シチュンとドンジュンの悩み
店にドンジュンを連れて帰るとき、俺達は思っていることを打ち明け合った
スヒョンさんが俺達で遊んでるんじゃないかって…
ドンジュンは生真面目な性格だからなかなか認めようとしない
「遊んでいるなんてそんな。ひどいですよ。そんな事言っちゃいけない」
「けどお前ぜってーからかわれてるよ。判るもん、俺」
「スヒョンさんはそんな事する人じゃありません」
こいつ、からかわれてるくせにスヒョンさんの肩を持つか〜
「あ〜お前〜ひょっとしてスヒョンさんに惚れたか〜?」
「ばっ馬鹿な事を言わないでくださいっ。そりゃスヒョンさんはちょっと変です。でもっそうじゃなくて、僕は人を悪く言うのは嫌なんです!」
「ふーん。でもなぁ…お前のそういう生真面目さが、からかい甲斐あるって俺は思うよ」
「…そ…それは…気をつけます…。でも、僕はそうだとしても、シチュンさんは?遊ばれてるって思うんですか?」
「…っていうよりぃ、なぁんか…イジメ?」
「イジメ?シチュンさんを?まさかぁ」
「だぁって…なぁんかお前に対する態度と俺に対する態度、随分違うんだもん、スヒョンさん」
「そうですか?それはシチュンさんがホ○トとしてすぐにでもやっていけそうだからじゃないんですか?僕はホ○トの知識全くありませんから…」
「そぉかなぁ〜」
「へぇ…シチュンさんでもイジケるんだぁへへっかわいいですね」
…お前にカワイイなんて言われたくないぞ
「それはそうとチョンマンはどこいったんでしょうねぇ」
「あいつ、じっとしてないなぁ。何やってんだろ」
そんな事を言っているうちに店についた。あっそう言えば5分以内に帰ってこいって言ってた…やべぇ…間に合ったのか?
「ギリギリセーフ…にしといてあげるよ。ほんとは15秒遅れた」
「ひっ…す、すみません」
「まあいいよ、かわいらしい感想が聞けたから」
「へっ」
あっこの人エスパーだから、俺達の会話も筒抜け?
「おおー、ドンジュン、カッコイイよ。素敵だ。あれ?なんでボタン閉めてるの?」
「え…と…外を歩くのに寒かったから…」
「フフ」
あっスヒョンさん、ドンジュンのツナギのボタンを外し始めた…うわっ…なんか…ヤらしいぞ…
ドンジュンのやつ何も感じないのか?
ん?
なんだよ、かわいらしい顔して俺の方見てるよ
ああ、俺がいるから安心してるんだ、コイツ…
そりゃあ二人っきりでこんなことされたら…俺でも固まるよ
ん?んん?
「ここまで外しちゃってイイ?」
「えっ…あわっそ、そんなっ」
「クククク」
スヒョンさん、からかってるなぁ。ドンジュンのボタン、ヘソ手前まで外してるよ…やりすぎだよ。うっ…
びくったぁ…
スヒョンさんったら、ドンジュンのボタンに手をかけながら俺の方をすっげーすっげー目して見たんだ!
こええええっこええよぉっ色っぺぇぇぇぇっ…
「盗まないの?」
「えええ?」
「な・が・し・め」
「な、流し目?」
「そ、マツケンさんなんか得意らしいよ」
「マツケン…」
えと…これは…指導?
うあー…んと…えと…どう解釈したらいいのさ…
「あの、スヒョンさんっこんなに開けたら、動いたら脱げます」
「それが狙いなんだけどなぁ」
「えっい、イヤですっ」
「そう?じゃあ、やっぱり4つにしようか…」
「あっ。じ、自分でとめます…」
「だめだよ。じっとして」
うあーっこれはどう解釈したらいいのさっ。どう処理して俺のマニュアルに入れればいいのさっ
「ほら、ドンジュン、こういう時は動かずにじっとしてて。あーそんなに胸を張らないの。自然に、んーと…表情が堅いなぁ
ここでも上目遣いにしてごらん。そう。それ。それで、その姿勢。胸突っ張らず、かといって猫背でもなく、ふっと力を抜いた状態ね。いいよ〜。カワイイ」
…聞いてるこっちがむず痒くなるぜ…。大体これは何の指導だよ?
「あのっこれがどうして指導なんですか?」
よし、よく聞いたドンジュン。俺も知りたい
「例えば君がこのツナギを着てくるだろ?」
「はい」
「さっきみたいにピッチリボタンを上までとめて…」
「はい」
「それじゃちっとも色っぽくない」
「は…はい」
「そこでお客様にゲームをしてもらう」
「ゲーム?」
「何でもいいんだ。で、勝ったお客様に、君の、この、ボタンを、一つずつ、は・ず・し・て・もらうんだ」
「ぎえええっそんなことっ嫌ですっ嫌ですうっ」
ドンジュンは涙目になってる
そんなの、嫌だろうな〜アイツは…
「あんのぉ、俺がかわりにやりましょうか?」
「シチュンはいい。君がやっても別に楽しくない」
「…」
「君は慣れすぎてるからね」
「…」
確かに言えてるな。俺がボタン外して貰っても…あんまり楽しくないか…うん…
そりゃあドンジュンのボタン外してって、アイツが固まるのを見てる方がお客さんも俺達も楽しいぞ…
あ、スヒョンさんがにっこり笑った…。へへ。初めてだ。あんな素敵な微笑みを俺に向けてくれたのは
ドンジュンは涙流してるよ。ヒックヒックゆってる。あー可哀相〜ちょっと可哀相だなぁ
「何泣いてるの?できない?嫌?…それじゃ辞めてもらうしかないねぇ」
うわっ。意地悪〜
「や、辞めるなんて…えそれはできませんっ。僕の仕送りをみんなが待ってるんです!」
「じゃあ仕事と割り切れば?」
「うっううっぐすっ…仕事…割り切る…」
「お客様は喜ぶよ。君のうぶさにイチコロ」
「う…うぶ?」
「まあ、うちのホ○トの中じゃあうぶだろ?」
「…」
「いい?ボタン外されてる時は上目遣いでお客様を見る。それと口は半開き…やってごらん」
「…ぐすっ…こう…れすか?」
「口開きすぎ。ほら。僕の爪を軽く噛んでごらん」
「いっイヤですっ指口に入れないでくださいっ」
ううううっヤらしいっ!なんてヤらしい図だっ!こんなモノを見せられたら、鼻血がっ…
あっまたスヒョンさんが俺に向かってニッコリ微笑んだ
「ほら、噛まないと奥につっこんじゃうぞぉ〜」
ううううっ
俺はいまだかつてこんなヤらしい場面に遭遇したことが…ないっ!!!
