直前の風景 ぴかろん
祭の朝の風景
スヒョクとソクは抱き合って眠っていた
抱き合っているだけ
キスまで
ソクは眠ったふりをしている
よく見ると 腰が引けている
イヌ先生とウシクも抱き合って眠っている
抱き合っているだけ
キスだけではないけれど
なかなか先には進めない
祭が終わらないと始まらないカップルの一つ
なお、こちらは腰が引けているような事はない
ただいつもどちらかの瞳が濡れているようである
テプンとチェリム
チェリムがどうしても…というので一緒のベッドで眠る
抱き合って眠る
テプン、一睡もできず
チェリム、ぐっすり眠る
チェリム、タンクトップのままなので大変危険
時折めくれ上がるその服を
見ないように直してやるテプン
間違って肌に触れるたびに鼻血を出している
明け方、やはり腰が引けていた様子
チェリム、構わずテプンに脚を巻きつけ、テプン鼻血を出しながら体をくの字に曲げている
チョンマンとチニ
映画の編集中
ずーっと喋り続ける二人
時折見詰め合ってキス
それ以上の進展なし
イナとテジュン
テジュンの部屋で待っているように言われたイナだが
絶対イヤだと言い張りテジュンが作業するロビー、ホールなどについて回る
ジャマだからなどと邪険に扱われ、ふてくされるが
時折キスして貰えたので、可愛らしく大人しくしている
仕事が一段落ついたテジュンとともにテジュンの部屋へ行くが
テジュンのしらないあの出来事を思い出し、ベッドに近づかない
テジュンが誘っても松葉杖をブンブン振り回して、今日一日で何回したのさ!と抵抗
そういえばそうだなとテジュン納得し、僕は寝るけどイナどうすんの?と意地悪く聞く
イナは涙目でラジカセのスイッチを入れ、ダンスの練習する!と言って踊りだす
おいおい、足がそんななのに何してんの…とテジュンに窘められるが、このままだとミンチョルに負ける!などと喚きちらし
片足でできる限りのステップを器用に踏んでいる
見ていたテジュンは拍手をし、そんだけ上手けりゃ大丈夫だよ、さ、寝ようよとニヤニヤ誘う
(そこですんのはイヤだもん!)と涙目のイナは無言で踊り続ける
テジュンはニヤニヤしながらイナに近づき、踊りをやめさせようとするが上上下下上!といいながら松葉杖を振り回しているのであまり近づけない
なんで眠らないの!何にもしないからさぁと言われ松葉杖を降ろし、ゼロゼロゼロゼロとミンチョルのように肩で息をしながら俺は床で寝る!と言い張る
なんで床?と聞かれこのホテルの絨毯なら背中も痛くならないはずでございましょ!と厭味を言い、本当に寝転がる
テジュンはクスッと笑って床に枕と毛布をもって行ってやり、イナに渡す
じゃ、僕はベッドで寝ますから…どーぞごゆっくり、と言ってさっさとベッドに潜り込み、寝息を立てる
イナは床に寝転がったまま、テジュンの寝息を聞いて涙ぐみ、突如起き上がって松葉杖でテジュンの足を小突く
テジュンは知らん振りをしている
イナ、メソメソ泣きながらテジュンのばかぁテジュンのけちぃこっち来てよぉなどと子供じみた事を言う
テジュンは顔を緩めてから引き締め、イナの近くに行ってイナの髪を掴み、何なんだお前は!とわざと怖い声で言ってみた
イナの目がまん丸になる
星が浮かぶ
(はは〜ん、僕もこれ、好きだけど、この隙男もこれが好きか!)などと思いながら、暫くこのプレイを続ける二人
睡眠時間はあと3時間ほどなので、たいがいにしておくほうがよかろう…がしかし…後はご想像におまかせする…
消したい記憶 ぴかろん
結局僕らは床で寝た
なんで床で寝るのさと聞いてみたが、涙目で気持ちよかったから!といい、背中を向けたイナ
なんか怪しい…
誰か連れ込んだ?と聞いてみると一瞬からだが強張った
はぁ…
僕はため息をつく
誰?
何が…
誰連れ込んだの!
連れ込んでなんかいない
じゃ、何でそんな緊張してるの!
してない!
じゃ、ベッドで寝よう
イヤだ!絶対イヤだ!
何もしないから…
イヤだ!
なんかあるだろ、なんか僕に隠し事してるだろ
…
イナ!
…終わってから言う…
ん?
祭が終わってから言う…
…イナ…
イナは見下ろしていた僕の首に巻きついて体を震わせていた
…何があったんだろう…これほどまでにベッドを嫌がるなんて…誰かに襲われた?…ソクじゃないな…
じゃあ…
ミンの兄貴か…
ビクンとイナの体が反応した
違うよ!なんでそこにミンの兄貴が出てくんだよ!ミンの兄貴はお前にキスしたんだろ?追っかけてって話しはつけたし、それだけだよ!
何言ってんだよバカテジュン!後で言うって言ってるだろ?信じないのか…
動揺して饒舌になる唇を塞ぐ
ミンの兄貴が何かしたんだと確信を持った
…この部屋で?
…このベッドで?
いつだ…
イナが今それを言わないのは僕のためなんだろう…
イナの気持ちを思うと胸が張り裂けそうになる…
だから僕は…その気持ちを大切にしたい…
祭の間中、お前を僕のそばにおいて、絶対にあいつから守ってやるから…
祭の後、僕に全て話してしまうんだよ
嫌な記憶は全部捨ててしまうんだよ?いいね?
口付けながら僕はイナの心にそう言った
テジュン…
ん?
ここで寝ていいか?
ん…いいよ…
テジュンもここで寝てくれる?
ああ…そばから離れない…
テジュン…
ん?
ちょっと足が痛いんだけど…
…
枕かなんか、足元にあるといいかなーって…
…はいはい!僕の枕を貸してあげますよ!
テジュン
ん?
…抱きしめて…
こうか?
…キスして…
さっきからしてるぞ…
…もっと…もっとしゅっごいの…
はいはい…
あ、待って!ベランダんとこのカーテン閉めて!鍵も!
…こっちは誰も通らないから大丈夫だよ…
だめ!閉めて!
…はいはいはい…
僕は我が侭放題のイナの言うとおり、普段閉めたことのないカーテンを閉めに窓際に行った
そしてようやく解った
ここから…
カーテンを閉め、鍵をかけ、イナの横に滑り込み、イナを強く抱きしめる
僕がいけなかったんだ…油断してたから…
いつもお前を守るなんて言って…僕の方こそ隙だらけだ…
ごめんな、イナ
え?何が?
ん…と…その…やっぱり…抱きたい!
何言ってんだよ!お前、腰が抜けるぞ!
抜けてもいい…
明日…っつーかもう今日だけど…どーすんだよっ!朝から目に隈つくって仕事する気かよ!
ん…
んじゃねえよっやめろ!イヤだってイヤだ…い…
んじゃ、キスで我慢する…
ん…キスしたまま…言うの…ずるい…
好きでしょ?お前…
ん…
朝までの間、僕らは何度もキスをした
うとうとしてはまた起きて、何度も何度もキスをした
イナの嫌な記憶が少しでも薄れるように願いながら…
【2♪ミンチョル編】 ロージーさん
【3♪ミンチョル編】 ロージーさん
【4♪ミン兄編】 ロージーさん
【1♪ミンの夢編】 ぴかろん
ミソチョル 足バンさん
僕を憶えていましゅか?
僕はミソチョルでしゅ
小さなぬいぐるみでしゅ
ミンチョルさんの耳切りギツネでしゅ
ミンチョルさんと初めて会ったのはもうずぅっと前
ミンチョルさんの心が寂しくて大変なときに彼の元にやってきました
ミンチョルさんは僕を大切にしてくれました
どこにでも連れて行ってくれました
雪山にも行きました
社員旅行にも行きました
あの頃のミンチョルさんはテス君のことばかり気にしていました
へりこぷたーから一緒におっこちたこともありました
あの時ミンチョルさんは記憶をなくて大変だったけれど
でも僕のことだけは憶えててくれました
嬉しかったでしゅ
ミンチョルさんはいつも
ねぇ〜ミソチョル
と言って僕を抱きしめてくれました
そんな僕は今ミンチョルさんのスーツケースの中にいます
なぜかって?
それはミンチョルさんが今寂しくないからでしゅ
僕は寂しくないかって?
大丈夫でしゅ
僕はミンチョルさんが幸せならいいんでしゅ
それにミンチョルさんはスーツケースを開ける度に
僕の鼻をちょんとつついてくれましゅ
このホテルに来てからミンチョルさんは変わりました
ミンに出会ったからだと思いましゅ
いろいろなことがありました
ミンと仲良くなろうと思ったら邪魔が入ったこともありました
クローゼットの僕の入ってるトランク横にミンが転がり込んで来たようで
すごくどきどきしました
ミンチョルさんに、ミンはここだよって教えてあげたかったのに
口がきけなくて悲しかったでしゅ
ミンチョルさんとミンが初めて仲良くなれた時はちょっと照れちゃいました
聞いちゃいけないかなって思ったんだけど
ミンチョルさん意外と声おっきいんだもん
僕は手が短くて耳を塞ぐことができなかったんだ
ミンがいなくなった時は苦しそうな声でした
あんなに辛そうなため息は聞いたことがなかったんでしゅ
それからミンチョルさんが怪我をして変な顔になった時も心配でした
毎日らりるれろって言ってミンを困らせてました
ここだけの話でしゅが…
昔からミンチョルさんは、僕と2人の時ちょっとらりるれってました
威張って見えるけど、あれはみんなポーズでしゅ
ほんとはあまえんぼさんなんでしゅよ
イナさんがずりずり這って喧嘩をしにきたこともありました
でもあの2人は昔からああだから放っておきましゅ
最近困ったのはスーツケースに入ってる湿布薬の匂いでしゅ
ジュンホ君からもらった腰痛用の湿布薬でしゅ
無臭と書かれてありましゅが、きつねの僕にはきついんでしゅ
ダンスの練習と仲良しのしすぎでしゅ
ダンスはミンのいない間に急いでしゅるので腰に負担がかかるんだ
仲良しの時もミンがいくら言っても自分で「負担」かけてるみたい
でも僕…
心配なことがありましゅ
ミンチョルさんが昨日スーツケースを開けて僕をじっと見ました
あの目は悲しい目でしゅ
なにかを無理している時の目でしゅ
ミンチョルさんはとても不器用なのに無理しましゅ
みんなバレバレなのに頑張っちゃいましゅ
ミンが近づくとその顔はいつもの顔にもどりました
ミンのことでなにかまた無理するつもりに違いありません
僕はまたミンチョルさんにかわいがられたいけど
ミンチョルさんが悲しいのは嫌なんでしゅ
ミンチョルさんが悲しいと僕の切れた耳も痛いんでしゅ
僕の一番の幸せはミンチョルさんの笑い声を聞くことでしゅ
それを聞いていられるのなら…
僕はね、一生スーツケースの中にいてもいいんだ
シチュン☆メイ6 妄想省家政婦mayoさん
俺はメイが呼び出されたあとポットを返しにテソンの部屋へ急いだ..
テソン達なら何とか頼めるかもしんねぇ...事を早く進めたかった..
mayoシはなにかと顔が広そうだし...
