悪魔の指 2 足バンさん
僕は少し疲れてるみたい
前半飛ばしすぎちゃったからかな
祭が終わったら…
スヒョンのやつどうするのかな…
そのままミンチョルさんと仕事していけるのかな
僕の出る幕じゃないけどさ
毎日ミンチョルさんと会うのって辛くないかな
僕がとやかく言うことじゃないけどさ
ミンチョルさんと奥さんのこととかも心配してんだろうな
それこそ僕は蚊帳の外だけどね
僕はテソンさんの部屋の前にいた
べつに悪さしに来たわけじゃない
だってテソンさんって好きな人いるみたいだし
この間抱きついた時わかっちゃったもん
その相手が相手だから、とても対抗する気になんない
でもいい人だったから…なんだか話をしたくなった
ノックするとテソンさんはすぐ出てくれた
「あぅっ!ド、ドンジュン」
「ちょっといい?」
「あ、え、うん、あのちょっと待って」
なんだかずいぶんジタバタしてから招き入れてくれた
「いい匂い…チョコレート?」
「あ、うん。ちょっと試作してた」
「テソンさんってそういうのも作るの?好きそうじゃないのに」
「いや、ちょっと試してみただけ」
「誰かにあげんの?」
「いや…うん…まぁ座れよ」
「ちょっと見せてよ、溶かしてんの?」
「うん、湯せんしてる。この温度調節が風味の決め手」
「へえ…」
「こ、こらっ!ドンジュン!指つっこむなっ!」
「へへ…熱いね」
「まったくっ!」
指にくっついたチョコレートを舐めてみた
甘い
甘くて…苦くて…
涙が出てきた…
さっき、見えちゃった
テソンさんがじたばたしてる時
テソンさんが急いで切りまくってたモニターのひとつ
スヒョンの部屋
スヒョンがミンチョルさんを抱きしめてた
事情はよくわかんないけど、そんなことになってんだ
「おい…どうしたんだ?」
「なんでもない。熱くて涙が出た」
「やけどしてない?」
「大丈夫」
「なんだよ。舐めて治して、とか言わないの_」
「僕いつもそんなことばかり言ってるわけじゃないよ」
「ごめん…」
「ほら、温度上がってるよ」
「おぉ、いけね」
「mayoさんは?」
「ちょっと出てる」
「テソンさんって奥さんみたいね」
その時のテソンさんの顔ったら。赤くなっちゃって
スヒョンにぜひ教えて…
…ふん…
教えてやるもんか。こんな楽しいこと
チョコの作り方だって教えてやるもんか
決め手は温度管理だってことも絶対教えてやんない
絶対…
「おい…ドンジュン…」
「ん?だってまだ熱くて涙止まんないんだもん」
「さっき見たの?」
「なんのこと?」
「だから…」
「最後まで教えてよ、チョコ」
「…いいよ…こっち来いよ」
僕はテソンさんとチョコレートを作った
絞り袋みたいなのでグニュっとやった
楽しかったけど…涙腺がどうかなってて…涙がこぼれ続けた
「しょっぱくなるぞ、チョコ」
「いい。一番ばかで嫌いなやつに食わすから」
テソンさんは何も言わずに最後まで付きあってくれた
チョコレートが固まるまでコーヒーを出してくれた
テソンさんはやはり何も聞かなかった
部屋を出る時、僕はテソンさんにゆっくり近づいた
テソンさんは少しためらってから、優しく抱きしめてくれた
優しさが伝わってくる。不器用だけど深い思いやり
僕の身体の奥までしみわたった
ほらもってけよ、チョコ
うん
僕はドアを出るとスヒョンの部屋とは反対側の廊下を歩いた
ドライブでもしようと思った。ひとりで
睡眠確保 ぴかろん
準備も大詰めだ
僕はへとへとだ
でも寝る時間もない…と思ってたらまたオ支配人が休憩時間をくれた
3時間寝て来いと言われた
今日は寝るぞ
ほんっとに寝る
でないと死んじゃう…
僕はふらっふらで部屋に戻った
バタン
「うわっちょ…ニャ…ん…んむむ」
はむはむはむはむ
ハム攻撃だ…
美味しいけど…今日は眠いよ、ニャー
「ごめんニャー、僕寝ないと死んじゃうよ…」
「…つかれた?お風呂は?」
「いらない…寝かせて…zzz」
「おい!もう寝てる…こんなとこで寝るなよ、もう…よいしょ」
ドタガシャン
「いてぇっ!重いっ!にゅ〜!ちょっと、にゅ…」
「…んニャー…愛してるよ…」
「…ンフ…かわいい…」
僕は朦朧としていた
イナが一生懸命僕をベッドに寝かせてくれた
ありがと。ハムしたい。でも眠い。zzz
可愛いな、テジュンの寝顔って…
そう言えば寝顔なんか見たことない…
え?そんなに…そんな事ばっかししてたっけ?
あ、ネクタイ外してやろ…ボタンも…二つぐらいなら…ん?…シャツから透けて見えるこれは…チ○ビ(^^;;)
ちょっといたずら…こしょこしょこしょ
「ぅうん…」
いひひひ
…あ…いかん…どうしよう…いかん…欲しくなってきた…いかん…でも…唇だけでも…
ごそごそ
ハム
「…ん…んんzzz」
あは。面白い。寝てても反応してる
…これは…もしかして…無抵抗?
俺はテジュンのシャツのボタンを全部外した
素肌にシャツ!
くー、せ〜くし〜
って俺もそうだけどさ。へへ
俺は生唾を飲み込んで作業に取り掛かった
脱がしちゃえ
キスしまくっちゃえ…
はむはむはむ
はぐはぐはぐ
…ちぇ。無抵抗ってつまんないなぁ
はむはむはむ
「…ん…ニャ…お願い…眠い…今できない…今度」
「いいよ、何もしなくていい。俺がやるから」
「…ん…助かるzzz」
僕は夢の中でイナの唇を感じた
妙に生々しい
なんだか興奮してくる…
「ん…んん?んんん?くはっニャー!」
「寝てていいよ」
「何してんだよ!」
「え?」
「何で僕裸?!」
「いっつも裸で寝るじゃん…」
「それは…それはその…え?ニャー何してんの?」
「いろいろ…」
「僕にキスした?」
「…」
「こら!答えろよ!した?」
「…」
「おい、イナ!」
「寝てろよ!」
「こら!お前何考えてんだよ!」
「だから…チャンスだなと思って…」
「なんの!」
「いや…逆バージョン…」
「…」
「だめ?」
「駄目だ!怒るぞ!」
「なんで?」
「卑怯だぞ!寝てる時にそんな事」
「…」
「あ…眠い…とにかく…だめだぞzzz」
「駄目って言われると…やりたくなるじゃん…」
ちうちうちう
はむはむはむ
「…ん…」
「よっこらしょっと」
「いってえっ!イナ!こらっ!いてててっ」
「…かったいなぁ体…」
「こらっ!コロすぞ!」
「こんなとこに入れんの?」
「おいっ!いてっ腰が…足が…」
「えっと…何してたっけにゃ〜…」
「はあ?」
「えっと…」
「もう!馬鹿野郎!」
「あっ…」
「こうだよ!」
「あ…俺がっあっ…」
「全く…眠いって…言ってるのにもう…zzz」
「あんっ寝ながら…酷い…ん…」
「…死ぬ…僕死んじゃう…zzz…」
*** *** **
「zzz」
「…ん〜もぉ〜…ぜったい…今度こそ…逆に…」
「だめzzz」
「悔しい…」
僕は眠りながらイナにキスをした
とんでもなくいい気持ちだった
テソンの憂鬱7 妄想省家政婦mayoさん
僕はその夜なかなか寝つけなかった
夜中に電話があった。着信音は tears…
僕はすぐリビングへ行った
はい…えっ?!…どうして…そんなことに…
今何処ですか?…大丈夫ですか?
あ、すぐ行きますから!…そこにいてください!
動かないでそこにいてください!! パンッ★
閉じた携帯を持って何か考えていた
通信マイクの周波数を合わせ、連絡しようとしている
でもスイッチを押さずに手を止めてまた何か考えている
僕はそばによって周波数を見てみた。ちぇみの周波数だ
どうしたの?何かあった?
僕に振り返った顔は不安そうな顔だった
何かある。僕は直感した。もう一度聞いた
どうしたの?何かあった?僕に言えないこと?
僕の顔を見てちょっと黙った後に重く口を開いた
テソンッシ…車運転してくれる?ごめん…
いいよ。急ぐんでしょ。早く!
車に乗って行き先を聞いて少しびっくりした
BHC…
返事は返ってこないと思ったけど何故?と聞こうと思ったとき
僕の顔を見て遮るように言ってきた
ごめん…テソンッシ…
理由の代わりに言ってきた意外な返事に僕は何も言えなかった
僕は黙って運転した。いやな予感がとぐろを巻いていた
着いてすぐ厨房の裏口へ走って行く。僕も後から続いた
厨房裏口に人が座り込んでいた
あいつだった
試行錯誤 ぴかろん
部屋を出て、イヌ先生の部屋へ向かった
さて、どうしたものか…
ウシクの様子からすると相当…壊れてるようだし…
僕は最初の出方を考えながら廊下を歩いていた
…
なんでそこにいるか?
ばかが突っ立っている
気づかれないようにしよう
僕は馬鹿野郎の前を通り過ぎた
何も言わない
と思ってたら急に腕を掴んだ
「なんだ」
何も言わない
「忙しいんだ。お前の相手してる暇はない」
そう言うと馬鹿は急にキスしてきた
「ん…ごめん。暇がない」
「…ふぅん…」
しまった。読まれたか?
「…慰めてあげたんだ、また」
「うるさいなぁん…」
今度はもっと深いキス…
全く…うるさい奴だ…
どうせ僕の思考を読もうとしてるに違いない…
…読めばいいさ。お前の出る幕じゃないんだから…
「…わかったろ?大変なんだ…イイコにしてたら今度ご褒美やるから。な」
「…いらない…」
「ふ…じゃな」
馬鹿を置き去りにして僕はまたイヌ先生の部屋に向かった
さてと
とりあえずノックだ…
応答なし
もっと強く叩く
ガタン…
気づいたかな?
