僕たちのかたち  足バンさん

スヒョンにアクマって叫んだあと、
僕はなんだか力が抜けてスヒョンが座っていた椅子に腰を下ろしてしまった

白いテーブルたちを囲む木々は小さな音楽のように揺れている
ホテルの喧噪が届かない優しいひだまり
なのに僕の心臓はまだ大きな音をたてている

スヒョンに手厳しい冗談を言われたからじゃない

僕は想像してしまった
もしスヒョンがいなくなったらって…
胸に「終わり」っていう言葉が突きささった

こうして毎日一緒にいられることが当たり前になってた自分
終わりってことがあり得るんだと思ったら…急に怖くなった

「ドンジュン…」

顔を上げるとテジンさんが立っていた

「ひどい顔だなぁ」
「…テジンさん…手、どうしたの?」
「ちょっと不注意」
「大丈夫なの?」
「うん…スヒョンさんが手当てしてくれた」
「そぅ…」

テジンさんは隣の椅子に腰掛けた
テジンさんとこんな風にふたりきりになるのは初めてのことかもしれない

「さっきスヒョンさん怒ってたの?」
「全然。笑ってたよ…いじめられちゃった…スヒョンったら…」
「ドンジュン」
「ん?」
「…僕はね、さっきずっとスヒョンさんを見てたんだ」
「え?」
「ここに座る前のスヒョンさんどんなだったかわかる?」
「…」
「君たちを見ててね、あのガラスのドアをなかなか開けられずにいたんだよ」
「…」
「それでね、目を閉じて…大きく息を吸ってやっとドアを開けた」
「…」
「わかる?僕が言いたいこと」

僕はスヒョンの何事もなかったような笑顔を思い出して…鼓動が早まった

「スヒョンさん言ってた…人のことはわかるけど自分のことはうまくできないって」
「…」
「きっと君のことが本当に好きなんだよ」
「…」
「だからとても一生懸命考えてる」
「…」
「大事にしなくちゃだめだよ?」
「ん…」
「なくしたら…もう戻って来ないものってあるんだよ」
「テジンさん…」

僕はテジンさんの目を見た
テジンさんをこんなにゆっくりと見たのは初めてだった
優しく静かで…強い意思とそして哀しみをたたえた瞳…

「テジンさん…テジンさんは今幸せじゃないの?」

テジンさんは空を見上げてそしてゆっくりと僕を見た

「幸せだよ…いつも大切な人が僕の中にいるから」

なんて遠くを見ているんだろう…
なんて哀しく穏やかなんだろう…
僕の目からぽろりと涙がこぼれた

「なに泣いてるんだよ…泣き虫って噂は本当だな」
「うん」
「悪かったな…余計なこと言いにきちゃって」
「うぅん…テジンさんって優しいんだね」
「優しくなんかないよ」
「でもテジンさんの作る物って愛が溢れてるよ」
「…」
「なに?」
「いや…ふふ…さっきスヒョンさんにも同じこと言われた」
「…」
「君たちって似てるんだね」

「ねぇドンジュン…やはり君たちにもペンダント作りたいな…スヒョンさんはうんと言わなかったけど」
「言わなかったの?」
「うん…君をそれで縛りたくないんじゃないかな」
「スヒョンらしい…」

「どんな形がいい?」

僕は目を閉じてスヒョンを想い描いた
そしてテジンさんにたったひとことだけ注文した

「それでいいの?」
「うん…それがいい」

テジンさんは少し考えて…にっこり笑ってくれた

「わかった。じゃすぐに取りかかろうかな」

テジンさんは僕の頭をくしゃくしゃと撫でて立ち上がり、ゆっくりとホテルに向かった

僕はその後ろ姿にさっきのスヒョンを重ね得合わせていた
先ほどまでの不安はなぜかずいぶん小さなものになっていた
大きく息を吸ってドアを開けたの?スヒョン…

たくさんの新しい芽を抱いた木々たちがそよ風にゆれる
僕はギョンビンの兄貴のキスの味など…もう忘れかけていたかもしれない


じかんのけいか   ぴかろん

もうのーとにけんきゅうをかいてしまったのでひまです
まつりはあすです
「いよいよあすだな」ということばを、ぼくはさいてい63かいはきいたとおもいます
「まつりまであとみっか」ときいてから、ぼくは、はてしないときをすごしたようにおもいます
ぼくはあまりにもひまだったので、つまとこどもたちと、さんみんせんせいと、おとうさんとおかあさんにてがみをかきました
それからしゃどーぼくしんぐのれんしゅうもすこししました
それからまいにちさんぽもしています
いろいろなものをかんさつしています
いろいろなひとが、なやんでいたり、よろこんでいたり、きすをしていたり、あなにおちたり、いそがしそうです
いま、いちばんうれしそうなかおをしているのは、ちにさんです
そのつぎがちょんまんさんかな?
らぶくんはふつうです
ほかのひとたちは、なにかしらなやみごとがあるようで、ときどきふっととおくをながめています
ぼくは、そういうひとをみかけると、そのひとのみているほうをながめてみます
たいていそらをみています
それかじめんをみています
そしてだいたいのひとは、なみだをながしています
だから『ああ、なやんでいるのかな?』とわかります

でもときどき、そらをみつめたり、じめんをみつめたりしながら、にやにやしているひともいます
いなさんです
あるきながらにやにやするひともいます
いなさんです
みんちょるさんが、いなさんのことを『ぶあか』といっていました
ぎょんびんさんも『ほんとうにぶあかですね』といっていました
すひょんさんなどは、いなさんがにやにやしていると、よこめでじろりとみて、『はあっ!』とこわいためいきをつきます
いなさんはちょっとういているとおもいます
てじゅんさんにそういってみたら
『もういいんだ…』
とわらいました
てじゅんさんは『さとりをひらいた』といいました
なんのさとりなのかわかりませんが、てじゅんさんはおとななのだなとおもいました

それにしてもあすがまだきません
もうさんしゅうかんぐらいたったようなきがするのに、まだゆうがたにもなりません
じかんのながれかたがゆがんでいるのかな?
ぼくのあたまのなかのくもが、そんなふうにかんじさせるのかな?
それともおんなぷろもーたーのいんぼうなのかな?

ぼくがたのしみにしているのは、びゃくやくらぶのまつけんさんばです
すごいひとたちがおどるとききました
でらるすのひとたちも、そらをとぶとききました
しっかりかんさつして、つまやこどもたちやさんみんせんせいやおとうさんやおかあさんに
ぜんぶはなしてあげたいので、はやくあすになってほしいとおもいます

でも…

あすになったらなったで、『あすというまつりのひ』がまたさんしゅうかんぐらいつづくのかもしれない…

というきょうふがぼくをおそいます
ぼくはいつ、つまにあえるのかな…


妄想番外編 真島先生の巻 れいんさん

真島「はい、みなさん 私マツケンサンバの振り付け担当してます真島と申します
   マツケンさんには、マジって呼ばれてます。ヨロシクね。今回はみなさんにマツケンサンバの振り付け指導にやって参りました
   じゃ、みなさん、恥ずかしがらずにやってみましょう。 ハイ音楽スタート」
  
真島「はい、そうそう 腰のキレいいですね
   そちらのきらびやかなお三方…
   デラルスの皆さんすばらしい!よほどレッスンしてらっしゃると見えます。私の指導は必要ありませんね」

真島「はい、今度はそちらのメガネとマフラーの方…ただニコニコしてるだけではダメですよ。ちゃんと体使って!」
 
真島「あ、あなたいい体してらっしゃいますね。王子様スタイルも似合ってらっしゃる。リズム感もいいですよ
   はい、そこでキックトントン…スパニッシュ!OK!ゴージャス!」

真島「次はそちらの白夜倶楽部の方…ステップが軽やかでいいですね。
   そのちょっと地味なお顔立ちマツケンメイクが晴れますね。お名前は?…ヨンジュンさんですね」

真島「今度はそちらの男組の方、あなたは十分お顔濃いですので、ノーメイクで結構ですよ。…あ、ちょっと涙目…」

真島「次はBHCの方々…あっ、テプンさんいいですよ〜。そうそう、この踊りははじけなければいけません。あなた一番筋がいいですね
   それに比べてチーフさんは体硬くて、リズム感ないですね〜」

  そして、その異様なレッスンは数時間つづいたのであった…


策略  ぴかろん

男はキャップを目深に被って、スタッフルームに通ずる廊下の端のソファに座っていた
左足にちらりと見えるのは湿布薬のようだ
チェックのシャツの胸ポケットに青い万年筆を挿し、三つほどボタンの開けられたシャツの胸元からペンダントを取り出してそのヘッドを弄ぶ

男は寝そべるかのように背をソファの背もたれにつけ、脚を廊下の前方に投げ出している

ふてくされたようにみえるその姿
何度も大きくため息をつく

スタッフルームのドアが開いた
男はピクリと動き、そこから出てくる人物を注視した

ハン・テジュン総支配人…

その人物を確認して、唾を飲む
近づいてくる総支配人
男は深く俯いた
きっと声をかけるはず…
そのときが勝負だ…

「どうしたの?」

思ったとおり声をかけてきた
問題は、この次だ
へたに声を出さない方がいい
男は何も答えずにいた

「足、痛む?」

少しだけ頷く

「どれ…」

総支配人が跪いて男の左足の湿布に触れる
瞬間ビクッと反応する男
いけない…冷静に事を運ばなくては…

「そんなに痛むの?」

顔を覗き込もうとする総支配人
ここが勝負だ…
男はもう一度唾を飲み込み、震えだしそうな体に、『落ち着け』と命令を下す
総支配人の目が男の顔を見る
男の視界にその笑顔が映る

「怖い顔して…なんかあったの?」
「ううん…」

掠れた声で答え、首を横に振る
総支配人は、黙って立ち上がり、暫く男を見つめ、それからおもむろに男の隣に腰を降ろした
そして男の頬を片手で撫で、自分の方を向かせた
男はその動きに自然に合わせた
総支配人の顔と向き合う形になる
だが男の目線は総支配人の顔から外されている
総支配人は男の顔を引き寄せ、自分の唇を男の唇に近づけた

多分…成功だ…
男は目を閉じた
次の瞬間、男の唇は総支配人の唇に塞がれる

はずだった…

総支配人は、男が弄んでいたペンダントトップを引っ張り、男のポケットから青い万年筆を取り上げた
男は目を見開く

「どこで拾ったんだ、スヒョク君」

強張った体と、激しく打つ心臓、浅く早い呼吸
キィンという音が、頭の中で聞こえる
涙が溢れそうになる

「これは返してね…イナのものだ」
「…」
「どこにあったの?」
「…中庭の…穴の横に…」
「…ふたつとも?」
「万年筆は…ソクさんの部屋から出てきたイナさんが…落としていきました」
「!」
「…」
「それは解った。でも…どうして君はイナのふりしてるの?…イナがソクにちょっかいかけてるの、気に入らないから?」
「…」
「言い方が悪かったかな…でもそういうことだろ?」
「…イナさんが浮気してるんだ…貴方だってしても構わないでしょう?…」
「…スヒョク君…」
「テジュンさん…イナさんの前で…僕にキスしてみませんか?」
「スヒョク君…」


スタッフルームから廊下に出た時、ソファにやさぐれて座っている男を見つけた
帽子を目深に被り、何かを触っている
近づくと足に湿布してある

でもイナじゃない事はすぐに解った
では誰だろう…
近づくにつれ、その男の体が緊張しているのが解った
イナを装うこの男
弄んでいるのはイナが身につけているはずのうるとらまんたろう…
胸のポケットに挿された万年筆
イナの持ち物を仕込み、イナの座り方を真似て、多分僕が出てくるのを待っていたのであろうこの男
一体なにがしたい?
なぜイナのものを持っているのか?

