テスの悩み
僕って、悩み事から解放されないみたい…
昨日は新人三人のヘルプに付かされて、その上その新人三人をまとめられなくて自己嫌悪に陥った
追い討ちをかけるようにスヒョンさんが三人に教育的指導をして、場が収まり、僕はますます自己嫌悪に陥った
散歩の時、スヒョンさんに冷たくしたからだ…と思う
スヒョンさんは、店にいる間、僕にちょっぴり意地悪な目線を送っていたもの…
今日、朝、『オールイン』の掃除をしていたら、新人三人が順番にまた僕のところに報告に来た
来なくていいよ…。君たちBHCの従業員でしょ?
報告するならウシクさんにしなさいよ…ふぅっ…
心の中でなら言えるのに、面と向かうとどうしても言えない僕…
こういう気の弱いところがチョンエには物足りないんだろうか…
そうそう、チョンエに昨日スヒョンさんに言われた事を聞いてみたんだ
そしたら一言
「何?それ…。何言ってんの?」
って冷たくあしらわれた
僕、ウザイ?ねえ、僕、ウザイの?
って聞きたかったけど怖くて聞けなかった
ここはチョンエの家だし、ウザがられて追い出されたら僕…行くところ…ないもん…
それに僕、チョンエのこと愛してるし…。嫌われたくないよう…
でもね、そうやって落ち込んでいたら
「何度言ったら解るの?私はテス君がす・き・な・の!キツネちゃんは可愛いけどただの縫いぐるみじゃない
それに、スリルなんかもう求めてないわ。スリルなんて、イナのとき充分味わったし、それに、あの新婚旅行…
最悪だったわね!…サンドゥ親分の逆恨み…あれから私は平穏無事が一番だってわかったのよ!
ね?だから余計なこと考えなくていいの!テス君は今のまんま可愛らしいテス君でいてくれれば私は幸せよ」
って〜(^o^)
絶対スヒョンさんなんかに合わせないからな!プンっ
あ、そうそう、それでね、新人たちのことだけど…店が終ってからスヒョンさんに説教されたんだって。ふふ。かわいそー
ミンチョルさんがいないと僕の心は平和…だけど、店はやっぱりうまく回らないらしい
ウシクさんもテジンさんもテプンさんも頑張ってるけど、テプンさんなんか、得意だからなぁ…空回り…
早く帰って来てくれないと、僕、ずーっとBHCのヘルプしてなきゃなんないよう…
それにしてもうちの店(『オールイン』)のNo,1は何処いったんだろう…
え?僕の悩み?
だから〜、僕は一体いつまでBHCのヘルプでいなきゃなんないのかって事が〜…
シチュンの悩み
10人切ったんだ!俺が…この俺が…。一日たりとも女無しではいられない…とまで噂されているこの俺が!
店に来たお客さんをナンパすればいいと思っていたんだ。いくらウシクのダンナに「ダメ」って言われてもさ、コソコソっとやりゃあわかんないと思ってさ…
けど…
あのスヒョンのダンナが、俺にダメ出ししたんだよ
「お客様とデキちゃった…はダメだよ。すぐクビ」
「ど…どうしてですか?」
「他の店はどうだか知らないけどここは公私混同しちゃダメなんだよ」
「…だからなんで?」
「ホ○トの人気がかなり高いからねぇ。特定の人とデキちゃうと…お客様みーんな来なくなっちゃうよ。僕たちは公平に公正にお客様を楽しませる義務があるんだ」
「ぎ…義務?」
「そ」
「…そんな堅苦しい店なんですか?」
「堅苦しくはないでしょ?ほら、こないだのイベントだって楽しかったでしょう?」
「あれは…その…まあ…」
「ま、君が求めてる楽しさっていうのは…男女間での様々な感情及び肉体的もつれ?」
「…そ…そんな難しい表現をされると…」
「簡単に言うと品がなくなっちゃうもの。あのね、ここでは一応『品』も必要」
「…オーナーがアレなのに?」
「オーナーがアレだからこそ、ホ○ト達に『品格』が必要なんじゃないか!…だから〜君が求めるその『もつれ』は、店の外でやりなさいよ」
「だってウシクさん、女は切れって」
「それは今までのこと。これからはBHCのホ○トであるという自覚を持って、ちゃんと自分で始末できる範囲内で女性とどーこーなっても、それは構わないと思う。ただしちゃんと責任もってね」
「…はあ…」
「お客様には手をつけちゃダメ!楽しく遊んで頂かなくちゃいけないんだから。もしお客様のどなたかとキミがデキてる…なんてこと知られたら、キミの指名なんて全くなくなると思うよ」
「…へい…」
「キミは…じゃあ、ちょっとおこがましいけど、僕のこと観察してみな。キミと僕はタイプが似ているから。でも正反対なんだけどね」
「へっ?」
「キミは押しが強そうでしょう?僕は受け止めるタイプなんだ」
「…はあ…」
「じゃあさ、今日から僕をよく観察して、いいと思うところを盗んでね」
「…へい…」
「頑張ってね」
…いやだなあ。男を観察するなんてさぁ…。それに、俺の生きがいのオンナ…
…。どうやって…店の外で知り合うんだ…。俺は今まで、自分のカフェに来たお客とヨロシクやってたのに…
それから、やたらとお客に触るなとか、くっつきすぎだとか…色々注意されたよ…
ほんとに俺、ホ○トに向いてるのかなぁ…
俺の生涯で初めての悩み…だ
チョンマンの悩み
芸の見せかたって?わかんない。ウキッ
喋りすぎって?だって癖になってんだもんなぁ。一人暮らししてた頃からずーっと喋り捲ってたからなぁ、僕