「開かないじゃん」
「お前!おとなしくしてろって言っただろ!向こうへ行け!」
「いいじゃん。僕も行く」
「ややこしい!お前が来るとめちゃくちゃになる!」
「そんな事ないよ。あ、開いた」
カチャン…
ドアの隙間から無表情のイヌ先生の顔が覗いた
「ゾンビだね」
「しっ…。イヌ先生。ちょっと話せるかな?」
「…」
うつろな瞳でイヌ先生は部屋の奥に戻っていった
僅かに開けられたドアは、僕の訪問を拒否していないって事か
僕はドアをすり抜けた
馬鹿もついてきた
「…帰れ。邪魔だ!」
「…ほっとけないよ」
「え?」
「スヒョン一人じゃ無理」
「…見くびるなよ!」
「大人しくしてるよ」
しょうがないな…
ま、イヌ先生は、僕等が何人であろうと関係ないみたいだ
心ここにあらず?
ふぅ…
手強そうだな…
僕はイヌ先生の真正面に座った
横恋慕 パート2 ぴかろん
おかしいなぁチェリムの奴、そろそろ来る頃なのになぁ…
えへへ
今日はTearsスペシャルバージョンで歌ってやろうと思ってんのに
早く来ないかなぁ…
「どう?よかった?」
「…ん?え?何?」
「歌、うまいだろ?俺」
「…え?歌?」
「聞いてなかったの?!」
「ごめん。寝ちゃった。今何時?」
「…」
「シチュン、何時?」
「…ひでぇ女…」
「何よう、何拗ねてんのよう」
「…」
「何よ。どしたの?」
「お前…テプンさんの事、本当に好きなのか?」
「…なっなっなんでそんな事聞くのよ」
「…俺が…入る余地…ないのか?」
「…え?」
「…」
「な…何?」
「…なぁんちゃって。ばーか」
「!何よ!からかってんの?!」
「ひひ。お前すぐ本気にするも…」どすっ☆
「ぐぇっ…頼むから腹は…やめて…」
「馬鹿!」
「チェリム〜!」
「ソ・テプ〜ン」
「おっせぇなぁ」
「ごめん…ちょっと居眠りしてた」
「大丈夫か?編集徹夜じゃないのか?」
「大丈夫。今夜アフレコするの」
「…今夜?…無理すんなよ」
「うん」
「疲れてるんだな」
「そんな事ない」
「座れよ」
「ん」
「よいしょっと…ちょっと目ぇ瞑れ」
「ん」
「頭、ここ、置け」
「ん」コテ…テプンの肩にもたれかかるチェリム
『くーっかわいいっ。じゃ囁くように耳元で…』「♪アニャ〜ナンケンチャナ〜」
「…ん?あれ?」
「…なんだよ!ムード出してんのに」
「…さっき…こんな事してなかった?」
「お前今きたとこだぞ!」
「…あ…そか…夢か…夢…あっ!」
「なんだよ」
「…違う…シチュンが…」
「シチュン?!アイツがまたなんかしたのか!」
「…う…ううん…なんでもな」
「なんでもないって顔じゃねぇぞ。何されたんだ!」
「…歌ったの…ソ・テプンの替わりに歌ってやるって…私、寝ちゃったけど」
「なにい?!あの野郎!どういうつもりだっ!」
「…怒んないで…」
「お前!あいつを庇うのか?!」
「…歌って…」
「…」
「テプンの歌が聞きたいもん」
「…」『くーったまんねぇっ』「よし。歌ってやる…♪」
「…やっぱりテプンのがいい…」テプンの肩に顔を埋めるチェリム
『どきどきどきっこんなに密着して…ここはやっぱり…あれか?顎を掴んで…ハムとかベーコンとかをやるのか?!どきどきどき』
「へったくそ!顎なんか掴まなくていいんだよ!そっと掬いあげる様に…ああっ!もう!そうじゃねぇよ!そうじゃ…ねぇ…よ…馬鹿…」
アイツは…そんなぎこちないキスに…うっとりしてる…
「馬鹿野郎…俺ならもっと…」
俺じゃだめなんだ…
俺は、多分、生まれて初めて…本当に切なくなって涙を流した
癒し3 オリーさん
少しづつあいつの心の嵐がおさまっていくのがわかった
それにつれて腕の中でどんどん小さくなっていくような気がした
僕はあいつをもっと強く抱きしめた
あいつの顔を覗き込むと僕の肩で目を閉じている
ああ、この顔だ、まるで眠っているよう
僕は思わず目を閉じて
スヒョンの肩にもたれかかった
何もかも忘れて穏やかな気分になっていった
楽になるってこういうこと…
時間が止まってすべてが夢のようだ
少しは楽になったか
初めてだ、こんな気持ち
もっと楽になりたい?
もっと楽になれる?
なれるさ、僕にまかせろ
僕はあいつの手を引き寝室へ連れて行った
あいつは子供のように素直に僕についてきた
僕はベッドの上にあいつを座らせた
そっとあいつの唇に唇を重ねた
そしてゆっくりとあいつの唇を愛撫した
気がつくとスヒョンに手を引かれていた
その後どこかに腰をおろした
そして…唇に暖かい感触を感じた
とても暖かい
まるで春の陽だまり
なんて心地いいんだろう
僕は壊れ物を触るようにあいつにキスしつづけた
そうだ、壊れ物。まるでガラス細工
まわりはとんがっていて触ると痛いガラス
だからと言って離すと簡単に割れてしまう
そっとあいつを横にした
唇から耳へ、首から肩へ…壊さないように…キスしてやった
暖かさが全身に広がる
僕の辛い事がずべて洗い流される
そのたびに僕は幸せになれる気がした
どうしてこんなに安心できるのだろう
あいつの心にはいっぱい染みがついていた
僕はそれをひとつづつきれいにしてやった
そのたびにあいつは子供のように嬉しそうに笑った
僕はそんなあいつが愛しくて胸が熱くなった
誰も知らない、誰も見たことのないミンチョル、
無垢で無邪気で無防備なミンチョル
僕を感じる?
感じるよ、スヒョン
あいつを癒しているうちに気づいたことがある
僕自身も癒されたってことだ
なんだかこっちまでゆったりしたよ
ただひとつの事をのぞいて
そう、ガラス細工のすべてが欲しい、壊れてもいいから
あいつの最後の染みをきれいにしてやった
あいつは大きなため息をついてそのまま寝息をたて始めた
ばかやろう、そんな顔で寝るなよ
寝ているあいつの顔のラインを指でそっとなぞった
唇をそっと撫でてみた
さっきまでキスしてたのは僕じゃない
天使さ
まったく厄介だな、僕って
でもやっぱりどうしても我慢できなくなって、
僕は最後に一度だけ僕になってあいつの唇にキスをした
それくらいいいだろう、大目に見ろよ
その後受話器を取ってミンを呼んだ
ミンはすごい顔をして僕の部屋に来ると
ミンチョルを抱きかかえるようにして連れて行った
でも不思議と嫉妬は感じなかった
だって僕は誰も知らないあいつの顔を知っている
それでいいじゃないか
気がつくとミンがこわい顔をして僕を覗き込んでいた
スヒョンさんと何してたんですか
え?何だって?
わけがわからなくてちょっと考え込んだ
ふっとあいつの声が響いた…楽にしろよ。僕にまかせろ…
ああ、そうだった
僕はふっと笑った
ミンはそのままぷいと向こうへ行ってしまった
僕はさっきまでそこで寝ていたあいつの面影をたどっていた
傷の癒えたあいつは恋人とうまくやっていくだろう
僕は天使、もう一度自分に言い聞かせた
だからあいつが幸せになればそれでいい
それにちょっとだけおこぼれももらったし
僕は両手を広げてミンの背中抱きしめた
とてもいい所へ行って来たんだ
ミンはえ?という顔をして僕を振り返った
だから今夜はずっと君を抱いていてあげる
ミンは心配してたんだから、と言って僕の腕に飛びこんできた
僕はいつまでもミンを抱いてあげた
きっと君を幸せにしてみせる
どこかでスヒョンの声がしたような気がした
うまくやれよ…
テソンの憂鬱8 妄想省家政婦mayoさん
クールで隙のない有能で完璧な男
僕の知らない笑顔にさせた愛を知らない男
座り込んでいたのは僕の知ってるキム・ソヌじゃなかった
頬がこけ、唇が切れ、顔のあちこちから血を出している
何だよいったい…
なんでこいつが電話をして来るんだ…
やめてくれよ…なんでこんな姿を見せるんだ
こんな姿を見せるために電話をしたのか?
僕は何だか怒りを通り越して呆れてしまっっていた
でもソヌの様子を見て僕の方へ振り向いた目が言ってる
『ごめん…テソンッシ…』
僕は黙って厨房の覗きっこ部屋にソヌを運んだ
僕らはお互いに無言のまま機械的動作でソヌの手当をした
僕の頭の中にあの資料の最後の一行が浮かんだ
<裏切り→抗争→孤独→破滅>
離れた椅子でちょっと安心したのかウトウトしている
ごめん…
寝言が聞こえた
仕事だから助けたのか…もっと他に理由があるのか…
聞きたいことは山ほどあった
でも聞いてもどうせ答えをはぐらかせる…筈…
まともに本音は言わないからね、いつも
無茶はしないでくれよなぁ…
僕はそっとコートをかけた
気がつきましたか?
君は…確か…
テソンです。一緒に来ました
迷惑をかけてしまったね
何があったかは聞きません。それはあなたの問題です
申し訳ない…
彼女はあなたがBHCに必要だから助けた
……
あなたが必要なように彼女もBHCに必要なんです
……
危険な目にだけは遭わせないでください。お願いします
わかった。すまかった
どこか連絡するところはありますか?
