秘密部屋20 妄想省家政婦mayoさん
俺はテソンの様子を見に秘密部屋に行くことにした
あいつはキム・ソヌには敏感に反応する…
いわゆる嫉妬だな
もともとBHCの連中は暗い影に似合う骨格をしているが…
ソヌが放つ暗い影のある眼光は
何処か曖昧な感情や、恐れ、怒り…復讐への決意
さまざまな意志を感じとれる感じがする
冷徹さと柔らかさを持ち、無邪気さと残忍さも共存している
少年のような顔で若い女とケーキをつまんだかと思うと
「私を怒らせましたね。気をつけてください…」
とボスに言ってのけ、組織を敵に回し復讐に燃える
闇夜が一瞬女の顔になったらしいが、当然だ。気持ちはわかる
テソンはまだその事にこだわってるらしい…
まったく…いい加減大人になれ
おそらく今も奴はざわついているに違いない
テソンに喝!を入れねば
秘密部屋のドアを開けた
窓際で振り向き俺を見たテソンはちょっとアヒル口..(・=・)こんな顔になっていた
(何て顔してんだ…全く…思った通りだ…)
「テスは?」
「ん…今は<アタシ>のところだ。闇夜は?」
「今寝てる。ここんとこちょっと体調悪いんだ…疲れやすい..」
「そうか…テソン、何かあっただろう…何があった」
「僕…」
「ん...」
「僕、闇夜に酷いことした」
「お?お..お..お前…い・いきなりやっちゃたのかっ!?」
「ちぇみ!」
「ふぉ?違うのか?」
「僕…頭ん中..ざわざわいっぱいになっちゃって…自分でも覚えてなくて…」
「ん…闇夜はそれに気づいたんだな?」
「ぅん…でも怒らないんだ…僕を責めないんだ…」
「ふっ..その方がよっぽど効き目があったみたいだな」
「ぅん…効いた」
「お前に信じて欲しいんじゃないか…」
「…わかってると自分で思い込んでいただけだった」
「お前…ただのスカ対として闇夜の中にいるソヌと張り合ってどうする…」
「ちぇみ…」
「あの闇夜が今お前を選んでるんだ。あの闇夜と向かいあってるのはお前だろう…」
「"あの"は余計だよ…」
「おぅ、すまん^^;;…惚れたら惚れただけ執着するのはわかる。それは誰でも同じだ」
「ぅん…僕はそれが強いかもしれない…昔から…」
「だが押し付けるな…闇夜が一番嫌がることじゃないのか?」
「ぅん…」
「あいつは一回離すと二度と戻ってこないぞ。それは覚悟しとけ」
「脅かさないでよ…」
「ぃゃ..これは脅しじゃない..」
「ちぇみ..」
「今は随分要塞も低くなったんじゃないのか?」
「ぅん…でも慣れるとまた駄目..」
「やっかいな奴だ..焦るな…テソン」
「わかってる」
「闇夜は..普通のおんなじゃないからな」
「でも...そこがいい…次はどんな闇夜が見えるかわくわくするときある」
「おい!結局のろけか」
「だって…」
「だって、何だ」
「好きだもん…」
「テソン!やっかいなのはお前もだ!」
「はい…@@」
2人の会話を毛布から首だけ出し..密かに聞いている闇夜であった…
どうにか出て行かなくても済みそうだ…と闇夜はふっと笑った
抜けない棘 ぴかろん
彼が眠っていない事を僕は知っていた
彼の心が揺れ動いているのも僕は知っていた
僕は彼と一緒に生きていっていいのだろうか
眠ったふりをしながらいつも考える
僕の膿は全て流れ出てしまい、ぽっかり空いたその心に
彼をすんなりと収めた
それでよかったのだろうか…
ねえ、僕はあの時、君と一緒に逝けばよかったのかな?
久しぶりに彼女に問いかける
彼とともに過ごすようになってから僕は
この問いかけをしなくなった
なぜなら僕は生きているから
彼というかけがえのない人とともに生きているから
一人で過ごしていた時は
よく彼女に問いかけていた
彼女は答えてはくれなかった
なぜ?なぜ答えてくれないんだ。僕一人を残して逝ってしまったくせに…
そう思って泣いていた
そして早く彼女の元へ逝きたいと願っていた
自分で自分の命を絶つことはできなかったけれど…
僕は思う
僕がこの世に残ったのは彼と出会うためだったと
僕の囚われていた世界を壊し、僕を救い出した彼と
残りの人生を生きていきたい
そして今、こんなにも心を痛めている彼を救いたいとそう思う
だから僕はあの時、君とともに逝かなくてよかったんだね
僕にはすべき事があるんだね
君を助けたい
自分に嘘をつかないでほしい…
お義父さんを思う君を僕は苦しめているのかな…
けれど何もしないで諦めてしまうのは
そうやって心を閉ざしてしまうのは
ウシク
ウシク
それだけはやめてくれ…
あの頃の僕のような
そんな生き方だけは選ばないでくれ…
君の本当の気持ちを隠して生きるようなことだけは
お願いだからやめてくれ…
毎晩のように僕の唇をなぞる君
僕は君の体を押さえつけて
君に口付ける
涙を溜めた瞳を見開いて
君は僕を見つめる
僕は僕の想いを伝える
君が決めたとおりにすればいいと
君は涙を流して首を横に振る
揺れ続けている君
ねえ、体が離れていても
僕達心は一つだろう?
君がお義父さんを選ぶなら
僕は待つよ、君が帰ってくるまで
君は美しいその瞳から涙を溢れさせて僕の顔を撫でる
離れたくない
でも捨てられない
一緒にいたい
でも殺したくない
ごめんなさいごめんなさい
幾度もそう呟いていた
いいんだ
待つから
けど、本当の事は伝えてほしい
君の本当の心をお義父さんに…
彼は顔を覆ってできないと叫んだ
できないできない、そんなことしたら殺してしまう
彼女を愛してないと言ったら
お義父さんは死んでしまう
僕は彼を抱きしめた
伝えなければ君の心が死んでしまう
僕がそばにいてあげるから
僕が一緒にいてあげるから
君の心を殺さないで
きっと伝わるから
きっと解ってくれるから
お義父さんも君も生き残るから
彼はしゃくりあげて泣いていた
僕はその唇にむしゃぶりついた
たまらなく彼が欲しかったけれど
これ以上彼を苦しめたくはなかった…
ふたりの目 足バンさん
イナは穴の中でふてくされた声を出している
「いいよ!俺なんとか踏ん張るから」
「無理ですよ」
「いいよ!」
こいつスヒョクに絡んでやがる
ちょっと覗くとイナは腕を組んでふくれっつらをしている。顔に泥をつけて
あいかわらずかわいいやつ
「僕に助けられるのがイヤらしいな…放っていくか」
「え?」
「行こう、スヒョク」
「え?あ…ソクさ…」
ホテルの方に向かって歩き出すとスヒョクが走り寄って腕を掴んだ
「まずいですよ。挫いてるし。テジュンさんにも頼まれたし」
「ホテルの人間がもう来る」
「なんでイナさんは…」
「ん?」
「ソクさんに助けられたくないんですか?」
「わからん」
本当はわかっている…
地下室の中でスヒョクが僕にしがみついて泣いた時
僕はスヒョクの古い傷を押し広げて膿を出してやったつもりだった
スヒョクが思いがけずあまりに泣くので、長いこと抱きしめてやった
そしてそのくしゃくしゃの顔を覗き込んだ時…内心焦った
その顔がイナとダブった
僕は息苦しくなって彼を離した
「行こう。もうここに用はない」
スヒョクはハイと言って袖で必死に涙を拭いている
鼻の頭を赤くしたスヒョク…一生懸命なにかを越えようとしているスヒョク
硬く閉じていた蓋を開けてしまった僕
悪い…そんな今の君に彼を重ね合わせたりして
僕はスヒョクの頬を軽く叩いてドアに向かった
スヒョクは僕のうしろにぴったりついていた
「やっぱり俺助けます」
「ん?」
「ソクさんとイナさんに何があるか知りませんけど、放っておくわけにはいきません」
僕を引き止めるその手は強い力で動かない
そしてその目には強い挑戦的なひかりが走っていた
僕が答えずにいると、スヒョクは引き返し穴に向かった
イナに向かって何ごとか話しかけて振り向いた
「ソクさんっ!俺が降りるから外から引っ張ってください!」
「…」
「いいですねっ!」
いいですねと言ったその顔はひどく厳しい表情だった
僕は従わざるを得なかった
スヒョクはするりと穴の中に身を滑り込ませた
仕方なく近づいて覗き込んだ僕の目に一瞬2人の視線が同時に絡んだ
イナはふっとまた下を向く
その表情を瞬間じっと見つめるスヒョク
スヒョクはイナを促し痛んでいない方の足を自分の膝に掛けさせた
イナは僕が差し出した手にちょっとためらってから掴まった
抱き上げられ引きずり出されたイナは僕に抱きかかえられる格好になった
ほんの一瞬だったが僕はいま一度イナを抱きしめた
イナの肩の向こうにこちらを凝視しているスヒョクが見える
イナは足を引きずりながら、するりと腕から抜け出した
テジュンが戻って来た
「イナ大丈夫か!すまなかったソク、スヒョク君」
イナは何も言わずにテジュンの元に行った
そしてすれ違いにスヒョクが僕の元に歩いて来た
「ソク、地下室は?」
「ああ、ありがとうすぐ入れた」
「何かあったのか」
「いや、ただ…捨て犬を拾っちまったもんでな」
テジュンとイナは同時にスヒョクを見た
スヒョクはきまりが悪そうに下を向いた
イナの視線が小さく泳ぐのを見たような気がしたが、それ以上追わなかった
テジュン、うまく水やれよ
引潮 ぴかろん
唇を塞ぐ僕を顰めた顔で見る君
涙で濡れた君の顔を僕は包む
そっと唇を離すと君はハアハアと荒い呼吸をした
そんなに
息苦しい?
彼は余計に顔を顰めて、もっと泣いた
しゃくりあげる喉から搾り出す叫び
せんせいなんかにあわなきゃよかった
せんせいなんかすきになんなきゃよかった
僕の胸に痛みが走る
僕の目から涙がこぼれる
僕は彼の額に僕の額をつけ
彼の目を覗き込んだ
でもウシク…出会ってしまったんだよ…
時は戻らない…
どうしよう…どうしたい?
彼は泣きじゃくって首を横に振るだけだ
そんなに辛いなら…君の心から…僕を殺してしまえばいい…
彼の目が見開かれる
僕の心には君がいる
僕は君を想い続けて待つ
けど君は、僕を殺せばいい
そうすれば楽になるよ
彼の頬から離そうとした僕の手を
彼は強く掴んだ
僕の瞳をまっすぐ見つめる揺れる瞳
僕に語りかける震える唇
そんなの…それじゃ先生、前と同じじゃないか!
また閉じこもってしまう気なの?!
だめだ。ダメだ!先生いやだ!ダメだ!
また止まっちゃうの?!
また自分の中に逃げ込むの?!
先生こそ僕を殺してよ!
先生の中から僕を消し去ってよ!
君を消すなんて僕にはできない!
君が僕を重荷だと感じるなら、君が僕を捨てればいい
僕は平気だ
逃げてるんじゃない
君は生きてこの世にいる!
だからまた必ず会える
僕は待つ
君に会えてよかった…
君を好きになってよかった…
僕は…幸せなんだ!だから待てる
先生…僕はどうすればいいのか…わからないよ先生…
僕はまた彼を追い詰めてしまったのかもしれない
君の思うままにすればいい…けどウシク
今はその事を考えるのはよそう…
もう祭が始まるよ
お義父さんに会いにいくまでは
その事を考えるの、よそうよウシク…
泣き続けるウシクの背中を抱いて
僕は彼の髪に顔を埋めた
てそまよ部屋 妄想省家政婦mayoさん
「テソン...」
「何?」
「ん...ぁの...ぁれだ...その...」
「何よ。ちぇみらしくない...」
「お、ぉぉん...テスの...前の...知ってるか?」
「ぷっ...聞いてないの?テスから...って聞けないか...気になるの?」
「ぉ...ぃや...気になるというか...俺は後のことは何も知らんから...」
「闇夜の方が詳しいよ。後で聞いてみるといい」
「そうか…あいつのために全部知っておかないと..」
「ちぇみ」
「何だ」
「テスが可愛いんだね」
「そうだ。あいつは離したくない」
「よっぽどよかったんだ」
「テソぉぉ〜ン!!」
「くふ..ごめん」
「お前もいつかそうなる」
「えっ?」
「ぐはは…お前みたいな奴はな..一度やっ…」
「何よ」
「いや..何でもない。なぁ〜んでもない..ぐはは…」
「もう何もしないもん…僕は何もしない..」
「ずぅぅ〜と何もしないのか?」
「ぁ..お..ぅ..ぅん」
バタン★
「ちぇみぃ〜」
「お、テスぅ…終わったのか…」
「うん!お腹ペコペコ〜」
「テソン、闇夜は起きてるはずだ。飯食いに行こう」
「え?起きてる?」
(ちっ..ちぇみめ…お見通しかい..)