あーあ。ドンジュン、涙目でスヒョンさんの指を噛んだぞ…
「イタッ。軽くって言ったろ?軽く」
「わかりませんっそんなのっ」
「しょうがないなぁ…じゃ、『え』って言ってごらん」
「…え…」
「そう。その口の形。覚えといて。上目遣いで『え』。これでお客様イチコロ」
…始めから『え』って言わせてやれよ!意地悪だ〜
「シチュン、おかげでイイモノが見れたろ?」
「うっ…は…はい…」
「よし、上目遣いと半開きの口の練習、あの鏡に向かってしておいで。自分は色っぽいんだって言い聞かせながらね」
「…ぐすっはいっ…」
あーあ。ドンジュン、辛そう…
辛いだろうなぁ。こんなことに免疫なさそうだもんなぁ。うっ
スヒョンさんが俺の肩を掴んだ
つ、次は俺か?
「君に教えることなんて何にもないよ」
つ…冷たい…
「でも、あれ、よかったろ?」
「あれ?」
「ドンジュンのボタン外しショー」
「ショー?…は…はい…結構オモシロイと思います」
「あれさ」
「はい」
「お客様じゃなくて、僕がやろうかな」
「うっ」
「君、ヤらしいと思ったでしょ?」
「…は…はい…いまだかつて見たことがないくらいエロかったです…」
「君のお墨付きを貰ったなら間違いないな。ふふ」
『だから何がふふ?』
「僕とドンジュンがあんな風に絡んでたら」
『絡む?(@_@;)』
「お客様は、生唾ゴクリ…だろ?」
「…そ…そりゃ…けっこう女性って…見せ付けられるのが…好きだったりするかもしれませんし…」
「話わかるねぇ君は…」
そう言うとスヒョンさんは急に俺に顔を近づけて色っぽい目で俺を見つめたんだ
どきいっ…おっ俺に興味ないくせにっ何?何?誰でもいいの?男でも女でも何でもいいの?
その時、スヒョンさんの背後にドンジュンの顔が見えた
ドンジュンはまた固まってる
おい、おいおい、なんか誤解してねぇか?
すっげー目で俺を睨んでるぞ…
「睨んでるねぇ。ヤキモチ妬いてるかな?ちょっと抱き合っとく?」
げーっ嫌だよっ
俺はとっさにスヒョンさんを突き飛ばしてしまった
スヒョンさんはドンジュンのところまで吹っ飛んでった
そんなに強く押してないぞ
「スヒョンさん、大丈夫ですか?シチュンさん、ひどいですよ、指導してもらってたんじゃないんですか?」
「ああ、ドンジュン、大丈夫だよ、ちょっと顔を近づけすぎただけだ」
「顔を近づけすぎたって…一体何の指導ですかっ」
「ん?何だと思う?」
「そ…そんな…顔を近づけるといえばキ…」
「キ?」
「キスしかしりましぇんっ」
「…くくくくっくははははっあーっはっはっはっ」
「なななんですかっ」
「あは…えあははは…あのね、お客様と顔を近づけて、ムードたっぷりにお話しするって事もホ○トには必要なの」
「…話?」
嘘だ。嘘八百だ。デタラメの口からでまかせだっ!
お…俺は…おとりか…
ドンジュンの気を引くために利用されただけか…。くそう
「シチュ〜ン、そういうテクニックも、あるってこと。フフ」
だからっ、なにがフフ?
わかったよ。俺とドンジュンがセットにされた訳が
ドンジュンの警戒心を解くための道具なんだな、俺。くそっ…
あ…でも…
そうか…
使えるか…
少しは勉強になるな、この指導…
ウシクの悩み
変だ。僕は悩んでいることなんてないけど、このところ戸惑う事が多い。変なんだ
昨日、初めてドンジュンが僕についた
堅い子だし、じっとしてるだろうと思ってたんだけど、えらく積極的にお客様にアピールしているんだ
「似顔絵描けます」とか言ったりして
それに、こないだより笑顔が柔らかい
スヒョンさん、一体どんな指導をしたんだか…
時々僕の方をみてほや〜っとした笑顔を浮かべている
…。かわいいよ、確かに。若いし、まっすぐだし
でもなぁ…男に見つめられるのは正直言って…気持ち悪い
似顔絵を描いて、お客様にお見せし、上目遣いでアピールしてる
さすがに手を膝に置くとこまでは出来ない様だ
お客様に誉められると嬉しそうに笑う
随分ほぐれている。たった2日で…
スヒョンさん、一体どんな手を…。心配だ
店が終った後もドンジュンは僕から離れない
「何?どうしたの?この後また指導があるんじゃないの?」
「…ウシクさん…一緒に居てください」
え〜いやだよ〜。こないだみたいな指導を見せられるの、辛いじゃん
でも深刻な顔してるんだ、ドンジュン
「ねぇ、君昨日も指導してもらったんだよね?シチュンと一緒に」
「…」
「ん?何?泣いてるのか?どうしたんだよ?」
「…えにが…似顔絵は…なんとかこなせるようになりましたっでもっボタボタ…」
「ボタ?」
「ボタン外しは…怖くてできませんっ…しないとクビになるって言われたんですけどっ僕っ僕っ…」
「ボタン外しって何?」
「…」
「なんか…技?」
「…らしいんですけど…」
「せっかく教えて貰ったんだったらしたら?」
お客様のボタンでも外すのかな?