僕の右腕のミンギに連絡してもらえるかな。番号は###-####-##
わかりました
周りがうっすらと少し明るくなった頃、
僕はいきなり苦いコーヒーを入れてやった
ごめ…
もういいよ…
テソンッシ…ありがとう…
うん…
苦いコーヒーに顔をしかめながら情けない顔で笑ってる
ったく…心配かけて
まもなくソヌの右腕のミンギが迎えに来た
僕は彼を見てびっくりした。ミニ・イナじゃないか
知ってたの?って当然知ってるよな。有・能なスカウトだもんな!
……^^;;
僕らが「気をつけて」と言うと
ソヌは「ありがとう…」と言ってミンギと帰っていった
来る時とは違い帰りはいつもと同じように話せた
ちぇみに連絡しなかったのは…テスがいるから?
うん...邪魔しちゃ悪いし...ほらっ、一番盛り上がってる時間かなと思って…
ぷっはっはっ!…そうだね。
それに…暇なのテソンッシだけだし…
どうせ僕は暇だよ!
あはっ...ミアネ…
テソンッシ…
何…
お腹すいた…^^;;
僕はこのお馬鹿をグー★で殴りたくなった
ひゅっ!と腕を伸ばしたとき、手のひらで パシッ★と止められた
くそっ…いつか絶対殴ってやるからな!
窓際で煙草を吸おうとしたちぇみは駐車場のテソンと闇夜を見つけた
ん?…あいつら今度は朝帰りか?…
違うな…何かあったな…怪我はなさそうだが…
「ちぇみぃ〜^o^〜」
テスはちぇみの背中を”きゅぅぅ〜”と抱いた
『ん?…^^;; …朝飯まではまだ時間があるな…』
「テス…おいで…*^_^*..(でれっ) 」
「うん!」
"きゅぅぅ〜"と抱くのはお互いのおねだりの合図…
朝のメニューはいつも耳たぶを軽く噛んで始まる…
xxxxxxxx…ぁん…xxxxxx…Xxxxxxxxx……
カム太郎 ぴかろん
ばか
ばか
何度も言ってやった
ばか
寝ているテジュンの顔を、唇をなぞる
感じないのかよ、ばか、不感症!
まつげをなぞる
俺の目から涙が流れる
「…ううん…」
いけね…起こしそう…
俺はテジュンを包むようにしてそっと抱きしめた
あったかいな…離れたくないな…
そんな事を考えていると涙がどんどん流れてきた
知らない間にしゃくりあげて泣いていた
突然噛み付かれた
痛いよ…
噛んでやる!
痛っ…痛いよテジュン!
痛くしてるんだよ!
テジュンは身を起こして俺に覆いかぶさり、俺の顔中を歯を立てて噛んだ
痛いよ…なんで噛むんだよ…優しくしてくれよ…泣いちゃうぞ
もう泣いてるじゃないか馬鹿
馬鹿馬鹿言うな!
ずーっと人のこと馬鹿馬鹿言ってたじゃないか
聞いてたの?起きてたの?痛っ
…
テジュン、噛まないでよ!本とに痛いんだから
痛くしてンだよ!
なんで!
体中噛んでやる
やめろよ!
イヤだ!
僕は本当に…歯型が残るぐらい…イナの体を噛んだ
残して置きたかった
傷でもなんでもいいから消えないぐらい深く…
イナは痛い痛いと言いながら、それでも喘ぎ声をあげている
そんな声があげられないくらい強く噛んでやる!僕の事を決して忘れないように
テジュン…噛まないで…お願いだから優しくして…
イヤだ!
優しくなんて誰だってできるだろ?
またあのスヒョンに慰めて貰ったりした時、きっとアイツは優しくお前を抱くだろ?
そんな事しない!スヒョンになんて近づかない!
わかりゃしない!
信じてないの?
信じてるさ!でも…
信じろよ、馬鹿野郎
お前の体を噛めるのは僕だけだ!わかったかよ!
テジュン…泣いてるの?
うるさい!
テジュン…
俺は顔を覆って泣き出したテジュンの頭を撫でてやった
『僕に任せて』って言ったじゃないか…祭が終わった後の事…なんで泣くの?
お前だって泣いてる…
寂しいもん…
…
テジュン?
ずっと一緒にいたい…
テジュン…
けど仕事がある…
たまにしか…会えないよね…
…
テジュン…きっとうまくいくよ
何がだよ!
きっと…慣れるよ…
イヤだ!慣れるなんて!お前がいない事に慣れるなんてイヤだ!
テジュンはわがままを言った
そしてずっと泣いていた
泣かないでくれよ…
まるで祭が終わったら俺達も終わりみたいじゃないか…違うんだろ?
…
終わりに…するつもりなの?!
終わらせない…
よかった…
寂しいんだ…お前がいないなんて考えられない…
俺だってそうだよ…毎日電話する…週に一度は絶対会いにくる…な…テジュン…
…ああ…
馬鹿野郎…馬鹿野郎…そんな弱気なとこ見せるなよ…テジュン
あと30分ある…
ん?
眠ったから元気になった…
ん?んん?おいっ!ちょっと待て!
待たない。三分返上だ!
ちょっとま…あああぁぁン…
ぶちん☆
「カムカムで新展開があるかと思ったのに…くそ…mayoッシいないし…一人で見てても…
ん?『三分返上』って言ったな!よしいま三十秒だ!」
ぱちん☆
「(@_@;)」
三分経過
「おお(@_@;)…新記録だ…」
ランチ オリーさん
「お、一人でランチなんて珍しいじゃん、隣いいか」
「もう座ってるじゃないですか」
「そっか。相棒のキツネどうしたの?」
「打ち合わせです」
「へー。お前それ何ランチ?」
「Bランチです」
「へー。俺Aランチ。ジャージャー麺があったからよ。その肉食べないの?」
「食べます。ご心配なく」
「ふーん。ところでお前さ、よくあんなのとずっと一緒にいられるよな」
「あんなのって?」
「キツネだよ。俺はどうもあいつの目つきがこわくてよ」
「そんなことないです。可愛いところもありますし」
「可愛い??」
ケホンケホン
「どこが可愛いんだよ、あのキツネの」
「内緒です」
「ケチ!でもよ、お前ってあのそのあの…」
「何ですか?」
「つまりよ、あれって上手い?」
「あれって?」
「あれだよ、あれ!俺があれって言ったらあれだろうよ」
「だから何ですか!」
「つまり、ペロペロとかペチャペチャとか…」
「は?」
「一般的にはキスなんて言ってるけどよ」
「僕がキスが上手いかどうかわかりません。でも…」
「でも?」
「何でもありません」
「おい!言いかけてやめるなよ、気になるだろ」
「たぶん上手いです」
「お!そ、そうなのか、やっぱ」
「勉強してますから」
「勉強しないとだめか、やっぱ」
「さあ、よくわかりませんけど。上手くなったって誉められました」
「キツネにか!」
ケホンケホン
「ちょっとよお、その教えてくれよ、その上手くなったっていうやつ」
「は?」
「だからよ、その上手くなったっていうキスの仕方だよ」
「人に教えたりするもんじゃありません」
「だってお前教えてもらってるんだろ、キツネに」
「どうしてそんな事聞きたいんですか?誰か好きな人でも?」
「お前、案外するどいな」
「いえ、話聞けば誰でもわかるでしょ」
「そっか。で顎なんかつかんじゃだめなのか?」
「顎をつかむ?」
「おお。気がきいてると思ったんだがょ、俺は」
「ちょっと手を見せてもらえます?」
「ほら!」
「手でジャージャー麺を拭くのはやめてください」
「後で洗えば問題ないだろ、細かい事言うなよ」
「野球選手でしたよね」
「おお」
「手がごついから、つかむのはやめた方がいいです」
「じゃ、どうすんだよ」
「指でそっと」
「指?」
「そうです。こんな風に、人差し指を顎の下にそっとあてて、軽く優しく持ち上げる」
「およよ!」
「これだとごつい手でも大丈夫だと思いますよ」
「おお!お前すごいな」
「普通です」
「いや、すごいよ。早速後で試してみる。いや、ありがとよ。バンバンバン!」
「汚れた手で肩たたくのやめてください」
「そっか。いやよかった、バンバンバン!」
「だから肩たたかないで」
「あれ、お前肉全部食べちゃったの?」
「僕の分ですから」
「案外ケチだな」
「何言ってるんですか」
「いや、でもいっか。教えてもらったから。ありがとさん!」
「いえ」
「キツネによろしくな」
ケホンケホン…
悪魔の指 3 足バンさん
僕はまた会場に向かった
誰かに外出するって言っておかなけりゃ
ミンチョルさんはいなかった
そりゃそうだ。今、お取り込み中だもん
ふんっ
ああ…なんだかほんとに疲れた…
「イナさん」
「おぉ、まだ時間じゃないぞ、少し予定が変わった」
「僕ちょっと外出ていい?」
「ああ連絡とれるようにしておけよ」
「うん」
「なんだよ、元気ないな。コマシすぎか?」
「そうかも」
「おい、ちょっとデコかせ。…ねぇおまえ、ちょっと熱っぽくない?」
「ちょっと疲れただけ」
「外なんか出んな。部屋で寝てろ」
「うん、わかった」
僕はその足で車を借りに行くつもりだった
その時出入り口にスヒョンの姿が見えた
なんだ…お早いお帰り…
スヒョンは会場の一番後の椅子に腰掛けた
前の椅子の向きを乱暴に変えるとそのまま足をのせた
ポケットに手を突っ込んだまま天井を見ている
暗くてまた表情が見えない
なんかあったの?
なんか悪さでもしちゃってまた怒られた?
それともミンチョルさんが劇的な心変わりでもしたって?
そんなわけないか
じゃ、またキスひとつできなくて落ち込んでんの?
僕はそっと近づいてみた
スヒョンは目を閉じている
こういう場合はなんて声をかけるんだっけ
疲れてるみたいね、かな
コーヒーでもどう?かな
それかそっと手を握ってあげる、とか
「おいっ!こんなとこで寝てると襲っちゃうぞっ!」
ああ…またこれだよ、僕ったら
スヒョンは面倒くさそうにちらりと見てまた目を閉じた
ふんっ
ミンチョルさんの抱き心地でも思い出してんの?
