セツブンショー1 機転 ぴかろん
「しょーだわっ!スヒョクちゃん、ミャークもっちぇきちぇっ」
デジャイナー先生が唾を飛ばしながら叫んだ
何のことかよく解らない
「ミャークを早くもっちぇきちぇっ」
「は?」
先生は、息を大きく吸い込むと低い声でこう言った
「マイク持って来いって言ってんだ!早くしろ!ボケナス!」
ボケナスはひどいだろ…
俺は豹変した先生の勢いに吹き飛ばされるように、近くにいた従業員からマイクを貰い、すっ飛んでって先生に渡した
「ありがちょおおん…」
そして先生はスイッチをオンにして、舞台で豆をばら撒き続けるソクにナレーションをつけた
「人は誰でも心に鬼を持っていましゅ…自分自身に囚われていりゅ時、人は無意識のうちに鬼を呼び込みましゅ…丁度いまの彼のように…
『鬼はうち』と無意識に呼び込み、そして『福はそと』とみじゅから福を遠ざけていましゅ…
自分はちっぽけで、何もできなくて、消えてしまいちゃいと小さくなっていりゅ時、しゅぐそばにある幸福に気づかじゅにいるものでしゅ
セツブンショー、自分自身に囚われしゅぎて周りが見えなくなっていりゅ人達に捧げたい…
アニャタの心に棲み付く鬼を追い出して、アニャタにも幸しぇになってほちい…
アタクチはしょんな願いをこめて、お洋服をちゅくっておりましゅ…」
…ソクさんが豆を撒き散らしながら震えている…
俺も心臓に矢が刺さったようにずきんずきんしている
…デジャイナー先生は…只者じゃないんだ…
俺は暫く口が聞けなかった…
「どぉぉん?しゅてきなナレーションでしょっ?」
「…」
「おいっ!感想ぐらい言えよ!ボケナス!」
「はっ…あの…すごいです…」
「それだけかよっ!」
「…用意されてたんですか?…」
「…んふん…インスピレェションを感じちゃの…あ〜たとソクちゃん見てたらピイインと…んふ」
俺は思わずデジャイナー先生の手を握り締めた
「先生…素晴らしいです…」
「あらン…アタクチに惚れた?」
「あうっ…そっ尊敬してます…」
そこにソクさんが戻ってきた
ガチガチになって戻ってきた
目にうっすら涙を浮かべている
俺たちを見て、大きく手を広げ、先生と俺に抱きついて、そして声をあげて泣き出した
「あら!何今から泣いてるにょ?まだセツブンショーは始まったばかりよ!泣くのは早いわっ!」
「でも…ぼく…」
「泣くんじゃねぇよ!トンチキ!泣いてちゃ次のショーがはじまらねぇだろっ!」
「…は…はい…」
「わかりぇばいいの。ちゃんとやり遂げてちょ〜だいっ」
「…はいっ」
先生は巨体をゆすって「次は何てナレーションいれようかしりゃ〜♪」と言いながら向こうへ行った
「ソクさん…」
「スヒョク…僕…」
「かっこよかったですよ…」
「…」
「なに?」
「…ウソつき…」
少し拗ねた顔のソクさんが可愛かった
ちょっと見詰め合って俺たちは両方から唇を寄せた…
温かいものが流れ込んできた
「ちょっちょっ!あーたたちっ!ちゅぎの服に着替えてちょ〜でゃいっ!」
「「はっはいっ」」
セツブンショー1 あいつ ぴかろん
ソクのかっこわりぃセツブンショーを見ていたら、突然妖怪の声が響いてきた
聞いているうちに俺は涙ぐんでいた
ミンの兄は聞いているだろうか…
俺は客席より少し高くなっている関係者ブースの柵に肘を張って、ミンの兄貴の方を見た
眉間の皺
きっとヤツの気分を害しているのだろうな…
それはヤツの心を揺さぶっている証拠…
ヤツは俺の視線に気づき、また片方だけ口の端を上げた
そして軽く手を上げて、俺に向けて小指から順に曲げていった
来いっていう意味か?
ふふ…行けるかよ…お前みたいな危険なヤツのところに…
俺は無意識に噛んでいた右手の親指を離し、右手を少しだけ上げて素早く合図した
お前が来いと…
ヤツは上げていた口の端を、もう少し上げて、それから舞台の方に顔を背けた
…よく見てけよ…よく聞いてけよ…
お前の心に棲み付く鬼を…追い払ってもらえよ…
親指をまた噛みながら俺はそう思った
「誰に合図してんだこら!」
「え?何もしてねぇよ」
「危ない事はするな!ん?」
「…」
「わかったか!ん?」
「…ん…」
このあとはお決まりの…
「だから!衛星中継もされてるのにこれ以上何もできないっつってるだろ?おばか!」
「…いいじゃん…」
ぺちん☆
デコにしっぺをくらって、俺はまた口をとんがらせながらテジュンの肩に凭れかかっていた
祭の合間 2 れいんさん
彼の手慣れた運転で目的地へはすぐに着いた
防波堤に車をつけて、僕等は車を降りた
乾いた岩場を捜して並んで腰掛け、海の向こうを眺めた
少し風が冷たい
「車の運転も上手なんですね。結構スピードも出てました」
「…昔、レーサーをやっていたからね…」
そう言って彼は黙り込んだ
中庭での苦しげな顔が一瞬戻る
僕の好奇心とおせっかいがまた顔を出した
「何か心配事でも…?あ…話したくなければ…」
「スハ…。君は…いい人だね。…なぜだろう。こうして海を見ていたら、何もかもここに吐き捨てたくなる…
自分を傷つけているチーフを見たからなのか…。僕はどうかしてしまったのかな」
彼は、足元に打ち寄せる波を見つめながら、ぽつりぽつりと昔話を始めた
時々、言葉に詰まってはまた話し続ける
僕はただ、じっと彼の話を聞いていた
彼の話を聞き終えて、驚かなかったと言えば嘘になる
正直、僕は衝撃を受けた
しばらく考えて、僕は言葉を発した
「…そして…その事を奥さんは?」
「…多分…知っている。知っていて僕と…」
「だったら…それでいいじゃないですか。悩む事などないですよ」
「いや…僕はわからないんだ。彼女を本当に愛していたからそうしたのか…。大好きな兄さんが愛した人だったからそうしてしまったのか…」
「無理に答えを出さなくてもいいですよ。今が幸せなら…」
僕は僕自身にも言っていた
僕にも守るべきものがある
ずっと答えをごまかしながら、ただ生きている僕…
「僕は鏡を見るのが怖いんだ。あの時目を覚ましたのが、僕でなく兄さんだったらよかったのに
兄さんが…鏡の中で笑いかける度に…僕は…僕は…」
握り締めたこぶしが微かに震えている
そのこぶしにそっと僕は手を重ねた
他にどうしていいのか思いつかなかった
彼は僕の顔を見つめた。その瞳の奥には暗い悲しみが見えた
絞り出すように彼は言葉を続ける
「僕は、兄さんを裏切り…妻を騙し…」
僕は思わず彼を抱きしめた
それ以上聞いていられなかった
彼の姿に僕を見た
抱きしめられながらも、尚も彼は叫んだ
「…僕の方が消えてなくなればよかったんだ!」
激しい感情につき動かされ、とっさに僕は彼の唇を塞いだ
なぜ僕はこんな事を
僕にもこんな感情があったなんて
彼を抱きしめる手に力がこもる
彼の手が僕の背中にまわる
彼の気持ちは僕にはみえない…
互いに互いの傷を舐めあっている…ただそれだけなのか
僕はこの先どうしたら…?
波しぶきが僕等に冷たくふりかかる
…とにかく…もう…祭に戻らなくては…
【10♪ミンチョル編】 ロージーさん
独白 オリーさん
目の端にその影を認めた瞬間、
世界のすべてが止まったような気がした
振り返って確認したいという衝動をかろうじて押さえた
でも間違いない
なぜ?なぜまだここにいるんだ
まさか祭りに出るつもりなのか…
シートに深く沈みこみ目を閉じた
ベッドの上でしばらく泣いた
どれくらい泣いたのかわからない
時計を見るともう時間だ
服を取り出そうとクローゼットにちかづくと
床に何かが落ちている
あの子だ
また涙がこみあげてきた
近づいて抱きしめるとまた涙が出た
いつもしているように鼻をつついて笑いかけた
お前だけは僕のこんな姿を見ていてくれるんだね
でもまた涙
まだ出る涙が残っていたのか
洗面所に行って鏡をのぞいて思わず唇をかんだ
目が充血している
今日はサングラスが必要だ
先日理事が日本の監督からもらったというサングラスを送ってくれた
あれでごまかそう
今日はとてつもなく長い一日になりそうだ
すべてがのろのろと進んでいる
仕方がない
ミンに辛い思いをさせた分、
いや、それ以上の罰を受けなければならない
たぶんこの罰は一生続くだろう
父親への恨からやっと抜け出せたと思ったのに、
今度は自分自身に捕まってしまった
どうして僕はいつもこんな風になってしまうのだろう
きっとこんな風にしか生きられないのだ
今朝流した涙がきっと一生分だろう
もう泣く事もなければ笑う事もないだろう
唯一の救いはミンがミンらしく生きてくれること
それだけが今のそしてこれからの僕を支えなのだ
兄さんと一緒に祭の会場に足を踏み入れた途端目に入った
もうだめだ
彼がいる
見たことのないサングラスをして
あんなひどい事を言った彼が
思い出すたびに呼吸が荒くなる
初めて見る冷酷で非情な彼
僕の知らない彼の顔がまだあったなんて
絶望のどん底に突き落とされた時
人はどうやって這い上がるのか
愛や激励などは不要だ
煮えたぎる憎悪と怒りがあればいい
その二つがエネルギーの元になるのだ
それさえあれば這い上がれる
簡単だ
彼を憎めばいい、怒ればいい
でも…
もう少しで本当に彼を殺すところだった、あの瞬間
ほんとにあの一瞬だけ、
彼は言ったような気がした
ミンにならいいよ、と
それで僕は思わず我に返って手を緩めたのだ
その前もその後も見苦しい命乞いをしていたのに、
なぜあの一瞬だけそんな気がしたのだろう
あの一瞬の彼の顔が頭に焼きついて離れない
苦しくて顔を歪めているのに
なぜかすべてを許したようなあの顔
そこで僕の思考は混乱して途切れてしまう
もっと簡単に、もっと単純に
彼を憎めばいいのに
なぜできないのだろう
ドンジュンさんに抱いてもらって
どうしようもなく揺れている自分がいる
こんな事ではいつまでも断ち切れない
それにこんな状態で祭に出るのは無理だ
隣にいる兄さんの手を握った
「兄さん、やっぱりここにはいられない」
【11♪ミン編】 ロージーさん
傷 1 足バンさん
僕はスヒョンのところに戻らず
ギョンビンたちが見える後方の暗い席に座った
ギョンビンの兄貴はまたギョンビンに寄り添って微笑んでいる
時折ミンチョルさんを凝視しているのがわかる
冷たい目で
そして何気なく僕を見る警戒のまなざし
ギョンビンは…また無表情に舞台を見ている
ミンチョルさんの方を見ないようにしているのがわかる
さっきのあの感情をぜんぶ押さえ込もうっていうの?
