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宿にて

修行の疲れでグタグタの二人は、部屋に入った途端居眠りしてしまった
気が付いたら夕飯の時間だった

「お風呂お先に〜」
「えっドンジュン、もう入っちゃったの?」
「お二人ともぐっすり寝てたから」
「どうして起こしてくれなかったの!」
「起こしましたよ、ものすごく揺さぶったけどミンチョルさんはうなされてるし、スヒョンさんはにやけてるし…ちっとも起きないから僕先にゆっくり入らせてもらいました
夕飯の後に入ったらどうですか?」
「・・そうだね、じゃあその時ドンジュンももう一度入ろうよ!」

スヒョンがにっこり笑ってそう言うと、ドンジュンはにっこり笑って何も答えずにドアのほうに向かった

「夕食ですよ。行きましょう」
「あっ・・待ってよ・・ミンチョル!行くぞ」
「あ・・ああ・・」

夕食を食べ、部屋に戻るとドンジュンは部屋のはしっこに布団をひいた

「おやすみなさい。僕、昨日からほとんど寝てないんで先に寝ますね。じゃ・・」

そう言うとグースカ寝てしまった

「ド・・」
「寝ちゃったぞ。スヒョン、お前、ドンジュンと風呂に入りたかったんだろ〜や〜らし〜」
「ミンチョルこそ!」
「僕はそんなこと思ってないぞ」
「・・。風呂入るのやめようかなぁ・・」
「汚い!昨日の夜から入ってないんだろ?それに温泉だぞ。疲れた心とカラダには持ってこいだ!」
「・・そうだな・・入ってこよっと・・」
「じゃあ行くか」
「なんだ。ミンチョルも一緒に入るのか?」
「なんでドンジュンがよくて僕はダメなんだ?」
「別にだめじゃないけど・・」
「どうせ風呂場には人がいっぱいいるんだ!ドンジュンと二人きりでなんかしようなんて無理だぞ!」
「そそそそんなこと何も考えてないぞ!」
「でも映画では・・ああだった・・」
「あああああれは・・こんな温泉宿じゃない!」
「・・あれをやりたかったんだろう?」
「・・」
「なあ。ああいう事をすると女性は喜ぶものだろうか?」
「・・なんだ奥さんにそうしてあげようとか思ってるのか?」
「・・いや・・いや・・そうだな・・してあげるといいのかもしれない・・」
「おい、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
「すまん、ちょっと急に思いつめてしまった・・」
「とにかく、のんびり湯に浸かろう・・明日はもう帰るんだし・・」
「そうだな・・」


温泉に浸かりながら…

「なあ、スヒョン」
「ん?」
「楽しかったか?」
「・・」
「辛くなかったか?あんな意地悪されて・・」
「・・」
「なんで何も答えないんだ・・」
「・・僕は今まで、人にこんな思いをさせてきたんだ・・」
「・・ん?」
「僕は・・やっぱり・・プレイボーイだったんだな・・」
「・・」
「これからは万人にこんな事をするのは辞める」
「ん?」
「『この人!』って人だけに・・意地悪したり・・優しくしたり・・うふ・・うふふ・・したりされたりうふ・うふふふ」
「・・」
「・・ああ・・でも・・BHCに帰ってから・・どうしよう・・」
「何が?」
「僕ホ○トとしてやっていけるかな?今までどおりお客様に接する事ができるかな?」
「・・何言ってんだよ。ホ○トは仕事だろ?」
「・・うん。でもさ・・。ドンジュンと『ボタン外しショー』なんて・・できるかな僕・・」
「・・お前ができないなら僕がかわりにやるけど、ボタン外すのも留めるのも片手でできるしな」
「・・なぜ不器用なお前がボタンに関しては器用なんだ?」
「・・しらない」
「・・お前には任せられない!ドンジュンがお前に抱き付いたりしたら・・」
「抱き付く?あの子がそんなことするわけないだろ?」
「何言ってんだ!昨日今日と僕だけじゃなくお前だって、あの子にどれほど惑わされたか・・。お前、判ってないのか?」
「惑わされた?そうなのか?じゃあ、あのキュンは・・」
「・・あうっいや、それは・・寒さのせいだ。お前は男にキュンとなるような人物じゃない!」
「・・男にキュン?・・ちょっと待て。以前・・そんな事があったかもしれないような気がしてき・・うう・・頭がクラクラする・・」
「のぼせたんじゃないか?もう出よう」
「・・何か思い出せそうだったのに」
「思い出さない方が幸せな事もあるってイナが言ってたぞ」
「・・なあ、僕は・・不幸だったんだろうか・・」
「・・幸不幸は他人には判断できないよ・・だろ?」
「・・そうだな。今の君は僕から見ればドンジュンにからかわれて弄ばれて、とても惨めで気の毒に思えるが、君自身はそうでもなさそうだしな」
『惨めで気の毒で弄ばれてる?ひ・・酷い・・』
「う・・いかん、めまいがしてきた。お先に出るよ・・」
『フン、こけろ!』
「うわっ」ズルッゴンっ☆
『あっ。ほんとにこけた・・』
「う・・」
「大丈夫か?」
「う・・ああ・・大丈夫だ・・じゃあ・・」
「気をつけろよ・・。それにしても・・僕は・・僕は・・。こんな気持ちになったのは・・生まれて初めてだ・・
これが生きているって事なのかな・・。ハラハラしたりイライラしたり幸せだったり・・ウフフ・・ウフフフうふふふああああっ」ぼちゃん・・

温泉で溺れそうになるなんて・・。ドンジュンには絶対に知られたくない・・


街までドライブ

「うわぁ〜よく晴れたねえ」
「さあ、車に乗って。そろそろ出発しますよ。今から出ないと今日中につけません」
「はあい」

車に乗り込むスヒョンとミンチョル
雪化粧した山の木々が美しい

「うわぁっドンジュン。あれ。きれ〜い。すごぉいすごぉい。天国みたいだぁ」
「そうですか?天国ってこんなところですか?」
「…うん…天使もそばにいるし…」
「…」
『うわっ…ラブラブ光線丸出しだ…スヒョン』
「スヒョンさん。ほら、あっちのほう見てごらん。下に街が見えるだろ?」
「うわぁほんとだぁ…ああ…きれい〜…幸せだぁ」
「スヒョンさんったら子供みたいだなぁ。明日からちゃんと仕事できるの?」
「…できないかもしれない…」
「…ひらがな喋りになってますよ」
「…もどらないんだもん…」
「随分ブリッコだし…」
「ブリッコじゃないもん!」
『げぇっ…ブリブリじゃないかスヒョン…湯あたりしたまんまなのか?』