「ねぇー!どうしたのさぁ」
スヒョンの首に巻き付いて抱きしめた瞬間、強い電気が走った
僕は思わず弾かれたように飛び退いた
なによ。なんなのさ!
スヒョンの心が…絞るような辛い気持ちがどんっと入ってきた
僕は震える指先でスヒョンの肩に触れた
ああ…
また怒られたわけじゃないじゃない
劇的な心変わりなんかじゃないじゃない
キスできなくて落ち込んでるなんて…そんなことじゃ…
ミンチョルさんのために自分が血を吐いてるの?
そんなにミンチョルさんが好きなの?
そんなにミンチョルさんの幸せがうれしいの?
なんなのさ
そんなのないよ…
僕はそっとスヒョンさんから離れようとした
「どこに行くんだ?」
「どこも」
「余計なことするなよ」
「しないよ何も」
スヒョンはゆっくりと座り直してこちらを向いた
僕は自分の顔を見られたくなくて、舞台のライトを避けた
スヒョンは何も言わず僕を見つめている
少し優しい顔で
でもそれは僕に向けられたものじゃないでしょ?
ミンチョルさんを癒してあげられた安堵感でしょ?
わかってるから…
もうそれ以上僕を見ないで…
「おいで」
「いやだ」
「おいで」
「いやだ」
「いいからおいで」
スヒョン…なんで呼ぶのさ…そんな気持ちのままで
「チョコ食べる?」
「なに?」
「塩入りの超まずいチョコ」
「いるか、そんなもの」
僕が一歩踏み出そうとした時
入口のあたりが騒がしくなった
会場にもどってきたミンチョルさんがしゃがんでいる
ギョンビンが心配そうに支えている
イナさんたちが駆け寄る
総支配人もホールの方から走ってきた
大丈夫少しめまいをおこしただけだと笑っている
僕はその一部始終をひとりでぼーっと眺めていた
だって
ミンチョルさんのよろけた姿を見た瞬間に
スヒョンは弾かれたように立ち上がり行ってしまったから
少し離れた所でギョンビンたちの対応を注視している
大丈夫だって言ってるじゃん
心配性のばかスヒョン…
倒れた椅子が僕の前に転がっている
なんだか本当に疲れている気がする
僕は、スヒョンが僕のことを思い出し振り返る前に
別の出入り口に向かった
唯一暗闇に浮かぶ血のように重く紅い幕が
僕のからっぽの心を慰めてくれているようだった
蘇生 ぴかろん
焦点の合わない目をしたイヌ先生を前にして、僕はどう切り出そうかと悩んだ
率直に…
「率直に聞くけど…ウシクさんに何したの?」
「馬鹿!大人しくしてろって…」
「犯そうとした」
「…」
「ヤんなかったの?」
「できなかった…」
「ヤりたかった?」
「…欲しかった…」
「なんで?」
「…どうしてだろう…」
「ウシクさんが何か言ったの?例えば先生の気に障るような事」
「…気に障る…」
驚いたな、こいつ、やっぱり悪魔だよ
よく平気で切り出せるな…
「…」
「先生の初恋の思い出をぶち壊した…そうですね?」
「…壊した…僕の居場所が無くなった…でも…」
「でも何?」
「少し黙ってろドンジュン」
「でも…それで…よかったんだ。僕のために彼は…」
「貴方が大切にしてきた思い出を彼が全部流してしまったと…僕は聞きました。彼は閉じこもってる貴方を解放してあげたいと思ったそうです
それで心の壁に風穴を開けようとした…」
「風穴?」
「そう。少しだけ揺らすつもりだったらしい。それが思ったよりも簡単に壊れてしまった…そういう事かな?」
「あれが…風穴?」
「キスですか?ウシクがした…。それがきっかけ?」
「…」
「なんにせよ、彼は貴方を受け止めようとしていた」
「…ふ…ふふ」
「何笑ってんだよ!」
「ドンジュン!…先生、ちょっとだけじっとしててください」
「…」
うすら笑いを浮かべている先生を僕はそっと包み込んだ
抵抗はしない
ああ…なんてシュールな風景だ…
心の破片が宙を舞ってる
あの破片は不規則に動き、この破片はえらく勢いよく飛んでいる…
真ん中で破片を集めようとしてもがく先生の姿が見える
こんな風に情景が浮かぶのは初めてだ…
言葉が見つからないのか…
何か…ないか?
ああ…あった…先生の足元にある…ウシクへの想い…
液体?
先生は跪き、その液体を掬って飲もうとしている
けれど液体はその手からこぼれ落ちる
呆然とする先生
今度は宙を舞う心の破片に手を差し伸べる
破片はみな、外へ向かって漂い始めている
…先生は…破片を集めるのをやめた
破片が飛んでいくのを…見送っている…
僕は腕の中の先生の顔を見つめた
諦めでも怒りでもない目の表情…読み取れない…
もう少し深く癒すしかないか?
「先生…楽にしてて」
僕はそっと…徐々に深く…先生の唇に口付けた
聞こえない
声が聞こえてこない
たださっきと同じような情景が僕の脳裏に浮かぶ
もう少し深く…僕は口付けをした
情景の中の先生は、また跪いていた
今度は液体に直接口をつけて飲もうとしている
なんて…切ない瞳だ…
液体が地面に吸い込まれていく
吸い込まれた部分を手でかき集め、土に染み込んだその液体にむしゃぶりつく…
狂気?
いや…違う…そうじゃない…
食べているのではない…
液体の染み込んだ土を己に擦り付けているような…
土で愛撫しているような…
泣いている…
酷いよ…君の言うとおり、初恋を捨てたのに…
僕を受け入れる気なんて、最初からなかったんだろ?
ようやく言葉が聞こえてきた…
君が悪いんじゃない、僕が悪いんだ…わかってる…
僕が君を好きになったんだ…先に僕の方が…でも…
でも君だって僕を好きになってくれたんじゃないか…
僕に初恋を捨てろと言って、君は僕の心を奪い取って、そして…彼女の許へ行くのか…酷いよ…
いいんだ、幸せになってほしいから…行けばいいんだ…
行かせない!僕が好きならなぜ愛してもいない女のところへ行くんだ!行かせない!絶対に…
君が好きだ…君が僕を想うよりもっと君が好きなんだ…知っていた?
息苦しくなって僕は先生から唇を離した
先生は涙を流していた
僕は…先生から離れて、椅子に座った
ドンジュンが軽く僕の肩に触れたが、僕はその手を払いのけた
「ウシクさんは、初恋の人に似ていたの?」
「ドンジュン」
「ねえ。どうなの?」
「…探したけど…みつからなかった彼の中には…」
「ふぅん。だからウソついてたのか」
「…ウソ?」
「そうだよ。自分にウソついてたんだ、先生」
「…自分に?」
「ウシクさんは『彼女じゃない。愛してはいけない』って」
「…ああ…そうだ…そうだった…」
「ウシクさんはもうすぐ結婚する。だから愛しても報われないって、そうも思ったんでしょ?」
「…そうだ…」
「なんで?」
「え?」
「なんで見返りを求めるの?」
「…」
「自分にウソついてるからどんどん澱がたまってったんだよ先生!」
「…」
「見返り求めようとするから欲も溜まる。ウシクさんがつつかなくても破裂してたよ、先生の心は」
「…」
「ドンジュン。何も解らないくせにそんな事」
「解るよ!先生の心がバラバラになったのはウシクさんのせいじゃない!」
「ドンジュン!」
「人を愛したら相手も自分を愛さなきゃいけないわけ?」
「…彼は僕を好きだと言ったんだ」
「そう、それはよかったじゃん。じゃあそれでいいじゃん!」
「でも彼は…結婚すると。愛してもいない女と、父親ほしさに結婚すると…」
「いいじゃん!」
「いい?」
「解ってたことでしょ?最初から」
「…」
「それでも好きになっちゃったんでしょ?」
「…ああ…」
「馬鹿みたい!自分で自分に足枷つけて、自分の作った支離滅裂な憲法守って、それで人に罪着せて、その上罰するなんて!あんた酷いよ!」
「やめろ、ドンジュン」
「スヒョンは黙ってて!そうじゃんか!なんで『彼女』を感じる人だけしか愛せないの?そうじゃないじゃん!思い込んでるだけじゃん!
自分で足枷つけてただけじゃん!違う?『彼女』しか愛しちゃいけないって自分で作った憲法じゃんか!馬鹿!」
「ドンジュン!」
「その憲法に当てはまらない自分の感情、あんたが自分で切り捨てて、ううん、捨てるならまだましだ。捨てきれてないんじゃんか!
だから澱になって溜まりに溜まって爆発したんだよ!ウシクさんが可哀相だ!」
ドンジュンは叫びながら泣いていた
「報われなくったって、好きなら好きで、それで…いいじゃんか。…みんな…おんなじだよ…報われる人なんて…一部だけだよ…」
ドンジュン…お前…
…そうだな…僕だって…そうだな…
お前だって…
ごめんな、ドンジュン…
「ドンジュンもういいよ…。先生。こいつの言ったことは一理あると思う。でも、先生の想いがそんな単純じゃない事も僕は解ってる
…ウシクは、先生を受け止めようとしてた。けど、先生の抱えているものがあまりにも大きすぎて、受け止めきれないと…そう言っていた」
「…」
「でも逃げ出したくないと…そうも言っていた…」
「…ありがとう…」
「…」
「ウシクにすまないと…伝えてください…」
「先生?」
穏やかになった先生の顔を見て少しほっとしたが、確認のためにもう一度抱きしめようと僕は立ち上がった
だが一瞬、悪魔の方が早かった
悪魔に抱きつかれた先生は少し驚いた顔をしたが、先生を抱きしめながら泣きじゃくる悪魔の頭を優しく撫でていた
泣きじゃくる悪魔の顔を覗き込み、何事か呟いている
悪魔は泣きながら首を縦にぶんぶん振っている
そして…
先生は、悪魔に口付けした
僕は、絵画のようなその二人の接吻を、ぼんやり見つめていた
刺すような痛みを少しだけ胸に感じた…
悪魔でも癒せるのか…
ならば僕も癒してくれるか?
