました
むずかしいです

てんし…すひょんさん、どんじゅんさん、このごろいなさん、くもさんにとってのてすさん、ぼくもちょっとてんし
あくま…どんじゅんさん、てじゅんさんにとってのいなさん、ぎょんびんさんのおにいさんのぎょんびんさん

これでかさなっているひとというのが『べんず』のかさなりのぶぶんにはいるのだと、すはせんせいがおしえてくれました…

『てんしであくま』…どんじゅんさん、いなさん

ふうん、そういうことか
ずにかくとよくわかりますね、せんせい

「うん」

せんせいは、じぶんでも『べんず』のめもをかいていました
ちらっとみたら

きこんしゃ…てじんさん、じゅんほくん(ぼくだ!)、すは
のーまる…てぷんさん、てそんさん、しちゅんさん、ちょんまんさん、らぶくん、じゅんほくん(ぼくだ!ぼくはのーまるというのだな?)
あぶのーまる…いなさん、みんちょるさん、ぎょんびんさん、どんじゅんさん、てじゅんさん、すひょくさん、そくさん、すひょんさん
       うしくさん、いぬせんせい、ちぇみさん、てすさん、ぎょんびんさんのおにいさんのぎょんびんさん
あぶない…いなさん、ぎょんびんさんのおにいさんのぎょんびんさん、すひょくさん、みんちょるさん、どんじゅんさん
     うしくさん、いぬせんせい、てそんさん、てじんさん、らぶくん、すは
あぶなくない…てすさん、ちぇみさん、しちゅんさん、ちょんまんさん
あぶない?…そくさん、てじゅんさん
ふつうのいみでのあぶない…てぷんさん(いつもけがをしそう…)
こんなことがかいてあった
ぼくはちょっとそれをかりますといって『べんず』をかいた
すはせんせいはあわてていたけど、ぼくが
「いみはわかりませんけど、れんしゅうにはもってこいのふくざつさですね」
というと、すこしあんしんしたようです

…かんがえているうちにあたまがこんがらがってきました

せんせい、もうすこしかんがえてからけっかをはっぴょうしてもいいですか?
ときくと、すはせんせいは、かおをあかくして

「これは結果発表しなくていいよ、算数は終わりだ…こんどは社会の勉強をしよう…」

といってのーとをとじました
でもぼくは、ちゃんとめもをとったので、あとでこっそりとけっかをかいておこうとおもいました…

べんきょうってたのしいけど、ほんとにむずかしいです


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