「うわあああ…木が…木があんなに綺麗だぁ〜…うわああこれが銀世界なんだね、ドンジュン」
「ええ。素敵でしょ?」
「初めてみた…。おとといの夜の吹雪は怖かったけど、今日はとっても素敵だなぁ…うっとりする」
「…スヒョンさん、随分嬉しそうだね」
「だってこんなに雪を見たの初めてなんだもの…」
「雪を甘くみると大変ですよ」
「そうだね。ドンジュンに教えてもらった」
「…気持ち悪いなぁ、素直すぎるよスヒョンさん…」
「…そう?僕ってそんなに捻くれてた?」
「…最初、どう接していいか解んなかったもん…」
「…ごめんね。少し前の僕は…意地悪したくて仕方なかったんだ…」
「…フフ…」
「何?フフって…」
「ううん…なんでもなーい」
「なんでもないって…僕には全てお見通しなんだけど!」
「フフ」
『のはずなんだけど…わ…解らない…マジで解らない!なんでだっ…』

『ミソチョルちゃん、僕は一体ここに何しに来たのかな?確かに雪景色は美しい。心が洗われるようだよ
でも、僕は別についてこなくてもよかったんじゃないだろうか
そもそも僕はなんでついてきたんだっけ…
スヒョンとドンジュンに頼まれたんだよな、二人っきりだと危険だって…
特にドンジュンに泣き付かれたんだよなぁ…スヒョンに襲われるかもって心配してた…
でも…どうだろう…。最初からずーっとドンジュンのペースで進んだぞ。このスヒョンをみんなに見せてやりたいぐらいだ!
しまった。ビデオでも撮っておけばよかったんだ!そうしたらみんなの仕返しができたのに!
ああ…でも…なんだかスヒョンは幸せそうだな…。いいのか?ドンジュンとくっつく気なのか?
でも…それはできないだろう…。なんとなく本能的に解っているハズだ。BHCのホ○ト同士は、かなり危うい関係まで行くことはあっても、決して一線を越える事ができないって…

ああ…まだ山道だ
ドンジュンは運転がうまい。でも後部座席は結構揺さぶられる
つまり「酔う」ってことだ
こんな時には眠るしかない。…くそう…早く店に帰りたいな。そうそう、昨日風呂場でこけたとき、なぜだかテス君の顔を思い出した
彼がにっこり笑った顔が浮かんで…僕はなぜだかとてもほっとしたんだ
なぜだろう…何かあるのかな…
帰ったらテス君に問いただしてみよう。もしかすると僕と妻、そしてあの弟との関係のカギを握っているかもしれない…。ああ…眠くなってきた…
眠ってる間にこの二人、どうにかなったら…なるわけないか…。み…そちょる…君が…見ておいてねzzz…』


ミンチョルの夢

ああ…桜並木に8時に着かなくてはいけない
なのに僕はまだVICTRYの企画室長室で仕事中(のふり)だ

…無理だ
今から車を飛ばして5分でヨイドまで…
いや、無理ではない
車の運転だけなら5分でいける
だが、ここを出て、走りながら上着を着て、そしてVICTRYの社屋を出て、車をペピョッと開けて、エンジンかけて、ぶおおおおっと道を飛ばして、でも信号なんかにもひっかかるだろ?
あれ?ひっかかんないや
ラッキー

ラッキーだったのかな?

まあいいや
あれれ?着いた

こんな桜の季節でこんなに人出が多いのに、こぉんなギリチョンのところまで僕の車を入れられたぞ
ラッキー

ラッキーだったのかな?

まあいいや
えっと…捜さなくちゃ

誰を?

女性だな…

ミンジか?

大体誰から電話があったんだっけ
「8時までに来なければ○ンスさんを諦めたものとみなし、今後一切○ンスさんに関して、僕は譲らない」

○ンスさん?

どんな人だっけ

そもそもなんで僕はその○ンスさんを捜さなくちゃいけないんだ?

わからないまま桜並木を子ギツネコンコン桜並木〜と字余りで歌いながら(誰も知らないだろう、歌ってたなんて…)誰かを捜していたんだな、僕は

誰だかわからない相手を、必死で、僕は捜していた
だから後ろをスイッと通り過ぎたらしい

後から
「あの時なぜ後ろを通り過ぎたのか僕には理解できないよ!本当に好きな人なら一発でみつけられるはずだろ!」
となじられた

誰に?

僕はもう一度捜していた人の後ろを通り過ぎたらしい
そして、何だか判らないけど、その人の醸し出す念のようなものにからめとられ、僕はゆっくりと振り返ったんだ

そうして見つけた(見つけてしまった…)

多分8時を1、2分過ぎていたはず…

「大目にみてやったんだ!感謝してほしいね、今となってはあの時大目に見るんじゃなかったと思ってるよ!」

ううう…。イライラする
僕は見つけ出したというのに、なぜこんなにイライラしてしまうのだろう
捜していた人じゃなかったのか?