確かミンチョルチーフが得意だぞ。片手でボタン外したりとめたりするの…
初歩的な技じゃないか、そんなのもイヤなのかな?純だなぁ
「…」
「どーしたの、できないの?大丈夫だよ。たった二日で今日の笑顔までこれたんだ。今日はいい笑顔だったね
会話もスマートになってきてる。ちょっと車の話がでたけど、あの程度ならまあいいんじゃないかな」
「…」
「自信持ってさ」
「今日はウシクさんのテーブルにつけたから、気持ちが落ち着いて…それで自然に振舞えたんです!」
「そ?じゃあよかったね」
「お願いですから僕を離さないでください!」
…離さないで?…
「僕を見捨てないでくださいっお願いしますっ」
あーあー、泣いちゃった
「なんだドンジュン、ウシクに叱られてるのかい?」
スヒョンさんだ。あっ…ドンジュン固まった…
「ウシク〜、ドンジュン苛めないでくれよ〜」
「苛めてなんか…えスヒョンさんでしょ苛めてるのは…」
「まさか。ちゃーんと指導してるよ。今日は効果出てたでしょ?」
「ああ、そうですね。好感度アップですよ。いい笑顔だった、柔らかくて」
「…どうして僕の前でそれを見せてくれないのかなぁ〜」
「…」
「さ、指導始めるからいこう」
「あっウシクさんっ一緒に来てくだ」
「ウシクは後片づけするからダメだよ。君の相棒はシチュンだよ」
「いやだっいやだっいやだぁっ」
「…ダダこねると口ふさいじゃうよ」
「へっ?」
「口、ふさいであげようか?」
「…」
「なんだ、黙っちゃった。つまんないなぁ」
スヒョンさん、きっと『僕の唇で口ふさいじゃうよ』って言おうとしてたな
…。冗談だろうけど…いや…やりかねないな…
あーあ、ドンジュン、目が死んでるわ…。可哀相に
シチュンがいるからいいじゃないか
「スヒョンさん、ドンジュン捕まえましたか?」
「シチュン、人聞きの悪いこと言うな」
「はは、すみません。そいつがいないと指導が始まらないんでねぇ」
「さ、ドンジュン、今日はノースリーブTシャツとジーパンに着替えて」
「うっうっ…いやですっ…」
「着替えろよ、スヒョンさんがおっしゃってるんだぞ!」
「シチュンさんが着ればいいじゃないですかっ」
「俺はそんなの似合わないんだよ!お前じゃなきゃ意味がない!」
「シチュ〜ン、解ってるねぇ。そうなんだよドンジュン、君がピチピチのTシャツとパツンパツンのジーパンを履くことによって、お客様はイチコロになるんだから」
「…」
「それとも、辞める?」
「そ…それは困りますっ」
「じゃあ…着替えて」
「…」
「できない?」
「…」
「ダダッ子だなぁ〜しょうがない。手伝ってあげるよ」
「着替えてきますっ!」
「…ククククククク、あ〜たのし〜」
「へへっあいつ涙目でしたよスヒョンさん」
「かわいいねぇ」
「俺はなんだか、スカッとしますよ、あいつの涙目見ると」
「あ〜シチュン、いけないんだ〜」
「何言ってんですか、いけないのはスヒョンさんでしょ?」
「ククク」「ヒヒヒ」
…。ドンジュン…一体どんな指導をこいつらに…
僕は心配になってきた
ドンジュンはトイレにこもって着替えている
「ドンジュン、大丈夫?」
「うっうっううっ」
「泣くなドンジュン!わかったよ。僕も一緒にいてあげるから、泣くな」
「うえっえっほっほんとに?」
「ああ…あいつら…すっごく楽しんでるぞ、君を苛めて…」
「うえっうえっ」
「泣くな。いいか、あいつらを見返す方法はただ一つ」
「えっ?」
「君が色っぽくなって、あいつらを手玉にとることだ!」
「できましぇぇえんっ」
できないだろうなぁ…
ポン
肩を叩かれた
振り向くとスヒョンさんがいた
「余計な事言わなくていーの」
「でもあんまりにも可哀相ですよスヒョンさん、意地悪が過ぎます」
「…君、一緒に居てあげるの?」
「ダメって言われてもいますよ、可哀相すぎます」
「…そ…いいよ」
え?いいんだ…えらくあっさり認めてくれたな。でも…スヒョンさんの事だ。何か…企んでるに違いない。気を引き締めないと…
「フフ…引き締めたところで、僕にかなうかなぁ…キミ…」
…しまった…なんでもお見通しだったんだ…
でも…可哀相なドンジュンを見捨てるわけにはいかない…
僕は頑張るぞ!
テスの悩み
…うるさい!…うるさいうるさい…うるさーい!
って大声で怒鳴りたい!
でもできない僕…
どうしてうるさいかって?
…
…
朝からずーっと喋りっぱなしなんだもん、この二人
え?誰と誰かって?
…
…
テプンさんとチョンマンだよ
ね、うるさそうでしょ?考えただけでもうるさそうでしょ?
実際目の前にいられたら、耐えられないよ
なんでこの二人が僕の目の前にいるかって?
しらないっ!