その歪めた辛そうな顔を見ると僕の心もきりきりと痛くなる
もう最後までもたないかもしれない、そう思った
なんでこんなことになっちゃったんだろう
ふたりして木陰で寝転んだときを思い出した
あんなにミンチョルさんのことを想ってたのに
あんなにミンチョルさんのために笑ってたのに
あんなにミンチョルさんを信頼してたのに
自分の愛する人をこれ以上傷つけたくないって身を引こうとしたのに
それでもやっぱり離れて生きて行けないって、必死にもがいて戻ってきたのに
ギョンビン…こんなのぜったいにおかしいよ
僕の目にミンチョルさんが席を立つのが見えた
舞台下の幕間から技術の人に呼ばれたようだ
僕はその同じ場所に向かった
スタッフに指示を出したあと、ミンチョルさんはひとりで下を向き立っていた
サングラスをとり、額に手を当ててため息をつく
そのため息は会場の喧噪にかき消されていた
大きく息を吸って振り返ってはじめて僕に気づいた
「ミンチョルさん、ギョンビン行っちゃってもいいの?」
「ドンジュン…」
「泣いてたよ…ギョンビン」
「おまえには関係ない」
「かっこつけないでよ」
「もう行け」
「ミンチョルさん、ひどい傷なんだよあいつ」
「黙れ」
「なにがギョンビンのためよ…あんなにひとりの人間を哀しませてそれに引き換えられるものなんて
あるわけないじゃない」
「黙れ」
「黙らない!ぜったいおかしいっ!兄貴がなに言ったか知らないけど、あなたも兄貴も偽善だ!
ギョンビンのこと本当は何も考えてないっ」
「黙れっ!」
「黙らない!みんな自分に嘘ついてなにが幸せだよ!
自分のこと大事にできないくせにどうやって相手のこと大事にできるのさ!」
「終わったことだっ!引っ込んでろ!」
僕は思いっきりミンチョルさんの頬を引っぱたいた
ミンチョルさんの氷のような目が突き刺さる
「すっきりしたか」
そのままつかみかかってやろうとした時、飛び込んできた影に後から羽交い締めにされた
「なにやってんだドンジュン!」
「スヒョン離してよ!この石頭どうかしてるよ!」
「やめろっ!ミンチョルの辛さがわからないのか!」
「わかりたくない!自分に嘘ついて相手を傷つけて辛さに耐えるなんて自己満足だ!」
「ドンジュンいいかげんにしろ!」
僕は押さえているスヒョンの腕を払いのけた
涙でふたりの姿が歪んで見える
「スヒョンも同じ立場なら僕に同じことすんの?」
「ドンジュン…」
僕は向こうを見てるミンチョルさんに言った
「このままギョンビンがいなくなったら僕もBHCやめます」
「…」
「ドンジュン!」
「安心して下さい、このことギョンビンに言うつもりはありませんから」
僕はきびすを返すと会場に戻った
会場が暗くて助かった
その時の僕の顔はきっとひどいものだったろうから
覗きっこ倶楽部◇1 妄想省家政婦mayoさん
『mayoッシ....@@』
『テソンシ...@@』
僕たちはたまたまチーフが呼ばれた近くにいた
ちょうど幕の切れ間にあたり死角に入っている...僕らはそっと覗いてみた..
チーフの後を追ってくるドンジュンがかすかに見えた...
『じっとして...』
『ぅん....』
僕は闇夜を後ろから抱きしめ肩に顎を乗せ一緒に身を縮めていた....
ドンジュンがチーフに怒りをぶつけている...
怒りと共にドンジュンの溜まっていた哀しみが大波になって襲ってきた
それはドンジュンがギョンビンの心の言葉をも代弁している...
ドンジュンの勢いにチーフも負けてはいない
チーフの怒声にドンジュンが切れた...
ドンジュンがチーフの頬を殴ったとき
闇夜のからだが ぴくん#と震えた....
「すっきりしたか..」
チーフの返事は予想はできた..
.
あまりにも冷たい...が..その単調なひと言に辛さが染みこんでいる
スヒョンがドンジュンを押さえ込んだ後に吐いたドンジュンの言葉...
「......僕もBHCやめます...」
その言葉に闇夜は下を向いてしまっていた....
ドンジュンが踵を返し戻っていったのを確認したあと
僕は闇夜の肩を回し僕の方を向かせた...
闇夜は下を向いたままだ...
『どうした...ん?』
『テソンシ....』
『ん...なに...』
『私が....ミンのスカウトも...ミン兄の調査もしなければよかったんだ..』
『mayoッシ..』
『何もしなければこんなことにならなかった...』
『...馬鹿....みんなの欲望がこんがらがってるだけだって...』
『....』
『...丁寧に一生懸命ほどけばいいんだ....本当は皆そうしたいんだ...』
『テソンシ...』
『大丈夫だって...僕はそう信じる... ん?』
『…ぅん...』
残されたチーフとスヒョンの声が聞こえてきた....
僕と闇夜はまた身を縮めていた....
ブラックホール ぴかろん
セツブンショーが終わる頃だったろうか…ギョンビンがドンジュンと一緒に会場に入ってきた
ギョンビンはそのまま兄貴の隣に座った
兄貴の嬉しそうな顔…
わからない…
あんたが愛しているのは弟のギョンビンなの?
それとも自分そっくりのギョンビンの姿なの?
自分に反抗するギョンビンを憎く思い、自分に従わせようとするのはなぜだ?
自分の気に入るように弟を仕立て上げてどうするつもりだ?
「わっかんねぇ…」
「何が?」
「ん…なんでもない…」
「イナ…ない頭で色々考えてもムダだぞ」
なんだよそれ!
俺は昔、人の心を読んでだな…
ちゅ
また…キスで誤魔化す…
どーせ俺は馬鹿ですよ…
はむ
「お前!衛星中継がどーのこーのって…あ…む…」
邪魔すんなよテジュン…今俺はミンの兄貴の事を考えてて…ミン…ミン…チョルが…
「余計なことに首突っ込むな」
「余計なことってなんだよ!俺の仲間なんだぞ!ミンチョルもミンもみんな!」
「…」
「ほっとけるかよ!ミンの兄貴だって…あいつだって…」
「余計なことだ」
「テジュン!」
「お前が心配なんだ!」
「…」
「無鉄砲すぎる」
「…」
「…仲間思いだってことは知ってるさ。そういうとこが好きなんだ
でもわざわざ自分から危険な目に会いに行かなくてもいいじゃないか!」
「ほっとけねぇんだ!」
「イナ」
「お前、あいつの…」
「…」
「…」
「どうしたんだ、続けろよ」
「あいつの…どうにもできない気持ち…わかるか?」
「…どういう事だ?」
「…いや…俺も…よくわかってねぇけど…でも…俺…なんとかしてやりてぇんだよ…ミンもミンの兄貴もミンチョルも!」
「…」
「でも何をどうやったらいいのかわかんねぇんだよ!だから俺…」
「自分の身を投げ出すのかよ!」
「…」
「あいつに『抱け』って言ったんだってな」
「…」
「ソクから聞いた…」
「あのおっさんベラベラ喋りやがって!」
「…」
「…テジュン…」
「他の方法を考えよう…」
「…ねぇよ!」
「あいつはお前が欲しいわけじゃないんだろ?お前が欲しかったら…手に入れるチャンスはあったんだ」
…知ってるの?
「…なんで…」
「…僕のそばから離れるな!」
「いやだ!俺は俺が思うとおりに動く!」
「イナ!」
俺はテジュンを振り切って俺たちの後ろのドアから会場の外へ出た
何をどうするか、何も決めていなかった
ただ、テジュンがあの事を知っているらしい事や、テジュンが俺に命令した事が、ミンの兄貴の言動を思い出させて俺は…
もう一度あいつと話がしたいと思って…
テジュンのそばを離れた…
わかってるよ、やばい事ぐらい…
わかってるさ、お前が心配してる事ぐらい…
もしかしたら俺、殺されるかもしれない…
それぐらい怖しい奴だってこともちゃんとわかってるよテジュン
だけどアイツ俺の胸で泣いたんだ
アイツに揺さぶりをかけられんの、多分俺しかいない…
みんなを勝たせるジョーカーはきっと…俺なんだ…
たとえ吸い込まれて俺が消えちまっても…俺、このまま見てるだけなんて事できないんだよ…ごめん…
俺は黒い霧に吸い寄せられるように会場の後ろの出入り口の扉に手をかけた
漢字 3 足バンさん
やっとおまつりがはじまりそうです
じかんもないので、おおいそぎでがんばってかんじのおべんきょうです
ひさしぶりにてそんさんにあいました
「進」とかいてくれました。そして「つぎはした、つぎはした」とじゅもんをとなえてました
した?ってきいたらべろをゆびさして、ひとりでてれてました
いつもよくわからないけど、けっこうたのしそうです
すんどんかいちょうがいました。いままでどこにいたんだろう
「雑草」ってかいてくれました
「きみも、ふまれてもたちあがるざっそうになりなさい」っていってくれたけど、
ききながら、ちょっとかいちょうのあたまをみちゃった
お・しはいにんもかいてくれました
「類」ってかいて「ぼくはいつもおなじかおででているが、せいかくもにている
ちょっとわるそうで、じつはいいやつで、すこしよわい」
まんぞくそうにそういうので、しあわせなんだなっておもった
そんじぇさんがまたちかづいてきて
「同情」ってかいて、なにかほしそうにみつめていってしまった
ぽらりすのよんぐくさんがきゅうにあらわれた
「無慈悲」ってかいて「きみは”ほとんどかっと”というめにあったことがあるか」といった
ゆじんさんのぱぱとおなじめをしていました
うぉんびんさんが、おこったようにきて
「韓国男優」ってかいて「1977.9.29うまれ、178せんち62きろOがた、くつ27せんち、とくぎすのぼー!」
ってじこしゅちょうしていってしまった
ちゅにるのあにきさんも、かいてくれました
「意図」ってかいて「おーるいんでの”わたしのそんざいのいみ”についておはなししよう」
っていって、かわのそふぁにすわってあしをくんだ
ちょっとながくなりそうなので、またこんどおねがいしますっていってかえってきた
ぎょんびんさんもかいてくれました
「剥がす」ってかいて「きみのぷれぜんと、とってもたのしいよ」っていった
みんちょるさんにあげたしっぷがたのしいんですか?ってきいたら
「いっきよりね、ゆっくりがいいよ、ゆ〜っくり」っていってさわやかにわらいました
いがいといじめっこかもしれません
ぎょんびんさんのおにいさんにも、ちょっとこわかったけどたのみました
「黒下着」とかいたのでびっくりしました
「いいかい?ぼくはもともと”えろみん”でここにきた。なのにいまじゃ”くろいしたぎ”どころじゃない
じんせいはいつどうなるかわからない。きをつけなさい」といった。たとえはへんだけど、じぃんとしました
おーるいんの、おちだりえさんが、ほてるのれすとらんにいました
「難」ってかいてくれた
「むひょうじょうってむつかしいの。い・どんごんくんや、ちそんくんもきっとくろうしてるわ」といって
「いっておくけど”おちだ・りえ”よ”おち・だりえ”じゃないわよ、いい?」とむひょうじょうにいった
ソクさんがまたかいてくれました
「接吻」とかいて「”ひつようふかけつ”とよむ」といった。うそだ
すひょくさんもまたかいてくれた
「巨大」ってかいてくれた。あれ?このまえもこれじゃなかったっけ?