僕はその稚拙な擬態に騙されたふりをして男をさぐった

しゃがみこんで湿布に触れた時、男の顔を見つめた
スヒョク君だとすぐに解った

どうして彼がこんな事を?

そのまま騙されたふりをしてイナにするように顔をこちらに向け、唇を寄せた
スヒョク君は震えながら堅く目を閉じた
体が小刻みに震えている
震えながらなぜこんな事を?
しかも僕の口付けを受けようとしている…

僕はイナのペンダントトップと万年筆を握ると強くそれを引いた

「どこで拾ったの?」

それから一つずつ、絡んだ糸を解していく
ペンダントトップは落とし穴の近くで見つけたらしい
助けられた時に、何かの拍子で鎖から外れたのだろう
C管のつなぎ目が開いていた
あの野郎、あっちこっちで派手にいろいろやらかすからだ!

しかし、万年筆は…
『ソクの部屋から出てきたイナが落とした』
だと?
ソクの部屋?なぜイナが…
あとで締め上げてやる!

それよりも今はスヒョク君だ
なにがしたかったのか…

「イナさんの前で僕とキスしてみませんか?」

スヒョク君は震えている
声が上ずっている
今にも涙が溢れそうだ

「それは…イナを苦しめるためかい?」

スヒョク君は答えなかった

「だったらそれはできないな。僕はイナを苦しめたくないから」
「どうして貴方は…イナさんをそんなに…。貴方はイナさんに裏切られてるじゃないか!イナさんは悪いなんて思ってないじゃないか!
ソクさんを見かけたらソクさんにフラフラついていって…あんな…あんな奴をどうして…」
「スヒョク君…ソクを取られると思ってるの?」
「…ソクさんは…僕のものじゃないです…」
「自由なイナに腹が立つの?」
「あ…貴方は腹が立たないんですか?」
「…立つよ…でも、しょうがないじゃん。止めたって無駄なんだから…人の気持ちは他人には変えられない。本人が決心しなきゃさ…」
「…イナさんを愛してるから?」
「うん」
「偽善者!」

スヒョク君は、立ち上がった
そして僕を睨みつけた

「偽善者?そうなのかな?…僕はただ、諦めただけなんだよ、スヒョク君…」
「…あき…らめた?」
「何度も怒ったさ。何度泣かされたかわかりゃしない…。その度にイナは本気で謝る。僕に愛を告げる
僕らは愛を確かめ合って、もうこれで揺ぎ無いと思う…。そしてまたアイツはソクに惹きつけられる…その繰り返し」
「…その度に…その度に貴方は傷ついて、その度にソクさんも傷つくのを知ってますか?諦めただなんて…
貴方が悠然としてるのをいい事にあいつは…あいつは貴方を裏切ってソクさんを求めに行ったんだぞ!何故許すんですか!
何故受け入れるんですか!裏切った男を何故…」
「裏切り?」
「そうです。貴方の愛を裏切ってるじゃないか!」
「…僕はそうは思わない」
「え…」
「イナの心は僕にあるから…それを信じてるから…」
「…信じてる?」
「はは…また『偽善者』よばわりする?」
「…ソクさんは…どうなるんですか…あの人は…イナさんを…」
「ソクの事は知らない…もう片はついたと思ってたけどね。中々簡単にはいかないんだ、人の心って…」
「…裏切っても信じてる?…貴方が信じてるのにあいつは裏切ってるんじゃないか…」
「スヒョク君?」
「信じてる人に裏切られるって事、ほんとに解ってますか?どんな気持ちになるか…解ってますか?」
「…スヒョク君…」
「…俺は…俺は…」
「落ち着いて…。イナに腹が立つからって、自分の身を僕に投げ出す事はないだろう?もっと自分を大切にしなきゃ…」
「!」

スヒョク君は、一筋の涙を流して見開いた目で僕を見つめた
その目に宿る光には、棘があった…
彼は静かに背を向けて、そのまま真っ直ぐ歩いて行った

すまない
僕は何一つ君の事を知らない
余計な事を言ってしまったのかもしれない…

それにしても…

ソクの部屋を訪れていたというイナ…
僕は力任せにソファの背を叩いた


#振付の神様  妄想省家政婦mayoさん

遅めの朝食の後いつもの様に闇夜が僕の薬湯を飲んでいた
ピョートルから電話があり、白夜に行く闇夜に付いていった

「お?まよぴー、おはよぉー」
「ん〜〜あっぱー〜おはようー」はぐっ##
「お、テソン君も来たか。最近はいつも一緒じゃな、うわっはっはっ」

ユリキム親父は闇夜を大層お気に入りで挨拶代わりにいつも軽くハグをする
大木にセミが止まったようなハグ光景。いつも僕はちょっと面白くない....
でもあの親父と張り合ってもしょうがない...
僕は親子のハグだといつも思うことにしている。ふんっ!
ハグの後闇夜はいつもユリキムの太鼓腹をぽんぽん叩く

「あっぱー、ちょっと食べ過ぎ。衣装破けちゃうよ?大丈夫?」
「ぅぅん...ピョートルにも毎日言われておる。なんとか大丈夫じゃ」
「そう...あ、あの人は...もしかして...呼んだの?あっぱー...」
「お、お、そうじゃそうじゃ。急遽来てもらったんじゃ。見ておいで」

僕らはピョートル達が集まっている方へ移動した
ちぇみテスの2人は僕らに気が付くと手を振った
白夜のメンバーはマツケンサンバに合わせてステップの練習をしている
ちぇみのステップは完璧だけど..テスは足がもつれていた…
その中にひときわ踊りの上手な、顔はあっさり系の人物がいた
♪んぱ、んぱ、んぱ♪……とリズムをとり..クイッ#・クイッ#と腰を動かし
両手を上に挙げた時の指先がとても綺麗だった

「mayoシ....誰?あの人...」
「ん?マツケンサンバの振付師、真島茂樹…」
「さすが上手いね...踊り...」
「ぷっ...プロだもの...」
「もしかして...そっち系?..喋りがちょっと...」
「ぷっ...ちょっとオネエキャラのときあるからね...」
「そうなの...」
「暴れん坊ミュージカルでオネエキャラやってから、癖になってるのかもよ..」
「ふぅぅ〜ん...」

僕らを見つけてピョートルが寄ってきた

「ピョートル、呼んだんだね...やっぱり...」
「親父がね...それに真島さん、ついでだから踊り伝授するってさ」
「誰に?」
「ん?今回の招待ホストに…」
「ぷっ...そう...」
「ホールで講習会するって」
「全員で踊ったら...すごいよな...」
「あ、テソンも踊る?」
「僕は踊らない。闇夜に笑われる...」
「わかる様な気がする....」
「おい!」
「はは...悪い悪い..」

闇夜は僕とピョートルの会話を聞いて笑っていた
それにだっ!..ピョートルの..あのお付きの彼も笑っていた。くそっ! 僕らは真島さんの蘊蓄をちょっと聞いていた

 「サンバボーイAは下手から上手に移動の時は大股スキップよ
  大股だから着物がはだける。ここがミソね。ちょっとやらしいの。ふふ
  サンバボーイBは手が命よ。指先綺麗に決めてね。ワタシの代わりなんだから
  Aは..アナタ、チッソクさん。あなたもミュージカルやってるんですって?
  スキップは得意のようね。足の運びが軽やかだわ
  Bはヨンジュンさんね。あら、あなた手が綺麗。指も長いわぁ...
  サンバボーイABはユリキングと蜘蛛キング のキング登場の時は
  片膝付いてお出迎えよ。いいわね。あなたたちも一緒に講習会に出てちょうだいね」

闇夜がピョートルから茶封筒を渡されて、僕らは白夜を出た

『テス....』
『何、ちぇみ...』
『1時間後にあいつら2人を呼び出せ』
『ぅん。わかった。』

テソンと闇夜はこのとき自分たちに何が起こるのか全く知らないでいた


動揺 2  オリーさん

僕とミンチョルはどのくらい突っ立っていたのだろう
ミンチョルは下を向いたまま僕と視線を合わせない
突然声をかけられた
「あれっ、ミンチョルさん、出て来れたんですか」
総支配人
ミンチョルはゆっくりと顔を上げた
いつものミンチョル
「テジュンさん。色々すみませんでした」
「あのイナは?」
「足が痛いみたいです。今ミンが手当てして見張ってますよ。心配いりません」
「そうですか。足が痛そうですか」
「あんまりあいつを甘やかさない方がいい。頭に乗るタイプだから」
テジュンさんは照れくさそうに笑った
「わかってるんですけど」
ここにも愛に捕まってる人がひとり
「打ち合わせ済ませてしまいましょう。スヒョンがやってくれたので大丈夫そうですが」
「そうですね」
「スヒョン、一緒にいてくれよ。今までのところ教えて欲しいんだ」
僕はミンチョルをつくづく眺めた
でもこんな時言葉とは裏腹に僕を見ない
その時僕の腕が揺れた
「スヒョン、見つけた!」
ドンジュンだ
くるくる動く無邪気な目で僕を見てる
「今すごくいい事があったんだ。だから僕すごくいい気分、幸せだよ」
「人前で恥ずかしいじゃないか。ばか!」
「照れないでよ。別にいいでしょ」
ミンチョルとテジュンさんは笑っている
「打ち合わせなんだ。悪いけどどこかで時間つぶしててくれ」
「いいよ。僕いい子で待ってる」
「それが当てにならないんだよ、お前の場合」
「ふん、信用ないなあ。でも信じてよ。いい子にしてるからさ」
僕達はいい子のドンジュンを置いてホールの中央に向かった

テジュンさんはさっさと打ち合わせを終えた
まあ、大体もうOKだからいいんだけど、それにしても…
イナの所へすっとんで行きたいっていうのがみえみえ
愛の力ってのはすごいもんだね
「じゃあ、明日はよろしくお願いします」
ミンチョルと僕に握手を求めるとテジュンさんはとっとと去って行った
行き先はもちろんイナの監禁場所

僕とミンチョルは残された
ミンチョルが口を開く
「さっきのことだけど、口外しないでもらいたい。特にミンには」
「なぜだよ。ギョンビンこそ知るべきだ。自分の身の振り方だ」
「ミンには僕が話す。それまで言わないでくれ」
「ひとつだけ言っておく。いいか、あの兄貴は元からお前を攻める気なんだ」
ミンチョルはまた下を向いた
「ギョンビンがお前のそばから離れないのは見えてる。だからわざとお前を落としにかかってるんだ。わかるよな
相手のペースに乗ることはない。大事なことを忘れるなよ」
ミンチョルは顔を上げて僕を見た
左の眉がぴくっと動く
「スヒョンの言いたい事はわかってるつもりだ」
ちょっと口を曲げて笑った
お前のそんな笑顔は見たくない
「じゃ、お疲れ様。明日はよろしく頼むよ」
「おい、ミンチョル…」
「ドンジュンが待ってるぞ」
そう言ってミンチョルはホールから出て行った
後姿がゆらゆら揺れているように見えたのは錯覚だろうか

また僕の腕が揺れた
ドンジュン…
僕はまとわりつくドンジュンを思いっきり抱きしめた
「どうしたの?スヒョン」
「僕から離れるなよ」
「何言ってるの、いやだっていってもまとわりついてやる」
僕は痛いよ、というドンジュンをいつまでも抱きしめていた


罪の償い(仮)  ぴかろん

ないないないとイナさんがうるさい
無いのはあなたの節操でしょ、と言ってみた
さっきまでならば、言い返してきたのに、今は真っ青の涙目だ
僕の言葉に今にも涙が零れ落ちそう
そして痛む足を引きずりながら、外に捜しに行こうとする
困った人だなぁ、もっと足が痛くなりますよ
僕が捜しに行きますから…待ってて
そう言うと、でも、でも…と頭を振る
穴の中だったらどーしよう…埋まってるよ、埋まってる、ねぇ、ミン、どーしよう…

動揺するイナさんは、確かに可愛い
こういうところが好きなのかな?テジュンさんは…

あっ…ソクの部屋のベッドの上だったらどーしよう…

え?ソクさんの部屋のベッド?!