僕が『オールイン』を掃除してたら来たんだもん!ズカズカ入ってきたんだもん!
人がせっかく掃除し終えたところに泥靴でさ!
何しに来たの?って聞いたら、練習だって…
なんの?芸の
なんでここでやるの?ここしかないから
ばかっ!
何言っても聞いてくれないし、無駄だから、もうほっといた
そしたら喋る喋るうるさいうるさい
おまけに、僕のおやつを勝手に食べてる…
テプンさんだからしょうがないんだけど…チョンマンまで…くそっ
ここは『オールイン』だよねぇ!ここでは僕BHCの人たちに邪魔されないはずだよねぇっ!もうっ!早く帰れっ!ミンチョルさん、戻ってきたのならこいつらをしっかり取り締まってくれよっ!役立たず!
って大声で怒鳴りたいよう〜!
テプンの悩み
こいつと組むとろくなことがない
昨日は最悪だった
悪気はないだけに余計始末が悪いってヤツだ
俺が芸を披露しようとすると決まって何かやらかすんだ
落ち着きのない奴
おかげで、一口食いもほお張り喋りもあんまりウケなかったじゃねぇか!
ダンスタイムにテプン踊りを披露してたら「僕も僕も〜」とか無邪気に言ってよぉ、俺よりイロッペェ顔で踊りやがんの…
だからスヒョンに、俺の芸を出すタイミングを観察して盗めって言われてたんだろうが!
俺の芸に被せんじゃねぇよ!
そんな訳で俺は頭に来ている
だからコイツを『オールイン』に呼び出してタイミングの打ち合わせをしてるんだ。テスには悪いけどよ
テス、睨んでたな。後で残ったおやつでもやっとくか…
しかし、『オールイン』はいつもおやつが置いてあんのか?
スンドンのおやじなんか、おやつ食ってたら…破裂すんぞ!
ああ、話が逸れた
で、だ
チョンマンとあれこれ話をしたんだ。そしたらよぉ…
こいつ…いい奴なんだよな。場の雰囲気読めねぇとこあるけど…
友情に熱いっていうか…。人情派なんだ
俺と似てるんだなぁ
俺も「友情」とか「家族愛」とか大好物だからな
そしたら新人のドンジュンって奴も「家族愛」が大好物らしい
で、そいつはホ○ト向きじゃないことを悩んでるらしい
でぇ、今スヒョンとシチュンと三人で特訓してるらしいけど、毎晩寮の寝床でうなされてるらしいわ…
かわいそうにな
そんな事を話しすぎて、芸のタイミングを合わせるって話ができなくなっちまったんだ。どうしよう…
「とにかく、でしゃばるな」
「でしゃばってるつもりはありません」
「…。お前、俺が芸を披露してるときに被せてくるじゃん」
「…え…でも二人でやった方がお客さん、喜んでますよ」
「…そ…そうか?」
「ダンスなんか特にウケてましたよ」
「…そ…そうか?」
「僕にはそう見えました」
「…」
客は俺の芸を見飽きてるのか?
「僕、一応手品だとかチョコ牙だとかの芸のときは静かにしてました」
そうだった…
「もう少しタイミングをずらした方がいいですか?テプンさん的には…」
「…ん…あ…ああ…。被せられると…俺の芸が薄れっちまうかなって…」
「…生意気言うようですが…」
なんだよ
「僕、ここってとこで被せたつもりなんです。でも、すみません。打ち合わせせずにやっちゃったからテプンさんテンション下がっちゃったんですね。僕も昨日、あ、マズイって思いました」
「…テンションは確かに下がった」
「僕の狙いとしては…生意気言うようですけど…あの…僕が被せた事によって、テプンさんがもっと燃えてくださるって思ってたんです…」
「…何?」
「…もっと燃えて、さらにすごい芸に繋げてくださると…」
「…チョンマン…」
俺の事を考えてくれていたのか!
「ワリィ。気づかなかった…。俺、鈍感だからさぁ。お前が邪魔してるとしか思えなくてよぉ…」
「すみません。打ち合わせすればよかったですね。」
「そうだな…」
「あの、僕が被せてった時に、テプンさん、思いっきり僕を叩いてくれてもいいし、耳引っ張って止めてくれてもいいんです」
「そんなことしたら…」
お前だけがオイシイんじゃねえか?
「そんなことしたらさぁ、客がみんなお前に同情しねぇか?」
「あっ…そか…だめですねぇ…あまいなぁ僕」
「…まあいいや、なんとかテンションあげてお前に負けないようにするわ、俺」
「…」
「なんだよ」
「…テプンさんってカッコイイ」
「そ…そうか?」
「何があってもメゲなくて前向きで明るいって聞きました。本当なんですね?」
「…それは…誉めてるのか?」
「はい」
「…そうか…えまあ…お前に負けないように頑張るわ…俺」
「はいっよろしくお願いします」
なんだか腑に落ちないんだけど…。まあいいか。あんまり深く考えるの、俺、得意じゃないしな
要はこいつに負けなけりゃいいんだから…
そう言えば俺って…No,1だったんじゃねぇか?
ますます負けられねぇ!
ドンジュンの悩み
また指導を受ける。今日はウシクさんが居てくださる。ありがたい
僕はノースリーブのTシャツとジーパンに着替えさせられた
でもウシクさんが居てくださるんだ。心強い
シチュンはスヒョンさん側に寝返った
裏切り者だ。新人仲間なのに…
僕は着替えを終えると恐る恐るトイレから出た
僕は今日、頑張ったんだ。似顔絵の芸をやったんだ
本当にウケた
皆さんが「かわいいかわいい」って誉めてくださった
これもウシクさんが側に居てくださったおかげだ。感謝します
「やあ、着替えたね」
スヒョンさんの声を聞いたとたん、体がこわばった
「たまらないね。この腕…」
スヒョンさんが僕の腕をすうっと撫でる
やめてやめてやめて〜っ!