「でかいんだよあのへるめっと!あれかぶれたのっておれと、そん・がんほさんだけだぜ!」
ってぶつぶついっていた
いなさんがまたきた
いいですっていうのに、かかせろってうるさいのでかいてもらった
「ぎゃくてんとか、こうたいとか、いやですよ」っていったら、ぼくをじぃっとみて
「天地無用」ってかいて、まんぞくそうそうににやにやしていた
てじゅんさんのごくろうがうかがわれます
おべんきょうって、つきることがありません。
傷2 オリーさん
嵐のようなドンジュンが会場の中に消えた後、
僕は壁にもたれているミンチョルに近づいた
「大丈夫か」
ドンジュンにぶたれた方の頬にそっと手をあてると
覚悟していた以上の感情がドロドロと僕の中に入ってきた
ミンチョルの上にまたがりその首を絞めているギョンビンがいた
二人とも別々に違う悲鳴をあげている
耳を覆いたくなるほどの強烈な悲鳴だ
と、ミンチョルの両腕が僕を押し戻した
「今回はいいんだ。僕には癒してもらう資格がない」
「ミンチョル…」
「ドンジュンみたいに怒ってもらった方が気が楽だ」
そうかもしれない
何を言っても今のミンチョルには助けにはならない
「ドンジュンの言う通り僕は自己満足の偽善者だ」
「だけど偽善者は自分が傷ついたりしないぞ」
ミンチョルが僕を見つめた
その目は焦点が定まらずまったく感情を読み取れない
「もう行かないと」
ミンチョルがサングラスを取り上げ動いた
「ちょっと待てよ」
「何?」
振り向いたミンチョルの首を押さえ強引に僕の肩に頭をのせた
「少しならいいだろ。ドンジュンにやられた分くらい直しておかないとな」
ミンチョルは何も言わず僕の肩に頭をあずけた
「とにかく今日を乗りらないと困るだろ」
僕はミンチョルの背中に腕を回した
傷はいくら時間をかけても治せないだろう
それくらい大きな闇がミンチョルの中で渦巻いていた
「スヒョン…」
「何?」
「ドンジュンはいい子だな」
「ああ」
「ミンは帰って来ない。だからってドンジュンまでいなくなることはない」
「わかってる」
「離すなよ」
「わかってる」
ミンチョルは僕の返事を聞くと、静かに顔をあげた
「ありがとう。もう行くよ」
耳元でミンチョルのつぶやきが聞こえた
いつもより小さく見えるミンチョルの後姿を見送った後
僕はしばらく考えにふけった
ギョンビンの顔とミンチョルの顔が頭の中で交錯する
もうひとつ、あの兄貴の顔も
そして唐突に浮かぶドンジュンの笑顔
あいつは真っ直ぐすぎる
高速でカーブに突っ込んでいく命知らずのレーシングカーだ
少しブレーキの踏み方を覚えさせないと
ギョンビンが戻らないとお前もいなくなるって?
冗談はやめろよ
そんなことはさせない
それにミンチョルがずっとあの傷を抱えていけるわけがない
壊れてしまう前に何とかしないと
やはりあの兄貴と話をつけるのがいいのだろう
でもどうやって…
ただ話すだけでは足りないだろう
どうけりをつけてやろうか…
【12♪スヒョン ドンジュン編】ロージーさん
【13♪ミンチョル心の地獄編】ロージーさん
覗きっこ倶楽部◇2 妄想省家政婦mayoさん
話し始めたスヒョンの声が聞こえた
ドンジュンの手の跡が残るチーフの頬にそっと手を当てている…
僕たちが今朝モニターで確認したミンミンの光景…
それと同じ光景をスヒョンは読み取っているに違いない…
そしてそれぞれの想いが渦を巻き
今一気にスヒョンに流れ込んでいるだろう
若いドンジュンやギョンビンの真っ直ぐな心が放つ苦悩と哀しみ
チーフやスヒョンが思い切って吐き出せない苦悩や哀しみ
それらをすべて知らされるスヒョンは並大抵ではないはずだ…
ドンジュンはあのとおり真っ直ぐだ
ミン兄にまともにぶつかっては危険だ…
何処から手をつければいいのか
どこからどうほどいていけばいいのか
何かをじっと考え苦悩しているスヒョンの頭の上を
ぐるぐるととぐろを巻いているのかもしれない…
おそらくイナもチーフのために何とかしなくてはという
正義感に駆られているはず…
テジュンさんも苦労性だな…
こんがらがった皆の心は個々になってまた結べるかな…
目に見える紐ならいくらくちゃくちゃでも僕と闇夜なら
根気よく一本にほどいちゃうのに…ね…
僕が感じていることは次々と背中を通して闇夜も感じている
僕が闇夜の肩に顔を埋めてしまったとき
闇夜はちょっと横を向き僕のデコにxxxをした…
『行こうっか…』
『ぅん…』
闇夜の肩を軽くポンポンと叩いて促しその場をそっと離れた…
僕らは手をつないで歩き出した
「mayoッシ…」
「ん?」
「君までスカウトはもう嫌だ。もう調査も何もしないって言わないこと..」
「…」
「またあの時みたいに…僕に黙って逃げようとしないでよ…」
「…ぅん…」
「僕が君が必要なんだから…」
「ぅん…と…」
「ん?なに…」
「…そばにいるよ…」
「あ…」
「…なによ…」
「…あはっ…」…3歩いや10歩前進〜^o^
僕は幕間のずっと隅っこで包むように闇夜を抱いた…
闇夜は少し背伸びをし、僕は支えるように闇夜の背中に手を廻し
そっとち◎うをした…闇夜の手が僕の首に回ったとき…
黒布を通して妖怪の声がした…
「ありゃりゃ?」
そして妖怪は黒布の間から顔を出した…
「あにゃたたち…むぉほっほ…にゃかがいいにょねぇぇ….」
「「ひえっ…」」
僕らはパッっと離れ、僕は闇夜を後ろに隠した…
「ぁふ..ぁ、ぁ、先生…す、すみません…」
「いいにょよ〜ん…みょっーと、ぅーんと..にょーこーなちゅぅぅーでもいいにょに…」
「ぁ..ぁ..ぁ..ぁ..あ、いや…」
「あにゃたはぁ…ありゃ..BHCにょかたなにょ?…」
「ぁ..ぁ..ぁ..そうです…僕は一番地味な奴で…あはは…」
僕は笑うしかなかった..
「ぁ..ぁ..先生…し~~失礼します…」
僕は妖怪あんどれに頭を下げながらすりすりと後退りし
向きを変え闇夜の手を取って小走りに逃げ去った…
「おっほぉー…ノーマルもいたのか…地味な奴にしては大胆な…」
妖怪あんどれはつぶやいていた…
封印 れいんさん
あれから僕らは何もなかったように車に戻った
言葉もないまま彼は車を走らせている
何を話していいのかわからなかった
ただ、祭に戻る為に、来た道を引き返していた
ほんの少し前のあのでき事
閉じてた心がこじ開けられ、突然何かが流れ出した
一瞬、刹那的に彼の唇を塞いだ
彼を静める為にしたのか、それとも僕が彼を求めたかったのか…
車内に漂う重苦しい空気
居心地の悪い沈黙
悪さをして叱られる前の子供のようだ
ふいに彼が口を開いた
「…君は…ギョンビンの兄貴を知っているか?」
慌てて僕は記憶を辿った
「え…?あ…はい。何となく立ち寄った教会で偶然会いました。…初めは弟さんの方だと思っていました」
「…なぜ兄貴だとわかった?奴がそう言ったのか?」
「…いえ、ただ僕が聞いていた弟さんのイメージと何か違う気がしたので…」
「そうか…。奴とは何か話したのか?」
「ええ…。握手をして、少し話して…それからタバコを吸うのを僕が止めました。…だいぶ苛ついてる様でした」
「君…、あいつの目を見たか?」
「目…?ええ、どう言ったらいいのか…何か冷たく人を射る様な…でもどこか寂しげな…」
「僕はあいつの目を見ていると…背筋が寒くなる。だんだんとあの目に引き込まれて
しまいには自分が持っている汚い自分を曝け出してしましそうになる」
「…あなたは汚くなんかありません!」
とっさに僕はそう言った
言った後、俯いて唇を噛みしめた
「…スハ。いいか。奴に近づくんじゃない。奴は君の手に負える相手じゃない。…俺にしたように奴を救おうなんて思うんじゃない」
彼は強い口調でそう言った
僕はテジンさんを救おうとしたんじゃない
僕らしくもなかったけど、あの時僕はそうしたかった
うまく説明できないけど、彼に触れて彼を理解したかった
それに僕は、誰かを救える程立派な人間じゃない
頭の中でいろんな思いが交錯する
「…大丈夫か?…さっきの事だけど…あれはもう気にするな。考える必要なない。…挨拶だったと思うんだ」
「…挨拶…?テジンさんは…よくああいった挨拶をするんですか?」
「…はは。僕はあまり得意じゃないけど、メンバーの中にはしょっちゅう挨拶してる奴もいるよ。あはは」
彼が声をたてて笑うのを初めて聞いた
笑顔を見たのに…なぜか…胸が痛い
愛する人を、何も言えずにただ見送った遠い昔を思い出した
僕はそのきれいな思い出すら自分で汚してしまった
あの日から僕は自分の感情を封印した
そんな事を考えていると、いつしか車はホテルの前に停まった
「さあ、着いたよ。早く会場に戻ろう。スヒョンに怒られちまう」
彼は笑いかけて、僕の肩に手を置いた
僕の胸がまたきしむ
僕は自分に言い聞かせた
海での事は忘れよう…
彼が言ってたように…何でもない事だ
華やかな祭の続きを見ている間に、人々の歓声や笑い声で僕の思いも消されるだろう
そして祭が終わる頃には、また元の僕に戻れる
誰の幸せも壊したりしないいつもの僕に
疑惑 オリーさん
「兄さん、やっぱりここにはいられない」
僕の言葉に兄さんは振り返ると言った
「何だって?だめだよ、我慢しなくちゃ。これは罰なんだから」
「罰…」
「試練という意味だ。逃げたら負けだ」
「わかった。頑張ってみる」
兄さんは薄明かりの中で美しい笑顔を見せた
「お前ならできる」
罰…
僕は目を閉じてこの言葉を反芻した
この言葉を聞いたのは初めてではない
子供の頃よく兄さんに罰を与えられた
僕が悪い事をしたときに
でも悪い事って何だったのだろう
友達と遊び、自分で物を選んだ事、それが兄さんの言う悪い事…
頭の隅で小さな赤いランプが点滅し始めた
どうしてこれが罰になるのだ
ここで彼の姿を見ながら動揺する事がなぜ罰になる?
突然兄さんが僕の肩を抱いて引き寄せた
「大丈夫。僕がそばにいるから」
僕は小さく頷いた
でも赤いランプはさらに大きくなって点滅している
思い出すんだ
兄さんが来てから起こったすべてを
兄さんがまずすることは僕の物を盗ること
それができなかったら兄さんは次に何をするだろう
彼と兄さんが僕の知らないところでも会っていたのか?
会ったとしたら何のために?
でも僕はほとんど彼と一緒にいたのに
ほとんど…いつもじゃない
僕が彼と一緒にいなかった時…
僕を抱き寄せる兄さんの手に少し力が入ったような気がした
集中できない
兄さんのそばにいたら集中できない
ひとりにならなくては
僕は軽く息を吸い込み呼吸を整えた
「兄さん、僕トイレに行きたい。一緒に来てよ」
兄さんは僕の肩から手をはずし苦笑いをした
「トイレくらい一人で行けるだろ
」
「わかった…」
上手くいった
兄さんの腕にそっと触れてから僕は席を立った
会場の外に出るまではゆっくり歩いた
そしてドアを閉めた後、走り出した
思いついた!
スヒョンさんはどこにいるだろう…
あの時以外にない
彼が兄さんと会っていたとしたら
代理でPDをやっていたスヒョンさんの所に行ったあの時
あの後一緒になって、そしてあのドライブだ
突然行った夜の海
あそこからだ…
あそこから始まっていたんだ
スヒョンさんに会わなければ
確かめなければ
確かめてどうする?
それ以上に確かめて違ったらどうする?