「テソン...俺さ...祭りが終わったら..メイとさ..」
テソンは俺がそう言いかけたとき笑いながら切り出した
「取り替えたいんだろ?シチュン...」
「おい!何でわかるっ」
「あのメイのことだ。『他の女と寝たベットは嫌!』って言いそうだろ?」
「ぁあ...『取り替えて!アラッチッ!!』に違ぇねぇ...」
「お前のGOが出れば何とか..早くに...だよね?」
テソンが隣にいたmayoシに振ると彼女は笑って頷いていた
ったく...相変わらずだぜ...この2人....
「鍵は店のあの蝶ネクタイのマスターも持ってる」
「わかった。ダブルでいいんだよな...」
「決まってるだろうが...」
そう言うとmayoシはすぐ電話をかけ何とか今日中にはという返事だった
ったく..恐れ入るよ。仕事の速さに..
俺はいつも用意周到なこの2人を見ていぢめたくなった...
「テソン、お前達はどうなんだ...やっちまたか?」
「ぁふ...やっても言うか!お前に...」
「ってことは..まだかょ...」
「ぃ、ぃ、ぃいじゃないかっ!ぉ、お前と一緒にするなっ...」
ぅひひ..テソンの奴...むきになってやんの...
「お前みたいなさぁ...」
「何だよっ...!」
「お前みたいな奴って...一度やっちま...」
「うるさいっ!」『シチュンの奴...コモと同じこと言いやがって...』
俺がmayoシ見ると困った顔で笑っていた...
テソンの部屋を出てからメイと一緒にいる時にテプンらに出くわした
幸せそうなチェリムにチクッと胸が痛んだが...メイの顔を見るとすぐ忘れた
で、濃厚ち◎うを見せつけてやった^^;
その夜俺はメイにズンズンと手を引かれ、メイの部屋へ連れ込まれた..
.
ドアを閉めた途端にメイが俺の首に巻き付いてきた...
「お、おい..メイ...いいのか..ほんとに...」
「ぅんっ」
ところが…いざっ…という段階になって俺は愕然とした…
俺は……何てこった…
俺の『おれさま』がいうことを効かない…情けない…
勿論メイは烈火のごとく怒った……
「何よっ!!あたしのことやっぱ気に入らないんだっ」
「ち、違うって...お、お前のこと大事にしたい気持ちもあるしよぉ...」
「そんなの理由になんないっ!」
メイはシーツを被って背中を向けちまった...
俺は途方にくれた...ずっとこんなだったら...どうするょ....
100斬りのシチュン様がこの様かょ....
きっと狭いベットが悪いんだ。俺はベットせいにした...
その時俺の携帯が鳴った。カフェのマスターからだった
俺は直ぐさまむつけたメイに支度をさせ手を引っぱった
「何処行くのよっ!もういい!あんたなんか...」
「いいからっ!来いょっ!」
俺は自分のバイクの後ろにメイを乗せ自分の部屋へ急いだ
むつけながらもメイは後ろのシートで背中にぴったくっついてる
俺は背中にメイの胸を感じていた...
俺はメットでメイのメットをコツン#と小突いた..
するとメイは俺の腰に回った手に力を込めた...
俺はアクセルのレバーをグイッと回しスピードを上げた..
.
ヘアーサロン れいんさん
もうすぐ祭が始まるらしいけどおン、リハもバッチリだしイ、気分転換にイ
ちょっと近くのヘアーサロンでセットしてもらおうかしらあん…
カラン・カラーン
美容師A「いらっしゃいませー!」
美容師B「しばらくこちらのお席でお待ち下さい」(げっ!なんだっ!この真っ赤な女はっ!)
カンミヒ「あらっ!ミミじゃない?」
ヤンミミ「あらあん!ミヒ!久しぶりねえん。何年ぶりかしらあん」
カンミヒ「ほんとねえ!ちっとも変わらないじゃない、ミミ!」(さすがに首のシワ二本は隠せないわね)
ヤンミミ「そおン?あなたもねえん!」(相変わらず顔のパーツがいちいちうざいわん)
カンミヒ「ねえ、あなた、今ホスト達に囲まれて逆ハーレム状態なんですって?」(きいい〜!羨ましすぎるわっ!)
ヤンミミ「あらん、耳が早いのねえん」(まずいわっ!この女に知られたなんて!)
カンミヒ「あたし、この前、宿泊客のふりして、こっそりリハ覗いたのよ」
ヤンミミ「あらあん。そんな水くさいわねえん。私を訪ねてくれたらよかったのにいん」
(誘わなくても来るつもりでしょ!ヨダレ垂らして!)
カンミヒ「でもねえ、知ってる顔もチラホラいたけど、会いたくない人もいたのよねえ」(変装してでも行こうかしら…)
ヤンミミ「あらん、誰よおん」(ほんと若い男に目がないんだからっ)
カンミヒ「ジュンホ君とかラブ君とかは知らない仲じゃないし…うふ。スハ先生ともちょっとした知り合い…
でも、ミニョンやサンヒョクとはちょっと会いづらいのよねえ」(また若い男の体ナデナデしたいのにっ)
ヤンミミ「そうねえん、あなたもいろいろあったものねえん…」(あの地味なサンヒョクの父親とだったかしら…)
カンミヒ「ミミはいいわよねえ。思ってた人とその後一緒になれたじゃない」(あの屋敷に住み着いてずーずーしい女!)
ヤンミミ「でもねえん、一緒に暮らしてみたら、案外口数少なくて、存在感も薄かったわあん。夢見てる時の方がよかったわあん」
(やっぱり、写真だけの方があの人、存在感出るみたい)
美容師A・B「お客様、こちらへどうぞ。今日はいかがなさいますか?」(…なんか怖いよ、この二人…)
カンミヒ「あたしはねえ、ちょくちょく髪型変えるの好きなのよ。一昨日はアップスタイルで、昨日はストレートヘアだったから
今日はドレッドヘアね」
ヤンミミ「そうねえん、あたしは胸の開いたドレスに合うようにアップにしてもらえるう?
アダルトでゴージャスにワイルドでエレガントにセクシーにセレブでキュートにスイートでビターにアンニュイな感じでお願いねえん」
美容師A・B「…承知いたしました」(…なんなんだ、こいつら…)
美容師A・B「…では、シャンプーいたします」(ひえっ!早いとこ終わらせようっ!)
ジャブジャブ……
美容師A・B「他にかゆいところございませんか?」(ふう〜、やっと終わったあ〜)
ヤンミミ「…かゆいところ…?…ぜ・ん・ぶ!」
カンミヒ「…私は、前と後と横とてっぺん」
美容師A・B(うう…こいつら早く帰ってほしい…)
アンケート ぴかろん
まだミン兄が登場していない頃の話だ…
イナはアンケート用紙を見つけた
審査員に事前に送ったらしいアンケートの残り
百枚ぐらい残っていた
面白そうなので手当たり次第配り、ロビーにこっそり回収箱を置いておいた
◆アンケート◆
『抱かれたい男』を一人選んでください
イナは『テジュン』と書いて投票した
後日もう一枚アンケート用紙を持ち出して『ソク』と書いて入れた
テジュンは考えた
『抱かれたい?…イナ…いや!イナ以外の男とxxxする気はないが
このアンケートに「イナ」などと書いたことがイナ本人に知れたらえらい事になる
それはもう怒涛のように「入れ替われ!」と責められるだろう…。では…誰の名前を書こうかな…
適当でいいよな…適当…』
テジュンは『スヒョン』と書いた
投票する時、スヒョンを見かけ、目が泳いでしまったテジュンだった
ミンチョルは『ミン』ときっぱり書いた
ミンは『ミン…チョル』と意味ありげに書いた
…
ドンジュンは『スヒョン・ミンチョルさん・ギョンビン・イヌ先生・ウシクさん・ソクさん・ヨソル』
と書いて『やっぱヨソルはまずいか…』と消した
スヒョンが来たので慌てて用紙を隠したが「書くのは一人だけだぞ」と言われ膨れっ面をしながらそのまま投票した
スヒョンは『…ミンチョル…ほんとは抱きたいけど…』と書いてからくしゃくしゃと紙を丸めてもう一枚用紙を貰い、『ちぇみ』と書いた
丸めて捨てた紙をドンジュンが拾い、ますます膨れっ面になったのは言うまでもない
ウシクは震えながら『イヌ先生…』と書いた
イヌ先生は『ウシク』と書いた
ここはどっちがどうなるのかわからない…
テスは『ちぇみちぇみちぇみ』とびっしり書いた
書いてからチェミは誰と書くのかとっても気になった
チェミは『…抱かれたい?…抱くではなくか…それならば…』としばし考えて『キム次長』と書き
一人で笑って捨てようとして間違えて投票してしまった
一瞬顔が青ざめたが、無記名投票と気づきほっとした
サンヒョクは『パパ』と書いた
ミニョンは『チョ・ウォン殿』と書いた
ラブ君は『誰とでも』と書いた
テジンは暫く目を瞑ってからおもむろに『兄』と書いた
テソンは『mayoッシ』と書いて投票してから『抱かれたい男だった!』と青くなった
『絶対僕だってバレる…どうしよう…』と青ざめながら秘密部屋に戻った
チョンマンは『ニコラス』と書いた
そして『エリザベス・シューより』と付け加えた
シチュンは『なんで俺が「抱かれたい男」なんか書かなきゃいけねぇんだ!叩き潰したい男はいるけどよ!』
と怒りながら『テプン』と書いて箱に入れてしまった
『ああっ!しまった!』
でももうどうでもいいやとため息をついた
テプンは『これはどういう意味だ?』と考えた
『抱き合う=親しみを込めるだな?じゃ』と結論をだし『チェリムのお父さん』と書いた
ジュンホ君はとてもなやんだ
『だかれたいおとことはどういういみだろう…だかれたいおんなのひとならいる
それでもいいのだろうか?でもおとこってかいてあるし…こまったな。そんなことしたらそにょんさんがかなしむ』
かなり長い間悩んでこう書いた
『ぼくにはできません』
ソクは悩んだ
『キム・イナと書くべきだろうか…あいつは「入れ替わり」を望んでいたし…。しかしミンチョルという男も凄そうだ…
だが本来僕は攻めるタイプ…。イメチェンをはかってもいいけど、やはり…ううむ…。ここは無難に…』『キム・イナ』と書いた
イナはこっそりと箱をあけ、答えを見て驚いた
自分の名前があったからだ
『テジュンのヤツゥ…ウフフフフン』などと喜んでいたが、テジュンの字ではない事に気づきまた違う意味で喜んだ
そしてテジュンの字を見つけ、愕然とした
『あの野郎!あのやろおおおっ』
そして涙目になりながら、ソクを捜しに行った
アブナい話である…
【5♪イヌ ウシク編(デュエット)】 ロージーさん
処理 ぴかろん
目が覚めたとき、ソクさんは俺に背中を向けていた
少し悲しくなってソクさんの背中におずおずと張り付いた
俺が触れた途端、ソクさんはビクンとして体を強張らせた
そしてそのまま寝たふりを続けた
俺はますます悲しくなって、腕をソクさんの胸の方に回し、ぎゅっと抱きしめた
「…スヒョク…すまない…やめてくれ…」
苦しげにそう言ったソクさん
俺は腕を離し、顔を覆って泣いてしまった
なぜ俺はこの人の前でこんなにも泣いてしまうのだろう
この人を見るたびに、この人に触れるたびに、堰を切った涙は溢れ出す
いつもなら…俺を抱きしめてくれるのに、今朝は違う
やはり俺のような男はお荷物でしかないのだ…
「…ごめん…なさ…」
「違うんだスヒョク…その…今僕に触れるとその…さる事情があってその…タイヘンなことになるから…」
さる事情?タイヘンな事?