声が出ない
スヒョンさんは二の腕をグッと握ると
「堅くていい腕だ。おお、胸も…」
って、胸板まで触った
涙が出てきた
「ドンジュン、大丈夫か?」
ウシクさんが心配そうな顔で僕の涙を拭いてくれた
そのウシクさんをスヒョンさんは睨んでる
ウシクさんは睨み返してる
ああ、ケンカはしないでくださいね〜僕のために…
「さ、ドンジュン、こっちへ来て。この衣装のときは、思いっきりセクシーにいこう」
「…」
「またできないって言うんじゃぁないよねぇ」
意地悪な口調だ
出来ないものは出来ないんだ!
せくしーってなんなんだよっ!
「ふーん。えらく反抗的な事考えてるねぇ…。いいんだよ。泣かせても。いいんだよぉ、脱がせても」
「は?」
「着替えてる時の格好、再現してあげようか?こ・こ・で」
着替えてる時の格好?泣いてて覚えてない
「覚えてないのか〜。なぁんだ。じゃ、言っちゃお。あのねぇ、キミ泣きながら服を脱いで、ズボンも脱いで、間違えてパンツも脱ごうとしたね」
ど、どうしてそれを…
「脱いでほしかったなぁ…残念だったよ」
…
「そして、パンツ一丁で泣いてた。可愛くていとおしかったよ。抱きしめて慰めてあげたかったのに、君はトイレに篭ってるし…」
だきしめてなぐさめる?
「スヒョンさん、ドンジュン石になってますよ、もういいでしょその辺で」
「こうやってウシクが邪魔する。これぐらいの言葉で石になってちゃ、ホ○トとしてやっていけないよ。やっぱり辞める?」
「や、辞めませんっ」
「フフ、イイコだねぇ」
「スヒョンさん、スヒョンさんって天使キャラじゃなかったんですか?」
「そうだよウシク。知ってるだろ?」
「僕には今、スヒョンさんが悪魔に見えます」
「じゃあそのキャラでもいいよ」
「スヒョンさん…」
「シチュ〜ン、ドンジュンを連れていって」
「はーいスヒョンさん」
シチュンは僕の背中を押してガランとした客席に連れていった
「まず、この衣装のときは、背筋を伸ばして、キリっとした顔でいるんだよ。それだけでもお客様はイチコロだ」
昨日からなんどこの『イチコロ』って言葉を聞いただろう
「今日だって上目遣いでイチコロだったでしょ?ウシク、どうだった?」
「あ…はい…イチコロかどうかは判りませんけど、カワイイって声はよく上がってました」
「でしょ?僕の言うとおりにしてれば、キミ、No,1だって夢じゃないよ」
「は…はははい…」
あっつい頷いてしまった!
「やってごらん。背筋伸ばして、キリッ」
キリッとした顔って…マジメな顔でいいのかな?こうかな?
「やっぱりそういう顔は得意なんだねぇ。いいよ。精悍だ」
「俺には出来ないなぁ、こういう顔」
「ハハ、シチュンも練習してごらん、君の場合は、逆に時々こういう顔をすると人気が出る」
「そうですか?じゃあ俺練習しますわ」
「さてと、座りかただけど、その膝を揃えて座るのはちょっとなぁ。足広げてみて」
「…こうですか?」
「…うーん…普通そうやって大股ひろげると、ある程度色っぽくなるんだけどなぁ…なんでかなぁ。ドンジュンがやると…おっさんクサイなぁ…」
「はあ…」
「ああ、腕を組んでるからか…腕組みやめて。片肘を太股について手に顎乗せて。それからもう片方の腕は…んーそうだなぁ…ウシク、君なら何処にもう片方の手を置く?」
「僕なら…そうだなぁ…反対側の太股かな?」
「シチュンなら?」
「俺は…頭掻かせます」
「ふっ…シチュンらしいなぁ…」
「そういうスヒョンさんならどこに?」
「僕ならねぇ…こうかな?」
そう言うとスヒョンさんは僕の手を取って、太股に乗せられたほうの腕の上腕部分をつかませた
そして頭を少し傾けさせた
「これ、どう?」
「ふーん、さすがスヒョンさんだな。いいポーズだ」
「だけど、店でお客様の前でずーっとこれじゃぁ変でしょ?スヒョンさん」
「じゃあ、こんなのは」
スヒョンさんは僕の足を閉じさせた。それから足を持って組ませた
足組んでって言えばそうするのに!
それから僕の肩を掴んでぐっと押した。押したときスヒョンさんの顔が僕の顔にものすごく近づいた
「背中、突っ張りすぎ」
「ふあっはいっ」
「で。腕をこうしてこう」
まるで自分を抱きしめるような格好…。なに?これ
「表情がイケナイ。顎だして、口半開き。半開き判る?判んなけりゃ僕の爪を噛んでもいいよ」
「わかりますっえと、顎出して…口半開き…半開きは…ん?なんだっけ…『い』だっけ『う』だっけ…」
「『う』」
「『う』」
ん?『う』だと口がすぼまっちゃうよ…んんんん?うわあああっスヒョンさんが薄目で薄目でっ顔近づけてっわああああっ
「スヒョンさん!ドンジュンの足が引きつって震えてますけどっ!」
ああウシクさんっありがとう…止めてくれて…って何?止まってないっ止まってなあああいっぎゃあああああっキスされるううううっ
「『う』じゃないだろ?『え』」
「…」
「『え』。言ってごらん?言えない?じゃあ僕の唇で『え』の形にしてあげようか?」
「えええええええええーっ!えーっ!え・え・え・えっえーっ!」
「クククフフフっ…ああオモシロイなあ」
「スヒョンさん!」
「何ウシク。何にもしてないじゃない」
「してないけど…精神的にキツすぎます、ドンジュンには…」
「そう?だってこの子こう言わないとやらないんだもの」
うううっうううっまた涙が溢れてきた。どうして僕はこんな目に?