うん…さっきの散歩で…ソクの部屋行って…

ほんとに酷い人だ!ソクさんと何してたんですか!ベッドの上で!

え…キス…

それだけ?ほんとに?

…うん。でも…応えてくれなかった…ぐすっ

…ぶあか!

可愛いって言ったの、取り消し!
でも一応ソクさんの部屋が何階なのか聞いておいた

じゃあ、ちょっとだけ捜してきますから、大人しくしててくださいよ!

そういい残して僕はイナさんの大切なものを捜しに行った


イナを監禁してある部屋に入る
イナのほかに人はいない
俯いているイナ
近づく僕

「ごめんなさい…ごめんなさい…バチがあたった…」

呟いているイナ
僕がそばにいることに気づいてない

僕は乱暴にイナの髪を掴んで顔を上に向けた
引きつった顔のイナ
何も言えずに怯えている
余程僕が怖ろしい顔をしていたのだろう
涙が一筋、頬を走り落ちた

僕はその震えて半開きになった唇に噛み付き、強く舌を吸う

「あふ…」

きっと痛みを感じているはずだ
お仕置きだから…

イナの頬に伝う涙は止まらない
ちっとは後悔してるのか!!
反省という言葉を知っているのか!!
この馬鹿野郎

僕はありったけの怒りをこめたキスをしている
わかってるのか!

唇を離して泣いているイナの目を睨みつける
許しを請うイナ
僕はイナの髪を掴んだまま、平手でイナの頬を叩く

「いい加減にしろ!ソクの部屋まで行くとはどういうつもりだ!あいつと寝たかったのか!」

僕はイナを怒鳴りつける
怯えて返事もできないイナをベッドに転がし、服を脱がせる

いやだ、ミンが…ミンが帰ってくる…いやだ!

懇願するイナを攻める僕
なんの準備もせずに無理矢理一つになる
痛みに耐えられず叫ぶイナ
だがやがて僕の動きに合わせて腰を動かし始める
淫らな奴だから…

叫び声が喘ぎに変わり、ごめんなさいごめんなさいと途切れ途切れに僕に告げる
僕はそんなイナが愛おしくなり、今度は愛を込めてイナに口付けする


…という風に責めながら攻めるって手もあるな…
でもぉ…そんなの…かわいそうでできない…
それに…僕がぶったらきっとアイツ反射神経だけで殴り返してきそう…
そしたら僕の顔、腫れちゃう…

はぁっ…
やっぱり僕はイナを甘やかしちゃうんだろうな…

僕は妄想しながら、イナの監禁部屋に向かった


或る読者のつぶやき ロージーさん

あ〜心配だわ…何がって?もちろん私の可愛い坊やたちミンミンのことよ!
またまた大問題!そりゃ、今までだってイロイロあった。『ビュウティフルナイト』に『愛の嵐』『呪縛』ってのもあったわね、
ヨンスさんに乗り込まれたことも、それにあの『エレベーター事件』
だいたい、あんなことが警察沙汰にもならずにウヤムヤになるってのもどうなのよ!ってカンジ!
ま、おかげで『らりるれミンチョル』果ては『ぴのこミンチョル』まで出てきた。 可愛いったらありゃしない
まったくどこまで読者を蕩かしたら気が済むのかしら…
そのうちオムツまでさせるんじゃないかと思ったわ、うふっ(やっぱ、ミンがとりかえるのよね!)
やっと正統派ミンチョルにもどったとたんにこれだもの…
それってあれよねあの本『白夜』って、うちにもあるけど、オリーさんがあれさえ読まなきゃ、ミンのお兄さんが出てくることもなかったのに…
でも、おにいさんの言ったこと、私も考えないわけじゃなかった、
考えないようにしてたけど…ミンにはもっとふさわしい仕事があるんじゃないかって…
もちろん諜報部員なんて危険なことは絶対ダメ!(ホストも十分アブナイけど)一度死にかけたっていうのにまったく
だからミンチョルなんて『ミンの将来』なんて持ち出された日にゃあ、ひとたまりもないわけよね、かわいそうで涙が出るわ、
わたしはただ幸せな二人を見ていたいだけなんだけど、
いちゃいちゃ ちゅうちゅう あふはふだけじゃ(私はそれでもいいんだけど)このさきハナシがもたないしね…オリーさんも大変なのよね、きっと…

それにしても…此処って、もーそーにはもってこいの場所だわ…先生たちがなかなか祭りをはじめられないのもわかる…
…このホテル…つぶれなけりゃあいいけど…


中庭    オリーさん

何だか胸がざわざわして落ち着かない
食欲はないがドンジュンに引っ張られるようにレストランに来た
僕はコーヒーを、ドンジュンはピザを頼んだ
なぜドンジュンがご機嫌なのかわかった
テジンから何か聞いたらしい
僕は何気に夕闇迫った外を見た
中庭のベンチで煙草を吹かしてる黒い影。あいつだ
「ドンジュン、ちょっと行ってくる。すぐ戻るから」
「え〜、どこ行くの?早くしないとコーヒー飲んじゃうからね!」
「わかってる」

中庭に出てまっすぐベンチに向かった
煙草をふかす黒い影の前に立つ
「どういうつもりなのかな」
できるだけ嫌味ったらしい声で言ってみた
「やあ、スヒョンさん。今晩は」
質問には答えず軽やかな笑顔
中庭のほんのりした明かりが彼の顔を半分浮き上がらせる
その半分だけでも端正で整った顔立ちが見て取れる
とても魅力的
でもそんなものに騙されてはいけない
「目的は何?」
答えるまで聞く
「さっきのことですか?」
「他にも何かあるのか」
「そんな顔しないで下さいよ。こわいな」
「あんたに怖いものがあるなんて思えないけど」
「さっきの事だったらあの通りですよ。僕は弟に正しい道を歩んでほしい、そう思ってるだけです」
「だったらなぜ本人に言わない。なぜミンチョルに言うんだ」
「確率論ですよ」
「何だって?」
「よりリスクの低い方へかける。弟はまず僕の話なんか聞かない。でも彼の話なら聞く可能性がある」
「人の心を踏み台にして目的を達成しようってことか。随分なやり方だ」
「合理的と言ってもらいたいな。僕らは無駄な手間をかけないように教えられてるものでね」
「無駄な手間、ね。僕があんたより腕っぷしに自信があったらとっくに張り倒してるところだ」
「何でそんなにムキになるのかな」
「あんたがほんとに弟思いの兄さんなのか疑ってるだけだ」
「美しい友情ってやつ?いや愛情って言い換えましょうか」
僕は思わずかっとなってあいつの胸ぐらを掴んだ
「ほら、やっぱりあなたって怖い」
予想に反してあいつは逃げずに僕に締め上げられていた
「でも僕を締め上げても何も変わりませんよ。彼はいい返事をくれました」
「え…」
「弟を返してくれるって」
「ミンチョルがそう言ったのか…」
「そう、さっき話に来てくれました。思ったより早かった。やっぱり頭のいい人だ」
「嘘つくなよ」
「本当ですよ。嘘だと思うなら本人に確かめればいい。それより苦しいから離してくれません?」
僕はホールを出て行くときのミンチョルの後姿を思い出した
気のせいじゃなく本当に揺れていたんだ
「あなたにとっても悪い事じゃないでしょ。彼がまたフリーになるんだから」
「あんたに何がわかるんだ!」
僕は思わず張り手を食らわせた。またよけなかった
たぶん一発くらい覚悟してたんだろう
でも嫌な気分だ、あいつはギョンビンにそっくりだから

頭の中がくちゃくちゃになってレストランへ戻った
ピザを前に頬杖をついていたドンジュンが僕を見上げた
「スヒョン、ごめんね。そんなに気にしてるなんて…ごめん」
「何…」
「あれギョンビンのお兄さんだろ。さっきスヒョンがぶったの」
「あ、見てたのか…」
「絶対もうキスなんてしないから。ごめんなさい。でもちょっと嬉しいな、スヒョンがあんな風にヤキモチやいてくれるなんて…」
僕は言葉が出なかった
くちゃくちゃの頭の中がもっとくちゃくちゃになった
今の僕はどんな顔をしているのだろう


#追憶5  妄想省家政婦mayoさん

「テソンさん、ちょっと出掛けよう」
「今から?」
「うん。外の駐車場にいるから」
「あぁ...わかった...」

僕らは部屋に戻って編集作業をしているときにテスから電話で呼び出された
闇夜に厚手の上着を着せて僕らは手を繋いでちぇみテスの待つ駐車場へ行った
駐車場の隅にコモテスは立っていた
僕らが車に近づくと急に闇夜の足が止まった
一点を凝視して地面に張り付いたように動かない
僕は闇夜の目線を追った。いつもの車の隣に1台の単車が止まっている

繋いだ闇夜の手が急に冷たくなった。ドライアイスに触った時の感触が僕を襲った
不思議に思って闇夜の顔を覗き込むと真っ青な顔をしている
僕はちぇみテスの2人を見た
するとちぇみはいつもと違う黒蜘蛛の低声で闇夜に向かって口を開いた

「闇夜!どういう事かわかるな」
「…」
「後ろに乗れっ!」
「...い..嫌だ...」
「乗るんだっ!!」
「い..嫌だっ!絶っ...っ対...嫌だっ!」

何度かの押し問答の後、業を煮やしたちぇみは僕らの繋いだ手を強い力で無理にほどき
闇夜を単車の側に引っぱって行った

「乗れと言ってるだろっ!」
「...乗れない....後ろは...後ろは嫌だっ...絶対に...」
「お前のためだ。そしてテソンのためだ」

僕は振り返った闇夜の辛い顔を見た
「やめてよ!ちぇみ!闇夜が嫌がってる!」

僕は闇夜の側に行こうとした。するとテスが僕の胸に両手を突っ張って必死に止めた
「離せっ!テス!」
「駄目っ!mayoさんのため。テソンさんのためなの。2人のためなの」
「..??..テス...どういうことなんだ..」

ちぇみは闇夜にメットをかぶせ無理やり後ろのシートに闇夜を乗せ
自分も単車にまたがりエンジンをかけた

「テス、遅れるなよ」
「うん!テソンさん、車に乗って。早くっ!」

単車は鈍い音をたてて駐車場を出て行った
僕らの車はそれを追った
僕は何が何だか解らなかった。闇夜に何があるんだ…

「ごめんね...テソンさん...これしか方法ないんだ」
「テス...教えてくれないか...全部...」
「うん...」

テスは前の単車を見失わないように話しはじめた
僕は事故の話はすこし冷静に聞けた。思い当たることがあったからだ

闇夜はたまに夜中にふらっと部屋を出て短い時間で戻ってくる
夢遊病かと思って一度後をつけたことがあった
闇夜は外のベンチの側で星を見ているだけだった
その時の闇夜の横顔を見た僕は声をかけずに部屋へ戻ってきた
僕は別宅の闇夜の部屋が何もなかったというテスの話のほうがショックだった
『馬鹿野郎...消えるつもりだったのか?...そうはさせるものか..』

  僕はちぇみから聞いた話をすべてテソンさんに話した
  テソンさんは時々ため息をつきながら意外に落ち着いて聞いていた
  でも別宅の話をした時はちょっと唇を噛んで横を向いてしまった...