闇夜はソファから起きあがりカーディガンを羽織った
開き直り ぴかろん
イナは動揺している
解りやすい奴だな…
「大丈夫か?」
「…」
「イナ?」
「あ…なに?」
「足、大丈夫?」
「…んあ、ああ…」
「医務室までおぶってやる」
「…テジュンが?!無理無理。ぜってー途中でぶっ倒れるって、その腹筋じゃぁ」
「…」
喋りすぎ
目が泳いでる
バカ
浮気者
僕はイナを少し睨んで、そこで待つように言ってそして…
「悪いけどイナを医務室までおぶってってくれないか?」
ソクに声をかけた
ソクの呆れた顔が僕を責めている
「肥料を間違えるなと言ったろう!今は」
「あいつが今求めてるのはお前だ!」
「…」
ソクは黙り込んだ
「甘やかしすぎだぞ、テジュン」
「仕方ないだろ…僕が何を言ったってアイツの心は変えられない…」
「…浮気に付き合わされる僕の身にもなってみろ!」
「それは…こっちのセリフだ…元はといえば」
「元はといえばなんだ!僕のせいだって言うのか!」
「…いや…すまない…とにかく…医務室まで…頼むよ」
「…」
ソクは無言でイナのいる方へ行った
スヒョク君がその背中を見つめていた
寂しそうに見えた
「ソクさんはイナさんが…好きなんですね…」
「…」
「イナさんは?テジュンさんの恋人なんでしょう?どうして…。ソクさんの言うとおり、甘やかしすぎじゃないんですか?」
「…君は…ソクが好きなの?」
「…僕を…理解してくれるのは…あの人しかいないから…」
「…」
「あの人を…もっと知りたい…」
「イナはアイツの事、何も知らないんだ」
「え?」
「ただキスだけ…フッ…どうしょうもないだろ?」
「…」
「はぁっ…たまんねぇな…ズキズキするよ…なんで君等が通りかかるんだよ…」
「…階段を上がり終えた途端、ソクさんは何かに気づいたようで…足早にここまで来ました…」
「…聞こえたってことか…イナの声が…」
「…」
「くそっ…無理矢理にでもヤっとけばよかった…」
トイレで…
そんな事でしかイナを引き止められないのかもしれないと、僕は情けなく思った
「ご主人様から仰せつかった。おぶされ」
「…なんでアンタが…」
「早くしろ!」
「…」
イナの手が小刻みに震えている
僕の肩に遠慮がちに掴まる
僕はイナをおぶって廊下を歩き出した
イナの重みが僕にのしかかる
首筋にイナの気配を感じる
きっと顔を背けているんだろう…
イナの唇を思い出す
泣いているように喘ぐ声を思い出す
しがみつく腕を
恐れながら近づく瞳を
抱きしめた時の、意外に華奢な感覚も…
全てが背中から流れ込む
心がざわめく
血が滴り落ちるように心がしくしくと痛む
こいつの心など、何も解らないのに
なぜ僕はこいつに…惹かれてしまうのか…
医務室に着き、僕はイナを降ろした
医者がいない
「つっ…」
「大丈夫か?…お前、明日のステージ…どうするんだ?」
イナはフフっと笑って僕の方を見て…すぐに視線を外した
「テーピングすりゃ大丈夫だ…型の披露だけだし…一瞬だもん…あ…ありがと…テジュンじゃこんな早く着かなかったな…」
僕は湿布薬を探し出してイナの足の手当てをした
「…テジュンを…困らせるな…」
「…テジュンが俺を困らせてんだぞ!アイツ、トイレでヤろうとしたんだぜ。ヘンタイだと思わないか?!」
饒舌なイナ…隙だらけのイナ…
「僕を…求めるな…」
「…求めてなんかねぇよっ…ただ…スヒョクといるのが…気になってさ…」
「…お前だってテジュンといるだろ?僕は一人じゃなきゃいけないのか?」
「…スヒョクには…優しく笑ってた…話しながら歩いてた…飯も食ってた…
俺にはそんな事しなかったじゃねぇか…だから…気になって…」
「呆れた男だ。テジュンの恋人のくせに…」
黙り込むイナ
「…ずるいじゃん…俺には酷い事しか…しなかった…」
「僕に拗ねたって仕方ないだろう。僕はお前の恋人じゃないんだぞ。何もかも自分の思い通りになると思うな」
「解ってるよ…わがままだって解ってるよ…放っといてよ…」
気まぐれな奴、わがままな奴…どうしようもない男
たまらなく可愛い
「ほんとに…これで…ケリを…僕も…」
お前が好きだ…だから…これで終わりだ…
ソクが俺の頬を優しく包む
ソクの瞳が俺を覗き込む
俺の顔を、俺の全身を
まるで脳に刻み付けるようにゆっくりと眺める
ソクの瞳に光るものがあった
初めて見るソクの涙
初めて見るソクの優しい…顔…
ソクの唇が俺の唇に触れ
俺は扉を開ける
ソクの舌を迎えに行き
俺の舌が絡め取られる
俺は
ざわつきもせず
痺れることもなく
ただなぜか哀しくて
夢中なのに夢中になれない
そんな哀しいくちづけを
長い間、ソクと交わした
離れようとすると引きとめ
求め続けた
ソクが少し唇を離した
「…きりがないよイナ…」
「…ふ…」
「もう…終わりに…」
「言葉でケリつけたって、気持ちがついてかねぇんだ!仕方ねぇだろ?!」
「…イナ…」
「…どうしようもないな、俺って…」
「そんな奴を愛してる珍しい男がいるじゃないか…僕はお前には付き合いきれないぞ…」
惹かれてはいるけどな…
「俺だってアンタなんかじゃだめだ!テジュンでなきゃ…」
「だったら苦しめるなよ」
「…しょうがねぇじゃん、アンタの事…好きなんだから…」
そう言うとイナはまた、僕の唇に吸い付いた
いいのかな…とふと思った
いいのかもしれないなと…ふと思った
スヒョクの顔が浮かぶ
不思議と罪悪感はなかった…
「イナ…お前…悪いと思わないのか?テジュンに…」
「ん…アンタに心は奪われてないもん…キスだけ…」
これだからな…
『キスだけ…』
そうだな、僕はたちはお互いのキスが好きなだけなのかもしれない
ふっと心が軽くなり、僕はイナの唇を楽しんだ
「…あ…ふ…」
イナは眉を顰めた。ようやく感じ始めたようだ
淫乱な奴…
「痺れたかったらいつでも来いよ、キスしてやる」
「…ふ…」
僕達は…浮気者なんだな、イナ
ぐったりしたイナをそこに残して、僕は怒った顔をして待っているだろうスヒョクの元に帰ることにした
てそまよ部屋2 妄想省家政婦mayoさん
4人で食事したあと秘密部屋に戻った
テスは闇夜とソファで話をしている
僕とちぇみはデスクで闇夜が用意したテスの資料を見ながら話をしていた
「ねぇmayoさん…」
「ん?何…」
「mayoさんはテソンさんのこと好き?」
「ぁ…ぁ…あの…ぁひ…ぉも…急に何言い出すの…」
「テソンさんはmayoさんのこと好きだよ、すっごく好きだと思うよ?」
「ぁ…ぁ.ぅ…^^;;..」
「わかってる?」
「ぁ…ぃ..ひぃぃ〜ん..^^;;..」
「僕はちぇみのこと凄く好きだからよくわかるもん」
「ぁ..ぁふ…そ、そう…^^;;」
「いつも真っ先に心配してるよ?わかってる?」
「ぅぅん…」
「大丈夫?とか..これ食べろぉとか..こっちにしろぉとか..いっつも見てるよ?」
「ぅぅん….」
「テソンさん、暖かいでしょ?優しいでしょ?」
「ぁ…ぁ.ぅ…ぅぅん…^^;;」
「テソンさん、mayoさんじゃないと駄目なんだよ?」
「ぁ…ひ〜〜ん^^;;」
「テソンさんの気持ち、受け入れてあげなよ」
「ぁ…ぁ.ぅ…ぅぅん…^^;;..」
「いつも思うんだ」
「何?」
「喋らなくてもお互いの事わかるのに何故ひとつにならないのかなって」
「ひひぃぃぃぃ〜ん >o< て・て・て・す…さん」
「迷うことないのになぁ…テソンさん好きなら自然にできるじゃん」
「そ・そ・そんな…簡単には…ぁの…さ….」
「オーナー達だってOKOKなんでしょ?」
「ぁひぁひぁひぁひ…」
「僕がね、ちぇみのこと幸せにしたみたいに」
「ぅ..ぅぅん…」
「テソンさんを幸せにできるのはmayoさんしかいないの」
「テスさん^^;」
「って、これは…ちぇみが言ってた。えへっ」
「ヘ?」
「闇夜..腹決めろ…ってこれも言ってた..えへっ」
「ぁう…@@(…ちぇみめ)」
「今済州島はオールインと理事の人気で日本人の観光客が増えてるでしょ?」
「ぁぁ」
「だからこの3人は..ここと..ここと..ここで仕事してる..で、チョンエとテスは婚姻関係ないって」
「へっ?」
「だからぁ..籍は入ってなかったの」
「そうなのか?」
「ぅん..で..チョンエは最近売れてるからあちこちのドラマに出てる」
「ん...」
「確かにテスはチョンエに夢中だった。でも昔のことだよ」
「テソン」
「テスが言わなかったのはこれからの2人に関係ないと思ったんじゃないかな」
「ん..」
「テスはちぇみしか見てないからさ」
「わかってる」
「じゃ…もういいね。これ」
「あぁ…すまん…」
「いや、いいよ。ね、向こう何話してるの?」
「お?」
『いいぞ..テス..闇夜にもっと言ってやれ!』
『うん!ちぇみ〜』
振り返ったテスはちぇみと目@@で語っていた
要塞崩壊はまだかまだかと動向を見つめるちぇみテス..そしてオーナー達@@
諦め ぴかろん
ソクが帰ってきた
スヒョク君は強張った顔でソクを迎える
ソクは表情を崩してスヒョク君の頭を撫でた
「へぇ〜お前ってそんな事できる人なの?」
「キム・イナのせいでな…」
スヒョク君は俯いてしまった
ソクはスヒョク君の肩を抱いてホールに向かおうとした
けれどスヒョク君は動かない
「どうした?」
「…いえ…」
「怒ってるの?」
「…貴方の事が…知りたいです…」
ソクは少し驚いた顔をしていたが、やがてにっこり笑っていいよと答えた
そして僕に向かってあのキス男は医務室でくたばってる、美味しいからまたおかわりするとほざき、
そしてウインクしてますます強張った顔のスヒョク君を引っ張って行った
おのれぇっ!「キス男」だとお?!
くたばってるってことはまた電撃か?!
でも…僕がソクを与えたのだし…
僕は不思議なぐらい落ち着いている
嫉妬していないわけではないが、以前ほど心配でもなくなっている
これって慣らされてるってことか?
医務室のドアをあけると、ベッドの上にイナがいた
なるほどくたばっている
ああ、美味しそうだ…
「この野郎…僕がお前と一緒に行くって言ったから安心したんだろう!浮気し放題か?」
僕はイナに毒づいた
イナはまだソクのキスの余韻に浸っているのか艶っぽい声を出して上体を起こした
淫らな奴…ほんっと、どうしようもない奴
こんな風にしたのはほんとに僕なのか?