「ああ、今の目、いいよ。その薄〜く開けた目。最高。どう?これ」
「なんか、グラビアアイドルみたいなポーズですねぇ」
「趣味悪いよスヒョンさん」
「そお?かなりキてるとおもうんだけどなぁ。ダメ?」
「可哀相ですよ、もうちょっと普通に振舞わせてあげてくださいよ」
「…そうかぁ、僕だけかぁ感じるの…」
かかか感じるって何を〜っ
「この衣装のときは、男っぽくラフな感じで座ってればいいじゃん、ね、ドンジュン」
「ふぁいっぐすっぐすっ」
「あーあ、泣いちゃったよまた…ほら。ハンカチ…」
「ふぇっふぇっ」
「僕が拭いてあげよ」
「わああああっ自分でふきますっ」
「ちっ」
「スヒョンさん、いい加減にしてくださいよ」
「えーっとじゃあ、これを着てるときの芸としては」
「芸?」
「そ。お客様へのサービスアピール」
「そんな言葉聞いたことないなぁ」
「だってこの子何もないじゃない、芸。それを教えてるんだよ、僕は。ウシクちょっとつべこべ言いすぎ」
「そうですよウシクさん、こうやって窮地に立たされると人間ってとてつもない力を発揮するもんなんですから」
「シチュ〜ン、わかってるねぇ」
「そりゃあもう〜」
泣いている僕のところへ、そっとウシクさんがやってきた
「あいつらいつから悪魔コンビになったんだよ…可哀相に…」
ウシクさんは僕の頭を撫でてくれた
「ドンジュン、そのピッツピツのTシャツ、いいね。うっすらチ○ビがうつってて」
「スヒョンさん!」
「だって本当のことだもの。君だってTシャツ着てるときうつってるじゃないか」
「僕はいいですけど、ドンジュンにそういう言葉を浴びせ掛けないでくださいよ、怯えてます」
「そんな事ないよね〜ドンジュン」
「うっううっ」
「それからそのパツンパツンのジーパン、いいよぉ」
「うううっうっううっ」
「スヒョンさん!」
「そうだなぁ。ちょっと途中までジッパー降ろしとく?」
「いやですっできませんっ」
「そうだよドンジュンには無理だよっ」
「そう?じゃあさ、客席にいるとき、なんか食べるだろ?そん時さ、『あーちょっと苦しくなっちゃった。失礼します』って言ってジッパー半分下げるの。どう?」
「いやですうううっ」
「そうだよ、無理だよっ」
「いいっすねぇ!」
「いい加減にしないとミンチョルチーフに言いつけますよ!」
「ミンチョルに言っても無駄だよ。これは指導。こんなことに負けるようじゃホ○トにはなれないよ。ドンジュンもそれは承知してる。ね、ドンジュン」
「ウシクさん…辛いです…でも…家族のために…僕…耐えます…」
「!何言ってんだよドンジュン!…もう…知らない!もうついてけないよ!冗談じゃない!僕が一番疲れるじゃないか!」
え?ウシクさん、何怒ってるの?
「耐えろよ。勝手に耐えてろ!ドンジュンはこの3日間で完全にスヒョンさんに飼い慣らされてる!
嫌だ嫌だって言いながら耐えてるなんて!僕はもう指導に付き合わない。もう知らない!自分でなんとかすればいい!」
ウシクさんは怒って先に帰った
「ウシクさ〜ん〜た〜す〜け〜て〜」
僕は力の限り叫んだ。ウシクさんは帰ってこない…
「それだけ叫べるならまだまだ大丈夫だね」
「そうっすね。コイツ、根性ありますね」
「ククク」「ヒヒヒ」
ああ…僕は…どうすればいいんだぁぁぁぁっ
ウシクの心配
昨日はドンジュンに呆れて、あとの事をほったらかして帰ってきた
ちょっと可哀相だっただろうか…
でも、本当にイヤならちゃんとイヤって言わなきゃ!
泣いててもどうしようもない。涙が何か解決してくれる?そうでしょ?
僕はその事を言ってやろうと思って、今日店に出た
ん?『指導組』がいない。…。まさか昨日、あの後、ドンジュン…悪魔コンビに酷い目に合わされたんじゃ…
僕の心配をよそに、ドンジュンは開店30分前にやってきた。僕を見てちょっとオドオドしている
可哀相だったかな?昨日は…
「おはよう」
「あっおはようございます!あの…ウシクさん…すみませんでした」
「ん?謝るってことは、いけないところがわかったって事?」
「…僕、昨日ウシクさんに…何したんでしょう…いくら考えても僕…わからなくて…」
「…。僕に何かしたっていうか…。君さぁ、嫌な事を無理矢理させられて、泣きながらさぁ…そんなにまでしてホ○トになりたいの?」
「…僕にはもう、ホ○トしか残ってないんです!」
「…そうかなぁ、自動車関連の仕事ならたくさんあるよ」
「いえ!昔の彼女との思い出は断ち切りたいんです」
「昔の彼女って…付き合ってたの?深い関係?」
「…一度だけ」
「…寝たの?」
「ひええっなんてこと言うんですかっウシクさん!そんなっそんなっ」
「だって一度だけって言ったらたいてい…」
「キスしただけですっ!」
「…」
「…だから…車の仕事してたら、いつ何処で会うか解んないし…かといって他の仕事は僕…できませんし…」
「…ホ○ト向いてないとおもうけどなぁ」
「でもスヒョンさんは向いてると言ってくださいました!」
あーあ、完璧、騙されてるよなぁ…。まあいいけどさぁ
「じゃあね、出来ない事とか、嫌で嫌でどうしょうもないことは、ちゃんと断りなよ。君がジタバタしてると悪魔は面白がって意地悪するんだから、ね?それができないなら、もう僕のテーブルにつかないで」
「はっはいっ。嫌な事ははっきりと断ります」
「…そんな事言いながら、君、流されそうだしなぁ」
「いえっウシクさんにつけないなら僕、身の置き場がありません!」
そんな事はないだろうけどねぇ…
「じゃあ、頑張りなさいね」
「はいっ」
そうして今日も僕のテーブルにドンジュンはいた
今日は清潔そうな格好だ。普通のジーパンにボタンダウンの白いシャツ。爽やかな青年だね
笑顔もほぐれてきて、いい感じだ
似顔絵の技も、昨日より自然だし…。よかったよかった…。ん?