それにビールジョッキ、6つ持てるところ見せたいのにさぁ…ダメってテスさんまで言う
それはどーしてかっていうと、スヒョンさんが言うにはだね
「ビールなんて単価安いしすぐにお腹いっぱいになるでしょう?その点ワインだとか、ほら、ドンペリだとかは、ね、単価高いし高級なツマミだって出せる
その辺も考えないと一流にはなれないよ」
だそうです。はい
それと下ネタはもう少し上品に言えって言われた
僕の下ネタは、あの二つだけなんだけどなぁ
屋上のセッ$%はきっとワイルドでスリリングなお話だって思われると思ったのに…ダメってさ
「じゃあキミ、お客様に『しろ』って言われたらそれ、応じるわけ?」
「え?は…はい。覚悟は出来てます!」
「ダメだよそれ」
「え?なんで?」
「お客様とはそういう関係ダメだからね。キミもシチュンと一緒で、そこんとこ公私混同しないでくれる?」
「は…え…?公私混同?お客様を彼女にするっていうことですか?それだったらそんなつもりは毛頭ないですよ
あのですね、僕はただ、その、屋上セッ#$も、ホ○トサービスの一環かと思ってたんで必要だろうかと思ってアピールし」
「アピールしなくていいよ。そんなのサービスじゃないし、うちのお客様はそーゆーこと求めてここにいらしてるんじゃない。
どちらかというと、キミの持っている芸、モノマネだとか歌だとか?そういうものや、あと話術ね、そちらの方が喜ばれるよ」
「…はあ…」
「要は見せかた」
「その見せかたってのがよくわからない」
「あのね、人の話は最後まで聞きなさい。キミ、喋りすぎ」
「…は…はい…」
「落ち着きがないし」
「…へ…へい…」
「お客様のお話をよくお聞きして、そのお話の中からキミのレパートリーを紹介してお見せする…そういうぐらい謙虚でいいんだよ」
「…へえ…」
「ホ○トは君だけじゃない。テプンだって芸達者だろ?」
「…ふぇぃ…」
「キミは…テプンを見習ってごらん。全て真似る必要はないけど、彼が芸を出すタイミングは絶妙だから、その間をよく見て盗んでごらん」
「ふぇい…」
テプンさん…。落ち着きないのはあの人の方じゃないのかなぁ…いつもなんか食いまくってるし…
スヒョンさんが言うにはそれも彼の芸の一つだって言うけどさ…
難しいなあ…。喋ることを制限されるのって…辛いよう…
ドンジュンの悩み
僕は、車の事なら何でも…と言っていいくらい知っている
逆に言えば「車の事しか知らない」んだ
だから、お客様の前で、そのお話をさせて頂いた
皆さん、熱心に聞いておられたから、きっとご興味がおありになるのだと思って、一生懸命話した
けれど…
「車の話ばかりしてちゃダメだよ」
と、スヒョンさんに注意を受けた
「それに、喋りかたが堅すぎるね。もっと打ち解けた柔らかい感じで喋らなきゃ」
とも指摘された
僕はずっとこの様にして会社で話して来たので、『お客様』と聞くと、礼を欠いてはいけないと思い、つい、畏まった口調で話をしてしまう
チョンマンやシチュンさんは、信じられないほど軽く、馴れ馴れしくお客様に話し掛けている
「あれはダメだよ、見習っちゃ。でもキミのは堅苦しすぎて、お客様が和めないよ」
「は…はい…」
「何か…何か特技はないの?キミ」
「は…砂漠のレースに出」
「車以外では?」
「…あっ…ちょっとだけ…絵が描けます。彼女の絵を100枚ぐらい描いたことがあります…」
「…うーん…地味だなぁ。まあいいか、それが一つのウリになる」
「…ウ…ウリ?」
「そう。例えばお客様に似顔絵を描いてあげるとかさ」
「…でっでも…」
「何?」
「お気に召す様に描けるかどうか…。似てないかもしれないし…」
僕はその様に答えた。するとスヒョンさんはクスリと笑ってこう言った
「自信持って。あのね、ちょっとだけ控えめに『下手なんですけど…』って言うんだ。ちょっと顎をひいて、上目遣いでお客様を覗き込むんだ。これでオーケーさ」
「え?」
「ちょっとやってごらんよ。そうだ、一度僕を描いて」
スヒョンさんがそういうので、僕は、テジンさんからスケッチブックをいただいて、スヒョンさんの似顔絵を描いた
…。似てない…。似てないな…。だめだ!
そう感じたので破ろうとしたらスヒョンさんが僕の腕を握った。ドキッ…
「だめだよ、破っちゃ。下手でもいいんだよ。とにかく、そーっとその出来上がった絵をお客様に見せて…今は僕にね…そしてさっきのセリフと仕種をしてごらん」
「は…はい…」
僕はスヒョンさんに言われたようにやってみた
スヒョンさん(お客様)に、描いた絵をそーっと見せながら、えーっと
「へっ…へたっ…へたっ…下手ですけどっ…」
それから…えーっと…顎をひく?出すだっけ?ん?ひく…あ…ひくだ
顎をひく
それから…えーっと目…目を…上目遣い?上目遣いってなんだ?
わからなくなったので聞いてみた
「あのスヒョンさん、上目遣いってなんですか?」
スヒョンさんはニヤニヤ笑いながら
「それでできてるよ。ちょっと不自然だけど」
と言った。できている?ああ、顎をひくと必然的に目玉が上に行くな。これか
車で言えば、アクセル踏めば前に進む…と同じことだな
それで…えーっと…このままスヒョンさん(お客様)の方向を向けばオッケーなんだな?
…。スヒョンさんは今にも吹き出しそうになっている
なにかまずい事をしたかな?
それとも絵が面白すぎた?