俺はソクさんの顔を覗き込んだ
「ばか…あっち向いててくれ…もう少しで…その…治まるはずだし…」
ソクさんは目を泳がせながらしどろもどろにそう言った
俺は不自然に曲げられているソクさんの体を眺めてようやくその意味が解った
「あ…ごめんなさい…でも…」
自然現象ですし…と言いかけてやめた
「すまない…ちょっとシャワー浴びてくるから…待ってて」
ソクさんは立ち上がって風呂場に行った
俺が拒んだから…
本当は…そうなりたかった…
けれど俺はソクさんの愛を受けるわけにはいかない
俺は…俺は人に愛される資格なんてないんだから…
まいったな…スヒョクにしがみつかれたらまた…
よっぽど自分で…なんて思ったんだけど…それもスヒョクに悪いような気がして
…治まるのを待ってたのに…あいつ…
僕はシャワーに打たれながら、またスヒョクの顔を思い浮かべてときめいてしまった
いつかはスヒョクを抱きたい
でもまだその準備ができていない
あいつの心を解きほぐしてから、それからでないとだめだ
僕の心のうちも話したい
それだけの関係にはなりたくないから…
スヒョクの事を考えていると全く治まってくれない…
違うことを考えよう
そうだ
セツブンショーだ
悪趣味な衣装を僕は着るんだ
クスッ
そうそう、あの衣装を思い出せ…
「ソクさ…ソク…」
「へっ?!」
ドアの外にスヒョクがいる
「なっなにっ?!」
「俺も入っていいですか?」
何だって?!何を言っている!
「だっだっだめだっ!ダメ!絶対だめっ!」
カチャン
だめだと言うのにスヒョクは中に入ってきた
服を着たままで…
「スヒョク…濡れる…」
「手伝わせてください」
「へっ?!何が?!何を?!」
「俺が昨日拒んだからでしょ?」
「いや、違う…大丈夫だから…こらっ近づくなって!」
僕はスヒョクに背を向けて身を竦めた
スヒョクは僕の背中にぴったりと貼りついてその手を僕の…
「やめろ…やめてくれ…」
「俺にはこんな事しかできません…」
「こんな事しなくていい!こんな…ああ…」
スヒョクの腕にかけた僕の手に力が入る
払いのけるための力ではなく、しがみつくための力が…
頭の中では『いけない、やめさせなくては』と思うのに、体がついていかない…
「やめ…ろ…や…」
「これぐらいしかできません…他の事をやれといわれても俺には無理だから…あなたのためにできるのは…こんな事しか…」
「…スヒョ…」
背中に当たるスヒョクの服のボタンやスヒョクのジーンズのごわごわとした感触が僕を余計に高める
だめだ、だめだと繰り返しながらその先を求めている僕
ぐるぐると回る頭
ビリビリと痺れる体
やがて僕はスヒョクの手で別世界へと放り出された
崩れ落ちる僕をスヒョクは支え、そして抱きしめる
肩で息をしながら僕はスヒョクを見上げる
「なぜこんな事を…」
「だって明日にはもう…」
…しまった…スヒョクに僕の決心を伝えていなかった…それでこんな事を
僕はスヒョクの方に向き直り、彼を抱きしめた
「すまない…こんな事をさせてしまって…伝えるのを忘れていた」
「…何をですか…」
「僕も一緒に行く」
「…え?…」
「君達と一緒に君達のところに行く!だから…心配しないで…こんな事しなくてよかったんだスヒョク…」
「…」
「ごめんよ…」
「俺は…」
「ん?」
「そんな…俺は幸せになっちゃいけない男なんです…」
「…」
「だから…」
僕はスヒョクにそれ以上悲しいことを言わせたくなくて、強く彼の唇を吸った
「ゆっくりそのわけを聞く。これからずっと一緒だから…」
「…そんな…いけない…」
「僕がいいと言ってるんだ。だからいいんだ、スヒョク」
そしてもう一度深く口付けた
スヒョクの服はびしょ濡れになった…
シチュン☆メイ7 妄想省家政婦mayoさん
俺は部屋に入るとすぐにメイを頭から抱いた...
「何だょ...急に堅くなんなょ...さっきの勢いどこいった?」
「ぁ、ぅん...」
「ぷっ…座れよ....」
ソファに座って部屋をキョロキョロ見ているメイにコーヒーを渡しながら
俺はメイの隣に座り片手でメイの頭をクシャ#とする
「んもぉ〜あんたのせいであたしの髪いっつもくしゃくしゃ!」
そう言ったメイは俺の懐に入って来た。両手でメイの腰を支える
俺とメイは互いに話しかける度に軽くキスをする...
髪xxx……「なぁ...メイ...」
ほっぺxxx…「ん?何...」
みみxxx……「明日か?あさってか?祭りが終わるだろぉ〜...」
デコxxx……「ぅん...」
首xxx ……「祭りの後...どうするょ...お前...」
鼻xxx ……「どうするって...決まってんじゃん...」
俺はメイの下唇を噛む「ここにくるか?...」
メイは俺の上唇を噛む「ぅん...でも...」
俺はメイを見上げた「でも、何だ...」
メイは俺を覗き込み「お邪魔じゃなぁ〜ぃ?」
俺はメイのブルゾンを剥ぐ「俺は今お前だけだ。信じてねぇのかょ...」
メイが俺のボタンを外し始め「信じてるょ。浮気したら...これっ!」
メイは笑いながら俺の心臓に指ピストルをいきなり当てた...
「わかった。その時は俺を好きにしていいっ。でも絶対ないっ!」
「ホントねっ!」
俺は返事の代わりにメイの唇を強く捕らえる...
メイはそれに答え俺の舌を捕ら..絡ませながら俺の背中に手を回した...
俺はそのまま立ち上がりメイをベットへそっと横たえた...
「さっきの...続きだ...」
メイは下から俺の頬を覗き込み#くすっ#と笑って頷くと
既にボタンの外れている俺のシャツを両肩から外した...
メイの首筋から鎖骨へ唇を落としながらメイのシャツのボタンを外す...
2人の服が次々とベットの下に落とされたあと
俺たちは毛布にくるまった...
滑らかな肌に唇を這わせる度に撓るメイに俺は夢中になった..
.
メイの手は俺の髪を掻き上げ肩〜背中〜腰〜臀部をなめらかになぞり続け
それに合わせる俺にメイは弾け..足を絡め..俺に纏わりつく...
そして悦びの中で俺の名を呼ぶ...
....ぁぁ..シチャン.......シチャン....
その甘い声は俺のからだすべてに染みていく..
.
...メイ....
俺たちは手を握り合い互いの名を呼び同時に弾けた..
メイは俺の頭を抱き...俺はメイの胸に顔を埋めたまま
ふたり...まどろみの中にいた...
「シチャン...」「なに...」
「シチャン...」「なんだよ..」
俺は何度も呼ぶメイがいつになく可愛くて可笑しくて
今度は俺がメイを胸に引き寄せた...
「ねぇ...さっき何で駄目だったんだろっ...」
「ベットが狭かったからだって!!」
「ふふん..そっか...」
悪戯っぽい目でメイが笑った..
不機嫌なフグ 足バンさん
外が明るくなりはじめた
横には夕べ泣き疲れて眠ってしまったドンジュンが寝息をたてている
ドンジュンがソファで眠ってしまったのでベッドに移してやった
涙のあとをぬぐってやり、しばらくその寝顔を見ていた
僕はドンジュンを肩に抱きながらほとんど眠ることができなかった
少しうとうととするとハッとして目を開けてしまう
何度も夢をみたからだ
ミンチョルが暗い舞台でひとり泣いている夢
ギョンビンが涙も見せずに冷たい目で別れを告げる夢
そして
ドンジュンがアクターのキィだけを残していなくなる夢
不意に脱ぎ捨てたジャケットの中で携帯が鳴った
そっとドンジュンから腕を抜き急いで出る
テジンからだった
ギョンビンの兄貴と話をする機会を持った
あいつに危険な匂いを感じた
あいつの弟に対する執着は心配だ
事情はわからないが注意した方がいいんじゃないか、と
今の状況を知る由もないテジンは
今後兄貴もBHCに入るのなら、と付け加えた
弟に対する執着?
電話を切ってからその言葉を反芻した
ミンチョルが言っているような弟の将来を思う気持のことじゃないのか?
ミンチョルがなにか動く前に兄貴にもう一度確かめた方がいいのか
しかしまた嫌な気分にさらされそうだな
またもや殴るようなことになるだけだろうか
また携帯が鳴った
思いがけずオーナーからだった
チェ・スヒョン、君に映画の出演依頼が舞い込んだ
詳細は祭が終わってから話す
理事は既に了承済み
返事は今後の話次第
取り急ぎ頭に入れておいてほしい、とのこと
映画?この僕が?
しばらく理解できずに立っていた
「映画ってなに?」
振り向くと寝ていたはずのドンジュンがこちらを見ていた
「スヒョンが映画に出んの?」
「なんのことだかまだよくわからない」
「ふぅん…」
なんとなく不機嫌そうなドンジュンの顔
僕はベッドに腰掛けキスをしようとしたが顔を背けられた
「なに怒ってるんだ?」
「祭が終わって元の生活に戻ったらどうなんの?僕ら」
「どうって変わらないよなにも…心配?」
「うん…心配…夢が終わるみたい」
僕はドンジュンの髪を撫でてやりながら、夢じゃないでしょと言ってやった
「ね、スヒョン、僕らもテジンさんにペンダント頼もうか」
「いらないよ…そんなものに囚われたくない」
「そぅ…」
ドンジュンは小さなため息をついた
「スヒョン…ずっとミンチョルさんのこと考えてた?」
「あぁ…そうかも」
「ふぅん…」
「考えてやれって言ったのはおまえでしょ?」
「そうだけど…ずっと?一晩中?」
「ばか…また妬いてるの?」
「いつだって気になるもん。前に”抱かれたい男”って書いてたしね」
「おまえだっていったい何十人の名前書いたのよ」
「そんないっぱいじゃないよっ!5,6人だよっ!失礼なっ」
真剣にむくれているドンジュンの顔を覗き込んで真剣な顔で聞いた
「じゃ今度、おまえ、抱いてくれる?」
ドンジュンはフグのようにふくれて上掛けを頭からかぶった
僕はそのままドンジュンを抱きしめた
苦しがって顔を出したドンジュンを捕まえてやっとキスをした
祭は数時間後に迫っていた
オ支配人の嘆き れいんさん
ホスト祭関係者が宿泊してから、心休まる時はない
毎日の様に、他の宿泊客や警備担当者・掃除係・他スタッフからの苦情や通報が多数寄せられている
ここにほんの一例を挙げてみよう
ラブさん………ナイフの持込などの銃刀法違反
ミン(兄)さん…他のお客様のお部屋への不法侵入及びタバコのポイ捨て
男組ご一行様…ホテル中庭を無断で掘る器物損壊(器物ではないかも)
MUSAご一行様…ホテル内を馬で駆けたり、槍をなげたりする迷惑防止法違反及び銃刀法違反
アンドレ先生…ワイセツ物陳列(存在自体がワイセツらしい…)
テソンさん……ホテル内に於いて柚子茶や梅茶などの無断持ち込み
テプンさん……前かがみの姿勢で走り回る挙動不審
キム次長………ホテル内に於いて占い業などを無断開業
ソンジェさん…カラオケルーム独り占め(他の宿泊客が利用できない)
スヒョンさん…浴室にバラの花びらが散乱し排水口がつまる(掃除係からの苦情)
ミンチョルさん・ギョンビン(弟)さん…酒気帯び運転及び夜間の騒音(声が大きいとの苦情あり)
イナさん………夜間徘徊及びお部屋のカーペットに多数のシミや磨耗あり(掃除係からの苦情)
ジュンホさん…迷子(度々フロントにて保護)
…ああ、今日もアスピリンを飲まなければ…
つまのおとうさん 妄想省家政婦mayoさん
ぼくのつまのおとーさんはおもしろいひとです(ソニョン父役@オ・ジミョン)
おとーさんはむかしとてもけんかがつよくてがっこーのばんちょーでした
こーこーせいでおさけをいっぱいのんでいっぱいけんかをしたとき
なかまがみんなたいがくになったけどおとーさんはせんせーに
はんせいぶんをかいたらゆるしてやるといわれてました
おとーさんは”んなものかけるか、ばかやろー”といったけどけっきょくはんせいぶんをかいて
がっこーにふくがくしたらしいです...
