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夜が明けて…

ガンガンする。頭がガンガンする

うえーんうえええん

なんだ…何かが泣いてるようだ…
比較的近くから聞こえる

すひょんさんしんじゃいやだあうえええんうえええん

ん?ドンジュンの声か?

何だか股間のあたりが湿っているような…重い様な…ううんってぇっ頭いてっ…ぐわああっ!

「ててっ!くうううっいてえ…ド…ドンジュン…僕の股間で何を…」
「ス…スヒョンさんっうわあああんうわああん」
「な…泣いてたの?ううっ痛い…頭がガンガンする…」
「生きてたあスヒョンさん生きてたあ」
「生きてるよ…ちょっと…も少し声を小さく…イテテテ…」
「死んじゃったかと思ったよううええんうええん」
「テッ…だからドンジュン…泣くのはいいけど小さな声で…それと…何で僕の股間で泣く?」
「えっ?股間?…きゃあっ!」
「…涙で湿ったじゃないか!」
「ごごごめんなさい。ここが股間だなんて…気づかなくて…」
「何で…死んじゃったって?」
「僕朝起きたらスヒョンさん血だらけのタオル被って寝転がってたから…顔色も悪いし…」
「血だらけ?…ああ…昨日の鼻血の…」
「は…鼻血?どうしたの?まさか…まさか大変な病気じゃ」
「…大変な病気!君のせいで…アイテテテ…」
「えっ?僕のせいで?」
「…ふぅっ…ウソウソ。ちょっとのぼせすぎちゃって…え?ドンジュン、昨日の事覚えてないの?君が僕に何をしたか…」
「えと…飲みすぎちゃって…うろ〜んとは覚えてますけど…」
「…ふうっ…。ねえドンジュン、君、雪山に向かう時からすんごくかっこよかったんだよ。知ってる?」
「えっ?僕が?」
「…何か…元に戻ったみたいだねぇ…泣き虫になってるし…」
「…ぐすっ…」
「何でかっこよかったのかなぁ…」
「あっ!」
「何?」
「…僕…ハンドル握ると…気分が高揚して…その…気弱なところがぶっとんじゃって…」
「…」
「自分が自分でなくなるような…ううん…それともハンドルを握っている自分が本当の自分なのかもしれない…そういう事がちょくちょくあって…」
「…その間の記憶って…ある?」
「あります…あっ…あああっ」
「…じゃ、覚えてるんだ…」
「あはっ…はいっ覚えてますえへへ。そうそう。僕、あんなことしながら『僕だってできるんだなぁ』って思ってましたえへへ」

えへへじゃねぇよ!危険な野郎だ…

「ハンドルか…でもハンドルから離れた後も何だかかっこよかったし色っぽかったんだけどね」
「えと…ハンドルの感覚は、きっちり24時間抜けないんですよ〜えへへ
その間に女の子に声をかけたりキスしたりしたことは…あります…」
「…」
「あは…あは…」
「あはあはじゃないよ!どっちがホントのドンジュンなのさ!」
「どっちって…どっちもホントの僕…だも…ん…ぐす」
「あー。また泣く!ピーピーピーピー」
「うえっ…うええんうええん」
「あーわかった。泣くな!」
「うええん。スヒョンさん、僕のことキライですかぁっ」
「…いや…」
「じゃあっ好きですかっぐす」
「…あう…ん…その…」
「うええんうええん嫌いなんだあ」
「キライじゃないよ!すっ…好きだよ…だから泣くな。静かにしてくれ…」
「ほっほんと?」
「…この会話、何度か交わしたように思う…忘れた?」
「…うろ覚えです」
「覚えてろよ!」
「うわぁぁん怒らないでくださぁぁぃ」
「叫ぶな!痛い…と…とにかく、ミンチョルはお前の行動を見てるんだ。どう説明すればいいのか考えないと…。今日から仕事だしな…」
「ミンチョルさん…ああ…そういえば僕…」
「…ミンチョルにも何かしたのか?」
「…モンゴルにいついくかって…」
「モンゴル?!…なんだって?ほんとに行く気か?」
「あの…僕はどっちでもいいんですけど、ミンチョルさんがその気になってて…いや…多分なってると…」
「…車では行くなよ!…」
「…」
「…いいか、ミンチョルだけしかお前のその『ハンドルによる変身』を知らないんだ
だから…今日出勤したらまず二人でミンチョルを捕まえて、そして…口裏を合わせるように頼み込もう」
「…え?何で?」
「…お前のその…エロさが炸裂したら…収拾がつかなくなる!」
「…エロさって…」
「もうボタン外しショーもできなくなるぞ。いいのか?」
「いやですっ…あ…いや…いやじゃないけど…その…あれしか売り物がない僕ですからその…」
「…だろう…」『だけど僕が前みたいにドンジュンをリードできるかどうか…心配だが…』
「とにかく…もう少し寝かせておくれ。夕方一緒に出勤しよう。それまで君も眠りなさい」
「…はい…じゃあ…」
「!ドンジュン!君はベッドにいきいき行きなさいっ!ソファは僕がっ僕がっ」
「…何だ。一緒に寝るんじゃなかったんですか…ちぇっ」
「…ちぇって…」
「フフ」
「だからっ!フフって!」