「あの…絵…変ですか?」
僕は顎をひいて上目遣いのまま、スヒョンさんに聞いてみた
「ブーッハッハッハ。あーあ。キミ、いいなぁ。すっごくいいキャラクターだなぁハッハッハッ」
「え?そうですか?」
「そうだよ…顎をひけば必然的に目は上にいくね?アクセル踏めば車が前に進むのと同じだね?」
「は…あ…はい…え?(なんで解ったんだろう)」
「プーハッハッハッきみってカワイイよクックックッ」
「え?」
「ハハッハハハッ…もういいよ、いつまでも顎ひいてなくていいよククク」
「あ…はい…」
「あー面白いなあキミ。でも、お客様の前ではもう少し自然にやんないと」
「自然に…ですか…。車の運転なら自然にできるのになぁ…」
「ククク。いいかい、見ててごらん」
そう言うとスヒョンさんは僕の役をやってくれた
「あの…下手なんですけど…気に入っていただけると嬉しいな」
「…」
「何か言って」
「…へ…下手だねぇ…」
「すみません。お客様を見つめていたら…ドキドキしちゃって…うまく描けなかったんです…」
そう可愛らしく言うと、少しだけ顎をひいて、僕を上目遣いでじっと見つめた…
ドキッ…ドキドキッ…すごい!
「ね。こんな感じ。これに慣れたらこんな風にそっとお客様の手に自分の手を添えてもいいね」
ドキッ…
「ん?何震えてるの?できない?大丈夫。できるようになるよ」
「あはあ…はははい…」
「じゃ、もう一度やってごらん。僕がダメなとこ直してあげる」
「ははははははいっ」
ものすごく緊張する。心臓が飛び出しそうだ
「へっへへへっ…へっ…てぇぁあっですっけどっ」
「何言ってるかわからない!ダメ!」
「はははいっ。へっへへへ」
「へ…た…落ち着いて言ってごらん」
「はははいっ。へったっですけどっ」
「ククク…まあいいや。それから?」
お客様にそっと絵を見せる…。と
そして。顎をえと…出す?ひく?あれ?どっちだっけ?ん?ん…うわああああっ
「何やってんの!こうだろ?」
スヒョンさんは僕の顔を両手で挟んでちょっとだけ下を向かせた
ドキドキドキドキドキ…心臓が…口から出そうだ…
「もう一度やり直し」
「ははははひっ…へ…たですけど」
「何、間あけてんの?」
「すみませんっ。コホンケホン…アーアー。やります。…下手ですけど」
やった。うまく言えた!
それから顎を…ひ
「なんで間があくの?」
「すすすすみません。もう一度やります。…下手ですけど…」
顎をひくだひく。ぐっ…で自然と上目遣いになる!だ!うわわわわああああつ
またスヒョンさんが僕の顔をはさんだっ
「角度下げすぎ。これじゃ上目遣いじゃなくて白目向いちゃうよ。気をつけて」
「はははははいっ…」
「これくらい。いい?この角度覚えといて」
「はははははいっ…」
「うん…いいぞ。目線は前だよ、僕じゃないよ」
「ままままえ?」
「僕はいま君の上の方にいるじゃない。お客様は普通座ってるでしょ?」
「はははいっ」
「だから前」
「はいっ」
前方を注意せよ…だな
「ちょっと確認」
スヒョンさんはお客様の位置に座った
「もう一回やってみて」
「はははいっ」
「あの…下手…ですけど…これ…」
で顎ひいて上目でお客様を見…
スヒョンさんが僕を見ている。じーっと見つめている。どきっどきどきっ
「ダメ」
へっ?
「もう少しお客様に近づいて、絵が見えないよ、それじゃぁさぁ…」
「は…はい…」
僕はドキドキしながらもう一度やってみた
上目遣いで、お客様を見る…スヒョンさんと目が合う…ゴクッ
「何生唾飲み込んでるの、だめだよ。唾飲み込むよりも、そっと手にタッチ…」
「あっ…はい……」
「いい?普通お客様は、絵を渡されたら絵の方を見る。君が上目遣いでアピールしているのをお客様は気がつかないかもしれない。だから、一拍遅れて、そっと手にタッチだ。そして自分の方を向かせるんだ」
「あの…でも…目が合っちゃいます」
「合わせるために手に触れるんだよ」
「だけど、その後…どうしたらいいか…」
「何か言葉をかければいい。自然に…」
「えと…あの…」
「やってみようか」
「は…はあ…」
僕はまたトライした
上目遣いでスヒョンさんを見る。今度はスヒョンさん、絵を見ている
僕はそおっとスヒョンさんの手に触る。スヒョンさんがこっちを向いた。目が合った!何か言わなくちゃっ
「はっ…はっ……あっあっかっこいい…ですねっ…」
「…」
「その…瞳が湖のように澄んでますね…シベ・シベリアのっ氷をおもおも思いだしますっ」
「オモオモ」
「はっ?」
「オモオモって言われるよ、それじゃあ…。クックックッ。こういう場合さあ、絵を見てるんだから『どうでしょうか』とか『気に入っていただけましたか?』とかでしょ?」
「あっ!そうか!」
「しょうがないなぁ。もう一度だけ手本を見せるよ」
「はいっ」
「これ…下手なんですけど…」
「ああ…」
上目遣いで僕の横顔を見ているな、スヒョンさん
僕は絵を見ている。すると、暖かい手が僕の左手の甲に触れた。どきいいいっ
振り向かなくては。でも…でも顔が動かない。僕は固まってしまったみたいだ
「どうでしょう…気に入っていただけましたか?」
「あい…あい…」
「どうかなさいましたか?」
「首…首がそっちへ回せなくて…」
「え?」
「そっちを向きたいんですが、体が固まって…言うこと聞かなくて…」
ああ、スヒョンさんが笑ってる…。クスクス笑ってる…
僕は、やっぱりホ○トには向いてないのかな…クスン
僕の目が涙で曇った瞬間、スヒョンさんは片手で僕の頬を引き寄せ、スヒョンさんの方を向かせた
どきっ
「くっくっくっ…くはっはっはっ…キミ…最高…いいよキミはっはっはあっはっはっ」
そんなに大笑いしなくても…
「な…何…何泣いて…泣いてるの…ひーっひっひっ…はぁっはっはっ」
「笑わないでくださいっ…僕は僕なりに一生懸命…一生懸命…うっうっ」
「ひくっひくっ…ごめ…ごめん…ひーひー…あーいいよーキミ。才能あるよ。たのしいなぁ。教え甲斐あるなぁ」
「…本当ですか?」
「ほんとほんと!」
「…」
「あーかわいい」
「…!」
かわいい?