何固まってるんだろう、ドンジュン…
はっ…スヒョンさんが僕のテーブルに来た!なんで?
罠
「ちょっと失礼します。スヒョンです、よろしく」
「スヒョンさん、何か?」
「ん、ちょっとね」
なんでこの平和なウシクさんのテーブルにスヒョンさんが?!
僕はパニックになりそうだ
昨日ウシクさんが帰ってしまってから、僕は何度かポーズの練習をさせられた
そして…
「なんだ、ドンジュン、昨日着てこいっていったタンクトップ、どうしたんだよ」
「へ?あ…えあの網みたいなやつ?」
「そう、あれ着てこいって言ったのに…」
「あれ・・部屋に置いておいたらチョンマンがバナナ入れに丁度いいからって」
「バナナ入れ?!あのセクシーなアミアミのタンクトップを?」
「はい。部屋の鴨居から吊るしてます、バナナ」
「あたー…あの猿…」
「それに寒そうですし、あれ」
「…衣装だよ衣装」
「嫌ですよ、あんな変なもの着るの」
僕はウシクさんとの約束通り、嫌なものは嫌ということにした
スヒョンさんの表情が少し変わった
「ふーん。そうか…。僕の指導がそんなに嫌なのか…」
「えっ…いえ、そんな事は言ってません…」
「あの、スヒョンさん、お客様が驚いておられますから、その、ケンカは…」
「ケンカなんかしてないよ、ウシク。大丈夫。ね?ドンジュン?」
「は、はいっ」
スヒョンさんはウシクさんに微笑んだ
「で、ドンジュンは、何が一番嫌なの?」
「え?」
「僕が昨日までに教えた事の中で、いっちばん嫌なのは…何?」
「…えと…そ…それは…」
「すみません、スヒョンさん、そういうお話でしたらご自分のテーブルへドンジュンを連れていってしてください。このテーブルのお客様は、僕のお祈りを聞きにいらしてるんで…」
「あ、ああ、ごめんごめん、邪魔しちゃったね。じゃあ、あっちに行こうか、ドンジュン」
「は…はい…じゃなくていいえっ!僕いま、ウシクさんのお祈りの勉強してるんで」
「…ふうーん…そ」
スヒョンさんはちょっと怖い目をしたけど、割とあっさり引き下がった
ウシクさんもホッとしてる
僕はウシクさんのお祈りを聞いた。お客様達が何度もウシクさんのようにお祈りしてパクっと食べる技をやっていた
お祈りをしてすぐ、食べ物を全部口に入れなきゃいけないゲームだ
負けるとシッペをされる。平和なゲームだ
僕の番が回ってきた。お祈りはうまく唱えられるようになったけど、その後の「パク」がうまくいかない
だいたい僕の番のときには、一口で食べにくいものばかりが回ってくる
今日はジャージャー麺だったんだ
パクっとやったら、半分食べこぼして、白いシャツにベットリくっついた
「あーあードンジュン、何やってんの、はい、おしぼり。拭きなよ」
とウシクさんがおしぼりをくれた
僕は、席のはしっこに移動して一生懸命シャツを拭いていた
「口」
スヒョンさんの声がした
顔を上げるとスヒョンさんの手が僕の口を拭った!どきいいいいっ
まさか…まさかまさか…その手を舐めたりしないよね?
「ん?こうして欲しいの?」
スヒョンさんはいたずらっぽく笑うとペロッと舌を出して自分の手を舐めるフリをした
ドキドキドキ…
「しないよ」
ほっ…
ほっとして、もといた場所に戻ろうとして、僕は…コップのお酒をこぼしてしまった
お客様にかかっちゃう!
「ごめんなさい。失礼しましたっ」
僕は持っていたおしぼりで濡れてしまったお客様のスーツを拭いた
「馬鹿!ドンジュン!汚れる!」
「はっ」
そう、僕のジャージャー麺のヨゴレが、お客様のスーツに…少しだけついてしまったんだ…
「ドンジュン!ボケっとしすぎだ!もういい!ちょっと下がってて!」
ウシクさんが怒った。こんなにきつい口調で怒るウシクさんなんて初めてだ
お客様は、いいのよ大丈夫よと言ってくださったけど、僕はウシクさんに怒鳴られたことがショックで、頭を下げる事を忘れていた
「ドンジュン、ちゃんとお詫びしないか!」
ウシクさんは僕を睨んでいる。さっきより、もっと強い口調だ…
優しいウシクさんが…ああ…
「す…すみません…僕…僕…」
「いいのよ、気にしなくていいの。ウシク君もそんなに怒らないで、ね」
「すみません、こいつボーッとしてて…。ドンジュン、少し離れて座れ!」
ぐすっ…ウシクさんに…ウシクさんに怒られた…。ぐすっ
涙が出てきたので、見つからないように後ろを向いて俯いた
「あーあ、泣いちゃって…」
スヒョンさん…。スヒョンさんが涙を拭いに来た!