○ンスさんは僕を、僕は○ンスさんを見つめ、そして近づき、抱きしめた
○ンスさんの肩に顎が乗った
周りの人達は、不思議なものを見る様な目で僕たちを見つめていたんだ…

うう…ううううっ

「あの時、間に合わなければ…!」
「どうしたんだミンチョル?」
「ううっうううっ」
「どうしたんですか?」
「いや、すまない。悪夢にうなされただけだ…」
「なんだ、びっくりしたよ」
「運転、荒いかな?」
「そ…」
「そんなことないよドンジュン。君の運転は最高だよ」
『そうだよって言いたかったのに!バカスヒョン』
「気持ち悪いな、スヒョンさんがそんなに僕を誉めると…後で何かされそうだな」
「えっ…」『うひょっ…してもいいのかな〜何しようかな〜…あれかな…これかな…うひっ』

僕は悪夢から醒めたというのに、現実の方がもっと悪夢のような気がしてミソチョルをギュッと抱きしめた…


山から街へ

「・・」
「どうしたの?スヒョンさん、黙っちゃって」
「運転に集中できないといけないから…」
「フフ…大丈夫。行きは夜中だし雪も降ってきそうだったから集中してたんだ。今は大丈夫だよ。昼間だもの」
「喋ってもいいの?」
「フフ…」
『だから〜なんでフフ〜?』

スヒョンはニヤニヤしながら窓の外を見つめた

「あ・・」
「ん?どうしたの?」
「うん…雪が…だんだん少なくなってきた」
「街に近づいてきたからねぇ」
「なんだか景色が薄汚くなってきたみたい・・」
「そう?」
「うん・・まるで・・僕の心みたいだ・・」
「スヒョンさん?」
「・・だって・・僕は・・」
「何言ってるんだよ、スヒョンさんの心は薄汚くなんかないじゃない」
「・・そう・・かな?」
「そりゃ、真っ白とは言い難いけどね。僕は少し汚れた部分がある方が親しみやすくて好きだな」
「・・少し・・じゃないよ・・」
「少しだよ」
「違うよ…だって僕はドンジュンのこと…騙したり意地悪したり弄んだり…」
「ンフ…フフ…」
「・・」
「だから僕はこんなになっちゃったのかなぁ〜」
「え?」

『何だこの会話…。コイツスヒョンなのか?逆じゃないのか?入れ替わった?ミソチョルちゃん!僕が眠ってた間に何があったんだよ!教えておくれよ!』

「スヒョンさん、僕にはこの残雪の街も美しい風景に見える。見る人が『美しい』と思えば、それは美しい物じゃないのかな?」
「ド・・ドンジュン・・」『かっこいい・・』

『何だ?こいつほんとに「義兄弟」のドンジュンか?キザな事言って…。メモしとこう…使える…』

「そうだね…。その通りだ」
「僕はそれをスヒョンさんから学んだんだけど…」
「えっ?僕から?」
「うん。かっこよくて…可愛くて…放っておけない…」
「そそそ…それはききき君だよっドンジュン…」

『・・BHCのホ○トは全員、放っておけないキャラのはずだが・・』

「ドンジュン…僕、君に出会えたことに感謝するよ」
「フフ…やだな。スヒョンさんが急にマジメになると調子狂っちゃう」
「そそれは君だってきき急にかっこよくなったりして僕はっはあはあはあ」
「大丈夫?」
「はあはあ、息するの忘れてた…」
「アハハハ…こいつぅ〜」

ドンジュン、スヒョンの額を人差し指でこづく
後ろで固まるミンチョル

『見たか!ミソチョル!今時あんな事をする人間がいたんだな!くそう。なぜ僕はビデオを持っていないのか!
こんな恥ずかしい行動と会話を、僕ひとりで一人占めだなんて、ああもったいない…。え?何?僕だってドラマでは、恥ずかしい行動と会話を繰り返していた?
…ミソチョルの意地悪!あれはドラマだ!』

「ドンジュン!夕焼けだ!」
「もうそんな時間か、急がないといけないね」
「うわぁ〜綺麗だ〜…」
「ほんとだね」
「…ドンジュン、僕は今日という日を一生忘れない・・。あの銀世界も、あの雪化粧した木々や山々も、それからこの夕日も・・。この世にこんなに美しいものがあったなんて・・」
「スヒョンさん…詩人だね」

『うう…酔いそうだ。なんてベタなセリフなんだろう…。ミヤザキハ○オのアニメでさえ、こんなセリフ言わせないぞ!』

「ほらスヒョンさん、見てごらん。高速のランプがずーっと続いてるよ」
「うわぁ〜…素敵だ…。夢のようだ…」
「もっと素敵な物を見せてあげる」
「えっ?」『す…素敵な物って…まさか…まさか…ドンジュンの%&$』
「ほら、あっちの方見て。街灯りがきれいでしょ?」
「うわあああっきれぇぇ」

『…スヒョンのやつ、頭の中身、どっかで捨ててきたんじゃないのか?今時のギャルだってこんな会話しないぞ!なあミソチョル!』

「すごい〜すごいね、ドンジュン」
「・・」
「ん?どうしたの?」
「…いや、あんまりスヒョンさんが可愛らしいんで…」
「・・」
「ちょっと…ドキっとしちゃったな…フフ…」
「・・%&$$%」

『我慢できない。これ以上何か言ったら僕は吹き出しそうだ…』

「ねぇ、スヒョンさん、そこのMD入れてみて」
「え?これ?」
「そう。これ聞きながら窓の外見ててごらん」
「・・ジャズだね・・」
「・・」
「・・」

『これがどうしたんだ!』

「・・合うだろ?街の灯りや車のテールランプや、道路の曲線と・・しっくりこない?」
「・・」
「・・アハ・・こないか・・」
「・・ドンジュン・・」
「ん?」
「僕・・凄くドキドキしてる・・」
「え?」
「まるで映画のワンシーンみたいだ・・。切り取られた世界にいるみたい・・」
「・・じゃあ・・」
「凄く・・合うね、ジャズと夕闇って・・」
「だろ?よかった・・僕の一人よがりだと思ってたけど・・」
「・・素敵だな・・こんなシチュエーションなら女の子はみんな・・」
「?」
「・・嫌だ!」
「何が?」
「いやだよ!ドンジュン!女の子を助手席に乗せてこんなことしちゃ!」
「・・何むくれてんの?」
「・・だって・・こんなことされたら・・絶対・・」
「何?」
「・・落ちるよ・・」

『いかん!吹き出しそうだった!いかんいかん!そうか!ジャズと夕闇だな!メモしておこう!これでヨンスさんとの仲がうまくいくかもしれないしな…』

「…スヒョンさん」
「何?」
「ガム取ってくれない?」
「ガム?…三種類あるけどどれがいいかな?」
「ミントの」
「…全部ミントだよ…えっと…ブラックミントと…ペパーミントとひっ」

『なんだっ!あっ…スヒョンの手にドンジュンの手が!』

「これがいいな・・」
「こここれって・・」
「だから〜こ〜れ!」
「ドンジュン・・」

『どれだ!スヒョンの手で隠れてて解んない!あっスヒョンの指の間に自分の指を滑り込ませてる!僕もこれをしたぞ!
あの…砂浜を全力疾走しようとしたけどヨンスさんがあまりに遅くて合わせるのに苦労したあの時だ!』