「どーしようなぁ…僕はシチュンをマンツーマンで教えることになっちゃったからなぁ…しまったなぁ…」
「は?」
「あー、いや、君のこと気に入っちゃったから色々教えてあげたいんだけどさ、開店中は僕、シチュンに教えてやんなきゃなんないから…」
「…はい…」
「そうだ!じゃ毎日夕方特訓しよう!」
「…へ?」
「それで…店に出るときは…そうだなぁ…ウシクかな…ウシクにいろいろ教えてもらうんだ。彼の話し方はソフトでイヤミがないから君もああいう喋りかたをするといいよ。柔らかくなる」
「…はあ…」
「それにウシクなら…大丈夫だろう…」
「…え?何が?」
「キミに悪いことを教えないだろうし…」
「悪いこと?」
「うん、そ。それは僕が直接教えてあげるから…」
「…」
「…キミ、かわいいよ。ほんとに」
「…」
「じゃあまた明日、特訓するからね」
「…」
「くくっふふふっはははっはっはっ…」
スヒョンさん…「悪い事を直接」「僕が」「特訓」「かわいい」…
僕は開店迄の数時間、失神していたらしい…
ドンジュンの悩み 2
僕は昨日、気を失い、そのまま店で夜を明かしてしまった
夢で、スヒョンさんが「悪いこと」を教えてあげようと言って、僕を引っ張っていた
僕は、車につかまってなんとかスヒョンさんから逃げた
汗びっしょりで起きたら、ウシクさんが掃除にきていた
ウシクさんは、いつも一番乗りだ
僕が床で寝ていたのでびっくりしていた
「どうしたの?昨日は夜遅くまでスヒョンさんに指導を受けてたみたいだけど、泊り込み?熱心だね。でもこんなとこで寝てちゃ風邪ひくよ」
「…は…はい…」
「…そうか、君が一番最後だったんだね、指導。どうだった?ためになった?」
ウシクさんはニッコリ微笑んだ
ほっとする笑顔だなぁ
僕は今日からウシクさんにつくことになったと言ったら、ウシクさんはびっくりしていた
「僕についたって、芸もなにもないのに…いいのかなぁ…」
「あの…ウシクさんの話し方をよく研究しなさいと…」
「話し方?僕の?」
「はい、イヤミがなくて柔らかくて、聞き上手で話し上手だって」
「えー。買い被りすぎだよ。話し上手じゃないよ〜」
「…でも…スヒョンさんがそうおっしゃってましたから…よろしくお願い致します」
『カタッ…この子堅いなあ…』
「あの…お掃除お手伝いします…あいや、僕が全部やりますんで、ウシクさん、休んでいてください」
「いいよ、僕は掃除好きなんだ。体動かしてないと何だか気持ち悪くてさ」
「で…でもっ」
「…じゃあ一緒にやろう。ね」
ウシクさんはまたニッコリ微笑んだ。キレイな笑顔だなぁ…。まるでフェラーリのボディラインのようだ…
「ん?どうしたの?」
「あっいえっ…どうしたらウシクさんみたいに柔らかく微笑む事ができるのかと思って…」
「…。柔らかい?」
「はい…包み込むように柔らかで、暖かそうな微笑みです。シベリアの大地を走っても、雪にも負けない4WD車のような力強さも感じます」
「そ…そう…」『車でたとえるか…』
「僕には…出来そうにないな…」
「何言ってるんだよ、君、新人の中では一番かっこいいんだぜ。んーと、レースに出てくるマシンみたいにさ」
「えっ…それは…たとえていうとフェラーリですか?それともホンダ?」
「…う…いや…ごめん、僕、車には詳しくないんだよ…」
「…すみません、僕も車に詳しいとはいえ、レース車のことはあまり…」
「ごめんね、君が喜ぶかと思って車にたとえようとした僕がバカだった」
「そんな!ウシクさん!知らないことを知らないと言える勇気、僕、今教わりました!」
「う…」『…大げさだ…』
「僕、一生懸命ウシクさんについていきます!」
「あ…そ…。んー…。僕についてきても…学べるのはお祈りぐらいだと思うけどなぁ…」
「そんなことないと思います」
「…そ…そう?…まあいいや、君、机拭いて。僕床の掃除するから」
「ええっウシクさんに床掃除させるなんて!できませんっ僕がやります!」
「いいよいいって。君、ほら、車を磨いたりするの、得意でしょ?だから机を拭くのも得意かなと思ったから頼んだの。ねっ」
「はいっがんばりますっ」
「はい、がんばってね」
ウシクさんっていい人だなぁ…
僕は一生懸命机を拭いた
その後窓ガラスも拭いてみた
厨房と店との境にあるガラス扉も一生懸命拭いた
ハーッと息をかけて、キュッキュッキュッ
ハーッと息をかけ…うっ
僕は口を「ハ」のカタチにしたまま、その場で固まってしまった
向こう側に、薄目をあけて、口を突き出したスヒョンさんがいるではないか!
何?
何してんの?