もうっ来ないでくださいっ!スヒョンさんが来るとろくな事にならない!
「どうして?僕のせいなの?」
「うっ…ううっ」
「僕のせいでウシクが怒ったっての?」
違う…違うけど…もう…嫌だ…
「君は…」
「…」
「何が一番嫌なの?」
「え?」
「僕が教えた技の中で、一番嫌なものって何?」
「…」
何?急に何?
ウシクさんが僕の方を見ている。何か言ってる
え?『いえよ』?
ちゃんとはっきり言えよって事かな?
そうだ、ここでちゃんと言わなきゃ、僕、もっとウシクさんに嫌われちゃう…
「う…ううう…ジッパ…ジッパーおろすの…」
「それが一番嫌なんだ?」
僕はうんうんと頷いた
「それだけができないんだね?」
僕はウンウンと頷いた
「そう」
ん?
それだけ?
「あーあ、ここ、こんなに汚しちゃって、白いシャツなのに…」
スヒョンさんの手が僕のシャツにかかる
シャツのボタンは、ピッチリ上までとめてある…
はっ…えまさか…ボタン外し?!
「ジッパーが嫌なんだろ?」
スヒョンさんは僕の耳元に口を寄せてそう言った
あ…ああ…また…涙が…涙が…
策略
俺は、今日、スヒョンさんと一緒に打ち合わせをして、ギリで店に出た
それからが大変だった
ビデオの設置、照明の設置、音楽の用意
スヒョンさんとのキューの確認もした
最初の2時間程は何事もなく過ぎた
そして、いよいよスヒョンさんが動く
俺は、ピンスポを柔らかいピンクにして、スヒョンさんの方に…いや、スヒョンさんとドンジュンが絡んでいる方に…向けた
おっとその前に、ビデオ撮りはチョンマンに任せてある
なに、バナナを一房やったらオッケーしてくれたんだ
研究のためにお前の腕が必要だって言ったら喜んでたぜ
それにしてもスヒョンさん、上手い具合にお客の視線を集めるなぁ…
みんな手を止め口をとめて、ピンスポのほうを見入ってる
もちろん、俺もだけど…
うひゃあっ…きゃああっ…
小さいざわめきが聞こえてくる
そりゃ、ざわめきたくなるよな…こんなものを見せ付けられちゃあ…
あ、ドンジュン担当のウシクさんの目が真ん丸になってるよ…ひひひ
ん?厨房の連中ったらあんなにへばりついて…ウケケケ
チョンマンは…うん、バナナ食ってるから静かだ。へへへ
おおおっあんなっあんなっ…うええええっおおおおっはあああああ〜
あっ…合図だっ…音楽♪そしてライトをパァッ
…
拍手喝采
あーおもしろかったぁ(^^;;)
ドンジュン、わけわからず…
スヒョンさんが、僕の耳元でささやき続けている
「そのまま、そのままで」
「…」
何…する気?
スヒョンさんの手は、僕のシャツのボタンを…一つずつ…外し始めた
何だろう、何だかライトが暗くなった気がする
僕が泣いているからだろうか…
「あっ」
スヒョンさんの指が、少し肌に触れた
「じっとして。へんな声出さないの!」
「さわっ…さわっ…」
「あ、触っちゃった?ごめん」
「へ?」
「いいから、じっとしてるんだよ」
スヒョンさんは呟きながらボタンを外して、指を滑らせて…
「うっ嫌だっ」
「何が嫌なの!一番嫌な事はしてないでしょ?」
「う?」
「口、半開きにしてごらん」
「え?」
「ちっ。そうだよ、『え』の口だ…僕の爪、噛ませたかったのにな…」
「ええええっ」
「しっ、声が大きい…」
ぐすっぐすっ僕は一体何をされているんだろう?
「みんなが見てるよ」
「えっ?」
「フフ、みぃんなが君を見てる…ウシクも…シチュンも…お客様だって…みぃんな…君のその…&%&な顔を…フフ」
ぎえええっ僕は何もしてないようっ!何もっ何もっしてないよう!
「動いちゃだめだ。騒いじゃダメ」
えっえっえええっ
僕は、もう目を開けていられなくて、ひっくひっく言いながら、スヒョンさんの言うままにじっとしていた…
ボタン…どこまで外されるんだろう…
…冗談じゃない!ほっといたら全部脱がされちゃう!
僕はハタと気づいてスヒョンさんの腕を掴んだ!
僕はスヒョンさんと睨みあった
幸いボタンは4つめまでしか外されてなかった…
スヒョンさんは、しばらく僕を睨んでから、急にお客様の方を向き、パッと手を上げて笑顔を作ってから、深々とお辞儀をした
そして僕の頭を押さえこみ、お辞儀をさせた…
何?これ…
ん?
気が付くと僕たちにライトが当たってる
そして軽快な音楽が鳴っている
どちらかというと、ふざけたような曲…
何?なんなの?これ…
「はいっ素晴らしいボタン外しショーでした。皆様、もう一度拍手〜」
は?
「さて、ハラハラドキドキのショーの後は、僕たちと一緒に踊ってくださいっテプン&チョンマンの、『君はファンキー・モンキー・ダァンス!』」
…???
僕が?な顔をしてると、スヒョンさんがニッコリ笑ってこういった
「よかったよ」
…!!!
「君に教える事はもう何もない。明日から頑張ってね」
は?
「あ…でも。ボタン外しショーのリクエストが出たら、僕、また仕掛けるから…ね」
そう言うとバッチンとウインクして自分のテーブルに戻っていった
ウシクさんが、ぼーっとした顔で僕を見ている…
ウシクさん…僕、ちゃんと「イヤ」って言いました!
僕は笑顔を見せたんだけど、ウシクさんは目をそらしてしまった
…ウシクさん?…