「…テジュン…何のこと?」
しらばっくれてんの…バレてんだぞ!キスしてたって…
イナは潤んだ目を僕に向けてソクと遊んだ唇をなぞっている
コイツ…こんなにいやらしかったっけ?
僕は静かにイナの横に座り、自分の唇をなぞっているイナの指を握って食べた
「おいし…」
イナの顔が歪む
全部食べてやる
美味しいのは解ってる
アイツに与えるのは唇だけ!
それ以上は許さないからな、イナ
僕はイナのシャツのボタンを外し、へそにキスしてやった
「あ…」
ふん
奇襲だ
ここで抱く
抱くったら抱く
僕はイナのベルトを外し、続けてファスナーを降ろす
抵抗さえしない
ふん
そんなに凄いのかよ、ソクのキスは…
「足、痛いよ…無理」
うるさい!この浮気者!
「やだ、痛いよ、テジュンやめろよ!」
「痛くないようにしてやる!」
「なんでこんな事するんだよ!」
「自分の胸に聞いてみろ」
「ああっ…くっ…あっあっ…」
しなるイナの体
足は大丈夫かな…
庇ってるつもりなんだけどな…
ああ…イナ…
イナの息遣いが僕を走らせる
片足だけ脱がせたズボンが絡まっている
「あっん…ん…」
押し殺した声が僕を虜にする
「何考えてる?」
「あっくっ…言わないっ…」
「ソクの事?」
「ちが…あ…」
「誰の事?」
「あ…テジュ…テジュンああっ」
イナのその美しく歪んだ顔を見ていると
僕は我慢が利かない
だって久しぶりなんだもん
もうダメだもん
吐息の漏れる唇に吸い付いて僕は果てた
はやいかな…
「イナ…」
息遣いが荒い
「次はもうちょっと頑張るから…」
「ばか…」
「足、痛くないか?」
「痛い…」
「バチだ」
「なんだよ、それ」
「しらばっくれんな、こいつ!」
「テジュン…」
「何?」
「俺でいいの?」
「ああ。浮気しようが何しようが、僕はお前がいいの!そんなお前が好きなの!解ったか」
「…ごめん…」
「ったく、よそ見しないなんて大嘘だな!」
「…ごめん…一箇所だけだから…」
「って…これからもやる気なの?!」
「えっとぉ…あっああっあ、やだっあっ」
僕はムカついたのでそのままもう一度…挑戦してみた…
代理 足バンさん
もうやたら忙しくてかなわない
ミンチョルはもう顔を出すと連絡があったがなかなか降りて来ない
おかげで会場のスタッフはみんな僕にあれもこれも聞きにくる
イナはテジュンさんにくっついてるだけで全然役に立たないし、
PD代理っていったってなんだかよくわからない進行表見てとにかく了承しまくるだけだ
MUSAの連中は練習のし過ぎで足腰が痛むと文句を言ってくるし
男組の連中はもう待ちきれないから開催を繰り上げろと言ってくるし
あいかわらず隊長は目が合うたびに敬礼して涙ぐむし
ポラリスのミニョンさんは進行にしきりに口出ししたがるし
ミンチョルの弟はどうも音がはずれるのでマイクを換えろと言ってくるし
オールインのやつらは練習でメイク道具使い切って追加発注を出すし
クラブスキャンダルのボンは庭の池で魚つりしてるし
ヘヴンのぼっちゃんは海岸でピアノ弾きたいから2元中継しろって言い出すし
その秘書のチャンさんは尻に椅子ひっつけて動き回ってるし
ああそれからファッションショーの変な先生が会場をうろうろして
出演者を右から左からじろじろ見て回ってるし
トファンさん達は練習は完璧だといってゴルフに行っちゃうし
ミミさんは薔薇風呂のコツを部屋に来て教えろってうるさいし
そしてだっ!
ドンジュンのやつが僕が忙しいのをいいことにじっとしていないっ!
目を離すとすぐどこかに飛んで行って帰らない
気になって仕事が手につかなくなる頃にいつの間にか戻っている
僕が文句を言おうとするとちょっと悲しそうな顔をして首に巻き付きいつものあれだ
「僕が心から愛してるのは?」
「ぼく…」
って答えてしまう僕も僕だがっ!
あぁ、さっきからまた見当たらない!どこに行ったんだっ!
そんなことを考えていると舞台の一角からざわめきが聞こえた
「スヒョンさん!」
「どうした?」
「テジンさんが腕切ったっ!」
慌てて舞台に駆け上がるとテジンが左腕を押さえて顔をしかめていた
包丁で切ったらしい
「どうしたんだっ!もうパフォーマンスの練習は終わっただろう」
「すみません…ちょっと仕上がりが不安で…」
「どれ見せてみろ」
左手の甲を切った傷はそれほど深いものではなかった
しかし…僕はその握った腕からなにか深い不安のようなものを感じ取った
舞台の仕上がりの不安?
いや…そんなものじゃない
「テジン…大丈夫か?」
「え?」
「なにか…困ってることでもあるんじゃないのか?」
その時、テジンから流れこんできそうになっていた意識が遮断された
僕は驚いてテジンを見つめた
「そんな…なにもないですよ」
そう言ったテジンだが、のど仏が小さく動くのを見逃さなかった
「とにかく手当てしてこい。消毒だけでも」
「はい…」
「いや、僕が一緒に行こう」
「いいですよ、ひとりで行けますって」
「PD代理の責任がある」
テジンはちょっと迷惑そうな顔をして、仕方なく僕とともに歩き出した
可愛らしさのわけ ぴかろん
服を整えた僕等は顔を見合わせてクスッと笑った
本とはお前は笑ってられる立場じゃないんだぞ
そう思ってちょっと睨んでやった
そしたら、とびっきり可愛い顔して僕を見る
しょうがないなぁ…
「もうちょっと休んでろよ」
頭を撫でてやったら腰に巻きついてきた
たまんない…かわいらしすぎて…
「ごめんね…ごめんねテジュン…」
ふん
悪いなんて思ってないくせにさ…
「テジュンがかまってくれないからさ…」
「ずーっと一緒にいるじゃん」
「…テジュンが抱いてくんなかったからさ…」
「だからトイレでしようっつったろ?」
「…テジュンが…」
「僕のせい?」
「…ん…」
「こんな時にそれはずるいでしょ!」
「…テジュンがソクをよこしたんじゃんか…そんな事したら普通俺はソクとキスするに決まってるじゃんか!テジュンのせいだ!」
なんつー屁理屈だ…
僕はゲンコをつくり、はーっと息をふきかけ殴るふりをしてみた
イナはちょっとだけ首を竦めて唇をとんがらせた
んっふっふっ
か〜わい〜い
はむっ
はむはむはむ
「…ん…も…」
コイツって、ソクとキスした後、特別可愛らしくなんのな…
ちょっとは悪いと思ってんのかな…
はむはむしながらそう思った
でもはむはむしてる時間ももうない
「…ん…お前、どうする?ここにいる?」
「やだ」
「じゃ部屋にいる?」
「やだ」
「じゃどうすんの!」
「一緒にいる」
「僕今からずーっと移動し続けるんだけど…お前その足じゃ無理でしょ?」
「しゃびしいじゃんかぁ」
ちょーでちゅか…ちゃびちいのでちゅか…ってヘラヘラするとでも思ったか!この浮気者!(でへへ〜)
んちゅっ
「…んもぉっ」
いひひかわいいっ
も一回はむはむはむ…コンコン☆
ん?キツネが鳴いた?
コンコン☆
「誰か来たみたいって言ってるのにっテジュ…」
「…。…どぉぞっ」
「…んんっ…」
「失礼し…」
「…んんちるっ」
「キシュ中とは失礼っ…」
「ん?あっ!ミンチョルさんっ!」
「こりぇが…うわしゃ…さの…チューチュートレインですか…
ところでイナ。ケガしたって?明日大丈夫なのか?」
「ああ、型だけだろ?」
「型のほかに板を割ってほしかったんだけどなぁ」
「聞いてねぇぞ」
「『聞いてねぇ』んじゃない。お前が申し送りの時にいなかったって報告があった。お前何やってたの?」
「申し訳ありません。私が連れまわしていて、それで…」
「テジュンさんのせいじゃありませんよ。どうせコイツがテジュンさんの言うこと聞かないでケガしたんでしょ?」
『なんでわかんの…』
「自業自得です」
「あっそうだ…ミンチョルさん、イナをお部屋で預かって貰えませんか?こんな足だし、休ませた方がいいでしょ?
ついでに明日のショーの打ち合わせもできましょうし…」
「何いってんだよ、休ませなかったのお前じゃん!」
「…わかりました、テジュンさん。一応夜の九時までならお預かりいたします。それ以降はちょっと…」
「はい、お願いいたします。九時には迎えに参りますので…」
僕はイナの事をミンチョルさんに頼んで、残りの仕事を片付けることにした
おともだちといっちょ ぴかろん
「イニャ、にゃんかあっらの?にゃんかお前いりょっぽいのら」
「俺しゃぁ…」
「まねしゅんな!」
「らってこうやって喋ららいと、はじゅかしいモン…」
「じゃいいよ、真似しても」
「あのしゃ〜俺…浮気…許してもりゃえちった」
「え〜っじゅるいっ!」
「れもソクらけね」
「え〜?信じらんにゃ〜い。にゃんれ許しゅわけぇ?」
「ん〜ハッキリ言ったわけりゃないけろ…怒んなかったし泣かなかったし…優しかったし…らから…いーのからって…らから…今後もソクとはチウするら」
「は?!なに寝ぼけてるら!公認の浮気らなんて!しょんな羨ましい事なんれ許しれもらえるら!」
「浮気してもしゅきっていっれくれらのら」
「にゃにっ?!しょんなの卑怯ら!僕らんか間違いのチュウらけれも怖いのに…」
「らって…ソクがうろついてるとちゅい…」
「ああなんたる浮気者ら!なしゃけないっ」
「れもしゃ、お前が電話れミン(兄)との事いわなかっらら俺は…ソクなんか意識せずに…いたはずなのらっ!」
「僕のしぇいにしゅるのかっ!部屋に入れてやんにゃいっ!プン」
「ふん!先に入っといてやるっ」
「あっじゅるいのら!はっ…ましゃかミン…裸らったらろーしよう…」
バタン☆
イニャは僕の部屋にはいっちって、鍵をかけてしまったのら…
おういおうい、あけれ〜あけれ〜
狼シャンがくるよぉ〜
子ギチュネを狙いにくるよぉぉぉ
あうあうあう〜
ミンにおこらりるようあうあうあう〜
イニャはしばらくしてかりゃ、ドアの鍵をカタンと開けたのら…
ちょっと詳しく話を聞くのら…
挨拶 オリーさん
「練習する?」
そう言うとギョンビンの隣のシートに腰掛けた
「ミンチョルさんは大丈夫?」
顔を思い切り近づけてギョンビンの目を覗き込む
と、その顔にあれっという疑問の影がさす
「誰?」
浮かんだ疑問をすぐ口に出す。素直だ
「ギョンビンじゃない。さっきバレンチノ着てた人だよね」
さらに質問は続く
「双子なの?」
ギョンビンは感じの良い笑顔を浮かべて首を振る
「双子じゃないよ」
「そっくりじゃないか」
「僕の名前はミン・ギョンビン。同じ名前なんだ」
「へ…」
きつねにつままれたような顔。可愛い
「僕はあいつの兄なんだ。名前は一緒」
「うそ…」
そう言いながらもギョンビンの中に兄のかけらを探している
「ギョンビンよりも大人の感じがする。それに煙草吸うでしょ」
くんくんと鼻を鳴らす
「君は好奇心旺盛だね」
「さっき見ちゃったもの。ミンチョルさんにキスしてるとこ」
観察力もなかなかだ
「僕とギョンビン間違えたみたいだったのでついね」
「ついって、やりすぎだよ」
ギョンビンは曖昧な微笑みを浮かべる
「ギョンビンはミンチョルさんのことすごい好きなんだよ」
「そう?」
「そうさ。色々あってやっと落ち着いたとこなんだ」
「色々?」
「そう」
「だから似てるからって変なことしちゃだめ」
「ミンチョルっていう人も?」
「そうだよ。奥さんと別れる話進めてるくらいだもの」
「奥さん?」
いけない、しゃべりすぎたという顔になって黙りこむ
やはり素直な子だ
「それより仕事は何してるの?」
「弟と一緒だよ」
「じゃスパイ?」
「わかりやすく言うとそうかな」
「ここへは何しに来たの」
「休暇が取れたのでふらっとね」
煙草を取り出し火をつける
「マルボロにダンヒルはダサい。やっぱジッポでしょ」
ほんとに可愛いね
「君、名前は?」
「ドンジュン」
「彼氏いるの?」
煙草をドンジュンの口の前に差し出す
一息吸って煙をふーっと吹き出して顔をしかめる
「きついよ。もっと軽いやつにしたら」
「でドンジュン、彼氏いるの?」
ちゃんと答えて
「いるよ」
目をくるくるさせてにっこり笑う。眩しい
「どうしてそんなこと聞くのさ。そういうあなたは…あっ」
話してる途中でドンジュンは唇を塞がれた
ギョンビンの唇はドンジュンの下唇を掬い取るように包み込んだ
『うわっ、上手い…』
ドンジュンは思わず心の中で叫んだ
強引ではないけれど、決して逃げられない不思議な力がある
ゆっくりと味わうように唇全体を愛撫している
『どうしよう…』
スヒョンの怒った顔が脳裏に浮かんだ
だめだよ、と突き放そうとした時、ギョンビンの舌が中に押し入りドンジュンの舌をからめとった
ドンジュンは思わず目を閉じた
口の中を丁寧に愛撫されてドンジュンは頭の中が痺れてきた
甘美な感覚が全身をとらえた
『ねえ、そんなに攻めないでよ…』
ギョンビンの舌は遠慮なくドンジュンの口の中をさまよう
そして一番敏感な所を何度も何度も緩急をつけて確実についてくる
『あ、だめ…』
頭の中で嵐が起こり、ドンジュンはそれに翻弄される
妖しい波が体中に広がっていく
けれど突然唇が離された
ギョンビンはドンジュンの耳元で囁いた
「君のかわいい目を見ていたらキスしたくなったんだ
彼がいるなら挨拶はこのくらいでやめとこう」
ドンジュンははぁっとため息をついた
これが挨拶だって?