「スヒョンさん、キスの練習?」
ウシクさんが笑ってそう言った
スヒョンさんはゆっくり目を開けると僕をじーっと見て、それからドアを開けてウシクさんに何か言っていた
僕は、口を開けたまま、固まっていた
「スヒョンさ〜ん、あんまりからかっちゃ可哀相ですよぉ」
「ん?からかってなんかいないけどな」
「やだなー。本気だとか言わないでくださいよね。そんな…手出ししたらややこしい事になりますからね。(同じなんだから…元は…)」
「…君にも興味あるんだけどね、ホントは」
「僕はその気ありませんから」
「ふっ。つれないなぁウシクは」
「スヒョンさんはどこまで本気だかわかんないしねー。お客さんもみーんなそう言ってますよ」
「え?僕はいつも本気なのになぁ」
「で。今日はデートもナシですか?こんな早くから…」
「ん?デート?あるよ」
「へ?」
「ここでデート」
「ここで?そりゃマズイですよ〜ここでお客さんとデートだなんて。ヤバイです〜」
「お客さんとなんて言ってないよ」
「へ?でも…店でデートは…」
「じゃ、言葉を変えよう。指導」
「指導?」
指導?
「あの固まってる子、掃除、もういいかな?」
「…スヒョンさん、ドンジュンの指導…ですか?」
「うん」
え?指導?…夕方からじゃなかったっけ…
「いい?」
「え…僕はいいですけど、本人は…どうでしょうね。固まってますからね」
「あうっ。ぼぼぼ…ぼくっ…昨日から着替えもしてないないないんであのっシャワーも浴びてないんであのっいいい一回寮に帰って、シャワー浴びてっ着替え着替え着替え」
「落ち着いて」
「着替えてきますっ」
「着替えなら、ここにあるでしょ?ウシク」
「あ…ああ…いくつかあるよ。ぱんつも新しいの常備してあるし…」
「じゃ、着替えを持って、一緒に銭湯に行こうか」
「へっ?」
スヒョンさんはニッコリ笑っている…
横でウシクさんはスヒョンさんと僕とを交互に眺めて…そして…背を向けてしまった…
「ア…ア…ちちちちょっと寮に用事があるんでやややっぱり一回帰りますっさよならっ!」
僕は、怖かった
スヒョンさんはひょっとして…僕を狙っている?
僕は大急ぎで寮に帰ってシャワーを浴びた
シャワーから出て、パンツをはこうとしたとき、携帯電話が鳴った
「もしもし。ドンジュンです」
「いいからだしてるね」
「は?」
「もっと見せた方がいいよ。ノースリーブのTシャツなんか持ってないの?」
「…は?…あの…ど…ど…どなたさまで…」
「…わからないの?」
「…え…」
「…スヒョン様だけど…」
「…」
「はやく店においで。待ってるよ」
「ああのっ…いいいからだって…まさか…のののの覗いてた?」
「ああ、ごめんね。覗かなくったって見えちゃうんだもの…。じゃ」
「あああっあっ…」
僕は…狙われているんだ…きっと…どうしよう…
ウシクの悩み
さしあたって悩みはないんだけどな。私生活も順調だし、店もなんとか回っていってる。(ミンチョルさんもイナさんも帰ってきたしね)
ただ、新人の三人と…そして…スヒョンさんだ…
いや、さほどの悩みじゃないんだけどさ
新人のうちで、一番かっこよくて一番堅くて、一番…からかい甲斐のある子を任された…
僕は可哀相でからかえないんだけど、スヒョンさんが…面白がってる
「だって、三姉妹との恋も終っちゃって…このところ面白いことないんだもの
それに、あの子、磨けば輝くよぉ〜」
なんていたずらっぽい目をして言うんだよ
僕は大丈夫
わかってるから
この人も僕の一部だって…ね
だから惑わされたりしないけど…。あの子はねぇ…。若いからなぁ…一途だし…
からかわれてるって解ってるのかな?適当にあしらえばいいのに、その『適当』ができないみたいだ
スヒョンさんにちょっとコナかけられると、途端に固まってるしねぇ…
さっきも電話で何か言ってたな
いいからだしてるとかなんとか
かわいそーになー
気にしなくていいのに
電話切った後、スヒョンさんはクスクスクスクス笑い続けてた
「人が悪いな、スヒョンさんは。可哀相ですよ、彼、真面目なんだから」
「くはははは。だから面白くって」
「あの…本当に…見えちゃうんですか?」
「うん。興味のあることはね、見たいと思ったら見えちゃう…仕方ないね。体質だから」
「…そんないい体でしたか?ドンジュン…」
「興味あるの?ダメだよ。僕が先に目をつけたんだからね」
『…目をつけたって…』
「僕が教育する」
「…でも、スヒョンさん、あの子を僕につかせるって」
「君ならあの子に悪さしないでしょう?」
『…ってスヒョンさん、自分が悪さしようとしてるんじゃあ…』
「アハハハ。大丈夫だよ。わかってるから。同じだってことは…。でも…からかいたくなるんだ、無性に…。そう…たとえていうなら…作家先生方がミンチョ○をいじりたくなるような…そんな感じ…
これも一つの愛…かな?」
「…いいですけどね。変なことにならないなら…。ややこしくなるから…」
「あ、危ないと思ったら、キミ、止めてね。キミの言うことなら、僕、聞くから」
「…」
「ふふふ」
からかってるな。僕も巻き込もうとしてるな、この人…
睨んでやったら極上の微笑みを返してくれた
いらないよ、そんな微笑み!
まーったく…
そういう訳で、比較的おだやかだった僕の日常が、この二人にかき回されそうな気がするんだ…
シチュンの悩み 2
女を切ったので眠れない
夜明け方になってようやく眠れた。だから起きたのは昼の3時だった
隣で寝ていたチョンマンは、どこかへ行ったらしい
ふと見ると電話を持って、ハダカで突っ立っている男がいる
男のハダカは見たくない。不愉快だ
一応腰にバスタオルは巻いてある
誰だ?何固まってるんだ?