彼は兄さんとは会っていない
兄さんは何もしてない
そして今朝の彼が本当の彼だったら…
思わず足が止まった
高揚した気分がいっぺんにしぼんだ
点滅していた赤いランプも小さくなってしまった
でも…でも…この疑惑を消さないと僕は前に進めない
スヒョンさんはどこにいるのだろう…
僕は会場の回りの通路に向かってまた走り出した
光と闇 れいんさん
僕はなるたけ落ち着いて見せた
笑顔を見せてスハを連れ会場へと急いだ
僕の心の深い沼に、スハを引きずり込むわけにはいかない
僕の過去など話すべきじゃなかった
スハを惑わせてしまったか…
いや、今ならまだ間に合う
きれいな瞳をしたスハは、明るい陽射しの下が似合う
スハを元の場所に戻してやるんだ
「おや、これはこれはお二人お揃いで」
「…ミン・ギョンビン…!」
会場へと続く通路でいきなり奴と会った
隣にミンはいなかった
「ふふ。これはまためずらし取り合わせだ」
スハを僕の後に隠し、僕は奴と向き合った
「何の用だ。僕達に構わないでくれ」
「フン。僕だって君らには何の興味もないさ。…兄になりすまし、まんまと幸せを手にしたファン・テジン
…きれい事を並べ立てて嘘で塗り固めた人生を生きているカン・スハ…
ハハ。笑いが止まらないよ。おめでたい者同士慰め合っているのか?おまえらお得意の恋愛ごっこってやつか」
「侮辱するのはやめろ。…おまえという男はつくづく哀れな男だ」
「僕のどこが哀れだって?」
「哀れすぎて涙がでるよ。…そんな形でしか弟を愛せないとは」
「僕は誰に何と言われようと気にもならない。弟がこの手に戻るのなら、どんな手段も厭わない。悪魔とだって取引する
…幸い物分りのいい男が僕の元に弟を返してくれたよ。本来戻るべき場所にね」
「おまえの本心をミンが知ったらどう思うかな」
「言っておくが、弟の心の支えは今となっては僕しかいない。おまえらにはどうする事もできない
それに僕は、今ここで君達とそんな無駄口をたたいている暇はない
あのおせっかい連中が、可愛い弟に余計な事を吹き込む前に、弟を連れ戻して来ないとね。…これで失礼するよ」
奴は薄笑いを浮かべながら通路の向こうに消えて行った
「…わかったかい?スハ。奴がどういう男か。君の事まであんな風に…。いいか。奴の言った事など真に受けるな
もう、誰にも君を侮辱させない。誰にも傷つけさせたりしない。僕がちゃんと君を元の場所に戻してやるよ」
僕はスハの方に向き直り、両肩を掴んで静かに話した
奴にひどい言葉を投げつけられたスハは、目を伏せて身を震わせていた
来てまだ間もないスハにはきついだろう
僕はスハを抱きしめたくなる衝動を抑えた
今そんな事をしたらスハは壊れてしまう
スハを守ってやりたい
深い沼から抜け出せずにいる僕と違って、スハは明るい日の光に戻れるのだから
先手 ぴかろん
俺は会場の一番後ろのドアを開け、ミン兄弟が座っている座席を見た
いない
二人ともいない…
俺は上を見上げた
テジュンが思いつめた顔でこっちを見ている
唇を噛みしめて俺はテジュンの顔を見た
ごめん…お前も大事だけど
俺、仲間も大事なんだ…
見つめていると、テジュンがふっと笑った
そしてそっと投げキッスをよこした
涙が出そうになる
いつも俺の我儘を許してくれるテジュン
わざと歯を見せて笑顔を作った
テジュンも歯を見せて笑った
ごめん…必ず戻るから…
俺はまたロビーに出た
ミン兄弟はどこにいるんだ…
外か?…あいつの大好きな中庭か?
…中庭…
俺は、そこにいるに違いないと感じた
何故だかわからないけれど、中庭にいたミンの兄貴は…とても魅力的に見えたんだ…
あそこで…あの野郎…ギョンビンを…
まさかな…
中庭に出てみた
木陰にいないかどうか見て回った
松葉杖は歩きにくい
芝の上は特に安定しない
一番奥にある木の陰に何かが見えた
あそこだ
俺はほとんど勘だけで動き回っていた
見つけたからと言って何をどうすればいいのかわからない
でもあいつらを二人にしちゃいけないと…それだけは確かだとそう思っていた
木陰にいたのは兄貴だけだった…
弟はトイレに立ったまま帰ってこない
思ったとおりだ…
僕の弟だもの、そんなに馬鹿ではないさ…
何かが変だと気づいたんだろう…
さてと…どうするかな…
きっとあの狐君のお友達のところへでも情報収集に行ってるね
情報を集めて戻ってきたら…
新しい罰を与えようかな…
今までのような罰じゃない
気づいたのならさっさと事を進めてしまわなければ…
早く戻っておいでよ
僕はもうお前に何をするかわからないよ…
そうだ…この庭で…この中庭でお前を抱いてもいいな
適度な人目もある
素敵なショータイムだよ
お前をよぉく知ってる人たちの目の前で、お前と同じ顔のこの僕に陵辱されるんだ…
あの狐だって見に来るさ
あの子猫ちゃんだって…キム・イナだって…ふふふ
誰かが僕を殺してくれるかもしれないね…
ああできれば僕がお前の中にこの愛を流しきるまで殺すのを待っていてほしいな…
お前の中に僕を放したその瞬間に
誰か僕を撃ち殺してくれないかな…
そうだ…
お前がいい…
お前が僕を殺せばいい
そしたら僕は幸せなまま死ねるもの…
もう…苦しまなくていいもの…
可愛いお前はきっと狂うだろう
僕に犯され、僕を殺して、きっと自分も死ぬだろう
一緒に地獄へ行こう
ふふふ…もうすぐ僕はこのとてつもない苦しみから解放されるんだ!
早く帰っておいでよ、本当の事を聞きだして…
導火線 ぴかろん
「あんた一人か…」
「…お前…何しに来た!」
「さっき俺に来いって合図したろ?」
「お前に用などない」
「俺はあるよ」
「なんだよ」
俺はミンの兄貴に近づいて顔を覗き込んだ
「うっとおしいな!なんなんだ!」
「ふぅん…随分目の表情が変わったね」
「…なに?」
「最初に会った時は、完璧に隠してたのに、今じゃあんたがどんな気持ちなのかわかっちゃうよ…」
「…は!…」
「ギョンビン、あんたのとこに帰ってくると思う?」
「帰ってくるさ。あの狐に捨てられたんだぞ!」
「あんたがそう仕向けたんだろ?どうせミンチョルに何か吹き込んで操った」
「…」
「それで?ギョンビンにはまだ手出ししてねぇの?」
ミンの兄貴の顔色が変わった
俺の首を片手で絞める
「ギョンビンはまだお前の気持ち、しらねぇの?…お…俺が…言ってやろ…か…くっ…」
「…殺すぞ…黙れ!」
「どうせ…今夜あたり抱こうって…魂胆…う…」
「…お前が伝えろと言った…だから…そうするだけだ…」
「く…どうにも…ならないって…あんた…言ったじゃない…か…」
「いや。どうにでもできるさ」
「…」
「ふ…苦しい?こないだみたいに助けてって言えよ…」
「…好きにしろよ…」
ミンの兄貴は薄ら笑いを浮かべて手を離した
その弾みで俺は芝に転がった
頭に血が上る
倒れている俺に覆いかぶさるようにミンの兄貴が近づく
「いつも唐突に色んなこと言ってくれるけどね、びっくりさせられるよ、お前には!」
「…当たってるから?」
一瞬視界が白くなって、その後頬に痛みを感じた
殴られたんだ、ミンの兄貴に…
「お前なんかと話したくない!とっとと失せろよ!」
「…俺だけが知ってる…」
「何を!」
「…お前の…涙と叫び声…」
殴られた…狂ったように何度も何度も…
俺はとっさに腕を出してガードしたけれど、ミンの兄貴は構わず殴り続けた
殴りながらまた涙を流しているのがわかった
俺はぶん回している奴の腕を掴み、その動きを止めた
驚きの表情で俺をみる兄貴
「わりぃな。こういうケンカなら負けねぇ…」
「何を…僕はプロだぞ!」
「こんなの感情剥き出しのケンカじゃねぇか…お前が得意なのは冷静な判断が必要な実戦だろ?」
「感情?」
俺は兄貴の腕を引き、わざと俺の上に倒れさせた
「何をする!」
「じっとしてろよ」
「やめろ!離せ!」
「ちっと黙れよ馬鹿!」
「…」
「息を吸え」
「…」
「吸えよ!」
「…」
「何も考えずに目を瞑れ」
「何で貴様のいう事を」
「じゃあそのままでいいよ!馬鹿!」
「馬鹿なんて言うな!」
「馬鹿だから馬鹿っつってんだよこのクソ馬鹿野郎!」
「離せ!」
腕を掴んでいた手を、ミンの兄貴の背中に回し、俺はゆっくりと力を入れて、抱きしめた
「はな…せよ…」
「…あんた…抱きしめられた事ないでしょ…抱きしめた事はあってもさ…」
「…」
「…誰もあんたを抱きしめてくれなかったんでしょ?」
「…るさい…」
「アンタは…いい子だ…可愛くて優しくていい子だよ…」
「…ふざけんな!はなせ!」
「そう誰かに言って欲しくなかったか?」
「…貴様…」
「俺は言って欲しかった。抱きしめて頭を撫でてもらいたかったな…」
「それがどうしたんだよ!僕はそんな物欲しくなかった!」
「貰えなかったから欲しくなかったって思い込んでるんだろ?」
「…貴様といると気分が悪くなる…腕をどけろ!」
俺は奴の体を撫で続けた
子供をあやすように撫でていた
それは俺自身がして欲しかった事でもあった
今はテジュンがそうしてくれる…
でもコイツは…
ミンの兄はしばらくじっとしてからゆっくりと俺を押さえつけて起き上がった
「ありがとう…キム・イナ…けどな…ありがた迷惑だ!」
ドスっと腹に一撃を食わされ、それからもう一発顔面を殴られた
「お前とおままごとやってる暇なんかないんだ!もう僕に構うな!僕の邪魔をしたら殺してやる!殺して…」
ミンの兄貴の頬に涙が流れ続けている
やがて顔を歪めてしゃくりあげ始めた
「なんでお前は…僕を…僕をこんなに…」
ふぅ…やっと泣いた…やっと声をあげて泣き始めた…
そしてまた俺の胸に突っ伏した
ああ…少し疲れた…
「アンタの好きなようにしていいよ…煮るなり焼くなり…」
「…お前なんか…いらない…」
「…じゃあ放っていけよ…」
そう言って俺は目を瞑った
「僕を…殺してくれ…僕を…殺してくれ…」
俺の肩に顔を埋めて、ミンの兄貴は呻いていた
俺は驚かなかった…ただしっかりヤツを抱きしめてやった
そして俺は体を入れ替えて、ヤツの唇を塞いでやった
「殺してやるよ…俺が殺してやる…だから早まるな…」
そう言ってもう一度ヤツに口付けを落とした
ぼくのきになるひと ぴかろん
ぼくのまちにまっていたおまつりがはじまりました
これさえおわればぼくはうちにかえれます
ああ、どんなにこのしゅんかんをまったことでしょう
ちんというおじさんが、おおごえをはりあげたり、やをうったりしていました
きらきらのこながまって、きれいでした
ぼくはふとみぎのうえのほうにめをやりました
てじゅんさんといなさんが、またちゅうちゅうしていました
なかよしですね
けんかもしますね
いなさんはだれとでもなかよくできてすごいなとおもいます
だからいっぱいともだちがいるんですね
だからBHCにいるのに『おーるいん』のみせにもでなきゃいけないんですね
にんきものです
いなさんのともだちのつくりかたは、どうやらちゅうをすることらしいです
いなさんは、BHCのひとと、あまりちゅうをしません
ぼくのしっているなかでは、すひょんさんぐらいでしょうか…
たいていよそのみせのひととちゅうをするようです
それでいっぱいしらないひととなかよくなるみたいです
てじゅんさんもよそのひとだったのに、いちばんのなかよしになりましたね
そういえば、いなさんはそくさんともなかよくしていました
そくさんをおいかけてはちゅうをして、てじゅんさんにおこられて、そのあとしばらくてじゅんさんのへやからでてこなかったり
あと、いろんなところでおこられたりおこられなかったりするらしいと、みんながいっていました
まえにてじゅんさんが「はらぐあいが…」といってはじをかいたとき、お・しはいにんさんが、「えいせいちゅうけいのよこうえんしゅうだ」
といって、はあはあだとか、てじゅだとか、いなだとかいうこえのするとらんしーばーをみんなにきかせていました
ぼくはちょっときいて、はずかしくなったので、そこからにげました
そくさんは、そのご、もっとおちつきのあるすひょくくんとなかよしになりました
そくさんはとてもうれしそうです
いなさんといるときよりうれしそうです
でもそんなそくさんをみると、いなさんはむくれます
それをみてまたてじゅんさんがおこったりおこらなかったりします
いなさんは、またあたらしいよそのひととなかよくなろうとしています
だれもがけいかいしているのに…というてじゅんさんのつぶやきがきこえました
きけんなおとこだというすひょんさんのこえもきこえました
ということは、いなさんは「きらわれもの」となかよくなろうとしているのですね?