ドンジュンはスヒョンのベッドに潜り込み布団からそっと顔を覗かせてこう言った

「そこ、狭かったらこちらにどーぞ…キャハ」

『…何がキャハだよ…。まだ抜けきってないな…ハンドル作用…。あーあ。たまんない…けど…カワイイ…キャハっ』

スヒョンは血だらけのバスタオルを頭から被ってもう一度眠りについた


ドンジュン・レポート

ドンジュンは、すぐ泣く。イジメ甲斐がある
ちょっと色っぽい罠に嵌めると涙目で抵抗しながらも従う。それがたまらなくゾクゾクする
そして、あまりにそのいたいけな姿に没頭して、もっともっと苛めてやろうとすると、自分が危なくなるので
適度なところで理性を持って止めるということが大切だ

しかし、一度車の運転などをさせてしまうと、ドンジュンは危険極まりない男に変身する
どういう脳の構造だかはわからないが、自信過剰気味になり、そしてフェロモンが身体中から溢れ出し思い出すだけで腰が抜け
どんな人間をも蕩けさせる数々の技を繰り出す

また、寒さには滅法強く、寒い所にいくと、責任感が増すようだ
寒さに弱い人間は、一緒に雪山、スケートリンク等には行ってはいけない。断じていけない

もっとも、蕩けさせてほしいと願うなら、あえて止めはしない

すぐにピーピー泣く、かわいらしいドンジュンをお望みなら、彼をぬくぬくとした場所に連れて行き、そしてそこで、辛辣な意地悪を展開すればよい
すぐに涙目になり、それでも上目遣いなどの稚拙な技を繰り出し、可愛らしさはこの上ないと思われる

ハンドルを握らせるならば、まずはピーピードンジュンを存分に味わった後の方がよい
苛めれば苛めるほど、何故か彼は心を開き、その人物になつくようだ
十分になつかせておいてから、ハンドルを握らせたなら、その人物はドンジュンという男にドロドロに溶かされる。間違いない
苛められた分、いや、その倍以上の勢いで、その人物を翻弄し、悲しませ、楽しませてくれる