ギョンビンはドンジュンの顔を覗き込んで静かに微笑んでいる
その笑顔につられるようにドンジュンは今度は自分から向かって行った
『ねえ、もう一度キスして』
ギョンビンはそんなドンジュンの体を受け止め、今度はもっと長いキスをした
可愛い子だ
#追憶 妄想省家政婦mayoさん
「テス、戻るぞ」
「ぅん..mayoさん、僕が言ったこと忘れないでねっ」
「ぉぉぉ〜ん..^^;;」
「「おやすみ〜^_^ ^_^ 」」
「テス、何の話だったの?」
「ぉ?...ん...何でもない」
「…??」
ちぇみテスが帰り闇夜がPCでメールのチェックをしている間僕は薬湯を用意した
「今日は疲れたんじゃない?飲んでもう眠った方がいい」
「ぅん..明日...一日リハ?」
「ぅん...何故?」
「午後ちょっと出掛けてくる…夕方には戻るから」
「ん...わかった」
******
テスもテソンもリハで忙しい。闇夜は午後からいない
俺は時間が空いたので10年ぶりにばったりと会ったウォンギに会いに行った
ウォンギは今は一応カーセンターを任されている
奴は俺が蜘蛛になる前に刑事をしていたときに知り合ったユリの親友だ
俺の所に転がり込んだユリをウォンギは心配したが俺を見てユリを預けることになった
俺がユリにつきまとう悪漢人物ミスターキューにやられ、ユリが留学し帰ってきても
俺はその時ユリの顔もわからない状態だった。結局ユリと別れ何とか回復した俺は
逃げるようにして蜘蛛になった...
ウォンギは相変わらずむさ苦しいレゲエな頭で修理車のボンネットを開け覗いていた
「よぅ!」
「お!?来てくれたの!カク!」
「今はちぇみだ」
「ちぇみ?何それ変!...ま..中入んなよ」
俺はその時ちょっと離れた駐車スペースでエンジンをかけ単車に跨る人物を眺めていた
「…!!…ウォンギ!!」
「ん?何?」
「あ、あ、あそこの単車に乗ってる奴は誰かわかるか!?」
「お?.....知り合いの元カノ...」
「な・な・名前は!!」
「エェ~イ…また若いねーちゃんと付き合う気?懲りてないねぇ〜またぶん殴られるよ?」
「いいから、さっさと教えろ!」
「"まよ"だったかな....知り合い?」
「あぅ...」
「たまたま修理がウチに回ってきたんだ。あの単車じゃないと駄目みたいでさっ」
単車が駐車場を出ようとしていた
ウォンギにすぐ戻ると言って俺はすぐ車に戻り単車を付けた
二度と乗らないと決めた単車にまた乗る様になったのはつい最近...
風の中から声が聞こえるかもしれないと思い走らせても
もう声は聞こえない。エンジンの音とクラッチの音だけだ
☆になってお前を照らすから...と言った彼の顔が思い出せなくなっていた
お前は幸せになれ...風の中から☆彼の声が聞きたかった...
単車は漢南大橋を南に下り...今度は盤浦大橋を北に上がっている
ハンドル、クラッチのさばきはスムーズだ…慣れている
あいつ...単車に乗れたのか...そんな素振りは全然なかったはずだが?
車も運転しないはずだ...一体どうしたんだ...
大橋を走っているときはちょっとスピードを上げ橋を越えると少しスピードを落としている
道路も広いのでスピードを出しやすい..だが慎重な運転だ...
今度は漢江大橋を南に下りフェリー乗り場の近くで一旦単車は止まった
俺は単車が見える位置に車を止めた
ヘルメットを取って髪をかきあげた顔を確認した....やはり闇夜だった...
闇夜は単車を降りて漢江の流れをただ見ているだけだった
小一時間ほどすると闇夜はまた単車に乗り漢江大橋を北に上る
単車を別の店に返した事を確認した俺はウォンギの店に戻った
「どうしたのさ、急に追いかけて...知ってるの?」
「ウォンギ...あの元カノの元カレはどうしたんだ?」
「事故ったんだ…もう10年近くになるかなぁ」
「で?」
「ん...☆になった」
(ぁぁぅぅ…どこまでやっかいな奴なんだ!..ったくもぉぉ!)
「横滑りした単車が大破。破片が元カレに...放り出された彼女の上に覆い被さったんだ..奴は..」
「(>_<)...単車は何だ」
「HL-FLH1200 1971年製だったかな..」
「…同じ型見つかるか?」
「えっ?何すんのさ.」
「いいからっ!」
「ぉん..当たってみるよ」
「ん....頼む」
「わかった。って..どういう関係?」
「大事な仲間だ」
「そう...」
「あ、ユリはどうしてる?」
「ん?実業家と結婚するとか言ってたけどしてないみたい。絵の勉強してるって」
「そうか....」
「カク...じゃなかった、ちぇみは今彼女いるの?」
「ん...恋人はいる...」
「ふぅぅ〜ん。今度連れてきてよ。可愛い?」
「ぉぉ....可愛い..(*^_^*)」
「エェ~イ..でれぇ〜#っとした情けない顔は変わんないな」
「うるさいっ!」
ホテルに車を走らせながら俺はさてどうするか...考えあぐねていた
今回はやっかいもやっかいだな...テソンひとりでは無理だ...
身を呈して守ったか…ぁぅ..大丈夫か?テソン..
荒治療で行くか....帰ってテスと相談せねば…
親友の会話 ぴかろんさん
「何ですかミンチョルさん」
「あのちょっと親友のイナと色々お話ちたいのれ、ミン、おしょとに行ってくれる?」
「…」
「何れしゅか?…あっミン、怒ったの?ミン」
ミンはつかつかとイナに向かって歩いていく
怖いのら
「よう、色男」
「元祖隙男さん、ミンチョルさんに変な事吹き込まないでくださいよ!足、ちょっと見せてください」
「あっいてっ…くぅん」
「僕に甘えたってダメです!ふぅん…これなら半日じっとしてれば明日のショーには間に合いますね」
「ああ。すまないな、二人の邪魔しちゃって」
「いえ、済みましたから」
「え?」
「くれぐれも僕のミンチョルさんにおかしな知恵をつけないように。いいですね!」
「…はい」
「ミンチョルさん、テジュンさんとスヒョンさんにイナさんの事を報告して
後、危険がないか見回ってきますから二人で大人しくしててくださいよっ!」
「はい…」
バタン☆
「こえええっお前の彼氏はこえぇよ」
「仕方ないのら。僕が隙だらけらから。ところで話を聞きたいのら。お前とソクは一体どういう関係なのら?」
僕はイナからソクの事、テジュンさんの事を聞きだした
イナはニヤけながら、別に聞いてもいない事まで嬉しそうにベラベラ喋った
僕はあまりにも露骨なその内容に赤面した
「お前って…そういう奴らったの?」
「そういう奴ってどういう意味ら?!」
「キシュがシュキなのか」
「…ん…」
「…ソクしゃんはキシュが上手いのらな?れはミン兄と同じなのら…」
「…お前だってキスが好きなんだろ?」
「僕はミンが好きなのら」
「ミン兄弟が好きなの?」
「違うのら!ミン弟が好きなのら…れも…」
「お兄しゃんのキスにコマされたんらろ?俺とおんなじじゃん」
「ちっ違うのら!」
「おんなじじゃん!そっくりな人に突然キスされてヘロヘロになってるんらろ?もしまたミン兄に会ったらどーすんの?お前」
「…え?…」
「心のどこかで期待してるらろ!」
「…」
「俺には解る。でもミン兄がどんな人物なのかまだよく解んないから気をつけた方がいいぞ。その点俺は恵まれてるなぁ〜
ソクって本とはいい人みたいだししゃぁ〜」
「むっ…お前だけじぇったいじゅるい!」
「…なあ…不思議な感じしなかった?」
「え?」
「兄貴だって解ってから、またキスされたんだろ?」
「う…うん」
「で、ミンよりうまかったんだろ?」
「…はい…」
「ミンと同じ顔で同じ声なのにミンとは違うキス…同じ人なの?違う人なの?ああボクどうなっちゃうの?
ドキドキドキって異常にコーフンしなかったか?」
「…あ…はい…」
「で、逃げなきゃって思うんだよな、俺の場合はテジュンの顔がこう、頭にぱぁっと広がってさ…」
「…はい…」
「でも逃げらんねぇのな、テジュンと同じ顔してるのに…力が強くってさ…」
「…そーれす。お兄しゃんの方が強い…っていうか、ポイント押さえるのが上手いのれす」
「…ソクもなんだ…」
「れも僕はミンの嫌がる事はしないじょ!お前とは違うのら!」
「俺だってそう思ってたよ…けどな…何度も…襲われてるうちに…」
「…うちに?!」
「…好きになっちゃうんだよ…」
「しょんな!テジュンさんがかわいそうら!」
「テジュンの事は大好きだよ…でも、ソクも…捨てがたい」
「しちゅれいらろ!捨てがたいなんて!」
「それにソクも俺の事…うふふん…」
「何ニヤついてるら!」
「お前だってお兄さんの事気になるだろ?」
「…なんないら!お前とは違うら!僕はキシュされながらも状況分析してたのら!」
「へえ〜どんな風に?」
「これは非常にまじゅいって…」
「…それ、分析って言うのか?まあいいや、でも分析しながら落とされたんだろ?立てなくなったんだろ?」
「あ…はい…」
そう答えるとイナは突然僕を抱きしめた
いやらっ!イナとしょんな関係になるのはれったいイヤらっ!