「…ド…ドンジュン…どれひっ」

『うっ!なんて技を使うんだコイツ!本当にあのドンジュンなのか?滑り込ませた指に一瞬力を入れて、そしてスッと抜くなんて…い…いやらしい…だが使える!メモだ!』

「もう一度言うよ。ガムちょうだい」
「・・ど・・どのガ」
「これだってば!」

ヘナヘナヘナヘナ〜

『あ…スヒョン完全にイったな…。あんな触りかたするなんて…
手を触るだけでスヒョンを骨抜きにするなんて…。なんて凄いヤツなんだ…。信じられん!本当にあの泣いていたドンジュンか?!』

「どうしたの?息が苦しそうだけど…」
「だだいじょぶだよ…はあはあ…」
「フフ…か〜わい〜い」
「・・」

『・・完全に立場が逆転している。なぜだ?どういう事だ?裏を読もう!んと…んと。店ではスヒョンがこんなだ。だが今はドンジュンがもっともっとこんなだ
それはおととい、出発した直後から始まったんだった…ということは・・あっ!そうか!』

「ガ〜ムあ〜ん」
「ははは…はい…」
「ん…。…違〜う。これじゃな〜い」
「えっ…じ、じゃあこれかな…あっ先に口の中のガム取らなきゃ」
「あ〜ん」
「ちょっと待って、取るよ、口に指入れるよあっ!」
「・・」
「あううっううう〜ん」
「へへ。そのガム、あげる」

『(@_@;)すげえ!…いかん。すげえなどという俗な言葉を心で発してしまった!だがすげえ!なんて奴だ!
口の中のガムをわざと取らせ、指を口に入れた瞬間・・きっと・・あんなことやこんなことを・・うううっおそるべしドンジュン!そのうえ、自分が少し噛んだガムをあげるだなんて!
まあ、まさかスヒョン、食べはしないだろう・・って食った!・・何やってんだバカスヒョン!』

「おいしい?」
「ふ…おいしい…恥ずかしい〜っ」
「アハハ…」

『アハハじゃねえよっ!狂ってるぞてめーらっ!…だいたいこいつら、僕がここに居るという事を忘れてやしないか?全く二人だけ…いや、これぞまさに「彼らだけの世界」じゃねぇかっ!』

「ドンジュン…」
「何?」
「かかか肩に…もたもたもたれても…いいいいかなっ」
「・・」
「…いいいいよねっ…」
「だめ」
「えっ?」
「運転の邪魔」
「あっ。ごごごめん…」
「ここならいいよ」
「えええっ」

『太腿かよっ!』

「…」
「寝ていいよ」
「…ははは恥ずかしいよ…」
「どうして?ここの方が見えないよ」
「…だってだってだってあの…隣にトラックとかバスとか並んだら…丸見えだし…」
「あ…そか…じゃダメだね」
「…でもでもでも…少しだけなら…やりたい」
「フフ…」
「…」
「いいよ」
「…」

『やんのかよっ!ばかスヒョン!恥ずかしいっ!ていうか僕を完全っに消してるな。こうなったらどこまで行くのか見届けてやる!ねっミソチョルちゃん!』

♪た〜りら〜りった〜りら〜りっ 

「うっはっはいっミンチョルです。今取り込み中なんであとからかけ直します。パン」
『危ない危ないうっ…』

「ミンチョルさん、いたの?」
「…はははい…」
「見てたの?!」
「見てた」
「ぎゃあああっ恥ずかしいっ」
「別に恥ずかしがる事ないよ、スヒョンさん」
「だってだって!」
「それよりミンチョルさん、電話かけ直したほうがいいんじゃないですか?」
「う…は…はい…」

『うかつだった…電源オフにしておくべきだった…誰だ…。…。…。ソンジェか…』
「もしもし」
「兄さん!いったいいつ帰ってくる気なの?」
「今日中には帰れる」
「夕飯はどうする気?!」
『いつも僕の分は作ってくれないくせに…』「んと…」
「僕たちもうすぐ食べるけど!取っておいて欲しいの?取り分けなきゃいけないから大変なんだ!」
「…じゃあ…いいよ…すまない。ヨンスさ、ヨンスの事をよろしく頼む」
『もし…今日中に帰ってこなかったら…』
「ヨンスさんのことに関して、今後一切遠慮しないってか?」
『ヨンスさんと別れてもらうよ!』
「なにっ?」
『じゃあ!』
「なんでヨンスさんと別れる話に…おいっおいっ…切れてる…くそ」

助手席から顔だけ覗かせてニヤニヤ笑うスヒョン…

「なんだよっ!」
「いや…大変だな…」
「うるさい!てめえはドンジュンといちゃついてりゃいいんだ!」
「おや…ミンチョルらしくない言葉づかいだね。こわいなぁ」
「…」
「スヒョンさん。夕飯どうする?」
「ミンチョルはどうする?」
「どうって…」
「スヒョンさん、僕はあなたに聞いてるんだよ」
「…ごめんなさい…」
「何が食べたい?」
「…何だっていいよ。僕今日は…胸が一杯だから…」
「そう?僕とおんなじだね」
「えっ?!…ドンジュンも?」
「フフ」

『フフはスヒョンの定番じゃないのか?…くそう、ソンジェの奴、なんて絶妙のタイミングで電話をしてくるんだ!おかげでいいものを見損なった…』

「ラーメンでも食べていく?」
「うん。いいよ。ミンチョルは?」
「…何でもいい」
「ミンチョルさん、なんでそんなに不機嫌なんですか?」
「…別に僕はいつもこんなだ」
「ふうん…気になるなぁ…そういえば、ミンチョルさん、感情を表に出さないって言ってましたよね?」
「…それが何か?」
「いや、ちょっと気になっただけ」
「ドンジュン!なんでこんな奴のことを気にするのさ!」
「何?スヒョンさん、何怒ってるのさ」
「…だって…」
「フフ」

『あっ!またコイツ、新たな技を…。前を見ながら右手でスヒョンの頬を撫でたぞ!メモ…メモしても…役に立つのかな…』

「じゃあここでラーメンでも食べようか」
「うん!」

『何やってんだよ、テメェはコギャルかよ!何ルンルンしてんだよ!バカスヒョン!くそう腹が立つ!それよりこんなとこで飯食ってて今日中に着くのかよ!・・はっ…ミソチョルちゃんごめんよ。お兄ちゃん、言葉づかいが悪かったね』


ドライブの果て

ラーメン食ってる間もなんだか、スヒョンはかいがいしく働いていた。奥さんか!
ああ、いかん。ついツッコミに回ってしまう…

そうそう。さっき読んでいた「裏」なんだが、途中になってしまったな
僕の目の前では、二人の恋愛?パフォーマンスが次々と繰り広げられている
  どう見てもドンジュンが主導権を握っている
いつもとまるで逆なんだ

何がドンジュンをそうさせているのか?