その時、きっとその人物は、『生きている』実感を味わう事ができよう

「よし。完璧だ!これをミンチョルに読ませて…うまくごまかそう…」
「何してんの〜?」
「ドンジュン、なんか馴れ馴れしくなってない?」
「え〜だって〜一夜をともに過ごしたもん」
「…」
「そうなったらもう…」
「…。何もしてないのにか!」
「え?…一夜を過すって…一緒に寝るって事でしょ?」
「…文字にすればそうかもしれないけど、別々に寝たし」
「でも一緒にいたじゃん。二人っきりで…」
「…」
「あれ?怒ってる?どうして?」
「怒ってない。呆れてるだけだ」『何だこのギャップは…昨日のあのカッコイイドンジュンはどこへ行ったんだ!』
「怒ってるよう〜ぐすっぐすっ」
「また泣く!」
「ぐすっうえっうえっごめんなさぁあああいっ」
「ぐえっ!く…苦しいっ首にぶら下がるな!」
「うええん…ス…ス…スヒョンさんだって…何だかぶっきらぼうだ…。やっぱり一夜をともにしたからでしょ?」
「ドンジュン。僕の前では、そういう事を言ってもいいが、他の人の前では言うな!絶対言うんじゃない!」
「なんで?…あ!わかった!ジュンホ君に聞かれたらマズイって思ってるんだ!そうでしょ!」
「…違うよ。お前がその…」
「なぁに?」
『うっ…可愛らしい…』
「何?」
「あの…馬鹿だと思われるから…」
「…」
『あ…また涙ぐむ…』
「ううっうううっ」
『何か変だな…昨日のドンジュンとは全く違うし、かといっていつものドンジュンとも違うぞ。いつものドンジュンはもう少し賢い…
なんだこの甘えたドンジュンは…また別の人格か?テソンか、こいつは…』
「そんな事言って、絶対他の人に聞かれたらマズイって思ってるに決まってる!」
「違うよ…大体一夜をともにするってのは…これこれこういうことがあった場合を言うのであってだね…」
「…」
「ね?何もなかったでしょ?」『残念だけど…』
「…」
「ドンジュン?」
「…それでこのレポートは?」
「これをミンチョルに提出すれば、君も僕も誤解されなくて済むってこと」
「…何これ…ピーピー泣くドンジュンを味わう?…苛めれば苛めるほどなつく?!」
「…だって…そうじゃん…」
「…」
「お…怒ったか?…ミンチョルに見せるだけだから…さ」
「んなこと言って、自分がドロドロだったの人に知られたくないんだ!」
『お…思い出したのか?はずかしいっ』
「えへへ…顔ふさいだってだ〜め。僕の記憶にばっちり刻まれてるよ、あの時のスヒョンさんの…か・お」
『…あああああ…』
「…あは・あははは「思い出しただけで腰が抜け」…あははは」
「くそっ!」
「…今度はさぁ…」
「!」
「二人で…砂漠いこうか…」
「!!!」
「もぉっと…溶かしてあ・げ・る」

ドロドロドロドロ〜

僕は溶けた
どういうことだ。まだ24時間経ってないのか…。ああ、まだだ。…でも…ほとんど『ハンドル作用』は消えているはず…なのに…
まさか…コイツ…本当は…どえらいスケベ野郎?!(僕よりも?!)

「スヒョンさぁん、そろそろ店にいこぉよぉ」

くそ甘い声を出しやがる!…はっ…いけない。つい下品な言葉を…

…砂漠?…砂漠って何?…ミンチョルとはモンゴルへ行って、僕とは砂漠?…
「早くいこぉよぉ」
「わわわわ…わかったから、首に巻き付くな!」
「…だって…店じゃ…できないからさ…」
「なにっ!」
「…店では…僕、清純派でいくからねっ」
「ななな…なにいっ!」
「今までどおり、スヒョンさん、僕をリードしてよねっうまくやるから…いこっ」

ううう…。うううう。どういう事だ?何がドンジュンをこんな風にさせた?
僕か?僕の意地悪のせいか?…ああ…あああ…
何だっけ。諺にあるよなぁ…

因果応報…
自業自得…

ううう…。お父さん…助けてっお願いっ…


〜悪魔と出勤〜

BHC

ドンジュン、スヒョンの腕に巻き付いて出勤。それを振りほどこうと必死のスヒョン

「ドンジュン、もう路地に来たから離れなさい!ね?」
「まぁだ。まだドア開けてないもん」
「…頼むから…ね」
「…うーん。じゃああ、またドンペリ飲ませてくれる?」
「…」
「嫌ならこのまま店に入るぅ」
「分った!ドンペリな」
「それとぉ…」
「何だよ!まだ何かあんのか!」
「今度こそ…%&’%$(」
「!」