僕は両手をぐるぐる回してバタバタとイナをはたいた
「てっ何してんだよっ!」
「僕にしぇまるなっこの浮気おとこっ」
「迫ってなんかいねぇよ!誰がお前なんかに!違うよ…話聞いてると、お前と俺ってつくづく似てるなぁって思ってさ…」
「にゃにっ?僕は貴様のような浮気者じゃないじょっ!僕はミン弟一筋にゃ!」
「そりゃ俺だってテジュン一筋だぞ」
「うしょら!ならなぜソクと」
「お前もそのうち解る…ソクを見かけると回線がショートしちゃうのら…ビリビリを思い出してもう一回痺れたいって体が求めるのら」
「いやらちいっ!」
「ぜってーお前もそうなるって!」
「なんない!ばかっ!もう帰れっ!」
「らって九時までここにいろってテジュンが言ったモン!」
「急にかわい子ぶるな!」
「…でもなミンチョル…俺がほんとに好きなのは…テジュンなんだ…それだけは解っといて…」
「…」
「俺だって本とは浮気なんかしたくねえんだ」
「…(うしょら!)」
「でもよぉ、体がソクについていっちゃうんら。きっとお前もそーなるら!断言するら!」
「ばかっ!」
「らってお前と俺、親友らもん…感覚似てるモン!」
「違うモン!」
バタン☆
ミンが帰ってきたのら
「何ケンカしてるんですか!イナさん、テジュンさんがすっごく心配してましたよ。『部屋までおぶってやればよかった』って…
そういやぁここまでどうやって来たんですか?」
「歩いた」
「…じゃ、はじめっから歩けたんでしょ?この大うそつきの浮気者!」
「酷い!ミンまでそんな事言うなんて!」
「だってそうでしょ?隙男!」
「…酷いっ」
僕とミンはイナを責め続けた
僕はミンに、イナと話した事を知られないようにドキドキしていた
イナは苛められてちょっと涙ぐみながら、僕の方を見てニヤニヤ笑った…ヘンタイッ!
かたち 足バンさん
僕はスヒョンさんと一緒にホールを出た
僕が相変わらず迷惑そうな顔で歩いているのを気にしている
やはりホテルの人に頼んだ方が良さそうかな、
そう言って反対のフロントに向かおうとした時
スヒョンさんはふっと足を止めた
3歩ほどさがって庭の方に視線を送る
高い天井のガラスの向こう
煉瓦が敷きつめられた中庭につづくエリア
気持の良さそうな白いテーブルとイスがいくつか置かれている
木々に見え隠れするその場所でキスをしている人たちがいる
ドンジュンとギョンビン…?
ドンジュンをすっぽりと抱きしめて覆いかぶさるようにキスするギョンビン
僕は反射的にスヒョンさんを見た
スヒョンさんは身じろぎもせず立っている
どれくらいそうしていただろうか。いや、たぶんたいした時間じゃないだろうが
スヒョンさんは無表情で歩き出した
僕はなにかまずいものを見てしまったような気がして…そのままおとなしくついて行った
医務室でスヒョンさんは手際よく消毒をしてくれた
戻ろうと言うと、スヒョンさんがそこのソファに座ってしまった
「大丈夫ですか?」
「あ?なにが?」
「その…」
「自分はどうなんだ?さっき答えを聞いていない」
「スヒョンさん…」
「なに悩んでるんだ?」
「…」
僕は黙っていたが、スヒョンさんは見通すような目で僕を見続ける
「おまえはいつも冷静にやってきただろう?」
「そんなこと…ないです…知ってるでしょ?僕がどんなやつか…」
「BHCの人間はみんな何かしら傷を持ってる」
「…」
「来いよ」
僕は足を組んだスヒョンさんの隣に座った
しばらくの沈黙ののち
僕はぽつぽつと話しはじめた
毎日兄が…出てくることを
「夢?」
「わからない…現実だか夢だか…」
「なにか言うの?」
「…ただ…にこにこしてる…」
そこまで言うと堪えていた涙がこぼれてしまった
スヒョンさんは僕の顔を見て、そして片方の腕で僕を抱き寄せてくれた
僕はスヒョンさんの肩に頭をあずけ目を閉じた
「みんなのペンダント作りながら思ってたんだ。どうして形にしたいんだろうって」
「ん?」
「その頃から…兄さんの夢…夢かな…見はじめた」
「おまえは想いを形にしたくないの?」
「僕は…とっくに形なんてものはどうでもいいと思ってる」
「おまえの想いはどこにあるの?」
その言葉に胸が強く痛んだ
そして今まで溜めていた涙がいきなり溢れ出した
医務室の無機質な調度品がすべて歪んで見える
「僕は…兄さんが好きだった…本当に…」
「うん」
「小さい頃から…兄さんだけを見てきた…」
「奥さんを愛してるんでしょ」
「…だって兄さんの愛してた人だもん」
「テジン…おまえ…」
「僕の心の中ではいつも僕と兄さんが絡み合ってる」
スヒョンさんは僕を両腕で抱きしめてくれた
「会いたい…兄さんに会いたい…会いたいよ…」
スヒョンさんは泣き続ける僕の顎を少し持ち上げてゆっくり唇を重ねてきた
不思議となんの抵抗感もなかった
頭の奥から全身に暖かいものがさざ波のように広がった
そして…そこに…
兄さんがいた…
大丈夫…なにもかもうまくいくよ…
小さな頃からいつもそう言ってくれたね…
ずっとおまえを守ってるから…
兄さん…
おまえの全てを僕は受け入れるから…
兄さん…兄さん…
スヒョンさんが唇を離すと僕はぐったりとその胸に顔をうずめた
スヒョンさんは優しく髪を撫でてくれる
「そう…ちゃんと前だけを見て歩けばいい」
「こんなに屈折してるのに…」
「屈折は悪いことか?」
「…」
「おまえが作る物には愛情が溢れているよ」
「…」
「みんなおまえが好きなんだよ」
僕はスヒョンさんを見上げた
その深く優しいまなざしに何かが軽くなったような気がした
「ありがとう…ずっと誰かに聞いてほしかった…」
「頑張ったね…ひとりで…」
僕はもう一度自分からスヒョンさんにくちづけた
スヒョンはすべてを包むように応えてくれた
「さぁ、戻ろう。みんな心配してる」
「うん…」
「またこうして話してごらん」
「はい…」
僕たちは立ち上がった
「あの…」
「ん?」
「スヒョンさんにもペンダント作ります」
スヒョンさんからそれまでの優しいまなざしが消えた
「ん…そうね…そのうちね…」
「スヒョンさん…」
「ね?こんなものよ。ひとのことはわかっても自分のことはうまくできないの」
スヒョンさんはにっこり笑って部屋を出た
僕はドンジュンのことをぼんやり思い出していた
#追憶2# 妄想省家政婦mayoさん
単車を返してからベーカリーの別宅へ行った
内装も終わり各自の身の回りのものがあればOKの状態だ
みんなで住もうよと言ったものの自分が住む部屋にはまだ何もない
今ならまだ間に合うかもしれない..でも離れたくない自分もいる
もう思い出せない自分に罪悪感もある..
.
昔の事に縛られてちゃ駄目だよ...なんて偉そうに言えないよな..
あれだけ覗いて他人の事は良くわかるのに..
自分の事は駄目だな...
=ステージ天井裏
「テスぅーどう思う?」
「ちぇみの線でいいんじゃない?」
「そうか?」
「ちょっと可哀想だけど...」
「ん...」
「だって...他に方法ないもん」
「やっぱそうだよなっ」
「うん ^_^v ....あ、誰か来た..」
「隠れろ、テス。闇夜だ...」@_@ @_@
ホテルに帰った足でいつもの場所でリハの様子を覗きに来た...
ざわざわした空気が見て取れる...何かあったな...
めざとく見つけたテソンが 『そこにいて。行くから』と合図をしている
「すぐ..わかるんだね..」
「ぷっ...わかるよ...早かったね」
「ぅぅん...何かあったの?」
「ぉぉ...テジンが怪我をしたんだ...」
「えっ?めずらしい...大丈夫なの?」
「ぅん...スヒョンが付いていった...」
「ふっ...じゃぁ...心の方も治してくれるね」
「はは...そうだな...」
「もしかして...妻とうまくいってないのかな...」
「まさかぁ...テジンは違うだろう...」
「だといいけど...あ、これみんなに差し入れ。チーズケーキバー」
「ぉ、サンキュ。わざわざこれのために出掛けたの?」
「ぅぅん...別宅見てきた...ヘェェェクションクション...ヘェヘェ~クション...」
「ほらぁ....まただるくなるから...部屋にいたほうがいい...」
「ん...テソンシも戻って...」
「ぅん...わかった....」
デコxxx......テソンは歩き出してまた戻ってきた
みみxxx......『リハ終わったらすぐ戻るから..』耳元で囁いたテソンはリハに戻っていった
「ちぇみ〜@o@」
「ん〜@_@」
「テソンさん...でれでれぇ...」
「こりゃ...テソンのためにやらなゃぁいかんな...」
「ぅん...ちぇみ〜ふぁいてぃ〜ん!^o^// 」
「ん...」
とまどい ぴかろん
スヒョクが怖い顔をしている
どうしたのか聞いてもなかなか答えない
無理矢理ホールまで引っ張ってきた
「僕の事、聞きたいんじゃなかったっけ?」
「…」
「何が聞きたいの?」
「…イナさんを好きなんですか?」
キム・イナに似た顔でスヒョクは訊ねる
僕はスヒョクの瞳を覗き込む
その光は何を意味しているのか…
「イナさんにキスしたんですか?どうして?イナさんはテジュンさんの恋人なんでしょう?」
おいおい、連射するなよ
「フフフ…気になるの?」
「…どういう関係なんですか?!」
「キスだけの関係…とでも言って欲しいの?」
「…なぜキスを…」
「…ふぅっ。僕は調査をしてたの。だからイナだけじゃなくて他にもニ、三人…」
「え…」
「BHCの人たちって最適なサンプルだと思ったんだけどね…間違いだった…」
「…」
「君達はクローンじゃないものね…だから調査は終わり。他に聞きたいことは?」
「俺は?」
「え?」
「調査の対象じゃなかったんですか?」
「…スヒョク」
何を震えながら言ってるんだよ…
「何?…して欲しいの?…キス…」
僕は今にも涙を溢れさせそうな赤い目のスヒョクをそっと見た
そして彼が答える前に遮った
「なぁんてね。君がそんな事望むはずないな。望むべきじゃないし…」
彼は僕から視線を外して、発しようとしていた言葉をため息とともに風に散らした
スヒョクに…軽々しく触れてはいけないような気がしたから…
彼は暫くして、震える声で言った
「僕は…キスしたこと…ありません…」
「そう…」
「…興味ないですか?」
「え?」
「…どんな風になるか…興味…ないですか…」
そんな言葉が出るなんて思いもしなかった
僕は驚いて彼を見た
彼はまっすぐ前を見ている
言ってしまってから後悔しているような、浅くて荒い息を吸ったり吐いたりしている
長い睫を伝って涙がぽとりと落ちる
僕は彼の髪をくしゃっと撫でて、軽く笑った
笑ったつもりだった…
「は…はは…」
出てきたのは引きつった笑い
僕の息も荒く浅い
胸が苦しくなり体が小刻みに震える
なぜだろう、彼を傷つけてしまったのだと感じ
僕は激しい後悔の念に包まれていた
僕の息はもっと荒くなり、深く早くなり
僕の目は涙で覆われる
「どうしたの?ソクさん…どうして…泣くの?」
胸が痛む
なぜだろう
彼の顔を真っ直ぐに見ることができないのは
なぜだろう
なぜ僕は涙を流しているのだろう
スヒョクは僕を抱きしめた