「テソンさん...」
「ん?....」
「ちぇみは運転上手いから安心して...」
「わかってる...な、そいつ...走り系だったの?」
「ちぇみの話ではレース系だったって...」
「ふっ...レース系が事故かよ...」
「ほんとだ...」
「...闇夜も運転するんだよな...」
「ぅん...手堅い走りだったって...」
「...そぅ...」

単車は漢江大橋を南に下り汝矣島の脇を抜け仁川方向へ走っていた


じゅんほの手紙 れいんさん

あいするつまへ

そにょんさん、げんきですか?
こどもたちやおとうさん、おかあさん、さんみんせんせいもげんきですか?

ぼくはげんきです。ビーエッチシーのみんなは、ぼくにとてもやさしくしてくれます
もうすぐまつりがはじまります
いままつりのじゅんびでとてもいそがしいです

ぼくは、ショータイムでシャドーボクシンクやスパーリングをやります。あたまはなぐられないからしんぱいしないでください

みんなにもまつりを見に来てもらいたいけど、なんがつ、なんにち、なんじにはじまるのかわかりません
だいたい、きょうがなんがつなんにちなのか、ひるなのかよるなのかもわかりません
チーフにきこうかとおもったけど、ずっとへやにこもってて、さいきんやっとでてきてすごくいそがしそうです
どうしつのドンジュンさんにききたくても、あんまりへやにかえってきません

ぎょんびんさんも、ついさっきまでスーツでばりばりしごとしてたかとおもったら、ちがうばしょで、コートをきてたばこをふかしたりしてます

いなさんには、にやにやしてふらふらあるきまわったりしてようすがへんなのでもっときけません

ぼくはなんだかちょっとひまなので、かんじのれんしゅうをはじめました。カタカナはちょっとだけかけるようになりました

かんじはむずかしいです
だれかおしえてくれるひとがいたらいいのに

それでは、またてがみかきます
きっと、もうすぐあえるののまっていてください

じゅんほより


雷鳴   ぴかろん

自分を大切にしろよ…死ぬなよ…辛くても死ぬな…

同じ顔をしていて、違う男二人に言われた言葉が頭の中を行き来する
俺はテジュンさんにイナさんの物を返し、テジュンさんに拒否されてそのままとぼとぼと外に出た

テニスコートが向こうに見える
誰もいないコート
空が真っ暗だ
さっきまで陽が射していたのに
今は俺の心のように真っ黒な雨雲に覆われている

俺はゆっくりと歩く
何がしたかったのだろう…
イナさんのふりをして総支配人とキスをして…
それで復讐のつもりなのか?
イナさんのように、総支配人とソクさんの間を行ったり来たりしてみたかったのか?

…イナさんのように…なりたかったのか?
ソクさんの心を捉えるために?

なれっこないのに…
俺なんかイナさんのようになれるはずがないのに…
あんな風に…愛されるはず…ないのに…

ポツポツと雨粒が落ちてきた
俺は足を止め、雨の中に佇む
突然、雨が激しくなり、俺は驚いて空を見上げる

まるで大木が空から落ちてくるような
そんな激しい雨が俺に突き刺さる
体中を撃ち抜かれるような痛み
こんな雨は初めてだ

俺はホテルの建物の方へ引き返す
あまりの雨の激しさに身動きがとれない
背中を向けたテニスコートの上空で
フラッシュを焚いた様に稲妻が光る
少しおいて激しく轟く雷鳴

フラッシュバック

あの日の事が甦る
信じていた人からの裏切り
俺の裏切り
裏切った後の信頼
銃声

死体…
…あにき…

このまま稲妻に打たれてしまおう…
このまま…
あの時…絶てなかったこの命を一瞬で燃してくれる…

俺は歩みを止め
目を閉じる
震える手をジーンズのポケットに突っ込んで落ち着かせる
もうこのまま…

その時ポケットの中で俺の手に触れたものがあった

…ソクさんの薬…
イナさんのペンダントトップを守るように落ちていたソクさんの薬の容器

これがないとあの人は…

そうだった…これを渡しに行くつもりでいたんだ…

俺は突き刺さる雨を掻き分けながら、ホテルに戻った


エレベーターを降り、イナさんが出てきた部屋の前に立つ
呼び鈴を鳴らす
俺の頭の中はぐちゃぐちゃになっていて、何をしていいのかよくわからない
ただ、この薬はソクさんに返さなくてはと…
ただそれだけを自分に言い聞かせてここまで歩いてきた

ドアが開く
ソクさんの驚いた顔が見えた

「これ…落ちてまし…」

俺はソクさんの胸に倒れこんだ


嘔吐   ぴかろん

ドアを開けるとスヒョクがいた
ずぶ濡れじゃないか…どうしたんだ…
スヒョクは僕のピルケースを差し出して、そのまま意識を失った

僕は少し躊躇いながら、スヒョクの濡れた衣服を剥ぎ取り、バスタオルで体を拭いてやった
スヒョクは気がつかない
彼をベッドに運び、寝かせてやった

どうしたんだよ…なんでそんなに苦しそうなんだよ…

ベッドの傍らに座り、僕はスヒョクの髪をタオルで拭きながら、呻いている彼を見つめた
体が冷え切っていた
布団に包まらせてから暫くして、ようやく寝息を立て始めたスヒョク

君の持つ深い苦しみを僕は解放せるだろうか…
僕の持つ傷を…君は…癒してくれるだろうか…

僕は彼の頬に触れ、立ち上がって彼の服を片付けた
僕は自分も着替えようと、バスルームまで行って服を脱いだ
鏡に写った自分の体に、スヒョクの体を重ね合わせる
張り詰めた琴線
一本切ってしまった僕…
君はそれでも音楽を奏でる
悲哀の旋律
どろどろとした和音

突如、彼の悲鳴が聞こえた
夢?うなされる夢を見た?

僕はバスローブを纏い、彼のところに走り寄る

震えながら身を起こし、浅く早い呼吸をし、口元を押さえている
ベッドから転げ落ちて吐き気に襲われる体を震わせている
僕はそこにあったバスタオルを持ち、彼の顔の前に差し出す

「吐いていいぞ!ここに吐け!その方が楽になる」

小刻みに震える背中が、嘔吐するたびに山なりになる
彼の裸の背中に触れるのを躊躇い、僕はローブの袖で背中を擦る
やがて吐き気が治まり、彼は洗面所へ行こうとした
馬鹿だな、僕に頼らないか

僕は彼を支えて洗面所に連れて行った
はあはあと荒い息をしながら口を漱ぐスヒョク
なにか羽織るものをと、僕のシャツをかけてやった
そんな事にも気づかず、排水口に突っ伏している
ようやく落ち着いて鏡を見た彼

鏡越しに見た彼の瞳はとても弱弱しい
ずり落ちたシャツを肩にかけてやると
初めて自分が裸であることに気づいたらしい
僕を振り返り怯える

「ずぶ濡れでぶっ倒れたのでね。脱がせた…」
「…すみません…」
「もう少し眠った方がいい。ベッドまで歩ける?」
「…はい…」

歩けるわけないだろう?そんなふらふらなのに…

大きくふらついた彼の体を抱きとめ、横抱きにしてベッドに寝かせた
抱き上げた時、彼は目を見開いて緊張していた
もう一度布団をかけてやると、彼はようやく緊張を解いた

「眠って…」
「ソク…さん…」
「ん?」
「…イナさん…イナさんと…ここで…寝たんですか?」
「…」
「俺…イナさんがここから出て行くの…見ました…」
「ふっ…」

僕はスヒョクの髪を撫で、頬を撫でてやった
スヒョクはまた緊張している

「イナとは…そんなじゃない…もう…」
「…イナさん…何しに来たんですか?」
「…何故イナの事が気になるの?」
「…」
「イナは僕のキスを求めに来た…これでいい?」
「…」
「僕は…あいつに…応えられなかった…」
「…」
「君がくれたキスが…ずっと残ってる…」
「え…」

僕はそれ以上何も言わず、彼の唇を手でなぞった
彼はまた震える
張り詰めている彼を、簡単に扱えはしない
僕もそうだから…
彼の心に絡み付いている爆弾の導火線を
一つずつ慎重に切らなくては…

「眠って…」

もう一度そう促す
彼は僕に手を差し伸べて言った

「手…握ってて…ください…」

僕はその張り詰めた手をとり、そっと包む

「お眠りよ…ここにいるから…」

すうっと目を瞑って、彼は寝息を立てた


目を覚ますとソクさんがいた
僕の枕元で僕の手を握って眠っている

何時だろう

夕方のようだ

僕はソクさんを起こさないようにベッドをすり抜けた
僕の服が部屋の片隅の椅子に掛けられている
ソクさんのシャツを脱ぎ、まだくっしょりと濡れている自分の服を無理矢理着た
ソクさんにこれ以上迷惑をかけたくなかった

僕はまだふらつく頭を軽く振り、そっと部屋を出た


スヒョクが僕の手を離し、ベッドをすり抜けたのを僕は知っていた
引き留めてもう少し彼と話をしたいと思っていたのに
僕の体は動けなかった

どうやってこの硬質な線を溶かせばいいのだろう…
そんな事をいまだかつて、僕はした事がない…
それはきっと、同時に僕の傷の癒しにもなる

ただの予感だ
そんな気がするだけだ
彼を解き放ちたい
けれど自分の傷を治す自信はない…

どうすればいいのか
僕にはまるで解らない

するりと抜けていった彼の手に
僕に対する執着が感じられない

僕もまた彼の手を強く引き寄せる程の情熱を
持ち合わせてもいない

いや…あるんだ
僕達の心には
その想いも情熱も…

ただ僕達はそれをどのように見せ合えばいいのか
まるで解っていないんだ
そうだろう?スヒョク…

彼は濡れた服を淡々と着て、そっと外へ出て行った


動悸  足バンさん

スヒョンがまたホールに呼ばれたので僕はひとりでさぼりに出た

ちょっと嬉しいな、スヒョンがあんな風にヤキモチやいてくれるなんて…
そう僕が言った時のスヒョンの目は小さく泳いでいた

うん…そう…わかってる…
きっとミンチョルさんのこと
なにかあったことはわかってる

ギョンビンの兄貴を引っぱたいたのだって
僕にキスしたくらいで手を出したりするスヒョンじゃない

でも聞かない
スヒョンが言いたくないなら今は言えないことなんだ

夕暮れのちょっと冷える風にふかれてヴィラの方まで足をのばそうと思った
途中のあずまやを抜けようとした時その中に人影を見た
スヒョクさんだった
スヒョクさんは僕に気づいて急いで顔をぬぐった

「スヒョクさん…どうしたの?」
「ドンジュン…」
「具合でも悪いの?」

スヒョクさんは頭を左右に振りあずまやのベンチに座りなおした
僕はなんとなく放っておくわけにもいかず横に座った
顔を覗き込むのも変かなと思いただぼんやりとしてみた
スヒョクさんがなにか話してくれるとは思えなかったし