よく目を凝らしてみたらドンジュンだった
「どうした?ドンジュン…」
「…」
「どーしたんだよ、ハダカで…」
「…スヒョンさんが…」
「スヒョンさん?」
「僕を狙ってるんじゃないかって…」
「…は?…」
こいつ、おかしいんじゃないか?なんでスヒョンさんがお前を狙うんだよ
「何でもいいから服着ろよ、男のハダカなんか見たって面白くもなんともないんだから!」
「…そ…そうですよねぇ…普通…」
「…どうしたんだよ、ほんとに変だぞ」
「へ、変なのはスヒョンさんですよ!ぼぼぼぼぼ」
「…何」
「僕の体がいいからだだって…」
「…まあ…いい体してるんじゃねーか?」
「えっ」
ドンジュンはまるで殺人犯でも見るような目で俺を見て、そして、体を隠した
馬鹿か
「…。何。スヒョンさんがお前のこといいからだしてるって言ったの?」
「ははははい。それに…」
「それに?」
「指導…とか言って、その…『 悪いこと教えてあげるよ』って…」
「なんだって?!」
悪いこと?
なぜ俺に教えずにコイツに教える?
俺は無言で立ち上がると、殺人犯を見るような目つきのままのドンジュンを押しのけ、外に出て、そのまままっすぐBHCに行った
「あれ?シチュン、えらくはやいなぁどうしたの?」
「ウシクのダンナ、スヒョンさん来てます?」
「なんだい?僕に何か用?」
「あの…スヒョンさん、ドンジュンに…『悪いこと教える』って言ったんですか?」
「…なんだ。堅いと思ってたのに意外と口軽いんだ、あの子」
『言ったんだ…』
「で、それが?」
「あの…俺には…その…教えてもらえないんですか?」
「君は今まで散々悪いことしてきたでしょぉ?」
「…そんな人聞きの悪い…ウシクのダンナの前でそんな…」
「あの子はそーゆー事してないから、教育しないと…騙されちゃう!」
「騙される?」
「そー。マダームな方々に騙されちゃう…かもしれないからね。誘惑されないように教育しなきゃ。でも君は大丈夫でしょ?」
「…あ…なんだ、そういう悪いことか…」『でもスヒョンさんのテクは知りたい!』
「ダメだよ。教えない」
「へっ」『俺、今、声にだして言った?』
「君は〜、もう少し『品格』を養ってね」
「…へ…へい〜でもあのっそう言えば、俺スヒョンさんにつくんですよね、今夜から」
「ああ…うん…」
『なんだよ、あんまり乗り気じゃねえみたいじゃん』
「そうなんだよ、そのとおり」
「えっ何が」
「…ふふ…」
『何がふふ?』
「君の担当誰かに変えちゃおうかなぁ…」
「えっそんなっ。俺はスヒョンさんの技を学びたいのに」『そうだよ、神業っていわれてんだから、この人の女の扱い方…』
「不純な動機みたいだし…」
「えっ…あっ…いえっ…そんな…」
「君…やっぱり…もうちょっと紳士な人についた方がいいかなぁ…」
「すみません、スヒョンさん、そんなこと言ってシチュンを誰かに預けても、ドンジュンは僕につかせますよ」
「ウシク〜、意地悪だなぁ」
『アンタでしょ、意地悪は』「シチュン、大丈夫。スヒョンさんにつけばいいからね。この人チーフでもなんでもないんだから」
「ウシク〜」
「可哀相に、見てくださいよシチュン落ち込んでますよ」
「大丈夫だよ、彼は立ち直り早いから」
俺は少しだけ寂しかった。俺よりもドンジュンの方が気に入られているみたいだ…
でも俺はタダでは起きないヤツなのだ
「あのっスヒョンさんっ。ドンジュンのやつが言ってましたけど、なんか、毎日あいつを指導するとか…」
「ああ、あの子の指導はするよ。毎日ね」
「おっ俺も毎日特別指導を」
「君はしない」
「なんでっ」
「君は指導しなくてもいいもの」
「どーしてっ」
「自分でわかってるくせに」
「…」
やはり嫌われている?俺がいくらいい男だからって…そんなライバル視しなくても…
「ライバル視はしてないけどな」
「へっ?」
「スヒョンさん、からかうのやめましょうよ〜」
「…しょうがないな、よし。わかった。君も特別指導してやるよ」
「ほ…ほんとですか?」
俺は嬉しかった。俺の熱意が通じたみたいだ
だが俺はその時、気がつかなかった
これは俺を陥れるための罠…いや、違うかもしれないけどでも…罠だったんだということに…
テジンの悩み
僕の悩みなんて、話すときりがない。だから話さない
とは言っても、妻は僕を理解してくれているようだし、もうすぐ子供も生まれる
色々深く悩んできたけど、今、僕は、平穏に暮らしている…兄の分まで
兄さん…
ああ、いけない。暗くなってしまうな
そんな個人的な重い悩みではなく、店でのちょっとした悩み事がある
僕は、週に三日ほど早く来て、テーブルや椅子を直したり、それからレジ横に作られた僕の作品展示販売コーナーに置くちょっとした小物を作ったりしてたんだ
店の片隅でね
え?アトリエでやれって?