「ごめんなさい…そんなにもイナさんが好きだったなんて…」
「違う…」
「いいよ。ごめんなさい」
「そうじゃない…そうじゃ…」
うまく説明できない
君をイナと重ねて見た事を
僕は今、とても悔やんでいる…
「兄貴、泣かないで」
兄貴…
そう呼ばれて僕は固まった
兄貴…僕は…兄貴でしかないのか…
錐で穴を開けられているように
心が痛くてたまらない
僕はスヒョクの顔を見上げた
スヒョクの唇が不器用に僕の唇を捉えた
「ファーストキス…兄貴に捧げるよ…」
寂しそうな顔をして、彼はそう言った
キム・イナ…僕は今、脳天まで痺れたんだ…イナ…
ただ、触れるだけのキスだったのに…
キム・イナ…僕は…この人が…好きなんだろうか…
驕り… ぴかろん
「あのしゃー」
「なんら浮気者」
「ちょっとフラついてくる」
「おまえっ!ましゃかソクさんをしゃがしにっ?」
「いや…しょーゆーわけりゃ…ある!」
「ぶぁっか!じぇったいバチがあたるのら!なっミン!」
「…いいんじゃないですか?『驕れる者は久しからず』っていうじゃないですか」
「あにしょえ?…むじゅかしい事ちってるね。ミン。かっくいいっ」
「イナさん、足、気をつけて。あんまり遠くまで行かない方がいいですよ…
それと、九時にテジュンさんが迎えに来るんですからね。忘れないように」
「わかってるよ。すぐ戻る…ちょっとキスしてくるだけだからさ。じゃ」
バタン☆
「あいちゅ。開き直ってる…ゆるしぇないれすよね?ミン」
「ミンチョルさんも兄さんに迫られたら…すぐに落ちそうだ…」
「しょんなことないもん!僕は、あっ…」
「… …」
「…ん…みん…」
「兄さんのとどっちがいい?」
「しょんなの…みんらよ」
「どっちのミン!」
「ミン・ギョンビンらよ…はふ…」
「どっちもミン・ギョンビンでしょ!」
「僕のしゅきなのは…このミンれしゅ…はむっ」
「…んん…」
スヒョクはもう一度僕を強く抱きしめて、僕に背を向けて走っていった
僕は長い間、震えている体をどうする事もできなかった
ようやく震えが治まり、ふらふらと廊下を歩いて部屋に戻ろうと思った
エレベーターに乗り、壁にもたれてスヒョクとイナの顔を交互に思い浮かべていた
ずきりずきりと心が痛む
すっとドアが開き、人が乗り込んできた
ドアが閉まり僕は突然唇を奪われた
キム・イナ…
激しく唇を求られたが僕は応えられない
イナは唇を離して不思議そうな顔で僕を見つめ、そして僕の頬を撫でた
ドアが開く
僕の部屋がある階についた
イナは僕の腕を引っ張り、エレベーターを降りた
「何号室?」
淡々とした声で聞き、僕を部屋の前まで連れてきた
「鍵」
僕は鍵を渡す
イナが鍵を開ける
そして僕の腕を取り、中へ引き込み僕をベッドに押し付けた
もう一度息もできないようなキスを下す
僕はそれでも応えられない
「どうしたんだよ…」
イナは冷たい顔で僕を見下ろした
「何が悲しいんだよ、アンタが泣くなんて…」
イナの声が僕の心臓を突き刺す
僕は血と涙をドクドクと流す
息が上がる
イナが驚いている
「何があったの?スヒョクか?」
その名前を聞いて僕の胸は締め付けられる
「…キム・イナ…僕は…僕は彼が…好きなんだろうか…苦しいんだ…キム・イナ…僕は彼にキスされた…触れただけなんだ…なのに痺れた…僕は彼が…」
イナの唇がもう一度僕の唇を塞ぐ
強く吸って離し、唇の内側で僕の唇をなぞる
「こんな風だったの?」
イナはもっと強く僕の唇を吸う
僕は首を横に振る
イナは強く舌を絡める
「こんなの?」
唇を離して聞くイナ
僕はイナを見ていない
僕はスヒョクを思っている
イナ
「僕は…スヒョクが…好きなのかな…」
イナは何も答えず、ただ僕の唇をいろんな角度から攻めている
やめて…やめて…
逃れても逃れても執拗につづくイナの攻撃
スヒョク。スヒョク、僕は君を大切にしたいんだスヒョク…
でもキム・イナは…きっと僕に出会うたびに…キスを仕掛けてくるんだろう…
キスをただ受けていた僕から、イナは離れてドアを閉めてどこかへ行ってしまった
バタン…
「おかえい〜」
「おかえりなさいイナさん…あれ?足が痛くなったの?」
首を横にふるイナ
イナは僕の方にまっしゅぐ帰ってきて僕にだきちゅいたのら!きいっ!ミンがみてゆのにっ!きいっ
「ソクが…ソクが…」
「どーしたの?」
「…うわのしょららった…ぐすっ」
「へ?」
「キシュしても応えてくんなかったらああっ」
「…」
僕とミンは目配しぇした
『天罰ら』と…
いいれしょ?キシュしたんらから、よかったんれしょ?
「ばかっ!そんなんじゃないもん!なんかソク、変らったもん!」
「へええええ…見てみたいら…」
#追憶3 妄想省家政婦mayoさん
晩飯時にいつものようにテスと秘密部屋へ向かう
「ちぇみ〜」
「ん?…何だ…」
「僕たちの習慣になっちゃたね」
「はは…そうだな。2人でもいいが4人だと楽しいじゃないか」
「最近当てられるけどね…」
「ぷっ…特にテソンがな..」
「ね、テソンさんの夢知ってる?」
「何だ…」
「好きな人とご飯食べて…音楽を楽しんで…会話をする…だって」
「何だ。もう全部叶ってるじゃないか…」
「次の夢何だろう…」
「テス、決まってるだろ…###して…朝一緒に起きる…ぷっはっは!」
「ちぇみ〜>_< その前に..ち◎うじゃない…」
「あ、そっか ^^;;」
「もぉ〜オヤジなんだからぁ…」
「テスぅ…@@」
「えへっ…ごめんごめん…よしよし…」
「くぉ~ん…テクヒョン…T_T 」
「mayoさん、別宅で何したの?今日」
「ぅん…いろいろ配置見てきたの…ちぇみテスはダブルでよかったんだよね」
「俺たちはベットさえあればいい…キングサイズでもいいぞ?」
「ちぇみ!」
「ぁぅ…すまん…くぉ~ん…T_T 」
「プッ!壁面はシェルフ配置してあるから…後は好きにして」
「闇夜、お前達の部屋は?」
「ちぇみ.."達"って何…」
「ぉ…テソンの部屋は?ダブルか?」
「mayoシ、そういえば僕に聞かなかったよね…僕のは?」
「シングルじゃ小さいと思ってセミにしたけど?」
「ダブルに替えて」
「えっ?…(・_・)」
『ちぇみぃ..テソンさん..じわじわ来てるね…』
『ん…』
「聞こえなかった?ダブルに取り替えて…mayoッシ」
「ぁ…ぁ…ぅん…セミじゃ小さいの?」
「そっ。セミは空き部屋に置いて」
「ぁ…ぁ…ぁ..の…テソンシ…」
「何…わかった!?」
「ぁ..ぉ…ぉぉん…わかった…」
『ぐはは…』『うひひ…』
「あ、棚は?付けてくれた?」
「ぉん…壁面は天井まで棚つけてもらったから…」
「テソンさん、何に使うの?」
「料理の本がたくさんあるから…」
「お、そうか…お前料理人だったんだよな…」
「ちぇみ〜」
「あひ…すまんすまん^^;」
♪♪Breve Heart♪♪〜♪
携帯が鳴った…着信名を確認するとちぇみは部屋の隅で話を始めた
「俺だ。お…どうだ?…ん…そうか…悪いが…そうしてくれるか…すまん…頼む…」
席に戻ったちぇみはテスに@@で合図をした
「ちぇみ..その着信音…」
「僕が見つけたの…僕もこれにした。mayoさんもこれにする?」
「ぅんぅん!」
「テソンさんは?」
「僕も」
「はは…ちょうど4人だな…明がテスか…月は俺だ…清はテソン…風は闇夜だな」
「何で私が風なのよぉ…」
「mayoシは…ふらふらって..いつもどっかに行くじゃん。ぴったりだ」
「テソンシ…^^;;…」
『ちぇみ..テソンさんにmayoシの風送るようにしないとね…』
『ん…』
らりるれ教育的指導 ぴかろん
僕はとちゅぜん抱きちゅいてきたイナを睨みちゅけながらナデナデしてやった
ミンはまた「出てきます」と言っておしょとへ行った
らからもう一回お話を聞いてあげゆのら
「で?ろーしたって?」
「らから、ソクがっ…これこれこうで…」
「反応しにゃかったから悲しいのれしゅか?」
「それもそうらけろ…」
「スヒョクをしゅきかもっちったから悲しいのれしゅか?」
「うん…」
「ぶぁかか!おめーは!」
僕は両手でイナの頬をバッチンと挟み叩きしてやっちゃのら!
「ったいっ!」
ふん。泣け!ぶぁか!
「れんぱちゅはしゃみ叩きしてやろーか!」
「顔がお前みたいな大きさになるからやめてくれ!」
「ぬ!」
ろーいう意味ら!弱ってりゅくせに減らじゅ口を叩きやがるじぇ!ふんっ
「らいたい、お前はテリュンさんの恋人なんらから。ソクしゃんはお前の『キスらけ』の浮気相手れしょ?
ソクしゃんが誰をしゅきになろうといいりゃないか!お前、僕よりわがままらなっ!」
「…らって…しゃっきまで俺の事好きらったはじゅなんらぜ!」
「ぶぁか!」
「唾飛ばすなよ!」
「ちゅばなんか僕にはにゃい!」
「…」
「ソクしゃんは機械りゃないら!人間らぞ」
「…」
「そりゃこないだまで頑なだったかもしりぇんが、スヒョクに会ったことで何かが変わったのかもしりぇないらろ?」
「なんれ俺じゃないの?なんれスヒョクなの?俺にあんな濃厚なチューしたくしぇにっ」
「…僕はお前のしょの考え方が信じられないれす。いちゅからしょんな『王様』な考えになったっしゅか!なしゃけない!」
「…」
「やっぱテリュンさんが甘やかししゅぎれしゅ!テリュンさんにはこのホテルに残ってもらってお前は寺にでも篭りなしゃい!」
「ヤダ!」
「おっ…」
「…」
「イナ…」
「バチが当たった…足がいてぇ…明日、ヤバイ」
「…」
「腫れてきた…ソク押し倒したとき、また捻った…」
「この大ぶぁか!もうちらない!お前がこんにゃ無責任な男だとはちらなかった!金輪際『親友』なんて言うにゃ!」
「ミンチョ…」
「明日もここに篭ってろ!部屋から出るにゃ!お前の出る部分、カットしゅる!」
「…」
「ショーが台無しにゃ!ぶぁか!」
「…出るよ…やるよ。俺の出番って山場の一つなんだろ?」
「もういい!しょんな足で出られゆもんか!」
「出るよ!」
「…舞台でこけるじょ。足ももっと悪くなるじょ!」
「穴を開けるよりはマシだろ?それに…無責任って言われちゃ…」
「無責任だから無責任だっちったんだ!」
「だったらお前はどうなんだよ!顔が腫れたぐらいで篭りやがって!」
「なにっ?」
「スヒョンがアタフタしてた」
「しょれはお前が乱痴気な恋してるから、スヒョンに頼むしか…」
「お前のわけのわからねぇ美意識のせいだろうが!」
「むむっ」
「またケンカしてる!」
「あっミン…イナが苛めるよう〜」
「…ミンチョルさん、PDやってください。スヒョンさん。大変そうです」
「ほらみろ!」
「イナさんも、今から足の治療しますから!全くどうしようもないっすね。今スヒョク君見てきたけど、つらそうでした」
「…」
「軽々しくやってると人を傷つけますよ…一番傷ついてるのは…」
「…ごめん…」
「…足見せて…うわ…」
「ちょっとクネってしちった…」
「ミンチョルさん、この人はほんっとぶぁか!ですね!」
「しょーなのら。もう『親友』って言いたくないくらいぶぁかなのら!」
僕はミンと一緒にイナを睨んでやったのら
イナはしゅんとしていたのら
テジュンさんが来るまでに、もっと凹ませておかないと、れったいあの人がまた甘やかすのら!