悪魔の指 4 足バンさん
車を飛ばしていた
流れる街が僕のもやもやをすっ飛ばしてくれる
風を切る音が淀んだ想いに風穴をあけてくれる
別に逃げようってわけじゃない
逃げなきゃいけないほど追われてもいないし
もうすぐ祭がはじまるから
海でも見てすっきりするつもりだった
祭のために濃い生活を送ってるからのぼせてるだけ
終わったらまた元の生活だもの
毎日出勤してお客の相手して笑って
ボタンはずしショーなんか軽くやって
それでまたすぐ明日じゃない
なんてことない
ホストなんて絶対無理だと思ってたけど
案外大丈夫だったんで驚いてるんだ。自分で
最初は緊張で倒れそうだったのに…
最初…いろいろ教えてくれたのスヒョンだったのに…
『車の話ばかりしてちゃダメだよ』
『喋りかたが硬すぎるね。もっと打ち解けた柔らかい感じで喋らなきゃ』
『何か特技はないの?キミ』
『あのスヒョンさん、上目遣いってなんですか?』
『それでできてるよ。ちょっと不自然だけど』
あの頃いつもスヒョンにどきどきしてた
『きみってカワイイよクックックッ』
『首…首がそっちへ回せなくて…』
『え?』
『身体が固まって…言うこと聞かなくて…』
『くはっはっはっ…キミ…最高…いいよキミはっはっはっ』
涙が出てきた
『悪いこと?』
『うん、そう。それは僕が直接教えてあげるから』
『……』
『じゃあまた明日、特訓するからね』
ふん。昔のことなんて思い出して…ちくしょうっ!ばかじゃないの
でも涙はどんどん溢れる
オープンだったらよかったのに
こんな涙すっ飛ばして全部さっぱり乾いたのに
「イナ、ドンジュン見かけなかったか?」
「部屋じゃないのか?」
「いや、いないみたいなんだけど」
「なんだ。やっぱ外に出たのかな」
「外?」
「ああ、ちょっと具合悪そうなんで寝とけって言ったんだけど」
「そうなの?」
「携帯は?」
「置いて行ってる」
「まったく世話のやけるやつだな、おまえの片割れは」
「なんだよ、片割れって」
「近いってことだよ」
「なにがだよ」
「根っこがだよ」
「……」
「はい…あ、スヒョン……慌ててどうしたの?」
「はぁはぁ…テソン…今ドンジュンどこかわからない?」
「いや…どこにもマークしてないけど…」
「そうか…外に出たかな?」
「ああ、さっきフロントで見かけたから車かも」
「そう…ありがとう」
「そうだ、チョコ食べた?」
「チョコ?」
「そう、今日ドンジュンが作ったの」
「あ…」
「一番嫌いな人にあげるって言ってたからさ」
「嫌い?」
「あいつらしいでしょ…あ、おいっスヒョンっ!」
「ミンチョル!」
「そろそろ最終いくぞ」
「待ってくれ、ドンジュンが見当たらないんで捜してくる」
「放っておけば帰ってくるだろう」
「だめだっ!」
「スヒョン…」
「あ、いや…具合が悪そうなんで…捜すよ」
「ああ…じゃぁ頼む」
「…ミンチョル?」
「ん?」
「もう大丈夫か?」
「大丈夫、ただの疲れだ」
「そうじゃなくて…」
「…ああ…ありがとう…感謝してるよスヒョン」
「そうか。よかった…じゃ行ってくる」
なんだか今日は運転に集中できない…反応が鈍い…
このままじゃ危ないかな…どうしようか…
清流 ぴかろん
悪魔なんだ、僕は
そう言った
僕に手厳しい言葉を投げつけてきた
そして、最後に僕を抱きしめた
泣きながら…
悪魔?
そうだよ…
悪魔じゃないよキミは…
どうして泣いてるの?
先生と僕とおんなじだからさ…
おんなじ?
あそこの天使もおんなじなの
…君、彼の事好きなの?
嫌いだよ、だいっ嫌い
…自分にウソつくと澱が溜まるって言っただろ?
自分にはウソついてないもん!
…好きなんだろ?
嫌い。大嫌いだ!
ほら、ウソついてる
自分にはついてない!
え…
…
あ…そういう事か…そう…なんだ…
彼の言葉は単純だ
けれどとても深い
彼はスヒョンが好きなんだ
だけど僕の問いには「嫌いだ」と答える
それは僕につくウソで、彼の心の中では
スヒョンが好きだと叫んでいる
そういう事か…
それでいいの?君は…
いいんだ…
辛くないの?
先生、みんな辛いさ…
そうだったね…
けど先生は報われてるんだよ
え?
ウシクさんは先生が好きなんだもん…羨ましいよ
…
大事なのはハートでしょ?
ドンジュン…
僕は彼の頭を撫でた
素直に言ってごらんよ、スヒョンが好きなんだろ?
…
僕には言ってごらんよ
なんでさ
君が僕を楽にしてくれたから…
スヒョンが好き?
彼は言葉で答えるかわりに、何度も激しく頷いた
君は…いい人だね
僕は悪魔だよ…
僕は意地っ張りの悪魔に接吻をした
ありがとう
僕のために泣いてくれて…
彼の涙はウシクの声のように清らかだった
テソン闇夜の事情1 妄想省家政婦mayoさん
=ステージ天井裏
ステージ上の男組弟の背中堪能中の闇夜
「ん〜…背中の筋肉も美しいっ(^o^)」
ちぇみ..闇夜に近づきいきなり後頭部に グー★★!!
「痛っ!!…2連発グー★ かよぉ…」
「勝手なことをするからだっ!!」
「もうご存じで…(^^;)」
「朝帰りのお前達が見えたからな。テソンに事情を聞いた」
「あ、そうですかぃ(^^;)」
「余計な首突っ込むなと言っただろっ!!」
「…あれは…電話が来たからで…ほっとけなかったわけで…」
==30分前:ステージ天井裏==
ステージの男組の練習をぼぉーと見ているテソン
その様子を離れて見ていたちぇみがそっと近づき2人は並んで前を見たまま話始めた
「何があった」
「……」
「2人で朝帰りだ。何か事情があるはずだ」
「見てたんですか…僕らが朝帰りしたら変ですかっ!!おかしいですかっ!
「テソン…」
「…すいません…」
「心配だから聞いてる。悪い事が起こったら皆が心配する。俺とテスも同じだ」
「…キム・ソヌがBHCに逃げてきた。僕らで助けました」
「何っ!?…キム・ソヌが…」
「夜中に闇夜に電話あって、駆けつけたらBHCの裏口で倒れていた」
「で?」
「中に入れて介抱した。朝がた右腕のミンギが迎えに来て彼は帰りました」
「何故、奴はBHCに行ったんだ?」
「彼は闇夜のスカウト対象です。おそらく連絡先を聞いてたんでしょう」
「組織がBHCノーチェックか…」
「そんな事情は僕にはどうでもいいんです」
「テソン…」
「ただ闇夜を巻き込んで欲しくない。危険な目に合わせたくない」
「何故俺に連絡しなかったんだ…」
「途中で止めさせるのはテスが可哀想だと…闇夜が帰りに話してました。ククク…」
「あ、あぅ(^^;)…と・とにかく、また何かあった俺に連絡しろ」
「はは…わかりました。そうします」
「テソン…お前…」
「…??…何か」
「ん、いや…いい」
「あ、テスにゆず茶届けておきました」
「お、ありがとう」
「じゃ、僕行きます。あんまり怒らないでやってくださいよ」
「ん…」
『ったく…あの馬鹿はグー★★★3連発だな』
==
「状況わかった?」
「組織に追われてるな。カンがパクに拉致させた。そこから逃げたんだろう」
「やっぱり…追われてる理由は?」
「カンの命令に背いた。それしかない」
「女か…あ、裏金事情にも詳しいからその絡みもあるか…」
「何かあったら俺に言え」
「でも…」
「でも何だ。テスのことか」
「うん…夜中は…気を使うし…」
「いいから。テスにはその分何倍も可愛がる(*^_^*)…たっぷり…」
「あ・あ・そっ(^^;)…」
「テソンを巻き込むな。いいな」
「了解…」
「ひとつ聞いていいか?」
「何…」
「お前にはキム・ソヌはただのスカ対なのか?」
「えっ?そうだよ」
「…そうか。他のメンバーは…」
「みんなそれぞれに素敵よ。でも特別な感情は持たない。何故そんなこと聞くわけ?」
「ん?いや…」
「変なの…」
『変なのはお前だ!闇夜!ったく…奴の気持ちがわからんのか?鈍い奴め!』
『何が言いたいのかわかってる。悪いことしたと思ってるんだから…』
悪魔の指 5 足バンさん
道路をはずれ、海岸の少し手前で車を止めた
だるい
もう運転する気になれなかった
ここはどこだろう…
木々の向こうに青く澄んだ海のラインが見える
遠くのさざ波は小さな白い引っ掻き傷のよう
窓を開けると、かすかに波の音が聞こえる
椅子を倒して目を閉じる
風が気持ちいい
風にまぎれてイヌ先生の言葉が聞こえる
素直に言ってごらんよ、スヒョンが好きなんだろ?
ごめんね、先生…あんなに偉そうなこと言って
自分のことはまるで手に負えないのに
ごめんね、あんなに泣いちゃって
気持ちが澱になって向こうが見えないのは僕なんだ
風に吹かれて…夢をみた
砂漠を走る自分
どこまでも続く熱い砂の海
照りつける陽射し
走り抜ける車のすぐ側にはたくさんの花が咲いてる
ビロードのような深紅の薔薇
花びらの部分だけに陽が当たっていない
その薔薇を踏まないように走るんだ
助手席には静かに眠る友人
僕は泣きながら走り続ける
涙が止まらない。前が見えない
ああ…とうとう薔薇を轢いてしまった
タイヤにその棘が深く突き刺さる
散った花びらがフロントに舞う
雪だ…紅い雪だ
なんてきれいなんだろう
痛い…僕の胸にも棘が刺さっているんだ…
ドンジュン、あのばか。いったいどこに行ったんだ!