でも小物だもん。ここで充分さ
それで、ウシクは掃除してるけど、彼は無駄口を聞かないから、僕は作業に熱中できたんだ
でも…
あの新人三人がきてから…ちょっと騒がしくなって…
三人のうちの一番騒がしいヤツは、夜しか来ない。だからいいんだ
でもあとの二人、ちょっと軽いヤツと偉くマジメそうなヤツ…その二人を指導するとかで、スヒョンさんが張り切っているんだ
スヒョンさん、今暇らしい
その指導が耳に入ってきて…作業に熱中できなくてね…
mayoさんに頼んで、覗きっ子クラブ部屋を使わせて貰おうかな…
テソンに怒られるだろうか…
テソンも最近(mayoさんのコントロール能力のおかげで)落ち着いてきてるからな
僕がそう頼んでもきっと…きっと快く承知してくれるだろう…
いつ言おう…
こう見えても僕は、本心をなかなか言い出せない男なんだ…
妻に告白するのも、やっと…やっと…。ああ…。いけない
よし、今日こそ、テソンに…頼んでみ…よう…かな…
シチュンの悩み 3
スヒョンさんは俺の指導も引き受けてくれた。よかった
「じゃあ、さっそくだけど、寮に戻ってまだハダカで固まってるドンジュン君に、カッコイイ服を着せてつれてきて。あくまでもドンジュンに似合う服を選んでね」
「は…はあ…」『なんで俺がアイツの服を選ぶんだ?』
「センスを養うんだよ」
「は…はい…」
「ドンジュンの魅力を最大限に引き出すファッションにしてね。手持ちの服の中からでいい。彼の、秘められたセクシーさを出すように」
「秘…められた…セクシーさ?!…ないと思いますけどぉ」
「そりゃ君に比べたらフェロモン量は少ないかもしれないけど、彼は…フフ」
『何がフフ?』
「はい、いってらっしゃい。30分以内に帰ってきてよ。これは『決まりを守る』訓練でもあるんだから」
「へ…へい〜」
俺は寮に帰る道すがら、ドンジュンの魅力を引きだすファッションの構想を練った
俺のように開襟シャツのボタンをヘソまで開けておくだとか、黒いシャツのボタンを3つ開けておくだとか…あいつ…似合わねぇよなぁ
なんだろ…アイツ…学生服とか似合いそうだなぁ
でも手持ちにガクランなんかないし
なんか…なーんかアイツ、ダサいんだよなぁ…
んー、工事現場の作業服なんかとっても似合いそう
そんな事を考えながら部屋に戻ると、ドンジュンは本当にまだハダカのまま固まってた
「おい。大丈夫か?」
「…あ…シチュンさん…僕一体何してたんでしょう」
気を失ってたのか…
「あのな、スヒョンさんに聞いてきた。指導のこと。俺も一緒に指導して貰うことになった」
そういうと、暫らく呆然としていたドンジュンは、急にわーっと叫んで俺に抱きついてきた
こらっ気持ち悪いっハダカのままひっつくなっ!
「ありがとうシチュンさん!恩に着ます。ああよかった。シチュンさんがいれば、僕、怖くない。なんとかやれそうだ」
「…そ…そう?」『なんでそんな怖がる?』
俺はスヒョンさんに言われたようにドンジュンの服の中からこいつの魅力を最大限に引き出せそうなものを捜した
「おまえ…こんなもんしか持ってねえの?」
「え?何がですか?」
「服。スーツはスーツでも…ドブネズミスーツじゃねえか」
「え?普通じゃないですか?」
「お前…たしか社長してたんじゃないの?もっといいスーツ買えよな」
「そんな、洋服にお金を遣うなんてもったいない!そんなお金があれば、カーデザインやエンジンの性能アップの経費に回しますよ!」
「…それにしても…おっ…おおおっ作業服じゃねぇか!」
「はい。思い出深いな。これ」
「これ、似合いそうだなぁ、ちょい着てみ」
「は…はあ…」
ドンジュンは作業服を着た
似合うなぁこいつ〜
「すっげぇ似合う〜」
「そうですか?やっぱり作業するときはこれが一番ですよ」
「似合いすぎて…魅力引き出せてねぇ…」
「は?」
「おっ。この箱なんだ?」
「あ…それは…砂漠のレースのときの」
「レーサー用のツナギかよ。いいじゃん。俺これほしいなぁ」
「ダメです!これには思い出がいっぱい詰まってるんです」
「これ、着てみ」
「は…はい…」
「あっ…」
かっこいい…こいつ…
「どうですか?」
「う…うん…ま…そこそこだなぁ…」
くそっかっこいい…。こんなカッコウしてこられたら、客の人気全部コイツに行っちゃう…
そんな事を考えていたらドンジュンの電話がなった
「はいっはい…は…は…あ…え…あ…」
「どーしたんだ」
「は…ス・スヒョンさんが…わけの判らないことを…」
「貸せっ。もしもし、シチュンです」
『替わらなくていいのに!』
「は。すみません。あの、ドンジュンが目を白黒させてたんで…」
『それが楽しいんじゃないか』
「は…あの…スヒョンさん、今いろいろ着せてるんですけど」
『君、そのオイシイ格好を一人占めする気?』
「は?」
『ドンジュン君、かっこいいじゃないか、ちゃんと正直に誉めてあげなさいよ』
「…え?見えてるんですか?」
『ああ、ごめん…フフ…判っちゃうんだ…』
「…判っちゃうって…」
俺はハッとして電話を抑え、あたりを確かめた
もしかしたら監視カメラがついてるかもしれない
いや、盗聴盗撮機器類が完備されているかもしれない!
俺の目に、キョトンとしたドンジュンが飛び込んできた
くそっ…かわいらしいじゃねぇか!
「あの…スヒョンさん、この部屋って盗撮とかされてんですか?」
「大丈夫。だと…思うけど、一度mayoさんたちに聞かないとなぁフフフ」
「…」
「あのね。君も今ドンジュンをカワイイと思ったでしょ?」
「…」『なぜわかる』
「…君も結構鈍感だなぁ。まあいいや。いずれわかるだろう」
「…」
「あのねぇ、ドンジュンに替わってよ」
「は…はあ…」
俺はスヒョンさんにそう言われたのでドンジュンに電話を突き出した
ドンジュンはものすごい勢いで両手でイラナイイラナイと手を振り、首を振っていた
それを報告しようと電話を耳にあてると
「かわいいねぇ、出たくないって?」
やっぱ見てんじゃん!