しょれにしてもスヒョクとソクしゃん…かなりヘビーだろうな…よくしらにゃいけどしょんな匂いがしゅるのら…
火遊び 足バンさん
僕からねだったキスにギョンビンは長く丁寧に応えてくれた
薄目を開けるとそこにはあのギョンビンの顔がある
ミンチョルさんの恋人
かつて僕が欲しかったミンチョルさんを夢中にさせたギョンビン
そのギョンビンが僕にこうしているような錯覚をおぼえる
でも今僕の舌を弄んでいるのは違う男
もっと熟しててもっと淫らな匂いのする男
その不思議な違和感が僕を何倍も興奮させる
風でテーブルに木々の影が散らばる
僕は唇が離れたあともその余韻にひたってお兄さんの肩に頭を預けていた
「はふ…」
「素直な反応だな」
「キスの上手いひとが多くてまいっちゃうな」
「彼氏のこと?」
「さぁね」
「ほかにいるの?」
「ふふ…そのうちわかるかもね」
ギョンビンはすっかり長くなった煙草の灰を煉瓦に落としてまたふかした
「その辺に吸い殻捨てちゃだめだよ」
ギョンビンはちょっと眉を上げてからくすりと笑った
「おもしろい子だね君は」
「ね、いい?ギョンビン達にちょっかい出さないでよ?」
「どうかな」
「僕と違って簡単に抜け出せないタイプだから」
「誰が?」
「あなたの弟の恋人」
「君は抜け出せるの?」
「ひみつ」
「ふふ」
「じゃ、ごちそうさま」
僕が立ち上がろうとした時、ギョンビンはいきなり肩を抱え込んで引き寄せ
間髪を入れずにまた唇を押しつけてきた
今度はさっきと違う少し荒いキスだった
また身体に妖しいどよめきが起こりそうになり、少し抵抗した
するとギョンビンはさっとその唇をずらして耳の下に吸いついた
ぞくぞくと快感が走って声が出そうになり目を開けた瞬間…
僕の視界の片隅に違和感を感じた
首をそちらに向けると…
5つほど先のテーブルの向こうにスヒョンが座っていた
揺れる木々のざわめきの中
白い椅子にゆったりと腰掛けて足を組んでいる
手はポケットにしまわれたまま動かない
その表情がどこか微笑んでいるように見えて…
正直言って僕は慌てた
僕の様子に気づいたギョンビンが顔を上げ視線の先を追う
「彼氏?」
「…」
「ちょっと前から座ってたけど」
あちゃぁ…
ギョンビンは僕を離すと立ち上がりスヒョンにちょっと頭をさげた
スヒョンはにっこり微笑んだ
微笑む人間には注意しろ、だな
そう言うとギョンビン兄は中庭の方向に消えた
取り残された僕のなんてバツの悪いこと
そのまま座ってるわけにもいかず、僕はのろのろとスヒョンに近寄った
視線だけを僕に向けたスヒョンはもう微笑んでいなかった
「ギョンビンじゃなさそうだな」
「うん…あの人は…」
「またすごいキスだったわけ?」
「う…ん…」
長い…僕にとっては長い沈黙がながれた
「もう終わりにしよう」
「え?」
血が一気に足元まで下がったような気がした
スヒョンはいきなり立ち上がりそのままきびすを返した
「ちょっと待ってスヒョンっ!」
僕は慌ててスヒョンの背中にしがみついた
心臓の音がものすごい勢いで耳に響く
そんな…そんないきなり…
僕はしがみついたままスヒョンの前に回り込む
何をどう言ったらいいのか考えあぐねてその顔を覗き込んだ
スヒョンは眉を上げ、そしてにやりとしながら丸い目で僕を見た
「ス…」
「罰としてしばらくキスしてやんないぞ」
「へ?」
「いいね?返事は?」
「は…い…」
スヒョンは僕をたっぷり意地悪な笑顔で見るとホテルの入口に向かった
僕はやっと状況を理解し、むちゃくちゃムカついて叫んだ
「「 ばかスヒョンっ! このっ悪魔っ!」」
心配 オリーさん
「僕はちょっとスヒョンの所へ行ってくる」
「ひとりで?」
「ミンはイナの足見てやって」
「僕も行きます」
「いいよ、一人で大丈夫だ」
「だめ!」
「バカだなあ、心配ないよ」
「でも…」
「それより兄さんと少し話した方がいいんじゃない。まだ挨拶もろくにしてないだろ」
「挨拶する前にアレですからね。僕に喧嘩売ってるとしか思えません」
「アレはあの、その、はずみだから」
「はずみで2回もキスされたんですか。しかも1回は待ち伏せでしょ!」
「ひいん…じゃなくて、つまりあれも挨拶だろう。ミンに会いに来たって言ってたじゃないか」
「ミン、騙されない方がいいぞ。こいつまた一人でフラフラして何かやらかすぞ」
「イナ、偉そうな事言ってないで足の心配でもしろ」
「ふん、どうせ俺の出番はカットなんだろ。だったら足なんかどうでもいいさ」
「まるで駄々っ子だな。ちょっとミンにしめてもらえ」
「ミン、ミンチョル一人にしたらどうなるかわかってるんだろ」
「お前こそ一人で置いてったらまたフラフラするだろ。9時まで預かるって約束なんだからそれまで大人しくしてろ」
「偉そうに!フン!」
「おばか!フン!」
「二人ともやめてください。まるで子供の喧嘩です」
……しいいいん……
「とにかく僕は行って来るから」
「ちょっと待って」
xxxxXXXXX XXXxxxx xxxxXXX
「いい、これが僕ですからね」
「わかってるよ、バカだなあ」
「こらっ!俺の前でイチャイチャするな!」
「フン!何したってこっちの勝手だ、ねえ、ミン。じゃ、いってきまちゅ」
「ほんとに…大丈夫?」
「ミン、愛するってことはね、信じるってことだよ」
「けっ!キザったらしい御託並べてないでさっさと行って兄貴にやられちまえ!」
スパコーーーンっ!!
「痛てえよ、ミン。ミンチョル、こいつ凶暴だぞ。まじで殴りやがった」
「少しは目が覚めたろ」
「フン!」
「ツン!」
とにかくイナの面倒をミンにまかせ僕は部屋を出た
スヒョンがつらそうってどういう事だろう、それが引っかかった
PDの代理くらいスヒョンの手にあまるはずがない
会場のホールへ向かう途中で外から戻ってくるスヒョンが見えた
スヒョンの回りに暗い影がつきまとっているような感じ、なぜ?
僕はスヒョンに向かって手を上げた
僕に気づくとスヒョンは影を振り払い無理に微笑んだような気がした
「すまない。色々面倒を押し付けてしまって」
「ミンチョル、もういいのか」
「ああ」
「そっか、じゃ僕もお役ご免だな」
「何かあったのか?顔色があまりよくない」
「いや。ただ…みんな結構色々注文つけてくれて大変だった、それだけだ」
「テジンがケガしったって?」
「うん、でも大したことはないよ」
「それはよかった。で君は?大したことあるみたいだ」
スヒョンは立ち止まるとまじまじと僕の顔を見た
「何で?何もないよ」
「嘘つくなよ」
「人の気持ちがわかるのは僕の専売特許だぜ」
「別にわかるわけじゃない。ただ落ち込んでるみたいだから」
「おいおい、優しくするなよ」
「心配してるだけだ。今までサボってたから」
「あいつは何者?」
「あいつって?」
「ギョンビンのそっくりさんだよ」
「あ、ああ、彼はミンの兄さんだ」
「兄貴か。まるでコピーだな」
「そうなんだ。間違えやすくて…」
「は?まさか…お前やられたね」
「……」
「何だ、図星か。ハハ」
「笑うなよ。ミンに叱られて大変だったんだから」
「そりゃ叱られて当然だ、クスクス…」
「もう勘弁してくれよ。しこたま反省文書かされた気分だ」
「悪い、悪い。お前がやられたんじゃドンジュンのこと責められないな」
「え?まさか、ドンジュンも?」
「さっき、かなりやられてた」
「そうか。やっぱり一度話さないとだめだな」
「やめとけ。ヤケドするぞ」
「大丈夫だよ」
「お前がその気がなくても向こうがその気だったらどうする?ミンにそっくりなんだぜ」
「僕にはミンはひとりだ。それで十分だろ」
スヒョンは笑いながら僕の肩を抱いて親父さんみたいに言った
「だからお前はほっとけないんだ。危なっかしくてな」
「子供扱いしてくれるな」
「恋愛に関しちゃ、お前子供みたいだからな」
「スヒョン、それはどういう意味だよ。けなしてるのか、それとも…」
「けなしちゃいないさ、ミンチョル君」
「ミンチョルさんにスヒョンさんですか、君たち」
突然後ろから降ってわいた声に僕とスヒョンは振り返った
ミンの兄がにこやかに笑って立っていた
責任転嫁 ぴかろん
「なあ、心配だったら後つけたら?」
「…心配ですけど…信じて…るんですけど…でも…イナさんと親友だってのが…」
ミンは俺をじいいっと見つめた
それって何が言いたいわけ?
「あいつ、俺と似た感覚だからぜーったいヤバいぞ…行かないわけ?行かないのね?…」
「はい。テジュンさんに貴方を引き渡すまで一人にするわけには…足も心配ですし」
「…信用ねぇの、俺って」
「当然です!」
当然だよな…足いてぇ…ちょっと心もいてぇし…
「あの…聞いていいですか?」
「ん?」
「ソクさんの事…好きなんですか?」
「…ああ…」
「テジュンさんは?」
「愛ちてる」
「…両方好きなんですか?!両方とよろしくやろうって気ですか?!」
「そうできれば一番ラッキー…」
「…こんな人と親友だなんて!」
「あのさぁ…そう言うけど俺がこんなになった元々の原因はミンチョルなんだぞ」
「は?」
そうだよ、大体チニさんからのメールに変な返信したりしておせっかい焼くからああなってこうなって…そして俺はテジュンを好きになって…
「好きになったんだからいいじゃないですか!」
「でもな。俺は…一線を越えるつもりは…なかった」
「大うそつき」
「ほんとだぞ!お前達がいけないんだ…あんな…あんな事に…なるからその…俺も…意識しちゃって…」
「それは…」
「…お前、怖くなかった?ミンチョルとあの時そうなるって事」
「…僕は…」
「虜になってた?」
「…はい…」
「あーんなのに?」
「あんなのって失礼な!」
「だって俺にとってはただのキツネだもん!」
「そーですね!イナさんの美的感覚は狂ってるらしいですからねっ!」
「むかつく〜!とにかくっ俺がテジュンとそうなっちゃったのは、お前らのせい!それから俺はその…あの…」
知りたいこと ぴかろん
「解りました、百歩譲ってそこまでは僕達のせいだとしましょう。でもその後の事は全部イナさんのせいでしょ?大体好きな人を間違えますか?!」
「ミンチョルだって間違えたじゃん」
「…そうだった…」
「アイツの場合、キスしててもわかんなかったんだろ?俺はキスで解ったモン」
「威張らないでください!それだけソクさんのキスが上手かったんでしょ?!テジュンさんのキスと随分差があったってことでしょ?」
「…そか…」
「でも。僕だって…ミンチョルさんと会ってから…上達したみたいだし…」
「ふーん、キツネの仕込みかぁ。ならたいしたことねぇな」
「ミンチョルさんのキスもしらないくせに!」
「あれっミンチョルとキスしてもいいの?」
「絶対ダメです!」
「フフ大丈夫。だ〜れがあんなキツネなんかと…」
「とか言って怪しい…」
「俺、あーいう顔好みじゃねぇもん」
「貴方の顔も同系統ですよ」
「…そか…」
言い負かされる俺…
さすがミンチョルの嫁さんを追い返しただけの事はあるわ…
「明日、しっかりテーピングしなきゃね。痛むようなら痛み止めの注射してもらって…カジノコーナーは座ってポーカーでしたね?じゃ大丈夫か…」
しっかりしてるし…ミンチョルがあんな赤ん坊ギツネになるのもわかるわ…
「なんです?」
「あのしゃーちょっと聞いていいれすか?」
「な…なんですか、らりるれって…」
「あのしゃ…あの…最初は…しょの…ミンチョルが…アレしたれしょ?で今はしょの…ミンがアレしてるれしょ?…しょれって気分で入れ替わるの?」
「は?」
「らからしゃ、しょの…せめたりまもったり」
「…守る?」
「あ、違った…せめたりうけたりら」
「…」
知りたいこととなくしたもの ぴかろん
「いちゅからしょぉなったの?ろーしてしょぉなったの?違和感にゃかったの?今も入れ替わってるにょ?しょれって『今日は僕がセメね』とか決めるにょ?