僕はこの間の海に向かって車を飛ばしている
あそこに行くような気がした
自信はなかったが他に思い当たらなかった
今日はどうしても放っておけなかった
僕はイヌ先生とドンジュンのキスを思い出していた
先生の見えない殻がするりと剥がれるのを見たような気がした
僕にはできないなにかをやつがした
テニスコートでボールを投げつけたのあいつと
先生に逃げるなと言ったあいつ
捕まえようとすればするりと逃げて
知らぬ顔をすると絡まってくるあいつ
もう近づくなと怒るあいつと
涙で顔をくしゃくしゃにするあいつ
鷹?…本当におまえは鷹なのか?
鷹は獲物に翻弄されたりしないだろう?
悪魔?…本当におまえは悪魔なの?
悪魔は自分の気持ちを誤摩化したりはしないだろう?
海まで来たが、この間の砂浜にドンジュンの姿はなかった
妙に焦りを感じた
あのホテルか?いや、違う
あそこはミンチョルたちとの嫌な思い出があるはずだ
あいつはそこまで自分に冷たくはない
僕は来た道を戻りながら狼狽している自分に気づいた
どこにも行く当てのない自分に苛ついた
結局あいつの気持ちを、なにひとつ読んだことのない自分に苛ついた
ミンチョルを癒そうとした
先生やみんなを癒そうとした
でも一番近くにいるあいつを僕は避けてきた
いや、避けてきたんじゃない。そうじゃないんだ
2キロほど戻った時
道をはずれた雑木の向こうに赤い車体を見つけた
ドンジュン…そう感じた
僕はUターンをするとその赤い車の後に急停車した
コミエサラン3_映画鑑賞 妄想省家政婦mayoさん
「ちぇみぃ〜どれにする?」
「お前が観たいのでいいぞ。……何があるんだ?」
「えっと…リベラメ..ユリョン..ソウルでしょ…」
「ん??!!」
「それに…アッジ・アッパ..テロリスト..YESTERDAY…」
「お、おい!…ちょ・ちょっと見せろ」
テスから袋を取り返して中身を見るちぇみ
花嫁はギャングスター…リハーサル…ノミョンのベーカリー..ミスター・マンマ…
「こ・これは…闇夜か?」
「うん。テソンさんもシュレックと新作貸してくれた」
「新作?」
「清風明月…すごく渋くっていいぞって。テソンさんこれで大泣きしたってよ?」
「あぅ…そう…(^_^;)」
「どれにしようかなぁ…おもしろそうだからこれにしよっ。いい?」
「お・おぉ…」
#花嫁はギャングスター鑑賞中#
「ちぇみ…この鋏錐組の女親分…誰かに似てない?…いつも黒い服着てるし…」
「ぷっはは!ほんとだな…男女だし。雰囲気が似てるな」
「これ…ちぇみがなかなか出てこないよぉ…」
「…ラスト1分だけだ」
「えっ?そうなの?早く言ってよぉ…早送りっと…うわぁ!渋っ…」
「じゃぁ…そこだけ巻き戻し…」
「ちぇみ…」
「ん?何だ」
「顔デカイ…」
「お・おい!」
「でも格好いいからいい(^o^)」
「ったく…誉めてんか、けなしてるのか.. (^^;)」
「ちょっとエッチなジャケット…リハーサル…えへっ、次これにしよう」
「あ、あ、そ・それは駄目……駄目。つまんない」
「そうなの?だって…これは超ぉ〜お勧めってmayoさんが…」
「(闇夜め!)…それ、ぜぇ〜んぜん!おもしろくない!!」(テス!それは…邦題…駄目だぁ!)
「テ、テス…こっちにしよう。これで賞いっぱいもらったから。な?」
「うん、いいよ」
(ほっ…)
#テロリスト鑑賞中#
「ちぇみ…制服似合うね…でも…」
「帽子もデカイ。顔もデカイ…だろっ?」
「えへっ(^^;)…うわっ…すごい回し蹴り…イナよりすごいよ?」
「俺はイナほど足は上がらないぞ」
「でも速いよ。この回し蹴り…迫力ある」
「そうか?」
「ぷっ…豆腐食べてる…僕も食べたよ。ちぇみ何年?」
「3年…」
「ぷっ…あ、チョングが出てる…親友だったんだ…あ、死んじゃった」
「ど、どうした、テス…ん?」
「(;_;)可哀想だよぉひどいよぉ…兄さんもっと速く助けに来なくちゃ..」
「熱演だろ?」
「うんうん…;T_T;」
「次は…」
「まぁだ観るのか?」
「うん。これ、やっぱり観る」
「…@@;//…ちぇみぃ〜」
「あ・あ・あ・あぅぅぅぅ…観ちゃ駄目だって言ったのにぃ」
コミエサラン4_映画ドラマ鑑賞 妄想省家政婦mayoさん
「ちぇみ…;@@;…こ・これが・・激・激..濃厚..官能だったんだね…」
ばちんっ★
「何で消しちゃうのぉぉ〜僕観てるのにぃ!!」
「いいから…」
「よくない!ちゃんと観ておく!…ちぇみがどういうことしたのか、観ておく!」
「あ、あ、あ、あぅ……テスぅ〜」
「何」
「あとで」
「ほんとに?」
「ん…(*^_^*)」
「わかった…(^_^)じゃぁ…次、何観ようかなっ」
「ったくぅぅ〜まだ観るのか?」
「うん。…っと…これは?mayoさんが編集したダイジェスト版」
「お、それもあったか…あいつは押さえどころを知ってるな」
「お化けドラマってmayoさんのメモが付いてる」
「視聴率が60%を超えたんだ。その時間は街が静かだった。これを観てたから」
「ふ〜〜ん…すごい。社会現象だったんだ」
「だからお化けドラマ。観るか?」
「うん」
# 砂時計(SBS1995) 鑑賞中#
「あれ?ちぇみ…テスって名前なの?」
「ん…そうだ。パク・テス」
「えへっ…そうなんだ…(^_^) これ、オールインみたいだ。ひとりの女に2人の男」
「ん…後半はカジノが舞台だしな…良く比べられる」
「そうなんだ。ちぇみ、また豆腐食べてるぅ…もぉぅ〜何回入ったのさ」
「お、覚えてない…(^^;)」
「ちぇみテス格好いい。バイクが似合う」
「そうか?」
「うん…あ、また捕まっちゃった…」
「ぁぅ…(^^;)…」
「;ToT;」「;ToT;」
「ねぇ…ぐすっ…」
「何だ…ぐすっ…」
「どうして…ちぇみって…いっつもラスト死んじゃうの?」
「あっ、あ、ん〜〜こういう顔だから…かなぁ…」
「怖くないのに…」
「そうだよな…(^^;)」
「あ〜目疲れたよ…テスぅ」
「じゃ、今日はおしまい。明日はどれにする?リハーサル?ねぇ…あっ」
xxxxxxXxxxxxx…
ん…さっき言っただろ?
うん…
xx…ぁ…xxxxxx……だめ…xxx
あん……ちぇみ…
いいから…
うん…
xxxxx…xxxx…ぁぅ…XXxx…ぁぁん…xxx
いつになく濃厚な2人…濃厚な夜…☆
悪魔の指 6 足バンさん
海風が音もなく吹き抜ける木々の下
近づくとドンジュンは椅子を倒して眠っていた
全身の力が抜けるようだった
なぜか車の中にはいないような気がしていたから
僕は開いている窓からやつの頬にそっと手を伸ばした
指が少し震える
冷たいと思っていた頬は思った以上に熱かった
助手席に滑り込み、顔を覗き込む
少し苦しそうに見えるのは熱のせいなのか
ドンジュン…ドンジュン…
目を覚ましておまえはなんて言う?
僕をつけてきたんでしょ…って?
せっかくいい気持ちで寝てたのに…って?
それともなにも言わずに笑って僕の首に腕をまわすの?
でもそのどれでもなかった
やつは目を開けると僕の顔を見て凍りついた
そして顔を一瞬ゆがめると突然僕にしがみついてきた
僕は熱い車内で紅い雪を眺めていた
フロントに積もる一面の紅に次第に息苦しくなってきた
どうしよう…ねぇどうしよう…
同乗者に顔を向けた
でも思い出した。その人はもう息をしていない
ドアが開かない。開かない
スヒョン…
助けてスヒョン!
ドンジュン…ドンジュン…
なに?誰?スヒョン?どこ!どこにいるのっ!
閃光が走って…目を開けるといきなりそこに彼の顔があった
一瞬、同乗者が息を吹き返したのかと思った
夢の底から浮かび上がるまで少し時間がかかった
スヒョンは椅子に腕をかけ僕の顔を覗き込んでいる
驚いたような丸い目で僕を見ている
僕はとっさにスヒョンの身体にしがみついた
「スヒョンっ!スヒョンっ!スヒョンっ!」
抱きついてきたドンジュンは震えていた
きつく閉じた目からは涙が溢れ出している
僕は大きく腕を回してきつく抱きしめてやった
サイドブレーキが邪魔だった
暗闇から徐々にドンジュンの意識が入ってくる
泣きじゃくるドンジュンの果てしなく辛い過去と紅い夢…
鉛色の渦の中から手を伸ばして僕の腕を掴もうとしている
今はなんの障害もなく流れ込んでくる
おまえは全てを開いて頼ってきているの?