ひとつは「寒さ」だ
ドンジュンはシベリアの大地を疾走し続けたツワモノだ
それを忘れてはいけない

だが、ここにスヒョンの「寒さへの弱さ」も入れなくてはならない
氷・雪といった「冷たいモノ」に対して、あいつは免疫がない
だからそういった物を難なく扱うドンジュンに対して、スヒョンは尊敬の念を抱いた…と言えよう

待てよ。それなら僕だってそうじゃないか?
僕も都会育ちだから雪や氷なんて縁がないぞ。だったら僕もドンジュンに対して尊敬の念を抱いてもいいんじゃないだろうか…

もしも、もしもこれが「モンゴルの大地」で、そしてドンジュンと二人っきりで…そこでドンジュンの逞しさなどを見せ付けられたら…
ああ…僕もスヒョンのようにクラゲになってしまうかもしれない
だが、今回は三人だ。それに僕よりも前からドンジュンを気にかけていたスヒョンは、ドンジュンにメロメロだから僕は襲われなくて済む
それと、僕は普段から「冷徹だ」と言われている
「冷徹」の「れい」は「冷たい」という字だ
だからきっと僕は「冷たい物を難なく扱うドンジュン」に対して、スヒョンほどヤられはしないのだろう(ああ、なんて素晴らしい僕の分析…)

そして、もうひとつ。大事な事を忘れきっていた

車だ

ドンジュンは自分でも言っていたが「車に関しては誰にも負けない」奴なんだ
そんな奴が車に乗ったら…。やはり…こんな風になる…だろうか…?

ちょっとよくわからない

だがだがだが!ひとつ確かなことは…「ハンドルを握ると人が変わる」という話は本当だ!ということだ!
このドンジュンは、運転しだしてから急に…いやらしくなった…
スヒョン風に言えば「かっこいい」のだろうが、僕から見れば…この上なくいやらしい…

もしも。もしもモンゴルへ本当に行くのなら、絶対に車で行くのは辞めよう。危険だ

「ははは。いやだなドンジュンったら…」
「だって%$&#でしょ?」

二人の会話は二人の世界。僕はミソチョルちゃんと話すからいいんだ!

「ミンチョルさん、なんで黙ってるんですか?」
「…お邪魔したくないから…」
「ふうん…」
「なんだよ、ドンジュン。ミンチョルが気になるのかい?」
「あ…やだな、また拗ねてる」
「す…拗ねてなんか…」
「スヒョンさん…」
「え?」
「違う…こっちの…」
「…え?…」

何やってんだ?あ…なんか耳打ちしてる。ヤな感じ…

「え?何?」
「こういうの、覚えてない?」
「…何が?」
「あったでしょ?こーゆーの」
「…こーゆーのって?え?聞こえない」
「だから映画であったよね、こーゆー場面」
「映画でってきゃはっはあはあはあ…ご…ごめん…くすぐったくて…」

見た。僕は見た。この場面
この場面に出ていた女優さんはヨンスさんに顔がそっくりだった
僕はあの人が妻だったらと何度も思った…

あ…また耳元になんか囁いてるぞ、ドンジュン
どこまでもいやらしいぞ。フン。ハンドルのせい…というかハンドルのおかげだろっ!
…うっ…耳打ちしながら僕の方を…あんな目で…ううっ…身動きできない…なんていやらしい目線を…

「こっこっこんな場面もあった!僕は見た!」
「何今ごろ言ってるんだよ、ミンチョル。さっきドンジュンが言ったじゃないか」
「スヒョンさん、ミンチョルさんには聞こえてないはずだよ。小声で言ったんだから…」
「あん…そうか…ン…くすぐったいよ…ドンジュン…」

ううっ…またその目線を送るか〜…

「ん?んん?…あっ!ドンジュン!今ミンチョルの方見てたでしょ!」
「フフ…」
「見てたでしょっ!見せ付けたデショっ!」
「…」
「んもうっ!なんで答えないんだよっ!」
「スヒョンさんの得意技、真似しただけだよ」
「…」
「フフ」

という事は…僕は『長女』か?…という事は…最後に…!!!
違う違うちが〜う!あいつは『ハンドル』だけの男なんだ!惑わされるな!
スヒョンもだ!いい加減に気づけよ、ハンドルのせいだって!

「ね、スヒョンさん」
「何?」
「こんどは…」
「うん?」
「二人っきりで…ドライブしよぉね」
「あン…やめてよ…耳に…そんな…」
「聞こえた?」
「き…聞こえない…くすぐったくて…」
「んもう…しょうがないなぁ…今度はぁ…二人っきりでぇ…ド・ラ・イ・ブ…しよぉね」
「…ドンジュン…」

あーあ。とうとう嬉し泣きだな、スヒョンバカ…。ドンジュンの肩に顔埋めて嬉し泣きしてやがる…。恥ずかしい。ん?…

『3#$&/?』

…?…

『&』…も
『%』…ん
『$』…ご
『%』…る
『#』…い
『$』…つ
『▽』…い
『&』…く

…。…。こいつ…。スヒョンの頭を撫でながら、僕の方を振り向いてそんな事を…

前見ろよな!真剣に運転しろよな!って…渋滞じゃないか!だからこんな事できたのか…。くそう!なんて男だ!いやらしい!スヒョンが可哀相じゃないか!
ん?