でもスヒョクさんは急に口を開けた

「俺…ひどいこと言った…テジュンさんに…」
「へ?」
「イナさんを困らせようとした…」
「え?」
「なんだか自分がわからない…」
「スヒョクさん…」
「ごめん…いきなり…」

スヒョクさんは膝を抱え込むようにして顔をうずめ小さな声で泣き出した

「なんだかよくわかんないけど…もっと大きな声で泣いちゃったら?」

スヒョクさんは本当に少し大きな声で泣きはじめた
どうしようかな…肩に手をそえてあげようかな
そんなことを考えている時だった
あずまやの外に人の気配がした。あの煙草の香り

「また君か…今度は違う彼?」

ギョンビンの兄貴だった
兄貴はあずまやのふちに肘をかけて煙草をふかしている

「あちこちうろうろする人ですね。あっち行って下さい」
「まったく君は思ったことを口にするね」
「祭直前なんですからいろいろ引っかき回さないでね」
「嫌われちゃった?あんなに僕のキスに感じてたのに」

スヒョクさんが顔を上げて緊張の目でギョンビン兄貴を見ている

「あれはあれ。これはこれ。僕は深みにははまらない」
「スヒョン君がいるから?」
「そう」
「ふふ…ミンチョル君がライバルじゃ君も苦労するね」
「それは昔のことだよ」
「そうかな…自信ある?これからもずっと?」

そう言われて「ある」とすぐに答えることができなかった
不快だった
忘れた傷をいじられた気分だった

スヒョクさんの目が冷たい色になりギョンビン兄貴を睨んでいる

「まぁせいぜい用心するんだな」
「なにをさ」
「あの心配の仕方は友人以上だからね」

僕は一瞬頭に血がのぼった
ベンチから飛び上がって胸ぐらを掴みに行こうとした
そのときスヒョクさんがいきなり立ち上がりギョンビンの煙草を手ではらった
煙草の赤い火が細い線を描いて飛んでいく

「勝手なことをべらべら喋るなっ!人の気持をかき回して楽しいのかっ!」
「スヒョクさん…」
「BHCの皆さんは手が早いんだな」
「もう行って下さい!ドンジュンももう話すことなんかない」
「了解。ここにももう用はなくなる」

ギョンビン兄貴はにっこり笑ってきびすを返すと手を振って歩いて行った

スヒョクさんはまたその場に座り込んだ
僕は初めて見たそんなスヒョクさんへの驚きと、
そして先ほど斬りつけられた心の痛みに小さな動悸をおぼえていた


中庭 回想  オリーさん

あっちの方に殴られたのは意外だったな
でもまあ一回くらいは仕方ない
予想以上にうまく事は運んでるし
あいつの彼氏が目の前に立った時にはゾクゾクした
灯りを背に浮き上がる姿があまりに綺麗だった
感情を一切閉じ込めて必要な事だけ話す態度も見事だった
本当に弟は趣味がいい

「ミンは返します。ただしいくつか条件がある」
「どんな?」
「祭が終わるまでは今のままで。終わったらなるべく早く戻しましょう」
「他には?」
「僕とあなたは会ってない。僕はあなたの話は聞いてないし、あなたも僕に何も話してない。そういう事にして下さい」
「あのお友達はどうする?」
「スヒョンにはもう頼んであります」
「それはこっちにも好都合だ」
「僕がミンを捨てる。そうしないとミンはまた傷つく」
「捨てられても傷つくんじゃないの?」
「でもその原因は僕であって、ミンじゃない
ミンが自分のせいで別れる事になったとわかったら傷は一生残る。捨てられたなら僕を憎むだけで終わる」
「随分弟のことに詳しいね」
「ミンは過去に亡くした人達の事をまだ引きずってる。これ以上ひどいことはできない
僕がミンを捨てたら自然に元の場所に戻るでしょう。その時あなたが迎えるようにして下さい」
「僕のシナリオどおり」
「それはどうも。くれぐれも話が漏れないようにして下さい」
「君はそれでいいの?」
「今更何を言ってるんですか。全部承知の上でしょう」
「確かに。いやでも期待以上だったから。ありがとう」
「あなたにお礼を言われる筋合いはありません。ミンのためです。じゃ、これで」

そう言うと彼はきびすを返した
思わず後姿に一声かけた
「ねえ、僕はどうかな。ミンの代わりに」
「キスは大層お上手ですけど、ミンの代わりにはなりません」
「代わりでなくてもいい。どう?」
彼はゆっくりと振り返り僕の目をきっちり捉えて言った
「誰かがミンの代わりになれるんだったら…どんなにいいでしょうね」
柔らかい言葉ときっぱりとした拒絶
さすがの僕もちょっと言葉が出なかったな
「もう二度と話すことはないでしょう。失礼します」

ズギュ〜ン!やられたなあ
いいなあ、ああいうの。今までにないタイプだ
内側でメラメラ燃える炎を持ちながら表面は氷のように冷たい
そのくせふとした拍子に危うい影を見せる
それがまたこの上なくセクシーだ
どうやって落としたんだろう、弟は
僕以上にテクがあるってことだろうか
いや、テクニックなら僕の方が上だろう
じゃあなぜ僕になびかないのかなあ、あんなに丁寧にキスしてやったのに
もう一度プロファイリングやり直してみるか…
それよりあのかわいい子をもう一回やってみようか
でもな、あのお友達の方がまたすごい剣幕になりそうだしな
お友達もなかなかだけど、第一印象がすごく悪いから絶対乗ってこないだろうし
チェッ、ヒマだから誰かと遊びたいのに…


ヨンスのひとりごと れいんさん
ああ…とうとう終わったわ「美しき日々」の最終回…。泣いた、泣いた…
…あの頃はよかったわ
室長は私の事だけを見てくれていた

「僕専用」と言って渡してくれた携帯電話にも最近はちっとも電話くれない
ソンジェさんからかかって来た時も「なぜ、ソンジェからかかって来たのかと聞いてるんだ!」って
あんなに怒りんぼになったくせに…

室長の車で二人で海に行った時に、「海だーっ!」って声ひっくり返りがなら叫んでたあの頃がなつかしいわ
だいたい初めて一夜を共にしたあの海辺の民宿だって、シナリオ本ではヨットのはずだったのに
あの頃はまだお金持ちだったのに、なぜあんなドリフのコントのセットみたいな民宿に泊まっちゃったのかしら。案外節約家よね

だから私、ちょっと意地悪したくなって二人でショッピングした時もわざと膨張色のストライプシャツを選んだの
カフエでお茶した時も「僕の心を飲み込んで」って言われた日には吹き出しそうになったわ

私、新婚旅行の日の夜だって、ナレにもらったスリップドレス着て、なにげに期待してたのにあの人ったら「病気の体にさわるから」って、
ちょっとやらしいちゅうだけで何もしてくれないんだもの
それからも毎日寒いの我慢してあのスリップドレス着て一緒に寝たのに、朝起きた時の笑顔だけであの人満足しちゃって…

移植手術が成功した時だって、あんなに泣いて喜んでくれたじゃないの…ちょっとズボンのラインが気になったけど
でもちょっと不思議。セナのコンサートに一緒に行った時、あの人ついさっきまで隣にいたはずなのに、
セナと抱き合ってるうちにいつの間にかソンジェさんの隣に行ってたわ
どこをどうやってあそこまで行ったのかしら…

…もう、あの人にとってはそんな事は過去の事なのかしら…

それにしても、あのBHCの人達ってみんな似た系統の顔してるわね。もちろん私はあの人の事ちゃんと見分けがつくわ
髪形とお腹まわりを見ればすぐ分かるもの

…さあいつまでもぼやいていても仕方ないから、またビデオを巻き戻して見ましょ
特に9話をじっくり…


奇襲   ぴかろん

呼び鈴が鳴ったので俺はドアを開けに行った
いててっ…いてぇ…
くそぉ。明日、大丈夫かなぁ…歩けねぇ…

俺はずりずりと床を這いずりながらドアに近づき、開けた
テジュンがいた
テジュンは目の前を真っ直ぐ見ていて、床に這いつくばっている俺に気がつかない

俺は驚いてドアを閉めようとした
その時テジュンの視線が俺に注がれた
ドアを押す俺と靴のつま先を挟み込むテジュン
俺の負け
ドアをこじ開けテジュンが入ってきた
見つかりませんように…

「何してんの!足…ひどく痛むの?」

優しく足を撫でてくれるテジュン
今だ!

「…ん…」

上目の角度よし、涙目よし、唇をテジュン好みにとんがらせて、ついでにお手手も口元に添える
テジュンの顔が緩む

成功

「なんで一人?ミン君は?」
「ん、ちょっとようじいった」

赤ちゃん喋りヨシ!ますます顔が緩むテジュン

「なんかようじ?もうおむかえ?」

畳み掛ける赤ちゃん喋り、口元から歯がこぼれる
チョロいな…

「ちょっと休憩に来た。すぐに戻らなきゃいけないんだ。だから…」

俺はドアに体を押し付けられる
…ソクにされたように…テジュンのキスに応えないでおこうかな…ふふ…

近づくテジュンの唇
触れそうで触れない位置
この時が一番好き
ゾクゾクする
じれったくて
焦らされたくて…

俺はゆっくり目を閉じて
テジュンの唇が俺の唇をどんな風に攻めるのか期待しながら待つ


しらばっくれる気でいる
泣いてるかと思ったのに…
僕に気づいてドアを閉めようとした
この野郎は…全く…

唇を寄せると、うっとりと目を閉じやがる
だーめ!
お預け決定!

僕はさっき妄想していたようにイナの髪を掴んで顔を上げさせた
イナは驚いて僕を見つめる

おおっちょっといいじゃない?うふふん
ぶってやろうかなぁ…

「なんか僕に報告する事があるんじゃなぁい?」

思いっきり意地悪く言ってやった
これぐらいいいよね?
僕、いつも辛い目にあわされてるもの


テジュンがかっくいい…
俺の髪を掴んでなんだか冷たくてかっくいい…
ほんとに冷たいわけじゃねぇんだ
らって瞳の奥が優しいモン

れもなんかちっといつもと違って悲しくなって涙目になっちった…
あれ…らりるれになっちってるし…ぐすん

「あのっ…あのねっ…なくなっちったの…」


きいいいっ!可愛いじゃないか!なんだこの喋り方
どこで習ったんだ?ミンチョルさん影響だろうか…

はっ…まさか『ソクの部屋』で調教されたとか…むむっ

「何をなくした!どこでなくした!大体何してたんだ!」


かっくいい…なんか…いつもと違う…

「あの…うるとらまんたろうと…まんねんひつ…なくしちったの…ごめんなしゃい…落とし穴におっこちた時、きっと…」


ぞくっ。ぞくぞくっ。僕ってもしかして『えす?』

「…許せないな…なんで気がつかないんだ?…ソクがいたからか?!」

ちょっと髪をきつく引っ張る
痛くないかな?