大丈夫…こうしててやるから…
もう怖がらなくてもいいから…
その棘を1本ずつ抜いてあげるから…
どれくらいそうしていただろう
ドンジュンが落ち着きを取り戻すにしたがって僕の心がざわついていく
「嫌な夢をみたんだ」
「わかってるよ」
「来てくれたんだ…」
「おまえ熱があるじゃない」
「どうりで…運転しにくかった」
「ばかだな。死ぬぞ」
僕は一度外に出てドンジュンを助手席に移した
「帰るの?」
「ああ」
「もう少し海見ていたいな」
「病人はわがまま言うな」
そう言ったにも関わらず、僕は帰り道と反対方向に走り出した
向かったのは海岸沿いのホテル
いや、あのホテルではない
たいした思い出のない小さな連棟コテージだ
窓の外には半円のバルコニーが張り出していて
そこにはアイアンフレームの白い椅子がおかれている
少し高台のそこからは水平線がよく見える
尾行 オリーさん
スヒョンさんの後をつけた
ミンチョルさんに言われたから
でも変なんだ
しばらく様子を見て、もしドンジュンが見つからないようならスヒョンを手伝え、
もし見つかったらそのまま帰ってこいって
まあ尾行は得意だからいいけど
彼の車は海辺の方に向かってた
この間のホテルの方、ちょっとやな予感
砂浜にはいないみたいだ、さて、どうする?
追いついて合図してみようか…
うわっ!いきなりのUターン
ちょっと危ないですよ、スヒョンさん
でも気づかれなくてよかった
あっと、あそこの雑木の向こう側に赤い車が
たぶんあそこに向かってるんだ
ちょっとこれ以上は近づけない
あれ、あの二人ってそうだったの…知らなかった…
でもそうなのか…ちょっとホッとした
ミンチョルさんに電話した
見つかりましたけど、
二人は戻るんじゃなくてどこか別のところに行きましたよ
もういいからすぐ帰ってこいって
邪魔するなってことか…
わかりましたよ、すぐ帰ります
待ってる、じゃ、パン!
とミンチョルさんは電話を切った
でもね、今ちょっと耳はさんだよ
パン!のン!がちょっと鈍い音だったから
どうしてあの人は携帯耳元で切るのが好きかな…
さてと、帰ろう
あの二人どこ行ったんだろう…どうでもいいけど…
なんだ、そうだったんだ…ふっ
悪魔の指 7 足バンさん
ドンジュンはなにも聞かずについてきた
僕はホテルの者に雑木に乗り捨てた車の処置を頼み
ミンチョルに連絡を入れた
彼はドンジュンの状態を聞いた後おまえに任せると言った
その後わずかな間があったが、電話は僕の方から切った
フロントで融通してもらった薬を飲ませそのままベッドに寝かせる
上掛けで包んでやるとドンジュンは僕の腕を掴んだ
「また夢をみたくない」
「大丈夫。ここにいるから。少し寝なさい」
僕はベッドに腰を下ろし手を握ってやった
ドンジュンは少しその指に力を入れてから目を閉じた
ずいぶん長い間僕はドンジュンの顔を眺めていた
寝息が落ち着くにつれて安堵がひろがる
夕陽が白い窓枠をオレンジ色に染める
金色に光る海は絵のようだった
突然、僕はあいつを揺り起こしてその美しい光景を見せてやりたいと思った
見下ろすとあいつは安心しきった表情で眠っている
僕の胸にさざ波が立つ
空いた方の手でゆっくり髪をなでてやる
さざ波が大きくなる
僕は息苦しくなってそっと立ち上がった
そしてそのまま窓に寄りかかり
金色の海と空が闇に包まれていくまで眺めていた
バスルームで顔を洗った
大きな鏡にはいつもの自分が映っている
鏡の上の無機質な顔の輪郭を指でなぞってみる
ぼんやりとミンチョルの幻影が浮かぶ
鏡に水を掛けた
ミンチョルの幻影が歪む
僕は洗面台に手をつき目を閉じて…そっと開いてみた
そこにはもうミンチョルの影はなかった
もう一度目を閉じ開けてみる
そして僕は息を呑んだ
鏡の中の僕のうしろにドンジュンが立っていた
ドンジュンは大きな羽根をひろげて佇んでいた
萌え立つような美しい羽根だった
僕はまぬけな表情で身じろぎもできずにいる
「なにあそんでんの?」
その笑顔に僕はとてつもない衝動を憶え、
いきなり振り向くとドンジュンを強く抱きしめた
「どうしたの…スヒョン…苦しいよ…」
「……」
「心配してくれてたの?」
「具合は?」
「ずいぶんすっきりした」
「じゃぁ…一度だけキスしていい?」
いきなりのそんなスヒョンの言葉に驚いた
いつだってそんなことを聞いたりするスヒョンじゃない
なにも答えずにいるとスヒョンは僕を覗き込んで
そして静かに唇を重ねてきた
まるで羽根に触れるような優しいくちづけだった
スヒョンは僕を離すと目を合わせなかった
「シャワー浴びていい?」
「え?」
「大丈夫だよっ襲ったりしないから!汗を流したら帰ろう。みんな心配してるでしょ」
「ああ」
「帰りは別々の車だね」
「そうだな」
「今日はありがと」
僕はスヒョンの頬にキスをして、バスルームから追い出した
熱いシャワーを浴びながら僕は夢を思い出していた
紅い薔薇の夢じゃない
金色に輝く草原の夢だ
暖かい風に波打つその黄色いうねりがなんて心地よかったことか
そしてずっと側にスヒョンを感じていた…
バスルームを出るとスヒョンは窓際に立って暗い海を見ていた
僕はその背中に歩みよりたい気持ちを押さえた
「ねぇバスローブで運転したら怪しいかな」
「いいよ」
「マジ?捕まんないかな」
「いいよ、運転しなくて」
「なんでよ」
「帰らない」
「え?」
スヒョンはゆっくりこっちを向いた
「今日おまえを抱きたい」
テソン闇夜の事情2 妄想省家政婦mayoさん
僕には3つの人格がある
穏やかだけど色気がなくて、肝心なことが言えない僕☆
いつも隣にいるのに手を伸ばせない情けない僕☆
それでいいと思ってる僕☆
そんな僕☆を馬鹿にして嘲り笑う僕★
お前は覗きで見慣れてる。何も出来ないのか?
情けない奴だ。僕を☆罵倒する僕★
両極の僕☆と僕★の間に両手を伸ばしてバランスを取る僕◎
僕☆と僕★…もう1人の僕◎…
BHCに来た頃、全部ひとりで抱えるのは疲れていた…
いつの頃からか厨房に出入りして、いつのまにか居ついていた
初めは僕が覗いてたのに、だんだんとペースに巻き込まれていった
そして隣にいるのが自然になっていた…
ある時…僕はずいぶん落ち着いてきた自分に気がついた
なぜだろう…
それはきっと隣で僕が僕◎でいられるようにしてくれるから…
絶妙なあ・うんの呼吸は僕に人格が変わることの不安を取り除いてくれる
3つの僕を知ってるのはやっぱり…ひとりしかいない
いつも調査で忙しくて…寝不足で…
そっと包んでやりたくなる時もあるんだ…
変な意味じゃなくてね…でも絶対無理…
いつも僕や誰の前でも#おとこおんな#の顔を外さない
絶対崩れない要塞なんだ。誰も崩す事なんか出来ないだろうな
崩れないように意識している。偉いよ
でもあの一瞬は…僕しか見てないけどね…
結局…僕◎は、この#おとこおんな#と
男の友情みたいにつるんでいくしかないみたい
====
闇夜には3つの顔がある
狙った対象は綿密な調査のもと必ず連れてくる、
1つのことから枝を広げて広範囲に調査をする硬派な▼おとこ顔
対象にちょっとだけ胸ときめかす誰も知らない軟派な△おんな顔
硬派にちょっと軟派が混じった皆の知ってる#おとこおんな#顔
▼おとこ顔をちらちら知ってても△おんな顔は知らないはず
相手が何か言いたそうしていても物言わせないように持っていってしまう…
そんな#おとこおんな#顔を持っている。ずるいかな…
誰よりも一緒にいる時間が長い
だから敢えて何もないように、波風たてたくように、
要塞で囲うしかないでしょ
#おとこおんな#顔でいるのがいちばん楽でいられる
このままつるんでいくしかない…いつもの顔で
泥の川 ぴかろん
リハーサル
舞台で先生と顔を合わせた
自然に振舞おうとした
僕から声をかけた
大丈夫ですか?
先生は何か言おうと口を開いた
僕は目を逸らした
取り繕うように僕は喋った
タイミング、うまく合わせて投げましょうね
あ…うん…
先生の息が少し上がっているのが解る
もう、ほんとに、大丈夫なの?
僕は…怖かった
先生と話すのが怖かった
それは、あんな事をされたからじゃなくて…
ううん、それもあるんだ
でもそれだけじゃなくて
先生の心を僕は、支えきれるかどうか解らなくて
怖かった
あまりにも重くて動きが取れないほどの濁流が、あの時僕の体中に押し寄せてきた…
そんな気がしたんだ
あの時、もがけばもがくほど溺れるのではないかと、力を抜いて身を投げ出した
どうなっても構わないと思った
防波堤を壊したのは僕
だからこの濁流に呑み込まれて死んでしまっても仕方ない
運がよければ浮かんでいられるだろう…
そう思った
体中につけられた先生の爪痕が、部屋に帰ってから痛み出した
あっという間に濁流の膿が、僕の全身を占領した
スヒョンさんに抱きしめられても、キスしてもらっても、後から後から湧いて出てくる心の中の蛆
僕は一体…何がしたかったんだろう…
僕と言う人間は、偽善者?