おとーさんはけんかは”気”がだいじ、せんてがたいせつだといっていた
ぼくはけんかはしないのに....
おとーさんはむかしべんきょーがとてもきらいでしけんのときにかんにんぐをして
98てんというくらすでいちばんのてんすーをとってしまったそうです
つぎのしけんではなにもしなかったので40てんだったとわらっていました
むかしからおとーさんははいゆーというしごともたまにしています
せりふをおぼえるのがへたくそでいまでもせりふはかんにんぐだそーです
おとーさんはむかしぷろでゅーさーをよくなぐるのでゆーめいで
じぶんのためじゃなくてこーはいやどーりょーのためにけんかをしました
でもそのせいで”あいつはちんぴらだ”ってわるいうわさがたったけどおとーさんは
”おれはちんぴらじゃない、ちんぴらじゃないから、のーちんぴら”といいまくったらしいです
おとーさんはよわいものをいたぶるやつはきらいといっています
ぼくはぶきよーでまえはよくおとーさんにしかられたけどいまではぼくをかばってくれます
けんかをいっぱいしてえいごのしけんでも40てんしかとれないのにおいしゃさんになって
たまにえいがのかんとくもしているおとーさんはえらいとおもいます
あぁはやくおとーさんにもあいたいなぁ
【6♪スヒョクとソク編】ロージーさん
【7♪ヨンス編】 ロージーさん
【8_♪ミン編(ドライブ) 】ロージーさん
ブレイクアップ オリーさん
「死にたくなかったら本当の事言いなよ」
「まだ死にたくない。だから本当の事言ってるんだ」
僕の喉にからみついた指に力が入った
「本当の事を言うんだよ」
「さっきから言ってる」
「全部遊びだって?」
「本気じゃなかったって事…」
また少し力が入ったので息が苦しくなった
「そんな事聞きたいんじゃない」
「信じないのは…そっちじゃないか」
「死にたいの?」
「死にたくない…助けてくれ…」
さっきからミンが僕の上に馬乗りになって首を締めている
人の上にふりかかる事象は時として偶然から始まる
いくら考えて悩んで準備しても、そんな事はその偶然の前には無力だ
今日もそうだった
朝のコーヒーを飲んでいる時だった
ミンが嬉しそうに僕に言った
今朝早く兄さんと話ができた
とても感じが良かった
また仕事を一緒にしたいと言われたけど断わった
それでも理解してくれたみたいでほんとによかった
ミンは笑ってコーヒーを口にした
僕はその顔を見ながらほとんど無意識に言っていた
「ばかだな、なぜ兄さんの誘い断わったの?」
ミンがえ?という顔をして僕を見た
もう進むしかない
「仕事があるなんてラッキーじゃないか。どうせ祭が終われば僕達も終わる」
「何言ってるの?終わるって何?」
ミンの顔色が変わった
僕は説明した。できるかぎり淡々と
最初から祭りの間だけの関係だということ
終わったらお互い元の場所に戻るということ
僕にとってはただの遊びだったけど結構楽しかったということ
「だったら、何で二人で住むマンションの話なんかしたの」
「確かに誤解させた。でも演出としてはよかったろう」
僕が言い終わらないうちにミンはコーヒーカップを投げ捨て
僕に掴みかかりあっと言う間にねじふせ首に手を当てたのだった
さすがにすばやい
「だったら昨日のドライブは?」
「フルコースのデザートってとこかな。締めは大事だからね」
「悪い冗談はやめて嘘だって言いなよ」
「嘘だって言えば…助けてくれるのかな…」
たとえ遊びでも僕は全力を尽くすタイプだと言ったら
ミンの指にさらに力が入った
だんだんしゃべることが困難になり、
視野に紫色の斑点が混じり、ミンの顔もぼやけてきた
けれど、このまま逝ってしまうのもいいかもしれない
すると少し指の力がすっと弱まり、空気が肺に流れ込んできた
それをむさぼるように息をしていると、またミンが言った
「最後のチャンスをあげる。だから本当の事を言って」
「死にたくない。ミンの気の済むように言うから。嘘だって言えばいいんだろ?」
「そんな答え方じゃだめだ。わかってるだろう」
また少し指に力が入る
「どうしたら…助けてくれるんだ…
…助けてくれるなら…何でも言うから」
少しみじめったらしくした方がいいだろう
「人殺しはしたくないだろ。僕だって死にたくない。だから」
ふいにミンが手を離し立ち上がった
僕は首を押さえて咳き込んで新鮮な空気を肺にとりこんだ
ミンはたぶん荷造りに取りかかったのだろう
クローゼットの方で物音がしているから
「ひどいじゃないか。死ぬところだった」
僕はようやく椅子につかまって立ち上がると言った
ミンは乱暴に服をトランクに放り込んでいた
「殺す価値もない人だからやめたんですよ」
「それはどうも。おかげで命拾いした」
「こんなに侮辱されたのは初めてだ」
「せっかくだから祭が終わってから出て行けばいいのに」
ミンは黙ってドアに向かった
「そんなに怒るなよ。ミンだって結構楽しんだじゃないか」
ミンが振り返って言った
「最低だ」
「色々教えてやったのに随分だな」
「教えてもらったことはみんな忘れる。最低だ」
そう言うと首に手をあてペンダントを引きちぎった
それを窓の方に向かって投げつけるた
そのままドアの向こうに消えた
終わった
突然始まってしまい終わってしまった
僕は掴まっていた椅子に座り込んだ
でもどっちにしろ今日中には片をつけることだったんだから
朝か夜かの違いだけだ
覚悟して言うよりよかったのかもしれない
いや、もう何でもいい
とにかく終わった
朝なのにひどく疲れた
僕はもう一度寝室へ向かい、ベッドの上に倒れこんだ
何も考えたくない
しばらくして携帯が鳴った
用心して出るとミンの兄さんからだ
「例の件だけど…」
「さっき終わりましたよ。後はよろしく」
「早いね」
「ひとつ聞きたいことがあるんですけど」
「何?」
「仕事は危険なことが多いんですか」
「気になる?」
「ミンにはずっと生きててもらいたい」
「実際は地味な仕事が大半だ。僕にとっても大事な弟だから心配しなくていい」
「そうですか」
「世話になった」
「じゃあ、これで」
電話を切った後、忘れていた涙が出てきた
ベッドの上で声を出して泣いた
その男、非情につき… ぴかろん
やった…弟が帰ってくる
今日一日待つつもりだったのに…
教会で、とてもいやな気分に取り巻かれていた僕に素敵な報せだ
あの男との幸せな時間を邪魔してやろうとかけた電話で、あの男からのとてもいい報せが聞けるなんて誰が思う?
ふふ…はは…ははは…
なるほど頭のいい狐だ
早ければ早いほど傷は浅い…
ふ…ふふふ…
狐の傷は、相当深いことぐらい解っている
僕の宝物を貪った罰だ
苦しめばいい
切り刻まれればいい
だが僕にそれを返してくれた事だけは評価してやるよ
お前は素晴らしい狐だ
一人で壊れてしまえ!
ギィィ
教会の扉が開く
浮き上がるシルエットが泣いている
可哀相なギョンビン
僕に逆らうからだよ…
おいで
もう二度と離さない
「兄さ…ん…」
「…ギョンビン…どうしたんだ…なんで泣いてるんだ!」
「…うっ…うううっ…」
「どうしたっていうんだ!」
「僕…仕事…仕事に…戻れる…かな…」
「ギョンビン…お前、あのミンチョルという男と一緒にいるって言わなかったか?
お前、とてもしあわせだと僕に言ったじゃないか…ほんの何時間か前だぞ?ん?」
僕は弟の泣き濡れた頬を両手で包み、傷ついた瞳を覗き込んで問いただした
苦しげに歪む顔が美しい
僕を裏切った罰だよ
「とても好きだと言ってたじゃないか。なのにどうして?」
「…聞かないで!もう…彼の事は…言わないで…」
「何があったんだ。ケンカしたのか?何が原因だよ。彼はプライドが高そうだからお前から頭を下げればいいさ
僕がついていってやろうか?ん?」
「…もう…いいんだ…終わりなんだ僕ら…」
「…終わりって?」
「…もう聞かないで!…僕は兄さんと仕事に戻る!くっ…ううっううう…」
「…ギョンビン…」
僕は弟を引き寄せ抱きしめた
このままここでお前を抱いてやろうか!