「あ…気がつかなくて…ごめんなさい…」
「本気でごめんなさいしてるのか?!」


…そうだ…大切なものなんだから…俺、さっきまですっごく落ち込んでたんだった…

「どうしよう…埋まってたらどうしよう…ミン君が捜しに行ってくれた…ねえテジュン…どうしよう…みつからなかったら…俺…俺…」
「見つからなかったら…別れよう」
「え?」
「お前の浮気にも愛想が尽きた。僕達を繋ぐ大事な物がなくなっちゃったら…別れるしかないだろう」

うそだ…本気で言ってるの?
俺は視線を外したテジュンの真意を確かめたくてテジュンの胸にすがりついた

「いやだ…いやだ絶対いやだ…テジュン…ごめんなさい…ごめん…もうしないから…お願いだから…おねっ…うっううっうううっ」


あ…やりすぎたかな?
本気で泣いてる
ひーん
かわい〜い

あっ。でもまだ『ソクの部屋』行ったって吐いてないぞコイツ
もう一絞りしてやる!

「足、なんでこんなに痛めたの?どこかへ出かけた?」
「…」
「ホントの事言わないなら…別れる」
「言う。でも…怒んないで」
「内容によっちゃあ怒る」
「…ソクさんの部屋に行った」

どくん…

「何しに?」
「キスしに…」
「誘い込まれたのか?」
「違う…俺から…キスが欲しくて…ベッドに押し倒した…」

この馬鹿!なんて危険な事を!

「れも、うううっ…ちっとも反応してくんなかったんら…ぐしゅっ…ソク…ソクったら…スヒョクの事が好きになっちったみたいれしゃ
…俺なんかもうろーれもいいみたいでしゃ…ぐしゅっ…」

はーっ…こいつ僕の前でなんてことほざくんだろう…

でも、ソク…スヒョク君を?
あれ?
じゃ、あそこ、両思いじゃないか…

こんどスヒョク君に教えてあげようかな…

いや、それよりもこの馬鹿だ…

「いい加減にしろ!この馬鹿!僕の気持ちを考えた事があるのか!」

僕は思いっきり髪を引っ張り、ぐいっと顔を上に向かせた
涙が頬に一筋…
ああ、さっきの妄想とおんなじだ…

「ごめんなさい…」
「目を瞑って歯を食いしばれ」


殴られる…俺は身を堅くした


#追憶完  妄想省家政婦mayoさん

後ろに乗っている闇夜が震えているのが俺の背中に伝わってくる
俺の革のコートの脇をしっかりとちぎれそうなほどの力で掴んでいる
俺はクラッチのハンドルを離し闇夜の左手を思いっきり叩いた
闇夜は俺の腹の前で両手を組んだ。お前の胸中が痛いほど伝わってくる

悪いな...闇夜....荒行を許せ...
だがこれをしないとお前は前に進めない。テソンも…
今の俺とテスがあるのはお前達2人のおかげだ...
だからお前達2人が苦しんでるのを見逃すわけにはいかないんだ...

  思い出したくないあの光景にまた出会うのか...
  ちぇみの背中で震えが止まらなかった
  あとのことは何も考えられなかった

仁川港の手前の倉庫街を抜け直線道路が続く空き地にきた
ちぇみはそこでスピードを一気に上げた...ちょっとした段差を目ざとく見つけ
ちょっとジャンプして地面に降りた車体は右左にぶれた
ちぇみはわざとスピンをかけタイヤは白い煙を上げ
アスファルトにはタイヤの黒い跡が付いた
一旦スピードを落とし、もう一度スピンさせ車体をかなり傾斜して
後ろの闇夜を振り落とした。闇夜の身体はゴロゴロと3回転した

傾斜を立て直した車体が大きく反対方向の傾き
ちぇみは倒れる寸前..ハンドルを離し車体から飛び降りた
バッタァーンと倒れた車体は横倒しのままギィー#っと鈍い音を立てて滑って止まった
転がった闇夜はすぐ半身を起こしメットをかなぐり捨て
滑っていく単車の様子を呆然と見ていた

テスは闇夜が倒れた場所で車を止めた
僕はすぐ車から降り、闇夜の視線を遮るように懐に抱いた
ちょっとすると闇夜は...ドンッ#....っと僕を強い力で突き飛ばし..
そして僕に叫んだ

「私に被さっちゃ駄目だっ!」

僕の頭にテスから聞いた話が浮かんだ
『単車から放り出されたmayoさんに元カレが覆い被さった..そこに大破した単車の破片が飛んで...』

ぶるぶる震えている闇夜の顔は血の気が失せ..噛んだ唇からは血が滲んでいた
僕はそれでもすぐ闇夜を引き寄せた
震えが収まるまで強く抱いた

「私のせいなんだ...私の...」
「そうじゃないって...そうじゃないって...」
「私だけ...幸せになるわけにいかない...」
「君の辛い記憶も...全部..僕が消してやる...全部引き受ける...」
「もう...顔も思い出せない...何も言ってくれないんだ...すごく..申し訳ないことしてるんだ...」

少し震えの収まった闇夜の髪をかきあげ顔を両手で挟んで僕は言った

「...mayoシ....わからない?
 もう思い出せないのはね......僕の想いが...☆になった彼より強いからだよ!?違う?」
「…」
「僕はね...☆彼に感謝してる。君の代わりに彼は☆になった..でも...君を残してくれた
 そして僕に託してくれたんだ.......僕と出会い様にしてくれたのかもしれないよ?」

闇夜の目から涙があふれ出た
僕の指の間から手の甲へどんどん流れていく

「君を幸せにするのは僕しかいないから。降参したのさ。きっと」
「こんなやっかいなことばっかりの私でも...いいの?」
「わかってるでしょ?何度も言った。僕の心のバランスを取ってくれるのはmayoシしかいない」
「....テソンシ....」
「僕を好きなら逃げようとしないで...ん?」

闇夜は涙でぐちゃぐちゃの顔で僕を見た
僕はちぇみテスが傍にいるのも忘れ
デコxxx〜みみxxx〜のあと闇夜の唇を捕らえていた...

  ちぇみは倒れた車体を起こし僕の車の前に戻ってきた
  僕とちぇみはテソンさんとmayoさんの前から何故か離れられなかった
  mayoさんをしっかり抱いているテソンさんの背中も震えていたからだ
  思いの丈を一生懸命mayoさんに言ってるテソンさんから目が離せなかった...
  ちぇみは途中から2人に背を向けて話を聞いていた
  僕が2人のち◎うを見て「あっ...」と声を上げると
  ちぇみは掌を僕目に翳し目隠しをして自分の方に振り返らせた

  「見なくていい....」
  「ぇ〜..だって...見たいもん...」
  「いいから...」

  ちぇみは静かにそう言うと..僕にメットを被せぽんっと叩いた
  僕が単車の後ろのシートに乗るとエンジンをかけゆっくりと単車を発進させた
  僕らは漢江大橋の見える河原で寝そべって空を見ていた

  「ちぇみ...」
  「ん?何だ...」
  「テソンさん、ちょっと格好よかったね...」
  「ふっ...そうだな...」
  「ちぇみも格好よかった...」
  「はは...そうか...なんとか収まってくれたな...」
  「ぅん....でもまだ何かありそう...mayoさんって...」
  「ぷはは...ホントだな..謎だ...」
  「ぅん....」

   僕はゆっくりと唇を離し闇夜の顔を見た

「ひどい顔だぞ...」
「…」
「戻るか?...」
「....ぅん....でも...」
「わかってる....その腫れぼったい顔、誰にも見せられない...」
「ぅん...」

僕らはホテルに戻らずに別宅で少し休む事にした


漢字   足バンさん

まとめてかんじをおしえてもらえないので
みんなにちょっとずつおしえてもらったんだ

まずはおなじへやのどんじゅんさんにこえをかけた
「廃車」ってかいてくれた
いみをきくと「いちばんかなしいこと」といった。そんないみだったかなぁ

つぎはてじゅんさん
いそがしそうだったけど「達観」ってかいてくれた
むつかしいけど、てじゅんさんのめをみたら”いっちゃった”ってことかなとおもった

つぎはてそんさん
「忍耐」ってかいてくれた
かいたあとてそんさんは「じわじわいくぞ」といったようなきがした

みんちょるさんのおとうとのそんじぇさんは
「親切」ってかいておしつけるようにおいていった

ちょんまんさんにもきいた
「身長」ってかいてくれた
かいてるとき、ちにさんがやってきた。ちょんまんさんはかいたかみをかくした
なんとなくわかったけど、ぼくはわらうのをちゃんととめた

てぷんさんとしちゅんさんは、ふたりであらそいながら
「愛」ってかいてくれた
あらそっていたから、かみいっぱいになんじゅっこもかかれた
ふたりがあいのうたをうたうっていったので、またこんどっていってにげた

すひょんさんは
「首輪」ってかいてくれた
いぬの?ってきいたら「ちょろちょろするやつの」っていった。なんのどうぶつだろう

てじんさんは
「耳栓」っていうじをかいてくれた
そして、しはんのものをかったほうがいいっておしえてくれた

へぶんのそんじゅさんが、いきなりちかづいてきて
「財閥」ってかいていってしまった
いみはわかるけど、べつにおぼえなくていいかなっておもった

そのあとおーるいんのちょんうぉんさんがやってきて
さきにかかれてた「財閥」をくしゃくしゃってけして
「御曹司」ってかいてまたくしゃってけして、さいごに「頂点」てかいていってしまった

ぽらりすのみにょんさんは
「自尊心」ってかいてくれた
「おおくてもすくなくてもいけないんだ」といった。なんのことかわかんなかった

すひょくさんは
「巨大」ってかいてくれた
「どうかんがえてもあのさんぐらすおおきいんだよな」ってぶつぶついってた

そくさんは
「髭」ってかいてくれた
「ぶしょうじゃない、ふぁっしょんだ、ほんとうだ」っていってた

おとこぐみのどんごんたいちょうは
「男」ってかくかなっておもったら「憧れ」ってかいてぼくをじっとみた
こわかったのでおじぎをしてにげた

いぬせんせいはかみのまんなかにいっぽんせんをひいて
うえに「永遠」、したに「今」ってかいた
なんのことかなっておもったら、そばでうしくさんがそれをじっとみていた
なんだかはなしかけられなくて、かえってきちゃった

くもさんとてすさんは
「ちぇみ・てす」ってかいてくれたんだけど
これはかんじじゃないですっていったら、これいがいは、かけないっていわれた

ちょっとまよったけど、いなさんにもきいた
「交代」ってかいてくれた
「逆転」ともかいてくれた。たのんでないのに
いみわかる?っていうからわかるってこたえたら、にやにやしてた。なんでかな

みんちょるさんもかいてくれた
「美学」って
いみをきいたら「ぼくをみていなさい」っていわれた
それをきいていたいなさんが「なるほろ」っていってみんちょるさんににらまれた
ぎょんびんさんはそのふたりをにらんでた

いちばんじかんがかかったのはしょうぐんさんだった
「心頭滅却火自涼」ってかいた
そしてぼくにかわいいねっていったら、しょうぐんさんのあたまにすりっぱがとんできた
しょうぐんさんは「いてぇな!めっきゃくしてもだめじゃん」といっておこった
ぼくはいそいでにげた

ふぅ…おべんきょうってつかれる…


技?   ぴかろん

おお、素直に目を瞑ったよ
うはは、覚悟してる〜
いいなぁ、たまにはこういうの…ひひ

僕はイナの怯えた表情をたっぷりと楽しんだ
そしてその頬に衝撃の一発を食らわす…

ピタン

ん?
テジュン、殴る時はもっとばちーんって殴んなきゃ…
ああテジュン優しいからな
っていうか、ケンカ慣れしてねぇからな
っていうか、今、殴ったの?