触ってはいけない人の傷を触り、癒す事もできないくせに癒そうとした…
僕はただの人間だから…何の技術も持たないただの人間だから…
出来るわけが無い
なのに生半可に先生に立ち入った事をしてしまった
そして…僕は泥の波に呑み込まれた
どうやら先生は、助かったらしい
誰かが助けあげてくれたのだろう
スヒョンさんかな…
僕もスヒョンさんに助けて貰ったのに…
僕はまた濁った川に足をつけている
誰も止めないさ
だって僕がここでこうして泥の川に足を突っ込んでいるなんて、誰も知らないから…
薔薇投げのパフォーマンスは見事に息が合っていなかった
先生が僕に合わせようとタイミングを計っているのは解ってた
僕は何も考えずただ薔薇を投げた
早くこの時間を終わらせたかった
僕の気持ちを整理したかった
この時間が終わったら、お義父さんの声を聞きたい
そうしてもう、今日の事は忘れてしまうんだ
先生の爪痕はきっと明日には癒えるさ
だって先生があんなに穏やかになってるんだぜ…
僕だって助かるさ…
「ウシク…疲れてるのか?」
チーフに言われた
いいえ…と言おうとした時先生が僕を見つめているのに気づいた
僕はチーフに目礼して部屋に帰った
スヒョンさんはまたいない
フッ。天使失格じゃないか、僕をちゃんと癒してよ!
僕はため息をついて、そして深呼吸をした
彼女の家に電話した
おおギヒョンか、仕事なのか?たまには顔を見せておくれ
はいお義父さん…
その後彼女が電話に出た
僕は…言ってしまった
「いつまでギヒョンでいればいいんだ!」
二人でゆっくり説明しようと言っていたのに僕は…
彼女はごめんなさい…少しずつ話しておくわ…そう言って電話を切った
ずぶずぶと泥の中に両足がめり込んでいく
助けて…誰か助けて…
声がでない…助けて!
涙を流す以外、何もできない僕が…そこにいた
気になって仕方なかった
ウシクが苦しんでいるとすぐに解った
僕のせいだ
僕があんな…
リハーサルの時も、終わった後も、平静を装いながらも僕を避けていたね
僕が行かない方がいいのかもしれない
ドンジュンやスヒョンに頼んだ方がいいのかもしれない
だけど彼らはいなかった
放っておけなくて僕は…彼の部屋を訪ねた
ドアをノックするとウシクが微笑んで招き入れてくれた
微笑んでいる
一瞬僕はホッとした
でも…
彼は僕を見ていない
彼はそのままデスクの椅子に座り、僕に背を向けた
ウシク?
誰だか知らないけど僕、今、何も見えないし何も聞こえないんだ
動けないと思ってたのになぜ動けたんだろう…
僕今、泥の中に頭までずっぽり埋まってるんだよ
腕だけ突き出してさ
解る?
誰だか知らないけど助けてよ
平坦な調子でそう喋り続けるウシク
僕の…心の澱が…彼を呑み込んでしまったのか?
ウシク、僕だ。わかる?イヌだよ
僕は彼に近づきそっと手を握った
引っ張りあげてよ、何にも見えないよ
ううん、いいのかな
このままでもいいのかな…
僕ね、先生に『僕は僕です。誰でもない』って言ったんだよ
なんでかっていうとね
僕は『ギヒョン』なんだ…
ギヒョンなんだ
ギヒョンなんだ!ずっと…
お義父さんはギヒョンだと思ってるんだ僕を…
ねぇ、いつまでギヒョンでいたらいいんだろう
僕はウシクなのに…
ねぇ貴方、僕の声、聞こえてる?
僕、動いてる?
僕、目を開けているの?
なんで何にも見えないんだろう
誰かいるのは解ってるんだ
なんでだろう
ウシク!
僕は混乱しているウシクの顔を撫でた
感じていないようだ
ウシク…君は…
僕の中に泥が入ってくる
喋ってないと口の中に入ってくる
もう目の中には入ってきた
でも喋っててもどんどん流れ込んでくる
苦しいんだよ
助けて…
助けてよ先生!助けてよ!
先生の初恋の彼女が怒ってるんだ
余計な事をするなって余計な…
ウシク!
僕を見てくれ!僕の声を聞いてくれ!
聞こえるはずだ
見えるはずだ
君は、さっきまでの僕のように
見ようとしていないだけだ!
だから見えないんだ!
君が教えてくれた
君が僕を檻から出してくれた
なのになぜ君が檻に入らなくちゃならないんだよ!
ウシク!
聞こえるはずだ!
僕の声を聞いてくれウシク!
僕は叫んでいた
そうする事でウシクの混乱が収まるかどうかなんてわからなかった
抱きしめてやりたかった…でも…僕は自分が怖くて…抱きしめてやれずにいた
助けてよ…助けてよ…
先生…せんせ…
おやつ オリーさん
最近仕事がひとつ増えた
彼のおやつだ
事の始まりはフレンチフライだ
その日、打ち合わせに行くと彼が言うので、僕は一人でバーガーショップでフレンチフライとコーラを頼んだ
ぼーっと食べたり飲んだりしていたら彼が来た
僕の前に座ってじっと見つめられた
あまり見つめられるので、食べようと口に運んだポテトを彼の口元に持っていった
彼はすばやくポテトを吸い込み、舌でポテトを一回転させてもぐもぐ食べた
あまりに見事だったので、僕はもう一本あげた
同じように彼はあっという間に食べた。面白い
次の日僕はぼーっと彼が仕事しているのを見ていた、リンゴを丸かじりしながら
また彼が僕を見つめた
あまり見つめられるので、食べようと口に運んだリンゴを彼の口元に持っていった
彼はカプっとリンゴにかぶりつき、さくさく噛んで食べた
リンゴをかじる衝撃で落ちてきた前髪を指でさっとかき上げて、そのしぐさもキュートだった
その後書類から目を離さず彼は言った
ミンジはカットして皮をむいてくれた
僕はホテルのショップでゾーリンゲンの果物ナイフを買った
それから僕は色々なものを彼に食べさせてみた
イチゴはだめだった
小さくて一口で入ってしまい、歯ごたえがないのが敗因だ
かじり取る感覚も重要らしい
汁気の多い柑橘系もだめだ
オレンジを上げたら、噛んだ途端果汁がとんで彼のシャツを汚した
彼は黙ってシャツを着替えた
ドーナッツもだめだ
ジャム入りドーナッツをあげようとしたら、目で断わられた
僕がとまどっていると、シュガーが口のまわりにつくんだ、と言った
口の回りが汚れるものはだめだ
しかたないからテプンさんに持って行ってあげたら、喜んで一口で食べた
この間バナナを試した時は正直怖かった
一緒に手を噛まれるかと思った
ほとんどバナナ一本を一口で持っていった
彼の口が奥行きがある事はわかっていたのに、迂闊だった
でもポッキーは大丈夫だ
チョコのコーティングがあるところできっちり止まる
そこさえ押さえておけば危険はない
でも口に入れた後、少し噛みにくそうだ
今度は何を食べさせてみようか、僕は考えるのが楽しみになった
おやつひとつでこんなにスリリングでエキサイティングでセクシーな感覚を味わえる人はいない
僕はまた一歩深みにはまった
悪魔の指 8 足バンさん
スヒョンは真っすぐにこっちを見てる
僕は笑おうか怒ろうか迷った
スヒョンがゆっくり近づいてきた時も決めかねていた
「なに…言ってんのさ」
「ドンジュン」
「からかうなら元気な時にしてよね」
「ドンジュン」
「言ったでしょ。ちゃんと好きになんなきゃダメだって」
「黙って」
「ミンチョルさんの代わりなんて嫌だからねっ!」
「ドンジュン!」
まずいことを口走ったと思った
だから両肩を掴まれた瞬間、引っぱたかれるのかと思った
でもそうじゃなかった
僕の身体を浴室のドアに押し付けると、顔がゆっくりと近づいた
心の奥底まで見通すようなその目に、視線をそらすことができない
一瞬迷ったように止まった唇が柔らかく重なった
潤うような優しいくちづけだった
それでも僕は流れてくるスヒョンの心の中に捜さずにはいられなかった
ミンチョルさんの影を
「捜しても無駄だぞ」
唇を離してそう言うとドンジュンはびくっとして僕を見た
捜しても今は見つからない
今はおまえを見ているから
「僕のことが好き?」
「なによ…今さら」
「好き?」
「嫌い」
「好き?」
「読めないの?」
「読まない。言葉で言え」
「スヒョン…」
「僕も言うから…」
「……」
「好きだよ…ドンジュン」
その言葉を聞いた瞬間背中がびりびりとした
そして僕の涙腺が壊れた
どんどん溢れる涙でスヒョンがぼやける
僕は突き動かされるようにスヒョンにしがみついた
「好き…好き…スヒョン…好きだよっ」
泣きじゃくりながらしがみついてきたドンジュンは
僕の胸に顔をねじ込んでやっとのことでそう言った
堰をきったドンジュンの想いが凄まじい勢いで流れ込む
その激流に立ち向かうように僕は強く包み込み抱きしめた
もうなんの迷いもなかった
僕は横たえたドンジュンを暫く見ていた
涙の止まらないドンジュンをもう何度見てきたことだろう
でも今日の涙はみんな僕のものだ
ドンジュンの想いのすべてをはじめて受け止めている
濡れそぼったまつげにそっとくちづける
ドンジュンは小さく震えている
彼の全てをそっくりそのまま包み込みたい衝動にかられて
僕は激しく唇を吸った
ドンジュンは少し躊躇してから僕の頭をかき抱いた
白いシーツの中でドンジュンの身体は大きく波うっている
部屋の小さな明かりにそのうねりが浮かび上がる
僕がくちづけるたびに吐息がもれ、それは嗚咽に変わる
僕はもうドンジュンのどんな小さな迷いも受け止めようと
全身でぶつかっていた
僕はスヒョンの激しい愛撫に息もつけずにいる
頭の奥が痺れるような気の遠くなるような感覚だった
閃光のあいまに、また初めて会ったあの頃がよみがえる
『車の話ばかりしてちゃダメだよ』
スヒョン…スヒョン…
僕は金色の草原の中にいた
暖かい風と草原のうねりに身の全てを任せている
スヒョンが僕の名を呼んでいる…
スヒョンが僕を包み込み電流のような快感が走り抜ける
そして…
突然金色の竜巻に巻き込まれる
息ができない。身体がひきちぎられそう
一瞬空中に放り投げられると…僕のすべての力が抜けた