ふふふ…もう焦らなくてもいいさ…僕の元へ帰ってきたんだからな…
よしよし、慰めてやるよ…可哀相なギョンビン
「…戻るって…今すぐかい?」
「ああ…できるだけ早く…」
「…だけどお前、祭に出るんだろ?」
「もういいんだ!僕が抜けたって誰も困らないさ!」
「…なんだ…見たかったのにな…今日一日待つつもりだったんだぞ」
「…いいんだ!」
「なぁ…冷静になれよギョンビン。祭を見ながらよく考えろ」
「何を考えるっていうのさ!もう結論は出てる!」
「ミンチョルさんの気まぐれかもしれないだろ?…もう一度話し合ってみろよ…」
「…兄さん…なんでそんなに優しいの?」
「…馬鹿だな…可愛い弟のためを思ってるんじゃないか…」
そうさ…可愛くて馬鹿な弟のためを思って、今日一日あの男に僕と弟の姿を見せ付けてやるんだ
どうしよう…あの男の前でキスしてもいいな…ふふ
ギョンビンが驚くかな?ふふふ…ははは…
僕の胸で泣きじゃくるギョンビン
何度夢に見た事だろう…
お前はあいつに穢された
僕が綺麗にしてあげるからね…
「兄さん…僕…彼を…殺そうとした…」
「…好きなのに?」
「僕、遊ばれてただけなんだって…」
「…は?どういう事?」
「…祭の…間だけの…遊び道具だったんだ。僕は…」
「…ギョンビン…」
声を殺して泣く弟
僕に縋りつく弟
可哀相に
抱きしめてあげるよ
でも仕方ないね
自業自得さ
簡単に許してあげないよ
ああ、僕の大好きな泣き顔だ
お兄ちゃんごめんなさいと泣きながら僕に縋ってきた、あの小さい頃のお前の顔だ…
ねえ…ギョンビン…我慢できないよ…
キスしてもいいかい?ああでも…もう少し後がいい…
君は僕の宝物だもの…
こんなところでじゃなくて
もっと素敵な場所で君にキスしたい
君がもっともっと僕に、僕だけを頼りにするようになってから
そのためにもやはり
「ギョンビン…これも仕事なんだろ?祭の警護…なら、最後まできちんとやれ。でなきゃ僕との仕事はこなせないぞ」
「そんな…」
「祭が終わるまではこのホテルにいよう。僕と一緒にいればいいさ。な?」
「…」
「僕が守ってやるから…」
「…兄さん…」
僕を尊敬してるね?
なんて甘いんだろう
なんてすぐに人を信用するんだろう
可愛いね、君は本当に可愛いよ
僕は弟の髪にキスを落とした
弟の腕は、僕の背中にまわっている
髪に顔を埋める
いい匂いだ…朝からシャワーを浴びたのか…
ふうん、そのままケンカとはね…
「…兄さんの言うとおりにする…」
「うん…辛くても任務はやり遂げなくちゃな?」
「…ああ…」
さぁ…僕をイライラさせた罰だよ
もっと傷ついてもっとボロボロになれよ、僕の横で…
そしてその傷だらけの体と心を僕に差し出せ!
今日が終わる頃、僕達は禁じられた世界に行くんだ、お前を綺麗にするためにね
そうさ僕しかいないだろ?君を綺麗にできるのは…
弟の体を優しく擦りながら僕は、静かに興奮していた…
祭のはじまり ぴかろん
(ジュンホ君が)待ちに待っていたこの瞬間
ステージ上に演台があり、美しい花々で飾られている
会場には招待されたホ○トたちが勢ぞろい
BHCの面々は、ひとところにかたまり、わいわいと喋っている
それぞれのパートナーと手を繋いだり肩を組んだりしている者
パートナーのいないもの同士ニコニコと話をしている者
その中でミンチョルは、サングラスをかけて氷のように座っている
スヒョンとドンジュンは少なからずその事に気づいていた
スハはジュンホの横にいて、皆に挨拶をしている
テジンはスヒョンの方に歩いていき、ミンチョルの方を見て心配そうな顔をしている
ウシクとイヌは、堅く手を繋ぎ、潤んだ瞳で見詰め合っている
ラブはキョロキョロとあちこちを見回している
テソンは、少し離れた撮影場で、闇夜の腰に手を回して甘えた様子
真後ろにちぇみテスがいる
チョンマンとチニ、テプンとチェリム、シチュンとメイは「ファミリールーム軍団」で固まっている
うるさい
とにかくここはうるさい
「子供が生まれたら、俺たち三家族でレジャーに行こうぜ」
「野球チーム作ろう」
「僕ら三家族の映画を作ろう」
などと口々に喋り続ける
「ま、俺んとこが一番早いかも〜」
「なにが?」
「ん?子供できるの…なっメイ?」
ボカッ☆
メイに殴られるシチュンであった…
スヒョクはソクのそばにいた
俯いて、そこから離れようとするのをソクが引き寄せ肩を抱く
そして人目も憚らずキス
驚くスヒョクといたずらっ子のように微笑むソク
離れたところからソクを見ていたイナ
『ナンだよあれ!』
むっとしているイナに、テジュンが素早くキスする
唇をとんがらせて拗ねているイナに
「よそ見してんじゃないの!」
と釘をさし、唇をギュッとつまむ
イナは膨れっ面ながらも目が笑っている
そしてミン
一番後ろの席で、兄とともに座っている
俯いたまま、少し震えている
「しっかり見ろ。僕達の任務は辛いことの連続だ。僕と一緒に仕事するなら、これぐらいの辛さに堪えてみろ」
「…兄さん…」
「…ギョンビン…お前が辛いときは僕も辛いんだ…僕らは同じような人生を歩んできただろう?
同じ頃に上司や友人や…愛する人を亡くした…今も同じだ…
お前が…愛する人に裏切られた事、僕も同じように感じている…
お前の事を一番解っているのは…僕だ…そうだろ?」
「…うん…」
「だから…お前の辛さはよく解る…二人で乗り越えよう…辛くても最後まで見よう、この祭…」
「…わかった…」
ライトが落とされた会場の中で、ミンの兄は、残酷な微笑みを浮かべていた
唐突に鳴り響くドラムロール
スポットライトがあちこちを飛び回る
やがてステージ上の演台に固定される光
ホテル専属のジャズバンドによる華やかなオープニング音楽の演奏
「これが終わる頃、MUSAのチン隊正が出てらっしゃって挨拶なんだよ」
「誰?」
「チン隊正」
「しらねぇな」
「…とにかく…ステージ見てろよ!ソク見てないで!」
「だってあっちのが面白そうだもん」
「こっちだ!馬鹿!」
テジュンに首を捻られて、ますます口をとんがらせるイナである
ジャズバンドの演奏が終わった
終わってしまった
「あれ…チン隊正…」
「出てこねえじゃん!なによ、最初っからコケてんの?
テジュン、お前、俺の事攻めすぎて、ちゃんと打ち合わせしてなかったんじゃねぇの?」
「馬鹿!…どうしたんだろう…」
会場がざわめき始めたその時、ミンの兄が座っている真後ろから、ステージ上の演台めがけて矢が放たれた
放たれた矢は、空中で極彩色のキラキラした紙片を撒き散らしながら、演台中央の花の中に刺さった
「ああっ!演台にキズがっ!」
テジュンの叫びは、次の瞬間沸き起こった無数の兵士たちの雄たけびによってかき消された
わああああわあああああわああああああ〜〜〜
座席の通路を駆け抜けていくMUSAと男組の兵士たち
客席は、その迫力に度肝を抜かれ、しいんとしている
ステージ上に並んだ兵士達はわあわあと叫びつづけている
一番最後に、風のように通路を走り抜けた男、チン隊正である
ステージ演台にたどり着き、客席を見渡し、弓を構えている
客席の合間をダダダトトトダダダひいいいという音とともに、何かが走り回っている
チン隊正は、その音に向かって矢のかわりに何かを放った
すぱこぉぉぉぉん☆ひいいいっ
見事命中
矢の代わりの金色のスリッパが、ジョン将軍の頭に当たった
満足げに微笑むチン隊正
そしてもう一本、金色の矢を構える
会場の一番奥の天井部分に狙いを定めている
ヒュッという音と共に金色の矢は、金粉を撒き散らしながら飛んでゆく
皆が目で追う
矢が刺さった小さなくすだま…
パッと割れて垂れ下がった幕
「ビバサンバ!ホ○ト祭よ永遠に!」
「イェイ!やってやろーじゃぁん?」
会場が静まり返る
「なんじゃっ!ノリが悪いぞぉ!声が返ってこんぞぉっ!もう一回いくぞ!いぇい!」
「い…いぇい」
「どーしたんだぁっ!ついてこいよぉぉぉっ!」
「イ…いぇい…」
チン隊正の煽りに皆戸惑っている
「テジュン、お前一番に声出してやれよ…チンさん気の毒だぞ、あんなハイテンションなのに…」
「…」
「俺も一緒に叫んでやるからさ、な?」
「…あ…ああ…」
「もう一度いくぞぉっいぇいっやってやってやりまくるぞぉぉぉっ!はいっ」
「いぇいっやってやってやりまくるぞぉぉぉっ…」
テジュンの大声だけが、会場にこだまする
横で身を捩って笑うイナ
テジュンは真っ赤な顔をしながらも開き直り、チンの煽りに応え続け、やがて会場が一つになる
「いぇいっ!やるぞっ!」
「「いぇ〜やるぞおおお」」
「楽しむぞぉっ!」
「「楽しむぞぉぉぉ」」
「俺たちの力を出し切るぞおお」
「「出し切るぞおお」」
「最高の一日にしようぜぇっ!」
「「いええええっ」」
クスクス笑いながら腕を振り上げるイナを、横で小突くテジュン
ふとBHCの連中の固まっている席を見たとき、イナの目にミンチョルの姿が飛び込んできた
あのクールでスカした野郎が…何を大はしゃぎしてるんだ…
貼り付けたような笑顔で、狂ったように腕を突き上げている
ミンがいないじゃないか…ミンはどこだよ!