こんどこそいちやをともにするをじっこうしようねっ

「あっスヒョンさん、しっかりしてよ!スヒョンさん!」

スヒョンが目を回してへたり込んでいる時、BHCのドアが開いてイヌが出てきた

「あ、イヌ先生おはようございます。お休み頂いちゃってすみませんでした」
「ドンジュン…」
「はい」
「…みんながきっと君に『スケコマシ』という言葉を浴びせ掛けるだろう」
「は…」
「でもそれは違う」
「は…はい…」
「正確にいうなら『スヒョコマシ』だと僕は思う」
「…」
「さあ、入り給え」
「は…はい…」
「スヒョンさんも立ち上がって…大丈夫ですか?なんだかすっかりやつれて…」
「あ…ありがとう…イヌ先生…」

イヌに助けられてスヒョンは立ち上がり、ドンジュンの後をついてBHCに入っていった

「ドンジュン、ミンチョル捜せ!」
「あ〜そうだった…。チーフ、チーフ〜」
「…ドンジュン…スヒョン…」
「ミンチョル、昨日はどうも…」
「…大丈夫だったか?何で二人揃って出勤するんだ?あの後…まさかお前…」
「あうっ…いや。その、はっきり言うと…何もなかった。しかし…ドンジュンは…泊っていった」
「何っ!」
「だから…何もなかった!お前は色々とその、見てるから言っておくが、僕は無事だった。ただ、大量の鼻血を出したけど」
「…じゃあ…危険な目にあったということは確かなのだな?」
「き…危険って程じゃないけど…とにかく無事だ…それでこの…レポートをまとめた。今後ドンジュンを売り出すための参考になればと思って…」
「…。これは…」『感想文じゃないのか?ドンジュン体験感想文じゃ…』
「…完璧だろ?お前も知ってのとおり、アレにハンドルを握らせるのは危険きわまりない!」
「…そうだな。だがハンドルを握ったドンジュンとピーピー泣くドンジュンと、どちらがホンモノなのか見極めたい」
「み…見極めるって…」
「で…来てくれ…」
「なななんだっ腕を引っ張るな!」
「…これだ」
「これは?」
「運転シュミレーション装置だ」
「…こっこれをどうする?」
「決まってるだろう、店に置いて置いてご希望されたお客様を助手席側に乗せ、ドンジュンに運転席で操縦させるんだ」
「やめろ!そんな危険な事!お客様に何かあったらどうする気だ!」
「大丈夫。みんなが止めればな」

うええんうええん

スケコマシ〜スケコマシ〜

ちがうっちがうもんっうええん

違うよみんな、正確にはスヒョコマシだ

「…ミンチョル…ドンジュンがみんなに苛められているようだが…」
「そうだな」
「…まさか…お前…昨日のドンジュンの様子を…みんなに喋ったか?」
「いや。喋りはしない」
「…『スヒョコマシ』とは何だ?」
「イヌ先生が作った言葉だ。スヒョンをコマすという意味だろう」
「…なぜ…イヌ先生がそんな言葉を…そしてどうしてドンジュンがあんな風にはやし立てられて苛められているんだ…」

ハンドル握ってみろ〜これに乗ってみろ〜

うええんくそう!おぼえてろっ

「あっ…こっちに走ってきたっ!や…やめろドンジュン!乗るな!握るな!運転するんじゃないあああっ」
「…始まったな。みんな。見てろ」
「バカ!ミンチョル!辞めさせろ!みんな溶けるぞ!溶けてもしらんぞ」