ぼくは…いなさんってえらいなぁとおもいました
どうかいなさんが、そのひととなかよくなれますように…
そしててじゅんさんにおこられませんように…
そして、てじゅんさんがこれいじょうくろうしませんように
【14♪イナのテーマ】ロージーさん
【15♪テジュンの愛】ロージーさん
ほどけぬ紐 足バンさん
いた
ロビーまで捜しに行き諦めて引き返しかけた時、スヒョンさんの姿を見つけた
彼はホールとロビーの中間にある大きな階段の隅に座っていた
手のひらを組んで俯き、なにごとか考えている
近づくとひどく驚いて僕を見上げた
「ギョンビン…」
「お聞きしたいことがあります」
そこまで言って言葉が続かなかった
聞くのが怖かった
ミンチョルさんからなにか聞いていませんか?
なにを?
ミンチョルさんと兄がなにか話をしたって聞いていませんか?
聞いていないけど、なんで?
本当になにも?
ミンチョルがお兄さんと会う機会なんかなかったよ
そんな応答が頭の中でこだまする
点滅していた赤いランプはもうほとんど消えかけていた
ひどく無駄なことをしているように思われた
自分を余計惨めにさせるだけではないかとも思った
でもこのままじゃ戻れない
時間がない
あまり遅いと兄さんに変に思われる
「なにが聞きたいの?」
「ミンチョルさんのことです」
「…」
「なにかお聞きになってませんか?」
「なにをだ」
僕は弾かれたように声のする方に振り返った
ミンチョルさんが立っていた
「もう帰ったんじゃなかったのか」
「ミンチョル!」
スヒョンさんが立ち上がった
僕の頭の後ろと指の先がびりびりと痺れた
ミンチョルさんの表情は逆光とサングラスでほとんど読みとれない
「あの怒り方で、まさか祭に顔を出すとは思わなかったな」
「ミンチョル、やめろ」
「君の出番はカットするつもりだったが出るのか?」
「ミンチョル!いい加減にしろ」
スヒョンさんはミンチョルさんと僕の間に割って入った
僕の痺れた頭は強い怒りでいっぱいになった
今朝のあの惨めな思いが身体を駆けめぐる
「出ます。僕は仕事を放り出すような人間じゃありません」
「ギョンビンもよせ」
「そうか、それならそれでいい」
「ご心配なく。終わったら即刻発ちますから」
「ではよろしく。スヒョン、もう戻れよ」
ミンチョルさんは歩きかけて振り向いた
「その珈琲のしみのついたジャケットは替えた方がいい」
そう言うとミンチョルさんはホールのドアに消えた
僕は震える手を白くなるほど握りしめた
スヒョンさんは額に手を当てて目を閉じている
もうスヒョンさんに聞くべきことはなくなった
「すみません…こんな有り様です…もうご存知ですよね」
「ギョンビン…」
「僕は大丈夫です」
「ちょっと…待ってくれないか、もう少し時間をくれないか」
「同じことです。ご心配かけてすみません」
「…」
「仕事は終わらせますから」
ジャケットを脱ぎ、通りがかった従業員に捨てるよう頼んだ
簡単だ
彼を憎むのはきっと雑作もないことことだ
ホール内に入るとさっきの席に兄さんの姿はなかった
僕は大音響の中まっすぐ進み、テジュンさんの席の近くに腰をおろした
イナさんは見当たらない
テジュンさんは僕に気づき小さく頭を下げた
右方の最前列にミンチョルさんが座っている
スヒョンさんがミンチョルさんへの視界を遮るように隣に座った
心配をかけていることを申し訳なく思った
でも、僕はその場所で終わりまでしっかりと舞台を見ることにした
それが僕が今日正気でいられる唯一の方法のように思われた
チャンス れいんさん
これは、祭のセツブンショーの後、ソンジェの歌の直後の事
ミンチョルに離婚届のサインをもらう前の出来事…
「ヨンスさん、さっきの僕の歌聞いてくれてた?」
「え…?ええ…まあ」
「僕ステージの上から、ずっとヨンスさんだけを見ながら歌ってたんだよ
ヨンスさん、目を閉じてずっと真剣に聞いててくれてたね」
「え…ええ…まあ」(いやだ、ソンジェさんが歌ってたなんてちっとも知らなかったわ。思いっきり爆睡してたんだもの)
「あ、ヨンスさん、見て。いろんな人達が会場に来ているね
ヨンスさんはそのへん疎いから、誰だかあんまりわからないだろ?僕が教えてあげるよ」
「あ・ありがとう…」(ちっ!もうひと眠りしようと思ってたのに…)
「えっと…あ、あそこの来賓席にいる人達はね、左からデザイナーのアンドレ・キム先生…ショーの衣装を担当してる人
その隣はフィナーレでやるマツケンサンバの振付師真島先生。あと田代親代さん…石坂助教授…
この二人はBHCのメンバーにとても詳しいんだ。それから、あのそっくりの顔してる二人はおすぎとピーコさん…
あの二人何しにきてるんだろ。ファッションチェックかな…?
で、二列目の左からプロ野球の新庄選手、俳優の柳沢慎吾さん、お笑い芸人のダウンタウン浜ちゃん、原田泰造さん、大田光さん…
この人達は、まあ言ってみればBHCの遠い親戚みたいなものだね」
「ふうん…。そうなの」(全く喋りだすと止まらないわ、この人)
「ところで、ヨンスさん。体大丈夫?顔色あんまり良くないけど」
「え…ええ。大丈夫よ」(昨日、寝酒しすぎたかしら…)
「ところで、ソンジェさん。あの人…室長はどこにいるのかしら」
「え?兄さん?…なぜ気にするの?…ああ、早く離婚届にサインしてもらたいんだね。…でも、いくら何でもショーの最中ってわけには…」
「誰もそんな事いってないわ。ただどうしているのか気になって…」
「そうだね。心の優しいヨンスさんの事だもの
今すぐサインってわけには、いくら兄さんにでもできないよね。休憩時間まで待つ気なんだね
…えっと…ああ、兄さんあの前の方にいるよ」
「あら、あの人…室内なのにサングラスかけてるわ。しかもあんな大きいの…」
「ほんとだね。昔から兄さんは人より目立つのが好きだからね」
「…何かあったのかしら。いつも一緒にいるあの若造…いえ、あの男の人が傍にいないわ」
「そういえばそうだね。兄さんPD担当で忙しいんじゃないの?」
「そうかしら…」(いいえ、私のカンが正しければ、何かこの前と様子が違ってるわ。私の大好物の…傷ついてる室長の香りがするわ…
ひょっとするとこれは私にも一発逆転ホームランのチャンスがあるかも…。ふふ。待ってるわ室長…)
覗きっこ倶楽部◇3 妄想省家政婦mayoさん
僕たちが妖怪あんどれ先生から逃げ出して...
会場の方へ向かおうとしたときに闇夜の無線が鳴った
「まよっ#..メイ」
「お、どう?」
「ぅん...っと...メッシュのスダレの彼氏...」
「ギョンビンさんね...」
「そうそう...一人で席立ってどっか行った。で一緒に座ってた同じ顔の目が鋭い奴...」
「ミン兄...座ってる?」
「スダレの彼氏..ギョンビンか..なかなか戻らないから会場を出たみたい...」
「そう...」
メイは祭りが始まると警備に回っていた
会場内をくまなく見て歩くメイと僕たちは連絡を取っていた...
「メイ、テソン。イナは何処にいる?」
「イナ?」
「ソクに似た支配人の彼氏、ちょっとやさぐれた...」
「あ〜ぁ、わかったわかった...さっきちゅうしてたよ。ったく..」
「ぁふ....支配人と一緒にいるか?」
「確か...ミン兄の後つけていった..」
「なにっ....」
「メイ...ドンジュンさんわかる?」
「ぉぉん...やたらフットワークの軽い明るい奴でしょ?」
「そうそう...いる?」
「いや...さっきスダレのあと追いかけて行ったけど...」
「まだそっちには戻ってないのね....」
「ぅん...ドンジュンの彼氏いるじゃん..」
「スヒョンさんね...戻った?」
「まだみたい..」
「そっか..メイ、サンキュ」
「いいよ。また連絡する」
「僕はイナの様子見てくる...mayoッシは?」
「ぅん....スヒョンさんの方に戻ってみる...」
「ん?」
「ギョンビンさんが捜してるかもしれない...」
「そっか...わかった...」
「あ、テソンシ...マイク...」
「ぉ...そうだ...」
僕らはマイクとイヤホンを付け二手に分かれて動向を探ることにした...
「mayoッシ...」
「ん?.....ぁ.....」
テソンはあたりを見回してデコxxxをした
「あとでね...」
「ぉぉん.... ^^;;」
僕は会場脇を抜け中庭に当たりをつけ急いだ...
イナのことだ...身を呈して仕掛けているに違いない
案の定中庭にイナとミン兄はいた...
中庭は見通しがいいため近くには行けない...
それでも何とか死角になる場所を見つけた
イナはミン兄に顔面一発のところだった...
が...ミン兄の様子がおかしい...泣いている...
そしてイナがミン兄の口を塞いだ...
さっきの場所からホールの間の階段に
スヒョンさんは座っていた...柱の陰に素早く隠れた..
ビンゴ#ギョンビンさんがやってきた..
ギョンビンさんに詰め寄られても
はっきり答えず奥歯をグッと噛むスヒョンさん…
ミンチョルさんが戻ってきた
冷たく言い放ち..またホールの方へ歩いて行く..
背中が悲鳴をあげていた...
交差する想い..