『す・ひ・ょ・ん・さ・ん・の・と・く・い・わ・ざ』



わかったよ。ハンドル持てばお前はスヒョンに変身するってことかよ!ん?

『も・っ・と・す・ご・い・よ』

何が!何がどう凄いんだよ!今度モンゴル行ったとき教えてくれよ!

僕は声を出さずにドンジュンにそう伝えた
ドンジュンはクスクス笑っている…

「なに?何がおかしいの?ドンジュン」
「いや…なんでもない…」

『い・つ・に・す・る?』

…しつこいじゃないか!いやらしい

わかったよ。ドンジュンはハンドル握ると悪魔になるんだ!それもとびきり魅力的な…

絶対車で行かないからな!
っていうか、モンゴルなんか行くもんか!

車を降りたらドンジュンはどんな風になるんだろう
元通りだろうか?
スヒョンはどうなるんだろう…
ボタン外しショーなんか出来るんだろうか…

スヒョンが出来なければ、僕にオハチが回ってくるはず…

い…いやだ…。ショーの最中に「落ち」たら…。い…いやだ!絶対に…いやだぁぁっ

悪魔は、スヒョンの髪に口付けをしながら僕に流し目を送ってこう言った

「今日が終る5分前には家に着きますよ、フフ」

…。家には悪魔はいない
ただひたすら疲れる事ばかりが待っているだけだ
ならばいっそのこと、心も身体も悪魔にくれてやっても…(…決心がつかない…)

ハンドルを握ると、人が変わるという事を、肝に銘じておかなくては…


悪魔が来たりて…

『ドキドキドキ…ぼぼ僕の家まで送ってくれるれるのかなかなかな…』
「スヒョンさんの家ってどこでしたっけ?」
「うっあっううう…ん…結構近いよ」
「そう…」
「あっあっぁっ僕、降りようか。歩いて行けるから…降りるおり降りる」
「送りますよ」
「でもでもでもっ疲れてるだろっ」
「近いんでしょ?」
「あうっうん…」
「じゃ送る。んでスヒョンさんちで休憩する」
「ひえええっ」
「…ダメ?」
「あふや〜んほぇ」
「…何言ってるの?」
「へへ変なことししない?」
「変な事って?」
「…いやっ…そのっ…お茶かなんか飲んで帰るんだよねっ!」
「…そのつもりだけど?」
「わわわかった…じゃいいよ」
「いいよ?送ってあげるって言ってる人に対して『いいよ』って返事はないでしょ?」
「あっ…ごめん…お願いしますだ…」
「うん」
『あーん…なんて意地が悪いんだろっドンジュンったらっドキドキドキ…』

スヒョンの家に到着した二人
スヒョン、車からずり落ちるように降り、鍵を開けようとドアの前で四苦八苦

背後に立つドンジュン
スヒョンの耳元に囁く

「どうしたの?鍵、開けられないの?」
「ひいいい〜…真後ろに立たないでよっ…」
「なんで?」
「どどど…ドキドキして余計に…鍵開けられなくなるよ…」
「貸して。僕が開ける」
「…」
カチャ…
「開いたよスヒョンさん」
「あうっ…どどどうぞっ」

「へぇ〜素敵だな。おしゃれな家だね。僕、こんなおしゃれな家、初めてだ」
「お茶お茶お茶にする?コーヒー?」
「…スヒョンさんち、ドンペリある?」
「あ…あるけど…」
「僕、ドンペリってまだ飲んだ事ないんだ」
「え?店で飲ませてもらってないのか?」
「うん」
「そうだったの?…じゃあドンペリあけようか…って待てよ…酒飲んだらダメじゃん!君、車でしょ?」
「そう」
「そうって…」
「泊めて」
「げっ…とと泊まるって…」
「ソファで寝るから…運転やっぱり疲れちゃった…」
「…そそそりゃ…ずーっと君が運転してたから…つつ疲れたろうね…」
「ねえスヒョンさん、…シャワー浴びても…いい?」
「ふえっ?」『シャワー?!』
「寝る前に浴びたいな」
「ううういいいいよ。どーぞどーぞどーぞっ」『どどうしよう』
「それと、ぱん○貸してね」
「ひえええっぱぱぱ」
「白のボクサータイプしかないの?」
「…」
「黒とか持ってないの?」
「…ない…白しかない…」
「じゃあそれでいいから貸して」
「…あたあた新しいの…ない…」
「いいよ、履きふるしで」
『そそそんなっ!』
「じゃ、シャワー借りるね」

トコトコトコパタン…

『まずい。履きふるしなんか履かせられない!新しいぱん○、コンビニで買ってこよう!』

スヒョンは、ずっと以前、ソニョンが乗り捨てていった自転車に乗って、近くのコンビニまでぱん○を買いに走った
帰る途中、雨に降られたので、全身びしょぬれになったが、ぱん○だけは濡らさないよう死守した

『はあはあはあ…なんで…こんな目に…』

息をきらして家に帰り、中に入ると、腰にバスタオルを巻いたドンジュンが廊下に立っていた

「ひいいいっ!」
「どこいってたの?」
「ぱぱぱん○買いに〜…」
「…シャワー、入ってくるかと思って待ってたのに…」
「ひいいいい…」
「あはは…うそうそ。ごめんね、スヒョンさん、わざわざ新しいの買いに行ってくれたんだ…スヒョンさんの履いたヤツでよかったのに…」
「そそそんな、そんな失礼なことででできないよっ!」
「…履きたかったのにな…フフ」
「えっ…」
「それよりスヒョンさん、ずぶぬれだよ。風邪ひいちゃう。早く脱ぎなよ」
「あっうん…い…いやっ!大丈夫だ!僕よりドンジュンの方がそんなかっこで風邪ひくよっはいっぱん○!好みかどうかわかんないけどっ
それと…今なんか着るもの持ってくるね」
「いいよ、スヒョンさん、このままで」
「だめっ!」『そんなかっこでウロウロされちゃ…僕死んじゃう!』