ハンドルを握り、エンジンをふかすドンジュン
オロオロするスヒョンを尻目に、明らかにさっきまでとは違う目つきで、はやし立てていたBHCのホ○ト達に視線を投げかける

「…ミンチョル…知らんぞ…営業できなくなっても…」
「…」

「ウシクさん」
「はっはいっ!」
「…」
「えっ?」

無言で助手席を叩くドンジュン。ウシクは周りをキョロキョロ見ながら少しずつドンジュンの指す助手席に近づく
みんなは生唾を呑み込んで成り行きを見守っている

助手席についたウシクは、どぎまぎして前を見ている。と、ドンジュンがいきなりウシクに覆い被さった

「うわっ待てっドンジュン!無抵抗なウシクに最初っからやりすぎだ!」
「…」

鋭い上目でスヒョンを睨み付けるドンジュンは、口元に悪魔的な微笑みを浮かべた
覆い被さられたウシクは、息を止め、カチンコチンに固まった

「はい、シートベルト締めなきゃ」

ポンポンとウシクの肩を叩いて、ドンジュンはアクセルを踏んだ

「し…シートベルト締めてあげたのか…」
「怖かった…いきなり$#&&が始まるのかと思ったぜ…」
「そんなチョンマンじゃあるまいし」
「うきーっ僕だってこんな大勢の人の前ではそんな事しないっきー」

「外野がうるさいね…」
「…」

ウシクに流し目を送りながらそっと囁きかけるドンジュン
ウシクは身動きできないでいる

「どうしたの?怖い?」
「…こっ…こっ…怖いっ」
「…何が?スピード?それとも…僕?」
「ぐっ…」

低い声で囁かれて、ウシクは何も言えない

「ミンチョル…頼む…ミンチョル…ウシクが気の毒だ…やめさせてくれ」
「無理だ」
「無理って…」
「みんな生で見たいんだ」
「…ちょっと待ってくれ、ミンチョル…そう言えば何でみんな、このハンドルドンジュンの事を知っている風なんだ?」
「解るだろう」
「?」
「お前が得意な意地悪だ」
「得意な意地悪?…」
「上映会をした」
「…上映か…い…って。まさかお前!カメラ仕込んでたのか?!」
「いや。僕が今朝ここに来たら、みんなが既に雪山へのドライブVTRを鑑賞中だった…」
「…ど…どういう事だ?」
「僕たちは監視されているということだ。プライベートなんか無いに等しい」
「そ…そんな、人権無視してないか?」
「ここではそれが通用する。そのおかげで僕たちは破格の給料を貰っている。どうせ僕たちは理事の分身
見せてナンボの身の上だ。解っているだろう!」
「う…」
「だからその上映会でみんな、ほぼ全てを知っている」
「…どこに仕込んであった!カメラ!」
「わからない…かなり精巧なものらしい。多分、軍事用じゃないのか?」
「…」
「だが僕が車から降りた後の事はよくわかってない。だから君がさっき言った『何もなかった』という事は証明されないし信用もできない」
「何…何言ってんだよ!何もないよ!」
「…音声が…途切れ途切れに残っているだけだからな、君の身の潔白を証明できるような代物ではない
むしろ、逆に何かあったんじゃないかと皆に勘ぐられるだけのものが…ここにある。聞くか?」
「…」
「これはまだmayoさんとテソンと僕しか聞いてない。イナにも聞かせてない。あいつはイイヤツだが時々コロッと秘密を漏らすことがあるからな…」
「…」

『欲しい…欲しいんだ…』
ジャーっ
『一緒に寝る…』ガーピー
『早くつづきをやろう』ピーピー
『スヒョンさんのぱん○履きたかったのに…』グジャッ
『一夜をともにしたじゃんか…』

「ミンチョル!こんなの!ひどいよ!」
「ひどいな…いやらしい…」
「違う、そういう意味じゃなくて。なんでこんな変なとこばかり鮮明に音が録れてるんだ!違うぞ!これじゃどう考えたってそのっあのっ」
「やったとしか思えない」
「…。頼む!これは処分してくれ!お願いだ!」
「やってないならそんなに焦らなくてもいいだろう」
「だけどっ」
「ほら、見ろ、ウシクが溶けはじめたぞ…あのウシクが…」
「…ミ…ミンチョル…お前…もしかして…楽しんでる?」
「見極めようとしているだけだ!」