すまない…ミン…君のためだ…
離したくない…ずっと側にいてほしい…
続いてにホールへ戻っていったギョンビンさん…
憎もう憎もうと思っても本当は違うはず…
ギョンビンさんの背中も悲鳴をあげていた…
ギョンビンさんがその場を去ったあと
無線が鳴った…
しまった#…OFFにするのを忘れていた…
「誰っ!」
観念して柱の影から姿を見せた…
「君か…」
「すいません…」
「聞いてたのかい?…って…もしかして知ってるのか?」
「……はい…」
「ふっ…そう…」
「ギョンビンさんをスカウトしたのも私です…
お兄さんの調査をしたのも私です…すいません…」
スヒョンさんはちょっと顔を覗き込んでから言った
「君は君の仕事をしたまでだよ…こじれたのは君のせいじゃない..」
「...皆に幸せになって欲しいんです…」
「ぅん…そう願いたいね…」
「ぁの…」
「ん?」
「ドンジュンさん…見当たらないんで…心配です…」
「ん、わかった…先に行くよ」
「はい..」
スヒョンさんはホールへ戻って行った
皆の想いをしょっている背中がとても哀しそうに見えた…
賭場 ぴかろん
ミンの兄貴は俺の下で泣きながら震えている
こいつの涙も叫びも、誰も知らないんだな…
無理な体勢とってるから、俺の足はかなりやばくなっている…
俺が唇を離すとミンの兄貴からまた唇を求めてきた
今までの奴と違う
こいつ…愛情というものを注がれた事がなかったんだろうか…
ううん、きっと気づかずに今まで来たんだ
注ぎ込まれてる愛情より、何かへの執着が強くて
アンドレ先生のナレーションがこだまする
『なにかに囚われているとすぐそばの幸せに気づかない』
ほんとだな…ずっと何かに囚われてたんだな、きっと…
でも…何に?
弟?
違う…
弟はダミーだ…
ほんとにこいつが求めているものは…なんだろう…
泣きじゃくるミンの兄貴は、身につけていた黒い霧を空へ散らしているように見えた
段々とこいつの本当の顔が見えてくるような気がしていた
これ以上詰め寄っていいのか…
こいつを追い詰めていいのか…
俺は迷っていた
ミンやミンチョルのためだけなら、もっともっと仕掛けられる
けど…そうしたらこいつはどうなるんだろう
ミンの兄貴の顔を見ようと俺は少し顔を離した
奴はほんの少し俺の唇のあとを追ったけど、観念したように芝に頭を落とした
そして必死で息を整えて、また黒い霧を呼び戻そうとしている
「目、開けて」
「…」
「こじ開けるぞ!」
指で瞼を押し上げてやった
諦めたように目を開けるミンの兄貴
その瞳を覗き込む俺
「なに…」
見たことあるよ、こういう瞳
ミンチョルがよくガラス嵌めてる…そのガラスを外したときの瞳とおんなじだ…
「キム・イナ〜…早く殺してくれよ…もう…いやだ…」
そう呟いてまた涙を流す
「何がいやなんだ?」
俺は詰め寄る
追い詰める
「どうして僕はここにいるんだろう…」
黒い霧が俺たちの真上で渦を巻いている
ミンの兄貴の中に入りたそうにして、その扉が開くのを待っているようだ
俺はミンの上に乗ってそれを阻む
「僕はいない方がいいんだ…」
「なんで」
「…弟さえいればいいんだ…僕なんて必要ない…」
「そんなこと言うなよ」
「はやく殺してくれよ、弟にこれ以上酷いことする前に…」
「じゃあ殺してやる…」
「…頼むよ…」
ミンの兄貴はゆっくりと目を閉じた
「その前にアンタに手伝ってもらいたいんだけどさ」
「…」
「テーピングしたいんだ、足。舞台やんなきゃいけない」
「…僕を殺した後に舞台に出るの?…お前、結構冷静なんだな…ふっ…」
「あんたを殺すのなんて、簡単さ…。しっかりテーピングしてくれたらお望み通り殺してやる」
「…ひっぱるな…僕の気が変わるのを待つってわけかい?」
「ばーか。俺の心はあんたには読めねぇよ、わりぃけど」
「…」
「医務室連れてってくれよ、あんたに殴られて痛いしさ」
「…」
ミンの兄貴は起き上がると俺をおぶってくれた
ふっとソクの背中を思い出す
あの時も中庭だったな…
こうやっておぶわれて医務室に行ったんだ…
違うのは俺の気持ち
「どうやって殺す?」
「手の内明かせるかよ!」
「逃げないよ…でも早く殺してくれよ…弟を見たら僕は止まらない…」
「わかった…」
黒い霧は俺たちの後からついてくる
その霧が二度とこいつの中に入り込まないように散らさなくては…
俺はおぶわれながら、ミンの兄貴の首にキスをした
ミンの兄貴は何の反応も示さなかった
そして医務室に入る
思ったとおり誰もいない
まったく、このホテルの医者はどこにいるんだか…
だがその方が好都合だ
この賭場で俺は今から勝負するのだから…
確保 足バンさん
僕はmayoさんと別れたあとギョンビンを追って会場に入った
ギョンビンの兄貴の姿は見えない
ギョンビンがテジュンさんたちのいる席に向かったのを確認した
不意に腕を掴まれた
ドアの側の真っ暗な空間に哀しげな目が立っていた
「ドンジュン…」
僕は安堵のため息をついた
「さっきふたりの前でぶちまければよかったのに」
「見てたのか?」
「スヒョンは優しすぎる」
「そんなことで解決すると思うのか?ミンチョルがなんであそこまで言うかわからないのか?」
「わかりたくないって言ったでしょ」
「そうだったんですか誤解でしたって、そんな簡単なものじゃない」
「自分たちで複雑にしてるんだ」
「原因を取り除かなきゃ終わらない」
「兄貴のこと?」
「そうだ」
「話してわかる相手?あいつ変だよ」
「変かどうかは決めなくていい」
僕の脳裏にギョンビンの兄貴の目がはっきり浮かんだ
「ドンジュン、よく聞け」
僕が会場を出たあと、ギョンビンの隣に座り絶対に目を離さないこと
たとえ手洗いにでも一緒に行くこと
もしショーの時間になったらテジンたちと行動を共にすること
一切余計なことは口にしないこと
ドンジュンはしぶしぶ頷いた
「そしてもうひとつ」
「ん?」
「二度とミンチョルを攻めるな」
「ん…」
僕はギョンビンの隣の席に座った
テジュンさんに黙礼した時イナの姿が見えないことに気づき、もう時間がないと感じた
ギョンビンにドンジュンと必ず行動を共にするよう言った
そしてもし兄貴が誘い出しても終わるまでは動くなと言った
僕の強い口調に、ギョンビンは少し戸惑ってから頷いた
「最後までやり遂げると言っただろう?やってみろ」
「はい…」
「今はなにも考えるな」
「はい…そうするつもりです」
僕はそのかわいそうな頬にくちづけた
テジュンさんに近寄り少し席を外すことを告げる
なにか言いたそうなテジュンさんの目を覗き込み手をぽんぽんと叩くと
テジュンさんは小さく頷いた
テジンのところに行き2人の側にいるよう頼んだ
ドンジュンがギョンビンの隣に座り
そのすぐ後ろにテジンとスハが座るのを見届けて僕は外に出た
ギョンビンの兄貴を捜す
イナと一緒か?
いない
中庭に検討をつけたがいない
その時ホテルに通じる通路にテソンの姿を見つけた
テソンは僕を見ると静かに近寄り「医務室だ」と告げた
切られたカード ぴかろん
「さすがだね、何でも知ってるんだな、あんた」
器用にしっかりと俺の足首をテーピングで固めるミンの兄貴
「…こんな足で舞台に出るのか?」
「ん、ついでに言うとこんな顔でね」
「…殺すつもり…ないんだろ…僕の事…」
「いや、殺すよ」
「いつさ…舞台が終わるまで待たなきゃいけないのか?僕の気持ちが変わらないうちに早く殺ってくれよ!」
「せっかち」
「…」
「ここに座れよ」
「…」
「座れったら!」
ミンの兄貴は無言でドアの方に歩き出した
俺は立ち上がって追いかける
「いてっ…」
「殺す気なんてないんだろ!じゃあもう放っておいてくれよな!」
「だからもうっ、せっかちだなぁ…」
俺は奴の腕を引っ張り、それから奴の肩に体重をかけて医務室のベッドに連れ戻した
「…もう…いいよ…お前なんかに頼んだ僕が馬鹿だった…」
「だーかーらっ!なんでそうやって自分で決め付けるのさ!今から殺してやるからちょっと待てっつってんだろ?」
「…殺気がないよ…」
「殺気なんかなくても殺せるよ、あんたなんか」
「はぁっ…」
俺はミンの兄貴の肩を掴み、俺の方を向かせた
奴は目を閉じて項垂れている
俺の前で泣いたことを恥じているのか、それとも泣いたことで何かが少し抜けて行ったのか…
黒い霧はドアの外で待っている
ここにいるのは、かなり素に近い本来のミンの兄貴だと思う
俺は奴にもう一度キスをした
奴は少し抵抗したけど、すぐに諦めた
唇をこじ開けて、舌を這わす
薄目を開けて俺を見る兄貴
その瞳を見つめながら俺はさらに深いキスをする
されるがままのミンの兄貴
でもまだ抜け殻じゃないんだろ?
その体をそっと抱きしめてやる
ぴくりと動く
そして少しずつキスに応えはじめた
唇を離そうとすると縋りつくミンの兄貴
俺はできる限りの優しいキスをし続けた
そっと唇で唇をなぞってやると
ミンの兄貴は顔を歪ませてまた泣き出した
「もう…焦らさないで…殺してくれよ…」
「今のキスの感想は?」
「いい加減にしてくれよ!殺してくれないならもういい!…違う方法で死ぬから!」
「…わかったよ…じゃあ殺すから…深呼吸して…」
「…」
奴と一緒に俺も深く息を吸った
そして息を吐きながら奴の首に手をかけ、少しずつ力を込めた
「アンタを殺すよ…いいね」
「ああ…」
「…アンタの…本当の名前は何?」
「?!」
「…ほんとの名前は?」
「…」
ミンの兄貴の体が強張り、そして震えだした
「なに…また…おかしな事…なま…名前は…ミン・ギョンビン…だよ…なにを…」
「本当の名前だよ…それは弟の名前だろ?」
ミンの兄貴は目を泳がせて震えている
引きつったように短く息をし、何かを探すようにあちこちを見る
やっぱりな…兄弟で同じ名前だなんて…変だと思ったよ…
「アンタが名前を変えたんだろ?ギョンビンになりたくて、そう名乗ってるんだろ?
…ガキの頃からずーっとそれで通してきたんだ…違うか?…それじゃアンタのほんとの名前が可哀相すぎやしないか?」
アンタと同じで…
そう言う前に奴は頭を抱えて叫びだした
一枚目…いいカードが手に入った…あとの四枚、どんなカードが回ってくるのか…
勝てるのか…それとも放棄するのか…
成り行きで勝負に出るしかない…
【16♪ミン編】ロージーさん
テプンの悩み事 ぴかろん
シチュン達はやっちゃったらしい
ってもーチェリムがうるさい!
だから祭が終わっておめえのとーちゃんに挨拶してからだっつってるだろっ!
いいじゃないパパなんかどーだってぇ
と拗ねるあいつが可愛いんだけどさ…
んなこと言ったってよぉ…
シチュンもその彼女も…経験豊富なんだろ?
俺とお前は違うだろーが!
チョンマンたちがもうやっちゃいましたってんなら俺もその、考えるけどよ…
ここは一つ慎重にだな…
馬鹿!根性なし!
…
切っちゃえ!役に立たないんだったら切っちゃえ!切ってやる!
馬鹿女!けっこんできなくなるっ!
俺とチェリムは…その事で口喧嘩ばかりしている
そんなにしたいのか?…でへへ…
でも…ああ…だめだ…俺、からっきしそっちの方面向いてないわ…
だいたいああやって煽るあいつはどーなんだよ!
おめえできるのかよ!