ぴたんぴたん

何かで俺の頬をはたいてる
そして俺の口に何かを当ててる
何?何よこれ…
俺は恐る恐る目を開けた

「もうなくすなよ…」

テジュンの優しい瞳が飛び込んでくる
俺の手のひらに何かを乗せる

万年筆とうるとらまんたろう…

「ここんとこが開いて落ちたみたい。テジンさんに頼んでわっかにくっ付けてもらったし、新しい鎖に通してもらった…」


イナはじっとその「僕達の証」を見つめ、おもむろにその二つに口付けをした
そして…ポロポロと涙を流し、嗚咽を漏らし始めた
嗚咽がやがて、号泣になる
僕はびっくりした
そして、とても温かい気持ちになった
子供のように泣くイナの頭を包み込み、髪に口付けして撫でてあげた

僕のイナ…かわいいイナ…どうしようもないぐらいお前が好きだ

イナの涙は止まらない
指で拭っても後から後からこぼれ出す

「もう泣くなよ…」
「らってらってらってひくっひくっ…よかっ…よかった…ひっくひっく…」
「そんなに大事な物だったの?」

コクンと頷くイナ

「ただの『物』じゃないか…」
「らってテジュンの…」
「お前がこれをとても大事に思ってくれてるって解っただけでいいよ、もしもなくしちゃっても、お前と僕の心の中に、こいつら、生きてるだろ?」
「…」
「お前の涙見れただけで僕は嬉しい」
「てりゅんぐしゅっ」

僕はもう一度イナの髪を掴み、そっと引っ張って上を向かせ、への字になってるその唇に狙いを定めた

てりゅんがまた俺の髪を引っ張った
あ…こういうの…しゅきかも…
そしてしゅんごい色っぽい目で俺をみちゅめてる…
あ…しゅんごいどきどきしゅる…ぐしゅっ

俺の唇をみちゅめて、唇が近ぢゅいてくる

あん…じれったいよ…早くかぱってしてよ…

あっきたっ…と思ったらフェイントら…と思ったら

…あ…む…

じゅるい…いちゅの間に…しょんなフェイントをおぼえたのれしゅか?
じゅるい…てりゅんはどこでこんなきしゅの仕方を練習してりゅのれしゅか?

ああ、頭が痺れましゅ…
俺の思考がらりるれってましゅ…
しゃししゅしぇってましゅ…
あむあむあむ…はむはむはむ…


涙でぐしょぐしょのイナにキスをした
いつもより感じてないか?こいつ…
ほんとに淫らな奴だな…ますます心配だ…

僕の背中に回した指に力が入る
痺れてんの?
ほんとに?

暫くの間、イナの唇と遊んだ
唇を離す時、イナはもっと欲しい素振りを見せた

だ〜め!
そんなに優しくしてやんない
コイツったら付け上がるから…

いつもより潤んだ瞳で僕を物欲しげに見つめ、その可愛い口を開くイナ

ヤ〜らし〜いヤツ!

「ろこれこんなきしゅ覚えたろ?られと練習したろ?」

馬鹿!お前じゃあるまいし!

僕はイナの髪をくしゃっと撫でた

「これ…てりゅんがみちゅけたの?」

イナは手の中にある二つの証を指して言った
ああ、そうそう…言っておかなくちゃな…

「スヒョク君が見つけてくれた」
「え…」
「うるとらまんは落とし穴の横で拾ったってさ。それから万年筆は…」
「…」
「ソクのベッドで」
「え?!」

顔色が変わった
ホントにキスしかしてないのか?

「ソクの部屋から出てきたお前が落として行ったと聞いた」
「…」
「キスだけってほんと?」
「…ん…」

誤魔化す気じゃねぇよな?!

「れも…ソクは…スヒョクの事気にしてる…すんごく気にしてる…」
「それで…妬けたの?」
「…ん…」
「はぁっ…」
「れももういい」
「…」
「もうてりゅんがしゅっごいからいい」

そーれすか?僕そんなにしゅっごいれすか?

はっいかん。顔がニヤけてしまう!
こんな事言ってても、またすぐフラフラすっからな、コイツ!

「もっかいきしゅして…」
「どーしよっかなぁ…」
「いやん、きしゅしてくだしゃい…」

ぐひー!きゃわゆいれしゅうう…

僕は、期待に胸を膨らませているようなイナに唇を近づけて…イナが多分一番ドキドキする距離でそれを止める

「あん…あんっ!」

きいっ!なんだよこの『ちょーだい』の表現は!きいっ!

「その喋り方、誰に教わったんだ?」

ちょっと怖い声で聞く
イナが蕩けるのが解る

「きちゅね…」

ミンチョルさん?…結びつかない…

「嘘ついたからお預けだ」
「あん!嘘じゃにゃいもんっ!ミン君に聞いてみてよ!」
「信じられない」
「あんあん!きしゅちょーらいっ!」
「いんらん!」
「…」

ひひ
涙目だ
だってお前いんらんだもーん

イナは膨れっ面で僕の頭を掴み、自分からキスしてきた

ああかわいい…たまんない…
僕はもう一度、イナの唇と遊んだ


ドライブ  オリーさん

中庭からホテルに入り、エレベーターの前に立った
祭が終わるまでは今のままで
ミンの兄さんには確かにそう言った
もう一度その言葉を頭の中で繰り返してからボタンを押そうとした
その途端、ドアが開いて中からミンが出てきた
「もう終わったんですか、打ち合わせ」
「あ、ああ。あれイナはどうしてる?」
「実はイナさん大事な物落としちゃって。僕ちょっと中庭まで行ってきます」
「中庭?」
「ええ、穴の近くで落としたかもしれないって」
「何を?」
「ペンダントヘッドと万年筆。テジュンさんの贈り物だって言ってベソかいてるんですよ」
「しょうがない奴だな。もう穴は埋めてあるから行っても無駄だよ」
「でも途中で落としたかも」
「いや、中庭へは行かなくていい」
「え?」
「イナに電話してみる」
ミンと兄さんを会わせたくなかった
「イナ、僕だ。お前何か落としたんだって?」
「れもいいのら、ひっく、ひっく、テジュンが持ってきてくれたのら。はむはむ…」
「は?」
「だからいまいそがしいのら…きゃっ!テジュン、ごめんなはい、相手はミンチョルれす」
「イナ?おい!イナ!」
「ミンチョルさん、テジュンです」
「テジュンさん、何やらお取り込み中みたいで」
「いやいや、すみません。あの落し物は見つかりました。ミン君にはそのように。どうもすみません」
「わかりました。僕達これからちょっと出かけるのでよかったら部屋使ってください」
「いいんですか」
「お泊りは困ります」
「わかってます。では」
「じゃ」パン!

「ミン、落し物はあったそうだ」
「なんだ、よかった。じゃイナさんテジュンさんに叱られなくてすみますね」
「いや、今叱られてるところらしい」
「は?」
「イナ達のことはいいから、出かけよう」
「え?どこに」
「いいから」
僕はミンの手を取って駐車場へ向かった
「どこに行くんです?」
「どこか、二人だけになれるところに行こう」
「でも明日の準備は?」
「どうせもう明日だ。今から騒いだって遅い」
「いいんですか」
「いいさ」
「デートみたい」
「そうだよ。今までそんなことしたことないじゃないか」
「どこまで?」
「どこだっていい。二人きりになれれば」
僕はそう言ってベンツのエンジンをかけた
「デートでドライブって初めてですね」
ミンはそう言って嬉しそうににっこり笑うと助手席に滑り込んだ
そうだね、最初で最後のドライブだ
僕はアクセルをゆっくりと踏み込んだ


30分一本勝負   ぴかろん

テジュンはミンチョルからの電話を切った後、トランシーバーでなにやら指示を出してそれからこう付け足した

「30分で戻る」

は?すぐ戻るんじゃないの?え?まさか…

テジュンは俺の服を脱がせ始めた

「ちょちょ…ちょっと待ってよ!さっき医務室でしたじゃんか…」
「…」
「ちょっと…足が痛いしさ…あ…こんな…ドアの前で…ここ…床だし痛いよ…テジュン」

足が痛くて思うように逃げられない
俺の事いんらんとか言う前にお前はいっつも俺を抱くことしか考えてねぇじゃんか!
俺はキスが好きなのに!
それに、入れ替わってくんねぇし!
いっつもお前ばっかりがスカッとしてないか?
ずるい!ぜってぇずるい!

俺は口をついて出るありったけの言葉を浴びせ、テジュンをとめようとした
けど…
テジュンったら火がつくとどうしようもない…あっという間にシャツを脱がせてベルトを外す…
抵抗すると俺の弱いとこを刺激する…
そして自分は服を着たまんま…
ぜってぇずるい!
あ…ああもうっ…

テジュンの手が首の後ろに伸びる
うるとらまんたろうを落っことした鎖を取り、新しい鎖に付け替える…
こんな格好でそんな事されたくねぇよ…
でも動けない
だって…キスしながらそんな事するんだもん…
なんか…テジュンのキス…パワーアップしてないか?
ぜってぇ誰かと練習したんだろっ

そう言うと
「過去からの積み重ね」
と言ってウインクした

体中にキスの雨を降らせる
それもさ、あのフェイント技をたくみに混ぜ込んでくるもんだから、俺は緊張しまくってて…余計に感じてしまう…

「背中すれちゃう」
「当ホテルの絨毯なら、背中も痛くないはずでございます」
「ばかあっ!あっ…ああっ…」

…妄想では、『なんの準備もせずに一つになる』んだったな…
まだ間に合う、やってみよう…

僕はまだ潤ってないイナと無理矢理一つになった
…きつう…
いつもと違う…
これ、ヤバイかも…
すぐ終わっちゃうかも…


いってぇ!いてえ!信じらんねぇ!何しやがんだよ!いてぇっ

涙が出た
いくら時間がないからって…
こんないきなり…
痛い
ひりひりする…
こんなのやだ…
痛いって言ってるのに…あ…あ…そんな…動くな…あ…あ…


うう
まずい
気持ちよすぎる…
だが…
このまま先にいったりしたら…
何を言われるかわかったもんじゃない
頑張らなくては…

僕は痛がるイナを突き上げる
波打つ体がから、叫びが聞こえる
そしてやがていつもの甘い喘ぎになる

妄想とおんなじら…
れも、僕…もうらめら…ああ…イナ…イナ…いっ


ああん!せっかく気持ちよくなりかけてたのにもう!かよ!ばかっ!

俺の胸でくったりしてるテジュンの頭を小突いてやった

「はひーごめん…」
「何が『今度はもっと長く』だよっ!」
「らってお前、気持ちよすぎる…」
「もう俺、テジュンとえっちしない!」
「…え?」
「俺はキスだけでいいもん!」
「…そうなの?」
「だって…早い…」
「…ごめん…」
「試しにさぁ…」
「ん?」
「俺がやってみて、どれぐらい持つか…勝負しねぇか?」
「…」
「どう?」
「却下!」

なんだよっ!なんで入れ替わってくんないんだよ!
俺だって一回ぐらいテジュンを抱いてみたいじゃんか


絶対イヤだ!
もしイナの方が長くできたら…
ああ、やっぱりイヤだ!
今日は疲れてるんだ
色々なことがあるから
疲れの原因はほぼ全てお前なんだからな!