会場を見渡して見つけたミン
あれはミンの兄だ…弟は…
ミンの兄の横で顔をあげた男…ギョンビン…
…まさか…
「イナ、すごいよな、チン隊正って」
テジュンの感動した笑顔がイナの思考を惑わせる
「いぇぇえいいぇぇいいぇぇぇぇい!」
チン隊正のひときわ大きな声が合図となり、再びジャズバンドの演奏が始まる
チン隊正は演台を舞台袖に押しこみながら退場
そしてMUSAと男組によるダンスと太鼓のパフォーマンスが始まった…
ひずみ 足バンさん
賑やかで多忙で、そして憂鬱な1日が始まろうとしていた
会場に伝わる熱気の中、僕は2人の人間から目が離せなかった
ミンチョルさんとギョンビン
僕が会場に入ってきた時すでにミンチョルさんは一番前の席に座っていた
サングラスに違和感を感じた
それでも僕は進行用のファイルが置かれた隣の席にやがてギョンビンが座るのだろうと思っていた
しかし人が増えはじめたがギョンビンは現れない
違和感は嫌な予感に変わった
テジュンさんとスヒョン、そして会場の技術チーフがミンチョルさんの席に向かい
最終確認を行っている
言葉が交錯する中、スヒョンがミンチョルさんの顔を見つめている
スヒョンも違和感を感じているんだ
4人がファイルを閉じて散った後、スヒョンは僕の隣に座った
「ドンジュン…おまえ、なんて顔してるの」
「スヒョン…」
もうなにか起こっちゃったのかな、という言葉を呑み込んだ
僕たちが想像したって無意味だ
スヒョンもそれ以上なにも言わずに座っていた
会場は人でいっぱいになってきた
わいわいと騒いでいるテプンさんたちの一団からぐるり後ろを見渡した時
僕の目は一点にくぎ付けになった
ギョンビンと兄貴だ
兄貴が促し一番後ろの席に座る
ギョンビンは下を向いたままだ
僕は咄嗟に前に向き直った
一気に事情が呑み込めたような気がしたからだ
いきなり心臓の音が大きくなった
僕はスヒョンに小さな声で2人の件を伝えた
スヒョンはちらりと後ろを見てそしてミンチョルさんを見た
そして前に座ったテジンさんに、ふたことみこと話しかけた
ついに祭が始まった
ジャズバンドの演奏に引き続き、チンのおじさんの派手な演出
はじめ呆気にとられていた会場も次第にその波に呑まれて行く
楽しそうな熱気が人々を包んでいく
僕の頭はその熱い渦が大きくなるにつれて冷たくなっていく
ミンチョルさんは拍手をし笑っている
少し動きが大き過ぎる
ギョンビンはライトが走る舞台を無表情に見ている
そして兄貴はギョンビンに寄り添い微笑みを浮かべていた
とにかくオープニングでは我慢していた
しかしMUSAと男組のパフォーマンスが始まり
会場の明かりがまた一段とおとされた時、僕は腰を浮かせた
ちょっとトイレ行ってくるね
スヒョンは僕を上目遣いで見ていたが、ひとことだけ言った
無茶なことはするなよ
僕はそのままギョンビンたちの席の後ろに回った
「ちょっといい?ギョンビン」
「なにか用?こねこちゃん」
返事をしたのは兄貴の方だった
「ボタンショーのことなんだけど、もう僕めちゃくちゃ緊張しちゃってさ、
もう1回合わさせてくんない?だめ?」
ギョンビンは兄貴をちらりと伺った
その兄貴は僕の顎を軽くつまんで覗き込み言った
「楽しみにしてるよ。弟の魅力を最大に引き出して会場に見せつけてやってくれ」
なにか粘り着くようなその目のひかりに嫌な気持になった
「ミン、いいよ行っておいで」
「早くいこう。進んじゃうから」
「うん…じゃぁ…」
僕はギョンビンの腕を引っ張って会場の出口に向かった
ああ…
僕は歩き出しながら思わず目を閉じた
ギョンビンの腕を掴んだ指先から、ひどい哀しみと絶望が伝わりはじめていたから
【9_♪銀狐編】ロージーさん
セツブンショー1 ぴかろん
「ソクさん…」
「ソクだろ?」
「…ソク…」
「なんだい?」
ソクさんの微笑みが俺の胸に突き刺さる
痛いような甘いような痺れを感じる
でも今はそれを感じている場合ではない…
ソクさんは忘れている
舞台袖でてんやわんやしなくちゃいけないのに…
「あの…そろそろ行かないと…」
「え?何?聞こえない」
始まったMUSAと男組のパフォーマンスの音に、俺の声はかき消される
仕方なくソクさんの耳に手を当てて告げる
ソクさんはくすぐったそうな顔をして俺の声を聞く
「聞こえない。手を外して直接耳に囁いてよ」
…ソクさん…
「知りませんよ、今立っちゃっても俺、処理できませんよ」
と言ってみた
どうせ聞こえないだろうから
「え?何?」
思いっきり耳に唇をくっつけて言ってやった
「もうすぐ出番でしょ、行かなくちゃ」
「もうすぐイクって?!」
「セツブンショーでしょ?舞台袖、行かなきゃ」
「…わかった、行こう」
「行こうって…」
「おいで」
有無を言わさず俺はソクさんに引っ張られて行った
なんか手伝わされるのかな…着替え、大変なのかな…
楽屋口を通って舞台袖に来た俺たち
アンドレ先生は見えないなぁ…ソクさんの一番最初の衣装は…
俺はソワソワと衣装を探し始めた
「スヒョク、何してんの?」
「何ってあなたの衣装を…」
「衣装ってなにさ…それより…」
「あわっ…」
ソクさんは俺を舞台袖の幕の中に引き込んでキスをした
ドキンドキンと心臓が波打つ
こんなところでこんな事…
人に見られたらどうしよう…
「さっきのお返しだよ、イっていいよ」
「…はあ?」
「もうすぐイきそうなんだろ?舞台袖でキスしようってお前にしちゃ大胆な誘いだったな」
「はあっ?!」
俺は少し腹が立ってきた
「何言ってるんですか!俺は、セツブンショーでしょって言ったんです!」
「セツブンショー?『せっぷんしよう』じゃなかったの?」
「俺がそんな事言うと…?第一『もうすぐいく』だなんてそんな…」
俺は顔が熱くなっているのを感じた
「スヒョク、かわいい…」
ソクさんは、また俺を抱きしめて俺の唇に吸い付いた
あ…蕩けそうになる…
「んなことしてる場合じゃないでしょ!アンドレ先生に殺されてもいいんですか?
ほらっMUSAのパフォーマンス、太鼓に変わりましたよっ!はやく!衣装も探さなきゃ!」
大声で叫んでソクさんを突き飛ばす
「んーもう一回だけ…」
よっぽどキスが好きなんだろうな…俺だってソクさんにキスしてもらうの…嬉しいんだけど…でも…
「きりがないっす!もうっ」
幕から出ると妖怪が立っていた
「ひっ…」
「どうしたスヒョク」
「どーしたじゃにゃいわっ!そんにゃいいこと、幕に包まってすりゅなんてっ!プンっ」
「あうっ」
「ほりゃ、こりぇ!あ〜たのパートナーちゃんにてちゅだってもらいなしゃい」
「は…はい…」
「あっしょうしょう、今後ちゅううってしゅるならば、このお衣装の前で、アタクチの前で、やってちょ〜らいねっ
作品の参考にしたいかりゃっ」
「「…」」
「おいっ!返事しろよ!」
「「はっはいっ」」
「いいこちゃんねぇんフヒン」
妖怪が去った
「こええっ怖かったな、スヒョク」
「…」
「じゃ、お口直しにもういっか…」
「時間ないでしょ!ほら、これ着て、これも、これも」
「あう…あぉぉ…あ…ああん…」
「ソクさん、変な声出さないで!」
「あひ…いいよお前、手伝わなくても…お前に触れられると…」
ああ…そうか…
「じゃ、俺、席にもどりま」
「だめっ!ここにいて!」
「え?」
「ずっと…僕のそばにいて…お前の出番以外は…でなきゃ僕、こんなかっこ悪いこと…できない…」
「…」
「な?」
ソクさんの目が心細そうだったので、俺はちょっぴりかわいいなと思ってコクンと頷いた
「ソクちゃあん、スタンバイよっ」
「はいっ…じゃ…行くね…どう?変じゃない?」
変ですよ、その衣装だもん…
そんな事言う代わりに、俺はソクさんにチュッとキスをしてみた
してしまってから、いいのかな…と思った
いいのかな…俺、こんなにはしゃいでて…
少し不安になった俺を、ソクさんは見逃さない
また抱きしめて瞬間に唇から電撃を流す
「ソクちゃんっ!」
「…ん…ふぁぁいっ…じゃ、ね」
「…はい…」
俺は、ソクさんが俺にキスすることで自分に気合を入れて舞台に出て行っているのだと思った
役に立てるのなら…いいよね…
鬼は〜うち…福は〜そと…
間違えてない?セリフ…
でもアンドレ先生は「あれでいいにょよ」と言った
「『心の鬼』を解放していくにょよ…フフフ」
そう呟いた先生の顔は、紛れもなく芸術家の顔だった…
撮影隊1 妄想省家政婦mayoさん
祭りのオープニングが始まる頃
僕らとちぇみてすはBHCの連中からちょっと離れたところにいた
BHCメンバーの塊全体が見えた
闇夜が背伸びをして僕に耳打ちをする…
「ミンチョルさん…大丈夫かな…」
「ぅん…まっ…気丈に頑張るんだろうな…」
「こんな時にあの勘違い2人…傷口に塩塗らなきゃいいけど…」
「はは…妻弟コンビか…ミンがいないからやりこめられるかもな…」
「ぅん…」
「天使コンビもいる…なんとかなる…そう思わないと…」
「ぅん…」
「それに…ミンが戻らなければわざわざスカウトしに行ったのも無駄になる…ん?」
「ぅん…1名でも欠けたら駄目…」
「オーナー達がそうはさせないだろう」
「ぅん…」
僕達はミンミンに何があったのか朝モニターで確認していた…
さすがの僕達も朝のち◎うどころではなかった…
チーフの冷酷に言い放つ様、ギョンビンの哀しみに溢れた様…
何故にこの2人にはこうも試練が待っているのか….