ふん、そんなことぐらい…
そんなこと…ってお前…
…
おいっ!
なによっ
…いや…俺も一応子持ちだったな…何も言えないわ…すまん…
…そうでしょ?子持ちなんだからやろうと思ったらできるんでしょ?!
ん…と思うけど…俺、身に覚えがねぇんだよな、実は…
え?じゃテジ君は…誰の子なのよ!
俺の子だよ!そういう事言うな!テジが可哀相だろっ
…え…でも覚えがないの?
だってよう…母親の顔さえ覚えてねぇんだぞぉ…
多分2、3回酒飲みに行ったぐらいだと思うんだよなぁ…酔ったはずみで…しちゃったのかなぁ…
…
なんだよ
あんた…底なしのお人好しなのね…
血が繋がってようが繋がってなかろうがテジは俺の子供なの!文句あんのかよ!
ううん…やっぱアンタが好き
うぉ?そう?だろ?
でもさぁ…
なに?
はやくやりたーい
だから女がそーゆーこと言うなって言ってる…
俺の可愛い唇が、また暴力女に奪われる
なんだかんだ言っても、それ以上の攻撃は仕掛けてこないので助かる
こないだジュンホ君がみんなにプレゼントしてた
俺のは…チェリムにやったら次の日早速着けてきた
触って触ってというので恐る恐る触ってみた
あは〜ん
とわざとらしい声を出したチェリム
だが触り心地は柔らかくてけっこういいかも…
でもよぉ…服を脱がせたらどうなってんのさ
と聞いてみたらあの女、脱いだんだ!鼻血がでそうだった…
けど、見たら乳首のない胸が出てきたんで興ざめした
こんなの揉んでも意味がねぇな、吸ったって美味しくねぇよなハハハ
ボカッ☆
これ取ってやっちゃおうって気は起こんないわけ?!
とチェリムはプンスカ怒り、さっさと服を着て部屋から出て行った…
助かった…あ、いや、惜しい事をした…へへ
いやいや、俺のプレゼントはいいんだ
参考になるものがたくさんあったから、みんなから借りてこよう…その日のためによ
テソンから「その日まで」の本だろ?シチュンから一個アレを貰って…一個じゃ足りねぇか…二個?
…いや、火がついたら止まんないかもしれないから十個ぐらい…
それからぁ…スヒョクからチェリムのために「そのたしなみ」の本だろ?
あとお楽しみのためにドンジュンから「天使の…」ケヒヒヒ
んでからこれこれ
これで研究しなきゃな「A○ビデオ」…
ん?イナ?「(入れ替わり編)」?
入れ替わりってなんだろう…
大体イナはテジュンさんと…テジュンさんといえばテジに似てるってのに!あの野郎手ぇ出しやがって…
そういう事になってるからこの「A○ビデオ」ってのはもしかすると…
これは辞めておこう…
とりあえずこれだけかりてこよぉっとケヒヒヒ
切ない涙 れいんさん
ほんの少しの間に、いろんな事がありすぎた
テジンさんと出会って話して、それから海に行って…
戻って来たらギョンビンさんのお兄さんに会って…
頭の中でいろんな事が駆け巡る
…なんだか少し疲れたな
今、こうして祭の席でテジンさんの隣に座っている
華やかなショーも目に入らない
周りの声も耳に入らない
テジンさんの笑い声とテジンさんが誰かと交わす話し声しか聞こえない
テジンさんの笑い声で僕は泣きたくなる
テジンさんの話し声で僕の胸はきりきり痛む
テジンさんは僕を元の場所に戻すと言った
僕はそこに戻りたいの…?
ぼんやりしていた僕にテジンさんの呼ぶ声が聞こえた
「スハ、ちょっといいかな?手伝ってくれ」
僕は立ち上がり、声の方に歩き出そうとしたその瞬間、目の前が真っ暗になりその場に崩れてしまった
薄暗くなっていく視界の中で、テジンさんが慌ててかけ寄ってくるのが見えた
「…気がついた?」
ぼやけた視界が次第にはっきりしてきた
心配気に覗き込むテジンさんの顔
「…すみません。僕、迷惑を…」
「気にするな。いろいろあって疲れたんだろ。祭のフィナーレまで、そこでそうして休んでるといい
チーフやスヒョンには僕から言っておくよ」
…ここは…テジンさんの部屋…
木の香りがする
テジンさんの香りだ
「でも、僕…」
僕は横になってた体を起こした
「いいから休んでろ。ほら、温かいレモネードでも飲めよ」
ここで飲み物を勧められたのは2度目だ
何でも手際がいいテジンさん
さりげなく優しいテジンさん
僕はレモネードをすすりながら涙がこぼれそうになった
「じゃ、僕はもう戻るよ」
僕の頭をくしゃっとしてテジンさんは立ち上がった
「…テジンさん…」
「……?」
「あの…もう少しだけ…その…ここにいて下さい」
僕の顔がみるみる赤くなるのがわかった
テジンさんはふっと笑ってベッドの隅に腰掛けた
覗きっこ倶楽部◇4 妄想省家政婦mayoさん
「mayoシ…どこ?」
「天井裏…」
「ん…そっち、どう?」
「ぅん…ドンジュンさん、テジンさん、スハさんでガードしてる…」
「ドンジュン見つかったのか」
「ぅん」
「スヒョンは?」
「みんなに指示して会場出た…たぶんそっちに向かってる…」
「OK…」
僕はイナとミン兄が医務室に入ったのを見届け
医務室近くの通路でスヒョンが来るのを待っていた
スヒョンは軽く手をあげ僕に近づいた
「イナは..一緒?奴と…」
「医務室にいる…おそら足のテーピングだろう」
「歩ける?」
「..ミン兄がおぶって行った」
「あいつがおぶったぁ?ほかに怪我は…」
「ん.. 殴られてたな」
「くぞっ…」
「スヒョン、あいつ…イナの胸で泣いてた…」
「…そうか…」
「どうでるつもりなんだ…」
「わからない…とにかく医務室の前で様子を見る..」
「…大丈夫か?」
「何とかなる…何とかするしかない…」
「スヒョンやイナにばかり…負担だな..」
「しょうがないさ…でもメンバーが互いを思いやる気持ちは皆一緒…」
「スヒョン…」
「それに…気にしてるでしょ?…」
「…?」
「彼女だよ…」
「ぁ… ^^; 」
「ふっ…テソンは最近ほんと..判り易いよな…」
「…^^;」
そのとき医務室のドアのあたりでガタン#と音がした
「様子見てくるから…」
「ん…」
スヒョンは医務室へ向かった
会場内を警備しながらメイは天井裏にやってきた
メイは細かい事情をいちいち聞くことなく
簡潔に報告してくれるのでとても助かっていた
「動きっぱなしじゃないの?大丈夫?」
「平気、平気…」
「体力あるね、メイは..」
「まぁね..まよだって神出鬼没じゃん…」
「わたしは気合で動いてるから….」
「言えてる」
天井裏の隅でギイギイ#と音がした
メイと一緒に行ってみると…将軍と隊長がいた…
むっち○うの手前であった…
メイは腰に手を当て2人の前に仁王立ちになった..
「おいっ!あんたらっ!いい加減にしてよっ!」
「ぁふぁふ…これはこれは…」
「これはそれはもないっ!そんなにいちゃつきてーなら舞台でやれっ、舞台でっ!」
「そ、そのような申されようは…如何なものか…」
「えぇぇーぃ!ここは立ち入り禁止!アラッチッ!!カ!カ!(行け!行け!)」
這う這うの態で帰る2人…
「ふぅぅぅ…..ったく…あいつら…」
「ぷっ…まだ出番まで時間あるからね」
「だったらベットでやれつーのっ」
「クハハ…自分と一緒にしちゃ駄目よ」
「まよっ!」
「ぁひ^^; 」
「お?まよっ…しちさん分けの刈り上げ君、倒れたよ?」
「えっ?…スハさんだ…」
「テソンシ…どこ?」
「お?会場に戻るとこ…どうした?」
「スハさんが倒れた…テジンさんが付いて行った」
「ギョンビンにはドンジュン1人か?」
「ぅん…」
「わかった。すぐ戻る…」
一度にいろいろ目の当たりにして倒れたか…
僕は会場へ急いだ…
紐の端 足バンさん
僕の気配を感じてイナは振り返った
「スヒョン…」
頭を抱えてうずくまっていたギョンビンの兄貴が顔をあげた
僕はドアにもたれかかりじっくりと兄貴を観察した
今まで見たこともないような惨めな顔
よほどイナに痛めつけられたと見えるな
「殺人現場にお邪魔だったかな?」
「スヒョン…」
僕は手をあげてイナの言葉を制した
「大丈夫。ちょっと聞きたいことがあって寄っただけだ。すぐ続けさせてやる」
僕はスティールの椅子を音を立ててギョンビンの兄貴の前に置いた
またぐように座って背当てに腕を乗せて彼を覗き込んだ
兄貴は僕のその横柄な態度に苛ついているように見える
イナは黙って窓際に立った
「さて…確認したいんだが、あたたは弟に正しい道を歩いてほしいと言ってましたね」
「…」
「あなたの正しい道とはなんですか?」
「どうだっていいだろう」
「よくない。ふたりの男の人生がかかってるんだ。答える義務がある」
ギョンビンの兄貴はイナをちらりと見た
「有益な道だと前に言ったろう。語学力や知識や…」
「そんな話じゃない。あなたにとっての弟の正しい道です」
「言うことをきく従順な態度だよな、ギョン、ビン、さん」
兄貴はイナをじろりと睨んだ
イナはあさっての方を向いて素知らぬ顔をしている
「僕は弟と共に幸せを共有したい」
「弟の気持を無視してミンチョルに交渉した時点でその理由は却下だ」
イナがくすりと笑ってまた兄貴に睨まれた
「失礼だがあなたご両親にあまりかわいがられなかったでしょう」
兄貴の顔色が急に変わった
はじめてやつの狼狽した目を見た
落ち着きはじめていた苛々がまたとぐろを巻きだした
「というか…亡くなったお父さんかな」
「やめろっ!」
「ドンジュンの弟に似ている。これは聞いた話だけど」
「なにがだっ」
「父親の期待や夢が全て兄弟に注がれた者が持つ憎しみ」
「くっ」
「それで弟に嫉妬し続けてきたんじゃないかな」
「黙れ!」
兄貴はいきなりベッドサイドにあったカルテ用ボードを取り僕の喉元に突き付けた
イナがぴくりと動いた
兄貴の手が小さく震えている
見下ろすその目は群れからはぐれた狼のようだ
遠吠えしすぎて声を嗄らしたかわいそうな狼
「さて本題だ。もしそう言った背景があるならギョンビンを渡すことはできない」
「勝手なことを言うな」
「ギョンビンはここに残ることを望んでいる」
「関係ない!」
「ギョンビンは…」
「あいつは僕のものだっ!渡すかっ!」
「ふぅ…それだけ聞ければ十分だ」
僕はカルテを押しのけて立ち上がった
ギョンビンの兄貴はそのカルテを床に叩き付けた
「イナ、続けていいぞ。名前なりスリーサイズなり聞き出してくれ」
「やりにくいな、ったく」
「祭が終わったら君とギョンビンが話す機会をつくる」
「弟は連れて帰る」
「そうでなければ黙って姿を消せ」
「弟は連れて帰る!」
「イナ、僕は会場に戻る」
「ああ」
「あとは頼む」
「大丈夫かこいつ」
僕は虚勢をはっている、そのはかなげな男を見た
「大丈夫だ。ガラスの目玉だから」
僕は椅子を元に戻し、その男に向かって言った
「安心しろ。この会話はこの3人以外には口外しない。イナもわかったな?」
「ああ」
「じゃ頼んだぞ。無茶はするな」
「ああ」
イナが心配ではあったが、あの兄貴は本当の悪人じゃない
もがいてもがいて出口が見つからないだけだ
他にやらなければいけないことがたくさんある
ドアを閉めて思わずため息をついてしまった
ほぐれはじめたのは、絡んだ紐のほんの端先だということがわかっているから
覗きっこ倶楽部◇5 妄想省家政婦mayoさん
「ねぇ...まよ...」
「ん?...」
「しちさんの刈り上げ君さ、あんなんでホストできんの?」
「ふっ...それなりにね...癒やし癒やされるのよ...」
「ふぅぅ〜ん...シチュンもそうだったの?」
「シチュンさんは...ん〜〜店に来て品行方正になった..かな..」
「ケケケ...あいつ...店に来る前は相当酷かったんだ」
「ぉぉん...」
シチュンさんが店に来た当初..10数人のオンナを切った
「オレが..オレが..このオレがオンナを切った」と嘆きに嘆いていた
さすがにメイには...言えなかった^^;
「ほぉ〜ここは結構いい眺めなんだね...」
天井裏でメイと話していると後ろから声がした
振り返ると...ジホが立っていた
「あ、お疲れ様です」
「ん....よくここに来るのかい?」
「えっ?」
「いや...何回か見かけてるからね」
「ぁ...そうでしたか..」
『まよ...誰っ...ってまた同じ顔だ...あんたまたスカウトしたの?』
『ぅぅん...』
私たちのひそひそ話しを耳に挟んだジホはメイに声をかけた
「君は...確か...シチュン君やテプン君、チョンマン君達と一緒にいたかな?」
「あ、はい...メイです...」
「僕はリュ・ジホ...よろしく」
「監督、メイはここの警備担当なんです」
「そう..頼もしいね...」
「メイ...ジホさんは映画監督なの」
「映画監督...どんな作品撮るんですか?」
「はは...興味あるの?」
「あ、少し...」
「ヒューマン系、コメディ系...いろいろ撮るよ」
「メイ..結構評判はいいのよ...」
「そうなんだ...」
「メンバーのチョンマンさん映画に詳しいですよ」
「そう...」
「俳優希望ですし...自主制作の映画も撮ってるくらいなんで..」
「はは...じゃその仲間達の映画を皆で撮ったら面白いかもしれないな」
「まよ...現場...相当うるさくなるよね」
「ぷっ...そうだね」
「そういえば..賑やかな感じに見えたね、君たちのかたまりは...」
「あ、うるさいんです...すいません..」
「いや...おっと...テソンくんが来たようだ..」
会場にテソンが入って来るのが見えた
ジホはウォニと撮影を交代するからと言って戻っていった
僕は会場に来るとすぐ闇夜のいる天井裏に目を向けた
っつぅぅ...ジホがいた...