スヒョンはクローゼットの中から、今まで絶対に着なかった、女性からのプレゼントのダサダサなパジャマを選んで持ってきた

『これならダサいから僕もときめかないぞ!よし』

「こっこれ着なよ」
「…スヒョンさん、こんなパジャマ着て寝てるの?」
「い…いや。僕はいつも…あーケホンコホン…」
「…は・だ・か?」
「違う違う!そうじゃない…んと…『ラ』だよ」
「『ラ』?…漢字で書くと『裸』でしょーが」
「あ…うん…」
「…えっちぃ〜。僕はぱん○イッチョだよ」
「あっふうううん…でも今日はそれ着なさいね。風邪ひくからね」
「着て欲しい?」
「うん!着て!お願い!」
「どして?」
『だって理性がっ…』「へくしょんっ」
「ほらぁ早く脱がないから。脱がせてあげよっか〜」
「いいっいいって!シャワー浴びてくるから、これ着て、湯冷めするぞ!じゃっ」

『あードキドキしたっ…こわいよぉドンジュンったら…こわいよぉ〜…どうしよう…大体、これまでは僕が主導権握ってたから、どこで止めればいいかわかったけど
…今回は…ドンジュンが…一体どういうつもりで泊まるなんて言い出したのかわかんないし…こわいよう〜どうしよう〜…』

「スヒョンさ〜ん」
「ひいっ!なにっ!」
「僕、湯冷めしちゃった〜。一緒に入ってもい〜い?」
「だめだめだめだめだ!絶対だめだ!入るな!入ったら僕は僕は…」
「僕は…何?」

ドンジュン、タオルをまいたまま、シャワーを浴びているスヒョンに近づく

「あひいい…くるなああっ」
「くははは。ひーひひーひひひ。スヒョンさんの顔ったら!おっかしいの〜」
「…」
「冗談だよぉ。早くあがってきてね。ドンペリ飲みたい」
「…」

ドンジュンが出ていったと同時にへたり込むスヒョン

「悪魔だ…完璧な悪魔だ…今までのドンジュンは一体どこへいったの?…はっ…そ…それより…今夜僕たちはいったい…いったい…ううっ」

足元に滴る血…
スヒョンは、鼻血を出してしまった…

「ああ…カッコ悪い…ううう…早く出て早くドンペリ飲ませて寝かせよう…。これ以上ドンジュンに接近したら僕は…僕は…しんぢゃう〜」

どうにかこうにかシャワーを終え、バスローブを羽織ってリビングに向かうと、バスタオルを腰に巻いたままドンジュンがテレビを見ていた

「ドンジュンまだそんな格好で!これ着なさいって!」
「…やだ…」
「なんでっ!風邪ひくぞ!」
「…」

ドンジュンは無言で立ちあがるとスヒョンの方に近づいた

『なななにっ』

ドンジュンはスヒョンのバスローブの襟元を掴むとぐいっと横に引っ張った

「なにっ脱げるっ!」

スヒョンが慌ててドンジュンの腕を掴むと、ドンジュンはニヤリと笑ってスヒョンの耳元に唇を寄せた
身動きできないスヒョン。身体が震えている

「ドドドンジュン…」
「…欲しい…」

たらり〜
ぽたぽたぽた…

スヒョンの鼻から鼻血が垂れた…

『欲しい欲しい欲しいしいしいしい…』

スヒョンの頭は真っ白になり、ドンジュンの呟いた言葉だけがグルグルと回っている
ドンジュンはたっぷりと色気を含んだ、優しくて、そしてこの上なく危険な瞳でスヒョンの顔を舐めるように見つめた
そして左手でスヒョンの鼻血を拭ってやった

だらだらだら〜

スヒョンは余計に鼻血を出した
ドンジュンは、自分が腰に巻いていたバスタオルをすうっと外してスヒョンの鼻にあててやった

「ドドドンジュン…タオタオタオル…取ったらハダハダハダ…」
「ぱん○は履いてるよ…フフ。大丈夫?」
「だいだいだい…」
「…欲しいんだ…」

くらくらくら〜

スヒョンはとうとう眩暈を起こしてその場にへたりこんだ
今日何度めだろう、へたりこむのは…

「大丈夫?」

ドンジュンは、上からスヒョンを見下ろしている
見下ろされていると解っているので、俯いたままスヒョンは落ち着こうと努力した

『と…とにかく…立ち上がろう…』

よろよろと立ち上がるスヒョン。足元がふらつく。さっとドンジュンが支える。すぐ目の前に顔が…ある…

『…どどど…どうなっても…いい!』

スヒョンは決心したように目を瞑ってドンジュンに身を任せた

「…いいの?…」

スヒョンは目を瞑ったままコクリと頷いた。心臓の鼓動が激しくなる
手も足も小刻みに震えている。鼻血は…止まってない…カッコ悪い…

大体いつもどうだったろう…。僕は仕掛ける方で相手は大抵こんな感じでオロオロブルブルしてたんだよな…。どどどうしたらいいんだ…。ひっ…

ドンジュンの手がスヒョンのバスローブのひもにかかる
スルリと外され胸元が露わになったのが解る

あああ、ドンジュンの視線を感じてしまう…

ドンジュンはスヒョンのバスローブをそっと脱がせた

…うう…ううう…動けない…僕は…僕は…とうとう…

身を固くして待っているスヒョン。しかし次の手はいっこうに伸びてこない

焦らしてるの?何?

スヒョンはそおっと薄目を開けてみた。ドンジュンの姿がない

「ドドド…ドンジュン?」

しまった。ぱん○姿にガッカリしたのか?履かないでおけばよかったか?