「ねえ、ウシクさん、ガム取って」
『うっ…これは…あの…口の中で指がどうにかなっちゃう例のあの技…』
「ねぇってば…取って」

全員固唾を飲んで、ウシクの行動を見守っている

「ガガガムっないっ」
「…。僕が何かするとでも?」
『読まれてる?』
「例えば…こんなことを?」

そう言うとドンジュンはウシクの左手を取って自分の口元に寄せた

「あうううっやめてくれっ」

ドンジュンは色っぽい流し目をウシクに向けながら口を半開きにした

『うううっ舐められるう…』

固く握られたウシクの左手を、ドンジュンの右手が優しく撫で、そして指を開かせた

「ウシクさんは…」
「…」
「親切だから…苛めたりしないよ…」
「!」
「でも、苛めてほしいなら…」
「いいいやっいいっもう十分だっ!」

焦っているウシクを見つめるドンジュン

「も…もう…その視線だけで…ドキドキするよ…ドンジュン…」
「フフ…ウシクさんは正直だね」

そう言うとドンジュンはブレーキを踏んだ
そして最初と同じようにウシクに覆い被さってシートベルトを外してやった
ウシクがガクガク震えながら、助手席から降りようとしたその時、ドンジュンは素早くウシクの首に右腕を巻き付けて引き寄せた

「はううっ!」
「血がでちゃった…ココ…」

ドンジュンは少し切ったらしい人差し指をウシクの口に持っていき、固まっているウシクの口にそおっとねじ込んだ

「うぐ」

「げええええっ!指を…」
「い…いやらしすぎる!」
「シチュン、前にスヒョンさんがドンジュンにあんな事したって言ってたよね」
「した!俺は見た!でも…それ以上にいやらしい!」
「…すげえな…ウシクさん泣いてるぞ…」

「ちゃんとツバつけてくんないと、消毒になんないじゃん、しょうがないな」

ドンジュンは、ウシクの口から自分の人差し指を抜き出して、そのまま自分の口に入れた

ウシクの目から涙が噴き出した

泣いているのはウシクだけではない。スヒョンもまた涙している

『あんなこと…あんなこと…』

羨ましいのか気の毒なのか、自分の気持ちがよくわからないスヒョンは、ウシクとドンジュンを交互に見ていた
すると指を咥えたドンジュンがスヒョンを見つめている

「見せ付けるってやつだな。僕も車の中でやられたぞ。お前が泣いてた間にな」
「…」

ウシクは顔を覆って立ち上がり、フラフラとよろめきながらミンチョルとスヒョンの方に歩いてきた

「お義父さん…お義父さん…」

呟くウシクの声を聞き、スヒョンはもらい泣きしてしまった

「ウシク…ウシク…辛かったろ?」
「ス…スヒョンさん…ドンジュンはどうしてあんなに…」
「あの子は…ハンドル病なんだ…」
「うっうううっ僕…僕…」
「ウシ…ウシク〜」
「スヒョンさぁぁん」

抱き合って泣いている二人のところに近づくドンジュン

「スヒョンさん、乗って!」
「あっ…ドンジュン…やめてくれっ」
「他の人が犠牲になるよりいいだろ?」
「良くない!良くないって!ドンジュン」

「見ろ!いよいよスヒョコマシだ。生スヒョコマシだぞっ!」
「すひょこましってなんですか?どうしてうしくさんなきましたか?」
「無理矢理口に指を突っ込まれたからだよ」
「どんじゅんさんのゆびは、からかったですか?」
「いや、そうじゃなくて…恥ずかしかったんだ」
「なんでですか?ゆびのきずのしょうどくでしょう?」
「…ん…まあ…」