しょれともしょの日の雰囲気れいっちゃうにょ?参考までに聞きたいら」
「何の話ですか?」
「しらばっくれんなよっ!最初はお前がヤられてたのがこないだはキツネがヤられ」
「ヤるとかヤらないとかそーゆー言い方、やめてくれませんか!」
「…」
「それ聞いてどうするんですか!」
「らから参考にしたいと…」
「絶対に教えません!」
「…」
『あ…涙目だ…ちょっと可愛い』
フン。ミンなんかだいっ嫌いだ!どこがいいんだよこんな怖い男…
あーあ。つまんねぇの。テジュン早く迎えにこないかなぁ…
俺は何の気なしにペンダントを触った
あれ?なんか軽い…
ん?うるとらまんたろう、背中にまわっちったかな?
「なにをガサガサしてるんですか」
「いや、うるとらまんが…」
あれ?あれ?ない…鎖しかない…え?
俺は頭の中が真っ白になった
落とした?どこで?
どうしよう…どうしよう…うるとらまんたろうが…ない…
俺はふと胸ポケットを見た
あれっ…万年筆もない…なんで?!
「イナさん…どうしたんですか?顔色が…」
「ない…ないよ…ない。どうしよう…どうしよう…」
「なにが?」
「うるとらまんと万年筆…どうしよ…」
「…泣かないで…落としたんですかね」
「ううっうっテジュンに怒られる…うっうっ大事な物なのに…どうしよお…」
見つからなかったら…
「隙がありすぎると大事なものをなくすってことかもしれませんね。とにかく落ち着いて、どこでなくしたか分析してみましょう」
いやみ。冷静すぎ。俺がこんなに動揺してんのに
だいっ嫌いだ、ミンなんて!
#追憶4 妄想省家政婦mayoさん
テソンと闇夜がちょっとテーブルから離れると
テスが俺にこっそり耳打ちした
『ちぇみ...』
『何だ。どうした...』
『お茶飲んだら戻ろう...』
『お?えぇ〜ぃ...###には早いぞぉ?テスぅ...』
『違うってっ。いいから。ねっ!』
『ぉぉん...わかった』
秘密部屋を出てからテスは歩きながら考え込んでいる
俺は隣のテスの顔を覗きこんだ
「テス、どうした?ん?」
「ちぇみ...これから別宅行ってみたいんだ...いい?」
「ぉ...わかった」
俺達は部屋に戻らずに別宅へ車を走らせた
テスは別宅に着くと真っ先に闇夜の部屋を開けた
「ちぇみ..........@@」
「こ....これは...@@」
「思った通りだよちぇみ...何もないよ..」
「あいつめ...」
テソンの部屋と俺たちの部屋を見ると着替えさえあれば
すぐにでも住める状態に整理されている
抜け目がない、いつもの闇夜の仕事ぶりだ
俺たちはもう一度何もない闇夜の部屋を見てから
テソンの部屋の前にあるベンチに座った
「何故わかった、テス...」
「さっき僕らやテソンさんの部屋とかベットの話してたけど...mayoさんは...」
「自分の部屋のことはひと言も言わなかったな...」
「ぅん..ほら、あの後すぐにちぇみに電話が来たじゃない」
「闇夜には俺の電話が好都合だったわけだ」
「ねぇ...mayoさん...もしかして...」
「どうするつもりなんだ...あいつは...」
「mayoさんは...いつも自分は後回しだ..人のことばかり心配して...」
「テス...」
「僕らのときだって...たくさん心配してくれたじゃない...」
「そうだな..」
「それに...ほら、これだって...」
テスは俺とペアのペンダントを掴んでみせた
「僕とちぇみが離れないようにって僕らにくれたものだよ?そうでしょ?」
「テス....」
「何も知らないテソンさんが可哀想だ...あんなにmayoさんが好きなのに
mayoさんも可哀想だ..ホントはテソンさんの側にいたいんだ...」
俺は半ベソをかいているテスを引き寄せ頭をよしよし撫でた
「...ちぇみ...mayoさんは..まだ..思い出すのかな...」
「もうテソンのほうが占領してるだろ...」
「あんなに想ってるもん...負けてないよね」
「いや...もう勝ってるだろう...」
「ちぇみ....早く何とかしないとねっ」
「テス、祭りは明日からか?」
「はっきりしないけど...たぶん...」
「様子をみて...やるぞ」
「ぅん。わかった」
闇夜は知り合いのインテリアショップに電話を入れた
テソンは後ろから両手で闇夜の肩を抱き髪xxxをする
「どうだった?」
「....明日昼までに入れ替えしておくって」
「サンキュ^_^ 」
「わがままなんだからぁ...」
「先に聞かないのが悪いんだ...」
「そぉですか。ミーアネミアネっ...大体にしてひとりで寝るのに何で..」
「いいじゃん...僕、はるみちゃんと寝るもんっ」
「ぷっ♪それがいいわ。ぴぃーったり。はるみ..あったかいよ」
「もぉぅ〜どうしてそういうことばっかり言うかなぁ」
髪xxx〜デコxxx〜みみxxx〜その下にxxxが落ちると闇夜はおとなしくなる....
『ひとりでなんか寝るもんかっ…絶対..』
ちょっと強気のテソンであった...
けんきゅうのーと ぴかろん
ふらつく
ふらつかない
ぼくはまずこのことばをかきました
そのあとにそれぞれまた、ことばをいれます
ぼくのけんきゅうのーとにかきます
ぼくはとてもひまなのでいろいろなものをかんさつしました
かんさつけっかをのーとにかきます
<ふらつく>
いちい−いなさん…そくさん、すひょんさん、てじゅんさん
にい−みんちょるさん…ぎょんびんさん、すひょんさん、どんじゅんさん、ぎょんびんさんのおにいさんのぎょんびんさん
さんい−そくさん…いなさん、すひょくさん、どんじゅんさん、みんちょるさん、すひょんさん
よんい−どんじゅんさん…みんちょるさん、そくさん、いぬせんせい、ぎょんびんさん、ぎょんびんさんのおにいさんのぎょんびんさん、すひょんさん
ごい−すひょんさん…どんじゅんさん、てじんさん、いなさん、うしくさん、みんちょるさん、ぎょんびんさん、そくさん、おとこぐみたいちょうさん
にんずうがおおくてもいちいとはかぎりません
ふらつきど、きもちのはばがいちいのきめてです
だからいちいは、いなさんです
きまりです
きもちのふらつきは、てんかいっぴんだそうです
<ちがういみでふらつく>
『ちがういみ』とは、『ふらつく』をもじどおりじっせんしているひと、または、あるまよいがあるひとをさします
まよさん(いつもどこへいくかわからない)、うしくさん(おとうさんといぬせんせいのことでまよっている)、
てじんさん(おにいさんのことがきになる)、ぎょんびんさんのおにいさんのぎょんびんさん(おとうとのぎょんびんさんのものがきになる)
<ふらつかない>
ふらつかないひとは、じゅんいはつけません
ゆれがないからです
でも、あるしゅ、ぶんるいができます
(あいてがいる)
てじゅんさん、てすさん、くもさん、てそんさん、てぷんさん、ちぇりむさん、ちょんまんさん、ちにさん、いぬせんせい、
らぶくん、ぎょんびんさん、ぼく(じゅんほ)
(みゃくがありそうなひとがいる)
すひょくさん
(あいてにしてもらえないらしい)
しちゅんさん
ふらつくひとは、こまったものです
「ふらつくひと」をこいびとにした「ふらつかないひと」はとてもくろうしているとききました
ふらつかないようになってほしいとおもいます
いじょう
動揺 オリーさん
「挨拶が遅くなってしまって。ミンの兄です。弟が世話になってるみたいで」
涼しい顔でミンの兄さんは僕達に近づいてきた
僕も涼しい顔で答えた
「挨拶なら十分していただきましたから。それにミンには僕の方が世話になってます」
兄さんは屈託のない笑顔を浮かべながら今度はスヒョンの方を向いた
「さっき彼にも軽い挨拶してしまいました」
スヒョンもこれまた涼しい笑顔で答える
「やんちゃな子で困ってるんです。ご迷惑をおかけしました」
三人とも意味不明な笑顔を浮かべた
その笑顔のまま僕は言った
「ちょっとお話しませんか」
「いいでしょう」
僕らはロビーにあるカフェに入った
「今このホテルはホストしか入れないはずなんですけど」
「それは僕らの仕事をしていれば何とでもなりますよ」
「でミンに会いにきたとおっしゃってましたよね」
「久しぶりなのに、すっかりヘソ曲げられちゃって。僕の悪い癖が出ちゃったから」
「あれは確かにあまりいい趣味とは言えませんね。僕はミンに随分叱られました」
「弟の彼氏に手を出すってどういう気分です?」
スヒョンが割り込む
「いや、僕は手を出すというつもりはまったくないんです」
「じゅ、どうしてミンチョルやドンジュンにキスしまくってるんです?」
いつになく意地悪なスヒョン
「なぜ山に登るのか、そこに山があるから、っていう感じですか」
「は?」
「なぜキスするのか、そこにキスしたい対象がいるからっていう事ですよ。それがたまたま弟の彼氏だったり、あなたの彼氏だったり」
「勝手な理屈だな」
「そうなんです、僕は勝手な兄でして、いつも弟に叱られてばかり。あ、これはミンチョルさんと同じかな。あいつなかなか潔癖症でしょ」
余裕の笑い
「ミンに何か用なんですか」
「そう。実は大事な用があるんです」
「よかったら聞かせていただけませんか」
「そうですね、あいつに言うよりあなたに言った方がいいかもしれない」
「どんなことです?」
「あいつを返してもらいたいんです」
「え?返すって…」
「元の仕事に戻して欲しいんです」
「というと諜報活動に?」
「そうです。あいつはプロです。腕も悪くない、いやむしろ優秀です。なのに手違いでここに来てそのままいついてしまった」
「それはおかしい。ミンはスカウトされてここにいるはずです。問題はないと思いますが」
「僕が困ってるんです。パートナーとして弟が一番やりやすい。弟と組んで仕事をしたいんですよ」
「ギョンビンと組みたいって言うのはあなたの希望でしょ。だからってギョンビンがそれに従う必要はないでしょう」
「確かにそうです。でも考えてみてください。語学が堪能、銃器の知識があってパイロットでもある。もちろん格闘技はひととおりマスターしてる
そんな弟がなぜホストをやる必要が?」
「それって…」
「いや、誤解しないで頂きたいがホストがどうのこうのではないんです。ただ弟が身に付けた技能や適性として持っているものを発揮する場所にいた方がいいと思うんです
ミンチョルさん、いかがです?」
「…」
「何が弟にとって有益かという事です。僕の言ってる意味おわかりですよね」
「…わかります」
「弟を説得しようと思いましたが、あなたに話した方がてっとり早いと思って。話は簡単です。あなたが弟と別れてくれればいいんです」
「ちょっと、あんた、さっきから聞いてれば何ぺらぺら勝手なこと言ってるんだ」
「やめろよ、スヒョン」
「だっておかしいじゃないか。今になって元の職場に戻れなんて」
「いいからちょっと黙っててくれないか、スヒョン」
僕は脳天をガツンとやられたようなショックを受けた
何がミンにとっていい事なのか…
ホストをする事がミンにとっていい事なのか…
僕とずっと一緒にいる事がミンにとっていい事なのか…
何がミンの将来にプラスになるのか…
「急なお話で何とも…少し考える時間をください…」
僕はそう言うのが精一杯だった
「ミンチョル、こんな話を間に受けることない。行こう!」
スヒョンが唐突に立ち上がった
「ミンチョルさんの方が弟の事をきちんと考えてるっていうことですよ、スヒョンさん」
スヒョンは強引に僕の手を取って席を離れた
「いいお返事を待ってます」
いい返事…ミンの兄さんの言葉が胸に刺さった
ホールの入口まで僕をぐいぐい引っ張ってきたスヒョンは僕の両腕を強く掴んで言った
「だからお前は子供みたいだって言うんだ。しっかりしろよ」
「でもミンの兄さんの言うことは間違ってないだろ」
「あんなの詭弁だ。ミンがお前と一緒にいたいんだから全然問題ない」
「本当にそう思うか?それがミンのためになるのか?」
「今さらやめろよ。怒るぞ、こいつ!」
『僕がどんな思いでお前をあきらめたと思ってるんだ。バカ野郎!』
スヒョンに怒られてることで僕はかろうじてその場に踏みとどまっていた
そうでなければ僕は大きく割れた足元の隙間に落ち込んでいったに違いない