あーあ
30分て言っちゃったけど、あと20分も時間が余っちゃった…はふ…


#追憶のあと  妄想省家政婦mayoさん

 「ちぇみぃ」
 「ん..何だ..」
 「さっきmayoさんがちぇみの後ろに乗ったときさ..」
 「ん.. 」
 「ちぇみがmayoさんの手を叩いてぴったりくっつけたでしょ?」
 「ぁ、ぁ、ぁれはしょうがないだろ.. ..」
 「ぅん..でさ..」
 「テス..お前何が言いたいんだ。ん?」
 「怒ってるんじゃないってばぁ..」
 「じゃ、何だ」
 「mayoさん..胸大きかった?」
 「て、て、て、テぇ~ス!」
 「ちょっと気になってさっ。えへっ...で、どうなの?」
 「覚えてない.. 」
 「うそ。教えてくれないならテソンさんの前で聞いちゃうよ?」
 「やめろ。テソンに悪いだろが..」
 「もう触ってるよぉ..」
 「そうか?..」
 「そうだよぉ..」
 「ん~~..あのな..#$%くらいかなぁ..」
 「やっぱりちゃんと覚えてるじゃん。すけべおやじ!!..グーッ★」
 「くぉ〜ん.. >o< お前が教えろって言ったんじゃないかぁ...」
 「えへっ…よしよし…」
 「ひん..」

別宅に向かう車の中で闇夜が左ひじ上を押さえていた
上着を脱いだシャツから少し血が滲んでいた

「怪我した?痛い?」
「ぅん…ちょっと…」
「別宅に救急箱ある?」
「まだないの…」
「そう…」

僕は別宅に行く途中で自分の部屋に向かい..救急箱と、取り敢えず必要なものを取りに寄った
別宅に着くと闇夜の手当てをした
自分でやると言い張る闇夜から薬を取り上げて
無理やり腕をまくるとひじ上にちょっと大きな深い傷があった
闇夜が厨房でどんなに暑くても半袖を着ない訳がやっとわかった

「唇も切れてる…」
「治して…」

僕は闇夜の唇に優しく触れた…

別宅のソファで夕方まで眠った闇夜の顔は元に戻っていた
僕がそばにいて目を冷やしていたから…
その間闇夜は僕の手をずっと握ってくれていた…

「明日時間が空いたら出掛けよう」
「何処に?」
「ん?いろいろ…揃えるんだ…」
「ふっ…わかった」
「結局部屋どうする?…一緒にするよ。いいね!」
「…」
「返事がないからOKだな」

そのまま別宅にいてもよかったけど..僕達はホテルに帰った


家庭教師  れいんさん

「トントン…」
ちょっとひかえめなノックのおとがへやにひびく
まただれかぼくにかんじをおしえにきてくれたのかな…

がちゃり…

そこにははじめてみたかおではないけど、はじめてあうひとのかおがあった

「あなたは…だれですか?」
「私はスハといいます。ミンチョルさんに祭りに参加するように呼ばれました
ずっと、携帯電話も繋がらない様な離島で教鞭をとってましてなかなかミンチョルさんとも連絡が取れなくて…
さっき、やっとこちらのホテルに着きました。祭りはもう明日だそうですね。私、なんの練習もしてなくて、皆さんの輪の中に入れなくて…
そしたらミンチョルさんに、とりあえず祭りの日までジュンホ君という方の臨時の家庭教師を頼むって言われました
こちらの部屋で間違いないでしょうか」

そのひとはすこしきんちょうしているようにみえた

「ぼくがじゅんほです。もとはぼくさーでした。よかったです。みんなぼくにしんせつにかんじをおしえてくれるけど、
いみがむずかしくてよくわかりませんでした。どうぞなかにはいってください」

扉が開いて部屋に通された。二人部屋…
こじんまりとしているけど感じのいい部屋だ…
ベッドの脇のサイドテーブルに家族写真らしい物が飾ってあった。帽子を被って映ってるのはジュンホ君かな。少し寂しそうな笑顔

「いいお部屋ですね。ジュンホ君は祭りの練習に参加しなくてもいいんですか?」
「はい。ちゃんとまいにちしょーのためにとれーにんぐしています」
そういうとジュンホ君は子供のようにニコッと笑った

無邪気で穢れのない無垢で純粋な瞳…
初めて来た場所、初めて会う人達、それも大勢の…
まだ、誰の名前すら覚えられず、居場所のなかった僕の心にすっと温かいものがしみ込んだ

「毎日、トレーニングと勉強をしているのですか?」
「はい。つまにてがみをかいたりもしてます」
「そうですか。おくさんに…。いいですね。愛する人に手紙を書けるなんて…」

ふと私は遠い昔の事を思い出した
月明かりの中、愛する人を思いながら、何度も何度も書き直してはやっとの思いで書き上げたラブレター
でもそれを思う人に渡す事はできなかった…。初恋は成就しないって、僕にとっては本当の事らしい…
昔を懐かしみ、ふっと笑みがこぼれた
ふいにジュンホ君の声が聞こえた

「どうぞ。ここにすわってください。なにかのみますか。とくせいのすたみなじゅーすがあります」
「いえ、飲み物は結構です。お構いなく」

僕はちょっと旅の疲れが出たのか、薦められるまま近くにあった椅子に腰を下ろした
安心したせいか、思いがけなく僕のお腹が鳴った

「あっ!」

僕とジュンホ君は同時に小さく声をあげた

「おなかがすいてますか?」
「いえ、大丈夫です」
「ぼくのべんきょうはあとでいいですから、したのらうんじでたくさんごはんたべてきてください」
「いえ…私は人ごみが少し苦手で…。こちらの方が落ち着きますから」
「あ…。じゃあちょっとまっててください」

そう言い残すとジュンホ君は部屋の奥に消えた
すると間もなくガランガランガシャンと何かが落ちたような物音がした。気になって急いで物音がした方へ様子を見に行ってみた

「大丈夫ですか?どこかケガでも?」
「あ。だいじょうぶです。ちょっとなべをおとしました」

ふと廻りをみまわすと小さなキッチン。普通の部屋だと思ったのに、こんな設備まであるなんて

「ぼく、なにかつくります。らーめんくらいしかできないけど」


ふらつく人 ぴかろん

俺はちょっと怒っている
何が30分だよ!
本人は10分って言ってるけど本とは5分だったかんな!
それもあんなひどい…
俺は傷だらけでしゅ!
動けましぇん!
だからシャワーを浴びさせろと命令してやりました!

そしたらにゃ〜は嬉しそうに俺を風呂場に引っ張っていった
何考えてんだかな…
お前は入ってこなくていいって言ったら、え〜でも僕も汗流したいもん…だってよ
ふん
汗なんかでてねぇよ!ばか!

でも足、痛むでしょ?って言うから
ああ誰かさんのせいでものすごく痛い!って言ってやった

結局俺の体を洗ったのはテジュンです…
でも…風呂場では何もしませんでした…
きしゅだけれしゅ
きしゅはしゅきなのれ、ついしちゃいました…
れもそれ以上は
「時間ないだろ」
と言って断りました
テジュンはちょっとつまらなそうな顔をしたけど
本とはホッとしてるんだって解りました

はあっ!

フロから出たらテジュンは大慌てで服を着て出て行きました

俺はフロントに頼んで松葉杖を借りました
え?
フラフラする気かって?

あったりまえじゃん!
さぁてぇどこへ行こうかなっと…
考えてたらテジュンから電話がかかってきた

「なに!」
「お前なぁ…松葉杖借りて何する気?」

言わない

「またソクんとこ行く気か?」
「いや、ソクはもういい」
「じゃあ何する気なの!」
「んーちょっと興味のあるものがあってぇ…」
「何!」

言わない

「とにかく、ちょっと散歩したら、僕の部屋にいるんだぞ!いいな!」
「へーい」

と言うわけで、俺は松葉杖で散歩に行く事にしたのでしゅへへっ


あずまや  足バンさん

夕闇迫るあずまやの周囲は静かだった
点在する外灯の灯がほのかに小さな建てものを照らしはじめた
ついさっきの雷雨を思い出させるものは木々の影から落ちる小さな雫だけ

スヒョクさんは俯いて座り込んだまま動かない
目は弱々しく足元の一点にそそがれている
先ほどのギョンビンの兄貴へのあの切るような怒りが嘘のようだった

「ね、スヒョクさん…もう戻ろうよ」
「ドンジュンは戻りなよ…俺はもう少しここにいるから」
「でも…」

僕はスヒョクさんの肩に手を掛けた

「スヒョクさん!服濡れてるじゃないっ!」
「ん?…うん…」
「なにしてるのさ、ね、早く戻んなきゃ」
「いいんだって。こうしていたいんだから」
「もぉ!…じゃそのシャツだけでも脱いで!風邪ひくって!」

僕は面倒くさそうに抵抗するスヒョクさんのシャツを強引に引っ張り
自分の羽織っていたジャケットを差し出した

「おせっかいだなぁ、おまえは」

そう言いながらもスヒョクさんはシャツを脱いで僕の上着を着てくれた

「さっきは…驚いた…あんなスヒョクさん初めて見たから」
「そう?」
「うん…ありがとう…」
「別におまえのためじゃないよ」

薄明かりの中のスヒョクさんはなにかとても弱々しく見えた

「テジュンさんとか…イナさんとか…なにかあったの?」
「なんでもない」
「なんでもないようには見えないけど…ソクさんに関係あるの?」

スヒョクさんは膝に肘をつき、顔を覆ってしまった

「これ以上聞かない方がいいなら…」
「だからなんでもないって言ってるだろうっ!」

スヒョクさんはいきなり顔を上げて怒鳴った
僕は突然の大きな声に驚いた
くるくる変わるスヒョクさんにあっけにとられた
BHCで見ていたスヒョクさんはいつも感情の起伏を見せない人だった
楽しそうにしている時も決して羽目は外さない人だった

「あの…」
「おせっかいもたいがいにしろっ!」
「スヒョクさん…」
「俺はおまえみたいに思ったことをすぐ口にするやつは苦手なんだ!」

僕は頭を殴られたようだった
なにをどうしたらいいのかわからなかった

「軽々しく飛び回ってるからさっきみたいにつけ入られるんだっ!」
「ス…」
「世の中はおまえのような太陽みたいな人間ばかりじゃないんだ!
陽の下に出たくない人間だっているんだ!無理に人を照らそうとするな!」

僕は頭のうしろのあたりが痺れるような錯覚をおぼえた
スヒョクさんの言っている意味を咀嚼する余裕はなかった

スヒョクさんの目はほんのわずかぴくぴくと痙攣している
吐き出されずに淀んでいる混乱と怒りの全てがその瞳の色に映っている
僕は今はこれ以上なにも言うことはできないと思った

「わかった…もう行くよ…」

立ち上がりかけた時、後ろからいきなり乱暴に腕を掴まれた
僕はバランスを崩し、床に半分倒れこんで膝を打った
振り返ろうとするとスヒョクさんは肩をつかみ床に乱暴に押さえつけた

「スヒョクさん!」
「スヒョンさんにするみたいにやってみろよ」

鍛えられたスヒョクさんは、その身体の線の印象よりもずっと重量があった

「スヒョクさん嫌だ!絶対おかしいっ!なんの意味があるのさっ!」
「俺じゃそんなことする気にならないのか!」

組み敷かれて足も絡められ、二の腕を押さえられどうにも動きがとれない
僕の心臓はまるで喉元まで上がったようだ

その混乱を縫うように音が鳴った
僕の携帯
それはスヒョクさんに貸した上着の内ポケットから聞こえる
長いその呼び出し音に僕たちは緊張した

デンゴンヲ オアズカリイタシマス ピー

『ドンジュン?もぅおまえどこにいるの?一旦休憩とるから戻っておいで』

スヒョン…

突然の懐かしいスヒョンの声に力が抜けた


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