俺はもう一度部屋の要所要所を確認した
カメラらしきものは…ない…
「あのねぇ。僕には、見えちゃうし判っちゃうんだ。君が何しようと何処に行こうと何を思おうと…ふー」
「…あ…エスパー!」
「エスパー?…古いなぁ…まあいいや、そんなもんだよ。ところで、ドンジュンが出ないんなら君でいいや、指示通り動いてくれる?まず…」
「はい…はい…は…はい…えっ?そ…そんな…え…はい…ちょっと待ってくださいよ…」
俺は電話を置いてドンジュンのところに行った
「いいか、じっとしてろ。すぐ済むから。頼む」
「えっ…何…何ですかっえっ…」
俺はスヒョンさんの言った通りに動いた
まず、ツナギのボタンを4つ外す。そして襟元をぐいっと開ける
「ちょっちょっと、シチュンさんっ」
「じっとしてろ」
それから…えっと…髪をふぁさっか…ファサァッとおろす
「へ?何?」
んで、ちょいと下を向かせ…ああこれは
「お前昨日スヒョンさんから上目遣いのやり方教わったろ?してみ」
「あ?こ、こうですか?」
「おうっそうだ。そして…」
「あぐっ何すんですかっ口に指つっこまないでくださいよっ気持ち悪い」
「俺だって気持ち悪いよ!スヒョンさんがしろって言うんだもん!」
「口開けりゃあいいんですか?」
「ん。そうみたい」
「あー」
「違うんだ!指一本ぐらいの幅でいいんだ」
「指一本?」
「ああ。すなわち『半開き』ってやつ」
「半開き?何それ。どうやるの?」
スヒョンさんは
『半開きって言っても多分理解出来ないだろうから、君、指を突っ込んでみて。ああ〜君にやらせたくないんだけどなぁ、仕方がない』
って言ってたけど、ほんとにドンジュン、知らないらしい
「これぐらい。そう。これぐらい口開けて、ちょっとまって、上目遣いね。そうそう。えーとそんで、片手を腰にあてて、片足を斜め前に出す。おうっやさぐれた感じでかっこいいぞぉっ…スヒョンさん、できましたっかっこいいです」
『うーん、完璧だなぁ…でもまだ目が泳いでるねえ。それに…よだれたらしそうだ』
ほんとだ。オドオドしてる…
「もーいーれすかー」
「スヒョンさん、もういいですかって」
『うん。その格好でつれてきて。あ、それと、ノースリーブのTシャツないか?あとジーパンも。なるべくピチピチしたやつ』
「…あ。ありました。はい。はい。持っていきます」
俺はスヒョンさんからの電話を切り、レーサーツナギを着たドンジュンを連れ、ジーパンとTシャツを持って店に向かった
電話を切る前にスヒョンさんが、
「あと5分以内に帰ってこないと、君の指導は中止する」
って冷たく言った
なんだか、ドンジュンと扱いが違わないか?
チョンウォンの悩み
悩み?そんなもの僕には無縁だ
そう思っていたのだが、よーく考えるとある。あるな。ある
そう、この頃体の調子が良くない
たまに意識がなくなるんだ
なにか重大な病気でも…
記憶が途絶えたのは何回だろう…
ここ最近だけで4回はある。ぷっつりと記憶が切れているんだ…
もしかして、はやりの二重人格とかで、記憶のない間、別人格になっている…ということはないだろうか…
親友であるミンチョル君も記憶がなくなったときいて、父とそのご友人方にお知らせし、4人で見舞いに行ったのだが、元気そうだった
ああ、もしかするとこれこそ僕の病気かもしれない
僕は『オールイン』のNo,1ホ○トだ
『オールイン』といえば親友ミンチョル君の勤める店、BHCとは同じオーナーだ
そのオーナー、ウワサによると『妄想狂』らしいじゃないか
えらく強い菌らしくて、感染すると『じどうしょき』状態に陥るとか…
きっと店内にその菌が発生し、御曹司でありか弱い僕など一番に菌に冒されたに違いない
それでミンチョル君が『記憶をなくした』と思い込んだのだな?うん。そうだ
それにしてもミンチョル君はずるい奴だ
いつも僕との勝負から逃げている
フンっ。デブのくせにっ!
まあ仕方ないか、彼の家庭は崩壊状態にあるようだ
弟と奥さんがもう一度愛し合うらしいしな
父はミンチョル君に見舞金を出していたな。僕も持参すべきだった。ここが僕の甘いところだ
次回は必ず用意したい
ところで、僕は最近オーナーの命令で、なんだかすごいホ○トクラブに行ったような気がするんだ
それがどこだったのかイマイチわからない
病気のせいだ…。深刻だな
あそこにもう一度いってみたいのに
ホ○トクラブだというのに店内にメリーゴーランドがあり、そしてなんだかわからないが立派な壁画もあった
その上をモノレールが走っていて、僕こそあれに乗って下を見下ろすにふさわしい男なんじゃないかと思った
いろいろな衣装があって、王子や王女の扮装もできるらしい
そうそう、あそこにいた男、かろうじて名前を覚えている。チャ・ソンジュだ
やたらと髭剃り跡が目立つ唇の赤いヘンな顔の男だが、あいつも『御曹司』なんだ
あいつ、ブーメランとやらをうまく扱っていた。羨ましい
僕は幼い頃、剣道で名をはせたが、今は練習してないのでダメだ
ブーメランか…。新しい武器だな。研究する価値があるだろう。最近暇そうにしているハン&ユンの二人に、ちょっと調べてもらうか
あっハン&ユンで思い出したが、あそこの門番はチャンというらしい
ハン&ユン&チャンの三人でユニットを組ませ、僕たち『御曹司協会』の三人がステージに立つとき、バックで踊らせるのもよいな
ステージ?ははは。これは父の影響だ
父は最近『トリオ・ザ・デラルス』というダンスチームに入って人々を喜ばせている
父は輝いている。あんなハツラツとした父は見たことがない。ずっと仕事と悪巧みの虫だったからな
とてもいいことだ。父たちのステージを見ているうちに、僕もこんなステージをやりたくなったんだ
まだ『御曹司協会』の二人には打ち明けていないが、いつか三人でステージに立ちたいと思う
その事を告げに、近々あのチャ・ソンジュの店へ行きたいのだが…(そういえばアイスリンクもあった…)
…どうやって行ったのかよくわからない
これもみんなオーナーの運んできた菌のせいだろう。あの背の高い外科医に診てもらわねば