「うきっ僕乗りたい!」
「チョンマン!やめとけ!今のウシクを見たろう」
「うきっ。でも…ちょっと…楽しそうっきっ」
『そうか…色気とは無縁なチョンマンなら、きっとドンジュンの調子を狂わせられるぞ!』
「…チョンマンが乗るの?」
「ウッキー」
「フフ…いいよ」
「ラッキー」

チョンマンは助手席に座ると、自分でシートベルトを締めた

「フフ…チョンマン。知ってるよ」
「何っキ?」
「猿のふりしてもだ〜め」
「ん?」
「メグ・ライアンのポスター、印刷が剥げるほどキスかますなんて…そうとうな#%$&だよね。ホントは君、とってもセクシーなんだよね〜」
「…そ…そう?」
「ほら、ちょっと眉間に皺寄せてよ。そう、その表情…すげ〜せくしー…。僕…そんな顔で迫られたら…絶対落ちちゃう…」
「…うぇっ?」

「おい、作戦変えたみたいだぞ!」
「ブリッコ作戦か?」
「わからん。チョンマンの調子を狂わせてるみたいだ」

「ね、一緒に運転しようよ」
「え?どどどうやって?」
「君もハンドル握るの。そ、右手で。んで君がアクセル踏んで、僕はブレーキ踏むから」
「そ…そんな…僕、足そこまで伸びないよ」
「伸びるよ…」
「あっ届いた。ドンジュン。届いたよっ」
「ねっ。じゃあ、アクセル全開〜」
「ひゃっほぉ〜」

「…スヒョン…」
「なんだよ。やめさせてくれよっ…」
「いや…見てみろ…チョンマン相手のときは、チョンマンが喜ぶようなアプローチの仕方をしている」
「じゃあウシクはどうなるんだ!あんな…あんな恥ずかしい思いをさせて!」
「…そう言えばそうだな…」

「あっだめだよ、チョンマン、そんなに足を動かしちゃ…」
「えっ?」
「やだな…僕を誘ってる?」
「うえっ…何…言ってんの?」
「あ…そのしかめっ面…たまんない…」
「ちょちょっと…ドンジュン…そんな顔を寄せるなよっ!」
「この唇…食べたくなるな」
「ドンジュン?なな何?」
「鼻も目も髪型も…かわいい…」
「あっ…あっあっ」

「見ろ!ミンチョル、いつのまにかチョンマンがドンジュンに抱きかかえられた格好になっている!どうする気だ!」
「…なんというスーパーテクニックだ…素晴らしすぎる…」
「どこがどう素晴らしいんだ!チョンマンがしどろもどろだぞ!あの勢いでは、キスしてしまう!」
「いいじゃないかキスぐらい!」
「だめだだめだっ!」
「何を焦ってる?お前、昨日キスぐらいはしたんだろ?」
「だから何もしていないと言ったじゃないか!」
「へぇ〜そぉ」
「…ミンチョル…」

チョンマンの顔をじいっと見つめ、肩を抱きしめた格好になっているドンジュンは、チョンマンの唇をチョンと触って前を向いた

「運転しなくちゃね」
「…」
「ほらぁ、チョンマンもハンドル動かしてぇ」
「…」
「あれ…スヒョンさぁん、チョンマン気絶しちゃったぁ〜」

「ほらみろっ!もうこれ以上だめだ!この装置は撤去してくれ!チョンマン、大丈夫か?」
「…」
「チョンマン?チョンマン?…こいつ、あんまり免疫ないからな…ドンジュン、そこから降りろよ!もう終りだ!さあは早く…ってジュンホ君!なっなっ何を!」
「ぼくものりたいです。ぼくはじょしゅせきせんもんです。どんじゅんさんはうんてんがうまくてすてきですね」
「フフ…じゃ、シートベルト締めてあげるよ」
「はい。よろしくおねがいします」
「ドンジュン!やめろ!頼むからもうやめてくれ!」
「すひょんさん、だいじょうぶです。このくるまは、うそのくるまだからじこにはあいませんよ」
「そ…そうじゃなくて…」
「レッツゴー」
「はい〜」
「…。ミンチョル!ジュンホ君に何かあったらお前の責任だぞ!」
「…」