でもよかった...メイが闇夜の傍にいるのが見えた
ジホは僕を確認すると天井裏から見えなくなった
僕はミン兄は何とか確保したけどギョンビン達が気になった
天井裏の闇夜を『降りて来て』と手で呼んだ...
会場に来たテソンの口がちょっとアヒルになっていた..
.
テソンの合図でメイと一緒に天井裏を降りた
「ね、まよ..あの監督...何かある?」
「悪い人じゃないんよ..普段は...」
「じゃ..なに..」
「人の本性探りたがる...とこあるかな...」
「ふぅぅ〜ん..そんな感じか..テソンが警戒するわけか..」
「ちょっとね...」
メイが見回りに戻り、会場の隅にいるテソンの傍に寄った
アヒルの口をむにゅっと手で挟んだ...
ちょっと笑ったテソンは人差し指で私のデコをぐいっと押してから
ドンジュンさんの後ろの席に座りに行った...
ジュンホのひとりごと れいんさん
ぼくがずっとまっていた、まつりがはじまったのはいいのだけど…
なんだかみんな、ようすがへんです
みんなぴりぴりしていませんか?
いなさんは、ぎょんびんさんにおぶわれていむしつへ…
あしのけが、はやくよくなるといいですね
でも、このほてるのいむしつで、おいしゃさんをみかけたことはありません
おいしゃさんっているのでしょうか…
そうしはいにんのてじゅんさんは、いなくなったいなさんのことをきにしているようすです
でもせきにんあるたちばだから、このばをはなれられないのですね
こころここにあらず…ってかんじです
ぼくは、むずかしいことばもいえるようになりました
すひょんさんは、てきぱきと、おとうとのみんさんのよこやうしろに、びーえっちしーのみんなをすわらせてます
どうしてみんなでとりかこむのでしょう
おなじかおがならんでいます
あ、すはせんせいがたおれました
てじんさんがつれていきました
ここだけのはなしだけど、すはせんせい、しちさんのかりあげくんってよばれています
ないしょですよ
おとうとのみんさんのまわりがてうすになりました
すひょんさん…どうしてぼくにはいわなかったのかな
こうみえても、ぼくはぼくさーで、ちゃんぴょんだったし、つよいんだけどな
それにぼくは、けっこうきもきくのにな
みんながよろこぶぷれぜんとだって、ちゃんとえらんだし
あれ…かうのちょっとはずかしかったけど…
削除 オリーさん
スヒョンさんの唇が僕の頬に触れた
柔らかく暖かい感触が心地よかった
ドンジュンと一緒にいるように
ひとりにならないように
兄さんには会わないように
色々注意を受けた
何がどうなっているのか
でも、もうどうでもよくなった
さっきの事で覚悟ができた
誰がカットさせるものか
絶対に最後までいてやる
僕にもプライドがある
あなたのした事は僕にとっては何でもない
お互い遊びだったんだから
僕は傷つかない
誰も僕を傷つけることはできない
だって僕はミン・ギョンビンだから
今までだって様々な事を乗り越えてきた
それに比べれば、こんな事何でもない
数ある遊び相手の一人
あなたにとって僕がそういう存在ならば
僕にとってもあなたの存在は何でもない
通りすがりにちょっと遊んだ相手
でも、ちょっとやり方が汚かった
僕なんかを騙すのは簡単だったでしょ
百戦錬磨の遊び人にしたら
なのに随分手のこんだやり方してくれて
許せないな
ちょっと怖い目にあわせてやろうか
でも相手にするだけ時間の無駄だ
もう僕の中にあるあなたの記録は削除しますよ
Deleteのボタンを押す
白紙
イ・ミンチョルって誰だっけ?
どこかで聞いた事あるような気がするけど、
ちょっと思い出せないな
それで終わり
隣にいるドンジュンさんが僕の腕に触った
大丈夫?
彼は心配そうに僕の顔をのぞいた
平気です。何でもないですよ
ドンジュンさんはえ?という顔をした
僕は目の後ろに湧いてきた涙を閉じ込め笑顔を作った
すべて忘れました……
仕切りなおし ぴかろん
まったく…俺が命がけの勝負してるってのにあの天使野郎…
まいったな…スヒョンの探り当てたカードは俺も見えてたんだけどなぁ…くそぅ…
全部俺が揃えたかったのによ…
ま、いいか…
「僕は弟を連れて帰る…」
「…」
「弟を…今から…僕のものにする…」
「…」
「弟に…殺して貰う…」
「…あれ?俺の出番ないじゃん」
「殺す気もないくせに…」
「あー…だからなんでそう自分の物差しで人を計っちゃうわけ?!…まーったく…」
「…」
「俺は俺のやり方であんたを殺す。俺も今まであんたに色々と怖い目にあわされたからな…少しはいたぶらせてくれよ」
俺は窓辺からベッドへとケンケンで移動した
ミンの兄貴は目を見張って俺を見た
「なんだよ、笑いたきゃ笑えばいいじゃん」
「…ふうっ…」
「よいしょっと…ため息か…」
ミンの兄貴の横に座ってその横顔を見つめた
やばいな、スヒョンと一緒に黒い霧が入ってきちまったか…
でもまだ間に合うよな…
俺はまた、奴を抱きしめた
奴は強い力で俺を押し戻す
ここで手を離したら終わりだ…
いっとくけど俺は勘だけで動いてる
考えて動けば全て読まれるのは解っていたから…
俺はもう一度奴を抱きしめた
「…なんだよ…キスでもして欲しいのかよ」
「それはあんたの方だろ?」
そう言ってからもう一度奴の口を塞ぐ
冷たい目で俺を見るコイツ
口元が歪んだ微笑で飾られている
それでも構わず俺は奴の唇を愛撫する
俺はあんたを…
「知りたいんだ…」
「なんで…」
「ミンチョルにそっくりだ…」
「!」
虚勢を張って、壁を作って、完璧な男を演じているこの男
弟だけを守り、慈しみ、深く愛し、そして憎んでいるこの男
ああ…それでギョンビンはミンチョルに惹かれたのか…
そうなのかもしれないな…
だから俺もこいつの事が憎めないんだ…きっと…
「…あの男と僕が?!」
「…ん…」
「どこがどう…」
動揺する舌を絡め取る
は…まるでミンチョルとキスしてるみたいだ…
でもミンチョルじゃない…
ギョンビンでもない…
俺の舌の動きに合わせて、奴もキスに集中しだした…
体を撫でてやると緊張が緩む
抱きしめてやると心がおずおずと寄ってくるのが解る
ゆっくりと唇を離し、もう一度仕切りなおす
「俺はあんたが嫌いじゃないよ」
「…好きとは言ってくれないんだな…」
「好きになるにはあんたの事知らなさすぎるもの…まず、名前を教えてくれないかな?」
「…ミン…ギョン…ビン…」
「…パスポートは?持ってるだろ?」
ミンの兄貴は胸のポケットからパスポートや身分証明書、運転免許証まで出してベッドの上に投げ出した
一つ一つ見てみた
「よくできたニセモンだな…今のあんたみたいに…」
「ニセモノ?」
「諜報活動してんだから、こんなもん、いくらでも持ってるんだろ?これはあんたのお気に入りの名前…本名じゃない…
ほんとのパスポートは?どこ?」
「…」
「ほんとの名前は何?」
「…」
「俺にはほんとの事言えよ」
「なんで…」
「殺した後、墓立てなきゃさ…」
「…ふっ…」
ミンの兄貴は押し黙ったまま俯いていた
さすがだね、諜報部員はちょっとやそっとじゃ口割らないわけね?
「ギョンビン…ギョンウン…ギョンヨン…ギョンウォン…」
「…」
「ギョンビン…ギョンビン…ギョンジン…」
「…」
「違和感ないな、ギョンジン…これか?」
「…」
ギョンビンとギョンジン…そっくりの名前…
きっとビンゴだろう…
「否定しないならそう呼ぶけど…ギョンジン」
「僕は…ギョンビンが生まれてからずっと『お兄ちゃん』と呼ばれてきた…」
「…」
「僕の名前は誰も呼ばなかった…」
「…じゃあ俺も『お兄ちゃん』って呼んだ方がいいのか?」
そう言った途端、奴は俺にしがみついてきた
勢いにおされて俺はベッドに倒れこんだ
奴は体を震わせてまた泣いている
こいつ、俺の胸でしか泣けないのな…
「我慢すんなよ、声出していいぞ…」
そう言ってやった
そしたら奴は、涙でドロドロになったそのくしゃくしゃ顔を少し上げて、ひっくひっくしゃくり上げながらこう言った
「なんっなんっ…なんかっ…やらしいっ…ひっくひっく…」
そして突っ伏して大声で泣き始めた
一言余計だぞ、このシリアスな場面に…
「似合わねぇなぁぜんっぜん…」
泣きながら笑っているミンの兄貴の頭と背中を、俺はとても静かな気持ちで擦っていた
テジュンの顔を思い出しながら…