スヒョンは少し焦りながらドンジュンの姿を捜した
テレビの前にいる
バスローブを羽織って…

「ドンジュン…」
「ん?」
「つ…続きは?」
「続き?…ああ…そうだね。早くやろう」
『や…やろう?早く?そんな直接的な…』

ドンジュンは立ち上がるとスヒョンの方に近づき肩に手をかけ、また耳元に唇を寄せた

「ドンペリ、飲もうね」

へなへなへな〜

耳元でドンジュンの声を聞くと蕩けてしまう…
 
スヒョンはドンペリを取りに行き、グラスを用意してリビングに戻ってきた

「スヒョンさん、風邪ひくよ。これ着て」

ドンジュンは、スヒョンがドンジュンのために用意したパジャマを差し出した

「え?」『早くやるんじゃ…』
「風邪ひくってば。着てごらんよ」
「こここんなの…いやだよ…」
「着て見せてほしいな〜。可愛らしそうだもん」
「…」

ドンジュンの微笑みに操られるかのように、スヒョンはダサダサのパジャマに袖を通した

『こんなの着てても「欲しい」って言ってくれるのかな…』

「カワイイ!こっち、座って。飲もうよ、ね」
「あ…うん…」
「僕、ドンペリ飲んだ事ないから…嬉しいな。スヒョンさんと一緒に飲めるなんて」
「あ…開けるよ…」

スヒョンはドキドキしながらドンペリをあけ、グラスに注いだ

「乾杯…」
「何に?」
「え?」
「…スヒョンさんと僕の幸せに…乾杯…」
「かかかか乾杯っ!」『ドキドキドキドキドキ』
「おいし〜」
「そそそそう。よかったねっ。もっと飲む?」
「フフ…飲ませて…酔わせて…どうする気?」
「そそそそれはドドンジュンでしょっ!」
「え?何が?」
「よよよ酔わせて何する気?」
「え〜スヒョンさん、酔うの?」
『もう…酔ってる…』
「おいし〜もう一杯」
「…そんな一気飲みしないでよ…高いんだぞ…」
「え?なーに?」
「…ゆっくり飲めよ」
「だ〜って、ゆっくりしてたら。寝る時間なくなっちゃうよ」
『寝る時間?!…あ…そ…そうか…いや…そんな…あ…あ…』
「どしたの?はい、スヒョンさんも飲んで飲んで〜」
「うううん…」

二人はどんどん盃を重ねていき、ドンペリが2本空いてしまった
スヒョンはフラフラしながらも、『その時』に備えて気持ちをしっかり持とうとしていた
ドンジュンは、トロンとした目でスヒョンを見つめている

「何?」
「うんにゃあ〜…スヒョンさんって…つぉーいなって…」
『…ろれつが回ってない…酔っ払ったのかな?』
「んふー。ねえねえねえ」
「なななんだよ」
「あははあはあは、スヒョンさんのパジャマ姿って…似合わねぇ〜ひゃっひゃっひゃっ…」
『…酔っ払ってる…』
「いひいひ…ふー」
「あの…ドンジュン…もう…寝ようか…」
「いやだっ!もっと飲む!」
「…ドンジュン…あの…」
「…欲しいんだ…」
『どきっ…そんなウルウルの目で…僕を見つめて…そして…グラスを…って』「まだ飲むつもり?!」
「欲しい〜欲しい〜おかわりが欲しい〜」
「…酒癖…悪いのか?」
「う〜んスヒョンさんの意地悪う〜泣いちゃうぞ!」
「…」
「ちょーだいっちょぉぉだぁいっ」
「…」

スヒョンは、執拗に酒を求めるドンジュンにもう一杯ついでやりながら、何かズレていると感じ始めていた

『欲しいって言ったよね…。何を?何を欲しいと言ったんだっけ…』
「スヒョ〜ォンさんっ、こぼしてるぅっ」
「ああっごめん…濡れた?」
「ぬれたぁぐちょぐちょだぁああ」
『表現がヒワイだ…』
「ふへへへっ…いたらきまぁっすぅ〜んまぁい」
「ドンジュン…もうこれで最後だよ」
「え〜やだっ。スヒョンさんのけちっ」
「…ドンジュン…相当酔っ払ってるし…もう寝た方がいいよ」
「んなこと言って、僕を襲う気でしょぉっ」
「…」『襲われる予定だったんだけど…無理みたい…』
「ばかぁっ!スヒョンさんのばかぁぁっうええんうええん」
『げっ…泣き出した…』
「ぐすっぐすっ。なんで何にも言わないのさっ!」
「あ…いや…その…」
「ぶぉくのこときらいなんだなっ」
「嫌い?違うよっすっ」
「す?」
「…」 
「うええんうええんきらいなんだぁぁっ」
「…ドンジュン…とにかくちょっと落ち着いて…あっちで寝なさい。僕はソファで寝るから…」
「いやだっ!ばかっ!」
『なんだか僕、昨日からミンチョルにもバカバカ言われてる気がする…』
「えへへ…スヒョンさんったら…かわい〜」
「なななんだよ急に…」
「そんなパジャマ着て…かわい〜」
「君が僕のバスローブ取ったからでしょ!」
「だぁって…欲しかったんだもん…」
「欲しかったって…はっ!」

欲しいというのは…もしかして僕じゃなくて…

「ドンジュン、君、風呂上りに僕の耳元で『欲しい』って言ったの…もしかすると…そのバスローブのこと?」
「そだよ。かっこいいもおん」
『…僕は…馬鹿だ…』
「どしたのぉ?顔が暗いよぉ」
「…そんじゃ…『続きを早くやろう』って言ったのは?」
「つづき?何それ…しらない。そんなこといわないよぉ。ぼくはただどんぺりがのみたくてさぁっ…」
『…ど…ドンペリ…そう言えば「ドンペリ飲もうね」って囁いたんだコイツ…』
「うふっ…おいしいねっドンペリ〜えへへえへえ…ウプ」
「げげっ…ここでゲロするな!トイレトイレ」
「うぷ」
「うわあああっ立てドンジュン立つんだ!」

スヒョンはドンジュンを引っ張ってトイレに閉じ込めた

『僕…何やってんだろ…。コイツ…酒癖悪すぎる…。いや…大体なんであんなに色っぽかったんだろう…
とにかく、僕はどうやら清いままでいられるみたいだ…ちっ…』

30分後、真っ青な顔をしたドンジュンがトイレから出てきた
スヒョンは何も言わずにドンジュンを自分のベッドに連れて行き、寝かせてやった

「スヒョンさん、ごめんね」
「いいよ。飲ませすぎた僕も悪かった。疲れてるのに。ゆっくりお休み。また明日」
「…ありがと…あの…」
「ん?」
「期待に応えられなくて…ごめん」
「期待?…え…」

ってことは…えっえっえ?その気があったってこと?何?どーゆーことっ?

ドンジュンはスースー眠ってしまった
悶々とした心をどう処理すればいいのか判らないまま、スヒョンはソファに寝転がって眠る努力をしてみた

「ぐぞー!なんなんだっ!あいつはいったいなんなんだーっ!」

…絶対悪魔だ…

スヒョンは、涙目で天井を見つめながら、そう思った


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