闇夜とモニターを見ながらやりきれない想いだった…
スヒョドンはチーフの顔色でわかったはずだ
テジンもミン兄とミン弟の姿を見てスヒョンの側に行った
テジンの部屋にミン兄が行ったことを考えれば当然の行動と思われた
僕らの後ろでちぇみてすが話してるのが聞こえていた…
「ちぇみぃ〜最近…テソンさん嬉しそうだね…」
「ん…要塞崩壊が近い…」
「うわっほんとっ?」
「たぶん…」
「そっかぁ…よかったね…」
「まだわからんぞ?…こいつらは…闇夜にはまだ秘密がありそうだ…」
僕は苦笑していた…ったく…
そのとき僕らの前にカメラを抱えたジホが寄って来るのが見えた
ジホはニコニコと僕らのそばにやってきた
「あ、こんにちは、監督…」
「始まったようだね…」
「よろしくお願いします。ウォニさんは?」
「ぅん..あそこの..固定カメラの位置にいるよ…」
ジホはステージ向かい側の2階踊り場部分にいたウォニに合図をした
ウォニはジホと闇夜に軽く手を上げ、応えていた
闇夜がジホと会話をしている間も僕は闇夜の腰から手を離さなかった
ジホは僕の手の先をちらっと見、僕に挨拶をしてきた
「テソン君…だよね…」
「はい…イ・テソンです」
「挨拶するのは初めてだね…リュ・ジホ。よろしく」
「こちらこそ…いずれ店で一緒になるでしょうけど」
「そうだね。君達はいつも一緒だね…仲がいい」
「はい…」
「はは…素直だね。テソン君は…君は氷を溶かすことができたわけか…」
このときの顔は最初に見せたジホの顔ではなかった…
ジホは意味ありげに僕にそう言ったあと闇夜に向かって言った
「不明なことがあれば連絡を入れるかもしれないから」
「はい…」
「ん…じゃ…」
ジホはカメラを抱え会場内へ入っていった
後ろにいたちぇみてすが僕を突っついた…
「テソンさん…顔…おんなじ…」
「新しいメンバーか?」
「ぅん…映画監督なんだ…」
「闇夜がスカウトしたのか?店に入るのか?」
「ん〜まぁ…必然的にそうなるから…」
「なんだか穏やかじゃないような感じだが…」
「ふっ…ある意味ね…」
闇夜は会話を聞いてたが何も言わす僕の腰に手をまわした
2階踊り場には白夜の連中がかたまっていた
ピョートルは僕らに合図をしたのと同時に僕らは白夜と合流するためその場を離れた
祭の合間 れいんさん
いよいよ祭が始まった
華やかに…賑やかに…
大勢の人・人…時折湧き起こる歓声や笑い声
きらびやなパフォーマンスの数々…
ずっとジュンホ君の隣にいた僕は、少しだけ外の空気を吸いたくなった
会場の熱気で少しのぼせてしまったようだ
ホテルの中庭に出た。頬に当たる風が心地よい
少し歩くと、池のほとりに座り込んでる人影…
…テジンさんだ
そういえば、祭の前にミンチョルさんから、部屋はテジンさんの部屋を一緒に使うように言われていた
僕の荷物はジュンホ君の部屋に預けたまま…
僕は声をかけようと、二・三歩近づき息を呑んだ
テジンさんは池を見つめながら、背を向けて座っていた
寂しげな背中…誰かを求めているようで、誰をも拒絶するような…
横顔がちらりと見えた
片手で口を覆い、顔を歪めながら、声にならない嗚咽を洩らしている
僕は引き返そうか迷ったが、大きく息を吸い込み思い切って声をかけた
「…テジンさん…」
苦しげな横顔をすっと消え、彼が振り返った
「テジンさん…僕スハと言います。しばらく同じ部屋を使うようにと…」
「ああ…。スハ…だったね。チーフからは聞いているよ」
「どうしましたか?そこに何か落し物でも?」
「え…?いや…」
何かまずい事でも聞いてしまったのか…
「…僕も出番まで少し部屋に戻ろうと思っていたところだ。さあ、君の荷物を持って行こう」
僕らは、肩を並べて歩き始めた
近づき過ぎない程度の距離をおいて
部屋に着くのにそう時間はかからなかった
部屋の片隅には、作りかけの椅子やら、アクセサリーが無造作に置いてあった
「荷物はそこに置いて。そっちのベッドは君が使って。…出番まで少し時間がある。…そこに掛けて。何か飲む?」
言われた通りに腰掛けた僕の前に、程なくお茶が用意された
「おいしいですね。これ、何というお茶ですか?」
「これはね、チャイって言うんだ。口にあった?作る人によって味もそれぞれ、飲む人の好みもそれぞれ…。五分以内に手早く作るのがコツ」
「すごく手際がいいんですね」
「僕は料理もひととおりやるし、家具やアクセサリーなんかも作るんだ」
さっきの中庭での苦しげな彼とにこやかで器用な彼…
どちらが本当の彼なのだろう…
ふいにけたたましく電話のベルが鳴った
「もしもし…ああ、わかった。行ってくるよ」
彼は簡単な返事をして受話器を置いた
「ごめん。スヒョンから、祭に急遽必要になった物の買出しを頼まれた。…疲れてないなら君も付き合う?」
「いいですよ。僕も少し気晴らしがしたいですから」
少しぬるくなったチャイを飲み干してから僕等は部屋を出た
ホテルの車を拝借して、彼はすばやく運転席に滑り込んだ
「チーフもスヒョンも忙しいみたいで…。僕が行った方が早い」
なるほど、彼は車の運転もなかなか手慣れている
そして結構スピードを出す
頼まれた品物はすぐに揃った
「出番までもう少し時間があるな。ちょっとだけ寄り道していこう。…すぐそこに確か海があったけ」
ミソチョルの涙 ぴかろん
僕はミソチョルでしゅ
僕、明るいところに出てきました
ミンチョルさんが僕を必要としたからでしょうか…
ううん、違うの
僕はただの弾みで出てきたのでしゅ
今朝、ミンチョルさんとミン君は、とっても険悪なムードでした
ミン君はミンチョルさんの首を絞めていました
ミンチョルさんの言葉には棘があって、ミン君の背中からその棘が突き出ているように思えました
何事か言い争ってその後、ミン君は乱暴にクローゼットを開けました
ミン君は自分の荷物をスーツケースに詰め始めました
いつもの家出じゃないみたいでしゅ
だってとっても乱暴で、とっても怒ってて、とっても悔しそうな顔だったからでしゅ
ううん、もっと…なんていうのか…哀しそうだったんでしゅ
ミン君の乱暴な行動のせいで、僕の入っていたスーツケースはゴトンと床に倒れました
その弾みに僕は床に転がり出たのでしゅ
今までは耳で聞いて想像してたんだけど、実際に見たミン君の表情は、とっても…苦しそうでした…
それを見ただけで僕は涙が出ました
そしてミン君は物凄い勢いでドアを閉めて出て行きました
ミンチョルさんは、やっと椅子に座り、それからベッドに身を投げ出して、誰かと電話していました
電話を切ってから(耳切りもできませんでした。だって「パンッ」て音がしなかったもの…)ミンチョルさんは泣いていました
こんな哀しそうな泣き声は初めて聞きました
僕は胸が締め付けられるようでした
ミンチョルさん…どうして?
暫く泣いてから、ミンチョルさんはスクッと立ち上がり、時計を見ました
そして散らばったスーツケースを見て、それから僕を見つけました
ミンチョルさんは僕を見てまた泣きました
泣きながら僕を拾い上げて僕を抱きしめました
僕が抱きしめてあげたいのに僕の腕は短すぎてそれができません
ただ一緒に泣いてあげることしかできません
ミンチョルさんは、僕の顔をみて、鼻をチョンと触り、笑顔を作ってこう言いました
「馬鹿だな、お前が泣くことないだろ?」
それからまた顔をくしゃくしゃにして泣いていました
ミンチョルさん…ミンチョルさん…
僕はどうすればいいのでしゅか?
僕にできることは何でしゅか?
僕、口が聞けたらいいのに…
そしたらみんな、ミン君に伝えてあげられるのに…
ミンチョルさん、僕はあなたに幸せになってもらいたいんだよ
それだけが僕の願いなんだよ…ぐしゅん…
僕の目が濡れてるのはミンチョルさんの涙のせいじゃないよ
これ、僕の涙なんだよ、ミンチョルさん…
イナの想い ぴかろん
オープニングのときのテジュンはすっごくカッコワリくて可愛かった
すぐに騙されてやんの…
あの後俺をつねってきた
だから、こっそりキスしてやった
んで
「ごめん…でもかわいかったよ」
ってひらがな喋りに上目遣いでもう機嫌なおったからな…
ほんっとチョロい
そのまま舞台を見てたらソクが変なかっこで出てきた
かっこわりい…
「鬼はうち、福はそと」
ってやっぱりセリフ間違えてんの…
テジュンにそう言ったらギロっと俺を睨んで
「見なくていい」
ってさ
「見たいもん、テジュンもあの衣装借りて着てみてよ」
「なんで!」
「あのかっこのテジュンと…」
そこで言葉を止めて、耳に唇をくっつけて
やりたい
って言ってやった…
大サービス
テジュンの目の色が変わったけど
「あれ着たら俺が攻めね」
と言ったらまたプンスカむくれた
テジュンをからかうのは楽しい
しかしだ…そんなことよりミンチョルとミンだよ…
ミンチョルは舞台に集中している
しているように見える
しきりと口元に手をやっている
サングラスの下の瞳はきっとガラスだろうな…
ミンの方はいつの間にかいなくなってる
いや、兄貴だけがいた
一見涼やかに見えるその笑顔は、よく見ると…凄まじいほど哀しいんだ…
ミンの兄貴を俺は憎めない…
怖ろしいけど…哀しくなる、あいつを見ていると…
あいつのミンへの気持ちは愛なのか?
ミンを愛してるのか?
違うだろ?
あんたが愛してるのは
自分なんだろ?
ふっとそう思った時、テジュンが俺の手を握り締めた
「何?」
何もいわない優しい瞳
お前…もしかして何もかも知ってるの?
「あの衣装借りてこいよ…絶対俺が攻めだかんな!」
「お断り致します」
「なんでさっ!」
「あなたに『攻め』は無理かと存じます」
「なにふざけてんだよっ!」
「ふざけてなどおりません」
「なんで無理さ!」
「お前感じやすいもん…ちょっとつついただけでヘナヘナになっちゃうもん」
「そっ…そんな事ないもんっ」
「じゃ、ここで証明しようか?ん?」
ずるい!『ん?』攻撃だっ
あっ…髪…ちゅかむにゃヘロヘロ…あへん…
らめらっ…人にみられましゅ…へへん…
「なっ、これだけでお前ドロドロだもん」
「…ん…」
「何甘えてんの、こんな会場でこれ以上の事できるわけないでしょ?!」
「…ひいん…」
俺はおねだり顔でテジュンの腕を左右にブンブン振っていた
「しょうがないなぁ…ちゅ」
物足りないキスだけどまあいい
俺は微笑んでもう一度会場を見回した
ミンの兄貴と目が合った
ミンの兄貴は口の端を片方だけ上げて俺たちを馬鹿にしたように微笑んだ
そんな顔を見ても
俺はヤツを憎く思えなかった…
白夜パフォーマンス▼お支度中…▲ 妄想省家政婦mayoさん
闇夜とちぇみてすは白夜チームと合流し
舞台近くのちょっとした控えの間でパフォーマンスの準備に入った
僕は出番がまだ先なので闇夜について行った
当初リマリオダンスの予定だったヨンジュン・チンソクはサンバボーイズA・Bにまわり
振付のマジ先生もサンバボーイズに加わることになった
曲の流れと踊りの流れも
♪ズンチャ!ズンチャ!でリマリオダンス〜
♪サンバの前奏〜♪サンバの1番〜リマリオダンス〜♪サンバ間奏〜♪サンバ2番
2番のサビ後半はリマリオの扮装のままピョートルとリマリオもサンバを踊ることになる
サンバの1番キングはユリキム親父、2番キングのちぇみは変更なしのようだ...
ラストにちょっとした趣向があるらしい。ちぇみてすが考えたらしいが...
2人で部屋でドタンバタンと毎日練習をしていたらしい^^;...
「テス、何するんだ?」
「えへっ^^; 内緒だよ、テソンさん。ね、ちぇみぃ〜^o^ 」
「ん〜テスぅ〜^_^ 」
「mayoシ...何だと思う?」
「んー...たぶん....ごにょごにょ...」
「うっそぉー...ありえない!」
「そうかなぁ...ね、ね、テスさん..ごにょごにょ...でしょぉ〜」
「へへっ^^;...ちょっと近い...」
「嘘だろぉーテス....」
マジ先生がまだ来てなくて結局サンバの着物も着付けは闇夜が手伝っていた
「ヨンジュンさん、逆ですっ!チンソクさんそんなにカッチリ着ちゃだめですぅ...」
「だってぇ...わかんないよぉ」
「むずかしいーよぉ...」
「もぉ〜じゃ、前に来て下さい...」
「「はいはい...そらっ!」」
「あ、あ、あふっ...(>_<)...」
ヨンジュンとチンソクは闇夜の前で着物の前をわざとはだけてみせた..
ペッチン#ペッチン#
「「痛っ...痛いっ(>_<)(>o<).」」
僕はヨンジュン、チンソクのデコペチン#をくらわした。ったく....
ちぇみはテスといちゃいちゃしながら着付けをしていた..
「闇夜、帯はこれでいいな...」
「さすが...年の功...痛っ!..(>_<)...」
ちぇみが闇夜のデコにペチン#をくらわした...
僕は闇夜のデコをナデナデ....^_^..デコxxx衝動を抑える...^^;
ちぇみは懐手で顎を撫でひとりでムフフと笑っている...
「ちぇみぃ〜〜かっくいぃ〜^o^##」
「ん.....」
「^^;; ^^;;」(僕と闇夜...)
ユリキム親父の悲痛な雄叫び...ピョートルの小言が聞こえた....
「まよぴーぃぃ〜」
「もぉー父さん!だから食べ過ぎだって言ったのに...」
「どうしたの?」
「父さん、ちょっと着物がきつい...どうする?まよぴー...」
「ん......アッパー...着物脱いで。ピョートル、お願い...」
「お、わかった...」
「お、お、何するんじゃ...ひ〜ん!」
ユリキムの親父は皆に着物を脱がされた..お付きがガウンを着せる...