「ジュンホ君は…」
「はい」
「僕が怖くないの?」
「どんじゅんさんがこわい?どうしてですか?どんじゅんさん、おばけですか?おばけならすこしこわいです
でもぼくがいちばんこわいのは、おんなぷろもーたーです。いえ、でした。もうつかまりました。こわくありません
あとはくもぐらいです」
「は?くも?…ああ…クモね…頭の中の…」
「はい。ここにきてからくものちょうしもよくて、ぼくはみなさんにかんしゃしています」
「…ジュンホ君、スヒョンさんのこと好き?」
「はいすきです。ぼくはみんちょるさんもいなさんもてじんさんもてそんさんもうしくさんもいぬせんせいもしちゅんさんもてぷんさんも
…んと…ちょんまんさんも…えと…あ…どんじゅんさんもみんなすきです、それからてすさんも」
「同じように?」
「はい」
「たとえばスヒョンさんと…$%#したいとか?」
「なんですか?それはどうやってやるんですか?」
「…ごめん…変な事聞いちゃった。忘れてよ」
「どんじゅんさん、なんだかさびしそうです」
「…そう?そんなことないよ」
「なんだかかっこいいのにさびしそうです。どうしたのですか?みんながすひょこましといっていますがそれはなんですか?」
「…知らなくていいことだよ」
「…どんじゅんさん…ぼく、どんじゅんさんのめをみていると、かなしそうでぼくまでなけてきます」
「…ジュンホ君…」
「どうしたんですか?みんながすひょこましすひょこましといったからですか?」
「ううっうううっ」
「ぼくでよければききます」
「ジュンホくうううん」

「おいっ!ミンチョル!ドンジュンがジュンホ君に抱き付いた!どうしてくれる!あの清純なジュンホ君を!」
「…」

「僕はどれが自分だかわかんない。ハンドルを握ると変に色気が出てくるみたいだし、普通にしてるとおどおどして何もできないし…
それに…スヒョンさんといると…スヒョンさんに甘えてしまう…。本当の自分は一体どれなんだろう…」
「どんじゅんさん、ぜんぶがどんじゅんさんですよ」
「えっ?」
「ぼくもつまにあまえます。そしてぼくしんぐ…いまはとめられてますからしてませんが…してるときはとってもかっこいいといわれます
そして、ふだんはおどおどしています。こどもとあそぶときは、ぼくがこどものようだといわれています。ぜんぶがぼくです」
「…」
「どんじゅんさんはかっこいいです。あまえたらきっとかわいいです」
「それだけじゃない…こうやってみんなを困らせてる…」
「それはみんながいじめたからです」
「…」
「いじめたからちょっとやりかえしただけです。でもうしくさんはしんせつなのにすこしかわいそうでしたね
どんじゅんさんのゆびがからかったみたいですね」
「…ぐすっ…ウシクさんは…親切だけど…少し冷たい時があったから…僕はその事を思い出しちゃって…最後にあんな事…ううっうううっ」
「なかないでください。うしくさんもきっとわかってくれますよ」
「ジュンホくん〜ううっううっ」
「よしよし」

「どうやらジュンホ君はドンジュンを元に戻らせる事ができたみたいだぞ」
「何?」
「ほら、ドンジュンの目つきが穏やかになった。それに賢そうな顔つきに戻ってる…」
「…ほんとだ…」
「ギリギリ営業に間に合った。よかった。今日のところはこの運転シュミレーション装置は店に出さない
いずれドンジュンの研究をし尽くしてから出すことにしよう。スヒョン、引き続き協力してくれ!」
「…協力?」
「ああ。…したいんだろ?」
「したいって?」
「協力だよ。他の奴にさせたくないだろ?」
「…ああ…」
「じゃあ今日のメインはボタン外しショーにする!」
「ちょっと待てミンチョル!ミンチョル〜」

かくしてBHCの開店時間とあいなった


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