闇夜は両方の袖口の下から着物をビリビリとほどいた...
針と糸を持ち出し、僕に着物の端を持たせ..器用な手つきで縫い始めた....
両方の幅を少し出してからまたユリキム親父に着せた...
少しは余裕が出た様子...
「お、お、まよぴー、さすがじゃっ^o^」ハグッ##
僕はこの親父にスパコォーン#3連発したい気分だよ。まったく
そんなこんなしている内にマジ先生=シゲッキーがやってきた
シゲッキーはテンション最高超〜であった..
「さぁ!!準備OKかしらんっ♪♪シゲッキーもごきげんよ!
右、左腰ふりのあと、はぅっ#よ、はぅっ#これ大事!忘れないでっ♪
サンバボーイAは大股スキップぅ〜...いい?チンソク、足を見せるのよっ!
ボーイBはお手々優雅にね、ヨンジュぅーン^o^〜(ヨンジュンの手、ナデナデ...)」
「みなさぁ〜ん!腰ふりふりのスココンコーン〜〜♪
お口で♪んぱ、んぱ、んぱ♪とリズムをとるのよっ!お茶目に色っぽく!いいっ?!」
ゴージャス♪パワフル♪ハッピ♪ VIVAサンバ・ミラクルサンバよっ!おっけー??!!!」
「「「「「ぉっけー!!!!」」」」」
僕と闇夜は圧倒されていた...^^; ^^;
手放す理由 あしばんさん
僕は人通りのない中庭に通じる狭い通路にギョンビンを連れ出した
振り向くとギョンビンは蝋人形のような顔をしていた
「また嘘でしょ、ボタンはずしの練習なんて」
「ばれちゃった?」
ギョンビンはうつろな目で僕を見て小さく笑った
今まで掴んでいたギョンビンのジャケットにはコーヒーのしみがあった
今朝ミンチョルさんとの間に何かひどいことが起きてしまった
そう確信した
「なにがあったか聞いたら答えてくれる?」
「…」
「無理だよね?じゃちょっと抱きしめさせて」
「え?」
驚くギョンビンを無視して僕は彼をいきなり抱きしめた
いつもの彼ならとっくに僕の腕など捻り上げられていただろうな
でも今のギョンビンにはそんな力も気力もない
ギョンビンの叫びが心に流れ込む
絡まった無数の針金に締めつけられ、ギョンビンの心臓がキリキリと音をたてている
ミンチョルさんの鋭い刃が彼を斬りつける
怒りに包まれた落胆と恥ずかしさと哀しみと…
違う…そんなものはうわべだけだ…
「力を抜いてごらん…何も言わなくていいから…」
顔を覗き込むと、耐えに耐えていたギョンビンの目に涙が溢れ出た
僕にそっくりのその顔が歪む
口元の小さな傷痕が震えている
ギョンビンは僕にしがみつき僕の肩に顔を埋めると声をたてて泣き出した
突如吹き出すミンチョルさんへの想い
ミンチョルさん、ミンチョルさん、ミンチョルさんっ!
ギョンビンの悲鳴は僕の頭の中で乱反射する
僕はその洪水のようなミンチョルさんへの想いを受け止めきれずふらついた
僕の背中は壁にぶつかった
泣き続ける彼をさらに力をこめて抱きしめた
「どうしよう…ドンジュン…どうしよう…」
「ギョンビン…」
「ミンチョルさんと会えなくなる…どうやって生きていったらいい?」
「…」
「ドンジュン…どうしたらいい…」
震えるギョンビンの髪に顔を埋めて僕も泣いていた
憔悴しているギョンビンを抱きながら怒りのような気持が湧いた
ギョンビンをこんなに哀しませてまでミンチョルさんが手放す理由
スヒョンが夕べしぶしぶ話してくれた
ーギョンビンの将来を思っての悲痛な決断
将来を思って?
こんなに求め合っているのに?
本当にそんなことが大事なの?
弟思いの兄貴が忠告したから?
兄貴?
僕の思考がその時止まった
あのミンの兄貴の目を思い出したから
なんだろうこの妙な感じは
「ドンジュン…ありがとう…祭はちゃんとやり遂げるから」
「でも…」
「兄さんにも言われた…最後までやれって。ふたりで辛さを乗り越えようって…」
その時突然、頭の奥にぴりぴりと何かが走った
ギョンビンの言葉を思い出したんだ
『僕の幸せは…兄の幸せではないんです』
『僕が離れようとすればするほど兄は締めつけようとするんだ』
また心拍数があがる
なにか変だ
なにかがおかしい
僕は涙でぐずぐずになっているギョンビンの顔をあげさせた
「ね、ギョンビン、君の兄貴…」
「おっと!こんなところにいた!」
ギョンビンの兄貴が突然背後の壁の向こうから現れた
「あんまり帰って来ないから心配したよ」
「兄さん…もう戻るところだよ」
「なんだその顔は…ショーの練習にしちゃハードだな」
「ギョンビンったら祭終わったら帰っちゃうなんて急に言いだすんだもん、僕ら泣いちゃってさ」
咄嗟にしてはよくできたセリフだった
一瞬僕に冷たい視線を投げた兄貴だが、ギョンビンに顔を向け優しく言った
「友達にはいつでも会いに来られるよ」
そう言った兄貴の目に迷惑そうなひかりが走ったのを見逃さなかった
弟をエスコートするその後ろ姿を見ながら
ギョンビンから目を離しちゃいけないと、その時なぜかそう思っていた
横取り オリーさん
「兄さん、やっと見つけた」
「ソンジェ、何か用か?」
「ここにサインして」
「何だ、これ」
「見ればわかるでしょ、離婚届だよ」
「離婚届?誰の?」
「やだな、兄さんとヨンスさんだよ」
「何でお前が?」
「ヨンスさんの代わりだよ。早くサインして」
「慰謝料とか決めなくていいのか」
「いいよ。兄さんどうせお金ないでしょ」
「……」
「後は僕がやるから」
「ヨンスは了解してるのか」
「いいに決まってる。僕らのことは心配しないで」
「わかった」
「そう、左の欄ね」
サラサラサラ
「これでいいか」
「うわっ、一回で書いてくれたね。兄さん上手だね」
「僕は達筆だ。知らなかったのか」
「全然」
「まあいい。じゃ僕はこれで」
「僕の歌聞いてくれた?」
「なかなか良かったよ」
「さくらもヒットしてるんだ」
「もう少し声量があるといいな。サンヒョク君は声がいい」
「声は僕の方がいいよ。それにルックスもね」
「……」
「それより兄さんなんでサングラスしてるの」
「ファッションだ」
「ふうん。暗くない?」
「気にしないでくれ。じゃ」
「室長!」
「ヨンス…」
「ヨンスさん!ちょうどよかった。今…」
「やあ、こんちは!」
「何でお前がヨンスさんと腕組んでるの?」
「あら…いやだわ。つい…」
「いいじゃない、ヨンスさん。うふっ」
「ソンジュ君、元気そうだね。ヨンスと仲良し?」
「そうなんです、ミンチョルさん」
「ヨンスさん、何で?」
「合コンですっかり意気投合しちゃって」
「意気投合だなんて、ソンジュさんったら…」
「ミンチョルさん、離婚するんでしょ」
「まあ、そういう話になってるけど」
「僕、後引き受けますから。心配しないでね」
「ちょっと待ってよ、どういうこと!お前チョンソが見つかったって言ったろう!」
「そうなんだ。見つかったんだ。でもね、でもね…クスン…」
「ダメよ、ソンジェさん、チョンソさんのお話しちゃ」
「いいんだ、ヨンスさん。実はチョンソはね病気だったんだよ。それで…」
「ほら、泣かないで。ソンジュさん」
「チョンソさんが病気?」
「そうなんです、ミンチョルさん。見つかったと思ったら病気で、僕が祭りに来てる間に…クスン…」
「「祭に来てる間に?」」
「死んじゃったんだよ…ええええん」
「二人ともチョンソさんの話は聞かないで。彼今とても辛いのよ」
「ソンジュ君、それはお気の毒に」
「いいんです、ミンチョルさん。ヨンスさんに会えたから…」
「何でそれがヨンスさんと関係あるんだっ!!!」
「ソンジェ、落ち着け」
「私がそっくりだから、とても慰められるってソンジュさんおっしゃるの…」
「そうなんです!しかも離婚するっていうじゃないですか!ミンチョルさん、ありがとう!」
「いや、そんな…」
「ソンジュさんのお話聞いてたら、お気の毒で。私本能がうずいちゃって…」
「ヨンスさん、優しくて僕もう涙出ちゃう。だからミンチョルさん、早く離婚してあげて」
「今サインしたとこだが…」
「サイン?」
「ソンジェの持ってる離婚届に」
「室長!」
「いや、ヨンスも了解してるっていうから」
「何て手回しがいいんだ、さすがだ!」
「ヨンス、いいのか?」
「今のソンジュさんは室長よりお気の毒…あら?ちょっと待って…」
「何見てるんだ、ヨンス」
「室長、また閉じこもり?」
「……」
「どっちがかわいそうかしら」
「僕のことはいいから」
「ヨンスさん、僕に決まってるでしょ。僕の涙拭いてよ」
「しょうがない人ね。はい、これでいい?」
「うん、ありがとう。あ、ソンジェ君その紙僕が預かるよ」
「この離婚届はお前のためじゃないんだぞ!」
「いいから。これで僕とヨンスさん、新しい生活をスタートできる」
「ヨンスさん、ひどいよ!せっかく兄さんが素直にサインしてくれたと思ったら、こんな…」
「ソンジェさん、私筆頭株主でなくていいのよ」
「全然大丈夫。僕んとこ財閥だから」
「そ、そんな…」
「祭が終わったら、チョンソとの思い出の場所めぐりに出かけるんだ。最初はメリーゴーラウンドでシンデレラだよ」
「楽しそうね」
「全部貸しきりだよ」
「素敵!」
「じゃ行こうか。祭も見物しないとね」
「ええ」
「じゃそういうことで失礼します」
「ヨンスさん…待ってよ!」
「ソンジェ、やめとけ」
「だって兄さん、信じられない。こんな事信じられないよ」
「前から思ってたんだが、お前にヨンスは合わない。お互い波長が違いすぎる」
「それは兄さんだって同じだろ!」
「まあ、そうかもしれない」
「兄さん!ひどいよ!こんなことって!」
「お前は今社長だし、歌も上手い…かもしれないし、料理も司会もできる。そのうちきっと良い事がある」
「兄さんが簡単にサインなんかするからだよ!どうしてくれるの!?」
「お前がしろって言ったんじゃないか」
「悪夢だ。よりによってあんな奴に。まだ兄さんの方がましだった」
「どういう意味だ」
「ごめん、つい。ええん、でも、ええん」
「泣くのはやめろ。目じりが下がる」
「もうどうでもいいよ…ええん」
「僕はもう行かなくちゃ。ソンジェ、あまり泣くなよ」
「えええん、またね、兄さん」
「いいか、あまり気を落とすなよ」
「わかった…えええん」
「だから目じりが下がるって」
「ええええん」
『ソンジェ、今日はお互い厄日だな…』